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Aris( votaob )
19/12/14 16:35(更新日時)

西暦2953年ーーテラにて。


世界は、螺旋だ。

始まりと終わりはあれど、終りは始まりへ繋がり、始まりはまた終わりへと向かって行く。

生命の性質。親が子をつくり、その子が新たな子を残すのと同じように。

延々と今も繰り返すその世界。

それがもはや何度目の世界かなんて分かったものではないが、確かに今もその営みは続いている。

性懲りもなく世界によって産み出された生命達は、愚かしくも同じように終わりに向かっていくことしか出来はしないのだろうか。


Altoria

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No.2956520 19/11/23 19:20(スレ作成日時)

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No.1 19/11/23 19:27
Aris ( votaob )

雲一つない空が広がっていた。

破壊されたオゾン層を突き抜けた容赦ない日射に晒されて、乾ききった摂氏70度の風が吹きすさんでいる。その度そこらじゅうに高く林立するビル郡の隙間を縫って車道に砂埃が舞い込み、車道と言っても殆ど砂に埋もれ、その面影はないに等しい。人影も全くなかった。かつては多くの人間が行き交っていたであろうスクランブル交差点も、数十の階数を重ねた変わった形をしたビルも、打ち捨てられたように静かにそこに佇んでいる。所々は崩れ、砂になり、下に瓦礫を作っているものもある。もはや人が歩くには不適当なことこの上ない。

しかしその中でも目を引くものがあった。

中心部から少し離れた場所にある、ゆうに1000メートルを越すような巨大な建造物だ。形状は塔に近いかもしれない。周辺の景観にくらべるとひどく異色を放っている。太陽光を反射しギラギラと輝く真っ黒な装甲に何十も覆われたその姿は、何かの要塞にも見える。外からでは中がどうなっているのかはまるで分からないが、今も人の手が加わっているのだろうことは明らかに分かった。

そこが音源だったのだろう。ふと、静寂をつんざいてサイレンがなった。よくある、人を強制的に警戒させる不快な音だ。2〜3度ほど繰り返すとやがて動きがあった。塔の、所々の装甲が重々しく移動したかと思うと、そこから露になったのは黒光りする無数の主砲やミサイルの陳列している姿を露にした。場所によって装備は様々で、大きいものから小振りなものまで様々な攻撃手段が搭載されている。続いて共に姿を表したいくつもの足場に人らしき姿が駆け出してくる。何やら全身重厚な装備にガスマスクをして、背中に重そうなボンベを背負った兵士だ。

『十二時の方向に目標を確認』『総員A体制』

などと淡々と流れるアナウンスに対して兵士たちはばたばたと騒ぎ立てながら位置についたり右往左往している。その中の1人が指差す方向に、遠くだが各々『それ』を目視で確認できた。

No.2 19/11/23 19:37
Aris ( votaob )

白い生き物が飛んでいた。

遠くから見る分には鳥に見える。よく渡り鳥が群れをなして隊列を組んでいるような光景だ。だがこの世界において、動物という動物は絶滅しているに等しい。この過酷な環境で、今や食物連鎖などは崩壊し、取り残されているのは微生物か人間くらいのものなのだから、その生命力は特筆に値するだろう。何かの群れは羽ばたき、滑空する。

主砲による銃撃が始まった。
遥か彼方からかなりのスピードで、ものの三分もしないうちに兵士たち全員の目にその姿を示す。数は10体そこら。おかしな人型をした生物だ。腕と一体化した大きな白い翼をはためかせ、下降しながら空気を切る。隊列がくずれ、各々ビルの隙間を掻い潜ってくると外れた主砲の弾が崩れかけの街をさらに破壊し、激しい轟音と共に砂埃が舞う。生物達は崩れ行く瓦礫の隙間を突き抜け、塔へと弧を描いて突進した。剥き出しになった眼球が不規則に縦横に動き、翼から腕を分化させると、彼らは各々近くの主砲へと取りついた。

ダンッ!!

と叩きつけるような衝撃が連続して主砲を襲う。周囲の兵士たちは反射的に後ずさると、手にしている自動式の銃を構え、放った。無数の銃弾は生物の体をしらみ潰しに蹂躙していく。

心なしか怯んだかもしれない、しかしながら、それは彼らにとって基本的になんの関心も引く出来事ではなかったらしい。生物は獣か何かのようにそこから跋扈し、兵士たちの眼前へ降り立つ。

すると軽い飛沫とともに、装備のヘルメットが一個飛んでいった。

一瞬の間の後、残された胴体のてっぺんが噴水のように体液を撒き散らす。どうやら一人の兵士はその後ろの兵士を庇って絶命したようだった。飛んでいったヘルメットは、飛行していたもう1体のどこからか出現した大きな顎に咥えられ、一瞬にして噛み砕かれる。いくつかの肉片が宙に散らばっていった。

No.3 19/11/23 19:44
Aris ( votaob )

>> 2 しかし庇われた兵士が行動を起こしたのはその前のことだった。両手に持った大きな拳銃で狙いを定めると、彼は叫びをあげながら目の前の個体に発砲する。

ドンッ

すると銃弾は一寸の狂いもなく、彼の狙い通りの軌跡を描き、生物の胸部に命中した。すると、生物の体は赤い飛沫と共にぐらりとかたむいて落下していく。その最中に全て砂となり、まるで何事もなかったかのようにその存在を消すのだった。

そんなこともつかの間、別のところからも叫び声が上がった。

ガガがガガ!

すぐ後ろの方だ。この世のものとも思えぬ呻きを上げながら、自分の足を牙で捕らえられ、喰われていながらも生物向かってマシンガンを放っている兵士がいた。しかし、やはりこの個体もまた銃撃されることには何とも思わないようで、ただ捕らえた兵士を逃がすまいとして長い腕と手でしがみつきながら無心に足を咀嚼していた。噛むたびに溢れる大量の血液を拭おうともせず、補食しているようだった。

「何をしている!!撃て!撃てええ!!」

彼の叫びに周囲の兵士はおののくが、その中の1人がまた、先程と同じような大きな銃を構え、撃つ。

ドンッ

また1体、落下した。咥えたままの兵士を道連れにしてーー砂となり消えていく。激しい叫びをあげて後を追おうとする者がいたが、2〜3人彼を押さえ込んだのでその1人は落下せずにすんだようだった。だが休む間もなく、後ろから新たな敵に鋭い爪に背を引き裂かれる。そんな阿鼻叫喚がそこら中に、どのくらいその場に溢れていただろう。と思われた、その時。

ターーーーーーン

ふと、一発の銃声がなった。

兵士達は一斉にそちらを見る。上方からだった。生物たちもその動きを止めた。そのひどく澄みきった音は、空気中の波として伝わり、同時に喧騒をあっという間に静寂へと変えていった。なんだ?と、ある者が溢すとぽつりぽつりとざわめきが起こる。刹那、生物達は激しい羽音と風圧を残し、また一斉に、音のしたほうに飛び立っていくのだった。すると、一人が確信めいたように一人呟いた。

「レベルⅤ、か」

No.4 19/11/23 21:21
Aris ( votaob )

>> 3 それを聞いたもう一人は分厚いマスクのしたで一瞬息を呑み、驚愕の表情を浮かべた。

「……まさか、あの化け物が」

すると、先に口を開いた兵士は溜め息混じりに死体の海の中で呆然としている者達に目配せして言った。

「撤退だ。……もう俺達の手に負えることじゃない。上がそう判断したんだ」

上を見上げてみると、恐ろしい数の白い生物が要塞の頂上を飛び回っているのがわかる。それに臆する声をあげる者、まだ状況を把握できない者、様々だったが。とにかくその撤退指示に反抗するものはいなかった。


ーーーー

ひしめいている。白い影がひしめき、群がっている。いつのまにやらその数は初めの数倍になっていた。要塞の屋上は円形。その中心に立つ者達を中心にして、寧ろ白い渦といってもいいくらいのものがそこに作り上げられている。

渦中に立つのは、3人だった。

彼らはある兵士に化け物と呼ばれていた、しかしそれとは裏腹に、いたって普通の、人間の見た目をしている。しかし、兵士にとってはもうその時点で、彼等には異様という言葉が最も適当だったのだ。

10代半ば程の、少年のグループである。

兵士達と明らかに違うのはその服装だ。先の兵士達は真っ黒な重装備とガスマスクを纏っていたのに対し、彼等はこれと言った装備は何も身に付けていない。何という事はない、デニムだったり、パーカーだったり、まるでこの地にかつてあっただろう平和な休日のような身なりで、特徴があるとしたら各々の持つ武器くらいだらうか。

まず大口径の銃口から煙をたたせるリボルバーを掲げていたのは、赤毛の少年だった。

短めのジャンパーに動きやすそうな膝丈のズボン、腰に巻いたゆるめのベルトに何丁もの銃火器を揃えている。彼は静かに銃口を下ろすと、ふっと頬を緩めた。

No.5 19/11/23 22:00
Aris ( votaob )

刹那、数体の生物が大きな羽音と共に四方から飛びかかった。しかし赤毛は微動だにしない。代わりに動いたのは、その後ろの左右に構えていたもう2人だった。

すると一瞬のうちに、生物達は肉片となって3人の前に降り注いだ。

赤毛の左側には黒髪にパーカーを羽織った少年が。右側には銀髪に黒い服の少年が。各々武器を構え、また一瞬のうちに振りかざす。

黒髪の方は長い鎖で繋がった長身の太刀を2本。続いて襲い来る数体も、次の一振り、もう一振りであっという間に真っ二つにされ、原型を失う。

銀髪の方は一目でそれが何なのか捉えることは難しいが、両手にはめたグローブから何か糸らしきものが手の指から伸びているのが光の反射で見える。それらが生物のいる空間に飛び交うと、これまたあっという間に目標が細切れになって落ちていくのだった。


そのうちに赤毛も正面の敵を見据えた。右手に持っているものと同じリボルバー、もう一丁をベルトのホルスターから左手で抜き取って構えると、

ダン!ダン!

躊躇なく2発連写した。重く空気を揺らした弾丸は1つ1つ、別個体の生物へと直進していく。

結果はどちらも命中。頭と、脇腹付近に風穴があくと、そこを中心にしてすぐに砂へと変化し、生物達は風に舞い散った。次に8時の方向から奇襲をかけた1体の爪を紙一重でかわす。同時に、振り向きざまに小型のナイフをみぞおち辺りに突き刺す。……またもや一滴の血液すらなく砂になり、振り向き終わったところで銃弾を打ち込み、また1体。

兵士達があれだけ苦戦していた生物達は信じられないような早さで薙ぎ倒されていった。

さほど時間が経たないうちについに最後の一体になると、その個体は3人から離れた宙に浮いていたが、人が発音するには難いくぐもった奇声を上げたかと思うと、3人のもとへ滑空する。そうして屋上に降り立った時には、背の翼がいつのまにか数本の太い触手のようなものへと変貌を遂げていて、先端から丁度獣の牙のような白く鋭いものがミシミシと音をたてて生えてきていた。本体のほうは異常に細長い手足を四つん這いにしてその姿はまるで巨大な蜘蛛のようだった。

No.6 19/11/23 23:25
Aris ( votaob )

ヒュドド!

各々の目標めがけ触手の牙がものすごいスピードで硬い金属の地面を貫く。しばらくは3人ともそれをかわすことに専念していたが、全員複数の牙が同時に地に突き刺さるあるタイミングを見逃さなかった。

ヒュ、

と何かが風を切る。刹那、光る糸が複数の触手にからみついた。触手3体ほどがまとめて糸で縛られ、締め上げられて切れた肉が赤い飛沫を飛ばす。それに怯んだからだろうか、他の触手の動きが一瞬止まる。そうすると、同じように別の糸で巻き取られた。

銀髪の仕業だ。彼はその10本の指を全て使い、四方にあった触手を全部からめとっている。それからはあっという間だった。そのまとまった触手の複数箇所は、まるで腸詰めを垂直にきった時のような断面を見せたかと思うと、糸の戒めから解放され、どしゃどしゃとその場に肉の山を作っていく。黒髪が構えた剣から、赤い血が滴っていた。

やがてそこに出来た肉の山からぬらりと本体が這い出ると最後に赤毛が銃を構えた。あとは彼が銃を打ち込めば終わり、というのが分かっているのか、それ以外の二人は仕事が終わったとでも言うようにそれ以上は何をしようともしなかった。シャアアと口から唾液の糸を引いて威嚇する生物に赤毛は銃口を向け、

「ーー、」

一瞬の間が、空間を支配した。

ドン、

ビヅ!

見れば、額に空いた穴からこぼれた血がギョロギョロと動く眼球に伝い、生物の目を真っ赤に染めている。

『!』

見ていた2人が一瞬それに目を見張ると、赤毛は軽く舌打ちをした。

ゥオオオオおおおおン!!

空間を、生物の叫びが揺るがす。

No.7 19/11/23 23:59
Aris ( votaob )

本体は四肢で地を蹴ると、爪と牙をもって赤毛に飛びかかった。それを、

ガキ!

寸前のところで、剣が防いだ。黒髪の剣が。競り合いが始まり、硬いもの同士が擦れあって軋む。しかしその最中、いつから出現したのか、本体の背後にもう1本の触手がうねるのが確認できた。

「ジュエル!」

赤毛が戦慄とした声を上げたときには、

ドス!

重苦しい音ともに、黒髪は心臓部を深々と貫かれていた。

しかし。

黒髪は何事もなかったかのように生物を薙ぐように自身を貫いた触手を切り落とした。そこからもう1歩踏み込んで、真横に一閃。生物の開きすぎて外れた顎を切り落とした。さらにもう一歩行くとーー

ザン!

本体の胸部に剣を切り込ませ、その体を斬り込みの勢いで真後ろの宙に放り出す。

タン

同時に黒髪は軽く地を蹴った。
翼を失い、ただ地へと落ちていく生物を追って、宙に躍り出たのだ。1000メートルの屋上の高さから、落ちる。落ちていく最中でも黒髪は顔色一つ変えることはなかった。きっと彼にとって地上だろうと、宙だろうとやることは全く同じだったのだろう。高速で落下しながらあっという間に本体の真上に来ると、ただ機械的に、同じ胸部をめがけて真っ直ぐにその剣を振り下ろすのだったーー

No.8 19/11/24 22:41
Aris ( votaob )

結局、黒い武装の兵士達はその戦闘では何の役に立つこともなく、そのあとの片付け作業に追われていた。負傷した者を運び出したり、壊された兵器の修復作業の方でで忙しそうだ。その中で一人の兵士がふと真上にある太陽を気だるそうに仰ぐと、腕の武装に組み込まれたデジタル式の時計に目を移す。そして大きな溜め息をついてから号令をかけた。

「作業中断、各自コアに戻れ」

周囲の兵士達は動きを止める。辺りにはまだ散乱した瓦礫に混じって何体かの死体が転がっていた。それらと空を何度か見比べたりして、肩を落とす者。どうしようもなさそうに首を左右に振る者。様々だったが、昼の時間になり日差しが本格的に強くなってきて温度が高くなっているのは全員に分かる。これ以上は彼等には限界だったのだ。だから集団から外れた行動をする者はいなかった。要塞のいくつかに人が通れる穴が開くと、静静と、黒い集団はその中へと吸い込まれていくのだった。

「あーあ……あいつらまーた散らかしたまま引っんでいきやがって」

所変わって、崩れかけの5階建てくらいのビルの屋上でのことだった。脇には先程までいた巨大な要塞が見えないくらい天まで伸びている。
そのすぐ横で赤毛の少年がいる。間違えば落ちてしまいそうな角に腰かけ足をぶらぶらさせながら、ぼやく。

「今回は、時間が時間でしたからねえ」

右後ろのほうで立っている銀髪が苦笑した。乾ききった風が、彼の少し長めの髪を揺らしながら通りすぎていく。

「前は最高気温65度だったのに、今や70度越え……折角のミュータント技術も、段々と意味をなさなくなってきますね」
「まだ俺達が対応できるレベルだからいいどさ。……ったく、あいつらもう最初から出てこなきゃいいのに。どうせ俺達しかまともに仕事できねえんだから…さっ、」

赤毛はぶらつかせていた足を持ち上げ、そのまま後ろのほうに振り向いくと、ニッと笑みを浮かべた。

「初めてにしちゃ上出来だったぜ、ジュエル」

No.9 19/11/28 22:10
Aris ( votaob )

視線の先には、3人目ーー黒髪が佇んでいた。

「……別に、」

そうぶっきらぼうに返す。先程まで手にしていた2本の長剣は、今は両方腰のホルダーに収まっている。

「でも初めてホムンクルスを相手にした様には見えなかったですよ。チームワークや戦闘力の面からしても申し分ないですし、もう言うことなしですね」
「ん?あー、そりゃ違うな……ジュエル」

赤毛はその揺るぎない瞳を見ると、額に手を当てて溜め息をつくのだった。

「……あのさあ、俺言わなかったっけ?そういうのは取り敢えず止めろって」
「え、どうしたんですか?」
「いやな、こいつ死にたいらしいからさ。」
「……はい?」

黒髪ーージュエルは自然と自分の胸に手を運んでいた。その肌の感触は、服に穴は開いているものの肌は傷1つないようだ。その様子を、銀髪は笑顔のまま不思議そうに見つめる。

「……ああ、もしかしてそれでレベルⅤになったんですか?」
「そういうこと。ったく油断も隙もありゃしねえ……いいか、今度やったら承知しねえからな?」
「なるほど、でも結果的にはジュエルのお陰でロイは助かったわけですけどね」

銀髪の何でもない口調に赤毛はぴくっと肩を震わせてから、ぎこちない様子でゆっくりと振り向く。

「寧ろ助けてもらった上、とどめまで代わりにさしてもらってたようなーー」
「……。るせー!過ぎたことはしょうがねーだろ!」

そう憤慨するのだった。銀髪はそんな反応を待っていたのか、からからと笑う。

「そんなことより説明の続きをした方がいいと思いますよ、さっきはまだ途中でしたし」
「お前が水差したんだろうが!」

それから赤毛は軽く舌打ちして、後ろ頭を乱暴にかきむしったかと思うと、不機嫌そうに目を座らせて片足であぐらをかいた。

「説明もなにも、やってみて分かっただろ。あれがホムンクルス。人類の敵で、それを排除するのがソルジャーの仕事……それだけだ。中でも、俺達はそれに超特化した人体強化を受けた、レベルⅤ『ミュータント』ってわけ」
「見ての通りの戦闘能力と、この高温とUV、そして水も食事も必要ない体。ジュエルの場合は……心臓を貫かれても、100階建てのビルから飛び降りても死なないようですけどね」

のんびりとした銀髪の声に被せるように、赤毛は続けた。

No.10 19/11/28 22:16
Aris ( votaob )

「さっきコアに戻っていったあいつらが、レベルⅣまでのやつらだ。あいつらも同じ種類の手術をされてるが、俺達とは絶対的に違う。あいつらはまだ普通のヒトに戻れるレベルだからな」

そして、コアと呼ばれた建造物を仰ぐ。目が眩むような陽光を反射して、やはりぎらぎらとその存在を激しく主張している。

「あの中で脱出用のロケットを作ってる。それを使って他の星に逃れて生きなおすことも出来るだろうさ。……だがな、前も言ったように俺達のレベルは、この最悪な環境の条件に合うようにだけ作られてる。つまりはーー」

「『ここで死ぬしかない』んだろ」

唐突にジュエルが発すると、少しの沈黙が空間を支配する。しかしややあって赤毛が頷いた。

「俺たちの場合は、普通のヒトの環境ではもう生きられないからな。レベルⅤはコアを守りきって、人類の脱出が無事済んだらあとは用済みになる……俺が言ったのはそういうことだ。どれくらいここにいれば死ぬのかは知らねえけどな」
「そんな条件で志願するのが3人もいるんですから凄いですよねえ、まあ……死にたいのであれば確かに好都合だとは思いますけど、」
「つまり、ここは阿呆の集いってわけさ」

そう言って赤毛はすっくと立ち上がった。

「じゃあ改めて自己紹介な。俺はロイ。ミュータントレベルⅤ部隊『Apostolus Killer』ーー通称AK、そのソルジャーであり、隊長だ」
「いやあ、つくづく思いますけど、この少人数で隊長って言えるものなんですねえ」
「事実なんだから仕方ねえだろ。俺だって本当は言いたかねえんだよ」

銀髪がまたからかうようにひとしきり笑う。

「同じくAK所属ソルジャーの、グロウといいます。…僕の場合はそれ以上特に言うことはありません。まあ、ロイみたいにホムンクルスを一発で殺せるわけではないので、おまけ要員とでも思ってもらえればいいですかね。……ああ、あとここに来た経緯は、ジュエルと同じというわけです」
「……同じ?」
「『あの日』の生き残り、なんですよね?」
「…………」

ジュエルが沈黙しているうちに、赤毛ーーロイがあー、と口を挟む。

「前に言わなかったっけ?こいつの記憶は全部なくなってるよ」
「……え?」

グロウは笑顔のまま、首を傾げる。

No.11 19/11/28 22:41
Aris ( votaob )

「こいつが覚えてるのは隔離室で目が覚めてからのことだけ。だから、それ以前のことは何聞いたって無駄だぜ」
「それは……何とも。まあ10年も前の事は覚えてなくても仕方ないとは思いますが。……じゃあここがどういう所か全く知らないというわけですか?何が起こったかも?」

いくら当人に問ってみても、反ってくるのは驚くほど無機質な視線だけだ。ややあってグロウは自分の頬を少し指で擦るのだった。

「……、まあ大丈夫ですよ。コアの外だって慣れてしまえばさほど居心地は悪くありませんから、」
「あーその辺はいいよ、こいつにとってはどうでもいいことみたいだからさ」

ロイはうんざりしたように溜め息をつくと、二人の間を縫ってさっさと通りすぎてしまった。

「ぐだぐだ言ってねーでさっさと行くぜー………取り敢えず、新しいのの調達と……あ、あと弾がそろそろ切れるな……」

ぶつぶつ言いながら一人立ち去っていくのを二人で見送るうちに、グロウは苦笑を浮かべる。

「色々と大変なことになりましたねえ、教えられる範囲では教えますけど、まずはあれについていって色々と見ていくといいと思います。……でも、記憶を思い出すのにはさほどかからないんじゃないですか。僕らに与えられた、この何もない世界を見ていればーー嫌でも、」

同じように背を向けた彼の黒いロングカーディガンが、ゆるりと風になびいた。そして遠ざかっていく足音。それとは逆に、ジュエルは1歩、2歩踏み出して、ビルの上から景色を眺めてみた。

静寂に包まれたビル群。その向こうには砂漠が広がっていて、それはまるで夕日に照らされた海のようにして、果てしない赤色だった。ただただ空の青と、砂の赤の2色が視界を支配している。

ーー何もないーー

ジュエルはそれに静かに目を伏せると、同じようにその場を後にするのだった。

No.12 19/12/04 21:18
Aris ( votaob )

それからロイがコアに寄り、すこし待ってから再び合流すると、3人は歩き出した。

砂でざらつくアスファルト、沈黙した街をしばらく歩く。実際にはコアがあるから目立たないものの、辺りには超高層ビルばかりで、ここで本当に大勢の人間が働いていたことを伺わせる。しかし今ではその役割を失った、ただの残骸でしかない。ロイは先頭でそれらに脇目もふらず、迷いなく道路を進んでいく。そして20分ほどしてたどり着いたのはあるアーケード街だった。

これも比較的大きい。地下からの4階ほどの吹き抜け構造になっている道がずっと続いていて、ショッピングモールや専門店、数々の飲食店、病院に薬局、各種娯楽施設など、ここで手に入らないものはないのではないか、というくらいに店がひしめいている。しかしながら至るところが何かによって破壊された跡があり、所々の道は瓦礫で塞がれている。アーケードの屋根や柱は崩れ落ち、火事でも起こったのだろうか、いくつかの区画は真っ黒になって朽ち果てているなど、全くその原型を留めていない。勿論それを利用する人間などいるわけもない。

そんな中で3人は1つの店に入った。粉々になった自動ドアのガラスを踏みしめていくと、さほどしないうちに、視界に飛び込んでくるのはーーいくつものハンガーにかけられている服だ。そこは大型の店のようで、広い空間にいくつもの棚が陳列している。基本的には整理されていた面影も残っているが、棚やラックが無惨に壊れて散らかっているもの、割れたガラスに突き刺さっているものなど、バリエーションは様々だ。ひどく雑然とした景色からロイは向き直ると、

「ほらよ、着いたぜ。それ俺のだったし、今度は自分で好きなの選べよ。ここだったら着るものの心配はないからな」

と、親切みのある笑顔を向けた。

No.13 19/12/04 23:06
Aris ( votaob )

「……といっても、ジュエルに選べるんですか?」
「あー、確かにでかい店からな。場所教えてやるよ」
「それもあるんですけど、果たしてこの中から服を選ぶ意欲があるのかどうか、」
「このままでいい」

言葉の途中で、ジュエルは少しの間もなくそう返した。案の定、といったようグロウが肩をすくめると、ロイは頭の上で手を組んで続ける。

「まーそう言うなって。今の俺らの楽しみといったらこういう残り物を好きに漁ることくらいなんだからさあ」
「その言い方には何か語弊がある気がしますけど、服くらいは自分で選んでもいいんじゃないですか」
「……」
「……ほんっとにノリがわりー奴だな、いいからその穴の空いたの替えてこいよ。同じようなパーカーだったらあっちにあるぜ」

ジュエルは仕方なくロイが示した方へゆっくりと歩き出す。そして薄暗い店内を見回すと、辺りの床や棚に赤黒く乾いた汚れが付着しているのが自然と目に入ってくるのだった。

「ここも……ホムンクルスに襲撃されたのか」
「そー、人間がいる場所は全部やられたろうさ。」

その辺にあった会計の机に腰かけると、ロイもまた他人事のようにそれを眺めるのだった。

No.14 19/12/07 20:17
Aris ( votaob )

脇の方ではグロウが適当に服をみて回っていた。

「元は対高熱・UV遮断フィールドなんかをつかって、屋外でも生活機構は維持できていたみたいなんですけど、ホムンクルスの襲来のせいで、そのシステムも破壊されてしまったようですね。ここのフィールドが破られたところから世界に広まって、元々核戦争で少なくなっていた人口がさらに減り、生き残った少数の人間は地下へと逃れるしかなかったーーそこを拠点にしてできたのが、あのコアというわけです。ジュエルもそこにいたから、見てる筈ですけどね」
「いや。ジュエルがいたのは特殊な区画だから、本当に一部でしかないぜ。グロウも知らねーと思うけど、地下構造は本当にもっとばかでかい。少数っつったって、ここと南の大陸で生き残った人間がみんな逃げてきてるんだからな」

やがて、やっとジュエルも並んでる服に目配せし始めるのだった。

「……ホムンクルスの目的は何なんだ?」
「さーな。あいつら必要があって人を喰ってるようにも見えねえし。最低限わかることといったら発生源が、お前が見つかった場所……Z区画のWRP総合研究センターってことだけだ。フィールドの内側だったからさ。この店なんかも、商品を回収する暇もなかったんだと思うぜ。ま、そのお陰で好き勝手出来るんだけどな」
「世界は2日も経たず無数の怪物に蹂躙され、滅ぼされた。そのあまりの衝撃からーーその日は『ディエス・イレ』と呼ばれているそうです」

ジュエルは動きを一瞬止めると、

「ーー『怒りの日』ーー」

ぼそり、と呟いた。

No.15 19/12/07 21:52
Aris ( votaob )

グロウは思わずそちらに振り向く。

「あれ、それは知ってるんですか?『Dies irae』、ある種の言葉で訳すと『怒りの日』。なんでも、とある宗教の鎮魂歌から取っているそうですよ。神によって世界に裁きが下される日、なんてニュアンスがあるみたいですけど……ジュエルは宗教には詳しいんですか?」

無言のまま、ジュエルは手近なハンガーにかかった一枚の服を取った。

「とにかく僕らと残っている人間は『あの日』の生き残りで。人類の存亡のため、ソルジャーとしての資質がある者は例外なく『国』にホムンクルスの排除を任されるわけです。……僕らに選べるのはソルジャーのⅠ〜Ⅴのレベルだけで、拒否権はありません」
「……それは聞いた」

そして唯一の装備である剣のホルダーを取り外すと、着ていたパーカーを脱ぎ、新しいものを羽織る。その時見てみても、やはり刺された筈の胸部は血の1滴すらなく、何ごともなかったかのように傷が消えている。そのまま真ん中のファスナーを上げ、双剣を収めるホルダーを巻き直しているところで、

「おい、そんなんでいいのか?」

ロイが声をかける。ジュエルが纏ったのはは真っ白な、何の変哲もない無地のパーカーだった。Tシャツ、パーカー、その上にまたデニムジャケットやら色々と重ね着しているロイに比べればシンプルなことこの上ない。

「暑いの我慢すればもーちょいセンスよくなるぜ?俺みたいに」
「センスはともかくとして、白は血が目立つので面倒ですよ」
「ああ、こいつの場合は出血もそんなにないみたいだからそれは大丈夫だろ。……それにお前みたいに全身黒ずくめにしろってか?それ暑くねえの?」
「ロイの格好の方が暑そうですよ」
「いーやそっちのが絶対暑い!俺のはまだ黒じゃねえし」
「……満足に動ければ、何でもいいんだろ」
「さすが、核心を捉えてますねー」

抑揚のないジュエルの閉め方に、グロウは満足そうに手を叩く、よく見れば彼が身に付けているグローブも黒で、ピアノ線を巻き取る器具や操っていた装備などが見てとれる。

No.16 19/12/14 16:35
Aris ( votaob )

「……ったく。なら、用は済んだな」

そう軽く息をついて、ロイは机から軽い身のこなしで飛び降りた。

「じゃ、仕事行くぜ。……俺らの仕事は主なホムンクルスからコアを守ることだ。あいつら執念深いからな。あれだけ装甲を張った建物も、ああやって束になって壊しにかかってくる。だからあらかじめ、この周辺の奴等の溜まり場を掃除するわけ」

するとズボンのポケットから片手にとれるほどのデバイスを取り、タッチ操作で画面を滑らせるとなにやら覗き込んでいる。

「今日はG-35と-L-29区だ」
「ええ……、どっちもつい2〜3日前やったところじゃないですか」
「しゃーねえだろ、発生源が分からないんだから。同じところに沸いたって不思議じゃないさ。それに、まだ近いとこで良かったよ。もうZ区までいくのだりいし」
「Z区はもう大丈夫そうなんですか?」
「あそこはお前らみたいなややこしいの以外は基本いねえよ。内部隔離されてる施設だしな」

服屋を抜けて、また一行はロイを先頭にして誰もいない都会歩いていく。長いアーケードを抜けしばらくした辺りでグロウがジュエルに話しかけた。

「位置の指定は、毎日『国』から送られて来るんです。都市の至るところにはエネルギー感知センサーが取り付けられていて、その発信情報をコアでまとめてロイに送られてくるのが、僕らへの依頼という形になるわけですね」
「あーあのセンサーつけるのも大変だったよなー、あいつら自分でできねえくせに無責任に大量に押し付けやがって」
「いい仕事だったじゃないですか、依頼が終わればすることなくなるわけですし、」
「暇人みたいに言うんじゃねえ」
「……ああ、それとジュエル。ホムンクルスの殺し方はもう大丈夫ですか?実際やってみてわかったと思うんですけど、闇雲に切ったり貫いたりするだけではあれは簡単には殺せませんよ。それぞれの急所を狙わない限りは、よほど細切れにしないと生きてますから、注意してくださいね」
「殺せたときは砂になって……殺せなかったときはそうならない」

視線すら向けないが、ジュエルのやっとの返答に、グロウはにこりと笑みを浮かべる。

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