普通の女

レス431 HIT数 99810 あ+ あ-


2013/09/30 21:09(更新日時)

短編小説です


悲しい女…

嬉しい女…

第三段です

よろしかったら、またお付き合い下さいませ

(*⌒▽⌒*)

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No.1897899 (スレ作成日時)

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No.251

「いえ……」

俺は首を横に振りながらそう言った

馬場「…そうですか…あの方…お花持っていらしたからてっきりお墓参りかと思ったけど…」

馬場さんは不思議そうに首を傾げた…


花を?…

そうだ…

いつもの理恵子なら墓参りを終えてから

メトロに寄るはずだが?

何故今日はその前にここへ寄ったのだろう

しかも墓とは逆の駅方向へ歩き出したと言う…

もしかして

理恵子は先に墓へ行ったのだろうか?

あの石段を登り、俺とメガネに気付いて

墓参りをしないで戻ったのだろうか?…

そして…メトロの開店を待っていた?…

No.252

という事は

俺に会おうとしていたのか?

あんなに会いたかった理恵子がここに来て…

俺を待っていた…

なんでもう少し待っていてくれなかったのだろう


胸が熱くなった

が…

…おっさんは利用されていただけ…

さっきのメガネのあの言葉がよぎり

他に何かの意図があるのかもしれない

そんな疑心暗鬼な憶測は、熱くなり掛けた俺の心を一瞬で冷やした…

No.253


だけど…

下手にこの近辺をうろうろして

もしメガネにでも見つかったら

どうするつもりだろう


だが…それも

もう俺には関係ないのかも知れない…

理恵子の気持ちは俺にはまるで分からない


馬場「…マスターやっぱり悩み事がありそうね?…」

じっと考え込んでいる俺にまた馬場さんの声が響いた

馬場「…恋患いかしら?…」

馬場さんは老眼鏡の隙間から俺を見上げて言った

「まさか…」

まさかと言っていつもなら笑い飛ばすだろうが

今の俺には愛想笑いも出来ないほど心は重く、暗かった

No.254

馬場「…マスターダメよあの人は…だって…よその奥さんなんでしょ?……」

「はい?!…違いますよ!…それは誤解で…」

俺の言葉を遮るように…

馬場さんが窓の外をつんつんと指差している

ん?…


見ると…

メガネが女と手を繋いで歩いている

理恵子だ!…

夢じゃない…

間違いないく理恵子だ…

何故二人一緒なんだ?

だがよく見ると、理恵子の手はメガネに力づくで引っ張られているようにも見える

強風は、理恵子の抱えている花束から、花びらを巻き上げて飛び散らせている…

平和な人並みを縫うように二人が向かう先は…


墓だ…


「馬場さん…店番をお願いします!!」


半分怒鳴るようにそう言うと

俺はやはり駆け出していた


なにもかもはっきりさせたい!


このままじゃ俺のこの先の人生も始まらないのだ


春の風に逆らうように俺は走り続けた…

No.255

細い路地に入って行くと、二人の姿が見えた


もう少し近づいてから…もう少し…

ハァハァ…ハァハァ…


だが…

やたらバタバタの俺の足音はアスファルトに大きく鳴り響き

やがて

メガネは気付き、立ち止まり…


振り返った!…


そして俺と目が合った…


理恵子の驚く顔…

ハァ…ハァ…


俺は、ゆっくり歩いて二人に近づいて止まった


睨み合い、反目するメガネと俺…


さぁ…

どうする俺!…

しっかりしろ俺!…


頑張ってくれ俺!…


ハァハァ…ハァハァ…

No.256

細いアスファルト道路に立つ三人の男女

賑やかな表通りとは違って

墓へ繋がる裏通りは、民家もなく

冬の痩せた畑と深い杉林

墓から奥の林道を歩く人影もなくひっそりとしている


メガネ「おっさん!…なんです?…なんか用事でも?…」

開き直り、無理に落ち着き払ったような言い方で

最初に口火を切ったのはメガネだった…

だが俺はそんなメガネとは目をあわせず

どうしたらいいのみたいな顔で、俺を見る理恵子に言った

「理恵子さん…あなたは…この男が好きなんですか?…どうなんです?…」

あんなに会いたかった理恵子が、俺の目の前にいる…

すぐにでも抱きしめたい衝動にかられたが

その前に

どうしても聞かなければならない事を

俺は聞いた…

理恵子は顔を下に向け泣いているようだ…


メガネ「…俺の事が好きかどうか?…好きに決まってるでしょ…ほら泣いちゃうから…止めてくれません?…俺と理恵ちゃんの問題なんで…」

No.257

メガネに手を引かれ、また歩き出そうとする理恵子に

「理恵子さん…俺は…あなたをずっと待っていましたよ…これからも待つつもりです…」

メガネ「…待っててもダメっしょ…おっさん…利用されただけ…便利屋さん…アハハハ…」

理恵子「…ウッウッ…」

「…でも、もう忘れた方がいいんですか?…理恵子さん!…なんとか言って下さい!」

メガネ「…アハハハ…おっさん…いい年して…女々しいですよ…恥ずかしくないですか?…アハハハ…」


「あんたに聞いてるんじゃない!…俺は理恵子さんに聞いてるんだ!…ちょっと黙っていてくれないか!!」

自分でもこんなに大きい声が出た事に

驚いていた…

No.258

メガネ「…なんだとジジイ!!…ざけんなよ!…」

メガネは…

さっきまでのチャラ男の軽いノリとはガラリと変わり

鋭い目つきになった…

そして、かたくて強い腕で蝶ネクタイを

潰しながら、俺の胸ぐらを掴んだ

苦しい!…

理恵子「止めて!…お願い…あなたの言う事は…なんでも聞くから…だから…マスターには、酷いことしないで!…お願い!…」


…メガネは二重人格、DV、ストーカー

だった…

No.259

俺は両腕でメガネの拳を押さえ

「殴るなら殴れ!…俺なんか殺されてもいいさ!…だけど…キミは力ずくで理恵子さんを?…空しくないのか?…それで幸せなのか?…」


メガネ「…るせッ!」

ガッツッ!…

やっぱり殴ってきた!…

歯を抜く時のあの骨の髄の音が耳元で聞こえた気がした

俺はヨロヨロ地面に崩れ落ちそうになったが…


必死に耐えメガネに思いっきり体当たりした


メガネは畑に仰向けに倒れた

馬乗りになった俺はポカポカと左右の拳を交互に

メガネの顔を殴り続けた…

だが…

あっという間にメガネに身を交わされ

倒れた俺の腹を蹴った…

「ううゥ…」

息が出来なくなり

畑の上で腹を押さえてエビのように丸く固まった


理恵子「…マスター…マスター…」

理恵子が俺にしがみついて叫んでいる

No.260



地面では…

メガネの格好いい皮靴と…

理恵子が放り投げた花束が風に吹かれて揺れていた

すると…

理恵子ではない、もう1人、女の顔が見えた

髪をなびかせ

この世の人とは思えないほど、顔色が悪い女だ

あ…女房だ…

女房は心配そうに俺を見ている

メガネ「…オヤジさんは、やっぱり弱っちいな…幸せ?…そんな精神論はうんざりなんだよ!…俺は理恵ちゃんといたいだけだよ!…邪魔すんな!…」


理恵子「…なんて人なの?」

泣き声の理恵子


メガネ「…はいはい…理恵ちゃん…ゆっくり車で話そう…寒いから…ねッ…」


止めて…いや!…

そんな理恵子の声が遠ざかって行く

あぁ…

なんて俺は弱いんだ!

カッコ悪過ぎる!…

強くなりたい!

メガネを張り倒して理恵子を守りたい!

郁子!

なんとかしてくれよ!

お前はそれでもお化けか?!!

くだらない事に腹を立てていた…

No.261

俺は立ち上がり…

二人を追いかけた…

だがもう二人は車に乗って何処かへ行ってしまっただろうか?


口の中から生臭い液体をペッと吐き出すと

アスファルトが赤く染まった…

学生時代は吹奏楽部だった…

なんで柔道部とかレスリング部じゃなかったのだろうかと

今更ながらに後悔した…

やがて石段を登り始めた…

バァン!!…

なんの音だろ?!
どこかで花火でも上げているのか?

今日は何の日だろ?

ハアハア…

やっと駐車場に出た…

車はいない!

もう二人は行ってしまった!

チックショウ!


救ってやれなかった情けない自分を責めた…

No.262

ヘロヘロに疲れきって広い駐車場に立ち、墓を見下ろした

?!…

白い車が墓に突っ込んで止まっている


メガネの車か?

坂を下って行くと
墓の脇の杉の木にメガネの車のフロントがめり込んでいる!


なんでこんな事に?

そして

それよりも驚いたのは?!!…


白い着物を着た髪の長い女が

両手を広げてフロントガラスにへばりついている

車内に向かっていたその顔が

振り返った!…

髪の毛は逆立ち

額の皮膚ははがれ血がにじみ

肌は紫色

口は耳の下まで裂けて赤黒い血が首までダラダラ垂れている


昼間から派手な幽霊だった!


「ギャ―――――――――!」

俺は気絶してまた倒れた

No.263

暫くして

目が覚めると

女房が白い着物を着て俺の目の前にいた

どうやら幽霊の正体は、幽霊の女房だったらしい


「お前…こんな凄い技ができるなら…もっと早くやってくれよ…」


やがて女房はすっと消えた…


助手席で気を失っている理恵子をズルズル引きずり出した…

運転席のメガネなんか見たくもなかったが…

エアーバックがきいたのか


顔の腫れは俺が殴ったせいで

ただ眠っているようにしか見えない

事故の衝撃より、あの幽霊を見て気絶したのかも知れない…


ぐったりする理恵子を抱きあげ

やれやれ…

やっと捕まえた…

そう呟き、お姫様抱っこしたまま


ゆっくり石段を降りて行った…

No.264

理恵子「う~ん」

「目が覚めましたか?…理恵子さん…」

理恵子「…マスター?…ほんとにマスターなの?…」

「…ええ…お化けじゃないですよ…ちゃんと生きてます…」


理恵子「……幽霊がいたの!!…車の窓に!!…」

「そう?…お墓ですからね…それより…いい景色ですよ…理恵子さん…」

理恵子「…はい…マスターと一緒に見たいなぁと前から思っていました…」

「これから毎日でも見られますよ…」

理恵子「…そうね…マスター…重たいでしょ…降りますよ…恥ずかしいから…」

「はい…意外に重たいですねぇ…でも…降ろすと…理恵子さん…またどっかへ行っちゃいますからねぇ…」

理恵子「…はい…じゃ…よろしく…お願いします…」
笑いながらそう理恵子は言い…

俺の首に両腕を回した…


思わず俺は理恵子の唇にキスをしていた…

No.265

メトロに着くと

馬場さんがせっせとお客に珈琲を運んでいる

顔面血だらけで理恵子を抱える俺を

馬場さんは奥へ引っ張って行き


馬場「…マスター…力ずくで連れてきちゃったんですか?…それは…まずいでしょ…人の奥さんだし…」


「それが…今日から俺の奥さんですから…」


馬場「…はぁッ?!…」

馬場さんは驚いて口を大きく開けた

その時、また歯が外れそうになったが

すぐ口を閉じて馬場さんは事なきを得た…

それから俺は警察へ事故の通報をした…



あれから

メガネはメトロ向かいの、街路樹にたまに立っていたが

いつも女房の幽霊が常に張り付いていて

嫌気がさしたのか最近メガネは現れなくなった


極悪なストーカーでもお化けは苦手らしい…

No.266

理恵子との夢のような生活が始まっていた

その幸せは俺が体を張って、命がけで…

そう言いたい所だが、女房の協力なくして勝ち取れたものではない事はよく分かる

ただ…

夜の愛情行為の最中に、たまに理恵子の顔が女房に見える事があって

俺はいささか困っていた…

そんなある夜中に、ふと目が覚めると

女房が横に座っている…

別に驚かないが、女房はふわふわ移動して

手を振っている

おいで…おいで

ではなく

今度は手を横に振っていた

バイバイと…

そしてあのファンシーケースの中へ吸い込まれるように消えた…

No.267



?!

なんでファンシーケースの中へ入ったんだ?


あのファンシーケースは女房と一緒になった頃

貧しい生活の中でやっと買った物だった


生活が安定し新しいタンスが入ると

ファンシーケースは邪魔になって


畳んで何処かへ片付けた…

こっちに越して来る時に、どうしても捨てる気にならずに

他の荷物と一緒に持ってきたのだった

それを最近、俺が小屋から探してきて使い始めた

部屋のあちらこちらに掛けてあった鬱陶しい衣類を入れ

ここに置いて重宝していたのだ…

女房はこのファンシーケースが懐かしくて出てきたのか?

そのついでに理恵子との仲を取り持つ羽目になったのだろうか?


霊の世界の事は分からないが


俺は手を合わせて感謝した…



完…

No.268

第39章

メトロマスター
…馬場てる子の場合…

No.269

温かい日差が、体を包み

すれ違う見知らぬ人にさえつい挨拶をしたくなるような

春爛漫の桜並木道をウキウキしながら

一人の年配の女が歩いていた

自宅を出て徒歩10分ぐらいだろうか

今日も元気に喫茶メトロへやってきた


喫茶メトロ常連客
…馬場てる子(70歳)だった

開店はいつものように11時…

そう思っていたのに…

なんと…

メトロの入り口には

“モーニングサービス始めました…9:00~11:00”

手書きだろうか…
コルクボードに可愛い張り紙があった

あら…いつの間に?

「いらっしゃいませ~」

白ブラウスに黒の蝶ネクタイ

髪をアップし、綺麗なウナジを見せて

品のある女がてる子に深々と頭を下げた

メトロマスターの新妻、理恵子であった

No.270


見ると店内には女の客が多数いて

楽しそうに会話しながら

珈琲の他にトーストやベーコン、目玉焼きなどを頬張っている

メトロのマスターにいきなり嫁が来て、店に出るようになったのは最近だが

以前より活気が漲り、メトロの雰囲気がガラリと変わったようだ

…これじゃまるでファミレスじゃないの…

…まったく居心地悪いったらありゃしない…

…どっちかと言うと…私ゃマスターだけの方が静かで落ち着けたのに…

てる子はそう心の中でボヤキながら

いつものお気に入りの窓際の席へ向かった…

が…

そこも女達が、話しに花を咲かせ

てる子の席を陣取っている事など

微塵も感じてやしない

No.271

「馬場さん…カウンターへどうぞ」

戸惑っているてる子に理恵子が

愛想良く声をかけ、黒いタイトスカートの形のいい腰つきで

カウンターの椅子を引いた

「いつもの…お願い…」

てる子はちょっと不機嫌そうに言うと

バックから本を取り出し老眼鏡もかけずに

いきなり本を読み始めた…

理恵子は

「かしこまりました」

水を置いてニッコリ微笑み、奥へ戻った

No.272

ザワザワした店の中を眺めると…

30代から40代・50代の主婦達だろうか…

みんな春らしい服を着て、それなりに若くてお洒落だった…

70歳の自分と比較したら世の中の大半の人間は

若いという事になる…

精一杯お化粧をして、気持ちだけでも若返ろうと

それこそ春らしい可愛いスカートもはいてきたのだが

顔や体の劣化は隠しようがない

てる子は、ふーっと小さいため息をついた

さっきまでのウキウキしていた心は

しょんぼりと縮こまってしまった…

No.273

「馬場さんいらっしゃい…モーニング始めましたからよろしくお願いします…」

やがて、ちょび髭マスターが現れ

いつものようにニッコリ微笑んでてる子に頭を下げた

…そうこの顔…

この顔に私は今まで癒されてきたのよ…

だけど、最近あの理恵子という女が現れてからというもの

ちょび髭マスターの笑顔には

どことなく幸せボケがにじみ出ていて

以前のような品格などまるで感じられやしないではないか


50半ばで独り者のマスターには幸せになって欲しいと前々から思っていたが

いざ嫁が来て幸せそうな顔を見ると

ほっとした反面、なんとも言えない一抹の寂しを感じてしまう

それはまるで、大切な息子を嫁にとられたような…


「はい…マスター」
それでも満面の笑みで返事をし

マスターがカウンターへ入ったのを確認すると


てる子はまた本を読み始めた

No.274

「春らしくなってきましたね~」

そう声をかけ、理恵子がてる子の前に珈琲を置いた

常連さんと早く親しくなりたいと思う

前向きな理恵子なのだろうが

てる子は理恵子のまぶしい横顔や、珈琲を置いた白くて長い指先に

若干苛ついてしまった

「…そうね…でもまだ肌寒いわ…」

視線は本から離さず、冷たく応えてしまった…

話しはこれで終わり…

そう判断すると理恵子は頭を下げて

行ってしまった…

…あぁ…

…つまらない事に僻んでしまった

…もうここは、私には、不釣り合いの場所になってきたようだわ…


珈琲を飲み終えると、てる子は早々にレジの前に立った

No.275

理恵子「あら…もうお帰りですか?…」

てる子「ちょっと用事を思い出しましてねェ…あら?…これなんです?」

理恵子「…ポイントカードです…ポイントがいっぱいになったら…珈琲が無料になりますよ…」

…これも理恵子の提案なのだろうか

…これじゃまるで、スーパーか、ドラッグストアみたいじゃないの…


私の知っているメトロはこんなんじゃなかった

川の流れや時代の流れに逆らうわけにはいかないが

自分の知らないうちにメトロもマスターも

変わって行くような気がした…

No.276

お久しぶりです


オヤスミなさい

また明日宜しくお願いします
(*⌒▽⌒*)✋

No.277

てる子が外に出ると、桜の街並みが広がっている

信号手前まで来ると、いつものように

アポロという古いパン屋さんに寄った

嫁に頼まれた厚切りトーストを買うのがメトロから帰る時の習慣だったからだ


だが、今日は、ショーケースの上の、揚げたてのアンドーナツに目が止まって

どうしても食べたくなった

血糖値とコレストロール値が気になり

いつもなら我慢して見て見ぬ振りして帰るのだが

今のてる子は少しモヤモヤしていたせいもあり

…たまに、好きなものを食べて気分をかえなきゃ…

つい3個、買ってしまった

アポロの紙袋を腕にぶら下げて、店員に見送られると

てる子は、また少しだけ元気を取り戻して、歩き出した…

No.278

見ると信号はちょうど青だ

渡り始めた人達から、一足出遅れてしまった

…次の青信号まで待つべきかもしれない

そう思いながらももう足は渡り始めていた

案の定、あっという間に信号は青が点滅し始めた

てる子は走っているつもりなのだが

この年になると、気持ちほど動作は速くない

次々と後ろから来た人に追い越されて行く

てる子は焦るが、二車線分を過ぎ

あとまだ半分という辺りで

とうとう赤に変わってしまった


ブー!

ブー!

停車する車の壁が今にも迫ってきそうだ

…どうしよう


すると…

先に渡り終わった男の人が

小走りに近寄ってきて右手でてる子の手を取ると

左手を大きく掲げ

動きだそうとする車を制止しながら

頭を下げ、てる子の歩行スピードに合わせて

ゆっくり信号を渡り切ってくれた…

No.279

男の顔を見ると

細く剃った眉に、キツい目、見たからに柄の悪そうな若者だった


「ありがとうございます…助かりました…」

てる子は、歩道に顎が着くほど頭を下げた

「いえ…」

若者はそう言うと先を急いでいるのか

すぐに背を向け駅の方へ向かった…

ジーンズの後ろに鎖がぶら下がっているのが見えた

「あのォ…ちょっと…」

てる子の声は人混みに消え

若者の姿も見えなくなった

…もっとちゃんとお礼を言いたかったのに…

…見かけほど、根は悪くない人なのだろう

左手に残る若者の手の感触を感じながら…

…ありがとう

そうてる子はつぶやいた…

No.280


ちょっと嬉しくなって、てる子は家へ向かった



駅近くの商店街を抜けると

街の賑やかさに見過ごされそうな川が流れている

その川沿いの歩道をゆっくり歩いて行き

『七色橋』と書かれた小さい橋を渡り

ちょっとくたびれて近くの公園のベンチに


「ドッコイショ…」
と腰を下ろした

No.281

ふと、左腕に掛けたアポロの紙袋を見て

とんでもない事に気がついた!

あら?…

バックがない!

アポロの紙袋の中には厚切りパンとアンドーナツが入ったビニールの包みが2つ入っているだけで

バックがない

まさか…

盗られた?…

あの若者が?…

親切なふりをして最初からバックを狙っていたのか?…

そういえば、かなり急いでいたし…

でも…違う!

怖そうな顔はしていたが

あの若者が盗んだとはどうしても思いたくはなかった

バックの中身を思い出してみた

小銭入れ、愛読書 老眼鏡に、ハンカチ…


小銭入れは、普段珈琲代とパン代ぐらいしか持ち歩かないから

その残り、2000円ぐらいしか入ってはいないだろう


だが…

ある物がその小銭入れに入っている事を思い出した…

あれだけは無くしたくない…

てる子にとっては大切な物だ…


きっとアポロだ…

前も携帯電話をアポロに忘れた事があった

あれ以来携帯は持ち歩かない事にしていた


そうだ…

今回もきっとアポロに違いない


てる子は来た道を引き返していた…

No.282

息を切らしてアポロに着いた

さっそくさっきの店員さんに尋ねてみると

店員「バックですか?…さぁ見ませんでしたよ…」

てる子「ここでパンを買ってお金を払った時は確かにあったんですけどねぇ…」

店員「どんなバックですか?」

てる子「…紺色の…ほら、Kのイニシャルがついた…カワムラバックですよ」

店員「?…Kの?…カワムラ?…わっははははは…おばあちゃん、それって…キタムラでしょ…アハハハアハハハ…」

店員は客達の前で爆笑している

てる子「……」

客達もクスっと笑っている

店員「何かの勘違いじゃないですか?おばあちゃん……最初から持ってなかったとか?…」

店員は20代くらいの新顔でタヌキの目のような化粧をした女だったが

明らかにてる子を物忘れの激しい老人と小馬鹿にしているようだ

てる子はカチンときた

てる子「私はまだボケちゃいませんよ!…バックから小銭入れを出してパンの代金を払ったんです…お金受け取ったのあなたでしょ…」

てる子は持っていたアポロの袋を見せながら言った

No.283

店員「さぁね…そんな…いちいちお客さんの顔なんて…覚えてられませんからねぇ…」


てる子「…そうですか?…あなたの方がよっぽどボケてますね!…」

てる子のその言葉に客達は笑い出した

店員「店の中で、バックが…ないない!言われたらこっちが疑われているようで、気分悪いんだよ!…無いったら無いの!」

てる子「…あなたじゃ話しにならないわよ!…店長呼びなさい!…」

客達は店員と、てる子を代わる代わる見ている

店員「まったく…もう…ウザイババァだ…もう帰れよ!…」


てる子「…ババァですって?!…私にはね…馬場と言うれっきとした名前があるの!…さっさと店長呼びなさい!」


店員「…はぁ?…ばば?…やっぱりババアじゃねぇか?…まじ…うける!アーハハハハハハ…」


もう話しても無駄だと、てる子は諦めて

居たたまれず店を出た

No.284

…まったくなんて子だろう

あの子を育てた親の顔が見たいものだわ!

イライラ カリカリしながら仕方なくてる子は家に向かった…

…それにしてもバックは一体どこへ消えたのだろう

やはりあの若者だろうか?

まったくこの頃の若いモンは…

なんてそんな事は言いたくはないが…

ついそう思ってしまてる子だった…

No.285

「ただいま~」

家の玄関を開けると玉ねぎを炒めたような香ばしい

いい臭いがして急にお腹がすいた

リビングに顔を出すと

息子の嫁の克子と孫の詩織がお昼を食べていた

克子「あ…あら…おばあちゃんも食べる?チャーハンだけど…」

だが、二人は何か大事な話しでもしていたのか

話しがいきなり途切れたその余韻が、明らかに残っている…

だがそんな気配にお構いなしに

てる子「そうね…私も戴こうかしら…でも少しでいいわ…」

てる子はそう言うとすかさず

ひ孫の寝るベビーベットへ近寄り

その可愛い寝顔を覗き込んだ

てる子「…カリンちゃ~ん」

ひ孫の花凛は去年の暮れに生まれた

日毎に成長し、その反応の愛らしさは見ているだけで

てる子の心を和らげてくれた


思わずそのほっぺに触わろうとすると


詩織「やだ!おばあちゃん…先に手を洗ってよ!…あぁ…もう起きちゃったじゃないの!…」

孫の詩織にキツく一括され…

てる子は思わず手を引っ込めた…

てる子「…あ…そうだったわね~」

てる子はばつ悪そうに、洗面所へ向かった

No.286

孫の詩織は二十歳

東京の某大学の二年生だったが

同じ大学の一年先輩の男と交際して

なんの想像力も予想図も持たないまま

呆気なく妊娠してしまった

彼が大学を卒業し、就職して生活が安定するまで

子供はまだ待てと言う周囲の猛反対を押し切り

せっかくの命を粗末にできない、絶対産みたいと言う詩織に

強引に押し切られるような形で

男と入籍しやがて出産したのだった

だが、大学生の幼い夫は花凛が生まれた時に、その両親と顔を揃えて

バタバタ姿を表し
散々産まれたばかりの花凛を写真に撮りまくった挙げ句

一晩もこの家に泊まる事もなく

またバタバタと日帰りで東京へ戻って行ってしまった

その後、音沙汰無しでもうすぐ半年がたとうとしていた…

克子と詩織がさっき大事な話しをしていたとしたら

おそらくそのはっきりしない、幼い夫やその両親の愚痴だったのだろうと思った

だが、親がついているのに年寄りが出る幕ではないと判断したてる子は

敢えて気づかない振りをしていた

No.287

てる子がリビングに戻ると、詩織が花凛をあやしている

本当は、花凛を抱っこしてほっぺにチュウしたいてる子だったが

前に「虫歯菌がうつる」と詩織に言われた事があった

それ以来てる子は断腸の思いで、チュウは諦めてしまった…

詩織の腕の中でニコニコ微笑む花凛を横目で見ながら

てる子は、克子が支度をしてくれた
チャーハンを味気なく食べ始めた…

克子「おばあちゃん、パン買って来てくれたのね…ありが…あら…これは?」


克子がアポロの紙袋から何かを見つけて言った


てる子「…あ…アンドーナツ買ってきたのよ…三人で食べようと思ってね…詩織もどう?…デザートに…」

克子「…もう…おばあちゃん!…糖尿病でしょ…もう少し考えて下さいよ!…アンドーナツだなんて…まったく…」


てる子「…たまにはいいでしょ…アンドーナツの…一つや2つ…」


克子はてる子を睨むとアンドーナツが入った袋を持って台所へ行ってしまった…


…あぁ…

やっぱり怒られちゃったか…

No.288

てる子は、スプーンでチャーハンを無理やり口に押し込めると


何も言わずにリビングから出て


隣の自分の部屋へ入ってパタンと戸を閉めた


32インチのテレビにスイッチを入れ…


回転椅子に座ると

電気ポットのお湯でお茶を入れて飲んだ


まったくなんてツイてない日だ…


メトロもアポロも…あの横断を助けた若者…消えたバック…それに、ここの家族…


苦い想いだけがてる子の心に残っていた


長生きしても良いことなんかなんにもありゃしない…

仏壇上の夫の写真を見上げて


てる子は大きくため息をついた…

No.289

夜…

ご飯ですよと克子に呼ばれた


息子の則夫は今夜も仕事で遅いのか

まだ帰って来た様子はない

ひ孫の花凛は可愛いが

花凛の父親はいつ二人を迎えに来るのか?

…来ないのか?

詩織は花凛を抱えてこの先どうするのか

…どうなるのか…

時間がたてばたつほどにそんな不安が家族にのしかかっていて

ピリピリとした不穏な空気が流れていた

だが、いつも蚊帳の外のてる子は、そんな家族の様子を

ただ見守る事しかできなかった

てる子「ごちそうさま…」

風呂に入りまた自室に籠もった…

No.290

一眠りしてトイレへ行こうと暗い廊下に出ると

リビングに灯りがついている

息子の則夫が帰って来たのか?

一人で遅い晩御飯でも食べているのかと

リビングの扉に手をかけたが…

則夫「…男だけが悪いわけじゃないだろ!…軽率なのは詩織も同じだ!…詩織にも責任はあるんだ!…」

酔っているのか、普段は温和しい則夫の

荒げた声に驚いて立ちすくんだ…

克子「…それって私の育て方が悪かったって事なんですか?!…」

則夫「…なんでそうなるんだ?…誰もそんな事言ってないだろ!男を見る目が無さ過ぎるって言ってんだ!」

克子「……」

則夫「もう半年だぞ…なにが父親だ!…花凛をたった一度しか見にきてない…アイツ!…重荷になったんだろきっと…」

克子「…向こうは…大学を卒業して就職したら迎えに来るって言ってるんだがら…もう少し待ってみましょうよ…ね…あなた…」

No.291

則夫「…卒業するまで?…フン…あと二年もあるんだぞ!…そのうち新しい女でもできて、別れて下さいって事になるんじゃないのか?!…クソ!…人の娘をなんだと思ってんだ!…」

克子「…まさか…別の女なんて…考え過ぎよあなた!…」


則夫「…もういい!…あんな卑怯な男に大事な娘と孫は渡さん!…一生ここに居ればいいんだ!…俺が食わせてやる!…」


克子「…一生?…まさか…結婚のお祝い…親戚から戴いているし…それにご近所からも…そんな…私…困ります…」

則夫「…世間体なんかどうでも…」

…ふと背後に人の気配を感じて振り返ると

パジャマを着た詩織の後ろ姿があった

階段を静かに駆け上がりすっと消えてしまった

?!…

詩織も聞いていたのだろうか?



息子夫婦の喧嘩に近い会話を途中で聞くのを止め


トイレで用を足して、てる子は部屋へ戻った…

No.292

‘ガチャン'

‘ブル~ン、ダッタッタッ~'

新聞配達のスクーターの音が遠ざかって行く

5時…

カーテンを開けて外を見ると

夜中に雨でも降ったのか道路が黒く濡れていて

窓近くまで伸びた桜の花びらに雫が光っている

ひっそり静かな朝だ

布団に掛けてあった花柄のカーディガンを羽織り

家族を起こさないように庭へ出ると

もう桜が散り始めていた

花びらの石畳を歩いて家の門の郵便受けから

新聞を抜き取ろうとした時だった

視界に人影があった

驚いてその人を見ると、ジーンズに手を突っ込んで立っている若い男がいた

若い男はてる子に近づいて来て、頭を下げた…

湿っぽい薄いジャンバーを着ている

…あ?…

…もしや詩織の彼氏?

いや…夫だ…


てる子「…あなた…たしか英太さん?…だったかしら?…」

英太「はい…ご無沙汰してました…」

眼鏡を人差し指で上にあげて

緊張感が伝わるような声だった

一体いつからここにいたのか?

日光浴などしたことがないような色白の頬


オタクっぽい男とはこんな人の事を言うのだろうと

てる子は思った…

No.293

てる子「…よく来てくれたわね…詩織も待ってるわ…さぁ…中へ入って」

英太を導き中庭から玄関へ向かうてる子だが

英太は立ち止まったまま、後ろを付いて来ない…

…そりゃそうだ、半年も妻子をほったらかしにしていたのだ

ここの家の敷居を跨ぐにはかなりの勇気がいる事だろう

てる子「…まだみんな寝てるから、とにかく…中へ入って…私の部屋で…お茶でものみましょう…」

てる子はにこやかにそう言うと

励ますように英太の肩を軽く叩いた

英太はしぶしぶ玄関へ入り

しんと静まり返った家の中を、

緊張しながらてる子の後に付いて行った

No.294

てる子の部屋に入った

六畳ほどの和室のすみにベッドと古い本棚が置かれ

真ん中にてる子専用の回転椅子がドンと幅をきかせている

一人の部屋なら丁度いい広さなのだろうが

客を招き入れるには少々狭い空間だったかも知れない

英太は椅子に座るてる子を見上げる感じで


テーブルの前にキチンと正座した

やがててる子が大きめの湯飲みにお茶を注ぎ

英太の前に置いたのだが

英太はそれをじっと見つめたまま

何を考えているのか?

石のように動かない…

詩織を迎えに来たものだとつい思ってしまったてる子だったが

この様子だと、あまりいい話しではないのかも知れない…


てる子「…これからどうするの?」

言葉を選べばいいのかもしれないが

せっかちなてる子は沈黙する時間を

もてあまし、いきなり核心を衝いた…

No.295

英太「……」


てる子「…英太さん…あのね…私はご覧の通りの年寄りで…ここの家の中で何が起きているのか…全然知らされない…まるで蚊帳の外…年寄りって本当に損ね…でも…面倒くさくなくていいんだけどね……ホホホ…ホホホ…」


英太は笑うてる子を見ながら

両手を暖めるように湯飲みを包んだ

てる子「…だから…私にはなんでも言っていいのよ…あなたの立場が悪くなることは誰にも言わないから…」

てる子は人差し指を鼻のあたまに当てて…

またホホホホホ…と笑った

そんなてる子にいくらか緊張が緩んだのか

英太「…俺…分からなくなったんです…」


思いがけず英太が話し出した

No.296

てる子「え?…なにが?…分からないの?…」


英太「…このまま結婚していいかどうか…です…」


今この時に?

なんて次元の違う稚拙な事を言うのだろう

…まったく近頃の若い奴は…と


呆れていた…


てる子「…でも…英太さんはもう…父親でしょ?…あなたの子供がここの二階にいるのよ…あの二人をあなたはこれから…どうするつもりなの?…」

英太「……」


てる子「…詩織の事は?…詩織を愛してないの?…嫌いになったの?」

英太「…詩織の事は愛しています…」


てる子「…花凛は?花凛を可愛いいと思わないの?…愛情はないの?…」


英太「……」


またしても英太は石になった

No.297

…怒ってはいけない

…ここは、冷静に英太の気持ちをきかなければ


てる子「…まだ若いから…自信がないのはよく分かるわよ…でも…経済的な事なら…なんとか…」


英太「…あの…実は…」


てる子「…なに?…」


英太「…花凛は…僕の子じゃないんです…」



てる子「…え?!…」


英太は普通に穏やかにそう言った


…花凛は英太の子じゃない?!…

…まさか!!

…そんな事があっていいのだろうか?…

耳を疑う信じられない言葉をてる子は聞いた…

No.298

頭がグルングルンと渦巻いている

年のせいか英太の言葉を飲み込むのに時間がかかった

が…

まだ痴呆ではない

てる子「…その事を知ってるのは?…詩織と英太さんと?」

英太「…おばぁちゃんです…」

…わ…私?

家族の蚊帳の外の自分が、こんな衝撃的な事実を知ってしまって

いいのだろうか…

久し振りに緊張していた

<しっかりしろてる子!!…>


てる子「…でも……どいいう意味なの?…花凛があなたの子供じゃないなんて?…」


英太「…すみません…」


てる子「…でも…戸籍上は詩織とあなたは夫婦で、花凛はあなたの子供になってるんじゃないの…」

英太「…はい…詩織には、花凛を産むために籍が必要だと思って…俺が…」

てる子「…はぁ?詩織が英太さんに頼んだの?」

英太「…いえ…父親になるって…言ったのは俺の方です…」

No.299

てる子「……花凛の本当の父親は?…」


英太「…相手は詩織や俺と同じ大学のサークル仲間です…」

てる子「……」


英太「…詩織さんは俺の友達のAと付き合っていて…」

てる子「…」

英太「…ある日、Aから詩織さんが妊娠したって聞きました…」

てる子「…それで?…」

英太「…Aに結婚の意志はなくて…その…詩織さんに子供を…中絶してくれるように…お金を渡して頼んだらしいです…Aは最低な奴です!…」

てる子「…なんてこと…」

英太「…ある日…サークルの打ち上げがあったんですが、詩織さんが来なくて…携帯も繋がらなくて…俺…なんか嫌な予感がして…詩織さんを探しました…」

てる子「…?…」

英太「…詩織さんは踏み切りに立っていて、電車に飛び込む寸前でした…」

No.300

てる子「…え?!…」

英太「…詩織さん…授かった命を殺す事はできない…だから…自分も一緒に死のうと思ったって言いました…」


てる子「…なんてことを…」

英太「…俺…詩織さんの事が…前から好きでした…だから…結婚して…子供のために籍を入れよう…俺が父親になるって…」


てる子「…ウウウウ…英太さん…ありがとう……ウウウウ…」

てる子は、溢れる涙をティッシュで押さえた

だが…


英太「…それが…」

てる子「…ん?!…」


英太「…花凛が生まれたら…事の重大さに…その…怖くなって…」

てる子「…はぁ?…」

英太「…自分の子でもないのに…花凛を愛せるのか…自信がなくなって…」

てる子「…?」

英太「…俺まだ…大学生だし…21歳だし…」


てる子「…だし?!…」


英太「…将来の夢や…まだやりたい事もあるし…」

てる子「…あるし?……」

英太「……」


てる子「…つまり…面倒臭くなったって事ですか?…」

英太「…面倒臭くなったなんて言い方しないで…下さい…あの時は本心でそう思ったんです…」


呆れた…

産む事も…死ぬ事も…簡単に考えすぎる詩織…

…子供の親になるって安易に約束して今更後悔しているアホな英太…

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