【掌編】筋肉はペンギンに勝利するか

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小説好きさん（ 10代）
2021/09/17 18:00(更新日時)

言語の発展の歴史はワガハイ抜きには語れないのである。
ワガハイの筋肉を称賛するために語彙は増幅し、
文法は整備されたとしか考えられないのである。
大陸間弾道弾をねじ切る上腕。
万葉集よりも分厚い胸板。
立てばブルーアイズホワイトドラゴンは破壊され、座ればひれ伏す曜変天目。
歩く姿は震度８。
もはや同じ人間ではこの筋肉に対抗できないではないか。
どうするんだ。
致し方なかろう。
ワガハイはこの筋肉でもって森羅万象を打倒しなければならないのだろう。
そしてワガハイはこの筋肉を躍動させながら、
美を統一する旅に出た。

本当は全身を開陳しつつ向かわねば美を享受できない人類がかわいそうなのであるが、
そうしていると警官が名を名乗れとうるさい。
公務員まで篭絡してしまう美のせいであるからどうしようもないんであるが。
さあ、服を着てまず訪れたのは動物園。
ワガハイの降臨に気づかず人民はヒト以外の生物ばかり見ておる。
実にわびしき光景ではないか。
この程度の美で満足する慎ましき生命たち。
救わねばならぬ。
ワガハイは最も人間の多い一角へ飛び込み、
上半身を一息に披露した。
どよめく。
撮影する。
驚愕する。
おうおう。どんどん拡散するがよい。
ワガハイは地球の資源なのであるから。
石炭、石油、天然ガス。
その上にワガハイ。
ワガハイを目にて摂取すれば生物は感動に酔いしれ、
昼夜を分かたず稼働する。
さあ見ろ。
ドンドン見ろ。
ん？
何だ。
そこの白黒。
そうだ、貴様はペンギンというのであったな。
貴様、時代は4Kだぞ。
そろそろ色を増やしたらどうだ。
おい。泳ぐな。
だらしなく口を開けるな。
なるほど。
挑発だな。
その白黒ストロングスタイルは誇りの表れか。
初戦は貴様ということか。
良かろう。
貴様の最も得意とする場でねじ伏せてやる！
ワガハイは水に飛び込む。
水がワガハイに赤面したのか、どんどんお湯になっていく。
ペンギンどもは作り物の大地に慌てて結集する。
今やこの展示スペース一帯はワガハイのもとにあるといってよい。
圧勝だ。
ワガハイはまた一歩文化を前進させてしまった………

はっ。
そうだ。
圧勝。
ワガハイは圧勝なのだ。
おい。公務員。
なぜワガハイをここから出さんのだ！
美の蹂躙だ！