ついてない女
母子家庭で育った私。
絶対的な立場の母親。
反発しグレた兄。
高校卒業してから勤めていた会社が倒産。
次の仕事が見つかるまでと思いバイトで働き出した、ラブホテルのフロント兼メイクの仕事。
つなぎのつもりが1年になる。
3年付き合って、結婚も考えていた彼氏に振られた。
何人かお付き合いした人もいたけど、絵にかいた様なダメ男ばかり。
男運も悪いらしい。
こんな私は今年は厄年。
お祓いに行った帰りにスピード違反で捕まった。
こんな私のくだらないつぶやきです。
ぼちぼち書いていきます。
13/07/13 11:26 追記
ガラケーからスマホに変えました。
まだうまく使いこなせないため、ご迷惑をお掛け致します。
少し慣れてから改めて更新したいと思います。
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- スレ作成ユーザーのみ投稿可
久し振りに桑原くんのお兄さんから連絡があった。
「ご無沙汰しております。藤村さんにちょっと…お話したい事がありまして…」
また桑原くん、何かおかしな事でもしたのだろうか?
その日は日曜日だったが、私は仕事。
お兄さんは休みだったためお昼に待ち合わせた。
待ち合わせ場所は喫茶店。
寺崎美和と待ち合わせで利用したコーヒーが美味しい喫茶店だった。
駐車場で合流し、一緒に店に入った。
「いらっしゃいませ」
カウンターから笑顔でマスターがお出迎え。
入ってすぐの席についた。
コーヒーを注文。
「あの…お話しというのは…?」
私から話を切り出した。
「はい、今日はお呼び立てして申し訳ありませんでした」
「いえ」
「また雅之とお付き合いを始めたんですか?」
「お付き合いというか…執行猶予中です」
「執行猶予中?」
不思議顔のお兄さんに桑原くんと元嫁の一件をかいつまんで話した。
話を聞いたお兄さんは「また弟が迷惑を…」と言って頭を下げた。
「いえ💦お兄さんは何も悪くないので💦頭を上げて下さい😫」
困った私はお兄さんに頭をあげる様に言った。
そしてお兄さんが頭を上げて真剣な顔になった。
お兄さんが真剣な顔をしているので、私も自然に姿勢を正す。
「藤村さん、弟の雅之ではなく私ではダメでしょうか?」
「…はい?どういう意味でしょうか」
「私も藤村さんの事を好きになってしまいました。だから弟ではなく私とお付き合いを…」
あぁ。
だから桑原くんと私と引き離すために、前に写真を送って来たり話をしてきたりしたのか。
でも私はお兄さんに対しては何の感情もない。
「桑原くんのお兄さん」という感覚しかないため、突然の告白にかなり戸惑った。
お兄さんは真面目そうだし優しそうだし、見た目も清潔感があり爽やか青年だが、申し訳ないがお兄さんとお付き合いする気は全くない。
「あの…」
私が話し出そうとしたらお兄さんは「今すぐのお返事は求めていないので、後日改めて連絡させて頂きます。それまで考えておいて下さい」
そう言って伝票を持って席を離れた。
付き合うも何も…
私、お兄さんの事何にも知らないよ💦
自宅に帰ってすぐに亜希子ちゃんからメールが来た。
「いや~病院では女の子って言われてたから女の子用のもので揃えたら息子だったから、息子にピンクの服着せてる(笑)
最小限で抑えておいて良かった😅名前も一から付け直し💧
恥ずかしがって大事なもの隠してたのかな(笑)
ところで…桑原くんのお母さんから聞いたんだけど、みゆきんってお兄さんと付き合い始めたの⁉兄弟喧嘩の原因はやめなよ⤵」
亜希子ちゃんからのメールを見て、すぐに亜希子ちゃんに電話をした。
「もしもし⁉亜希子ちゃん?」
「みゆきん😄久し振りだっ…」
亜希子ちゃんの話しにかぶせて早速話した。
「私、桑原くんのお兄さんとは付き合ってないよ?実は今日「好きになってしまいました」って言われたけど…」
「…えっ⁉」
驚く亜希子ちゃん。
「桑原くんのお母さんから何て聞いたの?」
「みゆきちゃん、雅之と別れたと思ったら今度は兄ちゃんとお付き合いだなんて…みたいな事を言ってたからびっくりして、すぐみゆきんにメールしたの💦」
「いつの話し⁉」
「30分前位の話し。私、今里帰りで息子と実家に帰って来てるのよ、それでさっきうちのお母さんに用があって来た時に話してた」
「そうなんだ…」
亜希子ちゃんに全ての事情を話し、お兄さんの件は事実無根だと理解をしてもらった。
これは面倒くさい事になりそうだ。
この日辺りから、桑原くんのお兄さんと出会う事が多くなった。
徐々に頻度も高くなった。
最初は「偶然」だと思っていたのだが、余りにも「偶然」が多いため不審に思う様になった。
桑原くんのお兄さんが住んでいる地域と私が住んでいる地域は全くの逆。
お互いの勤務先は比較的近かったが「偶然」出会うには少し不自然な距離だ。
近所のスーパーやコンビニでは、かなりの頻度で会っていた。
「藤村さん😄」
「いやー奇遇ですね😄」
「また会いましたね😄運命を感じますね😄」
会うと必ず声を掛けて来た。
一番驚いたのが、良く行く銭湯でゆっくり温泉を楽しんでからロビーみたいなところでノンアルコールビールを飲んでくつろいでいた時に、お兄さんが笑顔で声を掛けて来た時だった。
驚きの余り飲んでいたノンアルコールビールを吹き出すかと思った。
あのー…
今は平日の真っ昼間なんですけど…仕事は?
疑問に思っている私にお兄さんは笑顔でこう言った。
「藤村さんの素っぴんもジャージ姿も可愛いですね😄雅之にはもったいない」
温泉でゆっくりと温まったはずなのに、寒気がする私がいた。
温泉に入った形跡はあるが、髪はセットしてありスーツを入れているのか紙袋を持つスウェット姿のお兄さん。
「あの、仕事は?」
「仕事中なんですけど、急に温泉に入りたくなりまして😄営業なんで自由ですから😄」
「…そうですか」
私はノンアルコールビールを一気に飲み干し、お兄さんに軽く頭を下げて足早に銭湯を出た。
この日の夕方は仕事。
支度をして出勤すると、従業員専用出入口付近でまたお兄さんに出会う。
「また会いましたね😄」
「何をしているんですか?」
少し強めの口調で言った。
「営業先がすぐそこだったものですから😄藤村さんに一目お会いしたくて」
「あの…申し訳ないんですけど、ちょいちょい会うのは絶対故意ですよね?」
「偶然ですよ😄」
「偶然がこんなにある訳がないじゃないですか‼」
「それがあるんですね😄私も驚いています」
「…すみません、仕事があるので」
私はお兄さんの顔を見ずにラブホテルに入った。
必ず毎日最低1回は会っていた。
イライラが溜まって来たある日、またお兄さんがいた。
この日は桑原くんも一緒だった。
桑原くんには話しはしてあった。
最初「偶然じゃないの?兄貴がそんなストーカーみたいな事するかなぁ?」と疑っていたが、近所のスーパーにいたお兄さんを見付けて桑原くんが「兄貴⁉こんなところで何してんの?」と声を掛けた。
お兄さんは「雅之⁉」と驚いた様な表情でこっちを向いた。
「なぁ兄貴、藤村に付きまとってるらしいけど辞めてもらえないか?」
「付きまとってるとは何だ💢」
お兄さんは突然キレ出した。
周りにいた買い物中のお客さんや店員さんが一斉にこっちを向いた。
野菜売り場のど真ん中で怒鳴っていれば、そりゃ目立つだろう。
こちらを見ながらヒソヒソ話しているお客さんもいた。
「とりあえず…店出ようか」
私はお兄さんと桑原くんに店から出る様に促した。
駐車場に停めてあったお兄さんの車に乗り込む。
お兄さんは運転席、私と桑原くんは後部座席。
それが面白くなかったのかお兄さんが「藤村さん、前に来ませんか?」とバックミラー越しに言って来たが断った。
「雅之‼お前は藤村さんを幸せには出来ない‼あんなに一生懸命お前の面倒を見てくれて、あんなに心配してくれたのにお前という奴は藤村さんを悲しませやがって💢」
お兄さんは桑原くんに怒鳴った。
「俺だって悪いと思ったから精一杯返してるじゃないか‼」
「悪いと思う事を何故するんだ⁉あぁ⁉💢」
「いや…それは…」
「俺はそんな藤村さんを見て惚れたんだよ‼藤村さんを幸せに出来るのはお前じゃなく俺だ‼」
「兄貴にだけは絶対渡さない‼」
「そんな事を言う権利がお前にあるのか⁉」
兄弟喧嘩勃発。
私はどうしたらいいのか考えてしまった。
もう嫌だ…‼
「やめて‼」
私は叫んだ。
「お願いだからやめて‼」
2人は黙った。
「私はお兄さんとはお付き合いするつもりはないです…ごめんなさい。桑原くんに対しても例の件で信用はありません。執行猶予中だけど前みたいに楽しく過ごせるかどうかわかりません。兄弟喧嘩をするくらいなら私は2人から離れます」
「いや、藤村…ちょっと待てよ‼兄貴が入って来たからおかしくなっただけで…」
「違うだろ?お前が藤村さんから離れれば丸く収まるんだよ💢」
また喧嘩になった。
2人共、私の話を聞いていなかったのか…?
結局、お互い平行線のままだった。
ただお兄さんにはストーカー紛いの行動はやめてもらう事にした。
桑原くんとも今まで以上に少し距離を置く事にした。
その後は仕事が繁忙期のため、毎日目が回る忙しさだった。
しかも愛ちゃんは子供さんが盲腸で緊急手術になったためしばらくお休み、純子さんもインフルエンザでダウンと主力メンバーが欠勤。
残りのメンバーで休み返上でフル活動。
毎日、家に帰ってもただ寝るだけだった。
桑原くんにもお兄さんにも会わない日が続く。
純子さんも愛ちゃんも仕事に復帰。
1ヶ月振りに連休をもらった。
初日は1日中ゴロゴロしていたが、2日目は部屋の掃除をして洗濯しながら録り溜めしておいたテレビ番組を見る。
ご飯も適当に済ませ、のんびりしていた時に携帯が鳴った。
桑原くんだった。
「もしもし」
「おう藤村😄久し振り😄」
「うん」
「今日は休みか?」
「休み」
「飯でも行かないか?」
「もう食べちゃった」
「そっか…」
「何か用でもあった?」
「いや、特にはないけど…用がなかったら電話したらダメなのか?」
「通話料もったいないじゃん」
「いやまぁ…」
「んじゃ切るよ」
「あっ💦ちょっ…」
桑原くんが話そうとしていたが切った。
用があったらかけなおすだろう。
しかしかかって来なかった。
この日辺りから、桑原くんから余り電話が来なくなった。
桑原くんから連絡がなくても気にならない。
付き合っていた時はたまには会いたいと思ったし、連絡もないと心配したが同じ相手でも今は特に連絡がなくても気にならない。
気持ちの問題なんだろう。
付き合っている時は嬉しかった事も、今はウザいと思うのも気持ちが離れた証拠だろう。
このまま桑原くんと離れてしまっても後悔はないかも。
仕事が忙しいのもあり、桑原くんの事を考えている時間もなくなった。
いつも貸出し用のシャンプーや消耗品を買って足してくれる川田さんというおばちゃんが転倒して足の骨を折ってしまい入院したため、私がいつもより早目に出勤していつも行くドラッグストアに買い出しに行った。
かなりの量を一気に買うため、自家用ではなくホテルの軽トラックで向かった。
トイレットペーパーや箱ティッシュ、シャンプーやボディーソープの替えを買い込み、軽トラックの荷台に積み飛ばない様にブルーシートを被せてロープで縛る。
店員さんも荷物を運ぶのを手伝ってくれた。
やっとの思いで荷物を荷台に固定し、さあ発車とエンジンをかけた時に目の前に桑原くんが若い女性と一緒にドラッグストアに入るのを目撃した。
「新しい彼女かな」
笑顔の桑原くんを見ても不思議と何の感情もなかった。
完全に桑原くんとは終わったと確信した瞬間だった。
今日はクリスマスイブ。
街は華やかなネオンで飾られ、カップルや家族連れで賑わう。
ホテルも一番の稼ぎ時。
クリスマスプレゼントと称して、プレゼントを配る。
早い時間から宿泊を希望するカップルばかりだ。
しかしこんな日でもヘルスを呼ぶ男性もいる。
私と同じくクリスマスに一緒に過ごす相手がいないんだろう。
私はクリスマスイブだろうが正月だろうが関係なく仕事。
昔は亜希子ちゃんと良くクリスマスを過ごしたが、今日は家族で過ごす。
亜希子ちゃんから息子にサンタさんの格好をさせた写メが届いていた。
微笑ましい写メに思わず笑みになる。
直美からも「メリクリ💕」とメールが来ていた。
職場では社長が従業員にショートケーキを用意してくれた。
そういえば…
人生でクリスマスを彼氏と過ごしたのって1~2回あるかないか。
後は亜希子ちゃんや直美とか女性と過ごした方が明らかに多い。
それはそれで楽しかったがやはり若い頃は何となく寂しい気持ちもあった。
この年になれば、クリスマスも1人で過ごすのも苦じゃなくなる。
負け惜しみに聞こえるな(笑)
クリスマスを過ぎたらすぐに正月モードに切り替わる。
今年も終わりかぁ。
今年の元旦、兄家族と一緒に初詣に行った。
結果は「中吉」
微妙だなと思いながら、おみくじを結ぼうとしていたらおみくじがビリっと破けた。
「今年は余り良くないな」
兄も香織さんもゆめちゃんもまなちゃんも「大吉」
勇樹くんは「吉」だった。
「僕だけみんなと違う😫」
悲しそうな顔をしていたが「みゆきちゃんと一緒だね」と香織さんが言うと「みゆきちゃんも一緒?やったー🎵みゆきちゃん仲間だね😄」と勇樹くんは私の手を繋いで来た。
「だね😄」
なついてくれる勇樹くんに思わず笑みがこぼれる。
神社の駐車場で兄家族と別れた。
兄家族は香織さんの親戚の家に行くとの事で、神社からは私と別行動になる。
私は勇樹くんとゆめちゃんとまなちゃんの可愛い笑顔に見送られて車を発進。
駐車場を出てすぐ、比較的大きな道路に出る。
初詣の車で渋滞していた。
普段なら30分もかからないのに、1時間近くかかった。
家に着いてから年賀状を見る。
普段は余り連絡をしない人でも、年賀状のやりとりは欠かさずしている人達からも届いていた。
子供がいる人はやはり子供の写真を年賀状にする人は多い。
私も兄もひねくれた子供だったため、母親が一度「年賀状用で写真を撮りたい」と言った時に全力で止めた。
「身内だけならいいけど見ず知らずの人に顔を晒されたくない」
子供達が頑なに写真を拒否して以来、写真はない年賀状だった。
しかし兄の年賀状は普通に子供3人の写真が入っている。
香織さんのお父さんが亡くなり喪中のため、今年は年賀状はなかったが去年までは全て子供の写真入りだった。
余り会えない人には子供の成長がわかり、いいのかもしれない。
直美や亜希子ちゃんの年賀状も息子の写真入りだ。
直美も2人目がお腹にいるが、春までには生まれる予定。
来年の年賀状には可愛い家族が増えている事だろう。
楽しみである。
そういえば…今年は厄年。
初詣に行った神社で厄払いしてもらおうかな。
おみくじは「中吉」で微妙だったものの、厄を払う事で少しでも良い一年になるといいな。
今度の休みに厄払いに行って来よう。
元旦から仕事の私。
今日はフロント兼務のため電話が鳴ると対応する。
内線がかかった。
「はい、フロントでございます」
「すみません、着物の着付けお願いしたいのですが」
「…はい?着付けですか?」
どうやら着物で来て、脱いだのはいいが自分では着られないため電話をしてきたんだろうが…
うちは着物の着付けを出来る人間はいない。
前にいたゆうちゃんは仕事柄、成人式とか結婚式とかで全てこなすためある程度の着付けは出来たが…
今日のメンバーは誰も出来ない。
「すみません…着付けは行っていないんですが」
すると女性はキレ出した。
「はぁ?ホテルなのに着付け出来る人がいないって信じられない‼じゃあ私はどうやって帰ればいいのよ💢」
「そう言われましても…」
「ちょっと💢何それ💢どうすんのよ⁉着付けが出来ないなら正月に開けてるんじゃないわよ💢普通ホテルなら誰か着付けが出来る人必要じゃないの?」
お客さんは激怒している。
さて、困った。
今日のメンバーは純子さんと愛ちゃん。
純子さんが「ゆうちゃん呼ぼうか💦連絡してみる」と携帯を取り出した。
激怒しているお客さんに「すみません、今着付けが出来る人間を呼びますので少しお待ち頂けますか?もうすぐで延長つきますが、それでも良ければ…」
「着付けてくれるなら」
お客さんの怒りは少し収まった。
幸い、ゆうちゃんは時間があるとの事ですぐにホテルに来てくれた。
「辞めてそんなに経ってないけど懐かしく感じる💕」
久し振りに会ったゆうちゃんは、髪を盛りメイクも服も派手な夜のお姉ちゃんみたいな出で立ちだった。
「あはは(笑)すごい格好でしょ😄休みの日じゃないとこんな格好出来ないし、髪は練習がてらの趣味よ趣味(笑)」
早速着付けを待っているお客さんの部屋に行く。
お客さんの部屋には必ず2人で行く事になっているため、私もゆうちゃんの後について行く。
「失礼致します」
電話とは対照的に大人しそうなカップル。
ゆうちゃんの姿を見て少し驚いた様だ。
「このギャルが着付けをするの?」
そんな顔をしていた。
テキパキと着付けをこなすゆうちゃん。
「はい、出来ました😄」
「あ…ありがとうございます」
「では失礼致します😄ありがとうございました」
そう言って部屋から控え室に戻る。
ゆうちゃんが来てくれて良かった💦
お礼として、ゆうちゃんがいつも飲んでいた烏龍茶を自販機で買って渡した。
ゆうちゃんはしばらく控え室にいたが、忙しくなって来たため「また来るね🎵」と言って帰って行った。
ゆうちゃん、本当にありがとうm(__)m
正月早々、お客さんからクレームを頂戴する。
掃除や設備の不備でのクレームは、基本料金を割引したり無料で飲み物をプレゼントしたりしてお詫びをするが、たまに「?」と思うクレームも頂戴する。
「あのさ、寝ちゃって延長ついちゃったんだけど、どうして起こしてくれなかったんだ⁉💢普通なら「お時間10分前ですけど」とか連絡するだろ💢そっちのミスなんだから延長分割引にしろ💢」
うちは基本的にこちらから連絡はしません。
他のホテルはするところもあるだろうが、こちらから連絡をすると嫌がるお客さんもいるため難しい。
「上の者と相談しないと…」
「もういい💢」
結局、延長分もきちんと支払って頂いた。
「すみません…お金が足りないんですけど…」
たまにいるお客さん。
その場合、どちらか一人部屋に残って頂いてコンビニATMなり銀行なりに行ってもらうか、誰かに届けてもらうかする。
しかし、ヘルスを呼びオプションをつけてホテル代が足りなくなったという男性もたまにいる。
その場合、免許証のコピーを取らせて頂き、期日までに支払いに応じなければ控えていた車のナンバーと共に警察に提出になる。
だいたいの方はその日か翌日に持ってくるのだが、過去に2人「払うからちょっと待って」と言って払わなかった人もいた。
本人が払うと言っている限り強く言えないのである。
しかし不本意ながら、この2人は警察に行ってもらう事になった。
正月から色んなお客さんがいた。
今年はいったいどんな年になるのやら…
正月モードも落ち着き、普通の日々に戻った。
しばらく休みらしい休みがなかったがやっと2連休。
久し振りにのんびり出来る。
そうだ、今日は大安だし厄払いに行って来ようかな?
平日だしきっと神社もすいているだろう。
兄家族と初詣に行った神社に向かう。
私以外にも厄払いを希望する人が私を含めて3人いた。
無事に厄払いも終わりお守りも買った。
少しでもいい年であります様に…(^人^)
外出したついでに買い物に行こうと車を走らせていたその時。
目の前で警察官が大きな「止まれ」の看板を持って私の車の前に出て来た。
一瞬で自分が何をしたのか理解した。
車を停めて運転席の窓を開けると警察官が「あぁーちょっと速かったかな?車をこっちに移動して」と左側にあった駐車帯に車を移動する様に言ったため従う。
近くにあったバスの様な車両に免許証を持って乗り込む。
40キロ制限のところを56キロで走行、16キロの速度超過。
点数減点と罰金を払う事になった。
警察官に「どっかの帰り?」と聞かれた。
「厄払いの帰りです」
「…厄払いですか😅」
一生懸命調書を書いていた若い警察官が苦笑いをしていた。
「これからは法定速度を守り、安全運転で事故のない様に気をつけて下さい」
「…はい」
解放された。
買い物は取り止め、家までは法定速度ぴったりで帰った。
「はぁ…」
部屋に入りため息をついた。
今年はどんな年になるのだろうか…。
「毎度様ですー」
アメニティを取り扱う業者の営業である渡辺さんが来た。
「ご苦労様です😄」
今日は注文していた客室に備え付けるコーヒーセットとライターと歯ブラシが届いた。
社長の古くからの友人の息子さんである渡辺さんは、来る度にお土産を持って来て下さる。
「この間、家族で温泉に行って来たんですよ😄旅館の売店に売っていた煎餅が美味かったので、是非皆さんで召し上がって下さい😄」
「いつもすみません💦」
「いえいえ😄いつも社長さんには色々お世話になってますから😄今日社長さんは?」
「社長は今、社長室にいると思いますよ😄真里さんが来てましたから」
「そうですか😄わかりました😄」
渡辺さんはそう言って笑顔で社長室に向かって行った。
私達従業員の中で勝手なジンクスがあり、渡辺さんには大変失礼な話しだが、渡辺さんが来た日はホテルが暇なのだ。
たまたまなんだろうが、渡辺さんがこうして来た日は満室になる事が少ない。
暇な日は従業員にとっては楽だが、ホテルにとっては痛い。
案の定、今日は暇な日であった。
「今日は楽でいいね😄」
忙しい時は休む暇もなく、汗だくになりながら働くが暇な日は見たいテレビもしっかり見る事も出来るし、ゆっくりご飯を食べる事も出来る。
たまにはこういう休息日もあった方がいい。
渡辺さんから頂いた煎餅も美味しく頂戴した。
仕事仕事の毎日ではあるがそれなりに楽しく過ごしていたある日。
直美から連絡があった。
「みゆき😄久し振り😄明けましておめでとう🎵」
「明けましておめでとう😄体調はどう?」
「うん、お陰様で母子共に元気だよ😄りゅうせいがやんちゃで手を焼いているけど💦」
「元気が一番😌」
武田くんとはうまくやっているみたいだ。
前みたいなすれ違いも少なくなり、武田くんも直美もりゅうせいくんも穏やかに過ごしている様で安心した。
2人目が生まれたら武田家も更なる幸せに包まれるだろう。
「ところでさーみゆき、みゆきって彼氏と別れたんだよね?」
「うん、今は誰も」
「あのね、みゆきに紹介したい人がいるんだけど…」
「紹介⁉」
「そう😄うちのオヤジの会社の同僚なんだけど…」
武田くんは運送会社を辞めて目指している司法書士の会社の事務員として働いているらしいが、そこの同僚らしい。
話を聞くと、年齢は40歳のバツイチ男性。
元妻との間に子供はいないとの事。
とても真面目で仕事も出来る人だと言っていた。
職場には女性はいるが既婚者が2人。
出逢いもないそうだ。
武田くんと仲が良く、何度か武田家に来た事もある。
名前は吉村さんというらしい。
「セッティングするから会ってみない⁉」
うーん…
正直余り乗り気にはならない。
こんな気持ちで会うのは相手に失礼だと思い断るが、直美から「一回だけでもいいから😄」と何度も言われたため、次の休みに会う事にした。
待ち合わせ場所である和食レストラン。
久し振りに会う武田くんと直美。
りゅうせいくんは直美のお母さんがみていてくれるらしい。
武田くんは変わらなかったが、直美は妊娠中という事もあり丸くなっていた。
「12キロも太ってさ💦」
「赤ちゃんが生まれたら頑張れば大丈夫😄まずは元気な赤ちゃんを生むためにしっかり体力つけないとね」
「そうだね😄」
「吉村さん、多分もう少しで着くと思うんだけど…あっ😄来た来た‼吉村さーん‼こっちこっち😄✋」
直美は笑顔で大きく手を振った。
振り返ると軽く頭を下げた男性がいた。
少し小太りで背は180センチ以上はあるだろうか?
170センチ近い私が5センチヒールを履いても軽く見上げる高さだ。
見た目も清潔感はあるし、服装も年相応の落ち着いた感じである。
「初めまして。私、吉村と申します」
そう言って名刺をくれた。
「初めまして。藤村と申します」
挨拶をして頭を下げた。
「はい😄堅苦しいのはもう終わり😆お昼食べましょ🎵」
直美の一言で店内に入る。
狭いが個室になっていた。
白い提灯の様な電気でダークブラウンで統一された個室を照らす。
夜は居酒屋になる様だ。
私と直美、武田くんと吉村さんで座る。
オススメランチである天丼セットを注文。
その他にサラダ等のちょっとつまめるものも注文した。
吉村さんは姿勢が良く、シャキっと背筋が伸びた状態で座っていた。
縁なし眼鏡の奥の目は真っ直ぐ私を見ている。
別に悪い事はしていないが目を合わせるには勇気が必要だった。
「吉村さんは余り女性とこういう風に会った事がないから、どうしたらいいのかわからないみたいで😅」
武田くんが吉村さんをフォローする。
直美も「吉村さん、すごく真面目だから」とフォロー。
「ねぇ、吉村さん😄吉村さんって若い頃柔道をされていたらしいのよ」
だから体格が良いのかと納得。
「今でもたまに知り合いの道場に行くんですよね?」
「はい」
…シーン…
「あっ💦ほら‼みゆき‼確かみゆきもお酒好きでしょ?吉村さんもお酒飲むみたいなのよ💦」
「そう」
「今度、一緒に飲みに行くのもいいんじゃないの?」
「そうだ‼お酒が入ったら少しは緊張も和らぐんじゃないか?」
「そうだね」
…シーン…
ほとんど武田夫婦で話している状況だった。
その間も吉村さんはじっと私を見つめたまま。
この状況…
どうしたらいいのだろうか?
話し掛けてみる。
「何か趣味とかはあるんですか?」
「趣味ですか?特には…」
「そうですか…」
…シーン…
困ったぞ💧
吉村さんは私が通っていた高校の全日制から国立大学の法学部へ進学。
法学部で学んだ経験を活かし司法書士の資格を取得。
他の事務所から現在の事務所に移り、武田くんと知り合ったらしい。
武田くんはまだ資格を取得していないため、色々と教わっているそうだ。
ご両親は教員、お兄さんは薬剤師、妹さんは看護師だという。
余りにもレベルが違い過ぎて恐縮。
文武両道。
凄い方である。
私はめかけの娘で定時制高校卒業。
勤務先はラブホテル。
普通自動車免許以外、特に資格も取り柄もない。
こんな私と釣り合う訳がない。
きっともっと相応しい女性が現れるだろう。
共通点は同じ日本人という事くらいではないだろうか?
私の想像だが、きっと吉村さんはずっと勉強一筋だったのだろう。
女性とのお付き合いも、そんなになかったと思われる。
現にどう接していいのかわからない様子。
しかしバツイチという事はそれなりに女性とのお付き合いもあっただろう。
真面目過ぎる故に、失敗を恐れてしまうのだろうか。
少しくらい崩してもいいのに…
ずっとシャキっと伸びた背筋も…。
心の中で呟いていても仕方がない。
まずは吉村さんに色々話し掛けてみよう。
しかし初対面の何も知らない人に、どういった話題を振っていいかわからない。
とりあえず他愛もない話を振ってみた。
「今日は寒いですね」
「そうですね、冬ですから寒いのは当然ですよね」
負けずに話し掛ける。
「好きな女性のタイプは?」
「人間であれば…一つだけ希望を言えば成人していて同じ年齢くらいまでの方で、きちんと仕事をされている方であれば特にタイプはありません。見た目で選ぶのはその方に対して大変失礼なので」
「そ、そうですか…」
しつこく振ってみる。
「血液型は?」
「A型です」
「好きな食べ物は?」
「するめです。受験勉強中眠気覚ましで良く食べていました」
するめ…
「私もするめとかさきいか大好きです」
「さきいかはちょっと…」
「そうですか…」
ふと気付いた。
吉村さんからは一度も私に質問をして来ない事を。
聞いてみた。
「何か私に聞きたい事は?」
「うーん…特には」
やっぱり私には向いていない相手なのかもしれない。
私達の様子を見ていた武田夫婦。
私の表情を見て察したのか「さて、ご飯も食べたしお開きにしますか」と直美が助け船を出してくれた。
「そうだね」
その時、吉村さんが「藤村さん、良かったらアドレス交換しませんか?」と言って携帯を出した。
「はあ…」
断れる状況でもなくアドレス交換をし、その場はお開きになった。
先に吉村さんが帰宅。
武田夫婦から謝られた。
「みゆきさん…ごめんなさい💦普段はもっと話す人なんだけど」
武田くんが申し訳なさそうにしている。
「別にそんなに悪い人ではないと思うけど、私とは釣り合わないよ…レベルが違い過ぎる💦でも美味しい天丼食べれたし😄さて私も帰るかなぁ?」
そう言って私も車に乗り込んだ。
スーパーで買い物をして自宅に帰ると携帯が鳴った。
吉村さんからだった。
「今日はお時間を作って頂きまして有難うございました。とても楽しく有意義な時間を過ごさせて頂きました。もしまたお時間があれば今度は2人で会って頂けませんか?」
吉村さんは楽しかったのか。
社交辞令かも。
私も返信。
「こちらこそ今日はお時間作って頂きまして有難うございました」
この日から毎日の様に吉村さんからメールが来る様になった。
最初のうちは他愛もない内容だった。
「お仕事頑張って下さい」とか「明日から出張です」とか…。
そのうちに「おはようございます」から「おやすみなさい」まで何回もメールが来る様になった。
まるでタイムカードの様にだいたい決まった時間に「おはようございます」メールが来る。
「今、お昼を食べました。今日のお昼はラーメンでした」
「これからお客様なところに行って来ます」
「今、帰宅しました」
「これから夕飯です。今日はパスタにします」
「これからお風呂に入ります」
「明日は朝イチで会議があるため、早目に休みます」
「おやすみなさい」
こんなメールが毎日来る。
どう返信していいのか悩むが、面倒な時は返信しない。
するとメールの催促。
そしてたまにポエムの様なメールも来た。
はっきり言ってしまえばドン引きである。
しかし武田くんの同僚であるため、下手な事は出来ない。
別に付きまとわれてる訳でもないし、家も知らないし…と思い差し障りがない程度でメールを返信していた。
ある日。
いつもの時間帯に「おはようございます」のメールが来た。
その後のメールがいつもの内容ではない。
「今日は藤村さんとお付き合いを始めて1ヶ月の記念日です。そろそろ結婚も考えなければなりませんね。来週辺り、私の両親に会って頂けませんか?既に両親には藤村さんの話はしております」
…はあ?
結婚⁉
その前に…私と吉村さんって付き合っていたの⁉
武田夫婦との食事以来会ってないのに?
家も知らないのに?
何か吉村さんって…
ストーカー臭がしそうなんだけど…気のせいかな。
吉村さんのメールは段々怖いものになっていった。
「どうして返事がないのですか?」
「仕事中ですか?このメールを見たら連絡を下さい」
「携帯を握りしめて藤村さんからの連絡を待っています」
「夢に藤村さんが出て来ました😄とても綺麗な女性で思い出しただけでムラムラ来ます」
「藤村さんに会って抱きたいです」
「一度だけでもいいです。藤村さんに会いたいです」
「藤村さんが僕と結婚したら吉村みゆきになりますね。誰もが羨む素敵な家庭を作りましょう」
「子供は男の子と女の子2人欲しいです。藤村さんとの子作りを頑張らなくてはならないので、今から精力剤飲み始めます」
「結婚したら今の仕事は辞めて専業主婦になって、僕のためだけに生きて下さい」
「僕には藤村さんが必要なんです。早く藤村さんに会いたい」
「自宅の住所を教えて下さい」
吉村さんからのメールを見る度に手が震える。
私は直美に連絡をした。
直美に吉村さんから来たメールを転送。
読み終えた直美から着信。
第一声が「気持ち悪い」だった。
「吉村さん…脳ミソ沸いちゃったのかな😱そんな感じの人だとは思わなくて…みゆき、ごめん」
吉村さんは何度か武田家に行っていたらしい。
武田くんの資格勉強を教えてくれていた。
その時は、そんな素振りは全くなかったらしい。
むしろ礼儀正しく真面目で良い感じだった。
りゅうせいくんとも遊んでくれて「子供は本当に可愛いですね😄」と笑顔だったという。
元嫁と別れてから女性と縁がないという話をしていたため「みゆきを紹介しようか😄」という話しになったらしい。
食事会の後、武田くんに「藤村さんって素敵な方ですね」と言っていたらしく、何も知らない武田くんは「みゆきさんと吉村さん、くっついて欲しいなぁ💕」と言っていたらしい。
直美は食事会の私と吉村さんを見て「やめた方が良かったかも」と思っていたと言っていた。
「みゆき、本当にごめん」
「謝らないで💦」
直美と相談をし、とりあえず吉村さんのアドレスは着信拒否にし、送られて来たメールは保存した。
私の家は絶対教えないと約束。
武田くんには直美から伝えてくれる事になった。
着信拒否をしたため、吉村さんからのメールは受信しなくなり静かになった。
しかし、静かな日々は長くは続かなかった。
着信拒否をしてから約3週間程経ったある日。
休みだった私は、いつもの様に午前中はダラダラして午後から溜まっていた洗濯物を洗いながら掃除機をかけていた。
午後4時過ぎ。
部屋のインターホンが鳴った。
玄関の覗き穴から覗くが真っ暗。
向こうから穴を押さえていると思われる。
またインターホンが鳴る。
そして今度はドアをドンドンと叩かれた。
もしかして…
私は直美にメールをした。
「直美‼助けて‼吉村さんがうちに来た‼」
直美から折り返し着信。
「今から行くから‼」
何故うちがわかったのだろうか?
何度も何度もインターホンを鳴らしては、ドアをドンドンと叩く。
どうやら部屋にいる事はわかっているらしい。
吉村さんは柔道有段者。
何をされるかわからない。
20分後。
玄関先で直美の声が聞こえた。
私は慌てて鍵を開ける。
そこにはやはり吉村さんがいた。
直美は「今すぐ帰らなければ不審者として警察に通報しますから‼」と吉村さんに怒鳴る。
「私は藤村さんの婚約者です。探しましたよ…藤村さん」
そう言って玄関に入ろうとしたため、直美は110番した。
それに気付かず、吉村さんはうちに入り込もうと必死。
私も部屋に入れさせない様に必死で抵抗。
普段なら100%敵わないであろう力も、こういう時はカジ場の糞力とでもいうのか、柔道有段者の力を押さえている私がいた。
「どうしてうちがわかったんですか⁉」
「プロの方に依頼しました」
探偵という事か。
すぐに警察官が来た。
吉村さんの姿を見て警察官が一言。
「またあんたか💢⁉」
…また?
警察官は続ける。
「あんたは何回やったら気が済むんだ⁉前回で反省したんじゃないのか⁉」
吉村さんの大きな体が小さく見えた。
項垂れる吉村さん。
まるで小学生がお母さんに叱られている感じだった。
警察官の話を聞いていて思ったのが、吉村さんは何度かこうして女性宅に来ては警察に呼ばれている様だ。
体が大きいため、凄い勢いで部屋に入ってこようとする姿は確かに恐怖である。
しかし吉村さんは決して怒鳴らない。
ひたすら無言。
それはそれで恐ろしい。
私と直美は部屋で警察官から話を聞かれ、吉村さんはパトカーに連れられて行った。
部屋で吉村さんから来たメールを見せた。
それを見ていた女性警察官が眉をしかめた。
女性警察官は「怖かったでしょう…こういう時はまたいつでも110番していいですから」と言っていた。
私は吉村さんに対して被害届を出さなかった。
逆恨みされたくなかったからだ。
しかし吉村さんは前科があるため、警察に泊まる事になった。
部屋、引っ越そうかな…。
直美も妊娠中の大事な時に巻き込んで申し訳ない。
「りゅうせいくんは?」
「連絡くれた時、ちょうど実家にいたのよ😄だからりゅうせいは、ばばが見てくれてるわ」
「そうなんだ💦直美が来てくれて、本当に助かった💦ありがとね」
「こっちこそ変な人を紹介して本当に申し訳ない…もっとみゆきといたいけど、りゅうせい迎えに行かなきゃ💦あっ🎵今日の夜、うちに来ない?一人でいるより不安はなくなると思うから…今日の晩御飯、鍋にするつもりなんだ😄一緒に食べよう😄」
そう言って直美は帰って行った。
直美に甘えて、夜は武田家に泊まる事にした。
武田家では武田くんの帰りを待ってキムチ鍋を頂く。
りゅうせいくんは別メニュー。
大好きなバナナにヨーグルトをかけたデザートを美味そうに食べる。
溢しまくるが、スプーンを上手にお口に持っていく。
ママのお膝でご満悦。
お腹が大きいママは少し窮屈そう。
私はビール一箱と妊娠中でアルコールが飲めない直美には、直美が今はまっているという野菜ジュースを一箱買って行った。
直美は大喜び。
私と武田くんはキムチ鍋でビールを飲む。
りゅうせいくんには大好きなバナナとウエハースを買った。
美味しいキムチ鍋も完食し、りゅうせいくんも就寝。
就寝前に目をこすりながらもバイバイをしてくれた可愛い姿が癒された。
りゅうせいくんが就寝してから、3人で話をする。
武田くんがビールを飲みながら「今日、同僚から聞いた話しなんだけど…」と言って話し出した。
話をまとめると…
吉村さんは今日付けで解雇になった。
仕事柄、警察にお世話になる事は許されないらしい。
吉村さんの離婚原因は吉村さんの異常な束縛が耐えられなくなり、元嫁が逃げ出したという。
離婚も吉村さんが拒否したため、裁判にまで発展したそうだ。
結果、離婚が成立し元嫁は遠く離れた地に引っ越した。
前の職場でも今回と同じ様な事件を起こして解雇され今の職場に移ったとの事。
仕事は完璧と言っていい程きっちりこなすという。
しかし真面目過ぎるため、応用がきかない。
マニュアル通りにしか行動が出来ないらしい。
それでも吉村さんは自分を崩さずに仕事をしていた。
仕事をしている姿はそんな人間だとは微塵も思わなかったという。
武田くんも「話を聞いてびっくりした」と言っていた。
とりあえず今日は武田家に泊まるが、明日からは引っ越し先を見付けよう。
今のアパート、気に入ってたんだけどな…。
翌日の昼間、武田家から自宅に戻った。
この日は仕事のため、仕事に行くまでゴロゴロしていた。
するとインターホンが鳴った。
恐る恐る覗き穴を覗くと知らない男女が立っていた。
「私、吉村浩二の母です」
えっ?
吉村さんのお母さん⁉
「息子が大変ご迷惑をおかけ致しました。お忙しいかと思いますが…玄関先で構いませんので、ドアを開けて下さいませんか?」
私は素直にドアを開けた。
吉村さんのご両親。
深々とお辞儀をしながら「突然申し訳ありません。直接お詫びをしに伺いました」
「いえ…特に被害はありませんでしたから…」
「息子から藤村さんの話を伺いましたが、おかしな話で私共首を傾げていたのですが、まさかこんな事になるとは…」
お父さんが申し訳なさそうに話す。
ご両親は、とても腰が低く丁寧な話し方をされる。
もう二度と関わらないという約束をして、ご両親は帰って行った。
こんなに良いご両親なのに…。
吉村さん、どうしてあんな風になってしまったのか。
菓子折りを頂いた。
開けてみると、有名な和菓子屋のどら焼きだった。
ここのどら焼き、小ぶりだが甘くなくてとても食べやすい。
有難く頂きます。
この日から吉村さんとの縁も完全に切れ、平和な日々となった。
部屋の引っ越しもやめた。
ここのアパートは決して新しくはないが、とても住みやすい。
場所もラブホテルから近いし、近所にある程度揃っているし、駐車場も出入りしやすい。
アパートから徒歩30秒でバス停もある。
部屋は1LDKで日射しも風通しも最高だし、ある程度は防音されているので夜遅くに帰る私にはちょうど良いのだ。
家賃も手頃。
文句なしである。
しかし、吉村さんの突然の訪問からしばらくの間はちょっとした物音でも「ビクッ‼」とする事や、玄関の鍵やチェーンも何回も確かめる様になった。
そうしないと落ち着かないのである。
しかし1ヶ月もしたら過敏な反応も薄れていった。
やっと落ち着きを取り戻した。
ある日、休みで暇だった私は久し振りにパチンコ屋に入り、1円パチンコで遊んだが全く出ない。
つまんないなと思いながら、駐車場に行くと男性の怒鳴り声が聞こえた。
最初は私と同じ様に負けて面白くないんだろうと思っていたが、途中で女性の叫び声が聞こえてその声がする方を見た。
すると男性が女性を殴っていたのである。
私は驚き、駐車場にいた警備員さんを連れてその場に向かった。
警備員さんも私も女性の顔を見て驚いた。
顔は腫れ上がり、鼻と口から血を出して目はうつろだった。
警備員さんは「何をしているんですか‼」と男性を女性から離した。
男性は目は血走り興奮状態。
「何だお前⁉こいつの浮気相手か⁉」
「やめなさい‼」
「うるせーよ💢離せコラ💢」
暴れる男性を必死に止める警備員。
私はその隙に携帯から110番し、女性にハンカチを渡した。
女性は震えていた。
「大丈夫ですか?」
「ありがとうございます…」
女性は殴られ過ぎたのか、ボーっとしている様子。
男性は「こいつが金をくれないのが悪いんだよ💢」だの「お前がもっと働けばいいんだよ💢」だの騒いでいる。
この騒ぎに野次馬が集まり出した。
警察官が到着。
男性は警察官に対しても「呼んでねーよ💢帰れよ‼💢」と悪態をつく。
警察官2人がかりで暴れる男性をパトカーに乗せた。
私は通報者として事情を聞かれ、暴れる男性を押さえていた警備員も事情を聞かれていた。
この時思った事。
男性は女性に暴行している間は女性の怪我の具合を見ても結構な時間だったと思われる。
その間、騒ぎを見ている人はいたが誰も助けず、ただ黙って遠くから見ているだけだった。
もし私が警備員や警察官を呼ばなければ、女性がどうなっていたか…。
人間の冷たさを実感した。
女性は救急車で病院に運ばれた。
警察官から見ても相当な怪我だった様だ。
警察官からの事情も終わり、車に戻ろうとした時に知らないおばちゃんが話し掛けて来た。
野次馬根性丸出しの顔で「ねぇ~何があったの?あなた何かやらかしたの?」と聞いて来た。
イラっと来た私は、無言でおばちゃんの腕を掴んで警察官のところに連れて行き「すみません、この方が何かあったのか野次馬根性で気になるみたいなので連れて来ました」
おばちゃんには「警察官の方から直接話を聞いて下さい」と言っておいた。
もちろんおばちゃんは警察官からお叱りを受けた。
翌日の地元新聞に小さくこの事件の事が乗っていた。
男性は住所不定無職の32歳、女性は風俗嬢で27歳、新聞には女性は暴行を受け重傷と書かれていた。
要は男性はヒモで、女性からパチンコ代をもらったが負けたためもっと貰おうとしたが断られたため殴ったんだろう。
働かずにプラプラして、女性にたかり拒否されて暴力とは人間として最低である。
以来、このパチンコ屋には行っていない。
このパチンコ屋のすぐ近くには大型ショッピングセンターがあり、ショッピングセンターの回りにもたくさんのお店が立ち並ぶ。
このエリアに来ると、ほとんどのものが揃う。
パチンコ屋のすぐ隣にラーメン屋さんがあるのだが、ここのラーメンが安い割に美味しい。
パチンコのお客さんや昼間はサラリーマン、このエリアで働く人達でかなり込み合う。
だからいつも、込み合う時間をずらして食べに来る。
空いたカウンターでラーメンを食べていると「すみません」と声を掛けて来た男性がいた。
「はい…」
手を止めて男性を見た。
見覚えがない。
「先日は大丈夫でしたか?」
「…???」
何の話か全くわからない。
その前にこの男性が誰なのかもわからない。
「失礼ですが…どちら様でしょうか?」
私は男性に尋ねた。
「大変失礼致しました。私先日の警備員です」
「あっ💦それは失礼致しました💦」
私は慌てて頭を下げた。
あの時は制服に帽子を被り、夢中だったため顔まではハッキリと見ていない。
私服姿だと尚更誰かわからなかった。
「隣…いいですか?」
「はい、どうぞ」
「家近いんですか?」
「遠くも近くもないんですが、ここのラーメンが好きでたまに来るんです😄」
「僕もなんです😄今日は休みなんですけど、ここのラーメンが食べたくて😄」
この警備員。
名前は高島耕平さんというらしい。
年齢は30歳。
警備員の仕事はまだ始めたばかりらしい。
他愛もない話をしながらラーメンを食べる。
笑うとえくぼが出来る。
優しそうな男性だった。
「今日、仕事はお休みですか?」
「いえ、仕事は夜なんです」
「そうなんですか😄大変ですね。じゃあこれからお仕事ですか?」
「ええ…まあ」
「そうですか💦仕事じゃなければ、映画にでもお誘いしたかったんですが」
「映画ですか?」
「はい😄これから映画でも行こうと思っていまして😄」
「ゆっくり楽しんで来て下さい😄」
何か…初めてこうして会話したとは思えない感じ。
きっと会話の仕方が上手いのだろう。
「よかったら藤村さん、アドレス交換しませんか?」
「えっ…?」
「あっ💦いえ💦嫌なら結構です💦」
「大丈夫です😄」
高島さんとアドレスを交換し、高島さんと別れた。
高島さんは吉村さんとは違い、変なポエムや勘違いメールもなく、毎日でもなくたまに他愛もない感じのメールが来る。
ある日、高島さんから相談された。
1年付き合っている彼女がいるらしいのだが、高島さんは別れたいらしい。
彼女は基本的にわがままでプライドが高い。
学生時代に読者モデルをしていたらしく、容姿端麗な彼女。
そのため「私は美人でモテる。だから私は偉い」と思っているため、上から物を言うらしい。
気持ちが冷めた時があった。
この日は彼女の誕生日。
デートの途中にコンビニに寄った。
すると突然、雷と共にすごい雨が降って来た。
車まで走れば濡れる被害は最小限で収まる。
すると彼女は「車でここまで迎えに来てよ」と言った。
「車まで走れば大丈夫じゃない?」と高島さんが言った。
すると彼女は「この私が濡れてしまうじゃない、濡れるのは耕平だけで十分」と言い放った。
イラっとはきたものの、高島さんは車まで走って行き店の前にVIP停め。
彼女はお礼を言う訳でもなく当たり前みたいな顔をして車に乗り込む。
そしてプレゼントを買いに行く。
買ってとねだる物は10万もするブランドのバッグ。
手持ちがそこまでなかったため「別のやつは?」と聞いた。
「金がないならカードがあるじゃん🎵😄まさか誕生日プレゼントを安物に妥協してなんて言わないよね?」
夕飯は高級レストラン。
この日だけで私の1ヶ月分のお給料が消えた様だ。
逆に高島さんの誕生日には彼女からペアネックレスをもらった。
喜んでいたら「2万でいいよ」と言われた。
「何が?」と聞いたら「えっ…?まさか、彼女にお金出してもらおうなんて思ってるの⁉選んであげたんだから有難く思って😄はい立替えた2万」と手を出された。
何度か別れ話を持ち掛けたが「絶対別れない‼地獄の果てまでついていく」と言われたらしい。
まだまだ理由はあるが話していたらキリがない。
どうしたら別れられるか?と相談された。
聞いてみた。
「何故彼女と付き合ったの?」
「恥ずかしながら…顔がタイプでした😅」
どうしたらいいものかねぇ。
高島さんの話を色々聞いているうちに、彼女が何故高島さんと別れないのか理由がわかった。
それは「金」
高島さんの実家は代々続く地主。
父親は曾祖父の代から続く会社の社長。
いわゆる「富裕層」だ。
「彼女が別れたくない理由はお金だよ」
そう言うと高島さんは「親は金持ちだけど俺は貧乏だよ」
というが、着ているものはいいものだし時計も高級だ。
高島さんはどうやら自覚がない様だ。
「もし彼女と本気で別れたいならお金がないアピールをしてみたらいいよ。多分彼女から別れてくれるよ」
高島さんは半信半疑の様だが、実践してみる事にした。
デートの時にレンタカーで軽自動車を借りた。
高島さんの車は私のアパートの空駐車場(来客用)に停めた。
「実はお金に困り、車を売ったんだ」と演技。
デートも今までは高級レストランや高級ホテルばかりだったのに「ごめん、支払いが滞りカードが使えないんだ…お昼ご飯ラーメンでもいい?」と安いラーメン屋さんに行った。
こんな感じの事を何回か繰り返しているうちに、彼女から別れを告げられたそうだ。
「やっぱりね」
「でもショックでした😞⤵僕の事をそういう感じでしか見ていてくれなかったんですね…じゃなきゃ、僕みたいな男にあんなに可愛い彼女が出来る訳ないですもんね」
複雑な心境の様である。
「そんな女は別れて正解✋」
「そうですね😄これからは自由を満喫します😁」
若いんだから、まだまだ素敵な出会いがあるよ。
今度は内面美人の人を探して欲しい。
いつもの様にラブホテルに出勤。
従業員用駐車場に車を停めた。
すると男性が私の方に歩いて来た。
「お客さんかな」
そう思い車から降りた時に声を掛けられた。
「藤村みゆきさんですよね?」
「はい…そうですが…」
薄暗いため、顔が良くわからない。
「私、桜井亜希子の旦那の輝之なんですが…」
亜希子ちゃんの旦那さん⁉
「突然すみません。藤村さんにどうしてもお願いしたい事がありまして…」
「あの、これから仕事なんですよ」
「承知してます。5分で終わります」
「そうですか…」
「亜希子には絶対言わないでもらえませんか?」
「…用件は何でしょうか?」
「無理を承知でお願いします。お金を貸して頂けませんか?」
「えっ?」
「50万程…無理でしょうか?」
「何故そんなお金必要なんですか?」
「あの…亜希子に内緒に借金をしまして」
「何の借金ですか?」
「実は…」
何と亜希子ちゃんの旦那はまた新しい女を作り、その女との交際費で小遣いだけでは足りずに消費者金融からお金を借りたが、小遣いだけでは返済出来ずにお金を借りに来たそうだ。
「そんな理由ではお金は貸せません。お帰り下さい」
すると旦那は「貸してくれると思い全て話したのに💢」と怒り出した。
「寺崎グループのお嬢様はずいぶんケチなんだな💢」
大きな声で喚く。
「やめて下さい」
「じゃあお金貸してくれます?」
「無理です」
「じゃあお父さんにお願いしてもらえます?お父さんにとったら50万なんてハシタ金でしょう」
「はい?」
「本当に困っている人間が恥を承知で頭を下げて来ているのに、藤村さんって残酷な人間なんですね」
「すみません、仕事なので失礼します」
私は喚いている旦那を放置し、足早にホテルに入った。
亜希子ちゃんの旦那さん…正気なんだろうか?
普通じゃない。
恐ろしく感じた。
嫁の友人である私に「亜希子には黙っておいて」と言ってお金を借りに来るとは驚きである。
しかも不倫相手との交際費で借金を作り、その返済に困ったとは呆れるとはこういう事なんだろう。
旦那さんの中では、借金返済出来ない気の毒な俺、嫁の友人ならきっと同情してくれるとでも思ったのだろうか?
前回で懲りたんじゃなかったのか?
喉元過ぎれば何とやら…
これは無視でいいだろうと自己判断し、亜希子ちゃんに言うのも黙っていた。
私の退勤時間は夜中2時。
驚いた事に亜希子ちゃんの旦那さんはまだいたのである。
タイムカードを押し、車に向かうと従業員駐車場の脇にゾロ目ナンバーの車。
一緒に出て来た絵美さんが「あの車、ずっとあそこに停まってるんだよね」と気持ち悪そうに車を見る。
絵美さんが車に乗り込み、私も車に乗り込んだ。
すると旦那さんは私の後をついてきた。
きっと私の家まで来るつもりなんだろう。
バレてないと思ってるのか?
私は家とは逆方向に向かう。
コンビニに寄ればコンビニの駐車場で待機。
私が走らせればついて来る。
困った。
家は知られたくない。
こんな夜中に申し訳ないが、亜希子ちゃんに電話をした。
「もしもし⁉みゆきん⁉」
少し寝惚けた様な声だった。
「こんな夜中に申し訳ない…今、お宅の旦那につきまとわれて困っているの。詳しくは後で話すからとりあえずアパートに向かっていい?家には入らないから」
「えっ?う、うん…わかった」
亜希子ちゃんは戸惑っている様子。
そりゃそうだろう。
亜希子ちゃんには申し訳ないと思いながら、亜希子ちゃんのアパートに車を走らせた。
亜希子ちゃんのアパートに到着。
旦那さんの車は少し離れたところに停まっているのが見えた。
亜希子ちゃんがパジャマ姿のまま降りて来た。
「みゆきん?何があったの?」
「今日旦那は?」
「出張のはずなんだけど…」
「出張⁉まさか💦すぐそこにいるよ」
私は離れたところに停まっている旦那さんの車を指差した。
亜希子ちゃんに簡単に事情を説明。
亜希子ちゃんは「病気再発か…やっぱりな」と呟いた。
前回の吉田留美子の件の時に「次はない」と断言していた亜希子ちゃん。
新たな問題発生で離婚に向けて動く事になる。
旦那さんは借金返済に切羽詰まっていると思われる。
きっと返済日が近いのだろう。
切羽詰まった旦那さんはきっとお金を工面するため、常識を逸脱した行動をしているのだろう。
だから旦那さんはひらめいたかの様に、寺崎グループの娘だからお金がある、金持ちならきっと貸してくれると思い私に執拗に付きまとっているのだろう。
私は確かに娘だが、父親からの援助はない。
生活費は全て自分で働いたお金でまかなっている。
お金が有り余っている訳ではない。
切り詰めてわずかな貯金しかない。
50万なんて大金、ある訳がない。
そもそも、借金してまで不倫をする考えが理解出来ない。
翌日の昼間、父親から電話が来た。
「桜井っていう男性から電話が来たが知り合いか?」
どうやら旦那さんは父親に直接電話を掛けたらしい。
「娘さんの知り合いです。…お金を娘さんに貸しているので返して頂きたい」
そう言われたそうだ。
「娘に確認するから」
そう言っても「その必要はない」としつこかったため強制的に電話を切り、私に電話を掛けて来たらしい。
父親に事情を説明。
旦那さんが勤務する父親の弟が社長である孝夫おじさんに、父親から連絡をした。
旦那さんは首の皮一枚状態になった。
役職剥奪で給料減給。
亜希子ちゃんは呆れてしまい、子供を連れて実家に帰った。
旦那さんの怒りの矛先が私に向けられた。
私はその時、高島さんと飲みに行く約束をしていた。
待ち合わせ場所である駅前にある小さな噴水の前にいた。
高島さんから「10分程遅れます💦」という連絡があり、暇潰しで携帯のゲームをしていた。
すると後ろから「藤村みゆきさん」という声。
振り返ると亜希子ちゃんの旦那さんがいた。
目は血走り鼻息が荒く、無精髭を生やし殺気立っていた。
「あんたのせいで俺の人生メチャクチャだ‼」
そう叫んで私の髪の毛を掴み引っ張った。
「やだ…ちょっと離して‼」
無言ですごい力で髪の毛を引っ張り歩き出す。
ちょっとした騒ぎに周りにいた人達がこっちを見る。
「離してよ‼」
私は必死に振り払おうとするが抵抗すればする程、髪の毛を掴む力が強くなる。
後頭部の掴まれている髪の毛が全部抜けるのではないか?と思う程の力だ。
その時に高島さんが来た。
亜希子ちゃんの旦那さんに髪の毛を掴まれて騒いでいる私に驚いたのか、すごい勢いでこっちに走って来て旦那さんを殴った。
旦那さんは「何するんだよ💢」と高島さんの胸ぐらを掴んだ。
高島さんは鋭い目付きで旦那さんを睨む。
この騒ぎに駅前交番の警察官2人が走って来た。
警察で事情聴取を受ける事に。
周りにいた通行人が証言してくれたのもあり私と高島さんは解放された。
旦那さんは引き続き交番にいる事に。
亜希子ちゃんに電話。
事情を説明すると亜希子ちゃんは「みゆきん…迷惑かけてごめんなさい」と声を震わせた。
高島さんとの飲む予定を止めて亜希子ちゃんと会う事に。
亜希子ちゃんは子供をお母さんに預けて出て来てくれた。
高島さんも一緒だった。
亜希子ちゃんの話を聞く。
旦那さんに女がいるのは何と無く気付いてはいたが、決定的な証拠がなかったため様子を見ていた。
まだ幼い我が子に手が掛かるため、旦那の事はどうしても二の次になってしまっていた。
吉田留美子の事で反省し、色々やってくれてはいたが前の様には戻らなかった。
借金の事は私からの電話で初めて知った。
旦那には月に2~3万小遣いを渡していた。
特に不満は言わなかったため、間に合っているのだろうと思っていた。
今回の事で旦那との離婚を決めた。
女を作り、女との交際費のための借金を作り、返済が出来なくなり嫁の友人にお金の無心、しまいには全てに於いて逆恨みする様な旦那はいらない。
子供と2人で平和に暮らしたい。
亜希子ちゃんの中では「離婚」しか選択肢はない。
高島さんが「あの…僕の父親の友人に弁護士がいますので、明日にでも連絡をしてみます」と言っていた。
後日、亜希子ちゃんの旦那さんは解雇になった。
女は某SNSで知り合った30歳の独身女性。
驚いた事に亜希子ちゃんの旦那さんは「独身」だと偽り、この女性と付き合っていた様である。
この女性は旦那さんとの結婚まで考えていたらしく「既婚者だったなんて…」と泣いていた様だ。
結果、旦那さん有責で離婚が決定。
亜希子ちゃんは子供と実家に帰った。
旦那さんがそれからどうなったのかは不明である。
私の父親が社長だと聞いて、お金目当てで近付いて来る人もいた。
前にも書いたが、私は自分のお給料だけで生活している。
食費や光熱費等を極力削りわずかな貯金しかない。
1人で生活していくには特に不自由はないが、人様の面倒を見る余裕などない。
前にお付き合いしていた慎吾の母親。
完全にお金目当てだった。
慎吾との結婚を考えていたため、ご両親にご挨拶に行った。
最初は「母子家庭で定時制高校卒業」というだけで顔が曇っていた母親。
勤務先も小さな企業。
母親が慎吾を台所に呼び「もっと他の娘いるじゃない…こんな娘じゃなくても」と言っているのが聞こえた。
まぁ、何の取り柄もないしそう言われるのも仕方がないか…と思っていたのだが、その時に慎吾が「実はみゆき、あの寺崎グループの社長の娘なんだよ」と言った。
すると母親は「そんな大事な事、どうして先に言わないのよ‼」と叫び、慌てて私のところに来た。
さっきまでの態度とは180度変わり、満面の笑みで「ごめんなさいね💦失礼な事を言ってしまって💦オホホ」みたいな態度だった。
「お父様、社長さんなんですってね」
「…はい」
「慎吾と結婚したら身内になるじゃない😄ご挨拶させて頂きたいんだけど」
「はあ…💧」
「結婚したら色々物入りになるじゃない?ほら、その…お父様ご都合つけて下さらないかしら?オホホ」
「…」
「結婚したら同居になるわよね?この家も古いし、やっぱり新婚生活の始まりは新しい家がいいと思うの😄お父様もお嬢さんの嫁ぎ先が新しくなるのは喜ぶんじゃないかしら?」
父親は母親に「そんな恥ずかしい事を言うな💢」と怒っていたが、母親の中では寺崎グループの娘と結婚→家をリフォーム出来ると思ったらしい。
確かに慎吾の実家は築30年で古かったが内装は明るいし、お風呂場と台所と御手洗いは新しくしているためそんなに古さは感じない。
しかしその後、慎吾から別れを告げられた。
直後に母親から電話があり「慎吾とよりを戻して欲しい」と再三連絡があった。
驚いた事に「もうリフォームをお願いして見積りを立ててしまった。あなたと結婚すると思ったから見積りを立てたから、リフォーム代を支払って欲しい」との事。
「社長の娘なら800万くらいポンと出せるわよね?」
「もう慎吾と別れて他人ですから」
「でも…付き合っていたじゃない」
「付き合ってましたが、今は他人です」
「じゃあこのリフォームはどうするのよ💢結婚するって話しだったから見積ったのに💢」
「慎吾は他の女性と結婚しますから、その方にお願いして下さい」
そう言って電話を切り、着信拒否。
それからは連絡がないためどうなったのかわからない。
直美に第2子が生まれた。
予定日より1ヶ月弱早かったが、母子共に問題はない様だ。
今度は女の子。
武田くんから連絡があり、お祝いを持って出産した産婦人科に向かう。
武田くんとりゅうせいくんがいた。
「直美😄出産おめでとう😄」
「ありがとう😄」
直美は若干疲れた様な表情はしていたものの元気そうだ。
赤ちゃんは新生児室にいるとの事で、早速赤ちゃんを見に行った。
ガラス張りになっていて、そこには直美の赤ちゃん以外にも4人の赤ちゃんがいた。
「武田直美ベビー」と書かれた赤ちゃんを発見。
ピンクのバスタオルを掛けられてスヤスヤと眠っていた。
「可愛い😆」
思わず笑顔になる。
りゅうせいくんを抱っこして武田くんも来た。
りゅうせいくんは妹だとわかるのか、赤ちゃんを指さしてカタコトで話している。
「りゅうせいくん、お兄ちゃんになったね😄」
「うん😄」
武田くんも娘誕生日に嬉しそう。
陣痛が来てから4時間で生まれたらしい。
普通に夕飯の準備をしていた時に突然突き上げる様な痛みに襲われ、帰宅直後だった武田くんが慌てて病院に連れて来たそうだ。
武田くんが帰宅していて良かった。
生まれたのが夜中だったため、誕生の瞬間はりゅうせいくんは眠っていたらしいが武田くんは泣いて娘誕生を喜んだ。
直美の両親はこの日は法事で地方に行ってたらしく、生まれたとの連絡で慌てて夜中に車を走らせて帰って来たそうだ。
武田くんの両親は寝ていたらしい。
予定日より1ヶ月弱早いため仕方ない。
新たな家族誕生。
私もいつかは…と思うが、最近はもう半ば諦めている。
友人のおめでたい出来事に幸せな気持ちになった。
ある休日。
この日は風邪気味で体がダルかった。
熱は高くはなかったが微熱が続き、喉と鼻の粘膜がくっつく感じで若干痛みもあった。
酷くならないうちに病院に行っておこう。
そう思いマスクをして、部屋着から着替えて近所の内科に向かった。
風邪が流行っているのか、待合室はそこそこ混んでいた。
受付を済ませ、時間潰しで近くにあった女性週刊誌を読んでいた時、会計で呼ばれた名前に思わず反応し顔を上げた。
その人を見て驚いた。
何と桑原くんのお兄さんだったのである。
私はマスクをしているしきっと気付かないであろう。
顔を少し伏せながら目で桑原くんのお兄さんを追いかけた。
お兄さんは会計を済ませて病院から出ようとした。
その時、タイミング悪く受付で私の名前が呼ばれた。
「藤村さーん‼藤村みゆきさーん‼」
Σ(゜д゜;)
多分、こんな顔をしていただろう。
桑原くんのお兄さんが凄い勢いで私を見たのがわかった。
「すみませんが、もう一度保険証を見せてもらっていいですか?」
「…はい」
受付の女性は何も知らないため仕方がないが、あと1分でいいから待って欲しかったと思いながら保険証を出した。
席に戻ると案の定、桑原くんのお兄さんが来た。
「藤村さん😄ご無沙汰してました😄まさか同じ病院にいるとは…風邪ですか?」
「はい」
「そうなんですか💦私も風邪気味で仕事中なんですが診てもらって」
それから桑原くんのお兄さんから質問攻めに合う。
調子が良くないから病院に来ているのに、はっきり言って邪魔である。
「あのすみません、喉が痛いので余り話したくないんですよ」
「そうでしたか💦ではまた💦」
そう言って桑原くんのお兄さんは帰って行った
はぁ。
思わず溜め息が出た。
診察も終わり、病院の隣にある調剤薬局で薬ももらって車に乗り込もうとしたら「診察終わりましたか?」という声が聞こえ振り向くとお兄さんがいた。
えっ?
あれから1時間近く経ったのにまだいたの?
「せっかく藤村さんにお会いしたんですから、少しお話しがしたくて…一緒にお食事でもいかがですか?」
「仕事は…?」
「営業の特権です😄ご心配なく😄お互い風邪気味なので栄養があるものがいいですね…」
「あの…すみませんが外食する様な格好ではありませんし調子が悪いので、申し訳ないんですが…」
「あっ😄格好は全然お気になさらず😄」
違う…そういう問題じゃない。
何故わかってくれない😫
断ったが結局、強引に食事に連れて行かれる事になった。
さっき病院で「喉が痛い」と伝えたはずなのに、どうしても話がしたいと譲らないお兄さん。
根負けした形で焼肉屋さんに来た。
「ご馳走しますから好きな物を召し上がって下さい😄」
「はあ…」
そう言われても正直余り食欲がない。
「お任せします」
お兄さんはメニュー表を開き、店員さんに「そんなに食べれるの?」というすごい数を注文している。
「たくさん食べて早く風邪治しましょう😄」
そう言って運ばれてくるお肉をどんどん焼いていく。
お兄さんは痩せの大食いの様だ。
それとも相当お腹がすいていたのか、次から次へとお肉を口に運ぶ。
私も少しは摘むが食欲がないため余り食が進まない。
焼肉は好きだが今日は余り食べられない。
「遠慮しないでどうぞ😄」
そう言われても食べられない。
すごい量があったはずなのに、ものの見事に完食した。
お口直しでバニラアイスクリームが来たが、不思議とそれは食べられた。
お兄さんからは相変わらず質問攻め。
「今もラブホテル勤務なんですか?」
「今は誰か相手はいるんですか?」
桑原くんの話を聞く。
桑原くんは私と完全に切れた直後にお付き合いした人はいたが、今は誰もいないらしい。
お兄さんも特定の人はいない。
興味がなかったため聞き流していたが、お兄さんからの言葉でハッとする。
「藤村さん😄私は藤村さんを諦めた訳じゃないんです😄弟よりは藤村さんを大事に出来る自信はあります。今回お会い出来て良かった…やっぱり藤村さんは素敵な方だ😄」
風邪気味で弱っているだけです。
それに私はお兄さんとお付き合いするつもりは全くありません。
はっきりとそう伝えたが「諦めません‼その方が張り合いがあります」
宣戦布告された。
お兄さんと別れて帰宅。
早速もらって来た薬を飲んで早目に布団に入った。
ウトウトし、目が覚めたら午後11時を少し回ったところだった。
薬が効いたのか喉の痛みが和らいだ。
トイレに行き布団に戻り携帯を開くと純子さんから5件着信があった。
この時間なら、まだ普通に勤務しているはずだ。
着信があったのは午後9時58分から4~5分刻み。
約1時間経過していたが何かあったのかと思い、折り返し純子さんに電話をしたが出ない。
今度はラブホテルに掛けてみると純子さんが出た。
「もしもし、みゆきですけど…」
「みゆきちゃん⁉休んでる時にごめんなさいね💦」
「電話気付かなくてごめんなさい💦何かありましたか⁉」
「あのね、綾子さんが仕事中に倒れてしまって救急車で運ばれたのよ💦」
「えっ?綾子さん、大丈夫なんですか⁉」
「多分、シフト増やして頑張っていたから無理が祟ったのかもしれない…意識ははっきりしていたけど何とも…それでみゆきちゃんに出てきて欲しかったのよ💦これからでも出てこれないかしら?」
「わかりました💦すぐ向かいます‼」
急いで支度をしてラブホテルに向かった。
綾子さんは昼間の仕事も夜のメイクの仕事も増やしてほとんど不眠不休で働いていた。
子供さんのため、生活のためとはいえ無理し過ぎである。
綾子さんは夜中2時半過ぎに旦那さんに送ってもらいラブホテルに戻って来た。
顔色は悪く、明らかに疲労困憊といった表情をしている。
しばらくラブホテルの仕事を休んで、少し休養する様に伝えた。
命に別状はなかったが、これ以上無理をしたら綾子さんが危険な状態になる。
今月いっぱい綾子さんはラブホテルを休む事になった。
少しゆっくりと休んで、また元気に戻って来て欲しい。
私も早く風邪を治さなくては…
忙しい毎日だったが、きちんと休みはもらえた。
ある日。
高島さんとメールをしていた。
「彼女が出来ました😆」
良かったじゃないか😄
高島さんの友人の紹介らしい。
相手は高島さんより1つ年上。
見た目は普通だが、大変家庭的で元彼女の様にお金目当てではなく、高島さん自身を好きでいてくれているそうだ。
「いい彼女が出来て良かったね😄大事にするんだよ😄」
高島さんとは飲み友達。
彼女の了解を得られればまた飲みに行こう😄
「今度は藤村さんが幸せになる番ですね😄もし、彼氏が出来たら教えて下さいよー😁」
「いつになるかなぁ?」
高島さんには今までの話しも飲みに行った時に話していたため、ある程度は知っている。
「こんな私でもいいっていう人がいれば…それがなかなかね」
「いるじゃないですか🎵お兄さん😁」
「うーん…」
「俺はお兄さん、いいと思うんですよね😄多分ですけどお兄さん、愛情表現の仕方が下手なんですよ💦藤村さんを大事に思ってると思うなぁー」
「うーん…」
「藤村さんって、人の事はアドバイスするのに自分の事は悩むんですね😁」
「ははは😅」
「応援してますよ✌藤村さん🎵お兄さんとの良い報告待ってます👍」
うーん…
高島さんは、弟の元彼女というのがあるしあくまでもお兄さんとしか見れないから、その見る目を一人の男性として見たら変わるかもしれない、とは言っていたが…
やっぱり「桑原くんのお兄さん」としか見れない💧
一人の男性として見たら、悪い人ではないと思うが…
複雑である。
高島さんと彼女と3人で飲みに行く事に。
高島さんとの付き合いは短いが、可愛い弟みたいな感じである。
高島さんもお姉さんみたいだと言ってくれた。
初めて会った彼女は、背は小さくて少しふくよかだが明るくて笑顔が可愛らしい。
名前は高野なぎささん。
お母様は中国の方らしい。
ん…?
高野…?
お母様が中国の方…?
もしかして、前の会社で一緒だった高野くんの…?
聞いてみた。
「ねぇ、兄弟に高野慎一っていう人いる?」
「弟です💦弟の事ご存知なんですか⁉」
驚いた表情で答えた。
「前の会社で一緒だったのよ」
「そうなんですか⁉すごい偶然ですね😄」
世の中狭いなと思った。
高野くんのお姉さんか。
言われてみたら、高野くんと顔が似ている。
話を聞くと、高野くんは今も中国語を活かし観光ホテルで頑張っているらしい。
再婚はせず、シングルファーザーとして娘さんを立派に育てているらしい。
お姉さんにも懐き、たまに2人で買い物に行ったりご飯を食べに行ったりもするんだとか。
高野くん、頑張ってるんだ😄
「弟さんによろしく伝えてね😄」
「はい🎵」
高島さんは2人で盛り上がっているのを見て笑っていた。
「耕平さんから藤村さんの話を聞いて、お会いしてみたかったんです😄今回お会い出来て良かった😄弟の元同僚が一番驚きました(笑)」
「私も😄」
高島さんはパチンコ屋の駐車場で起きた事件の事を話したらしく、彼女は話を聞いてどんな人なのか興味があったらしい。
高野くんのお姉さんならきっと素敵な彼女だろう。
幸せになって欲しい。
後日、高野くんから着信があった。
以前の携帯は解約したため私の番号は高島さん→お姉さんから聞いたらしい。
高島さんと高野くんのお姉さんには高野くんに番号を知らせるのは了承していた。
「藤村さん‼ご無沙汰してました😄スーパーで会った以来ですね😄」
「元気だった⁉」
久し振りの高野くん。
電話では全く変わりない様子。
他愛もない話をする。
高野くんも休みはシフト制らしく、私と同じく主に平日が休みらしい。
しかし学校の行事の時は土日祝でも休みはとれるそうだ。
休みが平日なら、昼間は子供が学校に行っているため今度ランチでも…という話しになった。
昼間なら私も時間がある。
お互い都合が良かった。
「それにしても、姉の彼氏の友人が藤村さんとは…こんな偶然ってあるんですね💦」
「私も驚いたよ」
高島さんとはいいお付き合いが続いている様だ。
「高野くんはちゃんとパパしてるみたいね」
「はい😄可愛い娘を守れるのは僕だけですからね😄でも最近、パパ嫌いが始まりまして…😅もうお風呂を一緒に入ってくれなくなりました😞」
「そっか…寂しいけど年頃だからね」
「下着を一緒に買いに行くのも嫌がって…仕方がないので姉か母に頼んでます。娘って難しいですね⤵」
高野くんはいいパパしているんだな。
電話口でも伝わって来る。
目一杯の愛情で娘さんを育てている高野くん。
きっと娘さんはパパに感謝しているだろう。
本当はパパ大好きなんだよ。
年頃の女の子はパパと反発する事も多いと思うけど、大人になった時はまた一緒に歩けるよ。
お風呂は無理だろうけど。
慎一パパ、頑張れ‼
桑原くんと別れてから吉村さんの事、桑原くんのお兄さんの事、亜希子ちゃんの元旦那さんの事…
色々あり過ぎた。
仕事も忙しく、残業する事も早出する事も増えた。
職場の人間関係が恵まれているのが唯一の救いだ。
自分では余り感じていなかったが、ストレスがたまっていたらしく右後頭部に小さいが円形脱毛を発見。
かなりのショックを受けた。
最近は疲れもあるのか休みも出不精になり、好きだった近所の銭湯にすら行かなくなり、朝から部屋着でゴロゴロしていた。
ビールやタバコも仕事帰りに買いだめする。
休みに部屋を出たくないからだ。
そんなある日の給料日。
銀行に行きお金をおろし、その足で家賃や携帯代、電気代等を一気に支払う。
そしてトイレットペーパーや台所洗剤等の日用品をまとめて買う。
給料日の日課になっている。
1人暮らしのため、一度に一気に買うとある程度はもつ。
買い物も終わり、荷物を抱えて車から降りると声を掛けられた。
「藤村さん😄」
振り返ると桑原くんのお兄さんだった。
「こんにちは」
挨拶をした。
「仕事で近くを通りかかりましたら、ちょうど藤村さんが車から降りるのを見まして😄」
「そうですか」
「結構な荷物ですね💦手伝いましょうか?」
「いえ、分けて運びますから」
この日はお米も買ったのでかなりの量があった。
「ご迷惑じゃなければ運びますよ😄重たいでしょ💦」
「まぁ…重いですけど」
「一応男ですからお任せ下さい😄」
そう言って後部座席を占領していた荷物を「よいしょ‼」の掛け声と共に一気に持ってくれた。
「大丈夫ですよ💦」
「いえいえ💦このまま玄関先まで行きます。部屋はどこでしたか?」
重そうにしながら話す。
玄関まで運んでくれた。
正直助かった。
いつもは何回か部屋と車を往復する。
「ありがとうございます」
「いえいえ😄少しはお役に立てて良かった😄もう少し藤村さんとお話しをしていたいのですが、次の時間がありまして💦私はこれで😄」
そう言ってお兄さんは帰って行った。
スーパーマンの様である。
桑原くんのお兄さんは前の様なストーカーはなくなったが、営業先がうちの近くらしく良く見掛ける。
タバコを切らし近くのコンビニに買いに行くと、コンビニの駐車場で携帯片手に忙しそうにしていたお兄さんを見た。
忙しそうだったから声は掛けなかったが、コンビニから出たらお兄さんと目が合った。
お兄さんは車の中で電話をしながら笑顔で手を振った。
私は軽く頭を下げた。
前のストーカーが頭から離れないが、仕事を頑張っている姿を見ると憎めなくなっていた。
コンビニから家までプラプラと歩いていると、お兄さんが声を掛けて来た。
「藤村さん😄さっきはご挨拶出来ずに申し訳ありません」
律儀である。
「いえ、忙しそうにしてましたからご挨拶は控えさせて頂きました」
「申し訳ない…すぐそこに取引先がありまして、良くこのコンビニに寄るんです😄」
「そうですか」
「今月はちょっと厳しくて💦サボってたツケが回って来たみたいです💦」
「頑張って下さい😄」
「藤村さんの笑顔を見たらやる気が出て来ました😄頑張って行って来ます(^o^ゞ」
笑顔で敬礼ポーズをとり、取引先に向かって行った。
お兄さんに対しての気持ちに変化が出てきた。
嫌悪感はなくなり、会うと微笑ましい気分になった。
しばらく会わないと少し寂しい気もした。
高島さんに話すと「恋ですよ恋😁素直になりましょうよ👍」とからかわれた。
「うるさい💢」
「あははー(笑)」
高島さんは笑っていた。
この辺りからメンタル面で自覚症状がある程に弱っていた。
生理の周期が完全に狂い出した。
胃が痛み、最近は下痢気味で落ち着かない。
正直誰かに一緒にいて欲しい、話を聞いて欲しいと思っていた。
直美は出産してまだ間もない、亜希子ちゃんは昼夜仕事に出ているためなかなか時間がない。
高島さんに話す事もあるが深い話しはまだしていない。
こんな弱いところにお兄さんがスルっと入って来た感じだ。
そんなある日。
私は倒れた。
仕事中だった。
その日は朝から頭痛に悩まされていた。
薬を飲むがなかなか効かない。
病院に行きたかったが、その日は祝日。
「今日1日の辛抱だ…」
そう思い薬を飲み仕事に行った。
祝日という事もあり目が回る忙しさだった。
部屋を空けても空けてもキリがない。
やっと落ち着き、控え室に戻りお茶を飲みながらタバコに火を点けた。
するとまたバタバタと精算が始まり出した。
一服し終わり、さて働くかと立ち上がろうとした瞬間、激しい目眩でガクンと膝をついた。
その様子を見ていたフロントの和子さんが「みゆきちゃん‼大丈夫⁉」と駆け寄ってくれた。
一緒だった愛ちゃんと絵美さんもその声に振り返った。
目眩が酷くて立ち上がれない。
「ごめんなさい…ちょっと目眩が…」
立ち上がろうとした瞬間、一瞬だが目の前が真っ暗になりフッと意識が遠退く感じがした。
和子さんが「みゆきちゃん、目眩が落ち着くまでここで休んでな」と言って、バスタオルと客室の予備の枕を用意して控え室にある小上がりに持って来てくれた。
「すみません…」
「みゆきちゃん、最近疲れてるみたいだね…顔色おかしいし、やつれた感じだねぇ…目眩が落ち着いたら帰んな」
和子さんが心配してくれた。
愛ちゃんも絵美さんも「そうだよ💦今日は帰って少しでも休んで‼明日も無理なら代わりに出るし」と言ってくれた。
忙しいのに申し訳ない。
和子さんは私の代わりにメイクに入ってくれた。
しばらく休ませてもらったが頭痛が酷くなって来た。
目をつぶり横になる。
夜10時過ぎに早退させてもらったが、頭痛と目眩は収まる様子がない。
車の運転は危険と判断し、タクシーで自宅まで帰った。
頭痛薬を飲み過ぎたせいなのかどうなのかはわからないが、布団に入ると麻酔が効いた様に意識が遠退いた。
気が付くと、翌日の夕方3時を過ぎていた。
「疲れてるのかな」
鏡で見た自分は覇気がなく、まるでゾンビの様に血の気がない。
頭痛はおさまった。
しかしやる気が出ない。
携帯を開くと絵美さんと愛ちゃんからメールが来ていた。
2人共「大丈夫⁉」という内容。
心配をかけてしまった。
メールを返そうとした時に絵美さんから電話が来た。
「もしもし」
「あー💦みゆきちゃん💦生きてて良かった💦メールの返信がないから家で倒れてるんじゃないかって心配したのよ😫」
「すみません💦今さっき起きて…メールを返そうと思って」
「そうだったんだ💦体調はどう?」
「頭痛はおさまったけど体がダルくて…」
「今日代わるよ?無理しないでゆっくり休んで‼」
「すみません…💧」
絵美さんに甘える事にした。
もう夕方だけど…
これから病院に行ってみようかな。
まだやってるよね。
支度をして病院に向かった。
やはりストレスが原因の様だ。
気分転換で久し振りに近くの銭湯に行った。
時間帯が中途半端だったからかすいていた。
湯船につかりながら目を閉じる。
生き返る。
そうだ…
車…職場に置きっぱなしだった😅
銭湯からタクシーでホテルに車を取りに向かった。
今日は暇みたいだ。
車がまばら。
車に乗り込みエンジンをかけた時に携帯が鳴った。
桑原くんのお兄さんだった。
「今、お時間大丈夫ですか?」
「はい」
私は車の運転席に座りながら話をする。
「先日お見掛けした時にいつもの藤村さんじゃない気がして…厚かましいのですが、心配になりお電話しました。ご迷惑ならすみません」
嬉しかった。
「あの…今日ってお時間ありますか?」
「仕事が終われば時間はあります。私で良ければ…お話し聞きますよ😄」
19時半に待ち合わせた。
スーツ姿のお兄さん。
「ちょっと仕事が長引いてしまいまして😅帰る時間がなくて真っ直ぐ来ました」
「すみません」
「藤村さんが謝る事ではないですよ💦藤村さんから声を掛けて下さって嬉しいです😄一昨日給料日だったのでご飯ご馳走します😄」
「いえ、この間も焼肉ご馳走になったし…」
「お気になさらず😁とは言っても高価なところは無理ですけど💦お互い車なのでお酒は無理ですしね…」
「ファミレスかファーストフードでいいです😅」
「でも…せっかくお会いしたし…あっ…デートではないですもんね…」
「ははは😅」
思わず苦笑い。
結局、近くのファミレスに入った。
私はパスタ、お兄さんは和食セットを注文。
ドリンクバーの飲み物を飲みながらお兄さんと話をする。
お兄さんは真剣に話を聞いてくれた。
話すと少し気持ちが楽になった。
胸に引っ掛かっていた物がスーっと流れた感じがした。
話を聞いてもらったのだから私が支払うと言っても「私が支払います😄」とテーブルの上の小さな透明の筒の様なものの中に入っていた伝票を財布にしまってしまった。
お兄さんは「嫌じゃなければこれからカラオケでも行きますか😄大声を出せば、少しは楽になるでしょう😄」
ファミレスのすぐ近くにあるカラオケボックスに向かった。
「下手でお聞き苦しいですが…」
「お互い様です😄楽しければいいんです😄さっ、藤村さん、どうぞどうぞ😄」
検索の機械と本を渡された。
お兄さんは歌が上手かった。
聞き惚れた。
歌がうまいお兄さんの前で歌うのは申し訳ないが、楽しくストレス発散のためにひたすら歌いまくった。
昭和の懐メロから最新曲、アニメやメドレー等ジャンルを問わず。
知らなかったがお兄さんは昔、歌手を目指してボイストレーニング教室に通っていたらしい。
そりゃうまいはずだと納得。
たくさん歌いまくり、カラオケボックスを出たのは夜中0時を過ぎていた。
「明日も仕事なのに遅くまですみません💦」
「いえいえ😄すごく楽しかったし😄もう少し一緒にいたいのですが、明日は朝一で会議があるのでそろそろ帰ります😄」
「今日はありがとうございました」
「こちらこそ😄」
カラオケボックスの駐車場で別れた。
すごく不思議な気分だった。
前のお兄さんに対しての気持ちと今のお兄さんに対しての気持ちが違うからだ。
むしろ楽しく過ごさせてもらった。
でも…お兄さんといるとやっぱり桑原くんの事がついて回る。
あれから桑原くんには会っていないし、お兄さんからも桑原くんの事は聞いていないし聞きもしないが…
あの時見た彼女とうまくいってる事だろう。
それからはたまにではあるが、お兄さんとメールのやりとりをする程度ではあるが付き合いはあった。
お兄さんの仕事が繁忙期に入り、忙しい毎日だった様子。
私もストレス発散が良かったのか、精神的に落ち着いて来た。
生理の周期も戻りつつあり、酷かった頭痛も治まって来た。
仕事は忙しかったが、毎日踏ん張りがきく様になった。
そんなある日。
私はその日は変則勤務で夜10時から朝6時までの勤務だった。
月に2~3回この時間がある。
この勤務の前日は仕事から帰って来てもすぐには布団に入らず、明るくなるまで起きていて夜6時くらいまで寝ている。
この日も夜6時過ぎに起きた。
夕方のニュース番組を見ながら一服。
一服しながら携帯を開くとお兄さんからメールが来ていた。
「今日もお仕事ですか?私事ではありますが、今日は私の誕生日でして…催促して申し訳ないのですが藤村さんから「おめでとう」メールを頂けると、この後の残業頑張れます😄」
そうなんだ。
今日お兄さん、誕生日なんだ。
知らなかった💦
メールを送った。
すぐにメールが返って来た。
「ありがとうございます✨凄く嬉しいです😍残業頑張ります‼」
深夜11時前に「今帰宅しました⤵これから飲んで寝ます。お仕事頑張って下さい😄」
メールが来ていた。
何か憎めない人である。
お兄さんとはそれ以上の発展はなかった。
お兄さんも前みたいな事はなくなった。
高島さんと同じ様な感じというか、たまにお互いの愚痴を言ったり飲みに行って楽しむ「仲間」みたいな感じだった。
そんなある日。
久し振りに父親から電話があった。
「もしもし」
「みゆき、ちょっと話があるんだが…これから時間あるか?」
「夜は仕事だけど、それに間に合うなら」
時刻は午後1時を少し回ったところだった。
いつもは電話で済ますが、珍しく家に来る様に言われた。
部屋着のスウェットからジーンズに着替えて両親が住むマンションに向かった。
オートロックのため、出入口で部屋番号を押す。
「みゆきだけど」
「今開ける」
父親の声が聞こえて、エントランスに入る自動ドアが開いた。
両親の部屋に着いた。
久し振りの両親の部屋。
部屋は思いの外、綺麗に片付いていた。
久し振りに見る父親は、禿げてはいないが白髪が増えすごく老けた印象だった。
「悪かったな、仕事前に」
「いや別に…」
母親の姿がない。
買い物にでも行っているのかと思ったが、父親の言葉に驚いた。
「恭子は癌が再発して、今朝から入院になった」
「…えっ?」
驚きの余り、声が出なかった。
「かなり進行しているらしい…次はあるかどうか」
突然の父親からの「母親の癌告知」に戸惑う。
父親から母親についての話を聞く。
以前患った子宮は問題ないらしいが、今回は肝臓に悪性腫瘍が見つかったらしい。
転移している可能性があるため、今朝から急遽入院になった。
「隆太に何度も連絡をしたんだが繋がらないんだ」
「自宅も?」
「ああ」
平日の昼間だから兄は仕事だろう。
整備工場内で仕事をしていたら音がうるさいため、気が付かないのかもしれない。
父親は香織さんの携帯番号は知らない。
「香織さんに電話してみる」
私はカバンから携帯を取り出し香織さんに電話を掛けた。
香織さんも出ない。
あっ…
そういえば香織さんもパートをしているんだった。
仕事中なのかもしれない。
兄と香織さんの携帯に「メールを見たら至急連絡下さい」とだけメールをし、父親と一緒に母親が入院している病院に向かった。
父親の車に乗り込む。
父親の車は属にいう高級車。
乗っていて乗り心地も良いし、何より静かだ。
母親の定位置であろう助手席に乗った。
車内は特に会話もない。
私は助手席から流れる外の景色を眺めていた。
間もなく病院に着くという時に兄から私の携帯に着信があった。
「もしもし」
「おう、みゆき。メール見たけど…何かあったか?」
遠くで機械音が響いていた。
「実は…」
兄に母親が癌が再発して入院した事を伝えた。
兄はしばらくの沈黙の後に「…わかった」と一言呟いて電話を切った。
病院に着いた。
以前入院していた総合病院だった。
母親は個室にいた。
「お母さん」
「あらみゆき、来てくれたの」
点滴をしている。
久し振りに見た母親は見た目はたいした変わらない。
髪の毛が短くなっていた位だ。
その変わらない姿を見て少しホッとする。
ただ、いつ何が起きてもおかしくない。
癌の進行が少しでも遅れている事を願いたい。
ちょうど回診が終わったばかりだった。
この後仕事があるため長居は出来ない。
病院から両親のマンションまでは車で10分程だから帰りはタクシーで帰る事にした。
父親は母親が心配で仕方がない様子。
父親が近くにいるなら心配ないだろう。
「明日は休みだから、また明日ゆっくり来るよ。帰りはタクシーで帰るから大丈夫」
「おぉ…そうか?悪かったな、みゆき」
母親はベッドの上から笑顔で軽く手を振った。
病院の前に停まっていたタクシーに乗り込む。
父親のマンションまでお願いをする。
タクシーの中では複雑な気持ちだった。
母親はもしかしたら余命は何年もないかもしれない。
もしかしたら今日見た笑顔が最期になるかもしれない。
親に反発ばかりし、この年まで何にも親にしてあげられてない。
香織さんもお父さんを亡くした時に言ってた。
「生きている時に何でもいいから一つでも想い出を作って欲しい。天国に行ってしまってからなら、あの時にしておけば良かった…と後悔ばかり残るから」
こんな母親でも…
私にとっては大事な肉親だ。
後悔しない様に、一つでも母親との想い出を作ろう。
母親の姿をしっかり焼き付けておこう。
押し入れから出て来た、私と兄の幼い時の写真。
筆不精の母親が一生懸命書いた想い出の言葉。
恨んだ時期は長かったけど歩み寄る「きっかけ」を作ってくれた写真。
もうすぐ還暦の母親。
いつまでも元気だとは限らない。
私は毎日、母親が入院する病院に向かった。
余り良い事ではないのは百も承知ではあったが、病床の母親の写真をデジカメで撮った。
点滴をし、青白い顔色の母親と一緒に写真を撮る。
母親は何かを感じ取ったのか嫌だとは言わなかった。
その日は父親と兄夫婦が仕事の都合でどうしても病院に来れないとの連絡があり、休みだった私は母親に頼まれた洗濯物と父親に頼まれた物を持って病室に来た。
先客がいた。
個室の出入口に背中を向けて帽子を被った男性が座っていた。
「こんにちは」
男性に声を掛けた。
男性はゆっくりと振り返り私を見た。
かなり年配の男性。
男性は笑顔で会釈をした。
「みゆき、この人…あんたのじいちゃんだよ」
「じいちゃん⁉」
そう、椅子に座っていた男性は母親の実父だった。
少し耳が遠いらしく、母親は大きな声で祖父に「私の娘のみゆき」と話している。
祖父は「おぉ…みゆき‼」と言ってゆっくりと杖を使って立ち上がった。
私は祖父の近くまで行った。
「こんなにいい女性になったなんて…なぁ恭子、お前の母親に雰囲気が似ているじゃないか😄トヨを思い出すなぁ…」
トヨとは母親の母親、母親が5歳の時に病死した私の祖母。
話を聞くとやはり祖父は何度か私や兄とは会った事があるらしい。
母親を苦しめた継母は昨年他界したらしい。
母親は継母の話を眉間にシワを寄せながら黙って聞いていた。
私は祖父と会った記憶がないため、感覚的には初対面である。
良く喋る人であった。
耳が遠いため、大きな声での会話になるため廊下にも話が丸聞こえだった。
「みゆき…会いたかったよ…生きている間に会えて良かった…」
そう言って祖父は泣いていた。
祖父は財布からボロボロになった私と兄の写真を出した。
母親の押し入れから出て来たあの写真だった。
私が幼稚園の時のやつだ。
大事にしていてくれていたんだ。
実は祖父と母親はたまに会っていた事がわかった。
父親とも何度か会っているそうだ。
継母と祖父、母親との関係は私には細かい事まではわからないが継母が他界した今、やっと自由に母親と会える事が出来る様になったのだろう。
母親も実父と会う事が出来て嬉しそうである。
祖父は今は引退はしたが元医師。
回診に来た母親の担当の先生と専門用語を交えながら話をしていた。
私には何の事やらさっぱりわからない会話だった。
母親の手術日も決まった。
この日はラブホテルの仕事を休む希望を伝えた。
兄も香織さんも父親も休みを取った。
子供達は香織さんのお母さんが見てくれる事になった。
祖父も来ると言っていた。
母親の手術がうまくいきます様に…
母親の手術前日。
この日は仕事だったが、社長が明日母親の手術があるという事情を配慮してくれて、午後9時で退勤した。
一緒だった愛ちゃんと純子さんからも「お母さんの手術がうまくいくといいね」と声を掛けてくれた。
愛ちゃんの娘さんが作ったお守りをくれた。
フェルト生地の巾着の中に「みゆきちゃんのお母さん。手術がんばって下さい。」と娘さんからの手紙が入っていた。
可愛いお守り。
愛ちゃんが「娘がどうしても「ママの友達のみゆきちゃんのお母さんにあげるの‼」と騒いでてね💦学校から帰って来てから一生懸命作ってた😄」
そう言っていた。
フェルトもお小遣いから出した様だ。
嬉しかった。
「ありがとう😄きっと手術うまくいくよ」
可愛い手作りのお守りを握りしめ帰宅した。
帰宅してから携帯を見ると、桑原くんのお兄さんからメールが来ていた。
「お仕事中ですよね💦今日やっと仕事が落ち着きました😄しばらくはゆっくり出来そうです」
メールが来ていたのは10分前。
まだ午後10時前だし起きてるかな?
電話を掛けた。
すぐに電話に出た。
「あれ?仕事じゃなかったんですか?」
「9時まで仕事でした。実は…」
明日母親の手術だという事を伝えた。
「そうだったんですか💦知らなかったとはいえ、大変な時にくだらないメール失礼しました😫」
「いえ」
「大丈夫です‼お母さんの手術は絶対成功します‼そしてまた、元気になって退院しますよ😄私も明日手術が成功する事を祈ります」
「ありがとうございます」
翌朝。
母親の手術当日。
父親と祖父、兄と香織さんと私と香織さんのお母さんが母親の個室に集まった。
子供達は保育園に行った。
先生から説明を受け、母親は「行って来ます😄」と運ばれるキャスター付きのベッドの上から笑顔で手を振った。
私達は母親の個室で待機。
皆落ち着かずウロウロ。
祖父だけはパイプ椅子に腰をおろし、目をつぶりじっとしていた。
私は愛ちゃんの娘さん手作りのお守りを握り締め、病院の外の景色を眺めていた。
母親の個室は地上8階。
住んでいる街並みが綺麗に見える。
天気も良かったため遠くの山々も見えた。
兄が「ちょっと一服してくるわ」と立ち上がった。
「私も行く」
私も兄と一緒に個室を出た。
病院の1階の出入口にある喫煙所。
私達以外にも何人かいた。
兄はタバコに火を点けながら言った。
「なぁ、みゆき」
「何?」
同じくタバコに火を点けながら答えた。
「お前もそろそろ落ち着かないと」
「わかってるんだけどね、なかなか…」
「もし今回母親が万が一の事があったら父親だけになるし、お前も落ち着いて安心させてやらないと…」
「うん」
「相手もいないのか?」
「うん」
桑原くんと別れたのは知っている。
兄は30代半ばになっても独身、彼氏ナシの私を心配しているのだろう。
母親はこうして病気になり、父親も60代。
兄も家庭を持ち、家族を養うだけで精一杯。
私がこのまま1人でいるのが心配で仕方がないんだろう。
皆を安心させないとな。
いつまでも落ち着かない訳にはいかない。
母親が生きている間に孫の顔を見せたい。
兄の言葉で改めて「家庭」を持つ事への憧れが膨れた。
まずは母親の手術がうまくいく事を願いたい。
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