奴らは今日も生きてる。
初めて日記を書こうと思った。
どうにもならない憤りを吐き出す場所が欲しい。
汚い言葉でも醜い考えでも愚かな思考でも…
飾らずこの胸にある思いを吐き出したい………
新しいレスの受付は終了しました
翌年の5月。息子の初節句の日…。
この初節句の2ヶ月ほど前、おばあちゃんから電話があった。
「もうじき〇〇ちゃんの初節句やなあ~。おばあさんが五月人形買ったるからなぁ~。」
「おばあちゃん…ありがとう…。ほんとに…ありがとう…。でも…初節句の人形は、実家で揃える習わしやゆうて、実家の母が用意するらしい。だからそれより、おばあちゃんには自分の買いたいもの買って欲しいよ」
私がそう言うと
「そんなん言わんと買わせてーな…。おらぁ…お姉ちゃんが可哀想でならん…。苦しいだろうに自分達でやって…可哀想でならん…。だから頑張って仕事して貯めた。だから買わせてーな…。」
「おばあちゃん……。」
母に相談した。
「せっかくの、おばあちゃんの気持ちや…。そんなら私が半分。おばあちゃんが半分。半分っこでやらせてもらうようにしようか…。」
お母ちゃんはそう言った。
それを後日伝えると
「ありがとうな~。嬉しいなぁ~…。おらぁそればっかりを楽しみに仕事してた…。嬉しいなぁ~。ありがとうな~お姉ちゃん…。」
そう言ってくれた。
おばあちゃん…ありがとうは、こっちだよ…。
どうしたら、そんなふうに優しくなれるの…
私は何にもしてあげれてないのに…
夫にそのいきさつを話すと、
「それなら初節句に、おじいさんとおばあさんを呼ぼう。俺が乗せてくる。」
そう言ってくれた。
「ほんと!? なぁ!ほんとに?……やったぁ~!!」
私は両手を上げてバンザイをした。
「けど…。お義母さん達は…?」
私が聞くと
「ええやろ。何も言ってこんのやし…初節句はおじいさんとおばあさんに来てもらお。」
夫からしたら、初節句が近づくのに何も音沙汰のない親に対して不甲斐なさを感じてたのかも知れない…。
もっとも私としては事前に母に実家が用意すると聞いていたから、そういうもんだと思ってたのだけど。
嬉しい!嬉しい!
おじいちゃんと、おばあちゃんが…この家に来てくれる!!
嬉しい!嬉しい!
私には夢のようで、その日からず~っとニヤついていた…。
おばあちゃん達の置かれた状況も考えずに…。
後日、おばあちゃんから電話があった時に、私はウキウキしながら夫の提案を伝えた。
そしたら、おばあちゃんは…
「ありがたい…。ほんとにありがたい…。けどな…わしらは行ったらいかん…。わしらはもう年寄りや…。出過ぎた真似をしたらいかん…。」
そう答えた…。
……夫が姑に言って、強引にでも連れてくれば、おばあちゃん達には迷惑にならん…。
簡単に、そう思ってた…。
家に呼んであげたい!…強く思うあまりに浮かれてた……。
もし…おばあちゃん達だけ来てあの人達を呼ばんかったら、終わってあの家に帰るおばあちゃん達は、針のむしろや……。
だったら一緒に…!
無理や……おばあちゃん達がこの家に来ることじたい、あの人は気に入らん…。
あんなネズミ小屋みたいな家によう住める!
姑には、そう言われたこの家や…。
そんな姑を呼びたくもない…。
「…でも、おばあちゃんが買ってくれる人形やん…おばあちゃんと一緒に祝いたいよ…。」
辛くさせるとわかってて、私は言わずにはいられなかった…。
「いいから…。いいから…。お姉ちゃん達で祝ってやってな…。おらぁ、毎日〇〇ちゃんが元気に育つように拝んでるから…。それが楽しみやから…。」
「おばあちゃん…。」
後日、私のもとに白い封筒に入れたお金が送られてきた。
中には便箋に書かれた手紙が入っていた。
〔少ないけど、お金を送ります。
これで人形を買ってあげて下さい。
〇〇チャンが丈夫で元気に育ちますように。
〇〇チャン。お婆さんとこに、また遊びに来てネ待ってるヨ
お婆さんより。〕
シワだらけのそのお金は…シワの分だけ、おばあちゃんの汗や涙や思いが詰まっているようで…
とっても、とっても温かく思えた…。
初節句の日…。
五月人形を真ん中にして、家族3人の写真を撮った。
おばあちゃんに渡すための写真…。
今でも、このお人形は我が家に大切に保管してあり、毎年5月には息子達と一緒に飾ってる…。
おばあちゃんに、このお人形を見せることが出来たのは、この日から26年後…。
おばあちゃん…きっと見ててくれたよね…。
成長と共に息子はワンパクになり走り回るわハシャぎまくるわで、毎日が体力勝負だった。
まだ定例である年に2回の“最悪の日”は行われていたけど…
この頃には私にもママ友が出来て、互いの姑の愚痴や子育てのストレス…時には夫の愚痴も言い合えた。
私だけやないんやな…と思う気持ちは、自分への励みになるしポジティブにもなれる…。
夫には話せない姑へのストレスは、ママ友達のおかげで、ずいぶん軽減された。
今でも大切な友達のみんな…ありがとう。
本当に救われたよ…。
この頃になると、息子は実家のお母ちゃんが大好きで、寝ても覚めても離れておれず…そしてまた、それ以上にお母ちゃんが息子を大好きだった…。
夜7時まで勤めに出ていて、仕事帰りに自宅に行かずにバスで家に来てしまう。
そんなことが度々あった。
何が出てった娘やねん…。
お母ちゃんがいつも言ってる、婿さんの気持ちはいいのんか…?
内心そう思ったが、これが不思議と母の来訪を待ちるのは息子と夫だった。
「なぁ、おっかさん…今日来るて?」
「知らんわ。こないだ来たばっかやし…。」
「呼べって…。電話してみいや。」
「なんでや。息子を甘やかすから、しょっちゅうはいかんて。」
「ええて。呼んだりぃな。な、電話してみいや。」
こんな調子だった。
後から思うに…
夫は何かと自分を構ってくれ、世話を焼いてくれるお母ちゃんが大好きやったんだと思う…。
お母ちゃんに、せっせと晩酌用の焼酎を作ったり、身体の心配されて嬉しそうにしてたり…まるであっちの母親より、親子みたいな会話をする2人を見ててそう思った…。
とにかく息子と夫が「バアバ、おっかさん」と恋しがるので、お母ちゃんのこの頃のライフワークは、孫と婿のお守りみたいなもんやった…。
そして息子には、もう1人大好きな大好きな人がいた。
私の大好きなおばあちゃん…息子にとっては、“おっきいバアバ”だった…。
「おっきバアバ🎵おっきバアバ🎵…」
そう言って、おばあちゃんに巻きつく息子を、おばあちゃんは本当に愛してくれた…。
どんなに騒いでも、走り回って積んである座布団を崩しても、おばあちゃんは目を細めて笑っていた。
私が息子を叱ると
「怒らんでやって…お姉ちゃん…頼むから怒らんでやって…」
そう言って手を合わせて拝まれた。
私達が向こうの家に行くと、決まって出迎えに出てくるのは舅だったけど…息子はいつも、家に入るとすぐに“おっきバアバ”を捜した…。
私の遺伝子が入ってたから?
ううん、違う…。
どんなに辛くても、笑顔を耐やさないおばあちゃんには、人を寄らせる温かさがあったからだ…。
私達がこの家からいなくなってからも、おじいちゃん達の日常は決して安泰ではなかったろうし、幾度となく事あるごとに傷つけられていただろうと思う…。
けれど、いつ行ってもどんな時も、おじいちゃん達は一言も愚痴を言わなかった…。
そして私も、聞いたところで、どうともしてあげられない…。
その現実がわかっていただけに自分からも口には出さなかった。
今の私が、あの時にいたなら、もっと強い行動に出たと思う。
それでも慣れ親しんだ土地を離れる決断は、おじいちゃん達にはやっぱり出来なかったかも知れない…。
当時、他に協力者のいない孫嫁の立場の私は、おじいちゃん達の現実から逃げていた…。
これじゃあ叔母さん達と一緒だな……。
そんな自責の念にかられながら…。
周りのたくさんの大人に囲まれて息子は日々成長していった。
幼稚園の入園式。運動会やお遊戯会…。
私は息子の晴れ姿をビデオに撮り、あの家に行っては、おばあちゃんに見せた。
おばあちゃんは、まるでリアルタイムで見ているかのように、画面上で走る息子に手を叩いて応援し涙した…。
旦那に促され、お義理で舅と姑を息子の運動会に招待したこともあったが…。
体格のよい他の子が走ってるのを見れば
「見てみぃ~あのデブ!豚が走ってるみたいや」
と大声で笑い、
細身の子が走れば
「ガイコツや!ちゃんと食わせてもらってんのか~。」と、これまた大声で言う…。
そんな、姑の失礼極まりない発言に、いたたまれなくなり…私は二度と舅達を呼ばなかった。
その日は、ワクワクして向こうの家に向かっていた。
後にも先にも、こんな気持ちであの家に向かったのは、この1度だけだったと思う…。
向こうに着き、おばあちゃん達の部屋に行く息子に続き、私も入った。
そして、おばあちゃん達の前に座り、こう言った。
「あのね……。赤ちゃん出来たよ。」
2人目の妊娠。
この家では、おばあちゃん達に真っ先に知らせたかった。
おばあちゃんの顔がみるみる笑顔になり、そして
「バンザ~イ。バンザ~イ。」
そう言って両手をあげて喜んでくれた。
「身体を大事にしいや。無理したらいかんよ。あぁ…おらぁ…丈夫にうましたりたいなぁ~。」
そう言ってくれたおばあちゃんの笑顔を、声を。
私は今でも…しっかり覚えている。
その日から一週間後の夕方…。
私は夕飯の準備をしていた。
息子は得意げにお手伝いをして箸をテーブルに並べてくれていた…。
そのとき、1本の電話がきた。
受けたのは夫だった…。
夫の受け答えの気配から…ただならぬ事があったと予想ができた…。
「おばあさんが……自転車で…転んで頭を打って……救急車で病院に運ばれたらしい…。」
夫は言った…。
そのとき私は……何て言ったのかな…。
思い出せない…。
今になっても、どうしても思い出せない…。
ただ急いで子供を抱き、無我夢中で夫と病院に向かったのは覚えてる…。
「自転車で走ってたら、後ろから車が来て…クラクションに驚いて倒れたらしい…。」
叔母は言った…。
おばあちゃんはベッドに寝ていた…。
「そこで見てた奥さんが連絡くれて…気持ち悪いて吐いてたけど
家に帰って寝たいと言うから家に帰ろうとしたんや。
けど…奥さんが病院行かな言うから、近所の外科に行ってん。」
姑は続けた…。
そんで医者行ったら、こんなんすぐ救急車でおっきい病院行け!て言うから…。」
(何呑気にしててん………。頭打って吐いたんやろ?すぐ救急車呼べや!!!!)
そう思った。
叔母達も叔父達も来ていた…。
「おばあちゃん…。」
私は、そばに寄って呼びかけた…。
そのとき、おばあちゃんが目を開けた。
「お姉ちゃん…。」
じっと私を見ていた…。
そして目を閉じた…。
おばあちゃんは、そのまま緊急手術になった…。
手術室から帰ったおばあちゃんの頭は、白くて長い布で巻かれていて、おでこの上で縛ってあった…。
「医者が言うには、出血が酷くて…処置はしたけど血は完全に止まらない。って…」
叔母が状況を伝えてくれた。
それから7日間…。
おばあちゃんはICUに入っていた…。
その間の限られた面会時間……私は叔母さん達に、なるべく長くおばあちゃんの側にいさせてあげたかった…。
でも叔母さん達は、必ず声をかけて私を中に入れてくれた…。
それでも、おばあちゃんの状態は更に悪化して…
叔母さん達がICUの出口で泣いていた日…
交代で私と入った姑は…
急変してしまったおばあちゃんの顔を見て愕然とする私に向かって
「だめやな、こりゃ。
こんなんなったら、もうオシマイ。
そう言った…。
おばあちゃんがICUにいるあいだ、私はずっとあの家から病院に通った…。
帰れなかった…。
帰りたくなかった…。
ここにいたら、おばあちゃんはきっと、ここに戻ってくる…
そんな気がして帰れなかった…。
毎日おばあちゃんの部屋の隣で寝て
何度も仏壇に祈った…。
ちょうどその時期に…いつも小さな緑色のカエルが洗濯機の上に乗っていて…
どかそうとしても全く動かずに
ちょこんと座ってこっちを見てた…。
毎日毎日そこにいて、私を見てるカエルが何故か
だいじょうぶ…
きっと良くなる…。
そう言ってるように見えた…。
7日目の夜中…姑が家に帰った…。
物音に気づいて私が起きていくと、私に気づいた姑が…
「死んだ。死んだ。いま死んだ。」
そう言った…。
まるで荷物が片付いたように、そう言った…。
私は、この後も20年以上生きています。
だけど、おばあちゃん以上に、温かい人を知りません。
いつも笑って…
悲しくても笑って…
たくさんたくさん働いて…
それでも嫁に傷つけられて…
それでも笑っていた人です。
でも、たった1度だけ…
畑で…息子が、おばあちゃんの作ったトマトを喜んで食べるのを見ながら
おばあちゃんが私に
「お姉ちゃん…戻ってきては、くれんよな…?
ここに…帰ってきては…くれんよな…?」
おらぁ…おらぁ…おまえが来てくれて…天使が来てくれたと思ったよ……」
そう言いながら泣きじゃくったことがあります…。
その時の私は、おばあちゃんの辛さより、自分の戻った生活が恐ろしくて…
「ごめん…ごめんなさい…」
そう言って泣くしかできませんでした…。
あのとき、おばあちゃんは、どんな思いでいたんだろう……。
考えれば、考えるほど、己の無力さが悔やまれてなりません。
おばあちゃんのお葬式には、本当にたくさんの人達が来てくれた…。
みんな。みんな。泣いていた…。
お愛想じゃなくお義理でもなくみんなが泣いていた…。
こんないい人が…
これまで、こんな人を見たことがない…
お世話になった…
自分のために泣いてくれた…
いつも心配してくれた…
弔問に来てくれた人達の言葉は、おばあちゃんの人柄そのものを語っていた…。
後に、おばあちゃんがいつも拝んでいた仏壇から、白い便箋に書かれたメモと写真が出てきた…。
けんか。負けるが勝ち。
信じれば心は通じる。
感謝を忘れず。
ありがとう。
写真に写っていたのは、若い頃の姑だった…。
この人は…
どこまで……優しい人なんだろう…。
なんでこの人が…こんな目に会わねばいかんのやろう…。
悔しくて悔しくて悔しくて……
私は声をあげて泣いた…。
おばあちゃんのお葬式のとき、おじいちゃんは、この家にいなかった…。
正確に言えば、おじいちゃんは、おばあちゃんが亡くなったことさえ…知らされていなかった。
おばあちゃんが事故にあう半月ほど前に、おじいちゃんは転んでケガをして入院していた…。
今おじいちゃんに知らせたら、ショックが大きすぎる…。
それが叔父や叔母達の出した結論であり、おじいちゃんには知らせないように…。
私達は、そう口止めされていた…。
けれどケガは回復し、やがて退院の日はやって来た…。
おばあちゃんを失ってしまった悲しみ…
そしてそれをも上回る、おじいちゃんの悲しみと地獄は、この日から始まった…。
おばあちゃんが亡くなってから私達家族は、しばらく立ち直れなかった…。
私は何もする気になれず夫との会話もなかった。
息子の…
「〇〇君がドラゴンボール集めてシェンロンに‘おっきばあちゃん返して’って言う!」
そんな言葉にも涙が出た…。
そんな日常のせいか…息子が、喜んで行っていた幼稚園も駄々をこねて行きたくないと嫌がったり…。
仕事から帰っても、沈み続ける私を見て、夫もため息をついていた…。
そんなさなかの、おじいちゃんの退院だった…。
いま、息子を、あの家に連れては行けない…。
まだ幼い子供に、おじいちゃんに言ってはいけない事情など…わかるはずがない…。
おじいちゃんが退院した翌日、私は息子を母に預けて、あの家に行った。
おじいちゃんには、おばあちゃんがケガをして入院している…。
叔母が、そう伝えてあった…。
私が行くと、部屋にはまだ退院したてで、動きの不自由なおじいちゃんが寝ていた。
「おじいちゃん…。無事退院できて良かったね…」
私がそう言うと、おじいちゃんは
「来てくれたんか…すまんね…。」
そう言って微笑んでいた…。
そこには、先に来ていた叔母がおじいちゃんのそばで座ってた。
「おばあさん…ひどいのか…?」
おじいちゃんが叔母に聞いていた。
「少し、長くかかりそうよ…。おじいさんも、早く治して、お見舞いに行けるといいね…。」
叔母がそう言うと
「そうだな…。」
おじいちゃんは、そう言っていた。
昔の時代の男の人だから、こと細かに聞きはしない…。
でも、きっとおじいちゃんは、その時すでに何らかの違和感を感じていたのだと思う…。
敢えて自分から、おばあちゃんの話題に触れないようにしている……
私には、そんなふうに見えた…。
その翌週、私は再びおじいちゃんを訪ねた。
入院していたせいもあり、おじいちゃんの身体は、以前より動きも鈍くなり…着替えるにも、まだ補助が必要だった。
「シャツを替えたい…」
おじいちゃんが、そう言うので私は引き出しから新しい肌着を出して、着替えをさせていた。
「だいじょうぶ?痛くない?…まず右手を抜くよ…」
おじいちゃんに聞きながら、ゆっくり身体を動かしてやっていると、そこに姑が入ってきた…。
「そんなのんびりやっとったら日が暮れるわ!貸し!!」
有無を言わさず、おじいちゃんの手を引っ張り、着替えさせる姑…。
「痛い!…痛いて…。」
おじいちゃんは、そう言いながら無理やりシャツを脱がされていた。
「私が、私がやるよ……」
手を宙に浮かせたまま、言っても…姑の耳には、私の声も、おじいちゃんの悲鳴も聞こえてないようだった…。
私が手を出したのが気に障ったのか…私とおじいちゃんの何が気に入らなかったのか…感情抑制の効かなくなった姑は言った。
「甘やかしてたらな、毎日やっとれんわ!!
何が痛いや!わがまま爺さんが
アンタがな、そんなワガママばっかし言うから、おばあさんも死んだんや!!
アンタみたいなワガママ爺さんのお守りは懲り懲りや、てな!!
アンタの世話してくれる人なんか…もう、だあれもおらんくなったわ。
いい気味や!!!!」
姑は言うだけ言って部屋を出て行ってしまったけど…
私は、おじいちゃんの顔がまともに見れんくて…
ずっと沈黙した時間が部屋に流れてた…。
なんて言っていいのかもわからんくて…。
そのまま横になって目を閉じて眠ろうとしたおじいちゃんを合図に、
「また……来るね…」
そう言って、部屋を出てしまった…。
たぶん…第3者が、この状況を見たら…
私は、なんで姑に言い返さんのか
なんで姑に怒らんのか、
すごく歯がゆいと思う…。
歯がゆいどころか、私に対して腹立たしいと思う…。
私は、もともとハッキリしたキツい女で…男勝りなほうやったのに…。
砂時計の砂が溜まるみたいに、少しずつ少しずつ抑えられ過ぎた感情は…力を奪い、爆発するより諦めを生む。
いつしか、あぁ…やっぱりな…と、受け入れてしまうようになる…。
それが、この時の私の心理状態であり…ここで暮らしてきた、おじいちゃんや…夫や…義妹を作り上げたんだと思う…。
いつからか私の思考は、夫と同じように麻痺してしまっていたのかも知れない…。
この頃から私達は、盆や正月だけでなく、暇をみてはおじいちゃんの様子を見に行った。
何もできなくても、定期的に様子を見に行き、声をかけてあげる…
それだけでも、おじいちゃんにとっては何かしらの救いになると思っていた…。
そして叔母達も、おばあちゃんを亡くし、1人になってしまったおじいちゃんを時折訪ねていた。
私達は舅達に孫を見せに行くという口実で行けたし、実際に舅は孫である息子を、とても可愛がってくれた。
孫にせがまれて、嬉しそうにキャッチボールやお馬さんをしてくれる舅は、どこから見ても優しいお爺ちゃんで…
なぜ、この人は肝心なとこで強くなれないんだろうと不思議でならなかった…。
小さな不満や理解できない行動もあったけど、我が子を可愛がってくれることに対しては有り難く、それには今でも感謝をしている。
けれど姑は、もともと子供が好きではなかった。
好きじゃないというより、姑自身が幼稚過ぎて、他の誰より子供より、自分をかまってもらえないと面白くなくなる…そんな人だったから…。
向こうの家に着く。
私達の車が駐車場に入ると舅が笑顔で出てきて出迎える…。
姑は居間で座ったまま、こっちを見ない…。
家の中に入る。
舅は孫と遊び、私はおじいちゃんの様子を見る。
居間に行くとブスッとした姑がいる。
当たらず障らずの会話をして、姑の愚痴を聞く…。
おじいちゃんへの愚痴。
畑の作物が上手く育たない愚痴。
家族のためにする家事の愚痴。
娘が適齢期になっても結婚しない愚痴…。
この人の口からは、いつも愚痴しか出てこない。
そうして、さんざん言いたいだけ言って、聞いてもらえば機嫌が直る…。
でも、それでまたここに来やすくなる。
私は、おじいちゃんの様子を見て安心できる…。
そんな流れができていた。
あの日…おばあちゃんの死を知ってしまったおじいちゃんは、おばあちゃんの話題を口にしなくなってしまった…。
でも私と2人だけの時に1度だけ…
「もう……帰ってこんのやな…」
そう言って泣いていた。
「隠してて…ごめんなさい…。」
私が謝ると、おじいちゃんは、
「かまわんよ…何となく…わかってたから…」
そう言った…。
あれからすぐに、叔母さんからも家に電話があった。
「隠してる筈なのに…何で、おじいさんが知ってんの!?」
「お義母さんが、言ってしまいました…。」
それを聞いたから、叔母達も気にしておじいちゃんを覗きに来てくれてるのかも知れない…。
でも叔母達が、この件で姑を責めることは無かった。
責めれば姑は抑えがきかなくなり揉める。
その後のおじいちゃんの立場はさらに悪くなる…。
そして叔母達が、おじいちゃんを引き取るのは不可能…。
この現実がある以上、前に進める手段はなかったのだろう。
それでも、私とは違う…。
叔母さんや叔父さんなら、子供としてやれる何らの手段がきっとあると思う…。
私は歯痒い思いで叔母や叔父を見ていた。
冷静に考えれば、私自身も叔母達と同じことをしてたのに…。
普段の会話をする相手もいなくなり、身体も以前より衰えてしまったおじいちゃんは、私達が行くと殆ど寝て過ごすようになっていた。
その頃になって、ある吉報が私のもとに届いた。
おじいちゃんを、あそこには置いておけない!
そう思った叔母達が話し合い、叔父がおじいちゃんを引き取る事になったという。
そうなったいきさつについては後々も詳しくは解らない。
ただ…舅や叔父達の間で揉めたあげくの決断ではあったらしい。
叔父の人柄は私も知っている…。
私にも良くしてくれた叔父や叔父の奥さんとなら、少なくとも、あそこでの針のむしろのような生活からは逃れられる。
良かった…。心からそう思った。
叔父さんの決断にも、叔父さんの奥さんにも感謝。
本当に良かった…。
良かったね。おじいちゃん…。
私は、そう思わずにはいられなかった。
おじいちゃんが叔父の家に引き取られた後、私はおじいちゃんの様子を伺いに叔父の家に行かせてもらった。
叔父の家は姑達の住む隣町にあり、新興住宅地の中にあった。
私が訪ねた日、叔父は仕事で不在だったが、ちょうど叔母達も来ているとのことで、叔父の奥さんが快く迎えてくれた。
その家では、おじいちゃんに専用の部屋が与えられており、叔母達は、これでやっと心おきなくおじいちゃんに会いにこれると喜んでいた。
叔父の奥さんも、とても良くして下さっていた。
綺麗に片付けられた部屋のベッド…。
おじいちゃんを中心にして、家族がそこに集まっている…。
みんなに囲まれて、おじいちゃんは穏やかに笑っていた。
おじいちゃん…。良かったね。
本当に良かったね…。
私も心から安心した。
叔父の家に伺った夜、叔父から電話をもらった。
そして叔父の口から、おじいちゃんを引き取とるに至った経緯を聞いた。
1人になってしまったおじいちゃんを、あの家に置くことに懸念していた叔母達の意向もあり兄弟間で話し合いが行われたこと。
兄夫婦である舅達は当然ながら怒ったが、自分が引き取ると強行手段に出て、おじいちゃんをこちらへ連れてきたこと。
そんないきさつを話してくれた。
叔父達も、ずっと悩み続け、やむにやまれず決断したのだと思った。
おじいちゃんを心配し続けていてくれたこと…。
そしてやっと決断してくれたこと。
おじいちゃんの身の安全が保証された…。
それが叶った…。
私には叔父の決断が、本当に本当にありがたかった。
「でも兄貴とは、兄弟間で揉める形になってしまって…〇〇ちゃん達には申し訳ないな…」
そう言った叔父に対し
私は、そこで初めて口にした…。
「叔父さん…。私はあの家で、おじいちゃんとおばあちゃんがどんな思いで過ごしていたかを見てきました。
お義母さんが、おじいちゃん達に言ってきた言葉は、血の通った人の言う言葉だとは思えません。
夫の気持ちは、わかりません。でも私は、これで良かったと心から思ってます。
本当に…ありがとうございました。」
私がそう言うと、叔父は
「知ってたよ…。見てればわかる。
あんたより、何十年も長く付き合ってきた俺達は、あの人のことを嫌ってほど知ってる。
すまなかったな。長い間、心配をかけて…。」
そう言ってくれた。
肩の荷がやっと降りた気がした…。
もっと早く、この日が来ていれば……。
おばあちゃんのことを考えると、そう思わずにはいられなかったけど…。
それでも、おばあちゃんはきっと天国で喜んでくれてるだろう…。
それとも…
おじいさんを残しては死ねん…。
いつもそう言ってたおばあちゃんが、導いてくれたのかな…。
そんなふうに思いながら
私は長い長い闇が晴れたこの日に感謝した。
春の桜が満開の頃、次男が産まれた。
あの日、おばあちゃんがバンザイして喜んでくれた子…。
亡くなる前に、この子の存在をおばあちゃんに教えてあげられた…。
それがせめてもの救いだった。
おばあちゃん。守ってくれてありがとう…。
元気な男の子だよ。
おばあちゃんに…抱いてもらいたかったな…。
次男のお産は予定日より1ヶ月早く、破水が先にきてしまった。
そのため、この子は体重も少なく産後にも少し黄疸が出てしまった。
だから産後しばらくは保育器に入り、新生児室に移ってからも母乳を飲む力が弱いからと、私のいる病室には、なかなか連れてこられなかった。
保育器に入れられてる間も、ミルクを飲めない間も、私と夫は心配で仕方がなくて…何度も何度も新生児室に行っては、他の赤ちゃんより小さくシワシワな顔の息子に、
「頑張れ…頑張れ…」と声をかけていた…。
そんなさなかに入院している私の病室に姑達が来た…。
おじいちゃんが出た件があってから、私があの家に行く頻度は激減していた。
久しぶりに見る姑達の顔…。
上の子の時には、お母ちゃんが居てくれたけど、この日は私1人。
お母ちゃんは私の家に泊まり込みで、夫と上の息子の世話をしてくれてくれた。
この日も次男は新生児室の方にいたため、姑達が来た時にはいなかった。
病室に入ってきた姑は、私が1人でいるのを見るやいなや
「赤ん坊おらんやないの!」
事情を説明すると
「また男かいな。女が良かったのに…」
で始まり
「ほな、さっき見てきた新生児んとこにおったんか?どれや?右の子か?」
「あ…1番左の…」
と私が言うと
「あの、ちっこいのか!?」
と驚き、
「さっき見てな、お父さん!この子キッタナイ赤ん坊やな~て笑ててん。まさかアレか?」
と笑った。
孫を産んだ嫁の病室に来て、嫁の身体の具合を聞くこともなく…こんなことを言う姑が、他にいるだろうか…。
この人はこういう事を平気で言える人…。
それを一緒に聞いていても、止めることも怒ることもしない舅。
誰かがそれを指摘すれば、悪気はないと言える、この2人……。
寒気がした。
そしてもうひとつ…その入院中には胸に引っかかるような出来事があった…。
次男の誕生を知り、夫の叔母達も病室へお見舞いに来てくれた。
来てくれたのは、叔母さん達と叔父のお嫁さん。
おじいちゃんの様子や、それぞれの近況などを、みんなで和みながら話した。
私がいた病院は街中の通りにあったため、周辺では駐車場確保が難しかった。
そのため叔母達が、病院に車を停めておいて近くで私用を足してきたい。と言い出した。
叔父の奥さんが、それじゃあ私はここで待たせてもらう。となり、病室には叔父の奥さんと私だけになった。
その時に、叔母の奥さんが辛そうに吐き出し始めた…。
おじいちゃんを預かってから、叔母達が毎日のように来ること。
そこでは毎日、本家の嫁である姑の悪口大会が行われ、殆ど叔父の兄弟の寄り合い場所になってしまっていること。
おばあちゃんの残した貯蓄は、本家が管理しているため、おじいちゃんにかかる通院代や、介護の費用負担が大きいこと。
叔父の家族のプライベートや、奥さん個人の時間など全く無いこと。
更には叔父の息子さんに心臓の病気が見つかり、奥さんが息子さんとおじいちゃんの世話で疲れきっていること…。
そんな状況で叔父との仲も険悪になり、気の毒に思ったおじいちゃんが、本家に戻ろうとしていること…。
奥さんの辛い気持ちは、もっともだと思った…。
見かねたおじいちゃんが、あの家に戻ったほうが…と考えるのも、息子夫婦を思う親心からだろう…。
1番口出しする叔母達は、姑がいるから引き取れない。
おじいちゃんを救えた叔父の決断も、また新たな形で犠牲者を出してしまった…。
「ごめんね…。つい、こんなこと聞かせてしまって…。愚痴や思って流してね…。」
そう言う奥さんの気持ちが痛いほどわかる、私には
「どうか…無理をなさらないで下さいね…。」
そんな言葉しかかけられなかった。
無理をせずに出来るわけないとわかってるのに…。
次男誕生で我が家はますます賑やかくなった。
幼稚園に通う長男と、生まれたての次男。
少し間があいた2人の子の子育ては、やっと育児が少し楽になったと思ったら、また育児。そんな感じだった。
幼稚園児のお兄ちゃんは弟をとても可愛がり、お風呂に入れるのも、授乳も抱っこも…何でも手伝いたがった。
激務の夫をもつ私には、お兄ちゃんのこの協力が本当にありがたかった…。
退院して家に戻ってからも、おじいちゃんの様子は気掛かりだったけれど…バタバタとした日々のなか、私は思うように動けずにいた。
夫の帰りはいつも遅く、休日もランダムで不定休。
長男が幼稚園に行く前は、夫の休みにも家族が揃ってた。
でも土日に休日をとるのは不可能な仕事の夫…。
夫はいつも子供が寝てからしか帰れなかった。
そして朝は子供が寝てるうちに出勤。
夫の休日には父親の寝顔を見て子供が幼稚園に行く。
つまり、
平日の夫の休日。
子供の幼稚園が終わった4時以降。
その条件が重なる時にしか家族揃っての団欒はなかった。
息子が幼稚園に入りたての頃にたまたま早く起きた息子が、出勤する夫を見かけて
「また僕の家に遊びに来てね🎵」
と言ったこともある。
そんな状況だったから、子供の発熱や怪我した時には、パニック状態で支度して病院へ行ったし、殆どの育児を母親1人でやるしかないから不安だった。
病院の待合室で子供抱えて、アタフタして診察券出してる自分と、パパがついてきてるご家族を比べて羨ましく思ったり、
土日には、ご家族で出かけるからゴメンね…というママ友家族を、子供と一緒に見送ったこともある。
……あの時は羨ましいというよりも、子供が可哀想だったな…。
でも…夫は仕事なんだから仕方ない。
そしてそれも覚悟のうえでの別居だったはず。
だからそのことで、夫に不満や愚痴は絶対言えん!
そう思ってやってきた。
夫のいない土日には、トランプやカルタや迷路や…ディズニービデオを一緒に観たりと、子供と夢中で遊んだ。
それでも、遠出もできず遊園地にも行けず…友達からお土産をもらうばかりの息子達には、寂しい思いをさせただろうな…。
そんな私を見かねて助けてくれてたのは、いつもお母ちゃんと姉ちゃん達だった。
子供がまだいなかった姉ちゃんと義兄さんは、長男を我が子のように可愛がってくれて、日曜になると私ら母子を海へ釣りにと山へバーベキューにと連れて行ってくれた。
お母ちゃんは、熱が出たと知ると、食うのにいっぱいいっぱいなのに仕事を早退して助けに来たりしてくれた…。
私達夫婦の子育ては、姉ちゃん夫婦とお母ちゃんに支えられ何とか出来たようなもんだと思う。
これには、今でも本当に感謝している。
その反面、出てきたくせに都合良く…
何もしてくれん夫の親なんか、今後どうなろうが一切知るか!
そう思ってた。
それから半年ほどしたある日。
実家に寄って帰った夫から、おじいちゃんが本家に戻ったと聞いた。
「なんで…!?」
「もう叔父さんも無理らしい…。」
夫はそう言っていた。
戻ることになったおそらくの経緯には予想がつく…。
あの日、叔父の奥さんが言ってた事が全てだろう…。
でも…そしたら…おじいちゃんの立場は、どうなるんやろう…。
叔父が揉めた挙げ句に連れ出して、あそこに戻されたおじいちゃんには…地獄しか待ってない…。
頭の中で、全く考えなかった事ではないけど…それでも姑の人柄を知ってる叔父ならきっと有り得ん…。
戻したらどうなるかを考えたらするわけがない。…
そう思っていた…。
それでも私は叔父を責められる立場じゃない…。
なんでそれなら連れ出したん!
なんで更に地獄に落としたん!
そう言えるほど、今の私に何ができる?
小さな子供を抱えて夫も不在で…そんな私が代わりにおじいちゃんを引き取れる…?
…答えも光も見つからなかった…。
「今度の休み…おじいちゃんの様子を見に行こう。」
ともかく、それくらいしか言葉が出なかった…。
おじいちゃんちゃんが居なくなってから、向こうの家には殆ど行かなくなっていた。
退院してから暫くして、1度だけ下の子を見せに連れて行った…その時以来。
それでも育児も忙しく、夫の仕事も忙しかった…。
暫くご無礼してようが、そんなもんはどうとでもなる…。
次の夫の休日。
そんな事を考えながら、私達は下の子を連れてあの家に行った。
居間に入ると、開口1番姑が言った。
「おじいさん戻されて来たで。」
「聞きました…。」私が言うと…
「やっぱりそんなもん看れるわけないんや!
えっらそうに言って連れてったくせに、勝手のいいにも程がある!!」
そりゃあ言うだろう…。
鬼の首を捕ったように言うだろう…。
わかってた…。
わかりきってた…。
叔父の後先考えぬ行動も勝手だったかも知れないけど、
こうなった根本の原因が自分にあることなど、全く微塵も考えず…得意顔で言うだろう…。
そう、わかりきっていた…。
姑の言葉を右から左へ聞き流し、私はおじいちゃんの部屋に向かった。
「おお…来たか…。」
おじいちゃんは、そう言って笑った。
どうしてこうなったん?
帰ってからの状況はどうなん?
どんな酷いこと言われてるん?
そんなことは聞けるはずがない…。
1番気になっていることでも…
聞けるはずがない…。
聞いても私には、何も出来んのに…。
「…思ったより、元気そうで…安心した…。」
そう言う私に
「これも…しゃあないな…。」
おじいちゃんは言った…。
しゃあない…。
そんな一言では片付けられないほど、色んな思いがあるだろうに…。
おじいちゃんは、どんな思いでそれを受け入れたんだろう……。
それからはまた定期的におじいちゃんを訪ねた。
表面的には舅達に孫を見せに行くとなっていたが…。
可愛がってくれる舅と違って、孫を可愛がるどころか自分を可愛がって欲しい姑の相手は苦痛極まりなかった。
義理の親の下の世話も、食事も着替えも…日に日に老いる老人の世話は確かに簡単なもんじゃない。
この時代の田舎では、老人施設に入れようもんなら、親を捨てたと近所にも言われただろう。
でも、何があろうと日に3度しか替えんオムツを、くっさいくっさいとおじいちゃんに言いながら替えて
食事も無言でただ黙々とおじいちゃんの口にスプーンを運ぶ。
運びが早すぎて詰まってむせれば
「何してんのや!仕事増やして!!」と怒る。
怒る以外は一切無言。
「オムツが漏れてしもうて…」
おじいちゃんが申し訳なさそうに言っても無視。
なのに周りには愚痴ばかりを言い、自分がいかに頑張ってる嫁かを延々と力説する姑には…なんの同情も感じなかった。
私が嫁ぐ前から、姑とおじいちゃんの間には溝があったんだと思う。
若い姑がここに嫁いで、おじいちゃんに、どんな仕打ちをされたのかを私は見ていない。
でもこの時には私がここに嫁いでから8年が経っていた。
その間には一緒にこの家で暮らしてた時期もある。
その中で私は、おじいちゃんやおばあちゃんが、ほんのわずかでも姑の気に障るような言葉を発したのを見た事も聞いた事もない。
あの日、姑達が出るだ出ないだと騒いだ時のたった1回以外には。
それが、私が実際に見てきた事実。
どう考えても、どんなに姑を欲目に考えてみても、姑のおじいちゃんに対する仕打ちや言動は有り得ない。
それが私の結論。
今でもそう思ってる。
叔父さん夫婦は、おじいちゃんが戻ってから一切実家には来なかった。
家にも何の連絡もなく、全く音沙汰無しだった。
だから、おじいちゃんが戻った経緯について、私達は姑達側の一方的な言い分しか聞けなかった。
おじいちゃんは何も言わなかったし、それからたまに本家を訪ねる叔母達も、その件には一切触れなかった。
当然、私から聞けるわけもなくうやむやなまま、おじいちゃんの過酷な状況は続いていた…。
この日までに、私は何度となく夫に訴えた。
「あんたの家族はおかしい…。」
そう言ったこともある。
でも
「じゃあ、どうする?」
そう言われたら何も返せなかった。
ずるい!…
どうしようもなくたって息子やろ!!母親に何とかいいや!!
それも言った。
「直るわけない…。」
それで終わった。
その繰り返しだった…。
「じゃあ戻る?」
夫に、そう言われたこともある。
大切な我が子を連れて、あそこに戻る…?
子供なんか仕事の邪魔以外の何でもない!!!
そう言う姑に子守を頼める筈がない。
何より嫌や!
でも育児を理由に畑仕事を休ませてくれる姑やない…。
この子らどうなるん…?
それに姑の勘にさわりまくりながらの、おじいちゃんへの介護…。
無理な状況だらけだった。
それより何より…子供をあの環境に置くのが嫌でたまらなかった。
そのために出たのに……いくらおじいちゃんのためだからって……
戻れない……。
それが私の本音だった。
「じゃあ戻る?」
夫に言われて答えられない私はまるで夫から
お前かて…我が身可愛いんや。
俺や叔父さんや叔母さんと同じやないか…。
そう言われてるような気がした。
現実に、どんなにいきり立って自分だけ正義の味方のように訴えても
結局は…私もみんなと同じなんやから…。
この日記を書くのに、ずっと迷った事実が2つある。
それでも私は、私が見たありのままを。
私が経験したありのままを書いていこう。
そう決めた。
そうじゃなければ、私の今はない。
それがあったから、私の今がある。
その1つ目を書いていきます。
その日私達は、おじいちゃんに会うために、あの家に行っていた。
ちょうどその日に、舅夫婦は夕方から姑の実家に行く用事があって…
それなら、おじいちゃんのご飯は、私が作って食べさせるね。と舅達に申し出て、私がする事になった。
夕方になり、冷蔵庫にある食材で、ご飯を作ろうと思った私は、おじいちゃんのリクエストを聞きに行った。
「おじいちゃん。今日はお義母さん達出かけていないから、私が作るね。
冷蔵庫にコレとコレがあるんやけど…どんな料理がいい?それにどんな味付けがいい?」
私がおじいちゃんにそう聞くと…
おじいちゃんが突然泣き出した。
「おじいちゃん…!?」
驚いて声をかける私に、おじいちゃんは言った。
「……おらぁ………そんなふうに聞かれたことは……今まで一度もない…。
…お前達は…もう…戻ってくれんやろなぁ…」
「おじいちゃん……。」
何と声をかけたらいいのか戸惑っている私…。
おじいちゃんは続けた…。
「あの女は……鬼や…。
あれは……人間やない…。
血の通った人間なら、あんなことは…よう言わん…。
おらぁ…毎晩…毎晩…涙で枕を濡らさない日はないよ……。
悔しい……悔しい…。」
…そう言って、おじいちゃんはしゃくり上げて泣いた…。
私が産まれるずっと前の…強き時代の男の人が…
人生を80年以上生きてきた戦争も体験した男の人が…
こんなに我を忘れて泣いている…。
私は初めて見たおじいちゃんのそんな姿に驚いて声を失っていた…。
その言葉で、私は思った以上に過酷なおじいちゃんの状況を知った…。
私は何の具体策も思いつかず、ただ、おじいちゃんの手を握って泣いていた。
「来るから…もっと来るから…おじいちゃん…泣かんで…おじいちゃん…」
そんなことを言ったのを覚えてる…。
「いつか…お前達が、この家に戻ってくれたら…その時は…父ちゃん達と仲良うやれよ……。」
「いやや!おじいちゃんがおらんなら、戻る筈ない!…そんなん言わんで!
わたし…強くなるから…頑張るから……おじいちゃんも頑張ろう…」
これ以上頑張れるはずないのに…
私はそう言った…。
確かにそう言った…。
おじいちゃんが自ら命を絶ったのは、その2日後だった。
新しいレスの受付は終了しました
お知らせ
日記掲示板のスレ一覧
携帯日記を書いてみんなに公開しよう📓 ブログよりも簡単に今すぐ匿名の日記がかけます。
- レス新
- 人気
- スレ新
- レス少
- 閲覧専用のスレを見る
-
-
とき2レス 58HIT 匿名さん
-
認知の歪み1レス 74HIT 匿名さん
-
マッチングアプリ0レス 54HIT 社会人さん
-
🍀🍀🍀🍀🍀🍀🍀84レス 289HIT 常連さん
-
アル中日記15レス 323HIT 匿名 (50代 ♀)
-
⭐️🔥🔥🔥続き(13)❗️🎀🎀🎀
因みにBOSSのとろけるカフェオーレってキャラメルみたいで美味しいんで…(匿名さん0)
261レス 1468HIT 匿名さん -
葉月のひとりごと
学校はめっちゃ嫌ですよね!?めっちゃ分かりますぅ〜泣(葉月)
92レス 936HIT 葉月 (10代 ♀) -
🍀🍀🍀🍀🍀🍀🍀
シンガポールには定宿にしていた良い感じの中級ホテルがあった ハニ…(常連さん0)
84レス 289HIT 常連さん -
🐱仲良し家族の日常⑲🐱
9/17(水)☀ 今日は久しぶりにめちゃくちゃ晴れてめちゃくち…(匿名さん0)
161レス 2232HIT 匿名さん -
500迄にメモ帳の整理をする
@メモ 性格的な本質の理解 お喋り→聞いてほしい欲求(仮) …(P.メトロ)
54レス 682HIT P.メトロ (40代 ♂)
-
-
-
閲覧専用
とき2レス 58HIT 匿名さん
-
閲覧専用
たった一言で落ち込み、励まされる。1レス 58HIT 匿名さん (♀)
-
閲覧専用
はてしない空へ…9レス 240HIT 匿名さん
-
閲覧専用
ソフトクリーム50個数食べたい1レス 116HIT 匿名さん (♀)
-
閲覧専用
今度はクレープ作りたくなる1レス 100HIT 匿名さん (♀)
-
閲覧専用
とき
トイライズ サイバトロンヒーローセットではなくトランスフォーマーミッシ…(匿名さん0)
2レス 58HIT 匿名さん -
閲覧専用
趣味✨画像等自由なスレ✨2✨
無事に満スレ✨迎えられました やっと責任果たせました 嬉しいです …(通りすがりさん44)
500レス 12789HIT 通りすがりさん -
閲覧専用
成田発深夜便で
アッラーアクバル(常連さん0)
500レス 1664HIT 常連さん -
閲覧専用
たった一言で落ち込み、励まされる。
深夜の散歩はやめたほうがいいと思う(匿名さん1)
1レス 58HIT 匿名さん (♀) -
閲覧専用
ram★aya
わかった うん、待ってるわね (aya)
454レス 20664HIT aya
-
閲覧専用
新着のミクルラジオ一覧
サブ掲示板
注目の話題
-
彼氏が元カノと縁を切ってくれない
私は今ネットで出会った恋人がいます。私は最近、彼氏が元カノと縁を切ってくれなくて困っています。前々か…
29レス 361HIT 匿名さん (20代 女性 ) -
職質が問題になってる?
Tik◯kで、警察官の、 しつこい職質や問題行動が、 たくさんアップされていました。 そも…
26レス 327HIT 教えてほしいさん (40代 女性 ) -
気の進まないお見合い
父親の友達の紹介で今度お見合いする事になり、相手は言葉が悪くて申し訳ないですが、正直見た目が斜視であ…
11レス 237HIT 通りすがりさん ( 女性 ) -
あだ名が変わりました
大学生です。自分のあだ名がケツ穴になってしまいました。前はダブルソフトだったんですけど、いつのまにか…
9レス 163HIT 学生さん -
してくれるが、文句を言う彼氏
彼氏が料理をしてくれる時が結構あります。 ありがたいと思ってますし、嬉しいです。 しかし、私は作…
6レス 164HIT 恋愛好きさん (20代 女性 ) -
好きでも無い人とのデート
ちょっと前からSNSで好きでも無い人とデートする気持ちみたいな女性のツイート流れてるけど、相手もそう…
25レス 287HIT 恋愛好きさん (30代 男性 ) - もっと見る