魔戦記
今から時は、20年以上前になる。
チチチ……
小鳥の鳴き声と共に、1人の少女は目を開ける。
そして、数分してから、少女の母親は少女の部屋に入り、カーテンを開けた。
冬晴れで、日差しが少女の目に当たる。
「……眩しい……」
少女は、寝声で言った。
「葵!!何時まで寝ているの!?遅刻するわよ」と、少女……葵の母親は、少しイライラした様に言った。
葵は思った。
朝なんて来なければ良い……と。
仕方なく、葵はゆっくり起き上がり、着替えて、部屋を出た。
学校へ行く途中。
「バカ水月が来たわ!汚い!!菌がうつる!!早く行こう!」と、通り過ぎる同じ学校の生徒は、葵を避けて走った。
昼、お弁当を食べようと手を洗いに行く、葵。
そして、帰ってきたが、お弁当の中は、チョークの粉や、消ゴムのカスが沢山入っていて、仕方なく、お弁当は捨てた。
午後の授業でもお弁当を食べていない為に、お腹が鳴り、教師からはビンタをされ、生徒からは物を投げられていた。
学校から帰って来て、夕食を済ませた葵と母は、何かとてもイライラしていた。
「ただいま」
やがて、葵の父親が帰って来た。
「あなた!」葵の母親は怒り出す。
「何だよ」
疲れたように、父親が言う。
「浮気しているでしょ!?シャツの口紅は何!?」と母親は言う。
「違うよ。たまたま着いただけだよ」
「嘘よ!!」
これが、葵の日課だった。
そして、葵が止めに入る。
「お父さん、お母さん、止めて。玄関先だよ」と言う葵の肩を母親は突き放す。
葵は、飛ばされる。
「子供は黙ってなさい!!アンタなんか産まなきゃ、こんなバカな父親と離婚出来たのに!!」
と、母親は乱暴に葵に言った。
しかし、葵は何時もの事なので、もう涙すら枯れていた。
ただ、ボンヤリと二人を見ていた。
ある日、学校から帰って来た葵は、今日は母親から知人と会うので夜は買って帰って来てと言われて、ボーッとテレビを見ながら、買ってきたパンをかじり、見ていた。
こんな生活……何時まで続くのだろうかと思いながら。
数時間後、母親は帰って来た。
「お母さん、お帰……!!」
葵は驚く。
葵の母親からは、黒いモヤが出ていた。
しかも何故か気味悪い。
「……お、お母さん?」
「葵ね。いけない子ね!!こんな遅くまで起きているなんて!」といきなり怒鳴り出す。
「お母さん、まだ夜の9時になっていないよ?」と、何とか震えながらも葵は、正常に言い返した。
「いけないのよ!!貴方なんか!来なさい!!」
流石に葵は怖くなり、家を飛び出した。
………怖い、殺される!!
マトモじゃない!と心で叫びながら。
しかし、葵は、路上に走ってきた車に跳ねられ、上半身と下半身が真っ二つになり、即死だった。
>> 1
「う、うぅ……」
目が覚めた葵は、薄暗く、綺麗なイルミネーションの様な光がある事に気がついた。
「あ、気がついた?」と、1人の耳の尖った少年が駆けつけた。
起き上がろうと葵はするが、腰に痛みが走る。
「いっ……」と、言葉では言えない位の激痛がした。
「無理しないで!」と、少年が葵を支える。
「………此処は何処?私は、確か車に引かれて……」と、葵は横にさせられながら言った。
「君は一度死んだんだ。僕が血を与え、大手術が運良く成功したんだよ」
少年はゆっくり、葵を横にした後、話した。
「死んだ?それで生き返った??……何それ?そんなのがあるの?」葵は、パニックになりながら言った。
「人間界で不可能な事でも、この魔界なら出来るんだよ」
少年の言葉に葵は、さらにパニックになる。
「魔界?」
「知らないよね?此処は人間界じゃない。魔界だよ。正確に云えば、天地魔界って云うんだ。人間界より、地にあるんだよ」と少年は言った。
「???」葵は、周りを見渡す。
「変わったのは、場所だけじゃないよ」少年は近くにあった手鏡を葵に渡す。
「!!!」
葵は驚く。
黒髪が、金髪になっていて、瞳が藍色になっていた。
「解った?もう君は人間じゃないんだ」と少年は言った。
>> 2
「そんな……お父さんとお母さんの所には帰れないの?」涙を浮かべながら葵は言った。
まだ12歳の葵には、現実を受け止め切れずにいた。
「その姿で帰ったら、間違いなく気持ち悪がられるよ。大丈夫だよ!今日から君はこの家の一員だよ。宜しくね、僕の名前はダークだよ、君は何て言うの?」
少年は無地気に葵を励ました。
「水月葵」ハッキリと言うと、ダークは考えた。
「君はもう人間の名前を捨てた方が良いね。君は……エリィだ。これから、そう呼ぶよ。ね?」とダークは笑顔でエリィに言った。
「……エリィ?魔界……訳が解らないよ」とエリィは言った。
「大丈夫だよ。すぐに慣れるよ。ごめんね、実は車で引いたのは僕のメイドなんだ。僕は後ろに乗っていたんだ。だから、責任を取りたかった。本当にごめん」と、ダークは頭を下げた。
>> 3
夜。
扉が勝手に開いた。
「ただいまぁー」と、開いた扉から、1人の耳の尖った男性が入る。
「お父さんだ!お帰りなさい!」と、ダークは駆け寄る。
「君がダークの言っていた子供か」
と、男性はエリィに近づく。
「そうだよ!まだ動けないから、余り負担かけないで。エリィ、僕の父、ジークだよ」
「エリィ?お前がつけたのか?ダーク」とジークはダークを見た。
「うん、僕の新しい家族だからね。もう、魔族だよ!エリィは」
「ダークはこう見えても、まだ9歳なんだよ、エリィ。凄い解る子なんだよ。私は、一応だが、この魔界の長だよ。何かあったら、私やダークに言いなさい。良いね?」と、ジークは笑顔でエリィに言った。
>> 4
1週間後。
エリィはすっかり回復し、夜、中々寝れず、屋敷の外をウロウロしていた所に、ジークがいた。
「ジークお父さん」
エリィは呼ぶと、ジークはエリィに近づき、そして頭に手を乗せて言った。
「エリィ、前は何でも解る様な事を言ったが、違うんだよ。あの時は君に、早く安心感を持たせたくて言ったんだよ。良いか?エリィ……君は人間でもないし、魔族でもない。しかし、両方持ってる。君にしか解らない事や、君が困っても、純粋な魔族の我々にも応えられない事もある、解るか?しっかりと、君の目で、君の道を歩きなさい」と言った。
「ジークお父さん………?」エリィは解った様な解らないような感じになった。
「ダークの母であり、私の妻とダークの妹が2週間前から行方が解らなくなっている。大丈夫だ、かならず私が突き止める。眠れないなら目をつぶっているだけでも寝れるから、ゆっくりしなさい」と言って、ジークは去っていった。
>> 5
「……?」エリィはそのまま部屋に戻ろうとした所に、ダークがいた。
「ダーク、どうして起きてるの?」
「お父さん、まさか言ってないよね?僕のお母さんと妹の事」
ダークは目を鋭くして言う。
「………言ってたよ。2週間前から行方不明なんでしょ?」
「全く、僕の口から言おうとしたのに。夜になると、寂しい余りに言わなくても良い事を言うんだよな。まぁ、状況が状況だけに、解るけどさぁ」とふてくされた様にダークは言った。
「行方不明なら不安だよ。しかも2人も……ダークだって不安でしょ?」とエリィは言うと、ダークは言った。
「不安でなくはないよ。でも今はお父さんと探す方が優先だよ」と。
強い……ダークは。とエリィは強く思っていた。
これだけ優秀な魔族もそうは居ない。
ダークの頭脳はずば抜けていたのだ。
「エリィ、早く部屋に戻って寝なよ。多分、お父さん、凄く不安になっているから、僕が話を聞いてくるよ」と言って、そのまま、ダークは廊下を走った。
>> 6
月日は流れ、5年が経った。
エリィ、17歳。
ダークは、14歳になった。
ある日、ダークはエリィに言った。
「ねぇ、たまには人間界に行かない?エリィも久しぶりに行ってみたいだろ?」と。
エリィは首を振り言った。
「わざわざ戻らなくても、魔界で充分幸せよ」と。
「エリィの住んでいた家が見たいんだよ。エリィは5年も人間界について話してくれないんだもん」とダークはふくれる。
とても言えない、黒いもや、イジメ、虐待……。
エリィはダークを幻滅させたくなかった。
「ねぇ、行こうよ」とダークは言った。
余りのしつこさに、エリィは、「1回だけよ」と呆れて頷いた。
しかし、これが、思ってもない事になるとは、2人には気がついていなかった。
>> 7
人間界。
ダークが、魔界にある結界に行き、そこから簡単に人間界に行けれた。
ダークは魔族の中でも、魔力が強い為、直ぐにすんなりとエリィの居た家に行けた。
魔族が人間にバレる事はなかった。
尖った耳も人間には見えないからだ。
エリィが居た家は、新しく建て直されていた。
「ヘェー綺麗な景色だし、街だね」とダークは言うと、エリィは静かに頷いた。
こういう態度しかエリィは取れなかった。
「さぁ、もう良いでしょ?魔界に……」とエリィが言いかけた時、1人の少年の声がした。
「待って!君達、魔族だよね?」と。
「!?」
2人は振り返ると、1人の少年が立っていた。
ダークは言った。
「君は?何故僕らが魔族だと解ったの?」と。
「大丈夫。僕は君達を友達にしたいんだ!名前を教えるね。一樹 勇也(いつき ゆうや)って言うんだ。訳あって僕は君達の瞳だけで魔族と解るんだよ」と勇也は言った。
「どういう事?訳あってって何?」とダークは聞き返した。
「僕のお父さん、兄貴が魔族について詳しいんだ。後は僕にも話してくれない……」ガックリとして勇也は言った。
エリィはかつての虐待にあっていた姿と勇也が重なって見えた。
私も何も知らないで、ただ暴力だけ受けて……と、エリィは思い、ダークに言った。
「ダーク、彼を信用しようよ。勇也さんは、嘘を言っている様には思えないわ」と。
「本気かよ!?僕の考えだと、コイツ、相当怪しいよ?」とダークは言う。
「大丈夫よ。いざとなったら逃げれば良いんだし」とエリィは、勇也をかばった。
「ありがとう!中に入って、お茶出すよ!」と嬉しそうに勇也は、2人を家の中に入れた。
>> 8
「はい。魔界専用のお茶があるから、作ったよ。僕も事情が解れば、2人には説明出来るんだけどね……」と、勇也は言った。
エリィは笑顔で言った。
「無理して言わなくて良い事は、言わなくて良いよ。ありがとうね」と。
ダークは半呆れて勇也に言った。
「僕らが此処に来た事は絶対に内緒だよ。言ったらタダじゃおかないからね」。
「解ったよ。言わない。約束するよ」
勇也は言うと、エリィは勇也をかばうかの様に言った。
「私の名前はエリィ。この疑い深い子はダークよ。宜しくね」と、またエリィは、笑顔になった。
エリィは、知らず知らずの間に勇也に恋心が芽生えつつあるのを、まだ、判っていなかった。
そうして、1週間に1回はエリィとダークは勇也に会いに行っていた。
一方、ジークは、行方不明になっていた、妻と娘の有力な情報を手に入れていた。
ジークは考えた。
今、ダークやエリィに言う問題じゃない。
特にエリィは、人間界にも慣れて来ている。
また彼女の心を塞ぎ込む真似はしたくない。
かと言って、ダークは勘や頭脳がある。
……あの子はいずれ、ここに辿り着くだろう。
そうなる前に、私が動くしかない。
ジークはそう考え、2人に、「暫く仕事で帰らないから、仲良くやりなさい」とジークはダークに最大限の注意を払い、普通に出掛けた。
>> 9
ある、廃工場。
そこには、1人の青年と、年配の男性が中から出て来た。
「どうだ?光輝。気分は??」と、青年……一樹 光輝(いつき こうき)に年配の男性、一樹 聡は言う。
「実感わかないなぁ。普通だよ」と言って光輝は背伸びをした。
10メートル先の木の影に、ジークは隠れて2人の様子を見ていた。
やはり……そうか。
これじゃ、妻と娘は生きてるかどうかさえ、解らない。
と、ジークが思った瞬間だった。
2人が物凄いスピード、恐らく数秒程で、ジークの目の前まで来た。
「!!まさか、お前ら……もう、人間じゃ……」と言おうとしたジークの頭部に銃弾が入った。
紫色の魔族の血が光輝の胸元にくっきり着いた。
ジークは絶命した。
>> 10
「なるほど、魔族の長のジークというのか。……魔族がここまで駆けつけたなら、急いだ方が良いだろう。勇也を連れて来た方が良いな。光輝、勇也を……」と、息絶えた死体から、悟は免許書を見て、光輝に言った。
「あぁ、父さん解ってるよ。こんな魔族は我々には最高な獲物だよ。勇也を無理しても連れてくるよ」
光輝は、そのまま勇也の家に向かって人間とは思えない高速で走った。
勇也の家。
「今日も楽しかったよエリィ。また会えないか?」
勇也が照れくさそうに笑う。
「いいよ。ね?ダーク」
エリィは振り返ると、ダークは、目を据わらせた。
「誰か来る!」
しかし、エリィが前を見た時に既に遅く、そこには光輝が居た。
「勇也、どういう事だ?何故魔族が?」
勇也は焦る。
「そ、それは……」
「ちょうど良い、3人まとめて力ずくでも、来て貰おう。抵抗すれば、お前ら魔族の長の様になるぞ!」
その瞬間、ダークは光輝の胸元を見た。
「まさか……父さんが……!?」と、絶句した後にやっと出たダークの言葉に、光輝は、笑う。
「ほぅ、君たちの父親か?それなら尚更君達が必要だ」
その途端に勇也が叫んだ。
「エリィ!ダーク!逃げろ!!兄さんはもう、兄さんじゃない!」と。
「逃げるよ!エリィ!」と、エリィの腕をダークは、引っ張った。
「そうはさせるか」と、光輝は銃を取り出した。
「ドン!」
銃声の後に、倒れていたのは、勇也だった。
「勇也!!」
エリィがダークの腕を振り払い、勇也に近づいた。
「早く……逃げろ!エリィ……大丈夫だ。お腹を撃たれただけだ」
そして、勇也は必死の力を込めて、エリィを更に近づけ、軽く口づけをした。
「好きだよ、エリィ……これを持って、早く逃げろ」
「もう愛の告白は良いか?勇也。」
どんどん、光輝がエリィに近付く。
その瞬間だった。
エリィの見えるモノが一気に変わり、光輝の頭上が光った。
エリィは、それを目掛けて、銃を発砲した。
「行きましょう!」と、途端に立ち上がるエリィ。
ダークは、頷き、逃げた。
「危なかった……今のは瞬間的に避けなければ、俺が殺られていた。あの、エリィとか云う魔族は、まさか……」と光輝は、言葉を発した。
>> 11
「父さんが……うぅ。僕は僕は……どうしたら良いんだ」
家のソファーに寄りかかり、ダークは涙を流した。
エリィは、事態の早さに頭が追い付かずただただ、ジークを失った事の喪失感が襲う。
そして、エリィは自分の目を疑う。
「私は、あの時に、何故目がオカシクなったの?あの光は何??」と声を出す程の疑問が残る。
その時だった。
扉が勝手に開く。
「誰?」
我を忘れて、泣いているダークの代わりにエリィが出るが、エリィは、後退りする。
何と言って良いか、もの凄い暗闇がエリィには感じ取れた。
「エリィ……ちゃんか?」と謎の男性が言う。
「……はい。貴方は?」
「私の名前はアーガスと言う。今度から新しく長になった者だ。ダーク君は居るかね?」
エリィは震えながら、ダークの所へ連れて来た。
「ダーク、新しい長だって」
「うぅ……父さん、父さん……」と泣いているダークをアーガスは、泣いてうつ向いた顔を手で上げる。
「ちょっと、ダークは」
流石にエリィはアーガスに言うが、アーガスは無視して、
「何時まで泣いているダーク!君らしくない。君はジークの資料を読むからに、優秀な魔族と見たが、それがこの有り様か!?父親を守れず、エリィにも助けられ、随分意気地無しなんだな!」
「何故先程の事を!?」エリィは驚く。
「貴様に、父の何が解る!?」と、ダークは、言い返す。
「その元気があるじゃないか?ダーク!辛くて苦しいなら、泣いてばかりいないで、立ち上がり、行動しろ!!エリィ、君達に、是非とも任命する。一樹家打倒組の任命にな」
「何か解っのか!?」
ダークは、涙をふき、アーガスに言う。
「あぁ、解った。だが直ぐには行動はしない。君達2人が一人前の戦闘が出来るようになるまではな」
「解りました。僕はもう、何もない。お手伝いします」と、ダークは、言った。
エリィも頷く。
「また、明日来る。手続きの用紙を渡す」
こうして、アーガスは帰った。
アーガスのオフィス。
アーガスは、独り言を言う。
「ジーク、君は自分で動き過ぎた。それでは、ダメなんだよ」と。
>> 12
10年後。
2006年 8月。
1人の赤い髪に、赤いスーツ、赤いパンプスと、一見目立つ女性が、走って電車に乗ろうとする。
「ヤバイ!間に合うか!?」と、叫びながら。
すると、携帯が鳴る。
「もぉー!こんな時に誰よ!?」
着信画面も見ないで通話した。
「長田加奈子か?私だ、アーガスだ」
「アーガス社長!?……お、おはようございます……」
女性……加奈子は動揺が隠せず、焦る。
「ハハハ、遅刻か?お前らしいな。KAー101、レアリエン」
レアリエン……人工生命体の事だ。
「すいません。私の作りは戦闘には優れていて、その頭脳なら……」と、加奈子は言い訳している。
「まぁ、良い。RIM-101は使えそうか?」と、アーガスは言う。
「まさか、あの新型をですか?」
「今、一樹が動きを見せている。使うなら今が一番最適だろう。せっかく、戦闘型レアリエンが完成したんだ。しかも、人間からのレアリエンだ。見物だと思わんか?」
「は、はい……解りました。では、あそこのアパレル売り場に派遣致します」
加奈子は素直に言った。
「今度はお前の時間機能を直して貰う事だな。また、良い成果を期待してるぞ、では」
アーガスの電話は切れた。
「ま、いっかー!アーガス社長のお許しと言う事で、会社には言えるわ」と、加奈子はゆっくり歩き、わざと遅刻した。
>> 13
暑い……夏の朝。
アタシ(梨麻)は、朝6時からお弁当の支度をしている。
今日は、楽しみにしている……大好きなあの人、一樹勇也さんに会う為に、田舎から追っかけて来たんだよね。
1週間前に引っ越してきて、ようやく面接も採用され、アパレル売り場、BLUE houseという所に働くの!
あんなにカッコいい人が店長なんて、本当に採用されて良かった!
さてさて、シャワーでも浴びて来るかな?
朝10時出勤だわ!
BLUE house。
「新しく入りました、香 梨麻と申します。宜しくお願いします」とアタシは頭を下げた。
クスクスと笑い声が聞こえる。
そして、「変な名前ね、梨麻ってダサくない?」とか、陰口を言われていた。
仕事の時間。
「香さん、この洋服畳むの下手ね。本当に採用されたの?」
「すいません!やり直します!」とアタシは頭を下げた。
「良いわよ、私がやるから。貴女はトイレの掃除でもしてなさいよ。そっちの方がお似合いよ」と、嫌味を言われた。
お昼。
独りぼっちのランチ。
誰もアタシには近づかなかった。
アタシは独りぼっちでランチした。
>> 14
夜。
アタシは帰り道、1人で下を向いて歩いていると、1人の赤いスーツのお姉さんに当たった。
「すいません」
アタシが姿勢を戻すと、お姉さんが笑っていた。
「こんな夜遅くまで仕事なの?」とお姉さんは優しく言った。
「……はい。残業です」
アタシは全てを言いたかった。
本当は、アパレル売り場らしい事は何1つやらせて貰ってない事を。
だけど、黙った。
「お疲れ様。いい?貴女はまだ追い込まれていないけど、どうにもならなくなった時には、これを顔にスプレーしなさい。全てが解るから、だけど、1回だけよ?良い?」と、お姉さんは、小さなスプレーを出した。
「全てが解るって、私は、普通の19の女の子です」と、アタシは言い返した。
「良いから、受け取って」とつき出されたので、無理矢理受け取った。
「じゃあね」と言って、お姉さんはそのまま、歩き出した。
アタシは暫く、そのスプレーを見ていた。
>> 15
1週間後。
余りにも、マトモな仕事をさせて貰えず、アタシは、店長に状況を話そうとした。
会議室に店長……勇也さんが居る、という事だから、会議室の前へ行くと、何だかうめき声が聞こえてきた。
何だろう?と思い、少しだけドアを開けて見ると、勇也さんから、黒いモヤが出ていて、周りがそれに囲まれ苦しんでいた。
「!?誰だ!?」
勇也は無理矢理ドアを開けた。
アタシは、座り込み、後退りした。
「梨麻か?また殺されに来たか?」
勇也さんが何を言っているのかが解らない。
でも、このままなら、アタシは殺される……と、思った瞬間に、お姉さんから貰ったスプレーを顔にかけた。
すると、アタシの全身がみるみる内に男性へと変わっていった。
同時に1年前の事を思い出した。
>> 16
アタシは片田舎に住んでいた。
そこで、友人の紹介で、遠く離れた居酒屋で、合コンした相手が勇也さんだった。
だけど、黒いモヤが居酒屋中を包み込み、友達も皆が倒れ、苦しんでいた。
アタシは出口が地かっかた為に、逃げようとしたけど、勇也さんに撃たれ、殺された。
そう、アタシは1度死んだ。
気がつくと、アタシはレアリエン、RIM-101に生まれ変わった。
そこでの指示は、「勇也さんを殺せ。その為に、貴女は生まれ変わった」と言われた。
アタシが変わっていく、男の子に……そして、同時に腕を外れ、刃物が出てくる。
「一樹勇也さん、貴方を殺します」と、アタシは言い、そのまま、勇也が銃を出す前に、頭を刺した。
刺した瞬間に、アタシは後ろから銃で数弾撃たれた。
勇也さんは絶命したが、アタシも倒れ込む。
アタシが最期に見たのは、金髪のお姉さんが、銃で後ろの誰かと銃戦している姿だった。
>> 17
銃戦していた1人、エリィは、暫くすると、敵の気配は消えた。
何回か銃戦していた相手だったエリィは、手応えを感じ、勝てると思っていた。
その相手、一樹光耀だった。
「勇也………」
勇也の死体を見たのと同時に、動かなくなった、新型の戦闘レアリエン……RIM-101をエリィは眺めていた。
エリィの携帯が鳴った。
「はい。アーガス様、どうされましたでしょうか?」
エリィが電話に出ると、「ダークが一樹家に拘束された」と、アーガスは流石に戸惑いを隠せずに言う。
「!!ダークが!?」と、エリィも流石に驚きを隠せない。
「気をつけていけ、そして、お前にダークの救出を任せる」と、アーガスはエリィに指示を出すとエリィは、答えられない。
「エリィ!しっかりしろ!一刻を争う。ダークを助けろ!」と、アーガスはエリィに怒鳴り付けた。
「解りました……」とエリィは言ったものの、エリィは、信じられなかった。
あの、ダークが……と。
>> 19
一樹家の近くのショッピングモール。
大体ここで、律子とりなが買い物をしている。
何処かへ座ろうと、エリィは歩いていたら、いきなり子供がぶつかった。
「あ……ごめんなさい、ごめんなさい」と必死になって子供が謝る。
調べた顔と間違いない、一樹りなだ。
わざと、エリィは笑いかけ、りなに声をかけた。
「お母さんは?迷子になっちゃったの?」と。
りなは下を向いた。
「私を……置いて帰っちゃった」と小さな声で言った。
エリィは、思った。
まだこの子は、黒いモヤに汚染はされていない。今は日本の6割は汚染されてる中、珍しいわ。何だか15年前の私を見ているみたい。律子は、手遅れね。ダークの救出も必要だけど、先ずはこの子を何とかしなきゃ……と。
エリィは言った。
「一緒にお家に帰ろうか」と。
律子の息の根を止めようと考えた。
りなには可哀想だけど、律子のオカシイ姿を見たら、この子は自覚するだろう。
汚染者だ……と。
エリィはそう考えて、りなを連れて律子の所へ行こうと決心したのである。
>> 20
「りな!アンタって子は、本当に出来ない子ね!」と、髪形がショートで、かなりしっかりしている様にエリィは見えた。
「はじめまして。すいません。この子が心配で……」と、エリィは律子を見ながら言った。
そして、エリィは思っていた。
手遅れだ……もしかしたら……私でどうにか出来るかどうか。
そんな時に、律子はエリィに微笑みながら言う。
「どうですか?お茶でも」
エリィは、言った。
「すいません。このお子様を、別の部屋に置いて頂きませんか?2人で話したい事がございますので」と。
一撃で殺るしかない……とエリィは思っていた。
「はい、どうぞ」と、お茶を出した律子。
「ありがとうございます」と、エリィが言った時に、
「水月 葵ちゃんね」と律子が言い出した。
「どうして、人間の頃の名前を!?」と、エリィは焦る。
「話でしか解らないわ。貴女のお母さん、私達一樹家の初めの理解者よ」と、律子は微笑む。
「理解者!?」
「そうよ。私の義父の悟さんの愛人であり、私達の実験台に喜んでなってくれた、有難い方よ。そして、私達は、更なる進化を遂げた」と、律子が言った瞬間に、ショートだった律子の髪が伸び、口は裂け、化け物と化した。
エリィは、銃を出す暇もなく、律子の髪が刃物になり、エリィの右手、左足首を刺され、貫通した。
「ぐぁぁぁ!」エリィは叫んだ。
>> 21
「私はね、葵ちゃん、光耀に愛される為に、人間の身を捨てたのよ。光耀は魔族である貴女方に、魔力を貰い、ここまでになれたのよ!」と、壁にエリィをぶつけて律子が言った。
エリィは幻か、ある過去が見える。
律子がまだ、BLUE houseの店長だった頃だ。
律子は美しさ、スタイルの良さでBLUE houseに推薦された。
本当はデザイナーを目指していた律子は、ある、1人の男性……一樹光輝と知り合い、恋に落ちた。
スピード結婚したが、光輝は、律子が居ながら女遊びが酷く、律子は性病になった。
律子は光輝を一途に愛し、どうしたら自分が認められるのか、りなを出産した後に聞いた。
そしたら、人間を辞めて、魔力を吸収する事だと教わる。
そう、律子は彼に愛されたかったのだ。
エリィに、涙が流れる。
そして、言った。
「もう、良いよ。人間を捨ててまで愛した貴女は良くやりましたよ。私がその苦しみを楽にしますから」と。
エリィは、律子は殺さなければならない、逆に今のままだと苦しい想いをすると云う思いで、左手に銃を持ち、頭部を狙って撃った。
そのまま、静かに律子は絶命した。
>> 22
「来い、エリィ。10年前の、あの廃工場へ!」
エリィは、足を引きずり、手を抑えて立っていたら、いきなり声が聞こえる。
幻聴じゃない、あれは、光輝……恐らくそこには、ダークも居る。
人に声を送れる様になるまで進化をしたのか?
とりあえず、此処は去らないとマズイ。
ざわついて来ているし、警察が来たら厄介だ。
そう思い、エリィは足を引きずりながら、歩き始めた。
此処から、そんなに遠くはないハズ……。
エリィは、15年前の頃を思い出していた。
ジークお父さん、ダーク……本当楽しかったあの頃を思い出すと、涙が流れた。
やっとの思いで着いた廃工場。
しかし、入ると、エリィは驚く。
口を開けている魔族のミイラが何百体も積み重ねられていた。
「まさか……これは……」
エリィは言うと、「そうだ!今まで我々人間の為に力を貸してくれた、魔族の死骸だ」
「何て事を………」エリィは言葉をなくすと、そこにある魔族が此方に走ってくる。
「エリィ!!会いたかったよ!」
ダークだった。
しかし、エリィは異変に気がついた。
ダークなら、こんな陽気じゃない……そう、もう、ダークは……。
そして、素早く光輝は、ダークの頭上を目掛けて発砲した。
「ダーク!!!」
ダークは倒れ、エリィは、ダークの元へ駆けつけた。
絶命していた。
エリィは、叫ぶ。狂った様に……。
「魔力を抜かれた魔族は、3日も持たずに死ぬ。私に殺されただけ有り難く思え、ダーク!」と、光輝は、銃をエリィに向けた。
>> 23
「良い事を教えてやろう。エリィ。アーガスは元一樹家の一員として、我々人間の為に良く尽くしてくれたよ。しかし、我々を見捨て、裏切ったんだよ。我々の真の、魔界侵略に気がついていたのだ!だから、逆に魔界を守る側に徹したんだよ。それから、ダークの母は我々が殺したよ。美しくて、良い魔族だったな。そして、解るか?俺の直ぐに後ろに眠っているのが、ダークの妹、レティーナだ。あの魔族は時間をかけて、ゆっくり魔力を抜いている。もって後、数ヶ月だ」
そして、光輝はエリィに銃を突きつける。
しかし、エリィは怒りもせずに、光輝に言った。
「……貴方のお父さん、悟を貴方は殺した、違う?」と。
エリィは死んでも怖くないと思っていた。
「流石に人間の感情をも持っているな。そうだ、余りにバカで強欲な父など役には立たない。我々の理想は、品があり、賢く、人間社会に適応している者を作り上げる事だ」
「……これで解ったわ。何故私の母は私にあれだけの事をしたのか。貴方の言う通りの事をしなければ、容赦ない攻撃……。そう、貴殿方、一樹の魔力とマインドコントロールされていた。でも、私は違うわ。そんなやり方では、例え私達みたいな出来損ないが滅びても、今度は権力で争う。貴方のやり方だと、世界は滅びる」
エリィはそう言うと、光輝は、言った。
「うるさい奴だ。今楽にしてやる」と、その時だった。
光輝は、急に何かに縛りつけられるように、苦しみだした。
「エリィさん、レティーナです。私が彼を命がけで止めますので、彼を、兄の敵を打って下さい!」と声が聞こえた。
エリィは見ると、今にも崩れそうな、髪の長い女の子が起き上がっていた。
これ以上の負担は、彼女の生命に関わる。
そう判断したエリィは、素早く銃を持ち、光輝の頭部を狙い、撃ち放った。
>> 24
やがて、光輝は即死だった。
そして、片手で、銃を落とした。
終わった……そうエリィは思っていた。
そして、アーガスに、携帯を取りだし、報告した。
「良くやった。エリィ、後は、ゆっくり身体を治せ。今私の部下を向かいに行かせる。出来るだけそこから離れろ。警察が来る。レティーナと帰って来い」
アーガスが電話切った時、自身の銃を取りだし、自分の頭に銃を突きつけた。
「これで、裏切り者の私が居なくなれば、全て済む。この魔力で出来たモヤも消えるだろう。後を頼んだぞ」と言って自殺をした。
2ヶ月後。
エリィはレティーナに肩を持たれ、アーガスの墓に向かった。
「………今回、余りに犠牲が多すぎた。まさか、アーガスまで」
そんなエリィの態度と言葉をレティーナは聞き、こう言った。
「エリィお姉ちゃん、ダークお兄ちゃんや、ジークお父さんの話を聞かせて」と。
エリィは思った。
せめて、レティーナだけは守ろうと。
完
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