愛しき私よ
自分の闇を吐き出し、愚痴も許し
インナーチャイルドを抱きしめ
また自分を大切にし直す場所です。
スピリチュアル多め
地球や人に馴染めない
人間を辞めたいけど人間的泥臭さ満載
風の時代目前とも全然軽くならずもがいて溺れて、逆行する自分を愛したい
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助かった。
確かに助かったのだ。
里帰り出産をしなかった私にとって、もし夫が普通に会社員だったら
初めての育児に私は夫が帰ってくるまでの間独りで赤ちゃんを見る事は物凄く怖かったと思う。
怖くて怖くて仕方なかったと思う。
私は赤ちゃんを抱くのも我が子が初めてだった。
友達や親戚、兄など身の回りに赤ちゃんが生まれ、抱っこできる機会は何度もあったけど
私はだっこを進められても決して新生児や首の座らない赤ちゃんを抱くことは出来なかった。
怖かった。
壊してしまいそうで怖かった。
大丈夫だよとか、抱き方教えるよって言ってもらえても。
ただ見させて貰うだけで触れる事も出来なかった
子供嫌いではなくて、見ていてとても可愛いとは感じた。
自分が子供の頃や思春期の頃は
赤ちゃんや自分より小さい子供を、自分の妹以外に特別可愛いと思った事はなかったけど
ある程度大人になってから初めて身近に子供が生まれたのは私が18歳の時、友達の出産だった。
この時、物心ついて以来初めて赤ちゃんを可愛いと感じた事を覚えてる。
今までの自分に無かった感情だったから衝撃的だった。
自分の大切な人が生んだ子供なら可愛いと感じられるのだと思った。
だって、先ず知らずの人の子供や赤ちゃんなんてやっぱり興味なくて、可愛いと思う事もなかったから
安心して走り回って遊べるような、多分4歳くらいからだと思うのだけど
その程度大きくなった子供と遊ぶのが好きになった。
勿論友達の子や従兄弟の子供限定だけど。
それより小さい子だと、どんなに可愛くても責任持てないのでただ見守るだけになってしまうのだ
友達や身内の子供は可愛くても、自分の子供を欲しいとは思わなかった。
親になる責任も素質も自分にはないと思ってた。
子供と一緒に親も成長していくってよく聞いたけど
それでもある基準までの、親になれるほどの器や人間性を持ち合わせるまでは
子供を持ってはいけないと感じていた。
知人が子供を生んだけど、離婚して親に子供を押
し付けて男に走ってしまった
そもそもあの時の私は
引き取る事をうちの親が承諾してくれたら親に手伝って貰うつもりだったのだと思う。
私の母親は保育士として働いていた経験があったので全くもって当てにしていたのだろう。
でなければ親になれるほどの器や人間性を持ち合わせるまでは
子供を持ってはいけないと感じていた自分にその発想など生まれる筈がない。
家庭環境が複雑だったとはいえ知人の親御さんにとっては孫なのだから、いきなり見ず知らずの私が引き取りたいと申し出たとして快諾するはずもない。
矛盾だらけで本当にその場限りの思いつき浅はかな考えだったのだ。
だけどあの時は何故か
浅はかで無責任だけれども、そうしたいと思うほどなんともいたたまれなくなったのだ
私は21の時に妊娠した。
相手は2歳年上のアルバイト先の先輩だった。
子供が出来たこの時、私はこの交際相手を愛していない事に本当の意味で気付かされたのだと思う。
彼の前に4年交際していた人を忘れられずにいることを自覚した。
いや寧ろ、本当は忘れる為に付き合ったのだろう。
そんな事に気付きながらも、私は検査薬で出た妊娠反応の事実のみを告げた。
交際相手は(出産しても堕胎しても)どちらでもいいと言った。どうしたいかと聞かれた。
私は元カレへの未練の気持ちは伏せたまま
2人の経済的な面や、自分が親になるには年齢的にも精神的にもあまりにも未熟過ぎるので堕ろしたいと現実的な面だけを伝えた。
浅はかな同情で他人の子供を引き取りたいと思った私は
自分に宿った小さな命を殺める事を望むようになっていた。
相手の表情から安堵の色を隠しきれていないのを私は見逃さなかった
私はそれを見て内心安堵したのだ。
産んで欲しいと言われなかった事
心底悲しい思いや辛い思いをさせていない事に…。
そして彼は私の答えに了承し、少しの間を開け続けた。
今回は生んであげる事のできないこの子の為にも、2人でこの辛さを乗り越えようと言った
次またこの子が戻って来てくれた時には、ちゃんと生んであげられる2人になろうと
一瞬安堵した私は次には違和感と嫌悪感の織り混ざったような黒っぽい感情を抱いた。
家に着きぐるぐるとその理由を考える。
私たちの無責任で身勝手な行動により
ひとつの命を殺めてしまう事になるというのに
何故辛いのは私たち側になるのだろう。
性被害など悲劇の元で作られてしまった命では決してない。
悩んで悩んで生んであげられずごめんなさいと悲しみ、泣く泣く手放される命でもない。
以前何かで見た(避妊の重要性を訴える番組か何かだと思う)、堕胎時苦しんでもがくお腹の中の子供の映像を思い出した。
まだ目も鼻も形成されていない程
あんなにあんなに小さくても苦しいんだと直視出来なかった。
痛い思いをして苦しんで……ただ絶やされるだけとなってしまう命。
母親には愛されず
父親にはどっちでもいいと言われる命
いつか仮に、次は計画的に、万全な時に、望んで授かった命があったとして
その時にその子が戻って来てくれるなんてそもそもあるのだろうか…
次の子を授かり生む事が出来た時
私たちの過ちは無かったことになるのか
そう思う事で私たちは軽くなり、勝手に都合よく美談に書き換えてしまうことへの違和感
私たちは決して被害者では無いはずだ
数日経ち、私たち2人は病院へ行った。
検査薬同様、やはり妊娠していた。
かなり昔の事なので具体的な数字は忘れてしまったけど妊娠に気づいたのはかなり早期だったのだと思う。
医者に中絶の意思を告げると
まだ小さすぎて中絶は出来ないのであと2週間だったか少し待ってからの手術になると言われた。
20年以上昔の話なので今もそういう事があるのかは分からないけれど、当時はそう言われた。
大きくなり過ぎると堕胎できないのは知っていたけど、逆もある事に驚いた。
お腹に子を抱えている事実から早く解き放たれたかった。
一刻も早く楽になりたかった。
子供が大きくなればなるほど、自分の中の罪悪感も増長してしまうと思った私は更に重苦しい気持ちになった。
堕ろす為にわざわざ大きくしなければいけないなんて…
あと2週間も一緒にいなければならないなんて……
手術出来る最短の日を予約して病院を後にした。
私の予感は的中した。
待つ時間の長さは、嫌でも命と向き合わされる時間となっていった。
交際相手へ棚上げしていた問題はそのまま私のものとなって還ってくる。
罪の意識にさいなまれる。
本当に好きな相手(当時で言えば元カレになる)の子供だったとしたら生むのだろうか
経済的な理由を丸ごとクリアーできたとしたら生むのだろうか
どんな条件が揃えば私はこの子を生むという決断になるのだろうか
自分がどうだったら生むという決断になるのか
あらゆる状況を想定しても決してYESにはならない
考えても考え直しても行き着く答えの先は中絶しか選択肢がない自分に突き当たる
それでも毎日ほんの少しずつ子供は私のお腹の中で成長してるんだと思ったら
浮かび上がる思考に何度も呼び戻されては
決して変わることの無い答えに
同じ自問自答を何度も何度も繰り返す
そうして私の中に出たひとつの答え
私には母性がないのだと
私は母親になってはいけない側の人間なのだと思ったのだった。
手術の日、再び病院へ行く。
手術の同意書を提出し、手続きを済ますと間もなく手術台へと上る。
麻酔が打たれ私はすぐに意識を失った。
再び目が覚めた私に看護師は私の心と身体を気遣う優しい言葉掛けてくれ、そして教えてくれた
手術が終わってからの私は眠っているのに時々錯乱状態で泣き叫んでいたと。
どんな夢かは覚えていなかったけど、確かに夢を見ていたんだと思う。
夢は罪悪感からきのただろうけど
とてつもない悲しみと喪失感でいっぱいだった。
病院を後にした帰りの車の中で
交際相手も、先程看護師が教えてくれた私の姿を目の当たりにしていていたのだろう。
私に何度も何度も申し訳ないと謝った。
腹部の痛みに子供が受けた苦しみが残ってるみたいだった。
私は今日の日を絶対に忘れてはいけないと思った。
あの子を忘れたくないと思った。
それが無いと思っていた唯一の母性となったのか
罪の意識のみから来るものなのかわからなかったけど…
私は同じ事を二度と繰り返さないと
そして一生母親にはならないと強く心に誓ったのだった。
中絶してから1ヶ月経たったかぐらいの間もない頃だったと思う。
交際相手のお姉さんに子供が生まれたから一緒に赤ちゃんを見に行かないかと誘われた。
一緒に辛さを乗り越えようと言った交際相手に
何度も申し訳ないと謝ってくれた交際相手に
堕胎したあの日から向き合おうと思い直していたけれど。
それもきっと自分もその支えとなってくれる人が必要だと甘え続けていたんだろう。
流石にどういう神経してるんだと内心思ったけど
私は何故か何も気にしてない振りをして了承した。
一緒に赤ちゃんを見に行ったけど
その時のことは殆どというほど覚えていない。
彼氏は笑顔で赤ちゃんを見ていたんだと思うし
また私も、彼とお姉さんに悟られまいと笑顔を作ってその場を凌いだんだと思う。
でもその日を機に私は本当に交際相手と別れようと決めたのだった。
それからほどなくして
私はアルバイト先を辞める事にした。
交際相手と同じ職場だったので回りに気を遣わせたくなかったし、何より私も別れたら会いたくないと思っていた。
交際相手には違う仕事をしたくなったからと話た。
一緒だったアルバイト先を辞めるまで付き合い続けて、
辞めてから間もなくしてやっと私は別れを告げることができた。
前の恋人を忘れられないとやっと本心を伝えたのだ。
彼は逆上し
私の首を絞めた。
そしてまる1日彼の家に監禁された。
首を絞められても殺せはしないだろうと思ってたし、まぁ殺されてもいいやとどこか思ってたかもしれない。
焦るとか取り乱すとか恐怖に駆られるとかそういうものはなかった。
どこか冷静だった。
まさか彼にそんな危うさがあった事には内心驚いたのは確かだったけれど
命乞いするほど、じゃあそれで別れを思い直そうなんてなるはずもなく
彼が常軌を逸するほど
私の彼への気持ちは
生への執着を手放してもいいと思えるほど醒めざめとしていった。
半年以上経って彼とばったり遭遇することがあった。
私と別れてから3、4ヶ月ほどで彼には新しい彼女が出来ていたことも風の噂で知っていた。
だからかもしれないけど
あんな事があったというのに動揺せず寧ろどこか安心しながら普通に話す事ができ、軽くお互いの近況を話した。
私は翌年上京する事を決めていたのでその話をすると、
彼は最後に2人で子供の供養をしたいと言ってきた。
ずっと引っかかっていたのだと。
気持ちは有難いがどんな事情にせよ、隠れて会うのは今の彼女に悪いと言った。
とても驚いたのだが彼は彼女に
私との間に命を授かり、その命を堕胎した事実を付き合う際既に話していたのだと言う。
それが誠実なのか不誠実なのかはよくわからなかった。
聞かされた彼女はその時どんな気持ちだったのか、
私が中絶してから間もなく、彼のお姉さんの赤ちゃんに会う時のモヤモヤを勝手に重ねてみたけれど
当然だが、最後は他人の気持ちや価値観を推量る事などできず、
結局私は彼女では無いので、そうすることに意味があるのかさえわからなくなった。
その後彼から連絡があり、彼女から2人で供養へ行く了承を得たという事を聞いた。
私たちは彼が調べた水子供養のお寺に行った。
供養のお経を読んでもらうとか、何か特別な事をしてもらうのかと思ったけれど
彼の後を着いて行ってみたらただお寺で手を合わせるだけのものだった。
それでも初めて我が子の魂へ向け、手を合わせる事ができたので来れて良かったのかなと思った。
彼女との約束だったのかはわからないけど
彼は彼女を安心させるつもりだったのだと思う。
私と合流してからとお寺に着いてから、またお寺を出る際に、ちゃんとと彼女に連絡をしていた。
私も彼女に対し、こうして彼との時間を許して貰えたことに申し訳なくもあり
だからこそ余計有難い気持ちになった。
彼の中で私との事の精算だったと思うし
私も最後にはそうして感謝できたのだと思う。
お互い元気でと握手をし
これで私たちは2度目の
そして2人にとっての本当の意味での別れをしたのだった。
話が少し前後するのだが彼と別れてから偶然再開するまでの間に
私はこの彼の前に付き合っていた彼へ
残したままである自分の思いを告げようと思い行動した。
彼との終わりは突然だった。
一時だが同棲した事もあったし
会えない日は毎日電話を日課としていたのだけれど
ある日から連絡が取れず音信不通となってしまったのだった。
それでも毎日電話を掛け続け、待ち続けていたけれど返ってはこず。
私は捨てられたのだと理解した。
彼の家へ行く事もできたはずなんだけど
なんでかそれが怖くて出来なかった。
捨てられた事実がそこにある気がして。
それを見る事も受け入れる事も怖かった。
受け入れる事を拒否したような状態のまま時間だけが過ぎ、待つことに疲れ
あの彼に告白され付き合う事にしたのだった。
彼と別れ
私は音信不通になってから1年以上ぶりに元彼の家に行った。
夕方頃に行き呼び鈴を鳴らしたけど出てこなかった。
外から窓を見たけれど電気がついていなかったので、まだ仕事をしてるんだと思った。
私は彼に家の近くまで来ていてすぐそばのファーストフード店で待っている事をメールで伝えた。
全てを知らなければ前に進めないと思った。
今まであんなに連絡しても一向に返さなかった彼は
1時間近く経った頃には現れた。
彼の話では
私と音信不通にする前に、職場の女性と浮気をし性病を染してしまったということ
その彼女に責任を取れと喚かれ、暴力を受け
それから一緒に住む事になってしまったと聞かされた。
どんな病気か聞いてみたが、しかし私にはそのような性病を疑う症状はそれまでなかったので更に問いただすと
他にも浮気をした事があったという。
彼はパニックになり、4年も付き合っていた私に一体何からどんな説明をしたらいいか答えが出せぬまま、逃げるように結果音不通にしてしまったという。
そもそも私にもその性病がもし染っていたのなら、その可能性だって大いにあったはずだ。
その状態で音信不通にする事は浮気より不誠実な気がした。
私がその時、今日のように家に来たら一体どうするつもりだったのか聞くと
その時こそなるようになれと思っていたと言う。
更に彼女を好きなのか聞くと
わからない、
最初は彼女のいう責任の取り方で一緒に住み始めたけれど、今は情のようなものもあると言った。
今までは優しいと思っていたが実はただの優柔不断だったのではないか
その場しのぎの行動が多いしそもそも全部本当の話なのだろうか
4年も一緒にいたけど見抜けなかった、気付けなかった。
それとも4年という歳月の中私がこうさせたのだろうか……
私の好きだった人はまるで別人かのようで
今目の前にいる人を果たして今の自分はどう感じているのか……
育み過ごしてきた時間を考えたらモヤモヤは沢山あったけど
漸く私は、彼への気持ちに見切りを付ける事ができたのだった。
翌年の3月末、私は妹の進学に合わせ2人で上京した。
私も環境を変えたかったし
私自身妹と仲が良かった事、親が妹1人で行かせるより2人の方が安心だということなど
全てが自然の流れでそうなっていった。
住み慣れない土地に、知らない人ばかりの生活は新鮮で、経済的には実家に住んでいた頃より多少困窮したけどとても自由を感じていた。
私は近所でアルバイトを始めて
新たな仕事に新たな人間関係を少しずつ築き
都会といえどもそれはとてもとても小さな世界で、だけどその小さな世界に居心地の良さを感じていた。
しばらくしてその生活にも慣れ、アルバイトを掛け持ちし世界も少し広がってきた頃
私は新たな恋した。
だけどその人は前の恋人をひきずっていたのだった。
仲良くなるうちに
それはとても驚いたのだけれども、その人もまた
前の恋人との間に子供を授かっていた事を聞かされた。
彼は結婚を望み
その為に仕事も頑張っていたけれど、相手がまだ高校生だった為
彼女の親から反対を受け彼女は結局中絶をし
最終的には別れなければならなくなったと打ち明けてくれた。
その彼とは結局
恋愛関係には進展せず、友達としての親交をそれ以上深める事もなく自然と距離ができていった。
新しい生活にも、仕事への忙しさにもすっかり慣れていった私は
なんだかとてもとても寂しくなっていた。
そんな時、出会い系サイト(今でいうマッチングアプリ)を利用した。
当時は今のように一般的でもオープンなものでも堂々とできるようなものでもなかった。
それによる犯罪も多かったことから
健全ではない、どこかうしろめたさのあるような暗いじっとりとした印象の物だった。
手を出してはみたが私の中にもその恐怖はあったし、回りに利用者もいない。
全ては想像の世界で、だからとにかくそこを越えなければいいのだろう
つまり会わなければ危険でもないだろし
電話番号やメールアドレス等の個人情報を教えなければ更に小さな危険からも回避できるだろう
あくまでもバーチャルのままであればいい。
警戒心と好奇心が折り重なった不思議な心境だった。
簡単にプロフィール欄を埋め
求める形態はメル友
募集要項に誠実な方、サイト内でのやり取りからと念を入れ入力したと思う。
そんなに頑張ってもないし、多分面白みもなにもないプロフィールだったと思う。
今でこそそれありきの写真もなかった。
それでも沢山
あっという間にメールが来て驚いた。
正直全部まともに目を通すのが面倒になるほどの数だった。
メールを読んで気になったらプロフに飛んでお相手の情報をチェックしてみる。
判断材料は嘘か誠か分からない無機質な活字のみ。
選ぶだけでも一瞬途方に暮れたけど
私はある人のプロフィール欄にあった
【誰に似ている?】にクスッとした。
【誰に似ている?】小鳥
小鳥って何っ?!ってなった。
小さいって事かな?って思って身長欄を確認すると予想外の180cm
180cmの小鳥似の人
それも鳥ではなく小鳥限定 笑
想像しようにも全然出来なくて、何故だか私はそれが妙におかしくって
何故だかそんな時間に癒された気がしていた。
しかしその人の他の自己紹介文は
それ以外至って普通で、何か捻るようなものも、ユーモアがあるなって感じるものも突出した何かがあるわけでもなかった。
だけど何となく真面目そうだなっていうのを感じた。
バーチャルとはいえできるだけ悪いものに引っかかりたくないと選定しながら
ちょっと気負ってたのだろうか
笑えた事に安心したことで少しの特別感を感じたのかもしれない。
私はその人にメールを返す事にした。
複数人と一度にやり取りする事も出来たはずだけど、疑心暗鬼になって見極める作業に時間と労力が取られる為
結局メールを返したのはその人のみだった。
その人に不信感を感じたりつまらないと思えばその時また選別しなおせばいい。
アルバイトが終わりサイトを開くと返信した彼からのものとまた別の新規のメールがいくつか来ていた。
他は無視し、彼のみへメールを返す。
彼は2つ歳上で飲食店で働いているそうで、仕事柄お酒の知識が豊富だった。
私もその頃、掛け持ちのアルバイトで夜は週の3日程度スナックで働いていたので少しお酒を取り扱ってたけど
知識といえばその程度でたかが知れてるし
更にお店で女の子の飲酒は禁止されていたので
尚更よくわからなかったけど、お酒は強くなくとも嫌いではなかった。
仕事で飲めない分、帰りはたまにお店の女の子同士で飲みに行ったりしてた事から興味もあったので共通の話題は主にお酒だった。
同業みたいなものだからと
夜スナックで働いている事への偏見もなく、寧ろ大変な仕事だろうと労ってくれたのが嬉しくもあった。
仕事柄なのか言葉遣いはとても丁寧で
出会い系サイトのイメージに反するような、どこか品性をも見受けられるほどだった。
変に馴れ馴れしくもなく、かと言って過剰なほどよそよそしくもなく心地よい距離感を常に持ってくれていたのに心地よささえ覚えた。
気になっていた小鳥の一体どんな所に似ているのか聞いてみると
髪質が小鳥のようにふわふわしてると教えてくれた。
まさかの毛質に内心私はまた笑って
彼の独特さを面白く好意的に感じた。
こんな風に私が警戒心を解くのに時間はそれほどかからなかった。
1週間ほど経った頃だろうか。
私は毎日楽しくメールをしていたが、
ふと彼は男性である事から
このサイト内で交しているメールの一通一通にお金が掛かっている事を思い出し、なんだか居心地の悪さを覚え始めていた。
始めた頃には持ち合わせていなかった自分の考えの変化だった。
この短期間にそれ程私は彼を信頼するようになっていたのだった。
意を決し、ある日私は彼へサイトではなく個人のメールでやり取りしないかと持ち掛けてみた。
彼は少し驚いたようだったが、とても謙虚にお礼を言ってくれた。
ここから私たちはサイトから抜け出たやり取りに変わっていった。
直接のメールに変わるとタイムリーでレスポンスができるようになり
それはもっとお互いの関係が自然となり身近になっていき、日常の一部となっていったのだった。
お互いの信頼関係を直接のメールで更に構築していくと、今度は実際に話してみたくなるのはもう自然な成り行きだった。
いざ電話番号を教えるとなるとやはり緊張はあったけれどもっと知りたいという好奇心には勝てないのだ。
電話で実際話してみると、自分同様相手からも緊張感が伝わってきた。
でもその相手からの緊張感に、へらへらとしていない彼の人となりを伺い知れた様で安心したし
サイトから直メール、そして電話へと移行していく際はどれも私からのペースを軸としてくれた事や
知れば知るほど、近くなれば近くなるほど
彼への印象は誠実さ増していったのだ。
そうなるといよいよ今度は実際に会ってみたくなるのというのは時間の問題となっていったし
確かに彼への気持ちは好意的ではあるけれど、
じゃあ顔も知らないこの人を私は好きなのかと考えてみると勿論よくわからない。
どっちつかずのなんとも言えない自分の感情を確かめてみたくなった。
そしてなにより彼への興味を抑えることはできなくなっていった。
新宿駅南口改札出口で私たちは初めての待ち合わせをした。
改札口を出ると私はすぐに電話を掛けた。
携帯を耳に当てたままの私を彼はすぐに見つけ出してくれた。
坊主頭で背が高く
背筋はピンと伸び、スラリとしたスタイルと
シャツは第1ボタンまで止め、身なりにもキチンとさと清潔感があり
チャラさやだらしなさは微塵も感じられなかった。
なにより彼の笑顔はとにかく柔和で優しく、私は一気に安心したのだった。
繰り返すが、今でこそ普通に真面目な人も誠実な人もいろんな人がいるのだろうけど
当時の出会い系サイトの印象からどんなに好印象だったとしても、正直ある程度の覚悟もしていた私は
一体こんな人が何故?という衝撃と驚きだったが、それを出してしまったらまた失礼になると思い兎に角平静を装おったのだ
私たちはそこから2人でまた電車に乗り、ある遊園地へと向かった。
今考えてみると
出会い系で初めて会うというのに
目的地が遊園地というのもなかなかハードルが高いというかぶっ飛んでいたなと思う。
彼に事前に当日何処へ行きたいか聞かれていた私は
久々に子供の様にはしゃぎたいと思っており即答で遊園地と答えていたのだ。
お互い実際会ってみて
友達としてさえ厳しいと思ってしまう場合だって大いに有り得るはずで
そんな相手と遊園地を共に過ごす時間はかなりキツイだろうし
途中で体よく切り上げるという訳にもいかなそうな場所にも関わらず
内心彼はどう思っていたかわからないけど
そんなこちらのぶっ飛んだ提案にも
彼は戸惑う様子もなくOKしてくれたのだった。
遊園地へ向かう電車の中では
これまでメールや電話で積上げてきた時間の延長線のように
とても自然に会話を楽しむことができた。
楽しみにしていたジェットコースターや絶叫マシーンを一緒に体感する事で
更にテンションが上がり笑い
正に子供のようにワクワクし無邪気にはしゃいだ。
心からこんなに楽しめたのはいつぶりだろうか
もしかしたらそこにはアトラクションによる
吊り橋的な効果も加わったのかもしれないけれど
私は時間を過ごせば過ごすほど彼に心を開いていった。
そんな夢みたいな楽しい時間だったので
あっという間に夜になってしまい
私たちは名残り惜しく遊園地を後にした。
彼が次に連れて行ってくれたのはおしゃれなワインバーだった。
シックで高級感があって、ムードのある静かなお店だった。
それまで自分が飲むお店といったら
チェーンで若い子が大騒ぎするような
ガチャガチャとした賑やかな居酒屋ばかりだったから
敷居が高いというか、異世界の様でちょっと緊張した。
彼自身そういうところで働いていたからか
メニュー選びもワインの注ぎ方もスマートで
料理の取り分けまで当たり前の様にしてくれた。
その全ての所作が美しく
少しの嫌味もなく、至れり尽くせりで
男性にこんな風に扱われる事が初めてで
先程まで遊園地で子供の様にはしゃいだ私は
今度は打って変わって大人の女性の気分を味わっていた。
以前に私が
ワインを美味しいと思った事がないこと
その為、あまり好きではないと話していた事を
彼は覚えてくれていたようで
ワインを美味しいと思ってくれたら嬉しいと思いお店を選んだと話してくれた。
お料理も創作的でお洒落でとても美味しかったし
今までしたことのない体験や
受けた事のない細やかな心遣いに感激した。
お店の雰囲気に合わせ
少し大人な気分を装いながらも
私は内心、やっぱり楽しくて浮かれっぱなしで
今まで飲んだ事の無い量のワインを
自分のテンションに任せてガンガンに飲んだのだった。
しかしどうだろうか……
私は確実に楽しかったのだ。
私は彼と居た
たった数時間の間の自分をなんとなく思い返してみる。
きっとシラフだったとしても昨日の浮かれた私ならしていたのではないだろうか…
そうだ
きっとなるべくしてそうなったのだ
それを含めて楽しんだで一体なんの問題があるのだろう。
彼に遊ばれたようで
実は私の方も遊んだでいいじゃないか
お互いただただ楽しんだのだ。
そこに落ち込む必要など少しもないし
きっとこれも大人の経験なのかもしれない
そう思うと
また少し眠くなり私は寝返りをうった。
その気配に気付いたのか
はたまた情景反射てきなものなのか
眠っていたと思っていた彼に後ろから抱きしめられた。
彼の体温に何故だか私の心はあたたかくなり
そのまま再び眠りについた。
次に目を覚ました時
私の背中にはまだぴたりとくっつく彼の温もりがあった。
気だるさも、頭の痛さや気分の悪さも
ずいぶんとマシになっていた。
同時に起きたのか、それより前に起きていたのか
彼も目を覚ましている事がなんとなく伝わってきた。
そしていつの間にか再び身体を重ねた。
一度目は酔っていて殆ど覚えていなかったけれど
二度目のそれに、私はまた味わったことの無い衝撃となんとも言えない幸福感を感じた。
とても丁重に…大切に…
彼は私をまるで繊細なガラス細工でも扱うかのように優しく扱い
時には身体を少しでも離すまいとするかのように
力強くもまた優しく引き戻され抱きしめられた
どこまでもそうされる事が心地よく
そうされることで自己肯定感がどんどん上がっていくような不思議な感覚に
私は穏やかに身を任せる事ができた。
今まで私が経験してきたセックスの概念が崩される
それはいつも支配的で
荒っぽいものだったから
別れる直前まで彼は徹底的に優しく
昨日より更に親密となった私との時間を名残り惜しんでくれたかのようにさえ見えた。
彼とは別の電車にひとり乗り家路へと向かう。
少し余韻に浸るのだけれど決してそれは寂しいものなんかではなかった。
やはりそこには
出会い系で会ったという、どこか不健全さを消せず
もう連絡はないかもしれないというワンナイト的な可能性を含めても…差し引いても…
あんなに身も心も癒されたスペシャルな一時を過ごせたのだからそれだけで満足だった。
傷つきたくないという自己防衛からなどではなく
純粋にそう思えたのだった。
その日はとても快晴で
まるで私の心を映し出しているかのような空だった。
来ないかもしれないと思っていた彼からの連絡は直ぐにきた。
それ以降、メールや電話は会う前よりもっと楽しいものとなり頻繁になっていった。
例えば、特別な用事がなくても
仕事の合間ほんの2〜3分の隙間時間とかにも電話を掛けてくれたりとか
私は彼の変化に驚きはしたけれど
勿論悪い気なんて全然無くて、やっぱりすごく嬉しかった。
お互い忙しいながらも時間を合わせて何度か会い
そのデートは毎回楽しかったし
いつも歩く時は
彼が自然と車道側を歩いてくれてる事に気が付いた時には
彼の心遣いにまた心があたたかくなったりした。
毎回会えば身体も重ねていたけれど
その全ては最初の頃と少しも変わらず大切に私を扱ってくれた。
でも彼は一向に告白をしてはくれなかった。
私はもうとっくに好きになってしまっていたし
彼もきっと私を好きになってくれたのだと思っていたから、会う時は今日はしてくれるかな?っていつも期待していた。
どんなにマメで、楽しませてくれて、言動も行動も大切に扱ってくれても、どの瞬間でも紳士的であっても
付き合ってるという関係性がお互いの言葉によって成立していない事になる。
これはもしやセフレなのではないか…
私はまたお互いの出会いのきっかけが
出会い系であったという事にフォーカスしてしまうようになった。
だけど彼はどんな時でも優しく
どんなに仕事が忙しくとも疲れていても
私にその大切な時間をくれた。
心が和らぐいろんな事を与えてくれた。
好きだと言う言葉はないけど
私は時々不安にフォーカスしてしまっても
彼がただいつもの様に
普通に接してくれるだけでまた無条件に安心させてくれた。
彼に傷付けられる事が少しも想像できなかった。
だからある時私は安心して聞いたのだ。
「私たちって付き合っているの?」
彼は動揺を見せ
少し焦ったように、そして少し恥ずかしそうに言った
「え?そうだと思ってたんだけど違うの?!」
私はとてもおかしくなって笑った。
それまでずっとスマートだと思っていた彼が
とても不器用でとてもピュアに見えたからだ。
好きだとも付き合って欲しいとも言われてない事を私はまた笑いながら彼に話した。
彼は一瞬キョトンとしたが、また恥ずかしそうに
そして少しの時間を置いてから、意を決したように
彼は私に告白をしてくれたのだった。
私と彼との交際はとても順調だった。
今まで経験してきたどの恋愛より愛をもらい
安らぎを感じ満たされていた。
彼は相変わらず、時間が経っても
どんな時でも常に紳士だったし常に優しさを携えていた。
どんな内容だったか忘れてしまったのだけれど
ある日私たちは珍しくデート中喧嘩をした。
怒った私はデートを中断し帰ってしまったのだ。
喧嘩というより私が一方的に怒ったのだろう。
彼はどんな時も私を傷付けるような事はしないので
きっと私のワガママだったのではないかと思う。
その頃私は以前やってた昼間のアルバイトを辞め
新宿で働いていたのだけれど
喧嘩をした翌日彼は私の出勤ルートであった地下道で待っていた。
彼と目が合うと彼は私の所へ寄ってきた。
昨日彼に対して怒り任せに酷い言葉も吐いたと思うのだが
彼はいつもの笑顔を携えて、びっくりしている私に手紙だけ渡して去っていった。
出勤時間まで少し時間があったので私は途中で手紙を広げた。
そこには昨日のデートでの喧嘩の謝罪と
彼にとっていかに私が大切かが綴られていた。
そして最後に
おじいちゃんとおばあちゃんになっても一緒にいたいと書いてあった。
異性から手紙を貰ったのも初めてで嬉しかったが
それ以上に彼の真っ直ぐな気持ちや、思い、使ってくれた時間や労力全てが
私を感動させまたも私は彼に癒されたのだった。
東京へ引っ越してきてから2年経とうとするころ
私と妹は新たなる引越しを考えていた。
私たちの両親は、父親の度重なる借金などが理由で私たちが東京へ出る少し前に離婚が成立していた。
実家は母方の祖父母たちから貰った土地に建てた為父親が出ていったのだ。
間もなく進学、就職で実家を出ていた兄が精神病を患い実家へ戻ってきて
兄を看る為、母が以前のように働けなくなった事もあり
今まで母親が家賃を仕送りしてくれていたのだけれども
それがままならなくなり、上京した数ヶ月ののち
母親から今後、仕送りが出来ないという事を知らされた。
仕送りどころか母親が大変だと思い、私もそんな母親を支える為に帰ろうか聞くと
父親が時々来てくれているから大丈夫だと、それより高校を出たばかりの妹を都会で1人で住まわせるのも逆に心配になるのだと言う。
ある時彼が
部屋がひとつ空きそうなので家へ来ないかと言ってくれた。
当時彼は
築年数はとても古いが、二階建ての借家で
彼の友人とその友人の知人の3人でルームシェアをしていた。
そのうちの友人の方が実家に帰る事になり一室空くのだという。
古いと言っても私たちがどんなに逆立ちしても一生住めないような土地柄だったし、治安もいい。
一室を2人で借りるのだが、アパートの方もロフトのついた1Rだったので
元々狭い所に2人で住んでいた為、狭さも全然気にならなかった。
何より土地柄から考えると家賃が破格だったのが魅力的だった。
正直2人で住んでた都心かも最寄り駅からも遠いアパートより安かったのだ。
今思えばもしかして彼が少し払ってくれていたのかもしれないが…
その時の私は彼の提示額を信じていた。
私は妹に相談し、彼以外に知らない人が1人いたとしても
妹もまさかそんな土地で暮らせるなんてと大喜びだった。
因みに当時の妹と彼の関係を少し話そうと思う。
大体泊まりでデートをする時は
私が彼の家へ行く事が殆どだったのだが
妹が友達の所へ泊まって来る時は家に泊まりにくることもあった。
彼と妹が初めて会ったのは彼から改めて告白を貰って間もなくの頃だったと思う。
ある日妹と新宿で買い物をしており、彼も休みだった事から
急遽3人で食事をしようという事になり呼び出したのだ。
彼が来るまで少し時間が掛かるし、その間に私たちが先にお店を見付けた方が早いと思った。
そこへ居酒屋のキャッチのお兄さんに声を掛けられた。
飲み放題でコース料理だという
とても安かったしお店もすぐ近くだった事から
私たちはそこに決め、彼にメールをしたのだった。
お店に着くとまぁ雑居ビルに雑多な作りの店内で実に安っぽかった。
個室と言っていたけれど
ただのベニヤ板みたいなので席が仕切られている。
正直安チェーン店の方がよっぽど綺麗だ。
まぁいいやと思いドリンクを頼み、少しした頃彼が到着した。
彼も店内を見てびっくりしている様子が隠せない。
元々料理はコースのみだったのだけど、
「チン」という電子レンジの安っぽい電子音が何度も遠慮なしに聞こえてくる。
それに苦笑いする彼。
ここの店やっぱりヤバかったかな?って彼に言ったら
どう見てもヤバいでしょ?
と珍しく私にダメ出しをした。
冷凍食品をせめて加工して出すのかな?と一縷の望みに掛けてみたりもしたけど
全くもってただチンしただけのふにゃふにゃの唐揚げが出てきたりする 笑
全然美味しくない。
居酒屋コースなのでストップも掛けられず
皿の上の料理は全然減っていかないのに
それらと同クオリティの料理が次々とテーブルに運ばれてくる。
私たち3人は堪えきれず吹き出してしまった。
彼としては初めての妹との食事なので、
急遽と言えどもちゃんとした美味しいお店がいいと思っていたそうだ。
彼の性格を考えてみたら確かにそうなのだろうけど
それである意味盛り上がり、彼と妹はすぐに打ち解け合った
それからその年の年末年始
兄の件でそれどころではなかった実家に
私と妹は帰省を取りやめた。
大晦日に彼がきて3人で年越しをした。
私はいつもロフトで寝ていたので彼も勿論ロフトで寝て翌日3人で初詣に行ったり
彼の人柄と優しさがあって
妹と彼は順調に仲良くなっていったのだった。
それから私たちはワンコを飼っていたのだけれど
彼はワンコもとてもかわいがってくれた。
子供の頃から動物を飼うという機会がなかったみたいでどう扱えばいいか少し探り探りだったけど
不器用ながらも本心で愛でてくれているのが伝わってきた。
私が大切にする人や対象を彼も大切に接してくれた。
そういうところが恋愛だけでなく、人としても
とても尊敬できて、彼の愛情深い心がその度有難くて嬉しかった。
しかし彼の住んでる家はペット不可物件であり
ワンコを飼うことができない。
私は母親に電話して事の経緯を話し相談すると
母親は預かってもいいと申し出てくれた。
兄で大変なのにワンコまで大丈夫かと思ったのだが
やはり兄を看るのが大変である為
実は父親に戻ってきて貰っており、再び一緒に生活してるのだと言う。
父親はお金にはルーズなのだが、優しい人なので私はワンコを託す事にした。
こうして私たちは彼の住む借家へと引っ越した。
出ていった彼の友人の知人、
つまり私たちのもう1人のルームメイトとなる方は
当時多分45歳くらいの男性でフリーライターをしている方だった。
当時の私たちからするとおじさんだったが、仕事柄からなのか土地柄からなのかちょっと小洒落ていて個性的な方だった。
その方が1階部分に住み
2階に彼の部屋、その向かいが私たちが使わせて貰える部屋だった。
キッチン、トイレ、浴室は共同で1階にあった。
私と妹は挨拶をさせてもらい
荷物を運び入れる。
前のアパートが家具家電付きだったから
大きな物はなかった為、
彼にレンタカーを借りてもらい荷物の搬入を自分たちで行った。
こうして書いてみると
見ず知らずのその知人男性と住むことに抵抗感はなかったのか
不思議に思われる方もおられるかもしれないけど
自分でも何故だかわからないがその時は全然なかったのだ
配慮不足だったかもしれないが、妹から不安視される事も言われなかった。
それは事前に彼から
時々おじさんの部屋を出入りしてたり
玄関やトイレを掃除してる彼女と思わしき女性がいると聞いていたから
それがひとつの安心材料になっていたのかもしれない
因みに引っ越しのこの時、自分の母親と彼は初めて会った。
病気の兄の事を父に任せ、ワンコの引き取りと引越しの手伝いに来てくれたのだった。
私の計画を反対せず尊重してくれたが、妹も巻き込むので実際はかなり心配だったのではないかと今なら母の気持ちを慮れる。
とても凄いことだと思う。
彼に会った瞬間母が安心したのが伺えた。
とても気に入ってくれたしなにより嬉しそうだった。
とても緊張しただろうけど、彼は妹に接するのと同様に母にも誠実に対応し、しっかりと挨拶をしてくれた。
一泊して母は安心して帰って行った。
それから私たちの奇妙な同居生活が始まったのだけれど同居生活は好調だった。
生活時間があまり一定してないように感じたおじさんとは殆ど会わなかった。
おじさんも気をつかってくれたのだろうし
おじさんはキッチンをよく使ってたのだけれど、私たちは後から来た人間だったことから
私たちも何となく遠慮して自炊をほとんどしなかった。
でもそれが不満とかストレスとかにはならなかった。
しかしこの奇妙な同居生活は1年も持たなかったのだった。
その原因は私だった。
私がワンコと離れた寂しさからだった。
ワンコは実家でみてもらっているので安心だったし
私自身もそのうちワンコがいない生活に慣れると思っていた。
しかし慣れるどころか日に日に会いたい気持ちが募っていった。
時々実家に帰るとワンコも大喜びしてくれて嬉しかったけど、沢山遊んで別れる時はとても切なくなってしまい
帰ってからも尾を引いてしまうのだった。
そんなある日、私はまたワンコと暮らしたいと彼に打ち明けた。
彼は私の気持ちを汲んでくれ、ペット可物件に引っ越そうと言ってくれたのだった。
一気に2部屋空いてしまう為、家賃的におじさんに迷惑が掛かってしまう。
今では当たり前にあるシェアハウスと違い
個人間でそれをしているのだから抜けた分の穴埋めは自分たちでしなければならない。
彼はおじさんに事情を話し、
新しいルームメイトを探すか、おじさん自身もまた個人で引っ越すか掛け合ってくれた。
3ヶ月だったか4ヶ月だったが半年だったかは忘れてしまったけど、多分その位の時間の有余を与えなるべくおじさんの事情を考慮してあげようということになった。
おじさんも部屋を出るだろうなと思っていたけど、結局おじさんは自分の知人からルームメイトを見付け2部屋とも埋めた。
こうして私たちも晴れて物件を探し引っ越すことになった。
次に引っ越した先は普通に不動産で見つけたのだけれど
分譲マンションの一室を個人オーナーから借りるという形の所で間取りは2LDKだった。
築年数は古かったけどお風呂意外はリフォームされていて広く綺麗だったし、家賃も手頃
3人とも通勤しやすい場所だったのとやはり1番はペット可物件というのが決め手だった。
妹は既に学校を卒業し働いていたけど、家賃も安くなるし安心感からか彼との共同生活が嫌ではなかったのだろうそのまま一緒に来てくれた事で私も安心していた。
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