Butterfly's memoir~第3章 命形~
『流産手術』をした日から…あっという間に1年半が過ぎた…。
曾祖母ちゃんは入退院を繰り返していたが、余命宣告された期日を過ぎても頑張って生きていた。
私は…流産手術を受けた次の月から学校は通信料に変更し、通信で勉強をしなが曾祖母ちゃんの面倒を見る道を選んでいた。
勿論…夜の仕事も辞め、竜彦と弘和とも別れ…曾祖母ちゃんに付きっきりの日々が毎日続いていた。
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曾祖母ちゃんは…
もう起き上がることも出来ず、1日の大半は寝たきりになっていた。
曾祖母ちゃんのベットの横には…
元気だった頃の曾祖母ちゃんの写真が飾ってあった。
クリスマス…一輝と私と曾祖母ちゃん、3人でツリーをバックに笑顔で写っている
お正月…私と父母、姉、妹と初詣へ行き破魔矢などを沢山持ち曾祖母ちゃんが真ん中でやはり笑顔で写っている。
曾祖母ちゃんが記憶があるうちにしたクリスマスとお正月の最後の写真だった。
曾祖母ちゃんはもう…笑うことも話すことも出来なくなり、体は骨と皮になってしまっていた…。
そんな曾祖母ちゃんでも…私には大事なおばあちゃんには変わりはなかった。
だから曾祖母ちゃんの世話はなるべく人に任せず自分でやった。
体を拭いたり、床擦れを起こさないようにこまめに体の向きを変えたり…。
もう1年以上続けていた為、腕にも筋肉がつき殆どの事を1人でこなせるようになっていた。
当初の私の本当の希望は…
『最期は病院ではなく自宅で…』
だった為、母や父に話し自分からこの道をかって出た。
勿論…反対され、喧嘩もしたが、私が勝手に学校を通信料に変更してしまった為、父も母も納得せざる負えない状況になり、仕方なく了承した。
私にとって曾祖母ちゃんはそれだけ大切な存在だった。
『自分の出来ることは、大切な人が生きていてくれるうちにしなければ後で必ず後悔する…』
流産を経験してから身をもって学んだことだった。
おばあちゃん…外はいい天気だよ。すぐ元気になるから、起きれるようになったら一緒に散歩に行こうね。
私は暇があればこうやって曾祖母ちゃんに何でも話し掛けた。
曾祖母ちゃんは口をポカンと開けたまま一点を見つめたままだったが、私にはそんなことは関係なかった。
仕事も辞め、彼氏もいないし、学校にも通わない私にとって曾祖母ちゃんが優位の話し相手であり、曾祖母ちゃんにとってもそれは同じだった。
曾祖母ちゃんは、いつもはこんな感じで反応はないが、月に一度…薬を切っている間の約2日間くらいだけ反応したり話したりすることがあった。
そうゆう時に決まって言う言葉があった。
それは…
『ありがとね』
だった。
たった一言だけど私には曾祖母ちゃんの気持ちは十分伝わっていた。
父の親戚の人には
「感謝されても貴重な高校生活は戻らないよなぁ」
とよく言われたが…私が選んだ道だから後悔はしていなかった。
確かに…
普通に考えれば高校生活の三分の二は『介護』で潰され、学生らしい経験も思い出もない…。
あるとすればたった1年の欲にまみれた学生生活のみしかない…。
でも…あの凄まじい程の欲を止めてくれたのは『曾祖母ちゃんの存在』と…『小さな小さな命の存在』だった…
『小さな小さな命』にはもう何もしてあげられない…
けど…『曾祖母ちゃん』にはしてあげられる…
私は、私を助けてくれた存在に恩返しをしたかった。
それに…
曾祖母ちゃんと一緒にいると自然と心が休まり、様々な『欲』や『悪漢』からも解放された。
日々、おばあちゃんに助けられていた私は曾祖母ちゃんの最後の願いを叶えてあげたかった。
その願いは、『家に帰ること…』
健康な人にはきっと『家に帰ること』なんて願う気持ちは分からないと思うが、家に帰れない人にとってはどんなことにも変えられない願いだった。
だから…連れて帰ることだけを目標に私は日々介護に励んだ。
そんな介護生活をする中、1人の男と知り合った。
それは2つ下の“斉藤晃”だった。
晃の母親は曾祖母ちゃんのいる病棟で働いていて、晃はよく病棟まで来ていた。
その晃の母と私は仲が良く、晃の母はいつも晃のことを私に相談するように話していた。
晃はね、中卒なのよ💨中学の時から本当に問題だらけで…高校もたった3ヵ月で退学になって💨
それからは本当毎日遊んでばかりでね💨
病院に来る時はお金を貰いに来る時だけ💨もうろくでもない息子だわよね💨
…等々…
晃は問題児らしい。
私はこの時、晃とはあまり接点はなく、話しもしたこともなかったが、晃の方は私のことをよく知っていたらしい。
晃は私とは同中学で、しかも…『亮』の後輩だった。
私は毎日病院に来ていた為、晃をよく目にすることはあったが、病院の外で見掛けたのは…
…あの日が初めてだった…。
いつも通り曾祖母ちゃんの世話をし、面会時間が終わる夜8時に病院を出た。
季節も秋になり涼しくなってきていた。
バスに乗る為に駅に向かってる途中…
若者同士の喧嘩を目にした…
1対5で明らかに不利な条件で喧嘩をしている中に晃がいた。
晃は5人相手にかなり頑張っていたが、途中から力尽きたのかやられ放題になり…。。。
喧嘩終了した時にはスッカリボロボロにやられていた…。
晃は、色々な場所から血を流し、立ち上がることも出来ないようだった。
私は、晃に声をかけた…。
大丈夫❓立てる❓
そう言い晃の腕を取り晃を支えて持ち上げた。
晃の身長は170くらいはあったが痩せた体質だからかかなり軽く感じた。
「申し訳ないです。」
茶髪でツンツンさせた髪、耳や口にあけられたボディピに似合わず丁寧な言葉使いだった。
病院に行く❓それとも家に帰る❓私…お母さん知ってるからお母さん呼ぼうか❓
晃はその全ての質問に対し首を横に振った。
暫くは私が晃を支え、晃は足を引きずりながら歩いていたが、駅も近くなり…
『このままおいては帰れないな…』
そう思い、晃に話し掛けた。
うちに来る❓曾祖母ちゃんの家だけど、今、私1人しかいないから。
晃は一瞬私の顔を見たが、すぐに目を逸らし
「すみません。お願いします。」
と言った。
『この状態でバスには乗せられない…』
私は、タクシーで帰ることにした。
晃を先にタクシーに乗せたが…かなり体が痛いらしく引き摺っていた足を嶮しい表情で押さえながら少しずつ奥に詰めていった。
もう大丈夫‼このくらいのスペースあれば乗れるから‼
あまりにも辛そうだった為、かなり狭かったが少しだけあいたスペースに身を小さくして乗り込んだ。
家の前へつき、晃の体を支えながらタクシーを降りた。
玄関をあけ、先に晃を中に入れた。
「お邪魔します」
晃はそう言い痛々しい体を引きずりフラフラしながら入っていった。
晃はリビングに入ると曾祖母ちゃんのいた場所に座り、コタツの上に無造作に置いてあった曾祖母ちゃんの作った新聞広告の小物入れやコースター等を手に取りマジマジと見始めた。
その姿を見た時の晃に対しての初めての印象は…
『(笑)なんか…変わった子だな…』
だった。
私は曾祖母ちゃんの作った小物に夢中になっている晃を横目にお風呂を入れたり、ご飯を作ったり…と家事をこなしていった。
晃君だよね❓お風呂…沸いたけど入れる❓
私がそう話しかけると
「はい。多分入れると思います。」
晃は静かに答えると足を引きずりながら風呂場へ向かって行った。
『着替え…ないや』
私は脱衣所に行きバスタオルだけを置き財布を持って足早にコンビニに向かった。
コンビニにつくと…男性用のトランクスと黒いTシャツを買いまた足早に家へ戻った。
晃はまだお風呂に入っていた為、脱衣所へ行きバスタオルの上にトランクスとTシャツを置き、リビングへ戻った。
ご飯の準備もでき、料理をお皿に盛り付けていると晃がお風呂から上がってきた。
そして、私の顔をチラッと見てまた目を逸らすと
「着替えとかありがとうございました。後でお金は払います。」
そういい頭を下げた。
そんなに高い物じゃないし、お金はいいよ。それよりご飯出来たから食べれたら食べて。
私はそう言い晃を椅子に座らせた。
「すみません」
晃はそう言うとご飯を少しずつ食べ始めた。
口の中がしみるのかたまに顔をしかめながら食べていた。
食べ終わるのにはかなりの時間がかかったが綺麗に残さず食べてくれた。
お皿の物が全部無くなった後…
「あの…これ、おかわりしてもいいですか❓」
と言い私に小鉢を差し出してきた。
この小鉢にはキュウリとワカメの酢の物が入っていた。
酢の物、好きなの❓
私がそう聞きながら小鉢に酢の物をよそっていると…
「いや…普段はあまり食べないんですけどカズハさんが作ったのはおいしかったんで…」
と小さい声で言った。
本当に(笑)酢の物誉められたのは初めてだけど、美味しくて良かったよ。
そう言い小鉢を晃に渡した。
晃は小鉢を受け取るとまた顔をしかめながら食べ始めた。
晃が食べているのを見ながら
『そう言えば…』
ふと先程の晃との会話を思い出し、晃に聞いた。
晃君は私の名前知ってたの❓
晃は私の方は見ず、酢の物を食べながら話しをし始めた。
「はい。前から知ってました。俺の先輩に亮って先輩がいて…話しは聞いたことはありましたし、学生の時に何度かカズハさんのことも見掛けたことありましたんで。最近はよく病院で見掛けたりもしてたんで顔と名前くらいは知ってました。」
そうなんだ……。
私は、『亮』の名前を聞き…あの“裕子の事件”を思い出し…晃がどこまで知っているのかが気になりまた晃に質問した…。
亮とは仲良かったの…❓今は付き合いあるの…❓
晃はまた私の方を見ることなく話し初めた。
「今は…もう付き合いはありません。学生の時も族の集まりや走る時に一緒だったってだけなんで…そんなに関わりはないです。それに…俺…、あまりあの先輩好きじゃなかったんで。」
そっか。私もあまり好きじゃなかったから色々気になっちゃって💦なんか…色々聞いちゃってごめんね。
「いえ。大丈夫です。」
私は晃があまり亮には関わりがなく学生時代のことも詳しくは知らないことにホッとして食器を片付け始めた。
晃は『邪魔になるといけないんで。』と言いコタツ側へ移動してまた曾祖母ちゃんの場所へ座り曾祖母ちゃんの作った小物を弄りながらボーっとしていた。
食器を洗いながらたまに晃に目をやった。
晃がいると何故だか不思議と気持ちが落ち着き、曾祖母ちゃんが家にいた時の空気を感じることが出来た。
まだ出会って間もなく話しをしたのも今日が初めて…なのに、不思議と前から知っているような…初めて話したと思えないような不思議な感じがした。
『晃といると落ち着く…』
そんな不思議な空気を感じながら、黙々と食器を洗った。
食器が洗い終わったと同時くらいに晃が私に話し掛けてきた。
「すみません…ちょっと電話借りても大丈夫ですか❓」
うん。いいよ。てか…携帯とか持ってないの❓
晃は少し沈黙した後…
「すみません。俺があまりにも使い過ぎるんで親に解約されちゃって…」
と小さい声で言った。
晃がなぜだか急に可愛く見え私は笑いながら返事をかえした。
あっ(笑)そうなんだ(笑)私は別に構わないけど、番号出したくなかったら番号通知消して。
そう言い携帯を渡した。
「すみません。ちょっと借ります。」
そう言いリビングを出て廊下へ歩いていった。
20分くらいして晃が帰ってきた。
「携帯、ありがとうございました。…あの、今日泊まらせて貰ったらダメですか…❓」
私はなぜだか晃は『安全』だと感じ、
いいよ。
と即答で返事をし、
私の部屋は狭いから、コタツよけてリビングで寝てくれる❓布団、ここに持ってくるから。
そう話した。
晃は
「はい。分かりました。後…布団重たいんで俺が運びます。」
そう言い、私の後をついて来て押し入れから布団を取り出しリビングへ運んでいった。
晃がコタツをよけ布団を敷いたのを確認すると、私は『明日、病院行くの早いから。もう寝るね』そう言い、自分の部屋へ向かった。
晃は
「はい。おやすみなさい」
そう言い布団へ潜り込んだ。
私はお風呂に入り、寝支度をすまし、布団に倒れるように横になった。
『今日も疲れた…でも…あの晃って子…不思議な子だな…』
そんなことを思いながら眠りについた。
その日の夜中………
モゾモゾする感触に気づき目を覚ました。
隣を見ると……
晃が私の布団に入り私に抱き付いて寝ていた。
ちょっと‼何してんの⁉
私がそう言うと…
「なんか怖くて…何もしないんで一緒に寝てもいいですか❓」
と言った…
怖いって❓何が❓
その返事は…
「さっきトイレ行ったんですけど…動いてないのに軋む音とかしてきて…俺…幽霊だとかマジ苦手で⤵走って布団に戻ったんですけど、ミシミシ音が鳴るんで寝られなくて…」
だった(笑)
私は笑いながら晃に言った。
家が古いからそうゆう軋む音は仕方ないんだよ。幽霊とかじゃないよ(笑)
そう言ったが晃は本気で怖がっていたので一緒に寝てあげた。
晃は私に抱き付きながら寝息を立て初め、数分後には爆睡していた。
私は爆睡した晃の顔を見ながら、
『年下って可愛いいな…』
と思っていた。
今まで付き合ってきた男性や周りにいた男性は
『年上か同じ年』
しかいなかった為、初めて味わう感じだった。
年上はやはりしっかりしていて頼りがいがあり、人生経験もあるし、甘えられる。
同じ年は頼りがい等は年上と比べると乏しいがどちらが上、と言う訳ではなく全てにおいて平等にいられてお互いいい刺激にもなる。
だけど年下は…
『私がいないとダメかもしれない』等…母性本能をくすぐる何かがあった。
今までの男性とは違う新鮮さを感じ、晃に対して何か特別な感情が芽生え初めていた。
朝…目を覚ますと晃はまだ寝息を立てていた。
私は、晃を起こさないように布団を出るといつも通り病院へ行く準備を始めた。
曾祖母ちゃんの新しいパジャマや下着を用意し、髪をとかし、軽く化粧をした。
いつも通り家を出ようと玄関まで行き、ふと気付いた。
『あ…、晃がいたんだった』
私は晃がいるのを思い出し、足早に自分の部屋へ戻っていった。
ドアを開け布団の方を見ると…
晃はまだ寝ていた。
晃君❓晃君❓
私は、名前を呼びながら晃の体を揺すった。
「…ぁい……」
晃はそう返事をしながら薄く目をあけた。
私、そろそろ家出ないといけないんだけど、晃君どうする❓
晃は眠そうな顔をし目をこすりながら
「体中痛くて…ちょっと今すぐは動けそうにないです…」
『なにぃ⁉動けないぃ⁉⁉』
心の中ではそう思ったが……
💨そっか…昨日の今日じゃ仕方ないか…。私が帰ってくるまで寝てる❓
そう聞くと…
「すみません。カズハさん帰ってくるまで大人しく寝てます…」
と言った。
💨分かった。
そう言い、部屋を出て行こうとすると…
「あの…寂しいんで早く帰って来て下さいね…」
と晃が飼い犬のような…すがるような眼差しで私を見つめながら言ってきた。
それを見た私は胸がキュンとする感覚を覚え…気がつくと晃を見ている私の胸は高鳴っていた…。
暫くは晃を見つめていたが、部屋の時計を見て
『バスの時間…やばい💦』
と我に返り、少し焦りながら、
…うん。分かった。なるべく急いで帰ってくるね。
と優しく微笑みながら返事をした。
それを聞いた晃も可愛く照れたように微笑み、安心したように布団に潜り込んでいった。
私は、急いで家を出てバス停まで走った。
なんとかギリギリ間に合い席に座りながら『ハアハアハア…』と息を切らし暫く胸を押さえていた。
息を切らしている間も…晃の存在は必ず私の頭のどこかにあり…思い出す度に胸は高鳴った…。
病院へつき、曾祖母ちゃんの身の周りの片付けや曾祖母ちゃんの世話をし始めた。
曾祖母ちゃんの世話をしている間は晃のことを思い出すことはなかった。
片付けや世話が一通り終わった頃…曾祖母ちゃんのご飯が運ばれてきた。
気がつくと時計の針はお昼になっていた。
曾祖母ちゃんの口にご飯を運ぶが…体調が良くないのか…あまり食べてはくれず、早々に薬を飲ませて休ませた。
曾祖母ちゃんのご飯を下げ、箸やスプーンを洗いながら…
『そう言えば…晃の昼ご飯…用意してなかった』
ふと晃の存在を思い出し、洗った箸とスプーンを布巾で拭きながら公衆電話へと向かった。
『プルルルル…プルルルル…プルルルル…プルルルル……』
何度もコールを鳴らしたが、やはり晃は出なかった。
『家の電話だから…出る訳ないか…』
晃のことが少し気になったが、何か適当に食べていてくれるだろう…と思い曾祖母ちゃんの元へ戻った。
夕食までの間は曾祖母ちゃんの体制をこまめに変えたりしながら勉強をした。
通信とは言えどテストもあれば課題もある。単位を落とせば…留年もある…。
卒業まで残り少ない為、最後まで気を抜かず無事に卒業したいと空いた時間を有効に使い勉強に励んできた。
『曾祖母ちゃんに卒業証書を見せてあげたい』
勿論、こんな思いもあった。
ただ…卒業後の進路についてはまだ何も決めてはおらず…金銭的な理由もあり進学は諦めていたが、就職するにも…私にはやりたいことも夢もこれと言ってなかった…。
卒業してもその後フラフラしていたらそれこそ頑張って高校を卒業した意味が無くなってしまう。現実は頭では分かっていたが…卒業間近の今時期になっても進路を決められないでいた。
私にはこれと言って資格もなければ得意分野もない。
あえて言えば…『介護』に慣れている…多少は知識がある程度だった。
介護関係の仕事に就こうかとも何度も思ったが……曾祖母ちゃんの面倒だからこそ辛くても諦めることなく介護をしてきた。
その現実を考えた時、他人の世話を曾祖母ちゃん同様に誠心誠意こめてできるか…汚いことでも我慢出来るかを考えてみた時、
『多分…無理だ…』
と肩を落とす自分がいた。
介護を仕事としてしていく自信は…私にはなかった。
その為、先々の見通しがつかなくなり勉強をしながらも卒業後のことは頭からは離れることはなかった。
今日も…いつもと同様…勉強をしながらため息をつく自分がいた。
そんなことを考えながらため息をついている間にあっという間に夕食の時間になってしまっていた。
病院の夕食は夕方6時の為、1日の時間が早く感じる。
『ハァ…今日ももう1日終わりかぁ…』
そんなことを思いながら曾祖母ちゃんを起こし、夕食を食べさせた。
昼食よりは食べてくれた為、夕食の残量記載はあまりせずに済んだ。
曾祖母ちゃんはご飯の食べにかなりむらがある為、ご飯終了時には必ず専用の表に残量記載をしなければならなかった。
今日は、お粥以外は殆ど三分の二以上は食べてくれたし、曾祖母ちゃんの大好物の『温泉卵』が出た為、曾祖母ちゃんも心なしか笑顔が多かった気がした。
『今日は、状態も良さそうだし、早く帰宅しても大丈夫そうかな』
私は曾祖母ちゃんに薬を飲ませ寝かせると手慣れたように身の周りの片付けをしいつもよりも1時間早い夜7時に病院を出た。
いつもより早いバスに乗り、いつもより早く家についた。
家の中からは明かりが洩れていて、それが凄く嬉しかった。
いつもは…家は真っ暗で私が電気をつけない限りは明かりがつくことはない。
その為、明かりがついている家に帰宅したのが本当に久しぶりで嬉しくて、自然と胸は高鳴り笑みがこぼれた。
ただいま‼
そう言いリビングの戸を開けると曾祖母ちゃんの場所に座りながらテレビを見ていた晃が
「☺おかえりなさい」
と笑顔で返してくれた。
私の顔も自然と笑顔になった。
あっ…お昼、何か食べた❓
ふと思い出し晃に聞いた。
「大丈夫ですよ。適当に作りました」
え⁉何作ったの⁉
「あ…作ったって言うか…おにぎり握って食べました(笑)俺、料理全く出来ないんで(笑)」
と言い少し恥ずかしそうに笑った。
そんな晃が可愛くて私からも笑いがこぼれた。
暫くの間、今日の1日の病院での出来事を晃に夢中で話していたが、話が一区切りついた所で時計に目をやると…
…夜10時を回ってしまっていた。
あっ…ごめん…お昼おにぎりしか食べてないのに…もうこんな時間…。。。ごめんね…。
私は少し落ち込みながら晃に謝った。
「いや💦別に全然大丈夫っす💦けど…ちょっとお腹すいちゃったかも…」
『今から作ってたんじゃ…時間がかかる…』
そう思った私は『ピザ』をとることにした。
晃も子供のように喜び、2人で仲良く話し合いながら、Lサイズのハーフ&ハーフとサイドメニューを沢山頼んだ。
会計は8000円近かった。
学校を通信にしてからは友達との付き合いも殆ど無く、あるとしたら裕子と由美の子供が産まれた時に会いに行ったくらいしかなかった為、久しぶりの感覚にストレスも解消された気がした。
『お金を使ってストレス解消』
…これはあまりよくないことなのは分かっていたが、晃との時間が楽しすぎて別にいっか…と軽く流してしまっていた。
私と晃はお互いの色々なことを話ししながらピザにかじりつき、久しぶりにお酒で乾杯した。
色々と話しているうちに私は晃君から『晃』、晃はカズハさんから『カズハ』に自然に呼び方も変わっていた。
盛り上がっているうちに時計の針は夜中1時になっていた。
あっ…もう1時かぁ…明日朝早いし、明後日学校の卒業がかかった試験があるんだ。本当に悪いんだけど…もう寝るね。
私は晃に謝りながら話し掛けた。
「俺こそマジごめん。カズハは俺みたいに暇人じゃないの忘れてた(笑)俺も片付け手伝うし、俺ももう寝るよ」
そう言い、片付けを手伝ってくれた。
片付けが終わり寝支度をしていると…
晃が、『リビングで1人で寝るのは怖い…』とまた私に必死に(笑)訴えてきた為、私の部屋で一緒寝ることにした。
私の隣に布団を敷き、私の方を向きながら晃は眠りについた。
私も…晃の顔を見ながらウトウトし始め、眠りについた。
眠りについた後…
『プルプルプルプル…プルプルプルプル…プルプルプルプル…』
凄まじい電話の鳴る音に気づき…時計に目をやった…。
『…4時…』
私は眠すぎて一度は布団に潜り込んだが鳴り止む様子のない電話に諦め、重たい体を起こしリビングまでフラフラと歩いていった。
『頭痛い…』
偏頭痛を感じながらも電話の受話器を取った。
「もしもし⁉○○病院ですが、松岡さんのお宅でよろしかったでしょうか⁉」
『病院…❓』
ボーっとする頭を必死に起こしながら、
はい。そうですけど…あの…
そこまで言いかけた時………
「松岡富江さんの容態が急変しました。心停止状態が長く続いていた為、まだ脈拍心拍数共に安定しておりません。ご家族の方にお集まり頂いた方が宜しいかと思います…」
………『……………』
わ…かりました……今………今すぐ向かいます………。
私は…頭が真っ白になり…何も考えられない状態のまま返事をし…何も感じることが出来ないままタクシーを呼んだ…。
髪もとかさず…パジャマ代わりに来ていたスエットのまま…携帯と財布だけを握り締めタクシーに乗り込んだ…。
タクシーの運転手さんが何かを話してる…
ボーっとする頭を呼び覚まし…耳を必死に傾けた。
「お客さん❓どちらへ向かいますか❓」
あっ……すみません…えっと……あの………。○○病院まで…。
「はい。分かりました。」
『ピッ』
タクシーの運転手さんはメーターのボタンを押すと静かに走り出した…。
私は何故か…タクシーに乗っている間は、ずっとタクシーのメーターだけを見つめていた。
数字が上がる度に…チラッと前方を見てはまたメーターに視線を戻し…。
暫くはその繰り返しだった。
段々と…見慣れた街並みになり…目的地の『病院』が近いことを肌で感じた…。
『もう少しで…着く…』
病院が近くなるごとにもの凄い不安と恐怖に襲われ、体中から血の気が引いていく感覚に呑み込まれて行った…。
急に目眩がして目を瞑ったまま額に手を当て俯いた。
その時…
『ピリリリリ…ピリリリリ…』
携帯が鳴った…。
着信を見てみると公衆電話からだった。
はい…もしもし…。
もしもし❓カズハ❓今どこ❓病院向かってるの❓
電話を掛けてきたのは母だった。
うん…。今…タクシーの中。お母さんは…❓
私達はもう病院についてるよ。…カズハがまだだって聞いたからちょっと電話してみたんだけど。向かってるなら良かった。
お母さん…❓………曾祖母ちゃん…は❓
うん。今お医者様が色々してくれてるから。『危篤』だって連絡来た時は本当にビックリしたけどね…。
『…危篤…』
母に言われるまで何も実感なく何も考えられなかった頭の中で『危篤』の2文字がグルグル回り…何度も何度も頭の中を廻った…。
また目眩に襲われ受話器をあてたまま俯いた。
カズハ…大丈夫❓
母の声が聞こえ…俯いたまま私は話し始めた。
お母さん…。曾祖母ちゃんね…今日、夕ご飯一杯食べたんだよ…。『温泉卵』食べながら…ニコニコ笑ってたんだよ…………
…そこまで話した時、曾祖母ちゃんの嬉しそうな顔がいきなり浮かび上がってきて…私は家を出てから初めて涙を流した。
大粒の涙がポロポロ…ポロポロととめどなく頬をつたっていった。
カズハ…。曾祖母ちゃん…きっと頑張ってくれるよ。カズハが卒業するの…あんなに楽しみにしてたんだもん。
…うん…。
…じゃあ私達は病院で待ってるから…ついたら曾祖母ちゃんの部屋に来なさいね…。
…うん……。
母はそう言うと静かに電話を切った。
タクシーの運転手さんも状況を悟ったのか…悲しそうな表情をしながら運転していた。
電話を切ってから数分後…病院へついた。
運転手さんに料金を支払い、タクシーを降りようとした時…
容態良くなるといいね。頑張ってね。
とタクシーの運転手さんが声をかけてくれた。
私はお辞儀をすると走って曾祖母ちゃんの病室へ向かって行った。
曾祖母ちゃんの病室に行くと、曾祖母ちゃんはいなかった…。
『いない…なんで…』
私は慌ててナースステーションへ向かい、そこにいた看護師さんに叫ぶように聞いた。
あの‼曾祖母ちゃんは‼松岡富江は⁉
あっ、カズハちゃん。富江さんなら今さっき…向こうの個室に移ったの…。
いつも曾祖母ちゃんに薬を持ってきてくれる看護師さんが言った。
分かりました‼あの、ありがとうございます‼
私はお礼を言うと教えて貰った個室に走って行った。
個室へつき、ドアを開けると…
父、母、姉、妹、祖父、祖母、親戚のおじさん夫婦が曾祖母ちゃんのベッドを囲むようにして立っていた。
ばあちゃん‼ばあちゃん‼
私は走ってベッド横へ行き曾祖母ちゃんを呼びながら、手を握り締めた。
ばあちゃん‼ばあちゃん‼来たよ‼ばあちゃん聞こえる⁉
曾祖母ちゃんは…目を瞑ったまま反応しない。
ただ、脈拍心拍を表すベッドサイドモニターが『ピッ…ピッ…』と音を立てながら動いているだけだった。
私は、曾祖母ちゃんの手を握り締めながら祈り続けた。
『まだ…曾祖母ちゃんを連れて行かないで…お願いだから…まだ…連れて行かないで…』
私は曾祖母ちゃんの手を握り締めたまま誰とも話すことなく何時間も何時間も祈り続けた。
気がつくと…外は明るくなり、母以外は病室にはいなかった。
顔を上げた私に母が静かに近づき、話しかけてきた。
カズハ…明日、最後のテストがあるんでしょ❓さっき先生から話しがあって、容態が安定してるから今すぐにどうこうなることは無いって…。今日は私が曾祖母ちゃんに付き添うから、カズハは家に帰ってゆっくり休みなさい。明日、テストもちゃんと受けて、テストが終わったらまた病院来なさい。
……え…でも……でも……
私は…曾祖母ちゃんの手を離してしまったらすぐにでも曾祖母ちゃんが逝ってしまいそうな気がして…母の顔を見ながら詰まるように言葉を発した…。
すると…母は私の肩に手を置きながら…
曾祖母ちゃんはカズハのこと一番好きなんだもん。カズハがいない間に逝ったりしないよ…。それに…卒業するの一番応援してくれてたんだもん。だから今も頑張ってるんだと思うよ。だから…曾祖母ちゃんの為にもしっかりテスト頑張ってきなさい。
と言った…。
母の言葉の中の…
『曾祖母ちゃんのため』
と言う言葉を聞き、私は…黙って頷いた。
『曾祖母ちゃんに卒業証書見せてあげたい…』
私はその思いだけを抱きながら…曾祖母ちゃんの手を静かに離した…。
私は母に連れられて曾祖母ちゃんの部屋を後にした。
睡眠時間も短く、フラフラしていたし、服装も部屋着のままだった為、バスではなくタクシーで帰った。
家につくと…晃が台所で何かを作っていた。
起きてたの…❓
私は静かに話し掛けた。
「うん。起きたらカズハいなかったから…適当にご飯作ってた。…今日は病院行かなくていいの❓」
…もう行ってきた。…今病院から帰ってきたの…。
晃は私の顔を見て何かを察したのか…今まで動かしていた手を止めて私の側まで歩いてきた。
そして…
私のことを曾祖母ちゃんの場所に座らせた。
「…曾祖母ちゃんに何かあったの❓」
晃が小さい声で聞いた。
私は、早朝の出来事を涙を流しながら晃に話した。
晃は、私の話しを聞きながら心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
話し終わり、暫く泣いていると晃が話しかけてきた。
「曾祖母ちゃんは…大丈夫だよ。カズハが今まで頑張って看病してきたんだから…また元気になるよ。…俺、カズハといるのが楽しくて…カズハにちょっと甘えてた。もうちょっとしたら…帰るね。カズハはゆっくり寝て明日に備えた方がいいよ。」
そう言うと晃は、立ち上がり、台所へ行きおにぎりと味噌汁を持ってきて私の前に静かに置いた。
そして、
「カズハが寝たら帰るから。ご飯はちゃんと食べた方がいい…だから、一緒に食べよう」
そう言い私に微笑みかけながら、晃はおにぎりを大口をあけて食べて見せた。
…晃の気持ちが嬉しくて、…少しずつだがおにぎりを口に運んだ。
おにぎりの中にはいつか曾祖母ちゃんが漬けてくれた梅干しが入っていた。
曾祖母ちゃんが作ってくれたおにぎりも…この梅干しがいつも入っていた…。
手作りの梅干しだった為、市販されている梅干しよりもかなりしょっぱい。
だから…好き嫌いがハッキリ分かれるし、若い人にはあまり人気はないと思っていたが、晃に梅干しのことを聞くと…
『この梅干し、俺好きなんだ』
と返事が返ってきた。
曾祖母ちゃんの梅干しを『しょっぱい』と言う子は沢山いたが、『好き』だと言われたのは初めてだった。
美味しそうに食べる晃を見ながら…晃に依存して行くのを肌で感じ初めていた。
『晃がいないと…ダメかもしれない…』
男の人に対してこれだけの強い気持ちを抱いたのは初めてだった。
この日…ご飯を食べ終えると晃は片付けをし、私を部屋まで連れて行った。
私が布団に入った後は、隣に座り、いつも曾祖母ちゃんが見ていた週刊誌を見ていた。
この時…私の頭の中は『曾祖母ちゃんがいなくなる事への不安』と『晃がいなくなることへの不安』で一杯になっていた。
晃を見ていたら…不安なのを我慢することが出来なくなっていき、晃に聞いてしまっていた。
晃…本当に帰っちゃうの…❓次は…いつ会えるの❓
「うん。今日は帰るよ…。俺は暇だからいつでも会えるけど、カズハがそうは行かないでしょ❓だから、俺の家電の番号教えておくから会えるようになったら電話してよ。」
そう言い、私の携帯を手に取ると番号を押しワンコールした。
「これ、俺ん家の番号だから。ちゃんと登録しといてね。」
私に携帯の画面を見せながら晃はそう言った。
私は『うん』と頷き番号を登録すると…携帯を手に握り締めたまま眠ってしまった。
目を覚ますと晃の姿はなかった。
ただ…手に握り締められた携帯には晃の家電が登録してあり、それを何度も見て『いつでも会える…』と何度も自分に言い聞かせた。
時間は朝6時だった為、朝食とお弁当を作り、ゆっくり準備をしゆっくりご飯を食べ、7時30分に家を出た。
学校へ着くとまだ誰も来ておらず、適当な席に座り、苦手な教科の復習を始めた。
一通り復習し終わった時には見たこともない生徒達が沢山教室にいた。
『通信してる人って結構いたんだな』
素朴にそう思いながら周りをキョロキョロしていると1人のかなり明るい男子が話し掛けてきた。
「ここ💡隣に座ってもいい❓」
椅子に手を置きながらポンポンと叩いた。
あっ…どうぞ…。
私がそう返事をすると『じゃ、お邪魔します💡』と明るく言い私の隣の席に座った。
その男子生徒は隣に座った後も私に気さくに話しかけてきた。
テストの山はどこらへんだと思うか、最後のテストだから難しいか、等々…
とても積極的で気さくに話しかけてくるしかなり明るい人だった為、慣れるのも早く、お昼ご飯も一緒に食べた。
無事にテストが終わり、帰り支度をしながら携帯に目をやった。
『着信1件、留守電1件…』
と表示があった…。
ゆっくり指を動かし恐る恐る見てみると…
『公衆電話』
からだった…。
『まさか……』
私は急いで留守電のメッセージを聞いた…。
「カズハ…学校が終わったらすぐに病院に向かいなさい。」
母からのメッセージは…この一言だけだった。
急に血の気がひき…涙が凄い勢いで溢れ出した…。
私が必死に勉強道具等をカバンに押し込めるようにしまっていると、先程の男子生徒が話しかけてきた。
「どうしたん❓大丈夫❓」
私は…溢れ出る涙を手で拭いながら、
曾祖母ちゃんが…入院してて……………。
と言った。必死に絞り出して出た言葉だった。
それを聞き、私の涙を見た男子生徒は、
「俺、車で来てるから病院まで送ってく。急ごう。」
そう言うと私のカバンを持ち、私の手を引きながら走った。
私は手を引かれながらずっと溢れ出す涙を拭っていた…。
彼は、私を車に乗せると私が告げた病院まで送ってくれた。
病院へ着くと、『早く行きな』といい私のカバンを後部座席から持ってきてくれた。
ありがとう。
私はそう一言伝えると、階段を駆け上がり…曾祖母ちゃんの部屋向かって必死に走っていった。
曾祖母ちゃんの部屋のドアをあけ、部屋に入った…。
私の耳に入ってきた最初の音は…姉と妹のすすり泣く声だった…。
恐る恐る曾祖母ちゃんに近づくと…
曾祖母ちゃんは…もう虫の息だった…。
ばあちゃん…⁉ばあちゃん⁉
私が曾祖母ちゃんに話しかけると…脈拍心拍共に一瞬『ピッ』と上がった……。
それを見た私は…
『ばあちゃん私のこと分かってる…』
そう思い、曾祖母ちゃんの手を握り締めながら曾祖母ちゃんにいつも話しかけていたように話しかけた…。
ばあちゃん…テスト無事終わったよ。難しかったんだよ。ばあちゃんは、今日は何してたの…❓
話しかけると…やはり脈拍心拍ともに一瞬上がる…
曾祖母ちゃんの声は聞こえないけど…曾祖母ちゃんと話しているようで脈拍心拍が上がる度に、私は相づちを打った。
うん。うん…。そっか…。ばあちゃん…頑張ったね…。ばあちゃん…苦しかったね…。
そう言った瞬間私の目からは大粒の涙が溢れ出しポロポロと流れ落ちた…。
私は流れ落ちる涙を必死に我慢しながらまた…曾祖母ちゃんに話しかけた…。
ばあちゃん…私、ばあちゃんと一緒に暮らせて良かった。ばあちゃんと…一緒にいられて良かったよ。ただ…ばあちゃんの最後のお願い…きいてあげられなくて…ごめんね……。家に……連れて帰ってあげられなかった……私…ばあちゃんに…嘘……ついた…。ばあちゃん…ごめんね……ばあ…ちゃん……ごめん…ね…。
それを聞いた曾祖母ちゃんの脈拍心拍は『ピッ…ピッ…』と2回程上がり…
弱々しく
『ピッ…』
と1回上がり……
『ピーーー…』
と鳴った…。
脈拍心拍共に数値は“0”になり…
『ピーーー』という音だけが…病室に響き渡った…。
それを見た私は…平常心が保てなくなり…
ばあちゃん‼ばあちゃん‼まだ‼まだ卒業証書見せてないよぉ‼ばあちゃん‼お願いだから‼まだ逝かないでよぉ‼‼‼
といい曾祖母ちゃんの体を力一杯揺らし続けていた…。
お願…い‼ばあ…ちゃん‼嫌だよぉ…
そう言い泣き喚く私の体を祖父が抱きしめ…
「カズハ…おばあちゃんのこと…もうゆっくり休ませてあげよう。カズハ、ありがとな…」
そう言い…私を抱きしめながら祖父は泣いていた…。
私は祖父に抱きつきながら大声で泣き続けた…。
『曾祖母ちゃんの最後のお願いすら聞いてあげられなかった…』
曾祖母ちゃんとの生活の中で、曾祖母ちゃんと2人で生きてきた私にとって、一生後悔してもしきれない程、悔やんでも悔やみきれない程…自分を責めたことだった。
今でも…『危篤』と言われた時に、何故連れて帰ってあげなかったのか…と心を痛めることがある…。
今になっても悔やむ程………
それだけ、私にとっては辛いことであり…辛い経験だった…。
曾祖母ちゃんが亡くなった後、曾祖母ちゃんは体を綺麗にしてもらい、口や鼻に綿をつめてもらい…その姿で家へ帰宅した。
家へ着き、曾祖母ちゃんをいつも使っていた布団に寝かせながら
『やっと帰ってこれたね。ばあちゃんおかえり。』
と私は静かに言った。
曾祖母ちゃんの隣に座り、曾祖母ちゃんの唇に大きな綿棒で水を含ませ、塗り…曾祖母ちゃんを見つめ…また塗り…を繰り返していると…母が私の隣に来て、私が来る前の曾祖母ちゃんの様子を話してくれた。
曾祖母ちゃんは、私が到着する1時間程前に一度心拍が止まったらしい…。
その時…母が
『カズハがもう少しで来るから…もう少し待ってあげて下さい』
と曾祖母ちゃんに話し続けたらしい…。
曾祖母ちゃんは…弱々しいくだが、私が到着するまではずっと頑張ってくれて私が来てから逝ったらしい。
「曾祖母ちゃん…カズハのことちゃんと待ってたんだよ」
母はそう言い私の肩を抱き寄せた。
話しを聞きながら…曾祖母ちゃんの気持ちが嬉しくてまた大粒の涙を…ポロポロと流した。
『曾祖母ちゃん待っててくれてありがとう』
と心の中で何度も何度も繰り返しお礼を言った。
曾祖母ちゃんの火葬、葬儀共に無事に終わり、親戚等も帰り、曾祖母ちゃんと2人きりになった。
2人きりと言っても…曾祖母ちゃんは写真と位牌になり仏壇に入っていた。
曾祖母ちゃんに線香を上げながら…私はよく火葬場のことを思い出した。
曾祖母ちゃんが煙になって空に上がって行くのをずっと見ていた時のこと…それまでは私の気持ちは晴れることはなかったが、曾祖母ちゃんが空に上がっていくのを見て、
『曾祖母ちゃんは天国にいったんだ。頑張って生きたんだ』
と思えて…煙を見ているうちに私の気持ちは晴れていった…あの煙を思い出すと、不思議と心が落ち着いた。
だが…暫くは線香の煙を見ながら、曾祖母ちゃんの写真を見て過ごす日々が続いた。
1、2週間はそんな毎日だったが、徐々に1人と仏壇の曾祖母ちゃんとの生活にも慣れ、1人で駅に買い物に行ったり、祐子や由美の家に遊びに行ったり…と普通の生活に戻っていった。
曾祖母ちゃんが亡くなってから約1ヶ月が経とうとしていた頃…
私の携帯に見知らぬ番号からの着信があった。
着信の履歴を見てみると…
20件表示のうち全てがその見知らぬ番号で埋め尽くされていた…。
『何これ…誰…だろう…』
私は、少し動揺していたがその番号に電話を掛けてみることにした。
『プルルルル…』
「もしもし⁉」
ワンコールで番号の主は出た…。若い女の声だった。
あの…どちら様でしょうか❓
「あの‼晃と今いますか⁉」
いえ…居ませんし…もう大分会ってませんけど…。
「…あの…晃とはどうゆう関係ですか❓晃からは…男の先輩って聞いていたんですけど、この携帯はあなたの携帯ですよね⁉」
………はい…。携帯は…私のです。晃とは…中学の時同じ中学で…。私は晃の2つ先輩です…。
「あっ💨そうなんですか💨じゃぁ‼付き合ったりするような関係ではないんですよね⁉」
…はい。。。あの…なんで私の番号知ってるんですか❓
「あっ‼前に晃から電話きた時、この番号で来たんで、登録しといたんです‼勝手に登録しちゃってすみません💦」
…………
『あっ…そう言えば一度だけ…晃に電話貸したことあった…』
彼女にそう言われて私は思い出した…。
私は電話をかける前よりも…正直動揺していたが、聞かずにはいられない気持ちにかられ、彼女に質問をした。
あの…晃とはどうゆう関係なんですか❓
「あっ💦いきなり電話して自己紹介もなくてすみません。私“荻野茜”と言います。晃とは付き合ってます。」
あっ…晃の彼女…なんだ❓
「はい💡晃とは中2から付き合ってて。ただ…最近全然連絡が取れなくて困ってたんです⤵晃、携帯とかも持ってないし…もしかしたら一緒にいるかな❓と思って連絡したんですけど…」
…そう…なんだ…。
私は『明らかに動揺しまくり』、『言葉に詰まりまくり』だったが気持ちを落ち着かながら晃の彼女の茜に言った。
自宅には…電話してみた❓
晃の彼女の茜はその質問にはすぐに答えず、一瞬考えるように沈黙した後、話し始めた。
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