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レス4 HIT数 552 あ+ あ-

小説好きさん
21/03/02 01:26(更新日時)

「なあ、私に散々暴言を吐き散らかしてくれないか」
 医学博士である彼は、一緒に酒を酌み交わしていた友人に唐突にそう言った。

「何を言っているんだ? 友人であるお前に、特に不満なんかないぞ。今だって楽しく酒を飲んでいたじゃないか」
「良いから。私が激怒するようなことを、とにかく精一杯まくし立ててくれ」

 そう言われると、その友人は、困ったような表情を浮かべながらも、まあ、頼まれたのだし、普段のストレスを発散する良い機会だと考え直し、あることないこと怒鳴り散らかした。

「やい、この禿頭、根暗やろう。インチキ臭い、陰気な面しやがって。たまには面白いことの一つでも言ってみろってんだ。そんなんだから、友人と呼べるやつが一人もできねーんだろうが。俺だって、お前の金目当てで近づいてるだけなんだからよ。ほら、怒れよ、なんとか言ったらどうだ」

 それを聴くと、博士は、すました表情で、栄養剤のようなものを飲み干した。
「うん、かなり良い効き目だ。すばらしい」

「何が素晴らしいんだ? あれだけ悪口を聞いて、さすがに少しは腹もたっただろう」
「いや、私が研究してきたこの嫌なことを忘れる薬は、たった今起きた嫌なことだけを一瞬のうちにすべて忘れ去ることができるのです。それを、今実際に自分で試してみたところ、清々しい気持ちだ。これが認められれば、世界中で飛ぶようにヒットするぞ」
「なんだって、そんな薬を研究していたのか。ぜひ、俺に売ってくれ」
「そうはいかない。効能は、今、私の独断による自主臨床試験で確かめられたが、まだ私一人なのだし、そもそも、その前段階の非臨床試験というものをほとんどやっていないのだ。本来なら、非臨床試験に3〜5年、臨床試験に3〜7年といった期間を経て、問題がないと判断してから、ようやく販売にこぎつけられるものだ。今この瞬間大丈夫だったとしても、副作用などがある可能性だってある。こういった特殊な薬はなおのこそ、慎重に試験を重ねていかなければならない」
「いいじゃないか。とりあえず、今のところ、お前は大丈夫そうだ。回数なら俺が一人で何度でも治験とやらをやってやるから」
「ううむ。まあ私とお前の仲だ。では、一旦一週間ほど、私の様子を見て、問題がなさそうなら、特別にお前にも譲ってやろう」
「そうこなくっちゃ、持つべきものは友達だ」

No.3245627 21/03/02 01:23(スレ作成日時)

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