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ザッツだだーんその9

No.180　17/11/26 22:32
もうねる ( 40代 ♂ Tco31b ) あ+あ-

2 自動販売機

町外れに、錆びたトタンの壁で囲われた自動販売機があることをみんな知っていた。
そこに何が売られているのかもみんな知っていた。

『買おう』
誰が言ったか忘れたが、勇気のあるやつが言った。

そして俺たちは会議をした。

その頃の俺たちの小遣いは安く、100円を出すのも大きな決断が必要とされる時代。迷いながらも皆の決意は固まった。

一人100円ずつを出資すること、
最後のやつだけは出資しないかわりに大役を担うこと、
周囲への警戒を怠らぬこと、
そんなことを決めた。

この作戦の失敗は死に等しいぐらいの重大な行い。
皆一様に緊張していた。

一同は自転車にまたがり、自動販売機の手前100mぐらいの位置に一列に整列し、一定の間隔で自動販売機向かって走り出した。

何気ない表情で自転車をこぎ、自動販売機を通り過ぎる刹那、ちゃりんと100円をさりげなく投入していく。
後続がそれに続く。

そして最後の一人が、事前の偵察であらかじめ決めていたボタンを押していったん通り過ぎる。

そこでいったん集合。

ガタンという本が落ちる音を確認し、一同180°転回、復路に移行。
隊列を組み周囲への警戒を怠らずなに食わぬ顔で自動販売機を再び通り抜ける。
最後の大役を担うものがそこで素早く物を回収し同じく走り抜ける。

作戦はみごと大成功。

俺たちはそのまま全速力で危険地帯から離脱した。

その時買った本の中身は今となっては覚えていない。

だけど、その時の全速力の清々しい風だけはなぜだか今でも覚えている。