注目の話題
私が悪いのですが、新入社員に腹が立ちます。
いじめなのか本当に息子が悪いのか
私の人生観、おかしいですか?(長いです)

フィクション

レス120 HIT数 4093 あ+ あ-

匿名さん
20/09/04 10:15(更新日時)

フィクション

タグ

No.2993615 20/01/26 19:52(スレ作成日時)

投稿順
新着順
主のみ
付箋

No.51 20/04/26 13:53
匿名さん0 


それからしばらくして私も安定期に入った。



診察が終わった後、自宅へ急いで向かった。


「健太郎ー?」


おっと危ないわ(笑)
気持ちが急ぎ過ぎで走ってしまいそう。


ゆっくり階段を登る。



コンコン....



「健太郎?私よ、しおり」


コンコン....


「ねぇ、話があるの!お願いだから、開けてくれない?」


ねぇ、、お願いよ!


早く言いたい。
ずっとずっとこの日を待って我慢してきた。


健太郎に。
あなたに。


「ねぇ、居ないの?」


ドアノブを回した。


ドアが開いた。


誰も居なかった。

誰も...三奈も...
荷物も...


何もかも無くなっていた。




No.52 20/04/30 16:10
匿名さん0 

えっと....。

今朝は居たかしら?

中に一歩も踏み込めないでいた。


カーテンは締められて薄暗かったけど、ベッド周りは整頓されていて、ドレッサーには山ほどあった化粧品が1つも無かった。


私妊娠したの!

健太郎達が突然居なくなるなんて想像もしてなかった。

健太郎がどんなに喜ぶか。
それしか頭になかったから、突然のこの状況がなかなか理解出来ずにいた。


そのまま突っ立っていると背後から重子さんが洗いたてのシーツを持ってやって来た。


「ねぇ、健太郎さんは?」

重子さんは無言で私の横を通りすぎた。


「ねぇ!!2人とも何処に行ったの?」

知りたい...いや、それ以上に重子さんの態度に腹がたち....

いや、私だけ除け者なの?そんな感情からか声を荒げてしまった。

重子さんへ八つ当たりしてしまった。


重子さんは私の方へ向きを変え


「....奥様...大変申し訳ないのですが...」
目線は伏気味の重子さん。


この日をどれだけ待っていたか。

「あの...奥様」

私、赤ちゃんが出来たの。

「....」


重子さんが何も言わないという事は、健太郎に止められているのね。


誰にも言うな!ってね。

それって....私もなんだね。


状況が分かり少し落ちついた私は

「いえ、いいの。何も言わなくていいわ。大丈夫よ」











No.53 20/05/02 23:51
匿名さん0 

「申し訳ありません」

そう言い、重子さんは頭を下げて部屋から出て行った。


健太郎と三奈が過ごしていたこの空間。

主無き薄暗いこの空間を見渡していると、段々と私の呼吸は荒くなり、この部屋にある物全て窓から放り投げたくなった。


2人が使っていたベッド
三奈が我が物顔で使っていた1人描けのソファー
三奈が選んだカーテン


何もかもめちゃくちゃにしたい。

想像しただけで過呼吸気味になり。思わず倒れそうになった。


いけない...いけない....

赤ちゃんに酸素が行き渡らなくなる。


赤ちゃんを守らなきゃ。


落ち着いて....深呼吸して....



泣くもんか。


何故、今日なの?


泣く...もん..か。


下唇をギュッと噛んだ。







No.54 20/05/05 17:19
匿名さん0 


1番に健太郎に報告したかったのに。


噛んだくちびるの痛みで我に返った。

このままここに居ても健太郎は現れない。

三奈と荷物と健太郎は突然消えた。



部屋に戻って少し横になった。

窓から見える木々の間から鳥の囀ずりが聞こえた。

おめでとう....そう言ってくれてるの?

ありがとう....待ちに待った妊娠だったのよ?



不思議だった。
あんなに不妊治療を頑張っても出来なかったのに。

三奈の出現のこのタイミングで妊娠だなんて。

私の方が先だったら....


健太郎と三奈が突然消えたダメージは想像以上に私を苦しめていた。

誰にも祝って貰えない私の赤ちゃん。


まだぺしゃんこのお腹に手をあて

大丈夫よ。私があなたを守るから。

今日もあなたの心音をこの耳ではっきりと聞いたのよ。


あなたに会うまで頑張るから。
その日を楽しみに頑張るから。

だからね、誰にも言わないわ。

1人で産むわ。





No.55 20/05/08 21:58
匿名さん0 


少しうとうとして目が覚めた。


泣いていたのか、枕が濡れていた。


1番に目に飛び込んできたのは診察時に持って行ったバッグ。

あの中には母子手帳が入っている。

そう思っただけで、健太郎が消えた絶望が和らいだ気がした。


今何時かしら?

何か食べなきゃ元気が出ないわ。


夏バテかつわりか分からないけどガリガリに痩せてしまい、魅力のないこの体には1つの命が宿っている。

1人で産むと決めたからには色々と考えないと。


お腹に手をあて、ゆっくりと起き上がった。


No.56 20/05/11 21:49
匿名さん0 


1階へ降りてキッチンにいる重子さんに軽めの食事を用意してもらった。

12人がけの大きなテーブルに独り

いつもの同じ風景

独り座って待っていると、トーストにベーコンエッグ、オニオンスープ、オレンジジュース、サラダと次々に並んだ。


「ありがとう。頂きます」


以前は当たり前の様に食べていたけど、今日はなんだか本当にありがたみを感じた。

毎日私1人の為に作ってたのね。

感謝もせず申し訳なかったわ。

重子さん、あと少しだから。

もうちょっと宜しくね。

No.57 20/05/11 21:58
匿名さん0 


それからは規則正しい生活を送った。

主無き隣の部屋も、真美子さんが時々空気の入れ替えに入るくらいで、三奈のかん高い笑い声も聞こえなくなった。

以前に戻った。
そんな毎日だった。


ぼんやり外を眺めながら考えた。

1人で産むにはお金がいるわね。

独身時代の貯蓄では足りない。

住む場所もいるし、当面は働けない。

しかも、健太郎からはカードを3枚だけ。

現金は持ち合わせていない事に気がついた。

どうすればいいの?

ふと目に入ったのは健太郎からのジュエリーやブランドバッグ。

子育てには必要ないわよね。


売ったらお金になるのかな?


とにかくお金を用意しなきゃ。


No.58 20/05/11 22:15
匿名さん0 


とにかく売りまくった。

どれくらいの価値があるのかも分からなかったが、言い値で取引をした。

ぼったくられてもかまわない。

どうせ要らない物だもの。


以前何かの本で読んだが、愛情を与える代わりに物やお金で解決をすると。


まさに健太郎そのものだったわ。
その証拠がこれらの数々。

とりあえずこれで少しは役にたちそうな金額になった。

その次に診察して頂いていた山口医院を変えよう。

高須先生から健太郎に連絡がいくと困るからだ。

決行は妊娠6ヶ月後。

出産までの4ヶ月の間に住まいを決めなくちゃ。
赤ちゃんを安心して育てられる環境を作らなくちゃ。


揃える物だって沢山あるんだもの。

どこへ引っ越そうかしら?

どこにしようかしら?







No.59 20/05/16 11:06
匿名さん0 

健太郎もそうだけど、私にとっても初めての経験をこれから沢山する事になる。

想像しただけでも、喜びより計り知れない不安の方が強い。

私が不安になるとお腹の赤ちゃんも不安になるのかしら?

胎教に良くないわね。


まずは独りでも安心して出産育児できる場所を探さなくては.....


都会?田舎?
アパート?一軒家?

産院で産む?家で産む?

産後って...どんな感じになる?


ますはやっぱり場所を決めないと始まらない。

譲れないポイントがあった。


健太郎に絶対会わない場所。
探されても見つからない場所。

まぁ、探される事は無いわね。

だって健太郎は三奈とその赤ちゃんが居れば私なんて必要ないんだもの。



ひっそりと確実に
私とお腹の子が幸せになれる場所


安定期に入り体調も申し分ないくらい元気だったので、とにかくよく出かけ、何度も足を運び、都会でもなく田舎でもない、ここ△△に決めた。



No.60 20/05/22 17:17
匿名さん0 

真美子さんがデザートを持って寝室にきた。


「奥様、最近よく出かけてますねー。ご友人の所ですかー?」

さすがに出かけ過ぎたかしら?

「え?...そ・そうなの。今度は友達が体調が良くないらしいの」

「あー、それで体に良い料理の本を読んでいらっしゃるんだー。お優しい!ご友人に作って差し上げるのですか?」


本当はこの家を出るからなんだけどね。

「そうなのよ。私、ずっと重子さんに作って頂いてたから何も分からなくって。それで読んでいたの」

「ご心配ですね。あ!そうだわ、重子さんにお聞きになられては如何ですか?重子さんの料理、本当に上手ですよ?」

「そうね、後で聞いてみるわ」

話を広げたくなくて、運ばれてきたデザートを手に取った。

重子さんが作ったであろうマロングラッセを丸ごと一口にした時


「あら?ここにあったエルメスのバッグ....あれー?10個はあったと...えー?おかしいな....」

真美子さんがクローゼットの棚をがさがさしだした。

思わず栗が飛び出そうになって急いで噛み砕いたら今度は噎せた。


「大丈夫ですか?お水をお持ちしましょうか」




No.61 20/05/27 21:04
匿名さん0 


ゴホッゴホッ....

喉に栗が詰まり噎せた。

全て売り払ったのはマズかったかしら。

「大丈夫ですか?」

真美子さんが心配そうに覗き込み、水を差し出した。

「だ・大丈夫・よ」

どうしよう、聞かれたらなんて答える?

動揺する気持ちを押さえる為に水を一口飲んだ。


落ちついてきた私を確認した真美子さんは、またクローゼットの中をキョロキョロしだした。

「あらー?バーキンの他にも色々なバッグが....えーーーー?おかしいなぁ....」

ぶつぶつと独り言を言っている。


「あのう、奥様....」

クルリと向きを変え、私に答えを求めてきた感じがした。


No.62 20/05/27 21:39
匿名さん0 

「あ、えっと、バッグ?」

「はい。シャネルやヴィトン、バレンシアガも、まだ他にもありませんでした?あら?ヴィトンのトランクも無い」

「あー、そ・そうね...」

「バッグ以外は?どうなのかしら?」

バッグ用の棚の奥にあるウォークインクローゼットへ向かって行く。

「あ!ちょ・ちょっと真美子さん」

お腹の赤ちゃんを忘れて慌てて駆け寄る。

「あのね、真美子さん。ちょっと聞いて頂戴!

健太郎も三奈さんと何処かに行っちゃって、しかも所在すら教えて貰えないんだもの。なんだかむしゃくしゃしちゃってね。気分を一新したくて全部売っちゃったのよ」


10畳程のウォークインクローゼットにはシャネルのスーツやディオールのカクテルドレスなど100着以上はあったが、それもほとんど売ってしまった。

ガランとしたクローゼットを見渡した真美子さんはちょっと驚き、私の話は耳に届いていないのかいるのか

「....え?あぁ....なるほど...そ・そうです...よ、ね」

呆気に取られて私の説明を呑み込めない感じだった。


「また新しいのを買うわ。それ位しか楽しみがないんだもの。ね?そうでしょ?真美子さん」

真美子さんの手を取った。

「まぁ、そうです、ね。はい」


三奈の出産予定日はもうすぐだ。

あと2~3ヶ月で産まれてくるだろう。

つまり、1ヶ月後位になると出産準備の為に帰ってくるはずだ。
その前に売ってお金にしたかった。



健太郎も、重子さんも、この家の人みんな待ち望んでいた赤ちゃんがもうすぐそこに。

欲しくて欲しくてたまらなかった赤ちゃんは三奈が産むのよ?

バッグや服を売り払って新しく買い替えたっていいじゃない!

その気持ちを分かってよ!

まぁ、表向きは、ね。


真美子さんは

「そうですね。奥様」

うっすら涙を浮かべながら私の手をギュッと握りかえした。

No.63 20/05/28 21:18
匿名さん0 

しめしめ....

我ながらとっさについた嘘だけど、真美子さんは信じたようね。

安堵のため息が出た。


「ん?...」


「ん?今度は何?」


不思議そうな、何か違和感を感じた真美子さんは、私の手を握ったまま頭から足先までなめ回す様に見つめる。


「やだ!奥様。もしかして....お太りになられましたぁ?」

クスクスと笑う真美子さん。

「え?あぁ、そう?」

そういえば最近の食欲はすごいかも。

空腹は異常に早くなってるかもしれない。

「夏バテでお痩せになられましたからねぇ。ただ、ん~、痩せているよりは良いと思うのですが....ちょっと....お腹が出始めていらっしゃいますねぇ」

私の全身を品定めする。


「え?お腹?」

握っていた手を自分のお腹に当てた。
お腹が出る月齢じゃない。

ちょっと食べ過ぎかしら?
次回の検診までは気を付けなくちゃ。


「あぁ~それでですかぁ? 」


「え?何が?」

「お太りになられたからオートクチュールもスーツもお売りになられたんですかぁ?」


今度は呆れた感じで笑う真美子さん。

「そ・そうなのよ(笑)食欲の秋だし、痩せる気がしなくて....ハハッ」


「お売りになられたお気持ち、お察しします」

ウンウンと良き理解者の感じで頷く。

思わず吹き出しそうになった。


あのね、真美子さん。

私、妊娠してるの。

三奈が産んだ後に私も産むのよ?


No.64 20/05/28 21:21
匿名さん0 


そろそろこの家を出た方がいいかしら?


1ヶ月ごとにお腹は大きくなるだろう。

庇いきれないかもしれない。


6ヶ月目に入ったら決行しよう。


赤ちゃんと住む家も買った。


あとは私がここを出るだけだ。




No.65 20/05/28 22:05
匿名さん0 


決行する前夜。
1日の仕事が終わり、くつろいでいる重子さんと真美子さんをリビングに呼んだ。

「あのね、私、明日から旅行にでも行こうかと思ってるの」

重子さんと真美子さんは顔を見合せた。

「どちらにご旅行ですか?」

重子さんが聞いてきた。

「んー、とりあえず国内なんだけど、自由気まま、気の赴くままで行こうかと。特に決めてないの」

また2人は顔を見合せた。

「お一人でですか?よろしければ私もご同行しますよ?」


真美子さんは心配そうに、そう言てくれた。

一瞬涙が出そうになった。


「やだわ!大丈夫よ。それに1人だから行くんじゃない」


「...でも...奥様...」

「健太郎が居ないこの家に、私1人居ても重子さんも真美子さんも窮屈なだけでしょ?...それに....」


「......」


「そろそろ三奈さんの予定日じゃなくて?健太郎はこの家で出産させるそうじゃない」


「...えぇ、まぁ...」

健太郎の居場所を私に教えない重子さんは、三奈の出産の為に色々買い揃えていた。


「ね?そんな時、私がこの家に平気でいられると思う?」


「.....はい、...」

「私の気持ちも考えて頂戴」


「いつお戻りの予定日ですか?やはり、私もご一緒します!」

ずっと私のお世話をしてくれた真美子さん。
この7年間を色々思い出す。

感謝の気持ちが込み上げてきて唇が震えた。

「そう...ね、まぁ、半年は戻らないつもりよ。ゆっくり、そうね、日本全国津々浦々....って感じかな!」

「奥様!」


重子さん、いつも美味しいお料理をありがとう。

真美子さん、辛い時、悲しい時、いつも側に居てくれてありがとう。
あなたには、本当に助けてもらったわ。

徳さん、私の薔薇たちをお願いね。
頼んだわね。

「あれ?奥様....泣いていらっしゃいます?」


心の中のつぶやきで泣いてしまった。

本当は声に出して感謝したいのに。

独りで産むと決めたからには、旅行という嘘の形でお別れしなければならない。

本当に、本当にお世話になりました。

健太郎と三奈と、2人の赤ちゃんをお願いね。


本当にありがとうございました。





No.66 20/05/28 22:22
匿名さん0 


「あら?あくびよ。泣く訳ないじゃない。永遠の別れでもないのに」


「それでは、旦那様が戻られましたらその様にお伝えします」

淡々と重子さんは話をまとめた。


「そうね、そうして頂戴。さて、荷物をまとめるとするかな」

「お手伝いします」
一緒に立ち上がろうとする真美子さん。

「大丈夫よ。持って出る物なんてそう無いから。だってあのクローゼットを見たでしよ?(笑)」

「あぁ、なるほど」

「お休みのところ、ごめんなさいね。では...お休みなさい」




気丈に振る舞えたかしら?

部屋に入り、枕に顔を押し付け、声を殺して泣いた。

初めて気がついた。

ここは居心地が良かったのだという事を。

当たり前じゃない事を当たり前の事の様に思ってた。

気持ちが落ちついたら簡単な荷造りをしよう。

感謝の気持ちを込めて、せめて綺麗にして出なくては....


みんなが起きる前に....



No.67 20/06/05 09:40
匿名さん0 


健太郎と三奈は、しおりが家を出た1ヶ月後に帰って来た。


「ただいま~!あー、楽しかったわー🎵」

臨月間近の三奈は、ふぅふぅ息を吐き重い体を右へ左へと揺らし歩く。

「おいおい、足元に気をつけろよ」

「お帰りなさいませ」

重子さんが出迎えた。


「重子さーん!見て見て!大きくなったでしょう?」
まんまるなお腹をさすって見せる。

「まぁまぁ三奈様、お帰りなさいませ。身重のお体で大変心配しておりました」

重子さんは頭を下げた。

「三奈、2階でゆっくり休むといい。何か欲しい物があったら重子さんに頼みなさい」

「はーい!
うわぁー、懐かしいわ!やっと帰って来たのね」

「子供みたいだな!ハハッ。さ、僕の腕に捕まって」

「ありがとう。健太郎さん」

「あの、旦那様、、実は」


「あぁ、重子さん。僕達は少し休むから荷物を頼むよ」

「....かしこ参りました」


重子さんは、しおりが旅行に出かけ半年は戻らない事を健太郎に報告しようとしたが、とりあえずは休んだ後にしよう。まずは、三奈様が無事に出産出来る様、配慮しなければ.....。

聞かれたら答えればいい。

まずは、旦那様の待ちに待ったお世継ぎを....。









No.68 20/06/05 10:24
匿名さん0 


コンコン

「失礼しまーす」

大量の荷物を重子さんと真美子さんが部屋に運んだ。


殆どが洋服であろうトランクケースが5つ。

女性が2階まで運ぶには相当な重労働ではあったが、中身を確認するには指示がいる。



「旦那様全てクリーニングにお出ししますか?」

そんな二人を知ってか知らず知らずか


「ねぇねぇ、健太郎さん。脚がだるいわぁ」

仰向けやうつ伏せになれない三奈の体は、ベッドに寄りかかり脚を投げ出していた。


「三奈様、私が...」

真美子さんが言った。


「大丈夫!僕が擦るさ。だって毎日擦ってるもんなー」

ケラケラと笑う三奈とニヤける健太郎。

ぽっこりお腹とは裏腹な白く細い脚の上に股がる健太郎の姿はこっちが恥ずかしくなる程だった。


「で・では、クリーニングにお出ししときます。失礼しました」


部屋に運び入れたトランクケースをまた部屋から出した。


「いやだぁ、くすぐったい~」


三奈の甘えた声が部屋の外まで聞こえた。


せっかく部屋まで運んだのに、また1階まで降ろす元気もなく、重子さんと真美子さんは廊下でトランクケースを開け、大量の洋服の仕分け作業をした。


「私達のお土産どっかに入ってないのかなー」

真美子さんがつぶやいた。


No.69 20/06/08 18:33
匿名さん0 

その頃

健太郎の家を出たしおりは、以前に購入していたとある場所の一軒家にいた。


元々は別荘用に建てられた、ちょっと人里離れた山の麓

平屋の我が家に身を寄せていた。

別荘用という事もあって傷みは激しかったが、水回りはリフォーム済みで、とりあえず住める状態だった。

本当は出産準備にベビーベッドやクーハン、色々揃えたかったけど、冷蔵庫や電化製品の購入が最優先と思い、ここは赤ちゃんには申し訳ないけど我慢してもらった。


少し下りた町の入り口に助産婦さんが住んでいた。

ここを選んだ理由の一つでもあった。


彼女の名前は優子さん。


名前の通り優しい人だった。


No.70 20/06/08 19:06
匿名さん0 

家の中が落ちついてきたので早速助産師に連絡をし、我が家に来て頂いた。

家で産みたい....そう電話で伝えると、家の中の状態が見たいと言う事だった。


優子さんは、今妊娠6ヶ月という事
、今の私の体調、母子手帳の確認以外
特に何も聞いてはこなかった。


縁もゆかりも無いこの土地で、身寄りも無い私が突然引っ越し、そして出産すると言っている。

噂の格好のネタになりそうなのに。
最初こっちに来ると言った時は身構えたけど、単なる部屋の状態確認だったようだ。


赤ちゃんの心音を聞きながら優子さんはウンウンと頷いた。


「で?この家で出産希望なの?」

お腹を出して横になっていた身を起こし

「はい。出来れば....あの、優子さんは助産師で、産婆さんですよね?」

カルテのようなメモをとりながら

「えぇ!昔は何度かご家庭で取り上げた事あるわよ?病院も遠いからね~」



「そうなんですね。安心しました。家でお願いします」


「でも、あなた初産でしょ?
ん~ん、

まぁ、何か不安な事とか聞きたい事とか、いつもと違う症状の時とか、いつでもいいからここに連絡してね」

優子さんは家の電話とケータイの番号が記入されたメモを私に渡した。


家で出産の場合、旦那さんが側に居たり兄姉が居たりで、みんなで赤ちゃんの誕生を喜び分かち合うものなのだか、この家には私1人しかいない。

産む時も1人なのだ。

訳ありの妊婦だと思っているのだろう。

帰り際も
「いつでもいいからね」

念を押し帰って行った。









No.71 20/06/12 14:19
匿名さん0 


優子さんを見送った後。


山の麓から見えた夕日は1日の終わりを告げようとしていたが、私の決心の始まりでもあった。


ここで子供と一生一緒に住む。

私の安住の地。

誰にも邪魔はさせない。
誰にも頼らない。

大丈夫よ、私があなたを守るから。

少し大きくなったお腹を撫でながら、これから訪れるであろう不安と、楽しみと、そして決心が揺るがぬ様、地平線から消えるまで太陽を見送った。


「さて、夕飯にしますか!」

薄暗い外で、ご飯の炊ける匂いを嗅いだ。








No.72 20/06/12 14:47
匿名さん0 

三奈のお腹が下がってきたようだ。

今まで赤ちゃんが胃を圧迫していたので、その事によって三奈の食欲が増し、起きがけからお腹が空いたと重子さんに声を掛けるようになっていた。

「そろそろ看護師を常駐させるかな」


健太郎は重子さんに相談した。


「待ちに待った瞬間が目の前だ。あともうちょっとだ」

「私も楽しみでございます」

「念願の父親になれるんだよ。
男の子かな?女の子かな?
あぁ~早く会いたい」

ニヤける健太郎


「ですが、旦那様。差し出がましい様ですが、世間にはどの様にご説明をお考えですか?ご職業柄色々面倒かと...」



「ん?あぁ、、、まあ、別に考えてもいないよ!事務所が解決してくれるだろう!
さーて、そろそろ名前を考えないとな!」

健太郎は浮き足だって書斎に向かった。


重子さんは軽くため息をつき、今、何をお話をしても無駄だと感じていた。

ましてや、しおり奥様が居ない事すら気にもしていない。



旦那様の今の全ては三奈のお腹にある。

邪魔をしてはいけない。

しおり奥様とは、7年間は一緒が暮らした人なので、それなりの情はあるが....。


しおり奥様の話は余計な事だろう。


書斎の反対側のキッチンに向かった。










No.73 20/06/18 17:32
匿名さん0 

「んん~...ん~...ふぅふぅ...んん~」

隣で寝ていた三奈のうめき声で起きた。


「みー...なー...んー?
どうしたー?」

寝ぼけまなこで眼をこすった。

三奈は体を九の字に曲げ苦しそうに呻いていた。


「え?!あ?!...だ・大丈夫なのか?」

三奈の背中を擦る健太郎。


「痛い!痛いの。もしかしたら陣痛が始まったかも」

顔は真っ赤に、額は汗ばんでいた。

健太郎は突然始まった陣痛に心の準備も儘ならない。

「た・大変だー!重子さん!重子さん!」


階下に居る重子さんに向かって叫んだ。


何事かと、駆け足で駆けつける。

苦しそうな三奈の背中をみて

「す・直ぐにお医者様をお呼びします!」

「痛い痛い!....ふぅふぅ
痛ったーいいいい!!ふぅふぅ」


「み・み・三奈!頑張れ。今医者を呼んだから。あぁ、そ・そうだ!
三奈!ひっ・ひっ・ふぅ~だよ!」

ひっひっふぅ~
ひっひっふぅ~

「腰!ふぅ....腰を擦ってよ!」

「え?あ?腰?」










No.74 20/06/18 17:49
匿名さん0 

「痛い痛い痛い痛い痛いああああああぁぁぁぁぁ....ふぅふぅふぅ....痛い痛い!んん~ん」

三奈は痛みに耐えきれずのたうちまわる。

どうにかこの痛みを逃がそうと必死だ。


「三奈。え?三奈?え?」

「痛い痛いああああああぁぁぁぁぁ」

「だ・旦那様!お医者様が到着しました」


看護師は陣痛の間隔は15分刻みだと告げ

医者は陣痛の合間に
「三奈様、おしるし等ございました?」

「ハァハァ...おしるし?ハァハァ...そういえば....血が混じっていたかも」


「ご主人様。このまま順調に産道が開けば、明け方には産まれますよ」

不安な表情から一気に笑顔になった。


「やっと....やっと産まれるのか。やったーー!」


「よろしかったら三奈様の手を握り、励ましてあげて下さい。お二人で乗り越えましょう」

「は・はい!三奈!頑張れ!僕が側に居るぞ!」


「ふぅふぅ...健太郎さん(泣)
うん頑張る!...っ痛ったーーー!」





No.75 20/06/18 18:05
匿名さん0 


「三奈・三奈・頑張れ!」

三奈の細い腕からは考えられないくらいの力に圧倒される。

「三奈!三奈!頑張れ」

思わず健太郎も力が入る。


「ふぅふぅ
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

ひぃぃぃぃぃ

ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

陣痛の間隔が一分刻みになり
初産の三奈には耐え難い痛みが繰り返し襲いかかってくる。


「お母さんも苦しいでしょう。でも赤ちゃんも苦しいんですよ。さあ頑張って。ひっひっふぅーひっひっふぅー」



「ふーふーうわぁぁぁぁぁぁぁ」


ハサミが入った感じがした。

でもそんな痛みより赤ちゃんを出さないと。

赤ちゃんが呼吸出来ない。

本能でそう思った。

「ゆっくり。ゆっくり息を吐いて!」


「ふぅふぅ

ひぃぃぃぃぃー

あぁぁぁぁぁー」





おぎゃあぁぁぁぁ

No.76 20/06/18 18:21
匿名さん0 


「おめでとうございます!
女の子です!澤乃井様」


誰もがその声を待っていた。


「三奈!ありがとう!よく頑張ったな!」

誰もが健太郎はそう叫ぶと思っていた。

取り上げた医師も、健太郎も、看護師も
みんな赤ちゃんを見て凍りついていた。


「え?ね・ねぇ、ハァハァ...健太郎さん?...ハァハァ」


「・・・・・」

慌てて医師がへその尾を切り、看護師が赤ちゃんの沐浴に連れて行く。


「ハァハァ...ねぇ、どっちだったの?...ハァハァ...ねぇ、みんなどうしたの?」



健太郎の顔はみるみる赤くなり、手は握りこぶしで、ぶるぶる震えていた。


何?何?


「今すぐこの家から出て行けーー!」

「え?何?何を言ってるの?」

健太郎は赤ん坊も抱かず、三奈に労いの言葉も掛けず、部屋から出て行った。


「三奈様」

重子さんは、健太郎に代わり三奈の手を握った。


「いったい、どなたの子を宿されたのですか?」


No.77 20/06/25 17:02
匿名さん0 

「一体どなたの子を宿されたのですか?」


「....え?...ハァハァ...な・なんの事?」


本気でわからない。

ハァハァ

呼吸はまだ乱れていた。


こんなにもお腹を痛めて苦しい思いをして出産したのに.....。


健太郎は怒っているし、重子さんは変な事を私に聞く。
何なのよ一体!

上下に揺れる胸元をぼんやり眺めた。


足元で、医師が無言で切開部分を縫っていた。

縫っている痛みは感じたが、それ程気にもならない。


そうよ!
「赤ちゃん!私の赤ちゃんは?」


重子さんは質問の答えを聞かず部屋から出て行った。


そのタイミングで、綺麗になった赤ちゃんを看護師が連れてきた。

「さぁ、あなたのママですよー」
私の胸元に置く。


「?!....いやああああああああ」

嘘!嘘よ!こんな...こんな事って。

「いや!いやよ!私の赤ちゃんじゃない!健太郎さん!健太郎さんを呼んで頂戴!」


No.78 20/06/25 20:03
匿名さん0 


健太郎と三奈の子ではないのは確かだった。

ふと思い出した。


健太郎が1人撮影していた時に、寂しくて向かったショットバー。


その時、好奇心も手伝って、ノリに任せて1度だけ寝た男の特徴に似ていた。

いやああああああああ....

なんで!?なんであの男の子供を?

今すぐ健太郎の所へ飛んで行きたい。
けど、体がいうことを効かない。

焦る気持ちが無意識に頭の毛をかきむしる。

こんな子いらない....

ちっとも母性が働かない....

今すぐ投げ飛ばしたい....


ガクガクと体が震える。


「尿道に管を通して尿を排出しておきますね」

排尿の感覚もない。

けど、看護師は無表情で軽くお腹を抑えながら尿を促す。


他に何か言うことないの?

本当はおかしくて笑いたいんでしょ?


早く独りになりたかった。

看護師に八つ当たりをしてしまいそうだった。


No.79 20/06/27 21:02
匿名さん0 


「くっそぉ~!騙しやがって」

健太郎はリビングでウイスキーをストレートでがぶ飲みしていた。

ガラスのコップを叩きつける様に置く音は、健太郎の怒りと比例しているようだった。

「贅沢三昧させてやったのによ、なんだよ!あいつは!くっそぉ」

ボトルが1本空きそうになった頃、重子さんが入ってきた。


「旦那様、お体によくありませんよ」

「うるさい!ほっとけ!」

「そんな飲み方はよくありません」

「....うぅぅっ....ちっくしょぉ...」

コップを投げそうになるのを重子さんが止めた。


「旦那様。夜が明ける前に、もう1度お休みになられては?ささ、お部屋へ」


「はあ?部屋?あいつとその子供が居る部屋へ戻れってか?ぜってー嫌だ!そうだ!早く追い出せ!この家から追い出すんだ!あのやろう、許せねえからな!」


アルコールも入り、興奮している健太郎が本当に追い出しそうで、思わず重子さんは立ち上がろうとする健太郎を止めた。


「だ・旦那様。今は無理でございます。せめて、2週間程はこの家でお休みになって頂かないと可哀想でございます」











No.80 20/06/27 21:18
匿名さん0 


「はあ?2週間?」

三奈への怒りは重子さんへと向けられた。


「俺の子供じゃなかったんだぞ!?
誰の子かも知らない奴の子を産んだ三奈を何故この家に2週間も置いとくんだ?おい!一体誰の味方なんだよ?」


何を言っても無駄なのは重子さんも分かっていた。

あんなに楽しみにしていた出産。
欲しくてたまらなかった我が子。

無理もない。

健太郎の落胆は、重子さんの落胆でもあった。


「しかし旦那様。誰の子であれ、三奈様はご出産されたのです。出産はどんなに大変か旦那様も側におられて分かっていらっしゃるはず。そんな三奈様とその子を追い出すのは....あまりにも酷い事ではないでしょうか?」


「......くっそぉ....」



「せめて2週間。私からお願いします。旦那様にご迷惑を掛けぬ様私がお世話を致しますので」

「....分かった。2週間だな?」


「はい、お願いします」


「よし!いいだろう。そのかわり」


「そのかわり?」


「僕がこの家を出る。あとは頼んだぞ」



「健太郎様!」


健太郎は本当に夜明けとともに家を出て行った。



No.81 20/07/02 21:58
匿名さん0 


コンコン...

「三奈様。失礼します。朝食はいかがですか?何かお飲み物でもお持ちしますか?」


うぅぅぅ...うぅぅぅ...


重子さんがベッドを覗くと三奈は泣いていた。

無理もない。
産まれてみないと分からない非常事態。

三奈にとっては大誤算だっただろう。

重子さんは軽くため息をつき、赤ちゃんへと目線を変えた。


数時間前にこの世に生を受けた赤ちゃんは横のベビーベッドでスヤスヤ眠っていた。

重子さんが用意したベビーベッド。


誰の子であれ、この子に罪はない。

健太郎に仕え婚期を逃した重子さんには可愛いく見えたのである。

そっと赤ちゃんの頭を撫でた。

「可愛い....」
無意識に微笑んだ。


「健太郎さんは?」

突然の三奈の呼び掛けに少し驚き

「旦那様はお出かけになりました」

「....いつ戻るの?」

「さぁ、分かりません」

うぅぅぅ....

「私、どうすればいいの?」

どうすれば?
本当にどうすればいいんだろう。

「私だって...私だって....こんな予定じゃなかったんだもの。ぅぅぅ....なんでこんな事に....うぅぅぅ」

今更どうする事も出来ない。
産まれたのだから。


「旦那様には2週間程、私がお世話をしますと伝えました。ともかく安心してお休み下さいませ」


No.82 20/07/02 22:12
匿名さん0 

「いや!いやよ!健太郎さんに会いたい!話がしたいの!ねぇ、重子さん。重子さんも私を助けてよ!」


「....,それは...いくら私でも無理でございます。私が出来る事といえばお世話くらいでして」

三奈も諦めきれない。
けど、どうする事も出来ない。

思わず

うぁぁぁぁぁぁ

すすり泣きが号泣に変わった。

隣の部屋で待機していた看護師が
飛んできた。
このままでは精神的にもよくないと感
じたのか、点滴に何かの薬を混ぜた。



睡眠薬だったのか。

そのうち三奈は落ち着きを戻しウトウトし始めた。


その様子を確認し、重子さんは部屋を出た。


階下には真美子さんが待ち受けていた。


「ちょっとちょっと重子さん。産まれたんでしょ?でも何かあったんでしょ?ねー、何があったの?」




No.83 20/07/06 19:30
匿名さん0 


「おはよう、真美子さん」

「おはようございます。ねー、一体何があったの?」

目を輝かせ重子さんの返事を待つ。


三奈の陣痛が始まったのは、真美子さんが帰ってからだ。不思議に思って

「何故何かあったと思うの?」


真美子は、聞きたい事をすんなり言わない事に少しイラッとしたが

「だって、旦那様の車が無いですよ?三奈様の出産が近いこの時期に朝早くから出かけるなんてありえませんて!だから、何かあったのかなって」


重子さんは躊躇した。
だが、どのみち分かる事。
下手に嘘もつけない。

かといって、可愛い赤ちゃんを面白おかしく答えるのには忍びない。

はて、どうしたものか。


No.84 20/07/06 19:45
匿名さん0 


「赤ちゃんは旦那様の子ではなかったのよ」


「.....んと、いま何て?」


「産まれたのは産まれたけど、別の人の子だったんだよ」


「.......えええええええー?うわぁぁぁぁぁぁ....」

興味津々の真美子さんの顔は段々青ざめていき、手で顔を覆った。

「まあね、それで旦那様が出て行ったんだよ」


「うわぁ、最悪だー。」

今度は頭を抱える。

「え?ということは、三奈様と赤ちゃんは?」

「出産直後だし、少しはここで安静にしてもらうからね。私がお世話をするからね。だから、真美子さんはあの部屋には行かないで頂戴」

「えーー?なんでですか?あたしも赤ちゃん見たいぃ~」


「あのね、三奈様の精神状態が良くないから。あまり刺激しないであげて」


そうだった。
旦那様の子供を産むつもりだったのに産まれてきたのは旦那様の子じゃなかった。

しかも旦那様は家を出てしまった。


あの三奈様なら半狂乱ものだろう。

本当は見たくて仕方ないのだが、重子さんの言う通りだ。


「はーい、分かりました」

渋々返事をした。




No.85 20/07/09 18:13
匿名さん0 


健太郎が出て行ってから10日目。

「三奈様。ちょっとお話がございまして」

「...どうぞ」

三奈はこっちが見るのも辛い程、憔悴しきっていた。


「...あのう、三奈様。お体の調子も戻っていらっしゃらない時に....こんな事を言うのもなんですが....その...」


「ねえ?重子さん。...健太郎さんは....私が家を出て行くまで戻らないつもりかしら?」


天井を見つめながら、ゆっくり瞬いた。


虚ろな眼差しは色っぽくさえ見えた。


「申し訳ございません。旦那様とは2週間の約束でしたので....もうそろそろ....」

「.....」

こんな状態の人と産まれたばかりの赤ちゃんを追い出すなんて、いや、やはり


「あの、三奈様。やはりもう少しここにいらっしゃら....」

「重子さん」

三奈はゆっくり重子さんの方へ顔を向け


「重子さん。私、きっとバチが当たったのね」


「?!三奈様」

「しおりさん、だったかしら?」


「奥様ですか?」

「ごめんなさいと伝えて下さらない?」

「三奈様」

「重子さんも、本当に今までありがとう。お世話になりました」

頷く様に頭を下げた。


「いえ、せめてあと2週間位は....私の方から旦那様に....」


「いえ、いいの。健太郎さんの赤ちゃんを産まなかった私が悪いの」




No.86 20/07/09 18:49
匿名さん0 

「健太郎さんには申し訳ない事をしたわ」

健太郎にしおりがいるのを知っていた。


たまたま長い海外の撮影で意気投合し、三奈の妊娠が発覚しただけの事。

健太郎はしおりと離婚する意思が無い事は三奈も分かっていた。


「健太郎さんの事は、好きは好きだったの。でも、しおりさんから奪うつもりはなかったのよ?」

「.....」

隣のしおりに、当て付けの様に毎日ハイテンションで騒いでいた三奈からは想像も出来ない内容で、思わず重子さんも言葉を失った。


「同じ芸能の世界で、こんなスキャンダルは良くないのは分かっていたわ。だから、子供も作るとか、そんな事考えてなかった。ただ、楽しければそれで良かったし、しかも、好きな健太郎さんだったから....」

「三奈様」


「ねぇ、重子さん。私、撮影終了後は表舞台には出てないから、事実上、引退みたいなものよね?」


妊娠で試写会にも現れず、おまけに健太郎と不倫

それに付け加え、どこの誰の知らない男の子を産んだ。

格好のゴシップネタになる。

けど、私の事よりこれ以上健太郎さんに迷惑はかけたくない。


それに駆け出しの若手女優なんて、いくらでもいるわ。


「重子さん。あたしね、この子を大事に育てる。女優としてじゃなく、母親として頑張るわね」


「三奈様!」

横たわる三奈の側に寄った。


「まずはお元気になられる事です。赤ちゃんの為にもご自身の為にも」

「あのね、母に連絡したの。そしたら帰ってこいって!簡単だけど、事情も説明してあるから....だから、元気になるから、あと少しだけお願いします」

No.87 20/07/12 00:02
匿名さん0 

しおりもそろそろ臨月を迎えようとしていた。

季節は冬本番だった。

街からは外れた場所に住んでいるしおり。車も無ければ、今となっては自転車にも乗れない。

早めにベビー用品を揃えておいて良かったと実感していた。


しかし日用品などは毎日の生活で消耗される訳で、重い荷物などは優子さんや旦那さんが買ってきて運んでくれていた。

知らない町に越してきて、今だに頼れるのは優子さんとその旦那だけ。

申し訳ないと思いつつ、今は頼らざるを得ないでいた。

車の音がした。


「しおりさーん!居る?」

「あ!優子さん」


「日用品や食料買ってきたよ!
じゃじゃーん!」

「?!えええええー?」

苦手なレバーだった。

「刺身でもいける程新鮮だよ!」

「あ~ぁ、...はぃ...」

苦笑いするしおりの顔を見て

「ちょっと貧血気味だし、焼いてでもいいから食べてね。

あ、それから、トイレットペーパーに...」

あっという間にテーブルの上はいっぱいになった。

続けて優子さんの旦那さんが入って来た。

「あ!いつもすいません。本当に助かります」


「あぁ、いいよいいよ。気にしないで。それより何か不便な事は無いかい?隙間風が入るとか」

「そうですね....ん~今は特に」


「遠慮しなくていいわよ!なんでもうちの旦那に言って構わないから」


旦那さんはとても器用な方で趣味はDIY。
この家を購入した時にリフォームはしたが、やはり不便な箇所もあった。


優子さんが毎月の診察時にそのつど見つけ、そのつど優子さんの旦那さんが直してくれた。

No.88 20/07/17 10:40
匿名さん0 

「あの、おいくらですか?」

「ん?んー....そうねぇ、二千円かな」


「え?いや、そんなはずはないですよ。日用品だけでも軽く二千円は越えてますって」

「そお?」

「あの、今までも安く請求をされてはいませんでしたか?何度か買い物をお願いをしているうちに、なんとなく安いかなって」

「あ~ぁ、食料品とかは私達からのお裾分け。だから気にしないで」

「いえ、そんな訳にはいかないです。ただでさえ色々お世話になっているのに」

しおりは一万円札を出した。

「すみませんでした。今までの分も含めてこれでお願いします」

頭を下げた。


優子さんはその一万円札をみて

「あのさ、この際だから聞くけど、生活費とかどうしてるの?働いてないでしょ?産まれたら産まれたでもっと働く事は難しくなるよ?」

「それは....分かってます」

「資産家なの?お金持ちなの?

それか、遺産が入ったとか?
家賃収入があるとか?」

プライベートな事は今まで何も聞かなかった。訳ありなんだろうと思っていたからだ。


正直、家を購入で半分以上無くなった。

「心配して下さってありがとうございます。確かに収入が無いので蓄えを切り崩しながらの生活です。でも、優子さんにこれ以上ご迷惑をかける訳には....」


初めてしおりを見た時は出産を楽しみにしている感じはなかった。

優子が今まで出会った妊婦とは違っていた。

深い闇でも背負っているように感じたから何も聞かなかった。

「まあまあ、そのうち返してくれればいいわよ!とりあえず私達に頼ってくれれば良いから」

「あ!でも....」


「それじゃ私達帰るから。なんかあったら連絡してね。いつ産まれてもおかしくない状態だし」

優子はしおりのお腹に手を当て


「じゃあね。いつでも出ておいで~。今日お母さんはご馳走を食べるよ~」

そう言って帰って行った。




No.89 20/07/17 11:29
匿名さん0 


その頃の健太郎はというとホテルから仕事に向かいホテルへ帰るという生活を送っていた。


毎晩飲み歩き酔い潰れては帰宅する毎日だった。

三奈が産んだ赤ん坊が頭から離れなかい。

何度ちくしょうと呟いた事か。

それが今も続いていた。

今宵も一人、ちくしょうと呟きながらバーで呑んでいた。


「あれ?澤乃井様。こんな所で珍しい。お一人ですか?」

カウンターに座っていた健太郎の横に主治医の高須医師が座った。

健太郎は虚ろな表情で、既に酔いが回っている感じだった。

「....あ~、先生」

チラッと高須を見て
バーテンダーに「同じのを」
グラスを返した。

ショットのグラスをみて

「何かありました?そんな飲み方は良くはないですよ?」


「はははっ。何かありました?はははっ」

何かありましただとよ(笑)
向かいに立つバーテンダーは苦笑いしながらグラスを差し出した。


毎晩ここで呑んでいるので悪態は知っている。


「私はビールをお願いします」

高須は仕事で何かあったのかと思い、特に話かける事もしなかった。


相変わらずぼそぼそと健太郎はちくしょうを繰り返している。


「あ!そういえばもうそろそろお産まれになられる時期では?」

酔い潰れる為に呑んでいる健太郎の耳に、産まれるというキーワードは敏感に届いた。

「んぁ?...産まれる?...はぁぁぁ...産まれるねぇ...」

カウンターに肘をつき、空になったグラスをぼんやり眺め

「産まれましたけど何か?」

ピスタチオに手を伸ばした。

「おおお、おめでとうございます。待ちに待ったお子さんでしたから。良かったですねぇ。それで?男の子女の子どちらでした?」

「...はぁぁぁぁぁ....」

男か女かだって?
次元の違う話だろ。

「俺の子じゃなかったんだよ!!」





No.90 20/07/17 11:57
匿名さん0 


「?!....今なんと?」

驚きのあまり、口に含んだビールを吹き出しそうになった。


健太郎はピスタチオを貪っている。


「だーかーらー、俺の子じゃなかったんだって!」

高須はあまりの衝撃に固まって動けなくなった。


あのしおり様が?
いや、七年もの付き合いだ。
あのしおり様に限って....


そうだ!思い出した。
途中で婦人科医に変え、その紹介先からも6ヶ月以降は診察に来なくなったと聞いた。


そうか....そうなんだ。
しおりもお腹に居る子は健太郎の子ではない事を知って、それで私の紹介先から消えたのか。

「澤乃井様。今分かりましたよ。途中から診察に来なくなった理由が、ね。そんな理由があったとは思ってもみませんでしたよ」


「....ん?診察に来なくなった?誰が?なんの話だ?それ」


酔いが回り、今となっては怒りしかない話だったが、高須の謎が溶けた晴れやかな顔を見て


「あのさ、俺の子じゃなかったんだぞ?なんだよ、その顔は。もうほっといてくれよ。独りで呑みたいんだよ」

「あぁ~申し訳ありませんでした」


こんな飲み方をしている健太郎に同情さえした。

「それでは失礼します。しおり様にもお体には十分お気をつけ下さいとお伝え願います」

「あー、ちょっと待て。さっきの話。誰が診察に来なくなったって?」


「え?しおり様の話ですよ?あれ?聞いてなかったんですか?妊娠の事を」






No.91 20/07/22 20:48
匿名さん0 


産まれてきた子供の事で頭がいっぱいだった健太郎は高須医師の話を飲み込めないでいた。

「しおりが妊娠?しおり...が?」

手の内のグラスへと目線を向けた。

しおりが妊娠...

酔いと睡魔とで高須医師の言葉を理解出来ない。

見つめたグラスからはカウンターの蝋燭の火がゆらゆらと揺れているのが見えた。

その揺らめきは更に健太郎の思考を惑わしていた。


「ご存知無かったのですね。私が診察した時期は妊娠初期でしたので....安定期に入ってからは知り合いの専門医師を紹介させて頂きました」


高須医師は続けて話をした。

「それはもう、しおり様は大変な喜びようでした。待ちに待った妊娠でしたから。早く澤乃井様に伝えたいとおっしゃってましたが....何分、長い不妊治療を私は知っておりましたので....安定期に入るまではご内密にと申し上げたのです」



三奈と暮らしてからは、しおりの事などまともに相手にしていなかった事を思い出した。

ふと、しおりの喜ぶ顔が浮かんだ。


「万が一流産されてしまいますと...その悲しみは計り知れませんからねぇ。ご内密の件はしおり様からもご理解頂けましたよ」


しおり....

蝋燭の火をじっと見つめた。









No.92 20/07/22 21:01
匿名さん0 


まてよ?

三奈と同じ時期の出産?

三奈がうちに来た時は既に妊娠2ヶ月だったぞ?


三奈が来てからは、しおりとはまともに相手もしてなかったじゃないか?


という事は、しおりの妊娠の相手は誰なんだ?

ぼうっとする意識の中、頭をフル回転させてみるも、答えが出ない。


「それならば、澤乃井様。先程の出産のお話は一体....どなたの?」


高須医師が健太郎に愚問を投げた。

そうだ....高須医師は三奈を知らない。

高須医師はしおりも診ているので避けたのだった。


「...あ?...あぁ....」


どう説明したものか。

言葉を濁し、再び黙り込む。


いや、それよりしおりを妊娠させたのは誰なんだ!?

No.93 20/07/22 21:17
匿名さん0 


高須は高須で、つじつまが合わない会話で理解が出来ないでいた。


健太郎の子ではない出産の話をしていた。

その出産はしおりだと思っていたが、しおりの妊娠すら知らなかった感じだ。


しおりと暮らしていたら大きくなったお腹に気がつく筈だが。


一緒に暮らしていないのか?


「一体....どなたのお話ですか?しおり様はお元気でいらっしゃいますか?」




No.94 20/07/23 22:31
匿名さん0 


「しおり?....しおり...ねぇ」

歯切れの悪い健太郎の返事をじっと待つ。


だが、なかなか答えない。

不思議でしょうがなかった高須は考えた。


もしかして....
しおり様との間に子を授からなかったから、他の女性と関係を?

それで何も告げずにしおり様は出て行ったのか?

こりゃ参った!
安定期云々など言ってる場合じゃなかった。

まさか、それが原因で?

まずい....まずいぞ。

しおり様になんて事をしてしまったんだ。

高須は段々落ち着きがなくなり、返事を待たずに早々とこの場を立ち去る事を考えはじめた。

何か...何か言い訳を

「あぁ、そういえば、明日の医師会の準備がまだでした。で、では、澤乃井様....」


健太郎は突然立ち上がり

「そうだ!思い出した!」

「え?は...はい?」


「あの日だ!そうだよ。あの日だ!」

更に何がなんだか分からない高須は

「え?え?」


「高須先生、申し訳ないが先に失礼する」


そう言い残し健太郎はバーを後にした。


No.95 20/07/26 10:06
匿名さん0 

「重子さーん....どこだ?重子さーん」


玄関から久しぶりに聞こえる懐かしい声。

キッチン横の自分の部屋に居た重子は、健太郎の突然の帰宅で驚いた。

「?!はーい。はい。....だ・旦那様?」

と、同時に重子は2階へ意識を一瞬向けた。


約束の2週間は過ぎた。
三奈と赤ちゃんはもういない。
部屋も片付けた。

よし!大丈夫。

「おかえりなさいませ」

重子は声が聞こえる方へ出向いたが、
健太郎は何かを探すかのように落ち着きがなかった。


「旦那様?」


一通り1階を見て回り

「....部屋か?」

そう呟き階段を駆け上がった。


「だ・旦那様!三奈様はもう...」

もはや、重子の声など届いてはいない感じだ。

「旦那様!」

慌てて重子も健太郎の後を追った。




No.96 20/07/26 10:28
匿名さん0 

「だ・旦那様!ゲストルームにはもう....」


健太郎はその隣の部屋、健太郎としおりの部屋のドアを開けた。


「健太郎さま?」


「しおり!!」

ベッドはシーツが綺麗に掛けられ、室内は使われている様子はなかった。

ドレッサーの上も、右側にあるカバンの棚は空になっていた。

更にその奥に進み足が止まる。
クローゼットも全て。
一枚も何も、しおりの存在を示す物が無かった。

「...え?....え?」

アルコールも手伝ってか、健太郎の心臓は激しさを増していた。

吹き出る汗。
現状を飲み込めない麻痺した脳。

いつから?
一体いつからしおりを見ていない?

ふらふらとベッドの縁に座り込んだ。


「あ・あの?旦那様....」

「何処に行ったんだ?」

「....あの、そ・....」


「一体いつから?」

「それは・です・ね」

「いつから居ないんだ!?」

重子は重子で、何故突然しおりを気にしだしたのか不思議だった。


撮影とはいえ、長い海外生活。
突然の三奈の出現。
おまけに妊娠していると聞かされ、
ついこの間まで、臨月近くまで三奈と旅行をしていたではないか!


旅行から帰ってきても、しおりが居ない事すら気にも止めていなかったはず。

なのに、何故突然に?



No.97 20/07/27 23:31
匿名さん0 

「あの?奥様の...しおり様の事ですか、ね?」

「何言ってんだ!当たり前だろ!何故何も無いんだ?化粧品も服もカバンも!何もかもだ!ったく....」

働かない頭を抱えた。
最後に見たのはいつだ?

何故消えてしまったんだ?
何故妊娠した事を黙ってたんだ?

「あ・あの、お召し物はお太りになられたとかで、処分なさった様です。それと、ブランドバッグも....なんと申し上げましょうか....その、心機一転とでも....」


「そんなもんはどうでもいい!しおりは?しおりは何処に行ったんだ?」

「しおり様もご旅行中でございます」

「旅行?」
「はい。その様に伺っております」

「それ、3ヶ月位前になる?」

「え?は・はい。左様ですが、どうしてそれを?」

はぁぁぁ....

高須医師の話とぴったり合った。

6ヶ月を期にこの家から出たんだ。

そして、そろそろ産まれるんだな。

はぁぁぁ...

健太郎はうつむいたまま何度もため息をついた。



No.98 20/07/28 00:10
匿名さん0 

「あの、もうそろそろお戻りになられる頃ではないですかね?旦那様も戻られた事ですし、三奈様の子と会うのはお辛かったでしょうが....事情もまだご存じではありませんし」


「旅行先っていつ戻るとか、何処とか聞いてないのか?」


「はい。気分転換にと、特にどちらとか、いつまでとか、は...」

「....そういえば、お金....引き落としとか、カード決済とかで、何処で使用されてないか明日にでも調べてくれないか!」


「あの....実は...」

「今度はなんだ?これ以上僕をがっかりさせないでくれよ」

「クレジット会社からの通知内容は毎月確認はしておりますが、しおり様が使われた形跡はございませんでした」

「本当なのか?カードも使わずにどうやって旅行するんだ?あり得ないだろ?」


「ですから、お洋服にブランド物のバッグをお売りになられた現金ではないでしょうか。真美子さんから聞いた話ですが、宝石や貴金属類も処分なさった様です」


はぁぁぁ....
健太郎はこれ以上にない位大きくため息をついた。

他に何か案はないか?
どうやってしおりの居場所を調べる?


しおりが居た痕跡がないこの部屋で
健太郎は....

違う....
旅行じゃない....

もう、帰って来ないだろう....

そう感じざるを得なかった。


「もう休んでいいよ。ありがとう」

「申し訳ございません」

重子は自分の部屋へ戻った。


健太郎は久しぶりに夫婦のベッドに
独り眠った。


洗いたてのシーツの匂いはホテルと同じ匂いがした。






No.99 20/07/28 00:22
匿名さん0 


しおり

ごめんよ。

僕のせいだね

安定期に入った頃って

僕と三奈が旅行に出た後かな

言いたくても
話したくても

僕は君の側に居なかったんだね

一緒に喜びを分かち合いたかったのに


君になんて事をしてしまったんだろう

ごめんよ。

戻ってきてくれよ。


お願いだ....しおり


No.100 20/07/31 11:25
匿名さん0 

翌日、真美子が出勤すると、キッチンからいい匂いがしていた。

おそらく健太郎の朝食を用意している最中だったのだろう。

真美子はキッチンに向かった。

「重子さん、おはようございます。珍しいですねぇ、この時間に....」

「おはよう真美子さん」

「あれ?もしかして旦那様戻られました?そのカップ旦那様のですよね?」

真美子は健太郎がいることに驚いた。

「あぁ、三奈さん出て行かれましたからね~それで帰ってこられたんだ」


真美子は洗いたてのミニトマトを口に含み、芝を刈っている徳さんに手を振った。

重子はスクランブルエッグを作りながら
「それがね、旦那様の様子が変だったなのよ」

「変?様子がですか?風邪でも引かれたとか?」

「違うのよ。深夜にね、突然連絡もなく帰って来たかと思えば、それからずっと家中何かを探し回っててね」

「あははは!奇行はいつもの事じゃないですかー!だいたいですよ?三奈さんを家に連れて来た事だって....ましてやしおり奥様がいらっしゃるってのに...普通あり得ませんて!」

「...まぁね」
さすがに重子もこればかりは擁護出来なかった。

「三奈さんと赤ちゃんが出て行ったか確認してたんじゃないですか?」

卵をかき回してた手を止め

「それが違うんだって。しおり奥様を探してたのよ」

「え?なんで今頃?なんでですか?」


「それが分からないのよ。しおりは何処に行った?いつ戻る?旅行に出掛けたと言ったらクレジット会社に問い合わせしろ、だの」

「本当ですかー?それ。信じられないんですけど?!
だいたい旦那様は三奈さんに付きっきりでしおり奥様の事なんてほったらかしだったじゃないですかー!」





投稿順
新着順
主のみ
付箋
このスレに返信する

小説・エッセイ掲示板のスレ一覧

ウェブ小説家デビューをしてみませんか? 私小説やエッセイから、本格派の小説など、自分の作品をミクルで公開してみよう。※時に未完で終わってしまうことはありますが、読者のためにも、できる限り完結させるようにしましょう。

  • レス新
  • 人気
  • スレ新
  • レス少
新しくスレを作成する

サブ掲示板

注目の話題

カテゴリ一覧