とある家族のお話
私はまり。
5年前に離婚し、現在シングルマザーで小学3年生の息子が1人。
父親は肺がんを患い、闘病の末4年前に他界。
母親は精神疾患を患い、現在精神病院に通院中。
遠方に住む兄の亮介と義姉の千佳さん。
中学3年生の姪と、中学1年生の甥がいる。
2つ下に同じ市内に住む弟の圭介。
私と同じくバツイチで、現在は1人暮らし。
息子のよき遊び相手になってくれる。
弟の子供は元妻が引き取っているが、しばらく会っていないそうだ。
私の母親は、多分だがかなり前から精神疾患があったと思われる。
父親が他界してからひどくなった。
病名は「妄想性障害」
特に被害妄想が酷く、妄想で警察を呼んだり近所の方々にご迷惑をおかけしてしまう様になったため、社会福祉の公的窓口に相談し、現在通っている精神病院の先生にお願いし、強制入院に至った。
母親本人はおかしいと思っていないため、入院する時はとても大変だった。
現在は退院している。
入院する時は近所に住む弟と相談し決めたが、母親には未だに恨まれている。
兄夫婦には電話やLINEで伝えていた。
母親は、兄と弟の嫁をいびりにいびった。
弟の離婚は、母親が大いに関係している。
義姉は遠方に住む事で離婚はしないで済んだ。
私達兄弟が母親を何度止めてもいびりは止めない。
母親は悪い事はしていない、私は正しいと、止めれば止める程興奮し罵詈雑言を言い放つ。
妄想が激しいため、妄想で話をするが母親本人は事実だと思っているため、違うんだよ!と言っても聞き入れてくれる事はない。
否定すれば嘘つき呼ばわりするな!お母さんは正しい!と怒鳴る。
仕方なく合わせれば、やっぱりそうだ!と益々妄想が本当の事だと思い込む。
とても難しい。
でも、私の実母である。
父親がいない今、私達兄弟が母親をみなければならない。
こんな家族のお話です。
私の元夫とは職場結婚だった。
小さな運送会社の事務員として、高卒で入社した。
その会社の配車やシフト等を作成していたのが元夫の雅樹だった。
事務職の中堅社員で、私より8つ年上で当時26歳。
新人の私は、事務所の清掃から始まる。
先輩事務員の立花さんに色々教わりながら仕事を覚えていく。
立花さんはとてもおっとりとした性格で、なかなか覚えられず必死だった私にも「焦らなくていいからね。ゆっくりでいいから!わからない事は何度でも聞いて。一気になんて覚えられないし、失敗して覚える事もあるんだし」と言ってくれて、優しく丁寧に教えてくれた。
おかげで何とか半人前位になったある日、私と他の新米運転手さんや新米事務員のために歓迎会を開いてくれる事になった。
「新人には頑張って欲しい」
そう言って社長主催の歓迎会だった。
その時の幹事が元夫の雅樹だった。
「加藤さんはまだお酒飲めないからジュースかお茶だよね?」
私はまだ高校卒業したての当時18歳。
当然お酒は飲めない。
「居酒屋とかより、バーベキューみたいな感じの方がいいよね?緊張するだろうから、外で気楽にやろうか!ね!」
笑顔でそう言われて、未成年の私にも気を使ってくれた。
運送会社だから敷地は広い。
強制参加ではなかったが、ほとんどの人が参加した敷地内での歓迎会。
立花さんと社長の奥様ともう1人の先輩女子社員の田中さんとでバーベキューの下準備。
私も手伝おうとしたら「はいはい!本日の主役は座ってなさーい!」と追い返された。
社長の乾杯の後、従業員で楽しくバーベキュー。
この時、雅樹と色々話した。
雅樹は聞き上手だった。
皆いい人達ばかりで楽しかった。
市内の端にある、周りは畑しかない場所だから多少騒いでも問題はない。
いい会社に入ったと実感した。
この頃はまだ実家から通勤していた。
田舎の小さな市のため、職場の近くにバス停などない。
車必須の地域なので免許も取り、ローンを組んで車を買った。
まだ入社したてでお給料も安かったし、ローンの支払いもあるため就職しても実家にいた。
弟はまだ高校生。
母親のヒステリックが弟に向かうのを守りたかったのもあった。
母親は否定される事を嫌う。
自分が全て正しいと思っている。
私達兄弟3人が子供の頃、母親が運転する車で
あるスーパーに行った。
だいたい私が助手席、兄と弟が後部座席に座る。
兄と弟が後部座席でふざけだして騒ぎ始めた。
私が後ろを振り返り「うるさいよ」と言った瞬間、強い衝撃があった。
母親が一時停止を無視して、本線を走っていた車にぶつかった。
お互い、速度は出ていなかったため幸い大した怪我はなかったが、母親の車のボンネットは壊れ、相手のワンボックスの側面は大きく歪んだ。
相手のワンボックスの運転手は若い男性。
車から降りてきて、母親と何かを話していたが突然母親が「私は悪くない!あんたがブレーキをしっかり踏めば起きなかった事故だ!」と言い出した。
そして兄と弟に「あんた達が騒ぎ出したから気が散ったんだ!騒いだあんた達のせいでお母さんは事故を起こした!だからあんた達が悪い!謝れ!」
相手の運転手さんは「おばさん、何言ってるの?あんたが一時停止を無視したから俺の車にぶつかったんでしょ?」と言っていたが、母親は私は何も悪くない!の一点張り。
男性が呼んだ警察が到着。
警察にも私は悪くない!と言っていたが、一時停止を無視した母親が注意をされていた。
自分の味方じゃない警察に悪態をつく母親。
「私が払った税金で食べてる分際で偉そうに文句言うんじゃない!年上の人に対する態度じゃない!」
「悪いのはこの人と騒いだ子供達だ!私は何も悪くない!」
もちろん通用する訳がない。
警察官が説得を試みても全く聞く耳を持たない。
全て悪いことは人のせい。
いい事はお母さんのおかげ。
テストで100点を取った。
やっぱりお母さんの子だね。
徒競走ビリだった。
お父さんに似たんだね。
おとなしい私はお母さんの子。
うるさい兄と弟はお父さんの子。
でもたまに私が何か悪いことをすればお父さんの子になった。
父親は高卒、母親は短大卒。
だからなのか、父親を下げる発言をしていた。
「お父さんは高卒だから、常識を知らない。大学まで行って常識を知る。短大卒業した私は常識を知る。だからお母さんに口答えする事は許さない」
高卒の私はいつも言われた。
私の離婚理由も母親が大いに関係している。
雅樹は夫として、父親として頑張ってくれていた。
私が26歳、雅樹が34歳の時に結婚。
結婚を機にお世話になった運送会社を辞めた私。
皆から祝福されて幸せだった。
結婚する時にお互いの両親や兄弟に挨拶に伺う。
雅樹は会社員の父親とスーパーでパートをしている母親、看護師をしている姉がいるごく普通の一般家庭。
ご両親もお義姉さんも気さくなあたたかな家族だった。
嫁いびりもなく、娘の様に迎えてくれた。
お義姉さんもご結婚されていて、市役所勤務のお義兄さんがいた。
子供はいなかった。
パグ犬を飼っていてとても可愛がっていた。
お義姉さんとは10歳、お義兄さんとは一回りの年の差があった。
あたたかい家庭に嫁に来れた。
雅樹と結婚して良かった。
心からそう思った。
結婚の挨拶を我が家にする日。
父親、母親、兄と弟と私と雅樹。
母親は矢継ぎ早に雅樹に質問をする。
「ご両親はお仕事は何をされてるの?」
「ご兄弟は?」「貯金はいくらあるの?」
「お給料はいくら?」等々。
雅樹が答えると必ず見下す。
「お母様、スーパーでパートなんて学がないの?」
「公務員なんて人の税金で食べてるんだから私達が食べさせているみたいなものでしょう」
「お姉さんが勤めている病院ってやぶ医者で有名じゃない。恥ずかしくもなくよく働いているわね。総合病院に行きなさい」
「貯金額は家族になるんだから皆知るべき」
家族皆で母親を止めたが、雅樹の表情は険しかった。
実家に行く前に雅樹には母親の事は伝えていた。
しかし雅樹の想像以上だったみたいだ。
申し訳ない。
恥ずかしい。
結婚式を挙げる話をした時も、母親は全て仕切り出した。
お金は出さないが口は出す。
結婚式の下見について来たがり、断ると烈火の如く怒り罵る。
「どうして母親の私に相談しない!勝手に決めるなんて許さない!勝手に決めるならお母さんは結婚式には行きません!」
「嫁になる母親が決めるのは常識なんだ!そんな事も知らないで恥ずかしくないのか!」
私は人前結婚式希望。
母親は日本人は和が当たり前だと神前結婚式希望。
もめにもめた。
雅樹のご両親と私の両親と私と雅樹で、結婚式について話し合う事にした。
母親は相変わらずの意見。
嫁の母親が決めるのが常識!母親に相談し、母親が決めた結婚式を挙げるのが当たり前。
雅樹のお義母さんは「娘の時は私達は娘夫婦に好きにさせましたよ?式を挙げるのは本人達なんですから…」
すると母親。
「だからスーパーのパート勤めなんて知識がないのよ。好きにさせた結果どう?どうせ若者向けの変な結婚式だったに決まってるわ」
そう思い込むと母親の中では事実に変換する。
未だに雅樹の姉の結婚式は変な結婚式だと思っている。
雅樹のご両親は大人の対応だった。
「全てお任せしますので」
後日「お母さん、大変ね」とは言われたが、それ以上は何も言って来なかった。
結局、結婚式は私達の意見を取り入れた。
雅樹の友人が営んでいる小さなお洒落なレストランを貸し切った。
総勢40名程の小さな規模。
お互いの予算もあり、ご友人も色々都合をつけて下さり、多少のわがままも聞いて下さり「俺からの結婚祝い」だと予算以上のもてなしをして下さった。
ウエディングドレスとタキシードは貸衣装屋さんで借り、ウェルカムボードは二人で手作り。
運送会社の方々、お互いの家族、親戚、友人達に祝福され一生添い遂げる約束をしたはずだったが…。
離婚した時に母親が「結婚式でお母さんの言う事を聞かないから離婚するんだ。恥ずかしい」と言われた。
結婚生活の全てに於いて、些細な事でも必ず母親が割り込んできた。
新居を探すのも母親が口を出す。
家具家電も母親が勝手に決めて来る事もあったがお金は出さない。
連絡なしに突然来るのは当たり前、合鍵要求。
合鍵は断ると合鍵を渡すまで毎日突撃してきて罵詈雑言。
雅樹が折れ、母親に合鍵を渡すといない間に勝手に入りダメ出し。
こうなるのがわかっていたから合鍵は渡したくなかった。
雅樹のご両親には合鍵は渡していない。
来る時は連絡をして欲しいと言えば「娘の家に行くのに何故いちいち連絡をしなければならないのか?お前はいつからそんなに偉くなった?」
「お前は実家の鍵を持ってるでしょ?ならお母さんもお前の家の鍵を持って自由にしてもいいだろう」
全てに於いてこうして必ず反論される。
雅樹との結婚生活は、平凡だが楽しかった。
寿退社をしてからはしばらくの間、専業主婦をしていた。
結婚するまで実家暮らしだったため、結婚当初は家事もコツをつかむまでは大変だった。
優しい雅樹は、焦げたハンバーグも味付けに失敗した野菜炒めも「次頑張ろう!俺も手伝うし」と決して怒ったりせずに食べてくれた。
雅樹は私にとって人生初めての彼氏で初めての人だった。
学生の頃は目立たない、いるのかいないのかわからない様な地味子だった。
好きな人は出来たが、片想いで終わる。
告白なんてとんでもない。
こんな私が告白したところでOKされるはずなんかない。
自分に自信がなかった。
学生の頃は吹奏楽部に所属していた。
パーカッションを担当していた。
1つ上の先輩でチューバ担当の菊地先輩の事が好きだった。
見た目はカッコいい訳ではなかったが、同じバンドが好きだった事、家が近所でたまに一緒に帰る事もあったから。
帰り道に昔からある駄菓子屋があった。
一緒に帰るとそこで菊地先輩が必ずビンにビー玉が入っている昔ながらのラムネを買ってくれて一緒に飲んだ。
部活の事や部員の話、好きなバンドの話をしたりした。
好きだった。
一緒に帰って一緒にラムネを飲んで話しているだけで楽しかった。
でも好きだと言えなかった。
言えないまま卒業した。
淡い青春の想い出。
そんな私が雅樹から付き合って欲しいと言われた時は、今何が起きているんだろう…と頭がフリーズした。
人生で初めて告白された。
仕事が終わり帰り支度をしていたら雅樹が「ご飯でもどう?おごるよ」と私に声をかけて来た。
「ありがとうございます」
実家暮らしだった私は自宅に電話し、ご飯は食べて帰ると電話に出た弟に伝える。
「俺の友達がやっているレストランがあるんだ」
後に結婚式でお世話になったレストランに向かった。
場所は知っていたが入るのは初めてだった。
「いらっしゃいませ」
若い女性店員さんが笑顔で迎えてくれた。
女性店員さんは雅樹の顔を見て「あれ?オーナーの…?」と言い、雅樹が「そうです」と笑顔で答えると「今、オーナー呼んできます!」と言って席に案内された後に裏に入って行った。
すると入れ替わりに、コック服を着た坊主頭の背が高い男性が笑顔で出て来た。
「おう!久し振り!」
そう言いながら雅樹に挨拶をした後に笑顔で私を見る。
雅樹が「同じ職場の加藤まりさん。せっかくだから山本のところで一緒に食べたくてね」
「ありがとう!サービスするよ」
「忙しいところ悪いな」
「いいんだよ、今度ゆっくり飲みに行こうな!加藤さん、ゆっくりしていって下さい」
雅樹には右手をあげ、私には笑顔で軽く会釈して裏に消えた。
雅樹とオーナーの山本さんは、小学校から高校まで同じ学校の同級生。
雅樹は高卒で運送会社に就職したが、山本さんは調理師専門学校を出てから有名なフランス料理屋さんに修行に入り、若くして店を持つまでに腕を磨いたそうだ。
ちょっと高いイメージだったが、以外に手頃な価格で本格的なフランス料理を楽しめるお店だった。
山本さんのご厚意で濃厚なプリンをサービスして下さった。
帰る時は忙しく山本さんに直接お礼を伝える事は出来なかったが、会計を担当してくれた店員さんにお伝えした。
その後、駐車場に戻り雅樹にごちそうしてくれたお礼を言う。
「ありがとうございました。とても素晴らしい料理でした。ごちそうさまでした。また明日」
そう言って車に乗り込もうとした時に「ちょっと待って!」と雅樹が言う。
「加藤さん!俺と付き合ってくれませんか?」
突然の告白。
「…はい?」
「前から素敵な方だなと思っていました。今日はかなり勇気を出して食事に誘ったんです。迷惑なら諦めます。」
「いえ…迷惑とかでは…」
フリーズした私にはこれが精一杯だった。
しばらくの沈黙。
それまで雅樹は優しい先輩という存在だった。
繁忙期、配車のシフトがうまく作れないと「あー!」と言いながら髪をくしゃくしゃとしながら一旦席から消える。
戻って来てから乱れた髪のまままたパソコンとにらめっこ。
「うーん」
「あっ、そっか!」
「いや、ダメだ」
独り言を言いながらコロコロ変わる表情が面白かった。
そんな雅樹を思い浮かべながら「ちょっと時間下さい」と伝える。
「わかったよ。ごめんね。じゃあまた明日会社で」
そう言って雅樹は帰って行った。
突然告白され、驚きと嬉しさとでアドレナリンが出ていたのかその日は眠れなかった。
ほとんど寝ていない状態だったが、全然眠くない。
いつもより早く出勤。
立花さんが続けて出勤。
「おはようございます」
「あっ!加藤さんおはよう!今日は早いね」
「そういう立花さんも早いですね」
「昨日さー、彼氏とデートの約束をしていたから仕事を途中で切り上げちゃって。だからその分早く来て終わらせてしまおうと思って。あっ、課長には内緒ね」
「今日私が当番なので掃除全部やりますから、課長にはバレない様に頑張って下さい!」
「加藤さん!ありがとう!お礼は必ず!」
そう言って、デスクで早速仕事に取りかかる。
トイレ掃除、ゴミ箱のゴミ回収、お客様用出入口と裏にある従業員用出入口の掃き掃除、応接室のテーブルを拭き床を掃く。
火曜日と金曜日にはモップがけ。
汚れが強い場合は都度モップがけ。
給湯室の掃除。
生ゴミを捨て、お客様用のお茶の在庫確認。
湯呑み等洗い物があれば片付ける。
この仕事を当番の事務員が交代で二人でやる。
立花さんと私が当番だったが、今日は全て私がやる。
社長は誰よりも早く出勤している。
掃除が全部終わり、社長にご挨拶とお茶を届けに社長実に向かう。
「失礼致します。おはようございます。お茶をお持ち致しました」
「加藤くん、おはよう」
「おはようございます」
「今日は10時にトラック協会の方が来るからよろしく頼むよ」
「はい。失礼致します」
社長はこうして何か一言必ず言う。
一仕事が終わり、事務所に戻ると雅樹が出勤していた。
ドキッ。
一気に心拍数があがるのがわかる。
目が合う。
私はそれだけで顔が真っ赤になるのがわかった。
「加藤さん、おはよう」
いつもの笑顔の雅樹。
「お…おはよう…ゴザイマス…」
何故か後半片言になる。
次々出勤する従業員。
いつもの賑やかな1日だ。
ダメだ。
雅樹が気になって仕方がない。
多分、必要以上に雅樹を見ていたと思う。
気になり過ぎて仕事に身が入らない。
隣に座る立花さんが何かを察した。
椅子を近付けて来て小声で「昨日、長谷川さんと何かあったとか?」とニヤニヤしながら言って来た。
「えっ?」
「大丈夫、誰にも言わないから」
「何故わかるんですか?」
テンパっていた私は自ら暴露してしまう。
「何故って、加藤さんみていたらバレバレよ(笑)お昼、楽しみにしてる!」
そう言って席に戻った。
立花さんは信頼が出来る。
決してスピーカーみたいにペラペラ話す人ではないし、これまでも仕事に関して色々相談をさせてもらった頼りになる先輩。
お昼、立花さんに相談してみようかな?
心拍数の上昇も落ち着き、立花さんが残していた仕事も終わり、ちょっと早目に立花さんの車に乗り職場から一番近いファミレスに入る。
ランチを注文し、一息つくと早速立花さんが「さあ、話してみようか?」と笑顔で切り出した。
昨日の夜に雅樹から声をかけてもらい、友人経営のレストランで食事をし、ごちそうになった後に駐車場で突然告白された事。
今まで生きてきて、告白されたのも彼氏となる存在も初めてでどうしたら良いのかわからない事、もろもろを話した。
そして一言。
「実は長谷川さんが加藤さんの事を好きなのは知っていたよ」
「えっ」
「ちょっと前に言われた事があるの。加藤さんって彼氏とかいるのかなーって。ほら私、加藤さんと仲良くさせてもらってるでしょ?給湯室で来客の片付けをしていたら、長谷川さんから声をかけて来てね」
「はぁ」
「加藤さんから彼氏の話とか聞かないし、いるとも言ってなかったーって言ったの。そしたら「ありがとう」って言って行っちゃった。長谷川さん、いい人だと思うよ!だってうちの会社で長谷川さんの事を悪く言う人いないし。実際気配り出来るし、仕事も頑張ってるしね。相手も加藤さんならきっと職場の皆も祝福してくれると思うよ!」
「はい」
私も昨日から雅樹を意識し始めたって事は好きになってきているのかもしれない。
立花さんは「応援するよー!お祝いって事で今日はごちそうするよ!さっ、休憩終わっちゃう!行こ!」
さっと伝票を取りレジに向かった。
立花さんに話せて良かったのかな。
何か雅樹への想いが急スピードで膨らんでいく感覚。
その日の仕事終わり。
雅樹より先に仕事は終わった私は、雅樹の仕事が終わるまで待っていた。
ドキドキが止まらず、手が震えて来た。
次々従業員が出て来た。
最後の方に雅樹が出て来た。
「あれ?まだいたの?」
「…長谷川さんを待ってました」
ちょっとの間があり「ご飯行く?」と言ってくれた。
「…はい」
街中の美味しいと有名の中華料理屋さんに向かった。
小さく間切りされた小上がりに通された。
家族で何度か来た事がある。
この店の八宝菜がすごく好きなため迷わず八宝菜セットを頼む。
「ここの八宝菜、小さい頃から食べていて大好きなんです」
「美味しいよね。じゃあ俺も同じのにしようかな?」
店員さんが注文を聞き下がった。
「あの…」
私が話そうとすると雅樹が「今日は楽しみましょう」とにっこり笑う。
ヤバい。
何だろう。この眩しい笑顔は。
私、完全に惚れちゃってる?
注文していた飲み物が先に来た。
続いて八宝菜セットが来た。
あれ?どうしてだろう。
大好きなのに、とても美味しいのに入っていかない。
胸がいっぱいになっていた。
箸が止まる私を見て「食べないの?」と心配そうに声をかけて来た。
「あの…」
「はい」
雅樹が私の問いかけに答えて箸を置いた。
「よろしくお願いします」
「えっ、本当に?マジで?」
「はい」
「今日、振られると思って覚悟して来たんだよ…ヤバいヤバい!本当に?」
「はい」
「ありがとう!」
「こちらこそ」
「えっ?」
「えっ?(笑)」
「じゃあ今日は初デート?」
「…デートですか」
「あれ?違うの?」
デートって聞いて急に恥ずかしくなってしまった。
「可愛いね。そういうシャイなところ」
「今まで男性とお付き合いした事がなくて、どうしたらいいのかわからなくて」
「そうなの!?えっ、じゃあ俺が初彼氏?」
「彼氏…はい、そうなります。よろしくお願いいたします」
こうして雅樹とのお付き合いが始まった。
家族には付き合い当初は、雅樹の事は内緒にしていた。
理由は、兄が大学生の時に「彼女が出来た」と言って彼女を連れて来た。
同じ大学に通う彼女。
真面目そうな清楚な感じで、長い黒髪がサラサラしていた。
日曜日だったため家族全員自宅にいた。
あらかじめ兄が彼女を連れて来るとは聞いていたが、私と弟は兄がどんな女性を連れて来るのか興味津々で待っていた。
うちで食事をするという事で母親が台所で朝から忙しそうに動いていた。
「まりー!圭介ー!あんた達も少し手伝って!」
「はいはい」
私と弟が部屋から出て台所へ。
兄が好きだからと唐揚げや卵料理、エビフライ等の料理が用意されていた。
時間ぴったりに兄と彼女が来た。
当時、高校生の私と中学生の弟が玄関までお出迎え。
「はじめまして」
彼女がご挨拶。
「はじめまして、妹です」
「弟です」
同時に自己紹介。
「あがって下さい!」
「ありがとうございます」
居間に通す。
ソファーに座っていた父親が立ち上がり挨拶をする。
すると台所から母親が登場。
「はじめまして」
「あの!これ、よろしければ皆様でお召し上がり下さい!」
そう言って手土産を母親に渡した。
母親は笑顔で受け取り、早速中身を開ける。
中身はカステラだった。
「えっ、何この安っぽいカステラ」
この一言で一瞬空気が凍りつく。
父親が「失礼な事を言うな!気持ちで持って来て頂いたものだろう!」と母親を叱るがどこ吹く風。
「いらないものはいらないわ。いらないものを持ってこられても迷惑だから返すわ」
兄が怒鳴る。
母親は「亮介!この女は私達家族をこんな安っぽいカステラの価値しかないと見下してるんだ!敬う気持ちがあるなら、鰻とか霜降り肉とか高級品が常識だろう!」
父親がひたすら彼女に謝っている。
彼女は涙目。
すみません、すみませんとひたすら頭を下げている。
「お母さん、ここのカステラ美味しいよ?そこそこ高いし。お母さんカステラ好きじゃん」
「何をバカな事を言ってるんだ!敬う気持ちがカステラか!バカにしないでちょうだい」
そう言って台所に戻った。
兄は台所に戻った母親をひたすら怒鳴る。
折れない母親。
「母さん!何なんだよ!いつもいつもケチばかりつけやがって!何が敬うだ!そんな価値なんか一ミリもないだろ!カステラは母さんが好きだからと一緒に選んだんだよ!何が鰻だ!ふざけんな!」
「母親に向かってそんな口の聞き方するなんて10年早いんだよ!誰のおかげで大学に行けてるんだ?ここまで育ててやった恩を仇で返すなんて!今まで育ててやったお金全部返せ!」
「うるせーんだよ!クソババア!」
彼女は泣き出してしまい、父親と弟は兄と母親を止め、私は泣いている彼女の近くにいた。
とりあえず泣いている彼女を居間の隣の和室に連れていく。
「母親が本当にすみません」
ひたすら謝る私。
居間からはまだ兄と母親が言い合っている声が聞こえる。
彼女もすみませんと謝る。
彼女は何も悪くない。
本当に申し訳なかった。
彼女も兄も落ち着き、ご飯は食べずに帰って行った。
彼女はこれ以降、二度とうちに来る事はなく、兄とも別れた。
後から聞いたが、彼女は卵アレルギーだった。
兄から母親に彼女は卵が食べられないと聞いていたが、母親は食べず嫌いだと思い込んでいた。
ご飯食べなくて本当に良かったよ。
食べられる物が一切なかった。
何も知らなかった私達。
兄と彼女の好物だと思ってたから。
そんな過去があり、家族に彼氏が出来たとは言い出せなかった。
しかし、すぐにバレた。
仕事が終わり帰宅すると、弟がニヤニヤしながら「ねーちゃん、なかなかやるじゃん」
「何が?」
「あれ彼氏?仲良さそうにご飯食べてるの見たけど?」
「えっ、いつ?」
「昨日。何が仕事だよ、デートじゃねーか」
弟は私をからかう。
小さな田舎街だと食事に行く場所も限られるため、知り合いの遭遇率は都会よりダントツに高い。
仕方がない事だが、よりによって弟とは。
「しばらくお母さんには黙っていて」
「わかってる」
弟も思うものは一緒なのだろう。
本当に母親には言わずにいてくれた。
この時、弟にも彼女がいた。
後に妻になる人、今は元妻になってしまう人。
弟は離婚した時はショックの余り仕事を休んで引きこもった。
弟は本当に元妻と子供を大事にしていた。
憔悴した弟は見るに耐えなかった。
弟は工業高校を卒業してから、地元の会社に就職。
就職してからはしばらく実家にいたが、母親と大喧嘩してからはすぐに会社の近くにアパートを借りた。
母親は毎日の様に弟のアパートに行くも、合鍵は絶対に渡さなかった。
しかし母親は大家に掛け合い、弟に黙って合鍵を作ってしまった。
やはり言い分は「息子の家に来て何が悪い」と悪いとは思っていない。
弟が帰宅したら母親が座っていて、ゴミ箱まで漁り彼女との時に使用した避妊具を拾い上げて般若の様な顔で待っていた時は背筋が凍りついたと言っていた。
ゴミ箱まで漁り、息子の様子を知りたがる母親。
母親なら子供の全てを把握するのは当たり前だと。
プライバシーなんて一切ない。
実家にいた時も、子供宛に来た郵便物は容赦なく全て開封。
机に鍵をかけただけで怒鳴られた。
日記も平気で読まれるため書かなくなった。
門限は高校卒業まで18時。
学生の時は余り友人もいなかったので私は大した困らなかったが、吹奏楽部の演奏会前とかは遅くなる事もあった。
すると学校に連絡。
そしてクレーム。
後半は顧問の先生から帰りが遅くなりそうなら「加藤、そろそろ帰りなさい」と言われる様になった。
高校から自宅まで自転車で10分。
弟や兄は郊外にある工業高校だったため、自転車で30分かかった。
兄と弟は悪天候の時はバスで通学していた。
そのためバス代を稼ぐためアルバイトOKだったが、私はバス通学する距離ではないためバイト禁止だった。
ただ、夏休みや冬休みのみの期間限定の門限に間に合う時間のアルバイトは許された。
自由がなかった。
今みたいにラインとかはなかった当時はパケ代も通話代も高い時代。
携帯電話を持っている学生はいなかった。
電話は基本自宅。
話をしていると母親が聞き耳を立てている。
兄や弟は私と違い、学校では人気者だったため友達も多かった。
よく門限を破って怒鳴られていた。
18時は遊びたい盛りの男子には確かに早すぎる。
バイトだと言って出掛けても、嘘はすぐバレた。
子供3人、もういい大人になっても母親の監視みたいなのは続いた。
弟の元妻であるめぐみちゃん。
弟と同じ年で私の高校の後輩だった。
部活は違うし学年も違ったが、面識はあった。
弟の彼女として紹介された時に、お互いにあれ?知ってる?となった。
自由奔放だった当時の弟をうまく手綱を引いてくれる様な人だった。
仕事は街中にある雑貨屋の雇われ副店長で、従業員のシフト管理と在庫確認と発注といった裏方の仕事がメインだと言っていた。
共通の友人の紹介で知り合い付き合う事になった。
弟はめぐみちゃんの事が可愛くて仕方がない様子。
デレデレだった。
当時、まだ既婚者だった私。
雅樹にも紹介。
兄夫婦にも紹介。
結婚秒読みだった時、入籍前にめぐみちゃんの妊娠が発覚。
ちょっとだけ順番が逆になってしまったが、翌月入籍した。
弟夫婦の希望で結婚式は行わず、写真だけ撮り、後は本当の身内のみでの食事会にする予定だった。
それに反対したのが母親。
「亮介もまりも結婚式を挙げた。圭介だけ挙げないのは親戚に何て言われるか。しかも先に赤ちゃんが出来たとか世間体が悪い」と案の定口を出して来た。
弟とめぐみちゃんは希望は変える気はない事、お腹の赤ちゃんのためにも無理はしない事を伝えた。
すると母親「結婚式は挙げなさい。無理していなくなる赤ん坊はそれまでの命なんだよ。あんた達は若いんだから、これからいくらでも子供は作れる」と言った。
めぐみちゃん、かなり引いていたのは見てわかった。
弟が「母さん、今何て言ったかわかるか?」
「何よ、間違った事は言ってないじゃない」
「俺達は結婚式は挙げない。親戚の見栄のために挙げるとか意味わかんないわ。お腹の赤ちゃんは全力で守る」
「お母さんの言うこと聞きなさい!圭介はこんな聞き分けがない子じゃなかった!この女が圭介に入れ知恵してるんだな!とんでもない女だよ!」
そう言って立ち上がり、めぐみさんのほっぺたを平手打ちした。
弟が反射的に母親の頭を殴った。
「めぐみと子供に何かあったら絶対許さない」
するとヒステリックに騒ぎ出した。
「みんなでお母さんを悪者にして楽しいか!お母さんはあんた達の事を思って言っているだけだ!言うことを聞け!」
この時から母親のめぐみちゃんに対する態度は酷くなっていった。
私は雅樹が初めての相手だった。
雅樹は過去に何人かお付き合いをした女性がいたみたいなので、深くは聞いてないが経験はあるだろう。
私のファーストキスは高校2年の時、相手は女子。
同じ吹奏楽部の子でその子はクラリネット担当。
クラリネットにも興味があった私は彼女のクラリネットを吹いてみたくなったが、ちょっと抵抗があった。
「吹いてみる?楽譜は読めるよね?」
「うん、でもちょっと抵抗が…」
「えー?私別に病気ないよー?」
「いや、そうじゃなくて」
「あー、間接キスになるから嫌なのかなー。じゃあ直接チューしたら大丈夫じゃない?」と言われ、その場でチュッとされた。
「よし、これで大丈夫!」
「えー」
もちろん彼女に全くの悪気はない。
そんな程度しか経験がない私。
大浴場の女風呂でも恥ずかしくなってしまうのに、好きな男性の前で裸なんて…しかもスタイルがいい訳でもないし、胸もない。
雅樹と付き合って1ヶ月半が過ぎた。
日曜日で雅樹が自宅の近くまで迎えに来てくれて朝からデートをした。
まだ先輩後輩の関係が抜けていなかった私は、半分敬語、半分タメ口という感じだった。長谷川さんと呼んでたし。
お昼を食べて、どうしようか?と話していたら雅樹が「一緒に行ってみたいところがあるんだけど…いい?」って言われて、何の疑いもなくOKした。
車はどんどん街から離れていく。
見えて来たのはラブホテル街。
あっ。付き合うってそうなるよね。
一気に心拍数があがる。
どうしようどうしようどうしよう…
「…いいかな」
雅樹が聞いてきた。
下を向き頷くしかなかった。
雅樹の事は大好き。
でも20歳越えても男性経験がないのは引かれるかもしれない。
出入口にゴム製の大きなのれんみたいなのを抜けてホテルの駐車場に入る。
雅樹の後ろをついていく。
ネオンギラギラの階段をあがると、部屋の写真と共に押しボタンがある。
テレビで見た事はあった。
雅樹が「どこにする?多分パネルに電気がついているのが空いてる部屋だよね?」
良く見ると、半分のパネルの電気が消えていた。
ボタンを押すとパネルの電気が消え、ロボットみたいな声で「いらっしゃいませ」と言われて、その部家に向かった。
部屋はちょっと広めのワンルームみたいな感じで、白で統一されていた。
初めてのラブホテルが珍しく、あちこち開けては覗き込む。
トイレは普通だけどお風呂は広かった。
洗面所も十分な広さがあり、バスタオルやガウンが置いてある。
部屋に戻り扉を開けると、ビジネスホテルみたいにポットや電子レンジがある。
グラスも2つ。
冷蔵庫を開けると、無料の小さな缶のお茶が2本入っていた。
冷蔵庫の上にはアダルトグッズが販売してある機械があった。
思わず扉を閉めた。
雅樹はソファーに座り笑っていた。
「面白かった?隅から隅までくまなく見てたね!そんな姿を見ていて面白かった(笑)」と笑う。
恥ずかしい。
雅樹は大人だなー。
「何か飲む?」
雅樹がさっき私が開けた冷蔵庫の前に立っていた。
「無料のお茶がありました」
「これでいいの!?コーヒーとかもあるけど?」
「無料のお茶で大丈夫です」
「あははー!かなり緊張しているでしょ?」
笑いながら雅樹は私を見る。
「緊張してます。初めてなので」
「…えっ?まじめに?」
「はい、今まで男性経験が全くないです。20歳越えて初めては引きますよね、すみません」
「そんな事ないよ!まり!大事にする!ずっと俺といて欲しい!」
初めて男性とキスをした。
また心拍数が上がる。
緊張し過ぎて過呼吸になりそうだよ。
「シャワー入る?一緒に入ろうか?」
「無理です!」
「可愛いなぁ(笑)俺、ちょっとシャワー入って来るね」
その間、テレビをつけた。
いきなり裸の女性のアップがテレビ画面いっぱいに写っている。
思わず消した。
どうしようどうしようどうしよう…
またテレビをつけた。
裸の男性と女性が重なりあっている。
また消した。
そうか。
これから私はこういう事をするのか。
またつけた。
良くリモコンを見ると切り替えボタンがある。
押してみると、いつもお茶の間を楽しませてくれるいつも見るテレビ画面になった。
再放送の2時間ドラマ。
何故かホッとする。
そうこうしているうちに雅樹がシャワーからあがった。
ガウン姿の雅樹。
あれ?長さ短くない?
「あー、さっぱりした!髪まで洗っちゃったよ」
少し長めの髪にパーマ。
「シャワー入って来たら?さっぱりするよ」
「…行って来ます」
脱衣場に向かう。
雅樹が入った時のあたたかさが残る。
雅樹みたいに髪まで洗うと、自宅に帰った時にバレる可能性がある。
化粧は直せるが、髪は直せない。
アメニティの中を見たらシャワーキャップがあった。
それを被る。
美容室でこんなのを被っている人をたまに見掛けるなーなんて思いながら鏡の中の私を見る。
髪以外、キレイさっぱりした。
バスタオルで体を拭く。
バスローブを手に取り悩む。
バスタオルをまいて行けばいいの?
それともガウン?
ガウンの下は下着着けるの?
裸の状態でガウンを羽織るの?
わかんない。
雅樹はガウン着ていたからガウンだよな。
えっ、雅樹はパンツはいてた?
どうしたらいいの?
雅樹に聞く?
いや、それもおかしい。
しばらく悩んだ末、裸の状態でガウンを羽織る事に決めた。
シャワーキャップも取り、ガウン姿でソファーに座っている雅樹の隣に座る。
ふとテレビを見ると、さっきチラッと見たアダルトチャンネルが写っていた。
雅樹も大人の男性だもん。
みるよね。
兄や弟の部屋でも隠してあるの見つけた事あるし。
母親にバレない様に奥にしまいこんであげたけど。
思わず雅樹と一緒にみる。
しばらく私も雅樹も無言だった。
するとテレビが消えた。
部屋の電気は私がシャワーしている間に雅樹が暗くしていた。
「まり、おいで」
部屋の真ん中に鎮座しているベッドに行く。
もう雅樹に身を任せる!
雅樹は多分慣れてる。
それなりに経験はありそうだ。
モテそうだもんな。
本当に私なんかでいいのかな。
すごく優しくリードしてくれる。
うまく緊張をほぐしてくれる。
避妊具つけるの慣れてるな。
そりゃそうだよな、8歳も年上だもん。
でも幸せだよ、私。
愛する雅樹と1つになれた。
何回も愛してるって言ってくれた。
何だろう。
何か壁がパーっと外れた感じがする。
急に雅樹に近付けたみたいな。
でもやっぱり恥ずかしい。
そんな初めての体験談。
翌日。
普通に仕事がある。
この日は先輩事務員の田中さんと立花さんが当番だから、私は通常出勤。
「おはようございます!」
「加藤さん!おはよー!いいところに来たー!助けてー!」
給湯室から田中さんの声がする。
「どうしたんですか?」
慌てて給湯室に向かう。
田中さんがお茶の在庫を確認していたら、茶葉の入れ物を丸ごと全てひっくり返してしまい、給湯室の小さな台所と周りに大量の茶葉が散乱していた。
田中さんも頭からかぶり、髪の毛に大量の茶葉がついていた。
「ちょっと待っていて下さい!今、ほうきとちり取り持って来ます!」
急いで掃除用具のところに向かい、ほうきとちり取りを持って給湯室に向かう。
田中さんが「ごめんねー朝から、本当信じられない!いやだもー!ブラウスの中にもお茶がいる!」
給湯室の入り口のカーテンを閉めて、田中さんはブラウスを脱いだ。
細かい茶葉が体全体についている。
「田中さん!今、タオル取って来ますから待っていて下さい!」
今度はタオルを持って取りにバタバタ走る。
「ちょっと濡らして背中拭きますね」
「ありがとー」
ブラジャー状態になっている田中さんの背中を濡れたタオルで拭く。
女性同士だから問題はないだろう。
遅れて立花さんが来た。
カーテンの向こうで「大丈夫?」と心配そうに声をかけて来た。
給湯室はほぼ事務員しか使わないため、男性社員に見られる事はないだろう。
髪についた茶葉はなかなか取れない。
田中さんは諦めて「今日1日ご一緒するわ」と茶葉を頭に残しながら仕事をした。
事務員3人で茶葉の片付けをしていたら遅くなり、気付いたら始業時間を20分も過ぎていたが、そこまでうるさく言われる会社ではないので、3人一緒に静かに事務所に戻る。
給湯室で騒いでいたから、何かあったんだろうな、くらいだろうか。
田中さんの髪には茶葉がついてるし、察する人はわかるだろう。
席に戻ると既に仕事をしていた雅樹と目が合った。
昨日の事がよみがえり照れながらパソコンに目を落とす。
今ある茶葉はほとんどひっくり返してしまったため、お客さんが来たらお茶を入れられない。
それに気付いた私と立花さんが近所のスーパーまでお茶を買いに行く事になった。
その日の夕方、会社に一本の電話が入った。
たまたま雅樹が電話を受けた。
電話で話しながら雅樹の顔が急に険しくなる。
「加藤さん!2番出て!」
雅樹が私に電話を取る様に大きな声で言う。
えっ?私?
「あっ、はい」
受話器を取り2番を押す。
その様子を雅樹はじっと見ていた。
弟からだった。
「ねーちゃん、仕事中に申し訳ない」
「圭介?どうした?」
「父さんが仕事中に事故を起こして総合病院に運ばれたんだ」
「うそ…」
「さっき出た人にも伝えたんだけど、ねーちゃんこれから病院に来れるかな」
「わかった、今から行く」
電話を切り、部長に事情を説明。
隣の立花さんと田中さんには直接事情を説明。
「早く行って!後は私達がやるから!」
立花さんと田中さんはそう言ってくれた。
部長も「すぐに帰りなさい」と言ってくれた。
チラッと雅樹の方を見た。
口パクで「行け」と言っていた。
制服のまま急いで総合病院の救急外来に向かう。
母親と弟がいた。
「兄ちゃんは?」
「今向かってると思う」
「お父さんは?」
「今手術中」
険しい顔で弟が答える。
母親は椅子に座り無言のまま。
程なくして兄も来た。
家族4人、無言が続く。
兄は廊下をうろうろ。
落ち着かない。
弟もしきりに立ったり座ったりを繰り返す。
母親はじっと目をつぶり動かない。
私も落ち着かない。
手術室の中が騒がしくなった。
不安が襲う。
父親の手術をした医者が出て来た。
遠くまで歩いて行った兄が小走りで戻って来た。
「加藤さんのご家族の方ですか?」
「はい、そうです」
兄が答える。
医者の話をまとめると、出血は酷いが命に別状はない。頭を強く打っているので脳の精密検査をします。
あばら骨2本骨折。
前歯損壊、顔面裂傷。
父親は集中治療室に運ばれていた。
生きてて良かった!
色んな管がつけられ酸素マスクをしているが、今は麻酔で寝ていると説明を受けた。
寝ている父親をじっと見つめる母親。
唇をかみしめていた。
涙をこらえて居るのかもしれない。
時刻は22時を過ぎていた。
医者や看護師さんからも、とりあえず今日は帰宅して下さいと言われたため、各々帰る事にした。
母親は弟と一緒に帰宅、兄と玄関先でちょっと話し別れた。
車まで戻ると、私の車の隣に雅樹の車があった。
私の姿を見ると、車から降りてきた。
雅樹の姿を見ると、今まで我慢していた涙腺が崩壊し泣いた。
雅樹は私が落ち着くまで、黙って抱き締めてくれていた。
泣き止み、落ち着いて来た。
化粧も取れてぐちゃぐちゃな顔の私。
雅樹の車の助手席に乗り込む。
「親父さん、どうだった?」
雅樹は優しくゆっくり話しかけてくれた。
「弟さんから電話をもらって、親父さんが事故を起こして総合病院に運ばれたので姉に伝えてもらえますか?って言われた時はびっくりしたよ」
ああ。だから雅樹は総合病院だとわかったのか。
帰る時には急いでいたし、病院しか言ってなかったはずだから。
「心配で来てみたら、加藤さんの車が停まっていたから、出てくるまで待とうと思って」
「こんな遅くまで…申し訳ない」
「でも親父さん、命に別状がなくて本当に良かった。親父さんも今が一番辛い時だけど、きっと元気に回復してくれるだろうから!加藤さんも頑張って!」
「ありがとうございます」
また泣いた。
私は制服のまま、雅樹はスーツのままだから、雅樹はずっと無意識で私をまりではなく加藤さんと呼んでいた。
私も気付かなかったが、途中で雅樹は気付いたらしく「俺、ずっと加藤さんって言ってたわ。制服のままじゃ仕事抜けないな」
「明日、休むか?」
「…」
「田中さんが、加藤さんに恩返しします!加藤さんがしばらく休んでも任せて下さい!と宣言していたぞ?今朝何かあったのか?」
「ふふ」
思わず笑ってしまった。
「大丈夫です。明日出勤します。ありがとう」
「無理しなくて大丈夫だぞ?」
「本当に大丈夫!明日、田中さんと当番だから心配だし出勤しますよ。長谷川さんもいるし」
「そろそろ長谷川さんって呼び方やめないか?会社以外では」
「…雅樹」
「そう、俺は雅樹だ。親父さんも助かったし、まりの顔も見れたし、明日も仕事だから俺帰るけど…本当に大丈夫か?」
「大丈夫」
雅樹を見送り、私も帰宅した。
父親が一般病棟に移った。
母親は、ほぼ毎日父親の病室にいた。
私も行ける時は、仕事帰りに父親の様子を見に行った。
雅樹に会える時間は減ったが、雅樹は「親父さん優先で」と言ってくれていた。
うちの会社が繁忙期に入る。
毎日残業続きになり、しばらく父親のお見舞いも行けなかった。
日曜日。
仕事は休み。
母親は今日も父親の面会へ。
昨日、仕事が終わってから雅樹からボソッと「明日、時間取れる?10時に自宅近くのいつもの場所に迎えに行く」」
そう言われていたから、10時に待ち合わせ場所に向かう。
雅樹が待ってた。
運転しながら雅樹が「俺、一人暮らしを始めようと思って」
私もだが、雅樹も実家暮らしだった。
「今日部屋探ししようかなーって。まりにも一緒に選んで欲しいなーって思って。そうしたら今よりまりに会える様になるし、またいっぱいキス出来るし(笑)」
顔が真っ赤になる私。
「そういうところ可愛いよなー(笑)」
父親の事や仕事が忙しいのもあり、雅樹とは郊外のラブホテルでの初体験以来、何もない。
駅前のチェーン店の不動産屋さんに入る。
「いらっしゃいませ!こちらにどうぞ!」
爽やかな男性が迎えてくれる。
カウンター席に案内された。
雅樹が受付票みたいな紙に書き込む。
営業の男性が私に「奥様ですか?」と言って来た。
雅樹が「いえ、まだ奥様ではないんですけど」と答える。
「失礼しました!でも新しい部屋って気になりますよね?」
雅樹が受付票を書いている間、営業の男性は笑顔で話をしてくる。
雅樹の希望は荷物が多いという理由で2DKで駐車場付き、お風呂トイレ別。
階数は何階でも、市内であればどこでもOK。
こだわりは特にない様だ。
営業の方が候補として5つの部屋の間取り図を持って来た。
1つに、私の自宅から徒歩2分位のところにあるアパートがあった。
雅樹が「ここ見てみる?ここなら、まりの家近いし会えるね」
そこと、もう1つは比較的会社に近いところの2つに候補を絞り案内された。
自宅近く乗り込むアパートは多少古いが内装はキレイだった。
会社近くは新しいが、駐車場が狭い。
雅樹は、自宅近くのアパートに決めた。
この時はまだ、職場で私と雅樹が付き合っている事は立花さん以外知らない。
立花さんも誰にも言わないという約束は守ってくれているし、私達も必要最低限の会話しかしないしむやみに仲良くしていない。
仕事とプライベートは完全に分けたいという雅樹の意見に私も同意。
たまに目が合ったりするが見つめ合う訳ではない。
雅樹の引っ越しの日。
この日は手伝いに行きたかったが、会社の同僚2人が手伝いに来るとの事で、私は雅樹には会わずに母親と一緒に父親の病院へ向かった。
病院に向かう時は雅樹のアパートの前を通る。
うちの会社の2tトラックと同僚2人の姿が見えた。
2人は私には全く気付いていない。
夕方、私は先に病院から自宅に戻った。
雅樹に連絡をしてみる。
同僚は帰って今は1人だと言うので、早速雅樹の新居に向かう。
まだ段ボールだらけの部屋。
少しは出したのか空箱も何個かある。
「手伝いますよ」
「悪いね」
とりあえず、仕事に必要なものと着替えとスーツと寝るスペースだけは何とかしたい。
2人で黙々作業をする。
すると部屋のインターホンが鳴る。
「えっ、誰!?」
顔を合わせる。
モニターを見たら手伝いに来てくれていた同僚。
「ヤバい、牧野だ!靴とカバンを持ってあっちの部屋に隠れて!」
慌てて靴とカバンを持って奥の部屋の段ボールの後ろに隠れた。
玄関先で話している声が聞こえるが内容まではわからない。
ちょっと経ってから「まり、牧野帰ったからもう大丈夫だよ」と雅樹の声が聞こえた。
牧野さんは財布が見当たらないから、部屋に落ちてないか?というものだった。
ちょうどドアの裏側に落ちていた。
あって良かった。
母親にバレない時間帯ギリギリまで片付けを手伝った。
20時までが面会時間だから、いつもその時間までは病院にいる。
「そろそろ帰ります」
「今日はありがとう!助かったよ」
「片付けが落ち着いたら、まりとゆっくり出来るな」
そう言って抱き締めてくれてキスされた。
「愛してるよ、まり。おやすみ!また明日!」
母親が帰宅前に自宅に戻った。
永年勤務していた、雅樹と同じ部署の片山さんという男性社員が定年する事になった。
雅樹の上司になる。
社長からも信頼があった片山さんは、会社でも社長の次に力があると言ってもいい位の立場の人だった。
私も色々お世話になった。
片山さんはお酒は全く飲めないが、送別会を開いた。
目に涙をいっぱいためて、お別れの言葉。
社長も社長の奥さんも泣きながら片山さんとの別れを惜しんだ。
片山さんの後に入社したのが、28歳の真野さん。
大変キレイな女性。
若い男性社員が「真野さんって美人だよな」
「華がある!」「長谷川いいなー」とひそひそ話している。
雅樹が真野さんについて教える事になっていた。
「華がなくて悪かったわねー」
隣の立花さんが私にコソッと男性社員の話しに反応。
「真野さん、確かにキレイな方ですもんね」
私が答える。
「加藤さん、ヤキモチ妬かないの?」
「うーん、全くないと言ったら嘘ですが仕事ですから仕方がないです」
「まぁーねー」
小声でヒソヒソ話す。
昼休憩。
私と立花さんと田中さんの3人で、雅樹の隣のデスクにいる真野さんの所へ行く。
「ご挨拶が遅れました!事務員の田中です!」
田中さんが先頭を切る。
「同じく立花です!」
「加藤です。よろしくお願いいたします」
雅樹が黙って見ている。
真野さんは立ち上がり「こちらこそご挨拶が遅れまして。真野久美子と申します。よろしくお願いいたします」と丁寧に頭を下げてくれた。
「お昼はどうされますか?私達3人、そこのスーパーの中にあるマックに行くんですけど、真野さんお昼用意されていないなら一緒にどうですか?」
田中さんが真野さんを誘う。
「ありがとうございます。でも、お弁当を持って来てしまいまして…」
「あっ、そうなんですね!じゃあまた次に機会があった時は是非お昼ご一緒しましょう!」
「ありがとうございます」
真野さんは深々と頭を下げた。
手足が長くて顔が小さい。
モデルさんみたいだ。
同じ女性でもこんなに違うんだなー。
真野さんを間近で見てそう思う。
事務員3人、スーパー内にある小さなフードコートみたいな場所にあるマックでお昼ご飯。
突然、田中さんが「何かさー、長谷川さんと真野さんってお似合いのカップルみたいじゃない?真野さん美人だし、長谷川さんも悪くないじゃない?」と言い出した。
立花さんは目を丸くして一瞬私を見る。
私はハンバーガーを持ちながらフリーズした。
田中さんは続けて「私のデスクの通路挟んだ前が真野さんと長谷川さんでしょ?視界に入るんだよねー。片山さんはたまにオヤジギャグ言って笑わせてくれたりして楽しかったけど、最近彼氏にフラレた私には美男美女カップルが視界の先に入るのはツラいのよ」と一気に話す。
田中さんは私と雅樹が付き合っているのを知らないので仕方がないが、真野さんと雅樹がお似合いのカップルと言っていたのが、ちょっとツラかった。
立花さんが「まぁ、真野さんは入社したばかりだし長谷川さんも教えなきゃならないしね。真野さんがある程度仕事覚えたらそうでもなくなるんじゃない?」と話す。
多分、私へのフォローだ。
田中さんは私に「ねー、加藤さんは彼氏いるの?」と聞いてきた。
「…いや、今は特に」
嘘をついた。
珍しく立花さんが焦っている様に感じる。
「立花さんは彼氏と長いでしょー?結婚すんの?」
田中さんが立花さんに話を振る。
立花さんは「うーん、どうだろうねー。今はまだ結婚は考えてないかな?」と答える。
「私、来月でもう31歳だよ?あーあ、周りは結婚していくし焦るわー」
田中さんはそう言いながらシューズを飲み干した。
田中さんは何も知らないから仕方ないのはわかっている。
わかる。
でもたまにヒヤッとする爆弾を落とされる。
今はまだ、雅樹との関係を隠しているが、爆弾を落とされたらバレてしまいそうで怖い。
昼休憩も終わり事務所に戻る。
若い男性社員何人かが真野さんの近くにいた。
雅樹はデスクにはいない様子。
田中さんの言葉が離れない。
雅樹と真野さんがカップルに見えてしまいつらくなってしまった。
その日の夜、雅樹は学生時代の友人達と飲みに行く予定だったため、私は真っ直ぐ自宅に帰る。
「ただいま」
「お帰りなさい」
母親が返事をする。
「まり、今週末からしばらくの間、美枝子おばさんのところに行くから、その間お父さんの事を頼める?着替えとかなんだけど」
「いいよ。美枝子おばさん、何かあったの?」
美枝子おばさんとは母親の姉。
「ヘルニアで入院する事になったんだって。ほら、美枝子おばさん一人でしょ?来てくれないか?と頼まれたんだよ」
美枝子おばさんの旦那は10年前に他界し、子供(私のいとこにあたる)は飛行機か新幹線利用の遠方に住んでいる。
「わかったよ」
「着替えて来なさい」
「はいはい」
部屋着のジャージに着替える。
ご飯を食べるが食欲がない。
「何か疲れたから、お風呂入って早く寝るわ」
「そう?おやすみ」
お風呂に入り一息つくと、昼間に言われた田中さんの言葉がグサグサと来る。
涙が出て来た。
至って普通な地味な私より、男性なら10人中10人、絶対真野さんを選ぶよなー。
スタイルいいし、顔も美人だし、いい香りしたし、仕事も経験者だから覚えも早いだろうし。
雅樹もあんな美人が近くにいたら気持ち変わるよね、きっと。
ひがみが出て来た。
自分に自信がないから、すぐにネガティブな方向に進む。
小さい頃からの悪いクセ。
クラスのカーストではいつも一番下の位置。
コミュニケーション能力もなかったから友達は出来なかったが、ひとりでいるのは嫌いじゃない。
高校に入ると、みんな彼氏だー!彼女だー!と楽しそうにしていたけど、私は片想いで終わり、部活に打ち込む毎日。
吹奏楽部員とかは話す人もいたが、学校帰りに一緒に出掛けて遊びにいくという事も余りなかった。
だからといって勉強が出来た訳でもない。
数学、英語、化学はいつも赤点ギリギリ。
歴史と地理と古文だけは人並みだった。
一度だけ古文のテストで98点という点数をとった。
クラスで1番だった。
目立つ事が苦手な私はその日目立ってしまい嫌で嫌で仕方がなかった。
そんな私だから、彼氏なんて出来る訳ないよね。
雅樹という彼氏も夢でも見ていたのかな。
そんな気持ちのまま就寝した。
週末土曜日。
母親が美枝子おばさんのところに行った。
「もしかしたら1週間位あけるかもしれない。お父さんの事頼むね」
出勤前に母親を駅まで送る。
「うん。大丈夫。気をつけて」
母親を見送ってから出勤。
うちの会社は土曜日は通常営業。
休みは日祝と盆正月。
今日、仕事が終わったら雅樹のアパートで一緒に夜を過ごす予定。
付き合ってから初めての泊まり。
楽しみにしていたが、こんな時に限って会社でトラブルがある。
トラックが事故を起こした。
事故トラブルは雅樹の部署の担当のため、雅樹と上司である部長と2人が事故現場まで向かった。
この日、田中さんは急性胃腸炎のためお休み。
立花さんと「田中さんの分も頑張ろう!」と2人で仕事に取り掛かる。
それでも立花さんはこそこそと話しかけて来る。
「今日ね、彼氏の誕生日なんだ!」
「そうなんですか?おめでとうございます。何かお祝いするんですか?」
「長谷川さんの友達のお店を予約したの!前に加藤さん話していたでしょ?行ってみたくなっちゃって」
「すごく良かったですよ!楽しいお祝いになるといいですね!」
「ありがとう!加藤さんは長谷川さんと過ごさないの?」
「仕事が終わったら長谷川さんのアパートで一緒に過ごす予定ですが、事故トラブルで部長と行っちゃいましたからどうなるか…」
「早く帰って来るといいねー。長谷川さんとはうまくいってる?」
「はい!立花さんのおかげです」
「なら良かった!今日はお互い楽しみがあるから仕事終わらそ!」
そう言いながら席に戻った。
会社の電話が鳴り私が取る。
電話の相手は雅樹だった。
「加藤さん?」
「はい」
すると小声になり「今、部長いないから手短に」
「はい」
「今日、もしかしたらちょっと遅くなるかもしれないから、先に俺のアパートに行ってて。鍵は今朝、まりの机の引き出しに入れたから」
「わかりました」
あくまでも事務的に返す。
更に小声になり「部長来た」
そして「お疲れ様です。牧野さんか千葉さんに繋いで下さい」
「わかりました」
保留にし、牧野さんに取り次いだ。
ふと隣の立花さんを見たが、私と雅樹の会話だとは気付いていない様子。
ドキドキした。
「加藤さん!お疲れ様ー!」
「お疲れ様でした!」
定時過ぎ、立花さんは消える様に帰って行った。
まだパソコン見てる人、帰る準備してる人。
定時過ぎのいつもの光景。
雅樹と部長はまだ帰って来ない。
急いで帰っても仕方ない。
給湯室に行き、従業員が使ってそのまま置いてあった湯呑みやコーヒーカップを洗う。
すると真野さんが来た。
「お疲れ様です」
「あっ、真野さん、お疲れ様です」
「長谷川さんと部長が戻りませんが、帰宅しても大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫ですよ。待っていてもいつになるかわかりませんし」
「ありがとうございます」
「いえ。私もここが片付いたら帰りますので」
「では帰ります。お疲れ様でした」
「お疲れ様でした」
真野さんはお辞儀をして更衣室に行った。
そうだよね、上司が戻らないのに帰っていいのか不安になるよね。
やっぱり改めて見ても美人だなー。
今日、雅樹と晩御飯何を食べようかなー。
まだ雅樹の部屋は片付けきれていないし、うちで何か作るかな。
でも作れるものは限られる。
カレーにしよう!
カレーなら作れる!
鍋ごと持って行けるし!
よし、そうと決めれば帰ってから準備だ!
洗い物も終わり、机の引き出しを開けるとポンと置かれた鍵があった。
にやける私。
何人か残っていたが「お疲れ様でしたー!」と言って会社を出て、真っ直ぐスーパーへ。
イモはうちにあったな。
玉ねぎもあったな。
雅樹が会社で良く飲んでいるコーヒー、私が好きなお茶、お菓子他もろもろ買い物し帰宅。
台所に直行し米セット。
早炊き機能って便利ー!
早速カレー作りに入る。
カレーだけは誉められる唯一の料理。
気合いが入る。
雅樹に初めての手料理。
あともう少しというところで自宅の電話が鳴る。
母親だった。
「まり、帰ってたの?」
「今さっきね」
「美枝子おばさん、2週間位入院するみたいだから、それまでお父さん頼むね。毎日じゃなくても大丈夫だから」
「うん、明日お父さんのところに行ってみるよ」
「うん、じゃあね」
電話が切れる。
帰っているのか確認したかったのだろう。
電話に間に合って良かった。
急いで作ったから、いつもと何か違うけど仕方ない。
炊き上がったご飯を大きめのタッパーに詰める。
カレーは小さな鍋で作ったから、このまま持って行こう!
泊まりの準備。
最近、やっと携帯電話を持ち始めた。
雅樹とお揃いの機種にした。
雅樹から電話が来た。
「まり?お疲れ」
「お疲れ様です」
「今、会社に着いたから、これから書類作成してから帰る」
「はい」
「晩飯どうする?」
「カレー作ったから一緒にどうかな?と思って」
「まじで?まりのカレー食べられるの?急いで帰るから!じゃ!」
切られた。
あと30分くらいはかかるかな。
着替え持ったし、カレーも持った。
玄関の鍵を閉めて、歩いて雅樹宅へ。
まだまだ散らかっているし、生活用品も全部揃ってはいないけどだいぶ部屋らしくなっていた。
カレー、結構重たかった。
手が痛い。
台所に鍋とまだあたたかいご飯を置く。
居間はだいぶ片付いたみたいだが、奥の部屋がまだ段ボールが残っていた。
片付けてあげたいけど、勝手にあけたら怒られるかな?
居間の他に部屋が2つ。
雅樹が学生の頃に趣味でやってたというギターを見つけた。
元吹奏楽部。
多少は弾ける。
楽器自体が久し振り。
ギターを弾いてみる。
高校の学祭の時に練習して披露したバンドの曲を弾いてみた。
意外に覚えてるもんなんだなー。
楽しくなって来た。
知っている曲を色々弾いて遊んでいた。
「まり!ただいま!まりってギター弾けるの?意外!初めて知ったよ」
「おかえりなさい。ごめんなさい、勝手にギターで遊んでました」
「全然いいよ!結構うまいじゃない。ちょっとの間聞いてたんだけど、気付いてくれないから声かけた(笑)」
「ごめんなさい」
「いいの!いいの!何かいいね。帰って来てまりが部屋で待っててくれるのって」
照れる。
「部屋、全然片付かなくて」
「仕事しながらだし仕方ないよ」
「まりのカレー楽しみで帰って来たんだ!早速食べない?お腹すいた!」
「台所借りますね」
「自由に使って!俺、ちょっと着替えてくるね」
「はーい」
何これ。
めちゃくちゃ楽しくない!?
「いただきます」
雅樹と向かい合わせになりカレーを食べる。
「うまいよ!マジでうまい!」
「本当に?」
「本当!いやぁ今日頑張って良かったー!」
雅樹はあっという間に間食した。
「ごちそうさまでした」
私は台所を借り後片付け。
洗い物をしている私に後ろから雅樹が「何か新鮮!初めてだもんね、夜一緒に過ごすの。新婚初夜みたいだね」
何か照れる。
「まりとなら幸せに過ごせそうだな」
照れまくりひたすら無言。
後片付け終了。
雅樹の隣に座る。
雅樹はテレビをつけてお茶を飲んでいた。
「お酒飲まないの?」
「うーん、半々かなぁ?気分だよね。今日はまりと一緒に過ごすし、酔っ払ったらもったいない気がして」
気になる事を聞く。
「あのね、新しく真野さんが入って来て雅樹がついて教えているでしょ」
「うん」
「真野さん、美人でしょ?」
「まぁ、キレイな人だよね」
「ずっと一緒だから心変わりするんじゃないかって心配で…」
「確かに真野さんはキレイで仕事を覚えるのも早いけど、だけどあくまでも会社の人。特別な感情はないよ」
「真野さんが入社した日、お昼に私と田中さんと立花さんと3人で真野さんに挨拶に行ったの覚えてます?」
「うん」
「あの時、3人でマックでお昼食べて」
「うん。言ってたね」
「その時に田中さんが長谷川さんと真野さんってお似合いのカップルみたいだー!美男美女カップルだー!って言ってて…何かショック受けちゃって」
「田中さんは俺達の事を知らないから仕方ないよ。俺からまりに告白して付き合うってなって、俺の中では真野さんよりまりが日本一可愛い女性だと思っているよ」
「ありがとう。でも私となんかつり合わないんじゃないかって思っていて」
「俺の女はまりだけ!心配すんなって。だって俺、本当にまりの事が大事だし愛しているんだよ?」
「ありがとう」
「まりはしっかり約束を守ってくれている。会社ではきちんと一線ひいて先輩として立ててくれて接してくれている。甘えて来たり、なれなれしくして来ない。だから会社でもいい関係でいられる。社内恋愛ってバレたらどうしても相手を思い浮かべてしまい仕事しにくくない?ありがとう」
嬉しい。
雅樹と初めてゆっくり語り合った。
「雅樹ってモテたでしょう」
「そんな事はないよ」
「田中さんも立花さんも雅樹の事を誉めてたし」
「ありがとう」
「雅樹って部活って何をしていたの?」
「小学校と中学校は花のサッカー部。高校は帰宅部。まりは?」
「私は中高吹奏楽部一筋」
「あー。だからギター弾けるのか」
「だいたいの楽器は基本はわかるけど、演奏は出来なくて。だからパーカッション」
「かっこいいじゃん!すごいね!」
「あのね、聞いても大丈夫?」
「ん?なに?」
「どうして私だったのかなと思って」
「理由?うーん、可愛いなと思ったから」
「初めて言われました」
「今までの男に見る目がなかったんだよ。可愛いよ?おとなしいけど仕事は真面目に頑張ってるし、失敗しても言い訳しないできちんと謝るし、優しいし、気配り出来るし。こんなにいい女いないよ?」
「そんなに誉められると、お世辞でも嬉しいです」
「あっ、敬語禁止にしよう。名前は雅樹と呼んでくれる様になったけど、敬語は堅苦しい。今からダメー!(笑)」
「えー」
「プライベートは彼氏なんだよ?」
「はい」
「ほらほら!敬語!(笑)」
「うーん、難しい」
ふと時計を見ると、夜中1時を過ぎていた。
「まりといると、時間が過ぎるの早すぎ!そろそろ寝る?シャワー入ろうか、一緒に」
「さらっと一緒に入るとか言わないで!恥ずかしい」
「まりとイチャつきたい!だってあれからお預けだったんだもん。またまりと抱き合いたいけどなかなかゆっくり会えなかったから我慢していたんだよ?」
「…」
「よし、入ろうか。電気は消すから」
「…わかりました」
「また敬語!(笑)」
そう言いながら私をお風呂場に連れていく。
結構強引だな。
強引さに負けて一緒に入る。
「まりって結構スリムだよね」
「そんな事はないよ、胸ないし」
暗いからほんのりお互いの姿が見える位。
だからそう見えるだけだよ。
「ダメだ、我慢出来ないよ、まり」
そう言って後ろから襲われた。
えっ、私まだ2回目だよ?
そんないきなり後ろから来られてもどうしたらいいのかわからないよ?
綺麗に体を洗う。
お風呂から上がる。
そのまま無言で裸のまま寝室に連れて行かれる。
ベッドに押し倒される。
雅樹の真剣な顔が真上にある。
ドキッとした。
「まり。結婚しないか?そして一緒に住まないか?」
「雅樹…」
「俺、こんなに女の人を愛した事がないんだ。まりの事が好きすぎておかしくなりそうなんだ。離れたくない。ずっと俺の側にいて欲しい」
そう言ってキスしてきた。
何回も何回もキスしてきた。
3回目が始まる。
何度も何度も愛してると言って優しく包んでくれる。
私の事を本当に愛してくれているのが伝わる。
仕事の時の雅樹とは全く違う。
中に出された。
でもいいやって思った。
翌朝。
隣に雅樹の姿はなかった。
「おはよう、起きた?寝顔も可愛いね」
「…おはよう」
「今日、親父さんの病院に行くんだろ?」
「うん」
「昨日、激しかった?髪の毛爆発してるよ?」
そう言って笑っている。
「…シャワー借りる」
「どうぞー」
いつもの雅樹。
シャワーを借り、持って来たメイク道具で化粧をする。
髪を乾かし適当に結ぶ。
「おっ、加藤さんおはよ!いつもの加藤さん(笑)」
仕上がった私を見てからかって来た。
「まり、すっぴんだと印象がちょっと変わるんだね。眉毛がなくなるけど、すっぴんも可愛いよ」
恥ずかしい。
「女の人って大変だよなー。毎日今のルーティーンでしょ?俺なんか起きてからシャワー浴びたら10分もあれば十分だもんな」
「朝ごはん食べる?お腹すかない?パンならあるよ?」
「食べようかな?」
「昨日はまりが作ってくれたから、今日は俺が何か作るよ!って言っても目玉焼きくらいしかできないけど(笑)」
「ありがとう」
雅樹はパンを焼き、目玉焼きを作ってくれた。
「いただきます」
普通の食パンだけど、すごく美味しく感じる。
面会時間は13時から。
今はまだ9時半を過ぎたところ。
「面会時間、13時だからそれまで一緒にいてもいいかな?」
「もちろん!俺も今日はそれまでまりといたい」
隣に座ってくっついてみる。
肩を寄せキスされた。
幸せな時間が過ぎた。
母親がいない間、雅樹と半同棲生活をした。
多少の着替えと荷物を雅樹のアパートに持って来た。
仕事終わってから一旦自宅に帰り、翌日の仕事着を準備し、母親からの連絡を待ち、終わってから雅樹のアパートに行き一緒に寝る。
朝は雅樹のアパートから出勤。
雅樹が仕事で遅くなりそうな時は、父親の病院に行ったり自宅で洗濯をしたりしていた。
仕事で遅くなった時以外の夜はほぼ毎晩抱かれた。
最初は痛かったものが、痛くなくなった。
痛くなくなると、雅樹を前より大胆に受け入れられる様になった。
母親が帰って来る前日は日曜日。
「明日からは、まりがいなくなるんだ…」
朝から猿並にやりまくった。
愛しまくった。
感じまくった。
ずっと裸でくっついていた。
翌朝。
仕事もあるし、持参した荷物も片付けて一旦自宅に帰りたかったため5時過ぎに起きた。
それに気付いて雅樹も起きた。
「まり、今日でしばらく会社でしか会えなくなるなー寂しいなー」
そう言って後ろから襲われた。
終わってから「今度はいつ、まりを抱けるかなー」と言われた。
「もう十分したよ。今までの分もこれからの分も」
「だってSEXしてる時のまり、すごく感じまくってくれてたまらなく好きなんだよ。最高な時間はもう終わりかー」と言いながら渋々ベッドから出る雅樹。
一旦自宅に戻り、シャワーを浴び通勤服に着替えて準備をし出勤。
いつも通り雅樹も出勤。
「加藤さん、おはよう」
「おはようございます」
お互い仕事のスイッチに切り替える。
仕事をしていたら、立花さんがいつも通り椅子ごとスーっと近付き、小声で「最近、加藤さんと長谷川さん、同じ香りがするんだよねー。シャンプーなのかな。気付いてた?」
「本当ですか?」
「うん。気を付けて」
「ありがとうございます」
「結構、気付く人は気付くからね」
「はい、気を付けます」
「同じ香りって事は、そういう事かー!って思って、ごめん勝手に想像して一人で笑ってる(笑)」
「大丈夫です」
「仕事戻りまーす」
そう言って立花さんは席に戻った。
真野さんの歓迎会が開かれた。
幹事は雅樹。
駅前の居酒屋。
社長は所用で来る事が出来なかったが、代わりにお金は出してくれた。
足りない分は自腹ねー、私は行けないが真野くんにはこれからも末永く頑張って欲しいと社長。
主役の真野さんの隣の席の争奪戦が始まる若い男性社員。
見ていると面白かった。
立花さんも田中さんも笑いながら見ている。
すると真野さん「お世話になっている長谷川さん、隣大丈夫ですか?」と雅樹を隣に来た。
「俺、幹事で忙しく動くから落ち着かないよ?」
雅樹が真野さんに伝えるが、真野さんは「大丈夫です」と言っている。
いつもいる雅樹が近くにいた方が、緊張は少しとけるよね。
私は端っこの席に座る。
その隣に立花さん、その隣に田中さん。
歓迎会が始まった。
次から次、飲み物からつまみまでどんどん店員さんが運んで来る。
端の席の私は来たものをどんどん流し、空いたグラスや食器を下げて、個室の入り口に置く。
立花さんも田中さんも手伝ってくれる。
男性社員はお酒も入り盛り上がっている。
真野さんは雅樹と何やら話している。
すると酔っ払った若い男性社員が「えー何々?何をこそこそ話してるのー?長谷川ー!真野さんを独り占めすんなよー」
真野さんは「長谷川さんは本当に丁寧に色々教えて下さって感謝しています」と雅樹に笑顔。
やだ、美人は何しても美人だなー。
酔っ払った男性社員が「長谷川ー!お前うらやましいぞ!」と雅樹の頭をぐしゃぐしゃしている。
田中さんは「美人は特だよねー、いいなー。私も美人に生まれたかったなー」
ビールを飲みながら私と立花さんに話しかけて来た。
田中さんはほろ酔い状態。
「私だってね、頑張ればまだまだいけるんだからね!」
「私の事を振ったあのやろうを見返してやるんだから!」
田中さんはまだ傷心中。
かなりみんな酔っ払ってきた。
雅樹は幹事だからかひたすらお茶を飲んでいる。
私はカクテルを少し。
お酒は余り飲めない。
酔っ払った男性社員。
真野さんに絡みだした。
「うわー」
立花さんと私とその様子を見ていた。
真野さんは迷惑そう。
雅樹がやんわりと止めた。
必ずいるよね、こういう人。
私はひたすら、片付けたり来たものを回したり。
「加藤さん!ビールを3つ頼んで!」
「はい!」
「加藤さん!ハイボール2つ!」
「はい!」
すっかり私は雑用。
立花さんも手伝ってくれるし、別に雑用でも全然大丈夫。
田中さんは酔っ払っている。
フラれて日は経ってないし、飲んで少しでも前を向ければと思って、酔っ払った田中さんの愚痴を聞いていた。
雅樹が「加藤さん、ごめん、おしぼり頼んでもらえる?」
「はい!」
酔っ払った男性社員が飲み物をひっくり返してしまった。
私はおしぼりを店員さんに頼みに行く。
「長谷川さん、おしぼり持って来ました」
「ありがとう!そっからおしぼり投げて!」
「はい!」
密集しているため、雅樹の場所まで行くのはちょっと大変。
それが一番早かった。
冷静に判断し、幹事として色々仕切る雅樹に惚れ直す。
すると真野さん「長谷川さんって、彼女いるんですか?」と雅樹に聞いた。
ドキッ。
雅樹は「いるよ?どうして?」
真野さんは「あー、やっぱりいらっしゃいますよね。長谷川さんって素敵な方だから、彼女いるのかなと思いまして」
「普通だよ、褒めてくれてありがとう」
雅樹はそう答えていた。
それを聞いていた立花さんが「まさかとは思うけど、真野さん、長谷川さんを狙っている訳じゃないよね?」と私に言って来た。
「ヤバいですね」
「もしヤバい状態なら、私出来る限り協力するからね」
「ありがとうございます」
雅樹は真野さんに興味はないと言っていたが不安になって来た。
そういえば真野さん、今日ずっと雅樹の横にいるもんな。
すると男性社員が「真野さん、長谷川と付き合っちゃえば?お似合いだと思うよ?」と言う。
「いえ、そんな」
「真野さんも長谷川も独身なんだし、問題なくね?」
雅樹が「ほらほら飲み過ぎ!お茶飲めお茶!」と男性社員に自分のお茶を差し出した。
真野さんの反応。
まさか本当に雅樹を狙ってないよね?
二次会。
1/3の人は帰ったが、残りの皆は二次会に参加。
カラオケだった。
主役の真野さんも、立花さんも田中さんも二次会に参加。
もちろん幹事である雅樹もいる。
雅樹は同じ部署の同期でもあり、引っ越しを手伝ってくれた牧野さんという人と仲がいい。
牧野さんは仕事にはすごく厳しいが、普通に話せば優しくて面白く、雅樹も信頼している同僚。
2人で飲みに行ったりもしている。
真野さんはここでも雅樹の横に座っている。
ちょっとだけヤキモチ。
出来上がっている男性社員が「自分、歌いまーす」と選曲。
盛り上がる一曲。
これを皮切りに次々誰かが曲を入れていく。
田中さんも「私も歌う!」と一曲。
田中さんは声が通るから聞いていて気持ちがいい。
私は目立つのが嫌いなため聞き役に回る。
「加藤さんは歌わないの?」
隣にいた牧野さんが声をかけて来た。
「私は皆さんの歌を聞いている方が楽しいので…」
「俺とデュエットしない?」
「えっ!?」
「一曲フルを一人で歌う訳じゃないし、俺はジャイアン並の超がつく酷い音痴だから、加藤さんが自信ないとかなら絶対自信もてるよ!」
先輩からのお誘い、断るわけにいかない。
「わかりました」
「何がいい?」
「これからわかります」
「よし、じゃあこれで」
牧野さんは選んだ曲を入れる。
余り牧野さんとは話した事はなかったが、ちょっとだけ色々話をした。
「真野さんってキレイな方ですよね」
「そうだねー、モテそうな感じだよね。でもね、何か影があるというか、闇があるというか、なんて言えばいいのかわからないけど…」
「はい?」
そこで選曲した曲が入った。
「この曲だーれー?」
誰かの声が聞こえる。
牧野さんが「俺と加藤さん!」
「はいよー」と言われてマイクが2本回って来た。
歌っている間、雅樹は飲み物を頼みながらも笑顔でこっちを見ている。
「加藤さん、普通にうまいじゃん!」
「とんでもない、お恥ずかしい」
牧野さんがお世辞でほめてくれる。
「おーい、牧野!ちょっと手伝って!」
雅樹が牧野さんに手招きしている。
「今行くー」
そう言って牧野さんは雅樹の隣に座る。
いよいよ歓迎会もお開き。
3次会に行く人、帰る人に別れた。
田中さんも立花さんも帰るチーム。
私も帰る事にした。
田中さんと立花さんは帰り道は同じ方向。
私は真逆。
カラオケの前で2人と別れた。
「じゃあ加藤さん!またねー!田中さんは責任もって送り届けるから!」
「よろしくお願いします!お疲れ様でした!」
近くにいたタクシーに2人が乗り込むのを見届け見送った。
ふと雅樹を見ると、同僚達と笑いながら立ち話をしている。
真野さんも一緒。
私は歩いて帰ろうかなー。
そこまで遠くないし。
「じゃあ、私も帰ります。お疲れ様でした!」
「加藤さん!お疲れー!気を付けて帰んなよー」
同僚達が声をかけてくれた。
雅樹は私を見ていたが、私はぺこりと会釈して、マイペースで歩く。
ほろ酔いだからなのか、歩くのがとても気持ち良い。
うちまではゆっくり歩いて20分ちょっと。
車ばかり乗っているからたまに歩くのはいい感じ。
途中にある自動販売機でペットボトルのお茶をしている買い、飲みながらマイペースで歩く。
雅樹が住むアパートがちょっと先に見えて来た。
「もう少しで家だなー」
その時、すごい勢いで後ろから車が来た。
「こんな路地でスピード出してたら危ないじゃん!」
ちょっと左にカラダをよける。
その車は雅樹のアパートの駐車場に入っていく。
そしてこっちに向かって「まり!まり!」と言う声が聞こえる。
雅樹だった。
「あー!間に合った!もう家に着いちゃったかと思って飛ばしたよ」
「危ないよ」
「携帯に電話しても出ないしさ」
ちょっとふてくされてる。
「ごめん、全然気付かなかった」
「とりあえず無事に帰れて良かった。少しだけ、うちに来ない?」
「うん」
雅樹の部屋に入る。
玄関に入ってすぐに抱き締められた。
「またしばらく抱き締められないから」
そしてキスをされた。
「お酒のにおいがする」
「ちょっとだけ飲んだから」
小さく笑い合う。
「上がる?」
「今日はエッチなしだよ」
「わかってるよ(笑)」
「お邪魔しまーす」
見慣れた部屋。
とても安心する空間。
「あー!疲れたー!」
雅樹はそう言いながらソファーに座り、上半身を後部に反らして伸びをした。
「まりも色々雑用やってくれてありがとな」
「立花さんも田中さんも一緒にやってくれたし全然大丈夫」
「まりの歌声、初めて聞いたけど普通にうまいね」
「そんな事ないよ、ありがとう」
「今度は2人でカラオケ行ってみようか?」
「そうだね。あのね雅樹」
「なに?」
「ずっと真野さん、雅樹の隣にいてちょっとヤキモチ妬いちゃった」
「ヤキモチ妬いてくれるの?」
「真野さんに狙われてない?」
「みたいだねー」
「えっ?」
驚く私。
「さっき、まりが帰るって言って歩いてったじゃん?その後俺も牧野達に「またな!」って言ってすぐに別れたんだよ」
「うん」
「近くの駐車場に車を停めてあったから、その駐車場に向かったんだよ。まりが家に着いちゃう前に追い付かなきゃ!と思って、ちょっと早足でね」
「うん」
「そしたら後ろから真野さんが「長谷川さん!良かったらこれから2人で飲みに行きませんか?って言われたんだ」
「うん」
「いや、俺彼女いるし、女性と2人きりで飲みには行けないし行きたくないとはっきり断ったんだ」
「うん」
「そしたら「長谷川さんの事が好きなんです」って言われた。
「…で、雅樹は何て言ったの?」
「俺は彼女の事を愛しているから、真野さんの気持ちには答えられない。今のは聞かなかった事にするからまた月曜日、また会社で会おうって言った」
黙る私。
「だって俺、まり以外の女性に興味ないもん。でも真野さんには辞めてもらうのは困るからそう言った」
「真野さん、月曜日来ても雅樹の顔を見たらツラいね」
「でも、のらりくらりかわして勘違いされるより、真野さんとは付き合えないよ!っていうのをはっきりさせないとね」
「同僚としては大事にしたいよ?指導係としてはね。せっかくだいぶ仕事も覚えたし」
「あのね、カラオケの時に牧野さんがね、真野さんの事を影があるというか、闇があるというかみたいな事を言ってたんだ。意味わかる?」
「あー、余り笑わないし表情がないんだよな。だからそう感じるかもね」
「そうなんだ」
「私、そろそろ帰るね」
「うん」
キスをして別れた。
月曜日。
「おはようございまーす」
「加藤さん!おはよう!」
いつもの朝。
更衣室に向かうと田中さんがいた。
「あ、加藤さんおはよう!この間は酔っ払っちゃって迷惑かけてごめんね」
「おはようございます。いえ全然迷惑なんてかかってないので大丈夫です」
「久々に飲んだわー。おかげでぐっすり眠れたし今日からまた頑張るわ!」
少しは傷心から立ち直ったみたいでよかった。
「おはようございます」
「あ、真野さんおはようございます!」
田中さんが挨拶。
「おはようございます」
真野さんが挨拶をする。
田中さんが「今日私当番だったの忘れてさっき来たんだよね。もう立花さんが掃除始めてるから行くわ!」
そう言って足早に更衣室を出て行く。
真野さんと2人きり。
何か気まずい。
「真野さん、この間は歓迎会お疲れ様でした。楽しめましたか?」
気まずくて目を見られないため、着替えながら無言も変な感じだから話をふる。
「はい、私のために歓迎会をして頂き感謝しています。仕事で返していきたいと思っています」
「頑張って下さい」
「ありがとうございます」
いつもと変わらない感じの真野さん。
「真野さんってここに入る前は何をされていたんですか?」
こんなにキレイな人だから興味があった。
「東京でモデルの仕事をしていました。とは言ってもアルバイトで、ちょっとしたものですが…」
「あー、やっぱりそうですよね。そんな感じしました。モデルさんとかすごいですね。でも何故こんな田舎街に?」
「高校までこっちなので」
「地元なんですね?こんなにキレイならモテますよね」
「いえ、そんな事はないです。普通にフラれますし」
「…そうなんですか?」
「はい。素敵な方にはやはり彼女がいるみたいです」
「なんかすみません、色々聞いてしまって」
「全然大丈夫です」
真野さんと一緒に並ぶと背が高いのがわかる。
170cmは間違いなくある。
私は160cm。
10cmちょっと違うだけで、こんなにウエストの位置って変わるものなのかな?
幼児体型の私と元モデルの真野さん、同じ人間とは思えない。
うらやましいなー。
私と真野さんが一緒に事務所に入ると、先に出勤していた雅樹が私達を見て、一瞬目を丸くして動きが止まった。
「長谷川さん、おはようございます」
真野さんが挨拶。
「おはよう。加藤さんもおはよう」
「長谷川さん、おはようございます!」
めちゃくちゃ笑顔で答えてみた。
雅樹は一瞬、顔がひきつる。
性格悪いがなかなか面白い。
立花さんと田中さんも戻って来た。
今日1日が始まった。
のんびりとした会社なのですごく気楽に働ける。
今日も相変わらず雅樹と真野さんは隣同士。
「加藤さーん」
立花さんがいつも通り椅子ごとスーっと隣に来た。
「何か今日は雰囲気違うね、真野さん」
今更だけど立花さんって、結構鋭い人なのかな。
「あの…立花さんにお話があるんです」
「よし、聞いてあげよう!お昼にねー」
そう言って、またスーっと椅子ごと席に戻る。
昼。
田中さんは今日はお弁当持参。
立花さんに話がなければ立花さんとお弁当を買って来て食べたいところだが、今日は適当な理由を言って、前にも来たファミレスに行った。
ランチを頼む。
「さあ!話してごらん!」
立花さんは満面の笑顔で聞いてきた。
真野さんの歓迎会の時に真野さんが雅樹に告白した事、雅樹が彼女がいるからと断った事、聞かなかった事にするから月曜日に会社で会おうと言った事を伝えた。
「そんな感じしたんだよねー、心配は本当だったね」
「そうなんです」
「でも長谷川さんって偉いよね。きちんと断れて。男子ってあんな美人に言い寄られたら下心芽生えるんじゃないの?男子って、上半身と下半身は別の生き物って言わない?」
「聞いた事はあります」
「いや、もちろん世の男子全てがとは言わないけど、そういう人が多いよね。長谷川さんがそれだけはっきり言ったんだったら心配ないんじゃない?真野さんも割り切れたから今日来たんだろうし。でもあの場で長谷川さん、はっきり彼女いるよ?って言っていたのにねー」
「ですね」
「彼女いるの知ってて告白って、よっぽど自信があったのかな、わかんないけど」
「まぁキレイだし、自信はあるかもですね。東京でモデルされてたみたいだし」
「そうなんだ、だろうねー」
立花さんと話すと安心する。
母親が突然「まり、最近あんた何かお母さんに隠している事あるでしょう」と言った。
「…何もないよ」
「彼氏でも出来たか?」
「どうして?」
「母親だもの、わかるわよそのくらい。あんた最近雰囲気変わったし、帰るの遅いし」
バレたか。
「うん、まぁ」
すると矢継ぎ早に質問が始まる。
「名前は?」「仕事は?」「どこに住んでいる?」「親兄弟は?」「結婚する気はあるのか」他もろもろ。
「連れてこい!連れて来るまでは会うな」
「いや、それまで会うなとかそれは無理」
「何故だ!今すぐにでも連れてこい!」
いや待て、もう22時を過ぎている。
「お母さん、今何時だと思ってんの?今すぐなんて無理だよ」
「子供じゃないんだから起きてるだろ!」
「いやいや、普通に迷惑でしょう」
「連れて来なかったら、明日お前の会社に行って長谷川出せ!って呼び出してやる!」
「待って、それはやめて」
「じゃあ今から連れて来い」
「理由は?」
「どんな男なのかを見極めてやる」
「今じゃなくても…」
「いいや、今すぐにでも連れてこい!格好なんかどうでもいい。今すぐ来ないならそんな男は認めないし明日会社に行く!」
言い出したらこの母親は本当に会社に来る。
それは困る。
「…ちょっと待って、連絡するから」
「今、目の前で連絡しなさい。どうせお母さんを悪く言うつもりなんだろうから」
「いや、ないから」
「いいから今すぐ連絡しろ!」
ヒステリックになって来た。
落ち着かせるためには言う事を聞くしかない。
私は母親の前で雅樹に電話をする。
すぐに出た。
「あれ?まり?珍しいね、こんな時間に。どうしたの?」
「…あのね、申し訳ないんだけど、今すぐうちに来れる?」
「えっ!?今?何かあったの?」
「うん…お願い、今すぐうちに来て」
「…わかった。今行く」
何かを察した様子の雅樹。
電話を切る。
「今来るって」
「そりゃそうでしょう。男は女から来てと言われたらすぐに行くものだ」
「じゃあ女も?」
「女は支度に時間がかかる。待たせておいても問題ないだろ。遅く行っただけでグチグチ文句を言う様な男はろくな男じゃない」
母親理論は、いつもぶっ飛んでいる。
母親が突然「今日、やっぱりいいわ」と言い出した。
「は?」
「眠たくなってきたし、何かあんたと話していたら疲れちゃった」
「えっ、何それ」
「何か文句あるのか?母親に向かって何を言ってるんだ!」
「わかった、わかったから」
「また今度、気が向いたら会ってあげるわ。お母さん寝るわ」
そう言って寝室に入って行った。
勝手過ぎない?
慌てて部屋に戻り雅樹に電話。
雅樹は既に玄関前にいた。
「もしもし、本当にごめん」
雅樹は小声で「ちょっと待って、玄関から離れるから」と言って無言になる。
「母親にバレてしまって、今すぐ連れて来なかったら明日会社に行って長谷川出せ!って呼び出してやるって怒って…うちの母親の事だから本当に行きそうで怖くて。本当にごめん」
「玄関からお母さんの怒鳴っている声は聞こえていたよ。だからそこで状況は察した。大丈夫。謝らないで。でも、いつかはきちんとご両親にご挨拶に行くから」
「本当にごめん。もう少し私が強く言えればいいんだけど、情けないけどこの年にもなって母親が怖いの」
涙が出てきた。
「泣かないで!本当に大丈夫だから。今日はこのまま帰るね。また明日会社で会おう。もしお母さんが本当に来ても、俺が対応するから大丈夫。俺、トラブル対応慣れてるから。余り話していると、ほらまたお母さん大変になったら困るから切るね」
「ありがとう、おやすみなさい」
「おやすみ」
雅樹に対して申し訳ない気持ちと雅樹の優しさと自分自身の情けなさとで涙が止まらなかった。
翌朝。
泣いたせいで目が腫れぼったい。
アイメイクを濃いめにしてごまかす。
「まりー!まだ仕事行かないのー?遅刻するよー」
母親が居間から叫んでいる。
「今行くー!」
そう言いながら玄関で靴を履く。
母親が玄関に出てきた。
「行ってらっしゃい」
「…行って来ます」
何か気分が落ち込んでいる。
通り道にあるコンビニに寄る。
コンビニで飲み物を見ていたらりんごジュースが飲みたくなり1本買う。
車に乗り込み、りんごジュースを飲む。
少し気分が変わる。
少しだけカーオーディオのボリュームをあげる。
好きなバンドの曲。
「今日も頑張ろう!」
1日が始まる。
「おはようございます」
「おはよー!」
いつもの朝。
「加藤さん、おはよう」
後ろから雅樹が来た。
「おはようございます」
「今日も頑張ろうね」と言って、私の背中を軽くポンポンと2回叩いた。
「はい、ありがとうございます」
雅樹が会社で私を元気付けてくれるために、たまにしてくれる。
以前仕事で失敗して上司に怒られた時にこれをしてくれた。
何か元気が出た。
会社に来たら雅樹に会える。
彼氏としては会えないけど、先輩後輩として同じ空間にいれる。
私を抱いてくれている時の雅樹は本当に優しくて、でも可愛くて、そんな雅樹の会社でのキリッとした表情も大好きで。
一緒に仕事出来るのが一番嬉しいし楽しい。
だから、どんな事があっても雅樹との約束通り完全に仕事とプライベートを分けている。
この時間を壊したくないから。
たまに長谷川さんではなく、雅樹と言いそうになる時もある。
だから最近は少しだけ雅樹と呼ばない様に意識して話をしている。
午前中いっぱい、本当に母親が会社に来るんじゃないかとヒヤヒヤしていたが来なかった。
午後からは父親の病院に行くため、来る事はないだろう。
無事に1日終わった。
立花さんと田中さんとで終業後も3人でちょっと雑談をしていた。
ふと雅樹を見ると、事務所の奥の方で真野さんと2人で何かを話している。
気にはなるが見ないふり。
立花さんがそれに気付き、私に見えない様にしようと「さて、帰るか!」と立ち上がる。
続いて田中さんも立ち上がり「そうだねー!帰ろー」と身支度を始める。
「お先に失礼しまーす!」
「お疲れ様ー!また明日!」
雅樹より先に会社を出る。
今日はまっすぐ自宅に帰る。
母親の機嫌がいい。
「お母さん、何かいい事でもあったの?」
聞いてみた。
「お父さんの退院が決まったのよ」
「そうなの?いつ?」
「来週の火曜日」
「良かったね」
「本当に良かったわよ。一時はどうなるかと思ってだけどね。顔の傷は残ってしまったけど命があるだけで十分だよ」
「そうだね」
そっか、退院が決まったのか。
本当に良かった。
帰って来たら、退院祝いに美味しいものでもごちそうしようかな?
父親が退院した。
長い入院生活だった。
顔には痛々しい傷が残り、痩せ、すっかり老け込んでしまったが、久し振りの我が家に嬉しそう。
仕事から帰ると父親がいた。
「お父さん、おかえりなさい」
「まり、ただいま」
久し振りの我が家に嬉しそうな笑顔。
母親が嬉しそうに台所でご飯支度をしていた。
「まり、着替えたらご飯にしましょう!」
「うん」
部屋着に着替える。
着替える間に、別に住んでいた兄と弟も来た。
久し振りの家族5人での食卓。
懐かしい。
父親が好きな和食がメイン。
体にも優しいし、和食は好き。
父親のささやかな退院祝い。
母親が暴走する事もなく、楽しい時間が過ぎた。
家族団らんも終わり、兄と弟も帰る。
父親も早目に就寝。
私は母親の後片付けを手伝った。
「まり、もういいよ、明日も仕事なんだから早くお風呂入って寝なさい」
いつになく優しい母親。
「うん、おやすみ」
父親は退院後もしばらくは自宅療養。
会社に行くのはしばらく先。
朝。
父親と母親が食卓に座っていた。
「おはよう」
「おはよう、朝ごはんあるよ」
「昨日食べ過ぎて、余りお腹すいてないんだ」
「そう」
父親が「まり、仕事に行く時間だな。いってらっしゃい」と笑顔。
「うん、いってきます。お父さん、無理しないでね」
「大丈夫だ」
やっぱり父親がいる家は安心する。
母親と2人きりは、精神的にちょっとキツいところはあった。
いつまでも元気でいて欲しい。
今日は当番のため、いつもより早目の出勤。
立花さんと一緒。
「おはようございまーす」
「加藤さん、おはよう!」
「あれ?立花さん、髪切ったんですか?」
「そうなの!結構バッサリ切ったんだー!軽くなって楽になった!」
胸くらいまであった髪がボブになっていた。
私も美容室に行きたいな。
だいぶ髪も伸びて来たし。
後から出勤してきた田中さんも立花さんを見て「髪切ったの?似合うじゃん!何か新鮮!」
「ありがとう!」
髪を切ると、気分も変わるよね。
私も今度、美容室行こうかな。
その日も朝から通常勤務。
皆、いつもの業務につく。
私と立花さんは、窓を背中にしてデスクがある。
田中さんは他の業務もあるため1つ離れた場所に席がある。
幹線道路沿いに事務所が建っている。
隣街との連絡道路のため、周りは畑だがそれなりに交通量もある。
反対側の窓からは畑が見える。
いつもブラインドをしている。
私達の席の左斜めに雅樹達の部署が通路を挟んでこちらを向いて座る形。
その向かえが田中さんの席。
お互い窓を背中にしている状態になる。
私達から見る窓の景色は畑、雅樹達の窓からは道路が見える構図。
閑散期だったため、平和な時間が流れていた。
仕事がない訳ではないのでパソコンとにらめっこしていた。
すると突然、雅樹が「危ない!」と叫んだ。
反対側の席の人達が「加藤さん!立花さん!逃げて!」との声。
「えっ!?何?」と思った瞬間、私達の後ろの窓ガラスが割れて、衝撃と共にダンプが突っ込んで来た。
「キャー!!」
立花さんの声が聞こえる。
体に強い衝撃を感じたが、バリバリバリ!ゴリゴリゴリ!と言う轟音が聞こえて視界が暗くなる。
何が起きているのか全くわからない。
事務所は大パニック。
「加藤さん!加藤さん!」
「立花さん!大丈夫!?」
「加藤さん!どこ?加藤さん!?」
「立花さん!?」
みんな私達を呼んでいるが声が出ない。
雅樹の声が聞こえる。
「加藤さん!加藤さんどこ?」
かなり焦った声。
視界は暗いまま。
自分が今、どんな状態なのかわからない。
パトカーと救急車の音が近付いて来るのはわかった。
体が動かせない。
何かの物が私を押し付けている。
というか私の体にめり込んでいる感じ。
苦しくなって来た。
助けて。苦しいよ。
嫌だ、まだ死にたくないよ。
雅樹と離れたくないよ。
遠くで救急隊員と思われる声が聞こえる。
私はここにいるよ!
でも声が出ない。
ダメだ、苦しいよ。
雅樹、私もうダメかもしれない。
もっと一緒にいたかったよ。
心から愛してるよ。
今までありがとう。
一緒に過ごした時間は最高に楽しかったよ。
さようなら。
……
あー。
何だろう。
体が動かせない。
頭が重い。
体を動かそうとするとお腹と背中に痛みが走る。
視界はぼやけるが光は感じる。
「加藤さん、目がさめました?」
「うー、あー」
うまく話せない。
ボーっとする。
周りのあちこちから、色んな機械の音が聞こえる。
酸素マスク。
あれ、生きてる?
病院の集中治療室にいた。
しばらくして、聞きなれた声がする。
家族の声。
「まり!?わかるか!?」
「ねーちゃん!」
「あー、うーん」
やっぱりうまく話せない。
「良かった、まり!」
母親の声。
「俺も頑張った、お前も頑張れ」
父親の声。
あ。立花さんは?
立花さんの悲鳴を聞いてから、どうなったのかわからない。
そもそも私は今、どういう状態なんだろ。
ただただ身体中が痛い。
頭の整理が出来ない。
ダメだ、眠たくなって来た。
目を閉じる。
何となく苦しさを感じて目がさめる。
「加藤さん、おはようございます。わかりますか?」
「あー」
看護師さんと思われる女性の声。
やはり、うまく言葉が出ないしボーっとしている。
相変わらずあちこちから機械の音が聞こえる。
そしてまた眠りにつく。
何日間、ここにいたのかわからない。
少しだけ、意識がはっきりして来た。
「加藤さん、わかりますか?」
低い男性の声。
お医者さん?
「はい…」
「痛みはありませんか?」
「あります」
「苦しくないですか?」
「はい」
色々質問された。
でも少し話すと苦しく感じる。
とりあえず、生きているのはわかった。
良かった、また雅樹に会える。
雅樹に会いたい。
看護師さんが「加藤さん、部屋移りますよ」
と言って、何人かの看護師さんが私が寝ているベッドを押す。
2人部屋の個室。
でも隣には誰もいない。
「今日からしばらくこの部屋になりますよー」
1人の看護師さんがそう話しながら忙しなく動いている。
とりあえず、少しは回復したという事なのかな。
看護師さん達も部屋から出ていき、私一人になった。
不安に襲われたが、また雅樹に会える事を楽しみにぼんやりと天井を見つめた。
家族が来た。
「まり、大丈夫?」
「集中治療室から出れて良かった。しばらく入院になるよ」
家族から話しかけられる。
うん、うんと返事をする。
父親と母親が一旦、病室から出た。
するとすぐに弟が「ねーちゃんの彼氏って、長谷川さんっていう人?」と言って来た。
「うん」
「長谷川さん、一昨日うちに来たんだ。父さんの病院の日で父さんも母さんいなくて、俺がちょうど実家にいたんだ」
「うん」
「その時に、ねーちゃんと付き合っている長谷川ですって挨拶されて、お見舞いに行きたいけど今は行けないので、何かあればこちらに連絡して下さいって言って、名刺をくれた」
「うん」
「そしてねーちゃんの現状を聞かれたからそのまま伝えた。そしたら「これ、まりさんのハンドバッグです。まりさんに渡して下さい。あと、まりさんの目が覚めたら、いつになってもずっと待っているから安心して下さいと伝えて下さい。あと立花さんは別の病院にいますが無事ですとも伝えて下さい」って言ってた」
勝手に涙が出る。
立花さんも無事だった。
本当に良かった。
怪我の具合は不明だが、またいつか一緒に笑いあえる日が来る。
雅樹、会いたいよ。
顔を見るだけでいい。
雅樹の顔が見たいよ。
「とりあえず、ねーちゃんのハンドバッグは俺が預かっているから、必要になったらいつでも言って」
「ありがとう」
涙が止まらなかった。
兄がポケットからハンカチを出して、私の目の回りを無言でガシガシ拭く。
「痛いよ、兄ちゃん」
「まぁ、早く怪我を治すんだな」
兄が言う。
弟が「ねーちゃんの彼氏、いい人だね。かっこいいし」
「そうでしょ、自慢の彼氏」
「のろけかよー!うぜー!」
兄と弟がそう言って笑う。
父親と母親が病室に戻って来た。
しばらく家族でいたが、夜も遅くなって来たため「まり、また来るよ」
そう言って帰って行った。
雅樹、ありがとう。
すごく嬉しいよ。
私、また雅樹に抱き締めてもらえる様に早く怪我を治すよ。
雅樹には会えないけど、雅樹の存在が一番の励みになる。
頑張るよ。
何日間か経った。
酸素マスクが取れた。
体も少しずつ動かせる様になった。
あばらを骨折しているため、起き上がるのは少しツラい。
母親がお見舞いに来ていた。
まだ余り食べられないため、24時間ずっと点滴。
すると病室のドアをノックする音が聞こえた。
母親が「はーい」と言って、病室のドアをあける。
うちの会社の社長と奥様だった。
母親は初対面。
「加藤さんのお母様ですか。遅れました。私社長の藤田と申します。隣は家内の恵子です」
母親は「いつも娘がお世話になっております。どうぞお入り下さい」と言って通してくれた。
「加藤くん、具合はどう?」
社長が声をかけて下さる。
起き上がりたいけどうまく起き上がれない。
「無理しなくていいのよ!横になっていて!」
奥様がそう言って、起き上がろうとした私を止める。
「加藤くん、何も心配しないでゆっくり治してくれ。病院代も給料も。事務所が今機能していないから会社は休みにしている。来ていた仕事は他の会社にふる結果になったが、何より大事な従業員2人も大怪我をしているんだ。いつでも加藤くんが戻って来るのを待っているよ」
「ありがとうございます」
私は横になりながらお辞儀をする。
母親が「まりは何故、こんな大怪我を負わなければならなかったのか、ご説明して頂けませんか?」とちょっと強い口調で社長に言う。
社長が話し出した。
あの時、幹線道路で対抗車線を走るトレーラーの運転手が脇見をしていて、反対車線に入って来たのを避けようとしたダンプが避けきれずに、そのまま会社に突っ込んだ。
ブレーキは踏んだが間に合わなかったと。
私は衝撃で飛ばされた時に、自分のデスクの下に押し込まれる状態になり、反対側の部署の方までデスクの下にいる状態で押し出され、つぶされる寸前で止まったとの事。
苦しかったのは、いつも座っていた椅子が私の体にめり込んでいた。
私はデスクの下で血だらけの状態で気絶しているところ発見されて、この病院に運ばれたそうだ。
だから暗かったのか。
もしかしたら死んでいたかもしれない。
私や立花さん以外にも、近くにいた何人かが怪我をした。
大きな事故として、地元のニュースにもなったらしいが、私は眠っていたので知らない。
社長と奥様がお見舞いに来て下さってから、会社の同僚達がお見舞いに来てくれた。
その度に、いつもいる母親が対応してくれた。
田中さんがお見舞いに来てくれた。
私の姿を見た瞬間「加藤さーん!無事で本当に良かったー!」と言って、横になっている私の手を強く握りぶんぶん振りながら号泣。
「田中さん、ちょっとあばらに響きます」
「だってー、どんなに心配したか!」
そう言って、手を強く握りずっと号泣。
母親は部屋から出て行った。
「デスクの下で血だらけで動かない加藤さんを見た時に、血の気引いたんだよ!私なんて、足が震えて立てなくなっちゃって。泣くしか出来なくて。そしたら長谷川さんが加藤さんのところに飛んでって、加藤さんにずっと大丈夫か?大丈夫か?って声をかけてて」
「…そうだったんですね」
「ピクリとも動かない加藤さんが、救急車で運ばれて、どんなに心配だったか!」
「すみません」
「加藤さんは何にも悪くないじゃん!」
そう言ってまた泣いた。
私が田中さんに「立花さんは?」と聞いた。
「立花さんは、ダンプが突っ込んで来るちょっと前に少し離れられたんだけど、ダンプに押し出されたデスクの間に挟まれて骨盤骨折したの。幸い、内臓とかに損傷はなかったみたいだけど、ずーっと痛い!助けて!って泣きながら言ってて、牧野さんと千葉さんが必死に立花さんを引っ張り出そうとしていて」
「そうだったんですね」
「加藤さんのところに来る前に、立花さんのところに行ってきたんだけど、骨盤以外は大丈夫!って言って笑ってた。加藤さんの事、すごく心配していたから、今度立花さんのお見舞いに行った時に、大丈夫そうだよ!って伝えておくね!」
母親が戻って来た。
「いつも、まりがお世話になって、良かったらお茶買って来たのでどうぞ」
「ありがとうございます、お気遣いなく。こちらこそいつも加藤さんにお世話になりっぱなしで…でもせっかくなので、お茶頂きます!」
「どうぞ」
母親は笑顔で田中さんに買って来たお茶を渡す。
田中さんは人見知りしない気さくな性格。
母親とも楽しそうに話してくれている。
「お母さん、加藤さん、お邪魔しました!」
母親が「またいつでもどうぞ」と笑顔でお見送り。
田中さん、ありがとう。
少しずつではあるが、痛みも落ちついて来て、起き上がる事が出来る様になった。
そして事故以来、初めて自分の顔を鏡で見た。
ガラスで切ったのか、細かい切り傷がある。
若干、むくんでいる気がする。
今日は父親の病院の日のため、母親は来ないと言われていた。
弟が来た。
「おっ、ねーちゃん起き上がれる様になったの?」
「うん、何とかね。今、入院してから初めて自分の顔を見たけど酷いね」
「事故直後は3倍位酷かったよ」
「本当に!?酷いね」
「というかねーちゃんに会わせたい人を連れて来たんだけどいい?」
「えっ、誰?」
弟が入り口まで行き「どうぞー」と部屋に招き入れる。
「久し振り」
久し振りの雅樹の姿。
「雅樹!えっ?どうして圭介と一緒に?」
私は弟と一緒に来た事に驚いた。
「弟さんから連絡くれたんだ。「今日は母親は姉の病室にはいないと思うから、姉と会いやすいと思いますよ」って」
「圭介、考えてくれてたの?」
「だってさー、ねーちゃん長谷川さんに会いたいんだろうなーと思って。事故ってから会ってないって言ってたし。母さんがいると、ほら…ね。この間母さんが今日は父さんの病院の日だからまりのところに行けないって言ってたし、今日しかチャンスなくね!?と思って、俺から長谷川さんに連絡したんだ」
すると雅樹が「お姉さんと会わせてくれる機会を作ってくれて本当にありがとうございます」と弟に深々と頭を下げた。
弟は「いえいえ、姉とごゆっくり。俺はちょっと下の売店に行って本でも読んでますから」と言って消えた。
「まり、久し振り」
「雅樹、会いたかったよ。でも久し振りに会ったのにこんな姿でごめん」
「格好なんかどうでもいいよ。でもまり、本当に良かった」
雅樹は私の手を強く握った。
「あばら折れてるって弟さんから聞いた。大丈夫か?」
「まだ痛いけど、やっと起き上がれる様になったの」
「俺、まりが血だらけで意識がない状態で見つかった時、まりの事しか考えられなくて。生きていてくれ!頼むから!助けてやれなくてごめん!って思って。胸が締め付けられる位つらかった」
そう言って唇をギュッと噛み締めた。
「この間、田中さんがお見舞いに来てくれた時に、私が血だらけで見つかった時に雅樹が真っ先に私のところに来てくれて大丈夫?って声をかけてくれてたって言ってた」
「必死だったんだよ。だって、大事な人が目の前で血だらけで意識なく倒れているんだよ?放っておける訳ないじゃん!」
「ありがとう。でも、もしかしたら今回の事でうちらの事バレたかなぁ?」
「…でも…あの状況なら助けない彼氏はいない!」
「ありがとう」
「あっ、そうそう、この間立花さんのお見舞いに行って来たんだ」
「立花さん、どうだった?」
「立花さん、俺らの事知ってるんだね」
「ごめん。でも立花さんなら信用出来ると思って」
「いや、俺もまりに告白する前に立花さんにまりの事、ちょっと聞いてたから大丈夫(笑)。で、立花さんすごくまりの事を心配していた。「加藤さんの様子はどう?」って。自分も骨盤骨折しているのに、本気で心配してくれて」
「今度行った時には大丈夫!と伝えて。余り心配かけちゃうとすごく申し訳ない。立花さんがいてくれたから、私は今の私達があるって思っているの。先輩なんだけど、姉みたいな。立花さんに私達の事を言ったのはごめん。でも…」
「大丈夫。立花さんは信頼出来る人だよ。だから未だに俺らの事、誰も知らない」
「うん」
「まりを責めてる訳じゃないから安心して」
そう言って笑う雅樹。
「もうさ、何かもう会社のみんなに俺は加藤まりと付き合ってます!って言っちゃった方が楽になるんじゃないかなって思ったよ。だから俺は真っ先にまりのところに駆けつけました!って(笑)」
2人で笑うが笑うと痛い。
「会社、どうなるの?」
「んー、存続はするよ。今、事務所建て直してるんだ。道路から離れた場所に。今回の事故で保険金入るし。まりや立花さんの医療費や給料保証も保険で賄えるからご心配なく」
雅樹と一緒に過ごす時間は、あっという間に過ぎていく。
弟が戻って来た。
「お邪魔しますよ。俺、何かもう立ち読みも飽きちゃった。長谷川さん、俺帰りますけどどうしますか?乗って行きます?」
「ありがとうございます。じゃあ余り長居もあれだから俺も帰るかな。まり、また来るから!」
2人で一緒に帰って行った。
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