いつか解き放たれる時まで…③続き
こちらで③の続きを書かせていただきます。思いの向くまま書かせていただいておりますので、更新もおそくなったりしています。読んでいただいている皆様ありがとうございます。
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“何時頃帰っても大丈夫ですか?。言われた時間に帰りますので連絡下さい。”
雅樹さんにメールを送った。
お店は空いていてすぐにゆったりした椅子に案内された。
『今日はどうしますか?』
背の高い細身の男性にドキッとしてしまう…。
『あっ…、あの、短くしたいので結構切って下さい。』
『えっ、いいんですか?。もったいないですね。』
『大丈夫です。お願いします。』
色々とカウンセリングをして私はボブにする事になった。
この人…かっこいい…。
細くて長い指で髪をすくわれるたびにドキドキしてしまう自分が恥ずかしい。
『今日は買い物とかですか?。』
『はい…。』
『仕事休みとか?。』
『仕事してないんです。』
『ん?、主婦とか。』
『そんな感じですかね…。』
会話が続かない。
ごめんなさい…。
でも顔はきっとニヤニヤしていた。
アシスタントの子が居たようだけど、彼はカットが終わって流してくれた。
『熱くないですか?』
『大丈夫です。』
優しい彼の指に癒されて私は至福の時を過ごした。
髪を乾かす頃には辺りはすっかり暗くなっていた。
『短いのも似合いますね。』
『そうですか?。良かった…。』
上着を着せてもらう時も会計をする時もずっとドキドキしていた。
『またお願いします、ありがとうございました。』
笑顔で見送ってくれた彼に私は恋をした。
幸せな気持ちにさせてくれた事に感謝した。
これから彼とどうなりたいかとかではない。
髪がかなり軽くなった。帽子も必要ない。
これからは上を向いて歩こう…。
“遅くなってごめん。藍斗がママと離れたくなくて今日は向こうに連れて行ったよ。いつでも帰って来ていいよ。”
雅樹さんからメールが入っていた。
私はそのまま家に帰る事にした。
雅樹さんびっくりするかな?。
『ただいま戻りました。』
『あれっ??、どうしたの?。髪切ったの?。』
『どうですか…。』
『似合うじゃん…、可愛い可愛い。』
ちょっと本当っぽくて嬉しい。
『今日のお礼です。』
雅樹さんにおみやげの名刺入れを渡した。
『えっ…、わざわざ買ってくれたの?。』
『良かったら使って下さい。』
『千鶴俺に気を遣ったんだね、いいんだよ。』
『あと藍斗くんにも買って来たんだけど、後で渡しましょうね…。』
『ごめんね、せっかく…。明日連れてくるはずだから。』
『あの…。』
『ん?、何。』
『サインして行かれたんですか…。』
雅樹さんは頷いた。
『あの…、なんて言っていいかわかりませんが、お疲れ様でした…。』
『ありがとうございます。これからは堂々としていていいからね。俺も千鶴に遠慮しないから!。』
そう言うと雅樹さんは私を抱き締めキスをした。
『今日は二人だけだから…。いっぱい抱き締めていい?。』
ドキドキはしない。
でもあたたかい…。
私雅樹さんを愛せるかな…。
>> 11
雅樹さんより早く起きてメイクをする。
きちんと着替えもして綺麗な私で見送る。
そう決めたのだった。
朝食の片付けをすると、新聞を見ながらゆっくり紅茶を飲んだ。
私はテレビを見るよりはラジオが好きだ。
ラジオなら何かしながらでも情報が耳に入ってくるし。
スーパーのチラシを見ると今日は月曜日なのに安い店を見つけた。
歩いて行ける場所かな…。
奥さんはもうこの家に戻って来ないとしたら、私物はないということかな。
奥さんが選んだ家財や家電をそのまま使うのもちょっと気が引けた。
アイロンからホームベーカリーまでそのまま置いて行ったようだ。
別れてどんな暮らしをするのだろうか。
高そうな掃除機はあっという間に家中を綺麗にした。
掃除機をかけて、水周りを綺麗にして私はチラシのスーパーに行く事にした。
散歩をしている人に場所を聞いた。
方向音痴な私は間違って戻ったりしたけど、無事にそのスーパーに着いた。
安くてボリュームのある献立を考えるのは大変だ。
毎日買いに来る訳にはいかないから使いまわせる食材を買わなければ。
お肉の所を見ていると、一人の妊婦さんが目に入った。
あの人は…。
この前昌仁のアパートで見かけた人…。
多分そうだ。
私は変な汗が出て来てドキドキした。
まさか昌仁まで一緒なわけないよね。
怖くなって私はスーパーを出た。
少し足を伸ばせば来れない場所ではないはず。
そして節約を意識して生活している昌仁の事だから安いスーパーで買い物をするのが好きなはず。
ここは常連なのかも知れない。
>> 15
手にしたカゴを戻し足早に店を出る。
でも…、一緒に買い物に来ているなら。
一目見たい…。
元気な顔を見たい…。
きっと私の事なんて思い出す事もないでしょう。
可愛い奥さんと生まれて来る子供の事だけしか考えてないよね。
隣の本屋に入り立ち読みするふりをしながらスーパーの出口をずっと見ていた。
昌仁らしき人物には会えなかった。
奥さんの姿も見失った。
無駄な時間を過ごした気がした。
結局チラシにも入ってこない帰り道のスーパーで適当に買った。
私は何がしたいの?。
なぜ過去にしがみついているの?。
後悔しない生き方をするんじゃないの?。
本当は誰が好きなの?。
そう、私の心はまだ諦めきれずにいた。
『ただいまっ。』
『おかえり。あき…ごめん。なんか、お腹張って休んでたからまだご飯作ってないの。』
『、、、、、、。』
『お前さぁ、一日中何やってんの?。ずっと寝てたのか?。』
『違うよう。ちゃんと買い物してきたよ。今日カレーにしようと思って材料買ってきたよ。でも歩いて来てアパート着いたら具合悪くなっちゃったの。』
『飯は?。』
『今から作るから。ちょっと待ってて?。』
『今から作ったら何時になんだよ。お前おせーし。』
『あき…ゴメンね?。』
『いいよ、外で適当に食って来るから。お前寝てろ。』
『あき、ひどいよ。私赤ちゃんいるんだよ。たまにはあきだって作ってくれてもいいじゃない。悪阻だってまだあるのに。』
『最近家でまともなやつ食ってねーし。』
みゆは泣いた。
『あきって冷たいよね。付き合ってた頃は優しかったのに。』
『あのなぁ…、俺は仕事して来てクタクタなわけ。なんなの?。ワイシャツはアイロンかけてねーし、ゴミもちゃんと出してねーし。飯ぐらい作っとけよ。』
『あきにはわかんないよ‼︎。』
みゆはテーブルにあった雑誌をあきひとに投げつけた。
『バスはすぐそこの公園のとこまでは来てるんだ。うちの他に3人くらい乗ってる子が居るって聞いたかな。』
『そうなんだ。』
『うちのやつさ、お母さん達と合わなくて毎日送り迎えしてたよ。なんか合わせるのが大変だって言ってたかな。』
私の予想通りの展開だ。
『私も実は結構人見知りで、その…、出来たらバスじゃない方が助かるっていうか。』
『そりゃそうだよ。藍斗君とどういう関係ですか?なんて聞かれても困るしな。』
『うん。俺が送り迎えは責任持ってやるから。ただ出張とか居ない時は千鶴にお願いしたい。』
『はい。』
その時は仕方ない。
『運転は出来るの?。』
『一応出来るけど…。』
『軽自動車でも良ければ探してあげるよ。』
『えっ…、いいの?。』
雅樹さんは笑みを浮かべた。
>> 23
幼稚園は夜の6時まで預かり保育をやっているらしく、雅樹さんは毎日仕事の合間をみて迎えに行ってくれた。
バスならば本当は楽なのに。
私のわがままで雅樹さんに負担をかけていた。
『藍斗くん、バスに乗って幼稚園行きたい?。』
洗濯物をたたみながらゲームをする藍斗君に話しかけた。
『バスやだ。だって⚪️⚪️くんたたくもん。』
『叩くの?』
『うん。たたくし藍斗の仮面ライダーのティッシュ幼稚園でとったもん。』
『返してくれなかったの?。』
藍斗君は黙って頷いた。
最近ティッシュを持っていかないのはそのせいなのかもしれないと思った。
バスで行きたくない理由があってちょっぴりホッとした。
藍斗君ははっきり嫌だとかやめろとか言えない性格なのかもしれない。
同じバス停にそんな意地悪な子がいるとなると余計面倒臭い。
親ともギクシャクしてしまいそうだ。
『今日ね、発表会の練習したよ。』
『発表会?。発表会あるの?。』
『うん‼︎、お姉ちゃんパパと見に来てね‼︎。』
藍斗君は嬉しそうに話した。
雅樹さんは分かってるかな…。
今日話さなくちゃ。
雅樹さんから仕事で遅くなると電話が来て、私は藍斗君と二人でご飯を食べてからお風呂に入った。
一人で入らせるわけにはいかず、タオルで隠しながら一緒に入った。
歯磨き、絵本、寝かしつけ…。
自分の子供のように接した。
こんな風に梨華にはしてあげなかったな…。
今となってはもう遅い。
深い深い親子の溝を自ら作ってしまった。
私のことは忘れてほしい。
こんな、身勝手な母の事なんか…。
>> 31
雅樹が風呂から上がるタイミングを見計らい、味噌汁を温め直す。
雅樹の分のご飯だけは炊飯器で保温したまま温かいご飯を出すようにしている。
『いいなぁ。こうやって家でご飯作って待っててくれる女がいるって最高だよ。』
雅樹は嬉しそうに話す。
『千鶴といたやつは幸せものだな。』
『えっ?、うーん。それはどうかなぁ。』
『そうじゃない奴もいたのか?。』
『あまり感謝された事はないかも。やって当たり前?、みたいな。』
『そうなのか?。色んな考えの奴いるからな(笑)。』
『藍斗くんの発表会なんだけど。雅樹さん聞いてた?。』
『発表会?、あれ、いつだっけ?。』
雅樹はやはり忘れていた。
>> 33
台所で洗い物をしていると雅樹が後ろから抱き締めてきた。
『ちょっと、どうしたの?。びっくりする。』
『いいだろ…。』
雅樹は体をピタリとくつけてきた。
『あぁ…、千鶴。好きだよ。』
『雅樹さん、どうしたの?。酔ってるの?。』
『あぁっ…。』
雅樹の手が千鶴の胸を揉む…。
『待って…、まだ途中だから…。』
雅樹の息が首筋にかかる。
『千鶴、抱きたいよ。』
雅樹の右手は千鶴のショーツの中に入ってきた。
『あぁんっ。んっ…‼︎。』
私の体は雅樹で感じるようになってきていた。
『ほら…、こんなにしちゃってどうしたの…。』
雅樹が中指で上下になぞる。
一番敏感な部分には触れずに優しく擦る。
『あんっ、気持ち…いい。』
『今日もいっぱい気持ち良くしてあげるね。』
私の愛液が雅樹の指を濡らした…。
>> 38
雅樹のワイシャツはいつもクリーニングに出していた。
千鶴はクリーニング屋のおばさんと親しくなった。
『今日はもしかしたら雪が降るかしら。だいぶ冷えますね。』
『本当寒いですね。』
『もうすぐ師走なんて、なんて早いのかしら…。また年を取るのね。』
『宝くじでも当たったらいいんですけどね。』
『本当だわね(笑)。』
千鶴は少しずつでも人見知りを克服したいと思っていた。
千鶴にとっては世間話も大切だった。
雅樹が藍斗を連れて帰ってくるまで、千鶴には時間があった。
だいたい家事を終えると退屈になる。
働かなくても雅樹が養ってくれるけれど、刺激がない。
働きたいと言ったらそんな必要ないだろと言われるのが目に見える。
お金が欲しくて働きたいのではない。
家にばかり居ると余計な事を考えたり、ひきこもってしまいそうになる。
“あっ…。ガーベラ。”
今日はガーベラを買いに行くんだった。
外に出掛ける口実が出来た。
クリーニングから取ってきたワイシャツをクローゼットにかけると、千鶴はまた外に出掛けた。
雅樹が預けてくれた鍵には秋田のご当地キティの鈴をつけてある。
ふと、翔太の顔が浮かんだりすることもあった。
梨華は怒った顔しか浮かばない…。
いつもそんな顔にさせたのはきっと私だ。
人は嫌な思い出は封印したままいつの間にか忘れていく。
でもふとした瞬間に蘇る。
時間が解決したわけではない。
ただ忘れていただけなんだと思う。
当たり前のように太陽が昇り、朝が来ること。
側に居て自分を支える人がいること。
愛は与えるもの。
生きているとわからないことがたくさんある。
あの人を愛したい…。
みゆと晶仁は軽く朝食を済ませると、二人で病院へ向かった。
平日の午前中はバスも空いている。
『今日寒いね。』
『うん。』
二人は一番後ろの席に座った。
晶仁が窓際だ。
みゆはスマホをいじりはじめ、ゲームで遊び出した。
『バスに酔わないのか?。』
『平気。』
晶仁はあまりバスに乗らないせいもあるが酔いやすい体質だ。
外の景色を眺めていた。
交差点の信号でバスが停まる。
何気無く。
本当に何気無く目をやった。
横断歩道で信号が青になるのを待つ一人の女。
見覚えのある後ろ姿。
背が小さくて少し猫背のその女は…。
“千鶴…。”
みゆに気付かれないように心の中で叫んだ。
心臓が張り裂けそうだ。
髪が前より短くなっているけれど間違いない。
千鶴…。
会いたかったよ。
こんな所でお前に会えるなんて思ってもみなかったよ。
やっと見つけた。
バスは青に変わり走り出した。
晶仁は後ろの窓からずっと千鶴を見ていた。
>> 43
千鶴は昌仁に気付く事などなく、落ち葉のじゅうたんでいっぱいの街路樹を歩いていた。
“今日はすき焼きにしようかな”
ショッピングモールの花屋でガーベラを買った。
赤と黄色を1本ずつ…。
すき焼きの材料と藍斗にカード入りのウエハースチョコを買った。
さっきまで晴れていた空は急に暗くなり、しとしと雨が降り出した。
千鶴は傘を持っていなかった。
“ダウンのフードがあればなんとかなるかな”
千鶴は急いで家に戻ろうとした。
バスはまだ乗ったことがないから路線もわからない。
ただ自分が歩いて来た道を走っていたのは確かだ。
“いい時間あるかなぁ…”
ショッピングモールのバス停の時刻表を見るとあと5分後に来るバスがあった。
バスが停まり千鶴は運転手に尋ねた。
『すみません、これって⚪️⚪️町通りますか?。』
運転手は不機嫌そうな顔をしながら頷いた。
“何いらついてんだか…”
千鶴はバスに乗ることにした。
“小銭あったかな”
バスはすぐに走り出した。
運転手は気が荒く、スピードを出して走っていた。
“なんだこいつ。危ないじゃん。”
千鶴は段々イライラしてきた。
雨はどんどん強くなった…。
バスに乗ってから四つめの停留所で客を乗せた。
千鶴は前の席に座っていた。
『うわぁまじ最悪。何この雨…。』
バスは客が席に着く前に走り出す。
“ちょっと危ないっつうの、なんなのこいつ。”
千鶴は運転手を睨みつけた。
『大丈夫か?、早く座んな。』
バスが急に走り出したからか、客はドアのすぐそばに座ったようだった。
『今日雨だったっけ?。』
『知らねー。』
千鶴は気がつかなかった…。
その存在に。
>> 48
アパートに戻るとみゆは疲れて寝たいと言った。
『あき、どこにも行かないでそばにいてね。』
『居るに決まってんだろ。俺も眠いし。』
『じゃあ一緒に寝よう?。あきの腕まくらがいいな。』
昌仁は仕方なくみゆの隣に寝た。
『あき、眼鏡取って?。』
『あぁ。』
『あき?、チューして?。』
昌仁は短いキスをした。
『何それー。もう終わり?。』
みゆは不満そうにした。
『ねぇ…。してもいいよ。』
『子供いるんだし、やめとけよ。』
『激しくしなきゃ大丈夫なんだよ。』
みゆはしたがった。
昌仁は迷った。
みゆを抱く心境ではなかった。
みゆは自ら昌仁のズボンを脱がせた。
昌仁はぼーっと天井を見ていた。
『あき、気持ちいい?。』
『うん。』
早く終わらせてくれ。
みゆにとっては悲しい現実だった。
>> 49
みゆはいつも昌仁の愛撫でイッた…。
『あきっ‼︎、あきぃ〜っ、ダメっ‼︎。』
『あまり感じるなよ。』
『だってきもちいいんだもんっ‼︎、あぁっ…。』
みゆは声が大きい。
昌仁はそれをとても気にしていた。
みゆはそれからぐっすり眠った。
昌仁は千鶴の手がかりを掴みたくて落ち着かなかった。
家どこだ…。
あいつ今誰と暮らしてんだ。
どんな奴に抱かれてんだよ。
千鶴の裸を想像して嫉妬した。
- << 51 『もしもし千鶴?、急で本当に悪いんだけど、藍斗の迎え行けなくてさぁ、帰りバスに乗せる事にしたんだけど迎えに出れるか?。』 雅樹からの思わぬ電話だった。 『迎えに出ればいいの?。何時頃かな。』 『2時40分に公園前に出てくれないか?。幼稚園には事情を話してあるから、心配しなくて大丈夫だから。』 『でも、いきなり私行ったら他のお母さん達に怪しまれないかな。』 『ごめん。そうさせたくなかったんだけど今日はこれから夜まで会議だし、無理なんだよ。分かってくれないか?。』 『、、、、、。はい。わかりました。』 千鶴は急に緊張してきた。 どうしよう…、あなたはどういう関係?なんて聞かれたら…。 お昼のカップラーメンは、そればかりを考えていたせいかいっこうになくならず、のびきっていた。
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