イ ジ メ

イジメられていた私

いつもビクビクして、いつも胸がバクバクして、いつも自信がなくて、いつも一人で小さくなって過ごしていた

でもお陰で勉強しかすることがなくて、私は夢だった小学校の教師になることが出来た


私が教師になったのは私と同じようにイジメで悩んでいる子を救うためで

そうすることで子供の頃の私が救われると思った

そうすることで友里さんに勝てると思った


でもそれは間違っていた

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今から８年目

私は新任の教師として田舎の小学校に勤めることになった

やっと私の使命を果たせることが嬉しくて、先生と呼ばれ、生徒達に親しまれることが楽しみだったんだ


そこは１学年１クラスしかない、自然に囲まれた何処か懐かしさを感じるような小学校で

それもあって若かった私は良いイメージばかりを膨らませて、期待が大きすぎたのかもしれない


田舎なこと、１学年１クラスなことがどう言うことなのかを私は知らなくて

期待が大きかっただけに、その後の落胆も大きかった

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私は新米教師でありながら４年生の担任をすることになって

ガチガチに緊張して震える手で「野村桂花(けいか)」と黒板に書き、なんとか自己紹介をしたことは覚えている


でも最初の数日間は緊張と覚えることが多かったせいか、当時のことがあまり記憶に残っていないし

あれほど頭にこびりついていた、私をイジメていた友里さんを思い出す余裕すら無かったと思う


ようやく生徒の名前と顔が一致するようになって、私が「桂花先生」と呼ばれることに慣れて来た頃

私はクラスの女子生徒の間にある不穏な空気に気が付いた

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ある日の道徳の授業でのこと

その日は教科書を読みながら「人の気持ちを考えること」について勉強をしていて

それは大人の私にも改めて考えさせられることで、生徒達にも分かりやすい内容だった


「人の気持ちを考えること」さえ出来れば、この世からイジメは無くなる

そう思ったから私はいつもより熱弁していていたかもしれない


私は教科書を進める度に生徒達に

「今のところを読んで、どう思いますか？」

と訪ね、生徒達が自分の考えを発表することで、それについて他の生徒達も考えるようになればいいと思っていた


でも子供の思考は私の思惑を外れてしまう

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「友達の気持ちを考えることが大事だと思います」

「自分の意見だけじゃなく皆の意見を聞こうと思いました」

と、生徒達の発表を聞いていると、この授業での手応えのようなものを私は感じていた


私は授業の終盤で

「この授業で分からなかったことはありますか？」

と、伝えきれていないことがないように生徒達に発表をさせることにした


これで全員が理解すれば私の生徒達は人の気持ちを考える優しい子になるはずだ

友里さんのような子供は居なくなるだろうと

私のように傷付く子供は居なくなるだろうと


そんな甘い考えだったから私は言葉を用意していなかった

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これで最後にしようと元気よく手を上げている女子生徒に発表をさせると

「犯罪者の気持ちも考えなきゃ駄目なんですか？」

そう女子生徒が発言したことで、何故か他の生徒達はニヤニヤと顔を見合わせてザワついていた


私は意味のある授業に気分が良くなっていただけに、この女子生徒の発言に不意打ちを食らったような気分だ

犯罪者？どうして？意味が分からない、この言葉の意味を考えることが出来ない


とりあえず

「どんなことをしたとしても人間には心がありますよ、身近な人やお父さんやお母さんの気持ちを考えてみるのも良いことですよ」

と、それっぽいことを話して、この授業を終わらせた


犯罪者の気持ちも考えなきゃ駄目なんですか？

これが不穏の始まりだったのかもしれない

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