注目の話題: 皆さんは精神科受診についてどう思いますか？; 彼氏にカマかけたらクロ　別れるべきか; おばさんイジリされる職場

花火６

レス0 HIT数 1162 あ+ あ-

小説家
16/01/15 15:59(更新日時)

俺は、医者になりたかったはず。

倉多医院の跡取り息子として育てられて、
将来の選択肢なんて、もう、医師になることありきだった。

不思議なことに、小学校の低学年まで職業は、医師と消防士とパン屋さんしか知らなかった。
今考えると、笑ってしまうし、それと同時に、無意識のうちに親のエゴに引きずられてしまっていたのかなと思う。

医師国家試験を目前にして、俺は燃え尽き症候群になっているのか、医学から徐々に興味が薄れてきていた。

膨大で、かつ、殺人的な医学的知識の量に、忙殺されて、日々、自分の限界を超えていくのを痛感する。

薬理学は、ひたすらカタカナの羅列ー。

解剖学は、臓器や器官の羅列ー。

病理学は、ピンクと紫色の細胞とにらめっこー。

理屈じゃない、ひたすら、脳のシワに刻めと教授先生の御言葉ー。

最近は、ほぼ、全てが実習の日々に、心身共に疲弊して、アパートに帰っても何もしたくない。
留守番電話の点滅しているオレンジのボタンすら押せない有り様だ。

友人の中には、すでに違う道に進もうと、退学していく者も多い。

医学部は、教養後の授業が全て必修で１つでも落とすと留年するので、凄く厳しいのだ。
実習の評価で、留年する者も多いと聞く。

この前、従兄弟の柳之助から、デモテープを圭介と作ったから、聴いて欲しいと渡された。
始めは、医師国家試験の邪魔になると言って、受け取りを拒否したが、捨てても構わない、受けとるだけで良いと言われて、仕方なく、受け取ってしまった。

後から、受け取ってしまったことを悔やんだが、そのまま、鞄に入れっぱなしにしてある。

圭介、作詞作曲のデモ曲を聴いて、俺にどうしろっていうんだ。

今の俺は、八方ふさがりなんだよ。

前にも進めず、かといって後ろを振り返る勇気もなく。
俺の前には医学の道、俺の後ろには、圭介と柳之助と追いかけ続ける夢。

しばらくたった、ある日の当直室内で俺は、とうとう、イヤフォンを耳に装着して、デモテープの曲を聴いていた。

どういう心境の変化があったのかは、俺自身も解らないが、気がついたらそうしていた。

二回ほど聴くと、俺は、イヤフォンを耳から外して、タバコと財布、病院内連絡用のガラケを持ち、喫煙所へ行き、誰も居ない深夜の喫煙所でタバコに火を着けて、途中で自販機から買った珈琲を飲んだ。

うーん。圭介の曲は、確かに良い。
高校の頃組んでたバンドの音楽を思い出す。
柳之助が、好きな曲調だよな。
俺は、昔、作家になりたかったが、圭介の方がずっと、文学的才能があったからやめた。

圭介の詞が好きだった。

はぁ～。
久々に、ドラム叩きたい。思いっきり早いビート刻んで。スカッとするまで永遠に。

んでもって、手が痛いので実習出来ませんとか、ダメかなぁ～。

俺は、排煙口に向かって大きな声で独り言を言っていた。