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葉月( AmcTnb )
19-05-18 16:25(更新日時)

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不安定な里美と花穂の生活。
俊介と里美は、花穂を連れて旅に出ることを思いつく。


No.2812041 19/03/09 10:52(作成日時)
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No.1 19-03-09 11:07
葉月 ( AmcTnb )

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小さいころ、里美は、花穂のことを、よく「お姫さまみたいだな」と思っていた。
 事実、花穂は、きれいな白い肌で、西洋の姫君のようにノーブルな顔立ちをしている。
 フリルのワンピースも、おっとりした物言いも、花穂にはよく似合っていた。花穂と遊んでいると、里美は、いつまでもおとぎの世界にいることができた。
 花穂が、普通の人と違うと気付いたのは、ずっと後になってからのことだった。




「花穂ちゃん」
 里美が呼びかけると、花穂は、座ったままゆっくりとふり向いた。
「行ってくるからね。お昼は、レンジでチンして食べてね」
「うん。わかった。ねぇ、里美ちゃん」
「何?」
「今日、何時ごろ帰ってくるの?」
「なるだけ、6時前に帰ってくるから」
 花穂の顔が、不安気になる。
 いたたまれない気持ちになり、里美は、急いで呼びかける。
「ねぇ、おみやげ、何がいい?」
「ええとね… プリン」
「わかった。買って帰るね」
 そう言うと、やっと花穂が微笑んだので、里美は、「じゃあ、行ってきます」と言って、玄関へ向かった。

No.2 19-03-18 15:00
葉月 ( AmcTnb )

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小走りでバス停へ向かうと、定刻を少し過ぎたバスが、ゆっくりと止まって、人々が乗り込むところだった。
 満員の人波の中で、里美は、つり革につかまり、腕時計をにらんだ。
 ──遅刻、ギリギリセーフかな…
 バス停を1つ過ぎるたびに、少しずつ乗客の数は減っていくが、依然、すし詰めの状態は変わらない。
 やがて、バスは、会社の近くにさしかかった。
「次は、小野寺駅前です。バスが停車してから、お席をお立ち下さい…」
 車内にアナウンスが響く。あわてて、里美が、ブザーを押そうと手を伸ばしたが、もう少しの所で届かない。
 宙にういた手が、前方のおばさんの頭をかすめる。
おばさんは、ゆっくりと横目で里美のほうを見つめる。
 ──何やってるの、この人── そう言われた気がして、里美は、「すいません、ブザー、押して下さい…」と、かすれた声を出した。
 おばさんのすぐ横のメガネをかけた会社員が、あきらかに迷惑そうな表情で、ブザーに手を伸ばして、鳴らした。
 バスのタイヤが、きしんだ音をたてて、ざわついた駅前に止まり始める。




昼休み、里美は、俊介に携帯から電話をかけた。
「今度の約束、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。もうこっちの仕事も、あらかた片付いたし」
「じゃ、お店のほうに、予約入れておくわね」
「OK。僕も、残業が終わったら、また連絡するよ」
 携帯を閉じ、里美は、パソコンのデータ入力を再開する。
 俊介とは、仕事の取引先で出会った。マンションの発注関係を請け負う仕事で、初めての大きな仕事を任された時、いろいろと相談にのってくれたのが、彼だった。

No.3 19-03-21 16:09
葉月 ( AmcTnb )

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打ち上げや、パーティで、何回か顔を合わせるうちに親しくなっていき、二人でデートしたり。仲になってきた。
 恋人同士といってもいいのかもしれないが、里美には、なんとなく、俊介に、もう一歩踏み出せないものを感じていた。
 インプットしていたデータを取り出し、もう一台のパソコンに接続する。
 夕方、仕事を終えて、里美が帰宅すると、家の中は静まり返っていた。
 いやな予感がして、二階に上がり、部屋のドアを開けると、ベットの中に横たわった花穂が、かすれた声をあげる。
「里美ちゃん…… また、足が、動かないの……」
「……いつから?朝から?」
 羽根枕の中で、こくんと、花穂がうなずく。渦をまいた長い髪が、白いシーツの上でほつれている。
 ショルダーバックを枕元に置き、掛け布団の位置をずらそうとすると、花穂が、里美の手をつかんできた。
「手も…… 痛い……」
 こわばった手を1本1本引きはがし、手のひらを包みこむようにして、ゆっくりと、もみほぐしていく。
 手首からの静脈をたどって、二の腕までマッサージしていくと、やっと、花穂は、落ち着きを取り戻して、再び眠りにおちていった。

No.4 19-03-27 15:42
葉月 ( AmcTnb )

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もう片方の腕も同じようにマッサージしてやり、はだけていたネグリジェのボタンを止めなおして、里美は、深くため息をつく。
 以前から、花穂は、時々発作的に体の統制がとれなくなる事があった。
 手足が突発的にマヒしてしまい、各器官の機能もストップしてしまう。それが、右半身、左半身と分かれていればまだいいのだが、右手と左足、左手と右足、というように一定ではないので、医者も、さじを投げた状態だった。
 本人が、自宅療養を強く望んだので、両親が家を空けている間は、全面的に、里美が花穂の面倒をみていた。
「ごはん、食べる?」
 呼びかけてみたが、返事はない。
 血の気がなく透きとおった顔で、低い寝息をたてて眠り続ける花穂を見おろし、里美は、バックを手にとり、部屋を出た。
 Tシャツとジーンズに着替え、エプロンをつけ、キッチンにおりて、夕飯の支度に取りかかる。
 手際よくカボチャのポタージュを作り、二組ずつお皿をテーブルにセットしていると、携帯のメールの着信音が響いた。
 携帯を開いてみると、

 18日は、少し遅くなるけど、できるだけ間に合うように行きます。予約は任せたから、お店の中で待ってて下さい。
 
 と、俊介からメールが入っていた。
「里美ちゃん」
 不意に、後ろから声がして、ふり向くと、花穂がネグリジェのまま、リビングの入り口に立っていた。
「……どうしたの?」
「おなかへった」

 

No.5 19-03-31 15:53
葉月 ( AmcTnb )

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「うん。もう少しで、ごはんできるからね。座ってて」
「……」
「トイレは?おしっこしたい?」
「ううん」
 里美は、立ち止まったままの花穂の手をとり、椅子に座らせた。
「スープ飲む?」
「うん」
「熱いよ」
 カボチャのポタージュをランチオンマットの上に置くと、花穂は、スプーンを手にとり、ひとさじすくいあげ、ゆっくりと口に運びだした。
「こぼさないようにね」
 しばらくの間、カチャカチャと、スプーンがお皿にあたる音がしていたが、里美がマグカップを持ってふり返った時、花穂のネグリジェは、ひどく汚れていた。
 白かった木綿の生地も、レースにも、黄色いポタージュがべっとりとこぼれ落ちて、しみをつくっている。
「…花穂ちゃん!」
 里美は、泣きそうな表情の花穂をじっと見つめ、マグカップをシンクに置いて、テーブルにかけよった。
「もぉ、どうして汚しちゃうの?ネグリジェが台無しじゃない!」
 あわてて、花穂が、ネグリジェのボタンを外す。
 里美は、リビングを出ていき、新しいパジャマを手にして戻ってきた。
「里美ちゃん、ごめんなさい……」
 汚れてはだけた花穂のネグリジェは、あちこちにポタージュのしみがこびりついている。
 あきらめたように、不機嫌な表情で、里美がネグリジェを脱がせると、花穂の胸元には、うすく赤いしみができていた。



 花穂と里美の両親は、一年の大半を海外で過ごしていた。
 まだ、娘二人が小さい頃は、父と母のどちらかが単身で仕事先に出向いていたのだが、里美が成人したのを期に、両親共に、渡米したまま数ヶ月ほど帰ってこないこともざらにあった。
 フリーの買い付け業者とでもいうのだろうか、海外の輸入品を一手に引き受け、国内で販売して利益を上げていた。

No.6 19-04-06 16:13
葉月 ( AmcTnb )

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長女である花穂が、学力の遅れが目立つようになった頃に、一度、取引先との連絡を断(た)ち、娘達のフリースクールを探してくれた事もある。
 里美は、いつも、花穂のお守(も)り役だった。
 病院では、学習障害の生徒専門の学校へ入学することを勧められたりもしたが、花穂が、極端に家から離れるのをいやがったので、里美は、仕事をしながら、花穂と一緒に生活することを決心した。
 小さい頃から里美は、家の事を全面的に手伝ってきたので、花穂と二人だけでやっていくのも、それほど難しい事ではないと考えていた。
 しかし、実際に仕事に出てみると、花穂の世話は、容易ではないことがわかってきた。
 最初のうちは、残業ができないことが、かなりのリスクになった。
その次に、得意先の接待等、時間の不規則な仕事を取れないので、同期の人たちがどんどん才覚をあらわし、自分たちのルートを開拓していくのに、里美は、会社の中で、置いてきぼりを食うことが多くなってきていた。
 そんな頃に出会ったのが、俊介だった。
 珍しく、花穂の容態が安定していた時、上司と共に出席した打ち上げで出会い、メールアドレスを交換して、それ以来、発注の時はいつも彼の意見を聞くようになった。
 学生時代のように、気軽につきあえればいいのだろうが、両親から任された家と、花穂の世話を考えると、もうこの先、自由に恋愛する事はないんじゃないかと、里美は、ひとり考えている。
「竹下さん、社員旅行は、どうする?」
 上司が、声をかけてくる。そんな時も、いつも里美は、
「私は、いいです。姉の体調が、良くないので…」
と、断っていた。

No.7 19-04-10 15:10
葉月 ( AmcTnb )

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「ヨーロッパ一周するかもしれないよ?」
「いいえ、みなさんで、楽しんでこられて下さい。私は、日本で留守番してます」
「そうか。ご両親は、ずっとアメリカ?」
「はい」
「そしたら、わざわざ会社から行かなくても、家族旅行で渡米できるんだよね… わかった、また今度ね」
 そうやって、会社の行事に不参加でいるうちに、だんだん里美に声をかけてくれる人も、いなくなってきた。
 少しさみしくなり、俊介にメールすると、

 今度、こちらでも社員旅行があるから、それが終わったら、どこか国内旅行に行こうか。行きたい場所を選んでおいて下さい。

と、返事が返ってきた。
 普通の恋人同士のように、もっとたくさんデートや旅行に行きたいと思う時もあったが、家にいる花穂の事を考えると、里美は、気が重くなる。
 俊介に花穂を紹介するとして、美しい花穂のほうが気に入って、自分には、もう興味がなくなってしまうのではないかという不安もあった。
 かかりつけの病院に行ったあと、里美は、花穂に聞いてみた。
「花穂ちゃん、最近、体は、ちゃんと動く?」
「うん、お薬飲んでるから、大丈夫みたい。トイレも、一人で行けるし」
 旅行に、行ってもいい?──そう聞こうとして、言いだせず、里美は、車を止めて、後部座席から必死にはい出そうとする花穂の肩を抱え上げて、玄関まで一緒に歩き出した。

No.8 19-04-14 14:22
匿名 ( AmcTnb )

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花穂をネグリジェに着替えさせてベットに寝かせ、自分の部屋に入り、会社で片付かなかった仕事を取り出す。
 つい睡眠不足になり、うとうとしながら、書類をのせたキーボードの上でまどろんでしまい、パソコンのデータを全部消してしまう事もある。
 (このままじゃいけない…‥)
 両親に相談しようにも、国際電話のわずらわしさを考えて、里美は、もろもろの悩みを一人でかかえ込んでいた。
 つい、交際相手の俊介に助けを求めたくなるけれども、それで気まずくなり、迷惑がかかってはいけない、と、電話するのをためらうこともあった。
 小さい頃は、母親か里美が、いつも花穂の心拍数のチェック、マヒしている手足のマッサージを行ってきたので、今さら誰か看護師に任せる気にもなれない。
 ぽっかりと空いた空間があると──マンションでも、美術館でも、ホテルや銀行のロビーでも── 里美はいつも、この中に花穂がいたら、どこに座るんだろうと思い浮かべる。
 きれいな服を着て、背もたれのある椅子に座っていると、外国のお姫さまのように見える花穂。髪を結いあげて、ティアラをかぶせれば完璧だ。でも、その玉座は、どこにも見あたらない。
 夜中に、ふと気になって部屋をのぞいてみると、寝汗でじっとりとぬれた長い髪を、顔一面に張り付かせている。
 里美は、ため息をつき、「花穂ちゃん、着替えするから、起きて」と言い、汗じみたネグリジェのボタンを外す。
 延々と続く毎日の日課に、里美は、切実に転機を求めていた。




「高原の旅館?」
「うん。感じのいい所だからさ。一泊二日だけど、平日だから高速道路もすいてると思うし。予約していいかな」
「うーん…‥ そうねぇ…‥」
 新しくできたカフェの一角で、里美と俊介は、旅行雑誌をはさんで、語り合っていた。

No.9 19-04-18 14:14
葉月 ( AmcTnb )

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「あんまり、うちを空けられないっていうか…」
「お姉さんの容態が、良くないの?」
「うん、ちょっと障害があるから、私がついてないとダメだし」
「一緒に連れてくれば?」
 思わず、里美は、俊介の顔を正面から見た。
 深いみずうみのような瞳が、じっと、里美の返事を待っている。
「……でも、いいの?」
「二部屋とって、お姉さんはゆっくり休んでもらってたらいいんじゃない?」
「そういうわけには…」
「大丈夫だよ。ちゃんと、バリアフリーの所だし。もし体調が悪くなるようだったら、遠慮せずにスタッフに連絡すればいいわけだし」
「……俊介くん、身内に、障害を持ってる人、いる?」
「そんなに重い病気の人はいないけどさ、学生の頃、旅行の直前に親父が左脚を骨折して、車の運転から、松葉杖の手配から、お袋が引き受けたんで、そういう大変さは少しはわかるつもりだよ。幸い、親父は良くなったけど、治るか治らないかの違いでしょう?僕も協力するからさ、大丈夫だよ」
 里美は、心の中で、ため息をついた。幸せな家庭で育った人に、障害を持つ子供がいる家族の苦労は、分かりっこない。
「今度の仕事が一段落したら、また連絡するから、それまでに考えておいて」
 そう言って、俊介は、スーツの上着とレシートを手にとり、席を立った。

No.10 19-04-23 16:24
葉月 ( AmcTnb )

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残された里美は、ぬるくなったカプチーノを一口飲み、旅行するとした場合の事を考える。
 もし、旅先で花穂の体調が悪くなった時、旅館の近くに病院は、あるのかどうか─
 それに、病院以外に、家からほとんど出たことがない花穂に、旅行をすすめて承知するのかも、わからない。
(私たちが帰ってくるまで、花穂のことは、里美に任せるから)
 最後に空港で見送った時の、両親の言葉が、胸にせまってくる。
 仕事で大変なのに、たかが親しい友人と一泊旅行するからって、余計な相談なんてできない。
 その夜、花穂は、夕食を食べたあと、バスルームでつまずき、そのままもどしてしまった。
 嘔吐物をシャワーで洗い流しながら、濡れたTシャツと七分丈のジーパンを脱いで洗濯機に放り込み、里美は、キャミソールのままで、思索にふける。
 もし、俊介が、花穂の障害を受け入れられないのだったら、恋人でいることはやめてしまって、ただの仕事仲間に戻ろうか─
 深夜のバスルームの淡い光の中で、里美は、じっと、洗濯機のスイッチを押そうかどうか、迷っている。



 結局、病院の先生が「環境のいい所の空気は、体にもいいし、旅行は気分転換にもなるから」と言ってくれたこともあり、花穂を含めて、里美と俊介は、高原へと出発することとなった。
 

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