小鳥のさえずり
世界保健機関(WHO)は2011年の時点では、日本の自殺率を世界10位(21.7%)と報告していた(国の自殺率順リスト)。
2015年3月12日、警察庁は2014年の自殺者数を25374人で、11年前の2003年よりも約1万人減少と発表した。
2016年の自殺数は2万1764人で、22年ぶりに2万2000人を下回った。
また、女性の自殺数は6747人で、統計を取り始めた1978年以降で、最も少なくなった。
それでも日本の自殺者は年間2万人を超えている。
これは、1日あたり80人もの人間が自らの命を絶っていることになる。
約15分に1人が日本のどこかで自殺をしている。
この数は、毎年どこかの町や村が一つ消えるのと近い数字だ。
さらに、自殺未遂者は、少なくともその十倍いるといわれている。
(一部Wikipediaより抜粋)
あづみは何を想い、心に何を秘めてその現実を見つめ、自殺志願者を救うのか?
平日とはいっても、ここは新宿駅。
最終電車が間もなく到着しようとしているホームには、人々が溢れている。
私は、腕時計に目をやった。
この時計は、ずっと昔に結婚した頃、妻が私にプレゼントしてくれたものだ。
それほど値の張った物ではないが、何度も電池を交換しながら今も刻々と、時間を刻んでいる。
この腕時計をくれた時の妻の笑顔がふと、頭の隅をよぎった。
結婚してから二年目に、長女が生まれ、そのまた二年後には長男を授かった。
何もかもが順風満帆で、我が家は笑顔の絶えない家族だった。
お嬢様育ちのせいか、どこかふんわりとした性格だが子育てをしている妻を見ているとしっかりと躾をしている。
それでいて優しさと絶えぬ笑顔を兼ね備えている彼女は、私にはもったいないくらいの妻だ。
娘「ねえパパ~」
私「おいおい、お前のその言い方は何か魂胆があるな?」
娘「え~っ、そ…そんなことない…もん」
妻「あーっ!お父さんにねだってもダメよ!」
娘「ママぁ~、お願い!」
息子「あはっ、出た!姉ちゃんの100回目の一生に一度のお願い」
娘「うるさい!あんたは宿題でもしてなさいよぉ」
あの時、娘は何をねだっていたんだったか…
他愛も無いごく当たり前の我が家での家族のやりとりが、そこだけ切り抜かれたように頭に浮かんだ。
「あの…すみません…」
女性の声が、私の背後で聴こえた。
それが私に向けられているものだとは思わず、私は真っ直ぐ前を見ていた。
もう一度、聴こえた。今度はさっきよりも大きな声だった。
「あの…、すみません!」
ホームの一番前に立っていた私は、後を振り返った。
私の後には、すでに十人近くの男女が列を作っていた。
私はこの見知らぬ人たちにこの後、迷惑をかけなければならないのだと、一瞬そう考えてから、真後ろに立つ小柄な女性に目線を落とした。
「あの…、次の電車は久喜へ行きますか?」
「ええ、ですが赤羽で一度乗り換えなくてはいけませんよ」
「そうですか。ありがとうございます」
二十歳ほどの若い女性は、少し笑みを浮かべると安心した表情を見せた。
前方に目を戻した私の口からは「そんな…」と、無意味な言葉がこぼれた。
すぐ目の前を、すでにホームに滑り込んだ車両は、速度を落とすと停車してドアが開いた。
私は、茫然と立ち尽くした。
動かず電車に乗り込もうとしない私を訝しげに見ながら、後続の人達が私を追い抜いて車内に乗り込んで行った。
覚悟を決めたのに…
失敗した…
ホームには駅員の「最終が出まーす!」の声が遠く響いた。
ゆっくりと足を踏み出し、まだどこかぼんやりとした頭でドアが閉まる寸前に電車に乗り込んだ。
ぎゅうぎゅう詰めでは無いが、空席は無くドアの付近にある吊革を握ると、発車のベルが鳴り響き、ドアが閉まりガタン、と一度大きく揺れた後、ゆっくりと電車は走り出した。
赤羽で乗り換えると空席が目立ち、私はゆっくりと腰を下ろした。
座って落ち着くことで、私は…自殺に失敗したのだと、やっと把握することができた。
ふと近くに視線を感じた。
顔を上げてるとななめ向かいの席に座っている若い女性が私に会釈をした。
誰…だったかな…?
ああ、…新宿駅で久喜に行ける電車かどうかを聞いてきた女性だと、やっと気が付いた。
あの時、この女性が私に声をかけて来なければ、私はあの電車に…
女性と同じ久喜で電車を降りると、「あら、同じ駅だったんですね」と、女性が再び話しかけてきた。
「ええ」
とだけ答えて、改札を出るとゆっくりと歩いた。
後から、カツ、カツ…と女性のパンプスの音が深夜の住宅街に響いた。
私は自宅までの慣れた道をただ、歩いた。
私は、
生きている…
自宅を目前に今になり恐怖感が全身を稲妻のように走り抜けた。
よろけた私は、そこにあった電柱に肩をもたれさせ、身ぶるいをした。
パンプスの音が早まり、私の近くまでくると「大丈夫ですか?」と、あの女性が私の顔を覗き込んで言った。
私は
「ええ、大丈夫です…」
と、かすれた声で答えたが、両膝ががくがくと震え、とても歩くことは出来なかった。
「あの…救急車、呼びましょうか?」
「いや、少しじっとしていたら大丈夫ですから…」
「そこに、公園があります。ほら、すぐそこに。ベンチが見えます。休まれた方がいいですよ」
女性はそう言うと、小さな肩を貸してくれて歩き、公園に入ってすぐのベンチに私を座らせた。
そうしておいて、すぐ近くの手洗い場で自分のハンカチを濡らして絞り、私の額に当てた。
私は、女性のハンカチを受け取り、自分で額に当て直した。
冷たくて、心地良い。
ようやく膝の震えが治まり、微かな動悸も正常なものになってきた。
私は、苦笑をひとつ浮かべた後、女性に
「あなたは、私の命の恩人です」
と、まだ少しかすた声で言った。
「そんな…ハンカチ一枚で命の恩人なんて大げさですよ」
「いや、そうじゃない。新宿で君が私に声をかけていなかったら…、私は今、ここに生きて座ってはいなかったでしょう」
「え…?」
「失敗してしまいましたが、死ぬことがこんなに怖いなんて、私は小さな人間だ」
「死ぬことが怖くない人間なんて、いませんよ。そう…、そうだったんですか…じゃあ、良かった。声をかけたのがあなたで。死ぬことの恐ろしさを知られて、もう自殺なんてお考えにならないでしょう?」
「いや…。もう、どうにもならなくてね。今夜は失敗してしまったが、やはり私は死ぬしかないんですよ」
「そんな…」
「私はね…」
こうして、知らない若い女性に真夜中の公園で私は自分の身の上話をすることになった。
私は三十五歳の時に、勤めていた会社を退職して、自分で商売を始めた。
結婚もして、二人の可愛い子供にも恵まれ、会社の売り上げも年々伸び、何もかもが上手くいっていた。
だが、親友の保証人になった数年後、事態は大きく変わった。
ありきたりだが、その親友の会社が二度目の不渡りを出し倒産。
保証人である私に、多額の請求がきた。
会社も、自宅も車さえも手放さなくてはいけない。それでもまだまだ借金は残る。
家族に苦労はさせたくない。
私が死ねば、生命保険で借金の返済もできる上に、いくらかの金を残してやることができるだろう。
今夜、私はあの電車のホームに飛び降りて、人生を終わりにしようと思った。
女性は、ぽつりぽつりと語る私の話を、横から口出しの一つもせずに最後まで聞いていてくれた。
私が話し終わると、女性は「コーヒーでも飲みませんか?」と言った。
そう言い終えたと同時にベンチから立ち上がると、自動販売機で温かい缶コーヒーを二本買って、戻ってきた。
一本を私に差し出して「どうぞ」と笑顔…いや、笑顔ではない。だが、口角を少し上げた唇で言った。
「ありがとう…」
私は、缶コーヒーを受け取ると、プルタブを開けてから一口、飲んだ。
「うまいな…」
「ホント。缶コーヒーも、たまにはいいですね」
「ああ」
「あの…、私が聞くことに答えたくなければそれでもいいです。良かったら、いくつか教えてください」
私は、女性のその言葉に頷いた。
「大変失礼ですが、奥様は現状をご存知ですか?」
「ああ。最初は何とか金策に走ったりして隠していたんだが、自宅に督促状がきてね、バレたよ」
「それで、奥様は?」
「うちの妻は、おっとりしていてね。‘私もパートをするから、少しずつ返していったら大丈夫’なんて、言ってるよ。利息さえももう払えないところまできてるっていうのに…」
「奥様は、贅沢がお好きな性格ですか?」
「いや、お嬢様育ちのわりに派手じゃなくてね、独身の頃に買ったバッグを今でも使っているよ」
「では、自己破産なさってはどうですか?」
「破産?そんなに簡単に言わないでくれよ。世間体ってものもあるし…」
「ご自宅も、手放されるんですよね?お引っ越しなさるんですから、世間体なんて気にされることありませんよ」
「確かにそうだが…」
「奥様がお金に執着される方でしたら話は別ですが、自己破産は、意外と簡単にできるのもなんです。ギャンブルなどの借金の場合は認められないこともありますが…。小さなアパートからでも、やり直してみてはどうですか?あなたが死んでしまったら、奥様やお子さんがどれほど悲しむか…」
「自己破産…か…」
「破産後約、十年もすればまた新たにローンを組んだり、クレジットカードを作ることもできます。たった十年の我慢です。弁護士よりも司法書士の方が手数料が安くなる場合がありますから、ぜひ司法書士に相談してみてください」
「君、詳しいんだね」
「私の知人が、似たようなことになって、…自己破産したんです」
「なるほど…」
真夜中の公園。
昼間はきっと子供たちの声が明るく響き渡っているのだろう。
今は人影も無く、静まり返っている。
私は「ふぅ…」っと呼吸をして空を仰いだ。
薄い雲がすうっと流れ、三日月がかすかにこの公園を照らした。
女性が少し強い口調で
「絶対に、死んではダメです!私のおじいちゃんの口癖ですけど、生きていくのに必要なのは、何を得るかではなく、どう生きるか、なんですから」
そう言った。
それを聞いてから、私はゆっくりと小さく何度も頷いた。
「ありがとう…ありがとう。帰ったら、妻と話しあってみるよ」
「ええ、ぜひそうなさってください」
「何だか希望が湧いてきたよ。君と出会えて良かった!」
「ふふふっ。私も、声をお掛けしてよかったです。あ、コーヒー、飲み終えましたか?」
「ああ、ごちそうさま」
「私、空き缶を捨ててきますね」
そう言うと女性は空き缶を手に立ち上がった。
私は、ふと左腕の時計を見た。
時計の秒針は、静かに動いていた。
あの時、電車に飛び込んでいたら、粉々になってこの腕時計も私自身の時間も止まっていただろう。
空き缶を捨てに行くと言ってベンチを立ったあの女性の方を見た。
そこだけ似つかわしくなく明るく電気の点いた自動販売機がポツンとあるだけで、不思議と女性の姿はなかった。
十分ほど待ってみたが、女性が戻って来ることはなかった。
私の右手には、湿ったままのハンカチが残った…
堂島啓介は、パソコンの画面を見ながら、隣に座っている同僚の相良直子に話しかけた。
「今朝の新聞が気になって仕方なかったけど、どうやら思いとどまったようですね」
「ああ、‘パパさん’のことね?」
「サイトも退会したようです。彼のこれまでのレスが全て無くなっている」
「私、今朝起きてすぐにネットニュースを見たわ。何も起こって無くてよかった」
「そうですね」
二人は、心から安堵した。
《命の電話相談室》
自殺を考え、悩む者達から日に三十件ほどの電話がかかってくる。
堂島と相良は、その電話相談を受けることが主な仕事だ。
インターネットでは、いくつも自殺予防のサイトが立ち上がっているが、二人はいつからか多くあるサイトの中から、一つのサイトを気にかけていた。
それは、
【生きる方法 生きる方法を、一緒に見つけませんか?】
というサイトだ。
このサイトは、入会する時に管理人宛てに実名と自宅住所を書き込んだメールを送る、そして後日自宅にサイトのルールが書いたパンフレットのようなものが送られてくる。
そのルールに同意し、免許証など写真の付いた身分証を同意書と一緒に書かれている住所の私書箱に郵送する。
そしてまた数日後に、サイト側からIDが自宅に届き、そのIDを入力することで、ようやくこのサイトに入会したことになる。
それまではサイトを閲覧することは出来るが、レスすることは出来ない。
他のサイトでは、‘死にたい’との書き込みに悪戯に‘じゃ、死ねば?’‘本当に死ぬなら、こんなところにレスしてないで、さっさと逝っちまえよ’などの悪質な書き込みが多く見られるが、このサイトではそういったことは一切起きない。
このサイトの管理人は、そういう誹謗中傷の書き込みを失くすことを目的として、身分証などの個人情報を把握することにしているのだろう。
だが、自分の住所などは知られたくない者は多いだろう。
だから、逆を言えば身分を知られても構わないほど深刻に悩んでいるとも言える。
二人は昨日の書き込みを気にしていた。
【パパさん:私は、もう駄目だ。これまで相談に乗ってくれたここの皆さん、これまでありがとう。私は明日、新宿駅で終わりにすることに決めました】
【アンナ:パパさん!どうか早まらないでください】
【ポン太:パパさん、ダメですよ!僕も死にたいって思っているけど、だけどここのみんなに支えられて、今も生きています。生きる方法、見つけましょうよ!】
こうして‘パパさん’の自殺宣言を止める書き込みが連なったが、とうとう‘パパさん’からのレスは無かった。
だから、堂島と相良は‘パパさん’が本気で自殺を決行するかも知れないと思い、心配していたわけだ。
「ここのサイトって、なんだか温かいですよね?」
「ええ、他のサイトとは違って、本気で命のことを考えている人達だからかも知れませんね」
電話が鳴った。
「はい。相談室の相良です。おはようございます。朝ごはんは食べられましたか?…、ええ、…そうですか。ええ…」
他の電話も鳴った。
「はい。相談室の堂島です…」
※
小鳥あづみ 二十二歳 独身。
事務用品を扱う会社の事務員。
「コトリちゃん、会議室にコーヒー三つ頼むよ」
「はい」
あづみは、明るく返事をしてデスクから立ち上がった。
《小島》とよく間違えられるが、珍しい苗字で《小鳥》だ。
普段は、こうして真面目に働いている。
そして、あづみは実はあの【生きる方法】の管理人でもある。
給湯室に向かい、コーヒーを用意する間に、大きな欠伸が出た。
「あら~、昨日は珍しく休んだと思ったら、夜遊びでもしてたのぉ?」
振り返ると、二年先輩の本多由香がタバコを手に、笑っていた。
「あはは…、見られちゃいました。つい遅くまで本を読んでて寝不足なんです」
あづみは、そう言ってソーサーとカップを三つ用意して、そこにスプーンとスティックの砂糖とミルクを添えた。
「でしょうね。かわいいコトリちゃんに、夜遊びなんて似合わないもん」
由香は、タバコの煙をふうっと吐き出してから、笑った。
「私、会議室に行ってきまーす」あづみはコーヒーのカップが乗ったトレイを持ち上げた。
「ご苦労様。あたしがコトリちゃんの眠気覚ましのコーヒー、入れといてあげるわ」
「あははっ。ありがとうございます」
あづみは昨日、会社を休んでハンドルネーム‘パパさん’の自殺を止めるために朝から終電までずっと新宿駅のホームにいた。
‘パパさん’の顔は、身分証の写真で知っている。自宅も知っているから、現れると思われる電車は絞れた。
そして終電の時刻が迫り、あづみはこのまま‘パパさん’が来ないことを祈ったが、だが彼は現れた。
そして‘パパさん’の自殺を阻止することに成功し、タクシーで埼玉県の久喜市から東京の中野区の自宅アパートまで一万六千円を使って帰ったが、サイトでは問題を解決して退会する時には二万円の退会料が入る仕組みになっている。
お金のことで悩んでいた‘パパさん’からお金を受け取ることは、心苦しかったが、これでサイトの運営は成立している。
ただの事務員である、あづみの給料だけでは、とてもやってはいけない。
こういった書き込みをした人が北海道在住でも沖縄在住でも、あづみは必ず駆けつける。
あづみが帰宅してパソコンを開くと、‘パパさん’からのレスがあった。
【パパさん:すべてをリセットして、家族ともう一度いちからやり直そうと決めました。皆さん、ありがとうございました。これで、私は退会します】
それを読み、あづみは会員リストから‘パパさん’のIDを確認して入力。
そして退会の処理をした。
翌朝にネットバンクを見ると、‘パパさん’の本名ですでに二万円が入金されていた。
ほっとしていたら、思わず仕事中にあくびが出ちゃったわけだ。
会議室にコーヒーを運んだ後、デスクに戻ると温かいコーヒーが入ったマグカップがあった。
由香の方を見て、にっこり笑うと由香も笑みを返してくれた。
サイトでは、必ずしもあづみが夕べのように会員の前に姿を現して自殺を食い止めるばかりではない。
サイトの中で、似たような悩みを持つ者が相談し合ったり、また悩みは違えど何らかの形で経験したことがある者は、アドバイスをすることもある。
昨日のように、切迫した状況になった時にだけ、あづみは現れる。
会員は約150人。
この150の命は、灯を消す可能性が絶えずあるのだから、あづみはいつだって真剣に会員のレスを微妙なニュアンスの一つも逃さず見て、管理している。
これまでは、ずっとネガティブであった会員が、急にポジティブなレスをしてきた時も、要注意だ。
あづみは中野区の駅から徒歩八分の家賃五万円のワンルームのアパートに住んでいる。
築四十年を超えたアパートだが、防音がきちんと施されている造りをあづみは気に入っている。
自分の年齢の倍ほどの築年数の古いアパートだが、名前だけは洒落ていて南フランスの有名な海岸の名前と同じ‘コート・ダジュール’という。
二階の一番奥の角部屋があづみの部屋だ。
その日、定時で仕事を終えたあづみは、自宅に帰る途中のコンビニで弁当を買った。いつもは簡単な料理をつくるのだけれど、とても疲れていたから。
すぐにパソコンの電源を入れた。
お弁当のから揚げを頬張りながら書き込みをチェック。
【ポン太:パパさん、大丈夫でしょうか?退会されたようですが…】
退会すると、これまでのその人のレスは全て消去されることになっている。
【リリー:ポン太さん、こんにちは。今朝早くに、パパさんのレスがあって、ご家族でいちからやり直しますって。だから、きっと大丈夫だと思います】
【ポン太:リリーさん、こんにちは。そうですか。安心しました!教えてくださってありがとうございます】
【アンナ:そうだったの?ああ、良かった!パパさん、見てますか?無理し過ぎないように、お体に気を付けてください!幸せをお祈りしています】
ここでは、誰も他者に「頑張って」とは言わない。
頑張って、頑張って、苦しんできた人達だからこそ分かり合えることもある。
最近、あづみが気になっている会員がいる。
今日はその人のレスは無い…。
ある日のレス。
【ぶー子:また、太った!。もうヤダ!死にたい…】
【リリー:ぶー子さん。実は私も、ぽっちゃり体型なんです。ウォーキングでも始めようかと思って いるところです】
【ぶー子:リリーさん。ウォーキング…、しんどくないでしょうか?】
【リリー:ぶー子さん。きっとしんどいでしょうね(笑)もし良かったら、一緒にウォーキングしま せんか?】
【ぶー子:リリーさん。一緒に?どういう意味ですか?】
(ここでは個人情報の公表はしてはいけないというルールになっている。)
【リリー:ぶー子さん。時間を決めて、毎日三十分間同じ時間に歩くんです】
【ぶー子:へえー、なんだか楽しそう】
【リリー:ぶー子さん。でしょう?一人だと続かないかも知れないけど、一緒ならやれそうな気がし ませんか?】
【ぶー子:リリーさん。はい。ありがとうございます。いつからにしますか?あと、時間と…】
【桃の木:お話の途中でごめんなさい。ウォーキングは、四十分歩いた頃から脂肪の燃焼が始まるそ うです。ですから、三十分でなく、まずは四十分から始められてはどうですか?】
【ぶー子:桃の木さん。情報ありがとうございます!】
ここまで読んで、あづみは安心した。
『死ぬ』
このワードは、いつもあづみの胸を突き刺す。
だけど一喜一憂していては、管理人は務まらない。
日曜日。
今日は溜まった洗濯をして、部屋に掃除機をかけて買い物に行った。帰りに私書箱を覗いた。
何も入っていないことを確認して、少しほっとする。
早めの夕食を作って食べ終えてからシャワーを浴びようと、お風呂に入った。
古い建物だから、お湯の温度の加減が難しい。少し蛇口を捻ると、冷水が出たり熱湯だったり…
最初は大変だったけど、もう慣れた。
シャワーを終えて、パソコンに目をやった。
あ…‘シンマ’さんだ。
【シンマ:もう、ダメ…】
【杏:シンマさん。どうされましたか?】
【シンマ:私が死なないと、私、赤ちゃんを殺しちゃうかも】
その後、次々にいろんな人達が‘シンマ’に呼びかけたが、‘シンマ’のレスは途絶えた。
あづみが最近気になっていたのは、この‘シンマ’のことだ。
シングルマザーの‘シンマ’は書き込みをする毎にその内容が切羽詰ったものになってきている。
- << 28 ☆お詫びと訂正☆ ‘ぶう’が、ここだけ‘ぶー子’になってしまいました… ごめんなさい。
インターホンを押した。
しばらくしてから、小さな声で「はい…」と返事があった。
「お隣に越してきた者です。ご挨拶にきました」
カチャリ…と鍵の外れる音がして、ゆっくりとドアが開いた。
「初めまして。隣に越してきた小鳥といいます。これ、どうぞ…」
「コトリ…さん?」
あづみよりも少し年上のこの女性は、とても老けて見え、やつれた顔で呟くように聞いた。
「はい、鳥の小鳥です。珍しいですよね、あはっ、よく言われます。あ、これつまらない物ですが…」
あづみは、ご挨拶と書かれた熨斗を貼り付けた洗剤を差し出した。
部屋の奥から、赤ちゃんの泣き声が聞こえた。
「ああ、ごめんなさい。赤ちゃん、起こしちゃったみたいですね」
「いいの…、いつものことだから…」
「私、赤ちゃん大好きなんです。妹と弟がいて、母はいつも仕事でいなかったから、私が育てたようなものなんですよ」
「そう…、これ、ありがとう。あ、うちは、吉田です」
そう言って、洗剤を受け取った女性は、ドアを閉めた。
赤ちゃんの泣き声は、外まで聞こえてきていた。
そして、しばらくすると
「もうっ!泣き止んでよ!お願いだから…!あーっ!うるさいっ!!!」
慟哭がアパートの外階段にまで響いた。
あづみはその声を背中で聞いて、階段を降りると一度立ち止まってから小さなそのアパートを見上げた。
赤ちゃんの泣き声が聞こえている…
振り返り、会社へ向かう駅を目指した。
あづみのその目は怒り?悲しみ?とても深い闇の色を放っていた。
その日から、あづみは度々隣の‘吉田さん’を訪れた。
「あの、実家から野菜がたくさん送られて来て…、良かったら、どうぞ」
「まあ、こんなに…、ご実家はどちら?」
「神奈川なんですけど、なんだか母が家庭菜園にハマちゃったみたいで…」
「そう。ありがとう。娘がずっと泣いてて買い物に行けなくて困っていたから、助かるわ」
「そうですか、それじゃ…」
あづみの部屋には隣の様子が聴こえてくる。
盗聴しているわけじゃない。
赤ちゃんの大きな泣き声と、その大声を上回る吉田さんのかん高い悲鳴のような
「どうして泣いてばかりなのよお!うるさい、うるさい、うるさいっ!!!!」
と叫ぶ声。
あづみはその声を聴くたびに悲しい気持ちになった。
そして相変わらず、あづみはお隣に足を運んだ。
「すみません、お砂糖切らしちゃって、貸していただけませんか?」
そう言っておいて、次には「この前の、お砂糖のお返しです」そう言って、クッキーを持って行き、こうして理由をつけてはお隣のインターホンを鳴らした。
「赤ちゃん、おいくつですか?」
「もうすぐ七か月なの。うちの子、泣いてばっかりで…」
「そうですか、大変ですね」
「あの…うち、うるさいでしょう?ごめんなさいね」
「いいえ、私の実家も賑やかでしたから」
そんなある夜、赤ちゃんの泣き声はずっと続いているのに、吉田さんがあやす様子も、泣き叫ぶ声も聞こえない夜があった。
あづみは、危険を察知した。
インターホンを鳴らし、「吉田さん!」と玄関で叫んだが、赤ちゃんの泣き声しか聴こえず、ドアは開かない。
この時間では、管理人も帰ってしまっているだろう。合鍵で開けてもらうこともできない。
あづみは、急いで自室へ戻るとベランダに出だ。
‘家宅侵入罪’が頭をかすめたが、あづみはぐっと奥歯を噛みしめるととベランダから隣の吉田家のベランダに移ることにした。
中野坂上にあるあづみのアパートは2階だが、ここは4階だ。
下を見ないように、ゆっくりとベランダの柵の外側に足を回して立ち、じりじりと近づき、やっと隣のベランダへと移った。
サッシを叩き、「吉田さん!」と再び叫んだが、赤ちゃんの泣き声が聴こえるだけだ。
部屋の電気も点いていない。
「吉田さん!!!」
赤ちゃんの泣き声とあづみの叫び声が夜の闇を切り裂くように響いた…
あづみは大声でベランダのサッシを叩き、「吉田さん、吉田さん!」と再び叫んだが、やはり赤ちゃんの大きな泣き声が聴こえるだけだ。
部屋の電気も点いていない。
この騒動に気付いた住人がベランダのサッシを開ける音がいくつか聞こえた。
吉田さんのベランダ…
長い間、水をやっていない様子。ベランダに数ある植木鉢はどれもが枯れていた。
きっと以前の吉田さんは、このベランダで咲く花々を優しい母の顔で見ながら大きくなったお腹をさすり、その子の誕生を心待ちにしていたのだろう。
植木鉢の近くにあったレンガを一つ手にすると、あづみは迷わずガラスを割った。
そこから手を入れて、サッシの鍵を開けると部屋の中に飛び込んだ。
ガラスを踏んではいけないので土足のままだが、今はそんなこと気にしている場合ではない。
「吉田さん!」
部屋の間取りはあづみの部屋とは真逆だったが、手探りで明かりのスイッチを探し、電気を点けた。
「吉田さん!!」
ベビーベッドの中で真っ赤な顔で身を捩じらせて泣き続ける赤ちゃんのすぐ側にあるローテーブルに、吉田さんが突っ伏していた。
首筋に手をやり、吉田さんが生きていることを確認した。
傍らには、薬を多量に飲んだ痕跡と水の少し残ったコップがあった。
あづみは、ポケットからスマホを出すと、119番に電話した。
救急車のサイレンの音が近付いて来るのが聴こえた。
警察官も三人ほど来た。
救急車を待つ間に、素早く自室に戻ったあづみは大きめのトートバッグを手に戻っていた。
赤ちゃんの紙おむつや粉ミルクやタオルをバッグに詰め込んだ。
人気の無い深夜の病院の外来待合で、赤ちゃんのおむつを替えて、ミルクを作り飲ませた。
ミルクは、看護師さんにお願いすると快くお湯を持ってきてくれたので助かった。
しばらくすると、赤ちゃんはあづみの腕の中ですやすやと眠った。
小走りの足音がして、その方向を見るとスーツ姿の三十歳を過ぎたくらいの男性が、あづみの方を見て「佳奈子…?」と言った。
「え?あ、もしかして赤ちゃんのパパですか?」
「ええ、この子は娘の佳奈子です」
あづみの手から、父親の手にそっと渡された佳奈子は、「ぅにゅう…」とだけ言ったが起きる様子は無い。
ぐっすりと眠っている。
「あの、妻は?」
「睡眠薬を大量に飲んで、胃の洗浄を受けました。命に別状はないと、先生がおっしゃっていました。今は、点滴を受けながらベッドで寝ています」
「そうですか…。あ、あなたは、もしかして隣に越して来られた…」
「はい、小鳥です」
「やっぱり、…彼女がノイローゼ気味なのは気付いていました。ですが、私の仕事は今、大きな契約を控えていて…、でも、あなたが越して来られてから、彼女はあなたの話を楽しそうによくしていました」
「あの、失礼ですが吉田さんの…離婚された旦那さんですか?」
「離婚?いや、僕は単身赴任中で離れて暮らしていますが、離婚はしていません。まあ、妻の口癖は‘この子には父親がいない’って言うものでしたから…」
「吉田さん。差し出がましいのは承知で言わせて頂きます。お仕事でご家族を養われているのは分かります。ですが、そのお仕事で家庭が壊れるのは本末転倒ではありませんか?」
「はあ…」
「それでは、私は失礼します。奥様の病室は302号室です」
一礼してからあづみは振り返って、歩きだしたが足を止めて、もう一度吉田の方を見て「あの、ベランダのガラスを割ってしましました。すみません」と肩をすぼめて言うと、今度は足を止めることは無く、あづみは姿を消した。
佳奈子を抱いた吉田は、急に倦怠感を覚えそこにある椅子の一つにぐったりとして座ると真剣な眼差しで娘の顔を見つめた。
土曜日のお昼前。
「シチュー、いっぱい作っちゃって…。吉田さん、良かったら、うちで一緒に食べませんか?」
「じゃあ、おじゃまさせてもらおうかしら…」
十五分ほどして、あづみの部屋のインターホンが鳴った。
「いらっしゃい。こんにちは、カナちゃん。何だかちょっと大きくなったみたい」
「あの…ご迷惑じゃない?」
「とんでもない。どうぞお上がりください」
あづみは二人分のシチューとサラダの皿を円形のちゃぶ台に並べた。
「シチューを小分けにして、カナちゃん用に離乳食を作ったんです。食べさせてあげてもいいですか?」
「ええ…」
「ほら、こっちにおいで。佳奈子ちゃん、ごはんでちゅよお」
あづみは、離乳食をスプーンに少量取ると、佳奈子の口元に運んだ。
佳奈子は、あーンとして、もぐもぐと食べた。
「あ、吉田さん、冷めない内にシチュー召し上がってくださいね」
「ええ、ありがとう。小鳥さん、食べさせ方がとっても上手ね」
「ほら、最初に言いましたよね?私、弟と妹にこうして食べさせてたから」
佳奈子は、あっと言う間に全部食べてしまうと、「はぅ~」と大きなあくびを一つ。
そしてうとうととし始めた。
「あら、おねむでちゅか?」
あづみは、佳奈子を吉田さんの腕に返すと押入れからタオルケットを出してちょうどいい大きさにたたむとそこに加奈子を寝かすように言った。
掛け布団代わりにバスタオルを持ってきた。
「ありがとう」吉田さんがあづみをじっと見て、言った。
「どういたしまして。吉田さん、シチュー冷めちゃいますよ」
二人でシチューのスプーンを口に運びながら眠りについた佳奈子を見つめた。
「カナがこんなに大人しく寝るなんて、珍しい」
吉田さんの表情は、初め会った時とは打って変わって穏やかなものになっていた。
「この子…いつも泣いてばっかりで、私はすっかり睡眠不足」
「大変ですね…」
「だから、あんなことを…。本当にご迷惑をおかけしました」
「気にしないでください」
「私…、疲れてたんです。疲れてたって…ただの言い訳ですよね。私…私…佳奈子を可愛いと思えなくて、私が死なないと佳奈子に手をかけてしまうかも知れないって思ったら、自分が怖くなって…母親失格…サイテー…」
吉田さんは堰を切ったようにそう言うと、ほろほろと大粒の涙をこぼした。
「吉田さん、もし良かったら…ご自宅で少し横になってはどうですか?カナちゃんは私がみてますから」
「そんな…、申し訳ないわ」
「いいから、いいから。あ、これ、おむつと、ミルクのかばんですよね?これがあれば大丈夫です」
「でも…」
「ねえ、吉田さん、カナちゃんは、きっとお母さんの代わりに泣いているんですよ」
「私の代わり?」
「そう。眠いよ、疲れたよ…って、お母さんの気持ちが伝わってるんじゃないかなあ」
こうして、あづみは佳奈子の面倒をしばらくみることになった。
二時間が過ぎた頃、インターホンが鳴り、佳奈子を迎えに来た吉田さんに「これ、お魚の煮付けとおひたし。夕飯に、どうぞ。カナちゃんの離乳食も、作っておきました」
「こんなにして頂いて…すごくゆっくり休めました。小鳥さん、ありがとう」
こうして、あづみはいつも通りに仕事に行き、ほんの時々吉田さんの部屋か、あづみの部屋で一緒に食事をするようになった。
そう、ほんの時々…
べったりといることに慣れてしまうのは今後のために良くないとあづみは考えた。
吉田さんがカナちゃんを抱いて、あやすと佳奈子は無邪気な笑顔を見せた。
「最近ね、カナ、夜泣きしなくなったのよ」
「そうですか、良かったですね」
「おかげで私もゆっくり眠れて、家事をする時間もできて…、小鳥さんのおかげだわ」
「彼氏もいない寂しい独り暮らしを、天使の笑顔で癒してもらえて満足です!」
「あははっ…」
隣の部屋からは、吉田さんとカナちゃんの笑い声が良く聴こえるようになった。
【シンマ:ご無沙汰しています。最近の私は、とても毎日が充実していて、子供の夜泣きも減って、精神的にも安定しています。可愛い娘の顔を見ていたら、死ぬなんて考えは消えてなくなりました。みなさん、励ましてくださってありがとうございました。私、もう大丈夫です。だから、退会します】
たくさんの【お元気で…】【お幸せに!】などのレスが付いた。
あづみは、パソコンに‘シンマ’のIDを入力して退会の処理をした。
パソコンの中で「死にたい」と言っていた‘シンマ’はこうして消えた。
それでも、あづみはそれから一ヶ月弱ほど時々吉田さんとカナちゃんとの食事や、散歩を続け、同じアパートで過ごした。
急に、あづみがいなくなることで、吉田さんの情緒がまた不安定になることを心配したからだ。
小鳥ロス…的な。
そして頃合を見計らって告げた。
「吉田さん、私ね、実家の神奈川に帰らなくっちゃいけなくなったの」
「え…?」
「母の具合が良くないみたいで…」
「そう。それは心配ね。でも、小鳥さんがいなくなるのは寂しいわ。きっと、カナも…」
「短い間だったけど、ここに引っ越してきて良かった。毎日がとっても楽しかった」
「小鳥さん、私こそ…、あなたに救われたわ。今考えると、私、本当に育児ノイローゼだったのね。もしも小鳥さんと出会っていなかったら…私…」
「吉田さん、またカナちゃんに移っちゃいますよ」
「ああ、そうね」吉田さんは涙を浮かべて笑った。
引越しのトラックを見送った。
「主人がね、部署が移動になったの。今までは営業部だったんだけど、これからは経理部だから、残業もほとんど無くて、早く帰って来られるって。カナといっぱい遊ぶんだって、楽しみにしてくれてるみたい」
「そうですか!良かったですね」
「小鳥さん、本当にありがとう」
「じゃ、さよなら」
「さよなら…」
吉田さんは左手に佳奈子を抱いて右手を差し出した。
そしてあづみの手を強くぎゅっと握った。
「ねぇ~、コトリちゃーん、あたしに何か隠してることなぁい?」
会社の先輩の由香が突然あづみに言った。
「え?隠してること…?無いですけど…?」
「ふーん、私ね、見ちゃったんだけどなぁ…」
「何を…ですか?」
由香は声を潜めると「コトリちゃん、あなた五反田に彼氏がいるでしょう?」と言った。
「はい?」
「一回だけなら気にならないけど、あたし三回も見かけちゃったのよね。コトリちゃんが五反田駅の改札を出るところ。こら、白状しちゃいなさい、ねっ、彼氏ができたでしょう?」
「ああ、五反田ですか。あははっ。友達に赤ちゃんができて、大変そうだったからお手伝いに行っていました」
「ええ?なーんだ。つまんない」
「あはは…で、由香さんこそどうして五反田に?確か、西日暮里に住んでいるんですよね?」
「え?…えーっと、あ。そーだ!課長にコピー頼まれてたんだ!じゃあね~」
由香はそう言うと、さっさとあづみのデスクから離れて行った。
そんな由香を見てあづみは小さく笑った。
今日もサイトのチェック。
【ぶう:ぜんぜん痩せない!もうウォーキングなんて嫌だ!死にたい、死にたい、死にたい、死にたい!】
《みんなで時間を決めてウォーキング計画》
は、頓挫したようだ…。
ここ最近は連日【死にたい】と書き込んでいる。
誰が何を言ってもまるで聞く耳も持たず…
ここ数日は、‘ぶう’に対してレスする者もいなくなった。
あづみは‘ぶう’の身分証を取り出して、それをじっと見つめてから、ふう…っと、ため息をついた。
「いらっしゃいませ」
あづみはメニューを覗き込んで「えっと、ベリーのパンケーキとアイスコーヒーで…」と、注文した。
「はい、少々お待ち下さい」
西麻布のカフェ。
今のウエイトレスの制服の胸元の名札には‘横井’と書かれていた。
小春日和の日曜日。
カフェはカップルでいっぱいだった。
その幸せそうなカップル達を、あづみはこちらまで幸せになるような気分で見渡した。
「お待たせしました」
さっきのウエイトレスが、あづみのテーブルにパンケーキとアイスコーヒーを運んできた。
そして「ごゆっくり…」といいかけたところで、「横井さん…」と、あづみが声をかけた。
ウエイトレスは、誰だったかな…?というような表情であづみを見た。
あづみは少し慌てて「ごめんなさい。友達と同じ名字だったから、つい…」と、ネームプレートを見て言った。
「ああ、そうでしたか」
「びっくりさせちゃったかも。すみません」
「いえいえ、気にしないでください」
「私の友達は、横井ショウコっていうんです」
「ええ?あの…私も…祥子です」
「うそ…、同姓同名?」
二人して驚いた顔をしてから、同時に笑顔になった。
あづみはこのカフェによく行くようになった。
そうする内に横井祥子とはすっかり打ち解けて、お互いの連絡先を交換した。
毎日のようにラインや電話をして、すっかり仲良くなった。
そして、その頃から‘ぶう’のレスは無くなった。
そう、横井祥子こそ、ハンドルネーム‘ぶう’だ。
だが、サイトに書き込んだように太った体型ではなく、むしろ痩せていて背も高く、モデルだと言われたら信じてしまうような女性だった。
。
会員登録の際に送られてきた免許証のコピーの顔は、とても太っているようには見えなかったあづみは、もちろんそれを承知していたので、驚くことはなかった。
では、横井祥子は何故、自分を死にたいくらい太っているとレスするのだろう。
それを確かめるために、あづみは‘ぶう’に近付いた、というわけだ。
嘘をついて仲良くなることには罪悪感があったが、【生きる方法】はとてもデリケートな人達が集まっているのだから、‘ぶう’の「死にたい」を連呼するレスを危険だとあづみは判断した。
闇は闇を生む。
他の会員に悪影響を及ぼす危険を孕んでいる。
‘ぶう’…横井祥子が抱いている本当の闇はなんだろう。
仕事の使いを頼まれ、届け物をすることになったあづみは電車に乗ってから、スマホを会社に忘れてきたことに気付いた。
用事を終えて、帰社したあづみは驚いた。
あづみのスマホに、50件近くのラインやメールと、30回もの着信履歴が残っていた。
それは全て、横井祥子からだった。
最初は
《今夜、食事に行きませんか?》から始まり…
《お仕事、忙しいですか?》
《どうして返信してくれないの?》
《むかつく!私をシカトしてるの?》
《ごめんなさい。本心じゃないの。何だか心配で…》
といった内容が連なっていた。
「依存…」
あづみは、そう呟いた。
そして、横井祥子にラインを送った。
《返信遅れてごめんね。会社にスマホを忘れて外出してたの。今夜、OK。じゃあ、仕事が終わったらカフェに行くね 小鳥》
驚くほどすぐに祥子からの返信があった。
《なーんだ。嫌われちゃったのかと思って、心配しちゃった。じゃあ、待ってまーす。 祥子》
そうか…
横井祥子は、自分は太っていて醜いといい、死にたいと何度もレスをしていたのは‘ぶう’になることで、みんなが心配して構ってくれるからだ。
依存というのは大きく分けると、
【1】「物質」への依存
【2】「行為」への依存
【3】「人間関係への依存」
ということになる。
人間関係に依存する人の心理には「相手をコントロールしたい欲求」が潜んでいると言われている。
「友人に甘えること」と、「友人にすがりつく」のとでは違うということを本人が理解しないといけない。が、それがなかなか難しい。
とにかく、今夜会って話をしてみよう、あづみはそう思った。
「この前雑誌に出てた店、平日だから空いてるかも。電話してみるね」
祥子はスマホを取り出すと、その店を検索して電話した。
電話を終えると「予約完了!」と、祥子はおどけて敬礼をして言った。
そんな祥子の様子を見たあづみは、この後彼女には酷だが真剣に向き合わなくてはいけないことに、少々気が咎めたが、この同情がやがて‘共依存’となり、祥子に飲み込まれてしまうかもしれないと、心の中で自分を叱咤した。
‘共依存’
相手から依存されたことに気付かず、無意識のうちに依存する相手にこちらも依存してしまうこと。自己愛、自尊心が低い人ほど共依存関係を形成し続けることが多いと言われている。
「わぁ、素敵なお店だね」
「でしょう?雑誌で見た時に、今度コトリさんとここに来ようって決めてたんだ」
「そっかあ…」
軽めのコース料理と、グラスの白ワインをオーダーした。
「あのね、祥子さん。聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「ん?何でも聞いて」
「祥子さんって、過去に親しい人から裏切られた経験ってある?」
祥子は黙って、前のスープ皿に視線を落とした。
そして、「ある…」と短く答えた。
依存するのは、過去のトラウマが原因であることが多い。
例えば、彼氏が浮気をした、するとそれがトラウマになり別の男性と付き合っても「この人も浮気をするかも…」と気になって、日がな一日彼の事ばかり考え、そしてそれが依存に至るケース。
「中学の頃にね…」顔を上げた祥子は話し始めた。
「仲のいい友達がいたんだ。いつも一緒だった。それがね、ある日突然、突然だよ?私の事をシカトするようになったの。私の事、しつこい、ウザいって…」
「そう」
「だから、コトリさんが今日メールの返信をくれなかった時に、嫌われたのかと思ったの…」
「そうだったんだ」
「いつもそうなんだよね。友達ができても、彼氏ができても、どれだけ仲良くなっても…、最後には、ウザいって…重いって…怖いって言われたこともある。みーんな離れて行っちゃうんだよね。どうしてだろう…」
「解らない?」
「解らないよ。だって、仲良しなのに…」
「あのね、私は祥子さんのことが嫌いじゃない。それを踏まえて聞いてね。友達にも友達のプライバシーとか、その人その人で、自分の空間を持っているの。祥子さんは、その他人の空間にまで入ろうとするから、相手はきっと疲れてしまうんだと思う」
「でも、友達や彼氏ならどんなことも共有していつだって一緒に過ごしたいって思うから…」
「共有かぁ…、人間って物質以外に精神的な共有ってできないものなんだよ。例えば、自転車を共有する、これは簡単なことだよね。でも心は誰の物でもない、その個人だけの物だから、共有することは不可能なの。祥子さんは、相手の空間を破って、無理やりそこに入り込もうとしちゃうから、関係に温度差が生まれてみんな離れてっちゃうんだよ」
「じゃあ、どこまでだったらいいの?」
「それは、人によって違う。違うからこそ、慎重にならなくちゃいけないの」
「よく…、解らない」
あづみは祥子の顔をまっすぐにじっと見つめた。
「祥子さん、私は今のあなたとは会えない」
「どうして?私を嫌いになった?」
すがるような目でそう言う祥子を見てあづみの胸は痛んだ。
「違う!あなたを嫌いになんてなってない!絶対に違うから。私を信じて。祥子さん‘人は一人では生きられない’って、聞いたことあるフレーズよね?でもそれは‘一人でも生きていける人’が言える言葉なの。他人の考え方を尊重したり、その人その人との距離をうまくとる方法を知るためには、まずは一人でも生きられるようにならなきゃダメなの」
「一人で…生きていく?」
「そう。今は、その意味が解らないかも知れない。でも、その意味が解った時に、私達は本当の友達になれる気がする」
祥子を突き放すことが悲しい。
祥子をぞんざいにしているつもりはない。
祥子を大切に思う気持ちは本物だ。
でも
でも…
私は、他の会員達も同じように大切で、守らなきゃいけない。
「祥子さん、ホントだよ…。私は…本当にあなたを嫌いじゃないの」
あづみの目からすうっと涙が出て頬を伝った。
祥子はあづみの涙を見て、一瞬とまどい、それから…ゆっくりと頷いた。
「コトリさん、私、一人になって考えてみる…いつかその答えが出たら、また会ってください」
にっこりと笑ってそう言った祥子の目にも涙が光っていた。
【ぶう:たくさん嫌な言葉をレスしてごめんなさい。いろんなことをじっくり考えたいので、退会します。みなさん、お元気で!】
あづみは祥子のIDを入力して、退会処理をした。
※
入会の希望者。
これはサイトの管理人であるあづみだけに直接届くメールだ。
その名前を見て、あづみは茫然とした。
六年前の出来事が鮮明にあづみの頭の中を支配した。
あづみは
左の手首を右手でぎゅっと握ると、唇をかみしめた…
『てめえ、調子に乗ってんじゃねーよ!』
17歳の時だった。
あづみは執拗な虐めに遭っていた。
そのリーダー挌は‘亜里沙’
亜里沙が好きな男子が、あづみのことを好きだという噂が立った。
それが虐めの原因。
虐めを庇う者は虐めに遭う。
だから誰も庇ってはくれなかった。
あづみは孤立した。
そして虐めはどんどんエスカレートするばかりだった。
担任の先生に何度か呼ばれたが、あづみは何もないと言い張った。
チクった後の報復が怖かったから。
帰宅しても自然を装った。
自分が虐められてることを恥ずかしいと思った。
そして、それを知ったら、お母さん…悲しむだろうな…
そう思ったから。
夜が嫌い。
眠るのが嫌い。
日曜日が嫌い。
明日になったら…
また、虐められる…
あづみは何度もカッターナイフを左手首にあてた。
スパッと切る勇気なんて無い。
でも、理由は分からないけどそうしたい衝動を抑えることができなかった。
‘死にたい’
その日の放課後、あづみは校舎の屋上に立った。
‘死にたい’
屋上の乾いた風の中、あづみは一歩、踏み出し…
いきなり背後から強い衝撃を受けて、あづみは引き戻された。
「先生…?」
「こ…小鳥さん!駄目よ。死んでは駄目!」
「でも…もう、こうするしか…」
「【生きる方法】を…一緒に考えましょう!ねっ?」
担任の先生は、後ろからあづみを強く抱きしめてそう言った。
ヒュー…風が頬を優しくなでる…
私と先生は、しばらく立ち上がることができなくて、屋上に寝転んでいた。
先生はずっと背後からあづみを抱きしめたままだった。
「せんせい…泣いてるの?」
「だって…小鳥さん…」
「泣かないで…せんせい…」
空は夕焼けが広がって、まるで異国の絵葉書みたいだったのを覚えている。
そして…
入会の希望者。
そのメールの差出名は‘後藤亜里沙’だった…。
屋上で虚しくも美しい夕日を見た後、あづみは別の高校に編入した。
そこでは、虐めはなく楽しい高校生活を送ることができた。
あづみが自殺予防サイトを立ち上げたのは、あの時の自分と理由は違っても、‘死にたい’と本気で思う人達と今でも自分を重ねているからなのかも知れない。
‘亜里沙’の名前に時が経った今でも反応してしまうなんて…
私はまだ‘亜里沙’から逃げようとしている。
《現在、会員様の定員オーバーのため、申し訳ありませんがご入会はお断りしております》
そう返事をすることもできた。
だが、あづみは後藤裕子にルールブックを送付した。
数日して、同意書と一緒に後藤亜里沙の免許証のコピーが私書箱に届いた。
間違いなくあづみが知っている‘亜里沙’だった。
苗字は変わっていたが、あの頃と、あまり変わらない顔をしていた。
あんなに傲慢で、残酷だった亜里沙の身にいったいどんな
死にたいほどの悩みがあるというのだろう…
あづみが後藤亜里沙にIDを送ってすぐに、後藤裕子は‘捨て猫’というハンドルネームで早速書き込みをした。
【捨て猫:初めまして。私は、夫からの暴力に悩んでいます。もう、生きてるのが辛いです】
【さえ:捨て猫さん、初めまして。大丈夫ですか?怪我とかしていませんか?】
【捨て猫:さえさん、初めまして。殴られた時に、鼓膜を破られましたが、最近治りました。でも顔 も体もがあざだらけで、外にも出られません】
【リリー:捨て猫さん、初めまして。逃げることはできないんですか?】
【捨て猫:リリーさん、初めまして。逃げることはできません】
【さえ:捨て猫さん、どうして逃げられないんですか?】
【捨て猫:さえさん、私、馬鹿だと自分でも思うけど、夫のことをまだ愛しているんです】
【さえ:捨て猫さん、そんな暴力を振るう男でも、まだ好きなんですか?】
【捨て猫:さえさん。はい。優しい時もあるんです。きっと優しい彼が本当の彼で、彼を怒らせてしまう私が悪いんです。それでも、やっぱり…苦しくて…】
あの残虐だった後藤亜里沙が…DV被害者?
あづみにはとても想像ができなかった。
そして
こんな形で再会するなんて…
茫然とパソコンの画面を見つめた。
ポロロン…
着信音。
ラインだ。
《あづ、次の日曜だけど、あいてる?》
すぐに返信を送った。
《うん。OK!どっか行くの?》
ポロロン…
《超おいしいタイ料理のお店発見!じゃ、ランチで予約する!時間とかまた連絡するね~》
転校した高校で出会った曽根崎香奈。
同じ大学に進学して、今でもこうしてたまにご飯に行ったり、ちょっとした旅行に行く大親友。
香奈には私がサイトの管理人をやっていることを話していない。
転校してすぐだった…
『ねえ、小鳥さん。前の学校で虐めに遭ってたってホント?』
いきなり聞かれて、戸惑った顔を浮かべた時のこと…
『マジ?イジメ?超ダサッ!小鳥さん、そんな学校辞めてこっちにきて正解だよ!』
そう言ったのが曽根崎香奈だった。
みんな香奈のその言葉に同調して『そうだよね!ヤな事は忘れて、こっちで楽しくやろーよ!』
…そう言ってくれて話は大きくならなかった。
自殺防止サイトの管理人…
香奈が知ったら、過去に囚われているんじゃないかと心配するかも知れない。
だから言えずにいた。
そして、‘亜里沙’という名前に敏感に反応した私は
そうだ
私は過去に囚われているんだって、思い知った。
一ヶ月ほどして…
電車を乗り継ぎ、懐かしい実家のある町に着いた。
駅から実家に向かう途中に、高校がある。
グランドでは、土曜日だというのに陸上部が練習をしていた。
あづみは校舎を見上げた。
そして、一か所で目を止めた。
屋上だ。
あの時に先生が止めてくれなければ、私は…
しばらく校舎を眺めてから、あづみはまた歩きだした。
「ただいまー」
「あづみ?何よ急に…、帰ってくるなら電話ぐらいしなさいよ」
「いつでも帰ってきなさいって、いつもそう言うくせに~。お母さん、ただいま」
「おかえりさない。まったく、驚かせるんだから…」
そうぶつぶつ言いながらも、母は「どう?仕事はうまくいってる?」と、お茶を入れながら近況を聞き始めた。
「うん、おもしろい先輩がいてさあ…あ、そうだ、ちょっと前に久しぶりに香奈に会ったんだけど、元気だったよ。23歳の誕生日を祝ってくれた。そうだ、お母さん、香奈にも野菜を送ってるんだって?ありがとって、香奈から伝言」
久しぶりの帰省。
私に対する虐めが露見した時に母は仕事を辞めた。
あの頃
『私が虐められてるって知ったら、お母さん…悲しむだろうな』
そう思って隠していたのだが、あの時母は私がそう思って隠していたこともショックだったようだ。
余計に悲しませてしまった。
私が千葉の高校に編入してから、母は時間を見つけては祖父母の家に顔を出した。
その時に、友達になった香奈を紹介した。
母が新しい生活に慣れようとしていた私を見て安心した笑顔を見せたことを今でも覚えている。
「カヅキと、みづきは?いないの?」
弟と妹だ。
「ああ。カヅキは、卒業レポートのことで昼前から大学に行ってるわよ」
「じゃあ、みづきは?」
「はあ…、」
母がため息をついた。
「何?そのため息は…みづきがどうかしたの?」
「それがね、彼氏が出来たって…、ちっとも帰って来ないのよ。あの子は反抗期が無かったから、今になって遅い反抗期がきたのかもね」
「へ~、みづきに彼氏ね~、で、どんな人?」
「会わせてくれないから、良くわからないけど…、挨拶にも来ないから、母さんの印象は良くないわ」
「そっか。ちょっと心配だね…で、私って反抗期あったっけ?」
「あったじゃないーっ!ほら、千葉で授業サボったでしょう?」
「え~、あれ一回だけじゃん!」
「あんたには何も言わなかったみたいだけど、おじいちゃんもおばあちゃんも、本当はすごく心配してたんだよ」
「…ごめん」
玄関のドアが開く音がした。
「カヅキかしら?」
そう言いながら母が立ち上がった。
「カヅなの?ただいまぐらい言ったら…、あら、みづき?ちょっと…あんたどうしたの!美月…」
母の声を聞いて、あづみは急いで玄関へ行った。
「みづき…!」
「あ。お姉ちゃん、帰ってたの?」
「帰ってたの?じゃないわよ!どうしたの、その顔…」
妹のみづきの左目から頬にかけて赤く血が滲んだように腫れている。
「彼氏と喧嘩になって、殴られちゃった~、もうサイアク~!」
「彼氏に?そいつの家はどこ?私、行ってくる!」
「お姉ちゃん、もういいよ。ちゃんとボコって帰ってきたんだから。それに、あんなDV男、別れてきたから」
「DV…って…あんた、これが初めてじゃないの?」
「殴られたのは初めてだよ。でも、いつもの会話とか…それにこんなに殴られたらわかるじゃん。あいつマジ、サイテー!」
一度手を上げられて、さっさと見限って別れてきた妹。
何度殴られても、愛しているからと言って別れられない後藤亜里沙。
この差は、何だろう…
「私、カヅキの大学に行ってくる」
バッグを取りに部屋に戻ったあとあづみは家を飛び出した。
「あづみ…」
「お姉ちゃん?」
広い大学だが、弟はすぐに見つかった。
静まり返った本の独特の匂いがする図書室で、一心に分厚い本を読んでいた。
あづみは、カヅキの隣の席にそっと座ると、頬杖をついて弟の横顔をじっと見た。
しばらくして、弟があづみの方を、ちらっと見てから本に目を戻したが、またすぐにあづみを見た。
いわゆる二度見。
「ね…姉ちゃん!?」
と大きな声を出した。
静かな図書室の全員がいっせいにカヅキに目を向けた。
カヅキは真っ赤な顔で、四方に頭を下げていた。
座ると小声であづみに
「姉ちゃん、何だよ。いつからそこに…」
「んー、ちょっと前。…ねえ、あんたって、お父さんに似てきたね」
「やめてくれ!俺は気合いで、ぜってーに禿げねーからな!」
「そうじゃなくて、顔が似てきたって思ったの」
「なんだ…で、何?」
「ぐふふ…あんた、それ気にしてんの?」
「うるせーよ!何の用?」
「あーそうだ。あんたって、犯罪心理学っての勉強してたよね?」
「姉ちゃんだって、心理学専攻してたじゃん?」
「私は、人格心理学。でも、途中から法学部の聴講ばっかりしてたから、中途半端なんだけどねー」
「で?何が知りたいの?」
「ドメスティックバイオレンス」
「DV…?」
「そう。DVの定義を教えて」
カヅキは、ノートに一辺が10センチくらいの正三角形を書いた。
そしてそのそれぞれの頂点に、‘ハネムーン期’‘イライラ期’そして最後に‘爆発期’と書いた。
「ほとんどのDVの場合、これに当てはまる。まず、DV加害者はとても優しくする‘ハネムーン期’、次に、理由はなんだっていい、とにかく機嫌が悪くなる‘イライラ期’、そして、殴ったり、暴言を浴びせたり、の‘爆発期’。このサイクルが延々と続くわけ。殴った後には、‘ハネムーン期’が来るから、またいつもの優しい加害者に戻るんだ。『ごめんな』『愛してるよ』『痛かっただろう?もう殴ったりしないから…』そして、仲直りした後に、また‘イライラ期’が来て、女性は委縮する。追って‘爆発期’この繰り返しってわけ。‘爆発期’と‘ハネムーン期’の単純往復ってパターンもあるみたいだけど、サイクルする点では同様だな」
「ふーん…じゃ、この魔のメビウスの輪にハマった被害者はどうなるの?」
「DV被害者はほぼ確実に人格崩壊。思考がストップして殴られても逃げる気力さえなくなる」
「なるほどね、そうなんだ…」
「何だよ、姉ちゃん誰かにやられてんのか?」
「私じゃないわよ。ありがと、じゃあね」
あづみは大学を後にした。
そっか、妹のみづきはハネムーン期を迎える前にさっさと別れてきたから、すんなりと離れられたんだ。
あづみは、自分の中に喝をいれるべく、両手を胸の前でぐっと握り締めた。
後藤亜里沙のサイトへの入会申込書に書いていた住所に行くことに決めた。
ここ数日の‘捨て猫’の書き込みが切羽詰ったものになってきていたからだ。
古い木造の二階建てアパート。
一階の真ん中の部屋102号室が後藤亜里沙の住まいだ。
あづみが住んでいるアパートも古いが、ここは日当たりも悪く、いつ朽ちてもおかしくないような雰囲気を醸し出している。
玄関の外には洗濯機が置いてあり、古びたビニール傘が二本立て掛けられている。
ふいに、ドアの開く気配がして、あづみはその場から急いで離れた。
部屋の中からは、取れかけのパーマで手入れがされていないと一目で分かるボサボサの髪をしてマスクとサングラスで顔を隠した女性が出てきた。
あれが、亜里沙?
しわくちゃのマキシスカートに、色が褪せたパーカーを羽織り素足にサンダルを履いている。
少し背を丸め、もそもそと歩いて行った。
あづみはその後をつけた。
その女性はすぐ近所のスーパーに入ると、野菜と肉を良く見もせず、さっさとカゴに放り込み、レジに並んだ。
その時、あづみと目が合った。
次の瞬間、女性はカゴを投げ出すと、スーパーから走り出た。
「待って!」あづみは追った。
サンダル履きの女性にすぐに追いついた。
腕を掴むと「待って、あなた…亜里沙さん!…でしょう?」と言った。
「うるせー!離せよ!」と、亜里沙はあづみの手から逃れようと必死の抵抗をした。
その時、サングラスが落ちた。
亜里沙の目は、その面影もないくらいに変色し腫れて、マスクの上からでも鼻筋が曲がっているのがわかった。
あづみが掴んだその手にもタバコの痕らしき丸い火傷の痕跡が無数にあった。
顔を見られたことで、観念したように亜里沙は抵抗をやめた。
あまりの酷さに驚いたあづみは亜里沙の腕をそっと離した。
亜里沙は、ゆっくりとしゃがむとサングラスを拾って、それを元のように着けた。
「てめえ、何の用だよ…」
「久しぶりに帰省したんだけど、あなたに似た人がいるな…って思って…」
「殴りに…きたんだろ?」
「え?…」
「あたしのこと、恨んでんだろ?いいよ、殴っても…」
「亜里沙さん、少しだけで良いから…、座って話さない?」
意外と素直に亜里沙は、頷いた。
「ねえ、昔あっちに公園があったわよね?今でもあるの?」
「ある」
土曜日だというのに、公園には一人の子供もいなかった。
みんな家でゲームでもしているのだろう。
ブランコに並んで座った。
「久しぶりだね」
あづみがそう話しかけても亜里沙はピクリともせずどこか一点を見つめていた。
「私、今は東京の会社で働いてるんだ」
「…。」
「元気だった?」
「この顔見て、元気に見えるのかよ?」
やっと亜里沙が喋った。
「そう…だよね…」
亜里沙が急にこちらに顔を向けたそして…
「あの…さあ。わ…悪かった…な」
と、つぶやくように言った。
「え?」
「高校ん時…悪かったな…あたし、最近さあ、よくあんたのことを思い出すんだ」
「私のこと?」
「あたし、あんたに酷いことしたな…って」
「そっか…うん!あの頃、私、あなたのことすっごく恨んでた!あの頃だけじゃなくてずっと恨んでた!…ずっと恨んでるって、思ってた。なのに、こうしてあなたに会ったら、何をどう恨んでたかをもう忘れちゃってるって分かった」
「マジで?」
「うん。自分でも不思議な感じだけど…」
あづみはバッグから名刺入れとペンを取り出して、一枚の名刺を出すと裏にスマホの番号を書いた。
「私は、あなたから逃げて転校した。でも、もう逃げない!もしもあなたが今いる場所から逃げたくなった時には私、力になるから、連絡して。ねっ?」
亜里沙は無言のままで傷と火傷の痕だらけの手を出すとあづみの名刺を受け取ると、消えてしまいそうなくらいの小さくかすれた声で
「帰る」
と言った。
「うん…。じゃあね…」
ブランコから立ち上がった亜里沙は、弱々しく背中を丸めてアパートの方へと帰って行った。
あづみは、亜里沙の変わり果てたその後姿をじっと目で追った。
ずっと恐れていたあの悪夢の根源の高校時代の姿は
その面影すら消え果てていた…
私は何を…
私は誰を…
恐れて生きてきたのだろう…
「ねえ、これってさぁ~、コトリちゃんの実家の方じゃない?」
由香が新聞を持ってきた。
《平塚市寺田縄のアパートに住む後藤亜里沙さん(23)が絞殺死体で見つかった。亡くなった亜里沙さんの夫が日常的に亜里沙さんに暴力を振るっていたとの近隣住民からの情報があり、警察は同居している夫から話を聞いている》
「うそ…」
「ヤダ、やっぱりそう?」
あづみは、新聞を胸に抱いて崩れるように床に座り込んだ。
由香は、そんなあづみに「もしかして、知り合いだったの?」と、聞きながら背中をさすった。
あづみは
「やっと…“あの時”から開放されたのに…」
と小さな声で言った。
「コトリちゃーん。あれ?いないのかな…」
あづみを呼ぶ係長の声がした。
由香が立ち上がって、「ここ!ここにいます。ちょっと待ってください」と言って、あづみを立たせると「大丈夫?」と聞いた。
「はい…」と、由香に答えてから、係長の方へ行った。
「コトリちゃん、何かね…警察の人が来てて、話があるって…。応接で待ってもらってんだけど…」
「わかりました…」
応接室に入ると、年配の刑事が二人同時に立ちあがると片方の刑事が、「小鳥あづみさんですね?」と聞いてきた。
「はい…」
「少しお話を伺いたいのですが、署の方までおいで頂けませんか?」
「分かりました。上司に、…早退すると伝えてきますので、少々お待ちいただけますか?」
「はい」
あづみは係長に、幼なじみが事件に巻き込まれたとだけ言って、早退することを伝えた。
更衣室で制服から私服に着替え、バッグを持つと、刑事と一緒に覆面パトカーに乗って警察署へ向かった。
「これ、あなたの物ですよね?」
刑事がそう言って見せたのは、ビニール袋に入ったあづみの名刺だった.
くしゃくしゃになって、血液と思われる赤茶色の染みが付いていた。
「はい。…私の名刺です」
「後藤亜里沙さんが亡くなったことは、ご存知ですか?」
「先ほど新聞で…」
「そうですか。実は、後藤さんのご遺体の手にこの名刺がしっかりと握りしめられていたんですよ」
「これが…?」
「ええ、それで何かご存知かと思いましてお話を伺おうと、まあ、そういうわけです」
「この前の土曜日に、私は実家に帰省しました。その時に亜里沙さんと6年ぶりに再会しました」
「スーパーの近くで何か、もめていたという目撃証言があるのですが?」
「亜里沙さんは、私から逃げようとしたんです。私は、それを引きとめました」
「なぜ、後藤亜里沙さんは小鳥さんから逃げようと?」
「私たちが17歳の時でした…」
あづみは、当時亜里沙から酷い虐めに遭っていて、自殺を考えたこと、だが担任の先生に止められて、他の高校に編入したこと。
それから、大学を卒業するころに自殺防止サイトを立ち上げたこと。
就職してからも、サイトの運営は続き、後藤亜里沙からサイトへの入会希望のメールが届き、DV被害に遭っていることを知り、気になったので様子を見に行ったこと。
「虐めに遭っていたんでしょう?被害者に。それなのに、気になったんですか?」
「はい」
そして、公園のブランコでの会話。
「これで全て…です」
「なるほど。では、後藤亜里沙さんにとって逃げ場所は小鳥さんだけだったのかもしれませんね」
「そんなこと、ないです。だって8年ぶりですよ。会ったのは…」
「ん~、交友関係を調べていますが、特に親しい友人はいないようですし、ご両親も早くに亡くなって、ご姉妹もいないようですし…やっぱり最後に頭に浮かんだのはあなたのことじゃないかな…」
「そんな…」
「あ。負担に思わないでくださいね。あなたの名刺を力いっぱい握っていたので。つい…」
あづみは自分の頬に熱いものを感じて、初めて自分が泣いている事に気が付いた。
もっと早く亜里沙に会いに行っていたら、彼女は殺されずにすんだかもしれない…
やっと…
やっと、黒い雪が…深く深く積もった真っ黒な雪が…溶けようとしていたのに…
警察署から直接帰宅したあづみは、パソコンを開いた。
【さえ:捨て猫さん。見てますか?神奈川の方でDV絡みの殺人事件が起きたようです。捨て猫さん、こうなる前に、逃げてください】
【リリー:捨て猫さん、大丈夫ですか?私も逃げるべきだと思います!】
殺されたのが、当の本人だとは知らずに、‘捨て猫’に向けてたくさんのレスが付いていた。
あづみは、初めてこのサイトに書き込みをした。
【Shine:皆さん、初めまして。私は捨て猫さんの友達です。捨て猫さんは自由になることができました。ですから、もう心配しなくって大丈夫です】
あづみの書き込みに、たくさんの『安心しました!』という内容のレスが続いた。
ねえ、亜里沙さん。
自由になれたんだよね。
魔のメビウスの輪から解き放たれて…
あづみは、‘捨て猫’のIDをそっと入力して退会の処理をした。
※
私書箱に、手紙が入っていた。
『前略 初めまして。
私は、命の電話相談窓口を担当している堂島と申します。貴方の運営されている【生きる方法】では、たくさんの方たちの優しさを感じ、感動し、筆を取らずにはいられませんでした。
私のところにも、毎日のように「死にたい」と苦しむ方々から電話があります。
命とは何か、どうすれば救えるのか、私のやっていることは偽善ではないのかと自問自答し、葛藤することがしばしばあります。
そんな時は【生きる方法】のサイトを見て、元気をもらっています。
無くなっても良い命など一つもないのだということを思い出させてくれます。
どうしてもこの感謝の気持ちを伝えたくて、この手紙を書きました。
今後のサイト運営を応援し、また期待しております。 早々』
「はい、相談室の堂島と申します。」
「あの…」
「はい、こんにちは。初めてのお電話ですか?」
「はい…」
「そうですか。今日は、とても天気がいいですね」
「ええ…」
「こんな日は、外に出て思い切り深呼吸すると気分がよくなりますよ」
「そうですか…、あとでやってみます」
「ぜひ、そうしてみてください」
「あの…」
「はい」
「私、最近…大切な友達が亡くなったんです」
「お亡くなりに?」
「はい…、それで…私は友達のために何をすればいいのか分らなくって…生きてる間にもっと私にできたことがあったんじゃないかって…考えてしまって…」
「それは、とても辛いと思います…。でも、後を追うようなことはしてはけませんよ」
「はい…」
「亡くなった方の為になにが出来るか、ですよね?…生きてください」
「生きる?」
「はい、友達の分もあなたが幸せに生きることが、あなたにできることではないでしょうか?」
「ただ、生きていればいいのですか?」
「時には笑い、時には泣いて、時には友達を思い出す、そうして日々を送ることで、生きている自分をちゃんと実感してください。そして今ある命をどうか大切になさってください」
「はい、あの…ありがとうございます。そうします」
「また、いつでも電話してきてくださいね」
「はい。私…今から外に出て深呼吸、しますね」
「ええ、ぜひそうしてください」
「お手紙、ありがとうございました。失礼します」
電話が切れた…
お手紙ありがとう…って?
まさか!
パソコンで、サイトを開いた。
【Shine:皆さん、初めまして。私は捨て猫さんの友達です。捨て猫さんは自由になることができました。ですから、もう心配することはないですよ】
このレスが気になっていた。
会員制のこのサイトに、その友達が気軽に書き込んだことに違和感を持っていた。
捨て猫が自由になった…?
このレスの前日、DV被害者が殺害されるという痛ましい事件が起きたことは覚えている。
まさか…殺されることで…、自由になった?
電話を切る直前に、確かに…
『お手紙、ありがとうございました』
そう言った。
そうだ!間違いない。今の電話は、このサイトの管理人だ。
‘Shine’…。
‘光り輝く’…。
会員達がいつか光り輝くことを願っている、管理人!
そうか。
管理人だって、ロボットじゃないのだからどこかに胸の内をさらけ出したい事もあるのだろう。
あのサイトの管理人が、そのさらけ出す場所に僕を選んでくれたことを嬉しく思った。
「堂島君、ほら、電話鳴ってるわよ」
「あ、はい。お待たせしました。相談室の堂島です」
※
【生きる方法】
‘リリーさん’は、飼っていたわんちゃんの死から長いペットロスに悩み、死にたいと言っていたが、最近新しくまたわんちゃんを飼い始めて退会した。
‘さえさん’は、お姑さんとうまくやっていけず悩んでいたが、近いうちに別居することが決まって、そろそろ退会するだろう。
‘ポン太さん’は、このサイトを立ち上げたころからいて、最初は引きこもりの自分が嫌で、死にたいと言っていた。今では死にたいと思っているのかどうかわからないが、癒し系なので放置してある。
退会する者がいれば、それと同じかそれ以上の入会希望者がいる。
《命》とは何か。
《生きる》その意味は?
あづみはその答えをさがすために、《生きる》のだと思った。
メール…
誰だろう…
『コトリさん。お元気ですか?私、井戸、掘ってます!コトリさんが話してくれた意味、分かった気がしています!』
そして、真っ黒に日に焼けてはじけそうな笑顔を浮かべた画像が添付されていた。
祥子だ。
あの、人に依存していた祥子が、どこかの国で井戸掘り?
あづみは驚いた後、にっこりと微笑んだ。
【完】
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