運命
もしも…
もしも神様が本当に居るなら、聞いてみたい。 2人が出逢った事に 意味はあるのですか。 いつかは、この苦しさから解放されますか。 この苦しみしみから 抜け出せるなら 今までの29年間の記憶なんて全部無くしてもイイです。
※初めての小説です。 ド素人なので誤字脱字、文章もメチャクチャかも知れないですが、 宜しくお願いします。
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トシ君と出逢ったのは
今から9年前。
私が20歳。
トシ君が26歳の時だったね。あの頃の2人は、
今が楽しければそれで良くて、周りの事なんて何も考えて無かった。
当時私は新婚。
トシ君は友達の旦那様。
私は19歳の時、半年付き合った彼氏と結婚。
結婚すれば、幸せになれると信じて疑わなかった、若かった私。
旦那22歳。
プロポーズも結婚式も
経済力も何にも無い、
おままごとみたいな
2人の生活は、結婚後数ヶ月て歯車が狂いはじめた。
結婚したら専業主婦になって、毎日、旦那様の帰りを待つ。
それが夢だった私。
毎日家に居る私に
旦那は「お前も若いんだから、もっと遊べ。」と言っていた。
私は遊びたくなんか無いんだよ。
友達と一緒に居るより2人で居たいんだよ。
そんな考えの私を
旦那は鬱陶しく思い始めた…
「今日疲れてるから。」
「そんな気分じゃない」
「頼むから、触らないで。1人にして。」
結婚して半年で
エッチしたのは2回だけ。キスは毎日してくれる。笑いながら会話もしてくれるのに……
「何で?」
「私の事、嫌いなの?」
まだ10代、大好きな人が隣に居るのに、触れ合う事も出来ない。
女としてのプライドと
どうしょうも無い程の寂しさ。
何度も泣いた。
何度も話し合った。
自分なりの努力もした。
全てが空回りだった。
追い詰める私に
逃げ出す夫…
次第に私も
旦那に求めないようになった。
期待もしなければ
落ち込まない。悲しくならない。
「気分転換に働きに出てみたら?」
夫への愚痴を聞いてた友達からのアドバイス。
「仕事かぁ。」
子供も居ないし
その予定すら無い私。
「働いてみるかなぁ。」
早速、求人誌片手に
電話をかけまくる。
勿論、夫は大賛成。
「お前も、少し外出た方がイイよ。」
決まったのは
ファミレスのウェイトレスでした。
久し振りの接客業。
仕事は疲れたけど
充実感の方が勝ってた。
職場では一つ年下の友達が出来た。
クミちゃん。
家も近所で
彼女も結婚している。
産まれたばかりの赤ちゃんが居るママさん。
クミちゃんとの出逢いが、これから先の私の人生を大きく左右する。
「今日、ウチに遊びに来てよ♪」
仕事にもよぅやく慣れた頃、クミがロッカールームでランチに誘ってくれた。
「まだ子供小さいから、外食より家ランチの方が楽だからさぁ」
「でも、旦那さん家に居るんだよね?大丈夫?」
クミの旦那さんは
夜BARで働くバーテン。
クミが働いてる昼間は家で子供を見てくれているらしい。
「大丈夫✌旦那もサクラちゃんに会ってみたいっていってるし♪」
「じゃぁ…お言葉に甘えて少しだけお邪魔しちゃおうかなぁ。」
「こんにちは。始めまして。」
クミの家に着くと
ハイハイを始めたばかりの瑞樹君と眠そうな旦那様が出迎えてくれた。
「こんにちは……」
じぃぃっと私の顔を覗き込む彼。
………
…………
ん⁉
あれ?
……
……
「俺…サクラちゃんを、どっかで見た事あるんだけど…。」
「私も…そんな気が…」
私…この人、多分知ってるんだよなぁ。
誰だろ…
どこでだっけ…
思い出せない~💧
「まぁ、取り敢えず、玄関じゃなんだし。上がってよ。」
2人の顔を交互に見ていたクミが先に部屋の中へと入って行く。
「そぅだね。どぅぞ、あがって。」
彼は瑞樹を抱き上げ、小首を傾げながら【ドゥゾ】と手招きしてくれた。
「じゃあ…お邪魔します」
この日は、大人三人は
デリバリーのピザを取ることにした。
クミは真剣な面持ちで
何枚もあるピザのチラシを眺めている。
「ずっとココが地元?」
「飲みに行ったりする?」
何とか私との接点を手繰ろうと、次々に質問が飛ぶ。
「え~~。でも絶対俺、サクラちゃんしってるんだよなぁ。」
なかなか接点が見つからずモヤモヤした様子の旦那様。
「そぅ言えば…サクラちゃん前は何の仕事だったんだっけ?」
ピザの注文を終えたクミが瑞樹の離乳食を作りながら聞いてきた。
「ん?一年位前はK市のガソリンスタンドで働いてたよ~。」
私は瑞樹の柔らかい手を握りながら答えた。
そぅ。
そのスタンドで夫である毅と出逢ったんだ。
「えっ⁉K市⁉」
クミが振り向いて、旦那様の顔を見ている。
「えっ?スタンドって、もしかして隣にコンビニあって国道沿いの⁉」
ちょっと興奮気味に旦那様が私に聞く。
………
あっ‼
………
『それだぁぁぁ‼』
三人の声が思わずリンクした。その声に驚いた瑞樹は、ビックリして泣き出してしまった。
「大きい声出してゴメンね💧ビックリしたよね。」
ハイハイしてママの足にしがみつく瑞樹を見て
三人で顔を合わせて笑った。
「俺、よくあそこのスタンド行ったんだよ!」
到着したピザを食べながら嬉しそうに話す彼。
クミ達夫婦は入籍後この家に越して来るまでの数ヶ月をK市で仮住まいしていたらしい。
「いやぁぁ~世間って狭いよね~。こんな偶然ってあるんだねぇ。」
確かに…
だんだんと思い出して来た。黒いワンボックスに乗ってた彼と、まだお腹の大きかったクミの姿。
毎日、何人もの人達と出逢って、そのまま記憶にすら残らず会うことも無くなる人もいれば
こうして、記憶の奥に仕舞われていながらも
また出会う事がある人もいる。
…巡り会いか…。
夕方になり自宅に帰宅した私は、夫に今日の出来事を報告した。
「凄いよね~、世間は狭いってゆぅか、とにかくビックリしたんだよ!」
「ふぅぅん」
テレビを見ながら
気の無い返事をする毅。
「それでね、今度は毅も一緒にみんなでご飯行こうよ。って言ってたよ」
「はっ⁉俺行かない」
こっちをチラッと見て
またすぐに視線はテレビに戻った。
毅は人見知りが激しい。
私の友達の前じゃ
ほとんど口を開かないくらいに。
「でも、クミ達も毅の事は知ってるんだし。一緒に行こうよ。」
今度は返事もしてくれなかった。
『無理って事か…』
ため息を着いてその場を離れた。
私は、夫も含めての家族ぐるみの友達付き合いがしてみたかった。
みんなで
ご飯食べに行ったり
バーベキューしたり、
花見したり
子供が産まれたら
お互いの家に子供を泊めあったり…
そぅゆぅのも
毅に求めたらダメなんだよなぁぁ。
少しずつ我慢する事が増えて、妥協して…
自分の気持ちごまかしながら生活してきた。
結婚生活に夢や理想ばかり抱いてた私は
現実とのギャップの大きさに戸惑い、苛立ちを感じるようになった。
毅は休日の度に家を空けるようになった。
「友達と遊んでくる」
「パチンコ行ってくる」
1人で居る事は
大して苦じゃない私。
1人暮らしの時に培った【自分の時間の楽しみない】を知ってるから。
でも、違うの。
一緒に過ごす相手がいない1人の時間と
過ごしたい相手が居るのに1人で居なきゃいけない時間は。
同じ1人の時間でも
寂しさが違う。
虚しさが違う。
「毅、私、寂しいよ。結婚して同じ家に居るのに。離れて暮らしてた結婚前の方が幸せだった…」
言いたい言葉をぶつける相手が、目の前には居なくて、その言葉は胸の中で膨らんで、涙となって溢れ出た。
『お前も若いんだから、もっと遊べ。』
いつかの毅の言葉が蘇る。
依存しすぎなのかな。
もっと色んな所に目を向けないと。
次の休みに
クミの家族と新しく出来たショッピングモールに誘われた。
「うん♪行く!」
たまには私も楽しもう。
「すっごい混んでるね」
日曜日のショッピングモールは家族連れ、カップルなどで大盛況。
瑞樹は旦那様が押すビーカーの中でキョロキョロと沢山の人が行き交うのを見ていた。
「あ~!この服可愛い」
思わず立ち止まって手に取る私。
リボンの着いたフリルのチェックのワンピース。
どれも私の好きな要素で、それらが一つになった集大成だった。
「可愛いなぁ。買っちゃおうかなぁ~♪」
1人でアドレナリンを大放出させてると
いつの間にかクミの旦那様が隣に立っていた。
「あれ?クミと瑞樹は?」
「瑞樹のオムツとミルクタイムでぇす。」
「あっ、ゴメン。そっか、気付かず興奮しちゃっててゴメンね💧旦那さんも一緒に行ってあげて下さい。私、この辺見てるから💧」
「てか、旦那さんって呼ぶの止めよ?俊樹って名前なの。」
あ~…そっか。
俊樹ね💧
何て呼ぶべきか。
「じゃあ…トシ君?」
「大概それ。みんなトシ君なんだよなぁ~。もっと面白いの考えろよ~」
いや…
無理でしょ。
だって私、ボキャブラリー貧しいもんで。
「サクラは顔が大人っぽいから、茶色の方が似合うと思うよ。」
ワンピースを指差して微笑んでる。
何て優しい目で
人を見るんだろう。
「うん。じゃぁ、そぅしようかなぁ。」
トシ君から目を逸らし
ワンピースを持ってレジに向かう。
「ソレ、試着すれば?」
「あ…。うん。」
何か…
何か変な感じだ、私。
トシ君をチラッと見て
試着室に向かう。
「カバン貸して。持ってるよ。」
そぅ言うと私のカバンを取り、試着室の前に設置された椅子に座った。
こんな風に異性とショッピングなんて、いつ振りだろぅ…
毅と付き合い始めて
一度だけ2人でショッピングに出掛けた事がある
でも
【人混みが嫌い】
【待つのが嫌い】
【歩き疲れた】
そんな事言いながら帰りの車内では、凄く不機嫌な顔してた。
それ以来、一緒に買い物は行かなくなった。
本当は
毅と一緒に
洋服選んだりしたいのにな…
ワンピースに着替えて
カーテンを開けると
クミと瑞樹が帰って来ていた。
「サクラちゃん、似合ってるよ~!」
クミが私を見て言った。
「あたしも洋服買いたいなぁ。…パパ、イイ?」
瑞樹をあやすトシ君に
クミが聞いた。
「じゃぁ、俺に選ばせてよ。」
妻の洋服を選ぶ夫。
イイナァ~…
二人を見て羨ましくもあり、何だか切なくなってしまった。
この日から
私達はヒマがあれば
一緒に遊びに出掛けたりご飯をたべに行くようになった。
夫との関係は何も変わらないまま
季節がまた一つ変わっていった。
ある日、具合の悪かった私は
仕事を早退して家に帰った。
玄関を開けると
なぜか夫の靴が・・
この時間に何故?
リビングからテレビの音と夫の笑い声が聞こえる。
「ただいま・・どうしているの?」
リビングのドアを開くと夫はソファでくつろいでいた。
私の顔を見るなり、一瞬バツの悪い顔をした。
「朝、確か・・仕事行ったよね?」
何も答えない。
「今日は、休みだったんだよ。職場に着いてから気づいたんだよ。」
またか…
直感で分かる。
「また…仕事辞めて来たんじゃないの?」
私から目を逸らしたまま
何も答えない夫。
こんな時、何も返事をしないのが、答えである事は私にも分かる。
「いつ?いつ辞めたの」
更に無言…
結婚して一年。
これで何度目だろぅ…
とにかく仕事が続かない。初日で辞めて来た事もあった。
「もぅ、疲れた。」
私は一言だけ残して
リビングを後にした。
ベッドに入ると
何も考えれず、そのまま朝まで泥の様に眠った。
私には頼れる実家はない
いつだって頼れるのは自分だけ。
【私が頑張ればイイ】
夫に期待するのは止めよう。お金がナイなら私が稼げば生きていける。
今までも、そぅやって生きてきた。
今更誰かに頼って生きていこうなんて、甘い考えは捨てる。
甘えるな…
強くなれ…
泣いたって何も変わらない。だったら笑え。
無理してでも笑うんだ。
昼間はファミレス。
時給もイイし
辞めたくはナイからな~
夜の空いてる時間に出来る仕事…
居酒屋かなぁ~
休憩室で求人誌を眺めていりとクミが驚いた様子で声をかけてきた。
「サクラちゃん、ここも…辞めるの⁉」
…そっか。求人誌なんて読んでたら、普通そぅ思うもんね。
「違うんだよ~実はさ」
クミに状況を説明し
夜働ける仕事を探してる事を伝えた
仕事も終わり
家に着くと毅は朝会った時と同じ格好で
ソファーでくつろぎ
野球中継を見ていた。
キッチンで夕飯の支度をしていると
私の携帯が鳴った。
知らない番号…
「はい。」
「あっ、サクラ?俺~…クミの旦那の…」
「えっ⁉トシ君?どしたの??」
何で私の番号知ってるんだろぅ…
「クミから聞いたんだけど、夜働ける所、探してるんだって?」
トシ君の働いてるBARで女の子が1人辞めたので、働ける人を探してるらしいして。時間も時給も文句無し。
送り迎えはトシ君がしてくれると言っていた。
悪い話しじゃナイけど
さすがに友達の旦那様とは、一定の距離は保っておいた方がイイ。
その場で断るのも
何だか気が引けて
「考えてみるね。」
とだけ伝えて
電話を切った。
条件的には申し分ない!
トシ君が友達の旦那じゃなきゃ、即答していた。
明日…クミに聞いてみようかな。
クミだって、さすがに、私達が一緒に働くのは嫌だろぅし…
上手く断る口実を
一緒に考えてもらおぅ。
「別に、イイんじゃない?サクラちゃんが嫌じゃなければ…」
次の日、クミに話すと
意外な答えが帰って来た。
「それ本音?クミは嫌じゃないの?」
「特には…それに旦那も困ってるみたいだし」
そぅかぁ…
クミもイイって言ってるし。働こうかな。
その日の内にトシ君と一緒に、オーナーとの面接を受ける事になった。
お店に向かう車内で
トシ君が驚く言葉を口にした…
「俺、店では結婚してる事言ってないんだ。」
…………???
なに?この人なんて言ったのかしら?
「クミと付き合ってたのは、みんな知ってる。子供の事も。ただ、バツイチって事になってる。」
………???
何の為に、そんな下らない嘘をつくの?
意味が分からない。
「だから、サクラは俺の直接の友達って言ってあるから。話し合わせておいてね。」
ただ頷く事しか
出来ない私。
その理由も、
働き始めて、だんだん分かってきた。
【トシ君はモテる。】
お店にはトシ君目当ての女性客が何人も居た。
その中の何人かは
実際関係を持った人も居るみたい。
実際、見た目もイイ。
身長も高く、スラッとしていて、顔はジャニーズ系の綺麗な顔。
指はゴツいんだけど
細くて長い。
一つ一つの仕草が
何か妙に綺麗で、何だか色気がある。
その癖、話し方は
おっとりしていて聞き上手。時々出る、変な訛りすら可愛く感じる。
ただ女性関係はだらしない様で、言い寄られる事は、まんざらではナイらしい。
だから。
嫁が居ると知られれば
遊べなくなるのが嫌で
嘘まで付いているらしい。
私は昼間は週5日勤務。
夜は週3日勤務。
週に1日だけは完全に休みになるようにしていた。
休みの日は溜まった家事に追われて1日が終わる。
そんな生活を始めて3ヶ月…夫の毅は相変わらず、仕事を始めては辞めてきて、パチンコに行ったり、フラフラしていた。
クミはあれから、店長と喧嘩をして仕事を辞めてしまった。今は職探し中だとか…
あんなに遊んで居たのに、最近では忙しくて
連絡すら取れずにいる。
クミと会わなくなってから、トシ君と一緒に過ごす時間の方が増えて行った。
「お疲れ様でしたぁ。」
長かった1日がようやく終わる。疲れた体を上に伸ばすと体中の力がドッと抜けた。
「ほぉい、おつかれぇ」カウンターの中から
気の抜けた声で
生ビールを私に手渡してくれたトシ君。
ウチのお店は
仕事が終わるとキャスト達に好きなドリンクを
一杯ご馳走してくれる。
オーナーは営業中から
すでに常連さんと飲んでいて、今では完全にイイ気分になっているのが傍目からでも感じ取れる。
ジンジャエールの瓶を片手に、私の隣に腰掛けたトシ君。2人でグラスを傾け乾杯した。
「明日ってサクラ休みだったっけ?」
明日は1日オフだけど。
「この後、ちょっと寄りたい所あるんだけど。時間遅くなっても平気か?」
近くにトシ君の先輩の勤めるBARがあるらしい。
「うん。私は平気だけど。それよりも寄り道なんてしたらクミに怒られるんじゃないの?」
「残念ながらクミも瑞樹も夢の中。朝までぐっすりだから。」
そりゃそぅだ。
普通は寝てるね💧この時間。
「んじゃ、早くビール飲んじゃえ。行こうぜ♪」
「この店は朝の5時までやってんだよね。」
繁華街の中心地にある、そのお店は、カップルがヤケに多かった。
店内は薄暗く
客席も一席ずつ余裕ある距離を取っており、ゆっくりくつろげる様に配置されていた。
各テーブルにはキャンドルが灯されていた。
流れるジャズと
ズラリと並ぶお酒のボトルは下からライトアップされている。
【お洒落すぎる!】
ウチのお店は
どちらかと言うとアットホームな感じ。
仕事終わりにフラッと一杯…って行ける感じ。
お店の空気に圧倒されているとトシ君が私の手を引いて席に座る様に促してくれた。
「それじゃ改めて乾杯」
カウンターに2人で並んで座り生ビールを口に運んだ。トシ君も今日は飲みたいらしく、帰りは代行を頼む気らしい。
「私、こぅゆぅお店始めて来たよ。素敵な所だね。」
素敵過ぎてさっきから挙動不審な私。
トシ君は、体を少しだけ私の方に向けて満足そぅに微笑んでいる。
「良かった。それだけ喜んでくれたら連れて来た甲斐があったよ。」
そう言って私の頭に手を乗せて、髪の毛をくしゃっと撫でた。
「サクラさぁ~、ウチのお客様からも凄い評判イイよ。笑顔で頑張ってるよなぁって。」
彼はニコッと笑うと私の頭をポンポン叩いて
前へ向き直した。
何だか照れくさくて
恥ずかしくて、何て返事をしたらイイのか分からなかった。
「よぉっす、トシ♪」
突然背後から声がした。
「あっ、誠さん、お疲れ様ですぅ。」
この人が、トシ君の先輩かぁぁ。
照英にソックリなちょっとイカツイ感じの人だった。
「あっ、この子はウチで今働いて貰ってるサクラです。」
私は椅子から降りて
誠さんに軽く頭を下げた。
「初めまして、サクラです。」
誠さんはニコニコして
「宜しくね♪ゆっくりして行ってね♪」
と言って、またホールに戻ってお客様の席へ挨拶回りを始めた。
ホールからは
誠さんの楽しそうな声が聞こえてきた。
私達は新しいドリンクをオーダーした。
「サクラはさぁ~、いつもニコニコ笑ってるけどさぁ、本気で笑ってる所、まだ一度も見たことナイんだよなぁ~。」
トシ君が私の顔を真っ直ぐ見つめながら呟いた。
まるで独り言みたいに。
「いつだって私、全力で笑ってますけどぉ~?」
私はトシ君の顔を見ないまま、真っ直ぐ向いたまま答えた。
「サクラはバカだねぇ。笑顔は力出して笑うもんじゃないじゃん?気付いたら出ちゃうモノでしょうが。」
……なる程。
「だから、サクラの目はいっっつも泣きそうな目してんだよ。」
……
何も言えない。
胸が苦しくなる。
「そぅかな?そんな風に見えるんだ…。」
これ以上は、何も言えない。もし、ここで、少しでも弱音を吐いたら
止まらなくなる。
全部吐き出したら
私はもぅ、1人じゃ立って居られないかもしれない。
甘えたくない。
この人には、これ以上近づいちゃいけない。
「そろそろ帰ろう?」
私から切り出した。
時計を見ると、もぅ4時30分を過ぎていた。
「そぅだな。」
お店を出ると、外は明るくなり始めていた。
家に帰るとクミからメールが届いた。
【旦那とさっきまで一緒に居たの?】
帰りが遅くなって心配していたのかも知れない。
【ごめん💧一緒に飲んでました。】
メールを返して、すぐに私は眠ってしまった。
目が覚めると、すでに夕方近くになっていた。
【ヤバい…】
携帯を開くと
着信6件
メール受信10件…
「嘘…💦」
思わず声が出た。
着信もメールも
全てがクミからだった。
慌ててクミに電話を掛けたが繋がらない。
「…着信拒否かぃ。」
クミからのメールを読み返してみた。
どぅやらトシ君との事を勘違いさせてしまったらしい。そりゃ、そうだ。逆の立場なら私だって疑う。
その時、ファミレスのバイト仲間から電話がきた。
「もしもし?」
「あっ、サクラちゃん⁉何か…大変な事になってるけど…クミちゃんが店に来てさぁ…」
…
……
クミはファミレスまで行き、「旦那を寝取られた!」と、凄い剣幕で騒ぎ出したらしい。
店内にはお客様も多数居たので迷惑になるから。と、店長がスタッフルームにクミを通して、今も2人で話してるみたい。
「サクラちゃん、本当なの?」
「…今から私も店に行くからぁ。」
質問には答えず
そのまま電話を切った。
スタッフルームに2人の姿はなかった。
店長の部屋で話しているよぅだった。
私は溜め息を吐きながら扉をノックした。
「…どぅぞ。」
扉を開けると
クミと店長が向かって座っていた。
「くみ……」
私の顔を見た瞬間、クミは立ち上がり私の頬に平手打ちをした。
店長も立ち上がりクミの腕を掴んで止めに入ってくれた。
クミは店長に押さえられながらも、私を罵り続ける。
私はただ黙ってクミの目を見続ける。
「黙ってナイで何とか言ったら?」
黙ったままの私に苛立ちながらくみが言う。
「誤解させたのは、全面的に私が悪いね。ゴメンね、クミ。」
私はクミに頭を下げて店長の方を向いた
「プライベートな問題でお客様や店長、お店の方達に迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」
さっきよりも更に深く頭を下げる私。
「少し2人で話しをさせて頂けますか?」と頼み、私達は店長の部屋を借りて話し合う事になった。
「クミ…、何を根拠にココまで周りを巻き込んだ?」怒りがこみ上げてきた。
私は…
自分の居場所を壊されるのが何よりも嫌い。
感情に任せて、後先考えず行動する人間はもっと嫌い。
今度はクミが黙り込んだ。
根拠なんて、あるはずがナイ。だって私達の間には何もナイんだもの。
「クミ。不安にさせたのも、誤解させたのも本当に申し訳なく思ってる…ゴメンね。でも…何でココまでする必要がある?私に何をしたって構わない。それだけクミは不安だったんだと思うから。」
「でもね、この店も店長も周りの人達は全然関係ナイ話しでしょ??私達は、子供じゃないんだから。クミだってママなんだから。感情に任せる前に周りの迷惑考えようよ。」
「ふっ」
クミは私の顔を見て
一瞬ニヤリと笑う。
「偉そうに言わないでよ。何?自分が正しいみたいな言い方は…ねぇ、そんなんだから、あんたの旦那は、あんたを抱けないんじゃないの?」
「あんたのその態度。女としての可愛げゼロだよ。」
そぅ言うと、クミは自分の荷物を手に取り部屋を後にした。
1人部屋に残された私は、怒りを通り越して【憎しみ】に変わっていた。
クミ…あんた…地雷踏んじゃったね。
知らないよ、私。
あんたの大切なモノ、壊す事にしたわ…。
自分の大切なモノは壊さないように全力で守る。
でもね、守ってきたモノを壊されたら、私はどんな手を使ってでも相手にそれ以上の痛みを与えるから。
私はそのまま、その足でトシ君の居るBARに向かった。
「おぉ~♪いらっしゃい。どした?サクラちゃん」すでに上機嫌なオーナーが出迎えてくれた。
「たまにはお客さんとして、飲みに来ちゃいました♪」
私も笑顔で答える。
カウンターに1人で座ると、トシ君が出てきた。
「おっ、サクラ♪いらっしゃい。生でイイ?」
「うん。」
トシ君は今日の出来事を、しってるんだろぅか。何でこんな普通なんだろぅ。まさか、何も知らないの?
そんな訳ないよね。
クミはあんなに半狂乱だったんだもん。
「はぃ、サクラ!お待たせしました」
生ビールが目の前に置かれる。
「あっ。ありがとう。」
「サクラ…何か今日、変だな。何かあったの?」
三杯目のビールを飲んでいると、トシ君が心配そぅに聞いてきた。
【何か…って…嘘だよね?何も知らないの?】
「トシ君、今日時間ある?話したい事があるの。」
少し驚いた様子で
「話し?俺に??」
「えっ?何?何か怖いんですけどぉ。」
話しの内容に検討がつかないのか、不安そうな顔をする。
「その話し聞いたら、俺、泣いちゃうかも系?」
「いやぁ、泣きはしないでしょう(笑)」
トシ君が泣いちゃう話しって一体どんなよ?
「んじゃさぁ、俺、喜ぶ系?」
「喜ぶ要素はこれっぽっちもナイかな(笑)」
「すっごい気になるんですけどぉ。酒作り間違えたら、サクラのせいな!」
本気で不安がるトシ君が面白くて、つい口元が緩んでしまう。
トシ君の仕事が終わり
2人は近くのファミレスに入る。
お代わり自由のホットコーヒーを注文した。
「話しって?」
トシ君が私の目を見て心配そぅに聞いてきた。
「…うん、あのさ…クミの事だけど…」
「クミ?」
「昨日、帰ってから、クミに怒られなかった?」
「イヤ、別に。まぁ…遅かったね。とは言われたけどな。怒っては無かったけど…」
クミは何で、トシ君に何も聞かなかったんだろぅ。もし、トシ君に不安な気持ちぶつけてたら
あんなに爆発しなかったんじゃないの?
「クミさぁ、私達の事、誤解してるよ。寝取られたと思ってるみたい。」
「クミに…あいつに何か言われたの?」
トシ君の声色が変わる。
メールの事
職場での事を話した。
「サクラ…ごめんな。迷惑かけちゃって。」
「イヤ、まぁ私も悪いんだし。でも何で、トシ君には何も聞かなかったんだろぅね?」
何か考えてるトシ君。
「あいつさ。昔からそぅなんだよ…俺には何も聞かないんだよ。んで1人で妄想して、いきなり暴走しちゃうんだ。」
過去にも…何度かあったらしい。
BARの常連のお客様とも
店内でやり合ったのは
一度や二度じゃない。
その時は、クミともオープンに付き合っていて、お客様と、そんな関係になる事は無かった。
「毎日の様に来てたんだよ、クミは。お腹が大きくなっても。」
普通に考えて、その状況で、他の女に手を出すなんて無理でしょ。
力なく笑ってみせるトシ君。私は、何て言って言いのか分からなかった。
もともと、女癖の悪かったトシ君。
クミの事も何人か居る内の1人だった。
ただ、状況が変わったのはクミの妊娠。
「アイツが検査薬やった時には、もぅお腹も出始めて来た時で。」
その前から生理が来てない事に気付いたトシ君は検査を勧めた。
クミはそれを拒んだ。
「元々、不順なんだよ」と言ってたらしい。
病院に行った時には
赤ちゃんは6ヵ月になっていた。
選択肢はもぅナイ。
クミ以外の女とは全員手を切り、慌ただしく結婚した。
最初の1ヶ月は
トシ君の実家で暮らしたが、クミは家族と打ち解けようとせず、部屋から出ようとしなかった。
トシ君が仕事に行くときに一緒に車に乗って、BARに行き、仕事が終わるまで、カウンターに座り、ずっと待っていた。
お腹の大きな妊婦に
そんな不規則な生活は…と義母が心配しても
クミは聞く耳を持たなかった。
2人で暮らした方が良いんじゃない?そしたら、クミちゃんも気兼ねなく生活出来るでしょ。
と義母からのアドバイスもあり2人はK市にあるマスターが貸し出しているマンションに
新居が決まるまで住んでいたらしい。
「最近はあいつも落ち着いて来てたんだけどな。」
「そぅなんだ。」
「なぁぁんか…疲れちゃうんだよなぁ。俺…ずっと、これからも、この生活していくのかなぁ。」
うなだれるトシ君を見て
胸が苦しくなった。
分かる…分かるよ。
終わりの見えない不安。
我慢する事は
泣き喚くよりもパワーのいる事。
全部終わらせてしまえば楽なのにね。
全部捨てて、逃げ出せたらイイのにね。
「アイツさぁ、店で暴れたりしたろ?それで、店を出入り禁止にしたんだよ…」
常連さんを始め
お店のスタッフ
あの温厚なマスターまで怒らせてしまったらしい。
「そぅだったんだ。」
「うん…離婚した事にしてるのも、クミには言ってあるんだよ。」
それは…クミにとって
辛い事だったろぅ…
妻と言う座にありながら自分の存在を隠されて。
「だから、サクラの事が羨ましかったんだと思うんだ…。自分に出来ない事出来てるから。」
「八つ当たり的な部分もあったのかもしれない」
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日々を生きています。
最高の予感がする 私は本当に本当に幸せ者だ(小説好きさん0)
55レス 403HIT 小説好きさん -
神社仏閣珍道中・改
(続きとなります) お焼香の作法は、宗派によって異なります。 …(旅人さん0)
147レス 4358HIT 旅人さん -
「しっぽ」0レス 66HIT 小説好きさん
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Journey with Day
リリアナは、そっと立ち上がり、壁のモザイクを指でさわった。 「この白…(葉月)
74レス 895HIT 葉月 -
西内威張ってセクハラ 北進
何がつらいのって草こんな劣悪なカスクソ零細熟すべてがつらいに決まってる…(自由なパンダさん1)
57レス 2177HIT 小説好きさん
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今を生きる意味78レス 469HIT 旅人さん
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黄金勇者ゴルドラン外伝 永遠に冒険を求めて25レス 898HIT 匿名さん
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勇者エクスカイザー外伝 帰ってきたエクスカイザー78レス 1751HIT 作家さん
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神社仏閣珍道中・改500レス 14754HIT 旅人さん
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真田信之の女達2レス 366HIT 小説好きさん
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おっさんエッセイ劇場です✨🙋🎶❤。
ロシア敗戦濃厚劇場です✨🙋。 ロシアは軍服、防弾チョッキは支給す…(檄❗王道劇場です)
57レス 1366HIT 檄❗王道劇場です -
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今を生きる意味
迫田さんと中村さんは川中運送へ向かった。 野原祐也に会うことができた…(旅人さん0)
78レス 469HIT 旅人さん -
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神社仏閣珍道中・改
この豆大師についての逸話に次のようなものがあります。 『寛永…(旅人さん0)
500レス 14754HIT 旅人さん -
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黄金勇者ゴルドラン外伝 永遠に冒険を求めて
『次の惑星はファミレス、ファミレスであります~』 「ほえ?ファミレス…(匿名さん)
25レス 898HIT 匿名さん -
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勇者エクスカイザー外伝 帰ってきたエクスカイザー
「チェンジ!マッドキャノン!!三魔将撃て!!」 マッドガイストはマッ…(作家さん0)
78レス 1751HIT 作家さん
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嫁がいるのに恋してしまいました
ありきたりかもしれませんが、、 相手は会社の3つ年下の上司 いつも優しくしてくれて自分の仕事…
29レス 621HIT 叶わぬ恋さん (30代 男性 ) -
付き合った彼氏実は結婚していた
お医者さんと出会いご飯に誘われ2、3回会っていたら告白されました。 私も会うにつれ惹かれてしまい付…
11レス 286HIT 恋愛好きさん (20代 女性 ) -
話し合いを嫌がるのってなんでですか?
話し合いって大事だと思ってます。 付き合いの浅い友達ならまだしも、恋人は付き合いが浅くても話し…
21レス 388HIT 恋愛好きさん (20代 女性 ) -
車中泊で職質されますか?
私は節約のために遠出してもホテルではなく、車中泊します。 大体、他の車もいる道の駅が多いですが、道…
28レス 912HIT 社会人さん -
結婚しないの?と聞かれることが苦痛
私は31歳で、少し前まで彼氏がいて、その彼からは結婚したいと言われていました。 でも一人でいること…
11レス 225HIT 相談したいさん (30代 女性 ) -
3歳児の就寝時間ってこんなに遅いですか?
妻へどういう風に言えば嫌みなく伝わるか教えてください。 妻が子供を寝かしつける時間が遅いように感じ…
10レス 214HIT 新米パパさん (40代 男性 ) - もっと見る