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聖ジルーシャ物語

レス52 HIT数 2920 あ+ あ-

旅人( ♀ )
08/01/19 15:52(更新日時)

かつてー
『冒険者の黎明』と呼ばれた時代があった。

しかし剣士・魔法使い・聖なる王家の者が、闇の王ランカシャを倒した日を頂点とし、冒険者の時代はゆっくりと衰退を始める。
特に魔法使いの業界が著しかった。
一時期は魔法院・魔法学校の設立を始め、魔導協会・魔法使い連絡協議会・魔法労働組合・魔女の地位を向上させる会…等々様々な会も発足し、魔法技術や魔法理論は飛躍的に発展、魔法具の開発も進んだ。
ーが、いつの頃からか利権に絡んだ主導権争いが勃発。
魔法具の乱開発と価格破壊は魔法力のない者まで、魔法を使えるようになり『石をなげれば魔法使いに当たる』『猫も杓子も魔法使い』『人類総魔法使い時代』と揶揄されるまでに至った。
魔法使いの権威は地に落ちたのである。

No.620340 07/10/30 18:59(スレ作成日時)

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No.1 07/10/30 19:38
旅人0 ( ♀ )

実力主義と言われる王宮魔法使いの地位まで金で買える事態を迎え、ようやく『聖なる王家』が重い腰をあげた。
…曰く『アンタらいい加減にせーよ』の一言で、各魔法会派のお歴々が集まり、とりあえず魔法に関する取り決めが話し合われた。
全世界共通の魔法検定試験、魔法具の価格設定、階級別報酬の設定、不正取締役の指名など問題は山積。
それでもどうにか体裁を整え、魔法使いの権威は少しづつ回復し始めた。

No.2 07/10/31 23:24
旅人0 ( ♀ )

《ジルーシャの魔女》

空は曇天だった。
少女はため息をついて、目前の宿屋兼酒場に入る。
「いらっしゃい。」
暇そうに新聞を読みながら、酒場の主人が少女に声をかけた。
まだ昼間のせいか、酒場の中には主人と奥の席に客が一人いるだけだ。
最もこの酒場は夜になっても、繁盛はしていない。
宿の方にはそれなりに泊まりはあるようだが、酒場の客はまばらだ。
街自体が不景気なせいもあるが、この酒場の特殊性にも関係があった。
冒険者への依頼を取扱っているのである。
田舎と言うわけではないが栄えているわけでもなく、街の近隣に巣くう悪党や魔物がいるわけでもなく、外部の冒険者が訪れる事も少ない。
街に住む冒険者も、年老いた剣士が一人と魔法使いの少女しかいない。
仕事の依頼も『居なくなったペット探索』や『子どもの通学の用心棒』、果ては『赤ちゃんのオムツ洗い』など小物ばかりだ。

No.3 07/11/01 15:29
旅人0 ( ♀ )

「デレクさん、依頼の眠気醒ましのキャンディー持って来ました。」
少女はカウンターにキャンディーの入った籠を置く。
「ゴクロウさん、相変わらず仕事が早いな。」
酒場の主人デレクは少女を見やり、驚いた表情になる。

「髪切ったのかい?」
「鬘屋に売りました。あんまりいい値はつかなかったけど。」
気にしたふうもなく少女は答える。

No.4 07/11/03 02:03
旅人0 ( ♀ )

「でも、一週間のパン代くらいにはなったから良かった。」
「そうかい?…若い身空で借金持つと大変だな。」
デレクは幾分同情的な口調になる。
少女にかなり借金があるらしい事は冒険の依頼を扱ううちに知っていた。
それならなるべく報酬の良い依頼を回せないでもなかったが、いかんせん少女の魔法階級が最下級の『グリーン』では、それも限られてくる。

No.5 07/11/03 02:15
旅人0 ( ♀ )

「ハイよ、報酬だ。次の依頼はどうする?」
僅かな銅貨を受け取り、少女は壁に貼られた依頼の内容を物色する。
「これにします。『体臭を良くする薬』の調合。」
依頼の紙を剥がして手続きしようとした時だった。


「相変わらずしみったれた仕事してるのね?」
呆れたような声がした。

No.6 07/11/03 02:53
旅人0 ( ♀ )

「アメリア…」
宿屋になっている二階から、金髪の女がゆっくりと降りて来る。
少女と全く対照的だった。
黒髪をおかっぱに切り揃え、質素な身なりの少女に対し、女は白い毛皮のケープにシルクの衣服、装飾品もプラチナにルビーやサファイアときらびやかだ。

「そんなんじゃいつまで経っても私への借金は無くならないわね、ミンチン?」
少女の表情が憂鬱そうなものに変わる。
『 ミィン・ティーヌ』が少女の名前だが、女はいつだって少女を『ミンチン』と呼ぶ。
少女が嫌がっているのを知っても尚だ。
だが、女に借金している身では抗議もできない。

No.7 07/11/04 16:58
旅人0 ( ♀ )

「まぁいいわ。アンタそんなつまんない依頼より、私の依頼を手伝いなさい。」
命令口調だった。
「オイ、アメリアさんよ?冒険者の依頼はしかるべき筋を通してもらわないと。それにお前さんとミィンでは階級が違うだろう?ミィンには無理な内容じゃないのかい?」
デレクが口を挟む。
「余計な口を挟まないで。ミンチンには回復のサポートに入ってもらうだけよ。いいわね、ミンチン?私の依頼を手伝うのよ!」
アメリアは高飛車に言い放つ。
(また…ただ働きか…)
ミィンはため息をつく。実はデレクを通さず、何回かアメリアを手伝った事があるが、借金を口実に全て無報酬だった。

No.8 07/11/05 17:16
旅人0 ( ♀ )

手伝えば借金が減るとは言うが、どれくらい減ったかなんてアメリアの胸の内だから、本当に減らしてくれるか疑わしいものだ。
おまけに手伝えば、必要経費を立て替えられ、借金に加算される。
実際、ミィンは自分の借金の額が今どれくらいか知らない。
一度アメリアに確認したが、
『知りたいの?聞いたら絶望してしまうわよ?』
と、脅され結局はわからなかった。
どうやらとんでもない金額らしい。

No.9 07/11/05 18:15
旅人0 ( ♀ )

「サポートにしろ何にしろ、ちゃんと依頼者に許可を得て仲介者を通しな!…道理を曲げるって言うなら回状を回して冒険者の組合から締め出す。ミィンもいいな?」
デレクが釘をさす。
冒険者の組合を脱退してしまうと、表の依頼が受けられなくなる。
危機に陥った時の救援の要請や、怪我などの治療の援助、依頼で必要となる情報の提供など受けられなくなる。
組合に属さない冒険者の依頼…裏の依頼は受けられるが、暗殺や強奪など法に触れるものばかりで、おまけに仲介料が5割以上取られる。
ちなみに組合を通せば、仲介料は成功報酬の1割と定められていた。

No.10 07/11/06 17:25
旅人0 ( ♀ )

「偉そうに…何よ?後で後悔しても知らないわよ?」
「後悔するのはそっちじゃないのかい?」
アメリアの悪態にデレクは剣呑な空気を醸し出す。
仲介者はそれなりの冒険の経験をこなした者でないとなれない。 デレクもおそらくはかなりの手練だ。
ミィンはハラハラしながら、見守るしかできない。
正に一触即発…と、言う時だった。
「盛り上がっているトコロ申し訳ないが…」
奥のテーブルにいた客人が、アメリアを庇うように間に入った。

No.11 07/11/06 17:57
旅人0 ( ♀ )

「なんだい、アンタは?タダの泊まり客じゃなかったのか?」
「彼女の雇主だ。魔法使いの補充を許可したのも私だ。」
背の高い青年だった。身形はよく、背筋がスッと伸びている。
腰には剣を帯びていた。
青年が細い筒をデレクに渡す。
「これは…」
筒に描かれた紋章を見て、デレクの表情が変わった。
注意深く、筒の中から細く丸められた書状を取り出し内容を確認する。
「…それならそうと言えばいいだろうが?」
苦々しい表情で、デレクは青年に書状を返す。
「ホホホ、納得したようね?」
アメリアが勝ち誇ったような笑い声をあげた。

No.12 07/11/06 18:26
旅人0 ( ♀ )

「ラリー・プレストンだ。」
右手を出され、ミィンも応じる。
「あの…」
「ミンチンと言うんですのよ、コノ子。」
ミィンが名乗るより早く、アメリアが名前を言ってしまった。
これでこの依頼の間はミィンの通称は『ミンチン』に決まってしまった。
「そうか、ヨロシク。」
ラリーは人懐こい笑みを浮かべる。
「あまり期待はなさらないでね?コノ子、冒険者としての階級も魔法使いとしての階級も最下級ですの。」
だったらサポートなんて頼まなければいいのに…と、言う言葉はグッと飲み込む。
下手に口にすれば、どんな罵詈雑言が浴びせられるか知れたものではない。

No.13 07/11/08 19:26
旅人0 ( ♀ )

依頼についての込み入った話もあるので、場所をラリーの宿泊している部屋に移していた。
一般客室よりワンランク上の部屋で、調度品もそれなりの家具が設置してある。
比べても仕方ないが、自分の住まいを思い浮かべミィンはため息をついた。
「それで…どういう依頼なんですか?」
気を取り直して、ミィンはラリーに尋ねる。
「ミンチンは回復のサポートって言ってるでしょ?貴方、それ以外に取り柄あったかしら?」
ソファに腰掛け、スラリとした足を組みアメリアが答える。
どこか小馬鹿にした口調だった。
魔法使いの階級で『グリーン』は初級…ミィンは薬草学と回復魔法の初歩までしか修得していない。

No.14 07/11/09 23:41
旅人0 ( ♀ )

「それは…私は役立たずだけど、依頼の内容くらい知る権利あるでしょう?」
少し強気に出てみた。
「権利?貴方、権利の意味わかっ…」
案の定まくし立てようとするアメリアを、ラリーが片手を上げ制す。
「確かに、この依頼の内容は知っていた方がいい。私が説明しよう…。」
アメリアが黙り込む。
「闇の王は知っているね?」
「はい…かつてこの世界を、暗黒にしようとしたとかしないとか…」
ミィンの言葉にラリーが苦笑する。
闇の王が三人の冒険者に滅ぼされた理由については、諸説ある。
「…とある王家に『闇の王の瞳』と称される魔石があってね。一応、聖なる王家に連なる家系ではあるから、その王家の者が守っていたんだが…かなりのウッカリさんでね。」
「もしかして、落として無くしたとか…?」
ミィンの言葉にラリーが頭を振る。
「いや…無くしてはいない。ただ別の人物に渡してしまっただけだ。」

No.15 07/11/10 08:10
匿名さん15 ( ♂ )

小公女セーラ?(笑)

No.16 07/11/10 13:00
旅人0 ( ♀ )

>> 15 名前を引用しています(^◇^;)
ダイアモンドプリンセスは今のトコロ出る予定はありません(^_^)

No.17 07/11/10 13:18
旅人0 ( ♀ )

「渡してしまったって…そんな重要なモノを?」
世界各地に闇の王の遺物は伝わっている。
大抵は人に障るので、『聖なる王家』の血に連なる者が封じている。
「そのウッカリさんは自覚がなかったんだね、自分の持っている物がどれほどのものか…。『見せてくれ』と言われてアッサリ渡してしまったんだ。」
「つまり、その魔石を取り戻すのが依頼?」
ミィンの言葉に、ラリーが頷く。
「それもあるけど…」
「あるけど?」
ラリーの言葉をミィンは反復する。

No.18 07/11/10 13:50
旅人0 ( ♀ )

「魔石を渡された人物を救出するのも依頼の内容のひとつなんだよ。」
「は?」
ラリーが頬を掻く。
「魔石の魔力に飲み込まれてしまってね、その子。魔獣化して暴れながらこっちに向ってるんだ。しかも近隣の街の『冒険者』の…特に『魔法使い』の魔力を吸収しながらね。更に困った事に魔力を吸い取られた者は石化している。」
ミィンはアメリアを見る。
「それって私達も危ないんじゃないの?」
アメリアが鼻で笑う。
「私は危ないわね。貴方は関係ないんじゃないの?」
その程度の魔力で…とまでは、ラリーがいるせいかアメリアは口にしなかった。

No.19 07/11/10 14:17
旅人0 ( ♀ )

「…まぁそう言うわけで『これは由々しき事』と聖なる王家から回状が回ってね。」
ラリーがデレクに見せていた筒を取り出す。
筒には白百合の刻印…『聖なる王家』の紋章が記されていた。
「魔石奪還と事態の収集…それと魔獸化した人物の救出。この一連の依頼を何を置いても優先するよう冒険者組合に要請し承認された…これはいわゆる御墨付きだよ。」
「でも…どうやって?」
いくらなんでも、アメリアと自分の二人では無理だ。
「今回の一件に関しては、他の冒険者も雇って既に動いてもらっている。魔獣を最終的には此処…ジルーシャの街に追い込む手筈で。」
「此処に?でも街の人にも危険なんじゃ…?」
ミィンの不安が強まる。
「馬鹿ね、何の為の冒険者なのよ?裏技使うに決まっているでしょ?」
アメリアが嘲笑う。
「だから、貴方アレを街に設置してね。」
指差された先には、大きな麻袋がふたつあった。

No.20 07/11/10 18:02
旅人0 ( ♀ )

ミィンは麻袋を足元に置き、腰を伸ばす。
先刻の曇天が嘘のように、空は晴れわたっていた。
ミィンは額の汗を拭い、目の前の彫像を見上げる。
台座の上には、白い女性の像があった。
聖ジルーシャである。
『聖なる王家』の姫君だった彼女は、かつてこの地を占拠した魔物を、冒険者達とともに退治したと伝えられていた。
その後、この辺りを治める領主の元に嫁ぎ街の名も『聖ジルーシャの街』と呼ばれるようになった。
…と、街で唯一の老剣士に耳にタコができるくらい聞かされていた。
「…今度の依頼が上手く行きますように!」
ミィンは聖ジルーシャの像に祈る。
お賽銭でも上げたいトコロだが、余分なお金は一銭もない。
今度の依頼が成功したら、せめて銅貨一枚でも捧げたい…が、多分アメリアに根こそぎ持っていかれるだろう。
いつもの事だ。


「ミンチン!」
通りの向こうから、ラリーが手を上げミィンに近寄って来た。

No.21 07/11/10 18:14
旅人0 ( ♀ )

「プレストンさん…」
「ラリーでいい…本当に一人でやってるの?」
ラリーが呆れ顔になる。
ミィンの麻袋の中身は、魔力が込められた銀製の細い棒だ。
それを指定通りに街の各所に設置し、上空に階層の違うもうひとつのジルーシャの街を造り上げ、そこに魔獣を追い込む計画らしい。
その為の銀製の棒は千本近くある。
アメリアは、『日に焼けるから絶対イヤ!』…と、一緒に行なう事を拒否したので、仕方なく一人で回っている。

No.22 07/11/13 13:08
旅人0 ( ♀ )

「大変だね。手伝おう。」
ラリーが麻袋を担ぎ上げる。
ミィンがやっと運んでいた物を軽々としたものだ。
「ありがとうございます。」
ミィンは深々と頭を下げた。


「ラリーさんは何処か行ってたんですか?」
ミィンは指示書に従い、銀の棒を建物の間の路地の隅に突き刺す。
「ご領主とこの街の有力者に挨拶に…ね。色々と根回ししておかないと、後々厄介だから。」
「そう言うものなんですが…?あっ次コッチです。」
ミィンは更に細い路地に入る。
「思ったんだけど…この棒、他の誰かに盗られたりしないかな?銀製だから数集めたら値が張るだろう?」
ラリーがミィンに尋ねる。
「多分…大丈夫です。こういう時は大抵『不可視』の魔法が掛けられているんです。関係者だけ、この銀の棒見えるように。」

No.23 07/11/15 19:34
旅人0 ( ♀ )

「不可視…?」
ミィンは頷く。
「関係者を特定する発動条件が揃うと見えるようになるんです。…私の場合、『聖なる王家』の紋章を見せてもらってからコノ袋が見えるようになったから、多分それが条件のひとつだと思うんですけど…」
「ふ~ん。」
感心したようにラリーが麻袋を見る。
(依頼者なのに知らなかったのかな?)

No.24 07/11/17 16:18
旅人0 ( ♀ )

「つまり、私が担いでいるこの袋は他の人には見えてないわけだね?」
「え…ええ、そうです。」
「なるほど…端から見ると、今、私達は変な動作と変な行動を続ける不審者なわけだね。」
ラリーが納得したように頷く。
「?」
ミィンは首を傾げて、ラリーを見上げる。
「いや…さっきから、どうして街行く人々が怪しそうに見てるのか疑問だったから。」
ラリーが笑った。

No.25 07/11/17 17:19
旅人0 ( ♀ )

「フゥ…一袋目は終わりです。ありがとうございます。」
「お疲れ様。」
なんとか銀の棒を設置し終わったのは、夕暮れだった。あと一袋は、デレクの宿屋に置きっぱなしなので一旦戻らなければならない。
「お腹空かないかい?何か食べようか?」
ラリーがミィンに尋ねる。もちろん、空腹に決まっている…けれど。
「いいえ…大丈夫です。ラリーさんは食事して来て下さい。私は残り一袋を設置しますから。」
言い終わった途端、ミィンのお腹が派手な音を立てた。
「こ…これはっ…その…」
ミィンは赤面する。
「ダイエットか何かしてる?」
「いいえっ」
そうではない。外食できるほどのお金の持ち合わせがないのだ。
髪を売ったお金の半分は、既にアメリアに巻き上げられている。
「そうだな…こうしよう?奢ろう。」
「でも…」
「大丈夫、必要経費だよ。」
ラリーが安心させるように言う。
「経費って、後で返さなければイケないんでしょう?…私あまりお金を持ってなくて…」
いつもアメリアは『経費』を、ミィンの借金に上乗せしてくる。

No.26 07/11/17 17:30
旅人0 ( ♀ )

「返さなくていいよ。今回の依頼でかかった宿代・食事代・その他諸経費は全て依頼者持ちだから。」
ラリーが安心させるように言う。
それなら話は別だ。
ミィンはありがたくご馳走になる事にした。


「混んでるね。」
「そうですね…いつもは空いてるんですけど。」
大通りの食事処は珍しくごった返していた。
しかも普通の客達ではない。
旅姿の者が多い。
中には大剣を背負った者や、長い杖を持った者もいる。
『冒険者』達だ。

No.27 07/11/18 13:54
旅人0 ( ♀ )

なんとか空いている席に座り、食事を頼む。
回りの席からは様々な話題に紛れて、『闇の王』『聖なる王家』などの言葉が漏れ聞こえてくる。
「今回の依頼の協力者?」
ミィンは小声でラリーに問う。
「いや…違う。雇った者はデレクの酒場に集合する手筈になっている。…ああ、そう言えば情報はすぐに漏れて拡がると忠告されたな。」
『情報』は『チカラ』でもあり、金になる。
冒険者専門に、情報を扱っている組織もあるくらいだ。
特に今回のように、聖なる王家などが絡む依頼に関した情報は高く売れるし、どんなに秘密裏を心掛けても驚くほど早く広まる。
それでも新鮮な情報のうちは機密性も高いが、古くなるほど『ウワサ』と言う形でアヤフヤに雑に更に広い範囲で広がって行く。
最も、情報撹乱の為にわざと噂を流す場合もあるが…。

No.28 07/11/18 14:08
旅人0 ( ♀ )

今回の一件も、『ジルーシャの街』で『闇の王』と『聖なる王家』に関した何かがあるらしい…くらいは広まっているのだろう。
おこぼれに預かろうとする輩や、是非関わりたいと思う冒険者達が集って来てもおかしくはない。
「早めにデレクの酒場に戻った方がいいね。」
「そうですね。」
ラリーの言葉にミィンは頷いた。

No.29 07/11/18 14:42
旅人0 ( ♀ )

デレクの酒場は閉店の札が掛かっていた。
だが中はやはり冒険者達で、混雑していた。
「ようお二人さん。」
デレクが珍しく忙しそうにカウンターの中を動き回りながら、ラリーとミィンに声をかけてくる。
「お前さんの雇人以外の冒険者も混じっているぜ。俺には判断がつかん。…ミィン、このビールを奥から三番目の丸テーブルの客に出してくれ。手間賃は払う。」
「はい。」
ミィンはカウンターごしにビールを受け取った。


「お待たせしました。」
ビールをテーブルに置き戻ろうとすると、不機嫌そうなアメリアと目があった。
「貴方…言われた仕事は終わったの?」
テーブルに頬杖をついてアメリアが睨んでくる。
ワインのボトルとグラス、チーズがテーブルの上に乗っていた。
「あと…一袋ある。」
「だったら早く終わらせなさいな!」
「う…うん。」
グズグズしているとボトルが飛んできそうな雰囲気だった。

No.30 07/11/18 22:48
旅人0 ( ♀ )

「スミマセン、デレクさん…まだやらなくちゃいけない事があるんで手伝えません…ホントごめんなさい。」
ミィンはデレクに謝る。背中には残りの麻袋を担いでいる。
それが見えているのか、いないのか…デレクは怒るでもなく頷いた。
ミィンはため息をつきながら、再び街中に出ようとする。
「待ちなさい、ミンチン。」
ラリーが止める。何故か外から酒場の中に入って来た。
その肩に黒い鸚鵡(オウム)が停っている。
滑らかな羽毛が美しい鳥だった。瞳は琥珀色をしている。
「二人でも半日以上かかったんだ。他の者にも手伝わせよう。」
ラリーが優しく言ってくれた。
ミィンが安堵の息をつこうとした時、氷のように冷たい声がした。

No.31 07/11/18 23:13
旅人0 ( ♀ )

「甘やかさないで下さらない?」
アメリアだった。
腕組みをして、ミィンを睨んでいる。
「けれど女の子一人じゃ大変だ。もう暗くなっているし。」
ラリーの言葉にアメリアが笑う。
「お言葉ですけど…ミンチンはれっきとした冒険者ですのよ。女の子である前にね。」
「しかし…」
「それにこの結界は、一定の魔力の者が行なわないと綻びが生じましてよ?複数の魔力の者が行なうなんてとんでもないわ。一度始めたら最後までミンチンがやらなければ。肝心なのは万全な態勢で臨む事ではなくて?」
ラリーが言葉に詰まる。
『彼女ノ言ウ事ハ正シイ』
ラリーの肩の上の鸚鵡が喋った。

No.32 07/11/21 18:16
旅人0 ( ♀ )

『結界ヲ張ル為ノ銀ノ棒ハ僕ノ指示シタ順ニ、設置しなければ意味がない。何人かで手分けして行なう事はならない。』
鸚鵡の口調が滑らかなものになる。
まだ若い…少年の声音だった。
それと同時に鸚鵡の姿が変化し始める。
ラリーの肩から滑り落ち床に軽やかに着地したのは、黒髪の少年だった。
ミィンは目を丸くし、アメリアは眉をひそめた。
少年はミィンよりまだ幼く、十四~五歳ほどに見える。
最も魔法使いの外見の年齢は当てにならない。
高位の魔法使いは変身の魔法が使えるし、魔法薬や魔法美容で容姿は変えられる。
それに…真偽のほどはわからないが、不老不死の秘法を得た魔法使いもいると言う。
とにかく、少年がただの魔法使いでないのは確かだろう。
これほど大袈裟に変化したのに、酒場の客が気付いていない。
おそらく少年が選択した者だけに姿を見せているのだろう。

No.33 07/11/27 17:51
旅人0 ( ♀ )

『別動の追い込み隊に被害が出始めている。それに件の魔獣も明日にはコノ街に辿りつくだろう。結界は今夜中にでも完成しなければ…すぐにでも残りを設置してほしい。』
少年の口調には有無を言わせない強さがあった。
「それならせめて、私がついて行こう。荷物持ちでも、ミンチンの負担が軽くなる。」
ラリーが提案するが、少年は冷たい一瞥をくれただけだ。
『貴方はこれから集めた冒険者達と打ち合わせでしょう?』
「では、他の誰かを…」
尚も言い募るラリーにアメリアが肩をすくめた。
「無駄だわ。魔獣退治に雇われてるのに、結界張りのしかもただの荷物持ちを誰が進んでやるものですか。ミンチン、いいから早く行きなさいな。」

No.34 07/11/29 18:54
旅人0 ( ♀ )

「…行って来ます。」
もうラリーに勝目はないとふんで、ミィンは麻袋を抱え直す。
『お待ちなさい。』
少年がミィンを止める。
『貴方の作業が捗るように力を貸しましょう。多少無理してでも夜明けまでに終わっていただきたい。』
少年が右手の人差し指をミィンの額につける。
『ЯЁfяёлн』
呪文はミィンには解読出来ない韻を含んでいる。
おそらくはかなり高等…少なくとも『シルバー』以上の呪文のはずだ。
少年が呪文を唱え終わると同時に、ミィンの全身に力がみなぎった。
駆け出したい…叫び出したい…踊り出したい…衝動がミィンをつき動かす。
麻袋でさえ、重さを感じさせない。
「行って来ます!!」
表情でさえ晴れ晴れとミィンは外へ駆出した。

No.35 07/11/29 19:07
旅人0 ( ♀ )

「お見事…分身とは思えませんわね。」
アメリアが挑むような目付きで少年を見る。
「本体は本国かしら?自身は安全な場所にいて高見の見物って事かしらね、いいご身分です事。」
少年は全く気にしたふうもなく、と言うよりアメリアを無視してラリーに打ち合わせを始めるよう促す。
アメリアの頬がピクリと引きつった。
険悪な空気を感じ取りながらも、ラリーは少年に頷いてみせた。
確かに、瑣末な事に気を取られている場合ではないのだ。

  • << 41 一通りの打ち合わせを終え、ラリーは客室で椅子に腰掛け、考え事をしていた。 窓辺には、鸚鵡がラリーの方を向いて停っている。 時刻は真夜中を過ぎていた。 『…休まないの?』 少年の声音で、鸚鵡が問い掛けてくる。 酒場での話し方に較べて、ラリーに打ち解けた口調だ。 「お前はどう思った?彼女を見て。いや…彼女達を見て。」 『別に…どちらも僕の好みじゃないね。』 ラリーが苦笑を漏らす。 「そうじゃなくて…似ていると思わないか?」 身を乗り出すように、ラリーは鸚鵡に尋ねる。 『判らない。』 鸚鵡の返事はつれないものだ。 『大体十年前、僕は五つだった。顔なんてうろ覚えだ。…貴方は確か…』 「十二歳…何も判っていない馬鹿な子供だった。」 ラリーの脳裏に、燃え盛る炎の記憶が蘇る。 記憶の中、自分を…子供達を逃がそうと懸命だった女性の顔は、今も鮮やかに思い出せる。 「似ている、あの人に。」 『ラリー・プレストン。今、貴方が気にかけるべきは、彼女達ではないはず。貴方の今回の働き如何に、今後の進退がかかっている。貴方だけでなく、貴方とつるんでいる僕も…ひいてはラビニアも…』

No.36 07/11/29 19:35
匿名さん15 ( ♂ )

この話、そこそこ面白いけど、展開がだる過ぎです。あと、コノ街とか、こだわりがあるのか、街の名称なのか、まぎらわしい感があります。あと、ラリーに勝ち目はないと、踏んだミィン。そーゆー冷たい性格なのか?少なくとも現時点では。アメリアも個性的に見えますが、そんな大したことやらせてないし。でも、パワーは買いますよ。頑張ってください。応援します。よければ批判もします。まず、個性的なハンドルネームにしたら、どうでしょう?アタシが書いたんだって、言う足跡をくっきりと残してください。o(^-^)o

  • << 39 物語を再開する前に… ○展開がだるい……今後の展開への伏線(ジルーシャの魔女編以降の展開も含めて)を張っているのと、世界観や物事の成立ちや決まりを説明しながらのせいかもしれません。 だいぶ省いているつもりですが…。 本編が終わったら、『設定説明』『人物説明』をいれます。 更新のペースは、仕事や生活を優先するので、毎日更新は難しいかもしれません。 ○アノ、コノ表記が解り辛い……確かに紛らわしかったり、読み辛いかも。以後気をつけていきます。 ○ミンチンは冷たい?……のではなく、『プロ意識』が絡んできます。詳しくは長くなるので、『設定説明』に書きますが、ミンチンは、長引くとラリーの依頼者としての立場が悪くなると考えて、一人で役目を果たそうとした…つもりで書いていたんですが、伝わりにくかったかな…と反省。まだまだ表現力が拙いですね。 ○ハンネ…は、敢えて『旅人』にしてます。語部でもよかったけれど、伝承者不明と言うか、『旅人に伝え聞いたところによると…』と言う雰囲気にしたかったので。吟遊詩人だと、詩的表現とか絡んでくるかも…と色々考え、今回は『旅人』を選びました。 (続く→)

No.37 07/11/29 19:47
匿名さん15 ( ♂ )

あと、これは絶対に推敲したがいいという部分があります。オウム君に不思議感をもたせようとしたんでしょうが、「結界ヲ…しなければならない」みたいな、カタカナから平仮名への転身。う~む、おかしく感じるのは僕だけかなぁ?

  • << 40 (続き→) ○鸚鵡のセリフについて……鸚鵡自体の説明は『設定説明』で。 セリフの書き方は正直悩んで、あの形になりました。要は…鳥独特の片言から、人間の滑らかな口調に変化した…(今思えば、前出の文章を入れればよかった。)と、言う形にしたかったわけですが、表現方法が悪かったと、反省。 ジルーシャの魔女編終了後に『設定』『人物』について説明をいれます。 感想・アドバイスはその時に頂けると助かります。

No.38 07/12/19 14:41
旅人0 ( ♀ )

>> 37 感想・アドバイス頂いたのに長々とお返事できなくて、申し訳ないですm(_ _)m
仕事と体調の都合で、もうしばらくはこっちの更新ができないかもしれないです(´A`)
年明けにはなんとか再開…と、思っておりますのでご容赦下さいませm(_ _)m

No.39 08/01/12 13:54
旅人0 ( ♀ )

>> 36 この話、そこそこ面白いけど、展開がだる過ぎです。あと、コノ街とか、こだわりがあるのか、街の名称なのか、まぎらわしい感があります。あと、ラリー… 物語を再開する前に…
○展開がだるい……今後の展開への伏線(ジルーシャの魔女編以降の展開も含めて)を張っているのと、世界観や物事の成立ちや決まりを説明しながらのせいかもしれません。
だいぶ省いているつもりですが…。
本編が終わったら、『設定説明』『人物説明』をいれます。
更新のペースは、仕事や生活を優先するので、毎日更新は難しいかもしれません。


○アノ、コノ表記が解り辛い……確かに紛らわしかったり、読み辛いかも。以後気をつけていきます。


○ミンチンは冷たい?……のではなく、『プロ意識』が絡んできます。詳しくは長くなるので、『設定説明』に書きますが、ミンチンは、長引くとラリーの依頼者としての立場が悪くなると考えて、一人で役目を果たそうとした…つもりで書いていたんですが、伝わりにくかったかな…と反省。まだまだ表現力が拙いですね。


○ハンネ…は、敢えて『旅人』にしてます。語部でもよかったけれど、伝承者不明と言うか、『旅人に伝え聞いたところによると…』と言う雰囲気にしたかったので。吟遊詩人だと、詩的表現とか絡んでくるかも…と色々考え、今回は『旅人』を選びました。
(続く→)

No.40 08/01/12 14:22
旅人0 ( ♀ )

>> 37 あと、これは絶対に推敲したがいいという部分があります。オウム君に不思議感をもたせようとしたんでしょうが、「結界ヲ…しなければならない」みたい… (続き→)
○鸚鵡のセリフについて……鸚鵡自体の説明は『設定説明』で。
セリフの書き方は正直悩んで、あの形になりました。要は…鳥独特の片言から、人間の滑らかな口調に変化した…(今思えば、前出の文章を入れればよかった。)と、言う形にしたかったわけですが、表現方法が悪かったと、反省。


ジルーシャの魔女編終了後に『設定』『人物』について説明をいれます。
感想・アドバイスはその時に頂けると助かります。

No.41 08/01/14 22:24
旅人0 

>> 35 「お見事…分身とは思えませんわね。」 アメリアが挑むような目付きで少年を見る。 「本体は本国かしら?自身は安全な場所にいて高見の見物って事か… 一通りの打ち合わせを終え、ラリーは客室で椅子に腰掛け、考え事をしていた。
窓辺には、鸚鵡がラリーの方を向いて停っている。
時刻は真夜中を過ぎていた。
『…休まないの?』
少年の声音で、鸚鵡が問い掛けてくる。
酒場での話し方に較べて、ラリーに打ち解けた口調だ。
「お前はどう思った?彼女を見て。いや…彼女達を見て。」
『別に…どちらも僕の好みじゃないね。』
ラリーが苦笑を漏らす。
「そうじゃなくて…似ていると思わないか?」
身を乗り出すように、ラリーは鸚鵡に尋ねる。
『判らない。』
鸚鵡の返事はつれないものだ。
『大体十年前、僕は五つだった。顔なんてうろ覚えだ。…貴方は確か…』
「十二歳…何も判っていない馬鹿な子供だった。」
ラリーの脳裏に、燃え盛る炎の記憶が蘇る。
記憶の中、自分を…子供達を逃がそうと懸命だった女性の顔は、今も鮮やかに思い出せる。
「似ている、あの人に。」
『ラリー・プレストン。今、貴方が気にかけるべきは、彼女達ではないはず。貴方の今回の働き如何に、今後の進退がかかっている。貴方だけでなく、貴方とつるんでいる僕も…ひいてはラビニアも…』

No.42 08/01/14 22:54
旅人0 

>> 41 「ああ、判っている。」
ラリーは、再び椅子に深く腰掛け直す。
『なんとしても…エイミー姫だけでも、取り戻さないと。』
ラリーは頷く。
『明日の朝には、アーチーボルト様も到着する。後は手筈通りに“鍵”を使って。…最も、結界が完成しないとどうにもならないけど。』
「ミンチンは大丈夫だろうか?やっぱり…今からでも行って…」
『さっき説明したはずだよ。“活性”の魔法に“災厄除け”の呪いもかけてるから大丈夫。…最も、魔法がきれたら、副作用の頭痛と筋肉痛が待ってるけどね。気の毒に。』

気の毒と言うわりに、悪びれた風もない声音だった。
『とにかく、貴方は休める内に休んだ方がいい。魔獣が到達したら、長丁場になる。』
「……ああ。」
ラリーはため息をつく。
確かに、本国での今の自分の立場は、かなり微妙なのだ。
今回の任務への協力だって、いい顔はされなかった。
「まずは…任務を遂行させないと…」
自分の気掛かりを解決するのは、それからだ。

No.43 08/01/15 23:49
旅人0 

空は白みつつあった。
ミィンは重い足取りで、聖ジルーシャ像の前に、辿り着く。
三十分前くらいから、こめかみから後頭部にかけてのズキズキとした痛みと、首筋・両肩・背中・脇腹・下腿…と、ほとんど全身に痛みが現れていた。
(流感にかかった時みたい…寒気はないけど。)
ミィンは、呻きたいのを我慢して、最後の銀の棒を、像の土台に設置した。
瞬間、空に光が射し込む。
朝陽とは全く違う輝きに、ミィンは空を見上げた。
「ウワァ…」
痛みを忘れて、感嘆の声をあげる。
上空に、逆さまの街並みが出現していた。
まるで鏡に映したかのように、上下左右対照の街が。
『闇の王ランカシャの瞳』を核に生まれた魔獣を、誘い込む為の結界は、完成した。

No.44 08/01/16 22:12
旅人0 

結界を完成させた後、全身の痛みを堪えて自宅に戻り、傷薬や化膿止め、気付け薬など自分で造った薬や救急道具を大急ぎで準備して、ミィンはデレクの酒場に向かう。
ちゃんと、自分の痛みの処置も行なった。
ミィンの今回の本当の役目は、回復のサポートだ。
いざと言う時に、痛みで動きが鈍っては、役立たずの謗りは免れない。


まだ夜が明けて間もないが、早起きな街人達は、空を驚いた顔で見上げていた。
どうやら結界の街は、不可視ではないらしい。
ミィンは人々を尻目に、酒場へと急いだ。

No.45 08/01/16 22:31
旅人0 

酒場に到着し、中に入ろうとしてミィンは、足を止める。
中からガミガミとした大声が聞こえて来た。
それは怒声に近い。
ミィンはその声に、聞き覚えがあった。
恐る恐る、酒場に入る。
「この小癪な魔女めが!!」
年老いた老剣士が、青筋をたててアメリアを怒鳴る。
ジルーシャの街に住まう、自称歴戦の勇士ドン・カッチョである。
古びて重そうな鎧を身に着けた老剣士は、大剣を自分の脇のテーブルに立て掛け、丸椅子にふんぞり返っている。
足元には、これまた年老いた雑種の犬が、蹲っていた。
対峙するアメリアは、冷たい、軽蔑も露な表情を浮かべている。
そして、ラリーが困惑した顔付きで、二人の間に立っていた。

No.46 08/01/17 22:59
旅人0 

(コワイッ…)
険悪な雰囲気を察し、ミィンは忍び足でカウンターに近付く。
迂闊に音をたてたら、自分まで怒鳴られてしまうような気がした。
カウンターの中では、デレクが腕組みをして、三人の様子を眺めている。
「デレクさん…おはようございます。何事ですか?」
ヒソヒソ声で、ミィンは尋ねた。
「年寄りは朝が早い。」
しかめ顔をして、デレクが答える。
「はい?」
ミィンは問い返す。
「爺さん、毎朝の日課の愛犬の散歩に出て、上空の異変に気付いたそうだ。…で、悟った。この街で、自分に知らされてない大事が起きてるってな。」

デレクがため息をつく。
「除け者にするとはケシカラン…と、うちに怒鳴り込んで来たところに、アメリアが居合わせて、この有様と言うわけだ。」
「あぁ、それで…」
多分、アメリアがいつもの毒舌を、ドン・カッチョに浴びせたのだろう。
「さすがにプレストンも、年老いた剣士を仲間にする気はないらしい。それを正直に話したもんだから、爺さん、益々お冠だ。」
(年寄り扱い嫌いだもんな、カッチョさん…。)

No.47 08/01/17 23:38
旅人0 

ドン・カッチョは頑固で生真面目だ。
街の子供達には、『ガミガミ爺さん』と呼ばれ、畏れられている。
冒険者としての経験は長く、己の活躍をやや(かなり…との、情報もある)誇張気味に、ミィンや子供達に話すのを楽しみにしていた。
齢七十歳近いが、年寄り扱いされる事を良しとせず、日々鍛練に勤しみ、度が過ぎて診療所に担ぎ込まれる事もしばしばあった。
熱意は認めるが、時に空回りする事も多い。
アメリアとは天敵関係で、出合ったが最後、悪口雑言の嵐。
大抵はどちらかが退席するまで、収まることはない。
(…どうする気だろう?)
ミィンは、気の毒そうにラリーを見やる。
アメリアと老剣士を、宥めるのはかなり大変だろう。
果たしてラリーに、二人を仲裁し、尚且つドン・カッチョを納得させる形で、身を引かせる事ができるのか…?
成功させるには、労力を要しそうだ。
ミィンは、ラリーに同情していた。

No.48 08/01/18 00:15
旅人0 

だが、救い手は以外なところから現れた。


「年寄りの冷や水。こっちはヨボヨボの爺さんの相手をしてる暇は無いのよ、お生憎様ね。とっとと帰ったら?」
「何を!この性悪めが!!」
もはや刃傷沙汰に発展しそうな様相を呈してきた時、その人物は颯爽と酒場の中に入って来た。

「やあ!おはよう、諸君!!これから起こる厄介事を、予想させないような清々しい朝だね!!徹夜明けの眼に朝日が染み込むよ!!」
場の空気など全く気にした風もなく、見事な赤毛の青年が、ズカズカとラリーに歩み寄る。
年の頃は、三十歳後半と言うところか…。
「アーチーボルト!」
呼び掛けるラリーの声には、安堵の色が含まれていた。
だが、赤毛の青年はラリーの前を通り過ぎ、そのままアメリアの手を取る。
「これはこれは…見目麗しきレディ。貴女の美しさは、喩えるならば大輪の薔薇。その薫香で、私の荒んだ心を慰めて下さい。」
「ウザいわね、あっち行って!!」
歯の浮く台詞に怯む事なく、アメリアが吐き捨てる。
「あぁ…美しい薔薇には、やはり刺がある。」
赤毛の青年は、残念そうにアメリアから手を離した。

No.49 08/01/18 23:39
旅人0 

「“紅蓮のアーチー”…」
デレクの声は小さかったが、ミィンの耳にハッキリと聞こえた。
(あの人が…?有名な“紅蓮のアーチー”??)

“紅蓮のアーチー”と言えば、冒険者業界では知らぬ者がいないほど、高名な剣士だ。
今回のような闇の王絡みの騒ぎの時には、ほとんど必ず、彼の名前が出てくる。
(凄い…そんな人と、今回一緒に仕事できるんだ。)
これは、ドン・カッチョならずとも、誰かに自慢したくなるかもしれない。
ミィンは、赤毛の青年を興味深げに見つめる。
すると視線を感じたのか、ラリーと何事か言葉を交わしていた青年が、ミィンを見た。
一瞬、目が合う。
「これはこれは…」
青年が破顔し、ミィンの方に、両手を広げて歩み寄って来た。
「野に咲く可憐なタンポポのような君に、たった今気付くとは、このアーチーボルト、一生の不覚。」
言いながら、ミィンの両手を握ってきた。
近くでみると、青年の瞳は深い青色だった。
(それにしても…)
自分のタンポポとアメリアの薔薇では、あまりに喩えに差があるではないか。
同じ野草でも、せめて菫とかだったら、ミィンだってもっと嬉しかったかもしれない。

No.50 08/01/19 00:13
旅人0 

ミィンの心情など察する様子もなく、青年は語り続ける。
「その暖かいまなざしで、私の荒んだ心を慰めて下さい。」
青年の肩越しに、アメリアが『ケッ!』と、呆れ顔で肩をすくめるのが見えた。


一方、赤毛の青年の登場に、毒気を抜かれたように立ちすくんでいたドン・カッチョは、ようやく我に返る。
「アーチーボルト…?赤毛のアーチーボルト…?」
呪文のように、青年の名前を呟いていたが、ミィンを口説き始めた姿に、ドン・カッチョの記憶の扉が開いた。
「ヌオォ!!貴公、あのアーチーボルトか!?」
老剣士は、再び、頭から湯気を出しそうな勢いで怒鳴り始めた。
「そうですが…何処かで逢いましたか?あまり男の顔は覚えていないのだが…」
ミィンの手を握ったまま、赤毛のアーチーボルトが答える。
「クワァ~!儂が半年かけて、やっと口説いたヴェティちゃんを、横からひっさらいよったくせに、覚えておらんのか!?ここで逢ったが百年目!!思い知らせてくれる!!」
ドン・カッチョは立ち上がり、大剣を振り上げ…ようとして、逆に剣の重さにバランスを崩し、壁際に積んであった酒樽に、派手な音を立てて突っ込んで行った。

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