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最後の恋

レス9 HIT数 751 あ+ あ-

葉月( AmcTnb )
20/02/28 16:35(更新日時)

赤い糸がちぎれそうな時、あなたはどうするんだろう--


現在と未来の中で、流れていく二人の想い。




No.2991689 20/01/23 13:58(スレ作成日時)

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No.1 20/01/23 14:12
葉月 ( AmcTnb )

慎也と別れてから、たしかに、私の運気はかなり下降していた。
 イヤなことばっかり起こった。バイト先は突然クビになるし、よくわからない所からHなメールが何回も届くし、ささいな事で女友達とケンカしてずっと口をきいてくれないし、もうなんだか、生きていくのがイヤになりそうな毎日だった。
 それでも、惰性のように毎朝起きて、とにかく家と大学を往復していたけど、かつてないくらいに、私の心の中はムシャクシャして、荒れ果てていた。 
 そんな時、最悪な事が起こった。点滅する青信号を悠然と渡っていたら、勢いをつけて左折してきた大型トラックに、あっという間にひかれてしまったのだ。


 最初、気がついたら、病室の中だった。
 すっぽりと、白い帽子やマスクで顔を覆(おお)い、やけに険しい目付きの人達が、じっと、私を見下ろしている。

No.2 20/01/25 15:38
葉月 ( AmcTnb )

ぼんやりしているうちに、だんだんとひかれた時の記憶が戻ってきて、とりあえず、ゆっくりと体を起こしてみた。
なんだか、妙な違和感を感じる。
 よく見ると、ベッドの足元のほうに、白衣や帽子やマスクに身を包んだお父さんとお母さんがいる。
 お母さんの目は、泣きはらしたような、にぶく充血した目だ。
お母さん、と言おうとして、私は、またもや違和感を感じた。
母親の視線は、起き上がった私を見ていない。
 思わず、体をひねって後ろをふりむくと、そこに、私が横たわっていた。
 酸素マスクを口にあて、髪を切られて、いろいろなチューブで体を取り囲まれている。
 夢なのかな、と思ったけど、私をとりまいているものは、すべて、現実的に動いている。
 せわしなく動きまわる医師や看護師たちのピリピリした緊張感が、伝わってくる。
 そこではじめて、実体がないのは、私だ、ということに気がついた。

No.3 20/01/28 16:04
葉月 ( AmcTnb )

、、、、幽体離脱?
死にかけてるのか、私、と思い、立ち上がると、その抵抗感のなさに、びっくりした。ふわりと、体が宙に浮かんでいく。
 みんなの頭上をただよいながら、私を取り囲む集中治療室の様子を、見る。
 心電図の画面は、かなり弱々しいリズムを打っている。
 ふらつくお母さんの肩を、お父さんが右腕で支えている。
ーーこのまま、私、死んじゃうのかなぁ、
 空中で、ぼんやりと考える。
ーー死んだら、かなり、親不孝だよな、お母さん、大丈夫かな、
私が死んだなんて知ったら、みんな、驚くよなあ、、、、
ーーでも、まあ、別に、生きてても、大して楽しいこともないし、最近調子悪かったし、未練という未練もないし、もう、いいかなぁ。どうせいつか死ぬんだったら、早く死ぬのもいいかも、、、、
 あ、大恋愛、してないな。死ぬ前に、一回、ものすごい大恋愛、してみたかったな。
 でも、もう、いいか。今度生まれかわったら、運命の人と、運命の恋を、したいな。
 これが、私の運命だったんだ。短かったけど、しょうがないや。お父さん、お母さん、ごめんね。

No.4 20/02/01 16:22
葉月 ( AmcTnb )

とりとめもなく、そんなことを考えているうちに、だんだん意識が遠くなり、それと同時にすごい勢いで、私の体は、上空へと舞い上がっていったーー

 次に、気がついたら、慎也の部屋にいた。
 ちょっとそっけない感じの、見慣れた風景。でも、電気はついてるのに、なんだか、部屋の中がうすぼんやりと暗い。
 慎也とうまくいってた時は、しょっちゅう、ここに入りびたってた。一人暮らしだから、簡単な料理を作ったり、掃除してあげたこともあった。
 くだらない会話でも二人でもりあがったし、バカみたいに笑いころげたりした。
 あの頃は、部屋の中が、キラキラ輝いてるように見えたけど、気持ちがはなれたら、こんなに部屋の中のトーンが、暗く見えてしまうものなのかな。

No.5 20/02/01 16:33
葉月 ( AmcTnb )

私は、ただよいながら、部屋の中を見回し、とりあえず女の気配がないことに、ホッとしていた。
ーーやだ、なんで今さら、私がホッとしなきゃいけないの?もう関係ないじゃん。第一、私、もう死んじゃうんだし。
 慎也は、向こうを向いて、セミダブルのベットに腰かけている。深緑の大きなTシャツを着て、右の耳に、金色のリングのピアスを、二個、つけている。
 なんだか、すごく、せつない後ろ姿だった。落ち込んでるみたい。
これで、見納めなのかな。
 そう思うと、胸の中が、わけのわからない感情でいっぱいになってきた。死んだ後も、こういう気持ちになるんだなと、ぼんやりと考える。

 真奈美、、、、

 ふいに、私を呼ぶ慎也の声が聞こえてきて、びっくりした。
 慎也は、依然、向こう向きでベットに腰かけている。

No.6 20/02/04 16:15
葉月 ( AmcTnb )

 今、どうしてる?真奈美。まだ、オレのこと怒ってるのかな。
おまえに会いたい。すごく、会いたい。会ってもう一度話したいけど、もう無理かなぁ、、、、

 その声は、慎也の心から、私の心へ、直接響いてきた。慎也は、今、私のことを、考えてたんだ。

 オレもいいかげん、かるいヤツだから、今までいろんな女とつきあってきたけど、会えなくてこんなにつらいのは、おまえだけだよ、真奈美。
 ーーもう一度、おまえと抱きあいたいよ。このベットで、おまえが腕の中にいる時は、ものすごくうれしくて、しあわせだった。
 あんなセックスは、おまえとしかできねえよ。
 後輩の女の子と飲みに行って、酔った勢いで、そのままホテルに行ったけど、はっきりいって、何がなんだか、よくわかんないうちに終わってたよな。
 あれは、とにかく、オレが悪かった。おまえ、ものすごく怒りまくってたよな。オレが何言っても、聞く耳持たなかったし。
 あんな形で別れたけど、オレ、ものすごく反省してるんだぜ。 
 かつてないくらい、真剣に反省して、後悔してる。
 おまえをなくすなんて耐えられないけど、でも、オレ、いいかげんなヤツだし、もっとまじめで、ちゃんとした男とつきあったほうが、おまえのためなのかもな。
 ごめんな、真奈美。ほんとにごめん。
 できれば、もう一度会いたいよ。
 おまえの笑顔が見たい。
 本気で好きになったのは、おまえだけだよ、真奈美。

 私は、もう心の中がいっぱいになって、涙があふれだしてきた。

No.7 20/02/11 15:44
葉月 ( AmcTnb )

ーー私も、慎也だけだよ。あんなに好きになったのは、慎也ひとりだけ。
それなのに、慎也はもてるから、私、不安で、自分に自信がなくなってた。
 最後に会った時、私、怒ってひどいこといっぱい言ったよね。でも、慎也は、言い訳はしたけど、言い返すことはなかったよね。
 いつもそうだった。慎也って、絶体怒らないんだよね。
 私はすごくわがままだったけど、あなたはいつも、そんな私を受けとめてくれてた。
 女の子には、みんなそうしてるのかなと思ってたけど、もしかして、私だから、そうだったの?
 私だから、大切にしてくれてたの?
 私だって、慎也が好きで好きでたまらないのに、慎也はそうじゃないと思ってたから、なんだか悲しくて、別れたほうがいいと思ったのに、でも、ほんとは、ちがうの?
あれからも、ずっと、私のことを、好きでいてくれてたの?

No.8 20/02/21 16:31
葉月 ( AmcTnb )

ごめんね、慎也。あなたのことをわかってあげられなくて。
 私も、あなたのことが大好きだよ。
 この世界の中で、誰よりも。
 しあわせになってね、慎也。今度好きになる人は、どうか、大切にしてあげてね。
 私、ずっと、慎也のことを見守ってるよ。
 ごめんね、慎也。そしてーー
 私のことを好きになってくれて、ありがとう。

 その時、ベットのすみにあった慎也のスマホから、ヒット曲の着信音が流れ出した。
「、、、、はい。うん。今?家だけど、、
、、、、え?何?、、、、真奈美が?マジで?
、、、、うそだろ、何でそんな、、、、うん、
、、わかった、中央病院?すぐ行く」
スマホの電源を切ると、慎也は、立ち上がった。
 それと同時に、私の意識も、みるみるうちに、慎也の部屋から、遠ざかっていった。



 耳もとから、規則的な電子音が聞こえてくる。
 ざわめいた空気が、少しずつ伝わってくる。
ゆっくりと目を開けると、真っ白くて、まぶしい天井が見えてきた。

No.9 20/02/28 16:35
葉月 ( AmcTnb )

「、、、、土谷さん?土谷、真奈美さん?わかります?」
 看護士が、私をのぞき込み、呼びかける。
 まだもうろうとした意識の中で、あ、これは、まぎれもない自分の体だ、と実感する。
「土谷さん、苦しくない?大丈夫だったら、うなずいて」
 私は、ゆっくりとうなずく。
「お父さんたちと、話す?」
 私がうなずくと、看護士は、酸素マスクを取ってくれた。
 そして、ドアの外から、お父さんとお母さんが入ってきた。
「真奈美、、、、」
 泣き出すお母さん。お父さんは、なんだか、疲れきった表情をしている。
「お母さん、、、、」
 私は、かすれた声を出した。
「慎也が来てると思うの。会わせて。会って、話がしたいの」


 白衣をつけた慎也が、入ってきた。
 慎也のまっすぐな瞳を見ると、なんだか、また、涙が出そうになってきた。
 慎也は、黙って、私の左手を両手で握りしめた。
 しばらくの間、二人きりで見つめあった。
 左手のぬくもりから、慎也のやさしさが伝わっきて、死にかけてた私の心も体も、どんどん蘇生されていく。
「好きだよ、真奈美」
 私がうなずくと、涙が、頬にこぼれおちた。
 これから先、何が起こるか、どうなるのかわからないけど、この、慎也の両手のぬくもりは、きっと、死ぬまで忘れないと、心から、思った。



〈End〉

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