ついてない女
母子家庭で育った私。
絶対的な立場の母親。
反発しグレた兄。
高校卒業してから勤めていた会社が倒産。
次の仕事が見つかるまでと思いバイトで働き出した、ラブホテルのフロント兼メイクの仕事。
つなぎのつもりが1年になる。
3年付き合って、結婚も考えていた彼氏に振られた。
何人かお付き合いした人もいたけど、絵にかいた様なダメ男ばかり。
男運も悪いらしい。
こんな私は今年は厄年。
お祓いに行った帰りにスピード違反で捕まった。
こんな私のくだらないつぶやきです。
ぼちぼち書いていきます。
13/07/13 11:26 追記
ガラケーからスマホに変えました。
まだうまく使いこなせないため、ご迷惑をお掛け致します。
少し慣れてから改めて更新したいと思います。
- 投稿制限
- スレ作成ユーザーのみ投稿可
ラブホテルには色んなお客さん達が来る。
勿論普通のカップルもいるし、ご夫婦もいるが訳ありカップルも良く見掛ける。
そう、不倫である。
私が住んでいる街は田舎のため自家用車が主流。
なのでお客さんもだいたい車で来る。
不倫カップルの特徴は、だいたい女の子の車で来て男性は後部座席に隠れる様にして座っている。
ナンバー確認と防犯のためのカメラでその姿がモニターに映る。
何ともマヌケである。
一度、こんな事があった。
30代半ばのスーツを着た男性と、20歳前後と思われる若いギャル風のカップルが来た。
手をつなぎ、仲良く部屋に入る。
フロントの小窓からお客さんを見て「絶対不倫だよな」と思いながら入室を確認した。
男性とギャルが退室。
その時に、別のモニターをふと見ると女性が出口に立っていた。
この男性の奥様である。
出口はここしかないため、このままだと鉢合わせしかない。
さあ、どうする?
私はモニターを凝視した。
先に気付いたのは男性だった様だ。
慌てた様子でいた部屋に戻り、フロントに内線がかかって来た。
「すみません、出口ってあそこしかないんですか?」
「はい、そうですけど」
本当は他にも鉢合わせしない非常口もあるが、それをしてしまうとこの男性は懲りないだろう。
「あの…お願いがあるんですけど…今、出入り口にいる女性を…追い返してもらってもいいですか?」
「…それはちょっと😅」
「じゃあ、女性が帰るまでこの部屋にいてもいいですか?」
「ご精算が終わってますので、それは無理です」
「じゃあ他の部屋に移動します」
「申し訳ありませんが満室になっております」
「…はぁ」
電話越しにため息が聞こえた。
「すみません、清掃に入りたいので退室をお願いします」
「えっ?ちょ…待って💦」
男性は慌て始めた。
すると今度は追い込まれたのかキレ出した。
「お客が残るって言ってんのに清掃って何だよ💢」
「ご精算されたので…」
「金なら払うから‼」
「そう言われましても…じゃあ不法占拠って事で警察に連絡させて頂きますが構わないですか?5分以内に退室頂けなければ警察に連絡をします」
「はぁ?💢警察って何だよ💢」
その間に愛ちゃんが、出口で待っている奥様を呼びに行き、旦那がいる部屋まで案内をした。
「ここのホテルは二度と来ない💢……ますみ……」
ついに黙り電話が切れた。
うちは空間の提供はするが不倫の面倒までは見れない。
本人同士で解決して頂こう。
少し意地悪をした。
本当は機械を操作したら再入室も可能だ。
間違えて精算を押してしまう人もいるからだ。
部屋も2室空いていた。
移動も可能だが、これに懲りて過ちを奥様に謝罪して欲しい。
やり過ぎたかな?
- << 53 天罰です! しかし、主さんの面白さには惚れ惚れします💡 ついてない女というより カッコいい女に変えた方が良いかも!
>> 57
みゆきさん😃
おはようございます✨
ラブホの内事情や裏方のお仕事の話、「へぇ~💨☝」と思い、楽しみに読んでいます❤
よく求人広告にラブホのスタッフ募集を見掛けるのですが、みゆきさんのお仕事の様子のレス見て、少し詳しく分かりました😁
あと、お母さん…。
みゆきさん達にした事は、決して理解出来ないしはっきり言って虐待だし、許せない行為。
だけど、お母さんも幼少の時、親の愛情に恵まれず歪んだ幼少期、思春期を過ごしてきたのを知り、言葉がおかしいですが、納得…というか だからなのね…。と感じました。
でも、虐待された人は自分が親になった時、虐待するとは限りませんし、反面教師で人一倍、我が子に愛情を注ぐ方もたくさんいらっしゃいますものね✨
みゆきさんも、将来きっとそういうお母さんになれますよ✨✨
偉そうな事言ってすみません💦
みゆきさん、お仕事大変でしょうが頑張って下さいね💪
小説の方は、負担にならない様にマイペースでいいですよ☺
また、引き続き楽しく読ませて頂きますね❤❤
- << 60 🌱ルリ様 ありがとうございます✨ ラブホテルでの仕事は大変ですが、色んな意味で勉強になる職場です(笑) 母親も年のせいか最近は落ち着いた様子で、前ほど憎たらしくなくなりました。 優しいレスに励まされます😄 更新出来る時は頑張ります‼ 感想スレを立てさせて頂きましたので、次からは是非感想スレでお話をお聞かせ頂けると嬉しいです💕
奥様が部屋に入ってから1時間が経過した。
気にはなっていたが他に仕事があるため、ずっと張り付いている訳にいかない。
精算が終わっているためオートロックは解除されているが、ドアが開くとコンピューターの画面に「205ドア開」と表示されるため、ドアが開くとわかる。
一仕事を終え戻って来ても「ドア開」表示はない。
旦那の浮気現場を突き止めて、1人で立ち向かうってかなり勇気がいるであろう。
浮気相手との「行為」の後が生々しく残る部屋で、奥様は一体何を思うであろう。
私なら発狂するかもしれない。
その時のメンバーである愛ちゃんと絵美さんも、しきりに205号室を気にしている。
「奥さん…大丈夫かな」
愛ちゃんがつぶやいたその時、コンピューターに「ドア開」が表示された。
愛ちゃんと絵美さんが慌てて控え室から飛び出した。
私も一緒に飛び出したが電話番だったため「あっ…子機忘れた💦」と思い、すぐに控え室に引き返した。
気にはなるが他のお客さんからの内線が鳴り対応する。
内線をとりながらモニターを見つめる。
声までは聞こえないため何を話しているのかはわからないが、奥様は愛ちゃんと絵美さんに深々と頭を下げていた。
旦那は奥様の手をとるが、すぐに振り払われた。
当たり前である。
さっきまで別の女を抱いていた手で、気安く触って欲しくない。
多分誰しもが思う事だろう。
3人が出口から出て行くのを見届けてから、愛ちゃんと絵美さんが戻って来た。
「どうなった?」
話が聞こえなかった私が2人に聞く。
「奥さんがご迷惑をおかけして申し訳ありませんでしたって謝ってた」
多分奥様が深々と頭を下げていたのはこのお礼を言っていたのであろう。
「旦那は「家族は壊したくないが、他の女の子とも遊んでみたかった」と調子いい事を言ってたな」
絵美さんが呆れながらつぶやく。
奥様は離婚を決意、旦那は別れたくない。
話し合いが平行線のため部屋を出て来たらしい。
愛ちゃんも絵美さんも私も口を揃えて「浮気する男はダメだ‼」
奥様の心情は想像以上に辛いだろう。
旦那に奥様の心情などわかるはずもない。
翌日、奥様が菓子折りを持ってわざわざお礼を言いに来て下さった。
「ご迷惑をおかけしました💦気持ちですが、皆様でお召し上がり下さい‼」
何とも律儀な方である。
たまに喧嘩を見掛けて仲裁に入る事はあったが、律儀に菓子折りを持って来て下さったお客さんは初めてだ。
「差し出がましいですが…頑張って下さい‼」
私は奥様に言った。
奥様は「ありがとうございます」と深々と頭を下げて帰って行った。
とても印象的な出来事であった。
余談になるが、ラブホテルをご利用の際は常識的な範囲でご利用して頂きたい。
実際にいた非常識なお客さん。
仮名にしておくが…
太郎❤花子
永遠の愛をここに誓います❤
というものを部屋の壁に落書きされた。
しかも油性ペンで大きく。
永遠の愛を違うのは結構な事だが、ここで誓わなくてもいいだろう。
落ちないため壁紙を張り替えた。
泊まりのお客さん。
クーラーボックスを抱えて部屋に入った。
何と簡易ガスコンロまで持ち込んで鉄板焼をしていた。
部屋中油だらけ、生ゴミは散乱、しかも臭いがとれずその部屋は1日使えなかった。
掃除も通常ならどんなに汚くても20分あれば終わるが、この部屋は2時間かかった。
最悪である。
上記のお客さんは請求しない代わりに出入り禁止にした。
ホテル同士、横の繋がりがある。
出入り禁止になるとリストが各ホテルに流れる事もあるので他のホテルでも出入り禁止になる可能性が高い。
気をつけて頂きたい。
また、ホテルの備品を持ち帰るお客さんもいる。
コーヒーやお茶、使い捨ての物…歯ブラシやカミソリとかを持ち帰るのは何の問題もないが、灰皿やコップ、中にはバスタオルやバスローブを持ち帰る人もいる。
そして備え付けのシャンプーやボディーソープの中身を丸ごと持ち帰る。
掃除の度に中身を必ず確認し、ない場合は交換するため一回で空になるという事は中身を持ち帰る以外あり得ない。
中には貸し出したヘアアイロンまで持ち帰る人もいる。
悪質だと判断した場合は「窃盗」で警察に連絡をする。
警察に連絡をした場合、ほぼ9割の確率で「盗難品」は返って来る。
返らないものはシャンプー等の中身。
また持ち帰る人のだいたいの言い訳は「間違えて持ち帰ってしまいました」
何をどうしたら間違えるのか聞くと無言になる。
下手な言い訳をしないで素直に認めた方が楽なのに、といつも思う。
これがきっかけで不倫がバレた人もいた。
逆ギレし「バスタオルくらいで警察に電話しやがって💢バレたじゃないか💢」というクレームを頂戴した。
「十分な窃盗です。納得いかなければ同じ様に警察にお話し下さい」と言ってみる。
悪いのはあなたです。
八つ当たりはやめましょう。
先日倒産した会社で同僚だった武田くんと2人でご飯を食べに行った。
武田くんは私より3年後輩だった。
武田くんは既婚者だが奥さんは私と同期入社である直美。
職場結婚をし、披露宴にも招待された。
直美は今、子育てに奮闘中。
りゅうせいくんという1歳になるいたずら盛りの可愛い息子がいる。
武田くんと食事に来たきっかけは、私がタバコを買うためコンビニに入ったと同時に武田くんが出て来てバッタリ遭遇した。
少し立ち話をしていたが「せっかくだからご飯でも」という話しになり居酒屋に来たのである。
直美にも承諾を得た。
直美に「旦那借りるよ」と連絡をした。
返事は「泥酔しないうちに返してね😁」
人の旦那をそこまで酔わせる事はしないので大丈夫である。
武田くんと飲みながら色々話をする。
倒産した会社の社長と家族は行方をくらましたまま。
部長はマイホームのローンがあるのに…とため息をついていたがどうなったのか。
小さな会社だったが楽しい仲間だった。
セクハラ係長もいた。
むやみに肩を触って来た。
「気持ち悪いんでやめてもらえませんか?」
はっきり断ると仕事で嫌がらせをしてきた。
尋常じゃない量の仕事を押し付け「残業しないで全てこなしてみろ」と言われたため、昼休みなしで定時までに仕事を終わらせた。
内緒で直美や武田くんも手伝ってくれたから終わる事が出来た。
定時になり係長に「終わりました」と全ての書類を提出。
係長が確認し悔しそうに「不備はない」と言う係長に「ざまあみろ‼なめんなよ😜」と心の中で舌を出した。
その後3人で飲みに行き「係長の顔見た⁉みゆき、やったね😁」と直美も武田くんも笑っていた。
それから係長からは嫌がらせされず、平和に過ごす事が出来た。
そんな思い出話しで盛り上がった。
今武田くんは宅配の仕事をしながら司法書士の資格取得を目指しているらしい。
頑張って欲しいものだ。
たまにはこうして飲みに来るのも楽しい。
「今度は是非直美も一緒に…」
武田くんに言うと、急に深刻な顔をした。
「武田くん、どうかしたの?」
「みゆきさん…直美の事で相談があるんだ…」
驚いた。
結婚して3年目。
子供も産まれて幸せに暮らしていると思ったからだ。
「話くらいならいくらでも聞くけど…役に立てるかどうかは知らないよ」
「話しだけでも…」
そう言って武田くんは話し始めた。
武田くんの話をまとめるとこうだ。
もしかしたら直美は浮気しているのではないか?
今まで携帯はその辺に放置している事が多かったのに最近は片時も離さず、りゅうせいくんのお世話をする時も必ず片手に携帯を持っているとの事。
夜はりゅうせいくんが寝てからはひたすら携帯に没頭。
夫婦の会話もないらしい。
一度直美がお風呂に入っている時に、直美の携帯をチェックしようとしたがロックがかかっていた。
武田くんが休みの日には、りゅうせいくんを武田くんに預けて「たまには子供の面倒を見なさいよ‼」と言って、寝室にこもって出て来ない。
見ると横になりながらずっと携帯をいじっていたため武田くんが「いい加減にしろ💢」と怒ると「うるさい💢」と逆ギレして出て行き帰って来たのは夜中だったという。
武田くんは一気に話した。
「みゆきさん…どう思う?」
「どうって…証拠はあるの?」
「これといったものは…」
「疑うとキリがないよ?確かに話を聞く分には怪しいけど…小さな息子連れてまで浮気するかなぁ?」
「うーん…」
武田くんは黙ってしまった。
直美は確かに男性のうけはいい。
特別美人ではないが、可愛らしい顔をしているし、これぞ女子‼の代表格みたいな格好をする。
出産で多少ふくよかにはなったが、別に気になる程ではない。
愛想もいい。
ただ、気が強く頑固。
自分の考えを押し通すところがあるが、話せばわかる子である。
倒産した会社で社内不倫をしている人がいた。
その話を聞いた時に直美は「気持ち悪い😠」と騒いでいた。
だから直美はそういう事が嫌いなんだと思っていたが…違うんだろうか?
余計なお世話かもしれないが、直接直美に聞いた方がいいかもしれない。
翌日の昼間、直美の携帯に電話を掛けた。
「もしもしー‼みゆき?」
「昨日は旦那貸してくれてありがとう」
「またいつでも持ってって(笑)」
いつもの直美だ。
「早速で申し訳ないんだけどさ、単刀直入に聞くけど直美…浮気してんの?」
「えっ?…昨日トモから何か聞いたの?…みゆき、今日はこれから時間ある?」
「あるけど、夜は仕事だよ」
「それまでには…電話じゃ長くなりそうだから直接話した方がいいかと思って」
「わかった、じゃこれから直美んちに行くわ」
電話を切り、部屋着から着替えて直美の住むマンションに向かった。
何度か遊びに行った事がある。
りゅうせいくんに会うのは久し振り。
そういえば昨日武田くんがりゅうせいくんはバナナが好きだと言っていた。
りゅうせいくんにバナナ買って行ってあげよう😄
途中でスーパーに寄り、バナナと直美が好きな梨を買った。
直美のマンションに到着。
袋をぶら下げてチャイムを鳴らす。
ドアを開けると奥でりゅうせいくんがテレビに釘付けになっている姿が目に入る。
「いらっしゃい😄わざわざごめんね💦」
「別にいいよ、良かったらこれ」
買って来たバナナと梨を直美に渡す。
話し声に振り向いたりゅうせいくん。
バナナに気付きこっちにヨチヨチと歩いて来た。
前に来た時はハイハイだった。
子供の成長って早いな。
少し人見知りなのか、ママから離れない。
子供は可愛いな😄
思わず笑顔になる。
「りゅうせいくん😄みゆきおばちゃんだよー‼おいで😄」
両手を広げてみるが見事に無視された(笑)
バナナで釣ってみる。
近付いて来た。
皮をむいてあげると大きなお口を開けてかぶりついた。
「うんま‼」
りゅうせいくんがバナナを食べながら叫ぶ。
それを見て「そうか😄美味しいか😄」と笑顔の私。
直美も「りゅうせい😄良かったね😄」と笑顔。
子供は本当に癒される。
しばらくりゅうせいくんと遊んでいたが、どうやらおねむの時間。
「みゆき、ごめん💦りゅうせい寝かし付けるからちょっと待ってて💦」
ママは大変である。
その間、タバコを吸いに外に出た。
タバコを吸いながら「そういえば直美…私が来てからずっと携帯いじってないな。武田くんの時だけ?」と疑問に思った。
浮気ではない。
そう直感した。
一服も終わり部屋に戻ると直美が「やっと寝たわ」と一息ついていた。
「これでゆっくり話が出来るね」
直美はお茶を一口飲んだ。
直美の話をまとめると、まず浮気はしていないという結論だった。
100%有り得ないと…。
武田くんとりゅうせいくんを裏切る気は全くない。
携帯をいじっているのは直美の友人から招待された某サイトで知り合った仲間とのメール。
サイトの中で知り合った仲間らしい。
その中の1人の男性と主にメールのやり取りをしていた。
その人は飛行機でなければ行けない程遠くに住んでいるため、会う気などさらさらない。
サイトの中だけでメールを楽しんでいた。
ただ相手が男性だという少しの後ろめたさと、武田くんの愚痴をたっぷりこぼしているメールを見られたくなくて携帯にロックをかけた。
武田くんは資格取得のために毎日勉強をしているため仕事が終わると部屋にこもりきりになる。
休みの日も一歩も外に出る事なく勉強の毎日。
たまには家族で外出したいと言っても「そんな暇があったら1つでも覚えたい」と言う。
そんな毎日を過ごしているうちに夫婦間の会話はなくなり、直美は寂しさを紛らわすために携帯に依存してしまった。
司法書士の資格が難しい事はわかっているが、月に1回くらい家族でご飯を食べに行く時間が欲しかった。
邪魔はしたくないが、たまにはりゅうせいくんと一緒に遊んで欲しかった。
りゅうせいくんがパパの側に行くと「直美‼ちょっとりゅうせい連れてってくれ‼」と部屋から叫ぶ。
「りゅうせいはパパと遊びたいんだよ」と言っても「そんな暇はないんだ」としか言わない。
寂しかった。
だからうっぷんがたまり、我慢の限界で「うるさい💢」とぶちギレてしまった。
これが直美の意見だった。
これは、夫婦で良く話し合わなければならない。
夫婦だけなら喧嘩になるから私が間に入り話し合いをしたい、と直美から提案された。
しかしこの日の夜は仕事のため、私が休みの翌日に話し合いをする事になった。
翌日。
私は約束の時間より少し早目に武田家に着いた。
「みゆき…ごめんね」
直美がりゅうせいくんを抱っこして迎えてくれた。
雰囲気が悪いな💧
もしかしたら喧嘩している最中だったのかもしれない。
りゅうせいくんは眠たいのかグズグズしている。
直美は「ごめんね、先にりゅうせいを寝かし付けて来るね💦」
そう言ってりゅうせいくんと一緒に寝室に入った。
武田くんは「みゆきさん…直美のやつ、絶対浮気していますよ‼今日だってずっとメールしていて…」と言いながらテーブルの足をガン‼と蹴った。
「武田くん、直美は浮気はしてないよ」
「嘘だ‼じゃあどうしてあんなに頻繁にメールしてるんだよ‼💢」
「大きな声を出すと、りゅうせいくんビックリするよ」
「……」
武田くんはかなりイライラしている様子だった。
しばらく無言の武田くんと私。
「ちょっと一服してくるわ」
私が外に出ようとしたら武田くんが「…台所の換気扇の下でいいよ、俺いつもそこだから」と言って灰皿を用意してくれた。
お言葉に甘えて換気扇の下でタバコに火を点けた。
一服し終わると同時に直美が寝室から出てきた。
「よっぽど眠かったのか、あっという間に寝ちゃった」
と言いながらりゅうせいくんが残したジュースを飲み干した。
「りゅうせいも寝たし…ね、みゆき」
直美は私を見た。
「そうだね」
「みゆきさん…俺勉強があるから手短にお願い」
武田くんが面倒臭そうに言う。
「いつもそう‼勉強勉強って…少しはりゅうせいの事みてよ‼」
「見てるじゃないか‼今日はお風呂入れたし‼」
ああ…喧嘩が始まってしまった。
殴り合いにならない限りは見ていよう。
言いたい事を言い合うのは悪い事ではない。
「お前はいい身分だよな、専業主婦だって俺が働いてるんだから出来るんだろ⁉浮気する時間もあるんだしよ💢」
「浮気なんかしてないし💢」
「嘘言うな💢」
こりゃダメだ😅
全然話し合いにはならないな。
「はいストップ‼子供の喧嘩は終わりにして話し合うよ」
仲裁に入った。
直美から思っている不満を話し、次に武田くんが話す。
全て話し終わり、お互いにお互いの事を理解出来た様だ。
直美は誤解されない様にメールは控え、武田くんはもう少し家族の時間を増やすと約束した。
夫婦でたまにはこうして腹を割って本音で話し合う事は大事なんだな、と思った。
こじれると最悪離婚になりかねない。
いつまでも仲が良い武田家でいて欲しい。
私は特に結婚願望はない。
基本的に1人が好きだ。
お付き合いをしていた時も、四六時中ベッタリは苦手だった。
ただ子供は大好きだ。
年齢も30代になり、体力的にもそろそろ赤ちゃんが欲しいとは思う。
40歳までには相手を見つけて赤ちゃんを授かりたいものだ。
特に選んでいる訳ではないが、他人からはどうやら冷たいという印象を与えてしまうらしい。
「女の子」が出来ないのだ。
要は可愛げがない。
淡々と話す様が冷たい印象を与えてしまうらしい。
愛想笑いが出来ない。
無理矢理すると顔がひきつる。
YES・NOがはっきりしている。
間違えていると思った事は相手が誰であろうと意見を言う。
だから敵は多いだろうが、へつらうつもりはない。
女性は必ずグループを作るが、それも苦手である。
グループ同士固まり、別のグループの悪口や噂をグダグダ言っているが、1人だと何にも出来ずに皆が集まると「ちょっと聞いてよ‼」と1人でいた時にされた事を言う。
はっきり言ってしまえばくだらない話しである。
トイレくらい1人で行けよ。
逆にいつも1人でいる私をそういう人達は「変わり者」だの「友達がいなくて可哀想」だの影でこそこそ話す。
しかし堂々と言って来る人はいない。
女って面倒臭い生き物だなと感じる。
男性社員には「わぁ~❤素敵ですね❤」なんて猫なで声を出すが、女子社員には「あっそ」みたいな態度をとる子がいた。
一番嫌いな人種である。
「村上さぁ~ん❤佳奈の部屋の電球が切れたんで、取り替えに来てもらっていいですかぁ~?❤」
村上さんとはなかなかのイケメンで、若い女子社員には人気があるが既婚者である。
村上さん、困ってるじゃないか。
「いや…部屋には…ちょっと…」
「佳奈、村上さんなら大丈夫ですぅ❤」
たまたま近くにいた私に村上さんが目で助けを求めた。
「佳奈ちゃん、電球交換なら私でも出来るから行ってあげようか?」
「村上さんの方が男性だし、いざという時は男性の方がいいですから~」
「あっ、じゃあ高橋くんは?彼なら頼れるんじゃない?」
高橋くんはラグビーをしていたため体格が良い。
ただ「アニメオタク」で若い女子社員からは苦手だと言われている。
村上さんも「そうだ‼高橋くんなら頼れるぞ‼言っとくわ😄」
「あっ💦いや💦大丈夫です」
そう言って佳奈ちゃんはいなくなった。
「悪かったね」
村上さんが言う。
「大丈夫ですよ😄」
高橋くんも決して悪い人ではない。
私はオタクでも偏見はない。
それだけ没頭出来る趣味があるのは羨ましい。
女性社員より男性社員と話していた方が楽だ。
さっぱりしているからだ。
逆に佳奈ちゃんみたいに女の子になってみたい。
…気持ち悪がられるな。
倒産した会社は従業員は社長家族も含めて30人弱。
社長の奥さんが専務で、息子が常務。
ワンマン社長に金儲けの事しか頭にない専務。
しかし社長はいつも居るだけ、仕事の口出しは余程じゃなければないため邪魔にはならない。
うるさいのが専務である奥さん。
経費削減‼が口癖で、ボールペン一本買うにも空のボールペンを見せなければ買ってくれないため、皆面倒臭くなり自前で買う。
なのに自分は「経費」でプライベートも兼ねた旅行兼出張へと出掛ける。
いない方がうるさくないので、むしろ出掛けてくれた方が楽である。
息子である常務は大学を出て、違う会社で経験を積んだからか、居るだけ社長よりは話が通じた。
だから何かあれば息子を頼るのだが、トラブルは全て従業員任せ。
頭を下げる事はプライドが許さなかったらしい。
しかし部長は出来る人だった。
この部長がいなかったら多分成り立たなかったのかもしれない。
係長はセクハラ係長の他にもう1人いた。
社内不倫をしていた松山係長。
相手は24歳の絵理奈。
男性社員に色目を使う佳奈と同期。
「松山係長と不倫してまぁーす❤愛されてまぁーす❤」
と言っている少し痛い子だった。
見た目は確かに可愛いが、こんな事を言ったら叩かれるかもしれないが頭は少し弱かった。
ミスが多かったが注意をすると係長から注意をした人が怒られた。
「彼女はまだ新人なんだからミスを注意するのではなく、フォローしてあげるべきだろ」
高卒で入社している筈なんですが…24歳でもまだ新人なんですか?
これをいい事に絵理奈は仕事はしない。
「みゆきさぁーん💦さっきの資料なくしちゃったんですぅ😢」
「はっ?早く探して‼」
「見たんですけどぉー、何処にもなくて😢」
「絵理奈ちゃん‼泣いてないで探してよ💢」
すると松山係長が飛んで来た。
「藤村くん‼資料をなくしたと困ってるんだ💢また作ってやればいいじゃないか‼」
「…はい?私がですか?」
「当たり前だろ💢君が彼女に頼んだんだろ?」
「…」
黙る私に絵理奈は「係長❤あんまりみゆきさんを怒らないで❤」
私は絵理奈のおかげでしなくてもいい残業を強いられ、当の絵理奈は係長と定時で消えた。
こんなバカップルに制裁が下る日が来た。
毎朝行われる朝礼も終わり、私は仕事に取り掛かる前に一服しようと喫煙所に向かった。
同じ考えだった同僚が5人いた。
喫煙所にいた5人で缶コーヒーをかけてじゃんけんをし、私が負けて自販機にコーヒーを買いに喫煙所を出た。
すると30代半ばと思われる女性が何かを探す様にキョロキョロしながらビルの通路を歩いていた。
「何かお探しですか?」
私は女性に声を掛けた。
探していたのは、うちの会社だった。
「私、ここの社員です。どなたにご用でしょうか?」
「あの…工藤絵理奈という女性なんですが…」
「工藤ですね?少しお待ち下さい」
私は絵理奈を呼んだ。
絵理奈は不思議な顔をしながら通路に出てきた。
私は女性に頭を下げて、缶コーヒーを買い喫煙所に戻った。
同僚に「今、そこで絵理奈を探してる女性にあったんだけど…」と話をしたら、「…松山係長の奥さんじゃない?」と言われて驚いた。
みんな無言になり、一斉にタバコを消して喫煙所を出た。
すると…予想は的中。
泣いている絵理奈と何やら叫んでいる女性。
それをなだめる松山係長がいた。
すると私と目が合った係長が「藤村‼ちょっと来い💢」と呼ばれた。
「何でしょうか?」
「余計な事をするな💢何故絵理奈を呼んだ⁉」
「何故って…この方が探していたので」
「どうして追い返さなかったんだ💢」
あちゃ😫
巻き込まれてしまった💧
「追い返すって何よ💢この方は親切に声を掛けて下さったのよ?この方を責めるのは筋違いよ💢」
奥様は興奮気味に声を荒げる。
下を向いて泣き続ける絵理奈。
騒ぎで野次馬が通路に顔を出す。
「藤村‼お前のせいでこんな事になったんだ💢」
「係長、お言葉ですが私は悪くはありません。社内で不倫して盛り上がってる2人に嫌気がさしていたので良かったです」
「何だと💢」
今、何を言ったところで聞く耳は持たないだろう。
「失礼します、仕事に戻ります」
事務所に戻ると直美が私を心配してくれた。
部長に呼ばれて、私は全てを話した。
部長も不倫には薄々気付いていた様子。
その後、係長と絵理奈が部長に呼ばれた。
絵理奈は「みゆきさん、私係長の奥さんに慰謝料を請求するって言われました😫」と泣きながら話して来た。
「仕方ないんじゃない?不倫していたんだから」
「声を掛けて来たのは係長です‼だから私は悪くないです‼」
「どっちから声を掛けようが、不倫をしていたのは事実。頑張って奥さんに慰謝料払おうね」
「そんなお金ありません…」
「それは通用しないよ、あと今までみたいに係長はフォローしてくれないから全部自分でやるんだよ、働けばお金になる。ネイルと月2回の美容室をやめればその分慰謝料に回せる。外食やめて自炊する。これだけで少しお金が浮くから慰謝料に回せる。まずは働け、はい仕事」
それからすぐ絵理奈は会社を辞めた。
松山係長はその後、奥さんとの離婚が成立したが、絵理奈と連絡がとれなくなり一人になった。
松山係長は絵理奈と一緒になるつもりでいたらしいが絵理奈が拒否をしたと聞いた。
家族にも絵理奈にも捨てられた係長。
会社の仲間からも「不倫バカ」と言われていた。
何もかも失った係長はみるみる憔悴していったが、自業自得である。
倒産するまで会社にはいたが、それから何をしているのかは知らない。
奥さんと子供に頑張って養育費と慰謝料を払わなくてはならないため、きっと別の仕事で頑張っているのであろう。
実は私も付き合っていた彼氏に浮気をされた事がある。
それが結婚を考えていた3年付き合った彼氏、慎吾だった。
付き合ったきっかけは飲み屋。
亜希子ちゃんと飲みに行った時に、たまたま隣に座っていたのが慎吾である。
慎吾も友人と飲みに来ていた。
タバコを口にしたがライターが見当たらない。
亜希子ちゃんはタバコを吸わないため、隣でタバコを吸っていた慎吾に「すみません、ライター貸して頂けませんか⁉」と声を掛けた。
「ライター⁉俺、もう一本あるから100円ライターだけど良かったら使って😄」
それがきっかけで話をする様になる。
偶然にも慎吾は兄の同級生。
「へぇー隆太の妹なんだ😄」
それからお互い話しているうちに携帯番号を交換。
その日はそれで終わったが翌日、慎吾から「みゆきちゃん😄昨日は楽しかった、ありがとう😄良かったら今度は2人で飲みに行かない?」とメールが来た。
話していて楽しかったため「是非😄」とメールを返した。
それから付き合う様になった。
慎吾の仕事は路線バスの運転手。
一緒に来ていた友人も同じ会社の運転手だった。
私はまだ事務員をしていたため、日祝休みの私とシフト制の慎吾とではなかなか休みが合わなかったが、たまに合う休みはだいたい一緒にいた。
付き合って3ヵ月もしないうちに慎吾がうちのアパートに転がり込んで来て、同棲生活が始まった。
新婚生活みたいで何をしていても楽しかった。
不規則な勤務の慎吾。
朝が早い時は4時に起きての出勤。
遅い勤務の時は、帰りが日付を変わる事もあった。
私は慎吾に合わせて、朝が早い時は私も早くに起きてお弁当を作り玄関まで送り出す。
遅い時は、私が先の出勤になるため慎吾のご飯を用意してから出勤。
掃除も洗濯も全て私がやっていた。
家賃は折半、光熱費と電話代は慎吾、食費とお酒代は私、タバコは各自で出していた。
そんな同棲生活も1年が過ぎたある日、慎吾が仕事中に接触事故を起こした。
バス停で乗降が終わり発進させようバスの頭を右に振ったら、後ろから車が来て接触した。
この事が原因で慎吾は減給処分になり、収入が3万減った。
慎吾はかなり落ち込み、結果仕事を辞めてしまった。
2ヵ月程無収入になるが、知り合いの紹介で車屋の営業の仕事に就いた。
その間も私は慎吾を励まし、節約をしながらも何とか乗り切った。
車屋の営業にも慣れて来た頃、私の誕生日に「みゆき、結婚しないか?」とプロポーズをされた。
素直に嬉しかった。
慎吾のご両親にも挨拶をしに行った。
兄にも報告をした。
母親にも報告したが「好きにしたらいい」と言われた。
結婚するつもりで色々準備に取り掛かろうとしていた時に、私宛に一通のメールが来た。
藤村みゆきさん。
あなたに忠告をしておきます。
あなた、藤村みゆきさんは浮気相手です。
悪い事は言いません。
別れた方があなたのためです。
……………
意味がわからなかった。
突然届いたメール。
アドレスがそのまま表示されてるという事は、登録していない知らない相手だ。
いたずらにしてはタチが悪いが…
これは慎吾に聞いてみるしかない。
慎吾の帰宅を待った。
いつも通りに帰宅。
「ねぇ、話があるの。着替えたら座ってくれる?」
無表情で淡々と話す私に不思議顔の慎吾。
5分後、いつものジャージに着替えた慎吾が「みゆき…どうかしたか?」と言いながらソファーに腰掛けた。
早速メールを見せる。
「この相手に心当たりある?」
一瞬、目を丸くして動きが止まった。
「心当たりがあるみたいだね。どういう事が説明して欲しいんだけど」
怒る訳でも泣く訳でもなく、ただ淡々と話す私。
内心ははらわたが煮えくりかえりそうになっていたが感情を表に出しても仕方がないと思い、平静を装った。
「あー…うーんとね…」
返事に困っている様子の慎吾。
「別に怒らないから、本当の事が聞きたい」
「…」
黙る慎吾。
「黙っていても何もわからない。じゃあ聞く。この人は誰?」
「…」
「はっきり聞く。女だよね?」
「…」
下を向いたまま黙ったままの慎吾。
はぁ。
思わずため息が出る。
「直球で聞く。私と別れる?別れない?」
「…」
「…浮気してたの?それとも私が浮気なの?ていうかいつから?」
「…」
まるで人形に向かって話しているみたいだ。
「黙ってるっていう事は浮気確定なのね?」
「…」
「正直に話して?お願いだから…」
「…みゆき」
やっと慎吾の口が開いた。
私は黙った。
しかし、それからまた慎吾は話さなくなった。
お互い沈黙のまま時間だけが流れる。
「…お願いだからもう全部話して‼」
耐えられなくなり、私は思わず叫ぶ。
ふぅ。
慎吾は深いため息をつき、再び口を開いた。
慎吾の話を聞くとこうだ。
メールの相手は元カノ。
慎吾から元カノの話しは聞いた事がある。
元カノは気が強くてかなりわがまま。
気に入らない事があると自分が「納得」いく返事がない限り、朝まで話し合う事もざらだった。
「もう寝たい…」と言っても「納得いく返事をしてくれない限り無理」
納得とは自分が思った通りの返事、という事だ。
自分の方が立場が上で、常に見下されていた。
後半は喧嘩が絶えず、慎吾から逃げる様に別れたと聞いていたが…。
先日、会社の仲間との飲み会があり居酒屋に行ったら偶然にも元カノも仲間と飲みに来ていた。
酔っていた勢いもありホテルに行き関係を持った。
私に対して罪悪感はあったが「バレなきゃ大丈夫」と自分に言い聞かせた。
その時元カノは仕事がうまくいってなく相談も聞いていた。
そのうちに元カノがよりを戻したいと嘆願。
「やっぱり私には慎吾が必要なの」と言われて心が動いた。
ちょうど私と喧嘩していたという時で「うん」と返事をした。
しかし私と一緒に住んで結婚の約束までしている。
私の事は好きだが…元カノへの思いもよみがえる。
悩んでいた時にこのメールが来た、というものだった。
それだけではなかった。
驚く事に、元カノとの関係は一度だけではなく度々あり、しかも元カノは妊娠したかもしれないというのだ。
これを機会に私に話せて肩の荷がおりた。
話せて良かった、とまで言われた。
言葉が出なかった。
怒りもあったが「妊娠」が衝撃的だった。
私との時は「子供はまだ早いから」としっかり避妊していたのに、元カノの時は避妊しなかったんだ。
更に追い討ちを掛けられた。
「体の相性はみゆきより元カノの方が良かった。そしてみゆきといるとみゆきが全部してくれるから、俺がダメになる。しっかりし過ぎてるから俺の出番が何もない。たまには甘えて欲しかった。話した事で踏ん切りがついた。ごめん…別れよう…あいつは一人では生きていけないけど、みゆきは一人でも生きていける」
浮気されたあげく、勝手な事を言われて振られた私。
何とも情けない女である。
余りに突然の事で涙すら出て来ない。
慎吾との付き合いはあっけなく終止符を打った。
慎吾がいなくなった夜。
やけ酒を飲み泥酔。
泣いて泣いて目を腫らした。
慎吾との色んな思い出が辛かった。
今日仕事が休みで良かった。
こんな顔で出勤出来ない。
私だって一応女だ。
甘えたい時もあるが、甘え方を知らない。
甘える事を許してもらえなかった私は「甘える」事は=相手に迷惑を掛けると思っていた。
自分で出来る事は自分でする。
こう教えられた。
兄に教わったため自家用車のタイヤ交換も出来るし、オイル交換くらいなら出来る。
コンポの配線も自分で出来るし、パソコンもお客様センターに電話をしながらだが自分で設定もした。
多少の重たいものも自分で動かす。
「俺がやろうか?」と言われても「大丈夫」と断る。
これが可愛げがないのであろう。
女が全部一人でやるのはいけない事なのか?
私も働いているが家事は怠らなかった。
ただ風邪をひいた時や生理痛が酷い時はサボる事もあったが、後は仕事から帰って来てからご飯を作って掃除して洗濯機を回していた。
残業の時はお弁当やお惣菜の時もあったから完璧ではないが、慎吾の喜ぶ顔が見たくて頑張っていた。
物欲はないしブランドも興味がないから、最低限のものがあれば別に欲しいものはなかった。
ただ一度、長年使っていた財布が使い物にならなくなったため財布が欲しいと言った事はあった。
その時に慎吾は高そうなブランドの財布を買ってくれた。
初めての慎吾からのプレゼント。
嬉しかった。
初めてのデートはボーリングだった。
かろうじてスコアが100を越えた私に対し、慎吾はストライク連発で200を越えた。
映画を観たり、カラオケに行ったり、休みが重なり夜中に遠出してプチ旅行をしたり。
慎吾との色んな思い出。
思い出しながらいいだけ泣いた。
でも3日で立ち直る。
泣いていても仕方がない。
慎吾は元カノを選んだ。
理解出来ない事を言って私から去った。
心機一転、同棲していたアパートを引き払い別のアパートに引っ越した。
それから特定の彼氏はいない。
慎吾にフラれてから3ヶ月程が過ぎたある日の事。
新しいラグマットを買いたいと思い店に入った。
すると慎吾と彼女が手を繋ぎ、仲良さそうに食器を選んでいる姿を見つけた。
向こうは気付いていない様子。
ふと視界に入ったもの。
慎吾の左手薬指に輝く指輪。
「結婚したんだ…」
少し複雑な気持ちになった。
慎吾への気持ちは断ったつもりでいた。
別に未練がある訳ではない。
でも正直見たくなかった。
妊娠は本当だったらしく、彼女…いや奥さんのお腹が少し大きくなっていた。
幸せそうに食器を選んでいる2人。
慎吾の笑顔は幸せそうだった。
奥さんも楽しそうだった。
少し妬みながらも心の中で「末永くお幸せに」と呟きながらラグマットは買わずに店を出た。
慎吾の事は大好きだった。
幸せになって欲しい。
この世にたくさんいる異性の中で知り合い、お付き合いをするという事は何億分の一の確率。
もしかしたら一生ただの他人だったかもしれない。
他の異性よりも何かが輝いて見えたからその人を好きになる。
運命の赤い糸って一概に否定は出来ない気がする。
でも、たまに絡まり違う人に引っ掛かる。
それが不倫だったり浮気だったり…。
それが運命なんだと思っていたら、絡まっていた糸がほどける。
あっ💦と気付いた時にはもう遅い。
一度切れた糸を元に戻すのは難しい。
私と慎吾は一度はしっかり結ばれたが、途中で絡まり違う人に引っ掛かってしまった。
それが固く結ばれ、私との糸が切れた。
私の糸は切れたまま。
ただ凧みたいに操縦不能にはならず、かろうじて木に引っ掛かっている感じ。
いつかはしっかりと操縦してくれる人に出会いたい。
その後すぐに会社が倒産。
一応もらえるものはもらえた。
なかなか仕事が決まらず焦りも出てきた。
そんな時に目に留まったのがラブホテルでの今の仕事。
理由は時給が他のバイトより50円良かったから。
それまで10社程面接を受けに行ったが全て不採用。
やけくそになりかけた時にラブホテルが拾ってくれた。
日数も週5日働ける様にしてもらい、何とか生活出来るくらいは稼がせてもらっている。
最初は体が慣れるまでは筋肉痛になり大変だった。
だから入って来てもすぐに辞めてしまうらしい。
慣れれば比較的楽な仕事である。
ラブホテルで勤務してすぐに、母親から連絡が来た。
「あんたに話があるから、今日うちに来れないか?」というものだった。
珍しい。
大概は電話で済まされる。
余程の事があるのだろうか?
幸いその日は仕事はお休み。
夕方行くと約束をし、支度をして実家に向かった。
約束の時間より少し早目に到着。
相変わらず片付けが出来ない母親の部屋は、見事な散らかり具合だった。
「相変わらずだね」
「そう?これでも片付けたんだけど」
母親の中では綺麗な方らしい。
座る場所を作り腰をおろした。
「話しって何?先に言っとくけどお金ならないよ」
「いや、お金の話しじゃない」
「そう…じゃあ何?」
「…あんた、今日これからって時間あるの?」
「休みだからあるけど?」
「寺崎にも話しておきたい事なんだよ、悪いけど一緒に寺崎んとこに行ってくれる?」
「…???いいけど…」
全く話がわからないが、母親に何かあったと直感。
母親が父親に連絡。
一緒に待ち合わせ場所に向かった。
待ち合わせ場所は小さな喫茶店。
既に父親の車が駐車場に停まっていた。
隣に車を停めて母親と一緒に喫茶店に入った。
久し振りに見る父親はかなりおじさんになっていた。
でも身なりはきちんとしていて、見た目だけは紳士的だった。
「みゆきも一緒だったのか😄久し振りに見たらいい女になったね😄」
「そうかな…特別何も変わらないけど」
コーヒーを頼み、本題に入る。
母親が「あなたとみゆきにはきちんと話したくて」と今まで見た事がない真剣な顔をした。
軽く深呼吸をしてから、母親は視線をコーヒーに落としながらゆっくりと話し始めた。
「最近調子が悪くて病院に行ったのよ…そしたら子宮体癌の疑いがあるからって言われてね…明日から入院する事になったのよ」
「…えっ?」
驚く父親と私。
「もう、こうしてコーヒーも飲めなくなるね」
寂しそうに微笑む母親。
「恭子‼大丈夫だ‼今は癌は不治の病じゃない‼治療したらまた元気に戻って来れるから‼治療費なら俺が面倒を見るから‼」
興奮し声が大きくなる父親。
周りのお客さんがチラチラとこっちを見る。
「恭子‼俺もみゆきもいるし、心配する事はない‼」
母親はうっすら涙を浮かべながら頷いた。
母親ももう50代。
若い頃の元気はなくなったが、脳梗塞で入院して以来特に大きな病気もしないで元気だった。
突然の癌の告知に、どうしたらいいものか戸惑った。
こんなに落ち込む母親を初めて見た。
「お母さん、お父さんもこう言ってるし…入院してしっかり治療したらまた元気になるよ😄」
「みゆき…」
とうとう泣き出してしまった。
まさか癌だとは思わず、一人でフラっと病院に行き、癌宣告された母親。
「もう死ぬかもしれない」
昨日の夜はそればかりが頭を駆け巡ったらしい。
その日は父親が母親のマンションに泊まる。
私は父親がマンションに来る前に片付けをするために母親のマンションに行く。
喫茶店で父親と母親と別れ、先にマンションに帰って来た。
「入院準備もしておかなきゃね」
そう思い母親の寝室に入る。
いつも母親が使っている一泊用の小さめの旅行かばんを引っ張り出した。
その時にぐちゃぐちゃと丸められた便箋が出てきた。
広げて読んでみる。
そこには昨日書いたであろう、今現在の母親の想いが書かれていた。
死を覚悟したとも思える内容だった。
~~私は今まで自由に生きて来ました。
その代わり、色んな人に迷惑をかけて来ました。
今の今まで寺崎にお世話になり何不自由なく生活をし、わがままさせてもらいました。
癌と宣告された今、今まで自由に好き勝手生きてきた罰だと思っています。
自分のためだけに生きてきた。
お腹を痛めて生んだ隆太やみゆき、可愛いはずなのにどう接していいかわからなかった。
きっと私を恨んでいることでしょう。
私は母親になるべき人間ではなかった。
ろくな子育てをしなかったが、隆太もみゆきも一人前に育ってくれた。
もう私の役目は終わりました。
私はきっと死んでも極楽浄土には行けないと思うが、生きている間は十分楽しませてもらいました。
人間いつかは必ず死ぬ。
私はもう生きてる価値がないと判断された。
もう十分生きました。
寺崎は奥さんの元へ、隆太もみゆきも私がいなくても困る事はないでしょう。
今まで本当にありがとう。
~~
母親の手紙。
文章を書くのは人一倍苦手な母親。
きっと昨日、病院から帰って来てから一生懸命書いたのだろう。
ぐしゃぐしゃに丸められていたのは、うまく表現出来なくてイライラしたのだろう。
こんな母親でも、まだしばらくは生きていて欲しい。
明日から入院だが、諦めずに目一杯治療に専念して欲しい。
…母親が生命保険に入っていてくれて良かった😅
これである程度は母親も父親も安心して入院生活が送れるだろう。
長い入院生活になる事が予想される。
今日はきっと父親とゆっくり過ごすつもりだろうから、邪魔はする気はない。
片付けが終わったら、さっさと自分のアパートに戻る。
翌日の朝、母親が入院する病院に来た。
父親も一緒だ。
先生と看護師さんから病状と治療の説明を受ける。
母親の癌はステージⅠcというやつだった。
子宮の全摘出手術を行う。
後は癌が転移していない事を願いたい。
入院して程なく、母親の手術の日が来た。
前の脳梗塞で入院した時とは違い、大変おりこうさんな母親だった。
先生や看護師さんの話をきちんと聞き入れる。
点滴を勝手に抜く事もしなくなった。
当日、私はラブホテルの仕事を休んだ。
父親も来た。
今回は兄も来た。
母親の手術中、久し振りに会う兄と父親は色々と話をしていた。
兄はずっと付き合っていた彼女と結婚をし、2人の子供がいる。
上は勇樹くん。5歳。
下はゆめちゃん。2歳。
そして、今3人目がお腹の中にいて、もうじき生まれて来るとの事。
何度か子供達に会ったが、元気いっぱいの子供達のパワーに圧倒された。
子供達にはおばさんではなく「みゆきちゃん」と呼ばせている。
下のゆめちゃんには「みーたん」と呼ばれている。
父親はまだ「孫」には会っていないため、携帯に保存してある写真を見た。
「おぉ✨可愛いな😄」
「だろ?自慢の我が子だよ」
兄が得意気に言う。
一時は「ばあちゃんになりたくない💢」と言っていた母親も、いざ孫が生まれると可愛い様子で、月に何度か孫に会える日を楽しみにしていたらしい。
そんな話をしていたら、手術中のランプが消えた。
母親の手術が終わった。
先生の話。
「他に転移は見付かりませんでした、子宮は全て摘出しました、後は様子を見ながら治療をしていきます」
転移していなくて良かった。
後は無理なくゆっくりと治療をしていって欲しい。
幸い、術後の経過も順調で抜糸もした。
そんなある日、日中は時間があるため仕事に行く前に母親のお見舞いに行っていた。
そこへ母親のお見舞いに来た人がいた。
父親の本妻である寺崎美和だった。
「藤村恭子さん、ご無沙汰しています」
久し振りに見る寺崎美和。
少し痩せた気がする。
「これはこれは寺崎美和さん。ご無沙汰しています」
お互いフルネームで呼び合った。
「あら、藤村みゆきさんもいらしたのね、ご無沙汰しています」
私もフルネームで呼ばれた。
「…こんにちは」
こう答えるのが精一杯だった。
突然の寺崎美和の登場に驚いたからである。
「藤村さん、癌なんですってね」
「そうですが?」
「転移はなさってたのかしら?」
「してませんが?」
「あら残念」
寺崎美和が挑発ともとれる言い方をしてきた。
「残念ながら転移はしてませんでした。ご希望に添えなくてごめんなさいね」
母親は挑発にはのらなかった。
「治療なんかしないで、死んだ方が楽になるんじゃないかしら?抗がん剤って辛いって聞きますよ?」
「ご心配なく、おかげさまでこの通り元気ですから。死ぬ時は死にますよ」
無表情で答える母親。
この状況で私はいったいどうしたらいいんだろうか?
「この病院に私の姉が入院してましてね、ついでにお見舞いに来ましたの」
「それはそれは…わざわざありがとうございます」
「よろしかったらこれ、どうぞ召し上がって下さいな」
差し出されたのは母親が苦手な大福だった。
「せっかくですが…」
「遠慮しなくていいんですよ😄剥いて差し上げるわよ?」
「いえ結構です」
そんな母親の言葉を無視し、無言で大福の包装紙をむく寺崎美和。
そして無抵抗な母親の口に無理矢理大福を押し込んだ。
突然の事で息が出来なくなり、目を白黒させている母親。
その姿を見ているその目は殺意を感じた。
さすがに私も止めに入った。
「せっかくですが、後でゆっくり頂きますから‼」
母親の口に入った大福を取り出し、むせる母親に水を差し出した。
「しぶとい女…」
そう言いながら病室を後にした。
このままならまた来て、おかしな事をされる可能性がある。
入院しているため逃げる事も出来ない。
担当の看護師さんに簡単に事情を説明し、病室を変えてもらい父親にも事情を伝えた。
それから病室には来なくなったが、背筋が凍る出来事だった。
母親はこれだけ寺崎美和に恨まれる事をしてきたのだろう。
愛人である以上、仕方がないとは思う。
しかし、正直なところこっちの都合ではあるが、今はそっとしておいて欲しかった。
刺されなかっただけ良かったのかな…。
女同士のバトルは恐ろしい。
話しは変わるが、以前トラブルに巻き込まれた事がある。
トラブルの発端は勘違いから始まったのだが、勘違いをさせた私も悪かった。
倒産した会社にいた頃の話し。
同僚に高野くんという男性がいた。
高野くんは転職してきたのだが、前職が全くの異業種だったため色々と教える立場になった。
私や周りの同僚の話を一生懸命聞いてはメモし、わからない事はどんな些細な事でも聞いて来た。
皆「高野くんはやる気があるから一生懸命なんだよね」と彼のやる気は認めていた。
若いが高野くんは既婚者で幼い子供もいた。
「家族のためにも頑張ります‼」
そう言って目を輝かせていた高野くん。
高野くんと同じ時期に入社した阿部くんの歓迎会をしよう😄という話になり、何故か私が幹事に選ばれた。
余り飲みに行かない私は、パソコンを開きいくつか店をピックアップ。
直美と一緒に下見に行き、何件か回り良さそうな店を決めた。
直美の協力もあり、無事に歓迎会を迎える事が出来た。
その日は皆、昼休み返上で仕事をし残業しないでさっさと仕事を切り上げた。
不倫係長と絵里奈はまだ付き合っている時だったためこの2人は一緒の「残業」があったため不参加。
一次会はかなり盛り上がり、程よく酔っ払いも出てきた。
二次会は自由参加だったが、ほぼ全員二次会にも参加した。
カラオケだったが、皆仕事のストレスを発散させるべく歌いまくり異常な盛り上がりだった。
深夜1時を回った頃には、同僚達は眠ってしまっている人や知らぬ間にカップルになっている人、トイレに行ったきり帰って来ない人もいた。
主役である高野くんも阿部くんも、いい感じで酔っ払っていた。
「はい‼じゃあそろそろお開きにしまぁーす‼」
私の掛け声と共に、皆立ち上がりカラオケの出入口で解散になった。
そのまま三次会に行く人達、タクシーを拾い帰って行く人達に別れた。
私も直美も帰宅組。
私は車で来たため運転して帰らなくてはならない。
直美が「みゆき、送ってってー😁」と抱きついて来た。
「明後日の朝の缶コーヒーで手を打とう(笑)」
「オッケー👍」
直美と話していると、高野くんが誰もいなくなったカラオケの出入口にぽつんと立っているのが見えた。
「高野くん⁉どうしたの?」
「あっ…藤村さん、帰り嫁に迎えに来てもらう予定だったんですが、嫁…寝てしまったのか連絡がつかなくて…タクシー代もないしどうしようかと思いまして😅」
「じゃあ、私の車に乗ってく⁉確か方向一緒だったよね?直美も送るし、狭いけど良かったらどうぞ😄」
「いいんですか⁉ありがとうございます‼」
直美が笑いながら「高野くんは明後日の昼飯、みゆきにおごりね😁」と冗談を言う。
「わかりました‼お昼ごちそうします‼」
「冗談だよー(笑)みゆき、よろしく❤」
直美は後部座席に乗り込み、高野くんは助手席に乗り込んだ。
直美も高野くんもかなりお酒を飲んでいるせいか、車内でも盛り上がっていた。
「酒臭い😅」
思わず運転席の窓を全開にする。
シラフの私には強烈な臭い。
「藤村さん、白川さん、今日はありがとうございました😄楽しかったです」
「楽しんでもらえて、私も嬉しいよ😄」
運転しながら私が答える。
15分程走ったところで直美の自宅に到着。
直美の自宅は何度も来た事があるため、迷わず到着。
「お疲れ😁また明後日ねー‼」
私は開いている窓から直美に声を掛ける。
「みゆき‼ありがとう😄明後日、たっぷり缶コーヒー抱えて行くからねー(笑)高野くんも今日はお疲れ様😄また明後日ね👍」
「はい‼お疲れ様でした😄」
助手席からペコペコと何度もお辞儀をしながら高野くんも答えた。
「さて、今度は高野くんちか…どの辺?確かうちと近かったよね?」
前に「どの辺に住んでるの?」という話をしていた時に、住所がうちの近くだった記憶がある。
道案内をしてもらい、高野くんが住むアパートの前に到着した。
「藤村さん‼送って頂いてありがとうございました😄今日は本当に楽しかったです‼」
「こちらこそ楽しかった😄また是非、機会があったら皆で飲みに行こうね😄」
「はい‼」
ここで高野くんとお別れし自宅に戻った。
別に怪しい事は何もない。
ただ高野くんを自宅まで送っただけだ。
私も自分ちに戻り、一服した後にシャワーに入った。
シャワーから上がると、携帯に着信があり携帯がピカピカと光っていた。
時刻は深夜3時過ぎ。
「こんな時間に誰だろ…」
頭にバスタオルを巻いた状態で携帯を開くと、高野くんからだった。
「車の中に何か落としたのかな?」
そう思っていると、再び高野くんから着信があった。
「もしもし⁉高野くん?車に忘れ物でもした?」
「…」
受話器からは何の声も聞こえない。
「もしもし⁉どうかしたの?」
「…私は高野慎一の家内です」
「…はい?」
「やっぱりあなた、うちの主人と会ってたのね」
「はい?」
全く状況がつかめず、惚けた返事をする。
「とぼけないで‼うちの主人と会ってたでしょ‼」
まだ状況がつかめない。
黙っていると「藤村みゆき…ね。覚えておくわ」
そう言って電話が切れた。
何の事かさっぱりわからなかったが、眠たかったのもあり気にする事なく布団に入った。
翌朝。
携帯の着信で目が覚めた。
寝惚けながら携帯を見るとまた高野くんからの着信だった。
時計を見ると朝の6時半を少し過ぎたくらい。
「…こんな朝早くに何⁉」
そう呟きながら電話に出た。
「…もしもし」
「高野慎一の家内です」
「はい…ご用件は何でしょう」
眠さで半分落ちそうになりながらそう言った。
「あなた、人の主人と不倫しておきながらずいぶん偉そうね」
「何の話しでしょうか?」
全く心当たりがない事で朝早くに起こされたのが面白くなかった。
「昨日の夜中、うちの主人と仲良く帰って来たじゃない」
「あの…高野くんから聞いてませんでしたか?昨日は高野くんともう1人の歓迎会だったんですよ。たまたま家が近かったんで高野くんを自宅まで送っただけですから」
「嘘を言わないで‼歓迎会も嘘でしょ?」
「はぁ?」
「私、知ってるのよ?あなたと主人が不倫しているのを‼そんなに惚けてるなら探偵を使って調べさせてもらいます‼」
「…お好きにどうぞ。何でも調べて下さい」
「ずいぶん自信あるのね。調べて証拠を掴んで、あなたにたっぷり慰謝料もらいますから‼」
「…勝手にして」
そう言って私から電話を切った。
しつこいためサイレントに切り替え、また眠りについた。
一眠りして起きたのはお昼過ぎだった。
大きくあくびをしながら携帯を見ると、履歴が全て高野くんからになっていた。
「はぁ」
思わずため息をついた。
何故かは知らないが、どうやら高野くんの奥さんは私と高野くんが不倫していると思っているのは間違いない。
迷惑な話である。
私は高野くんに対して恋愛感情を持った事は一秒もない。
ただの同僚、先輩後輩の関係だ。
まず不倫は私が一番嫌いな事だ。
奥さんがいる人に興味はない。
高野くんのプライベートの事は良く知らないし、別に聞こうとも思わない。
ちょっとした話しならきっと誰もがする事だろう。
携帯番号は会社の人全員の分は登録してある。
それは会社の人は皆同じ。
高野くんだけ特別という訳ではない。
歓迎会で高野くんの自宅まで送った事が不倫になるのだろうか?
それならば私は会社の半分の人と不倫をしている事になる。
有り得ない話だ。
私は直美に電話をした。
「もしもし?直美?」
「昨日はどうもー🎵」
少しの雑談の後、直美に高野くんの奥さんの事を話した。
「はぁ?何でそうなるの?みゆき、高野くんをただ自宅まで送っただけだよね?」
「そうだよ‼別に変な事なんて何一つないけど」
「あっ‼そういえば…」
直美は何かを思い出した様に声を張り上げた。
「高野くんがまだ入社して何日も経ってない時、私高野くんと1日一緒にいて教えてたじゃん?」
「…あぁ。そうだったね」
「その時、やたらと高野くんの携帯が鳴ってたんだよ。「奥さん?」って聞いたら「そうなんですけど…今仕事中だから…」と言って一切携帯を開かなかったんだ。そしたら会社に奥さんから電話が掛かって来てさ、ボソボソ何かを話していたけどすぐ切ったのよ」
「まぁ要するに疑い深い奥さんって事なのかな」
「そうなんじゃない?」
高野くんは相当奥さんに信用がないのだろうか?
もしかしたら、何か過去に疑わしい事をしていたのかもしれない。
だから奥さんも高野くんを疑っているのかな。
そういえば、毎日必ず会社に「高野は出勤してますか?」という電話が来るらしい。
私は一度もとった事はないが、佳奈ちゃんが良く「また高野さん出勤してますか?って電話が来た😫」って言っていた。
余り人のプライベートを聞く方ではないが、少し高野くんの話を聞きたい。
全く身に覚えがない疑惑をかけられるのも嫌だ。
会社に行ったら高野くんと話をしよう。
直美との電話を切るとすぐに着信。
高野慎一と表示されていた。
「はぁ…またか」
ため息をつきながら電話に出た。
「…はい、もしもし」
「藤村さん⁉僕です‼高野です‼」
本人からの電話だった。
「高野くん⁉一体何なの⁉」
私は早速高野くんに聞いた。
「藤村さん‼本当にご迷惑をかけて申し訳ありませんでした‼昼に起きて携帯を見たら、藤村さんにすごい数の発信履歴があって驚いて嫁に聞いたら「不倫相手に電話して何が悪いのよ」って言われて…僕も驚きました」
「あのさ、悪いんだけど…ちょっと話を聞きたいのよ。今は無理なら明日会社ででもいいわ」
「はい‼あっ…」
突然電話が切れた。
嫁が来たかな。
そう直感した。
翌日。
疲れきった表情で高野くんが出勤してきた。
「おはようございます…」
「高野くん、朝からずいぶん疲れた顔をしているね」
直美に突っ込まれた。
「はい…一睡も出来ませんでした😢」
直美と私の目があった。
「高野くん…ちょっと」
私は出勤早々高野くんを事務所の隣の小さな応接室に呼んだ。
「ねぇ、奥さんの事で…」
話している最中に「藤村さん‼本当にすみません‼」
そう言って頭を下げた。
それから高野くんは話し始めた。
付き合っている時から束縛はあったが酷くはなかった。
結婚してから段々と束縛が酷くなり、子供が生まれてからは妄想も入って来た。
高野くんは疑わしい事は何一つしていないのに、勝手に妄想して話してくる。
それで何度も喧嘩をした。
昨日も「藤村って女と不倫しているんでしょ⁉」と言われて「違う‼」と言ってもわかってもらえず、しまいには「認めるまで寝かせない」と言われた。
出勤する時も「どうせ女のところに行くんでしょ?」と言われた。
奥さんは、高野くんが休みの日はずっと一緒にいないと気が済まない。
一人になれるのはトイレとお風呂のみ。
そして必ず携帯チェックが始まる。
着信があれば必ず奥さんに誰から掛かってきたか伝えてからじゃないと電話に出れない。
携帯にメールをし、すぐに返信がないと出るまで電話をする。
内容は「今は何処にいる?誰といる?」
説明すると「今一緒にいる人の写メと連絡先送って」
連絡先を教えると、すぐに相手に電話があり高野くんに代わって欲しいと言い、代わると納得する。
断ると帰ってからが恐ろしい。
朝まで妄想で話される。
約束した時間に5分遅れただけで着信の嵐。
仕事を変わったのは、会社に毎日奥さんが電話をするために「奥さんに心配かけるから、ずっと家にいた方がいいんじゃない?」と上司に言われた。
居づらくなり辞めた。
「もう疲れた…」
高野くんは一点を見つめたまま呟いた。
かなり精神的に参っている様だ。
「ねぇ高野くん」
「…はい」
「歓迎会の時に「嫁が迎えに来てくれる」とかって言ってたけど…嘘だったの?」
「…すみません💧あの時はどうやって帰ろうか悩んでました…せっかく楽しい気分になってたのに、こんな事言えなくて」
その時、佳奈ちゃんが「お話し中すみません💦高野さんにお電話です」
「…ありがとうございます」
高野くんはゆっくりと立ち上がり電話に出た。
奥さんだった様だ。
電話はすぐに終わり、再び戻って来た。
「高野くん、話してくれてありがとう」
「いや、逆に聞いてくれてありがとうございます‼」
「ねぇ…こんな事を言うと失礼かもしれないけど、奥さん何か精神的な病なのかもしれないね。一度、病院に連れて行ってあげた方がいいと思うよ?」
「はい…でも…」
「このままなら高野くんも参ってしまうよ‼性格なら直せないけど…もし何かの病なら治療したらきっと奥さんも変わるはず。奥さんを助けてあげなきゃ‼子供さんだって小さいんでしょ?もしかしたら育児がいっぱいいっぱいになっているかもしれないし」
「…」
「一歩踏み出さないと何にも変わらないし、私も事実無根の話で疑われたくないし。ねっ、高野くん😄」
「はい…」
「私で良かったらまたいつでも話し聞いてあげるから😄愚痴でもなんでもさ😄人に話せば楽になる事もあるでしょ?」
「ありがとうございます」
「まずは奥さんに誤解を解かなきゃね😅」
「そうですね😅」
どうしたらいいのか悩んだ。
現時点では話して理解してくれそうではない。
しばらく様子を見る事にした。
あれから10日程が過ぎた。
高野くんの奥さんからの連絡はパタリとなくなった。
「誤解だってわかってくれたのかな」
そんな風に思っていた。
すると高野くんの携帯からの着信があった。
「奥さんだな」
そう思いながら電話に出た。
「もしもし…藤村さん…」
やはりそうだった。
「はい」
「あの…探偵を使って藤村さんの身辺を調査させてもらったんですけど…」
いつもの攻撃的な口調ではなく、申し訳なさそうなか細い声だった。
「大変申し訳ありませんでした‼」
突然の奥さんの謝罪に戸惑う私。
「…不倫は誤解だとわかって頂けたって事ですよね?」
「いえ…あの…」
「何でしょうか?」
「…藤村さんのお父様は寺崎不動産、寺崎組の社長だったんですね」
「あ…そうみたいですね」
「私の父が勤務しているんです‼まさか父の会社の社長の娘さんだとは思わなくて…謝罪しますので、どうか父をクビにしないで下さい‼」
「…はい?」
「父は関係ありません‼どうかクビには…」
そう言って泣き出してしまった。
クビって…💧
私は父親の会社とは全く関係ないし、そんな事を言われても困る😱
「あの…確認なんですけど、私は高野くんとは何にも関係ない事は理解して頂けました?」
「はい‼すみません💦藤村さんだけは特別に主人と2人きりでも許します‼」
「いや…そうじゃなくて😅」
「本当に申し訳ありませんでした‼」
そう言って電話を切られた。
良くわからないが、どうやらとりあえず誤解は解けた様だ。
翌朝、高野くんから「藤村さんってあの寺崎不動産の社長の娘さんだったんですね。びっくりしました」と笑顔て話し掛けて来た。
「高野くん、その事を知ってるのは高野くんと直美だけだから、他の人には言わないで💦色々噂されるのが面倒臭いから」
「…わかりました」
それからは変な疑いを掛けられる事もなく、しばらくは平和な日々が続いた。
高野くんはその後、とうとう奥さんに耐えきれなくなり離婚を切り出した。
すると奥さんは手首を切った。
未遂で終わったが、その後は精神科に入院になった。
どうやら精神的な病は重症だった様だ。
入院中に奥さんと奥さんの両親から離婚を切り出されて離婚。
子供の親権は高野くんになった。
「シングルファーザーとして頑張って行きます‼」
まるで別人の様に明るくなった高野くん。
倒産するまで育児に仕事にと頑張っていた。
余り他人のプライベートに立ち入りたくないので、余計な事は聞いていない。
先日、近くのスーパーでばったり高野くんに会った。
「藤村さん⁉僕です‼高野です‼」
「高野くん⁉」
愛娘と一緒に買い物に来ていた。
もう小学生なのか。
「こんにちは」
挨拶をしてくれた。
「こんにちは😄お父さんの前の会社で一緒だった藤村といいます😄」
「あっ🎵あかねと同じ名字だ😄」
どうやらお友達と同じ名字だったらしい。
お互い買い物カゴを持ちながら少し立ち話をする。
酒しか入っていない私のカゴを見て「相変わらずですね」と笑う。
「まだ買い物途中だからね」
高野くんはしっかり自炊をしているみたいで、カゴの中には卵や白菜等の野菜が入っていた。
「普通カゴの中身、逆だよね」
そう言って笑う。
「今度、時間が合ったら飲みにでも行きませんか⁉」
「そうだね😄」
高野くんは今、観光ホテルのフロントの仕事に就いているらしい。
高野くんは中国語が堪能。
高野くんの母親が中国の方なのだ。
今、中国からの観光客が多いため中国語が話せる高野くんは重宝されているらしい。
「お互い、仕事頑張りましょうね😄」
そう言って高野くんと別れた。
元気そうで良かった。
別れた奥さんの事には一切触れていない。
そういえば…
慎吾の前に付き合っていた人も、束縛が激しかった。
彼の名前は篤志。
見た目はヤンキーみたいだったけど、内心は小心者だった。
仕事は建設業。
重機の運転を主としていた。
篤志は小さい頃に両親が離婚し母親に引き取られたが母親が離婚してすぐに男を作り育児放棄。
母親の祖父母宅で育ったが、高校生の時に祖父が亡くなり、当時80歳になる母親の祖母との2人暮らしだった。
80歳とは言ってもお元気で、毎朝飼っていた犬と散歩をし、何でも食べて家庭菜園が趣味のおばあちゃんだった。
付き合っている時は篤志が良くおばあちゃんが作ったトマトやかいわれ大根を持って来てくれた。
形はバラバラだったが、トマトは真っ赤に熟していてとても美味だった。
何度かおばあちゃんにもお会いしたが、とても気さくに話し掛けてくれた。
ただ話し出すと、とても長くなり帰るに帰れない😫なんて事もあった。
飼っていた犬は雑種だったが、真っ白い柴犬みたいな犬で名前は「アチ」
篤志の「あ」とばあちゃんの名前の「ちよ」の「ち」を取ったらしい。
人懐っこい犬で、遊びに行くと可愛い尻尾をブンブン振ってお出迎えをしてくれた。
最初はお付き合いも順調で、お互い往き来をしながら楽しくお付き合いをしていた。
付き合って半年程した辺りから、私の仕事が忙しくなり残業の毎日だった。
帰宅も夜9時を過ぎてしまう事もあった。
さすがに私も疲れてしまい会いたいという篤志を断ったりしていた。
でも、連絡だけは必ずしていた。
しかし篤志の態度がだんだん変わっていった。
「毎日そんなに残業があるのか?」
「そうなの…今月いっぱいはちょっと忙しいかな?」
「今日、少しだけでも会えないか?」
「ごめんなさい…今日はちょっと疲れてしまって💧昨日も一昨日も会ったし、今日はお互いゆっくり休も😄」
「俺が会いたいって言ってるじゃないか‼彼女なら喜ぶ事じゃないのか?」
「えっ…いや、今日は本当に疲れちゃって💦もう10時回ってるし、また明日もお互い仕事あるし…」
「浮気してるんだろ💢」
「してないし、そんな時間ありません😠」
「じゃあどうして毎日会えないんだ⁉」
「毎日は会ってないけど連絡は毎日してるじゃん‼」
プツン。
電話が切れた。
その15分後、私のアパートのチャイムが鳴る。
篤志が来たのだ。
「おい‼みゆき💢お前最近何なんだよ💢」
「何が?」
「何が?じゃねーよ💢仕事仕事って‼仕事と俺とどっちが大事なんだよ💢」
「篤志も大事だけど、仕事しなきゃ食べていけないでしょ⁉」
「俺が食わしてやるよ‼仕事なんか辞めちまえ💢」
「嫌よ💢ていうかほぼ毎日の様に会ってんじゃん‼今日くらい会わなくたって明日もあるし、今日は仕事で疲れたの💢たまにはゆっくりさせて‼」
「うるさい💢」
喧嘩勃発である。
毎日会いたい篤志に対し、たまには一人でゆっくりしたい私。
いくら話し合っても平行線である。
結局、ほとんど休む事なく朝を迎える事になる。
翌日も篤志は仕事が終わると「今日は仲直りのために会いたい」というメールが来た。
その返信。
「頼むから寝かせて」
毎日毎日、夜中まで篤志と会うためずっと寝不足だった。
しかし篤志は「仕事終わってからじゃないと会えないだろ💢」と言って、わかってもらえなかった。
そして「出掛ける」と言えば「誰と何処に行くの?」
ある日突然「携帯見せて」と言われた。
「どうして?」と聞くと「どうして俺に見せられない?」と聞かれた。
別に疚しい事はないため素直に渡した。
発着信をチェック、メールもチェック、登録している電話番号も男の名前のやつは「誰?」と聞かれた。
そして父親と兄以外の男の名前の番号は、勝手に消された。
大半が仕事関係だったために、これには激怒した。
すると「仕事関係ならわざわざ登録しておく必要はない、用事は会社内で済ませばいい」と言われた。
なのに「男性社員とは余り話すな」だの「2人きりになるな」だのうるさい。
8割が男性社員のため、それは難しいと伝えると「辞めろ」と言われた。
いい加減、そんな篤志がウザくなって来たある日の事。
「みゆき、ここのアパートを引き払ってうちに来ないか?ばあちゃんに話したら喜んでいたよ😄アチもみゆきになついているし。みゆきは仕事を辞めて、ずっとうちにいてくれればいいよ😄」
「それは無理」
「どうして⁉」
「たまに一人の時間が欲しい」
「日中は誰もいないよ?」
「そうじゃなくて…💧」
この時、篤志の存在が重くなっていた。
「付き合っていたらその人と四六時中一緒にいなきゃダメなの⁉他の友達と飲みに行くのもダメなの⁉」
「愛し合っている人と四六時中いたいと思うのは当たり前の事じゃないの⁉友達と会うのは構わないが、何故飲みなの⁉昼間のランチじゃダメなの⁉」
「たまには気の知れた仲間と仕事の愚痴とか言いながら飲む事も許してもらえないの?」
「そもそも、わざわざ出掛ける必要あるのか?友達と会いたいならうちに呼んだらいいじゃないか😄飲みたければ宅飲みでも十分楽しいぞ‼俺も一緒に楽しめるし🎵」
ダメだ…。
価値観が合わなすぎる💧
こんなに束縛されたら息苦しい。
たまには亜希子ちゃんや直美、会社の皆と飲みに行きたいし、外出くらい自由にしたい。
一人でゆっくりする時間も欲しい。
別に他の男性と遊びたい訳ではない。
ただ自由な時間が欲しいだけだ。
篤志と付き合っていたら、そんな自由な時間もない。
篤志は甘えたい盛りの時に母親がいなかったから、母親に甘えられなかったものを私に求めているのかもしれない。
母親に構ってもらえなかった寂しい気持ちは良くわかるが、私は彼女であって母親ではない。
私に求められても私には重すぎる💧
篤志の事をを嫌いになる前に、別れを告げよう。
そう決めて篤志に連絡をした。
「もしもし、篤志?」
「おっ💡みゆき😄」
「仕事終わった?」
「今、会社に帰ってるところ」
「そっか、今日ちょっと話があるんだけど」
「話し⁉わかったよ😄終わったら連絡する😄」
まさか篤志はこれから別れ話をされるなんて思ってもないだろう。
素直に納得してくれるとも思わない。
おばあちゃんはすごくいい人だし、アチも可愛いしもう会えなくなるのは寂しいけど…。
篤志は仕事着のままうちのアパートに来た。
「みゆきから会いたいって言われて嬉しかったから、会社から直行で来ちゃった😍」
篤志は喜んでいる。
切り出しにくいが心を鬼にする。
「ねぇ篤志…」
「なに?😄」
タバコに火を点けて一服している篤志が答える。
「あのね…私達、距離をおかない?」
「距離⁉どうして?」
不思議そうな顔で篤志は私を見る。
「私達、価値観が違い過ぎると思うんだ…これじゃお互いに疲れてしまう」
「…」
黙る篤志。
「お互い嫌いにならないうちに…」
話している最中に突然「嫌だ‼」と叫ぶ篤志。
「俺はみゆきを愛しているんだよ、どうしてだ‼何が気に入らない?みゆきが気に入らない事は直すから…みゆきも考え直さないか?」
「…ごめん」
「みゆき‼」
ドン‼
篤志はテーブルを強く叩いた。
「勝手な事を言うな💢」
今までに見た事がない形相をしながら篤志は私を睨んだ。
「何勝手な事を言ってんだよ💢お前は俺の彼女だ‼俺の言う事さえ聞いていればいいんだよ💢ふざけんな💢」
そう言って私の髪を鷲掴みにした。
「痛い💢何すんのよ💢」
「俺は絶対別れない‼だから撤回しろ‼」
「…」
黙る私。
「何故黙ったままなんだ⁉あぁ⁉💢」
そう言って私の髪を鷲掴みにしたまま、私の顔を床に打ち付けた。
「痛い…やめて」
「うるせぇ💢」
今度は無抵抗の私を殴る。蹴る。
私は自分の頭を抱えて、うずくまるだけで精一杯だった。
「痛い…」
「俺を怒らせるお前が悪いんじゃねーかよ💢私は篤志さんとは絶対に別れませんって言えよ‼ほら‼」
「…」
「黙るなって言ってるじゃねーか💢糞女💢」
篤志が熱くなればなる程、私の気持ちは冷めていった。
殴りたければ好きなだけ殴ればいい。
それで別れられるなら、その方がいい。
私は自分の防御はしたが、抵抗はしなかった。
男性に殴られたのは人生初だった。
小さい頃に兄と喧嘩をした時に殴られた事はあったが、それとは訳が違う。
どれくらいの時間が経ったのだろう。
篤志は完全燃焼し燃え尽きたのか、呆然としていた。
私は筋肉痛の様な痛みと闘いながら立ち上がる。
左腕に激痛が走る。
「いった…」
左腕を押さえる私に篤志が声を掛けて来た。
「みゆき…ごめん…」
「…」
返事はしない私。
篤志が暴れたため、部屋の中はぐちゃぐちゃだった。
「みゆき…大丈夫か?」
痛い左腕に触ろうとした時に思わず「触らないで‼」と叫ぶ私。
掛けていた眼鏡は壊れてしまったため、もう一つの眼鏡を取り出した。
ド近眼な私は、眼鏡かコンタクトがないと困る。
左腕の痛みが半端じゃない。
鏡を見ると、幸い顔はさほど怪我はしていない。
余りの激痛に救急病院に行く事にした。
篤志は「送るよ」と言って来たが、さっきまで私をボコボコに殴った相手と一緒に居たくない。
「タクシーで行くから。頼む、帰って…」
篤志は無言のまま素直に帰って行った。
病院での診察の結果は、左腕の骨にヒビが入っていた。
救急病院から帰って来た時にはもう朝日が眩しかった。
「今日は仕事休もう…」
こんな状態で仕事に行けない。
会社に電話をした。
いつも朝一番に出勤する部長が電話に出た。
「すみません…今日の夜中に怪我をしまして…今日はお休みさせて頂きたいのですが…」
簡単に事情を説明し、今日と明日の2日間お休みをもらった。
これで判明した。
篤志は属に言う「ドメスティックバイオレンス」だと。
そういえば、前に篤志のおばあちゃんが言っていた。
「篤志は短気で怒ったら手がつけられないのよ」
その時は「そうなんだ」と簡単に考えていたが、こういう事だったのか。
お昼過ぎに篤志から着信があったが出なかった。
すると今度はメールが来た。
~~~
昨日は本当に申し訳なかった。
愛するみゆきから別れ話をされて、ついカッとなってしまった。
怪我の具合はどうですか?
骨折まではいってないよね…?
俺はみゆきの事を本当に大事に思っているし愛してるんだよ…
昨日の今日だからまだ整理出来ないと思うから、しばらくは会いに行かないし連絡もしません。
みゆきからの良い返事を待っています。
~~~
篤志へ。
本当に大事に思っている人を、よくこんなになるまで殴れるね。
私は観音様ではない。
殴られても笑顔でいれる訳じゃない。
笑って許せる事ではない。
余程、病院の帰りに警察に行って篤志を「傷害罪」で訴えようと思ったがやめた。
これがせめてもの私からの今までの感謝の気持ち。
いつも「お金ない」と騒いでいる篤志にお金を請求するつもりもない。
その代わり、もう篤志に関わりたくない。
お願いだから、もう一切私に関わらないで欲しい。
私からの最後のお願いです。
携帯も拒否します。
もし家のアパートに来たら即警察呼びます。
これで篤志の束縛からも解放される。
家にある篤志の私物は、怪我が治ったら自宅に郵送します。
今まで本当にありがとう。
さようなら。
~~~
篤志への最後のメールの返信。
すぐに篤志の番号を拒否設定にした。
しかし、これで終わった訳ではなかった。
それからしばらくは平和な日々。
左腕にギプスをしている間、直美は「みゆき、怪我が辛かったら仕事を私に回して😄これ、まだでしょ?」
そう言って私の仕事のほとんどを手伝ってくれた。
「直美、ごめんね」
「何を謝ってんの⁉お互い様じゃん😄もし私がくたばったらその時は頼むね😁」
他の同僚達も手があけば手伝ってくれた。
会社の皆に頭があがらない。
感謝。
怪我の具合も良くなりギプスも取れた。
直美は左手が不自由な私を思って、仕事帰りにうちに来て頭を洗ってくれたり、ご飯を作ってくれたりした。
直美には本当にお世話になった。
直美だけには全て話した。
「理由はどうであれ女を殴る男なんて終わってる😠💢そんな男は別れて正解‼」
直美の存在は本当に有難かった。
そんなある日。
篤志から一通の手紙が届いた。
おばあちゃんがアチの散歩中に転倒し、足の骨を折ってしまい入院した。
おばあちゃんがみゆきに会いたがっているから、お見舞いに来て欲しい。
と言った内容だった。
悩んだ。
おばあちゃんには色々お世話になった。
遊びに行くと「これぞお袋の味」と思わせる美味しいご飯をごちそうしてくれて、家庭菜園で取れた野菜をお裾分けしてくれて、笑顔が可愛いおばあちゃんだった。
あんなおばあちゃんが私のおばあちゃんだったらいいな、とも思っていた。
おばあちゃんに会いたいな。
篤志とは終わったけど、お見舞いくらいなら…
そう思って、おばあちゃんが大好きなどら焼きをお土産にお見舞いに行った。
「おばあちゃん😄ご無沙汰してます😄」
「あらまぁ💡みゆきちゃん‼来てくれたのね😄」
「具合は如何ですか?」
「いやいや、アチと散歩していたら段差に気付かなくてね💦転んじまってね…もう年だから骨がくっつくまで時間かかるみたいだね😫」
「そうなんですか」
痛々しい姿だが、笑顔は変わらない。
篤志はいない様子。
いないうちに帰ろう。
少しおばあちゃんと談笑。
「あっ…そろそろ帰ります」
「そう?今日はお見舞い有難かった😄退院したらまた遊びにいらっしゃい😄アチも喜ぶよ😄」
「…ありがとうございます」
もしかしたらおばあちゃん、篤志と別れた事知らないのかもしれない。
病室を出たその時「みゆき…」と声を掛けられた。
篤志だった。
「…みゆき」
気まずそうに話し掛けて来た。
「おばあちゃんのお見舞い…ありがとな」
「…おばあちゃん、もう関係ない事知らないの?」
「うん…言えなくて」
「そっか」
「…ちょっといいか?」
篤志は近くにあったデイルームみたいなところに歩いて行く。
私も素直に従う。
ここなら殴られる事はないだろう。
「元気そうだね」
「お陰様で怪我も良くなったしね」
何だか会話がぎこちない。
「俺…みゆきにどうしてもきちんと謝りたくて」
「そう…」
「俺、まだみゆきの事が好きなんだ」
「…」
「どうしてあんな事をしてしまったのか、ずっと後悔してて…みゆきがいなくなってから辛くてさ…」
「…」
「…よりを戻したいって言ったらどうする?」
「…断るかな」
「俺の何が嫌になった?」
「決定的なのはこの間の暴力。あとは束縛。耐えきれなかった」
「…じゃあ好きだったところは?」
「私を思っていてくれた気持ちと仕事は真面目に頑張っていたところ」
「…そっか」
「おばあちゃんとアチと仲良くね」
「…みゆき、どうしても無理か?」
「殴られるのはもう嫌だし束縛も勘弁」
「もう二度としないと誓っても?」
「…いや多分、最初だけでしょ?今までそうだったんだから簡単には直らない」
「俺、頑張るから‼」
「ごめんなさい…そろそろいいかな」
そう言って私は席を立つ。
「みゆき…」
泣きそうな顔をしている篤志。
「おばあちゃん待ってるよ、じゃあね。元気でね」
私は黙っている篤志に背中を向けてエレベーターに乗り込んだ。
その日から篤志のストーカー行為が始まった。
ある日からほぼ毎日の様に篤志からの手紙が投函された。
住所も書いてないし、切手も貼っていないため直接ポストに投函しているのだろう。
内容はだいたい同じだった。
「よりを戻そう」
「愛してる」
「みゆきが嫌いなところは直すから、もう一度だけチャンスが欲しい」
「ばあちゃんもアチもみゆきに会いたがっている」
「俺は諦めない」
私は篤志と戻る気は一切なかったため、最初は手紙を読んでいたが次第に開封をしないで捨てる様になった。
すると今度は開封していない手紙が輪ゴムでまとめられて「読んでくれ」と一言添えられていた。
寒気がした。
篤志は人のゴミまで漁っているのか…?
返事をしない私にイラついたのか、篤志は会社に来た。
「藤村さん‼津田さんって方がみえてますが…」
同僚に声を掛けられ青ざめた。
津田とは篤志の事だ。
慌てて篤志のところに行く。
「会社はやめて」
「だって、手紙の返事はないし携帯は拒否されてるしあとみゆきに会えるのは会社しかないじゃん」
「仕事中だから手短に…用件は?」
「用件はただ一つ。結婚して欲しいんだ」
そう言って篤志は封筒を私に差し出した。
開けてみたら、篤志の欄は全て埋まっている婚姻届けであった。
初めて見る婚姻届けに驚きと共に恐怖がわいてきた。
「悪いけど返す」
「どうして⁉」
「私は篤志と結婚する気はないから」
「…書いてくれるまで毎日来るから」
「それは困る‼」
「じゃあ今書いて」
「書かないし💢」
「書いてくれるまで帰らない」
「それは困る」
「書いてくれたらすぐ帰る」
「…」
非常に困った。
今日は締日で忙しい上、今までサボっていた仕事も今日までに終わらせなければならない。
皆も締日でピリピリしてるのに、こんな事で時間を潰したくない。
「今日は締日だから仕事が忙しいのよ」
「じゃあいつならいい?」
「10年後」
「そんなに待てない💢仕方ないから明日また来るよ」
そう言って篤志は帰って行った。
小説・エッセイ掲示板のスレ一覧
ウェブ小説家デビューをしてみませんか? 私小説やエッセイから、本格派の小説など、自分の作品をミクルで公開してみよう。※時に未完で終わってしまうことはありますが、読者のためにも、できる限り完結させるようにしましょう。
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猫さんタヌキさんさくら祭り0レス 44HIT なかお (60代 ♂)
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少女漫画あるあるの小説www0レス 67HIT 読者さん
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北進11レス 247HIT 作家志望さん
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神社仏閣珍道中・改
(続き) と。 やたら長く書いてきたその本のタイトルは『みほと…(旅人さん0)
216レス 7305HIT 旅人さん -
わたしとアノコ
羨ましい表現なんてあったかなw 作者だから、もっていきたいほうがあるか…(匿名さん166)
166レス 1738HIT 小説好きさん (10代 ♀) -
✴️子供革命記!✴️
「儚辺浜森林公園(はかべはましんりんこうえん)にしよーよ」 と凌が云…(読者さん0)
13レス 77HIT 読者さん -
一雫。
誰かが言ってたあの言葉 自分の機嫌は自分でとる 本当に…(蜻蛉玉゜)
76レス 2329HIT 蜻蛉玉゜ -
仮名 轟新吾へ(これは小説です)
昔の事をいつまでも❗❗ごちゃごちゃと!!👊😡💢しつこい男じゃ❗ 【昔…(匿名さん72)
178レス 2780HIT 恋愛博士さん (50代 ♀)
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11レス 120HIT 永遠の3歳 -
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1レス 125HIT 小説家さん -
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ロシア敗戦濃厚劇場です✨🙋。 ロシアは軍服、防弾チョッキは支給す…(檄❗王道劇場です)
57レス 1390HIT 檄❗王道劇場です -
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