ワン・ファイブ 1・5
ワン・ファイブ 1・5
1「ええっ」
私は田鶴奈子。中学一年生。まぁでも学校にはいっていない。なぜ行っていないのかというと、昔から体が弱かったため。そのせいで小学校にもあまり行けてなかった。
中学生になり、入学式だけは行こうと思い、行ったはいいが、すぐいじめの標的になってしまった。
それから学校に行っていない。所謂不登校だ。
私はインターネットで知り合った楓ちゃん、萌光ちゃん、実菜ちゃんと集まってゲームをしている。みんなそれぞれ学校に行けてなく、複雑な事情があるようだった。
今日はみんなで私の家に集まってサバゲー(※サバイバルゲーム)をする……予定だった。予定だったのに……まさかあんなことが起こるなんて…
♢ ♢ ♢
♪ピンポーン♫
ん、誰だろう?
インターホンの音声をオンにすると「おはよう。萌光だよ。」とゲームチャットですっかり聞き慣れていた萌光ちゃんの声が聞こえてきた。
萌光ちゃんか。
「どうぞー」
ガチャ、そう扉を開いた時だった………
「わっ‼︎」
「ひっ…か、楓ちゃん?」
私は腰を抜かしてしまった。
何故ならそこには萌光ちゃんだけでなくインターホンでは写ってなかった楓ちゃんと実菜ちゃんがいたからだ。
「びっくりさせ……た?」
楓ちゃんはともかく、無自覚天然な実菜ちゃんは驚かせるためにわざわざインターホンで隠れた訳じゃなさそうだ。
「うん…とにかく上がって。」
そういうと真っ先に楓ちゃんが私を押し切るようにして家へと入ってくる。
「お邪魔しまーす!」
でも、楓ちゃんは決して意地悪なわけではない。過去の経験から人の空気を読むのが苦手になってしまっただけで根はとってもいい子なんだ。
過去の事なんて教えてもらった事ないけどね…
そういえば…、
私は、礼儀正しくお辞儀して靴を揃えながら入ってくる実菜ちゃんを見て思い出した。
実菜ちゃんだけはーーみんなの過去を知ってるんだよね。
じっと見つめていると実菜ちゃんと目が合わさった。
‼︎
慌ててそらしたけど……良かったバレてないみたい。
「はよ、行こや!」 ※彼女は関西人じゃありません。
楓ちゃんが急かすので、一同私の部屋の前にそそくさと移動した。
カチャ
部屋のドアを開けると、皆立ったまま四つの椅子を見つめている。楓ちゃんに関しては、ただ単に私の部屋漁りたいだけだろうけど…あ、はは
「適当なところ座って」
そう言った直後に楓ちゃんが一番ゲーム画面に近い席を指名する。
「ここ座るー‼︎」
「え〜そこ座りたかった。」
もう、楓ちゃんでも萌光ちゃんでもどっちでもいいから早く座ってよう!
「二人とも落ち着いて……ここはジャンケンで」
いつのまにか一番後ろの席に座っていた実菜ちゃんが解決策を提示する。
実菜ちゃん……この三人の中で唯一常識人なのだ。
「後ろの席、ゲーム画面見えなくない?」
こそっと、実菜ちゃんに耳打ちすると実菜ちゃんはふんわり笑って言った。
「大丈夫、みんなが困ったりする方が私は嫌だから。あと私、耳と目の良さだけは自慢できるからね。」
でもーー瞳の奥は全く笑っていなかった。
「「む〜。まぁジャンケンでいっかぁ」」
二人とも、実菜ちゃんのいうことだけは従うんだからぁ………ま、当然だよね。過去を教えるくらいなんだから
「「む〜。まぁジャンケンでいっかぁ」」
二人とも、実菜ちゃんのいうことだけは従うんだからぁ………ま、当然だよね。過去を教えるくらいなんだから
二人はジャンケンをし、楓ちゃんが勝ったということで誇らしげな表情を浮かべてゲーム画面に近い席に座っていった。
萌光ちゃんは、というと……静かに拗ねながら真ん中の席に鎮座していた。
いつの間に座ったの⁈と、聞きたいところだが、聞いてる暇はない。今すぐにみな、ゲームを始めようとソワソワしているのだから
「みんな専用ケーブルを画面に繋いで、通信して。覚えてると思うけど私のゲーミングネーム(ゲームアカウント名)は菜穂」
私の確認に続いてみんなが再確認を始める。
「萌光、了解。輝夜だよ。」
「楓ちゃんもりょーか〜い。白夜と言ったぁ、あ、命名したのは実菜ね!」
「了解。玖音」
実菜ちゃんが二言返事をして、みんなで通信が完了した時だった。
グラッ
「わっ!」
な、何⁈
「「うっわ〜‼︎」」
近くで萌光ちゃんと楓ちゃんの叫び声が聞こえる。
「………。」
唯一無言だったのは実菜ちゃんの声だけであった。
♢ ♢ ♢
「「「うわぁあぁ〜」」」
「んぅ……」
ドタッ
「オメデトウゴザイマス。アナタタチハ、エラバレマシタ。ゲーム世界へヨウコソ。イケルカシヌカモアナタシダイ、ゼヒ、ゲームノ世界ヲ楽シンデクダサイ」
・・・。
「……服、変わってる」
実菜が気付いたようにぽつりとこぼす。
「ほぉんとだぁ‼︎楓ちゃんのパーカーがなーい!」
「これ……私たちのアイコンキャラクターが着てた服じゃない?顔とか変わってないようだけど……」
本当だ。奈子の言う通りこれは、私たち一人一人が決めたゲーム衣装。うん、顔は変わってないね、変わってたら実菜の現実世界でいつもつけてる黒マスクはないはずだもの
「ここは……ゲームの世界?」
信じられないと言うように奈子が言い放つ。
そんな……嘘だ。
「ゲーム世界……だとしたらここはサバイバルゲーム。でも待って、ここには何日継続しなきゃ行けないの、現実世界とこの体は繋がっているの、ブツブツブツブツ…」
実、菜…頭がいいのはわかっていたけど、こんな状況でよく頭が回転するな。いや、こんな状況だから…かもしれない。
「……みっ、実菜ちゃん‼︎今、サバゲーだって言った⁈」
奈子が、実菜の言葉を問いただす。
「ブツブツブツブツ……あ、うん。近辺情報から読み取るに、サバゲーと思うのが妥当だね。ブツブツブツブツ…」
実菜は奈子に返答した直後また何かを呟きだす。頭の切れる人は何言ってるか正直わかんないな。
「……サバゲー、なら‥さ。サバゲーならではのことをすればいいんじゃない……かな」
私がそう言うと、三人は目を見開く。楓ちゃんなんて口をあんぐり開けてるし…
「そんなに安直な解決策でいいのかな……いや、私たちをここに連れてきた?人?は、裏を掻いてくるかもしれない。まずは貶めた側の人が予想もできないようなことをした方がいいかもしれない。うん。でももしそうだったとして現実世界とこのカラダが繋がってたら不利だな…ブツブツブツ」
はぁ…?まぁ実菜は賛成してくれているのね。
「びっくりしたけど……そうだよね、よく知らないところに連れられて助けを待つにしたってここら辺のこと多少は知らなきゃこの場所にいる間生活できないもんね。うん、私も賛成で」
奈子からの賛成も、もらえたようだ。良かった。
残りは楓…だけだけど……。
楓の方を向いて、少し不安そうに見つめていると。
「楓ちゃんはみんながさんせーならなんでもいいよ〜」
よし、楓も賛成っと
「でもサバゲーらしいことって具体的に?」
あ、本当……奈子の言う通り具体例ってなんだろう。
「まずは、寝床を作った方がいいんじゃない?そうするとすれば、探索の方も要れて二グループ分けた方が効率がいいか…」
実菜……あんたは頭脳担当だね。
「実菜の意見は分かった。まずは家を作ろう。縄と枝が必要、あとは生き残るために食物を見つけることが必要。奈子はあんま機敏に動けないから私と残って家の設計図の作成と近場の枝拾いを担当するから、楓と実菜は縄に使う稲を探しながら探索……で、いい?」
三人は顔を合わせた後、静かに頷いた。
「うん!OKー‼︎」
楓と言う異能を除いては、だけれども……
「じゃあ任務遂行に尽力しよう。一旦解散で三時間後くらいにここにまた集まろう。」
そう言って簡易的な旗を作成しながら実菜が言った。
♢ 約 三時間後 ♢
「もう日が暮れてきたね…」
「うん。寝床も完成したところだし今日はもう寝ようか」
そうだね。体力はまだ大丈夫だけど、精神面が消耗されすぎて辛いから……
「と言うか実菜ごめんね、探索担当なのに寝床作成に手伝ってくれて。」
「うん?あぁ、全然大丈夫だよ。奈子ちゃんも体力が限界だったと思うし、力になれて嬉しいよ」
「‼︎……気づいてたんだね。」
本当……実菜は頭が切れるなぁ
「楓ちゃんも探索で頑張ってくれてたから人一倍早く寝ちゃったね、ふふ。」
頭が切れるというか………お母さんかあんたは……
だからこそ楓が実菜の事を誰よりもすいてるのかな………
「私達も寝よっか」
「「ね。」」
私と奈子が返答をした直後だった……
グランッ
「えっ?」
時空が歪んで……私達はまた違う場所に移動していた。
♢ ♢ ♢
「ここ、どこっ⁈」
どうして……なにこれ……ここは……?
「落ち着いて、萌光ちゃん。びっくりするのはわかるけど冷静になった方がいい。多分ここはーー戦闘系ゲーム世界だと思うから」
えっ⁈⁉︎でも……たしかにみんなの服装は、戦闘系ゲームで私達一人一人が使っていたファッションだ。
「本当だ!菜穂として使ってた時のヒーラードレスになってる‼︎」
「ほんとぉだぁ!楓ちゃん、魔女に変わってるぅ‼︎」
ぎょえ⁉︎楓!いつ起きたの?あぁ、あの揺れで起きたのか……
「うん。私も戦闘服に変わってるし…」
私は実菜と似たような援護戦士の大きめの服に変わっている。
「だね…。納得するしかないや」
「………。」
実菜が私達一人一人をじっくりと見つめて、何とも言えないような汲々とした顔になっている。
「どうしたの?実菜ちゃん」
気付いた奈子が、尋ねる。
「…………あ、え?あ、うん。何でもないよ。気にしないで、」
気にしないでって、気にするわっ!
本当、実菜は基本的不思議ちゃんなんだよなぁ。それさえなければ、頭の切れるかっこいい人なんだけど………天然なところが目立つし、ありえないかな?
そう思うと奈子の方が逆にしっかりしてるかも?
そんな事を呑気に考えていると私達を連れてきた機械音がどこからか聞こえてくる。
「ピーー♪ココデハヒタスラ敵ヲタオシテクダサイ。惑ワサレナイヨウニ自分ヲ強クモッテクダサイネ⭐︎」
えぇ!まじかぁ……あと惑わされないようにって何⁈
追記ーーまだストックがあったので載せておきます。溜め宣言をしたのに、面目ありません泣
次回は、空気の読めない楓の回です。どうして、楓がこうなってしまったのか。それを、主にかいていきますので、更新されたらよろしければフラッと寄っていただけると幸いです。
♢
この物語は、シリアスになる場面が多いので、そうゆうジャンルが苦手な人は、即座にハムスターの絵とか、癒しになる物に飛んでください。
♢
そして、実菜の回は書こうか迷っています。実菜の過去は決まっているのですが、それを書いて本当の実菜を伝えることが、物語にとってあまり面白いとは思わないからです。あのままの不思議な実菜がいいと、私個人は思っているのですが、どうにかして書きたいとは思っています。
♢
もうお気づきだと思うんですが、さっきファイルを整理していたら、またもやストックが出てきました。内容は、三人の馴れ初め的文章です。これが、物語にどう影響してくるのかわからないので、終盤になったら、改変を経てあげたいと思います。
♢
物語が主役にならないといけないのに、ソルト(主)個人の意見などをたくさんあげてしまい申し訳ございません。(今後もあると思われます。)ですが、それを掻き消すくらい皆様が楽しめる物語を今後ともたくさんあげていきます。
なんとも早い最新話の誕生です。
♢
3「人殺し」
私は美鈴楓。私の家族は色々と問題が多かった。その一つとして、お母さんはお父さんにDVを受けていた。いつも泣いているお母さんを見ていると苦しくて痛かった。それでもお母さんは私の事をお父さんから守ってくれていた。
生活はお父さんのギャンブル癖で困窮してたけど、お母さんが作ってくれるご飯は何でも美味しかったしこっそり作ってくれるおやつを一緒に食べる日々はひたすらに楽しかった。
でも、ある日お母さんは心がこときれたようにプツンと自殺して死んでしまった。
私は泣いた。ひたすらに泣き続けた。そんな日が二日ほど続いて私の感情も事切れたように消えてしまった。そんな空っぽの心を埋めていくのは怒りだけだった。
数十秒後ーーー私はお父さんを殺していた。
バレたらどうしよう。そんな私の心配をよそにお父さんの事件は事故だと処理された。
よかった……の?これでいいのかな……あぁもう…見たくない。読みたくない。
その事件後から私は、空っぽな心を空っぽな感情で埋めていくようにした
その時からだ。空気を、気持ちを読むことが………怖くてできなくなってしまったのは…。
空っぽでいることは、楽だから。価値がなくても、透明になれるなら対価なんて要らない。
それでも、お母…さんーー
♢ ♢ ♢
「ねぇ……あれってっ⁈」
私は道が続いた雑木林の入り口の方を指さす。
「も、んスターだネ」
驚きすぎてる奈子はイントネーションと言葉遣いがおかしくなってる………が、これは確実モンスターだな
え、まってこんなのを倒すの?…………
「無理なんだけど‼︎⁉︎」
私が叫ぶよりも早く萌光が先の言葉を言う。
「現状皆んな、心も体も疲弊しきってる!逃げるが最優先‼︎」
誰もがそんな改善策をいち早く見つけた実菜についていった。
ひたすらに叫び逃げる私を見てモンスターは楽しそうにギザッ歯を擦り合わせて奇怪な音を出していたことは忘れよう………。
私たちは無我夢中で後ろなんて気にせず走った。実菜は途中から奈子をお姫様抱っこしながら走ったけど、超人のやることなんか凡人には関係ない
そして辿り着いた場所がーー
「惑歪の森・精霊の住処………ってなぁーに?」
並木道の入り口には、看板が立ててあった。その看板に書いてあることとは、今私がちょうど呟いた一言だ。
「惑歪………あの謎のカタコト人ーーゲームマスターと呼ぶことにしようーーが言っていたことに関係ありそうだね。」
実菜の言う通り、ゲームマスターは「惑ワサレナイヨウニ自分ヲ強クモッテクダサイネ」たしかにそう言った。
「ここから先は危険ってことじゃない?」
皆んな、わざわざ危険な場所に喜んで飛び込むようなバカではないので満場一致で引き返そうとしたところ……モンスターがすぐ後ろまで迫っていた。
「あ、無理!行こうッッ‼︎⁉︎」
私が選んだのはーーもちろん惑歪の森だった。
モンスターに咬み殺されるか、不思議な森で自分の理性を試すのか……どっちを選ぶかは明確だった。
後ろのモンスターを見て呆然としていた萌光達も状況が理解できたのか、即座に森の入り口まで戻ってくる。
「いっ、っこ‼︎⁈⁉︎」
モンスターが時速八十キロほどで突進してくるのを見て、みんな観念したように森の奥まで逃げていく。
「いやいやいやいや、ダチョウかよ⁈⁉︎」
たしかに……
私は心の中で萌光の意見に猛共感した。
♢
「実菜って、たまに高性能ロボットなんじゃないかって思うわ〜」
一息ついて、息が正状に戻ったタイミングで萌光がぽつりとそんな言葉を溢した。
「わかるーわかるー。超人では到底表せない感じね〜!」
私が、とりあえずの共感を露わにした瞬間、実菜の体が小刻みに震え出す。
ん?どうしたんだろ
「私は……普通の人間だよ。」
何故かその言葉には、『普通』が誇張されていた気がした。
自分が、気がした。なんて、空気を読むようなことをするはずがないのに、しなくてもわかるほど、実菜の周りにある空気は凍りついていた。
「私は、何もできないよ。私自身は無能だよ。ただ世界がそうしているだけで、」
世界…?何が………。ん、わかんない。わかんない。わかんない。わかんない。
あ、空気って無機質だから読めないんだ。じゃあ、読まなくていいか。
「うん!でも、実菜は私のオカアサンとしての資質は十分あるよ〜。それは、世界がそうしてるわけじゃないもんね!」
「か……えで」
実菜は、ぼんやりとした瞳の焦点を私に合わせる。
「そ、か。楓のおかあさんとしてならいつだってなれるよ。頼ってね。世界じゃなくて、ワタシを」
そう言って慣れないガッツポーズを決めながら、言葉を紡いでいく実菜。
「私も……、ごめん!ロボットっていうのは、褒め言葉のつもりだったんだけど、よくよく考えたらロボットなんて嫌だよね。まじで、ごめん。」
萌光も、自分の中で何かを思ったらしく、素直に謝りを申し入れる。
「全然大丈夫だよ。私もごめんね。冗談なのに、本気にしちゃって。」
「実菜は悪くないよっ!優しすぎるぞ、みーなあぁ」
実菜の寛容な態度に、萌光もすっかり毒素を抜かれたようだ。実菜の体に腕を抱き着けて、かなり改悛しているようだった。
「…………実菜を、取らないで。ぼそっ」
じゃれあっている萌光と実菜には聞こえなかったようだが、奈子には聞こえてしまったようだ。奈子は私と同じ瞳で話しかけてくる。
「私もさ、よくそう思うんだよね。」
「え⁈⁉︎奈子が嫉妬⁈めずらしっ‼︎」
そう叫ぶようにいうと、奈子はふふっと笑ってから朗らかな声で言った。
「珍しくなんか、ないよ。実菜ちゃんとかは、本当に執着とか嫉妬なんて知らなさそうだけど、私はただ単に隠しているだけだから。何度も、何度もたくさん思ってたよ。」
奈子って、あんまり一対一でお話ししてくれないから本心が掴めなかったけど、話してみると実菜よりも掴みやすい子だったんだな。
「奈子は空気も読めて、節度を弁えてて、人間味もあって……すごいね。実菜が一番好きなタイプの人だー」
奈子は少し照れる素振りを見せると、すぐに瞳を淡い色に変えて、言い放った。
「でも、万人には一番嫌われやすいよ。深く繋がれないからね。実菜ちゃんも、そんなあっさりとした感じが好いてるだけで、私自身を欲してるわけじゃないと思うよ。そんな私より、二人(萌光、楓)の方が欲されてる気がする。萌光ちゃんは、一見一番白状そうにも見える態度を取る時があるけど、一度内側に入れた人間には決して裏切らないし、甘々になる。楓ちゃんは、一見一番非常識そうに見えて、何よりも節度を大切にしている。今だって、実菜ちゃんに文句を言って終わり、でもいいのに小さくつぶやいただけでしょ?実菜ちゃんはそうゆうのに敏感だから、気づいてると思うの。それでも言わない。楓ちゃんを思って言わない。そんなことができるの……楓ちゃんを大切にしているからだもんね。」
少し寂しそうに笑う奈子に、私は久々に空気というものに触れた。空気を呑んで、何も言わなかった。
「ま、好かれる努力は、今からでも遅くないからね。頑張ってみるよ」
奈子が、そう言って笑った瞬間、頭に鈍痛が走った。
「いっ………」
どうやら頭に痛みが広がったのは私だけではないみたいだ。奈子も萌光も、頭を抱え、実菜さえも眉を上げてその青眼の瞳に痛みを抱えていた。
ど、うして………。
「誰かを…殺したい、の?」
だんだんと、頭が冴えていく。
「はぁ、はぁはぁっ!」
私はーー目の前の奈子を、何故かこの手で殺めたい気分になった。
シューーー奈子の髪が一筋、風に舞うように落ちてきた。
「あっ、あ、あぁ」
先程私は、奈子の顔を抉ろうとしていた。えぐって抉って、鍵を取り戻そうとした。
理性を試すなんて、どんなことがあってもしてはいけなかった。
肉体は、蝕まれても精神までは蝕まれてはいけない。これが死んだ母が残した遺書に書いてあった唯一の言葉だ。
母は、蝕まれた。肉体はじょじょに精神へと害を及ぼす。
奈子の髪を切ったことは、それ生涯一生忘れられないだろう。奈子の髪(肉体)を見るたびに精神は腐敗していくだろう。
「こんな、こと……こんなっ」
全部全部ーー夢だったらよかったのにな。
母が待っている家を思い出す。毎日「いってらっしゃい」と言ってくれたその笑顔をもう見ることはないのだろうか。
このまま目を瞑れば、そこに帰れるような気がした。
私は、静かに目を閉じる。
本当の本当の目を瞑った理由は、
奈子の顔を、気持ちを、認識したくなかっただけだった。
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