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小説好きさん
20/11/14 17:37(更新日時)

時々現れる妖精のようなもの。こんなことを他人に話してしまうと、頭のおかしい人なのではないかと思われてしまいそうだが、実際に小さな、本当に映画などにでてくるような姿かたちをした、とても妖精のようなものが見えるのだ。

いつも現れるわけではないが、ふとした瞬間に、ぴょんっと、軽やかな身のこなしで目の前に訪れる。

最初は、もちろん驚いたが、今となっては、慣れっこだし、しばらく顔を見ないと、少し不安になったりもする。

「今日はステキなものを持ってきたよ」

そう言いながら、つんできた、とてもきれいな黄色のたんぽぽの花をくれた。

「ありがとう。ちょうど、デスク回りが殺風景でね。花でも飾ろうと思っていたんだ」

そう伝えると、妖精は消えていった。

いつも、そんな短い時間の、ちょっとしたコミュニケーションで終わるのだけど、それがまた癒やしにもなる。

最初は、夢か妄想か何かなのかと自分を疑っていたこともあったが、実際に今、目の前にそのタンポポの花はあり、花瓶に水を注ぎ、デスクに飾られている。

過去にも、色々な贈り物をいただいたが、どれも、ちょっとだけ気の利いた、小さなプレゼントだった。

その子がどういう目的で私の目の前に現れ、何をしてくれているのか、その理由は分からなかったが、とにかく心癒される存在である。

No.3180381 20/11/13 17:07(スレ作成日時)

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No.1 20/11/13 23:03
小説好きさん0 

職業柄、自宅の書斎でデスクに向かって居る時間は長く、集中している私に、妻はあまり声をかけてこない。

そんな中でも、少しだけ気を楽にしたい瞬間もあったりする。そして、なぜか、そう感じたタイミングに、その妖精は都合よく、ひょっこりと顔を出してくれる事が多い。

まるでメルヘンの世界のようだが、都会の住宅地に住む私の目の前に、そんなものが現れるとは思えない、とも思いながらも、実際にいるのだから、否定のしようがない。

おとぎ話の世界では、よくあるシチュエーションなのだろうが、いざ、実際に現実にそれと直面すると、なかなかに興奮するのは確かなことだ。

子供の頃ならまだしも、今や立派な、いやそうとは言い切れないが、いい歳をした大人なのだ。

No.2 20/11/13 23:12
小説好きさん0 

いつ現れるかわからないその妖精は、本当にいつも唐突だ。

「おじさん、今日も良さそうな物を持ってきたのよ。喜んでくれるといいのだけど」

そういって、差し出されたものは、大昔に、うっかりと紛失してしまった、妻との結婚指輪だった。

「なんと。これをどこで見つけたのだい? あのときは本当に、妻にはこっぴどく叱られ、いまだにネチネチと嫌味を言われ続けていたのだよ」

「そうだろうなって思って、探してきたのよ。大事にしてね。指輪も、奥様も」

そのように言うと、また、ひゅんっとどこかへ消えていった。

普段から、この妖精からは、色々なプレゼントをいただいている。

ステキな造形をした貝殻であったり、どこから取ってきたのかもわからないが、とても熟した柿の実であったり。

どれもそれぞれに嬉しかったが、しかし、昔紛失してしまった結婚指輪を持ってきてくれるとは。少々驚いた。

No.3 20/11/13 23:15
小説好きさん0 

「例の結婚指輪。見つかったぞ」

嬉しげに、指輪をはめた指を妻に見せた。

「あら、どこにあったの。あれだけ探して見つからなかったのに。でも良かったわ。思い出のリングなのだから」

これで、少しでも妻との関係性が修復するならば、それ以上に嬉しいことはない。

「どこで見つけたんですか?」

もう一度尋ねられたが、詳しいことを語るとややこしくなることは目に見えているので、適当に話はごまかした。

「どこで見つかったかよりも、まずは、見つかったことをお祝いしようじゃないか。今日はごちそうにしよう。何が食べたいかね」

「まあ嬉しい。せっかくだし、フランス料理でもどうかしら」

もちろん妻の要望通りに、結構有名なレストランを予約し二人で向かった。

No.4 20/11/14 16:50
小説好きさん0 

「美味しいわね。このビシソワーズなんて最高じゃない。前菜でこれだけ満足させてくれるってのは、本物ね」

久しぶりの二人での外での食事を喜んでくれているようだ。

しばらく、素晴らしく美味しい料理たちに舌鼓をうっていると、また唐突に、足元にその妖精が現れた。

「どう? いい感じ? これを奥様に渡してあげて」

これまで、一人きりのときにしか現れたことはなかったはずだが、書斎でもなく、妻と二人で訪れているレストランで、この妖精が出現したのには驚いた。

うっかり声をかけて、おかしなことをしている人だと思われてしまうのも怖かったので、とりあえず、無言のまま渡されたものを拾う。

こういったきっかけを作ってくれたのも、この妖精なのだし、悪いことにはならないだろう。

No.5 20/11/14 17:00
小説好きさん0 

小さなものだが、丁寧に包装されているから、封を開けるわけにはいかない。

少し不安には思ったが、何か意味があるのだろう。そう思い、そのまま、妻に手渡した。

「これ、プレゼントだよ。開けてみてくれないか」

普段このようなことをすることもない私からのプレゼントに、妻は、少し戸惑いを感じつつも、喜んだ表情で包みを開ける。

「まあ、アナタ、なんで?」

中身が何かわからない私は、どのように返答すればよいのか困惑しつつも、「普段のお礼の気持ちだよ」と、当たり障りない言葉を伝えた。

No.6 20/11/14 17:12
小説好きさん0 

随分と驚いた表情をし、驚くというか、少し睨みつけるよう視線で私のことを見る。

「これ、なんだか見覚えがあるわ。本当に随分と前になくしてしまった、昔の恋人から頂いたものそっくりよ。記憶を失ってしまっていた時期の話のはず。どういう経緯でこれを? そして、どういうつもりなの?」

もちろん分かるはずはない。何せ妖精から受け取ったそれの中身を確認することもできず、そのまま渡したものなのだから。

少しだけ覗き込み、中身を確認した時に、ゾッとした。イヤリングだ。

記憶喪失になっていた妻。事故にあった妻は、一時期の記憶をすっかり失っていた。

正直な話をすると、そのイヤリングをプレゼントした、当時付き合っていたのが私だ。

元恋人である、今では妻となった彼女と、一からやり直すと言ったら変な話ではあるが、いろいろと苦心し、アプローチした結果、無事、再び男女としてのお付き合いが始まり、最終的に結婚に至った。

「それ、私が、昔、君に渡したものなんだよ」

静かに流れる時間。静寂。

No.7 20/11/14 17:22
小説好きさん0 

「何を言っているの?」

「君は例の件で、一時期の記憶を失っているだろう? その前にも、お付き合いさせてもらってたのが私なのだよ」

随分と長い時間が、沈黙とともに流れる。

「よく分からないけど、それにしても、どうしてそれを今まで伝えてくれなかったの? なぜなの?」

確かに、妻には全てを伝えるべきかを、ずっと悩んでいた。

苦しんでいる妻に、かつての恋人であったことを伝えることができず、いや、伝えたとしても混乱させるだけだろうと感じ、自重しながらも、それとなく近づき、結果として、付き合い、夫婦になった。

相性は良かったのだろう。

そうなった以降も、その話題については触れることはなかったのだが。

それよりも随分と前にプレゼントしたイヤリングが、妖精から渡された小箱に詰められていたとは。

予想もしていなかったことなので、どういう風に対応して良いのか、とにかく混乱しっぱなしだったが、なんとか状況を整理し、妻に話し始めた。

No.8 20/11/14 17:32
小説好きさん0 

「僕達は、結婚をするずっと以前に、長く付き合っていたんだ。でも、君は事故にあい、その頃の記憶を喪失してしまった。その時に、このイヤリングも無くしてしまったのだと思う。実は、事故前にプロポーズもしようとしていたのだけれど。その後、改めて付き合い始めることになり、そして結婚をすることになった。何度も葛藤したのだけれど、失った記憶の時代のことを伝えることができなかったんだ。でも、今日、このイヤリングを見て、当時を思い出してくれたのだとしたら、また、改めて、新しい二人の未来が見えてくるのではないかと思って」

「おじさん、ようやく言えたわね」

普段なら、すぐに消えていなくなるはずの妖精は、まだそこに居て、そう言った。

No.9 20/11/14 17:37
小説好きさん0 

「なんだかすべてのことを思い出したような気がするわ。確かに、そうね。でも、嫌なことを思い出してしまったとしか言いようがないわ。あなたとのお付き合いは、とてもストレスばかりで、辛くって、別れようと思ってたの。とても苦しかったのよ」

そんなことが妻の口から発されるとは思いもよらず、状況を理解できなかった。

「私のことを束縛して、離そうとしてくれないあなたから逃げたい一心で、あの時、自ら道路に飛び込んだの。死んでしまいたいほどの苦しみを感じていたはずよ。それが、今、またお付き合いをして、結婚しているだなんて」

妖精は妻の側にコソコソと近づいていって、こう言った。

「この後の判断はお任せしますよ。私の役目はこれで終わりです。今がお幸せなのなら、そのままでも良いでしょうし、憎しみのようなものが残っているんだったら、改めて考え直すのも良いと思うよ」

そのまま、妖精は消えていった。

No.10 20/11/14 17:37
小説好きさん0 

エンドです。

とりあえず妖精がでてくるファンタジーな楽しいのを書こうとしていたのですが、結果結局、こんな感じに……。

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