薫の昔話

私は両親から愛されていなかった。
顔を見せるだけで気に入らないと蹴られたりした。
2つ上の姉は溺愛されて育っていた。

男の子だから嫌いなの？
女の子になれば愛してくれる？

そう思って姉のスカートを着たりした。
その格好のまま、学校にもいった。

これはさすがにおかしいと思った担任が通報し、父親は捕まった。母親は父親と離婚し、姉を連れて実家へ。

私は施設に預けられた。ここなら殴られたり、蹴られたりしない。
普通の教育も受け、18歳で施設を出て寮がある会社に就職。
19歳の夏、自己退職。

次に働く場所として選んだのはホストクラブだった。
未成年だったけど、あと数ヵ月で成人するといったら採用してくれた。

最初は掃除や酒を運ぶ係をやっていたがだんだん接客させてもらえるようになった。

そこそこ人気もあったし、話すのは好きだった。しかし何かが違う。
ゲイではないのに男も好きになってしまう自分。だけど女の子も好きだった。

そんな悩みを抱えていた私に声をかけてきてくれたのは今の働いている店のママだった。

私は全部打ち明けた。
何軒も何軒も店を変えて、話し終わったのはすでに朝の6時をまわっていた。

そしてママは私に言った。
「うちへいらっしゃい。私の店は性別に囚われないで自由に生きたい人のための場所よ」

試しに明日の夜、今のあなたにできる女装をして私の店にきて。


ママはそう言って私に名刺を渡して帰っていった。

私はカツラ、服、靴、化粧品。わかる限りの女の子のアイテムを買い揃えた。

次の日の夜。ママの店に行くと
「全然ダメ！女の子にそんな無駄毛があると思うの？化粧もぐちゃぐちゃ！あなた今までホストやってて女性の何を見てきたの！」
と怒られた。悔しかった。


悔しくて悔しくて、その日は帰った。
次の日から全身脱毛をし、化粧も研究した。
エステにも行った。美意識も高めた

そしてもう一度ママの所へ行った

「『薫』今日からあなたは薫よ」
そう言ってママは私を抱き締めた


ママの言った通り、ママのお店はお客もみんな性別など気にしていなかった。

気分で男にもなるし、女にもなる

ホストクラブのように客同士の戦いもない。
ただ純粋に、会話を楽しんでいた

私の求めていたのはここだった。
みんな、あたたかく迎え入れてくれた

あの時ママがお店に来てくれなかったら。
今ではそんなこと考えられない。

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続きが楽しみだぁ😃

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続き


店には入れてもらったけど、それは第一関門に過ぎない。
ママの店で働く人達はみんな男とは思えないほどにキレイだった。

「みんなかわいいでしょ？本来なら面接に面接を重ねて採用してるの」

「中途半端な女装はダメよ。だからといって性転換したり、胸をいじってもダメ。男として産まれたんだから、今までもて余してきた体力をここでは思う存分に使ってもらう」


ママの店のすごい所は人気No.1の人から新人まで関係なく力仕事もすること。
一番人気の夏樹さんが夕方、 頭にタオルを巻いてランニングシャツとジャージ姿で何キロもある重たいお酒の入ったケースを大量に店に運び入れ、夜にはスーツをかっこよく着こなし女性を笑わせているのを見たときは驚いたわ。
それだけじゃない。男の格好をしていたかと思えば今度は女になり、男性客には膝枕を。
女性客には化粧のやり方を教えていた

初めて夏樹さんと一緒にテーブルにつかせてもらった時、自分がここにいる事がすごい恥ずかしくなったの。

そしたらお客さんがね、こう言ってくれたの
「なっちゃん（夏樹さん）になろうとしないで、薫ちゃんは薫ちゃんの良さを出していけばいいんだよ。薫ちゃんの腕と足、最高だと思う。なっちゃんのもキレイだけど鍛えられすぎて固いんだもん」

その後、そのお客さんは夏樹さんに柔道技をかけられた。笑


ママのお店にはとにかくいろんな人がくる
社長という役職者はもちろんだけど、夫に先立たれた未亡人。かと思いきや、普通のリーマンから主婦まで。

半年に1回、小遣いを貯めて来てる人なんてのもいた。
「そこまでしなくてもデリヘルとか呼んで会話だけすればいいんじゃない？そっちの方が安いし…」
するとそのお客さんはそうだな、といって笑った。
「そりゃ女の子特有の柔らかさは好きだよ。だけどそういう職業の子はどうしても、追加料金だの、時間延長だのさせようと性を売り物にしてくる。ここでは膝枕も馬乗りになってもらうのも追加料金なしだからな」


お客さんもいろいろいれば、接客側もそれなりにこたえなくちゃならない。

夏樹さんみたいに全てをこなす人

東大卒という、豊富な知識を生かして頭の堅いお客さん相手と同等に会話をしてるまことさん。

場の雰囲気を盛り上げるためにコスプレ、モノマネを披露するひかるさん。


じゃあ私は？私は自分の何を売りに出せばいいの？？
知識もなければ芸もできない。

お客さんは、私の何が好きで指名してくれるんだろう。


その答えは、意外にもすぐ見つかった

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