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ゴージャスな牢獄

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小説好きさん
20/12/10 22:52(更新日時)

【第一話 おてんばな姫】

「ねえ、爺や、森へ行きたい!」
「ダメですぞ。姫さま。森にはどうもうな動物たちがたくさんおりますので危険です」
「いやじゃ。行きたい」
「そんなに急に言われましても、森へ行くには、勇敢な兵士を何人も護衛として連れて行ってもらわねばなりません。今急にと言われましても、それぞれ与えられた任務があります」
「行きたいと言ったら、どうしても行きたいのじゃ!」
「それに、前回も同行の護衛たちをふりきって、何時間も脱走してしまわれたではないですか。我々家来たちは、何時間も苦労をかけて総動員で探し続け、日も落ちる頃になって、ようやく見つけたというのに。あのようなことをされては、困ってしまうのです。また姫を探すために多くの人手が必要になってしまいます」
「隠れんぼしてただけじゃない。あれだけの大人がいて見つけるのが下手すぎるんじゃないの?」
「隠れんぼは城内でしてください。この爺がいくらでも相手してをあげますわい。前回なんて帰りにクマにも襲われそうになったではありませんか。勇敢な護衛たちがなんとか追い返したから事なきを得たとはいうものの、姫さま一人の時にでも出くわしていたらどうなっていたことか」
「あれは、私がクマに帰るよう申し付けたのじゃ。断じて護衛が追い返したのではない」
「何を阿呆なことを……、いや言葉が過ぎました。しかしながら、今日は森へは行かせられません。我慢というものを覚えてください」

 この国を治める王さまの娘である姫と、爺やと呼ばれているのが、姫の身の回りの世話を担当する家来であるが、二人の間での、よくある日常の会話。
 姫は「おてんば」と呼ばれるのに似つかわしい活発な女の子だ。
 一つだけ問題なのが、城内での遊びに飽き足らず、城を出ては、たびたび護衛の家来たちの目を盗んでは、一人で飛び出し、野山を駆けずり回って遊んでしまうことだ。

 この国の王さまにとっては宝物のような一人娘に何かあってはならない。日常の世話はもちろんのこと、爺やは常に出来る限り近くで姫を見守るのが仕事でもある。
 姫に何か起こってしまってはクビが飛んでしまうどころか、王さまはもちろん、国中の民が悲しみに包まれてしまうだろう。
 今だ世継に恵まれていない王さまにとっては、唯一の子供なのだ。
 しかし、こうも毎回騒動を起こされてしまったら、いくら仕事とはいえ、家来である彼らも堪ったものではない。

No.3196187 20/12/10 02:11(スレ作成日時)

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No.1 20/12/10 02:17
小説好きさん0 

【第二話 大脱走】

「姫さまあ。どこですか! 姫さまー、どこにおられるのですか!」
 ある日、忽然と姫の姿が見えなくなった。
 これまでは、いなくなるとしても、何名もの護衛の兵士たちと外に出た後に行方をくらますといったことしかなかったのだが、誰にも知れずに、城外へ出てしまったようだ。
 王さまはもちろん、家来たち総出で城内をくまなく調べたが、どこにも見当たらないのだ。広い城内とはいえ、こんなに多数の家来たちで探しても見つからないのだから、城内にはいないとしか考えられない。
 しかし、お城は堀で囲まれ、いくつもある門には、扉の開け締めを担当する番兵が配置されており、誰にも気づかれずに外に出ることなど到底不可能はずなのだ。
 それこそ、塀をよじ登り、堀を泳いで渡るようなことをしなければ無理だろうし、門のない場所であったとしても、ほとんど死角なく見晴らせるように、いくつもの櫓から監視をしている。
 万が一にも、外に出られたところで、そこにはしばらく続く広い城下町がある。
 姫のような派手な恰好で、水浸しの少女が走り回っていれば、すぐに噂になることだろう。
 しかし、城内にいないのであれば、城の外を探すほかない。家来たちは、駆けずり回って、びしょ濡れの服を来た少女を見なかったか、姫をかくまったりはしていないかなどと、町中を尋ねて回った。

No.2 20/12/10 11:44
小説好きさん0 

【第三話 森のクマさん】

 その頃姫は、城下町よりもっと先にある広い森の中にいた。
「ねえ、クマさん。今日は何して遊ぶ?」
クマは《ウオォン》と野太い声を発した。
「今日は鬼ごっこね。じゃあ十数えるから逃げて。ひとーつ、ふたーつ、みっつ……」
 近くの木からは、大きなワシが楽しそうに羽をバタバタとさせながら、それを見ていた。
「ぜい、ぜい、ぜい……。クマさんの姿は見つけたけど、いつも足が速いのぉ。あんなに図体が大きいのに。それなら近道じゃ」
 バシャンという音とともに、川に飛び込んだ姫は、流れを利用し、なんとかにクマに近づきタッチした。
 《ウオォォォン》
 「今日はやっと勝てた! 嬉しいのじゃ。今日はもう帰る。また遊びにくるぞ。ワシさん、城まで帰してくれ」
 《グワッ》
 分かったと言ったような鳴き声で、大きなワシは地上に降り立ち、姫を背中に乗せ、城へと飛び立っていった。
 どうにも姫には不思議な力があるようで、何度もこの森に遊びに来ているうちに、ここの住人、すなわち、動物や昆虫、草花や木々たちと会話が出来るようになっていた。
 ワシはバタバタと夜の星空を抜け、お城のてっぺんの方にある姫の窓のあたりに降り立った。
「ありがとう。ワシさん。また抜け出したくなったら、ここから連れ出してね。お城には見張りが多すぎて、なかなか外へ出してもらえないのじゃ。たまに気が向いた時に、ここに来てくれればよいから」
《グワッグワッ》
 そう鳴くと、ワシはまん丸いお月さまと星々をバックに森へと帰っていった。
 姫は、まだ少しだけ濡れていた服を着替え、布団に入り、自由で楽しい森の中のことを振り返りながらニンマリとしながら眠ろうとしていた。

No.3 20/12/10 12:12
小説好きさん0 

 その時、念のめ、改めて姫の部屋を捜索に来た爺やに見つかった。
 そう、城内はまだ大騒ぎで、家来たちは、足を棒のようにしながら城の内外を捜索していたのだ。
「姫さま! どこへ行っておられたのですか。城内は大騒動ですよ!」
「爺や、私は、ずっとこの部屋で読み物をしておったのじゃ。何度か厠へは向かったから、その時にたまたま来たのではないのか。何をそんなに大げさな」
「そんなはずはありません。この部屋だって、何度も確認しに参りましたが、どこにも姿はございませんでしたぞ」
「爺やももういい歳じゃ。目が悪くてここによく見えていなかったのじゃろう。それに、本当にいなかったのだとしたら、私はどこから出て行っていたと申すのじゃ。城から出るにも、もちろん戻るにも、いたるところに門番が目を光らせておるではないか」
「それは、そうですが、しかし……」
「ええい、もう夜も遅い。私はもう眠りにつく。しかも不躾に、突然と私の部屋に踏み入ってくるなど、失礼極まりない。身の程をしるのじゃ」
「は、ははぁ。かしこまりました」
 納得がいかないながらも部屋を出た爺ゃは、急いで王さまに姫が見つかったことを報告し、城内外の捜索隊らにその旨を伝えるべく伝令を走らせた。
 確かに姫の言う通りであった。城から出るにも戻るにも、門番が開けなければ門はくぐれない。一番外の城壁を出る前にも、いくつもの門が存在し、それぞれに家来たちが待機しているのは間違いない純然とした事実。
 仮に一部のものを懐柔し、通してもらったとしても、幾重にもあるその全て通過することなど到底できるはずがない。しかも誰の目にもつかないような形で。
 どのような方法でも不可能なことは、この城に仕えている者たちが誰よりも知っている。
 皆不思議に思いながらも、姫が見つかったということで、とりあえずは安堵した。
 特に王さまは。

No.4 20/12/10 18:37
小説好きさん0 

【第四話 姫騒動】

 しかし、その後もたびたびと姫は行方をくらまし、その都度、城内の大騒動は繰り返された。
そして、人知れず自室に戻り大慌ての家来たちを見るにつけ、ケラケラと笑い転げたり、キョトンとしていたり、プイと怒ったりするのだ。
「一体どうやって外にで出いるのですか。そろそろ本当のことを言ってくれないと我々も困るのです」
「隠れんぼしていただけと言っておろう。こうも毎回見つけられないなんて、敵国の忍びの者などがこの城に侵入したらえらいことになってしまうぞ。もっとしっかりせい」
 姫はそのように言うが、こう何度も城中をかき回されては、家来たちも疲れ果ててしまうし、なんと言っても、この国や城の治安の問題にも関わってくる。最近は、この城の警備が薄いのではないか、どこかの国に攻め入られたら、すぐにでもやられてしまうのではないか。そんな良くない噂が城下でもささやかれるようになっていた。

 王さまは、事がこれ以上大きくなる前にと決心し、姫の部屋の扉の前に、常に二人ほど監視のための家来をつけた。これで、食事や入浴、用を足す時など、限られた時間以外は部屋の外に出ることは出来ないし、外に出る際は、常にその家来たちに同行するよう命じておいた。
 扉の前にいる家来は、定期的に扉をノックし、姫からの返事があるかどうかを確かめる。返事がなければ、こっそりと扉を開け、眠っているかを確認し、扉をしめる。その繰り返しだった。
 しかし、そこまでしていても、ある日、姫はこつ然と姿を消した。
 家来からその一報を受け急いで部屋へ赴き、確実に姿がないことを見届けた王さまは、まさか魔法のように出現するはずはあるまいと、娘がいつどのように戻ってくるのかを確認するため、その日は部屋の内側にも家来を配置し待たせることにした。

No.5 20/12/10 20:58
小説好きさん0 

 姫は姫で、いつものようにワシに乗って帰ってこようとしていたが、どうやら家来が部屋の中も見張っていることを察知し、一旦、森へと舞い戻った。そして、家来がウトウトとし始めるであろう明け方のタイミングを見計らい、一瞬の隙をついて、こっそりと窓から入り、布団へ潜った。遅くまで遊び疲れた姫は、すぐに寝息をたてはじめた。
 部屋の中の家来は、その寝息の音ではっとし、目を見開いた先にある姫の姿をはっきりと目視した。確かに、その家来は一瞬ウトウトとしていたかもしれないが、ほんの僅かな時間だ。
 その家来は、王さまにこのように報告した。
「部屋の監視をお任せいただいてから、今の今まで、ずっと部屋の中におりましたところ、瞬時に布団の中に眠っている姫さまが出現してしまいました。夢かと思わんばかりで、頬をつねってみましたが、やはり目の前には眠っている姫さまがおられるのです」
「ふむ。扉の内外を監視していて、娘が突然布団の中で寝ていたとな。どういうことだ、これは」
「考えられるとしたら、いや、これも魔法のような話ですが、窓から出入りしているものとしか考えられません。扉の外のやつも、誰も通していないと申すのです。私が確認したところ、姫が戻ってきた時には窓の鍵はしっかりとしまっておりましたが、戻る前に鍵がしまっていたのかどうかまでは確認しておらず、定かではありません」
「しかし窓が開けば君も気づくであろう」
「これが、お恥ずかしい話ですが、僅かばかりの時間、本当に僅かばかりの時間ではありますが、少しウトウトしていたかもしれません。その隙をついて、窓から侵入したとすれば、合点がいきます。さすがにお城のてっぺんの窓から出入りすることなど夢にも思っておりませんでしたので、窓の方への意識が薄かったこともありますが。大変申しわけございません」
「ふむ。まあ仕方があるまい。誰があのような高い所から出入りすると思うであろうか。しかも、君も長時間の監視を続けていたわけだし、ウトウトしていたこと自体は責めるつもりはない。分かった。下がってよいぞ。ご苦労だった」
「かしこまりました」

No.6 20/12/10 21:18
小説好きさん0 

【第五話 王さまの判断】

 翌日、娘を呼び出した王さまは、部屋を移動するよう申し伝えた。
 姫が連れてこられたのは、とても広くゴージャスな部屋であった。
 豪華な家具、繊細な職人が作ったことがひと目で分かる部屋一面の壁紙、ところどころに配置されるきらびやかな装飾品、この国では超一流とされる絵も何枚も壁にかけられていた。
 外へ通じるたった一つの扉以外には、窓すらないことを除けば、絢爛豪華極まりのない部屋だ。

「娘よ。父としても、まことに心苦しいが、今日から、お前はしばらく、この部屋で過ごすことになる。ああも毎回のように騒動を起こされては、家来たちが疲労してしまうことはもちろん、民からの信頼も、また、わしの王としての威厳も失墜してしまう。心を入れ替えるまで、ここで自分自身の行動について振り返り、反省するのだ」
 もちろん王さまも、愛する娘にこのような仕打ちをせねばならぬことは不本意であり、苦渋の判断だったことは、筆舌に尽くしがたい。
 部屋の内外に監視をおかれ、寝ている間はおろか、食事や入浴等、生活のありとあらゆる場面に、姫には監視のための家来がつきまとうようになった。
 姫は、不自由だと思っていたこれまで以上に、完全に自由を失ってしまい、常に誰かに見られていることに強烈なストレスを覚えた。
「これじゃあまるで牢獄みたいじゃない」
 そんな生活を続けているうち、次第に食事も喉を通らなくなり、姫は少しずつ弱っていった。
 無論、王さまもその様子を知らぬはずはなく、日々、家来からの報告を受けるたびに心配をしていた。
 おてんばで、あれだけ毎回騒動を起こし城中を騒がせていたとしても、たった一人の可愛い娘なのだから。

 しかし、その頃の王さまには、そんな娘を気遣う余裕はなくなっていた。
 隣国との関係が悪化し、戦争が始まっていたのだ。
 王さま自ら先陣を切り、多くの家来たちとともに、幾度となく危ない目にさらされながら、ギリギリの戦いを繰り返していた。最初は一進一退の攻防だったが、戦力に勝る隣国からの猛攻に耐えきれず、徐々に劣勢に立たされはじめていたのだった。
 そんな状況で、娘一人の起こす騒動のために、たくさんの人員を割くことは出来ない。多くの兵士や住民たちに対する責任があるのだと、自分を言い聞かせるように繰り返し自問自答していたようだった。

No.7 20/12/10 21:45
小説好きさん0 

【第六話 苦悩の果てに】

 ついには、王さまの国は城下町周辺まで押し込まれ、戦火が迫ってきた町の住民たちは城の中へと逃げ込み、城は完全に包囲された。
 切羽詰まった状況なのは間違いない。
 城内にも、ある程度の蓄えはあるものの、こうも完全に包囲されてしまっては、ジリ貧以外の何ものでもない。
 死を覚悟で打って出た上で壮絶な戦いを挑み歴史に名を残すか、王さま以下主要な家来らの自決を交換条件として責任のない他の家来や民の命を守るよう願い出るか、あるいは、このまま水食料の続く限り援軍すらも期待の出来ない籠城を続けるか。
 考えられるいくつかの選択肢の全てに、良い結末が待っていないことは誰の目にも明白だった。
 そんな状況は明らかに見透かされており、ついには、隣国の王様からの要求を伝える使者が届けられる。
 王さま自身にとっては、厳しい内容だった。

《この国自体の存続は認めよう。しかしながら、貴城及び城下町、そしてその周辺のごく一部の農地以外は、全て我が国のものとする。貴国は、これにより、我が国の属国となる。属国の役割として、春夏秋冬、年四回、領内で収穫できる米ほかの農作物や商取引で得られた金銭の半分を納めるべし。他国との戦争の際には、常に我が国を支援することを義務とする。最後に、これらを遵守するとの証に、人質として貴国の姫を差し出すこと。以上》

 王さまは苦悶の表情を浮かべた。
 確かに、この内容であれば、これ以上は誰一人として死ぬことはない。しかしながら王さまにとってのたった一人の愛娘を人質として隣国に渡さなければならないわけだ。
 長い時間をかけ悩みに悩んだ結果、王さまは国を預かるトップらしく、全ての家来、民の命の安全を約束してくれるのであればと、条件を呑むことを決断をした。

No.8 20/12/10 22:13
小説好きさん0 

【第七話 別れ】

 王さまは、直接娘に事の顛末を伝えた。
 姫は、弱りきった身体のまま、悲しげな表情を浮かべながら、静かにうなづいた。
 隣国には、早速、合意の旨を伝える使者を送る。
 これ以上、王さまの国から何かを要求できる立場にはなく、全ての条件をまるごと受け入れる形で、国王同士で城外で執り行われた両国の停戦合意条約の調印を終えた。
 王さまは、うつろな表情で城へ戻った。
「これで、娘とも別れなければならない。おてんばで、いろいろと騒動を起こしたからといって、戦争の真っ只中だったからといって、あのような弱った姿になるまで何もしてあげることは出来ず、最後には、隣国の人質へと出さねばならぬなんて」
 周りの家来たちも、皆一様に涙に溢れていた。
 王さまは、姫のもとへ近づいた。
「娘よ。さきほど申したと売りだ。こういった結果になってしまったことは、まことに申しわけないが、許してくれ」
 姫は、コクリとうなずいた。

No.9 20/12/10 22:21
小説好きさん0 

 いよいよ隣国へと姫を引き渡す時間となり、最後の別れを惜しむように、王さま自ら衰弱していた娘に肩を貸し、少しの護衛とともに隣国の王さまと兵隊たちの待つ門へと向かった。
「さあ、これがこの国の姫、私の娘です。連れて行ってください。どうぞ大事にしてやってください。これで和平の条件は全て飲んだことになります。宗主国様として、今後は我が国の後ろ盾となっていただき、また我が国も、宗主国様のために尽くすことをお約束します」
 そう言って、王さまが姫の肩から手を離し、姫を差し出そうとした矢先だった。
 大きなワシが姫の背中をぐいっと持ち上げ、そのまま飛びあがり、森の方へ連れていってしまった。
 両軍ともに、何ごとかとざわざわしていると、森の中からはたくさんの動物たちが出現した。
 空からはオオワシの群れや何万匹とも数え切れないほどのスズメバチ、地上からは、イノシシや立派な角を生やしたシカやサルの大群、そして何十頭ものオオカミや、それはそれは大きなクマらが、一斉に隣国の兵士たちに襲いかかったのだった
「なんなんだこれは」
「うわぁ、オオカミが噛み付いてきやがる」
「おい、ハチに刺されてしまった」
「ワシに目をやられた」
「イノシシを止められない」
「こっちはクマだ」
 予想もしない背後からの動物たちからの奇襲。圧倒的な物量で、動物たちに上からも後ろからも攻撃され、狼狽した敵国は、体制を整えなおすことすら出来ないまま、あっという間に戦意を喪失し、ちりじりとなり国へと逃げ帰り、それを見届けた動物たちは、ゆっくりと森へ消えていった。

No.10 20/12/10 22:37
小説好きさん0 

【第八話 神秘の地】

 窮地を脱した王さまや兵士たちは、しばらくざわざわとしていたが、ようやく落ち着きを取り戻してから、話し始めた。
「あれは、なんだったのでしょうか」
「分からないが、我が国に神風が吹いたのかもしれない。各国の歴史には、そういったまことしやかな伝承が残っていることがあると聞く。信じられないことではあるが、今回もそのようなことが起こったのかもしれない」
「王さま、それでは、連れ去られてしまった姫さまを捜索にいきましょう。鳥に連れさられてしまうような怖い目にあって、今頃どこかで震えているに違いありません」
 しばらくの間、王さまは沈黙していたが、意を決したように声を発した。
「いや、それはよしておこう。そうしたい気持ちはやまやまだが、精一杯豪華に飾った広々とした室内を準備したつもりだったとはいえ、窓のない部屋に閉じ込め、徐々に弱っている娘に何もしてあげることが出来なかった。敗戦濃厚であり、お前たちや民の皆を救う唯一の手段だったとしても、娘を人質に差し出すと言った決断までしてしまった。私に、娘を連れ戻す資格はない。娘としてもきっと望んでいないだろう」
「王さま……」
「あの動物たちが、どのような経緯で娘を連れ去り、敵軍を追い払ってくれたのかは分からないが、よく森へ出かけていた娘と、全く関係がないとは思えない。あの森へは、今後、近づかないようにしよう。我々の窮地を救ってくれた動物たちの狩りはもちろんのこと、森の木々の伐採なども全て禁止とする」
 一方、命からがら逃げ帰った隣国の王さまも、同じような命令をくだしていた。
「あの国には何か不思議な能力が宿っている者がいるに違いない。そして人質となるはずだった姫を間一髪のところで助け出し、我々に襲いかかってきた動物たちが住むあの森にはあの国を守る神々が宿っていたのかもしれない。祟られでもしたら恐ろしいことだ。今後は、隣国に手を出すことも、ましてや、あの森には一切関わることを禁ずる」

No.11 20/12/10 22:52
小説好きさん0 

【第九話 姫の木】

 森の中では、姫を中心として、たくさんの動物たちが集まっていた。
「私にあんな仕打ちをするなんて。二度とお城には戻らないわ。私はここで暮らすことに決めたのじゃ」
 そう言った姫の表情は、さっきまでとはうってかわって、嘘のように笑顔が戻っていた。
「ありがとう。ワシさん、そしてみんな」
 森のみんなが持ってきてくれた木の実やくだものなどをもりもりと食べ、弱っていた身体も徐々に元気を取り戻していく。
 姫の周りには、いつもたくさんの動物や昆虫たちが楽しげに寄り添う。
 姫がこの森に住むことを歓迎するように、川はせせらぎの音を奏で、小鳥たちはさまざまな声で歌い、風に吹かれる野山の草花たちも、それに色を添える。
 その森は、自国からは神聖な森として崇められ、隣国からは触れてはいけない危険な森だとされることとなり、それ以降、人間たちによって介入されることが一切ない、姫と動植物たちにとっての楽園となった。

 長い年月が経った。
 そこで楽しく、幸せな生活を送った姫は、森の中で、その生涯を終えた。

 姫が亡くなった日は、多くの動物たちが悲しげに声をあげていた。草花も幾分か下を向き、昆虫たちも姫の亡きがらの周りを飛び回っていた。
 クマは、姫を森の中央あたりにある、この森で一番景色の良い小川の近くのお花畑に運び、他の動物達とともに、埋葬した。動物たちによる、姫のお葬式だった。
 しばらくすると、その場所からは、芽が顔を出し、ニョキニョキと育ち、大きな木へと成長した。
 姫がなくなった時期になると、その木は、あまい蜜を持つ花を多数咲かせ昆虫たちを喜ばせては、やがてとても美味しい果実を実らせ、動物たちの腹を満たした。

 姫の木は、今でも静かに優しく、森全体を見守っている。

No.12 20/12/10 22:52
小説好きさん0 

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