拾い者
ある日、見つけた意外な拾い物
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「さあ、買い出しにでも行くか。」
佑美は部屋を見渡してため息をついた。
トートバックを肩にかけると玄関を埋め尽くす大量のゴミ袋を足で掻き分けて道を作った。
くたびれたスニーカーに一気に足を押し込み、またため息をついた。
アパートの階段を下りながら曇り空を見上げる。
雨が降りそうと思いながら鞄を覗くと、入れっぱなしにしてあった赤い折り畳み傘が見えた。
アパートを出て直ぐに散歩をしている保育園児の列を見かける。
園児達は歩道のわきに咲く紫陽花を見ながら「あじさいキレイだね~」と楽しそうに騒いでいる。
すれ違い様、保育士に「こんにちは!」と挨拶をされた佑美は遠慮がちに頭を下げた。
少し歩いた所で以前まで取り壊しをしていた雑貨店が綺麗に無くなっているのに気づいた。
「次は何が出来るのかな?」
そんな事を考えながら左に曲がると公園が見えてきた。
この公園を横切ればまもなくスーパーに到着する。
公園に入り少し歩いた所で佑美は異物を目にする。
ベンチの上で黒いゴミ袋の様な物に入った大きな何かがゴソゴソとうごめいていた。
「ん?」
佑美は恐る恐るベンチに近づく。
しかし動きはピタリと止まって風に吹かれた袋が微かにカサカサと音をたてているだけだった。
「見間違い?か?」
佑美は中身が気にはなったが開ける勇気もなく、その場を立ち去ろうと背を向けた…
その時、
ガサガサ!!と何かが引き裂かれる様な大きな音が背後からした。
佑美はビックリして肩をすくめた。
強い鼓動に胸を押さえながら、ゆっくりと顔だけを後ろに向けた。
そこにはベンチに腰をかけた黒い物がいた。
佑美は目を見開き声にならない声を上げた。
慌てて走り出そうとした時、足がもつれて転倒し持っていたトートバックを前方に放り投げた。
バックは地面を滑る様に飛び中身が辺りに散らばる。
四つん這いの姿勢の佑美はしばし呆然としていたが、ハッ!と我に返りそのままの姿勢で素早く前進した。
散らばったそれを慌ててかき集めバックに入れると佑美は立ち上がり逃げる様に公園を出た。
「あれは…なんだったの?」
腰が引けて上手く走れない。
呼吸が震える。
前から来る自転車が横を通り過ぎるタイミングで佑美は恐る恐る後ろを振り返る。
走り行く自転車とそばでゴミ捨て場を掃除する中年女性の姿が目に入る。
特に怪しい物は見えない。
大通りに出ると人の数も増え佑美は落ち着きを取り戻し走る足を止めた。
上下に肩で息をする。
「久々に走ったな~」
しかし、ここはスーパーとは逆の方向。
「もう、いいや。」
佑美は買い出しは諦め進路を変えた。
足に疲労感を感じ立ち止まって紫陽花を眺めた。
小さい頃、紫陽花の葉についたカタツムリをポケットに入れて持ち帰り、親に叱られた事があった。
洗濯をしようとポケットを確認した母の悲鳴を思い出し佑美は小さく笑った。
遠くに雷鳴が聞こえた。
佑美は低く下がった空を見上げ家路を急いだ。
バックを探りながらアパートの階段を上がる。
部屋の前に着くと佑美の表情が曇る。
「ない、無い!鍵がない‼」
その場にしゃがみ込みバックを大きく開く。
一筋の願いを込めてドアノブを引くが扉は頑なに開くことはない。
佑美は目を閉じてハッとする。
「落としたんだ…さっきの公園だ…」
『また行くの?』
『あそこに?』
『いや、嫌だ!でも…』
鍵を紛失した場合は24500円を弁償。
雨が降りだした。
徐々に雨は激しさを増す。
稲光がしたと同時に雷が鳴り響く。
佑美はバックから折り畳み傘を取り出すと意を決したように階段を走り下りた。
階段を下りきった所で傘を開く。
けれど、心は家に帰りたがっている。
「ささっと行って、ささっと拾って帰ってくるだけだ!なにかあったら近くの家に助けを求めればいいし!」
雨は更に激しさを増す。
稲光と共に雷が鳴り響く。
頼りない折り畳み傘が雨の重みでゆがむ。
「とにかく行かなきゃ!」
佑美は足早に公園へ向かった。
公園に着くと佑美は入り口の木陰に隠れながらベンチに目を向ける。
先程の異物は姿を消していた。
公園内を注意深く見渡したが、それらしき物は見当たらなかった。
佑美は公園に足を踏み入れた。
雨で濡れた地面がジャリジャリと音を立てた。
足元を左右に見ながら歩き進めて行く。
しかし、鍵らしき物は見つからない。
「嘘でしょ~何でないのよ~。確かにこの辺りに落としたはずなのに。」
佑美は顔を上げベンチを見つめた。
なんでこんな事になったのか。
あんなの無視して通りすぎてれば…。
その時、ベンチの後の植え込みが左右に激しく揺れた。
しかし、すぐに止まったので雨で動いたのだろうと気にはしなかった。
『もしかしたら、ここでは無いのかも知れない。』
佑美は仕方ないと出口へ歩きだした瞬間、再び植え込みが激しく揺れた。
『えっ?』
立ち止まり、そちらに目をやると植え込みの中から黒く細長いものがグイッと飛び出してきた!
佑美は思わず目を閉じた。
「えっ!えっ!なっ!何?」
佑美は訳も分からず、それを今一度確かめた。
「何?なに?ナニ?」
植え込みから突き出たそれは空を指す様に上に伸びている。
ゆっくり、それに近づく佑美は悲鳴を上げた。
「て…手だ…人の…人の腕だっーーーーぁっっっ!!!!!!!」
その腕の先にはピンクの小さい物がぶら下がり雨に叩かれ揺れている。
そして佑美は更に驚愕する。
「あれ…あれは…わっ私の…。」
傘を持つ手が震えすぎ佑美は雨をまともに受けていた。
声が震える。
息が苦しい。
怖い!
佑美は尻もちをつき、その場に座り込んでしまった。
「誰か助けて!!!!」
植え込みから伸びた人の腕の先にはウサギのキーホルダーに繋がれたのシルバーの鍵が握られていた。
腰が抜けて立ち上がれない。
足が冗談の様に震える。
「死んでる…怖いよ~!誰かぁぁ~誰か来てぇぇ~!!!!!」
佑美は鼻を赤くして大きく口を開けて泣いた。
声にならない声を振り絞り、何度も助けを呼んだ。
「はっ?バカか!死んでねえし!!」
人の声を聞き、佑美は慌てて辺りを見渡す。
助かった!その思いは無惨にも打ち砕かれる。
植え込みから伸びた黒い腕は更に太く大きくなり空へと高く伸びた!
その瞬間、公園が青い光に包まれ何かが真っ二つに切り裂かれる様な鋭い音が耳に飛び込んできた。
佑美は目を見開き固まる。
その後に地面から沸き上がるような低い爆音が耳を覆った。
佑美はゆっくり空を見上げると白目を剥き仰向けに倒れた。
雨が佑美の頬を殴る。
「大丈夫かぁ?こいつ…。」
遠くから低い男の声が聞こえる。
佑美は薄れ行く意識の中で自分の体が宙に浮くのを感じた。
目を覚ますと、そこには白い世界が広がる。
霞む目を擦り、佑美は視点を合わせた。
見覚えのある茶色いシミ。
「えっ?ここ、家?」
佑美は慌てて上体を起こした。
背中に寒気を感じる。
目の前には、いつもの見慣れた風景が広がっていた。
「私…寝てたんだっけ?」
佑美はベッドに寝ていた。
あの不可解な出来事を思い浮かべていたが、胸元からにずれ下がった掛け布団に目をやり全身が固まる。
「嫌だ!何これ!!」
佑美は胸元をとっさに隠した。
そして、恐る恐る掛け布団をめくり上げた。
頭が混乱して熱くなる。
回りを激しく見渡す。
ベッドを、降りようと右手を後ろに付いた時、枕の感触に違和感を覚えた。
それは次第に恐怖に変わる。
佑美の体には下着しかつけられておらず、髪は冷たく湿っていた。
その時、突然に部屋のチャイムが鳴った。
佑美は目を硬く閉じ恐怖に震え上がった。
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