お母さんが不倫した日
「お母さん、今日出掛けてくるから。」
ある日の昼下がり、そう言って母は、出掛ける準備を始める。
普段化粧もしないし、ジャージみたいな服しか着ない母が、綺麗な身なりをしていた。
「わかった。」
何も知らない振りをして、また今日も母を送り出す。
(もしかして不倫してるのかな。)
まだ若い私には、あまり実感が湧かなかった。
***********
お母さんが不倫をした日
***********
不倫の当事者とその配偶者の話はよく見ますが、その子供の話は見ないな〜と思い、書いてみることにしました。
初投稿なので、暖かい目で見てやってください。
更新は多分ゆっくり…
新しいレスの受付は終了しました
今までこんな風に、平日どこかに出掛けるなんて、ほとんど無かったのに…。
お母さんがいなくなったリビングを眺めて、またあの言葉が頭に浮かんだ。
(お母さん、不倫してるのかな。)
それから、不倫に夢中になる主婦を描いた、連続ドラマがあった事を思い出した。
(今流行ってるだけで、お母さんは違うよね。)
お母さんを疑う心と、信じたい心が交錯する。
ちゃんと夜早い時間には帰ってくるし、ご飯も作ってくれる。
ただ平日の昼間にどこかに出掛けるだけで、お母さんを不倫してるだなんて疑うのは、なんか違う気がして、それ以上考えるのを止めた。
それからしばらくして、2学期の中間テスト週間が始まった。
教育に厳しい家庭で育った私は、中間テストで良い点を取るために、一生懸命勉強をしていた。
その日も翌日に備えて、テストが終わってすぐ、寄り道もせずに真っ直ぐ家に帰った。
テスト科目が2科目しか無い日で、いつもより早く帰れることがちょっと嬉しい。
「ただいま~」
いつもどおり、まずは自分の部屋に荷物を置いて、部屋着に着替えてから、リビングに向かう。
最近よく作ってくれるようになった、手作りのおやつが楽しみだった。
毎回違うお菓子で、簡単なゼリーやババロアに、1番楽しみにしていたマフィンは絶品だった。
リビングに入ると、お母さんの姿がない。
でも、部屋中にマフィンの甘い香りが漂っている。
(今日はマフィンだ!)
私は嬉しくて、香りの発信源であるレンジをあけた。
中から焼きたての香ばしい香りが溢れ出す。
飲み物も何もないけど、何はともあれまず一口、と思って、マフィンに手を伸ばした時、
「あぁっ、それダメなのよ。」
リビングに慌てて入ってきたお母さんに止められた。
お母さんはまた、綺麗な格好をしていた。
(また出掛けるんだ。)
私は伸ばしていた手を引っ込めて聞いた。
「なんで?私のために作ったんじゃないの?」
慌てた様子のお母さんは、レンジの中にあるまだ暖かいマフィンを見繕いながら答える。
目は私を見てない。
「これは、お友達にあげるのよ。」
形の良い、美味しそうなマフィンが次々とお母さんの用意したタッパーに消えていく。
残ったのは、不格好なマフィンだけだった。
「あとは、コハルが食べて良いから。」
何がなんだかわからないうちに、お母さんはまたイソイソと出掛けていった。
今日は少し、いつもと雰囲気が違った。
なんだろう?具体的にここが違うって表現できないけど。
余り物のマフィンを頬張りながら、お母さんの言葉を思い返した。
(友達にあげるって、お菓子作りあって交換してるのかな?)
そんな女性らしい趣味なんて持っていなかったはずなのに、私はひたすらお母さんの「お友達」と言う言葉を信じた。
まだ恋愛もまともにしたことのない私には、お母さんの行動が何なのか、到底理解出来なかった。
あの、マフィンの日から、私が学校から帰っても、お母さんが家にいない事が多くなった気がする。
そんな日は決まって、レンジに焼菓子と、置き手紙が添えてあった。
残り物なのは、わかってる。
(またマフィンか。)
冷えて固くなったマフィンを食べる。
多分不倫だ。
今まで自分の想像に自信が持てないできたけど、親子だからなのか、女同士だからなのか、なんとなく確信を持ってお母さんが不倫をしてると感じた。
確信だけが強まり、実感が伴わない日々が過ぎていく。
お父さんは、気づいてないのかな。
私のお父さんは、真面目を絵に描いたような人だ。
それに口下手で大人しい。
お父さんに会った人は必ず、「優しそうなお父さんだね。」と言う。
でも、そんなお父さんを、お母さんは嫌った。
多分、根本的に性格が合わなかったんだと思う。
お母さんは活発な人で、よく笑いよく喋る。
「一緒にいるだけで、空気が重くなる」
食事の度にこぼしていた。
そんなだから、家庭内の立場はなんとなくお母さんが上だった。
とは言え一応夫婦。
きっとお母さんが不倫してるって知ったら、さすがのお父さんも怒るに違いない、と思ってた。
最近、お母さんはあからさまにお父さんを毛嫌いするようになった。
受験を控えた年の春には、お母さん達の行動はエスカレートしていった。
平日の昼間にコソコソ会うだけでは、気が済まなくなったのだと思う。
その日の夜、私はいつものように居間でテレビを見ていた。
不意に、電話が鳴る。
「コハルでて~」と言われる事を見越して、慌てて電話に近づいたら、お母さんが私より先に受話器を取った。
「もしもし。」
不思議に思いながら、テレビを見に戻ろうとした瞬間、私は耳を疑った。
「あ、はい炻…うん炻」
どっから出してんだ、その声。
と言うような、ブリブリの猫なで声が聞こえてきた。
今まで一度も聞いたことの無い声。
耳まで真っ赤にしてる。
(不倫相手だ。)
すぐに事態を察知した私は、その場にいられなくなって自分の部屋に逃げ込んだ。
お母さんの目の前で、お父さんは、何も言わずただビールを飲んでいた。
(何あの声、何あの声、何!?)
部屋に戻った私は、この時初めて、お母さんの不倫相手を強く意識した。
妄想ではなく、確かにお母さんは不倫している。
…ような気がした。
私は、まだ信じられないでいた。
信じたくなかった。
曲がったことが嫌いで、真っ直ぐなお母さんが、不倫なんかするはずない。
(証拠を集めよう)
集めてどうこうする気もないけど、とにかくハッキリとした真実を確かめたい。
翌日から、お母さんが家にいない日を狙っては、家捜しをするようになった。
私は探偵にでもなったつもりで、家中を探しまわった。
家捜しの結果、見つけたものは、多くはなかったけど、十分すぎる証拠だった。
ちょっと笑えたのは、流行りの不倫を描いた小説を見つけたことだった。
(こんなの読んでるんだ。自分と気持ちを重ね合わせてるのかな。)
パラパラとページをめくったら、ちょっと生々しい表現に目が止まる。
まだ、顔も知らない不倫相手とお母さんの事を想像してしまい、気分が悪くなった。
それから、タンスの奥から大量のお見合い写真が出てきた。
(結婚してるのに。)
みんな気持ち悪い笑顔を浮かべたオジサンばっかり。
これには、お父さんと、本気で離婚したいんだ。
と、衝撃を受けた。
そして最後に、取っておきの証拠を見つけた。
手紙を書くのが好きなお母さんは、愛用のレターセットを持っている。
ピンクや花柄が好きで、色々な柄の便箋をたくさん揃えていた。
仲の良い友達が多いお母さんは、手紙を書くことも多かった。
で、書き終えると、どこかにしまい込んで、絶対に私やお父さんには見せないようにしている。
(不倫相手にも、絶対書いてるはず。)
お母さんに宛てられた手紙の中でも、大切なものや返事を書いていないものは、一緒にしまってあることを知っていた私は、ターゲットをレターセットに絞って、必死に探した。
でも見つからない。
簡単にわかるような場所に置くはずがないな、と半ば諦めていた頃。
しまい忘れたと思われるレターセットを、リビングで見つけた。
その日、お母さんはいつものように家を空けていた。
帰ってくるまで、まだ時間がある。
私は、迷わずレターセットを漁った。
不思議なもので、どんな手紙が出てくるのか、楽しみな気持ちの方が大きかった。
まず、レターセットの中にある全ての配置をずらさない事に、細心の注意を払う。
漁った事がばれないようにしなければならない。
1番上に重ねてあったのは、既に封がされた何通かの手紙だった。
確認できる範囲で宛先を見てみたが、不倫相手らしき宛名はなかった。
そして、それらの封筒の下に、書きかけの便箋が見て取れた。
綺麗なピンク色の便箋だ。
私は逸る気持ちを抑えながら、封筒を少しだけずらしてみた。
目に飛び込んで来た文字を読んで、私は固まった。
前後の文面など、頭に入らない。ただ、その一言にだけ、私の目は奪われ続けた。
”私も明夫さんを愛してる。”
愛してる。
なんて言葉、一度も聞いたことがない。
お母さんが、そんな事を言ってるなんて、信じられない。
もうこれ以上何も見たくない。
私は、全てを元に戻して、自分の部屋に帰った。
決定的だった。
お母さんは、家族以外の誰かを愛しているらしい。
(愛してるって。なに…)
わかっていたことだけど。
ほんとにお母さん、不倫してたんだ、と実感した日だった。
受験のために勉強をしなきゃいけないのに、全然身が入らなかった。
もう、しなくて良い気がした。
お母さんの関心は、私ではなく、不倫相手の明夫に向かったのだから。
あの日から、私にはお母さんが別人に思えて仕方がない。
不倫という、最低の行為を働いてる人。
この人の言うことなんか、聞きたくもない。
「なんでこんな点しか取れないの!?」
(何偉そうなこと言ってんの?)
「また黙りこんで。あなたといると、ほんとにご飯がマズイわ。」
(よく批判出来るね。自分は不倫してるくせに。)
お母さんが、私やお父さんを責める度、お父さんの目の前で、叫び出したい衝動に何度も駆られた。
(不倫してるくせにっ!)
(不倫してるくせにっ!)
(不倫してるくせにっ!)
お腹の中で、何度も叫んだ。
全部ぶち壊してやりたい。
隠してるつもりのお母さんを、めちゃくちゃにしてやりたい。
そういう、激しい怒りが、時々沸き起こった。
でも、お母さんに反抗する勇気も、逃げ出す勇気も無い私は、気づかない振りを続けるしかなかった。
手紙を見つけて以来、家捜しも止めた。
美味しかったマフィンも、もう作ってはくれなくなった。
不倫相手の為に作った余り物なんて、いらないけど。
何も変わらない生活でただ一つ、変わった事。
お父さんが、海外事業部の一つに長期出張となった。
一度行けば、最低でも一年は帰って来れない。
「あなたなんて、そのままずっと向こうに行ってればいいのよ。」
まるで、お父さんと居たくないからです、と言わんばかり。
本音は違う事を知っている。
これで心置きなく会える。電話ができる。
お母さんの声が聞こえてきた気がした。
吐き気がする。
私は孤独。
お母さんと二人っきりの生活が始まって、お母さんの私に対するあたり方がキツくなってきた。
「なんで勉強しないの!」
「なんでこんな点数なの!」
「テレビなんか見るな!」
私の成績はどんどん落ちていった。
どんなに頑張っても、勉強に集中出来ない。
なんで勉強してるんだろう?と思ったりする。
そんな時に限って、ふっと自分の部屋の子機が光りを発する。
液晶画面には”通話中”の文字。
お母さんは、不倫してるのにな。
結局、第一志望の学校には入れず、妥協した学校に入学が決まった。
お母さんは、私に何も言わない。
あんなに教育熱心だったのに。
***
新しい学生生活にも慣れ、友達も出来はじめた頃。
学校から帰ると、珍しくお母さんが家にいた。
「ただいま。」
すぐに自室に行こうとしたとき、お母さんに呼び止められた。
「コハル、ちょっと来て。」
嫌な予感を抱え、制服も荷物もそのままに、リビングへと足を向ける。
薄暗い部屋の奥から、ノッソリと大きい何かが出てきた。
それが見知らぬ男だと認識出来るまで、少し時間がかかった。
余りに唐突で、それに家の中に見知らぬ男がいる状況に、思わず緊張が走る。
「この人ね、お友達の下栗田明夫さん。」
大きい男は、顔だけで軽く会釈してからぼそっと、どうも、と呟いた。
「こんにちは。」
とりあえず挨拶は返した。
(お友達、ね。これが。)
不倫相手を堂々と家にあげ、白々しく友達として私にこの男を紹介したお母さんに、また無性に腹が立った。
その日私は、ずっと部屋に引きこもった。
お母さんと明夫が何かを話すところなんて、見たくない。
ひたすら夜になるのを待った。
だって、夜になれば帰るはずだから。
いくらなんでも、不倫相手の家に、私の家族の家に、泊まるはずなんて無い。有り得ない。気持ち悪い。
ラジカセから聞こえて来るFMラジオのDJの声も、何度も読み返したマンガも、頭に入らない。
(早く帰れ。早く帰れ。)
祈り続けた。
机の上の時計と睨めっこしながら、マンガの続きを眺めていると、部屋のドアをノックする音がした。
続けて、お母さんの声が聞こえてくる。
「コハル、ちょっとお母さん、お友達送ってくるから。」
(よかった!)
私は急いで部屋のドアを開けた。
でも冷静を装って、まるで関心が無いかのごとく答える。
きっとその方がお母さんにも好都合だと思って。
「そう。今から帰るの?」
部屋の時計を振り返る。
時刻は8時を過ぎていた。
何処に住んでる人なんだろう。
「今日はもう帰れないから、近くのビジネスホテルに泊まって貰うことにしたのよ。」
迷惑そうな、嬉しそうな複雑な表情をしている。
(でも、明日は帰るんだよね。)
喉まででかかった言葉を飲み込んだ。
「ふーん。わかった。」
お母さんの背中を見送って、部屋のドアを閉める。
明日は帰るのか。
こんな平日にくるなんて、仕事は何をしてるのか。
なんの目的で家まで来たのか。
そんな事を考えているうちに、お母さん達が家を出て3時間が経った。
家の外に、車のエンジン音が響く。
帰って来た音だ。
(近くって、どこまで行ってきたんだよ。)
私は待ち切れずに、お母さんが玄関を開けると同時に、そこで出迎えた。
「遅かったね。」
リビングに向かうお母さんの後について話し掛ける。
「色々手間取ってたのよ。」
どうしてもやっぱり、聞かずにはいられなかった。
「ねぇ、あの人明日には帰るんだよね?」
「うん…帰るよう説得はしてみるけど。」
なんとも歯切れの悪い答えだ。
説得って、どういう意味なんだろう。
なんと答えて良いか分からないでいると、お母さんは更に言葉を続けた。
「仕事、辞めて来ちゃったんだって。何もかも放り出して、うちまで来ちゃったんだって。」
(え…)
仕事を辞めると言うことがどんなことか、学生の私にだってよくわかる。
きっとお母さんには、それがあの人の覚悟だと受け取ったのだろう。
私には、後先考えずに感情だけで先走る人にしか、思えなかった。
「…どうするの?」
またお母さんは、あの複雑な表情をした。
翌日、不安を抱えたまま学校へ行った。
一日中気になって、何をするにも上の空。
妙に気持ちが高揚して、落ち着かなかった。
いつもは楽しいはずの部活が、ものすごく長く感じる。
じりじりとしながら終わりの挨拶を待って、学校をすぐに出た。
***
家に近づくと、夕食を作っているような、美味しそうな香が漂ってくる。
なんだかほっとした。
もう、家にはあの人がいない気がしたから。
「ただいま~」
返事が帰ってこないのはいつものことで、私は着替えるために自分の部屋にもどった。
最近部活で毎日動くようになってからと言うもの、夕食までにお腹がペコペコになる。
玄関に入った時、食器の音がしたので、もう夕食はできてると思い、すぐにリビングに向かった。
(今日は何かな~。)
リビングに入った瞬間、ここ最近何度目かわからない、自分の目を疑った。
いつもはお母さんが座る椅子に、なぜかあの人が座っている…。
目が合った。
怖くなってすぐ逸らす。
お母さんは、キッチンでシチューをよそっていた。
私の気配に気づいて、こちらを振り返る。
「おかえり。あ、コハルはお父さんの椅子に座って。」
そう言って、またシチューをお皿によそう作業に戻った。
あの人がお母さんの椅子で、私がお父さんの椅子、お母さんは私の椅子に座ると言うことらしい。
「…こんばんは。」
ちらっと見て、すぐに視線を落とした。
(なんでいるの?)
いや、そんなことより。
何故家族の夕食にあの人がいるのか。
何故堂々と家族の椅子に座るのか。
何故お母さんの手料理を食べるのか。
何故。何故。何故。
私は何も聞いていない。
まるで、この光景は何年も前からそうであったように、自然と私の目の前で繰り広げられている。
私だけが置いてかれたみたい。
「さ、食べましょ。」
全てのお皿を並べ終えて、ようやくお母さんも椅子に座った。
久しぶりに、三組ずつならんだお皿やコップ達。
テーブルの上は、賑やかで楽しげだ。
そこだけ見ていれば、また家族が戻ったような錯覚を起こす。
でも、そこにいるのはお父さんじゃない。
見知らぬ男の人。
「コハル、下栗田さんね、しばらくうちにいることになったの。よろしくね。」
この時初めて、きちんと自己紹介をした。
「娘のコハルです。」
こんな人に、なんて言えば良いかよくわからない。
結局私は名前しか言わなかった。
下栗田も、名前しか名乗らない。
陰気な感じの暗い人、と言うイメージが付いた。
それからすぐお母さんと下栗田は二人で会話を始めてしまい、私はなんとなく居場所を失ったような疎外感を覚えた。
不倫のくせに、まるで私が部外者みたいに小さくなるしかなかった。
テレビを付けて、1ミリも興味のないニュース番組を、食い入るように眺めた。
過去の実話ですかね?
主さんの年齢から…
本当にあった話なら子供の気持ち、考えると…😭
仮に人を好きになったとしても、順序がありますよね…😔
思春期の子供なら尚更…
私は考えられません😢
けじめやら、順序を飛び越え子供の気持ちは後回しは…親として…信じられない。けど、今の世の中そういう人、沢山いるのでしょうね😔
私も思春期の子供二人いるので…
主さん、更新頑張って✨✨
煜皆様、一括にて失礼します。
たくさんのレス、ありがとうごさいます!
色々なご意見、とても嬉しいです。
まだまだ続きますが、お暇でしたら最後までお付き合いください昀
最後まで書き上げましたら、大人になったコハルから、皆様が抱かれている疑問にお答え出来ると思います。
それまでは、ジリジリすることもあるかとは思いますが、お付き合いいただければ幸いです。
では、引き続き、お楽しみください。
お母さんとお父さんは、本当に仲が悪かった。
仲が悪いと言うより、何もかもが根本的に合わない、と言う感じ。
なんで結婚したんだろう?と思う程だ。
だから、お母さんが幸せになれるなら、新しい結婚も必要なんじゃないだろうか。
私は次第にそんな気持ちになっていった。
お母さんと下栗田さんが仲良さそうに生活している様子は、今まで見たことのない光景だった。
殺伐とした空気の中で、黙ってるか、喧嘩してるかくらいしか見たことがなかった私にとって、二人の様子は本当に、ようやく安住の地を得たようなキラメキを見せた。
私もそれに加わってみたくなった。
不倫でもなんでもいい。
一度で良いから、楽しい家族を味わってみたい。
この場にいる以上、それを求められている気もした。
何もなかったように家族ごっこをしていれば、私はお母さんを失わない。
ここに飛び込まなきゃダメなんだ。そう思った。
私の家族の証だった場所がなくなってから、三ヶ月くらい経った頃。
下栗田さんになかなか馴染めないでいた私は、自分の部屋に引きこもることが増えていた。
特に向こうから何かアクションをしてくるでもなく、なんとなく同居してる人が自分の家にいる。
そんな感じだ。
その日も、いつものように自分の部屋に閉じこもって、マンガを読んだり勉強をしたり、なんとなく時間を過ごしていた。
ふと気がつくと、リビングの方から、最近聞かなくなっていたお母さんの大きな声が聞こえてくる。
(怒ってる?)
たまには喧嘩もするのか、と呑気に関心しているうちに、お母さんの声はどんどんヒートアップしていく。
しまいには、叫び声になっていた。
流石に心配になった私は、自分の部屋のドアをそーっと開けて、リビングから聞こえてくる物音に聞き耳をたてた。
たまに下栗田さんの、呻くような声が漏れてくる。
”ガターンッ”
突然、何かを倒したような大きな音が廊下に鳴り響いた。
(なにっ?)
大きな音に、私は思わず身をすくめた。
一緒に、お母さんの小さな悲鳴も聞いた気がする。
一瞬の沈黙のあと、お母さんの声がまた聞こえてきた。
「何すんのよ!」
下栗田さんは相変わらず何かを呻いているような声を出しているみたいだ。
私は意を決して、リビングへ向かった。
その間に聞こえてくる、お母さんの声は少し落ち着きを取り戻したような、冷静な口調に戻っている。
私は少し安心して、リビングへ足を踏み入れた。
何かが壊れた音だったのかしら、と不安を抱きつつ見渡したリビングでは、椅子に座ったお母さんと、立ち上がった下栗田さんが向かい合っている。
それだけだった。
ただ、お母さんの顔は興奮のせいか、紅潮していた。
目も、怒りに満ちた色をしている。
下栗田さんにこんな表情を見せるのは、初めてだった。
私に気づいたお母さんは、少し声のトーンを緩めて言った。
「あ、コハル。ごめんね、心配かけたわね。」
それから、下栗田さんを睨み上げて、
「ほら、心配かけたじゃない!何してんのよ!」
下栗田さんは、何も答えなかった。
殺伐とした空気が、その場に流れている。
(何も変わらないじゃん。)
あったかい家族とか、楽しいだんらんとか、そういうものを多少なりにも期待していた私は、それが叶わない事を悟った。
安住の地なんて、なかった。
またあの殺伐とした日々が続くのかと思うと、期待していた分、憂鬱な気持ちが前より大きくなっていくのを感じる。
「なんでもないから。コハル、部屋に戻って良いわよ。」
そう言って、目では”出ていきなさい”と語るお母さんに、何も聞けないままリビングを出ることしか出来なかった。
後ろにお母さんの怒っている声を聞きながら、部屋に戻る。
きっとまた、お父さんにしたように、下栗田にも毎日不満をぶつけるのだろう。
ちょっと暗い感じの人だし、何も言い返せないで黙ってやり過ごすのか。
不倫までして手に入れた男なのに。
私には、お母さんがわからなくなってきた。
注意
主です。
タグにも登録してあるので、大丈夫だと思いますが、念のため…。
この先、暴力的な表現が増えていきます。
苦手な方は、ご注意くださいね。
よろしくお願いいたします。
それでは…煜
季節は夏を超え、秋らしい風が心地好くなってきた土曜日のことだった。
久しぶりの休みに気をよくした私は、昼近くまで惰眠を貪ってから、ゆっくりとした朝を迎えた。
流石にお腹が空いたので、食料を求めてリビングへ向かう。
今日はまだ喧嘩をしていないみたいだ。
楽しそうな二人の声が聞こえてきた。
リビングへ入ると、私に気がついたお母さんが声をかけてきた。
「コハル、ちょっと。」
下栗田さんが一緒の時は、あまりお母さんと話したくないのに…。
私は渋々二人の元へ近づいた。
「なに?」
寝起きなのも手伝って、不機嫌な返事になってしまった。
「あのね、お母さんたち、籍入れたから。」
「え?」
(は?聞いてないんですけど。)
というか、そもそも二人が付き合ってるとも聞いてないし、第一お父さんとはいつ離婚したのか…。
全くの寝耳に水の話だった。
「それからね、」
びっくり仰天な話はまだ続く。
「コハルの籍はお父さんに残したから。」
呆然と立ち尽くす私に、お母さんは気まずそうな表情で、私から視線を逸らすと、椅子から立ち上がった。
「ご飯よね。作ってあるから。」
そういって、キッチンに向かう。
それが合図だったかのように、下栗田さんも椅子を立ち上がった。
テーブルの向こうに置いてあるソファーに座ると、そのまま横に寝転がってしまった。
(よろしく、とか無いの?籍は違うから良いってこと?)
また、私の知らないうちに、ことが運んだ。
お母さんは、味噌汁とご飯に、焼き魚を、行ったり来たりしながら、私の目の前に並べていった。
美味しそうな香りと湯気が鼻をくすぐる。
いつもなら思い切り吸い込むはずのこの香りも、今は吸い込む気持ちにもならない。
「いつ離婚したの?」
そこにいる下栗田さんに気を遣いながら、なんとか言葉を探してお母さんに問い掛けた。
本当は、山ほど聞きたいことがあるけど。
「この前。それにほら、コハルは学校行ってるから、苗字変わらない方が良いでしょ。」
勝手に話しを続けてくれた。
>> 49 いや、この程度の対応は普通ですよ。 大人に完璧を求め過ぎ、お母さんいっぱいいっぱいだと思いますよ。
- << 51 普通って… どんな普通なのでしょう? 確かに、生身の人間。 感情のままの言動を通したい思いはあるでしょう。 それは この母親の も同じ。 でも、娘の気持ちを考えず、押し切る行動をするのは違いますよ。 「行動にでれば こちらのもの」そんな生き方をして、娘にどう 女性の幸せをトクのでしょう? 前夫との仲には色々とあったのでしょう。 娘すら入れない壁が。 なら、尚更、動く前に打ち合けるのが母親の姿勢ではないですかね? 離婚、再婚との道筋を… 女である人生を選ぶ前に、母親のポジションを忘れてはならない。 この母親の人生の犠牲ではなく責任ですよ。 それからの行動、新しいパートナーとの歩みです。 今の状況は ただの男ったらし いっぱい いっぱいなんかじゃありませんよ。 こちらの話が 経験をもとにか、 作りものかは わかりませんが、 その人の人生の 「犠牲ではなく、責任」を掛け違えてはいけない。 横レス失礼致しました。
新しいレスの受付は終了しました
小説・エッセイ掲示板のスレ一覧
ウェブ小説家デビューをしてみませんか? 私小説やエッセイから、本格派の小説など、自分の作品をミクルで公開してみよう。※時に未完で終わってしまうことはありますが、読者のためにも、できる限り完結させるようにしましょう。
- レス新
- 人気
- スレ新
- レス少
- 閲覧専用のスレを見る
-
-
「しっぽ」0レス 66HIT 小説好きさん
-
わたしとアノコ55レス 592HIT 小説好きさん (10代 ♀)
-
また貴方と逢えるのなら0レス 82HIT 読者さん
-
おすすめのミステリー小説はなんですか?6レス 154HIT 小説好きさん
-
日々を生きています。55レス 403HIT 小説好きさん
-
日々を生きています。
最高の予感がする 私は本当に本当に幸せ者だ(小説好きさん0)
55レス 403HIT 小説好きさん -
神社仏閣珍道中・改
(続きとなります) お焼香の作法は、宗派によって異なります。 …(旅人さん0)
147レス 4346HIT 旅人さん -
「しっぽ」0レス 66HIT 小説好きさん
-
Journey with Day
リリアナは、そっと立ち上がり、壁のモザイクを指でさわった。 「この白…(葉月)
74レス 895HIT 葉月 -
西内威張ってセクハラ 北進
何がつらいのって草こんな劣悪なカスクソ零細熟すべてがつらいに決まってる…(自由なパンダさん1)
57レス 2176HIT 小説好きさん
-
-
-
閲覧専用
今を生きる意味78レス 469HIT 旅人さん
-
閲覧専用
黄金勇者ゴルドラン外伝 永遠に冒険を求めて25レス 898HIT 匿名さん
-
閲覧専用
勇者エクスカイザー外伝 帰ってきたエクスカイザー78レス 1751HIT 作家さん
-
閲覧専用
神社仏閣珍道中・改500レス 14754HIT 旅人さん
-
閲覧専用
真田信之の女達2レス 366HIT 小説好きさん
-
閲覧専用
おっさんエッセイ劇場です✨🙋🎶❤。
ロシア敗戦濃厚劇場です✨🙋。 ロシアは軍服、防弾チョッキは支給す…(檄❗王道劇場です)
57レス 1366HIT 檄❗王道劇場です -
閲覧専用
今を生きる意味
迫田さんと中村さんは川中運送へ向かった。 野原祐也に会うことができた…(旅人さん0)
78レス 469HIT 旅人さん -
閲覧専用
神社仏閣珍道中・改
この豆大師についての逸話に次のようなものがあります。 『寛永…(旅人さん0)
500レス 14754HIT 旅人さん -
閲覧専用
黄金勇者ゴルドラン外伝 永遠に冒険を求めて
『次の惑星はファミレス、ファミレスであります~』 「ほえ?ファミレス…(匿名さん)
25レス 898HIT 匿名さん -
閲覧専用
勇者エクスカイザー外伝 帰ってきたエクスカイザー
「チェンジ!マッドキャノン!!三魔将撃て!!」 マッドガイストはマッ…(作家さん0)
78レス 1751HIT 作家さん
-
閲覧専用
サブ掲示板
注目の話題
-
嫁がいるのに恋してしまいました
ありきたりかもしれませんが、、 相手は会社の3つ年下の上司 いつも優しくしてくれて自分の仕事…
26レス 511HIT 叶わぬ恋さん (30代 男性 ) -
付き合った彼氏実は結婚していた
お医者さんと出会いご飯に誘われ2、3回会っていたら告白されました。 私も会うにつれ惹かれてしまい付…
10レス 263HIT 恋愛好きさん (20代 女性 ) -
話し合いを嫌がるのってなんでですか?
話し合いって大事だと思ってます。 付き合いの浅い友達ならまだしも、恋人は付き合いが浅くても話し…
21レス 364HIT 恋愛好きさん (20代 女性 ) -
車中泊で職質されますか?
私は節約のために遠出してもホテルではなく、車中泊します。 大体、他の車もいる道の駅が多いですが、道…
28レス 887HIT 社会人さん -
結婚しないの?と聞かれることが苦痛
私は31歳で、少し前まで彼氏がいて、その彼からは結婚したいと言われていました。 でも一人でいること…
11レス 215HIT 相談したいさん (30代 女性 ) -
3歳児の就寝時間ってこんなに遅いですか?
妻へどういう風に言えば嫌みなく伝わるか教えてください。 妻が子供を寝かしつける時間が遅いように感じ…
10レス 202HIT 新米パパさん (40代 男性 ) - もっと見る