続・ブルームーンストーン
ブルームーンストーンの続編です。
内容は4人で遊んでいた頃の話のブルームーンストーンとは違い、
職場中心の話になってしまいますが、
これも懐かしい思い出日記の様に書いていけたらなと思います。
どうぞよろしくお願い致します。
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「おはようございます。」
遅番の出勤時間よりかなり早く大ちゃんが出勤してきた。
「おはようございます。早いんですね!」
そう挨拶を返す私に、
「今日は中番が居ないからずっと1人だったろ?ちゃんとやれてたのか?」
大ちゃんが探る様に聞き返してくる。
うっっ
「あ~すみません。実は…」
かくかくしかじか、大ちゃんに説明する。
神田君への教育がほとんど出来てないから怒られるかな?
と秘かに怯えていたが、
「あっそ。松木さんは午後からもフリーだっけ?」
意外にも大ちゃんはアッサリそう言うと自分でスタッフの作業予定表を見に行った。
「フリーだね。神田君には午後一でレジを教えてから引き続き松木さんを付けて売り場メンテでもさせて。」
「分かりました。」
元々、松木さんはパートさん達の中でも断トツにシフトが入っており、レジにはほとんど入らずにフリーの立場も多い事から、こういう時に実に頼りになる。
この日から「神田君のフォロー役は松木さん」という図式が何となく出来上がった。
秘かに心配していた沖さんの事も、
沖さん自身が「頼るのは良いが頼られるのは嫌い。」というスタンスだったため、むしろ面倒臭い事を松木さんがやってくれるとばかりに喜んでいた。
他のパートさんも特に異論を唱える人もおらず、当初は何もかも上手く進んでいく様に見えた。
ある日、
「カンちゃんがお菓子を買ってくれたんですよ。」
松木さんが嬉しそうに私の目の前でチョコレートを軽く持ち上げてみせた。
松木さんは神田君に少しずつ甘える様になり、お菓子やジュース等をたまに買ってもらったりしていた。
「またオネダリ?綾ちゃんもお返ししてあげなきゃダメだよ。」
少し笑いながらたしなめる。
休憩時間等にはみんな少し気を抜いてお互いに愛称などで呼び合い、
神田君はカンちゃん、松木さんは綾ちゃんと呼ばれていた。
「大丈夫ですよ!今度休憩が一緒になった時はマクドナルドに行って奢ってあげるね!って約束してますから。」
「そうなんだ。」
「はい!私達もうすっかり友達なんですよ!」
松木さんが嬉しそうな笑顔を見せる。
仲良しの友達か。
いいな。
私もつられて笑顔になる。
異性の友達か、いいね。
カンちゃん優しいし羨ましいな。
私はそんな2人を微笑ましいと心の底から思っていた。
「田村さ~ん、森崎さんて彼氏いるんですか?」
松木さんとの2人の休憩時、
口調は冗談めかしつつも、目はかなり真剣な松木さんが聞いてきた。
「え~?どうかな~?モテてはいるみたいだけど…」
何となく嫌なものを感じて曖昧に誤魔化した私に、
「そうなんですか?森崎さんて凄く綺麗ですよね。
カンちゃんと並んで話してるのを見たらまるでお似合いのカップルみたい。」
と松木さんは少し拗ねたように言う。
昨日から森崎さんことユッキーがうちの店舗にまわって来ている。
立場上、店長だけではなく他の社員達とも色々話をする機会も多い。
まさかと思うけど、ヤキモチ!?
「え、え~と、ほら、綾ちゃんの旦那さんも前に写真を見せてくれた時に思ったけどカッコイイじゃない?
綾ちゃんも可愛いし綾ちゃん夫婦もホントお似合いだよね?」
返事に困り松木さんの旦那様の話題を出したが、それが大きな地雷だった。
「田村さん知らなかったんですか?
私達はとっくに破綻してますよ。」
「えっ?えっ?ええっ?でも旦那さんの実家にまだ同居してるんだよね?」
「してますよ。だからこそ余計…なのかも…」
もう何か言えば言うほど地雷を踏む。
「あの…無神経な事ばかり言ってごめんね。」
謝る私に、
「大丈夫ですよ~!他のパートさん達にも普段から愚痴ってますから。」
松木さんがカラッと明るく笑顔を見せた。
「綾ちゃん職場ではいつも明るく笑ってるから…色々…あるんだね…」
「そうですね。ほんと色々あって辛いです。1人に…なりたい…」
松木さんは今までに見たこともない悲しげな表情をして呟いた。
「綾ちゃん?大丈夫?」
「あ、はい、ごめんなさい。
最近特に辛くて…」
「綾ちゃん、あの、吐いて楽になる様だったら良かったら話聞くよ?」
「ありがとうございます。実は昨日もね…」
松木さんが話しかけた途端、
コンコン!
「休憩中、すみません。
本社からの書類について店長から何か聞いてますか?」
新井君が休憩室を覗き込み、私にそう尋ねてきた。
「あ~、休憩終わってからでいい?」
「それが今本社と電話中でして、至急確認したい事があるからと…」
「わかった。」
私は渋々立ち上がり、
「ごめんね。ちょっと待っててね。」
と松木さんに声をかけ休憩室を出た。
事務所に入ると店長の書類ボックスから人事関係の書類を取り出し電話に出る。
話は思ったよりややこしく時間がかかったため、電話を切った時には休憩時間はとっくに過ぎていた。
あちゃ~悪かったな。
慌てて松木さんを探しに行くと、松木さんは1人黙々と倉庫で作業をしていた。
「さっきはごめんね。良かったら仕事終わってからでも話しない?」
私の言葉に、
「ありがとうございます。
でも仕事が終わったら夕飯の買い物もあるし急いで帰らないと。
それに…」
松木さんは少し言葉を切った。
「遅く帰るとお義母さんに嫌味を言われますから…」
「そう…なんだ。話を聞いてあげられなくてごめんね。
良かったら夜に電話でもしようか?」
「いえ。旦那やお義母さんに聞かれちゃいますから。」
「あっ…そうだね。
じゃあまた何かあったら遠慮なく話して?でも本当に今日は大丈夫?」
「はい大丈夫です!明日の作業予定表を見たらカンちゃんと2人で休憩入ってるのが分かったんで元気出ました!」
「そうなんだ。良かったね。」
「はい!カンちゃんは私の栄養ドリンクみたいなものですから!」
悲しそうに落ち込んでいた休憩時とは打って変わって無邪気に嬉しそうな松木さんの顔を見ながら私は安心感と同時にモヤモヤとした不安感に襲われた。
松木さんの様子が私が今まで知っていた松木さんとは違う様な気がしたからだ。
何が?と言われても分からなかった。
ただ、漠然と得体の知れない不安がこの時の私を包んでいた。
それはいきなりだった。
「店長!!松木さんが!
来て下さい!!」
大川君がひどく慌てた様子で事務所に飛び込んできた。
パソコンで入力作業中の大ちゃんはすぐに立ち上がり店内へと走って行く。
松木さん?!
気になりつつもお客様と電話中だった私は行くことが出来ない。
ようやく電話を切った私の元に沖さんと共に松木さんを両脇から支えた大ちゃんが戻ってきた。
松木さんは真っ青な顔をしている。
「松木さん?!」
「ミューズ!!休憩室のドア開けて!!」
驚いて立ちすくむ私に大ちゃんが半ば怒鳴る様に言う。
慌てて休憩室のドアを開け、崩れ落ちそうになっている松木さんを何とか座らせたが松木さんはそのまま机に突っ伏してしまった。
「寝かせた方が良くない?」
と沖さん。
確かに。
でも休憩室の床は土足で歩きまわっているから汚いし…
「大ちゃん!潰したダンボール沢山持ってきて!」
私の言葉が終わらないうちに大ちゃんがダンボール置き場に走っていき何枚かのダンボールを持ってきた。
ダンボールを床に敷き更に私や大ちゃんの上着を敷いて松木さんをその上に寝かせる。
沖さんが予備のスタッフエプロンを丸めて枕にし、自分の上着を松木さんの上に掛けてくれた。
ふう。
「松木さん?大丈夫?救急車呼ぼうか?」
私の呼びかけに、
「大丈夫です…最近、寝られなくて…
ちょっと目眩した…だけです…」
うっすら目を開けた松木さんが弱々しく答えた。
「貧血起こしたのかもしれないわね、彼女元々貧血気味だし。」
沖さんがしたり顔で言う。
なるほど。
ってすげえな!
スタッフの健康状態までガッチリと把握してらっしゃる…
「店長~しばらく私が松木さんに付いてるね?」
沖さんが意気揚々と申し出たが、
「いや、ここは田村さんに任せますから僕らは仕事に戻りましょう。」
と、大ちゃんは淡々と答え、
「暫く様子を見てやって。」
と言い残すと沖さんと共に休憩室を出ていった。
うわあ、沖さんの申し出をスパッと切るなんて怖いものしらずだな…
そう思った瞬間、
「店長!さっきミューズとか大ちゃんとか呼びあってたわね?
店長副店長としてそれはどうなのかな?」
とドアの向こうでガッチリと
「大声で大ちゃんに注意する」沖さんの声が聞こえてきた。
うわ…
すみません…
「沖さんだって田村さんの事をミューちゃぁん!て呼んでるでしょっ?」
「パートの私はいいのよっ!立場のある店長と副店長が…」
「え~?それを言うなら沖さんは僕の大先輩ですから立場は雲の上の人…
あっ!年齢も-」
「もうっ!バカっ!!」
わあ…
楽しそう。
飄々と返す大ちゃんと何だかんだ言いつつ楽しそうな沖さんの声がしなくなった後、私はそっと松木さんの横にしゃがみ込んだ。
ぐっしょりと汗をかいているが顔色はかなりマシになっている。
「すみません…」
気配を察し松木さんが目を開けて起き上がった。
「起き上がって大丈夫?」
「はい、もう楽になりました。」
しっかりした声だ。
私はホッとして、
「もう少し落ち着いたら帰ろうか?
店長に送ってもらえる様に頼んでくるね。」
と声をかけたが松木さんは急に俯き返事をしない。
「松木さん?」
「もう…平気です…いて…いいですか?」
「え!?でも家でゆっくり寝た方が良くない?」
「帰ったら何を言われるかわかんない…
ゆっくりなんて出来ない…
ここだけが…落ち着ける場所…
嫌だ…帰りたくない…」
松木さんの息がだんだん荒くなる。
「松木さん!?」
松木さんの様子が何だかおかしい。
「松木さん!!」
松木さんはまるで呼吸困難を起こしたかのように息苦しそうにゼイゼイ言い出した。
もしかして過呼吸?!
「松木さん!!落ち着いて!!
大丈夫だから!
ここに居ていいから!
ゆっくり息して!!!」
とにかく落ち着かせようと松木さんの背中を優しくゆっくりポンポンする。
松木さんの呼吸が私のポンポンのリズムに合ってきて乱れた息も治まりだした。
「病院行く?」
松木さんは黙って首を振る。
「そっか。わかった。
じゃあここで休んでて。」
店内に入り、大ちゃんに事情を話すと、大ちゃんは私と一緒に休憩室までついてきた。
「マッツン大丈夫か?」
休憩室に入って開口1番、大ちゃんから発せられた「マッツン」の言葉に松木さんが少し驚いた顔をした後に微笑んだ。
「マッツン、その呼び名懐かしい…」
ん?ん?ん?
「えっ?あのマッツンて?懐かしい?」
「あれ?言ってたろ?俺が前の地区にいた時、少しの間だったけど松木さんと同じ店舗にいたって。その時の松木さんのあだ名。」
大ちゃんが、もう忘れたのかよ?といった呆れた声を出す。
あ~!思い出した。
大ちゃんが赴任した先の店舗で松木さんが働いていたが、それから数ヶ月後に松木さんは旦那さんの転勤に伴い実家に同居が決まりこちらに来た。
で、暫くしてから大ちゃんがまるで後を追うようにこちらに来たんだった。
ここに来てからは2人が特別に親しげにしている様子もなくその話題も出なかったので忘れかけていたが、
初めて聞いた「マッツン」の言葉に何故か気持ちがザワザワと波打つ。
松木さんはもうすっかり顔色も良くなり、敷いていた私達の上着を畳んでテーブルに置いてくれていた。
「も、もう大丈夫そうだね。
私はダンボールを捨てて来るから後は店長に指示もらってね。」
私はそそくさとダンボールを片付けると両脇に抱えて休憩室を出た。
ダンボールを捨てながら色んな思いが頭を巡る。
松木さんの前であんなに呆れたような声出さなくても…
だって…
マッツンとか知らないもん…
あだ名で呼ぶほど仲良かったなんて知らないもん…
だから気にしてなかったもん…
なんであんなにバカにした様な言い方するのかな。
それに比べてマッツンって呼んだ時の大ちゃんの声優しかったな…
はっ!
まさか…
大ちゃんがわざわざこの店に来る事に決めたのは…
松木さんがいるから?!
妄想がどんどん膨らむ。
うううううう。
うおおおおおおお!!!
何かもうやり切れない感情が沸き起こり、乱暴にダンボールをバンバン積み上げるうちに粗末な扱いにご立腹されたのか、ダンボールが一気に私を目がけて崩れ落ちてきた。
バサバサバサ!!
痛った~。
ダンボールに直撃されたおでこをさすりながらまたダンボールを積み直す。
もう泣きそう。
「…何やってんの?」
背後で声が聞こえ振り向くと
呆れ顔の大ちゃんが立っていた。
「何って、ダンボールを片付けてますけど?」
少し淡々と答える私に、
「あっそ。何でもいいけど早く片付けて松木さんに何か仕事の指示出して。」
大ちゃんは冷たくそう言うとプイッとその場を去ってしまった。
なんだよ。
元々はそっちが嫌な言い方したからじゃない。
いつもそう…
自分は気に入らないと直ぐに顔や態度に出して、私が気を使わないと余計に機嫌悪くなるくせに、
私がちょっと嫌な態度を取るとこうなるんだよね。
はあ、何でいつもこんな良い時と悪い時の差が激しいんだろう。
「店長はすご~く分かりやすいのに、何でミューちゃんはよく店長をイラつかせるのかな?」
沖さんに笑われた事がある。
「店長の地雷なんてむき出しで転がっているのに、なんでそこをわざわざ踏んで歩くんですかね?」
と牧田君にでさえ呆れられた事がある。
分かりやすかろうがなんだろうが私は人の気持ちが読めないもん。
はあ…
おっと、いけない。
松木さん。
松木さんの事を思い出し気持ちを切り替える。
この切り替えの早さは昔からの私の取り柄?だ。
慌てて店内の化粧品コーナーに行き、カウンターの引き出しから顧客様名簿とDMハガキを取り出し休憩室に戻った。
「松木さん、DMハガキの宛名書きをしてくれる?
これなら座って出来るからここでゆっくりと書いてて。」
「はい。」
笑顔で受け取る松木さんの様子はもうすっかり元気そうだ。
「顔色戻ったね、良かった。」
ホッと安心する私の言葉に、
「はい、ここ何日も寝られない日が続いてて…」
松木さんが少し苦笑する。
「寝られないのは辛いね。」
「はい。あ、でもね、昨日はずっと朝方までカンちゃんと電話してましたから少し救われたかな。」
え?
「あの…おうちは…大丈夫なの?」
「はい。真夜中でみんな寝てたから、こっそり外に出て話してました。」
「えっ?!そんな夜中に外なんて危なくない?」
何と返して良いのか分からなく、色んな意味で「危ない」という言葉を使った私の気持ちを察したのか、
「大丈夫ですよ。外といってもうちの敷地内にある納屋の中ですから。」
「そう?なら良いけど…」
「私とカンちゃんの会話は他愛もない友達の会話ですよ?友達ですから。」
私の不安を更に読み取ったのか、
松木さんが友達という言葉を強調して屈託なく笑った。
「お先に失礼します。」
夜のバイトの子達が出勤してきて、入れ替わりに松木さん含むパートさん達が帰っていった。
バイトの子達は可愛いが、パートさん達に比べるとどうしても細やかな指示が必要になり、手間がかかる分あっという間に時間が経つ。
「あっ!もうこんな時間だ。」
私の仕事上がりの時間間近になっていた。
大ちゃんは仕事の時間に対してとても厳しい。
会社は残業代を出さないので、こっそりサービス残業をする社員も多かったが、大ちゃんはそれを一切認めず定時になる前に仕事を終わらせる様に私達に徹底指導していた。
あと5分か…
大ちゃんの徹底指導の成果で、
私達は上がりの時間の5分前には仕事を切り良く終わらせる癖がついている。
でも…
何となく帰りたくなかった。
私、馬鹿なヤキモチ妬いちゃったな…
時間が経って冷静になると自分の態度が悪かったなと反省した。
謝りたいけど…
ちらっと作業中の大ちゃんを見る。
大ちゃんは黙々と推奨商品の大がかりな陳列売り場を作っている。
ちょっと話しかけられる雰囲気じゃないし、仕事中にこんなくだらない事言ったらまた気を悪くされるだろうしな…
暫く悩んだ末に帰ることにした私は、松木さんに宛名書きをしてもらったDMを帰り道の途中にあるポストに入れて帰ろうと軽くDMをチェックした。
あれ?
DMが違ってる…
前回の宛名書きした残りのDMを誰かが捨てずに名簿と共に引き出しに入れていたらしく、私は日付などを書いている裏面を確認もせずにその古いDMを松木さんに渡してしまっていた。
今回出すDMは?と探すと隣の引き出しに入っていた。
何たる凡ミス。
切手をまだ貼っていなかったのだけは救いだな。
さて、どうしよう。
DMは遅くとも明日の昼過ぎまでには出さなくてはならない。
仕方ないな…
誰か夜のバイトの子に書いてもらうか…
それにはまず遅番の社員にお伺いを立てるのが礼儀だった。
夜のスタッフの人数も結構ギリギリで回しているからだ。
謝る所か余計に怒らせるな…
物凄く憂鬱な気分になったが仕方がない。
私はDMハガキと顧客様名簿をむんずと掴むと、意を決して大ちゃんの元に歩いていった。
「店長…」
返事がない。
「あの…店長……」
返事がない。
ただの屍の様だ…
ドラクエならここはさっさとスルーしてタンスを漁り、壺の1つでも割ってとっととオサラバするのだが、あいにく敵は屍に見せかけたボスキャラ。
ここは対決しないとエンディングを迎えられない。
仕方ないので大ちゃんの横に立ったままボソボソ呟く。
「DMが…手違いで…ボソボソボソ」
「はあっ?!」
おっと!いきなりボスキャラが攻撃を仕掛けてきて戦闘モードに突入した!
(ここからドラクエの戦闘シーンのBGM流れ出す。)
思いっきり怒った声で、思いっきり呆れた顔で、最大級の「はあっ?!」光線を浴びせかけてくる。
うっっ。
さすがボスキャラ、今の攻撃だけでHPの半分を持っていかれてしまった…
「えっと…だからその…すみませんが…
夜のバイトの子に宛名書きをしてもらいたい…の…です…が…」
「無理です。」
わあおキッパリ。
「夜のバイトの子はアナタの失敗のフォローをするために来ているのではないから。」
わあおグッサリ。
か、回復呪文、回復呪文、
このままではHPが尽きて教会に直行しそうだ。
「そ、そうですよね、すみません、失礼しました。」
慌てて「逃げる」コマンドを選択した私の前に、
「どうするんですか?」
と、敵がまわりこんできた。
「あの…顧客様名簿とハガキを持って帰って書いて…きます…」
「大事な名簿は店外には持ち出し禁止だけど?」
おうっ。
更にダメージ…
もうHPは残り10くらいしかない気分。
回復呪文!ここで回復呪文を発動せねば!
って、「ありがとう」と「嬉しい」なんてどこで使えるんだあっ!!
もう…ダメだ…ガクッ…
「あの…残業はダメだと分かってますけど、どうせ家で書くつもりだったので、ここで…書いて…も…良いですか?」
逃げ場を失い、更にボスの攻撃力を上げるであろうセリフを
「捨て身攻撃!」とばかりに私はボスにぶち当てた。
「はあっ?そこまでしなくていいでしょ?」
おっほぉ!
攻撃がいとも簡単に弾かれたあっ!
しかもっ!更に怒りのオーラが強くなってはるっ!!
「あっ、でも私は明日は遅番なのでっ、
間に合わ…ないのでっ、それに…あの…
店長の仕事終わってから…話…したい…な…と…」
「話ならここで今して下さい。」
おうっ…終わった。
「ミューズよ死んでしまうとは情けない…」
私の頭にドラクエの教会の神父様の声がひたすら響く。
「えっ、ここで?!」
「はい。仕事しながら聞きますからどうぞ。」
うわっ、ここで「ごめんなさい」言うの恥ずかしいな。
私は周りを見回した。
幸い店内はお客さんが途切れ、スタッフも周りにはいない。
更にボスはまた売り場の方に目を向け私から視線を逸らしている。
これは逆に話しやすいかも…
意を決し、恥ずかしさと気まずさを押し殺し、
私は大ちゃんの後ろ姿に向かってボソボソと話しかけた。
「あの…ただ…ゴメンねって言いたくて…私…大ちゃんと仲直りしたくて…だって大ちゃんとはいつも仲良くしたいから…だから今日はずっと悲しくて…寂しいなって…」
「ぶぼおっ!!!ゴホゴホ!!!」
突然、ボスが奇妙な声を発したかと思うともがき苦しみ出した。
と同時に振り向いたボスの顔が真っ赤になっている。
そんなに苦しかったのか!?
思わぬ所でボスに会心の一撃を与えた様だ。
「な、なに恥ずかしいことこんな所で言ってるんだよ!!」
え?
だって言えっていったのはボス…
「と、とにかくこっち来て!」
大ちゃんは私の手を引っ張り休憩室に連れ込み、冷蔵庫からペットボトルの水を取り出すと私に差し出した。
「ほら、これ飲んで!落ち着け!」
いや、落ち着いてますけど?
むしろ君が飲んで落ち着け。
ポカンとして水を受け取らない私を見て、大ちゃんは自分が水を一気に飲んだ。
「あの…店長?」
「あ、えと、DMの宛名書くんだったな?ごめんな。じゃあ頼むな!」
はいっ???
訳が分からずポカンと立っている私に向かって、大ちゃんは軽く手を挙げると店内に入ってしまった。
恐ろしい程に物凄い笑顔と共に…
あれは…
ボスの最終技「死への微笑み」
だろうか?
店長のあまりの豹変ぶりに、
ドラクエには存在しない新たなボス技の名前をぼーっと考え込む副店長であった。
「あれ?ミューさんどうしたんですか?」
閉店作業を終え、休憩室に入って来たバイトの加瀬君が不思議そうに尋ねてきた。
ミューズだの、姉さんだの、ミューちゃんだの、ミューさんだの、
みんな呼びたいように呼ぶ。
「あ~、ちょっと手違いでDMの宛名書きをやり直してるのよ。明日の昼までには出さないとマズイんだ。」
いい加減飽きてウンザリしていた私は苦笑しながら答えた。
閉店までには余裕で終わると思っていた宛名書きだったが、
運が悪いというか、間が悪いというか、今回のDMはご丁寧にも「お客様へのメッセージ欄」が設けられており、一人一人お客様に何かひと言メッセージを書かなくてはならない。
変な所で生真面目な私は、いちいちお客様の顔や会話を思い出しながら書いていたため、閉店時間になってもまだ幾枚か残していた。
「大変そうですね。良かったら手伝いましょうか?」
加瀬君が心配そうな顔で聞いてくれる。
加瀬君は見た目のいかつさとは裏腹に本当に心の優しい男の子だ。
「ありがとう。あと20分もあれば余裕で終わるから大丈夫だよ。」
加瀬君の優しさに癒されつつも少し不安になった。
店を閉めちゃうからここには居られないな。
宛名書きは終わって後はメッセージのみだから持って帰って書くか。
「お先に失礼しま~す!」
バイトの子達が次々に帰って行き、
「もう閉めるけど出られそう?」
と大ちゃんが声をかけてきた。
「あ~宛名書きは終わって、後はメッセージだけですから持って帰って書きます。」
慌てて立ち上がり、化粧品カウンターの引き出しに名簿を戻しに行こうとした私の背中に、
「手伝うよ。とりあえず切手を貼ればいい?」
ゆったりと優しい大ちゃんの声がかかった。
「はい!貼り終わった!」
大ちゃんがまだメッセージを書いていない分のハガキも含め切手を貼り終わった。
「うっっ、ちょっと待って…」
「焦らなくていいよ。それとも急いで帰りたい?」
「あ、いや、特に…」
「そうか。なら自分のペースで書いて。さすがに化粧品のお客さんへのメッセージは俺は書けないから。」
大ちゃんは笑いながらそう言うと、自分も書類の様な物を広げて読み出した。
が、直ぐに、
「あ~ダメだ。ゴミ入ったかな疲れてんのかな。
目が痛い。」
ブツブツと言い出す大ちゃんの顔を見ると、なるほど目が赤い。
「コンタクト?外した方が良くない?」
「そうするか。メガネ好きじゃないけど。」
大ちゃんはそう言いながらもコンタクトを外し、リュックからメガネを取り出すとかけた。
「メガネかけた顔見るの久しぶりだな懐かしい。」
思わず笑みが出る。
「そうだっけ?いつだったかな?」
「確か…」
言いかけて少し躊躇した。
確か、初デートの時だったね。
遊園地に行って観覧車に乗って3on3のコートに行ってそして…
「ん?山田さんやユッキー達と初めて呑みに行った時かな?」
私の言葉を継ぐように大ちゃんが聞いてきた。
「ああ、うん。そうそう。
その頃だよ。楽しかったよね。」
大ちゃんが勘違いしているのを逆手に取り、曖昧に誤魔化した私の言葉に、
「ああ、山田さんが最高に面白かったな。」
と大ちゃんも思い出した様にクスリと笑い、しばらく懐かしい笑い話に花が咲いた。
「ユータンさ、ユッキー以外には目もくれないの分かるけど、私なんか完全にどうでもいい扱いだったから酷いよね。」
笑いながらそう言う私に、
「そうそう!山田さんは本当にユッキーのこと好きだったからなあ。」
大ちゃんも笑いながら相槌を打つ。
「だよね~大好きなの丸わかりだったもん。」
当時を思い出しウキウキと楽しくなる。
「あのさ。」
浮かれて楽しくなっている私に大ちゃんが急に真面目な顔で話しかけてきた。
「丸わかりと言えば、神田と松木さんってどうなってんの?」
「え?」
「いや、ちょっとスタッフから最近のあの二人は目に余るものがあると苦情みたいなのきてて…
まあ正確には松木さんの方が色々と2人の事を言いふらしているみたいなんだけど…何か聞いてる?」
あ~。
私は松木さんから聞いた深夜の電話の事を掻い摘んで大ちゃんに話した。
「それは初耳だな…」
大ちゃんは溜息混じりにそう呟く。
「えっ?他にも何か話してるの?」
「何かも何も2人で出かけたとか色々と言いふらしてるんだって。」
「えっ?でもそれは友達としてやましい事がないからじゃ?」
「あのさ、やましいやましくないじゃなくてそれを聞いた周りがどう思うか…だよね?」
大ちゃんの言葉はしごくもっともに思えた。
「う、う~ん、まあ、ね。出かけたって…何処に行ったんだ…ろうね?」
「ああ、新井が配属された新店に2人でちょっと顔出しに行っただけらしいけど。」
ああ。
二人とも新井くんとは仲が良かったもんね。
もっと凄い所に行ったのかと内心勘違いしてビックリしちゃったよ…
「それなら別に特に問題も無いんじゃない?」
「まあね、正直俺は仕事外で誰が何処で何しようとどうでもいいしさ。」
大ちゃんは少し肩をすくめて興味無さげに呟いたが、
「マッツンって前はそんな事をペラペラ言うようなタイプじゃなかったんだけどな?」
と自分に問いかける様に首を捻った。
「ほら、松木さんは既婚者だから皆に黙って行動して変に勘ぐられるのを危惧して…の事じゃないかな?」
私の言葉に大ちゃんは頷きつつもスッキリとしない顔をしていた。
勘のいい大ちゃんはこの時に何かを感じ取っていたのだろう。
そう。
この日を境に
少しずつ少しずつ彼女の様子が変わっていく。
今の私の持論は
「救いを求めて誰かにとにかくすがりたい人に徹底的に寄り添える覚悟がないなら、中途半端な優しさは見せない。」である。
冷たい人間だと思われるかもしれない。
でも、
中途半端に関わる事が相手にとってより残酷だと思うから。
場合によっては更に相手を追い詰めてしまうと思うから。
しかし、当時の私はそれが分からず、ただ人に優しくする事が思いやりだと勘違いして自己満足していた。
「最近、松木さんが全くやる気ないんだけど、ミューちゃんの方からも注意してもらえる?」
遂にパートさんから私の方へも松木さんへの不満の声がかかり出した。
「あ、うん。ちょっと仕事の様子みて注意すべき事があればさせてもらうね。」
「お願いね。皆が迷惑しているから。」
ふう…
そのパートさんが事務所から出て行った後、一気に気持ちが疲れた。
松木さん、どうしちゃったのかな?
前日の夕方の出来事をあらためて思い出す。
「ちょっと買い物のついでに来ちゃいました。」
前日の夕方、休みだった松木さんがフラリとバックヤードに顔を出した。
「あれ?うちでもお買い物?」
事務所に行きかけながらそう聞く私に、
「特に買い物はないけど、カンちゃん頑張ってるかな?って。
ちょっと冷やかしに来ました。」
松木さんはイタズラっぽく笑う。
え?
カンちゃんはこの日が初めての遅番シフトで色々と気忙しいから余裕ないと思うんだけど…
でもまあそんなカンちゃんを気遣って様子を見に来たのかもね。
好意的に考えた私は、
「カンちゃんは事務所で作業中だよ。」
と声をかけ事務所に入った。
「あっ、今日はもう上がるよ!」
事務所にはカンちゃんの他に早番の大ちゃんがいて、事務所に入った私にいきなりそう声をかけてきた。
少し慌て気味でそそくさと手元の荷物をかき集めカンちゃんに、
「入力完了した?」
と聞きながらその荷物をリュックに詰める。
なに?
入力って事は何かを社割で買ったのかな?
うちの会社には社員のために社割制度というものがあり、不正防止のために必ず他の社員に購入する商品をその場でデータ入力してもらい購入済み伝票を発行してもらう決まりになっていた。
焦る大ちゃんの態度につられ何気なく大ちゃんの手元を見ると、
数点の化粧品、生理用品等など…
えっ?化粧品?!生理用品?!
あっ…
これは見なかった事にしよう。
「お疲れ様です。明日も早番ですよね?明日は森崎さんが朝イチから来るとの事なので…」
さり気なく視線を逸らし、翌日の予定の話をしかけた途端、
「え~っ?!店長ってすっごく俺様キャラだと思ってたのに!
彼女?頼まれたんですか~?
化粧品とか生理用品まで買って帰ってあげちゃうんですか~っ?!」
私の後ろで少し大袈裟に驚いた様な松木さんの声がした。
「えっ?あ、ああ…
ちょっと…具合が悪いらしくて…
買い物にも行けないって言うから。
男の俺がレジで買うのもちょっと…」
大ちゃんが気まずそうにモゴモゴ言うのを見かねたのか、
「店長、今日大量に入荷した商品は売り場に大々的に展開して良いんですか?」
と、カンちゃんがさり気なく話題を変える。
「ああ頼む。加勢を助手にして今日中に出しておいて。」
「わかりました。」
カンちゃんは直ぐに立って倉庫の方に出ていく。
それで何となくその話は終わったかに見えた。
が、
「ふ~ん。でも社割で生理用品を買うのも恥ずかしいですよね。
具合が悪いって、私なら旦那に頼むなんて出来ないけどな。
絶対買ってきてくれないし。
それにちゃっかり高い化粧品も買わされてるんじゃないですか。
お金もらうんですか?」
松木さんがやや嘲る様に言い出した。
「別に。
面倒臭いしもらわないよ。」
「へえ、優しいんですね。
うちの旦那と大違い。」
松木さんのその言い方は羨ましいとか微笑ましいというより、少し馬鹿にした様な雰囲気があり、私は慌てた。
「松木さん!神田君に用があったんじゃない?
倉庫にいるうちに話してくれば?」
「そうですね。そうします。」
松木さんが倉庫の方にあるいて行くのを見送りながらチラっと大ちゃんの様子を見る。
大ちゃんはまるで何事も無かったかの様にリュックを背負うと、
「じゃあ帰るよ。お疲れ様。」
と倉庫とは逆方向の店内側から帰って行った。
ふう。
気まずかった。
やれやれとため息をつきながら大ちゃんが買っていた商品の事を思った。
彼女の具合が悪いからか…
大ちゃんらしいな。
住居探しの件といい、大ちゃんって彼女のためなら尽くすんだな…
……
「ミューさん!!」
突然、頭の上で声がし私は驚いて飛び上がった。
「うわっっ!ビックリした!」
振り向くと加瀬君が後ろに立っていた。
180cmを優に越した高身長で私を見下ろしている彼は威圧感が凄い。
「すみません。少しここに居ていいですか?」
加瀬君が少し懇願する様に言う。
「え?神田君の手伝いのことを聞いてない?」
「聞きましたよ。でも今は松木さんがベッタリくっついてるから。」
あ~。
「神田君を呼んで来るよ。」
「待って!」
倉庫に行きかけた私の腕を加瀬君が急に掴んだ。
えっ?
「少し話をしていっていいですか?
俺…またイライラしてて…」
…私は安定剤か?
まあそれで気持ちが落ち着くなら良いけど…
「いいよ、どうしたの?」
開いたままになっていた事務所のドアを閉めながらそう聞く私に、
「俺、松木さんって人嫌い…
いちいち癇に障る事ばかり言うし…
だからあの2人がイチャついてるの見たら殴りたくなってくるっていうか!!」
少し申し訳なさそうに話し出したものの、直ぐにイライラした様に加瀬君の語気が強くなりだす。
はあ…
熱くなり出してるよ。
これは水をかけねば。
「あのさ、加瀬君ももう18歳でしょ?
小中学生みたいなこと言わないの!」
「わかってます。だからこうやってミューさんに話して気持ちを…」
途端にクールダウンする加瀬君がなかなか可愛くて面白い。
「気に障ることって何か言われたの?」
シュンとした加瀬君に私は優しく声をかける。
加瀬君がいくら好き嫌いが激しくて怒りっぽくても何か理由はあるはずだ。
「特に何か言われたとかじゃなくて、話す事そのものが気に障るっていうか…何か色々全体的に無理っていうか…」
「はあっ?何も言われたわけじゃないのにそんな事を言うの?
松木さんはいい人だよ。
素直で可愛くて優しい人だよ。」
自分で聞いておきながら、加瀬君の松木さんへの気持ちを聞きついイライラしてムキになってしまった私に、
「可愛くて優しい?
まあ…ミューさんは松木さんと仲が良さそうですもんね。」
加瀬君は一瞬何かを言いたそうな素振りを見せたが、
「そうですね。松木さんは確かに悪い人ではないです。
僕が子供過ぎるって事です。
変な事を言ってごめんなさい。」
と素直に頭を下げた。
「あ~いやごめんね。そんなつもりじゃなくて…」
と慌てて謝るも加瀬君に、
「それはそうと、神田さんの助手って、僕は何をするんですか?」
と話を変えられてしまい、何かスッキリしないモヤモヤした気持ちだけが残ってしまった。
帰宅後も何となくモヤモヤが続く。
そうだ、優衣に電話してみよう。
何か胸がモヤモヤとした時は優衣に限る。
姉にまるで占い師か胃薬の様な扱いをされていつつも優衣は穏やかにアドバイスをくれる。
そういえば優衣って人の悪口言わないな。
私が大ちゃんの事でブツブツ文句を言っても穏やかに大ちゃんの良い所を挙げてアドバイスしてくれる。
私がどんなに否定的な事を言っても優衣は決して人を否定する様な事を言わない。
ユッキーと同じだな。
私の周りはイイコばかりだねえと今更ながら感心する。
案の定、電話に出た優衣は、
「どしたの?美優ちゃん。」
と穏やかな声を出したが、
私がサラッと松木さんの話をしだした途端、急に黙り込んだ。
「それでさ~加瀬君てば人の好き嫌いが激しいとこあるから松木さんへの決めつけがね~悩む所よ…ってあれ?
もしも~し!聞こえてる~?」
「聞こえてるよ。」
えっ!?
ゾッとするほど冷たい優衣の声。
「あの…ごめん…優衣?」
「美優ちゃん、私もその松木さんって人好きになれないわ。」
驚く私の声を無視するかの様に、優衣が更にまた冷たく言い放つ。
「あの…私、そんなに松木さんの事を酷く言ったかな?」
「言ってないよ。」
「松木さんとカンちゃんの事ならやましい事なんて何もないと思うよ?」
「わかってるよ。」
なら、なんで?
「美優ちゃん、これは私自身も何と言っていいのかわからないから上手く説明出来ないんだけど…
加瀬君の言葉を借りて言えば、何となく全体的に無理…と言ったらいいのかな。」
いつもは私の話の聞き役に徹する優衣が珍しく饒舌になる。
「私なら彼女には近づかない。
加瀬君と同じだね。
美優ちゃんも深入りしない方がいいよ。」
初めて聞く、優衣の人を否定する言葉に私は少なからずショックを受けた。
「優衣どうしたの?優しい優衣がそんなこと言うなんて。」
「美優ちゃん、私は大ちゃんと似てるって言ったよね?
私も好き嫌いが激しい方だし、自分の好きな人に害を及ぼしそうな人には徹底的に冷たいから。」
優衣は狼狽える私の声を無視するかの様に更にキッパリと言い切った。
「ねえ、〇〇の映画一緒に行けないかな?」
「〇〇の映画?そうだね~行きたいかも。でも…」
松木さんと2人で休憩中の昼休み。
松木さんからの突然の誘い。
〇〇とはその当時大ヒットしていた映画で興味はあったが、私は冷静に可能か否か頭の中で判断してみた。
夜なら良いけど…
夜に出歩けない松木さんは昼間希望だろうし、そうなると一緒に休みを取らないと…
無理だな。
私は早々と結論を出した。
今はカウンセリング化粧品を扱っている店舗は教育を受けさせた専門のスタッフがいたりする事も多いが、
当時は女子社員が各メーカーや自社実施の研修を受け、ビューティーアドバイザーを兼ねる所も多かった。
私も例に漏れず徹底的に仕込まれ
ビューティーアドバイザーを兼任していたが、私が休みの日には代わりの人が必要になる。
それが松木さんだ。
松木さんには接客に必要な程度の知識を詰め込み、私の休みの日の接客を何とかこなしてきてもらっていた。
私達が揃って休んだら化粧品の接客できる人いないもんね…
「ダメだよね~」
松木さんの言葉に苦笑いをする。
松木さんはあの倒れた日以来、急にぐっと距離を詰めてきて、店外ではタメ口で私への呼び方も田村さんから美優ちゃんになっており、
私も屈託のない明るさを持ちながらもどこか危なげな雰囲気のする彼女を放っておけずで、私達2人は急速に仲良くなっていた。
「美優ちゃんがダメならカンちゃん誘ってみようかな。」
「えっ?!そういうの…旦那さんに…あの…バレたら怒られない?」
松木さんの冗談とも本気とも取れる言葉に私は驚いて松木さんの顔を見たが、
「なんで~?1人で映画観るのつまらないからカンちゃんなんかでも居ないよりはマシって程度だよ?
旦那にも余裕で言えるよ~」
と松木さんに逆に笑われてしまい、
変な想像のし過ぎか~と恥ずかしくなった。
それにしても…
その言い方はちょっとカンちゃんが可哀想だよ?
私がそう言おうと口を開きかけた途端、
「カンちゃんってイケメンだよね、優しいし。でも…」
松木さんが何かを言いかけ出して急に口ごもる。
「でも?」
聞き返す私に、
「うん?いくらイケメンで性格良くてもそれだけじゃね。」
松木さんはそう呟くと、
「店長って〇〇の俳優に似てない?
私ずっとファンなんだよね。」
と軽く笑った。
「えっ?ファンって店長の?」
思わず聞いた私の言葉に、
「俳優さんの方だよ~。」
松木さんが、何言ってるのよ!と言わんばかりの調子で笑う。
そ、そうだよね。
「でも、店長って似てない?
私、前の店で初めて会った時から似てる~!って店長に言ってたんだけど。」
そう…かな?
目力強くてインパクトあるのは同じだけど…
「美優ちゃんていかにもお人好しって感じだよね?言われない?」
「えっ?まあたまに言われるけど…」
いきなりまるで違う事を松木さんに言われ驚く私に構わず、
「美優ちゃんてお人好しでちょっと要領悪くていつも店長をイラつかせてるじゃない?
きっと気が合わないから見てて余計イライラするんだろうね。
美優ちゃんももっとテキパキ動くとかせめて空気読めればイライラされないのに。」
松木さんはかなりキツイ事を冗談っぽくサラッと言った。
うっ。
松木さんの毒舌はいつもの事だ。
でも最近はその毒舌がシャレにならないくらいキツクなってきたと感じてはいたが本人に悪気は全くなく、言われていることは的を得ているので腹を立てる方が大人げない気もして私はそのまま黙り込んだ。
「私ね、前の店では店長と結構気が合ったのか直ぐに仲良くなったんだ。」
「そうなんだ。」
マッツンと呼んでいた大ちゃんの姿を思い出す。
「ゴミを捨てに行った時に、店長が先にいてゴミを捨ててたから、後ろから丸めた紙ゴミぶつけたらそれから紙ゴミのぶつけ合いになっちゃったりね。」
松木さんが懐かしそうに当時の事を話す。
なんか…楽しそう。
「あ、ねえ神田君と結局映画に行くの?」
これ以上、大ちゃんの話を聞くのは辛くなった私はカンちゃんの話題を持ち出し話の矛先を変えた。
「カンちゃん?そうねえ。
一緒に歩いてると周りの視線が痛いけど優越感には浸れるよね。」
「えっ?見た目だけ好きですっていう感じはちょっと…」
「やだ美優ちゃん、
私は正直な話、カンちゃんの見た目は全く好みじゃないんだよ」
「えっ?そうなの?ごめんね。」
慌てて謝り、
てっきりカンちゃんの見た目を好きで仲良くしているのではなく、人として好きだからという言葉が返ってくるものと思っていた私の耳に、
「私の好みは店長に似てるって言ってた
俳優の〇〇だから。」
と言う松木さんの言葉が深く突き刺さった。
「神田が入院する事になった。
退院しても多分会社を辞めるだろう。」
滅多にない2連休の翌日出勤時、
顔を合わせるや否や、大ちゃんが苦い顔をしながら私にそう告げた。
「そうですか。」
私は自分でも驚くほど冷静にその言葉を受け止めた。
カンちゃんは前の職場で腰を傷め、うちの会社に転職してきたのだが、うちの業務内容も体力を使うし腰に負担もかかる。
大丈夫なのだろうか?と心配はしていたが、生真面目で仕事に手を抜けない彼はつい頑張りすぎたのであろう。
それでもまだ早めに腰の具合を大ちゃんに伝えていればまだ何とかなったかもしれないが、何も言わず愚痴もこぼさず頑張り通し、
いよいよ隠し通せなくなった時には、
手術をしなければいけない程に症状は悪化していた、という事なのだろうと私は何となく推測した。
「もうあいつにはこの仕事は無理だ。
こうなる前にちゃんと報告し、病院で治療すべきだった。
それを怠ったあいつに同情する気はない。
いいか?これは他人事じゃないから田村さんにも言っておく。
自己管理は社会人としての最低限の常識だ。
それは絶対守れ。」
「.はい、わかりました。」
答えながら薄ら寒い物を感じる。
遊んでて悪化したわけじゃないのに、
頑張って頑張って、
きっと、弱音吐いちゃいけないと思って辛いのを言い出せなかったんだろうに…
そんな冷たい言い方って…
何度も言っているが、大ちゃんは人の心を読む。
思った事がすぐに顔に出るタイプの私の気持ちなど即座に読み取ったことだろう。
「返事だけで何もわかっていないんだな。」
大ちゃんは冷たくそう言い捨てると、その日はもう私に話しかけてくることは無かった。
カンちゃんが辞めうちの店舗は社員が3人になった。
この頃には会社が各地に新店舗を展開しており、社員の数が不足気味になったため、社員4~5人体制が一部大型店舗以外3人体制になってしまっていた。
それに伴い社員の出勤形態も変わり、
早番、遅番のみ。
社員の層が薄くなった分のフォローはパートさんに頼ることになる。
しかし、要のパートさんの1人の松木さんがその頃から更におかしくなりだした。
おかしいと言うと語弊があるかもしれないが、
仕事へのやる気が遂に全く感じられなくなり、人を不快にさせる言葉も増え、家庭の愚痴も延々と繰り返し周囲をウンザリさせているという、今までの彼女の通常状態とは言い難い話がポチポチと私の耳に入ってきた。
「完全に情緒不安定なんじゃない?
いきなり怒りだしたり、泣き出したり、せっかく話を聞いてあげてアドバイスしても全く改善しようとしてないしさ。」
パートさんが呆れた様にそう言うのを聞き、何とか彼女を救ってあげたいと思った私は、積極的に松木さんに関わりを持ち出し、私達はますますその仲を深めていった。
「綾ちゃん、カンちゃんとはまだ連絡取ってるの?」
「う~ん、たまに電話もあるけど、あんまり頻繁にできないし、もうどうでもよくなってきちゃった。」
「友達でしょ?どうでもいいなんて…」
「うん、でも年下の男の子には私の事なんて所詮分かってもらえないよ。
友達か。
私の事を受け入れてくれる人いないからよくわからないけど。」
少し自虐的に話す松木さんから寂しそうな空気がそこはかとなく漂ってくる。
「そんな…綾ちゃんの方が遠慮とかして心を開けないんじゃないの?」
「そうなのかな?
でも、私が近寄るとみんな離れて行っちゃう気がするんだ。」
自分が近寄るとみんなが離れていく?
「.綾ちゃん!私は離れないよ?
だからそんな寂しいこと言わないで!」
私の言葉に松木さんは少し意外そうに目を見開いたが、
「そう?じゃあ私のことイヤにならない?」
と何ともわからない薄笑いを浮かべる。
「うん、ならないよ。
なる理由なんて無いでしょ?」
「そう?じゃあ時々甘えていい?」
「勿論だよ!私なんかで良かったら甘えてね。」
「美優ちゃんてやっぱりお人好しだ。」
松木さんは少し皮肉な笑いを浮かべるとそのままふいっと何処か に歩いて行ってしまった。
カンちゃんの事があって以来、大ちゃんとはぎこちないままだった。
さすがに仕事の話はするが、雑談の類は一切しない。
今までは、私が折れて何だかんだと話しかけてまた元の鞘に戻り…を繰り返してきたのだが、松木さんの事で頭がいっぱいになっていた私には大ちゃんの機嫌を取る余裕もなく、
時々、ふと視線を感じると大ちゃんが何かを言いたげにこちらを見ていたり、周りを意味もなくウロウロする事にも一切気づかないフリをしていた。
そんなある日、
「私もうダメかも…
私を必要とする人なんていない…
私の居場所なんて何処にもない…
家族なんていらない…
疲れた…」
青ざめた顔の松木さんが今にも泣き出しそうな様子で言う。
「綾ちゃん、大丈夫?」
「ん。もう無理…
旦那の横暴な性格は直らないし、お義母さんは子供を自分の味方につけてるから、最近は子供も私に懐かなくなってる。
もう子供の事すらも可愛いと思えない。
家出たい…
もう何も要らない…」
「綾ちゃん!ね!今日仕事終わってから話す時間取れない?話そうよ?」
松木さんの呼吸がまた荒くなり出した様な気がして私は慌てた。
松木さんは黙って首を横に振る。
やっぱりダメか…
「ね?綾ちゃん、今ちょうど翌月のシフトを作っている最中だから店長に頼んで2人を一緒の休みにしてもらおうか?
それならゆっくり話せるでしょ?」
シフトは月終わりにギリギリに作成していたため、翌月までは数日しかない。
「月初めのこの日はどう?
今から3日後だし。」
言いながら、どうかシフトが完成していませんように!とひたすら心の中で祈る。
「うん、美優ちゃんと話したい。
でも…大丈夫?」
「うん!大丈夫だと思うよ!
店長っていつもシフトをギリギリまで作らないし。」
松木さんの嬉しさと不安の入り交じった顔を見てますます引っ込みがつかなくなった私は半ば願う様にそんな返事をした。
「うん、わかった。
仕事のふりして家を出るから、夕方まで時間作れるよ。」
松木さんがやっと穏やかな笑顔を見せる。
「うん。シフトの件は店長に頼んで来るから任せてね!」
そう虚勢を張ったものの、恐る恐る大ちゃんのいる事務所のドアを開けた私に、
「シフト出来たから渡しておく。」
と大ちゃんの淡々とした声と共に印刷されたばかりのシフトが私の目の前に突き出された。
「もう出来たんですか?」
「早い方が助かるでしょ?」
「あ~…」
いつもなら早くても明日の朝くらいなのに…
今更ながら大ちゃんとは全く噛み合わない事を実感しつつシフト表をチェックしていた私に、
「なに?何か休み希望でもあったの?」
大ちゃんが明らかに気を悪くした様な声を出す。
「あの、この日なんですけど…」
私が希望を出そうとしていた日のシフトは、松木さんが休みで私が出勤という形になっていた。
「この日?いいよ。俺が休みだから変わるよ。松木さんの休みも他の日にずらせばいいし。」
「いえ、あの、松木さんと…2人で休みを欲しいんですけど…」
「は?どういうこと?
化粧品販売できる2人が揃って店を放ったらかしで遊びに行きたいわけ?」
大ちゃんの背後から燃える様なオーラが発動しだす。
「いえ、あの、実は…」
その強烈なオーラに怯えながらも事情を説明する。
ダメかな。
考えが甘いかな。
更に気まずくなる事を覚悟しながら話し終えた私の耳に、
「そうか。ならいいよ。
話をゆっくり聞いてあげな。」
と思いがけない程に優しい大ちゃんの声が聞こえてきた。
「えっ?いいの?」
思わずタメ口になった私に、
「うん。実は松木さんの事は俺も気になってて1度本人と話をしようかと考えていたとこだったし。
先ずはミューズが話しを聞いてやってくれれば松木さんも俺にいきなり話すよりも話しやすいだろうし。」
大ちゃんが優しい笑顔でそう返してくる。
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
喜んで事務所を出ていきかけた私を
「ちょっと待って!」
と、大ちゃんが呼び止めた。
「2人で休みを合わせて会うことは周りには内緒にしとけよ。
あくまでも2人の休み希望が偶然に被った事にしとけ。
他のスタッフ、特にパートさん達はこんな風に誰かと休みを合わせて遊びに行くとか出来ないんだから。
ましてや、化粧品担当者が2人揃ってだから…な?」
はい。勿論。
私達が2人で休んだら、
「化粧品のお客さんが来たらどうするの?」
と沖さんが大ちゃんににブウブウ言うんだろうなあ。
でもそれを宥める役も引っ括めて許可してくれた大ちゃんに感謝しながら、
「うん!ありがとう!」
と笑顔で答えた私に、
「おう、頼む。」
と大ちゃんも笑顔を見せた。
「おはよ~!」
改札口を出た私をいち早く見つけ、松木さんが走り寄ってきた。
「ごめんね、待った?」
「ううん。予定より1本早い電車に乗れたから少し早く着いただけだよ。
それより、遠出させてごめんね。」
「大丈夫だよ。
とりあえずそこに入ろうか。」
家や職場の近くだと職場の人や松木さんのご家族に見られる可能性がある。
電車で20分程の市内まで足を伸ばし、
そこでランチ等をして話そうという事になっていた。
まだランチの時間には少し早いため、とりあえず座れる所と私が指した場所は、駅の構内の小さなセルフタイプのコーヒーショップ。
店外側に向いたカウンターと簡素なテーブルと椅子があるのみの店はあまり小綺麗な場所とも言いがたかったが、松木さんは嬉しそうに、
「こんな所に来るの久しぶり!
何にしようかなぁ。
美優ちゃんはなに?
買っておくから場所取りお願い。」
と、いそいそと券売機の方に向かって行った。
私が奥のテーブル席に座り待っていると、コーヒーを2つトレーに載せた松木さんがこちらに向かって歩きながら、
「お待たせ~!
ちょっとこぼしちゃったよ。
ごめ~ん!」
と屈託の無い笑顔を見せた。
「こぼした分はちゃんと弁償してよ?」
「え~っ?いくらなのかな?」
「高額だから24回ローンでいいよ。」
私の冗談に更に口元を緩めた松木さんがトレーをテーブルに置くや否や笑い転げる。
「あはは、おかしい。
涙出てきちゃった。」
「綾ちゃん笑いすぎ。
笑いのハードル低すぎだよ~」
「え~っ?そうかな?
普段楽しく笑うことがあまり無いから耐性が無いのかな?」
そっか…
綾ちゃん、普段はこうやって楽しく友達と出かけたり出来ないって言ってたっけ。
目の前の綾ちゃんが無性に可哀想で愛おしくてたまらなくなり、
「綾ちゃん、今日は何でも吐き出してよ?聞くからね。」
そう言う私に、
「うん。ありがとう。
美優ちゃん、あのね、ランチはどうするの?愚痴も聞いてもらいたいけど、美味しいもの食べて楽しい事もしたいんだ。」
松木さんは少し遠慮がちに希望を言う。
「うん。考えている店はあるんだ。綾ちゃんが良いならそこにしようかと。」
「えっ?どこどこ?
美優ちゃんのオススメのお店って何だか楽しみだなあ。」
松木さんは子供の様に目を輝かせ嬉しそうにはしゃいだ。
美味しいランチに楽しい会話、
ウインドウショッピング…
ふと気づくと空には真っ赤な夕焼けが広がっている。
「そろそろ帰らなきゃ。」
同時に腕時計を見て、同時に同じセリフを発した私達2人は顔を見合わせて笑ってしまった。
「ねえ綾ちゃん、今日あまり愚痴らしい愚痴を聞けてなかったけど大丈夫だったかな?
モヤモヤ溜まってない?」
のんびり散策していた中央公園から駅へ向かう途中、そう尋ねた私に、
「うん。大丈夫。
楽しいと愚痴を言う気も無くなるし、家の話なんかしたらせっかくの楽しい雰囲気台無しになるしね。」
松木さんはそう言うと、
「さっ行こっ!」
と軽く私の腕に自分の腕を絡めると
少し私に寄り添う様に歩き出した。
「またこうやって遊びに来れるかな?」
少し甘えた様に聞いてくる松木さん。
「う~ん、私と綾ちゃんが同じ店で働いてる限り厳しいかも…
今回も綾ちゃんを心配していた店長の計らいあっての事だし…」
私はそんな松木さんに今回2人で休みを取れた経緯を簡単に説明した。
「そうなんだ。店長そんなにこんな私に気を使わなくてもいいのに。」
松木さんが小馬鹿にした様にふっと鼻先で笑う。
んっ?
もしかして松木さんは大ちゃんの事をあまり好きではないのかな?
カンちゃんと仲良かったもんね。
カンちゃんは見た目も中身も大ちゃんとは逆だもん。
大ちゃんのタイプは松木さんにはちょっと無理かも。
その点、カンちゃんは優しい見た目そのままに穏やかでかなり優しい性格だ。
「やっぱりさ、店長に気を使われても何か怖いだけだよね。
これがカンちゃんなら自然なんだろうけど。」
ちょっと冗談っぽく笑いながら松木さんにそう話を振った私に、
「カンちゃん?誰それ~?
興味のない人の事は直ぐに忘れちゃうから覚えてな~い。」
松木さんは冗談とも本気ともつかない曖昧な笑顔を向けた。
「おはようございます…」
遅番の大ちゃんが淡々と挨拶をしながら事務所に入ってきた。
「あ、おはようございます。」
挨拶を返した私の顔を一瞥すると、
ぷいっと顔を背けそのまま書類ボックスを覗き込むようにゴソゴソ引っ掻き回しだした大ちゃんの態度を見て嫌な予感がする。
またか…
どう見ても私と顔を合わせたくないからだよね?
「店長、パソコン空きましたのでどうぞ。」
ピタッ。
本当にそんな音が聞こえて来そうなほど、瞬時に大ちゃんが書類ボックス内を引っ掻き回すのを止めたのを確認した私は黙って事務所を後にした。
はあ、やれやれ。
今回はなんだ?
確か、前回は自分が気に入らない取引先の人と私が仲良く談笑してたのが気に入らないからと半日拗ねられてたんだっけ。
今回はそれよりも長引きそうな顔つきだしなあ。
少なくとも今日は会話は無いな。
案の定、大ちゃんは私に全く話しかけて来ようとせず、私も黙々と店内で1日作業を終え、さてそろそろ上がりの時間だなとチラリと腕時計に目をやった瞬間、
「田村さん、ちょっといいかな?」
後ろから妙に暗い大ちゃんの声がした。
「は、はい。」
おそらく私の上がり時間まで悶々としながら待っていたのだろう。
何が原因かは分からなかったが、わざわざ私の上がり時間まで待っていたということは、話が長引くかもしれないという事が予想され一気に気が重くなる。
「こっち入って。」
大ちゃんに事務所に入るように促され、すすめられるまま椅子に座る。
やだな。
何の話だろう。
どうにも心当たりが無く、募る不安な気持ちに耐えられなくなり、
「あの…」
と言葉を発しかけた私の声に被せる様に、
「松木さんと遊びに行ったことベラベラ言いふらしてるんだってね?
聞いたスタッフ達が嫌な気持ちになるのもわかんない?」
大ちゃんが心底呆れた様にそう吐き捨てた。
「松木さんの相談に乗ってあげたいって聞いたから休み希望を受けたのに。
化粧品販売者が2人揃って居ない事を挙げて沖さんに文句を言われたら可哀想だからって、ユッキーがその日は2人の代わりにずっとうちの店で化粧品販売してくれたのに。
なのに、当の2人は散々遊びまわってたとか…
俺に嘘ついてまで遊びに行きたかった?
忙しいユッキーに迷惑かけてまで遊びたかった?
なら最初からそう言えば?」
一気にまくし立てる大ちゃんの顔色が怒りで赤くなっている。
「あの…ごめんなさい…
私…本当に松木さんの話を聞くつもりで…遊びに行くとかそんなつもりじゃなくて…
でも…松木さんを喜ばせたくて…
松木さん美味しいもの食べて…嬉しそうで…
いっぱい笑って…幸せそうで…
ごめん…なさい…」
大ちゃんの剣幕に怯えながらグチャグチャな答えを返し、
それ以上言葉が出なくなり俯いた私の周りの張り詰めていた空気が突然フッと少し緩んだ。
「いや、どんな形にしろ休み許可を出したのは俺だから休みに何をしようとそれは自由だ。でも…」
少し優しくなった大ちゃんの声に顔を上げると、
「俺を騙して遊びに行ったの?」
大ちゃんが私の顔を少し覗き込むように聞いてくる。
私は慌てて首を横に振った。
「わかった。信じるよ。
でも、何で他のスタッフ達に2人で楽しく遊んで来たよと言いふらしたんだ?
俺の気持ちや周りの気持ちを考えてくれてないのかと思ったら…」
「ちょ、ちょっと待って下さい!
さっきから出ている、皆に言いふらしたってどういう意味ですか?
私、誰にも何も話してません!」
私はここでようやく大ちゃんの話に反論した。
「どういうこと?
ミューズはパートさん達とも仲が良いから、つい浮かれて皆に話したんじゃないの?」
大ちゃんが全く納得していない表情を見せる。
「一体誰からその話を聞いたんですか?」
「えっ?!いや…まあ…忘れ…た…」
やっぱり…
沖さん確定だな。
でもとりあえず問題はそこじゃない。
「私がその人にも松木さんと遊び回ってきたとか何とか言いふらしていると聞いたんですか?」
「いや…他のスタッフから聞いたらしくて、美優ちゃんだけが特別扱いなの?と俺に苦情を言われたから、てっきりミューズが…」
「私、最初から遊びに行くつもりも無かったし、誰にも何も話してません!!」
泣きたくなってきた。
ただ、松木さんを心配して、
ただ、松木さんの喜ぶ顔を見たくて、
ただ、松木さんに寄り添ってあげたくて、それだけなのに…
なのに、
なんでこんな風に言われなきゃいけないの?
私がそんな人間だと大ちゃんに疑われていた事が何より悲しかった。
「もう2人で休みを取ったりしません。申し訳ありませんでした。
お先に失礼します。」
私は大ちゃんの顔を見ることも無く深々と頭を下げるとそのまま休憩室に向かった。
「あれ?姉さんまだいたの?」
「あっ!美優ちゃん!お疲れ様~。」
着替え終わり店の駐車場に出た私に、そこで談笑していたらしい牧田君とユッキーが口々に声をかけてきた。
「あれ?こんな時間にどうしたの?」
思わぬ所で出会ったユッキーの優しい笑顔に涙が出そうになり、
慌てて誤魔化す様にそう聞いた私に、
「明日本社に持っていく書類でもらい忘れた物があったから慌てて取りに来たのよ。」
相変わらずユッキーの話し方は穏やかで優しい。
「ユッキー、この前は私の代わりに化粧品の販売をしてくれてたんだってね。ごめんねありがとう。」
「ああ、それね。あれは…」
ユッキーが何か言いかけたが、涙を堪えきれなくなり、
「ごめん、ちょっと急ぐから帰るね。」
と足早にその場を離れた私の後ろから、
「美優ちゃん?…泣いてた?…」
とオロオロしたユッキーの声が聞こえた様な気がした。
早く帰ってシャワー浴びて1杯やりたい。
こんな日はお風呂でサッパリした後に冷たいビールでも飲んで好きな音楽ガンガン聴いて…に限る。
なのに、
こういう日に限ってバイクで来てないんだよなあ。
朝に結構雨が降っていたため、安全を考慮し電車+徒歩で出勤した事を後悔しながら、ひたすら駅への道を急ぐ私の携帯がいきなり鳴り出した。
「もしもし?」
「美優ちゃん!今どこ?」
電話の向こう側から少し焦った様なユッキーの声がした。
「え?駅の近くだけど…」
「まだ電車乗らないで!迎えに行くから。ご飯食べに行こうよ!
どうせ暇でしょ?」
ユッキーは最後の「どうせ暇でしょ?」をわざと強調しながら笑う。
ユッキーなりの気遣いと優しさだ。
私を心配してわざわざ話でも聞こうと思ってくれているのだろうに、わざと憎まれ口をきいて軽い感じで誘ってくれる。
「うん、まあ暇だけど…」
「じゃあ決まり!駅に着いたらまた電話するから!」
有無を言わさぬ慌ただしい声と共に切れた電話を握りしめ、
「おい、まだ行くとも何とも返事してませんけど?」
と電話に向かって文句を言ってみるも、気持ちは嬉しくて仕方なかった。
私にゴチャゴチャと考える余裕を与えないためわざと早く切ったな。
それくらいお見通しだよ。
ユッキー…
いつも、ありがとね…
駅に着き、10分も待たないうちにまた携帯が鳴った。
「着いたよ~、ロータリー横の駐車スペースに車停めてるから来て。」
急いでそちら側に向かうと、駐車スペースに停められているユッキーの車が見えた。
あ…
そこは…
大ちゃん…
大ちゃんと付き合っていた数年前。
私との待ち合わせの時に大ちゃんがいつも停めていた場所…
大ちゃん…
切ない様な、悲しい様な、腹立たしい様な、寂しい様な、
ふと胸に覚えた奇妙な胸苦しさを払う様に私はユッキーの車へと駆け出した。
「そかそか、誤解されちゃったんだ。大変だったね。」
美味しいパスタと可愛い手作りケーキが人気の小さなカフェ。
ユッキーがまるでお姉ちゃんの様に私の頭を優しく撫でてくれる。
「うん、話がいつの間にか広まってて大事になっちゃってさ、大ちゃん私の事を完全に疑ってるんだもん、ショックだったよ。」
怒りに任せてタバスコをふりかけ過ぎたパスタにむせながらブツブツ言う私に、ユッキーは終始優しい目を向けてくれていたが、
「大ちゃん、きっと今頃どうしようどうしようってパニックになってるんじゃない?」
とイタズラっぽい笑顔を見せた。
「え~っ?そんなことないよ!
私と松木さんが休みの日にユッキーが気を利かせてくれてた事だってしっかり嫌味言われたしさ。」
私のその言葉にユッキーは更に可笑しそうな笑みを浮かべると、
「その話なんだけどね、大ちゃんが美優ちゃんにどういう説明をしたのかは知らないけど、実はあの前日に大ちゃんから電話があって、ミューズの代わりに1日うちの店に来てくれないか?と物凄く頼まれて急遽お手伝いに行ったんだよ。」
と私の頭をポンポンと軽く叩いた。
「えっ?!ええっ?ユッキーが自分から言い出してくれてたんじゃないの?!」
「知ってたらきっと自分からも言ったと思うけど、店長の出勤予定表しかもらってないのに、他のスタッフのシフトなんて知りようもないでしょ?」
そりゃそうだね…
「大ちゃん必死だったよ~、
まあ私も元々その日辺りに行こうと思ってたからスケジュールをちょっとやりくりするだけで済んだんだけど、すっごく感謝されちゃってさ。」
「そんなに…化粧品販売する人欲しかったんだ…」
「半分当たり、半分ハズレ。
化粧品を販売する人は欲しかった。
でもそれはね、きっと美優ちゃんが後で沖さんに嫌味を言われたら可哀想だと気を使ってくれたからだよ。」
「沖さんに文句を言われたら可哀想だから…」
大ちゃんが怒っていた時の言葉を思い出す。
あれはユッキーが言った言葉ではなく、大ちゃん自身からの言葉だったのか…
「大ちゃん、美優ちゃんのこといつも結構気にしてるんじゃないの?
今日だって美優ちゃん帰った後に…」
プルルルル
突然ユッキーの携帯が鳴りだし、
「おっ、早速かけてきたかな?」
とユッキーは意味ありげに笑い、電話に出るために店の外に出て行った。
出ていくユッキーの後ろ姿を見送った後、私は少し手持ち無沙汰気味に窓の外を眺めた。
窓の外には小スペースのオープンテラスがあり、誰もいない空間が静かにライトアップされて浮かび上がっている。
とそこに、外に出て電話で話しながら歩いてきたユッキーが、私のいる窓の近くにある椅子に座った。
ユッキーは私の視線にすぐに気づくと
、「早く食べちゃって!」と言うようにゼスチャーで合図をしてくる。
ん?
なに?
なに?
訝しげに思いながらも、言われた通りに急いで食べ終えた私の様子を見ながらユッキーが電話の相手に何かを言っている。
なに?
私に関係あるのかな?
私は2人分の荷物と伝票を持って立ち上がり会計を済ませると、外に出てテラス席側の方へ歩いて行った。
「うん…ちょうど美優ちゃん来たから…
あ、うん…わかった。じゃ…」
私の気配に気づいたユッキーはすぐに電話を切り、
「さて帰ろうか。」
とニッコリ笑った。
「え?ああ、うん。
あの、電話って誰からだったの?」
「ああっ!ごめん!お会計してくれたんだよね?」
「え?あ、うん。電話…」
「ごめんごめん、いくらだった?」
「いや、今日は話を聞いてくれたお礼にご馳走するよ。
それよりも電…」
「そお?じゃあ遠慮なくご馳走になるね!ありがとう!」
「あの…で…」
「ほら!早く乗って!置いてくよ!」
ユッキーがさっさと車のドアを開け、
私にも早く早くと促す。
電話の件は触れられたくないのかな?
私の名前が出てるのが気になるんだけど…
しかし、あまりにもあからさまに白々しく話を逸らされ続け、流石にこれは聞かない方が良いのだろうと私は質問をするのを止めた。
「え?あれ?私の家なら右に曲がった方が良かったんだけど…」
また来た道を戻る様にハンドルを左にきったユッキーに、私は疑問の声をあげた。
「うん、いいんだよ。〇〇駅まで送るから。」
「え?何の冗談?そこまで戻るよりも私の家の方が近いってば!」
私の声を無視する様にクルマは走り続け、
「着いたよ。」
と言われた場所は本当に〇〇駅のロータリーだった。
2月14日になると思い出す。
正確には、バレンタインデーでの出来事ではなかったのだけど、
それでもチョコをプレゼントする=バレンタインデーのイメージが強いのか、
何となく毎年思い出すので、番外編としてその話を書こうと思います。
「ね?唐辛子入りのチョコって知ってる?美味しいらしいよ!」
大ちゃん、ユータン、ユッキー、私の4人がまだ同じ店舗で働いていた頃、
ユッキーと2人での休憩時、
どこからそんな情報を仕入れてきたのか、ユッキーが目を輝かせて私にそう告げる。
「なにそれ?どこに売ってるの?」
「わかんない。ちょっと噂で聞いただけだし。
食べてみたいのに残念だなあ。」
ユッキーがいかにも残念そうな顔つきで言う。
ネットで何でもすぐに買える現代と違い、1990年代前半のその頃の私達にはネットで欲しいものを買うという発想がまるで無かった。
そっか~。
でも私もちょっと興味出てきたかも?
「ね?買えそうにないなら、自分達で作ってみない?」
「えっ!自分達で?それいいね!面白そう!!」
ユッキーの目が俄然輝き出した。
「よし!決まり!じゃあ明日はちょうど2人揃ってお休みだから、買い物行って私の部屋で一緒に作ろう!」
「わあ!楽しみ~!」
「だよね~!ね?大ちゃんやユータンにもプレゼントしてあげちゃおうか?」
「いいね~!美味しすぎて感涙されちゃったりして~!」
「えっ?なに?なに?俺がどうしたの?」
休憩室の戸を開けたまま、2人でキャッキャッと喜んでいる声が外まで聞こえたのか、ユータンがヒョイと休憩室に顔を覗かせた。
「あっ!ちょうどいいとこに来た。
ねっ、ユータン明日は中番で大ちゃんが遅番でしょ?
良かったら閉店後に4人でご飯食べに行かない?」
「おっ!いいね~、じゃあ俺仕事終わっても適当に時間潰して待ってるよ。
大ちゃんにも言っとく。」
ユータンが嬉しそうに大ちゃんのいる店内に向かったのを見た私とユッキーは何だか楽しくなり、顔を見合わせて笑った。
「ねえ、レシピってわかんない…よね?」
2人で出かけたスーパーの製菓材料コーナー。
ユッキーが悩み顔で言う。
う~ん…
食べた事があれば、想像で何とか近い物に仕上げる事も出来そうだけど、
全く味も知らないのにどうやって作るつもりだったんだ私達?!
と…いう問題に今更ぶち当たる。
「唐辛子チョコでしょ?
唐辛子をチョコに混ぜればいいんじゃないの?」
シンプルと言えばシンプル、アホと言えばアホな意見を真面目に述べた私に、
「そうだよね!さすが美優ちゃん!
頼りになるねっ!」
と、たまにいささか残念気味なユッキーがひとしきり感心した様に頷く。
早速「材料」を買い揃えた私達は、
ショコラティエよろしく気取った様子で私の家のキッチンに立った。
ショコラティエ達が挑戦するスペシャルチョコは、
①削ったミルクチョコレートに少し温めた生クリームを適量注ぐ。
②唐辛子(瓶入りの一味唐辛子使用)
を適量入れ混ぜ合わす。
③1口サイズのハート形アルミケースに流し入れ、ある程度冷ましたら冷蔵庫で冷やし固める。
出来上がり。
の予定。
「んっ?あんまり辛くないっていうか、唐辛子の存在感が意外とないね?」
チョコを溶かしたガナッシュに唐辛子を混ぜ入れていたユッキーが首を傾げる。
「足りないんじゃない?
もっと入れてみたら?」
「う~ん、結構振り入れてるんだけどな…
瓶を振り過ぎて手が疲れちゃったよ。中蓋開けて入れようかな?…
アーーーッ!!!」
ユッキーの突然の叫び声に驚いて振り向くと、ボールに入ったガナッシュの上にまるで「お約束」の様に丸々1瓶分の一味唐辛子が乗っていた。
オーマイガーーーッ!!!
「ふ、蓋がなかなか開かなくて…
思い切ってエイッ!ってやったら中身が飛び出して…」
と、うなだれながらユッキーがこれまた「お約束」の言葉を吐く。
「だ、大丈夫だよ。
混ぜたら案外辛味もマシになると思うよ。」
ユッキーをなだめるべく慌ててかき混ぜ、混ぜ終わった所でふと気づいた。
スプーンで一味唐辛子を取り除けば良かったんじゃ…
時すでに遅し。
後の祭り…
※覆水盆に返らず
起きてしまった事は元には戻らない。
※唐辛子瓶に戻らず
混ぜてしまった一味は瓶には戻らない。
諺というものは、実生活に密着しているものなんだなと痛感した一瞬だった。
不安しか無かった唐辛子チョコの見かけの出来栄えは予想以上に良かった。
…と、私は「個人的に」思った。
程よく混ぜた生クリームのおかげで生チョコよりもやや固め程度に仕上がったその中に、唐辛子がまんべんなく混ざり込んでいるのだが、
これがどことなく夜空に散りばめられた満点の星をイメージさせた。
うん。
意外にキレイ。
それに星空をイメージ出来て何かロマンチックだし…
赤は火星。
オレンジは金星かしら…
うっとりとチョコに見とれる私の横で、
「なんか全体にザラザラしてるし、いかにも唐辛子まみれって感じだよね。辛そう~…」
とユッキーが身も蓋もない現実的なセリフをのたまう。
「いや意外にオシャレな見た目じゃない?」
「そ、そうかな?」
ユッキーの目が何かを言いたげに泳いだが、
「美優ちゃんが言うなら間違いないね、よしっ!ラッピングしよっか!」
と、素早く気持ちを切り替えたのかいそいそとラッピングの作業にとりかかり、
「できた~!」
と出来上がった物は、
チョコを小さなハート柄の小箱に配置良く均等に並べ、その小箱をフワフワの不織布で包み、カーリングリボンをかけてアクセントに小さな薔薇の蕾の造花を添えた、なかなかに手の込んだラッピングであった。
化粧品販売のための勉強会等に参加していると、こういうラッピング技術も教わったりするのである。
「可愛いね~バレンタインチョコみた~い!」
チョコの出来栄えを見た時の異様に低いテンションから一転、ユッキーが少し興奮気味にはしゃぐ。
うんうん。
確かに予想以上に可愛く仕上がった。
「じゃあ、閉店までまだ時間あるけど、どうせ中番のユータンが暇してるだろうからそろそろ店にいこうか?」
「は~い!ねっねっ何食べに行く?
ご飯食べた後に2人にチョコあげよ~ね!」
「うんっ!そ~だね!何食べに行こうかな~」
ラッピングの可愛さとこれから皆で味わう未知の味の期待に心を踊らせながら私はユッキーの車に乗り、ユータンと大ちゃんの待つ〇〇店へと向かった。
「お疲れ様~」
「あ、ちょっと待ってて。」
店の事務所を覗くと、パソコンで何やら入力作業中だったユータンが振り向きもせずそのまま返事をした。
が、
「ん~?まだ仕事してるの?」
私の後から事務所を覗き込んだユッキーの言葉に、
「いや、もう終わるからミューズと食事に行く店決めといてよ。」
と、ユータンは手を止め振り向くと、ユッキーに向かって優しく微笑んだ。
おいこら~!
毎回毎回ユッキーと私への態度がまるで違うのはど~ゆ~ことだよっ!
ま~ったく、唐辛子チョコにタバスコクリームでも忍ばせてやろうかしら…
そう思いつつも、何故かユータンには本気で腹が立たない。
だって、ユータンは本当にユッキーの事を好きなのがわかるもん。
ユッキーの手作りチョコなんて食べたら嬉しくて嬉しくて涙が止まらなくなるかもねフフッ
自分の想像で勝手にニヤニヤしている私の横で、
「なによ~!人任せなんだから~、
焼肉にしちゃうよ~?」
ユータンに対してはいつも強気なユッキーがちょっと強めにブーブー言うも、ユータンは嬉しそうに笑うとまたパソコンの方を向いてしまった。
「うん、わかった。じゃあ休憩室で待ってるね。」
私はユータンの後ろ姿にそう返事をすると、
「まったく~」
ブツブツ言うユッキーを先に休憩室に行かせ、店内の化粧品カウンターコーナーに行くと、引き出しからサインペンと小さなハート型のPOP用カードを取り出した。
せっかくプレゼントするんだから、メッセージカードくらい添えなきゃね。
「お待たせ~!ね?チョコにメッセージカード付けようよ。」
休憩室に戻り、そう言いながらバッグからチョコを取り出した途端、
「お?なに?なに?それ?」
と背後から、ものすご~く期待に満ちたユータンの声がした。
「わわっ!」
焦ってチョコを隠そうとするも、
「なにそれ?俺にくれるの?」
人当たりが良く愛されキャラのユータンは、プレゼントは貰い慣れているらしく、冗談めかしながらも自然な態度で私の手からチョコの箱を取り上げたが、
「それ、私とユッキーの手作りチョコだよ。」
と言う私の言葉に瞬時に固まった。
「ユッキー…の…手作り…だ…と?」
…おい、どうでもいいが「ミューズと」の主語が抜けとるぞ?
「ば、ば、ばれんたいん…かな」
…おい、夏だぞ今は。
その上にバレンタインの発音が物凄くおかしい。
「ばばばれんたいん」とか、新しい夏の行事か?
私の真冬のブリザードの様に冷ややかな目とは対照的に、ユータンの目は真夏の太陽の様にギラギラしている。
「ちょっと…食べていいかな?」
「ダメだよ~!!」
ここでようやく呆気にとられていたユッキーが我に返り反対の意を唱えた。
「ぐえ~っ!!!」
余程食べたかったのか、ユータンが瀕死のアヒルの様な声を出す。
「もう見つかっちゃったんだしいいんじゃない?
私達が食べようと思っていた箱を開けよ?」
私は自分とユッキー2人の味見用のチョコの箱を取り出しながらそう言った。
「それは嬉しい!せっかくユッキーから貰った手作りチョコは観賞用に置いておきたいし。」
とユータンが何かのコレクターの様な事を言い出す。
…って、おい、「ミューズと」の主語が抜けていると何度も…
「じゃあ早速食べるよ!
いただきま~す!」
私の抗議の目をものともせず、
私の手から半ばひったくるようにして箱の蓋を開けたユータンは、
「わあ、チョコレートに何かがいっぱい散りばめられてて綺麗なチョコだね。」
とうっとりしながら口に入れた。
…ちょっと…やだわこの人。
感性私と同じとか勘弁してほしい…
「ねっ?どう?美味しい?」
待ちきれない様に味の感想の催促をしたユッキーにユータンは、
「.うん!何かこれジャリジャリしてるけど、それもアクセントになって美味い!!!」
と叫んだ後、急に、
「ぐえっはおっはひ~!!!」
とこの世の者とも思えない声を発してもがき苦しみ出した。
「辛っ!辛っ!何いれたの!ミューズ!!!」
何って唐辛子だけど…
ていうか、そういう時だけ「ミューズ制作」にスイッチするのはやめんか。
「唐辛子チョコっていうのが美味しいって聞いたからミューズと作ってみたんだけど、美味しくなかった?」
ユッキーが身体を震わせながら聞く。
「あ、いや美味しいのは美味しかったよ。ただちょっと唐辛子入れすぎじゃない?
あまりの辛さにビックリしただけ。
心配しないで?」
そんなに俺の事心配してくれたんだぁ。
でも大丈夫だよっ!
と言わんばかりに、ユータンはまたチョコを口に入れながら無理矢理笑ってみせた。
馬鹿め…
ユッキーが震えているのは、「心配し過ぎ」だからじゃなくて、
「笑いをこらえ過ぎ」だからだわ。
激辛チョコ食べて早よ目を覚ませ…
「これ味見したの?」
心の中でユータンを罵倒していた私にいきなりユータンが鋭い所を突いてくる。
「うっ…いや、まだ…」
「とりあえずミューズ達も食べてみなよ?
どうせ大ちゃんにもあげるつもりなんでしょ?」
それはごもっともだが、涙をポロポロ流しながらそれを言うユータンの顔を見てるとどうにも手が出ない。
「ねえ、それよりも…なんで…泣いてるのかな?
ユッキーの手作りで感動しまくって…
じゃ…ない…よね…?」
「アホっ!」
ユータンはぐちゃぐちゃな泣き笑いの表情のまま私達にチョコを食べる様に促した。
うっ、
仕方ない。
食べるか…
恐る恐る少しかじってみると、意外や意外、
あ…悪くない。
唐辛子とチョコが意外に合うことを初めて知る。
「あれ?案外いけるんじゃない?」
残りを口に放り込み、ユッキーに話しかけた瞬間、
それは猛烈に襲ってきた。
「辛っ!!やばっ!これ後で来るよ!」
慌ててユッキーに注意したが、ユッキーは既に号泣している。
「俺、ちょっと慣れたわ。」
相変わらずポロポロ涙をこぼしながらユータンがうそぶく。
「とりあえずこれどうする?
大ちゃんにも渡す?」
私の言葉に涙を流しながら頷く2人。
「じゃあメッセージカード書こうっと。喜んでくれるかなぁ。」
喜びより発狂のリスクの方が高めだが、
「大ちゃんにも食べさせてあげたい…」
その思いをどうしても抑えきれず、
私は込み上げる涙と鼻水をそっとティッシュで押さえながらサインペンを手に取った。
「大ちゃんへ
頑張って作った手作りチョコです。
食べてね。
ユッキー、ミューズ」
うん、これでいいかな?
頑張って作ったというより、頑張って食べる必要があるチョコです。
が真実なんだけど、それではあまりにも色気ないしね。
「んん?私の名前はいらなくない?」
ユッキーが私の手元を覗き込み、そう言いながら「書き直せ」と言わんばかりに新しいカードを私の目の前に置いた。
「えっ?なんでよ?2人で作ったじゃない。」
「いいの、いいの。
黙ってミューズからって事にしときなって!喜ぶから。」
「そう?なら、そうしようかな。
じゃあついでにキスマークとかも付けちゃったりしよかな。ププッ」
「お~っ!!いいね!やりなよ!」
私の冗談にユータンが即座に食いついてきた。
「やだよ。冗談だよ。そんな事したらその場で投げ捨てられるし恥ずかしいよ。」
「なんで?全くミューズは分かってないなあ。大喜びで持って帰るから喜ばせてあげなって!若いアイツに…(以下自主規制)」
ユータンの私への説得が何だか変態じみている…
「やだ~ユータン変態~!」
ユッキーが半分引いている。
「なに言ってんだ?!二人とも男の気持ちが分かってないだろ?
この前、大ちゃんと話した時に、
ミューズの事を…(自主規制)(自主規制)(自主規制)って言ってたぞ?」
ユータンの私への説得?が完全に変態化していて目眩がしてきた…
「げげげげっ、大ちゃんたらミューズの事をそんな目で見てるんだ…」
ユッキーが完全にドン引きしている。
「若い男ってそんなもんだよ?キスマークあげなって!喜ぶから。」
自分もまだ20代前半のユータンが何故かしたり顔で頷きながら言う。
「ねえ、ならさ、ユータンがキスマーク付けてよ。
私は絶対嫌だから。」
私の提案に嫌がるかと思いきや、
「おうっ!それ面白そう!」
と何の躊躇も無くユータンが即座に食いついてきた。
「大ちゃんへ。
一生懸命作りました。
食べてね。 ミューズ。」
よし書いた。
わざと字を小さくカードの上部の方に固めて書き、下部に余白を残す。
そこに口紅を付けたユータンが
「チュッ!」
と軽くキスをした。
「うわっ、気づかなかったけど、こうやって見るとユータンって形の良い唇してるんだね。思わず食べたくなる唇って感じ。」
ユッキーが無意識に小悪魔的なセリフを吐く。
「うほっ、そ、そう?
実物はどう?ね?どう?」
「ほらっ!そろそろ閉店作業の時間だよ。大ちゃん来る前に早く行く店決めようよ!」
案の定、調子に乗ってユッキーに向かって顔を突き出したユータンを引き戻し、あれやこれやと希望を出し合った結果、ユッキーおすすめの個室焼肉屋さんに決定した。
「あれ?もう3人とも来てたんだ。」
私とユータンとユッキーによる
「三者会議」も無事終わり、チョコを再びバッグにしまい込んだ所に、大ちゃんがひょっこり休憩室に入ってきてそう声を掛けてきた。
「あ、うん。もうお店も決めたよ!
焼肉でいいよね?」
私の言葉に、
「うん。焼肉好きだし。
それに…俺どこだっていいよ。」
みんなと一緒ならどこだって嬉しいと言わんばかりに満面の笑顔で答える大ちゃん。
まるで嬉しくて尻尾を振りまくっている子犬みたいだ。
こういう時は可愛いんだけどなあ。
「大ちゃん、そろそろ閉店作業だろ?
手伝うよ。」
ユータンが立ち上がり大ちゃんに笑いかける。
「あ、いいっすよ!僕らでさっさと片付けてきます。」
「いいって、いいって。」
「すみません。」
そう謝りながらも大ちゃんはとても嬉しそうだった。
「大ちゃん嬉しそうだね。」
2人が休憩室から出ていく姿を見送りながらユッキーに話しかけた私に、
「もしかして大ちゃんは、私達3人の中ではユータンの事を1番好きなのかもしれないね。」
とユッキーは優しい笑顔で答えた。
「さて~、そろそろ〆のデザートにいきますか?」
焼肉をタップリと堪能し、そろそろ甘いものが食べたいよねという雰囲気が流れ出した頃合をみて、こう切り出した私に、
「あ、私バニラアイス~」
「じゃあ俺は抹茶アイス。」
ユッキーとユータンが待ってました!とばかりに即答してくる。
「私はストロベリーにしよっと。
大ちゃんは何にする?」
「俺はいいよ。甘いものあまり好きじゃないし。」
私の質問に大ちゃんは、
甘いものはちょっとなあと言う風に少し顔をしかめて見せた。
「えっ?そうなの?アイス美味しいのに~」
そう言いながらアイスを注文し、
ここではっと気がついた。
チョコレート!!
「あの!大ちゃん!チョコレート食べない?」
慌ててバッグからゴソゴソとチョコレートの箱を取り出す。
「えっ?!なに?これ俺に?」
「あ、うん。メッセージカードもあるんだけど…
甘いもの…好きじゃないんだよね?」
「数個でしょ?楽勝で食べれるよ!!」
満面の笑顔でそう言いながら素早く箱を開けた大ちゃんは、
「ん?これ何か混ざってる?
いっぱいツブツブが見えるけど。」
と私に箱を差し出しながら聞いてきた。
「ぶぶっ、ぐぶっ…」
テーブルを挟んだ斜め前のユータンが奇妙な声と共に真っ赤な顔をして笑いを堪えている。
その隣に座っているユッキーに至っては、
「早く食べさせろ、早く食べさせろ。」
と言うようにチラチラ上目遣いで合図を送ってくる。
この2人ってば…
「あのね、これ唐辛子入りなんだ。
そこそこ美味しく出来たけど割と辛いんだよ。
辛いのダメだったっけ?」
つい先程までチョコを食べさせる事にワクワク感を覚えていた私も、いざ土壇場になると怖気づきひとまず予防線を張った。
「この意気地無しっ。」
向かい側の2人の心の声が聞こえてくる。
あんたら~…
「なに?3人で変な顔して。」
不審に思ったのか、大ちゃんは手に持っていたチョコの箱をテーブルに置いてしまった。
あああ~っ!!
勝手なもので、あれだけ食べさせる事に躊躇していたものが、いざ食べないとなると何としてでも食べさせたくなる。
「えっ?!食べないの?」
必死でそう聞く私に、
「俺って慎重派だから。」
と大ちゃんはすまし顔で答え、チョコの代わりにメッセージカードを手に取った。
「大体さ~、チョコに唐辛子とか
なんなの?絶対不味そう。
イタズラっぽいから止めとく。」
大ちゃんは、「その手には引っかかりませんよ~」的なニヤニヤ顔で手に持ったカードの方に視線を落とす。
ちいいいいいい。
「騙されたと思って1個くらい食べてみてよ~」
「そもそも何でそんなもん作ったの?
そんなの食べようと思うなんて趣味悪~!悪食なんじゃない?」
「ん~っ!んんんっ!」
私の向かい側にいる、言い出しっぺの「悪食女」が妙な咳払いをする。
が、大ちゃんはカードに気を取られているのか気づいていない様子で、
「これってミューズが書いたの?」
と真顔で聞いてきた。
「あ、うん。なんで?」
「いや、あの、この、何か口の形のやつって…これも…?」
口の形のやつ???
「これ…」
大ちゃんはカードのキスマークを少し恥ずかしそうに指さした。
「えっ?あ、えと…」
返事に困り俯いた私の姿を見て、
「何かを察した」大ちゃんは、
「あはは!そうなんだ!綺麗な色の口紅だな~、ミューズらしい色だよな~面白いこと考えるな~。
ありがとう。じゃせっかくだから頂きます。」
と大事そうにリュックの前ポケットにカードをしまい込んだ。
おいっ、持って帰る気だよ。
持って帰って何する気だよ…
ユータンに散々変な話を聞かされたせいか、私とユッキーの脳裏に咄嗟にその疑問が浮かぶ。
「ん?なに?」
大ちゃんが妙に機嫌の良い声を出す。
「えっ、あ、あの…チョコは?」
まさか、「あんた!そのカード持って帰って舐め回すんじゃないだろ~ね?!」
と考えてたとも言えず、慌てて誤魔化すように聞いた私に、
「ああ、せっかく作ってくれたもんな、食べるよ。」
と、さっきとは打って変わった上機嫌な様子で、大ちゃんはポイッとチョコを口の中に放り込んだ。
「ん?う~ん。
何か食感がショリショリしてる…
これ唐辛子?どれだけ入れたの?!」
「え…1瓶丸ごと…」
「マジかよ、狂ってるな。
あ~でも悪くは無い。
ちょっとピリっと来るのがアクセントになってて。」
……
…ちょっと?
「え?!(辛くて)泣きそうにならないの?」
「泣く?泣く意味がわからないけど?」
そう言いながら、大ちゃんは残りのチョコを次々に口に入れた。
その激辛チョコを何の反応も見せず次々に食せるアナタの味覚の方が余程意味わからないけど?
大丈夫か?
本当に人間なのか?
「ん。まあそこそこ美味しかった。
ご馳走様!」
いささか引き気味な3人の様子を気にすることも無く、あっという間に完食して満足気な大ちゃんに、
「あ、大ちゃん。
さっきのカードなんだけど…
持って帰るの?」
ずっと呆気に取られたようにポカーンとしていたユッキーがここでようやく口をきいた。
「うん?せっかく書いてくれたし…」
大ちゃんが心なしか少し顔を赤らめながら答える。
や~め~ろ~!!
何故そこで赤面する?!
異様に引きつる私とは逆に、
ユータンが謎の喜びの表情を浮かべる。
「あのっ、大ちゃん、キスマークなんだけどさ。誰が付けたかわかる?」
耐えきれなくなり、冗談めかしながらも暴露に踏み切ろうとした私に、
「えっ?ミューズじゃないの?
じゃあユッキー?」
大ちゃんが少し意外そうに驚く。
「この中の誰かだよ~」
イタズラ好きのユッキーがわざとからかうように焦らす。
ユータンはますます謎に嬉しそうだ。
「え~?何だよそれ~」
と言いながらも大ちゃんの顔はますます赤らみ「笑み」が一面に浮かんでいる。
ダメだ。
完全に喜んでいる…
「あのっ、これね、付けた犯人は、
実はユータンで~す!!
ははっ、私達ホント馬鹿なことしてるでしょ?」
やはり真実は伝えた方が…
大ちゃんがあのカードに何をしでかすか分からないし…
今思えば完全に大ちゃんを変態扱いしており、我ながら相当失礼な奴だったなあと思うのだが、その時の私は
「ユータンと大ちゃんの間接キス」を阻止するのにとにかく必死だった。
「………えっ?」
大ちゃんの反応は意外にも静かだった。
何か派手なリアクションをするかと思いきや、彼はその一言を発した後、静かにリュックからカードを取り出した。
大ちゃんはカードの端をそっとつまみ上げるとユッキーの目の前に置いた。
「あげる。」
「ええっ?!なんで~?!」
突然の事にユッキーが怯む。
「いらないから…」
遠い目をして大ちゃんが呟く。
「ええっ?!こんなのもらっても困る…」
こんな…の…?
ユータンの眉がピクリと動く。
「ちょっと大ちゃん!せっかく美優ちゃんが書いてくれたのに~私にくれてどうするのよっ!」
以前にも何度か書いたが、ユッキーは真面目モードや真剣モードの時には私をミューズではなく美優ちゃんと呼ぶ。
つい先程までは散々私をミューズ、ミューズと呼んでいたのに急に「美優ちゃん」に切り替わったって、どんだけ嫌なんだよ…
「だってホントにいらない…」
しかし、そんなユッキーの抵抗も無視するかの如く、
虚ろな目をして大ちゃんが呟く。
ホントにいらない…だ…と?
ユータンの眉が悲しげに下がる。
そんなユータンの微妙な表情の変化に全く気づくことなくカードを押し付け合う2人。
止めて、
もう止めたげて。
ほら、ユータンが引きつってる…
「あの…ユータン…」
いたたまれなくなりユータンにそう声をかけたのと同時に、
「大ちゃん!それはちょっと酷いんじゃないか?!」
と、それまでずっと押し黙っていたユータンが少し憤慨した様な声を出した。
おわっ、ユータン?
汚い物扱いされて怒っちゃったかな?
そう思う間もなく、
「俺のキスマークが嫌ならそれでいい!だが!ミューズがせっかく書いたメッセージを無下にするのはどうなんだ?
ミューズのメッセージも嫌ということなのか?!」
と、ユータンがカッコ良いんだか悪いんだかなセリフを吐いた。
「えっ?!ミューズのメッセージだけなら全然嫌じゃないですよ?」
正直者の大ちゃんがこれまたどストレートにとどめを刺す。
「おっ、おおっ、そか、そうなの…か…なら良かった…良かった…」
ユータンはウンウンと頷きながらそっとカードをポケットに入れた。
わあ…
結局カードは悲しみ溢れるユータンが持ち帰ったが、チョコとカードを結局どうしたのだろう。
その後ユッキーと付き合い、別れ、更には長く音信不通になっていたユータン。
些細な事だが何となく聞きそびれたまま、バレンタインが来る度何となく思い出す事を繰り返し…のまま、
今年でもう26年目になる。
チョコ&メッセージカードの思い出が長引いてしまいましたが、また本編に戻りたいと思います。
ユッキーとの食事の後、
当然私の家に送ってくれるかと思いきや、ユッキーの運転する車が着いた場所は〇〇店の最寄り駅というまさかの逆戻りに私は驚いた。
「えっ?ええっ?!〇〇駅じゃん!」
「だから~〇〇駅まで送るって言ったじゃない。」
呆気に取られる私の頬を軽くつつきながらユッキーが笑う。
「なに?本当にここから電車で帰れと?」
「あはは、ごめん。流石にそれはないよ。」.
ユッキーは笑いながら、車を駐車スペースまで移動させ停めた。
「さてと、そろそろ美優ちゃんを送ってくれる人が来るから安心して?」
「えっ?それってまさか…」
「美優ちゃんが帰った後に、牧田君と美優ちゃん泣いてたよね?どうしたんだろう?ってオロオロしてたら
それを後ろから来た大ちゃんに聞かれてたみたいでね。」
ユッキーは返事の代わりにそう話し出した。
「あいつ…泣いてた?」
ユッキー達への問いかけとも独り言とも取れる呟きに、
「何かあったのかな?」
とユッキーは既に薄々感づきながらもストレートに口に出した。
賢いユッキーは、大ちゃんに対する扱いをよく心得ている。
「うん、実は…」
大ちゃんのざっくりとした説明を聞き、
「そうなんだ。
まっ、美優ちゃんもいきなりでビックリしちゃっただけだと思うから気になるなら直接話せば?」
「えっ…でも…」
「大丈夫だよ。大ちゃんの仕事が終わるまで私がまず美優ちゃんの話でも聞いておくよ。
美優ちゃんもそれで少しは落ち着くだろうし。」
「そう?じゃあ…」
「うん。仕事が終わったら連絡して。
駅で待ち合わせしよう。」
大ちゃんが頷いて店内に戻って行く後ろ姿を見送りながらユッキーは私に電話をかけるために携帯を取り出した。
「…というわけなんだよね。」
ユッキーは話し終わるとふふっと軽く笑った。
「ちょっ、ちょっと待ってよ!
いいよ!話したい事なんてないし!」
「あっ!来た来た!」
抗議をする私の声を遮るかの様にユッキーが指さした方向から、1台の車がこちらに向かってゆっくり近づいてきた。
その車はゆっくりと私達の乗っている車の左横に停車した。
駐車スペースが少し狭めなのとユッキーの車が大きめなのが相まって、車同士の感覚がギリギリドアを開けられるくらいの至近距離になっている。
うげっ、左を見るとすぐ隣に大ちゃんが…
「ほら降りるよ。」
私に躊躇する暇を与えないかの様にユッキーが私を急かす。
「あ、あ、うん。」
モタモタとドアを開けようとしている間にユッキーはさっさと車を降り、大ちゃんの車の助手席側にまわると、空いた窓から車内に向かって何やら話しかけた。
と、ユッキーと少し言葉を交わしたらしい大ちゃんが頷いたかと思うと急に振り向いて、まるで「早く降りろ。」とでもいうように私の顔を凝視しだす。
「あっ、は、はい!」
誰もいない空間で慌てて1人呟くように返事をし、急いで車を降りるとユッキーの立っている助手席側にまわる。
「明日は✕✕店に1日いるから何かあったら連絡して…」
私が横に立つと、ユッキーは大ちゃんにそう声をかけながらも車のドアを開け、さり気なく私の背中に手を回すとシートに座るように促してくれた。
私がチョコンとシートに座ったのを確認したユッキーは、
「閉めるよ?」
と優しくドアを閉め、
「じゃあ私は帰るね。お疲れ様。」
と手を振り、自分の車に戻った。
「お疲れ様!また明後日にな!」
大ちゃんが運転席側の窓を開け、ユッキーに向かって軽く手を挙げる。
「は~い!」
ユッキーも軽く手を振ると直ぐに車を発車させ帰って行った。
……
……
……
「さて…どこか行きたいとこありますか?」
必死で首を後ろに向け、リアガラス越しにユッキーの車を見えなくなるまで見守っていた私に大ちゃんが声をかけてきた。
「えっ?ええっと、あの、どこでも…」
「絶対そう言うと思った。」
急に聞かれて返事に困った私に大ちゃんは少し苦笑しながら言う。
思えば大ちゃんは2人で会う時はほとんどといって良い程の確率で、私に何処に行きたいか何を食べたいかを先ず聞いてくる。
例え自分が行きたい場所、食べたい物を予め決めていたとしてもそれを言わずに先ずは私に聞いてくる。
適当に行き当たりばったりの私にとってそれが実は苦手だった。
懐かしの童謡で
「クラリネットをこわしちゃった」
という曲がある。
男の子がパパが大事にしていたクラリネットを譲り受けたは良かったが、それを壊してしまったらしく、その事を嘆く内容である。
1番で、
「ドとレとミの音が~出な~い♪」
という歌詞を聴き、
「ドとレとミの音が出ないって演奏する曲もかなり限られて致命傷じゃね?気の毒に…」
と同情してたら、2番の歌詞で、
「ドとレとミとファとソとラとシの音が~出なあい!」
おいっ!
それ全く音が出ないって事なんやないかいっ!!
思わずツッコミ入れてしまうレベルのたまらん童謡なのであるが、
更にそれを歌う歌のお兄さんお姉さんが、悲惨な状態になっているクラリネット&持ち主ボーイの気持ちを逆撫でするが如く、
妙に嬉しそうな顔と声で踊りまでつけ、幸せそうに歌っているという、何ともそのシュールさが印象に残る童謡であった。
で、そのシュールさゆえ、
その童謡が私の脳裏に深くこびりつき、
何か困った事態に陥った時になると、ジワジワと私の脳内にそのクラリネット…が湧き出てくる様になってしまった。
本編にさして深い関わりのないクラリネット…の説明が長くなってしまったが、
パパがとっても大事にしてたクラリネットを壊してしまった少年の困り度を想像して頂きたい。
さぞや困ったであろう。
狼狽えたであろう。
その現実から逃げたかったであろう。
車内で大ちゃんと2人きりになった私の脳内にはまさにこの時ひっそり静かにクラリネット…がBGMとして流れていた。
「とりあえずちょっと車で走りながら話しようか?
それとも何処か行く?」
「えっえっえっえ~と…」
ドとレとミの音が~出な~い♪
「なに?行きたいとこあるの?」
「えっ、いや、あの、すぐには浮かばないっていうか…」
ドとレとミの音が~出な~い♪
「じゃあとりあえず車出すよ?車で走りながら話すのね?」
「.あっ、は、はい、ド、ドライブだね!久しぶりにそれもいいかも~…」
「本気?運転するのは俺なんだけど?仕事で疲れてるから、ずっと運転しっぱなしっていうのは正直キツイんだけど?」
ど~しよっ♪ど~しよっ♪
「あ、ああ、疲れてるんだね。
じゃ、じゃあ、今日は帰ろうか?」
「は?そうなんだ…帰りたいのか。
ふ~ん、わかりました。帰ろっ!!」
ドとレとミとファとソとラとシの音が~出な~い♪
おめえが嫌味っぽく疲れてるって言うから気を使ったんじゃね~かよっ!!
「どうするの?帰るの?
なら送っていくけど?」
数分後、
話が帰る方向で決着したと思っていた私の右横からいきなり大ちゃんの更にイラついた様な声がした。
パッキャマラド、パッキャマラド、パオパオ パンパンパン♪
おめえさっき自分でも帰ろ言うたん違うんかいっ!!
だんだん面倒臭くなってきた。
さっきまで大ちゃんの機嫌を取ってビクビクしていたのだが、機嫌を取るのも面倒臭くなってきた。
もう嫌われても怒られてもいいや~
自分の言いたい事したい事を適当に言おうと決めた。
「あ!行きたいとこ浮かんだ!
前にユッキー達と4人で行った河川敷、でもあそこはここからだとそこそこ距離があるけど。」
「あの時の河川敷?」
「あ、うん。ふっと浮かんだんだ。
あの時は楽しかったね懐かし…」
言い終わらないうちに大ちゃんが車を発進させた。
「へっ?!なに?まさか行くの?遠いでしょ?」
「大丈夫!大丈夫!俺、車の運転はあまり苦にならないから!」
……
私の記憶に間違いが無ければ、
疲れてるから運転しっぱなしはキツイ言うたよな?!
その口が言うたよな?
それとも何か?
おめえの体力は数分で回復するのか?
ファイト一発リポビタンD!!
パッキャマラド、パッキャマラド、パオパオパンパンパン♪
パッキャマラド、パッキャマラド、パオパオ パン♪♪
「やっぱり帰る?」
信号待ちの車内、大ちゃんが前を向いたままポツンとそう問いかけて来た。
「やっぱり運転辛くなっちゃった?
ユッキーから少し話を聞いたから大ちゃんが仕事終わってから何故わざわざ来てくれたか大体わかったし、私も悪いとこあったからもうお互い気にするの止めるって事で解決じゃない?
だからわざわざ河川敷まで行かなくても大丈夫だよ?
話はあらかた済んだみたいなものだし。」
河川敷に行くと言ったは良いが、やはり運転が辛くなったのであろうと気を回した私はそう返したが、
「あっそう。ならもうそれで話は終わりって事ね。
じゃあ帰ろうか。」
大ちゃんは急にかなり不機嫌そうな声を出し、
「あそこのコンビニの駐車場でUターンするから。」
と後は無言で車を走らせコンビニの駐車場に入ると車を一旦停めた。
「はい、Uターンしますから。」
「あ!ちょっと待って!」
私は相変わらず不機嫌な顔で車を出そうとした大ちゃんを止めた。
「何ですか?」
「ちょっと買い物してきたいんだけどいいかな?」
「どうぞ。」
私は急いで車を降りると店内に入りコーヒーとココアを買った。
車に戻ると大ちゃんが物凄い形相でじっと前を見つめて座っている。
顔が怖ええなおい。
これは帰りの車内も気まずくなりそうだ。
つか、なんでこんなに機嫌が悪いんだ?
元々私への誤解から気まずくなって、その事を気にして話し合おうと来てくれたんだよね?
私はもう気にしてないって伝えたつもりだったのだけど…
上手く伝わってなかったかな?
それにしてもなんでこんなに喧嘩腰でつっかかって来るんだろう…
「.お待たせっ!ごめんね~、はい!これ買って来たから飲んでね?」
相手が不機嫌なのでこちらはわざと明るく優しい声を出す。
それが功を奏したのか、大ちゃんは素直にコーヒーを受け取りプシュッとプルトップを開けるとゴクゴクと一気に飲んだ。
「私も飲もっと。」
私もココアを飲もうとプルトップを引き上げようとしたが固くてなかなか開けられない。
「かして。」
大ちゃんが私の手からココアを受け取ると簡単に開けて
「はいどうぞ。」
と返してくれた。
「うっわ!さすが男の子だね~」
思わず感心した私の言葉に、
「23歳の男に男の子はないんじゃない?」
大ちゃんが苦笑する。
「ああ、もう23歳になったんだね。」
そう返しながら、
別れてから彼の誕生日におめでとうすら言っていなかったなと思った。
それはお互い様なのだが…
「この前の誕生日におめでとうも何も無かったよね?沖さ…他の人はちゃんとおめでとう言ってくれたのに。」
私の心を読んだかの様に大ちゃんが少し恨めしげな声を出す。
「あはは。沖さんは言ってくれたんだね。
じゃあこれから毎年誕生日にはおめでとうを必ず言い合おうか?」
沖さんの名前を出しかけて慌てて誤魔化した大ちゃんが何となく可愛く思え、思わずそう提案した私だったが、
「うん。でも多分そのうち忘れて自然消滅になると思うけど。」
大ちゃんがそんな私にすかさず現実的な返事を返してくる。
まあ、そりゃそうだ。
「うん。それでもねいいんだ。
それでも、いつまで続くか分からないけど、やろうよ。
七夕っぽくて面白くない?」
「なにそれ?」
大ちゃんは馬鹿にしたような声を出したが、さっきまでのトゲトゲした雰囲気は消えかけていた。
「ミューズ…」
「ん?なに?」
「帰りたい?俺といるの嫌?」
大ちゃんがさっきまでの威勢は何処へやら、少し探る様に少し自信なさげな様子で尋ねてきた。
「ん?なに?嫌な相手ならこんな風に話したりしてないでしょ?」
私の言葉に大ちゃんは頷くと、
「さっき俺の車に乗った時、ミューズが帰りたそうな顔をしてたから俺といるのが嫌なのかと思って…」
と言い訳の様に呟いた。
あ…そういう事か…
大ちゃんが不機嫌だった理由がやっとわかった。
「いや、ごめん。嫌とかじゃなくて私も気まずかったから…
仲直りしようと疲れてるのに来てくれたんだよね?本当にありがとうね。」
「俺もごめん。ミューズを疑う様な事言って。本当にごめん。」
私の言葉にホッとした様に大ちゃんも謝ってくれ、何となく仲直りをしてしまった。
何もかも違う私達はこんな些細な事ですれ違ってばかりだった。
それでも何故惹かれあったのだろう…
年月が流れ、主な連絡ツールは電話からメール、そしてLINEになったが、
「誕生日おめでとう。」
「大輔」から今でも誕生日にメッセージが届いている。
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