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小説好きさん
20/10/31 00:45(更新日時)

ある日の朝、不安そうな表情を浮かべ、妻が近づいてきた。

「どうしたのだい?」

「なんだか、嫌な予感がするの」

「どうしたのだね。何も変わらないいつもの朝じゃないか」

「分からないけど、とにかく不安なの」

これまでの家庭生活には、特に大きな問題はなかった。
それなりの収入で、マイホームもあり、子どもたちはすでに独立していった。

順風満帆と思ってもよいぐらいの状況。

そんな中、突然妻がそのように言うものだから、少々困惑した。

No.3172050 20/10/31 00:17(スレ作成日時)

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No.1 20/10/31 00:19
小説好きさん0 

「君がそんな弱気なことを言い出すのは珍しいな。特に何も起こらないだろうが、分かった。今日は仕事を休んで一緒に家にいることにしよう」

「そんなことで、解決しそうにはないの。アナタは仕事へ行ってくださって大丈夫だから。なんだかわからないけど、本当に良くない予感がするの」

「いや、それでも今日は一緒にいよう。私も心配だ」

普段はせわしなく仕事をし、朝早く出社し、終電間際まで残業をすることなんてざらで、週末も接待のゴルフなどに駆り出されることが多い。妻と一緒に過ごす時間は大変少なかった。

普段は気丈な妻だが、今日はどうしたのだろうか。長年連れ添って来たが、こんな雰囲気なのは初めてだ。仕事にかまけて、妻のことを随分とほったらかしにしてしまっていたせいなのかもしれない。そんな普段の罪滅ぼしの意味も含めて、今日は一日様子を見ることにした。

良い家庭を築いてきた自負はあるが、私も完璧な人間ではない。たまの家族サービスは必要なのだろう。

人は、不安になると、変に落ち着かなくなるものだ。不安が不安を掻き立て、このような感情になってしまっているはずだ。

夫として、支えてあげる日を作るのも悪くはない。普段は、さんざんと苦労をかけているのだから。

No.2 20/10/31 00:28
小説好きさん0 

「午前中から、アナタとこんなに長く過ごすのはいつ以来でしょう」

「まあ、休日にもなかなか一緒にいる時間を作れていなかったということもあるし、久しぶりかもしれないな。色々と面倒をかけたことも多いが、感謝しているよ」

「そんな風に、もっと前に言ってもらいかったものだわ。今さらそんなことを言われたって、リカバリーにはならないわよ」

愚痴を言われるものの、妻が弱っているこの時に、それに意見するのはまずい。グッと気持ちをこらえる。

「昼は何を食べようか」

しばしの沈黙が流れる。

「アナタ、言いたくなかったのだけれど、たまには自分で決めてよ。毎日、献立を考えるのも大変なのよ。料理は、作ることもそうだけど、何を作るかを考えることの方が大変なんだから」

「これはすまなかった。久しぶりに外食でもしようか。近所の中華料理屋などはどうだい」

「あそこは安くて美味しいし、そこにしましょうか。献立を考えて、買い出しにでかけて、作る手間が省けるのはうれしいわ」

自宅からは徒歩15分もかからない程度の距離にある、その店に二人で入り、メニューに目を通す。

No.3 20/10/31 00:31
小説好きさん0 

少し不機嫌な妻だったので、本当は高級レストランなどに連れて行くのも良いのだが、なんせ、まだランチの時間だ。この後のディナータイムで、もう少しご機嫌を取ることにしよう。

注文した料理がテーブルに並ぶ。

妻は普段注文したことのない麻婆豆腐定食を頼んだようだ。

「それ、嫌いじゃなかったかね。豆腐でご飯は食べられないなんて、ぎゃあぎゃあと言っていたじゃないか」

「なんだか今日は、いつもと感覚が違っているような、なんかそんな感じなの。たまには食べてみようかと思って。それにしても、ぎゃあぎゃあなんて、失礼な言葉をよく平気で私に向けられるわね」

またしても地雷を踏んでしまったようだったが、それなりにフォローし、食事を終えた。

今日の妻は、やはり、何か気分がおかしいようだ。

慎重に立ち回り、ケアしてあげなければ。

No.4 20/10/31 00:37
小説好きさん0 

「せっかくだから少し散歩して行こうか。海辺の公園の遊歩道なんてどうかな」

「いいですね。とても気持ちの良い天気だし、行ってみましょう」

初めてのデートもここを二人で歩いた記憶があるが、とてもよい景色で、人はそれほど多くなく、二人でのんびりとするにはもってこいの場所だ。

途中、ベンチに腰掛け、思い出話に花を咲かせる。

「ここは色々な思い出が詰まった場所だな。こういった二人共通の思い出の場所があるというのは、とても良いことだ」

「あら、良い思い出ばかりじゃないじゃない。私がお手洗いに行っている間に、逆ナンパされた若い女性に、鼻をの下を随分と伸ばして、嬉しそうに連絡先を交換していたこと、一生忘れないわよ」

そんな事件が起こったのもこの場所ではある。さんざん謝罪して、その若い女性とは、礼儀として数回程度のやり取りはさせてもらったが、特に浮気みたいなことはしていない。ただ、連絡先を交換した時点で「浮気」認定した妻からは、随分と怒りを買ったのも確かだ。伸びきった鼻の下を見られたのもまずかった。

「それに関しては、随分と謝ったじゃないか。生まれて初めて女性から道端で声をかけられて、少し気分が高揚してしまったのだよ。特にそれから何かに発展するといったこともなかったわけだから、蒸し返さないで収めてくれたまえ」

どうも今日は発言や行動全てが、良くない方向に進んでしまう日のようだ。

豪華なディナーでご機嫌取り、なんてことも考えていたが、それすらマイナスに働く可能性がありそうだ。
早めに帰宅し、おとなしく一日を終えたほうがよいのかもしれない。

No.5 20/10/31 00:38
小説好きさん0 

二人で帰宅し、リビングへと向かう。

ガチャ。

「アナタ、またですよ。開けた扉はしめてください。何度も言ってるじゃないですか」

「すまない。ついついと」

「それから、脱いだ靴下は洗濯機へ」

「悪い悪い。あとで持っていくよ」

「あとじゃなくて今持っていってください!」

どうにも本当に機嫌が悪いようだ。いや、私の行動が悪いのだろうが、ささいなことにも、こうも目くじらを立てられてしまったらさすがに気分が悪い。

「だいたい君も、朝からずっと事細かく過去のことまで掘り起こして、何か恨みつらみでもあるのかね。言いたいことがあるなら、はっきりとこの場で言ってしまえばいいじゃないか」

No.6 20/10/31 00:45
小説好きさん0 

その言葉が、妻の不満にさらに火をつけ、また、私自身もやや理不尽にも感じる妻の愚痴に対して感情を押さえきれなくなり、そのまま激しい口論となった。

おそらく日常の積み重なった鬱憤が、爆発したのだろう。

しかし、連れ添って数十年、これほどの喧嘩になったことはない。

思えば、妻はずっと我慢してきたのかもしれない。とはいえ、私にだって、という思いもある。

見慣れたはずの妻が、今はかつて見たことのない表情をこちらに向けている。

こんな場合は、男が折れるべきなのかもしれない。しかし自分のプライドが、それを邪魔する。

激しく頭の中が混乱しながら、私も長年我慢していたようなことや、さらには、正直それほど思ってもなかったことまでも、少し誇張して妻へぶつけてしまう。手を出してはいけないという理性の裏に、口喧嘩ですら負けてしまったらこの先が心配だという気持ちもあったのかもしれない。

私の普段からは想像できない以上の反応をしてしまったのだろう。

しばらく何かを我慢してたであろう妻が、突然とダイナミックに動いたと思った直後、腹部に、これまで感じたことのない衝撃と痛みを感じた。

「だから言ったのよ。嫌な予感がするって。このままだと、本当にアナタに殺意を覚えてしまいかねないと思って、しばらく距離を置こうと思ったのに。アナタが変に気を使って仕事を休んでまで、普段したことないような、行動をしたのが悪いんでしょう」

血の付いた包丁を握りしめ、私を刺した妻は、涙を流し混乱しながら、このように言い呆然と立ち尽くしていた。

ずっと以前から、そのような気持ちを積み重ねてしまっていたのだろう。私が一切と気づくことのなかった、私たちの日常の連続の中で。

No.7 20/10/31 00:45
小説好きさん0 

〜End〜

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