天照の巫女~百億分の壱の奇跡~
この物語は完全なフィクションです。フィクションなんで大目に見て下さいね。🙇
主人公「翔太」が異世界で天照(あまてらす)の巫女「華恋」と出会うとこから始まります
何故異世界に連れて行かれたのか?
天照の巫女とは?
華恋の秘密とは?
そして2人が迎える悲しい運命とは?
作者が無い知恵振り絞ったファンタジー、オカルト、恋愛小説です
よろしければ最後までお付き合い願いたいです。
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とある田舎の高等学校
そこに通う翔太は鬱な表情で授業を受けていた。
翔太は半年前、都心にある高校から転校してきたのだが田舎暮らしにはまだ馴染めない。
生徒数も少なく新しく出来た友人の家に遊びに行くのも1つ2つ山を越えなければならない状況。
カラオケ、ボウリング、ゲーセン等の遊技場はおろかコンビニすらない。
翔太は今の生活にかなり不満が募りつつあった。
翔太が転校してきたのには理由がある
父親が事業に失敗し多額の借金返済のため家を売った。
自由気ままな私立高校も授業料が払えなくなり、また帰る家もなくなったため母方の実家に翔太だけお世話になることとなった。
両親はそのまま都心に残り住み込みで働いている。
高校3年の春。
卒業と伴にこの田舎暮らしから抜け出そうと都心の就職先を探していた。
「おいおい!ニュースニュース!」
突然クラスメートのひとりが話しかけてきた。
教室も狭く人数も少ないため皆一同にそちらを向く。
「カエル池の近くに空き家があったやろ?」
「ああ…。
乳だしばーさんちの斜め向かえの?」
「そうそう!
あそこに昨日新しく引っ越してきた奴がおったとよ。」
「ふ~ん。で?」
「珍しいな~って思って見よったらさ、そこにおった…多分俺らと同じ位の女の子がおってさ!」
女の子という言葉に男子みんな身を乗り出す。
一方女子は白けた目で見る。
「なんか今まで見たことない位の美人やったとって!」
「マジで?」
「今日見にいかん?」
「行く行く!
おい!翔太も行くやろ?」
「ああ?俺はいい。」
「何でや~!付き合い悪いな~。」
「興味ない」
「もういいって!
翔太、絶対後悔するぞ。」
翔太とて男。
それなりに女の子には興味はあるのだが都会暮らしで色んな女の子を見てきた翔太にとってクラスメートの男子ほどの情熱はなかった。
(お前らがお盛んすぎんだよ。)
翔太は心の中でそう呟いた。
下校時間。
男子はいっせいにカエル池に向かって自転車を飛ばして行く中、翔太はひとり帰路についた。
祖父の家までは自転車で飛ばしても軽く1時間はかかる道のり。
今日は6限目まであったせいで体のダルさがかなりのしかかっていた。
途中の駄菓子屋でコーラを買いゆっくり自転車をこいで行くと不意に視線を感じた。
「ん?」
しかし辺りには誰もいない。
別に気にするわけでもなく自転車をこぎ始めた。
「あ~。やっぱダリ」
自転車を停め草むらでゴロンと横になって空を見上げた。
「みんな今頃なんしてんかなぁ…。」
先の家の出来事はかなり急な話でろくに友人との挨拶も出来ずに来てしまった。
携帯で数人とは話がついたがほとんど会えずじまい。
翔太はそれが心に引っかかっていた。
「う…う~ん。
はっ!やべ!」
疲れのせいかあのまま眠ってしまったようだ。
辺りはすっかり薄暗くなっていた。
家まではまだあと1つ山を越えなければならない。
普通の道を通ると30分はかかるが先月新しい道を発見した。
道といっても山あいを抜けて行く獣道。
薄暗い今頃になると普段見慣れてる入口もかなり不気味に見える。
「まぁいいか!」
翔太はわざと大きな声を出し自分の中の恐怖心を振り払ってから獣道へと飛び込んだ。
この獣道を通ると15分とかからない。
しかし木々が覆い茂る中ではより一層暗く感じる。
もちろん街灯など無いため自転車のライトだけが頼り。だがそれがいきなり消えた。
「おい!嘘やろ!」
自転車の前車輪を浮かせ二度三度地面に打ちつける。が、効果なし。すると突然!
「!!」
先ほどの視線を感じた。
抑えつけた恐怖心が込み上げてきた。
辺りは真っ暗闇ではない。
目を凝らし記憶の中にある道と照らし合わせて一気に通り抜ける。
どれ位走っただろうか?いや先ほどから4・5分しか経ってないが倍以上の時間に感じる。
すると向こう側に明かりが見えた。
頭の中の地図と照らし合わせてもそろそろ出口だ。
「ふう…。」
少し気がぬけた。
出口までは十数メートル。かなり急な上り坂だ。
さすがにここは自転車を降り押していくしかない。
「!!!」
またあの視線だ。しかも今度のは一瞬身が縮むほど近くに感じた。
一気に自転車を押しながら駆け上がる。が視線はより一層強くなる。
ただ事ではない雰囲気がビシビシ伝わってくる!
遂には自転車を放り投げ駆け上がる。
しかし翔太は気付いていなかった。
その先に大きな穴が開いていたことを。いや、穴というより闇。奈落のそこまで続いているような闇がぽっかりと口を開いていた。
それに気付かない翔太がその闇に足を踏み入れた瞬間。闇から伸びた青白い手が翔太の足をわし掴みし闇の中へと引きずり込んだ。
一瞬何が起きたのか分からなかった。足を掴まれた感覚に下を向いたらそこは闇だったのだ。
「うわああぁぁぁ!!」
いつまでも。
いつまでも落ちて行く感覚に気が遠くなっていくのを感じていた……
パチッ…
パチッ パチッ…
何かを燃やしている音に翔太は目を覚ました。
「目、覚めた?」
目の前に見覚えのない少女が座っていた。
ガバッ
身を起こして辺りを見回す。
そこは見渡す限りの草原。
いや草原といっても全て枯れていてどっちかというと荒れ地に近い。
「誰?
ここ、どこ?」
少女は軽く微笑むと焚き火の方を向いてうずくまって一言
「ごめんね…。」
と、か細い声で答えた。
翔太自身何が起きたのか分からない。
ただその少女の哀しげな顔をみるとそれ以上何も訊けなかった。
そして記憶をたどってみる。
確か獣道の出口付近で確か闇の中から出てきた青白い手に…!!
そうだ!
あれは何だったんだ?
「ねえ…」
もう一度話しかける
少女は再び翔太の方を向いた。
「ここ、どこ?」
「ナユタ。」
「ナユタ?
ナユタってどこ?」
「?」
少女は首を傾げる。
「ああ…そうか。ナユタはナユタだよね。
そのナユタは何県にあるの?」
「?…何県?」
「だから…」
「ここは…」
言葉をかぶせるように言ってきた。
「ここは…、あなたの住んでいる世界とは別の世界。」
翔太は一瞬戸惑ったが自分が気を失う前の出来事を思えば「やはりか」という思いもあった。
「ごめんね…
私があなたをここへ引きずり込んだの…。」
「はあ?」
一瞬ムッとしたが相手は少女。冷静さを取り戻し
「元の世界に戻してよ。」
「うん」
そう言うと少女はまた視線を戻しうずくまった。
「ちょっと話しを聞いてくれる?」
少女は翔太の方を向き直して語り始めた。
「基本的にはあなたの住む世界と変わらないよ。
ここ、日本なんだ」
「日本…」
「あなたの世界の歴史から枝分かれした世界」
「!?」
「今から五百年以上前にね」
「つまり違う歴史を歩んだもうひとつの世界?」
彼女は首を横に振り
「正確には無数にある歴史のひとつ…。
時間の流れってのは実はすごく不安定なもの
ちょっとした時空間の歪みでどんどん枝分かれしていくの」
「ああ…、なんか聞いたことある。
並列世界ってやつ?」
「それもちょっと違うかな…。並列ではなく、ねじれの位置にあるから同じ事象の位置でも数百年の時間のズレがある」
(なんか分かんなくなってきた。)
「まぁとにかくここが異世界ってことはわかった。
んで?なんで俺をここに引きずり込んだわけ?」
少女はしばらく間をとった後
「その前にもう少しだけこの世界のこと話していい?」
と、申し訳なさそうに語りだした。
「人は死ぬと霊界に行くのはわかる?」
「まぁなんとなく…」
「その霊界で人の魂は‘霊界の繭’って所で過ごすの」
「霊界の繭?」
「うん…。人間界で汚れた魂をキレイにする所。
でもある日突然その繭が破れてしまった。
原因は汚れが繭の許容範囲を超えたからといわれてる」
「それだけ人の心が荒んできたってことか…。」
「霊界はね。枝分かれした世界全ての魂が集い旅立つ所。
そのため全ての世界と繋がってる。
繭から溢れ出したたくさんの魂は、その時繋がってたこの世界に舞い降りてきた。」
終始哀しげな顔は変わらない。
「魂がありふれた世界がどうなるかわかる?」
「…?
死者が甦るとか?」
「それは無理。
肉体がないから…。
魂は彷徨いほとんどがじばく霊になる。
でもその中には繭から抜け出したため不浄の霊体もいる。
他の霊体を取り込み新たな思念体が生まれる。
私達はそれを物の怪とよんでる」
「物の怪…?」
「物の怪はあちこちで生まれ、弱い物の怪は強い物の怪に取り込まれさらに力を強めてく。
世界中…異世界からも集まった霊体のほとんどが物の怪達に取り込まれていった。」
軽く下唇を噛む
「事態を重くみた霊界の住民はこの世界とのパイプラインをつなぎ特定の人間に力を与えた。
それが‘天照の巫女’。」
「天照の巫女?」
「天照の巫女は物の怪を粉砕し霊体に分析出来る唯一の存在。」
「まさか…。」
少女は軽く頷き
「そう…。私が天照の巫女…。」
「ちょっと待って…。
その霊界の住民は何もしないの?」
「彼らは人間界に降りてこれない…。」
「なんで!?」
「均衡が崩れ全てがおわる…。」
「!!」
その【全て】の中にこの世界はもちろん、自分のいた世界も含まれるのだろう。
そう思うと背中に冷たい汗が流れた。
「でも天照の巫女には大いなる力を得る反面失うものもある。」
「失うもの…?」
「除霊、供養が出来なくなる。」
「はあ?なんそれ?」
「除霊、供養は、する者の生命管を通じて行う。
巫女は霊界の力を得て、いわば霊界の住民と同じ。
ただ均衡が崩れないように生命管を始め生体機能の時間を止めるの…。」
(また難しくなってきたな…。)
「つまりぃ~。
物の怪を無力化できるけどその後の供養…。魂を霊界に送ることは出来ないと?」
少女はゆっくり頷いた。
「じゃあ、誰が供養…、
?
!
…まさか…お…俺?」
少女はまた哀しげな表情を浮かべた。
「ムリムリムリ…!
だって俺霊感とか全然無いし、供養とかしたことない!
つーかだいたいなんで俺なわけ!?」
「私と波長が合う者じゃないと…。
さっきは話の途中だったけど、詳しくは物の怪の無力化にもあなたの協力が必要になる。
あなたの生命管を媒体とするから…。」
「こっちの世界で波長が合う奴探せばいいやん!」
「探したよ…。」
「はぁ?どの位?
日本中探した?
日本にいなかったら海外探せば?
だいたいこっちの世界のことやろ?
こっちで解決してよ!」
だんだん口調もきつくなっていく。
「この世界に生きてる人間はもうほとんどいない…。」
「だから見つかるまで探せよ!どの位探したとかって!」
「五百年…。」
「…!」
「正確にはこの世界で百年…。
霊界を通じて異世界で四百年…。
ようやく見つけたんだ…。」
しばし沈黙が続く。
「さっきも言ったけど巫女になると生体機能の時間が止まる…。
だから年もとらないの…。」
さっきまで勢いに任せ攻撃口調で言っていたが、【五百年】という想像を超えた果てしない時間に怒りが消えていった。
五百年…。
多分この少女は1人で生きてきた。
どんな思いだったろう…?
どんなに過酷だったろう…?
そう思うと胸が痛んだ。
「なんでだよ…。」
「え?」
「なんでお前がそこまで背負うんだ?」
まだ、何故見た目自分とさほど変わらない少女がそこまでするのか理解出来ない。
「お母さん…。」
「え…?」
「お母さんのため…。
ちゃんと供養してあげたいから…。」
「物の怪に取り込まれてんのか?」
「うん…。」
「俺…
どうすればいいんだよ…。」
「え?」
「協力ってどうすればいいんだよ…。
ハッキリ言って何も出来ないぞ…。」
「協力…してくれるの?」
「ああ…。」
「ありがとう…。」
少女に笑みがこぼれた。
その頬を濡らしながら。
話が終わる頃焚き火の火が消えそうになった。
翔太が枯れ草を投げ入れようとするとその手を少女が掴んだ。
「消えちゃうよ。」
「いいの。
まずは闇に慣れて…。」
そう言うと少女は焚き火に砂をかけ完全に火を消した。
今夜は雲が厚いのか星はおろか、月さえ出てない。
「おい!何も見えんって。」
返事はない。
目をつぶったかのような真の闇である。
自分が今どっちを向いてるのかも分からない。
急激に恐怖心が芽生えてきた。
「ちょっといきなりは無理って!俺の姿見えてんだろ!
手ぇ貸して!」
悲鳴にも似た声で懇願し手を伸ばした。
しばらく間があったものの手を握り返してくれた。
ほっとしたがまだ恐怖心は消えない。
翔太は話続けた。
「生体機能が停止しても手はあったかいんだな。」
「……。」
「ちょっと座ろうか…。」
「……。」
返事はないが2人ともゆっくり腰掛けた。
「ねぇ、闇に慣れろってどういうこと?」
「物の怪のほとんどは物理的な攻撃は出来ない。
だから心を攻める。」
「えっ?」
「わかりやすく言うと恐怖心を与える。
闇もそのうちのひとつ。
人の心は恐怖心が芽生えると弱くなる。
弱った心は生命管を小さくし物の怪に食べられてしまう。
現にこの世界ではほとんどの人がそうやって命を落とした。」
翔太は焦った。
「ちょっと聞いてないよ!
もしかして除霊って危険なの?
死んだりしない?」
「……。」
「勘弁してよ!そんな危険なら協力なんて…。」
「私が守る!」
言い終えるより先に割って入ってきた。
「絶対に死なせない!」
握られた手に力が入る
翔太は頭を掻いた。
自分と同じ年代の女の子に「守る」と言われちょっと恥ずかしくなっていた。
「ねぇ、物の怪退治って俺どうすればいいの?」
「物の怪に触れてくれたらいいよ。」
さっきとは違って優しい口調だ。
「そしたらあなたの生命管を伝って念を送る。
除霊も同じ…。
触れてくれさえしたら後は私がなんとかするから。」
「そんだけ?」
「うん。
でも物の怪は触れられないようあなたの心を狙ってくる。
物の怪も元は人間。
どうすれば恐怖心を引き出せるか知ってるから…。」
「どんなことしてくるの?」
「分からない。
人の心は弱いからね。いろんな攻め方ができる。」
「そっか…。」
「もう休みましょ。
今日は色々ありすぎてあなたの生命管が弱ってる…。」
「明かりつけていい?じゃないと今日は安心して眠れない。」
「…そうね。」
手を離すと火を付け辺りを明るくした。
「まだ名前聞いてなかったな。」
「華やかに恋って書いて華恋。」
「華恋か…。
俺は…。」
「知ってるよ。
楢崎翔太君。
年は私と同じ17才。」
「へータメなんだ…。
ってかなんで!?
ああー!
ひょっとして俺が感じた視線って!」
「そう、私…。」
「マジかよ…。
あれで俺、どんなに焦ったか!もしかしてチャリのライトも?」
「そう…。
でも分かったでしょ。いかに人間が恐怖に弱いか。
視線3回とライト消灯だけで人は恐怖しパニックに陥る。
実はね、ああしないと翔太君引きずり込めなかったの。」
「どういうこと?」
「翔太君を引きずり込んだあれね。普通の状態の生命管だったら出来ないの。
生命管はその人の気力で大きくも小さくもなる。
生命を守るものだから小さくなればすぐに取り込まれる。」
思わず生唾を飲んだ。
「でも…
クスッ
焦ってる翔太君。
面白かったな。」
華恋の笑顔に翔太も苦笑した。
「あれ?
おま…華恋ちゃん
笑うと可愛いじゃん!」
思わぬ言葉にキョトンとする華恋。
その後頬を赤らめた。
「おっ!照れた顔もいいねぇ。」
「もう!火ぃ消すよ!」
一括するとそっぽを向き横になった。
その姿に翔太は軽く笑みを浮かべ眠りについたのだった。
主です
ちょっと休憩いれます。
ファンタジー書いてみて思ったのですが、世界観を描写すると長めの文章になるので読みやすく会話だけにしたんですがかえって分かりづらかったかもしれません。
しかも内容が少しマニアックな為これまたわかりづらく読者がどう思ってるのか心配です。
読まれた方、良かったら💬下さい。
眩しい朝日に刺激され翔太は目が覚めた。
一瞬自分がどこにいるのか分からなかったが華恋の姿を見てようやく頭が回りだしたようだ。
「おはよう。早いな。」
「おはよう。ゆっくり休めた?」
起きた翔太を見て華恋が近づいてくる。
「翔太君に渡す物がある。」
「渡す物?」
翔太は立ち上がった。
華恋は翔太の手をとりおもむろに自分の胸に押し当てた。
「!?ちょっ…!」
「目、つぶって。」
困惑しながらも言われるがまま目を閉じた。
華恋の胸から手を伝い温かいものが流れてくる。
その度翔太の体にも変化が表れだした。
先程まであった飢えや乾きが消え、疲労や体の節々にあった痛みも消えていく。
今まで感じたことのない不思議な感覚だった。
「もういいよ。」
華恋はそっと手を離し微笑みかける。
翔太は自分に起きた不思議な感覚に戸惑いながらも、華恋が普通の人間でないと再認識させられた。
「何?これ…」
「巫女の力を少し分けてあげたの。
これで翔太君も自然の恩恵を受けられる。
お腹や喉の渇きも満たされたでしょう?」
「うん。
すげぇな。」
「周りを見て。」
「うわあぁぁぁ!」
さっきまで誰もいなかった…、というより人の気配すらしなかったのに無数の人間が表れだした。
生きた人間でないことは翔太にも理解できた。
「供養…してあげて。」
「ぇえ?」
無理もない。初めて目にする【霊】という存在に恐怖心でいっぱいの翔太に供養などできるはずもなかった。
「大丈夫。触れるだけでいい。」
華恋の優しい眼差しに少し落ち着きを取り戻し、深呼吸したあと一番近くの【霊】に歩み寄った。
華恋も後をついてくる。
年は5~60才位の中年男性だろうか、その男の前に立った。
何も言わず陰気に立つその姿は十分に【霊】そのものだった。
恐る恐るその男に手を差し伸べる。
二度、三度躊躇しながらもその【霊】の肩に手を置いた。
するとその【霊】はゆったりと頭を上げ翔太を見ようとする。
目が合いそうになると恐怖で顔を逸らし手を離してしまった。
「恐がらないで。生命管が開かない。」
華恋の方を見る。
「大丈夫。目を合わせてあげて。」
一度空を見上げ、フーッと息を吐くと再び男の肩に手を置き目を合わせる。
華恋が翔太の背中に寄り添った瞬間、パーっと男は光の塵となり消え失せた。
ホッとした瞬間、それを見た他の霊達が一気に翔太の元へよって来る。
「うわあぁ!ちょっと!ちょっと待て!華恋!」
へたり込んだ翔太に華恋は抱きしめ、「大丈夫。この者達も怯えてるだけ。物の怪に取り込まれたくないだけだから。」
ゆっくり立ち上がり再び供養が始まった。
サラリーマン風の男
主婦
おじいちゃん
子供
赤ん坊を抱いた女性
次々と供養していく。
始めのうちこそ怖がっていた翔太も慣れてきたのか、目を合わせるのにも躊躇しなくなってきた。
いや、慣れだけではない。
供養の時に霊達から送り込まれる思念を読み取るうち翔太の中に変化が表れだしたのだ。
最後の霊の供養が終わると
「お疲れ様。」
と華恋が労ってくれた。
「どうしたの?」
翔太は泣いていた。
「感じたんだ…。
感謝や…
無念や…
絶望…
痛み…
悲しみ…
願い…。」
涙を拭い華恋の方を見つめ直した。
「なんで華恋が巫女になったか分かった気がしたよ。」
華恋の微笑みに翔太にも【使命感】が生まれてくるのを感じた。
「あっ。もう一つ渡す物がある。」
そう言うと華恋は人型に切り取られた紙を取り出し、そっと翔太に差し出す。
「何?これ…。」
「浄化導紙」
「浄化導紙?」
「絶対無くさないで大事に持っててね。」
とりあえず受け取ったがどうも腑に落ちない。
「使う時はその浄化導紙が光って教えてくれるから。」
「なるほど…。
ラスボス戦で使うんだな!」
得意げに言った翔太に対して、華恋は悲しい笑みで返すだけだった。
翔太がこの悲しい笑みの本当の意味を知るのは、まだ先のことだった。
「じゃあ、明るいうちに物の怪退治、行きますか!」
少し自信がついたのか、翔太は背伸びをし意気揚々と叫んだ。
「クスッ…。
物の怪は夜にしか現れないよ。」
「へ?」
「言ったでしょ。
物の怪が狙うのは人の心。
恐怖心が心を弱らせる。
闇もそのひとつだって。」
「あぁ…。
そうか…。」
途端に意気消沈してしまった。
「気を付けてね。
物の怪はさっきの人達とはまるで別物よ。」
「ねぇ…。」
「ん?」
「物の怪ってどの位いるの?」
「4た…、5体かな…。」
「え?たった?世界中で?」
「うん…。
しかも今この日本に集中してる。
ある事件がきっかけでね…。」
「ある事件?」
「おいおい話すわ。
行きましょう。」
先を進む華恋に一抹の不安を抱きながらも後を追う翔太だった。
どれ位歩いただろうか、辺りはすっかり暗くなっていた。
ここに来るまでも数体の霊を除霊しながら歩きづくめだったが、疲労は全くなかった。
華恋が言うには、大地や大気から常に活力を得ているため、歩く位では問題ないらしい。
「そろそろね。」
華恋は立ち止まると翔太の方を向いた。
「この先物の怪の領域に入る。いい?」
翔太も既に意を決したらしく力強く頷いた。
華恋が手をかざすとそこから空間に波紋が広がる。
辺りの景色がそれに合わせるかのように歪んだかと思うと、さっきまであった木々や草原が消え、陰気な場所に変わった。
物の怪の領域に足を踏み込むと、空気が一変した。
重苦しい雰囲気、禍々しい気が辺りに充満している。
さっきまで感じとっていた心地よい大地の声も聞こえない。
翔太はあまりもの居心地の悪さに座り込もうとしたが、華恋の心配な顔は見たくないという想いから前を見据え歩を進める。
華恋もそんな翔太を分かってか時折「大丈夫?」と、気使い歩いて行く。
そして、ある廃墟の前に立つ。
「ここか…。」
華恋に言われずとも中から染み出すように出てくる禍々しい気が、ここだと証明している。
まるで別荘のような廃墟。
目を凝らしてもうっすらとしか見えない闇がさらに恐怖心を煽る。
辺りからは虫の声すらせず、自分の鼓動が聞こえるほどの静けさだ。
「翔太君。いい?」
頷く翔太。
だが、翔太は甘くみていた。
物の怪の本当の恐ろしさを…。
玄関口から入る。
ドアはない。
中に入り右手にリビングが見える。
その奥に開けっ放しの扉。
先には階段がみえる。
翔太にも物の怪がどこにいるのかわかっていた。
階段の先。つまり二階だ。
ゴトン!
正解とばかりに二階から物音がした。
(なめやがって!そんなんでビビるとでも思ってんのか!)
怒りは人から恐怖心を無くすという。
今の翔太は戦闘体制十分だった。
翔太は階段の前まで来た。
ギシッ…
ギシッ…
階段の上から足音が聞こえる。
ギシッ…。
ギシッ…。
青白い足が見えた。
足首まである長く白いスカート、だんだんその姿があらわになってくる。
(ようやくお出ましか!)
翔太は思わず握り拳を作っていた。
ギシッ…。
ギシッ…。
翔太は目を見開いた。
降りて来てるのだが顔がまだみえない。
腰のあたりですでに2メートルにたっしていた。
翔太は思わずへたり込んだ。
そのため角度的に胸まで見える。
約3メートル…。
すでに戦闘どころではない。
翔太の心は恐怖心で支配されていた。
ついに頭が見えその姿の全貌が現れた。
体長約4メートル。
白いワンピースを着ており、手足とも血の気がない。
髪は長く乱れていた。
顔の周りに無数の小蠅が飛んで表情を確認できない。
どんどん近づいてくる物の怪に翔太自身血の気が引いていくのを感じていた。
「華恋…。
華恋…?
華恋!」
近くに華恋の姿はない。
そういえば玄関に入った頃から見ていない。
「華恋ー!!」
翔太の叫びも虚しく辺りに響くだけ。
そうしてる間にも物の怪は近づいてくる。
後ずさりする翔太。その時、頭の後ろ、何かにぶつかった感触があった。
「華恋!」
翔太は後ろを向く。
そこにいたのはさっきまで前にいた物の怪。
こしを折り曲げ背中を天井に這わせ、翔太を上から見下ろしていた。
絶望…。
まさにその言葉が当てはまるだろう。
物の怪の顔から徐々に小蠅が離れ素顔が現れる。
顎…
口…。
鼻…。
翔太は悲鳴もない。
恐怖が絶頂を超え、すでに【死】を覚悟していた。
そして目が表れ、その瞼がゆっくり開かれ…
ゴオオオォォォー!!
突風が辺りを撒き散らし、翔太を光が包み込んだ。
翔太が気が付いた時には廃墟の外にいた。
そばには片足をついた華恋の姿がある。
「華恋…。」
求めていた華恋の姿を見た翔太は、深い安堵感から頬を温かいものが流れていた。
「翔太君…。
大丈夫?」
翔太は答えない。
いや、答えることができなかった。
物の怪のあまりもの恐怖にまだ体がすくんでいる。
今自分が泣いてることすら理解してなかった。
華恋は素早く印を結び結界を張る。
そして翔太を抱きしめた。
「ゴメン…。
ゴメンね…。」
しばし時が流れた。
次第に翔太が正気を取り戻す。
「翔太君…。」
翔太は急にムセかえし嘔吐した。
華恋は背中をさする。
「華恋…ゴメン。俺…ダメだった…。」
「謝るのは私の方。
あの物の怪…私が思ってるよりずっと強力だった。」
「このまま逃げれるのか…?」
華恋は目を伏せ首を横に振った。
「ここはすでにあの物の怪の領域にある。
滅せない限り脱出は無理。
今結界を張ってるから私達の姿は見えてない。
…けど、長く持たない。」
「恐えーよ…。
恐くてたまらない…。」
華恋は抱きしめることしか出来なかった。
翔太の精神が限界のとこまできているのを感じながら「もう一度」とは言えなかった。
それからさらに時が流れる。
すると今まで励ましてくれた華恋に変化が起こる。
額からは汗がとめどなく流れ、息づかいも荒くなってきた。
「華恋…どうした?」
「大丈夫…。」
だが、ただ事ではない。
翔太はハッとした。
「この結界のせいか?」
華恋は黙ったまま俯いてる。
「早く解け!」
「ダメ!解いたら見つかっちゃう!」
こんなになるまで自分を守ってくれてる華恋に対して情けなくなってきた。
(出会って今までずっと守ってくれた華恋…。
今度は俺が助けないと!)
翔太は華恋の手を握りしめた。
「俺は大丈夫。だから解いてくれ。」
それでも華恋は結界を解こうとはしない。
「このままじゃ俺達共倒れだ。
今度は大丈夫。俺を信じろ!」
華恋を見つめる強い眼差しに、意を決して結界を…
…
解いた。
「1つ聞きたい。
華恋、さっきどこに行ってたんだ?」
「私はずっとそばにいたよ。
…多分それがあの物の怪の狙い!
孤独からくる恐怖を与えたんだ。」
(くっ…あの野郎…!)
「見つかった。」
華恋がそう言った瞬間、廃墟の前まで引き込まれた。
もう迷ってる暇はない。行くしかなかった。
「私も言っておくことがある。」
翔太がこちらを向く。
「さっき脱出したあれね、式神を使ったの」
「あの突風?」
「そう。
それとあの結界…。
巫女の力は光陽の力を使うの。
光陽は大地や大気からは吸収できない。
」
「じゃあ、どっから?」
「日の光…。
夜明けまでにはまだかなり時間がある。
私にはあとあの物の怪を浄化するのにギリギリの光陽しか残ってない。
今度あんな目にあってもさっきみたいな脱出は二度とできないの。
だから翔太君…。」
『次が本当の一か八か…よ!』
再び廃墟の前に立つ。
そして玄関口に足を踏み入れた瞬間…!
グンッ
また体を引き込まれた。
バタンッ…
翔太は倒れ込む…が、すぐに身を起こし辺りをうかがう。
どうやら今度は寝室のようだ。
目の前にベッドがあり、その上には…ヤツだ…。
今度は普通のサイズだが、変わらぬ姿に先ほどの恐怖が甦る。
首を横に折りながら肩を小刻みに揺らし、
ケタケタケタ…
と、笑っている。
「何がおかしい!」
翔太は睨みつけ叫んだ。
すると笑い声はピタッと止み今度は
コ…ワ…レ…ロ…
男か女かもわからない声が聞こえてきた。
しかも今度は部屋中のあちこちから。
コワレロ…。コワレロ…。コワレロ…。コワレロ…。
辺りを見回すと老若男女様々な顔が現れ、恨めしそうに翔太を睨みつけながら叫んでいた。
恐怖で耳を塞ぐ…が、声は直接脳に響いてるのか意味をなさない。
華恋…。
翔太に不安がよぎる。
前回は歩いてきたが、今回は飛ばされてきた。
華恋の姿が見えないにしろ今この場にいるのか?
まだ探し回ってるのでは?
そう思うと不安で胸が張り裂けそうになる。
不意に体が浮く。
前を見ると、物の怪は巨大な生首に姿をかえていた。
「…!!」
すでに恐怖で声もでない。
物の怪はさらに追い討ちをかけるように、前回と同様顔をあらわにする。
そして瞼がゆっくり…
今度は…
開いた!
ズン!!
なんという禍々しい瞳だろう。
その赤い瞳と目があった瞬間、脳に重い衝撃を受けるのを感じた。
そして場面は変わる…
翔太は闇の中にいた…。
辺りを見回すが誰もいない。
「華恋…。
華恋ー!」
永遠に続く闇なのだろうか、叫び声は反射することなく闇に吸い込まれていった。
翔太は力なく座り込み顔を上げた。
そこにはいつの間にきたのだろう、1人の少女が立っていた。
華恋だ。
「華恋…。」
翔太は安堵の表情で華恋を見上げた。
だが、雰囲気が違っている。
笑ってはいるがいつもの優しい笑みではなく、不気味な感じだ。
その後ろにあの物の怪が現れた。
「華恋!後ろ!」
華恋はくるりと背を向け物の怪にちかずく。
コレ…ガ…コンド…ノ…エサ…カ…?
(餌?何言ってんだよコイツ!?)
「華恋…。お前!」
華恋は男を惑わす悪女のような目で翔太を見つめ、
「ごめんねぇ。翔太君。」
と艶っぽい口調で言うのだった。
「華恋!待てよ!
おい!」
だが、華恋は振り向かずに闇へと消えて行くのだった。
その後を翔太は追いかける…が、体が動かない。
無数の蛇が巻きついていた。
「うぐっ!!」
しかし今恐いのは蛇ではなく、華恋の裏切り。
「華恋!お前最初っから!華恋ー!」
すると物の怪が近づいてきて
オ…マエ…ウル…サイ……ナ…
右手には鉈を持っており、大きく振りかぶる。
「やめろ…。やめろー!!」
ドシュッ
鈍い音と共に翔太の首がはねらた。
急激に薄れていく意識の中、首の無い自分の体を喰らう物の怪が見えた。
翔太は完全に闇に落ちた
…
…ぅ
…が …ぅ
ち… が… …ぅ
「ちがう!!」
翔太は目を見開いた。
目の前にはあの物の怪、場所はあの寝室。
「華恋はここにいる!
ここにいるんだー!!」
物の怪は面食らったかのようにビクッと反応し後ずさる。
気がつくと自分の体に物の怪から伸びた髪の毛が絡まっていた。
「翔太君!」
ふと見ると華恋が必死に髪を引きちぎっていた。
「華恋!俺に触れろ!」
華恋は腕をのばし翔太の背中に手をついた。
まばゆい閃光がはしる。
それと同時に絡まっていた髪の毛が溶け落ちるように浄化されていく。
自由になった翔太が物の怪の首ねっこを掴み叫んだ。
「華恋ー!」
すかさず華恋が翔太の背中に手をかざす。
幾多の魂が浄化され物の怪の頭が吹き飛んだ。
「翔太君!続けて!」
そうなのだ。
物の怪は【霊】や【魂】の集合体。一度の浄化では除霊しきれない。
翔太は両肩を掴み壁に押し付ける。
激しい閃光と共に今度は両腕が吹き飛んだ。
転がっていた生首が起き上がり翔太に向かってきた。
オ…ノ…レー!!
赤い瞳が怪しく光る。
生首の髪が蛇へと変わり翔太に襲いかかってきた。
ガシッ
「無駄だ!もうお前の幻影にはかからない!」
華恋が翔太の背中越しに念をいれる。
頭上半分が消し飛び浄化された。
それからも翔太と華恋は浄化を続けた。
飛び散る肉片1つ1つに念を送り除霊は終わった。
いや、後は残った顔下半分。
翔太はそちらに目を向けた。
そこには5~6才の女の子だろうか、小さく体を縮ませ震えている。
さっと華恋が前に出た。
「多分、この子があの物の怪の根元。」
「この子が!?」
華恋が近くと女の子は立ち上がり寝室を抜け階段を下りていく。
華恋は黙ってそれを見ていた。
「なんで追わない!」
華恋は翔太に振り向き
「大丈夫。あの子はこの屋敷からは出られない。」
と、哀しげな顔で言った。
翔太はムッとした。
(たとえ子供でも俺は殺されかけたんだぞ!)
華恋を振り切りあの子を追うため階段を駆け下りた。
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