もう一度逢えたら…
私は、初めての高速バスに乗った。
朝10時に京都駅前のバスターミナルを出発したバスは、夜7時を過ぎてようやく目的地の新宿に着いた。
予想以上に首都高が混んでいて、1時間近く遅い到着となった。
土を仕入れた後、モバイルで陶芸家のジェシカに電話した。
“The partner was able to do it.”
相棒が出来た…
という内容だ。
戻ることが少し遅くなるのを伝えて、私は獣医の所に向かった。
“Hello,GJ.”
私は獣医のニックネームを呼びながら、そのドアを開けた。
“Hello,moon.”
簡単なハグで挨拶を済ませると、GJは私が小脇に抱えた子犬に目をやった。
私は、この子犬を車で轢きかけたこと、そしてこの子犬を飼いたいことを伝えた。
身分証を出し、登録。
子犬の名を聞かれたが、まだ決めていない。
水槽には、なぜか美しくもない、バラマンディが優雅に泳いでいた。
それを見ながら
私は
『バラム。彼の名前はバラムよ』
と、答えた。
GJは、肩をすくめるような仕草を見せたが、すぐにその名を書類に書き込んだ。
予防注射をしてもらい、バラムの首にはナンバーの刻印がなされたメダルが付いた首輪を付けた。
バラムは、誇らしそうな顔で私を見上げた。
マーケットで、犬用の缶詰めや、シャンプーなどGJが
『あれば便利だ』
とメモをしてくれた物を片っ端からカートに放り込んだ。
バラムは車の中で留守番している。
私は左に大きくハンドルを切った。
小さな森の入り口にある小屋(と言っても、十分な広さがある)が、ジェシカのアトリエであり、陶芸教室だ。
私の車の音を聞いて、小屋の中からは数人の女性達が出てきた。
私が荷台から土の入った袋を下ろしていると、早速バラムを見つけた女性達は、甲高い声を上げた。
“Well, it is lovely!”
“It is very cute.”
口々にバラムを見て
『可愛い』
と言い合ってから、
“His name?”
と、私に聞いた。
私は
“Barram”
と、答えた。
すると、皆が眉をひそめて
“Barram?”
と聞き返した。
“Yes”
女性達は Oh… と、言い、もう一度バラムを見た。
Barramundi
バラマンディ…
正しくは
バラムンディと発音するのだが、その魚はとても醜い。
(が、白身で美味い)
“An ugly fish…”
醜い魚だと、皆が言う。
あの時、GJの水槽の中で泳いでいた魚が、アロワナだったらきっと
アローとでも名付けただろうが、バラマンディだったから、とっさに思い付いた私は、バラムと名付けた。
悪かったかな…
醜い魚だ…と、バラムは言われ、それを知らずに尻尾を振って、嬉しそうにしていた。
だが、皆はいつまでもバラムの名を悪く言わずに
“Hello,Barram.”
と言い、受け入れてくれたようだ。
ジェシカの経営する、この陶芸教室にはいろいろな国籍の女性達が集まっている。
日本人は私の他にもう一人、老女がいる。
タイ、チャイナ、コーリアン、ニュージーランド…
陶芸の作品に、バラムの毛が付くといけないので、バラムは外にある土を保管する小屋に毛布を敷いて繋がれているか、リードを外しても遠くへは行かないので、天気の良い日は放し飼いだった。
教室の中に入ってはいけないと、躾をするのには、時間を要した。
私が住んでいるのは、フラットと呼ばれる集合住宅。
同じような造りと色をした、平屋の戸建てが敷地内にポツリ、ポツリと建っている。
各家にはガレージが備えられ、共用のプールやジム、ジャグジー、洗車場が完備されている。
私の家は、ゲートを入って三つ目だ。
家具付きの2LDKで、ダブルベッド、洗濯機、キッチンにはオーブンもある。
リビングにあるソファーは、ベッドにもなり、友人が泊まりに来た時にはそこで寝てもらった。
管理人のジョージに、バラムを飼うことを承諾してもらった。
ジョージは、フラットの敷地内に奥さんのレベッカと二人で暮らしている。
ジョージも、レベッカも、バラムを可愛がってくれた。
そして迎えたクリスマス。
真夏のクリスマスだ。
私は、バラムを連れて、テラノに乗り込むと、日本人の友人のタカコさんの家で開かれるクリスマスパーティーに行った。
タカコさんの旦那さんは、ニュージーランド人だ。
日暮れと共に、たくさんの人が集まり、タカコさんの家のプールサイドは人でいっぱいになり、旦那さんのジャックは、必死になってバーベキューグリルの前で、肉や野菜を焼いていた。
私の知らない人ばかりのパーティーだった。
私は、プラスチックのスツールに座って、瓶ビールをそのまま飲んでいた。
足元では、バラムがどこから貰ってきたのか、大きなスペアリブにかじり付き、格闘していた。
『やあ』
『ハイ』
声を掛けてきたのは、タカコさんの三人いる息子の中の長男、ライアン。
片言だが日本語が喋れる。
『タイクツしてない?』
『とんでもない。私は飲めたら、それで幸せなの』
そう言い返して、ビールの瓶を軽く持ち上げて見せてから、
『真夏にメリークリスマス!…それだけは慣れそうもないけど…』
と、続けた。
『ツキのクニは、winterだよね?』
『Yes,…ねぇ、ライアンはsnowを見たことがある?』
『テレビでしかみたことがない』
『そうよね。でも、部屋に飾ってある大きなChristmas treeには、cottonを使ってsnowに見せてたわ』
『snow…ふらないのに、かざるのはヘン?』
『ん…、雰囲気があって良いんじゃない?』
『そうか…。らいねんのChristmasにはsnowをかざるのはやめるよ』
『どうして?』
“OG style!”
ライアンは、そう言うとウインクした。
空には無数の星…
いろんな国の言葉が聞こえていたが、少しずつ静かになってきた。
足元では、バラムがうつ伏せて眠っていた。
パーティーは、そろそろお開きらしい…
『月、ほったらかしにしてゴメンナサイね』
タカコさんだ。
タカコさんは、メルセデスの車内でシートに背をもたれていた。
私は窓をノックした。
ゆっくりとタカコさんはこちらを向いたが、月明かりだけではその表情までは読み取れない。
私は、その場でしばらく立っていた。
やっとタカコさんがドアを開けた。
ふわっと、アルコールの臭い…
『タカコさん、飲んでるの?』
私の問いには答えず、タカコさんは
『こんな時間に、ごめんなさい。入ってもいい?』
『もちろん…』
私は、タカコさんを部屋に招き入れると
『ホットミルクと、ココア…どっちにする?』
と聞いた。
『お酒…ある?』
私は
『分かった』
と言って、グラスを二つ出すと、それぞれにバーボンを注いだ。
タカコさんは、ストレートのバーボンを一気に飲み干して、グラスをテーブルに置くと、両手で顔を覆った。
私がタカコさんの自宅に電話をすると、2コールで旦那さんのジャックが出た。
タカコさんが私の部屋に来ていること、今夜はうちに泊めることを伝えた。
電話を終えて、タカコさんの方を向き直ると、タカコさんは空いたグラスに、自分でたっぷりとバーボンを注いでいた。
私は小さなグラスに水を入れて、チェイサーを出した。
ついでに皿にミックスナッツを入れて出した。
私からは、何も話し掛けなかった。
ただ、テーブルの向かいに座って、バーボンを少しずつ飲んだ。
30分…
40分…
時間が過ぎた頃、タカコさんがやっと言葉を発した。
同時に、両目から大量の涙の粒がこぼれ落ちた。
『ライアンが…再発したの…』
タカコさんには、リビングのソファーベッドで寝てもらった。
眠るまで、私はタカコさんの手を握っていた…
カチャリ…
と、音で目が覚めた。
寝室を出ると、タカコさんがテーブルに皿を並べているところだった。
バラムも先に起きて、タカコさんの周りをクンクンと鼻を鳴らしながら付きまとっている。
『バラム』
私は、棚からバラムの餌の箱を取り出すと、バラム専用の深い皿に餌を入れた。
それからやっとタカコさんに
『おはよう』
と声をかけた。
タカコさんは、フライパンの中のベーコンとスクランブルエッグを皿に移しているところだ。
私を見て
『おはよう』
と、言ったその目の周りは赤黒く腫れていた。
『美味しそう!』
テーブルに着いた私は、温かいコーヒーを一口飲んでから、フォークとナイフを手にして、食事を始めた。
タカコさんは、私をじっと見ている。
『美味しいよ。タカコさんもどうぞ…って、作ってくれたのはタカコさんだけど…』
と、私が言うとタカコさんは
『昨日は、ごめんなさい』
と、謝った。
私は
『飲みたい時は、いつでも付き合う。でも、その時は私を呼んで。お酒を飲んで運転するのはやめて』
と、きっぱり言った。
タカコさんは頷いてから
『分かった』
そう言うと、食事を始めた。
『これからに備えて、力付けなきゃ!』
そう言った…。
これから…
ライアンの闘病生活…
二日酔いで、本当は食欲が無いはずのタカコさんは、無心にベーコンをカットしては口に運んだ。
『じゃあ、また…』
『ライアンの調子が良い時に連絡して。お見舞いに行くから…』
『うん、有難う』
タカコさんがメルセデスに乗り込んだ。
前方のバンパーが目に入った。
『ちょ…ちょっと、タカコさん!』
バックしようとするのを止めた。
『これ、どうしたの?』
『え?』
タカコさんがエンジンを切って、降りてきた。
前方のバンパーはへこみ、ボンネットには一筋の深い傷が付いていた。
まさか…
新緑の草いきれの香りが鼻をくすぐる。
小鳥達の鳴き声の中に、まだ鳴き慣れないホトトギスが不器用な声を上げる。
さわ…
まだ冷たさを孕んだ冬を含んだ春風が吹き、次の季節の訪れを告げる。
次の瞬間。
紅…
朱…
赤…
その三色をバケツに入れてかき混ぜられたような液体が、まだ若く蒼い草にぶちまかれる。
これまでの清々しさは暗転したように消え去り、私の目の前には、限りなく燃えるような朱が広がる。
ランドセルを背負った男の子が、朱色の中を走って行く。
『待って!』
私は、追いかけようとするが、目の前の紅葉が邪魔をして私は進めない…
『待って!』
もう一度叫んだところで、
目を覚ます…
いつも同じ夢をみる。
少し熱い…
私がこの地に来て、二度目の夏を迎えようとしている…
今日は、教室が休みの水曜日だ。
私は、ベッドから起きあがるとキッチンの冷蔵庫に行き、瓶ビールを取り出した。
手で捻って、栓を外すと、ぐっと喉を反らせて飲んだ。
ふぅ…
ソファーに座ると、バラムが来て、私がビールを持っていない方の指先をペロリと舐めた。
『悪い…起こしちゃったかな?』
私はバラムの頭をそっと撫でてやった。
ソファーに背をもたれて、残りのビールを少しずつ飲む。
いつまで
あの夢をみるんだろう…
Red back…
日本でも問題になっている、セアカゴケグモって、毒蜘蛛の名だ…。
サムの仕事は、その毒蜘蛛の駆除だと言う。
ガレージの隅に、早速一匹見つけた。
サムは、木琴のバチのようなもので、部屋中の壁をトントンと叩いて、その音で壁の中に毒蜘蛛が巣を作っていないかを調べると言う。
ガレージにはいたが、部屋にはいないと言われ、ひと安心。
サムは、ヤツが現れたら近付かずに、すぐに連絡してくれと言い、名刺を置くとフラット内の他の部屋へ向かって行った。
ビア樽のような腹を揺らせながら…。
夜になり、水着に着替えるとプールに入った。
昼間の熱が残った生ぬるいプール。
他には誰もいない。
バラムはプールサイドでつまらなそうに、ウロウロとしている。
飛び込んでこないところをみると、彼は金槌らしい…
私は、ぷかりと仰向けに浮かんで空を見た。
南十字星が輝いていた…。
レッドバック…
南十字星…
遠くに来ちゃったな…
今更ながら、そう思った。
逃れることの出来ない夢は、その後も続いた。
韓国に行って戻った後に、久しぶりにタカコさんの家を訪れた。
あれから…
ライアンの死から5年が経っていた。
タカコさんは、最近になって、ようやく笑えるようになった。
ライアンが亡くなってからは酒浸りの日々が続き、一時はアルコール中毒になり、入院していた。
その後も精神病院へ入退院を繰り返していた。
二人の息子は、出て行った。
それはタカコさんを見捨てたのではなく、ライアンの面影のある二人を見ると彼女は混乱してしまうからだった。
今は、夫のジャックと広い家で二人だけで暮らしている。
『どう?調子は…』
『最近、ちょっとマシなの』
微笑で私を迎えてくれた。
『タカコさんって、辛いものは苦手?』
『よっぽど辛くないなら大丈夫よ』
私は、韓国で買ってきたチョコレートを出した。
『お土産』
『ありがとう。チョコレート?辛くないじゃない』
タカコさんが一つ取って、口に運んだ。
変化は無い…
次の瞬間…
『か…からい!』
慌てて立ち上がり、水を飲むと、私と目が合って二人して大笑いした。
『後からくる辛さって、反則よねぇ』
そう言って、涙を流しながら笑った。
二人で、お腹を抱えて笑った。
『あ~、もうダメ!お腹が痛い~』
お腹がよじれるほど、笑った。
そして
その一週間後…
タカコさんは自宅で大量の睡眠薬を飲んで、
亡くなった…
あ…
雨だ…
ポツリ
ポツリ
と降ってきた雨。
その次の瞬間には、まさにバケツ…いや、プールをひっくり返したようなスコールに変わった。
慌てて干していたシーツなどの洗濯物を取り込む。
部屋には、洗濯機と乾燥機も備えてあったけど、私はお日様の下に干す方が好き。
私が、慌ただしく動いていると、バラムが足元にまとわり付いてきた。
『ちょっと…、こらぁ…』
と、言ってたら足がもつれて大雨の中、転んだ。
芝生の上だから、怪我は無いけどずぶ濡れ。
あ~
もう、いいや…
私はその場に寝転んだ。
オーストラリアはデカい。
人も、家も、ハンバーガーも…
そして、雨粒さえもデカい!
立ち上がると、バラムを追いかけた。
『このやろぉーっ!』
バラムが逃げる
私は追う
雨の中の鬼ごっこ。
急に…
嘘みたいに雨がやんだ。
そして、嘘みたいに空は青く晴れている。
敷地が広いから、高いビルのような建物が無い。
だから、空だってデカい。
そこに
嘘みたいな
デカい虹がかかっていた!
思わず声に出た…
『すごい…』
って。
私は、しばらくその虹から目が離せなかった。
あと2年でパスポートが切れる。
8年もここで過ごした。
パスポートを更新して、このままここで生活するか…
それとも…
バラムと目が合った。
『ふふっ。あんたを置いて、どこにも行かないよ』
バラムの頭や体中をわさわさと掻くように撫で回した。
バラムは、仰向けになって腹を見せ、すっかり無防備だ。
そうして、バラムの体中をわさわさとしていると、後ろ足の付け根の辺りに何か硬いものが私の手に伝わった。
何だろう…
見ても分からないが、触ると確かに反対の足には無い、硬い物がある。
それから一週間くらいして、バラムは右の後ろ足を引きずるような変な歩き方をするようになったので、獣医のGJの所に連れて行った。
泣き続ける私に、GJはホットミルクの入ったマグカップを手渡してくれた。
私は、ホットミルクをそろそろと一口…二口…飲んだ。
“Did it settle down?”
GJがトーンの低い、優しい声で私に
『落ち着いたかい?』
と聞いた。
私は、マグカップを握りしめたまま、一度頷いて
“Yes…”
と答えた。
“OK”
GJは、そう言うと出来るだけ丁寧に、そしてゆっくりとバラムの状態を説明してくれた。
バラムの右足の付け根の関節部分に腫瘍が出来ていること。
犬の腫瘍は、肺に転移しやすいから注意すること。
昔は、すぐに切断していたが、今では有効な科学療法がある。
ただし、保険適応外だからかなりの治療費がかかる。
GJは、自分の儲けを省いても、大金だ。
そう言った。
私は、
『助けてあげて。お金は必ず用意するから』
と答えた。
その日から、バラムはGJの病院に入院することになった。
3日目に、私はGJのところへ行った。
どうしても、お金の目処が立たない。
このままバラムを入院させていても、治療は受けられず、入院費がかさむだけだから…
と、バラムを迎えに行った。
GJは、風邪薬程度ならプレゼント出来るが、科学療法は残念ながらそういう訳にはいかない…、すまない。
そういう内容を話してくれた。
私は、右の後ろ足を引きずりながら歩き、車に乗り込んで私の顔を舐め回そうとするバラムを強く抱きしめた。
そしてまた泣いた…
お金に余裕が無い者には、ペットを飼う資格は無いのだと思い知った。
GJは、3日間の入院費と鎮痛剤をサービスしてくれた。
鎮痛剤は、バラムが痛がるようだったら餌に混ぜて飲ませるように、と言われた。
教室に行くと、ジェシカが
『何かあったの?顔色が悪いわよ』
と言った。
生徒の一人が
『バラムの歩き方、変だわ…』
と気付いた。
私は、ジェシカと教室のみんなに、バラムの病気の事を話した。
『どうして早く相談してくれなかったの?』
口々にそう言われ、教室にはバラムの治療費の募金箱が置かれた。
嬉しいことだが、まだまだお金は足りない。
ジョージは、プールをぐるりと囲む柵から顔を出すと、
“drowned!ms.REE!Please call an ambulance.”
(リーさんが溺れている!救急車を呼んでくれ!)
と、血相を変えて私に叫んだ。
“OK!”
私は自宅にモバイルを取りに戻るよりも、管理室に行ってレベッカに頼んだ方が早いと思い、そうした。
脇腹が痛くなるくらい走って、管理室に行くと、レベッカが何事かと驚いた表情を見せた。
私は、ぜいぜいと息を切らせながらも、リーさんがプールで溺れているから、救急車を呼んで!と、伝えた。
すぐに目の前の受話器を上げて、レベッカは救急車を手配すると、二人でプールに走った。
リーさんは、私の部屋より4つ奥に住んでいる中国人だが、アメリカ国籍を持っているらしい。
挨拶を交わす程度だから、詳しいことは知らない。
かなりの巨漢だ。
身長は高いが、細身のジョージが、どうやってプールから引き上げたのか、不思議だった。
心臓マッサージと人工呼吸を交互に繰り返した。
遠くの方から、救急車のサイレンが聴こえてきた。
ジョージは、諦めず心臓マッサージを続けている。
その時…
リーさんが、ぶはっと水を吐いた。
救急車の到着と、ほぼ同時だった。
レベッカが
『あなた、疲れたでしょう?私が付き添うわ』
と言って、リーさんの乗ったストレッチャーと一緒に救急車に乗り込んだ。
“Good job!”
私は、ジョージに敷地内に設置されている自販機でコーラを買うと、ジョージに渡した。
汗だくのジョージは
“Thank you”
と言うと、冷たいコーラをグビグビと喉から音を鳴らせて飲んだ。
バラムが、こちらを見て、尻尾を振っていた。
『バラム、よくやったね!』
私とジョージは交互にバラムを撫で回した。
この事件が、世間を騒がせる結果になるとは、この時誰も思ってはいなかった…
そして、いつもと変わらない帰宅時間。
私のフラットに続く道は、路上駐車の車でいっぱいだった。
小さめのバスのようなバンも停まっている。
何事?
ジーンズの後ろのポケットで、モバイルが鳴った。
私は路肩に車を寄せて停めると、電話に出た。
相手はジョージだった。
昨日のリーさん救出が、マスコミに取り上げられ、バラムにお手柄犬として取材のオファーが後を絶たなくて、困っているから早く帰ってきてくれ…という内容だった。
なるほど…
この車は、マスコミのものか…。
私は、覚悟を決めてフラットの入口ゲートを抜けた。
今朝は壊れていたのに、もう直っている。
マスコミが来ると知って、レベッカが無理を言ってジョージに早く直すように言ったのだろう。
プールサイドで、会見が用意された。
マスコミは、口々に質問してきた。
『わんちゃんの名前は?』
ーバラムです。
『由来は?』
ーたまたま近くにバラマンディが泳いでいたので…
『人命救助の教育を受けてるの?』
ーいいえ。でも、以前に私が病気で倒れた時に、管理室まで知らせに行ってくれたことがあります。
『とても頭がいいわんちゃんね。年はいくつ?』
ー八年前に出会った時には子犬だったから、正確な誕生日はわからないけど、8才だと思います。
『いつも、こんなに大人しいの?』
バラムは、私の横に座ってじっとしている。
ーはい。ほとんど吠えることはありません。
『今日は、プールで溺れた女性を助けた、優秀なわんちゃんバラム君のニュースわお伝えしました』
そうアナウンサーが言い、私が立ち上がり胸元のピンマイクが外されると、バラムも立ち上がった。
マスコミスタッフの一人が
『おい、カメラを回せ!』
と、撤収しようとしている者達に向かって叫んだ。
さっきのアナウンサーが近付いてきて、
『バラム君は、足が不自由なの?』
と聞いて、ハンドマイクを私に向けた。
『バラムは、骨肉腫という病気なんです。
科学治療が必要なんですが、かなり高い治療費なので…』
私は、言葉を詰まらせて、しゃがみ込むとバラムを抱き寄せた。
マスコミの力は恐ろしい…
たった1日で、バラムの治療費の寄付が集まった。
マスコミ…
敵には回したくないわ。
私は、バラムをGJのところに連れて行き、治療が受けられることになった。
2日目…
3日目…
どんどん届く募金。
私は、マスコミを通じて、治療費が無事に集まったことを報告して、連絡先の分かる人には返金することと、分からない方からの募金は救助犬や介護犬の育成のために使わせて頂きますと、話した。
次は、手紙や花や大量のペットフードが送られて来た。
募金を引き続き送ってくれる人も、後を絶たない。
バラムを一目見ようと、カメラを手にフラットに押しかけて来る者もいて、レベッカは
『バラム君は現在、入院中です』
と、看板を立てた。
とにかく、物凄い反響だった。
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122レス 2077HIT ピノ (50代 ♀) -
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可愛いです!ポムポムプリンも昔ハマってました!サンリオのバッグとか財布…(匿名さん3)
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