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雨が降っていた2

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パンダっ子( FWvYnb )
24/01/07 06:19(更新日時)

以前「雨が降っていた」を投稿していた者です。


こちらの都合で中途半端になってしまっていました。読んでくださっていた方がいたらごめんなさい。

新たにこちらで続きを書きます。
どうか引き続きよろしくお願い致します。

23/12/14 17:30 追記
感想スレあります ご意見頂けたら嬉しいです

No.2519090 17/08/21 00:20(スレ作成日時)

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No.51 19/08/18 01:29
パンダっ子 ( FWvYnb )

私は家族に反対されても友香との関係を続けて行きたいと思う反面、家族と気まずくなるのは避けたいという想いが日に日に強くなっていた。

私を理解して欲しいなんて、そんなのは欲張りだと充分に知っていた。だからこそ、必要以上に良い子を演じているのだ。多分。

いつまでも黙っていようか、仕事が一番大事だってフリをして、仕事しているうちに婚期も逃しちゃってましたーって15年後に笑って言ってしまおうか。

うん、それも悪くはないと思う。だけどあと5年もしたら母あたりが要らない世話を焼いてきて、顔を合わせる度に近所の誰が結婚しただの、子供産んだだの、お見合いしろだのと言い出すに決まっている。

だったらいっそのこと、近いうちに家族に全てを打ち明けて、信じられないくらいの修羅場を経て、変にスッキリして友香だけになって、本当に友香だけになって、生きて行くのはどうだろうか。

もしかしたら私の家族は意外に物分かりが良くて、友香の事もすんなりと受け入れてくれて、今まで通りに家族仲良く過ごしていける。なんてのはあまりに都合のいい話なのだろうな。

私はいつからか、家族になるべくダメージを与えずに打ち明ける方法を考え始めていた。

修羅場なんて、考えたくもない。

No.52 19/08/25 02:46
パンダっ子 ( FWvYnb )

私は考えに考えて、兄に間に入ってもらうのはどうかと思い付いた。兄には迷惑かもしれないけど、断られるかもしれないけど、話だけでも聞いて欲しい。

その前に、友香に私の決意を聞いて欲しいと思った。
そもそも、友香は純さん以外の家族には自分の事を打ち明けているのだろうか。

「私は言って無いわよ。言うつもりもないしね。もし両親にバレたらその時はあっさり認めるつもりよ。」
友香の返事は冷めていた。

「もしかしたら父が政略結婚的なお見合い相手を押し付けて来るかもしれないけど、それは断ってしまえばいいの。母は多分私が結婚しようがしまいが、気にしないと思うし。自分の仕事の邪魔をされなければ、どうでもいいのよ。」
いつものことだが、友香は両親の話をする時とても冷徹になる。好きとか嫌いとか、そんなのはもはや存在せず、そこには他人を客観的に見ているかのような、うすら寒い関係が出来上がってしまっていた。

私にとっての一大決心が、友香には些細な事だったのだ。私達に違いがあるとすれば、家族との距離が一番の相違点だった。

No.53 19/09/14 07:48
パンダっ子 ( FWvYnb )

「琴乃は家族を大切にしているのよね。私と違って。大事だから傷付けたくない。だから悩むのよね。」
友香は私を背後から抱きしめて、優しく髪を撫でてくれる。

友香の白く艶やかな腕が私の視界の下半分を隠した。こうしていると友香にすっぽりと包まれている気分になる。
家族に私の話を聞いてもらうとなると、必然的に友香も巻き込んでしまう。私のパートナーが気にならない筈がないからだ。もしかしたら友香のせいで私がレズビアンになったと思うかもしれない。

「やっぱり言わない方がいいのかな。」
ため息まじりに言うと、友香はさらにギュッと抱きしめてくれた。何も言わないでそうしてくれる事が、今の私には何よりも嬉しかった。慎重になるのも思い切るのも、私が思う通りにしていいんだと背中を押してくれているみたいだった。

No.54 19/11/10 02:27
パンダっ子 ( FWvYnb )

「あ、お兄ちゃん。久しぶり。ちょっと話があって電話したんだけど、今大丈夫?」

私は悩んで悩んで、結局兄に話すことを決めた。
「おう、久しぶりだな。お前から電話なんて珍しいじゃねーか。」
相変わらず兄の声は明るい。私はLineよりも直接電話して良かったと思った。私まで元気が出そうな気がした。

「そうだね、あのねお兄ちゃん、私今度東京に行くんだけど、その時に会えないかなぁ、今付き合ってる人のことで聞いて欲しい話があるんだ。」

「ん?俺はお前の都合に合わせられるよ。お前はいつこっちに来るんだ?」

私達は会う時間と場所を決めて、詳しい話は会った時にと言って電話を終えた。短くあっさりした電話だった。

スマホを置くと、思わず深く息をついていた。意識していなかったつもりでも緊張していたみたいだ。顔を上げると何か言いたげにしている友香と目が合った。

「どうしたの?友香。」

「うん、随分緊張しているみたいだったから、大丈夫かなって。」

私は友香に近づいて唇にキスをした。
「大丈夫。心配してくれてありがとう。優しいのね。」


No.55 19/11/17 01:23
パンダっ子 ( FWvYnb )

友香の大きな瞳が恥ずかしそうに伏せられた。友香は私がストレートに感謝の気持ちや愛の言葉を伝えると、未だにこんな風に分かりやすく照れる。そこがたまらなく可愛いのだけれど。

私は友香の頬に手をやり、少し強引に私に視線を向けさせた。私達は何も言わずに長いあいだ見つめ合っていた。私はいつまでもこうしていたいと思った。
いつまでも、ただこうして彼女の美しい顔を見ていたかった。

「琴乃は・・・琴乃はどうして家族に私達のこと、言いたいと思ったの?」

しばらく見つめ合ったあと、友香が言った。私は友香の頬から手を離し、今度は私の方が目を伏せた。

「私・・・友香が羨ましくなったのかもしれない。」
ゆっくり顔を上げて、私は友香の目を見つめた。

「純さんがいてくれていいなぁって、自分の同性愛を理解してくれている家族がいて、いいなぁって思ったの。」

No.56 19/11/24 00:26
パンダっ子 ( FWvYnb )

「もちろん、私の家族が純さんみたいに理解があるとは思えない。それは、私の家族だから、私が一番良く分かってる。だけど、知ってて欲しい。私が、男の人を愛せないって、私の好きになる人は女の人しかいないって、両親には辛い事実だろうけど・・・。」

声が大きくなっていくのが自分でも分かって、喋るのをやめた。ムキになってはいけない。大事なことだから、尚更に冷静でいなくてはならない。

相手が友香なのにこれでは、先が思いやられる。

友香は小さく何度もうなづいて聞いていた。

「琴乃が決めた事だから、何があっても応援する。私は、私だけはあなたの味方だから。」

友香の言葉はいつも暖かい。私の胸を感動でいっぱいにしてくれる。私は肩の力がゆっくりほどけていくのを感じていた。

No.57 20/01/11 23:44
パンダっ子 ( FWvYnb )

東京に来るのは好きだ。遊ぶなら、ショッピングなら。だけど住むのは・・・できるなら遠慮したい。

兄のアパートで会う約束の時間までにはまだまだ時間があった。

私は以前から楽しみにしていた絵画展を見に美術館に来た。フランツ・ヴィンターハルター展。私はこの画家の描く肖像画が大好きだ。いつか実物を見たいと切望していたのが、東京の美術館に来ると知って驚喜した。

なかでも特に見たかった、憧れの絵も今回は来ている。オーストリア皇妃エリザベートの肖像画。

この絵を初めて見た時、こんなに美しい人がいるのか、いてもいいのか、と思った。それからエリザベートの伝記を読み、ヴィンターハルターの画集を買い、エリザベートの映画も観た。

美しい皇妃に一時私は夢中になっていた。

懐かしい初恋の人に会ったような気がして、私はその絵の前に立った。憧れの人にやっと逢えた、とも思った。人気のある画家だけに、なかなか混雑していたがこの絵の前は特に人だかりが出来ていた。

No.58 20/01/12 00:44
パンダっ子 ( FWvYnb )

ずっと見たかった絵画を見られて、私は感激していた。王侯貴族の肖像画は美化して描くのが通説だそうだが(ルーベンスさえやっている)、エリザベートはその必要が全く無い人だった。それは沢山の写真が証明している。

美しいものが好きだ。美しくなりたい。美しいものを、人を手に入れたい。美しいと言われたい。美しいものにしか触れたくない。美しい事は、何にも勝る。

エリザベートの美への執着は凄まじかったと伝記に書いてあった。歯並びを気にしていて、口を開けて笑う事もなかったようだ。

No.59 20/01/13 11:04
パンダっ子 ( FWvYnb )

この場所には一人で来て正解だと思った。誰かと一緒だと思う存分絵を鑑賞できなかったかもしれない。この絵に対する私の執着みたいなものを誰にも知られたくなかった。友香にさえ。

美術館を出た後も興奮がなかなか醒めず、顔が火照っていた。それを抑える為にしばらく歩き回っていると、気づけば兄との約束の時間が迫っていた。

夏に会って以来の兄は妙に懐かしく感じた。兄のアパートに来るのは初めてではなかったが、頻繁に来ていた訳でもなかったのでどことなく落ち着かない。しかも今回は理由が理由だけに、私は目に見えてそわそわしていた。

そんな私を見て兄は笑った。
「何だよーお前、東京の人の多さにテンパったか?」

兄には天性のものと言ってもいい程の人懐こさがあって、人の懐にすんなり入れるという特技があった。しかもそれをやろうと思ってやっている訳でもないので、わざとらしい所もない。兄はいつも男女問わず沢山の人に囲まれていて、人が二度見するくらいのイケメンでもないくせに、兄を好きだという女の子は大勢いた。私の友達も兄を「かっこいい」と評価していた。

私はそんな兄を半分誇りに、だけど半分は羨ましく思っていた。兄妹なのに何故こんなに性格が違うのかと、拗ねた事もあった。だけど私のそんな感情さえ跳ね返してしまう位に、兄の人たらしの力は強かった。それは正に神様からのギフトだった。要するに、私は兄が大好きなのだ。

No.60 20/01/27 01:34
パンダっ子 ( FWvYnb )

「お前、彼氏できたんだな。それで俺に相談って何だよ。わざわざ会って話したいって事は、それなりに大事な話なんだろ?」

何気ない会話の後に、兄は私に聞いた。
私は兄の顔を見て、大きくひとつ息を吐いた。
「お兄ちゃんの言う通り、私、今付き合ってる人がいる。でも、その人は彼氏じゃ無くて、彼女なんだ。私の好きな人は、女の人なの。」

兄の目がまん丸に見開いた。
「あ?!マジで?!マジか?!あーそうなの?!お前ってそういう・・・あれか?そっちしか受け付けない的な?」
訳の分からない日本語になっている。だけど兄の言いたいことはわかった。

「そうだよ。私は男を好きになれない。多分一生。」

私は務めて冷静でいた。こんな話をされた兄が取り乱しているのも想定内の反応だった。

兄は私を見て、しばらくあーとかうーとかそうかとか独り言を繰り返した。

「びっくりした?」
「そりゃそうだろ。」
しばらくそうしていた兄に聞くと、食い気味に返事が返ってきた。そして一気に話し始めた。

「いや、俺もな、お前はなんつーか、男にモテないわけじゃないのに彼氏とか出来ねーからさ、ちらっとそうなんじゃないかなって思った事もあったんだ。だけ
どただ単に大学入るまでは遊ばないって決めてただけかもしれないし、そんなこと聞いて気まずくなるのも嫌だし、何よりもしそうなら家族にバレるのって本人どんだけキツいんだよって思ったら何も聞けなかったよ。」

兄はそう言って私を見た。

No.61 20/02/01 01:14
パンダっ子 ( FWvYnb )

「お兄ちゃん・・・気付いてたの?」
兄が私を同性愛者かもしれないと思っていたなんて、微塵も考えていなかった。兄に無駄に気を使わせていたと知って申し訳なく思ったし、またものすごく恥ずかしいと思った。

「琴乃、俺はさっき思わず取り乱してしまったけど、そういう恋愛もあるんだって事は理解しているつもりだ。だから自分を恥じたりしなくていい。今お前は俺が気付いてたのを知ってすごく恥ずかしいと思ってるんだろ?だけどそんな風に思わなくていいんだ。」

私は兄の言葉を俯いて聞いていた。顔を上げて兄の目を見たら、私はきっと泣いてしまう。

No.62 20/02/01 19:50
パンダっ子 ( FWvYnb )

「琴乃がどんな恋愛をしようと関係ない。俺は兄として応援しようって決めてたのに、いざとなるとやっぱ慌てるわ。ダメだなー、俺も。」

私は兄の気持ちが嬉しかった。気付いていたなら、兄だって心穏やかではいられない筈なのに、私の心配をしてくれている。

「なぁ、聞いてもいいか?お前のその・・・彼女のこと。」
兄の問いに私は一瞬迷ったが、黙ってうなづいた。打ち明けたのならいずれ聞かれるだろうと思っていたし、友香にも許可は取っていた。

私はスマホに入っていた写真を兄に見せた。一番最近撮ったもので、麻耶も一緒に写っている。私は用心の為に友香とのツーショットは撮らないようにしていた。

「・・・どっち?」
「真ん中の・・・子。」
「・・・・・超可愛いな。」
「うん・・・超可愛い。」
「この子性格悪い?」
「ううん。いい子。」
「わがまま?」
「ううん。気遣いとか普通にする子。」
「気が多い?」
「それは・・・多分無い。」
「頭悪い?」
「ちょっと、止めてよ。失礼な質問ばっかりするの。怒るよ。」
「だってよー、ずりぃよ。そんな完璧な女がいる訳ないじゃん。俺が付き合いてえよ。」

兄は本当に口惜しそうだった。でも顔は笑っていて、私もつられて笑った。

No.63 20/02/02 00:20
パンダっ子 ( FWvYnb )

「この顔・・・楽しそうだな、三人とも。すげぇ可愛くて、見てるこっちも楽しくなる。」

兄は笑いながらスマホを返してよこした。
「本気なんだな、お前。」
「うん。だから、お兄ちゃんに言ったの。私ね、お兄ちゃん、私、自分が恋とか愛とか、そういうの一生無理かなって思い始めてたの。人を好きになったって、辛い思いをするだけだから。だけど友香に出会って、好きになって、この人になら告白して、そして振られたって構わないと思ったの。」

「そうか。お前の勇気が報われて良かったよ。彼女、友香さんっていうんだな。」
「うん。ちなみにもう一人の子は麻耶っていうの。私達を応援してくれてる。」
「そういう子が近くにいてくれるなら、俺も安心できるな。お前はいい友達もいるんだな。」

兄に言われて、私は改めて自分の置かれた状況と、それがいかに恵まれた境遇かを知った。
私は今すぐ友香と麻耶に会って、二人を思い切り抱きしめたいと思った。

No.64 20/02/06 23:54
パンダっ子 ( FWvYnb )

兄の笑い顔がすーっと真顔に戻った。

「琴乃、分かってると思うけどこの話、誰かに言う時は慎重になった方がいいぞ。」

「分かってる。私達の関係を知ってるのはお兄ちゃんで二人目だよ。さっきの写真の麻耶って子にしか言ってない。私達は二人のこと、秘密にするって決めたんだ。世の中は異性愛が優勢っていうか、それが基本だし、興味本位でいじられたり、叩かれたり、同情されたり、噂されたり、そういうの考えただけで吐き気がする。」

「そうだよな。お前達の場合は理解者よりも圧倒的に敵の数の方が多いからな。面倒なのはそいつらの言い分の方が正論に聞こえてしまう事なんだ。同性愛じゃ子供が産まれないから不毛だとか非生産的だ、とかいう意見な。」

兄は一体誰からそんな意見を聴いたのだろう。少なくとも、兄が過去に誰かとこんな話をした事があるのは確かなようだった。

No.65 20/02/09 18:00
パンダっ子 ( FWvYnb )

「お兄ちゃん、それを承知でこんな事言うのもなんだけど、お父さん達に言ったらダメかな?ってか私は言いたいんだ。何だかお父さん達を騙してるみたいで心苦しいんだ。」
兄の理解しているという言葉を信じて言ってはみたが、兄の返事はやはり厳しかった。

「うーん・・・それは止めといた方がいいかもな。お前の心苦しいって気持ちもわからないではないけど、もし、もしもだぞ、親父かお袋が怒って学費と生活費仕送りやめるって言って来たらどうすんだよ。」

「っそれは・・・困る。・・・。」
そんなの考えもしなかった。やはり私は甘かったのかと少しショックだった。
あんなに優しい両親が私にそんな仕打ちをするとは思えなかったのだ。

「お父さん達がそんな事する訳ないよ。自分の娘が同性愛者だからって、そこまでする必要ないし。そこまで分からず屋じゃないと思う。」
「いや、だから、もしもの話だって。俺だって自分の親がそこまで頭固いとは思わないよ。ただ、そうなってからじゃ遅いだろ?予防線は張っておいて損はねーよ。」
「じゃあ、私はずっとお父さん達に秘密にしておいた方がいいって事?」
「ずっとじゃない。お前が一人でも生きていけるようになって、もし親に縁を切られても大丈夫ってなってからでもいいじゃないか。」
「縁を切るって・・・そんな・・・。」

親と縁を切る。口に出してみても実感どころか想像もできなかった。両親は私を肯定こそすれ、否定するなんてあり得ないと信じていたかった。

No.66 20/02/09 22:58
パンダっ子 ( FWvYnb )

「お父さん達、怒るよね。お母さんなんて泣いちゃうかもしれないね。」
「ああ、そうだろうな。自分達の育て方が悪かったなんて思わなきゃいいけど、思っちゃうだろうな。」

私も兄も、自分の指先ばかりを見て話を続けた。親を悲しませたい子供などいる筈はない。

私は友香と初めて肌を合わせた時の事を思い出していた。あの時私は確かに、友香と一緒にいられたら親に勘当されたって構わないと思っていた。
友香と居られるのが日常になった今、今度はやはり親とはいい関係でいたいと思っている。

私は多くを望みすぎだろうか?

No.67 20/02/22 17:05
パンダっ子 ( FWvYnb )

「分かった。私、今はまだ言わないでおく。」
私がきっぱり言い切ると、兄は少しだけ安堵したような顔をした。


帰りぎわ、感謝と謝罪を口にした私に兄は『もういいから。何かあったらいつでも相談乗るからな。』と言ってくれた。

やっぱり兄に打ち明けて良かった。私一人で突っ走ってしまったらどんな事態に陥ってしまうかわかったものではない。兄が『味方だ』と言ってくれた時の、感動とも安堵とも取れる気持ちは一生忘れられないと思った。




No.68 20/02/22 17:53
パンダっ子 ( FWvYnb )

家に帰ると友香は日課のストレッチの最中だった。
「ただいま」
と言った私に
「お帰り」
と半ば素っ気ない返事をしたが、それは多少のわざとらしさが感じられた。本当は気になって仕方なくて、気を紛らわせる為に身体を動かしてしたのだろう。いつもより明らかに汗の量が多い。

私は背後から友香に抱き付いた。友香が驚いたように身をよじる。
「えっ!なに?」
「いいからこのままでいて。」
私は友香の首筋に唇を押し当てた。

「ねぇ本当にやめて、汗かいてるし、恥ずかしいよ・・・」
友香の恥じらいが私の欲情を刺激する。
「友香わざとやってる?そんな風にしたら尚更離せなくなるんだよ?」
私は唇を首筋から肩に滑らせていった。
友香が諦めたのか、ふっと力が抜けていった。首を倒して私を見る。目が合って、私は友香に激しいキスをした。

No.69 20/02/23 19:38
パンダっ子 ( FWvYnb )

唇を離すと今度は友香の方からキスをしてくる。離すとまた私から。そんな甘いキスを何度も何度も繰り返す。友香の吐息が掛からない距離から離れたくなかった。彼女の汗も、息さえも私の中に取り込めたらいいと思った。

「あなたが欲しいの。今すぐ。」
私は哀願するように友香に訴えた。友香の口角が微かに持ち上がって、声に出さずに(いいよ)と言った。

友香の手を引いてベッドに向かう間、私は自分でも自身に起きた激情に戸惑っていた。こんなのは自分らしくない。

それでも私はこの感情に身を任せる喜びも感じていた。剥ぎ取るように服を脱いで下着だけになって、もどかしく抱き締め合っている間も、私はずっと嬉しかった。まるで自分の体温とぴったり同じ温度の水に浮かんで、どこまでも流されていく様な、そんな心地良さを感じていた。

No.70 20/02/23 23:11
パンダっ子 ( FWvYnb )

抱き合った友香の身体を優しくベッドに横たえる。友香はブラを外そうとした私の手を掴んで
「本当に汗かいてるし、せめてシャワー使わせて。」
と言った。

「ダメ。終わったら一緒に入ろう。」
私は言いながら友香の手を振りほどいて、素早くブラを外した。
尚も何かを言い掛ける友香の唇をキスで塞いで、あらわになった乳首をつまんだ。優しく指先で転がす。

友香は低く呻いて、舌を絡ませてきた。友香の欲情にも火が付いたのを確認すると、私は自分の身に付けていた下着を全部脱いだ。再び友香に覆い被さると、友香が下から手を伸ばして私の胸を掴んだ。

友香の脇腹をなぞり、ショーツを着けたままの陰部に触れた。敏感な部分を触れるか触れないかの微妙な弱さでつつく。友香が吐息を漏らして腰をよじった。起きがけのようなとろんとした目をして、私に微笑みかける。

今度は少しだけ強めに、割れ目をなぞる。何度か続けていると、ショーツが湿り気を帯びてきた。
友香が私の胸を更に強く掴んだ。堪らなくなったように、乳首にむしゃぶりついてくる。吸いながら舌で乳首を転がされ、私はその快感に思わずのけぞった。

No.71 20/03/01 01:03
パンダっ子 ( FWvYnb )

友香の手が私の内腿に触れる。私は友香の手を掴んでそれ以上愛撫されるのを遮った。これ以上続けられたら一気に意識を持って行かれる。友香の愛撫はそれくらいにヤバかった。今はどうしても私が攻めでいたかった。

掴んだ手を口元に持っていき、指を口に含んだ。小指から順に舌で包むように丁寧に舐めていった。全ての指を私の唾液で濡らしてしまうと、手首から腕へ、更に脇へと唇を移動させていき、胸に辿り着く。乳房をきつく吸って友香の白い肌に私の痕跡を残した。

乳首に軽く歯を当てて舌先で転がしていく。片手で友香のショーツを脱がせた。あらわになったその部分に指を当て、円を描くように指を動かしていく。先程の愛撫で友香のそこはじっとりと濡れていて、とろとろに柔らかくて、私の指はずぶずぶとどこまでも沈んでいきそうだった。

友香の声が大きくなっていく。
既に私の身体から手を離し、私の愛撫に身を任せている友香を私は心から愛おしく思えた。

キスする位置を下に移していき、臍あたりまで来た時、友香が私の意図を察して急に身体を起こした。
「口ではしないで。本当に嫌なの。」


No.72 20/03/06 01:46
パンダっ子 ( FWvYnb )

友香が汗まみれだろうが別に構わなかったけれど、本気で嫌がっている友香に無理強いをさせるのは流石に躊躇われた。もし立場が逆だったとしたら私だって嫌がる。

私は「いいよ」と短く言って、まだ不安そうな友香の髪を何度も優しく撫でた。
「無理にお願いしちゃってごめんね。」
続けたい気持ちは我慢して、なだめるようにひたすらキスを繰り返した。

「ううん。まだ身体洗ってないから、臭いとかどうしても気になるし、それで琴乃に嫌われたら・・・」
そんなことで嫌いになる筈もないのに、友香はかわいい事を言う。

私は一旦引いた欲情が再び急速に湧き上がるのを感じた。どうしても・・・したい。
「友香、お願い。友香の全てが今欲しい。臭いとかそんなの、全然大丈夫だから・・・するよ。」

友香の返事も聞かず、閉じた内腿を手で押し広げる。トロトロになったそこに唇をつけた。正直、洗う前のそこを舐めるのは初めての経験だし、少しの躊躇はあったけれど、好きな人のものなら体臭だって体液だって本当に平気だと思った。

友香が声を抑えている。嫌がった手前、感じているのを知られなくないのだろう。そんな所もまた、私にとっては可愛さにしか映らない。

No.73 20/03/21 03:25
パンダっ子 ( FWvYnb )

私は夢中で友香のそこを舐め続けた。いつもより少し汗の様な味がしたけど、そんな事は少しも気にならなかった。それよりも私の愛撫に身を任せて、こんなに愛液を滴らせている友香が愛しくてならなかった。私はどんな友香も受け入れるから、ただ好きなだけ感じて欲しいと思った。

「あ・・もう・・いきそ・う」
友香の切れ切れの声がして、程なくして身体がびくんと跳ねた。

友香が達して、私はティッシュで友香のそこを丁寧に拭いた。ついでに自分の唇も。友香の愛液に浸されてぷよぷよになっている唇を、私はそっと指でなぞった。

「友・・香?・・・怒った?」
半ば無理矢理してしまったくせに、今頃になって友香の反応が気に掛かった。怒らせてしまったのならちゃんと謝ろう。今のはどう考えても私が悪い。

No.74 20/03/22 03:58
パンダっ子 ( FWvYnb )

「お兄さんと何かあったの?」
私の問いには答えず、友香は逆に聞き返してきた。
「・・・別に何もないよ。」
「嘘、だったら何でこんな・・こんな無理矢理みたいな事・・・」
「ごめんね。でも今日お兄ちゃんに会った事とこれは関係ないよ。誤解させたら本当にごめん。なんか、どうしても友香が欲しくなってしまって。」

私は友香を抱き寄せた。友香は怒ってはいないように見えたけれども笑顔を見せてはくれなかった。ただ心配そうな瞳で私を見ていた。


No.75 20/03/24 00:37
パンダっ子 ( FWvYnb )

「・・・やっぱりおかしいよ。どうしても欲しくなったからって、私が嫌がってるのにした事なんてないじゃない。」
「そうだったかな?」

友香に言われて自分でもそうなのかな?と思い始めた。今日兄に会って話をして、色々気付かされたり少しだけ傷付いたり、安心したりほっとしたり今日一日だけで色んな感情が吹き出てしまって、それでどうしようもなく友香を求めてしまったのだろうか?

私は友香にその考えを言ってみた。ついでに兄に両親に言うのは時期をみた方がいいと言われた事と、兄は理解を示してくれて私に恋人ができて喜んでくれた事も話した。

友香は何も言わなかった。話す私に寄り添って、時々労わるように私の髪を撫でていた。

「友香の言う通りかもしれない。私、親に絶縁されるなんて考えてもいなくて、お兄ちゃんに言われてその可能性もあるんだって思ったら怖くて、友香にすがってしまったのかもしれない。」
私は友香に引かれる覚悟で言った。この話には友香を巻き込みたくなかったのに、結局友香にしわ寄せが行っている。私は自分の弱さを悔やんだ。

No.76 20/04/07 02:00
パンダっ子 ( FWvYnb )

「分からないわ、私には。」
友香が唐突に言った。
「私には親との絶縁がショックだなんて感情は全くわからないから、琴乃の気持ちは分かってあげられない。ごめんね。」

いつも見ている友香の横顔が、突然知らない人のように感じた。ごめんと言いながら、そこにそんな感情は無いような言い方に違和感すら覚えた。
「謝らなくてもいいわ。私の問題だもの。私こそごめん。もうしないわ。」

私も友香を突き放すような言い方になっていた。巻き込んでおきながら『私の問題』なんて、なんて意地悪な言い方だろうと口に出した瞬間に後悔した。

「シャワー、先に浴びてくる。」
一人になって冷静になろうと、ベッドを出ようとした私を友香は引き止めた。

「待ってよ。今話をやめたら気まずくなってしまうから、きちんと話そう?私の言い方が良くなかったと思うけど、琴乃は前に家族か私かを選ぶなら私を取ると言わなかった?その気持ちが揺らいで来たんじゃないの?」

「そんな事ないよ。私はいつでも貴女が一番大事よ。そこに迷いは無いわ。ただ、今まで当たり前のように享受してきた両親の愛情が変わってしまうのが怖くなっただけ。」

そうだ。私は怖いのだ。

No.77 20/04/11 16:25
パンダっ子 ( FWvYnb )

「琴乃、本当に私を選んでくれるの?もしご両親が本当に縁を切ると言い出したら、それでも私を選ぶ?真剣に考えてみて。」

友香は友香で、私とは違う想いを抱いていたみたいだ。家族への告白を機に、私が友香から離れてしまうのを心配していたのだ。家族と仲が良い私が、友香には理解出来ない感情を持つ私が、友香を捨ててしまうんじゃないかと。

「何を心配してるの?さっきも言ったけど私は家族よりも何よりも、貴女が一番大切なの。そこだけは揺るがないから。」

私は友香の手を握って言った。正直に言ってしまえば、友香への私の愛をそんな風に疑っていたのかと少しがっかりしたのだけれど、それも私への想いゆえだと思って黙って受け止めた。

No.78 20/04/19 23:09
パンダっ子 ( FWvYnb )

「ごめん。琴乃の味方だとか言っておいて自分の事ばかり言って。だけど、琴乃は家族を大切にしてるから私、不安になっていたの。もしかしたら家族に何か言われて、私と別れるって言うかもしれないと思ってしまったりして。」

「・・・馬鹿ね。もっと私を信じてよ。私は本気で貴女を愛してるのよ。」
私は友香を抱き寄せた。私達はまだ裸のままだったから、友香の身体は汗が冷えて冷たくなっていた。私は友香とベッドに横たわった。

No.79 20/04/28 23:20
パンダっ子 ( FWvYnb )

>> 78 「聞いて。友香。私が怖いと思うのは親と仲が悪くなることだけじゃないの。私は、前にも言ったと思うけど、私の前に貴女しか居なくなってしまうのが怖いの。貴女しか居なくなって、そして貴女さえ居なくなってしまったら、私はどうなってしまうのかを考えたら怖くて怖くて堪らない。」

「そんなの、私だってそうだよ。」

友香の大きな目から涙が溢れた。そして泣きながら喋り続けた。
「私なんて、もう既に貴女しかいないのよ。私は一人で生きて行かなきゃいけないって覚悟してたのに、貴女が現れて、側にいてくれて、もう貴女無しじゃ生きて行けない。」

横たわったまま泣く友香の涙が、文字通り枕を濡らした。

No.80 20/04/29 23:29
パンダっ子 ( FWvYnb )

私はまだ温まらない友香の身体を抱いて、丁寧に背中をさすった。

「泣かないで。私、分かったわ。もう貴女だけでいい。私も、貴女だけになる。家族なんてどうでもいい。」

私は友香と一緒に暮らした時から覚悟しておくべきだった。一度側にいてしまえば、離れる事は難しい。はっきり言ってしまえば、離れる時は別れる時だ。私達は就職してからも一緒に暮らしたいと思っていた。就活もそれを前提にするつもりだった。

友香は既に、友香には私しかいないと言った。望む物を全て持っているかのような友香が、一人で生きて行く覚悟を決めていたのは意外だった。

No.81 20/05/27 23:45
パンダっ子 ( FWvYnb )

「私が悪かったわ。何でも欲しがっちゃダメよね。貴女さえいてくれたらいいのに。」
私は友香の額にキスして、ギュッと抱きしめた。友香はまだ泣いていた。私の言葉にうなずく事さえなかった。

ひたすら泣き続ける友香を抱きしめて、初めてセックスした時もこんなだったなとぼんやり思い出していた。
あの時も友香は私が離れて行くのが嫌だと泣いていた。永遠など無いと、人の気持ちは変わるものだと泣いていた。

あの時は途方に暮れていただけの私も、今はどうすればいいのか分かっている。大丈夫。私は、私達は、少しづつでも前に進んでいる。友香はきっとこれからも、私と離れるのが怖いと泣くだろう。それは私だってそうなのだから、私は私が言われたら安心する事を言ってあげればいいのだ。

そしてただ側にいて、抱きしめればいいのだ。

No.82 20/05/28 06:44
パンダっ子 ( FWvYnb )

両親に絶縁されるのは仕方ないと諦めても、やはり仕送りを止められるのはどうしても嫌だったので兄に言われた通りに今の時点で打ち明けるのは見送りにした。

多少のもやもやした気持ちは残るけれど、一旦こうだと決めてしまったら案外楽になった。

友香は泣いてしまった自分を恥じているようだった。謝罪する友香に私は別に気にしていないから、友香も気にしなくていいと言った。ただ友香の気持ちはきちんと受け止めるから、不安や不満はいつでも言って欲しいとも言った。

友香の気持ちは良く分かったから、と何度言ったって、友香の不安が無くなる事は恐らく無いだろうから、これからも発作のように友香は泣くのだろう。だけど私はその度に誠実に対応していこうと決めていた。

No.83 20/06/03 00:02
パンダっ子 ( FWvYnb )

私が自分のことばかりで友香に不安を感じさせていたかもしれないと思って、麻耶にその旨を相談してみた。
麻耶なら私と友香のどちらも公平に、客観的な意見を述べてくれると思ったからだ。

「それは友香がネガティブ過ぎるよ。もう少し琴乃の身になって考えてあげないと。」
麻耶の長い脚がすっと組み替えられて、険しい表情の筈なのになんて絵になるのだろうと思った。もちろんそんな場合じゃないのだけど。

「だけどね、私だって友香の気持ちに気づいてあげられなかったんだ。私と家族の関係しか考えられなくなってたから。友香がどんな思いで悩む私を見てたのかを考えると堪らなくなる。」
「友香は二度と振られたくないって想いが強すぎるのよ。別れる理由なんて人それぞれなのにさ。琴乃が優しいから収まってるだけで、やきもちとかってレベルじゃ無いね。」
麻耶は今日はずいぶん友香に厳しいな、と思いながら、私が友香に甘いのは優しいからじゃ無くて好き過ぎるからだと考えていた。

私だって友香と一緒で、友香と別れるなんて絶対に嫌だし、もし友香が浮気したって苦しみながらも別れられないんだろうなと漠然と思っていたりする。

No.84 20/06/03 22:57
パンダっ子 ( FWvYnb )

「ねぇ、正直面倒じゃない?友香の恋愛観とか重く感じない?」
「それは今のところ何の問題もないよ。私は束縛キツめの方がむしろ愛されてる実感が湧くの。変かもしれないけどね。」

麻耶は(へぇ)と口に出さずに言って曖昧にうなずいた。

「麻耶?この話が気に障った?なんかさっきからイライラしてるみたい。」
麻耶は私から視線を外して前髪をかき上げた。再び目が合うと「ごめん」と言って軽く笑った。

「友香がさぁ、進歩がないっていうか、学んでないっていうか、こんなにあんたに想われて、前の奴とは全然違う恋愛をしておいて、一体何が不安なんだろ。あたしは友達だからこそ、そんな友香にむかついてんのかもね。」


No.85 20/06/06 01:41
パンダっ子 ( FWvYnb )

「ごめんなさい。私達のせいで麻耶にまで心配させて。」
友香にイライラしている麻耶を見るのは初めてだった。友香の幸福を願う、誰よりも優しい麻耶は友香が泣くのは耐えられないのだ。

「ううん。私こそごめん。相談された方がイラついてたら駄目だよね。」
麻耶の顔から尖った気配が消えて、私は密かにほっとしていた。

「ともかく、友香のそれは発作みたいなものだから、琴乃は大変だと思うけど大目に見てあげてくれないかな?大事なのはそうなった時、琴乃に非はないって事だから。友香に対して誠実じゃなかったとか、決してそれは無いから。」
麻耶の言い方が真剣で、私も真面目に聴かなければならないのに、私は知らず知らずのうちに口角が上がっていた。麻耶はやっぱり友香の、そして私の保護者みたいだと思った。

No.86 20/06/29 00:08
パンダっ子 ( FWvYnb )

麻耶に相談して気持ちがすっと軽くなって、私は学校から割と上機嫌で帰宅した。

「ただいまぁ〜。はぁ寒かった。」

先に帰宅している筈の友香の返事がなかった。けれども室内は暖かくて、明らかに人がいる気配があった。はっとして足元を見ると、そこには男もののスニーカーがあった。

今まで、この部屋に男の来客は無かった。私は急いで居間に向かった。

「あ、お帰り」
「おう、お帰り」
居間のソファーに座っているのは兄だった。友香と向かい合ってお茶を飲んでいる。

「ちょっと待って、何勝手に来ちゃってんの?っていうか何しに来たのよ。それにもし来るんなら電話くらいして!非常識でしょ。」

「ごめんな、来んなって言われんのヤダから勝手に来ちゃったんだ。どうしても会って言いたかったからな。」
兄は私に謝って、頭を下げた。

「だからって電話くらい出来るでしょ?私一人で住んでるならともかく、彼女にも迷惑よ。」
私はちらっと友香に目をやった。怒ってないといいけど。

「や、まじでごめん。友香さんもすいませんでした。」
兄はもう一度頭を下げた。

「ねぇ琴乃、もういいじゃない。お兄さんだってこうやって丁寧に謝ってるんだし、私はちょっとびっくりしたけど全然平気だし。むしろ貴女の家族に会えて嬉しいのよ。」
友香がやんわりと私をたしなめて、私は少しずつ平常心を取り戻していった。

No.87 20/06/29 01:19
パンダっ子 ( FWvYnb )

「琴乃もお茶飲もうよ。お兄さんがお土産持って来てくださったのよ。」
友香が私の為のお茶を煎れにキッチンへ立って行った。私は友香の後をついていき、隣に立った。

「友香ごめん。まさか兄がいきなり来るなんて・・・」
「いいのよ、本当に気にしないで。私は本当にお兄さんに会えて嬉しいの。」

友香の機嫌がむしろ良く見えて、私は安堵した。まったく、兄はもう少し分別のある人かと思っていたのに。電話もせずにいきなり家を訪問なんて、何を考えているのよ。

私は兄の持ってきたケ-キの箱を開けた。私の好物のフル-ツタルトがツヤツヤに光っている。
ま、これに免じて怒るのだけはやめてあげよう。

「で、ここまで何しに来たの?さっき直接言いたいとか言ってたようだけど?」
冷静に考えて、一人で暮らしていた時すら兄は私を訪ねて来たりしなかった。

やはり友香との関係を打ち明けたから・・・?

「私、外した方が良いですか?」
気を利かせて腰を浮かした友香を、兄が慌てて止めた。
「あ、いやいいんです。むしろ居てくれた方が俺は助かるっていうか、居てください。」

兄は咳払いをひとつして、覚悟を決めたように私をみた。
「琴乃、俺に麻耶さんを紹介してくれ。お前のスマホの写真見て、俺は人生初の一目惚れをしたんだ。」

人生初って言ったって・・・

私はあまりにも唐突な兄の告白に、私の頭は真っ白になった。

兄が麻耶に一目惚れ?

私は思わず友香をみた。友香は大きな瞳を見開いて、やはり私を見ていた。


No.88 20/07/04 05:01
パンダっ子 ( FWvYnb )

いやいや・・・お兄ちゃん何考えてんの?
妹に女の子紹介してとかあり得ないから。

「一目惚れって、お兄ちゃん彼女いなかったっけ?」
「いや、1年くらいいないよ。」
中学から常に彼女を切らした事のない兄が1年もフリ-でいたなんて、少し意外だった。

「就活の為に別れたの?」
「いや、そういう訳じゃないけど。」
兄は何とも言えない顔をして、自慢じゃ
ないからな、と言って話をした。

「俺は自分で言うのも何だけど、女の子から告られることがガキの頃から結構あったんだ。中には良く知らない子もいてさ、でも彼女がいないタイミングで、ちょっとかわいいなと思ったら取り敢えず付き合ってみたりして、やっぱ何か違うわってすぐに別れたり、割と来るもの拒まずで今まで来たんだ。」

ふと見ると友香が真剣な顔で兄の話を聞いている。私も兄の恋愛話を聞くのは初めてだったので真面目に聞いてみようという気になっていた。

No.89 20/07/05 21:10
パンダっ子 ( FWvYnb )

「でさ、たまに彼女がいる時にちょっといいなっていう子がいたりするだろう?でも俺は彼女がいる訳だからその子とは発展しない。その子だって俺に彼女がいるからもし好意があったとしても諦める。そういうのを何度か経験してみると、あれ?ってなる時があるんだよ。」
兄は冷めた紅茶を一口飲んだ。

「つまりお兄ちゃんは今まで女の子の方から告白されて付き合ってきていて、好きになるかもしれないっていう出会いを
逃していたかもしれないと気付いたんだ。」
「そうだ。お前察しが良いな。」
褒められはしたが、何だか馬鹿にされたような気分だ。

「フリーの時にいいなって思ってる人から告白されたりしなかったの?」
「なかったんだな、これが。そもそもフリーの時がそんなに無かったからな。」
兄に悪気が無くても、何かムカついた。

No.90 20/07/23 12:09
パンダっ子 ( FWvYnb )

「どう思う?友香。」
私は友香に水を向けた。

「う-ん・・・なんて言っていいか・・贅沢な悩みですね。」
友香の意見は率直だ。

「でも遅かろうが早かろうが、片想いしてるって気持ちは私も琴乃も理解できるから、紹介する位なら全然構わないと思いますよ。」
麻耶と親友の友香がこう言ってくれるのなら、それでいいと思うけれど・・・。

「今は麻耶もフリーだけど、どうかなあ?私達に紹介されたって簡単に付き合うとかは無い・・と思うよ。」
以前麻耶が言ってくれた恋愛の話を思い出して、おのずと歯切れが悪くなった。今の麻耶が誰かと付き合うなら、自分発進である可能性が高かった。
誰かの紹介で知り合うとか、無いかなと思ってしまう。

かと言って大好きな兄が初めて私を頼ってくれたんだし、初めての片想いをどうにかして成就させてあげたいとも思うのだった。

No.91 20/07/23 17:00
パンダっ子 ( FWvYnb )

「とりあえず、紹介っていう感じじゃなくて知り合いになってみようよ。後はお兄ちゃんの頑張りで何とかしてよね。」
私に出来る精一杯は、今はこれくらいしか無いのが歯痒い。

「それでいいよ。ってか充分だよ。ありがとな。」
兄は正座をして私に頭を下げた。

友香が何か思いついたみたいに『そうだ』と言って私を見た。目がキラキラしている。
「麻耶今から呼ぼうよ。明日ちょうど土曜日だし、一緒にご飯食べよう。お酒飲んでもいいし。お兄さんは予定大丈夫ですか?」

「いや、俺は大丈夫だけど、心の準備が・・・」
兄は明らかに動揺していた。
「何よ、急に怖くなったの?麻耶みたいないい女、明日にでも彼氏できちゃうかもしれないよ。早めに知り合っておかないと、手遅れになっても知らないんだから。」
兄の動揺している姿が可笑しくて、ついからかってしまった。

No.92 20/07/25 14:44
パンダっ子 ( FWvYnb )

麻耶に連絡を入れて快く返事をもらい、急遽夕食会をすることになった。会と言っても4人だけのささやかなものだ。麻耶が私達と食事をしたり、家に泊まったりするのは割と日常的にあるのだが、今度ばかりは少しだけ緊張してしまう。

私はそわそわし始めた兄を連れて、夕食の買い出しに出掛けた。
「何でもいいから麻耶さんの好きな物だけ作ってくれよ。あ、酒も麻耶さんの好みに合わせて買おうぜ。」
兄は甘やかす親みたいなことを言っている。

「お兄ちゃんに言われなくても麻耶はゲストなんだから最初からそのつもりです。何よ、少し落ち着きなさいよ。」
麻耶の好きなタコをカルパッチョにしようと選びながら、私は答えた。
「お兄ちゃん、白ワイン選んでよ。お兄ちゃんの奢りで高いの買ってくれたら、麻耶にポイント稼げるよー?」
兄は『おお、いいな!』と、小走りで行ってしまった。まったく、こんな兄は今まで見たこともなかった。

No.93 20/08/08 10:03
パンダっ子 ( FWvYnb )

他の料理を何にしようかと考えながら、兄は初めての失恋を味わうかもしれないな、なんて思う自分がいた。
麻耶がほぼ完璧な元カレと別れてから、まだそんなに時間が経っていない。あの男を振っておいて、麻耶が次の恋愛にたやすく進むとは思えなかった。

まずは知り合いになって、焦らず時間をかけて親交を深める。兄が麻耶と付き合える可能性があるならば、この方法しかない筈だ。

兄には私と友香、二人の味方がいて、他のライバルの男達よりは遥かに有利だけど、それでも・・・どうなんだろう?

No.94 20/08/17 01:58
パンダっ子 ( FWvYnb )

兄の選んだワインは魚料理に合うらしい、私は名前だけ知っていてまだ飲んでいない銘柄の物だった。
私も友香も麻耶も、まだそんなにお酒に慣れていないし、ここは経験値の高い兄の見せ場だ。せいぜいポイントを稼いでもらおう。

帰り道、私はそれとなくあまり焦らず進めてみてはどうかと進言したが、それは兄の方でも思っていたらしく、素直に肯いていた。
「どっちにしろもう暫くしたら新人研修だからな、恋愛どころじゃないかもしれない。」
そう言って兄は口元を引き締めた。

兄は大手ゼネコンへの就職が決まっていた。街を作る仕事をしたいと以前から言っていたし、都会が好きだとも言っていた。自分のやりたい仕事に就く兄を、私は心から応援したいと思った。

No.95 20/08/18 00:14
パンダっ子 ( FWvYnb )

家に帰ると既に麻耶が来ていて、キッチンで友香を手伝っていた。瓶詰めのブラックオリーブをつまみ食いしているちょうどその時に私達が帰って来たので、慌ててむせ返っている。

「早かったじゃない。麻耶。」
声を掛けつつ、買ってきた品物を冷蔵庫に入れていると、麻耶の肩越しから友香が『お帰り』と笑顔で言った。
私も「ただいま」と笑顔でかえし、少しの間二人で見つめ合っていた。

麻耶が「んっ」と咳払いをしてちらっと視線を送る。視線の先には兄が所在なさげに立っていた。

私は兄を丁寧に麻耶に紹介した。兄も麻耶も初対面から如才のなさを発揮して、友香と私がキッチンに立っている間にかなり話が弾んでいる。

「初めて会ったにしては相性良さそうじゃない?」
友香がリビングの二人を見て小声で言った。私も
「そうね。」
と返事をしたが、まだまだ分からない。今日は徹底して兄のサポートにまわるつもりだった。

No.96 20/08/22 05:10
パンダっ子 ( FWvYnb )

最近伸ばしている麻耶の髪が揺れた。兄の話に声をあげて、肩を揺らして笑っている。

「ずいぶん盛り上がってるね。何の話?」
「ん?ああ、ごめん。うるさかったかな?お兄さんの友達の話が面白すぎてつい声が大きくなっちゃって。」
麻耶は目尻に溜まった涙を指で拭った。そんなに面白い話してたのか、お兄ちゃん本気だな。私はとりあえず兄が麻耶に良い印象を与えた事に、素直に喜んだ。

「盛り上がってるとこ悪いけど、ご飯だよ。お兄ちゃん、ワイン開けてくれる?」
声を掛けて私はテ-ブルについた。麻耶はタコを早速取り分けている。ワインのコルクを抜いている兄の前に最初にその皿を置いた。

兄に好意を持ってくれているのか、それともただ単に私の兄だから気を遣っているのか、まだ分からない。

No.97 20/08/22 10:17
パンダっ子 ( FWvYnb )

食事をしながらの話題はもっぱら兄の就活、からの就職、だった。なんとも真面目な話だが、今私達が一番聞きたい話題だったし、やりたい仕事に就ける兄はなんといっても羨ましかった。

中でも麻耶はとても熱心に質問していた。麻耶はサ-ビス業に就職を希望していて、最近ホテルに狙いを絞ったばかりだから、就職に成功した兄の話は聞いておくべきだと思ったのだろう。

ややのんびりしている私と、何故か就活すらするのかな?って感じの友香とでは、明らかに望む姿勢が違っていた。

No.98 20/08/22 17:40
パンダっ子 ( FWvYnb )

もちろん就活の話ばかりしていた訳はなくて、それ以外の話にも花がさいた。兄がさらりと麻耶の近況など聞いていて、車が好きだという共通の趣味もあって、二人は一気に距離を縮めたようにみえた。

私は下ごしらえしておいた鍋を仕上げる為にキッチンへ戻った。すかさず友香も付いて来る。
「ねっ、私が言った通りでしょ。いい感じじゃない?あの二人。」
「さすが友香。このまま上手く行ってくれればいいんだけどね。」
「大丈夫じゃないかな。貴女のお兄さん、素敵だから。」
私は友香の腕を取って麻耶達の死角に入った。友香が驚いた顔をしている。

「・・・兄に対してでも『素敵』とか言われると妬いちゃうんですけど。」
私は友香の身体を壁に押し当てる形でキスをした。軽くではなく、かなりディ-プなやつだ。

「琴乃はお酒が入ると大胆になるよね。そういうのも好きだけど。」
コンロの前へ戻って、友香が囁くような声で言った。頬が染まっているような気がするのは、お酒のせいか、それともさっきのキスのせいか、私としてはキスのせいであって欲しかった。

No.99 20/08/28 01:22
パンダっ子 ( FWvYnb )

兄を泊めてもいいと思っていたのに、友香と抱き合いたくて(帰って欲しい)と思ってしまう。

もし泊まるってなったら兄にリビングで寝てもらって、私と友香はそれぞれ自室で寝ると思うけど、我慢出来なくなって夜中に忍んで行ったら兄に気付かれてしまうかなぁ、なんて悶々としていたら友香に小突かれた。

「さすがに今日は我慢だよね?」
なんて横で言われたら『我慢しなくていいですっ』って言いたくなってしまう。

麻耶に泊まってもらえば兄をリビング、麻耶を私か友香の部屋、そして私と友香が残りの部屋、と割り当てられる。

それで行こう!
麻耶も楽しそうだし、遅くなったから泊まって行きなよって言えるまでなんとしても引き留めないと。

私は友香に「にっ」と笑いかけた。
「今夜はあまり飲まないでね。」と耳元で囁いて、仕上げた鍋をコンロから外した。

No.100 20/08/30 21:33
パンダっ子 ( FWvYnb )

「このワイン、凄く美味しいですね。私、まだワインの選び方とか分からなくて、最近は美味しかった銘柄を記録しておいてるんですよ。これも写真撮っておこう。」
兄の選んだワインのボトルを麻耶が写真に撮っている。

「俺だってワインはたまにしか飲まないし、あまり詳しくはないですよ。いつもはチューハイっすから。麻耶さんはワイン好きなんですか?他にどんなやつ写真撮ってます?」
二人で一緒に麻耶のスマホを見たりしている。今日はまずお近付きになろうよって言ってたのに、お兄ちゃんってばグイグイ行き過ぎじゃない?

たまに誘われて仕方なくコンパに行った時も、超絶美人の麻耶には男が群がる。麻耶は嫌な男には容赦が無い。どうせ誘われなくなっても構わないとばかりに冷淡な態度を取るのだ。女の子だったらどんな子にも優しいのに。

もし麻耶が私の兄だから我慢しているのだとしたら、かなりのストレスだろうな。

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