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四代先の令和にて

レス6 HIT数 467 あ+ あ-

小説好きさん
24/01/12 00:46(更新日時)

奥迫勲、享年97歳。



貧しい戦前、太平洋戦争、混沌の戦後、高度経済成長期、バブル景気と崩壊、失われた30年を経た老人、令和に曾孫の胎内に宿る。

赤子として再びこの世に生を受けた儂は、世の中を変えるなどという考えはない。
救いたいのは孫と玄孫。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


一応は転生モノですがファンタジーではありません。
戦時中の話や戦後の話をたまに出しますが、決して政治色は出しません。

赤ちゃんなおじいちゃんが、曾孫と玄孫を救おうと立ち回ります。
重い描写とほのぼのな描写を織り交ぜたいです。

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No.3926649 23/11/26 20:38(スレ作成日時)

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No.1 23/11/26 20:40
小説好きさん0 

目を開けると、水の中に浮かんでいるようだった。

暗い。
いや、少し赤みがかった視界。

小さな手が見えた。
かなりぼやけているが、血管が透けて見える。

うっすらと男の怒鳴り声が聞こえる。
女の悲鳴が聞こえる。

女の方の声に聞き覚えがある。
直接、耳に響いてくる。

突然、大きく揺れた。
大きな物音も聞こえた。
何だ。




儂は死んだはずだった。
97歳、十分生きた上での老衰だった。
病院では最期を迎えたくはなかったが、家族の負担を考えると致し方ないことも分かる。

それ以上に一つ心配ごとがあった。
曾孫の叶音。
大きなお腹をしていた。
傷だらけだった。
幼いあの玄孫も傷だらけだった。
助けたい。
どうしても助けてやりたい。
心配なのだ。

しかし自分の命が消えることも分かっていた。
無念だった。
だか儂の意識は、まだある。


ここは、どこだ。

No.2 23/11/26 20:53
小説好きさん0 

苦しい。
狭い。
どうなっとるんだ。
光が見えた。
ひどくぼやけている。

ギャアアアァーーーー

やっと狭い場所から出られて、大きく息を吐くと、そのような声が出た。

何だ、今のは?
まるで赤ん坊の産声。

不意に視線を動かすと、近くに女が倒れていた。
ぼやける視界ではっきりとは見えなくても、何故か分かった。

叶音。
儂の、曾孫だ。
叶音が息を荒くして倒れている。
周りは血まみれだ。

誰か、誰か来てくれ。

動けん。
手足は動かせる。
だが、這うことも寝返りを打つこともできない。
泣くことしかできん。
いや、否応なしに、意図せずして泣き声が発される。
しかしまあよくこれほど、耳をつんざくような大きな声を張れるものだ。

ああ。
救急車の音。 

No.3 23/11/26 23:21
小説好きさん0 

奥迫勲(おくさこ いさお)、享年97歳の大往生。

大正15年の秋に、儂は生まれた。

貧しい農家の三男だった。
小学校を出てすぐに商家へ奉公に出た。

太平洋戦争が始まると、徴兵検査に甲種合格し、昭和19年には出征した。
右腕の肘から先を欠損して帰還。
まだまだ食料も物資も不足状態であった昭和23年に結婚した。

そのまま子供3人、孫5人、曾孫が8人…
曾孫ともなると関わりも薄くなっていたが、叶音(かのん)とだけは年に1、2回は会っていた。

ひいじい、ひいじい、と。
よく懐いてくれる、可愛い曾孫だった。

だから何でも肯定してやりたかったのだ。
あの子が学生の彼氏との間に赤子を身籠り、結婚して産みたいと訴えた時も、親戚中が反対する中で「頑張りなさい」と言った。

しかし、軽はずみにそんなことを言うべきではなかった。

それを痛感したのは、今際の際になってからだった。

儂が食事を摂れなくなり、入院し点滴を受け、いよいよ残り数日かという際に、叶音は会いにきてくれた。
あの後生まれたであろう玄孫を連れて。

玄孫は可愛らしい女の子だった。
名前は確か、陽鞠(ひまり)。
今風だが可愛らしい名前だ。
2歳のくらいに成長していたが、その子の顔には痣があった。

……虐待か。

叶音の顔にも痣があった。
恐ろしいのは、叶音がまた身籠っていたことだった。

No.4 23/11/26 23:25
小説好きさん0 

「ひいじいにもう相談事はできないね。
ごめんね、こんな状態のひいじいに頼ろうとしてここまで来ちゃって。
何とか頑張るから。
ごめんね。ありがとう
ひいじいが本当に大好きだったよ」

叶音はそう言って泣きながら儂の病室から去った。

待ってくれ。
いいんだよ、話を聞くよ。
頼っておくれ。
その痣はどうした。
話しなさい。
ひいじいが何でもしてやるから。
一人で抱え込むな。

そう言いたくても、声が出なかった。
口元がぱくぱくと僅かに動くだけ。
これほど歯がゆいことはなかった。
この世に未練は無いと思っていたが、死にたくないと初めて思った。

翌朝には意識が途切れた。
肉体から魂が離れる感覚が、確かにあった。





それが、どうだろう。
今現在。
清潔で快適な広い病室の中。
叶音が、横で寝ている。
そして、儂は赤子になっている。

No.5 23/11/29 00:28
小説好きさん0 

何とも不思議だ。
自分の体から湧き出るような生命力が漲っているのが分かる。
少し前に力尽きたというのに。

儂は生まれ変わった…ということで良いのだろうか?

だが、待て。
儂がこの世を去る間際に、叶音の腹は既に膨らんでいた。
産み月とまではいかずとも、身籠っていたはずだ。

あの時、叶音の腹の中にいたのは儂ではない。
では……
この体の本当の持ち主……
あの時の胎児は……?



隣のベッドでは叶音がよく眠っている。
……不意に腹が減ってきた。

「えひっ、えひっ、ひっ」

まずい。勝手に嗚咽が出る。
よく眠っている叶音を起こすのは可哀想だ。
声を抑えろ。

「うーん」

小さな唸り声が聞こえる。
ああ…叶音が起きてしまった。

叶音は儂の顔を見て、浮かない表情をした。
心から喜べる状況ではないのだな。
路地裏のような場所で産み落とされたことからも、相当訳ありであることは分かっていたが。

それでもてきぱきと儂のおしめを替え、病室に備え付けられた冷蔵庫から哺乳瓶を取り出し、湯煎で温めて与えてくれる叶音の姿はしっかりと母親であった。

入院の期間はあっと言う間に過ぎ、今日は退院の日らしい。
荷物をまとめながら、叶音は儂の顔をじっと眺めた。

「翔馬」

翔馬。
それが今の儂の名前か。
……おかしな名前ではなくて良かった。
武家の嫡男のような、立派で贅沢な名前だ。

「母乳なかなか出なくてごめんね。
臨月までろくに検診も受けられなくてごめんね。
幸せになんてしてあげられるわけないのに、堕ろす決心もつかない、育てる自信もない、親ガチャ最低ランクのママだよ。
本当にごめんなさい」

そう言って叶音はさめざめたと泣いた。

親がちゃ?
親がちゃとは何だ。
自分で自分のことを最低だなどと言うな。
お前は素直で良い子だ。
ひいじいはよう知っとるよ。
泣くな、泣くな。
頭を撫でてやりたい。

今の儂の体では何もできない。
本当に赤ん坊なのだな。

No.6 24/01/12 00:46
小説好きさん0 

病院から送り出された叶音は、ねんねこも乳母車も無く、重い荷物と儂をその細腕で抱え込んで、徒歩で家路についていた。

言うまでもなくしんどそうなので、降ろしてくれと言いたくなる。
本当に降ろされたら困るのだが。

着いた場所は、木造の古いアパートだった。
もう秋だというのに、垣根には朝顔の花と蔦が絡みついており、駐輪場のトタン屋根は錆だらけだった。
通路のひび割れたコンクリートの隙間からは橙色の秋桜。

ぼろぼろだが懐かしさを感じる、素朴で美しい住まいだと思った。

「ただいま……」

がちゃりと、叶音が玄関のドアを開けると、そこには壮絶な光景があった。

汚れた食器で埋め尽くされた水屋に、投げ捨てられた衣類などにより足の踏み場もない廊下。
ビールの空き缶も散乱していて恐ろしく臭い。
素朴で美しい住まいだなど思い違いであったようだ。

「ママー!寂しかったー!」

そんな壮絶な光景の中を、幼い子どもが走ってきた。

「ごめんね、陽鞠。」

幼子に膝に飛びつかれた叶音は、少しバランスを崩しつつも、そう言って微笑んだ。

ああ、そうだ、陽鞠だ。
儂の玄孫。

いや、玄孫ではおかしいのか。
今は、儂の姉になるのか。

可愛い。
なんて可愛らしいんだ。
大きな目に色白な肌、きっと別嬪さんに育つなぁ。

「この子だれ?」

陽鞠は儂をじっと見つめた。

「翔馬くんだよ。生まれたばかりの赤ちゃん。陽鞠の弟」

「可愛いー。翔馬くんとっても可愛いー」

おやおや、良い子だな。
やきもちなんかを妬くこともなく歓迎してくれるとは…立派なお姉ちゃんだよ。

「陽鞠が生まれた時より小さくね?」

奥の寝室から、男が現れた。

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