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言い方とか、誹謗中傷等したりはやめて下さい。原因はなんだろね
私の人生観、おかしいですか?(長いです)
私が悪いのですが、新入社員に腹が立ちます。

ブルームーンストーン

レス197 HIT数 14425 あ+ あ-

自由人
22/05/27 00:15(更新日時)

1993年初夏。

「ほらこれ!」

と、真っ赤な顔をしながら綺麗なリボンのついた小さな箱を私に押し付ける彼。

開けてみると小さな宝石のピアス。

ブルームーンストーン。

ブルームーンストーン、6月の誕生石。

そして宝石言葉は恋の予感…


No.2652859 18/05/29 14:06(スレ作成日時)

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No.36 18/06/06 21:11
自由人 

さて、バンガローに案内され中に入ると、6畳程の広さの畳敷きに焼肉用のテーブルが置かれ、部屋の片隅にはディスクタイプのカラオケの機械があった。
なるほど。
プチ宴会ができそうだ。
ただし、カラオケの曲はほとんどが演歌で、演歌を唄えない私達には全く無用の長物となってしまったが。

カラオケが使えないので、おしゃべり中心になったがそれが逆に楽しくてとても盛り上がった。

「よ~っし!ゲームしよっ!ジャンケンをして1番先に勝った人の言うことを負けた人がきく!」

ほろ酔いのユータンが言い出した。

思えばこれ、この数年後に流行った王様ゲームのノリだった。
何でも「走り」というものがあるものだ。

「ウェーイ!」
何故かみんな自信満々でジャンケンに挑む。
「ジャーンケーンポン!」
ユータンが勝ち、ユッキーが負けた。

あからさまに嬉しそうな顔になったユータンが、
「ユッキーには俺の質問に答えてもらいます。
キスをするなら俺と大ちゃんどちらを選ぶ?
絶対答えてよ!」
とユッキーに迫る。

うっわ…
なにそれ…

でも、俺にキスしろ!と言わないだけユータンの良心を感じるな。

色々と思いを巡らせている間に、
「え~?そういう下心ありそうな質問する人は怖くて選べませ~ん。
だから消去法でいくと大ちゃんということになっちゃうかな?」
とユッキーは笑いながら即答した。

わぁ…

チラリと大ちゃんを見る。

大ちゃんは笑っていたが気を使ったのか、
「ほら!次やりましょ!」
とさりげなく流し、

「ジャーンケーンポン!」
今度もユータンが勝ち、私が負けた。

「何にしようかな~」
とユータンが悩んでいると、

「あ、俺ちょっとトイレ行ってきます。」
と大ちゃんがバンガローを出ていってしまった。

No.37 18/06/06 21:43
自由人 

ユータンは出ていく大ちゃんの後ろ姿を見て少しニヤリと笑ったが、特に気に留める風もなく、
「じゃあ、ミューズにも同じ質問っ!どっちを選ぶ?」
と問いかけてきた。

「えっ?!え~と。じゃあ私も大ちゃんで…」
慌ててユッキーの真似をして答える。

「なんだ~2人とも大ちゃんか。
俺、可哀想。」
ユータンはそう言いながらも笑っており、
「だってユータン、エロいよ!
そんなエロい人にはいきませ~ん!」
というユッキーの言葉を皮切りにゲームは自然と終了して、
「私とユッキーでユータン弄り」の雑談に変わっていった。

そこに大ちゃんが戻ってきた。

「罰ゲーム何だったんすか?」
部屋に入りながら聞く大ちゃんに、

「あのね、」
と答えようとした私の言葉を遮り、

「誰とキスしたいかって聞いた。
ミューズは大ちゃんとキスしたいってさ。」

とユータンが笑いながら答えた。

「ええええっ?!
そんな言い方してないよっ!」
焦る私をチラ見して、

「ふ~ん。」

大ちゃんは全く興味無さそうに答え、

「外、出てみません?河原の方に降りられますからちょっと行きませんか?」
とまた外に出ていった。

「あいつ…ホントに可愛いな。」
ユータンが1人フフッと笑う。

「え?何が?」

全く理解出来ずに問う私に、

「大ちゃんは狼に見えるけど、実は犬って事だよ 笑」
???
ますます意味がわからない。

「あ~そうだね!
顔立ちも総合するとドーベルマンってとこかな。」
ユッキーが笑いながら納得している。

えっ…
私だけ意味わかんないんですけど…
2人の会話に入り込めないものを感じた私は、
「とりあえず大ちゃんのとこに行ってくるよ。」
と外に出た。

No.38 18/06/07 00:11
自由人 

ドーベルマン。

どんな性格なんだ?
当たってるのかなぁ。
ドーベルマンのことあまり知らないけどね。
考えながら河原に降りると、座っている大ちゃんに近づいて横に座った

ぼーっと川を眺めていた大ちゃんはちらっと私の方を向いたがすぐにまた川の方に視線を戻し、
「山田さんたちは?」
と聞いてきた。

「バンガローだよ。」

「そっか。」

大ちゃんは再びこちらを向くと、
「ねぇ。誕生日プレゼントは?くれないの?」
と聞いてきた。



数日前、可愛いドラムセットの置物を見つけた私は大喜びで即購入した。
一点物のそこそこ良い品だったらしく価格が予算よりかなりオーバーしていたが、それでも大ちゃんにあげるプレゼントは他にはもう頭に浮かばなかった。

ところがちょっと誤算が生じた。
早速包装してもらった所、まずは破損と汚れ防止のために大きめのプラスチックケースにそれは入れられた。
次いで、厚紙製のプレゼントボックスに入り、包み紙とリボンでラッピング。
更にそれを持ち運ぶための特大紙袋に入れられて完成!
と、なったのだが。

デカイ。
こんなの持って職場に行けない。
持って行けても置き場所に困るし…

と、いうことでその日早番だった私はプレゼントを家に置いてきてしまっていた。

どうしようかな。
本人もこう言ってる事だし、明日渡せたら明日がいいよねやっぱり。

私は大ちゃんの言葉が聞こえなかったフリをして、
「.あの、明日、空いてる時間帯ってないかな?
ちょっと会いたいんだけど。」
と聞いた。

「んっ?あ~別に朝からでもなんでもいいよ。暇だから 笑」
大ちゃんが即答してくれて助かった。

「あ、じゃあ昼過ぎでもいい?
場所はどうしようかな。」

「俺、車出すからミューズを迎えに行くよ。」

プレゼントが大きいので非常に助かる申し出だった。

「ありがとう!じゃあお願いします。」
何とか無事にプレゼントを渡せそうだ。

内心ホッとした私に、
「誕生日のお祝い…キス…しよ?」
と大ちゃんが少し照れくさそうに言ってきた。

No.40 18/06/07 18:37
自由人 

バンガローに戻り、私が先に中に入った途端、
パン!パン!
とクラッカーが鳴り響いた。

「誕生日おめでとう!!」

ユータンとユッキーがクラッカーを持って一斉に叫ぶ。

えっ?なに?
もしかして大ちゃんが帰って来るのをずっとクラッカー握りしめて待ってた?

でも、ごめん…
私なんだけど…

「あ…」

少し遅れて入ってきた大ちゃんが、
「なにしてるんすか。わざわざこんな物持ってきて。」
と淡々と言う姿に何故か3人ともツボにどハマりして笑いが止まらなくなった。

唖然とする大ちゃんを完全に置いてけぼりにして散々3人でバカ笑いをした後に、

「はい!これ。3人から。」
とユータンが隠していたプレゼントの箱を出した。

「え?あ、ありがとうございます。」
大ちゃんは戸惑いながらも箱を受け取り中身を見た途端、満面の笑顔になった。
中にはコンバースのバッシュ。

その頃はSRAMダンクという漫画等の影響で空前のバスケブームが起こっていて、元々バスケ好きの大ちゃんも友達と3on3を楽しんだりしている事を私達は聞いていた。

「気に入ってくれたかな?」
ユッキーが優しく尋ねる。

「まだ18歳だけど、19歳の誕生日おめでとう!!」
ユータンがわざと茶化した様に言う。

「あ、はい!ありがとうございます。」
満面の笑顔で答えた大ちゃんは大切そうにバッシュを抱きしめて頭を下げた。

No.41 18/06/07 22:11
自由人 

翌日。
大ちゃんの誕生日当日。

PM12:50
約束の10分前。

待ち合わせ場所である私の最寄り駅のロータリーに着くと、
うっ…
やっぱりもう来てる…

ロータリー横の駐車スペースに大ちゃんの車があった。
そ~っと中を覗き込むと、大ちゃんが文庫本を顔に乗せ、シートを倒して寝ている。

一体いつから来てるんだろう…

コンコン。

運転席の窓を軽くノックすると、気づいた大ちゃんが起き上がってきた。

「お疲れ様~。寝てたみたいだけど疲れてるんじゃない?」

ならば、さっさとプレゼントを渡して早く家に帰してあげねばと私は気を使いながら言った。

「へっ?ほっ?うん!
ダイジョーブ!ダイジョーブ!
ちょっと昨日あんまり寝てないだけだからエヘヘ」

大ちゃんは恥ずかしそうに笑うと、
「さて、どこに行きましょうか?」
とエンジンをかけた。

「えっ?いや、今日はこれを渡すつもりでだったんだけど…」
私は紙袋を大ちゃんに渡した。

「えっ?あ、ありがとう。
じゃあどこも行かないの?」

「えっ?だって昨日寝てないんでしょ??
帰ってゆっくり寝なきゃダメなんじゃない?」

「いやっ!ここに来てから1時間くらい寝たからもう大丈夫!」

え…1時間前から来てたのか…
そんなに早くに来て何をしてたんだ一体。
あ、寝てたのか…

心の中で色々とツッコミながらも、

「わかった。じゃあせっかくだから遊びに行こうか。」
私が言うと、
「うん!遊園地は?」
大ちゃんがメガネをかけながら聞いてきた。

あれ?
メガネ?

「うん。寝てないせいかコンタクトすると目が痛くて…俺、目がすごく悪いからコンタクトないと全然見えないし。メガネ好きじゃないんだけどね。」
大ちゃんがちょっと恥ずかしそうにする。

メガネは大ちゃんにすごく良く似合っていて、ひそかにメガネ男子大好き女子だった私はドキドキした。

この子、本当に美形だ…

でも顔のことばかり言うときっと気を悪くさせると思った私は、
「メガネ、よく似合ってるよ。」
とサラッと伝えた。






No.42 18/06/07 22:53
自由人 

私達を乗せた車はしばらく走って小さな遊園地に着いた。
有名テーマパークと違い、小規模遊園地は比較的空いている。

ジェットコースターという名のミニコースター、お化け屋敷らしき?ホラー館、グルグル回るブランコ、どれもが地味でショボイ。

でも、とてもとても楽しかった。

散々はしゃいで笑い合う。

「ミューズ!次何に乗る?」

楽しそうに頬を紅潮させて聞く大ちゃんに、
「そうだね。やっぱり観覧車かな?」
と答えると、一瞬大ちゃんの顔がピクっと痙攣したような気がした。

「んっ?観覧車嫌い?静かに回るだけだからつまらないかな?」

「いやそんなことないよ。観覧車乗ろ~!2人きりになれるし。」

大ちゃんは変な冗談を言いながら、早く!早く!とばかりに私の手を引っ張った。

2人きり…

2人きりの空間で夕暮れ時の遊園地を見下ろす。

ドラマのシチュエーションみたいじゃない?

何か素敵。

ワクワクしてきた。

私達は手を繋ぎながら観覧車の方に走って行った。

人のまばらな遊園地はいつしか夕暮れ時の薄闇に包まれ、あちらこちらで点灯した照明がキラキラと輝きを放っていた。

No.43 18/06/08 00:43
自由人 

「どうぞ~」
係のお兄さんがニコニコとゴンドラの扉を開けてくれる。

私達が乗り込み向かい合って座ると、
「行ってらっしゃ~い。」
とお兄さんはニコニコと扉を閉めた。

少しずつゆっくり上昇していく。

少しずつゆっくり周りの景色が下に広がっていく。

私は後ろを振り向いて外の景色を見た。

ジェットコースターやお化け屋敷、私達が遊んだアトラクションが真下に見える。
少し視線を遠くにやると遊園地の照明がキラキラと星の様に光って見えた。

「綺麗…」

「……」

んっ?

視線を前に戻すと、大ちゃんが真剣な表情でこちらを見ている。
何故だかメガネも外している。

「うわっなに?どうしたの?」

「ミューズ…横に座ってもいい?」

言うが早いか大ちゃんは私の横に座り、私を抱きしめてきた。

No.44 18/06/08 01:04
自由人 

「えっ?ちょっ、やだ、周りから見えるよ。」
焦る私の様子に、
「ごめん…」
と大ちゃんはおずおずと私から離れると、
「あの…その…隣に座ってるのはいい?
目をずっとつぶってるから着いたら教えて…」
と蚊の鳴くような声で言った。

「へ?どういうこと?
まさか…」

「う…ん…実は高所恐怖症で…見えないようにメガネ外してもみたけど…もう…無理…かも…」

いいいいいい??!!

ゴンドラはやっと1番てっぺんに差し掛かろうとした所だった。
またまだ残りはかなりある。

「ちょっとやだ!何で言わないの!
言ってくれたら乗らなかったのに!」
焦る私の言葉に、

「.だって…ミューズ…乗りたそうだったし…ミューズが喜んでくれたら俺、頑張って我慢できるかなって…」

バカだな…もう。

普段の大人びた態度や表情はどこへやら、怯えた子犬の様な目をして俯いている大ちゃんを私はそっと抱きしめた。
?!
大ちゃんは少し驚いたが私のなすがままになっていた。

「ほら、こうしてれば少しは落ち着く?」

「うん…」

「目をぎゅっと閉じててね。着いたら教えてあげるから。」

「ミューズ…」
少し落ち着きを取り戻した大ちゃんが言う。
「なに?」
「ずっとこうしててくれる?」
「うん。大丈夫だよ。ずっと横にいるよ。ずっとしててあげるよ。」

「うん…」

大ちゃんを抱きしめながら私はふっと視線を下に落として大ちゃんの足元を見た。

足には真新しいバッシュを履いている。
昨日、私達がプレゼントしたやつだ。

喜んで早速履いてきてくれたんだ…

可愛くて愛おしくて胸が熱くなる。

私は大ちゃんの髪に顔を埋めた。
大ちゃんの髪からは昨日と同じシャンプーの爽やかな香りがした。

No.45 18/06/08 21:49
自由人 

「ミューズ…ごめんね…」
観覧車を降り駐車場に向かう途中、
打しおれながら大ちゃんが言う。

「俺…かっこ悪いよね。」

「なんで?私のために苦手な観覧車乗ってくれて嬉しかったよ?」
心からの言葉を言ってみるも、
「うん…でも…」
あまり響いていないようだ。

そうだ!

「ねぇ?私からのプレゼントまだ開けてくれてないでしょ?
車に戻ったらすぐに開けてみてよ!結構苦労して買ったんだからね!」

私の言葉に大ちゃんもアッ!という顔になった。

クルマに戻ると大ちゃんは早速包みを開ける。
「あ~っ!ドラムだ!!」
大ちゃんはプラスチックケースの中に手を入れると嬉しそうにドラムをトントンと指で叩いてみせた。

「喜んでくれて良かった。」
私がホッとして笑うと、

「昨日、皆でってバッシュくれたのにまたこんな高そうなプレゼントくれて…」

「ううん、いいの。
それより、バッシュも今日早速履いてきてくれて、喜んでくれてるのが伝わってきて嬉しいよ。」

私のその言葉に大ちゃんの目が急に輝いた。

「ねぇ、ミューズ。
今から行きたいとこがあるけどいいかな?」

「いいよ。」

私の返事を聞いた大ちゃんはウキウキと小一時間ほど車を走らせ、薄暗い空き地の様な駐車場に車を停めると、

「ここだよ。」
と更に嬉しそうな顔をした。

「えっ?ここって?」

「うん。最近よく来る場所。」

大ちゃんは、そう言いながら先に車を降りる。
慌てて私も降りると、
「駐車場を出て右に曲がったすぐだよ。」
と手を引きながら案内してくれた。

「わあ!」

角を曲がった私の目の前には、隣接する公園の外灯の明かりを受けて夜の闇の中に浮かび上がる3on3のコートが広がっていた。

No.46 18/06/09 12:48
自由人 

「へぇー」
私はゴール下に立ち見上げた。
懐かしいな。
高校の球技大会以来だ。

シュートを打つ真似をしてみる。

「やってみる?」
大ちゃんは言うが早いか、駐車場の方に走っていき、バスケボールを抱えて戻ってきた。

「え?どうしたのそれ?」

「うん。友達といる時に、気が向いたら来るからボール車に積んでる。」

言いながらボールを私に渡してくれる。

よしっ!
シュートを打つ。
げっ、ゴールにすら届かない…
テンテンテン…情けない音を出しながら転がっていくボールを笑いながら拾い上げた大ちゃんがシュッとボールを投げる。
スッ。
簡単にゴールが決まった。

はぁ、何でも私より出来るのねぇ。



私は新人研修の時の大ちゃんを思い出した。

「その子」は私のすぐ斜め前に座っていた。
いつも人事教育部の講師さんの話を聞いているのか、聞いていないのか、ボーッとした表情でいつもつまらなさそうに欠伸を噛み殺していた。

「この研修での講義内容から最終日の前日にテストをします。テストは採点をして翌日皆さんにお返ししますが、コピーを各自の配属店の店長にもお渡ししますのでしっかり勉強して下さい。」

講師のその言葉に、
うわっ、しっかり聞かなきゃ。
講師の言葉に焦る思いで必死で講義を聞き、ノートをとる。

他の新人達は私より年下ばかりだ。
悪い点を取ったら恥ずかしい。

家に帰って復習もしてしっかり勉強した。
テスト当日、
「うっ、思っていたより難しい…」
ダメだ。落ち着こう。
焦りながらもふと斜め前を見ると、
「.その子」はつまらなさそうに問題用紙を一瞥したかと思うとサラサラっと何かを書いてすぐに突っ伏して寝てしまった。

No.47 18/06/09 19:12
自由人 

えっ?なんなの?
例え分からなくても最後まで普通考えない?
テストはいつも時間ギリギリいっぱいまで粘るタイプの私には彼の行動は理解できなかったが、人の事を気にしている余裕はない。
とにかく良い点を取らなきゃと必死でテストに取り組んだ。

真面目に勉強したのと、最後まで粘りきった甲斐があり、
翌日の最終日に返されたテストは周りのほとんどが80点台だった中での95点だった。
ふむ、悪くない。

これで午後から配属店の店長に会っても恥ずかしい思いはしなくてすみそうだ。

午後に迎えに来てくれた店長と共にオープン前の店舗に着いた私達はオープン準備中のスタッフへの挨拶後、休憩室で簡単なオリエンテーションを受けた。

「さてと。」
店長は人事教育部から渡されたテスト結果の封筒を開封し中を覗くと、
「おっ!すごいな。」
とニコニコとした。

「ありがとうございます。」
と答える私に、
「うんうん。95点に100点なんて田村さんと神谷君はなかなか優秀だ。」
と店長は優しくほめてくれた。

ほめてくれた。
ほめて…
えっ?100?!

大ちゃんこと神谷君は全く興味のなさそうな顔をしていたが、
「ありがとうございます。」
と無理矢理な作り笑顔を作ってボソッと頭を下げた。

「ねぇねぇ、すごいね、満点なんてなかなか取れないよ。」

オリエンテーションの合間の休憩時、私は大ちゃんに話しかけた。

「別に。ちょっと要所の話聞いて適当に書いたら取れるでしょ。」

店長に対しての作り笑顔とは裏腹に私には相変わらずぶすっとした顔で答える。

はぁ。

もうやだこの子。

でも頭の回転は早そうだな。

一緒に仕事して慣れればもっと打ち解けてくれるかな。
よしっ!頑張ろう!

基本、ポジティブな私はグッと心の中で気合を入れた。

No.48 18/06/09 21:04
自由人 

「ミューズ?」

声をかけられてハッとする。

「ミューズ?疲れちゃった?そろそろ帰ろうか。」
大ちゃんがニコニコしながら立っていた。

「.あ、うん。」
返事をした私と大ちゃんは並んで歩き出した。

あれ?
研修は3月の終わり頃、今は6月の終わり頃。
3ヶ月の間に、あの仏頂面とこうやって仲良く歩く様になってる。

そういえばあんなにぶすっとした態度を取っていた私に対して急に好きだとか言い出して、一体何がこの子の中であったのか?

人を本気で好きになるのにじっくりゆっくりと時間をかけるタイプの私には大ちゃんの言動が正直理解できなかった。

「ミューズ?」
車に乗り込んだ途端、大ちゃんが声をかけてきた。

「えっ?なに?」

「いや、なんか…機嫌悪そうだなと思って。」

大ちゃんの言葉に私は慌てた。

「あっ、ううん。ちょっとね考えてただけ。
研修の時にはあんまり私の事を好きじゃなさそうだったのに、何故急に親しくしてくれる様になったのかな?って。」

「…から…」
大ちゃんがボソボソと声を出した。

「えっ?何て言ったの?」

聞き返した私に、
「研修の時からずっと気になってたよっ!!!」

と大ちゃんが半ばやけくそ気味に叫んだ。

No.49 18/06/09 22:48
自由人 

「うおっ!」
び、びっくりした。

「え?!気になってたって…何か気になる様なことしたかな?」

「えっ?何かって…」
カアアアア。
大ちゃんの顔が耳まで赤くなる。

えっ、やめて、そんなリアクションやめて、こっちが恥ずかしい。

「だってほら大ちゃん最初の頃は素っ気なかったし。ホント仏頂面で怖かったよ。」
私は気恥しい空気を払いたくてわざと笑いながら茶化した。

「あ~そんなに愛想無かった?
うん、まあ気恥ずかしかったのと…」

大ちゃんはそこでちょっと言いよどむ。

「ん?」

「.いや、気にはなってたけど…
簡単に人を信用なんてできないから警戒してたっていうか…」

…えっ…

「あのさっ、この人を信用出来るなって思ってから普通気になりだしたりしない?」
私はごく当たり前と思われる疑問を口に出した。

「いや、この人気になるなって思っても深く知り合うと違ったってことあるよ。」
大ちゃんはアッサリそう言った。

まあ確かに…

「それに俺、人のことをあまり信用しない様にしてるし。」

へ?

ということは…
私の事もまだ信用してないって事じゃないかな?

急に虚しさと寂しさが私の中に押し寄せてきた。

「何でそうなの?そういうの寂しくない?」
との私の問いには答えず、

「ミューズはすぐに人を信用しそうだね。単純そうだもんね。」
と大ちゃんは笑って私の頭をポンポンした。

この子は一体どういう子なんだろう。

私を好きだと言ってくれてるけれど、本当にそう思っているのだろうか。
と、いうかそれ以前に私の何を好きなのだろう。

色々と考えてみたが答えが出るわけもない。
まっいいか。
そのうちに聞いてみよう。
どうせ今聞いてみたって答えそうにもないしね。

マイペースで面倒臭がりの私の悪い癖である。

多分…
私と大ちゃんの性格って真逆なんだろうなきっと。

「ミューズ?」
大ちゃんが黙り込んだ私に声をかけてくる。

「んっ?ああ、さっ帰ろうか。」
私は笑って答える。

「…」
大ちゃんはそんな私を黙って抱きしめてきた。


No.50 18/06/10 09:50
自由人 

この子、やっぱりよくわからないな…
何か抱えてる感じはするんだけど…

あいつは繊細で天邪鬼…
と言ったユータンの言葉を思い出す。
天邪鬼。
心で思っていることと逆の事を言ってしまう人…だったっけ?
そうなの?
大ちゃんの本音はどこにあるのかな?

大ちゃんに抱きしめられながら、私はまだ見えてこない大ちゃんの心の内をそっと思った。

「ミューズ…何で簡単に人を信じることができるのかな?」
私を抱きしめながら大ちゃんがポツリという。

「え?わかんないよ。それに信じられないより信じる方が幸せじゃない?」

「ミューズは幸せに育ってそうだね。」

「あ~そだね~。甘やかされ気味で何も出来ない子だったから大人になって苦労してるけどね 笑」

「そか…」
大ちゃんは小さく呟くと、
「俺は早くお金を貯めて家を出たい…
あの家にはいたくない…」
と語気を強めた。

「えっ?」
聞き返す私に大ちゃんはかいつまんで自分の事情を話してくれた。

幼い頃の父親からの暴力。
一人っ子の自分に過干渉するくせに父親の暴力には見て見ぬふりの母親。

「今も…暴力…あるの?」

「ううん。
中2の時に、殴りかかってきたのを逆にやり返してからもう手を出そうとしてこない。」

「そっか…」
良かったねと言うべきかどうか悩んだ。

「父親は暴力以外は特に何もない。
だから母親よりは全然いい。」.

「お母さんと仲よくなれないの?」

「仲良く?」
わたしの言葉に大ちゃんは鼻で笑った。

そうして、
「もし父親が寝たきりになったら多少は面倒みるかもしれない。
でも母親は知らない。
どこでどうなろうと関係ない。」
とゾッとするほど落ち着いた声で淡々と呟いた。

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