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彼氏と分かり合えない。納得できない
🍀語りあかそうの里🍀1️⃣0️⃣
親が会社に挨拶、、

オトナの孤独

レス137 HIT数 29681 あ+ あ-

名無し
15/02/27 19:52(更新日時)

フリーデザイナーをやりながら
夜はスナックでオヤジをからかい、酒を浴びる女と

ひょっこり現れて、大金を落としていく不思議な男。

つながりなんかなかった筈だった。

老女がつなぐ、奇妙な縁とその終わりまで。

No.1882787 12/11/29 11:22(スレ作成日時)

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No.1 12/11/29 11:38
名無し0 

飼い犬のチワワの「としお」が、空になった餌皿をカンカンと足で鳴らす。
私はその音に、キーボードを打つ手を止めた。
壁がけの時計に目をやると、20時が過ぎていた。

朝から取りかかった仕事に追われ、気がついたら夜。
犬のご飯は18時なので、二時間もとしおは待たされたことになる。
「あ、ごめんね、ごめんね」
私は席を立ち、としおの餌皿を台所に運ぶ。

としおはチョコマかと、催促するようについてくる。
冷凍した玄米と鶏肉をレンジにかけながら、
湯をわかし、キャベツを茹でる。

『涙やけが気になるんだから絶対フードは手作りにしろよ』

最近別れ、家を出て行った男の残した犬のとしお。
愛犬すら置いていく男の行き先は知らないが、
愛情こそあるものの、ドッグフードを食べてくれたらいいのに、と
仕事がたてこむと、どうしても思ってしまうのだ。

玄米、鶏肉をレンジから出し、ざるにあげ冷水にさらす。
そこにゆでたキャベツを加える。
ちょうどいい温度になるまで、餌皿にいれてさます。

「もうちょっと待って。。そんなに見てると首疲れるよ?」
上を向いて、私の動向をみつめるとしお。
私は換気扇をつけ、そのままタバコに火をつけた。

『犬のために、タバコやめろよ』

男の言葉を思い出す。
犬、犬って。
子供できたときに、堕胎の選択を迫っておきながら、どうして?

男のバランスの悪い自己愛に、今は腹も何もたたない。
ただ、自分という女の無価値を思い知る、そんな数秒間の心の陰になっている。

来月の12月で私は出産をしていたのだろう。
産む決意とは裏腹に、私は流産をむかえた。
そして、男も去っていった。

『俺より稼ぎがいいから、一人でどうせ生きていく気なんだろう?』
卑屈で、面倒な男だったが、
私より一回りも上だった。
そして、それでも必要だったのだ。

タバコを吸い終えて、水道で火を消す。
こんな思いに捕われるのは、決まって生理前だ

No.2 12/11/29 11:46
名無し0 

>> 1 「んん、くんんー」
としおがかわいく切ない声を出す。
私はこの声が大好きだったりする。

まっすぐに甘えて求めて。
そして純粋なまっくろな瞳の犬。

私は餌皿のそれらの温度を指で確認し、
としおの目の前におろした。

そのまま食べさせてあげたいほど、
待たせてしまったのにもかかわらず、

としおは自ら「おて」の手を差し出す。

「おて」「おかわり」「ふせ」
その儀式を終えて、としおは食べ始めた。

この一連の芸は、男が仕込んだものだ。
その教育熱心な様子を、見ているのは好きだった。

(悪いやつじゃないんだよな)と、何度も思うことができた。

働かない
趣味に金をかける
理想論ばかり並べる
三十半ば

その条件でも、そう思えたが、
「自分のために考えると、無条件に悪いやつだ」
その決断を5年もかけてしまった。

そう、私はひも体質なのだと思う。

男が働かなければ二倍働こう、
ともに生きていくために‥
ただそう思うのだ。

相手を責めて生きるのが面倒、だから。

5年も離れられずに依存しているようで、
すべて面倒だったのでは、
26歳にさしかかる、私はふと思う。

No.3 12/11/29 11:53
名無し0 

時計は20時半にさしかかる。

パソコンのモニターをみつめ、遠目にレイアウトを確認する。
コンペ用のウェブデザインの提出まで、あと2日。

ざっくりとしかわからないが、
どうやら先物取り引きの会社らしい、

信用と革新、そして暖かみのある感じで、を打ち合わせで把握したが、
金銭の取引やリスク、そしてグレーな匂いのする金融関係の仕事は
ギャラこそ悪くはないが、自分の「ブック」といえるデザイナーの経歴には
あんまり入れたくはない。

ま、生きていくのだ。
デザイナーは肉体労働、時間を削り、
眼精疲労と腱鞘炎と戦い、
時間というストレスとともにギャラを得る。

もう、夢は見ていないが、
そこそこ楽しめる化粧品関係の仕事もある。
バランスをとって、やるほかないのだ。

そして、副業である水商売が
私を支えている。

No.4 12/11/29 12:04
名無し0 

としおが食べ終えぬうちに、
シャワーを浴びる。

何着ていくか、ぼーっと考える。
二十歳でーす、な若さはないから、
いつもロングドレスを選ぶが、
ちょっと店で浮くのだ。

ミニのドレスか、
ワンピース、そんな感じの多いお店なのだ。
ラウンジ?クラブ?そんな店。

1年前に、フリーとなり構えた事務所から
2駅先の繁華街にあるその店は、
ちょっとした老舗であり、くせの多い客が多かった。

24歳で銀座のクラブを辞めて、それなりの客層で商売していた身としては、
くせが多く、「銀座は接待、場所を楽しみ」「地元では彼女候補の女子を」と、考える中年男性が通う、それが私の今の勤務先だ。

それでも私は、今の店が気に入っている。
接客なんてものはなく、
女が客前でタバコを吸い、好きに出前をとり、
商売根性のあるママが次々にボトルを空けていく。
なんて無法地帯なんだと思いながらも、
部室のような、中年サークルのような
アットホームなその店が、私は好きだった。

No.5 12/11/29 12:17
名無し0 

>> 4 シャワーを終えて、化粧をする。
裸にバスタオルを巻いたまま、ソファーにかけている。

そして、出勤前なのでビールを飲みながら。

私は人見知りなので、素面だとオシャベリが出来ない。
そして、一人で仕事をしていると、他人と喋らぬまま夜を迎える。

だが、お酒の力は偉大で、
その時の気分にあったキャラの気分で話すことができる。

最近の定番が、
新規客には「オネェ系」で叱っていぢって、
リピーターには「真面目な政治経済も話せるしっかりもの」となり、
更なる固定客には「本当はドM」と、段階を分けて話すことが心地よい。

「失礼で楽しめる女」
「この子は頭の回転が速い」
「この子は放っといたら悪い男にひっかかる」
そのステップでつながると、割合商売女としては重宝される。

そして、恋愛関係になりにくい。

50代中年にとっては、娘的ポジションの地位を確立すると、
デザイナーの仕事もまわしてくれたり、
本当に食事だけの関係でいてくれてり、
お店的にもきれいにお金を使ってくれるのだ。

携帯を確認しながら、メイクを続ける。
ベースメイクは店内が暗いからほぼしない。
風呂上がりのそのままの肌のが、皺も目立たない。
パウダーが浮いている肌のが年齢を際立たせる。

きわめて色を使わない、ブラウン系のシャドウと
ベージュ系のグロスを塗り、茶系のつけまつげを下だけつける。

もうすぐ21時。
送迎のタクシーがくる頃だった。

No.6 12/11/29 12:28
名無し0 

>> 5 知人のタクシーの運転手は、
岡田良昭、32歳。
自分の縄張りだから、と
送迎料金は無料、どこまでも1メーターで乗せてくれる。

昔、何度か体の関係はもった。

細身の体の男で、驚くほど射精が早い。
酔った勢いでしたとはいえ、思わずお互い笑ってしまうほどだった。

それからは、セックス抜きのデートのほうが多かった。
そもそも淡白なタイプだったのと、
一度すれば、それなりに気持ちが満たされるのだと思う。

岡田は、無職の男と付き合い養い続ける私を、
いつも暖かく見守ってくれている(と思う)そういう存在だった。

それを壊したくないので、
彼と別れたことも、出て行ったことも告げていない。

男がいないとなって、家に上がられるのも面倒なのだ。

「あ、岡田さん?」
「ついてるよー」
岡田は着くと携帯を鳴らしてくれる。
チャイムは、犬が吠えるので、気を遣ってくれているのだろう。

裸のままの私は、黒に白いバラの模様のドレスを着て、
その上に大きな男物の黒いパーカーを着込む。
この、ミスマッチの格好が大好きだ。

制服のスカートにジャージみたいな、そんな感じ。

自分でも思うが、かわった女だと思う。
どこか摩訶不思議なバランスが好きだ。

どこか、頭がゆるいのだ。

No.7 12/11/29 12:32
名無し0 

>> 6 岡田の待つタクシーに向かう。
としおはご飯を食べたら、おそらくガムをかんで
噛み疲れて眠るだろう。

チワワは飼ったのがはじめてだが、
極めて猫に似ていると思う。

ただ、男の居た頃のように、あまり遊んであげていない。
そこだけが、じわっと苦しくもある。

親が離婚し、父に会えなくなった。。としおとしてはそうだろう。
しかし、定期的に会うことも、おそらく二度と会うことはないので、
としおは可哀想だと思う。

私はヒールの高いパンプスと鞄を持ち、
急いでタクシーへと乗った。

No.8 12/11/29 12:49
名無し0 

>> 7 「お待たせしました。待たせてすいません」
「なんか、髪濡れてない?」
「ああ、忘れてた。髪なんにもしてないや」
「ひろみちゃんさ、徹夜明け?」
「徹夜明けっていうか、結構ぶっ通しで起きてたかも」
「ボケてるね〜風邪ひかないでね」

岡田はさりげなく、暖房を強めた。

「ひろみちゃん今日は何時まで?」
「今日は、3時までかな?」
「アフターは?」
「ないんじゃないかな〜それに仕事あるから、今日は真面目に帰るかも」
「(笑)そうですか。ま、俺は朝までやるから、適当に電話してよ」
「はい。ありがとうございます」
「そういえばさ、おめでとう?だね」
「なにがですか?」
「彼氏、働きだしたんだね」

何それ。
どっぷりニートしていたあいつが?

「岡田さん、それ間違いじゃないですか??」
「俺さ、何度か顔みただけだけど、ネームプレートが高田だったから」
「えぇ〜」
「うそ、ひろみちゃん知らなかったの?」
「はい。全然。あいつ何やってるんです?」
「パチンコのホールやってたよ」
「えぇ〜!!あいつギャンブル知らないと思うけど」
「あはは。まあ時給も悪くないからね。ひろみちゃんに内緒で
 クリスマスの準備でもしてくれてるとかじゃないの??」
「そーんなキャラじゃないですよ。。5年もろくに何ももらってないのに」
「彼からのプレゼントで、一番高かったもの何?」
岡田の質問に、途方にくれた。
そして高速な走馬灯状態の脳が、回答を見つけ出した。
「あの、電球です。。長持ちのやつ。あ、肉球クリームかも。。あれは犬へか。じゃあ、電球です」
岡田は運転しながらも爆笑する。
「本当、ネタとしては最高だね〜彼は。
 でもそろそろひろみちゃんも別れなよ?もうそろそろしっかりとさ〜ね、
 する年齢かもしれませんよ?」
「タクシードライバーの岡田さんに言われるとなぁ」
「ま、近いうち飲もうぜ」

岡田は店の前に車をつけてくれ、
そして私は1000円を支払う。
710円なのに、おつりはいつも300円。

そして、必ず「ヤクルト」をくれる。
岡田がどこかでもらったものだろう。

「胃を大事にしなさいよ?あ、腸か?」
「ありがとうございます」

ほのぼのとした話題で車を降りた。
裏腹に、彼が働きだした事実に狼狽を隠しきれない私がいた。

No.9 12/11/29 12:54
名無し0 

>> 8 生きる意欲なんて感じることのできない、
そんなあいつがなんで働きだした??

新しい女を食わすため?
真剣に将来を考えたから??

私が、やっぱりダメにしていたってこと?
ダメなやつだから、救ってたわけじゃなくて
やっぱりダメにしていたってこと??

ああ、なんて非効率な男を選んでしまったのだろう。
ガソリンを注いだところで働かず、廃車手続きをしてオブジェにしていた
車が、
急にハイブリッドカーに生まれ変わって働きだしたような、そんな感じ。

今までの私の努力はなんだろう。
努力、でもないけど。

間違っていたのだ。
所詮、二十代の無知な娘だ。

「もー飲まなきゃやってられん」
思わず声に出してしまい、店の扉を開けた。

No.10 12/11/29 13:14
名無し0 

>> 9 店内はお客が3組。

ボックス席が5つとカウンターが8席の店。
今ひとつ盛り上がりにかけた。

「おはようございまーす」
着物姿のママに挨拶をする。
「あんた、その男物着てくるのやめなさいよ〜」
「これあったかいんですよ〜」
「下にドレスって、本当にめちゃくちゃな娘だよっ」
にやにやとからかうママ。
「すぐに、岩下さんとこついたげて。リリちゃん、喋れないから」
「りりちゃんて、韓国ですっけ、中国ですっけ?」
「りりはー、韓国かな?覚えてないわ」
ままは基本女の子に干渉もしないが、管理もゆるい。
下半身のだらしない女が客と寝て、店を辞めて引っ張ったところで、
なんの文句も言わない。

「それまでの女で、それまでの客」
ままは、スパッと男前ではあるのだが、
店の評判や売り上げを考えると、いささかその管理は疑問に思う。
どこか景気のいい時代のままの、頭でいるところがある。

働いている身としては、やりやすいのではあるが、
店として考えると、少々心配でもある。

「ひろみ、あんた髪濡れてる?」
私は髪をまとめ、クリップでとめただけの頭である。
「うん。湯上がりサービス的なね」
「適当なこといって、さっさと飲んできなさい」
私は瓶ビールをカウンターから引っ張りだし、奥のボックスに座る
岩下という客についた。

「どうも。ひろみでーす。勝手にいただきますね〜」
「ひろみちゃん〜ご挨拶だねぇ」
韓国人のりりちゃんは、そんな会話もわからずニコニコしている。
リリちゃんは、多分、35歳くらいであろうか。
韓国人だが、とても和風な顔立ちはしていて、寅さんのさくらにそっくりだ。

なのに、日本語は無理なのね。。
「岩下さん、明日死ぬかもしれないのに、飲むしかないよ〜風呂上がりなのよ私」
「ひろみちゃん、手酌は辞めなさい!」
「いーよビールなんだから、じゃあシャンパンにする?」
岩下は笑う。
不動産業をしていて、自分でも株をやっているとかで、
まあいい時はお金をそこそこいとめなく使う。
「もお、じゃあいいよ、一本だして」
「おお、ピンク?」
「白だよ、白!!」
岩下の慌てぶりがかわいい。

最初の席からシャンパン。
炭酸嫌いな私にとっては胃は不愉快ではあるのだが、
客に金を使わすことは、とても愉快。

「岩下さん、まー白で許してあげるよ」
ドンペリの白は3万、
ピンクは7万である。

普通のサラリーマンが酔って開けようとしても、私は断る。
「酒代ごときに生活もっていかれちゃだめ」と、諭す。
岩下のような場合のみ、強気に出てからかう。

懐具合を心配することのない、そんな客が大好きだ。
「ままードン白入りましたよ!」
「ひろみ!死ぬほど飲ませてもらいな!」

景気のよい、一日になりそうだった。
そう、あいつの就職祝いかな。。

No.11 12/11/29 13:23
名無し0 

>> 10 私はドンペリを空ける。

「ままー梅干しください」
シャンパングラスに、シャンパンを注いでいく。
泡立ちのいいシャンパンが注がれていく。
岩下は「俺はいいや、おならが止まらないんだ」と、かわいく辞退する。

たしかに、シャンパンは、おならもげっぷもでやすくなる。
そんな、地味なリスクを背負った高貴なお酒である。

私は注いだグラスの中に、梅干しを1粒いれる。

グラスの中では、化学反応のように勢いよく炭酸が上がる。
そして、割り箸で梅干しをつぶさないように、グラス内をかき混ぜる。

「ひろみちゃん、焼酎じゃないんだから」
「こーすると炭酸ぬけるのよ」

銀座のクラブでは、オレンジジュースを使うけど
私は梅干しが好きだ。

せっかく高いお酒を、酎ハイのように取り扱う、ひどい女ではあるが
その様子が滑稽なようで、岩下は笑っている。

笑えるのなら、いいのだ。
そして「ひどい女がいてさ〜かわってるのよ」と、どこかの話の肴になるだろう。

「かんぱーい。いただきまーす」
りりちゃんは、不思議そうに笑いながら、グラスを持った。

そうだよね。誰も誕生日じゃないもんね。
何もお祝いする要素ないけど、やってられないのよ。私が。。

No.12 12/11/29 13:36
名無し0 

>> 11 その日の私は、昔の銀座のままに見せよう物なら、
その場で説教されるか、
お金渡されて「帰れ」といわれるほど、ひどいものだった。

岩下からドンペリ、そして「シャンパン嫌いなんだよ」と暴言を吐き、
吉四六を1本おろす。そこで飲みつつ、女子大生のかわいい美奈ちゃんと席をかわり、

その後初老の義之さんのチャンスボトルのヘネシーを空け
(チャンスボトルは、普通なら底から4センチくらいの残量だが、私の場合は
半分切ったらチャンスボトル)

「別れても好きな人」を二回も歌い(しかも自発的に。客にデュエット要求)
ネガティブキャンペーンかのごとく、恋人よ、わかってください、などなど、
暗い歌しか歌わなかった。

「どうしたの?」と聞いてほしいかまってチャンにしか見えない
その狂気な私を、客たちは笑いながら拍手を送った。

「ひろみちゃん失恋だね〜?」
「あんただって、奥さんと最近いつやった??」
「も−10年してねーよ」

客をあんた呼ばわりしながら、好き放題に飲む。

男が出て行っても、正直あんまり何も感じなかった。
泣きもしなかった。
「ああ。終われた」って思った。

だけど、働いてるって聞いて、それが本当に「終わり」だった。

もう、私が居なくても
私が居ない方が

彼は、彼の人生になっていくんだ。

「あなたに手紙を書きます。
 涙で文字が滲んでいたなら、わかってください」
その歌詞が、いっそう酔った悲劇の馬鹿女を加速させる。

もう、涙声だった。

No.13 12/11/29 13:50
名無し0 

>> 12 カウンターの客にマイクを渡し、
「とりあえず、一回ビールで休憩」と、瓶ビールを出す。

ままが呆れて
「ひろみ、それどこのお会計につけるのよ」
と、私にまともな言葉をぶつける。飲むのはもうよせということか。

「いいよ、僕で」
カウンターに座った、帽子をかぶったままの男が笑った。
格闘家のような、ごつい上半身。
そして、顔は無邪気だった。
「ねえ、放送作家の、なんとかおさむに似てる!」
私はカウンターの隣にかける。

「君は失礼な子だね。似てないよ」
客のボトルは響に吉四六だった。
ボトルネームを確認する。

「福」とだけ書かれたボトル。

「福さん?あなた七福神の一味?」
「きみ、頭の中沸いてるの?」
「まーいいや、ビールいただきますよ」
相変わらず手酌の私から、ビールを取り
グラスに注いでくれた。

「君は自分に酔えて楽しそうだね」
福の言葉にむっとした。
酔っぱらいに図星を言ってはいけない、と思う。

「たまにはいいじゃないですか」
「いいと思うよ。おおいにガスを抜きなさいな」

福は笑う。
何を考えてるのかわからない、そんなオヤジだと思った。

「君は本当は何が好きなの?」
「本当は?」
「お酒」
「ああ、焼酎が一番好きだけどお金にならないんで、茶色いお酒をいただきますよ」
私はビールを飲み終えると、響に手をかけた。
「吉四六はいくら?」
「5000円です」
「まま、吉四六10本入れてあげて」
「福ちゃん〜いいの?そんなに入れて、どうせ来ないんでしょ?」
「いつくるかわからないけど、この子の売り上げにしてあげて」

ままが笑っている。
「福ちゃん、ひろみはじめてでしょ?」
「ああ。ちょっと変わった子だね」
ままは伝票に、吉四六×正 正 と書いた。

冗談では、なかったようだ。

No.14 12/11/29 14:02
名無し0 

>> 13 福という男の身なりは、シャツにダウンのベスト、チノパン。
だけど、肌の感じでいうと、40代は必ずいってるし、
顔の感じだけど、妙な悟りを開いたような、
それでいて、Vシネマの極道のボスのような落ち着きがある。

怖い男だな。

「ひろみちゃんはいくつなの?」
「26ですね」
「あぁ、じゃあダメだ」
「何がですか?若い子がいいんですか?」
「まあ、顔が老けてるからいいか。ブスだし」
福はククッと笑う。
「ブスにブスっていっちゃだめですよ」
「だってブスだから」
「あんたの顔も大概ですけど」
「僕はモテるもん」

それは、金だろ!
とは言えなかった。なんか、私も笑ってしまった。

「まま、今日この子借りてもいい?」
「いいわよ。もう腎臓でも肝臓でもあげるわよ」

ままは絶対こういう時は「うちはそんな店じゃないんだよ!」って
怒るのに、
この福は特別なの?
お金持ちでもそうじゃなくても、この手の話は怒るのに。
女の子守るのにさ、なんで??

福、不能??

私は本当に、口をぽかんと空けてしまった。

服はポケットから、マネークリップの分厚い札束を出すと、
7万円を置いた。
「場末のスナックに七万て。。。」
思わず言葉に出る。
「あんた、お金の使い方知らないの?」
福はまた、私を見下ろして笑う。

「女の子、7人か」
そしてさらに七万私に持たせる。
「タクシー代、配ってあげてね」

私は七万にむかってつぶやく。
「これは、黒いお金ですか??」
福は笑う。
「お金はお金です」

No.15 12/11/29 14:06
名無し0 

>> 14 福からのお金を、タクシー代として店の子に配った。
そんなことをする客はいないので、
驚く子もいれば、
古くからの子は
「ふくチャーン」と、手を振っていた。

福とは、何者なのだろう。
そして、今から中抜けするなんて、どうしよう。

「ひろみ、上がっていいよ」
時刻は1時だった。中抜けではなくアフター??

厄介なことになった。
断れる状況も理由もないし、
何より私は、

根っこはドMなのだ。

逆らうことなど、ないのだ。

No.16 12/11/29 14:14
名無し0 

>> 15 私は、ままに注意されたパーカーを羽織る。
今日は普通のコートを着てくればよかったと、少々後悔する。

「君なにその、、劇団員みたいな恰好」
福はとても顔をしかめている。そしてため息までついている。
「恥ずかしい恰好してるねえ」

ままの時のように言い返せなかった。
ドレスに大きなパーカーは、出番待ちの劇団員と言われても、
そう遠くはない。

「まま、タクシー呼んで」
「もう呼んであるわよ」

にっこりと笑うままと福。
「ひろみ、ちょっと」

ままはカウンター越しから私にささやく。
「福ちゃんは10年来のお客様で、あんまり来ないけど、一番お金使うの。
だけど、同伴もアフターもしたこともないの。この町の女はだーれも。
あんた、宝くじの真ん中くらいには当たってるわよ」

真ん中って何よ。
だからって一発やるの??

「大丈夫、福ちゃんなら」

ままの笑いは止まる。
私の顔は不安そうだったのか、それとも

恐いもの見たさにあふれた、好奇心でいっぱいだったのか、
どっちだったのだろう。

私と福は、
日本交通のタクシーに乗り込み、店を後にした。

No.17 12/11/29 14:26
名無し0 

「ねえ、そのダサイのいやなんだけど」
「この寒いのに、ドレスだけになれっていうんです?」
「ドレスはよく似合っていました。でも、その上着はいやだ」
福はどうしても気に食わないようだ。
「今何時?」
福は金持ちの割に、時計はしていない。
「時計ないんですか?今は一時前です」
「時計はね、腕がくさーくなるでしょ」
「加齢臭ではなくて?」
「いい口答えだね。運転手さんさ、恵比寿にむかって」
「は??」
恵比寿は、
およそ4000円圏内の場所だった。

このオヤジ、おされぶったバーにでも連れて行く気なのだろうか。
そこまで張り切ってもらわなくても、いいんですけど。
むしろあんまり、家から離れたくないんですけど。

「恵比寿、好きなんですか?」
「恵比寿は昔会社があってね。ちょこっと詳しい」
「へえ」
「僕ね、10年前に、この町にきたの。名古屋から」
「えびふりゃーの」
「そうそう。くいてーな。運転手さん、タバコダメだよね?」
運転手は「ダメです。すいません」と謝る。

名古屋、
みそかつ、ひつまぶし、あんかけパスタ、手羽先。
人柄については、なんのデータも出てこない。

「福さんていうんですか?」
「福に満でふくみつ、いい名前でしょ」
「昔、金満福っていましたよね?」
「もう、君うるさい」
そして、窓を少し空けてタバコに火をつけた。
「一樹っていうから、かずきちゃんて呼んでね」
「あの、タバコ」
「ああ、無意識だわ。運転手さんごめん。一本だけ吸うね」
運転手は無言であった。

なんだろう、この
ガタイのでかい、それでいてふわふわとした

妖精さんのような、つかめない感じ。

No.18 12/11/29 14:35
名無し0 

>> 17 恵比寿付近で、運転手に道を案内する福。
あんまり酔っていないのだろうか??

道が入り組んでいる上、
シャンパンによる膨満感、
ビールによる尿意、
様々に複雑に入り組んだストレスを抱え、早く見せに着くことを願った。

ようやく店に着く頃、
メーターは5200円となっていた。

福は一万円を出し、
「タバコごめんね、おつりいいから」

と、運転手に渡していた。
そして、1000円取り出して
「すぐそこ曲がったところにラーメン屋あるから、
ぜひ食べてほしいの、運転手さん、ね」と、
妙な金銭の授与をおこなっていた。

この人にとって、円とはウォンなのか??

不思議な金銭感覚に捕われるものの、
ついた店は、飲み屋でもなんでもない、
こじんまりとしたセレクトショップだった。

当然、店のウィンドウには明かりがついているものの、
店は開いていない。
彼は携帯で誰かに電話をかけているようだった。

そして、その携帯はまぎれもなく

「らくらくフォン」だった。。。

この男のギャグセンス、かまって根性はなんだ??

No.19 12/11/29 14:47
名無し0 

>> 18 福は楽々フォンで、誰かと話し終えた。

二分ほどして、セレクトショップから細身の男性が出てくる。
「もお福ちゃん、おひさしぶりねえ、こんな時間に」
男性は、まぎれもない男性なのだが、
オネエさんだった。

「ちょっとこの子、ひろみちゃん」
「まーダサイ子!なんなの〜」
「そうなの。困ってるから。なんか洋服出して」

福とおねえは、キャッキャッと店へと入っていく。

「あの、お手洗い、いいですか?」
「いやーんも、図々しい女ねぇ、こっちよ〜」
店の奥にある階段を上がると、おねえの自宅のようだった。
ピンクの扉を空けると、そこにはヒョウ柄でアレンジされたトイレがあった。

「落ち着かない。。」
便座に腰を下ろし、我慢していた尿意が満たされた。

「あたし、どうなるんだろう」

私携帯を確認すると、岡田からメールが入っていた。

「今日は何時?おれちょっと遠距離はいって難しいかも。
 ちなみに、彼氏のパチンコは五反田の〜」

私は返信をする。
「私もアフターだから、いいよ!自分で帰れます。ありがとう」

世の中、すべてなるようにまわっている。
岡田も今日は来れなかったといっている。

福が名前通りにいい、神のような
初めてあった女に、洋服を見繕うような、足長おじさんであり、
そして紳士で(不能で)

ヤケを起こした私を見守る、父のような深い慈悲のあるお方なのだろうか。

「ちょっと〜長いわよ!!人ん家でうんこしないで!!!」

おねえが笑いながら叫んでいる。
「はやく服みてちょうだい!!」

便秘の私に(関係ないか)ゾンザイな言葉ではあるが、
私はトイレを流した。

No.20 12/11/29 15:02
名無し0 

>> 19 下におりると、何パターンかコーディネイトが出来上がっていたが、
そのどれもが、
ガッチャガッチャとした柄物が入ったものばかりだった。

私は、そもそも地味な服が好きだ。
黒でまとめておいて、小物や靴だけ色を使う、刺し色のような
アクセントで遊ぶことはしても、

ヒョウ柄なんて、買ったことはないし。
紫なんて着たことはない。

見渡す限り、この店ではないような気がする。
とってもポップなのだ。

「あーの、わたし顔が。。」
「地味よね」
「ぶすだもんねぇ」

二人は容赦ない言葉をあびせる。

自分と親を擁護するけど、美人ではないけど
そんなに一日中人からブスと言われんキャいけないほどの代物ではない。

「こんな派手なのは無理です」

服は、ダメージデニムのショートパンツに、
チューブトップのヒョウ柄、
そしてその上から羽織る白いオーバーシャツを出した。
「寒いから、タイツは?」
福が言うと、おねえはショッキングピンクや紫のタイツを出してくるが、
福は、いやいやと笑って
「黒の普通のやつでいいよ」
そして、キャメル色の、ヒールの裏地が可愛い感じのブーティーを選んだ。

中のチューブトップこそ気に入らないが、これはまあ許容範囲だ。
そして、福はチャコールグレーのファーのついたシンプルなダウンを選んだ。

「あ、それはかわいい」
私は素直にそれをほめた。
「コートかえない貧乏なんだから、しょうがないよね」

福はその他にも、何点かニットを選び、
先ほどのコーディネイトを私に着替えさせた。

「福ちゃん、合わせてこれくらい〜」
「はいはい」
着替えの最中、お会計をしているようだった。

正直、趣味とは反しているが、
ヨーロッパのインポートという感じだった。
生地もしっかりしているし、靴は「クリスチャン•ルブタン」

相当なお会計の模様。

店で14万、タクシー1万、
おそらくこの店で20万。。

日本の消費経済を活気づける男なのだと、

知人レベルならいいけど、
もし恋人ならゾッとするわ、と勝手ながらに思った。

No.21 12/11/29 15:12
名無し0 

>> 20 私はショートのデニムに足を入れるも、小さいことに気づく。

私は足だけ見ると細そうなんだが、尻が残念なほどデカイのだ。
「あの、ちょっと」
試着質から、おねえを呼ぶも、
福が入ってきてしまう。
「それ、パンパン。。お尻でかいね」
福はそういうと、私の着替え中を鼻で笑い、おねえを寄越した。

「もーこれ以上大きいのはこれよ?
 うちの着るなら痩せてくれるかしら??」

おねえは一つ上のサイズを持ってきてくれ、
私はようやく着替えをおえた。
そんな悪戦苦闘している横で、おねえはドレスを紙袋にまとめる。

「福ちゃんが若い子連れてくるのはじめてよ〜」

ぼそっとおねえは笑う。
「ま、またうちの服が着たいって、売り込んどいてよ?こんな真夜中にきたんだからさ」

試着室を片付けると、紙袋は合わせて3つになっていた。

どうせお金を使うなら、ほかのブランドで買ってほしかったとは思うけど、
ヒョウ柄が少しでも少ないことを、謙虚に願った。

そう、私は電球以上のものを、
この5年買ってもらえなかった。

そういう女なのだ。

物をもらうことの遠慮やくすぐったさ、どうしよう、
そんな気持ちでいっぱいだったが、

(欲しくない物をもらう)というこの状況が
心持ち、受け取ることが楽だと思った。

本当に欲しい物を、
与えてほしくない。

私はどうしても、そう考えてしまうから。

No.22 12/11/29 15:21
名無し0 

>> 21 「こんなに、すいません(派手な服を)」
「いーえー。さあいくよ」

福はまたも店の前でタクシーを拾うと、それは先ほどの運転手だった。
「運転手さん、ラーメン食べた??」
「すいません、ちょうど休憩で、さっきいただきました」
「あそこ、ラーメンはいまいちだけどチャーハンが好きなのよ」
あんた、ラーメン食えっていったよな、、、と毒を吐くも
運転手はハハ、、と笑っている。

「さっき乗った方まで戻って」
「はい」

運転手さんは「掃除まだなんで、タバコいいっすよ」と、笑った。
「ありがとう」と、福はタバコに火をつける。

その時の私には、
お金をもった男の力なのか

福だからなのか

福のまわりの人間が、
とても幸せになっていくような気がした。

さっきのお店のオネエだって、
売り上げがそんなに、日々あるとは思えない。

運転手さんだって、そうだと思う。

気前のいい人が、なかなかいない今の世の中で

急に沸いたボーナスに、人は喜びを感じるのだと思う。

私も自分のお金で
クリスチャン•ルブタンなんか、買わない。
せいぜい、ご褒美でも靴は3万程度かな。。

お金に感謝しているのか
福という人柄に感謝しているのか

みんなは、どっちなんだろう。

No.23 12/11/29 15:25
名無し0 

>> 22 「あの、どこに行くんですか?」
「僕のおうち」
「え?」
「おうちにかえります」
「私、じゃあ」
「ああ、君は昼間の仕事してるの?」
「昼間っていうか、自営業で」
「何?今はやりのネットショップ??」
「いえ、デザイナーです」
「デザイナーなの?じゃあ天才なんだ」
「そのデザイナー=天才ってわからないんですけど」
「僕ね、お絵描き出来ないから、天才だと思うよ」
私は、このタクシーであなたがおりたら、近いのでそのまま帰るという旨を
伝えきれなかった。

「おふくろに、君を紹介したいのね」
福は、一本のタバコを吸い終えて、無邪気に笑った。

No.24 12/11/29 15:29
名無し0 

>> 23 ☆ここまでのお話を整理すると☆

失恋
やけ酒
お店で福と出会う(二時間前)
恵比寿でショッピング(30分前)
「親に紹介したい」(←今ここ)

二時間半で「親に紹介したい」って何事??
いかれてるの?
ってこいつは独身なの?
年増の独身の気持ち悪いオーラはないんですけど??

おふくろって、組組織??
親方の?兄貴の?そういう極道のこと??

てか、なんでなの??

「君、彼氏いないんだよね?」
「あ、犬がいます」
「犬、、、ちょっと犬は無理だな。
 引取先、探すから」
「あの、意味がわかりません」

「悪いようには、しないから」

No.25 12/11/29 15:35
名無し0 

>> 24 今着ている服を全部脱いで、
お返ししますって頭を下げれば、
どうにかなるのであろうか、、

おふくろさん、、おふくろさんよ。。

あなたはどんな息子をお持ちでいらっしゃいます?

混乱した頭の中で、
もう10分もすればついてしまうタクシー。

やはりドMな私には、
逃げたり逆らったりすることなんて、
出来ないんだろう。そう、どうせ出来ない。

だけど、仕事は関係ない。
仕事に性癖は関係ない。

どうしてもあと二日、仕上げなければ。
それだけはマストだ。

「あの、仕事があるんです」
「わかってるよ。朝までにちゃんと返すよ。
若いから、一日くらい平気でしょ??」
「ここんとこ徹夜なんですよ!」
「ああ、ちょっと肌がねえ、そんな感じ」
「それは生理前だからです!」
「そーなの?生理ねえ、、まあ大丈夫でしょう」

福はひっきりなしにタバコに火をつける。

とにかく、朝までに帰る。
何があっても、どうされても、

平常心で、仕事を仕上げよう。
それだけ、死守しよう。

No.26 12/11/29 15:42
名無し0 

>> 25 品川付近のマンションについた。
高層マンションではないが、1階層に1つといった、
大きなマンションだった。
福は紙袋をもち、マンションのロビーを歩いていく。
私はその後を、ゆっくり私は着いていく。

「ああ、ようけ飲んだ」
「そうなんですか?」

とても酔っているようには見えなかった。
酔った勢いで、おふくろさんに対面させたいなら、それは考え直して欲しいと
思うが、それはもう後の祭りというとこまで来ている。

最悪のケースとして、
ご歓談二時間と見積もり、そのまま帰ろう。

そんな甘ーい、
最悪のケースであった。

そりゃ私だって、
泥酔ではあったのだ、この日は。

No.27 12/11/29 15:46
名無し0 

>> 26 広い玄関を開けると、そこには大きな靴箱があった。
彼はニコニコと、その靴箱を開けて
「全部エルメスなんだ。かわいいの」と、満足げに笑った。

そうですか。そいつはよかった。

玄関からすぐ、8帖ほどの部屋があった。

あれ、豪邸でもないじゃない、と思ったその部屋は
いわゆるウォークインクローゼットというもの。
彼のスーツや私服がぎっしりだった。

彼は服を脱ぎ、
そして帽子を外した。

帽子の中身は。。。

No.28 12/11/29 15:46
名無し0 

>> 27 ハゲかけてる

明らかに、薄い

はげかけている。。。。


ハゲ散らかってる。。。。

No.29 12/11/29 15:53
名無し0 

>> 28 顔はそこそこ、、年上好きの私的には悪くなかったのだが、
目の前の衝撃映像に、固まってしまっていた。

もし空気を読めない幼稚園児がいようものなら
指を指して「はーげー!!!!」と、驚きのあまりに
言ってしまうだろう。

私だって、ハゲのためだけに、スレを改頁する始末なのだから。

その、失礼なまでの視線に気づいたのか
福はにやにや笑った。

「もお、見過ぎ。
唯一の欠点なの。お金ももってて、顔もいいのにねえ」
福はそういって、厚手のバスローブとタオルと私に渡した。

「とりあえず風呂いこう」
「あ、はい」

私は、前向きな返事をしてしまった。

普通の若い子なら、
「きもい!はげ!無理」という、純粋な拒否反応を見せるのだが、

私は、どMだ。

今まで絶対的な圧力をかけていた福が、
自分の弱った弱点を見せてまで、子分を従えようとしている。

無下に断るどころか、忠誠を誓おうとするのが、
このドMの思考回路である。

きっと、お背中くらい流してしまうのであろう。

No.30 12/11/29 16:00
名無し0 

>> 29 脱衣所に連れられて、福は裸になり、風呂へ先へ入った。
私もすべて脱ぎ、入ろうとしたところ、
「きみさ、廊下のクローゼットに、歯ブラシとかあるから持ってきなさい」
「あ、はい」

私はタオルも巻かず、裸のまま、
長い廊下を歩き、そのクローゼットを開いた。

そこはまるで薬局の倉庫のように、
すべてのシャンプーやら洗剤やらが、
ストックされていた。


「あ、これ使ってみたかったやつだ」
1本800円の歯ブラシが、そこにはごっそり置かれていた。
その他にも、色んなトリートメントが置かれていたり、
勿論、効果のない高級育毛剤が並んでいた。

歯ブラシを一本とり、クローゼットを閉めると、
廊下には、小さな、、、小太りな生き物が立っていた。

私は条件反射的に、裸のまま会釈すると、
その生き物も会釈し、すたすたと歩いていった。

すたすた、そこはトイレなのか、その扉の向こうに生き物は消えた。

私は小走りで、風呂場へと向かった。

No.31 12/11/29 16:08
名無し0 

>> 30 「あの、ふくみつさん!!!」
歯ブラシを握りしめた、裸の女が興奮して風呂へ登場する。

一応26の裸の女なのだが、福はじいっと腰回りをみて
「でかいな、尻が」と浴槽で顔を洗いながらつぶやく。

「あの、廊下で人に会っちゃったんですけど」
「おふくろ、トイレかな」
「おふくろ??あたし裸デシタヨ」
「っ、いいんじゃないの?いきなり裸の付き合いって。
 君はおもしろいねえ」

福はにこにこと笑っている。
「ああ、どうしよう」
別に気に入られたい訳じゃないけど、
初対面で裸というこの状況に、私はテンパっていた。

「あああ、、、(死にたい。てかシャンプーどれかな。。てか育毛系かな)」
「俺の頭、洗って?」

福は浴槽から頭だけを出した。
「シャンプー?ボディーソープ??」
「殺すよ、もう」
くくっと福は笑っている。

私は気持ちが落ち着かないまま、産毛のような頭頂部をソフトに、
毛が茂ったところはごしごしと、洗っていた。

そして、シャンプーを終えると、福は浴槽から立ち上がった。

そして、仁王立ちになり、
驚愕の映像が目の前に広がった。

No.32 12/11/29 16:14
名無し0 

>> 31 その、福の福は、

まだ、正常な状態であるのにも関わらず、
この世の物とは思えないほど、

大きかった。

(あれが入る?わたしに?むりよ??)

きっと国際交流戦でもあれば、
何か免疫あるのでしょうが、
私は国産男子としか、免疫がない。

本当に、どれほど大きいか、
隣にマイルドセブンを置いて、対比を出した状態で、
真剣に物撮りを行いたいとすら思った。

「きみ、痴女?」
「いや、だって、大きくないですか?」

決して嫌らしい意味ではなく、
医療的見地でこたえる気持ちでいた。
「ありがとう。いつもよろこばれます」
「そうですか〜」

これが膨張したら、どんなになるんだろう?

はじめてお父さんを見た時の、お兄ちゃんより大きい!みたいな衝撃と
とても似ている。

今までのどの男よりも、
医療的見地で、でかいのだ。

とても、驚愕であり、
のちに厄介な代物だった。

No.33 12/11/29 16:21
名無し0 

>> 32 男は先に風呂を出る。

私は一通り洗い、浴槽に入る。

落ち着け。

とりあえず、福は私を触ることもなく
父娘のように、ただ風呂を入った感じが否めない。

そして、はげてること
そのコンプレックスと相反する、
立派なイチモツ。

もう、彼の価値を決めるべくの足し引きが出来ない。
この何分かの間に、
色んな生き物に遭遇してしまった気分でいる。

本当に、いったい福は何者であろう。

そして、このまま、セックスもなく帰れないよな、やっぱな、
甘くないよな、もう「すべてわかってる」年齢として

連れてこられてるんだよね。

しかも、おふくろさんに裸で。。。
でもどうしておふくろ様に会うの?

飲んだ勢いで連れ込まれて〜って流れとは全然違う。

でもお背中(頭だけど)流してしまった。

もしかして、相撲部屋の子分みたいに、
「お尻拭く係」みたいなこと??

なんであたし、
彼のことで泣いていたあの気持ちすら整理ついてないのに

どうしてこんなことに?

  • << 35 もう、とりあえず頭が痛い。 その状況を打破し、仕事に戻らなければ。 とりあえず、何時なんだろう。 あ、トイレに行きたいかも。 私は廊下を歩き、何部屋か開けるも、トイレではなかったが、 風呂場のそばの、扉を開けると、 そこには、パジャマ姿の老婆が、電気を消したまま、 用を足しているのだ。 「すいませんでした」 私は慌てて扉を閉める。 そこに、薬をもった福が戻ってくる。 「なにしてんの?」 「あの、中に人、、いてあけて」 「おふくろ、鍵かけろっていっとんだろうが」 「もー終わるけ、まってな」 三人の中を、おふくろさんの音がこだまする。 こんなに豪邸ならさ、 音姫くらい、つけれたんじゃないのだろうか、、、 福は私に薬をくれて、 コップの水を渡してくれた。 「朝飯くったら、送るわ」 福は再びコップを持ち、 「トイレ、もう1つあるから」 と、案内してくれた。

No.34 12/11/29 16:35
名無し0 

>> 33 気がつくと、ダブルベットの上で、眠っていた。

バスローブをまとって、寝ている。
その横に、頭の薄い生き物が寝ている。

ひどく頭が痛い。そうだ、薬を飲んでいない。
いつも二日酔いを先回りして鎮痛剤を飲むのだ。

ここは、頭の薄い生き物、、

トントン

扉をノックする音がする。
「あんた、大丈夫かえ?お嬢さん大丈夫かえ?」
ムクッと、男は起きて

「ああ、大丈夫!向こういっとれやかましい!!」
「そんないいかた、、せんでも。。。。。ぶつぶつ」

のそのそ、足音は遠ざかっていく。

「あの、鎮痛剤ください」
私はいっさいの状況を無視して、マイペースな発言をした。

「あ、生理痛?」
「え、生理??」
バスローブを見ると、違和感のあるものがある。

「あてんと?」
私は紙のようなオムツをはいていた。

「もう風呂では寝るし、生理になるし、起きないし重たいし、
きみはいったいどこまで図々しいわけ??」

にやにやと笑いながら、福は身を起こした。
「今薬とってくるから、待っとけ。飯は?」
「あ、おなかすいてません」
「おいっ、作れるか聞いてるんだよ」
「あ、今は無理かもしれません。気持ち悪いです」

「わかった」

ふくはベッドを立ち、そして私の目の前に仁王立ちになる。

「しゃぶって」
「ええ?」
頭痛を抱える女に、フェラ強要?
福はパンツから、物を出す。

「ちょっと、こんなん入らんって」

私は爆笑しながら、そのものを握る。
「はやく」
福は笑っている。

私は大口を開けて、それを含んでみるが、

がくっと、あごがこわばるのがわかった。
「あご、外す」

「使えないね、きみね」
福は満足そうに笑い、廊下へと消えていった。

No.35 12/11/29 16:41
名無し0 

>> 33 男は先に風呂を出る。 私は一通り洗い、浴槽に入る。 落ち着け。 とりあえず、福は私を触ることもなく 父娘のように、ただ風… もう、とりあえず頭が痛い。
その状況を打破し、仕事に戻らなければ。

とりあえず、何時なんだろう。
あ、トイレに行きたいかも。

私は廊下を歩き、何部屋か開けるも、トイレではなかったが、
風呂場のそばの、扉を開けると、
そこには、パジャマ姿の老婆が、電気を消したまま、
用を足しているのだ。

「すいませんでした」
私は慌てて扉を閉める。

そこに、薬をもった福が戻ってくる。
「なにしてんの?」
「あの、中に人、、いてあけて」
「おふくろ、鍵かけろっていっとんだろうが」
「もー終わるけ、まってな」

三人の中を、おふくろさんの音がこだまする。

こんなに豪邸ならさ、
音姫くらい、つけれたんじゃないのだろうか、、、

福は私に薬をくれて、
コップの水を渡してくれた。

「朝飯くったら、送るわ」

福は再びコップを持ち、
「トイレ、もう1つあるから」
と、案内してくれた。

No.36 12/11/29 16:49
名無し0 

>> 35 それにしても、広い家だ。
おそらく品川近辺で、分譲にしろ億単位だろう。

トイレで用をたしながら、この介護用おむつはどうしようか考える。
うっすらと血が出ている。

生理にしては、何日かはやすぎるのだが。

本当、何やってんだ。。

『酒のんで楽しい?現実逃避ですか?逃げたいほど楽しくないの?俺ってお前にとってなんなわけ?』

『言わないのと、想ってないのは違うんだよ』

本当、オトナのオムツして何やってるんだ。。

No.37 12/11/30 00:57
名無し0 

>> 36 自己嫌悪のの中で、光の射す扉を開けると、
そこには30帖を超える、リビングが広がった。
日本の建築の利益の限界なのでは?といい痛くなるようなリビングだった。

六角形の、変形のその部屋は、
中央全面が、ガラス張りになり、光を受け止める。
部屋の中央に、キッチン機能があり、
そのすべては、普段使いに有効というより、ホームパーティーに使い勝手がよいというような
ありさま。

「朝飯、食べようか」

一枚板の、木目調のテーブルに置かれた、二人前の朝食。
リビングに圧倒されながら、
私は席に着いた。

食卓に並んだ、
ハムエッグと、ほうれん草のおひたし、ひじきの煮物、
めんんたいこと目玉焼き、
充実しやそれらをみながら想った。

充実しながらも、満たされない。
それが今ここにあるのでは、と。

No.38 12/11/30 01:03
名無し0 

>> 37 サンタクロースの食生活を知る人がいないように、
福のような男の、食生活を知る由もない私は、

出された朝食を、福と一緒にゆっくりと消化した。
お互い、おしゃべりな方の二人ではあるが
食べて居る間は、無言なままそれらをむさぼる。


「君は納豆とかも、食べられるの?そうだったら、おふくろが買ってきてるから
納豆も食べなさいね」

福は、目玉焼きのハムエッグをご飯にのせながらいった。

  • << 40 黙々と食卓に向き合う二人。 朝食を食べる習慣なんて、そもそもない。 食べると眠くなるから、適度な軽食で、朝と昼を乗り切り、 酒やその他で、カロリーを満たすのが昨今。 「福満さんは、本当はいくつなんですか?」 「一樹って呼べない?てか忘れたの??」 「人の名前、あんまり下では呼べません」 福は、めんたいこを白飯の上にのせ、ふっと笑った。 「きっとどうせ、昭和生まれだろうけど、 君はいいね、ブスだし奥ゆかしい気がするよ」 福はめんたいこを一腹、 白飯とともに、一口で食べてしまう。 「そんなに魚卵食べて平気ですか?」 「君すごいね。僕ね、ちょっと痛風気味なのよ」 福は笑う。 そして、噛むこともせず、明太子を飲んでいく。

No.40 12/11/30 01:39
名無し0 

>> 38 サンタクロースの食生活を知る人がいないように、 福のような男の、食生活を知る由もない私は、 出された朝食を、福と一緒にゆっくりと消化… 黙々と食卓に向き合う二人。
朝食を食べる習慣なんて、そもそもない。

食べると眠くなるから、適度な軽食で、朝と昼を乗り切り、
酒やその他で、カロリーを満たすのが昨今。


「福満さんは、本当はいくつなんですか?」
「一樹って呼べない?てか忘れたの??」
「人の名前、あんまり下では呼べません」

福は、めんたいこを白飯の上にのせ、ふっと笑った。

「きっとどうせ、昭和生まれだろうけど、
君はいいね、ブスだし奥ゆかしい気がするよ」

福はめんたいこを一腹、
白飯とともに、一口で食べてしまう。

「そんなに魚卵食べて平気ですか?」
「君すごいね。僕ね、ちょっと痛風気味なのよ」

福は笑う。
そして、噛むこともせず、明太子を飲んでいく。

No.41 12/11/30 10:32
名無し0 

>> 40 明太子というのは、私は何センチかに切った物をのせる、
そういう家で育った。
一腹を飲むなんて、絶対怒られる。

うちって貧乏だったのかな。。

福は目玉焼きにマヨネーズをかけはじめる。

「変わった食べ方しますね」
「若いでしょ、味覚が」

福はにこにこと笑っている。

「あとで僕の携帯に、君の電話番号登録してね。
たしか、3番が空いているから」

携帯、、あの楽々フォンのことか、

「あんまり携帯とかって、、」
「携帯ね、得意じゃないのよ。会社がね、どうしても持てっていうから。
 あ、メールとかしないでね、出来ないし読めないから」
「おじいさんみたい」
「きみね、今じゃ老人のがさくさく使うよ?
 僕はやれるとは思うけどやらないの」

「だめだよー機械なんかで会話したら。ウソつくから。
 面と向かってちゃんと言えないようなら、それまでの気持ちなんだよ。
 決断力も行動力もないやつになっていくからね」

福は空になった茶碗を私によこした

「半分、入れて」

朝からおかわりですか。
「あの、炊飯器は」
「カウンターのキッチンの中のほう」

私は席を立ち、カウンターのキッチンの中に入る。
おしゃれなリビングとは裏腹に、
そこは「おふくろさん臭」のする生活感が、あった。

「のり」「ほししいたけ」「だしこんぶ」
マジックで書かれた段ボールが積み上げられ、
シンクの前には、踏み台がある。

そして、炊飯器は
福のことだから、十万クラスの釜がすごいやつを買ってると思いきや

とっても昭和の、タイガーの白くて丸く、お花柄がついた炊飯器だった。

「意外だな」

私は近くのしゃもじで、ご飯を軽くよそった。

ここは、福とおふくろさんの、住む家なのだ。

No.42 12/11/30 10:38
名無し0 

>> 41 朝食を終えると、福は風呂に入ると言って消えた。

私は着替え、おむつは鞄にしまう。
予備のナプキンをショーツにひいた。

クローゼットの部屋で着替えていると、
眼鏡をかけた
おふくろさんが、急に入ってきた。

「具合はもういいのかえ?」
「は、あ、え、はい!ご迷惑かけました」

〜かえ、という語尾。これはどこの言葉なのだろう?

「ゆっくりしてってな」
「いえいえ、とんでもないです」
「私とお友達になってな」

おふくろさんは、にこにこと笑った。

「ふくみつちづえといいます。80歳になります」

しわしわの手で、握手をせまる「ちづえ」さん。

私はその手を、握った。

No.43 12/11/30 10:43
名無し0 

>> 42 「お前らなにしとるん」
トランクス姿の福がやってくる。風呂上がりのようだ。

「かずき、洗濯屋にいくけ、
 あるか?」

「そこのスーツと、このパンツ」
福は引き出しから、巾着袋を取り出す。それはずっしりと重そうだ。

「金足りるのか?」
福が言うと、ちづえはにこにこと
「洗濯代くらいは、私が出すけ」

その巾着を受け取り、福のスーツをもって、
よたよたと歩く。
ちずえの持ったキーケースのすずの音が、玄関先で消えた。

No.44 12/11/30 10:47
名無し0 

>> 43 「おふくろと何か話せた?」
「あ、お友達になってって」
「あそ。よかったね」
「あの、ちづえさんて痴呆とかは?」
「全然、まだしっかりしています」
 裸のこと、じゃあ覚えてるんだね。。

「まあおれ、母子家庭だからさ。大事なのよ。大事にしてね」

ふくは着替えながら淡々と言った。

「あの、福満さんは独身なんですか?」

「この家に、奥さんや子供はいましたか?」
「いいえ」
「この家に、奥さんや子供はいません」

この家に、と強調した福。

このひっかけに気がつくのは、
私がマンションを解約した、まだ少しだけ先の話だった。

No.45 12/11/30 10:56
名無し0 

>> 44 福におくってもらい、派手な買い物の荷物をもって
家路についた。
10時前。

としおがベッドからおりて、しっぽをあまりふらないで迎えにきた。

「としお、ただいま」
としおのご飯、早く作らなきゃ。

荷物を置いて、としおのトイレを片付けたり、
ご飯の用意をしたりした。


携帯が鳴る。
「ひろみーどうもー」
明るい声の、中井の声がした。
どうやら勤務先からかけているようで、
後ろは騒がしかった。
中井は友人で、不動産をやっている。
そして、この家の契約をしてくれた。
「うん。おはよ」
「今起きたのか??ひろみさ、まあ、どう?」
「いやがらせの件ですか?」
「うん。もしあれなら物件探すし」

私のマンションは、最上階に大家がいるというもので、

その大家が毎日朝の四時に、ドアノブをふいてまわったり、
玄関先のサッシをふいたり、
中をのぞいたりする、とにかく奇妙な人だった。

そして、それが私の家だけだったのを、
隣の人の引っ越しの際に聞いて、怖くなり中井に告げたのだ。

一番怖かったのが、
男が出ていたった次の日、
ポストの表札(勝手に最初から書かれた)の、男の名前をマジックで
消してあったこと。

別に何も申請しているわけではないので、
気持ち悪すぎた。

No.46 12/11/30 11:02
名無し0 

>> 45 「うん、でもまだ更新まで我慢しようかな。。」
「てかね、俺のミスなんだ。その物件」
「どういうこと??」
「そこね、いわゆる宗教系の。。。なのよ」
「ええ?ほんと??」

私は宗教の類いが大嫌いだ。
とにかく、そういうのがダメだった。

「ひろみ、入るときに新聞断ったでしょ。
 それが、そのあれみたいなの。普通の新聞じゃないってゆうか」
「どうゆうこと」
「多分ね、その新聞だけとってれば、
 そういうのぞきみたいなこと、しなかったかも、って話を先輩から聞いて」
「ちょっと何それ、曰く付き物件じゃん」
「そそ。。。ほんとごめん。次のとこ初期費用なんとかそこの敷金で相殺する
ようにするからさ、探そうか?」
「うーん。ちょっと考える。もーやだなあ。面倒だなあ」
「じゃあメールで、何個か送るよ。条件は今くらいでいいの?」

「え、、ううん、今よりやすくて狭くていいです」
「彼氏は、もしかして」
「もう、女と犬一匹しかいませんから」
中井は電話の向こうで笑っている。
「わかった、送るわ」

中井との電話を終え、
初めて知人関係に、彼と別れたと言えたな、と思った。

No.47 12/11/30 11:10
名無し0 

>> 46 それから二日、とにかく仕事を間に合わした。

としおが、病院でもらったおまけのドッグフードを、いやいや食べるほど。
私はパソコンのモニターの前でほぼ過ごした。

こんなことをしていると思うのは、
私に子供は無理だったんじゃないかなと、いうこと。

としおはオトナだ。ドッグフードも仕方ないと食べる。
そして決まったところでトイレもできるし、
自分一人で寝ることもできる。

散歩は嫌いだが、
一人でボール遊びもできる。

としおは、ある意味自立したオトナだ。

だが乳幼児は、どうだ??

こんな締め切りのまえに、私一人で産んで育てるなんて、
確かに無理なのかもしれない。

でも収入は自分で作らなければいけない。。

「クリックで、在宅でも毎月30万以上の収入可能」

製作中のキャプションをみて、
「ほんとかよ」とモニターにつぶやいた。

本当に、お金ってなんだろう。
贅沢するため?
自由を買うため?
人をよろこばすため?
自分を守るため?

徹夜二日目の、ふわっとした思考回路で、
ひたすらお金って、と思いながら
金融系の仕事を片付け、
入校作業を終えた。

No.48 12/11/30 11:15
名無し0 

>> 47 クライアントに電話をかけ、
入校データを確認してもらい、印刷屋へつないだ。

これで三日ほど、パソコンの電源は落とすくらいの
余裕ができそうだ。

とりあえず、風呂だけ入って寝よう。

デスク周りの栄養剤と店タバコの山を見て、
どう見ても女子のすることではないな、と苦笑いした。

「としおー」
用もないのに、犬の名前をよんだ。

としおは面倒そうに、ベッドから頭だけ私にむけた。

「仕事おわったよ」
あ、そ、ととしおは二三回しっぽを振ってくれた。

話し相手は犬だけ。
この生活は、ちょっとだけ寂しいかもな。

疲れた私は、ちづえのしわしわの手をなぜか思い出した。

No.49 12/11/30 11:31
名無し0 

>> 48 としおと一緒に、
ずっと寝た。
二日分の睡眠を取り戻すくらい、とにかく寝た。

夜になり、としおが私を「ご飯」と起こしにきた。

ベッドで体を起こす。

そして、携帯をみると18時。

としおの腹時計は、本当に正確だと思った。

携帯には、一件着信があった。
見知らぬ番号。。

何か、印刷であったのだろうか。
私はその番号にかけ直した。

「おう。君か」

「福さん」

私はあの日、携帯を教えなかった。
どうして。。

「昨日、きみの店のままに、番号聞いたよ。
 おれに恥ずかしい真似させやがって」
福は笑っている。
「ひまだろ、ちょっとなんか食いにいこう」

No.50 12/11/30 11:43
名無し0 

>> 49 その二時間後、
私は雑居ビルの会員制の寿司やにいた。


強引な男には、とことん屈してしまう。

「君なんか来れるとこじゃないから、食べな食べな」

福はいくらだのうにだのを頼むが、
私はコハダをつまみでもらって、お湯割りを飲んでいる。

「あんなに洋服かったのに、なんで着てこないの?」
黒のワンピースの私に、今日も福は不満そうだ。
「なんか、いやじゃないですか。
 あなたの女でもないのに」
「あ、そうなの?」

福は私の前に、握りを並べる。
「マスターこの子酒飲みだから、シャリは小さめでいいや」

「福さん、私あんまりいくらとかは食べません」

「えー俺最近膝が痛くてさ、怖いのよ〜食べるの」

先日、明太子を飲んでいた男がよく言ったもんだ。

「ここのうにね、軍艦じゃなくてにぎりなの。
 二種類乗ってるの。手が込んでるのよ〜ここは、食べて見なさい」

うにも苦手だった。

濃いうにと、クリームのようなうに。
わさびとのバランスがよくて、すっと入った。

「おいしいけど、一カンでいいです」

「君は何が好きなの?」

「光り物と、貝ですね」

「いいねえ、おやじっぽくて」

福はお吸い物をあてに、日本酒を飲んでいる。

「俺好きなのよ、汁で酒飲むの」

なんとなく、それはわかる気がした。

「たくさん食って、店に給料取りいくぞ」

「え?給料?」

「きみね、あの店首になったから」

は?

  • << 51 「水商売も卒業です。お昼まじめにやりなさい」 福は真面目な顔をして言う。 私の息抜きの場を、こいつは奪うのか? 絶対ままと取引したに決まっている。 「何勝手なことするんですか」 「そういうものなの」 「どういうことですか? 「君と僕はね、一緒に住むことになるって  初めて見たときに思ったの。  こういうの、僕間違えないから」 強い瞳で、福は言った。 それは、極道の親分が、 杯を交わすときの、ぐっと強いものだった。 壊される 殺される 人生の軌道が、大きく変わる気がした。
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