重大な任務
プシュー。
扉が開く。
重い頭を抱えながら、窮屈だったカプセルから外に出て、ひといきつく。
冷凍睡眠から目覚めさせられた私は、これから地球時間でいうところの1年ほどの任務をこなさなければならない。
私を起こしやがったクルーは、再びそそくさと眠りにつく。のんきなものだ。
あんな顔だったかな? 随分と違和感を覚えたが、冷凍睡眠しているとはいえ、ある程度は歳を取るようだな。私も数年ぶりに目覚め、やつとも久しぶりの対面だ。記憶が混濁しているようなこともあるのだろう。短い時間ではあったが、久しぶりに人と話し、すこし懐かしい気持ちになる。
幾人かを乗せた宇宙船は、地球からはるか遠くのアストロ星へ向かっているのだ。
今や資源が乏しくなりつつある我々人類の、移住先を探す調査のためだと聞かされている。
交代で任務をこなしながら、長い旅を続けているが、計画通りなら、あと数回ほどカプセルを出入りする程度の期間で目的地へ到着するはずだ。
タグ
程よく小綺麗に整理された船内。
ひとりで、この大きな船を管理するのは、意外と大変なことではある。
向こうで何か取引を持ちかけられた場合に備えて、結構な量の貨物を積んでいるのだから、その大きな倉庫の見回りも日課となる。
前のクルーにも頭が下がるが、ここからは、私が対応しなければならないのだ。毎回のことだが。
まずは、コックピットを見回る。異常はないようだ。
異常があれば、起こされた時に慌てて私に何かを伝えたであろうから当たり前だ。
それから、その倉庫や、水食料の状況やトイレなどの様子を確認し、問題ないことを把握する。
一通りのチェックを終え、日誌にそのことを記録し、コーヒーに口をつける。
起きてから慌ただしく動いていたのだから、少しばかりの休息はしょうがないだろう。このあとも長く続く任務だ。メリハリをつけなければ。
コーヒーの在庫が切れていたらどうしようかと思ったが、前のクルーたちも、この先を考えてのことだろう。そこそこの量が残っていた。
私にとっては唯一の楽しみでもある。
プシュー。
こいつも起こされるのは嫌なのだろうが、これが決まりだ。こちらもお遊びでやっているわけではない。
「おはよう。よい眠りだったかい」
「毎回のことだが、よくはないね」
そんな会話を交わし、ようやく一年間の任務を終え、再び冷凍睡眠カプセルへはいり、また眠りにつく。
これから、再び数年間眠ることになるのだが、起きたときには、そろそろ到着が見えてくる頃だろう。
眠りにつく瞬間は、やっと休めるという安堵感が大きいが、目覚めてみると、それ以降の任務の重圧や、長い時間をひとりぼっちで過ごすことになるという現実に押しつぶされそうになる。
みんな同じように感じているのだろうが、宇宙パイロットの宿命なのだし、しかたがないことだ。
こんな重圧も、任務を達成した後に振り返れば、良い酒のつまみの話の一つにでもなるのだろう。
生きている間に、そう何度も経験できる仕事ではないのだから。
テーブルにつき、軽く休んだ後、「さて、これからもう1年間、仕事を頑張るとするか」そんなことを考えつつ、ふとカプセルの連中を見渡すと、随分と見知らない顔ばかりが目に入ってくる。
こいつたちは誰だ? いくら長い年月を宇宙空間で過ごしているとはいえ、こんなにも知らない姿形に変わることはないだろうし、中には随分と若い様相の者もいる。カプセルステーションには、起きた時と冷凍冬眠に入る時、定期的な点検で訪れる時以外にはめったに立ち寄らないので、気づかなかったのだろうか。
引き継ぎ事項には何もなかったはずだ。密閉された船内から、外へでることはできない。すくなくとも、アストロ星に到着するまでは。
前のクルーを無理やり起こす。
「なんだい。今眠りについたばかりだと思うのだが」
「クルーたちが、乗り込んだ時と、随分と変わっているように見えるのだが。何が起こっているんだ。いや、君も昔とは全然と違って見えるのだが」
「何を言っているんだ。当たり前じゃないか。もう起こさないでくれ」
そうぶっきらぼうに伝えると、他には何も発言することなく、カプセルに戻る
全く何を言っているのか分からなかったが、私は改めて一人任務に入ることになる。
一通りやるべき仕事は終わらせ、しかしながらこの状況をどう理解すればよいか分からず、現状を理解するために、船内をくまなく調べ始めた。
それこそ、これまであまり訪れたことのないスペースや、倉庫の中身、各クルーが起きている時に使っている自室、もちろん睡眠カプセルも、日誌に残された僅かな情報まで、可能な限り調べ尽くした。
最後に手を付けたデータベース。トップシークレット扱いになっていたデータ領域には、結構長い時間の格闘の上、なんとか侵入することはできた。
プログラム部門で優秀な成果を残した私ですら、なんとか偶然突破出来たといっても良いぐらいの高いレベルのセキュリティだったが、なんとかハックすることができた。
そこで、私たちが知らされていない事実が多数みつかった。
このプロジェクトの目的はおろか、自分自身の存在についてさえも、一切知らない情報だらけだ。
しばし呆然とする。
可能な限りの情報を集めてみると、我々は資源調査のためではなく、どうやら、アンタレス星との貿易によって、かろうじて成立している地球から、わずかばかりの資源を定期的に交換し続けるために作られた、ロボット。いや、見た目などは人間とまったく変わらない成分から作られているものだが、人工生物といってもよいものだったようだ。
一定期間働かせられた後、このカプセルに入り充電させられ、それと同時に、その間に全く別の姿かたちにプログラムを書き換えられ、しばらくすると、まるで別人になったかのように生まれ変わる。
任務のために必要な、ある程度の記憶は残されているようなのだが、再びカプセルに入れば、また、私たちは再生成されなおすようだ。
自分を自分とは認識するが、自分に対する、あるいは自分の任務に関する違和感は感じないらしい。
他のクルーはどのように感じながら、任務をこなしているのだろうか。生体が元になっているプログラミングされたロボットということだから、ある程度、コントロールしきれていない部分があるのとおしれない。私の自我は、もしかしたらそういった部分から発生してしまったエラーの可能性もある。
少なくとも、やつはそれを知っているようにも見えたが、プログラムされた行動を、ただ、定期的に繰り返すように作られているのだろう。
私が、なぜこのような自我を持ってしまったのかは分からないが。
そんなことを考えながら、さらに自分自身のことを調べようとしていた矢先に、突然と、後ろの方から、ガツンと言う音と共に、頭に大きな衝撃を受け、気を失った。
「ようやく着いたかい」
アンタレス星の対外責任者と、しばらくぶりの対面だ。
「今回も随分と長い旅でした。さて、こちらの物資をお収めください」
「助かるよ。地球の方はどうかい?」
「アンタレス星との貿易のおかげで、なんとかしのげています。今回は、人工培養のクルーのやつが、一人途中でおかしなことを考え始めたようで、やっつけるのに手を焼きましたが。今後の改善点ですね」
「なるほど。我々アンタレス星にとっても、地球は大事な取引相手なのだから、そこのところはしっかり頼むよ。地球の富裕層の人々も、徐々にこちらへ移住してきているわけだし。ところで、そのクルーはどのように処理したんだい?」
「他のクルーを無理やり叩き起こしたりしていたり、プログラム外の行動をしていたことに気付いて、慌ててぶん殴ってやりましたよ。本来は疑問を抱くようなことはないはずだったのですが。地球へ戻るのにも生体の素は必要ですから、だいぶプログラムを修正しカプセルに寝かせてあります。都合のよい記憶だけを残すのは、ちょっとした調整が、なかなかに難しいものですね。次起きた頃には、まったく新しい人として産まれ直し、地球へ戻るための任務に着いているでしょうけれども、多少なりとも自我を持つ可能性があるのだとすると、少しかわいそうなものではありますが、いずれは、この貿易プログラムも、完全に人工培養されたクルーたちで、永遠と自動化できるようになるはずです」
前スレ・次スレ
小説・エッセイ掲示板のスレ一覧
ウェブ小説家デビューをしてみませんか? 私小説やエッセイから、本格派の小説など、自分の作品をミクルで公開してみよう。※時に未完で終わってしまうことはありますが、読者のためにも、できる限り完結させるようにしましょう。
- レス新
- 人気
- スレ新
- レス少
- 閲覧専用のスレを見る
-
-
少女漫画あるあるの小説www0レス 53HIT 読者さん
-
北進10レス 193HIT 作家志望さん
-
こんなんやで🍀115レス 1062HIT 自由なパンダさん
-
「しっぽ」0レス 87HIT 小説好きさん
-
わたしとアノコ139レス 1348HIT 小説好きさん (10代 ♀)
-
神社仏閣珍道中・改
(光前寺さんの続き) 私はそのすきに、御本堂前の左側にある御守や…(旅人さん0)
198レス 6438HIT 旅人さん -
こんなんやで🍀
松山の市役所にあるストーンヘッジ、誰が建てたか分からない。ってSNSを…(自由なパンダさん0)
115レス 1062HIT 自由なパンダさん -
仮名 轟新吾へ(これは小説です)
【😈バレなければ何をしてもいい】訳ではないから❗❗ バレるに決まって…(匿名さん72)
174レス 2652HIT 恋愛博士さん (50代 ♀) -
わたしとアノコ
ところで黒夏はというと。 別れました。私から振りました。本当に申…(小説好きさん0)
139レス 1348HIT 小説好きさん (10代 ♀) -
マントラミルキー
お釈迦様の元にたどり着いたマントラミルキーは、お釈迦様の元にミルク差し…(小説好きさん0)
25レス 592HIT 小説好きさん (60代 ♂)
-
-
-
閲覧専用
人間合格👤🙆,,,?11レス 104HIT 永遠の3歳
-
閲覧専用
酉肉威張ってマスク禁止令1レス 112HIT 小説家さん
-
閲覧専用
今を生きる意味78レス 499HIT 旅人さん
-
閲覧専用
黄金勇者ゴルドラン外伝 永遠に冒険を求めて25レス 937HIT 匿名さん
-
閲覧専用
勇者エクスカイザー外伝 帰ってきたエクスカイザー78レス 1764HIT 作家さん
-
閲覧専用
人間合格👤🙆,,,?
皆キョトンとしていたが、自我を取り戻すと、わあっと歓声が上がった。 …(永遠の3歳)
11レス 104HIT 永遠の3歳 -
閲覧専用
酉肉威張ってマスク禁止令
了解致しました!(小説好きさん1)
1レス 112HIT 小説家さん -
閲覧専用
おっさんエッセイ劇場です✨🙋🎶❤。
ロシア敗戦濃厚劇場です✨🙋。 ロシアは軍服、防弾チョッキは支給す…(檄❗王道劇場です)
57レス 1386HIT 檄❗王道劇場です -
閲覧専用
今を生きる意味
迫田さんと中村さんは川中運送へ向かった。 野原祐也に会うことができた…(旅人さん0)
78レス 499HIT 旅人さん -
閲覧専用
神社仏閣珍道中・改
この豆大師についての逸話に次のようなものがあります。 『寛永…(旅人さん0)
500レス 14792HIT 旅人さん
-
閲覧専用
サブ掲示板
注目の話題
-
いじめなのか本当に息子が悪いのか
小学4年生の息子の母です。 息子が学校で同じクラスの女の子のお尻を触ってしまうというトラブルがあり…
55レス 2200HIT 教育に悩むママさん (30代 女性 ) -
親の給料の取り分
両親の喧嘩を聞いて、母が父より思っていたよりお金をもらっていて驚きました。 母は専業主婦なのですが…
14レス 397HIT 学生さん -
🍀語りあかそうの里🍀1️⃣0️⃣
アザーズ🫡 ここは楽しくな〜んでも話せる「憩いの場所🍀」となっており〜ま〜す🤗 日頃の事…
196レス 1734HIT 理沙 (50代 女性 ) 名必 年性必 -
財布を警察署に届けました
高速途中に休憩としてサービスエリア内で財布を拾って受付に届けたら 受付女性「お近くの警察署か交番へ…
12レス 304HIT 恋愛初心者 (20代 女性 ) -
ひねくれてますか?
母親から愛情を受けずに育ちました。 日常生活はめちゃくちゃ、人間関係を築けず、で大人になりました。…
13レス 392HIT 心の病気さん - もっと見る