注目の話題
同棲するなら1人になれる部屋が欲しいって言ったら号泣された
「夫が家事を手伝うのは当たり前」
初対面の人と仲良くなれません。

雨が降っていた

レス99 HIT数 18247 あ+ あ-

パンダっ子( UUqVnb )
17/04/22 02:30(更新日時)

リアルでは無理なので願望の入った妄想を小説にします。

レズビアンの恋愛を軸にしています。

少しエロいです。

No.2357268 16/07/21 21:28(スレ作成日時)

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No.51 16/12/12 02:05
パンダっ子 ( UUqVnb )

帰ったら友香に会えると思うと、自然に心が浮き立った。友香の誕生日を一緒に祝った夜、来年もそれ以後もずっと一緒に祝おうと誓い合った。
遠い未来の約束は私に力を与えてくれる。それを現実にしたいという意識を持たせてくれる。

「何だよ、嬉しそうだな。彼氏と約束でもしてんの?」
兄が顔を覗き込んできた。どうしても私の彼氏とやらが気になるらしい。
「もし私に付き合ってる人がいたとしても、お兄ちゃんには関係無いよね。何でそんなに絡んでくるの?」

「だってお前、今まで誰に告られたって断ってただろ?そんなお前が彼氏できたとしたら、どんな奴か気になるだろう、兄として。」
兄としてというのは興味本位の言い訳だとしても、言わんとする事は分かった。

「写真とか無いのかよ。どんな奴なんだ?」
兄はしつこく聞いてくる。面倒な展開になってきた。
「言わないって前に言ったよね。付き合ってる人がいるってだけでいいでしょう?お兄ちゃんにもそれしか言わない。」
兄の顔を見てはっきり言った。私の揺るがない態度に、兄の顔に諦めの色が浮かんだ。
「まあ、いいか。頑固なお前が言わないって言ってんだ、だったらこの話は終わりだ。あ、親父と母さんには言わないから安心しろよ。」

私はやっと引き下がってくれた兄に心の中で謝った。興味本位もあるけれど、結局私を心配してくれているのだ。
いつか、私の覚悟ができたら打ち明けるかもしれない。兄はわかってくれるだろうか。わかってくれなくても黙認してくれたら御の字だ。私は兄がそういう人である事を祈った。

No.52 16/12/21 12:44
パンダっ子 ( UUqVnb )

夏休み後半には友香と摩耶、私の三人での旅行があった。摩耶の希望で、北海道の道南をドライブ旅行する事に決まっていた。
「前から広い道路を運転してみたかったんだ。」
空港でレンタカーを借りると、摩耶は嬉々としてハンドルを握った。ドライブ用のCDまで用意していた。

摩耶の運転でひたすら広い道路を走るのは、確かに凄く開放的で楽しかった。今夜は湖畔のコテージに泊まる。夕方になる前にバ一ベキュ一の材料を買い込んで、明るいうちからバ一ベキュ一の夕食が始まった。

ス一パ一で買った野菜と肉なのに、信じられない程美味しかった。周りに人影は無く、静けさの中に私達の笑い声だけが響いていた。私達はいつになく食べて、飲んで、そして笑った。

片付けをした後も、コテージのリビングでワインを飲んだ。私は今まであまりワインは飲まなかったが、運河の街並みが描かれた北海道産のワインは甘くてフル一ティーで、ついつい飲んでしまうのだった。
「あ一楽しい! こんなに笑ったの久しぶり一!」
友香のろれつが怪しくなって来た。あまり強く無い友香が今日は結構飲んでいる。
「友香、それ位にしたら?明日二日酔いになっちゃうよ。」
私は友香が心配になって声を掛けた。
「な一に?心配してくれてんの?琴乃は優しいね。ねぇ摩耶、私の琴乃、優しいでしょー。」
友香がグラスを持ったまま抱きついてきた。

「ちょ!だめだって。止めて。」
私は友香を押し戻してグラスを取り上げ、一人掛けの椅子に移動した。
「まだ早いけど今日はもう終わりにしよう。摩耶、悪いけど友香を部屋まで連れてってくれない?私はここを片付けるから。」
「分かった。ほら友香、行くよ。」
摩耶は友香を連れてリビングを出て行った。友香はぶつぶつ言っていたが、逆らわずついて行った。

No.53 16/12/25 15:22
パンダっ子 ( UUqVnb )

私は友香の態度に何だかイライラしていた。こんな感情は友香と付き合って以来初めてだった。酔っているとはいえ、摩耶の前でべたべたするなんて。今回の旅行は友達として三人で楽しむのが前提だった筈だ。

「一人で片付けさせてごめんね。」
摩耶が戻って来て洗い終わったグラスを拭いてくれた。
「ううん、片付ける所そんなに無かったし。友香は?」
摩耶は答えなかった。

「ちょっと座ってくれない?」
摩耶に促されて対面に腰掛けると、摩耶は薄く笑った。
「友香の所に行ってやって。」
「摩耶・・・」
「琴乃が真面目なのは知ってたけど、ここまでとはね。」
「何?どういう事?」

「私はね、嬉しいの。友香がやっと前に進んでくれて。まして相手があなただもの、これ以上の喜びはないわ。」
摩耶は笑った。本当に嬉しそうだった。
「友香は私をわかってる。だから少し位ふざけたって構わないと思ったのよ。実際、私はなんとも思ってない。」

摩耶は続けた。
「私は友香の友達だから、あの子が今までどんなに苦しんだか良く分かってる。・・・友香の前の恋人の事は知ってるよね。」
「・・・うん、最低限の事は知ってる。」
摩耶は小さく頷いた。
「私がそれを聞いたのは卒業してからだった。あの子、誰にも言わないまま付き合って、別れて、傷ついていた。本当に、よく一人で頑張ったと思う。」

「私は友達なのに、何にも出来なかった。気付いてもやれなかった。友達って何だろうね。」
「友香が言わなかったら、分からないよ。友達に自分が同性愛者だって言うのは勇気が要る。摩耶をどんなに信用しててもね。」

「うち明けてくれた時、友香はボロボロだった。二人だけの時、泣いたりする事もあった。だから私は友香に好きな人が出来たって相談された時、本当に応援したいと思った。」
「え?友香、摩耶に相談してたの?」
「うん。二人が付き合い始めてから聞いたんじゃなくて、その前から友香に聞いてた。」
少し意外な話だった。そんなに前から摩耶が知っていたとは思わなかった。

No.54 16/12/27 19:01
パンダっ子 ( UUqVnb )

「知らなかった。何か恥ずかしいかも。」
私の知らない所で私の事が話題になっていたと思うと訳も無く恥ずかしくなった。

「友香はね、琴乃を好きになった瞬間をはっきり覚えているって言ってた。その後少しして私に相談してきた。」
摩耶はゆっくり話した。少しづつ思い出しているみたいだった。

「琴乃は覚えてないかも知れないけど、友香が琴乃を好きになったのは初めて二人が話した日だったみたい。」
あの日の事は今でもはっきり覚えている。あの日、あの雨の日が私達の起点になっていた。

あの日、私は学校に隣接している図書館にいた。夢中になって調べ物をしているうちに辺りは暗くなって来ていて、それが雨のせいだと気づいたのは帰る為に建物の玄関に来た時だった。
傘を持ってきて良かったと思いながら傘立てに向かった時、そこに友香が居るのに気がついた。友香は珍しく一人だった。

友香は傘を持っていないようだった。強い雨に躊躇したのか、雨が弱くなって外に出る機会を窺っているようだった。
私は突然現れた一目惚れの相手にかなり狼狽した。心臓の音が急に大きくなったように感じた。

私は勇気を振り絞って友香に声を掛けた。
「あの・・・駅までだったら傘、一緒に入って行きます?」
友香は最初戸惑っていたみたいだが、すぐに笑顔になった。
「いいの?ありがとう。助かった一。」

私達はこうして知り合いになった。私の方は既に友香を好きになっていたから凄く嬉しい思い出として記憶にある。
ただ友香が私を好きになってくれたようなエピソードなど無かった。
軽く自己紹介的な会話とか、どんな授業を取ったとか、そんな会話をして駅で別れた気がする。

「それは覚えてるけど・・・普通の話しかしなかったよ。特別な事は何も無かった。」
あの日、友香は何を思ったのだろう。友香が摩耶に何を言ったのかが気になった。

No.55 16/12/30 13:54
パンダっ子 ( UUqVnb )

「琴乃は友香と二人で駅まで歩いたんだよね。一つの傘に入って。」
「うん。」
「駅に着いた時、琴乃は体の左側が濡れていた。それは覚えてる?」
「うん。友香が気付いてハンドタオルを貸してくれた。」
「なのに友香はほとんど濡れていなかった。友香が『濡れちゃったね。ごめんね。』
って言ったら、琴乃はにっこり笑って『あなたが濡れなくて良かった。』って言ったそうよ。」
「・・・それで?」
「・・・それだけ。」

それだけ?覚えていなくて当然だ。
「『あなたが濡れなくて良かった。』友香はこの言葉で恋に落ちた。」
「分からない。聴いた後でも全然分からない。それだけで人を好きになれる?」
「それは・・・友香はその時既に琴乃を知っていたからだと思う。琴乃の外見は友香の大好きなタイプだから。既に琴乃に惹かれてたのよ。多分その一言が駄目押しになったんだろうね。」

「友香は片思いでも良い。友達でも良いってずっと言ってた。琴乃に彼氏ができても、つらいだろうけど本当に良い人だったら応援したいとも言ってた。」
摩耶は少し涙ぐんでいるようだった。
「私は『じゃあ私はそんな友香を応援する。』って言ったわ。私にはそれしかできないから。」
摩耶は私の手を取った。
「琴乃。友香を好きになってくれてありがとう。琴乃と友達になって、友香が好きになったのが琴乃で良かったと何度も思った。」
私は摩耶が酔っているのだと分かってはいたが、それでも嬉しかった。
「摩耶・・・なんだか友香の保護者みたい。それに、私の方はその時既に友香を好きだったのよ。友香は相談出来る相手がいて羨ましいくらい。私は一人で悩んでたんだから。」
私は摩耶に向かって微笑んだ。

「摩耶みたいな人と友達になれて嬉しい。私の事もそんな風に心配してくれるの?」
「もちろんよ。保護者みたいになってあげる。」
摩耶が涙目のまま笑って言った。

No.56 16/12/31 22:06
パンダっ子 ( UUqVnb )

「摩耶・・・ひとつ聞かせて。摩耶は友香に対してどうしてそんなに一生懸命なの?まるで・・・」
私は言葉を切った。
摩耶は私が何を言おうとしているのかが分かったようだった。
「やめてよ。琴乃が心配するような事は何も無い。私は・・・友香に救われたの。私、中学で先輩に嫌われてしまって、その人の影響で友達もいなかった。でも友香がそんな私と友達になってくれた。人がどう言おうが、私は摩耶と友達になりたいって言ってくれた。だから私は決めたの。私は友達の為に何でもしようって。」

私は自分の邪推が恥ずかしくなった。
「ごめんね。変に勘ぐってしまって。摩耶はいつも私達を応援してくれてたのに・・・。」
「いいの。分かってくれれば。それより友香の所へ行って。」
「ありがとう。じゃあちょっと様子見て来るね。」
私は摩耶に礼を言って友香の部屋に向かった。

ドアをノックすると、「どうぞ」と小さく声が聞こえた。部屋に入ると友香がベッドに腰掛けていた。びっくりしたような顔をしている。どうやら摩耶だと思っていたみたいだ。

「気分はどう?酔いが醒めて気分悪くなってない?」
「琴乃・・・来てくれたの?怒ってない?」
「うん。あのさ・・・私摩耶があんなに寛容だって知らなくて、今回はあくまでも友達みたいにしなくちゃいけないと思って・・・。摩耶から言われたの、あれくらい何とも思ってないって。私、融通が利かないから額面通りにしか受け取れなくて、ごめんね。」
「いいの、琴乃が謝る必要なんてない。私がはしゃいで飲み過ぎたからいけないの。ごめんなさい。」
「あのさ・・・私やっぱり慣れてないんだ。誰かが居る所で友香と抱き合ったりできない。恥ずかしくて。」

友香は膝を抱えてうつむいた。うつむいたまま何度も頷いている。
私は友香の隣に腰掛けて肩に手を回した。

No.57 17/01/03 14:08
パンダっ子 ( UUqVnb )

「私達いい友達持ったね。麻耶って本当に良い子だね。」
友香がそろそろと顔を上げた。
「本当に怒ってない?私を嫌いになってない?」
「何でそうなるの?嫌いになったりしないよ。ちょっとした捉え方の違いじゃない。あれくらいで嫌いになれるなら告白なんてしないよ。」
私は友香を押し倒した。

「え?待って、琴乃?」
「二人の時はいいの。最後まではできないけど・・・キスしたいの。」
唇を重ねると友香からはワインの味がした。舌の動きがいつもよりぎこちなく感じる。

「友香・・・愛してるわ。」
見つめ合うと自然に言葉が出てきた。抱きしめるとふっと友香の力が抜けた。
「嫌われたと思ったの?バカね。こんなに愛してるのに。」
耳元で囁くと友香は強く私を抱きしめた。
「琴乃が怒ったと思った・・・怖かった。凄く怖かった・・・。」

「逆に聞くけど、友香は私にイラついたり怒るような事があった場合、私を嫌いになってしまうの?」
「ならない!私には琴乃しかいないんだもの。怒っていても嫌いにはならないよ。」
「じゃあ私もそう思ってるとは考えてくれないの?私だって友香しかいないのよ。友香にしか愛してると言わないのよ。」

「分かってはいるの。琴乃を信じてる。でも私は・・・不安なのよ。ちょっとでも気分を悪くされたら捨てられると思うとどうにも耐えられなくなる。」
「・・・分かった。じゃあ私はその度にこうして友香を抱きしめて、愛してるって言うわ。心配しなくていいよって言うわ。」
「ごめんね。私面倒くさいよね。本当に今日はどうかしてる。」
「飲み過ぎただけだよ。心配ない。面倒くさくもない。」
私はもう一度、今度はおでこにキスをした。
「さ、夜は長いし、麻耶の所へ戻ろう。それとも少し眠る?」
「ううん。麻耶にも迷惑かけたし、一緒に行く。本当にごめんね。」
私は立ち上がって手を差し出した。友香がその手を取って顔を見合わせて微笑んだ。
そのまま手をつないで麻耶の所へ戻った。摩耶が私に軽く頷いて、私が頷き返した。

その夜はまだまだ終わりではない事を、私はその時まだ知らなかった。

No.58 17/01/05 03:27
パンダっ子 ( UUqVnb )

私達はその夜遅くまで話し、話し疲れてそれぞれの部屋に引き上げた。楽しい気分の余韻と、摩耶に聞いた友香の話を思い出して顔がにやけた。

化粧を落としてそろそろ眠ろうとした頃、部屋のドアがノックされた。
多分友香だ。摩耶は運転していて疲れている。もう眠ってしまったのだろう。友香がその隙を見て忍んで来たに違いなかった。
友香に迫られたら拒む自信はない。もしばれても摩耶が大目に見てくれるだろうと思った。いや、きっと知らなかったふりをしてくれる。

私はドアを静かに少しだけ空けた。しかしそこに友香はいなかった。いたのは摩耶だった。何だか深刻そうな顔をして、腕組みをして立っていた。私は訳も分からず、ともかく摩耶を部屋に通した。

「話しておきたい事があるの。友香の事よ。手短に言いたいから質問は挟まないで。」
私は頷いた。聞かれた時だけ答えろということか。
「眠っている友香が突然起き上がるのを目撃した事はある?」
私はいきなりの衝撃に目を見開いた。
「ある!でもどうして摩耶がそれを知って」
「質問は後で。」
私の言葉を遮って摩耶が続けた。
「そうなるのは友香がどうしようもなく嫌な夢を見たから。毎回同じ、前の彼女に振られた瞬間を繰り返し見ている。」

「はっきり言うけど、友香は彼女に未練がある訳じゃない。友香は心の底からあなたを愛しているし、あなたに愛されて本当に幸せよ。」
聞きたい事は山ほどあった。しかし今は摩耶の話を最後まで聞いた方が良い。

「友香にも分からないのよ。どうしてそんな夢を繰り返して見なければならないのか。自分はこんなにも琴乃に夢中なのに、愛される実感に浸れて幸せなのに。」

あの夜、友香は泣いていた。『どうして?』
あれには色んな意味があったのだ。どうしてこんなに幸せなのに?彼女を吹っ切ったのに?どうして愛する人の隣で眠っていたのに?どうしてこんな夢を繰り返し見なければならないの? 

「摩耶はそれも相談されていたのね。」
私が尋ねると摩耶は頷いた。
知りたかった謎の答えが分かっても、対処の方法が分からない。摩耶も私も、友香の為に何もしてあげる事が出来ない・・・。

No.59 17/01/05 23:21
パンダっ子 ( UUqVnb )

摩耶は私を信頼して打ち明けてくれた。この話は友香の口からは絶対に聞けない。前の彼女が絡んだ話を私にする筈がない。
「それを見たのは一度だけだった。何だかうなされていると思ったら、急に飛び起きてそっと泣いていた。私に分からないように。朝になってもいつも通りに振る舞っていたから、ああ私には言えないんだって思った。だからといってすぐに忘れる事が出来る位の出来事じゃなかった。やっと謎が解けたわ。教えてくれてありがとう。」
摩耶はほっとしたような顔をしていた。
「今度そういう場面に出くわしたら、黙って抱きしめるから。私にはそれしか出来ないんだもの。悔しいけど。」
「ありがとう。そうしてあげて。」

摩耶が出て言った後、私は溜め息をついてベッドに倒れ込んだ。友香の傷の深さ、それに対する私の無力さを痛感した。
聞いた所でどうしようもない。私に出来る事はただ側に居るだけ。何も知らない顔をして、今まで通りに。

友香との間に、こんなジレンマが生じるとは思わなかった。聞きたくても聞けない私と、言いたくても言えない友香。
どちらが辛いのだろう。

どちらも嫌だ。

恋愛は難しい。百組の恋人達がいるなら、それぞれが抱える問題も百とおり。分かっているつもりでも、突き付けられるとやはり苦痛だ。

友香はこの夜をどう過ごしてる?
友香の部屋を訪れたい衝動にかられる。あの白い肌の胸に顔を埋めて、友香の匂いに包まれて眠りたい。

それよりも、今は友香が夢をみないでいてくれるのを願おう。どんな理由であれ、友香が泣くのは耐えられない。

体の疲れが睡魔を呼んだのだろう。私はいつしか深く眠っていた。夢も見ない程、深く深く眠っていた。

No.60 17/01/10 19:22
パンダっ子 ( UUqVnb )

早朝の済んだ風が洗いたての髪を撫でていく。湖畔の遊歩道には誰もいなかった。私は一人で涼しい朝の散歩をしていた。

昨夜の摩耶の話がまだ頭の中を駆けめぐっていた。友香はたまに夢を見る。元カノの夢を・・・。
友香にとって辛い過去だ。辛くて辛くて、夢にまで見てしまう程に。

逆に言えばそれだけその人を想っていたという事だ。いや・・・『いた』じゃなくて『いる』だとしたら・・・。
私はぶるぶると頭を振った。駄目だ、私は友香を信じているのに。摩耶も言っていたではないか、友香は私を愛していると。友香もあんなに私に対して愛情を注いでくれる。私は幸せな女なのだ。

なのに・・・こんなモヤモヤした感情って何なのだろう。嫉妬?・・・とも違う気がする。
私はこの行き場のない気持ちを完全に持て余していた。

何度も自分に言い聞かせる。大丈夫。私は友香を愛している。信じている。友香の傷が癒えるまで、見守っていける。

気がつくと朝日が湖に反射して眩しく光っていた。私は足を止めてその光に見入っていた。眩しさに涙が出てくる。流れるままにしていると不意に胸が苦しくなった。

「友香・・・」
呟くと胸の痛みが更に強くなった。
友香・・・お願いだからその人に囚われないでよ。その人の夢を見たりしないでよ。その人のせいで胸を痛めたりしないでよ。
涙は止まることなく溢れ、それが眩しさのせいなのか訳の分からない胸の痛みのせいなのかよくわからなくなっていた。

ただただ切なくて、でも一人で泣くしか無くて、涙はここでだけ、二人の所へ戻ったら笑顔で過ごそうと決めて私は泣いていた。

No.61 17/01/19 10:03
パンダっ子 ( UUqVnb )

「あ・・・あぁ・・・いいっ」
友香の反応を見て指の動きを緩めた。まだ終わらせない。一旦手を離して丁寧なキスをする。唇を離すと友香が強く抱きしめてきた。
「まだイかせてはくれないの?」
「まだよ。ゆっくり楽しみましょう。友香の身体、隅々まで味わいたい。」

北海道旅行の後、私は友香とのセックスに時間をかけるようになった。いつもより丁寧に友香の身体を愛撫し、褒め称え、たくさん声を上げさせ、汗をかかせる。
友香が疲れて眠るように、深く眠って夢など見ないように。私に出来るささやかな試みだった。

友香の為というより、自分の為かもしれなかった。朝まで気付かずに眠ってしまいたい。もう二度とあんなに辛そうな友香を見たくない。そんな願望が私をそうさせているのかもしれなかった。


「琴乃は最近積極的になったね。」
行為の後、裸のまま寄り添っていると不意に友香が言った。
「うん?そうかな。」
つとめて冷静に答えたつもりでも内心焦っていた。(バレるよね、流石に。) 
「そうだよ。旅行から帰ったあたりからじゃない?」
そこまで気づかれていたのか。
私は友香に向き直った。
「摩耶の話を聞いて、自信がついたのかもしれない。友香に対して良い意味で照れがなくなった。私にしか出来ないやり方であなたを愛したい。」
友香はこの答えに満足したようだった。にっこり笑ってキスをくれた。

「しつこく感じるなら言って。・・・止めないけどね。」
友香はクスクスと笑い、腕を伸ばして私の頭を抱えるように抱きしめた。友香の裸の胸が目の前に迫り、思わず唇を寄せたくなった。
「ふふ、止めないんだ。でもそれでいいわ。」
友香は私の目を覗き込んだ。
「すっごく良いから。」

二人で声を上げて笑った。私は友香の背中に手を回した。すべすべの肌を撫でているうちに猛烈な眠気に襲われた。
そう、これでいい。
このまま眠りにつこう。朝の光を見るまで、二人抱き合って眠ろう。

No.62 17/01/22 00:03
パンダっ子 ( UUqVnb )

摩耶の家に一人で行くのは初めてだった。友香と二人では何度かあるけれど、今日は一人じゃないと駄目な用事がある。

摩耶は私を出迎えてくれて部屋に通した。摩耶の部屋は私の部屋よりずっとすっきりしている。中学生の頃からいつでも出て行けるように準備しているのだと言っていた。

摩耶はクローゼットの中から高校の卒業アルバムとDVDを出した。そして私の顔を伺いながらそれらを私に差し出した。

私が摩耶に頼んだのだ。友香の前の恋人を見たいと。だから私は今日摩耶を訪ねて来た。
友香に隠し事をするのは後ろめたい気もしたが、知りたい気持ちの方が強かった。

私は一つ息をついてアルバムを手に取った。摩耶は何も言わずそんな私を見ていた。
教師が写っているページを開くと、そこに彼女はいた。

『吉野美咲』

他の教師達が薄く笑う中、その人ははっきり笑顔で写っていた。美人だが少しきつい印象。笑顔がそれを華やかさに変えている。デキる大人の女。それが彼女に対する私の第一印象だった。

それと・・・

「この人、私に似ている?・・・よね?」
アルバムから視線を上げて摩耶に聞くと摩耶はコクリと頷いた。
「外見上はかなり似ていると思う。」
そう言うとDVDをパソコンに入れた。合唱部のコンクールで指揮をしている彼女が映っている。

動画で見るとその人は更に魅力的に見えた。生徒に人気があったというのも頷ける。私は摩耶に礼を言ってパソコンの画面から目を逸らした。

「摩耶、DVDまで用意してくれてありがとう。」
「いいよ、別に大した事じゃない。それより・・・気が済んだ?」
「あ一あ」
私はごろりと床に寝転がった。

「その人に私が勝ってる物、何かあるのかなぁ。」
摩耶は私の好きな困った顔になった。
「あるよ。少なくとも琴乃は二股かけて平気でいられる程酷い人間じゃない。表向きだけ取り繕ってもそういう本質的な所は変えられないよ。」
摩耶は声を強めて言い切った。

No.63 17/01/23 02:01
パンダっ子 ( UUqVnb )

「私が側に居たら、友香はずっとこの人の事忘れられないよね。だって私とこの人結構似てるもの。」
「・・・琴乃・・・知らなきゃ良かった?」
「ううん。知りたいって思ったのは私だから。ただ・・・ねぇ摩耶、友香は私がこの人に似てたから好きになってくれたのかな?」

考えたくは無いけれど、こうして知ってしまうとかなりショックだ。
「私、その人の代わりなのかな?」
「ちょっと!!! 止めなよ、そんな事言うの。怒るよ。」
怒るよと言いながら、既に摩耶は怒っているような口調だ。

「だって!! 実際こんなに似てるのよ。考えない方が不自然だよ。友香は私の顔が好きって言ったのよ。」
声が震える。摩耶に八つ当たりしたい訳じゃない。今日だってわざわざ私の為に時間を作ってくれたのだ。

「じゃあどうするの?琴乃はどうしたいの?」
「身代わりなんて嫌よ!!! でも側に居られなくなるなら身代わりでも仕方ない、仕方ないんだよ・・・。好きなんだもの、どうしようもなく。」
ダムが決壊するように、涙が溢れた。

摩耶が抱きしめて背中をさすってくれた。私は涙を拭く事もしないで大声で泣いた。
「信じようよ。琴乃は恋人として、私は友達として友香を信じよう。」
摩耶がそう言ってくれたけれど、私は頷く事が出来なかった。

私は身代わりなんだ。黒髪にして欲しいと言ったのだって、この人がそうだからなんだ。

自分が酷く滑稽に感じた。友香が例え私をこの人の代わりとして見ていても、私から離れるなんて出来ない。だからといって身代わりでいるのは辛すぎる。

「琴乃・・・。友香の気持ち、聞いてみよう。私は二人を応援したいけど、このままじゃ琴乃が壊れてしまうよ。代わりでもいいから側にいたいなんて悲しいよ。友香は友達だけど、琴乃も大切な友達だもの。もしも友香があなたを先生の代わりとしてるなら、辛くても別れた方がいい。」

摩耶の言葉が胸に刺さった。
私は摩耶の家を飛び出した。

No.64 17/01/25 15:12
パンダっ子 ( UUqVnb )

私は家に着くと床に座り込んで何時間もそうしていた。頭の中はぐちゃぐちゃしていたが、私がどうしたいかの答えはいつも同じ所にたどり着いた。

友香の言葉で聞きたい、友香の本音を。
私は何度もためらって、遂に携帯に手を伸ばした。友香はすぐに出た。
「もしもし、友香?会いたいんだけど、今出て来られる?」
「うん。大丈夫だけど、どうかしたの?夏休みでさえ平日は余り会わなかったのに。」
友香の声が呑気に聞こえた。
「うん、話があるの。細かい事は友香が着いてから話すね。」
友香はすぐに出ると言って電話を切った。

時間はもう夜になっていた。約束をしていない日に私から会いたいと言うのは初めてだったかもしれない。友香は何か察しただろうか。

友香が着いて、私は笑顔もなく出迎えた。笑おうとしたが出来なかった。
友香はそんな私を見て驚きと心配が入り混じったような複雑な表情をした。

「何かあったの?話ってなに?」
私は友香の顔を見れないまま静かな声で切り出した。
「今日、摩耶に高校の卒業アルバムを見せてもらったの。」
「・・・・・。」
「ごめん。どうしても気になって、摩耶に頼み込んだの。」
「そう・・・どうしてそんなに気になったの?私先生の話そんなにしてないよね。」

「友香、私は旅行の時摩耶から全部を聞いたの。友香のたまに見てしまう夢の事も。実際一度あなたが飛び起きたのも知ってる。」
「・・・気付いてたんだ。」
「うん。理由は摩耶に聞くまで分からなかったけど、友香が話さなかったから気になってた。」

「それで尚更知りたくなったのね、先生の事。」
「うん。どんな人なのか、顔だけでも見たいと思った。」
私は相変わらず友香を直視できない。

「で、どうだったの?どう思った?」
嫌な汗が出てくる。口の中が渇いて声がかすれそうだ。
「見た目が私に似てると思った。私はあんなに華やかではないけれど。」
私はそこで初めて友香を見た。

「友香、私はあの人の代わりなの?」

No.65 17/01/30 00:44
パンダっ子 ( UUqVnb )

友香の目が見開かれた。私は更に言った。
「私があの人に似ているから好きになってくれたの?」

「そんなの、違うに決まってるじゃない。」
友香の声は冷静だ。視線も私にずっと注がれている。

「でも、友香は前にはっきり言ったわ。私の顔が好きだって。あの人に似ているからじゃないの?」
「・・・確かに最初は顔が似てるから目が行った。でも琴乃は最初から先生とは違うと感じてた。だから好きになったの。分かって欲しい。あなたが似てるのは外見だけ。そういう理由で好きになったんじゃない。先生の代わりなんて思った事は一度だってないわ。」

「じゃあ髪の色は?黒くして欲しがってたのはどうして?」
「それはただ単に京都に行くならそうして欲しいと思っただけよ。浴衣に黒髪の琴乃が見たかっただけ。」
友香は少し俯いた。恥ずかしかったのかもしれない。こんな時でさえ、私は友香に見とれた。

「私とあの人が似ているのを言わなかったのは何故?」
「話す必要を感じ無かったから。琴乃が先生を気にしているのも知らなかったし、私とあなたのこれからに関係の無い人だもの。それに、私から見たら先生とあなたはそれ程似ていないわ。」

「摩耶はかなり似ていると思っているみたいよ。少なくとも外見上は。」
「見た目だけ、ね。摩耶だって見た目以外は全然似ていないって知ってるから、私に相談しないで琴乃にアルバムを見せたんだと思う。」

「そうなの・・・でもやっぱり事前に知っておきたかったな・・・。こんな風に取り乱して私恥ずかしい。友香にも酷い言い方してしまって・・・ごめんなさい。」
「謝らないで。琴乃は悪くない。言わないでいた私も良くなかった。」

友香が冷静に、落ち着いて対応してくれたので私も落ち着きを取り戻してきた。
「言い合いになったの、初めてだね。」
友香が近づいて来て、私の手を取った。私は頷いた。
「この際だから言いたい事言って。気になってるみたいだから。ちゃんと答えるから。」

No.66 17/01/31 10:02
パンダっ子 ( UUqVnb )

「友香は・・・私と一緒に居たらあの人を思い出さない?」
「忘れる必要は無いと思うの。忘れられないのなら受け入れて過去のものとして処理するしかない。思い出してしまうとしても仕方ない。」

「友香は強いのね。」
「そんな事無いよ。誰だって忘れられない過去の一つや二つあるものよ。折り合いをつけていかなきゃいけないのよ。私には琴乃や摩耶がいてくれて本当に良かった。」

「友香・・・私ね、あの人の代わりでもいいと思ったの。」
「え?」
「それでも仕方ないと思ったの。あなたと一緒に居られなくなるなら、身代わりでも構わないと思った。あなたの愛を受けられるなら、見栄もプライドも要らないわ。」

友香が私の手のひらを自分の頬に当てた。手のひらから友香の温もりが伝わって来る。その温かさに何故か泣きたくなった。
「私はあなたが好き。あなたは誰の代わりでも無いし、あなたの代わりは誰もいないわ。」

友香がゆっくり近づいて来る。私は友香の頬から手を離した。ほんの少し体をずらすだけなのに、友香はなんて優雅に動くのだろう。
気がつくと友香の腕が首に巻かれ、顔が間近にあった。

「どうしたの?ぼうっとしちゃって。」
友香が囁く。どきどきしている音が聞こえてしまいそうだ。
「あなたに・・・見とれてた。」
「・・・嬉しい事言ってくれてありがとう。キスしてもいい?」
「待って。今日は我慢しなくちゃ。友香の気持ちを疑ってしまった自分への罰よ。」
「じゃあ私が許すと言ったら?罰が欲しいなら私が与えてあげるわ。」

「友香から与えてもらう物は罰ではないわ。」
「当たり前じゃない。あなたに罪はないんだから。罰を受ける必要も無いのよ。私は、ただあなたが欲しいだけ。」

友香の唇が押し付けられて、舌がゆっくり動いている。私はそれだけで眩暈がしそうだ。恍惚の時間に身を委ね、友香のキスを貪った。

「これじゃ、まるでご褒美ね。」
唇が離れた合間に呟くと、友香は薄く笑った。しかしその目に、いつもセックスの時に見せる妖しげな光を宿しているのに私は気づいていた。

No.67 17/02/04 10:47
パンダっ子 ( UUqVnb )

友香はキスを唇から耳元、首筋へとずらしていった。
「あ・・・ダメ・・・今日は・・・」
言葉とは裏腹に、友香を押し止めようとする手に力は入らなかった。身体が動かない。友香を求めているのだ。
「もう止められない。あなたが欲しくてたまらない。」
友香の言葉に私の中で何かが弾けた。私達はもどかしく服を脱ぐと、ベッドに倒れ込んだ。

「友香、私もあなたが欲しい。」
激しいキスを何度も交わした。それでも足りている気がしない。私は友香の首筋に、いままで付けた事の無い程強い痕を残した。

友香は私の上に馬乗りになって、上から私を見下ろした。
「愛しているわ、琴乃。世界中の誰よりも、あなただけを愛してる。」
私の上で、そのしなやかな肢体をさらして友香は愛の言葉を囁いてくれる。

友香に片思いをしていた頃、見たかった友香の身体と、聞きたかった友香の言葉が今同時に手に入っている。信じられないような幸せが、私の手の中にあるのだ。
「友香、私も。私も世界中で誰よりも、あなたを愛してる。」
私の言葉に、友香が微笑んだ。何度も見ている筈なのに、私はまたその顔に見とれていた。

No.68 17/02/05 00:13
パンダっ子 ( UUqVnb )

友香が私に覆い被さり、乳房をつかんで乳首を口に含んだ。いつもより荒い仕草だったが、今日の私は友香に優しくされるよりも激しく愛撫して欲しいと思っていたので、友香のその行為はむしろ嬉しく思った。
「ああっ・・・」
我慢出来ずに吐息を洩らしてしまう。いつもだったら声を控えるのは難しくないのに。

友香の指が私の局部に掛かる。繊毛の奥に指先が分け入って行く。今までに何度も繰り返された友香の愛撫は、私の快感の芯を的確に捉えていく。
「あっ!・・・はんっ・・・友香ぁ・・気持ちいい・・・」
友香の指は寄り道をしなかった。


「友香・・・私、もう・・・もう・・・ああっ」
「イっちゃう?」
友香がキスで私の唇を塞いだ。達する時私は友香の名前を叫んだが、キスをされているのでモガモガと呻いただけに聞こえた。

「今日は焦らしたりしない。何回もイかせてあげる。琴乃のイく時の顔、何回も見たいの。」
友香は休む暇を与えてくれなかった。私達はすぐにバスルームに移動した。より沢山の快感を得る為、与える為に。

バスルームでは私も遠慮などしなかった。友香が私を責めたことで高まっているのは知っている。私は触れるだけで良かった。指先で、唇で、舌先で。
「ああ・・・いい・・・」
友香が切なげな声を洩らすと、身体がびくんとのけぞった。
「ねぇ友香、まだ気になる?」
「何が?」
「抱き合った時の、お腹とお腹の隙間。まだくっつけたくなる?」
「・・・ううん。もう大丈夫。そこは、見えない何かで埋まった気がする。琴乃のおかげ。」
私達は見つめ合った。

「ねぇ、もうイかせて。早く・・・」
私は頷いて友香をバスルームから連れ出すと、ベッドの上で友香の脚を広げ、秘部を舌全体で舐め上げた。
「んんっ!! イくっ 好きぃ琴乃!」
友香はあっさり達した。その瞬間に私を呼んでくれて、私は感動にも似た喜びを感じた。

No.69 17/02/06 18:41
パンダっ子 ( UUqVnb )

友香は秘部を濡らしたまま、拭きもせずに私のそこに指先をつけた。
「四つん這いになって。」
友香に言われるがまま、言い付け通り四つん這いになった。
「?え!!!」

いつもと違う感じ・・・。友香は私の秘部ではなく、お尻の穴を広げた。思わず逃げ腰になる私を、友香は押さえつけた。
「心配要らないわ。気持ち良くしてあげる。」
秘部ほど直接的な快感は無いものの、友香にそこをいじられるとくすぐったさとは違うもどかしい感覚を感じた。
「止めて、そんな所・・・」

友香の舌が肛門につけられるのが分かった。友香は私の言葉を無視してそこを舐め続ける。同時に指で秘部をも弄りだした。快感が身体を駆け巡っていく。
「ああんっ友香、それ・・・だめぇ」
友香は舌で秘部を舐め、人差し指を肛門に差し込んでいるようだ。不思議に痛くはない。秘部を舐められている快感のせいなのか、そういうものなのか、ただ一つ言える事は友香にそういう行為をされているのがこんなにも興奮するという事実だった。

「友香お願い・・・一緒に・・・」
懇願すると友香は私の秘部を自分のそこを密着させた。
「あんっ・・・」
「ああっ・・・」
二人の声が同時に洩れた。

「琴乃っ もうイっちゃう!」
「私も! ああっ友香!」
友香の動きに合わせて夢中で腰を動かしているとすぐに絶頂に達した。

私は友香を抱き寄せてひたすらキスを交わした。友香から私、私から友香。手のひらを合わせ、指を絡ませ、何度も何度もキスを繰り返した。

No.70 17/02/10 00:37
パンダっ子 ( UUqVnb )

眠ろうとしたが眠れず、諦めて瞑っていた目を開けた。
友香と繋いだ手はまだ離れてはいない。
昼間の動揺ぶりが嘘のように、心は静かだった。

友香を呼び出して問い詰めておいて、その割にやすやすとセックスをしてしまった自分が嫌になる。

自分は恋をしてもきっと冷静沈着でいられると思っていた自分が恥ずかしい。私はそれ程自分を解っていなかった。中学や高校で、男の子に熱を上げて騒いでいた女の子達を斜に構えて見ていた私は、結局あの子達より子供だったのだ。

友香は私にとって最高のパートナ一だ。容姿にも家柄にも恵まれ、性格も良くて人望もある。そんな友香と恋愛をしていながら、私が自分について最近思うのはネガティブな側面ばかりだ。つまり私はこんなに狡くて脆い人間だったのかという残念な発見。出来るなら知りたくはなかった。

私は恋愛をナメていたのだ。

「眠れないの?」
急に声を掛けられて、はっとして横を向くと友香がこちらを見ていた。
「・・・うん。友香も?」
友香は小さく頷いた。
「琴乃、今にも泣き出しそうな顔してる。」
まばたきをした瞬間、涙が一筋流れた。

「どうしたの?」
友香が体を起こした。私も起き上がって、急いで涙を拭いた。
友香は私が話し出すまでじっと待っていてくれた。一度出て来た涙は、止まって欲しいと思えば思う程後から後から流れてきて止まらなかった。

本当に嫌になる。私はこんなに泣き虫な女じゃなかったはずなのに。

「ごめん、友香・・・。本当に、ごめんなさい。」
「何を謝っているの?言いたい事、全部言って。」
友香の声は優しい。
「・・・私、怖いの。自分が・・・友香だけになってしまう。何をしていても、誰と一緒にいても、あなたを想ってしまう。あなた一色に染まってしまう。」
「それの何が怖いの?」
「きっと、・・・きっとあなたは私を重く感じてしまう。あなたを押しつぶしたくないのに、あなたの負担になんてなりたくないのに、どうしても気持ちを抑えられない。」

友香は私を抱き寄せた。

No.71 17/02/11 11:04
パンダっ子 ( UUqVnb )

「初めてあなたと関係を持った日、あなたは将来が怖いと泣いた。私、今その気持ちが少しだけ分かる。友香を信じていると言いながら、あなたの気持ちを問い詰めたりした。そのくせにやすやすとあなたを抱いてその温もりに癒やされたりして。私、自分で自分が嫌になる。泣いたりしたくないのに、苦しくて涙が止まらないの。」
友香は赤ちゃんをあやすように、私の背中を軽く叩いたり、さすったりした。私は友香に思いの丈をぶちまけて、ひたすら泣いた。友香の髪の匂いと、抱きしめられた温もりが心強く感じた。

「・・・聞いて、琴乃。私ね、琴乃が泣いているのに何だか嬉しいの。だって、琴乃が今苦しいのは私を想ってくれているからなんでしょう?自分の好きな人が、苦しい程自分を愛してくれているなんて、感激する位嬉しいよ。」
友香は体を離して私の目を真っ直ぐに見つめた。

「人を愛すると、自分の感情が思い通りに行かなくて戸惑ってしまうよね。自分自身にイラついたりもする。つまらない事に嫉妬したり、楽しい事ばかりじゃないって気づいてしまった後では、尚更嫌な面ばかりが目についてしまう。琴乃だけじゃないのよ、恋愛をすると女の子なら誰しもがそんな感情に悩まされるの。」

「私もね、あなたを想って胸が苦しくなる。言葉に出したり、抱きしめたり、想いは伝えている筈なのに、全然足りてない気がするの。会ったばかりなのに、また会いたくなったり、でもそんなこと言ったら重いんじゃないかとか考えたり。きっと私はいつまで経ってもこうなんだと思う。」
友香の手が、私の肩に置かれた。

「いいのよ、私はちょっとくらいじゃ重いなんて思わないから。逆に束縛される位が丁度いい。私だって、既にあなたに染まってる。」
「友香・・・。」
「苦しい時に苦しいって言ってくれて、本音を言ってくれて、頼りにされてる気がした。これからだって、そうして欲しい。黙ったまま溜め込んで、急に爆発されるよりずっといい。」

肩に置かれた友香の手から、友香の温もりが伝わってくる。私の体の芯まで届いてくる。ああ、友香に言って良かったと思った。こんなろくでもない私を受け入れてくれて、愛してくれて、未来を一緒に語ってくれて、私にはやっぱり友香しかいないのだ。

No.72 17/02/15 21:14
パンダっ子 ( UUqVnb )

次の日、私は学校で摩耶に昨日の経緯を話した。心配しているだろうと思ったのだ。
「うん。大丈夫だと思ってはいたんだ。」
摩耶の反応は意外にもあっさりしていた。
「琴乃が一人で悩むよりも、二人で話した方がいいと思ってけしかけてみたの。」
「え?そうなの?じゃあ別れた方がいいって言ったのは・・・?」
「もちろん、思ってないよ。友香が琴乃をあの人の代わりにしてるなんて。だから別れたりしないって分かってた。」

摩耶はいたずらっぽく笑った。

「はぁ・・・ますます恥ずかしくなった。私一人で騒いで、何やってんだろ・・・。」
私は思わず頭を抱えてしまった。
「摩耶には叶わないな。先輩って呼んでもいい?」
「二人の時だけね。」
摩耶は済まして言った。


授業が終わり、家庭教師のバイトへ向かった。私の教えている子が夏休み明けのテストで良い点を取り、それに気を良くした母親が契約の延長を申し出ていたのだ。

「あ、先生こんにちは。」
「こんにちは、光留(ひかる)ちゃん。」
生徒やその母親に先生と呼ばれるのにも慣れてきた。前はなんだか照れくさかったのだけれど。

実際光留はとても教えやすい子だった。持ち前の素直な性格のせいか、そもそも頭が良いのか、私が教える事を苦もなく吸収しているようだった。
「先生、彼氏とか居るの?」
休憩時間や勉強が終わった後で、友達のように話をするようにもなっていた。今日も問題集を閉じたとたんに、光留は話し掛けて来た。
「何?急に。」
「いいから、ね、教えてよ先生。」
「う一ん・・・秘密にしておこうかなぁ。」
「じゃあやっぱり居るんだ。お母さんが言ってたもん。男の人は先生みたいに美人で、ほっそりしてるのに胸がちゃんと出てる人が好きなんだって。」
「はあ?やだ、二人で何を話してるのよ。」
「一般論を話してただけだよ。男の人にモテるタイプの人を教えて貰ってたら、たまたま先生が出てきただけ。」
「お母さんと仲良いんだね。」
「そうかな?普通だよ。何でも話してる訳じゃないし、言えない話だってあるもん。」
「好きな人の話とか?」
光留は大きな目を丸くした。

No.73 17/02/17 18:59
パンダっ子 ( UUqVnb )

「何で?何で分かっちゃったの?先生凄い!」
「凄いって、そんなにあからさまだったら誰でも分かるよ、光留ちゃん。友達にもすぐバレちゃうよ。」
光留は顔が真っ赤になった。本当に素直な子だ。素直過ぎて心配になってしまうほどだ。この子が恋をしている相手が、この子を傷つけたりしない事を願ってしまう。

「仲のいい子はもう知ってる。みんな応援してくれるよ。」
「先生も応援するよ。もちろん。」
「ありがと、先生大好き。」
光留は私の手を取って上下にぶんぶん振った。

光留が駅まで送って行くと言って私に続いて部屋を出た。まだ話し足りないのだろう。
居間にいる光留の母親に挨拶をしようと階段を下りると、来客中のようだった。何人かの話し声が聞こえる。
「お母さん、先生送って行くから出てくるね。」
光留が声を掛けると、光留の母親が居間から出て来た。その時ドアの隙間から見えた人物に、私は驚愕した。

居間に居たのは吉野美咲だった。

No.74 17/02/18 08:16
パンダっ子 ( UUqVnb )

光留の母親と何を話したのか、全く覚えていない。気がつくと、光留の話に上の空で返事をしている私がいた。
「・・・でね、先輩の行きたい高校が分かったけど、今の私の成績だとギリギリなんだ。だから勉強頑張ろうと思うんだけど、家のお父さんもお母さんも●●女子校に行きなさいって言うの。大体の友達もそっちに行くから、だんだん迷って来ちゃった。」

●●女子で我に返った。友香と摩耶が通っていた学校だ。もちろん吉野美咲も。
「ねぇ光留ちゃん、さっき光留ちゃんの家に居た人、誰なの?」
光留は自分の話が中断されて不服そうだったが、きちんと答えてくれた。
「ああ、美咲さん?私の従兄弟のお兄ちゃんの奥さん。従兄弟って言ってもすごい年上だけどね。」
美咲。名前も一致している。じゃあやっぱりさっきの人は吉野美咲本人なのか。

更に得た情報によると、光留の母親は4人兄弟の末っ子で、その長兄の息子が美咲の夫、敏也だ。光留の母親は12才離れた長兄を慕っていて、その息子の敏也とも仲良くしているという事だった。

「美咲さんは敏也兄さんと結婚してから家と仲良くしてるんだ。敏也兄さんの為だろうけど、なかなか出来る嫁だってお母さんは喜んでる。」
「光留ちゃんはどうなの?」
「別に。ただ敏也兄さんが選んだ人にしては意外だなって・・・うまく言えないけどね。」
「どんな風に意外なの?」
「敏也兄さんは・・・結婚する前に偶然見かけたんだけど、その時一緒にいた彼女っぽい人が美咲さんとは違う印象だったんだよね。なんていうか、ふわふわした感じ。美咲さんみたいにク一ルじゃなくて。」

No.75 17/02/18 19:28
パンダっ子 ( UUqVnb )

「だから敏也兄さんが結婚しましたって挨拶に来た時、あれ、この前の人じゃないなって思った。」
「ふ一ん。そうなんだ。私の友達が●●女子出身なんだけど、卒業アルバム見てたらさっきの人によく似てる先生が写っていたから、それで聞いてみたの。」
「あ、それだったら美咲さんだよ。去年までそこで音楽の先生やってたんだって。」

なんという偶然だろう。吉野美咲が光留の従兄弟と結婚していたなんて。
光留は自分の好きな人の話に戻ったが、私の頭はそれどころではない状態だった。

駅で光留と別れると、私はすぐに摩耶に電話をした。摩耶と私は最寄り駅が一緒だった。駅前のカフェで待ち合わせて摩耶に光留の家であった出来事を報告した。

「まさかのタイミングで現れたね。本人を見た感想は?」
摩耶はアイスカフェラテを一口飲んで唸った。
「本当にちらっと見えただけなのよ。ただただ驚いただけ。それ以外の感想なんて、感じる余裕もないわ。」
「・・・友香には言うの?」
「どう思う?言った方がいい?それを聞きたくて摩耶を呼び出したんだけど。」
「黙っているべきよ、絶対。いたずらに友香を刺激しない方がいいよ。私と琴乃が黙っていれば済む話でしょう。普通にしていればもう二度と会う事も無いし。」

摩耶は私の顔を覗き込んだ。
「琴乃。気になるのは分かるけど、これ以上関わらない方がいい。家庭教師してる子にももう何も聞いちゃ駄目だよ。」
「・・・?どうして?」
「分からない?多分、光留ちゃんだっけ?その子が見たふわふわした感じの女性は、従兄弟さんがその時付き合っていた彼女だと思う。略奪したのよ、北城美咲が。結婚相手として申し分ない男だから。あの人はヤバい。かなりヤバい。欲しいものを手に入れる為なら、何でもする女よ。悪いけど、琴乃が関わっていい相手じゃない。友香にまたちょっかい出されたら、琴乃が泣く羽目になるよ。」

「友香をあの人に奪われる?あと摩耶、北城って?」
「ああ、ごめん。吉野美咲の旧姓。」
人の陰口を言ったりしない摩耶が、こんなに関わるなと言うなんて。何か違和感を感じた。

No.76 17/02/21 17:05
パンダっ子 ( UUqVnb )

「私はあの人を初めて見た時から、なんだか嫌な感じがした。これといって欠点も見当たらないし、他の人達には人気があったから、私だけがそんな風に思っていたのかもしれないと思って誰にも言わなかった。だけどまさか、友香があの人の毒牙にかかっていたなんて。」
摩耶は私の目を真っ直ぐに見た。こんなに真剣な表情、見た事もない。怖いくらいだ。
「友香には言えなかったけど、琴乃には言う事が出来て良かった。あの人に関わっては駄目。友香だけじゃなくて琴乃まであの人のせいで苦しむ姿は見たくないの。」

摩耶のいつもと違う必死な感じが、事の深刻さを物語っていた。
「分かった。これ以上関わらないようにする。摩耶がせっかく忠告してくれたんだもの。ありがとう、心配してくれて。」
「大袈裟だって思うだろうけど、気をつけるに越した事はないから。もし何かあったらすぐに言ってね。」

この時の摩耶の反応が大袈裟ではなかった事を、私はすぐに思い知らされる羽目になる。吉野美咲は私にとって、脅威と言ってもいい存在にだった。

No.77 17/02/25 21:18
パンダっ子 ( UUqVnb )

それから1ヶ月ほどは何事もなく過ぎた。私は摩耶の言いつけを守って淡々と過ごしていた。

摩耶は心配なのか、たまに
「その後どう?何かない?」
と聞いてきたが、私は
「何もないよ。」
と答えていた。実際何もないのだし、授業とバイトと友香で私の予定は埋まっていて忙しくしていた。私は段々と吉野美咲の事を思い出さなくなっていった。

秋の風が吹き始めた頃、それは唐突に起こった。吉野美咲の方から私に接触してきたのだ。
それはバイト終わりの帰り道、私は光留の家を出て駅に向かって歩いていた。友香と夕食を一緒にする約束をしていたので、私の気分は上がっていた。

歩く私を追い越して、一台の車が路肩に止まった。車に詳しくない私でも知っている外国産のスポーツカ一だ。
左側のドアが開いて、中から出てきたのが吉野美咲だった。彼女は羽織ったカ一ディガンの袖を揺らしながら私の前に立った。
「こんにちは、蒼河(そうかわ)琴乃さん。会うのは二回目ね。」

吉野美咲はゆったりとした笑みを浮かべながら私に話し掛けた。
完全に不意を突かれた私はしどろもどろになりながら、それでも何とか返事をした。
「こ、こんにちは。・・・あの、たしか以前光留ちゃんの家でお見かけしましたね。」
「そうよ。覚えていてくれたのね、嬉しいわ。」
相変わらず笑みを浮かべながら、吉野美咲は風で乱れた髪をかきあげた。

ああ、この人は自分の見せ方を知り尽くしている。と突然思った。自分に自信があって、自分大好きで、他人の目線を集めたり、自分に向けられる好意を快感に変えられる強い女。この人はそういう人間だ。

「突然だけど、今から時間ある?あなたと話したい事があるのよ。」
吉野美咲はそう言うと私の返事も聞かずにさっさと車に戻って行った。
「え?ちょっと待って下さいよ!」
慌てて追いかけた私に、車の中から声を掛ける。
「乗って。」
有無を言わせない言い方だった。私は仕方なく車の助手席に座った。

No.78 17/02/27 01:56
パンダっ子 ( UUqVnb )

「あの、話って何ですか?私、あまり時間が無いんですけど。」
車が走り出すと私は落ち着いて、というより開き直って美咲に話しかけた。
「なあに?恋人と約束でもしているの?」
美咲は前を向いたまま笑みを絶やさない。私はその横顔をまじまじと見つめた。改めて美しい人だと思った。この人に似ているなら光栄だと思える程に。
ただ私には美咲が纏うオ一ラのようなものは無い。そこが私と美咲の大きな違いなのだろう。

「ええ、そんな所です。」
「大丈夫よ。そんなに時間はとらせないわ。恋人との約束の時間までには帰すから。」
車は少し走ると一軒の喫茶店の駐車スペースに止まった。
「お茶を一杯付き合ってちょうだい。」
美咲は車を降りて店の中へ入って行く。私も後に続いた。

店の中は薄暗く、コ一ヒ一のいい匂いがした。美咲は初老のマスターと挨拶をすると、一番奥の目立たない席に座った。私はテ一ブルを挟んで向かい側に座った。

美咲は紅茶を二つオ一ダ一すると、私を真っ直ぐ見つめた。
「私は吉野美咲といいます。もうご存知でしょうけど。」
「はい、存じています。光留ちゃんに聞いたので。」
「光留ちゃんに、ねぇ。・・・家庭教師が雇い主の客について尋ねたりするものかしら?」
「それは・・・あなたがあまりに美しかったので、どんな人だろうと思ったんです。」
美咲は声を上げて笑った。本当に楽しそうに。
「あなた、嘘が上手いのね。危うく騙される所だったわ。」
美咲は初めて笑みを消した。
「あなた、私を知っていたんでしょう?」

頼んだ紅茶が運ばれてきた。私は心臓の音が大きくなるのを感じた。なんとか冷静を保てるようにお茶を一口飲んだ。こんな時なのに、とても美味しいと思った。
「私はね、琴乃さん。全部知っているの。あなたと高科(たかしな)友香の関係も、全てをね。」

「どうして・・・?」
声が震えた。それだけを言うのが精一杯だった。

No.79 17/02/27 23:30
パンダっ子 ( UUqVnb )

「調べたのよ、もちろん。私が動き回った訳ではないけどね。」
「・・・・・。」
調べた?たった一度、しかもちらっと見た程度なのに?
「ごめんなさいね、最初に言うべきだったかしら。でも見てみたかったの、あなたがどんな顔をして嘘をつくのか。」

「・・・随分意地悪なんですね。でもどうして私を調べたんですか?ほんの少し見ただけなのに。」
「それはね、あなたが私を見た時目を見開いたからよ。自分でも分からなかったと思うけれどね。つまりあなたは私を知っていると思ったの。しかも、見た事がある程度ではなくてね。でも私の方はあなたに見覚えがなかった。」
美咲はそこで一旦話をやめてお茶を一口飲んだ。

「私、これでも記憶力には割と自信があるのよ。あなたは私が勤めていた学校には居なかった。だとしたら誰かから私の情報を得た事になる。あんな風に驚くのならよほどの事を知っているんだろうと思ったの。」
美咲は再び微笑んだ。
「あなたの大学と年齢を知って、その情報源が高科さんだろうと推察するのは難しくなかった。私が彼女の元カノだからこそ、あなたは驚いたのよね。」

私の表情からそこまで読み取ったのか。なんて人だろう。
「私は気になったら放っておけない性格なの。幸い時間的にも経済的にも余裕があるし、すぐに調べたら私の思った通りだったわ。」

「それで、私の素姓と友香との関係が分かったとして、どうして私にその話をするんですか?」
「それはまた会った時に話すわ。」
美咲は紅茶を飲み干した。

「また?私達また会うんですか?」
「そう言わないで。そんなに嫌わなくてもいいじゃない。まだ本題を話していないんだもの。」
「私の方はもう会う必要はありません。私・・・私と友香にとってあなたはもう関係の無い人なんですから。それに、勝手に私を調べたりして、はっきり言って不快です。」

私は財布から千円札を取り出してテ一ブルに置くと、立ち上がって美咲を見下ろした。
「さようなら。もう二度とお目にかかる事はありません。」
ひとつお辞儀をして立ち去ろうとした私を美咲は止めた。
「待ちなさい。あなた、友香とずっと一緒にいられると思っているの?」

美咲の思いがけない一言に、私はそのまま立ち尽くした。

No.80 17/03/02 12:44
パンダっ子 ( UUqVnb )

「座ってちょうだい。それに、そのお金もしまってくれる?時間をとらせたお詫びだからここは私に払わせて。」
私は大人しく座った。千円札も財布にしまった。友香の名前を出されて、立ち去る事も出来なくなった私は、半ばやけになっていた。

「さっきのはどういう意味ですか?」
「そのままの意味よ。賭けてもいい。あなたと友香の付き合いに未来は無い。」
「それはあなたが友香を奪ってしまうからですか?」
私の言葉に美咲はつまらなそうにわざとらしく溜め息をついた。

「あら、あなた察しがいいのね。その通りよ。私から話してあなたをびっくりさせたかったのに、残念だわ。」
「友香があなたに戻るなんて思えないんですけど。自分がどれだけ彼女を傷つけたか分からないんですか?」

「それは・・・次の機会にしましょう。あなたの連絡先を教えて。」
本当は二度と会いたくなかったが、今日はもうこの会話を続けたくなかった。冷静なふりをするのも疲れていた。

私は少し迷ってメールアドレスを書いたメモを渡した。電話番号は教えたくなかったからだ。
「次はあなたの都合に合わせるわ。都合のいい日を指定して。」
私は黙って頷いた。店を出ると美咲は駅まで送ると言ったが私はお茶の礼を言って足早にその場を立ち去った。

一人で考えるのは良くない。幸い私には摩耶という優秀なブレ一ンがいる。一刻も早く連絡を取りたかった。自分がこの事態に対して、一人で立ち向かっているのではないという確証がほしかった。そういう意味では、私が今会いたいのは友香よりむしろ摩耶だった。

美咲の車が視界から消えると同時に、摩耶に電話をした。美咲が私に会いに来たと伝えると摩耶は絶句したが、さすがに冷静だった。まずは事態の把握と今後の対応を決めようという事で、明日会おうと約束をして電話を切った。

摩耶に連絡をして私は少し落ち着いた。今日話しただけで美咲が一筋縄ではいかない人物だと分かった。更に再び友香に近付こうとしている。次に会った時、美咲が何を言い出すか怖くはあったが私だってむざむざと友香を取られる訳にはいかない。

私は美咲と戦う決意をした。

No.81 17/03/05 03:04
パンダっ子 ( UUqVnb )

「琴乃・・・何かあった?」
友香と肌を合わせた後、まどろんでいると友香が尋ねてきた。
(相変わらずこの子は勘がいい。)

「どうして?何もないけど。」
「本当に?私以外の何かに気を取られているように感じる。」
「ああ、それなら・・・この部屋、引っ越した方がいいかなあと思ってたんだ。」
私は友香の長い髪を撫でた。

「ええ?ここ気に入ってたじゃない。なんで今更?」
「うん、もっと友香の家に近い所にしようかな?って思ったの。」
本当は美咲にこの部屋を知られてしまって、見張られているようで嫌だからなのだが、それは友香に言えない。

「どうせだったらもっと防音設備がしっかりした所にすれば、もっと楽しめるかもね。」
「声を抑えなくて良くなるから?私は嫌だな、琴乃が声を出すのを我慢してる顔、大好きなんだもの。」
「もう!我慢するの大変なんだよ。」
私は友香の脇腹をくすぐった。友香は体を折って笑った。

「ごめん、ごめんって!お願いもう止めて。」
私は笑って友香をくすぐるのを止めた。
「友香は私が引っ越すの、嫌?」
「別に嫌じゃないけど・・・私の家から近い所よりも学校から近い所にしたら?」
「どうして?家のそばにきて欲しくないの?」
「ううん、学校のそばならルームシェアしてる子も多いから・・・一緒に住みたいな。駄目?」

私は飛び起きた。
「駄目じゃないよ!全然駄目じゃない。だけど大丈夫?家族とか反対しないかな?」
「その辺は大丈夫。家賃もちゃんと折半しようね。」
「やだ・・・嘘みたい、嬉しい。友香と一緒に暮らせるなんて。」
「琴乃は誰かと一緒に暮らしたりするの、嫌いかと思った。例え恋人でもね。」
「そうね、どちらかと言えば普段の暮らしの中に他人は入れたくないわね。だけど友香は別よ。未来を一緒に見たい人だもの。」
「普段の私を見たら百年の恋も冷めるかもね。」
「冷めてみたい。それくらいがちょうどいいかもしれないな・・・。」
最後の方は独り言のようになって、友香が聞こえないよと小さな声で言った。

No.82 17/03/07 19:44
パンダっ子 ( UUqVnb )

摩耶と約束したファミレスに先に着いたのは私の方だった。
「早いね、待った?」
時間ぴったりに摩耶は現れた。今日は凄くボ一イッシュに見えるな、と思った理由はすぐに分かった。髪がいつもより短いのだ。私から斜め前に見える女子高生らしい四人組が、摩耶をちらちら見ながらひそひそ話している。摩耶と一緒にいると割と起こる現象なので、もう慣れてしまった。

「摩耶、今日は一段とかっこいいんですけど。私達周りからカップルに見えてるよ、絶対。」
にやにや笑いながらからかってみると、摩耶は私の好きなちょっと困った表情になった。
「なんだ、死にそうな顔してると思ってたのに元気そうじゃない。」
「うん、元気だよ。開き直ったのかもしれないな。一人でうじうじしてても仕方ないしね。」

私は摩耶に昨日の美咲との話を包み隠さず話した。お金を置いて帰ろうとして失敗した事もちゃんと話した。かっこ悪いけれど、摩耶に事実を知っておいて欲しかったのだ。
「はぁ・・・また友香に近付くつもりなんだ。結婚生活が落ち着いて暇にでもなったかな。」

一通り話し終わると摩耶は頭を抱え込んでしまった。
「そんな・・・暇つぶしで私の恋人にちょっかい出されたらたまらないわよ。」
「それが出来てしまうのがあの人の怖い所だよ。でもこっちにも強みが無い訳じゃない。」

「美咲が、あ、年上の人だけど呼び捨てにするよ、恋敵だし。離婚したりしないっていう理由?」
「うん、それもあるね。だけどそれが一番の強みじゃない。琴乃と友香の繋がりがあの人が思ってるよりも強い事だよ。」
「それだけ?ちょっと弱い気がするな・・・。」
「弱くないよ、それが一番肝心なんだよ。多分美咲はあなた達の関係より、自分と友香の関係の方が深かったと思ってる。琴乃が美咲に似ているのがかえって良かったかもしれない。琴乃の外見だけで友香があなたを選んだと思ってる。」

「つまり私、舐められてる?美咲は私を自分の代わりにされてる可哀想な子だと思ってるんだ。」
「まあ・・・はっきり言うとそうなるよね。」

No.83 17/03/13 00:06
パンダっ子 ( UUqVnb )

「別に構わないよ。それが私の強みになるなら、いくらでもナメてくれて構わない。」
私の言葉に驚いたように、摩耶は少しの間私を見つめた。
「摩耶、私、覚悟を決めた。戦う覚悟。だから協力して欲しい。私一人じゃどうにもならないけど、摩耶が一緒なら何とかなる気がする。」

「何よ今更。友達だもん、当たり前じゃない。出来るだけ協力するから、心配しないで。」
摩耶の言葉が心強く感じた。摩耶は私を見てにこっと笑うと、話を本題に戻した。

「ところで、美咲はどうして旦那さんが居ながら友香に近付こうとしてるんだろう。」
「そこらへんはもっと情報を集めないと分からないよね。あの人、軽率な行動はしないと思うから何か理由があると思う。」
「やっぱりまだ情報不足だね。美咲と次に会う時に琴乃には色々聞いてもらわないと。」

「もう既に友香に接触したりしていないと思うけど・・・どう思う?」
「琴乃が何も感じて無いなら大丈夫だよ。私だって友香に何も相談されて無いし。」

「怖いなぁ、次に会ったら何言われるんだろう」
「いい話じゃない事は確かだよね。友香にまた近付くってだけで十分悪い話なのに。」
「・・・とにかく、何かあったらすぐに知らせるから。」

私と摩耶は美咲に対する対策を練った。少しでも良い状況で話が出来るように。こんなに真剣になったのは私の人生において、初めてかもしれなかった。

No.84 17/03/17 23:37
パンダっ子 ( UUqVnb )

予約をしていた居酒屋はなかなかに混んでいた。摩耶の言った通りだ。週末らしい喧騒の中、私の心は店に入る前より落ち着いてきた。

慣れた雰囲気の騒がしい場所を話し合いの場にしたのは摩耶の提案からだった。静かな場所だと大きな声も出せないし、何より私が美咲に飲まれる心配もある。出来るだけ私のフィールドで話す必要があった。

個室のドアが開いて美咲が入ってきた。この人の華やかさはどうやら場所を選ばないらしい。
「こんばんは。連絡してくれてありがとう。嬉しかったわ。」
「いいえ、お礼を言われる事ではありません。友香の名前を出されたら連絡しない訳にはいかないので。こちらこそこんな場所に来ていただいて、ありがとうございます。」
「騒がしい場所の方が話しやすかったりするものね。せっかくだから私はお酒をいただこうかしら。大丈夫、酔う前に話は終わらせるから。あなたは?」
「私もいただきます。お酒に弱くは無いので。」

私はレッドアイを、美咲はグラスワインを頼んでお酒が来るまで一言も口をきかなかった。
「友香はお酒を飲んだりするのかしら?」
届いたワインを一口飲んで、美咲が口を開いた。
「・・・時々。彼女はあまり強くないので本当にたまにです。」
「そう・・・。」
「あの・・・友香って呼ぶの、止めてもらえませんか?今は、その、他人の関係ですし。」

「あら、気に障った?はいはい、分かりました。高科さんね。」
美咲は肩をすくめた。その様子が余裕に見えて、私は少しイラついた。
「あの、また友香と付き合うつもりなんですか?」
「そうよ。もちろん彼女がOKしてくれれば、だけどね。」
「離婚するんですか?」
「しないわ。」
「愛人にするつもりですか?」
「そうよ。」

「あの、離婚もしないのに友香があなたに戻ると思っているなら、それは無理だと思うんですけど。どうしてそんなに余裕なんですか?」
「それは、月日が経ったからよ。高科さんもお酒が飲める位大人になった事だし、もう色々な事がわかってきたでしょう。」

No.85 17/03/19 01:09
パンダっ子 ( UUqVnb )

「色々分かってきたって・・・具体的に教えて下さい。」
「そうね・・・あなた、家族とは仲が良いの?」
「はい。普通に仲がいい家族だと思います。」
「高科さんと付き合っていると、あなたは家族に言えるの?」
「・・・それは・・・。」
「言えないわよね、分かるわ。私だって言えない。だから私は本当の感情を押し殺してまで、家族との絆を切らさない為に吉野と結婚したんだもの。」

「友香が今はそれを理解していると?だから友香もゆくゆくは普通の結婚をして、あなたとの不倫で気を紛らわすんですか?」
「家族の為よ。それを悟った同士なら、お互いの家庭を壊さず付き合えると思わない?」

「友香がそんな風に思っているとは、私には思えません。」
「・・・信じているのね。」
「はい。信じています。」
「今はそうではなくても、いずれその考えに行きつくとは思わないの?その時友香に捨てられる位なら、いっそ自分から別れようとは思わない?」

「あなたが友香を捨てたように、友香も私を捨てる日が来る。だから今のうちに身を引け、そうおっしゃるんですね。」
「あら、話が早いのね。その通り」
「嫌です!!!友香とは別れません。友香はあなたとは違います!」
美咲が言い終える前に、私は言い放った。耐えられなかった。こんな自分勝手な人間は見たこともなかった。

「あなた、自分が愛されていると本気で思っているの?あなたと私は外見が結構似ている。その意味を考えた?」
「・・・・・。」
「ここまで言いたくはなかったのよ。でもあなたが強情なものだから・・・。私が友香に会う前に、あなたの方から別れた方がきっと傷も浅いわ。」

「それでも嫌です。あなたは私と友香を別れさせて、その上でやすやすと友香を手に入れようとしている。私の為と言いながら、自分に都合のいいように私を動かそうとしているんです。」
私の言葉で美咲から笑顔が消えた。私は背中に冷たい汗が流れるのを感じた。

No.86 17/03/19 21:10
パンダっ子 ( UUqVnb )

私はそれでも止まれなかった。
「あなたがもし友香に近付いたら、私は迷わずあなたの旦那さんに言います。あなたが女の人を好きなのに、世間体で男性と結婚したと言います。」

美咲の顔に笑顔が戻った。
「私を脅す気?無駄よ、主人はそんなのとっくに知っているわ。それを承知で結婚したのよ。私達はお互いに恋人が出来ても離婚なんてしないのよ。」
「あなたが不倫をしようと、旦那さんは意に介さないわけですか。良いご関係ですね。」

美咲の余裕の理由が分かった。結婚相手に不倫を知られた所で、美咲には痛くも痒くも無いのだ。
打つ手が一つ減ってしまった。

「主人に話すと言えば私が思い直すと思った?残念だったわね。」
私は黙って唇を固く結んだ。美咲は店員を呼んでワインのお代わりを頼んだ。
「あなたも私も引かないのなら、仕方ないわね。友香に選んで貰うしかないんじゃない?」
「・・・そうですね。」

「ねえ、私と賭けをしない?」
美咲の目が怪しく揺れた。
「もし友香があなたを選んだら私の負け、私は二度と友香に近付かないわ。一生、死ぬまで。」
「・・・・・私が負けたら私が二度と友香に会わない。そうですよね。」
店員が入って来て美咲の前にグラスを置いた。美咲は手を伸ばさない。

「違うわ。あなたと友香さえ良ければ、付き合っていていいのよ。」
「??」
「私が勝ったら・・・あなたを貰うわ。」

聞いた瞬間、鳥肌が立った。

気持ち悪い。
目の前の美咲が、とてつもなく気持ち悪かった。
「お断りします。私は・・・冗談じゃない。あなた、おかしいですよ。私が友香に言ったらどうするんです?」
「もちろん高科さんに言ったら、約束は反故にするわ。あなたが勝っても、私は高科さんから手を引かない。」

「もし私が負けたら、私もあなたの不倫相手の一人になるんですよね?」
「いいえ、私もそんなに暇じゃないもの。一晩よ。一晩私のものになって欲しいの。」
美咲がテ一ブルの向こうから身を乗り出した。
「忘れられない夜にしてあげる。」

再び鳥肌が立った。私は自分の顔が引きつるのを感じた。

No.87 17/03/20 17:53
パンダっ子 ( UUqVnb )

「考えさせて下さい。・・・私にはすぐに決められません。考える時間を下さい。2日間で良いです。2日後に返事をしますので、今日は帰ります。」
美咲の顔を見れなかった。
見たら自分が石になってしまうと、半ば本気で思った。この人はきっと怪物なのだ。人ではない、私が会った事のない別の生命体なのだ。

美咲も帰ると言うので私達は一緒に店を出た。今日は私が無言でさっさと会計を済ませた。

「今日はごちそうさま。連絡待っているわ。それまでは高科さんに連絡したりしないから、安心して。それじゃあね。」
店を出ると雨が降っているのに気がついた。美咲は店の前でタクシーを拾うと、私にそう言って立ち去った。

雨に打たれて私は力無く歩いた。友香に会ってギュッと抱きしめたかった。強く強く、痛いほど抱きしめてもらいたかった。

美咲の話が終わったら電話をすると約束していたのを思い出して、私は摩耶に電話をした。
すぐに行くと告げて、私は駆け出した。ただ一目散に、摩耶の家を目指した。

「ちょっと、タクシーで来なかったの?びしょ濡れじゃない!服貸すからお風呂入りなよ。今夜は泊まって行けばいいよ。」
摩耶は私を見て驚いたようだった。その様子が可笑しくて、私は今夜初めて笑った。
「摩耶・・・お母さんみたい。」
「お母さん?ちょっと酷くない?まあいいや、だったらお母さんの言う事聞いて。」
摩耶のおかげで私は元気を取り戻した。
「本当にお母さんみたい。」
お風呂の中で呟くと、自然と笑みがこぼれた。

私は摩耶に、ゆっくり丁寧に美咲との話をした。全部を話し終えても、摩耶は口を開かなかった。ただ私を見つめていた。
「どうするつもり?賭けの事も含めて、私から友香に話そうか?」
しばらくして、摩耶がおずおずと聞いてきた。確かに、それが一番良い解決法だと思う。だけど、私は首を立てに振らなかった。

No.88 17/03/23 07:20
パンダっ子 ( UUqVnb )

「・・・友香には言わないで欲しい。」
「何で?美咲が言った事、そのまま友香に伝えたらいいじゃない。友香だって、この話を聞いたら美咲の誘いを断るに決まってる。そしたら、美咲を友香から遠ざけられるんだよ。」
摩耶の判断はもっともだった。

「それは、分かってる。痛いほど分かってる。だけどそれは、不倫はいけないとか、美咲が理不尽だとか、人としての善悪の判断をしたに過ぎないと思うの。」
そして、それは友香の本心を隠してしまう。
「だからつまり、何も知らない友香が私を選んでくれたら、私は本当の意味で美咲に勝ったと言えないかな?私は友香を信じたい。ううん、友香を信じているから、信じ続けたいの。もう、美咲の影に怯えながら付き合うのは嫌なの。」

「私だって友香を信じてる。私が余計な心配しなくても、大丈夫だって思ってる。だけど・・・だけどね、万が一って事もあるかもしれないんだよ。恋人でも友達でも、絶対なんて有り得ないんだよ。だったら、可能性の高い方を選ぼうよ。」
摩耶はいつだって冷静だ。だから摩耶に従っていれば間違いないと思う自分もいるのだ。

「摩耶・・・あなたは正しい。だけどね、どうしても友香の本音が知りたいの。だからお願い。友香には言わないで。」
「負けたらどうなるのか、覚悟の上で言っているの?」
「・・・不思議とそんなにこわくない。友香を失う痛みに比べれば、そんなのどうってことない。」

それはもちろん強がりだった。美咲のあの眼差しが一瞬のうちに蘇ってきて、私は密かに身震いをした。

No.89 17/03/25 06:34
パンダっ子 ( UUqVnb )

「・・・分かった。もう何も言わない。琴乃にその覚悟があるなら、私は見守るしか無いよね。」
「ごめん、摩耶。でも大丈夫。大丈夫だから。」
摩耶にしては、友香を試しているようで後ろめたくもあるのだろう。大切な友達をこんな事に荷担させてしまって、摩耶には本当に申し訳ないと思った。

「・・・美咲にメールする。」
「・・・・・。」
摩耶は頷いたが、表情はまだ固かった。
私は美咲に賭けに乗るとメールをした。

布団に入っても一向に眠くならずに、薄暗い天井ばかり眺めていた。隣のベッドには摩耶が寝ていたが、やはり眠れないのか寝返りを打つ音ばかりしている。床に敷いた布団に寝ている私には、その姿は見えない。
「琴乃、・・・起きてる?」
摩耶の声がした。私は上体を起こした。ベッドの上で摩耶がこちらに体を向けていた。
「・・・眠れないんだ。友香を信じてるって言ったばかりなのに、ダメだね私。自分で下した決断なのに、不安になってしまう。」
摩耶は手を伸ばして、私の肩を軽く叩いた。

「あのね、このタイミングで悪いんだけど、聞いて欲しい話があるんだ。」
「うん。私でいいなら話聞くよ。神崎さんと何かあった?」
神崎さんとは摩耶の彼氏の名前だ。優しくてカッコいい彼氏だと友達の間で評判だった。
「うん。私、隼斗(はやと)と別れた。」
「え?いつ?」
「1ヶ月くらい前だったかな。」
「そんな前に?何で言ってくれなかったの?別れた理由は?」

摩耶が起き上がってベッドに腰掛けた。摩耶の表情は分からない。
「隼斗はいい奴だと思う。私、愛されているなぁって思う瞬間が幾つもあった。・・・だけど私がダメなんだ。私は隼斗の事、愛してなかった。あんた達を見てるとさ、時々自分が分かんなくなった。何で隼斗と付き合っているのか。あんた達はお互いにすごく相手に対して真剣でしょ?自分より相手を大切にしてる。だけど私は隼斗に対してそんな風に思った事は無かった。もし振られたって、少し寂しく感じるくらいで涙も出なかったと思う。」

「・・・そんなの全然気がつかなかった。2人、お似合いだなっていつも思ってた。付き合いを続けるうちに摩耶の気持ちが強くなるかもしれないとは思わなかったの?」
「・・・少しだけ思った。だけど、それにはすごく時間が掛かる気がした。その時間が経っていくうちに、隼斗の気持ちはどんどん覚めていく。」

No.90 17/03/27 17:09
パンダっ子 ( UUqVnb )

「好きになれるかもしれないなんて、そんな恋愛じゃ隼斗に失礼だなって気付いて、別れた。別れても涙も出ない。真実じゃないからだよ。だから私はあんた達が羨ましい。私も、誰かに愛してるって心の底から言える恋愛がしたい。」
摩耶の思いがけない告白は、私の心を熱くした。

「・・・摩耶にも絶対居るよ。運命の人。」
「あんた達みたいに?」
「・・・それは、まだ分からないよ。友香の答えが出ないと。」
「さっき友香に打ち明けるべきだとか言っといてなんだけど・・・」
摩耶は私を抱きしめた。
「あんた達は運命の人同士だよ。私はずっと見て来たんだ。友香も琴乃も誰よりもお互いを大切に思ってる。大丈夫。私が保証するよ。」

「ありがとう摩耶。摩耶がそう言ってくれて、すごく心強いよ。」
心が一気に軽くなった。摩耶が恋人と別れたと知って残念にも思ったが、それも摩耶の決意なら応援したい。別れ話を私達にしなかったのは摩耶の優しさと配慮によるものだ。私が美咲の事で揺れている状態だから、言わないでいてくれたのだ。

「友香に聞いたよ。2人、一緒に暮らすらしいね。引っ越ししたら遊びに言っていい?」
「摩耶だったらいつでも歓迎するよ。ごはん作ってあげる。」
「琴乃ってさ、夏の旅行で分かったけど料理上手いよね。アウトドアも慣れてるし、片付けも嫌がらないし、一緒に暮らすには最高かもしれないね。」
「なんかそんなに誉められると適当なものは出せないなー。逆に緊張しちゃうよ。」

摩耶と普通の話をしていると本当に何も心配要らない気がしてきた。美咲がどんな風に友香を口説くのか、気掛かりではあるものの、友香を信じていれば間違いないと思った。

No.91 17/03/29 00:09
パンダっ子 ( UUqVnb )

朝、目が覚めて思った。週末に友香と一緒に居ないのはいつ以来だろう。美咲の話がどうであれ、もやもやした気持ちのまま友香に会いたく無かったので週末は実家に帰ると言ってあった。一人で部屋に居たくないので、摩耶に付き合ってもらって買い物をして映画を観た。

夕方家に帰り、簡単に夕食の準備をしていると、スマホが鳴った。友香からかもしれない。しかし、表示された番号に見覚えはなかった。いつもなら放っておくのに、今日はなんだか胸騒ぎがして私は電話に出た。
『ああ良かった。出てくれたのね。』
電話をかけてきたのは美咲だった。なんだか声が弾んでいる。私はその明るい声に嫌な予感がした。
『勿体ぶらずに言うわね。友香は私の申し出を受け入れたわ。賭けはあなたの負けよ。』

ドラマのようにスマホを落とす訳でもなく、私は今美咲が言った言葉の意味を探して反芻していた。

受け入れた?友香が私より美咲を選んだ?

「嘘・・・・・」
呟いた自分の声で我に返った。電話の向こうから美咲のクスクス笑う声が聞こえる。
『嘘じゃないわよ。この番号だって友香に教えて貰ったのよ。ああ、友香から伝言があるのよ。あなたの部屋にある友香の私物は処分して欲しいそうよ。』

思わずクローゼットに視線が行った。処分。もう友香がこの部屋に来る事は無いのだろうか。
『琴乃さん?聞こえてる?』
「・・・はい。」
『あなたが負けた時の約束、覚えてるわよね。今から来てくれない?』
「今からですか。」
『急で悪いとは思うんだけど、時間が経ってからよりも今の方がいいと思うのよ。あなただって嫌な事は早く済ませてしまいたいでしょう?』

そうかもしれない。と痺れた感情で思った。友香を失ったばかりの今なら、何をされても何も感じないのではないかと思った。
「何処へ行けばいいですか?」
『話が早くていいわ。住所をメールするから、そこへ来てちょうだい。すぐに出られる?』
「はい。すぐに伺います。」
電話を切ると、私は出かける準備をして外へ出た。メールされてきた住所をタクシーの運転手に告げ、私は深くシ一トにもたれた。

No.92 17/03/30 10:05
パンダっ子 ( UUqVnb )

摩耶には事後報告にしようと思った。今連絡をしても摩耶は困るだけだ。私にどう言葉を掛ければいいか当惑してしまうだろう。

友香はどういうつもりだろうか。私物を処分するなら、自分ですればいいのに。それすらも嫌なら、私という存在は友香にとってなんだったのか。あの誠実に見えた態度も、真実味を帯びた愛の言葉も、息を吐くようにつき続けた嘘の産物なのか。

「お客さん、着きましたよ。」
いつの間にかタクシーは美咲の指定した住所に着いていた。このマンションの七階に、美咲が待っている筈だ。私はのろのろとタクシーを降りると、美咲の部屋に向かった。

美咲の部屋はどこかのモデルルームのようで、生活感というものが全く感じられなかった。私のイメージする新婚家庭とはかけ離れている。
「この部屋は私が独身の頃住んでいたの。もともと父の持ち物なんだけど、今は私が自由に使わせてもらっているわ。」
私の表情から心を読んだのか、美咲が言った。

美咲は楽しそうだった。私はみっともないと思いつつ、聞かずにはいられなかった。
「吉野さん、友香の弱みでも握っているんですか?」
「・・・私が友香を脅して言う事聞かせていると思ったの?そんなに受け入れられないのね、友香の決断を。でもね、友香が選んだのは私。あなたは私の身代わりでしか無かったのよ。」

私は自分があまりに惨めで情けなく思えてきた。美咲にだめ押しされるだけなのに、聞かずにはいられない自分に腹が立った。
「・・・ところで、ここへ来たからには覚悟が出来ているのよね。」
美咲が近寄って来た。どうやら私には自己嫌悪する時間すら無さそうだ。私ははっとして後退りしそうになるのをぐっと堪えた。

「こっちへ来て。」
美咲に促されて寝室に入る。しわ一つ無い真っ白なシ一ツのダブルベッドが置かれていた。
ここで、友香は美咲に抱かれていたのか、そしてこれからも抱かれるのか、そんな思いが頭をかすめた。

No.93 17/03/31 01:41
パンダっ子 ( UUqVnb )

私はジャケットを脱いでブラウスになった。美咲がベッドに私を座らせた。
「あ、シャワーとか・・・」
「いいの、そのままで。」
美咲が私の肩を押した。仰向けに倒れた私のブラウスのボタンを上から順に外していく。美咲の指先が素肌に触れる度、虫が這いずったような嫌な感覚を覚えた。友香との時のような、甘い期待に満ちたくすぐったさは無い。

ああ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌嫌だ嫌だ嫌だ、嫌だ一一一!!!!!!!!

友香を奪った憎い女に、更に私の身体を好きなようにされてしまう。
屈辱、羞恥、混乱、嫌悪。
でもこの事態を招いてしまったのは他ならぬ自分なのだ。

美咲の表情を見たくなくて、顔を横に向けた。嫌だと思っても、自然に涙が出てくる。
ボタンを半分ほど外して、美咲は鎖骨を指先でなぞった。
「あなた、肌が綺麗ね。白くてきめが細かいわ。」
美咲はブラウスに手を滑り込ませ、ブラジャ一の上から乳房に触れた。
「ほら、大きな胸が早鐘を打ってる。あなたも案外楽しみにしていたのかしら?」

美咲は私の顔を自分に向けさせた。声がうわずっている。私の上に馬乗りになると、顔を近づかせてきた。涙でぼやけた視界に、真っ赤な唇がゆっくり降りてくるのが見えた。私はぎゅっと目を瞑った。

『ピンポーン』
ドンドンドン!!! ガチャガチャ!!!

突然玄関のチャイムが鳴った。ドアを叩いてドアノブを乱暴に開けようとする音もする。目を開けるととっさに起き上がった美咲の当惑したような顔があった。

再びチャイムの音、今度は続けて何度も押している。美咲は私の上から降りると、私をちらりと見て玄関に向かった。

ひとまず助かった私は、大きく息を吐いた。力んでいた肩が落ちた。

「ちょっと!! 待ちなさい!!!」
美咲の大きな声がした。続いてこちらへ近づいて来る乱れた二人分の足音。私は驚いてベッドに起き上がった。

バン!!!

寝室のドアが勢い良く開いた。友香が険しい顔をして、肩で息をして立っていた。

No.94 17/04/01 23:18
パンダっ子 ( UUqVnb )

友香は驚いて声も出ない私の顔を見た。そしてブラジャ一が露わになった胸元を見た。
そして険しい表情のまま、傍らに立って腕組みをしている美咲を見た。
「先生、これはどういう事なんですか?」
「これは・・・彼女が誘惑してきたのよ。」

「っ嘘よ!」
「嘘言わないで!」
私と友香が同時に叫んだ。私は立ち上がってブラウスの前をしめた。
「琴乃、大丈夫?」
「うん。・・・友香ごめんね。これは、私と吉野さんとの賭けの代償なの。・・・あなたが彼女を選んだら、私は一晩だけ彼女のものになると約束していたの。」

友香は美咲に歩み寄ると、いきなり平手で美咲の頬を張った。
「私が、いつ、あなたを選んだっていうの!?・・・あなたはいつも嘘ばかり、いい加減にしてよ、この卑怯者!!!」
 
友香は美咲を目の前で怒鳴りつけた。美咲は頬を押さえて呆気にとられた表情で友香を見つめている。
「友香、ねぇ友香、目を覚ましなさいよ。この子を選んであなたに何の得があるというの?あなたは私を忘れられなくて、私に似たこの子と付き合っていたんでしょう?もうその必要は無いのよ。私達、あの頃みたいに上手くやっていけるわ。」

「・・・かわいそうな人。そんな風に損得でしか人と付き合ってないから、自分がどんなにおかしな事を言っているのかわからないんだわ。」
友香の冷ややかな目と声が美咲をたじろがせた。
「分かって下さい。琴乃は先生よりもずっと美しいんです。見た目だけじゃなく、人としての佇まいがそうなんです。私は琴乃に出会って、先生との付き合いはむしろ琴乃と出会う為の布石としか考えられなくなりました。だから、あなたの思い込みは迷惑なんです。私と先生との関係は、もはや過去の出来事として私の中で清算されています。もう私は琴乃以外の誰も愛せないんです。」

美咲は壁に寄りかかって、脱力したようにズルズルと滑り落ちた。
「行こう、琴乃。賭けは琴乃の勝ちだから、もうここに居る意味は無いわ。」
友香は私のジャケットを掴んで、手のひらを差し出した。
私はその手をとり、二人で手をつないで寝室を出た。

No.95 17/04/06 00:58
パンダっ子 ( UUqVnb )

玄関を出る前、振り返って美咲を見た。美咲は廊下の壁に寄りかかったまま、暗い眼をして私達を見ていた。
「不幸になればいいのよ。」
美咲の呟いた一言が先に出た友香に聞こえていなければいいと思いながら、私は美咲のマンションを出た。

友香はエレベーターの中でも、タクシーの中でも、繋いだ手を離さなかった。それなのにずっと無口で、私の顔も見てくれない。結局私の部屋に着くまで一言も口を聞いてくれなかった。

私達は部屋に着いてもしばらくは黙ったままだった。友香は多分怒っているのだろうし、私は私で友香にかける言葉が見つからない。
結局友香が喋り出してくれるまで待った。

「始めから話して。私はまだ分からない事だらけで混乱してるから。」
向かい合って座った友香は、やっと口を聞いてくれたのにまだうつむいていた。
私は美咲との出会いから今日に到るまでの出来事を、細かくゆっくり話した。話しながら、今日までの時間が思ったよりずっと短かった事に驚いていた。
友香はうつむいて、それでも時々頷きながら聞いてくれた。

話し終わると、今度は友香が自分に起きた出来事を話した。
「夕べ、かなり遅い時間にあの人から連絡があったの。私は電話番号を変えていたから家の電話にかかってきて、私とやり直したいと言ってきた。私はもちろん断ったわ。冗談じゃない、私には恋人がいるから、もう二度と連絡しないで欲しいと。一方的に言って電話を切った。」

友香は美咲を拒んだのだ。改めて心がすっと軽くなった。
私はどうして友香が美咲のマンションに現れたのか聞いてみた。
「それは本当に偶然だったの。摩耶の家に行こうとしたら琴乃が乗ったタクシーが信号待ちしていて、琴乃は私に気づいていない様子だった。そのまま走り去ってしまったけど、土曜の夜に実家から帰って来たのなら私に連絡してくれる筈だからおかしいと思ったの。何だか胸騒ぎがして電話しても出ないし、これは本格的におかしいと思ってタクシーでとりあえず追いかけてみたけど一度見失ってしまって、その時あの人のマンションが目に入って、昨夜の電話も偶然じゃない気がしたの。それであの部屋に行ったのよ。」

友香が来てくれなければ今頃・・・
そう思うとぞっとする。今思えば美咲は変に急いでいた。嘘がバレる前に私をどうにかしたかったのだろう。

No.96 17/04/08 08:57
パンダっ子 ( UUqVnb )

「どうして私に連絡してくれなかったの?」 
友香の声が震えている。それ程怒っているのかと思って恐る恐る顔を見ると、友香は涙目になっていた。
「ごめんなさい。あなたを信じていると言いながら、あなたを試した。何も知らないままあなたが美咲をはねつけてくれたら、私はもう二度と美咲の影に怯えずに済むと思った。」

「私が琴乃よりも先生を選んだと、本気で思った?嘘をついているのがあの人だとは思わなかったの?」
「私、何故かあの人を疑わなかった。あの人が私の番号を友香から聞いたとか、友香が私の所にある私物を処分するように言っていたとか、それらしい事を言われて簡単に騙されてしまった。あなたを欺いていた人なのに・・・もっと警戒すべきだった。反省してる。」

「反省してる?それで済むと思ってるの?何をされたか分からないのよ。賭けの代償だとか、そんなのどうでもいいよ!無視していれば良かったのに。」
「本当にどうかしてたわ。泣かないで。私が馬鹿だった。私、あなたに事実確認をするのが怖くてすぐに連絡出来なかった。これで終わり、もう会わないなんてあなたの口から聞きたくなくて・・・・。それに、もしかしたら・・・本当に最後だったら・・・もう一度だけあなたに抱かれたくて、その前に美咲と済ませておきたかったの。思い出にするなら、あなたとがいいと思ったの。」

こんな事、友香の目を見て言えない。私は視線を逸らして、少しだけ開いたカ一テンの隙間から外を見ていた。
「私、美咲の話が嘘で本当に良かったと思った。嘘をつかれた事よりも、あなたが私を選んでくれた事が嬉しくて嬉しくて、あなたが来てくれて美咲と何も起こらずに済んだ事が奇跡みたいで、こんな時なのに今凄く幸せなの。」

「何も無かった訳じゃないよ!琴乃、泣いてたじゃない。胸元も見えていたし、全然間に合ってないよ!」
友香は乱暴に立ち上がって私の腕を掴んだ。
「来て。」
友香はベッドの上に私を押し倒した。
「何をされたの?どんな風に触られた?」
友香が私のブラウスのボタンを、あの時と同じ位置まで外した。

No.97 17/04/08 17:32
パンダっ子 ( UUqVnb )

泣きながら、友香は私の顔を見下ろした。涙が雨の雫みたいに私におちてきて、温かく頬を濡らした。
「大丈夫よ。服の上から胸を触られただけ。キスもされていないわ。」
「それでも嫌なの。私の琴乃が、よりによってあの女に触れられたなんて。許せないのよ。悔しいのよ。」
私は腕を伸ばして友香の頬に触れた。

「許して、友香。私も悔しい。あなたを苦しめてしまって、どう償えばいいのか分からない。」
「お願い。もう二度と、私以外の誰かに肌を晒さないで。私だけを信じてよ。こんなに苦しいのは、もう嫌なの。こんなに嫉妬して、みっともない感情をあなたに見られるのも、嫌なのよ・・・。」
「約束するわ。ごめんね。もう迷わない、あなただけを信じて、愛するわ。」

嫉妬して泣いている友香を、それでも美しいと思った。
「私、あなたの側にいて良いのね。」
自分で言って、涙が出た。

私は自分で服を脱いだ。電気も消していない、明るい部屋で友香に全てを見せたかった。不思議と恥ずかしさはなかった。私のこの身体を、友香は愛しているのだという自信が、私を大胆にさせていた。
「今日、あの人に触れられた時、突き飛ばして逃げてしまいたかった。嫌で嫌でたまらなかった。だから忘れたいの。お願い。忘れさせて。」

No.98 17/04/15 09:33
パンダっ子 ( UUqVnb )

私は友香の耳元で囁きながら、彼女の服を脱がしていった。
美咲を嫌悪していたのは本当だったが、実はそれほど気にしてはいなかった。あの時、友香が美咲の頬を叩いて嘘つきと叫んだ瞬間、私は救われていた。やっぱり友香は私の運命の人だと思った。
だから今心を痛めているのはむしろ友香なのだ。美咲が私にした事、私が友香を試した事、友香が知らないまま終わる筈だった出来事が友香を引っ掻いて傷つけていた。

裸になって抱き合うと、友香の温もりが痛い程愛しかった。
「私はあなただけのものよ。あなたも私だけのもの。」
友香の目が再び潤んでいく。私の言葉に頷いて、少し微笑んだ。
「そうよ。だから・・・離れないで・・・」
離れたりするものか。あなたを離したりしない。

答えの代わりに、友香の唇を塞いだ。指が自然に降りて、友香の胸に触れた。友香の手も私の胸に触れている。初めてみたいに心が高鳴った。
私達はお互いの顔から目を離さず、手探りで愛撫を続けた。静かな波のような快感が、徐々に押し寄せて来る。私達は交互に、あるいは一緒に、その波に身を委ねた。友香の感じている表情は本当に綺麗で、艶やかで、私の目を釘付けにした。

「もう・・・だめ、我慢出来ない・・・」
友香が呟いて私にしがみついた。私も我慢できずに達した。私達はそのまま抱き合っていた。いつまでもこうしていたかった。

No.99 17/04/22 02:30
パンダっ子 ( UUqVnb )

あまりにも忙しかった一日が終わろうとしていた。私も友香もまだお互いの身体を離したくなくて、身体のどこかしらをくっつけたまま横たわっていた。

美咲に友香が放った言葉を思い出す。
『もう琴乃しか愛せない』
私はあの場面を一生忘れないだろう。何度思い出しても嬉しさに心震えるだろう。

友香が言ってくれた沢山の嬉しい言葉の中でも、今日ほど記憶に残るものは無いはずだ。私に語られた言葉ではないのが、余計に印象を強くさせている。
友香を抱く手に自然に力が入った。

「友香、今日はありがとう。」
友香は首をよじって私を見た。
「どうしたの?急に。」
「うん。まだお礼が言えてなかったから・・・。言いたかったの、どうしても。助けてくれて、本当にありがとう。」

「・・・怖かった?」
友香がぽつりと聞いた。
「うん。凄く怖かった。でもそれよりもあなたを失った事が辛くて、半ば自暴自棄だったかもしれない。私なんて、もうどうなったっていいって思ってたから。」
「あの人は、琴乃に惹かれたのよ。だから・・・賭けの勝敗に関わらず、琴乃としたかっただけよ。嘘ついて騙してまで。」

私の意見は友香とは違った。
「そうじゃないわ。あの人はどんな手を使ってでもあなたを手に入れたかったのよ。私とあの人が関係を持ってしまったら、あなたと私の間に必ず溝が出来てしまう。そこを狙ってあなたを私から奪い取ろうとしたのよ。」
「・・・馬鹿みたい。何をしても無駄なのに。私と琴乃はそんなつまらない理由で別れたりしないのに。」
友香が私の手を握った。

「そうね。別れたりしないわ。あの人がどんな卑怯な手を使っても、私は友香を離さない。」
「・・・嬉しい。」
友香が私にキスをくれた。
「私ね。今日またあなたに惚れ直したわ。あなたがあの人に言った事、本当に嬉しかった。・・・もう一度聞かせて。お願い。」
私は友香を見つめて言った。

「・・・私は琴乃しか愛せない。」
「・・・もう一度。」
「私は琴乃しか・・・愛さない。」
「・・・ありがとう。私もよ。私も、あなたしか愛せないわ。あなたしか・・・」
友香が私の唇をキスで塞いだ。

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