麗香の微風
私は麗香
そう、名前なんてどうでもいいの
毎日生きて行けるだけで
こんな私に興味を持ってくれた貴方
そう、貴方の事です
好きになってもいいですか?
遠い昔にそんな事を言われた記憶が
あったわね
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それから1年ぐらい過ぎたお昼前に会社の電話が鳴った
「はい、マツコエンジニアリングです。」
「あの、、○○さんいますか?」
くぐもった男の低い声だった
「はい?こちらマツコエンジニアリングですが?」
「あの、とし子さんいますか?」
今度ははっきりした声だった。とし子は社長の奥さんの名前だった
「今ちょっと出ておりますが。戻ったら折り返しお電話差し上げましょうか?」
「い、いえ結構です」
慌てて電話を切るような気配だった
お昼に社長と奥さんが会社に戻ってきた
「先ほど奥さんにお電話がありましたけど、何かおかしな電話でとし子さんいますか?と言ってたんですが」
とたんに部屋の空気がピーンと張りつめて社長と奥さんは黙ってしまった
実は何かあったのかしら?と古くからこの会社にいる近藤さんにお昼休みの出来事を話したのだった
近藤さんは「そりゃ、きっと山本だわな!」と言った
一人暮らしの人が体調を崩して仕事を休んでいた時に
奥さんはお粥を作ってあげたりして夜遅くまで帰って来なかったらしい
その人は社長も信頼していて社長が忙しい時は社長の代わりに打ち合わせに行ったりしていたらしい
その時は奥さんも会社には顔を出さなかったと言う事だった
近藤さんはお酒が好きなので社長に毎日のように飲みに誘われて
「あの時はいくら酒が好きでも参ったよ!」と当時を思い出したのか口をつぐんでしまった
その人は奥さんの事が好きだったのだろうか
だから「とし子さんいますか?」と会社に電話をしてきたのだろうか
奥さんもその人の事が好きだったのかしら
最後の恋だったのだろうか
それから1ヶ月ぐらい過ぎたある日の事
仕事が終わったら会社から車で5分ぐらいの所にあるスナック「ぼんやり」に奥さんと古田さんと私の3人で飲みに行く事になった
社長は打ち合わせで遅くなると言う事で参加出来なかった
わずか3人での飲み会だった
スナックのママさんの話しが面白くて時間が立つのも忘れてしまった
10時過ぎに社長から奥さんに電話が入った
何時ぐらいに帰って来るのか?と言う事で後30分ぐらいで帰りますと奥さんが返事をしていた
すると社長が電話を私に代われと言ったらしく私に電話に出るように言った
遅くなると危ないから奥さんが帰る時に一緒に帰った方がいいとの事だった
何で?もう少し店にいたかったけど奥さんが私の手を取って店の外に引っ張って行った
そんな様子をまた別の意味で見ていた人がいる事をその時の私は気づかなかった
それから数日が過ぎたある日、階段の下で何やら騒がしい声がした
私が降りて行くと古田さんの作業靴が無くなっているという
ゴミ箱の近くを探すとスーパーのビニール袋の中に汚れた靴が何足か入っているのを見つけた
「古田さんの靴この中に入ってない?」
すると「俺のだよ!何でこんな所にあるんだ!」
たぶん社長の奥さんが辞めた社員の靴が何足かあったのでかたずけた時に古田さんの靴も一緒に入れてしまったらしい
「奥さんも一言聞いてくれたらいいのにね!」
私が言うとその様子を社長が階段の上から見ていたらしく「何だと!」と怒鳴りながながら階段を降りて来た
その剣幕に私達は黙ってその場を後にした
宮町が入って1週間を過ぎた頃社員の慰労を兼ねて仕事終わりに会社でビールとおつまみを買い込んで飲み会をやった
宮町が長崎出身だと知ると社長の奥さんは自分も九州の福岡出身だからと「やっぱり九州の食べ物は美味しい物が沢山あるわね~」
と他の人達をそっちのけで宮町に話し掛けていた
1時間も過ぎた頃話しが途切れたのを潮に宮町が「すみません、用事があるのでお先に失礼します」と社長に挨拶をして帰って行った
それからしばらくすると会社の電話が鳴った
奥さんが出てしばらく話をしていたが「麗香さんに山田さんと言う方から電話よ!」
「すみません、、」山田と言う名前の友人はいたが会社の電話番号は知らないはずだった
「もしもし、、」電話に出ると「もしもし、宮町です。突然驚かせてすまないけどこれから会えませんか?」
突然の事に私は何と返事をしたらいいのかわからなかった
「来てくれてありがとう。時間があれば麗香さんと話しがしたいと思ったから」
宮町は照れくさそうにそう言うと「コーヒー飲みますか?」と言った。
「会社には宮町さんが電話したんですか?奥さんが出たけど大丈夫だったの?」
私は気になっていた事を聞いた。「いや、会社に電話をしてから店の女の人に頼んで友達だといって麗香さんを呼びだして貰ったんだよ」
「そうだったの。会社で呼び出すなんて大胆な事するなと思ったわ」
会社の人達の話しや仕事の話をして1時間近く過ぎてしまった
「これから行きつけのお店があるのでそこに行きましょう。車は近くのパチンコ屋さんに止めて置いて宮町の車で行きましょう。」
それから1週間後宮町から電話があった。今度は海を見に行こうと言う事になり私のマンションの近くまで宮町が迎えに来た。
久しぶりのデートと言う事もあり、念入りにお化粧をして鏡の前に立つ私だった。毎日子供との生活に追われてお洒落をする事もなかった。
宮町が迎えに来た。私は懐かしい人に会ったような不思議な感情を感じた。
その時は子供はどうしていたのだろうか。確か小学校3年ぐらいだったと思う。その時は実家の母に預けていたのかもしれない。
1時間も走ると海が見えて来た。私は窓を開けて海の香りを吸い込んだ。
堤防に車を停めると海岸沿いを2人で歩き出した。宮町は自然と私の手を繋いできた。私を包み込むような大きく温かな手だった。
しばらく歩いていると宮町が立ち止まった。私の髪を撫でながら「この髪飾り良く似合っているよ」と言った。
そんな何気ない言葉がたまらなく嬉しかった。
海を見ながら私の気持ちがゆらゆら揺れていた。日常から離れたこんな時間が持てるなんて幸せだと思った。
そして車に戻った時宮町は「楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうね。」と言った。何だか可笑しくて思わず笑ってしまった。
帰りの車の中で気になっている事を聞いた。「宮町さんは子供さんはもう大きいの?」
しばらくの沈黙の後宮町は「うちには子供はいないんだ。」と言った。
宮町が原因で出来なかったとの事だった。「だからおばさんとは家庭内別居みたいなものなんだ。家にお金を入れる代わりにご飯はちゃんと用意して貰う事。奥さんのパート代は自由に使ってもいい事。」と約束していると話てくれた。
無言のまましばらく車を走らせていた宮町は「この前の店に行こうか?」と聞いて来た。
お酒はあまり強くないけどお店の雰囲気が好きになった私に異存はなかった。
如月の扉を開けるとママが「まあ!宮さんいらっしゃい」と声をかけた。
私達は隅の席に座るとママがさっそくボトルを持って来た。着物が良く似合う素敵なママは常連さんからは「みえこー」と呼ばれていた。
「ねえママは歌手の○○三枝子に似てるからみえこって呼ばれてるの?」と宮町に聞いた
「バカだなあ、名前が三枝子っていうからそう呼んでるんだよ」そんな他愛ない話が楽しかった。
しばらくすると宮町はカラオケをリクエストした。
流す涙はかわいても 寂しい心は隠せない♪
星も見えないこの街に あなたしかない私♪
ああ お酒下さい♪
ああ 寂しい胸に♪
ひとりがつらいこんな夜は あなたが憎めない♪
宮町の歌とお酒にすっかり酔ってしまった
旦那は「あんな古い車はいらない」と車を置いて家を出て行った。
そして実家に帰ると俺の分の荷物は送ってくれ。と電話をしてきた
旦那の荷物を整理しているとエロ本が出てきた。プロレスの本と共にエロ本を衣装ケースの見える所にエロ本を5冊ほど乗せて蓋をした。
衣装だんすは旦那が欲しいと言ったのでそれも送る事にした
今の賃貸マンションは家賃が高いので公団に引っ越す事に決めた
そして旦那と別れる事を実家の母に話をすると「何も別れる事ないのに」と言われた
旦那と別れる事を決めたけど話し合いが上手く行かずに裁判所に調停に出す事になった
自分はお金がないから慰謝料は出せない。養育費も出さない。と言う事で揉めていた。
旦那にお金がない事は解っていた。何と2社から380万円の借金がある事が解ったから。
それも取り立てに困り旦那の実家が100万円払ってくれたそうだ。
旦那には私には言わないで欲しいと言われていたと全て義姉が教えてくれたのだった。
そして私がおこずかいをあげていないと言って旦那の実家からお金を貰っていた事もわかった。
もう駄目だと思った。許せなかった。
旦那にはこれからは気をつけるから別れたくないと泣きつかれた。
もう駄目だ、もう同じ部屋で空気を吸う事が出来なくなってしまった、、
せめて旦那の口から全て聞きたかった
慰謝料はいらない。でも子供の養育費だけは払って欲しかった
あなたは父親なのよ。
そしてあなたの本屋のお義姉さんに相談した時に言われたの。
私は頼まれ仲人だからあなた達がどうなろうと私には関係無いから。
そしてそんな日々が続いたある日の夜、私は胃にいつもと違う締め付けるような鈍い痛みを感じた
かかりつけの病院に電話をした(ルルル、ルルル、ルルル、、、)呼び出し音が空しく響くだけだった
昔、一度だけかかった事があるとなり街をの病院にすがる思いで電話を掛ける(ルルル、ルルル、、、)
「はい、こちら○○病院緊急外来ですが」
「あ、あの胃の辺りがとても痛くて段々いつもと違う痛みで見て頂きたいのですが、、」
「今から来られますか?何で来られますか?車で来られますか?気を付けて来て下さいね」
私は救われたような気がした。時計を見ると朝の5時だった
慌てて寝ている息子を起こして話をする「あのねお母さんはとてもお腹が痛くて我慢出来ないの。
だから今から病院に行くから。解る?机の上にパンと牛乳があるからちゃんと食べて学校に行くんだよ。解る?」
息子は小さく頷いた
私は慌てて取るものも取り敢えずとなり街の病院に向かった
病院に着くとさっそく診察が始まった。医者はお腹の辺りを押さえながら「今からレントゲンを撮りますね」と言った
そのままレントゲン室に連れて行かれてレントゲンを撮られた
しばらく横になっていると看護師さんが呼びに来た
「十二指腸潰瘍で直ぐに手術をします。こんな時間ですが連絡をしたい所があれば連絡をして下さい。」
突然の事に頭が混乱してしまった。時間を見ると朝の6時半を過ぎていた。
実家に電話を掛けたが誰も出なかった。次に妹の家に電話を掛けると妹が出た。
混乱しながらも昨夜からの事情を話した。今から手術をする事を伝えるとさすがに驚いていた。
尚も息子の事を頼みたく話しをしていると看護師さんが「もう手術の時間です。」と呼びに来た。
すると妹は「後の事はやっておくから心配しないで大丈夫だから」と話してくれた。そのまま私は手術室に入って行った
静かな夜だった。
夜遅くに宮町が見舞いに来た。「要るものはないか?」見ればタオルケットとタオルを何枚か持ってきてくれていた
「ありがとう。ごめんなさい心配かけて、、」
「何も言わなくていいから。大丈夫か?」そのまま30分くらいいて帰って行った
そう言えば妹に電話をする前に宮町の家に電話をした事を思い出した
どうしても一言連絡したかった私は奥さんが出る覚悟で宮町の家に電話をした
電話をすると奥さんが出た「友達の麗香と言うものですが連絡したい事があるので旦那さんをお願いします」
宮町に代わってくれた「どうした?」「すみません電話をして今から○○病院で手術をする事になったから」
「わかった。」それだけで電話は切れた。
その日の夜、夕方宮町が仕事帰りに見舞いに来てくれた
「調子はどう?」「うん、大丈夫です」なぜかほっとする
「ご飯食べてるの?」「うんお粥を少しずつだけど」
短い会話の中に優しさを感じる私、しばらくすると「また来るから」と帰って行った
同じ病室の人達は宮町は旦那だと思っているみたいだった
毎日見舞いに来てくれる優しい旦那さん
そんな私に嬉しい事があった。申し込んでおいた公団に当選したのだった
2週間後には公団に引っ越しをする事になった
拓はどうしているのだろうか?旦那は同じ市内にアパートを借りたとお義姉さんに聞いた
ちゃんとご飯を食べて学校に行っているのだろうか
身体は順調に回復して口の管とお腹の管が取れた
公団は2階の2DKに決まった。妹には前から引っ越しが決まったら手伝って貰う事になっていた
病室の人達とも話しをするようになった。夕方には自販機の前に集まってカップコーヒーを飲んだりするようになった
一人の人が退院が決まった時はみんなで自販機の前でコーヒーを飲んでお祝いしたりした
やがて食事も普通食になった。看護師さんには運動をした方がいいと言われたので病室の廊下を1日2回一周したりして体力をつけたりしていた。
退院の日が近付いてきたが息子の拓が見舞いに来る事はなかった。
旦那の実家に電話をしても拓の事はよくわからないとと言われて電話を切られた。
そうこうしているうちに引っ越しの日がやって来た。
入院していたので細かい間取りは妹に任せて妹夫婦と男手がいるという事で友達だと言う事で宮町にお願いした
朝、9時に私のマンションに荷物やタンスを取りに行き公団まで30分の道のりを運んで貰った
引っ越しの当人は入院中と言うあまりに喜劇みたいな流れになったが
妹の旦那の仕事の都合でこの日しか空いていないと言う事で仕方がなかった
狭い団地に入り切らない和箪笥は車で20分ほどの所にある実家に運ぶ事にしたと言う
そう言えば私が緊急外来に乗ってきた車はと言うと
緊急外来の駐車場はスペースが少なく空いてなかったので路上駐車したのです
そのまま診察を受けて手術になってしまったので車はそのまま路上駐車のままになってしまった
妹が気がついて2日後に車を取りに言ったらあの黄色い『駐禁』の札が貼ってあった
警察に本人はそのまま入院して手術をしたから車を動かせなかった事情を説明したが
警察はとにかく2日も路駐していたからダメです!と言う事で聞き入れて貰えず
違反金を払う事にして車は私のマンションの駐車場まで乗って来て置いておいてくれたのだ
本人は入院して車を運転出来なかったのに警察は何でそれが解らんの!!
と妹は怒っておりました、、、
妹よごめんなさい迷惑をかけてしまって
退院の朝、11時過ぎに宮町は病室に迎えに来てくれた
入院中の簡単な荷物をまとめていると同室の大野さんが「元気でな」と言った
私は「早く治して下さいね」と頭を下げながら言った
病院の会計を済ませて車に乗り込むとお昼近かった
何処かでお昼を食べて行こう。と宮町は言って車を走らせた
するとステーキの○○○○にしようか?と宮町は言った
お肉は大丈夫かな?と思ったが宮町は退院祝いだからと言って駐車場に車を停めた
私は1番小さいステーキを注文したがそれでも大きかった
もう何を食べてもいいんだろう?と宮町は全部食べるように言った
私は胃がパンパンだったが無理やり押し込んで食べた
「じゃあ部屋に行こうか」
お腹がいっぱいで苦しい私の気も知らず宮町は車に戻った
家のかたずけに追われてあっという間に1週間が過ぎた
久しぶりに会社に出社すると奥さんは「お見舞いに行こうとしたんだけど仕事が忙しくて」
と申し訳なさそうに言った。「身体はもう大丈夫なの?」と心配そうに聞いた
「お蔭さまで引っ越しも無事終わりました」と言うと「そうだわね。引っ越し祝いをあげなくちゃね」
「ありがとうございます。団地なので間取りは大きくないんですよ。息子と2人で住めればいいですから」
「玄関マットをあげたいから1度部屋を見せて貰わなくちゃねどんなのがいいかわからないから」私は気が進まなかったが「そうですね」と言った
結局玄関マットのお祝いは貰う事はなかった
ある日、仕事から帰ると拓の様子がおかしかった
「どうしたの。元気がないみたいだけど、、」顔を覗き込むとノートをサッと隠した
ノートには何か落書きみたいな字が見えた
「見せてごらん!」ノートを取り上げて見てみると『バカ』『クズ』とかいろいろ何ページかに落書きがしてあった
『これ誰が書いたの?」『女子が書いた」
新しい学校のやり方が解らなくて戸惑っていると4人の女子にノートに落書きされたと言う
そんな事が3日も続いて私は黙っていられなくなり学校の担任に電話をした
私は学校に電話をして事情を話して拓の担任に電話を代わって貰った。拓の担任の30代のインテリっぽい顔を思い出した
担任は「お母さん事情は解りました。3学期ももう残り少ないんです。その女子達と話をしてももうすぐ春休みになるんです」
「もうすぐクラス替えがあるんです。だからここは何とか押さえて貰えませんか」
この担任には何を話しても無駄だとわかった。3学期も終わりに近付いている今面倒な事は避けたいのだ。
拓には「先生に相談したらもうすぐクラス替えがあるからと言われたからもう少しだけ頑張ろうね。」と言うしかなかった。
そして新学期を迎えた。新しい担任は優しそうな女の先生だった。
気になったいじめた女の子は1人だけ同じクラスになった。私は胸を撫で下ろした。
週末に車で30分の所にある実家の母を訪ねた
「久しぶりだね。身体の調子はもういいのかい」5年前に父を亡くし独り暮らしの母は嬉しそうだった。
「うん、もう大丈夫だよ」1時間が過ぎる頃私はきりだした。「母さん、お願いがあるんだけど、、」
「なんだね」「うん、最近車の調子が悪いから安い車に買い替えようと思って、、」
「ふん、、」「お金を貸して欲しいんだけど」
「いくらいるの?」「20万円、、夏のボーナスが出たら返すから」
「なんだね、あんたは!いつも来んくせに、こんな時だけ来やがって!」
「貰おうと思ってないから、、返すから!」
母は奥に引っ込んだ、、しばらくして出てきた手には封筒が握られていた
それをテーブルの上に置くと「持って行きん!」と言った
封筒を見ると20万円入っていた
「ありがとう!必ず返すから、、約束するから!」
その時は私にはどうしても必要なお金だった。宮町を引き留めておくためにも、、
その夜、宮町から電話が掛かってきた「もしもし、宮町だけど、、」
どうやら酔っているようだった「今、友達ん所」「そうなんだ~、今日母さんからお金借りてきたから、、」
宮町は長崎の県人会を作っていて同郷で20人位で月に1度集まっては飲み会をやっていると言っていた
前に県人会に彩ちゃんと言うスタイルのいい綺麗な子がいて宮町の事が好きで
飲み会の時はいつも宮町の隣に座っていて酔って来ると「宮ちゃん好き~」と言って来ると言っていた
「そうか~良かったな、来週車見に行こうか!」「はーい、楽しみにしてます。」
あんな思いをして母からお金を借りてきた事などおくびにも出さずにただ新車に乗れる事が嬉しかった。
その週末の土曜日の昼過ぎに宮町は団地まで車で迎えに来た
拓は友達の所に遊びに行くと出かけていた。車に乗り込むと宮町はさっそく「車を見に行こうか」と隣街まで車を走らせた。
軽自動車が並んでいる車の販売店に入って車を止めた
「どれにしようか?」いろいろ見ていたらある濃紺の車が目に止まった
「これがいいかなぁ」と言うと「この車気に入った?」「色がシックで良くない?」「じゃあこれにしようか!」
支払いの手続きは宮町がやってくれた「納車は来週の日曜日でいいか?」「はい、ありがとう!楽しみだわ!」
初めての新車に私はウキウキしていた。日頃の疲れが吹き飛ぶ気がした。宮町には感謝しかなかった。
週末の土曜日に久しぶりに宮町の行きつけの『如月』に行った
ママは私を「いらっしゃい!ちあきなおみ~」と言って出迎えてくれた。
宮町に「何で?ちあきなおみ?」と聞くと「たらこ唇が似てるんじゃない!あははっ」と笑った
私達の他に客がいなかったからかママはカウンター前の宮町の隣に座った
「お久しぶりねっ」と言ってママは宮町の膝に手を置いた
「の身体に勝手に触らんといて下さいよ~」そう言うと宮町はママの手を避けるように私の方に向き反った
ママは気を取り直してカウンターの中に戻った。宮町と私に水割りを作ってくれた。そして3人で軽く乾杯をした。
そして宮町はカラオケを歌った
とまどう時に 上目遣いで爪を噛む癖は なおってないんだね♪
お前も騙されて 俺とおんなじお人好し♪
似た者どうし 似た者どうし~♪
一緒に暮らしてみよう♪
久しぶりに聞いた宮町の十八番だった
それから別の日久しぶりに義姉とお茶をする事になった
義姉は別れた旦那のお兄さんのお嫁さんさんである
「麗香さんとはこれからも会うからね。友達なんだから」と義理の兄に言って来たそうだった
本家の義理の姉の事をよく思っていない人だった。もちろん私もきつい本家のお嫁さんは苦手だった。
「麗香さんが『私は頼まれ仲人だからあんた達がどうなろうと関係ない!』と言われたと言ったら」確かにそう言ったわと言ったよ。」
私にはもう遠い過去の出来事のようだった
お義姉さんは「麗香さん達も離婚してからお互いに車を変えて今の方がいい生活してるんじゃない、、」と言った。
まさか私に好きな人がいてその人に買って貰ったと聞いたらどんな顔をするのだろうか。
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