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もしも…【運命】

レス270 HIT数 123263 あ+ あ-

唯( ♀ M9mPh )
10/04/10 23:01(更新日時)

もしも…


あの時…



あなたに出逢わなければ…






もしも…


あの時…



あなた達の小さな手を
振り払っていたら…





運命…?



これが運命だというのなら






…私は…













※ある女性の人生を書きます
半分フィクション
半分ノンフィクションです

良ければお付き合いください


意見や感想など
お聞かせできるならば

もしも…意見・感想

までお願い致します

No.1160151 09/05/13 00:56(スレ作成日時)

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No.1 09/05/13 00:58
唯 ( ♀ M9mPh )

私は九州の田舎に産まれた

5人兄妹の末っ子で
兄2人と姉2人が居る


父はとても厳しく
たまに母にも暴力を振るう人だったが
末娘の私には甘く、優しかった


それを知っている私は
ワガママを言って
父や母を困らせたりした


次男の兄も
私の面倒を良く見てくれていた


仕事が忙しい父と母の代わりに
山を降りたところにある病院までおんぶをして連れて行ってくれたりした



その兄に
心配や迷惑をかけることは

今も変わってない



私は身内に恵まれている

No.2 09/05/13 00:59
唯 ( ♀ M9mPh )

中学を卒業した15歳の春

田舎の地元では仕事がない為
県外へ集団就職した



両親と離れるのは初めてで不安もいっぱいだった


だけど
親元を離れる という
“自立”に向かって頑張ろうと思った



ひたすら仕事場と寮を往復する毎日だったけど
稼ぎ先でも友達ができて
充実した日々を送っていた


給料を貰ったら
友達と駅前の商店街へ行き
服やバッグを毎月買った



末っ子の私は
いつも姉のおさがりだった

自分好みの服が着たい


ずっと思ってきた



親の前ではできないような格好もした




すごく嬉しかった

No.3 09/05/13 01:00
唯 ( ♀ M9mPh )

すごく真面目に働いた


始めの頃は
ホームシックや
環境の変化で体調を崩したりもしたけど


仕事は楽しかった



給料で欲しいものを次から次へと買ってしまう私は
貯金は全然できなかった


できなかったと言うより
しなかった


若いから先のことなんて
何も考えてなかった


経済観念0
どんぶり勘定
財布の紐は緩みっぱなし(笑)




それは今でも同じかも(苦笑)

No.4 09/05/13 01:01
唯 ( ♀ M9mPh )

17歳になったばかりの夏


この辺りで有名な祭りへ行った

駅前が歩行者天国になり
ものすごく盛り上がる

前年も行ったけど
これほどの人だかりではなく
びっくりしたけど
友達と楽しく過ごしていた


あまりの人の多さに
友達とはぐれてしまった


探そうにも
どこをどう探せば見つかるのか見当もつかない



…見つからなかったら寮に帰ろう…
帰るとこは一緒なんだし
そう心配することない
もう少し楽しんだら
寮へ帰ろうかな



そう思い
ひとりでブラブラしていた

No.5 09/05/13 01:02
唯 ( ♀ M9mPh )

だいぶ歩いたけど
一緒に来た友達は見つからない


もしかしたら
もう寮に帰ってるかも…
私も帰ろうかな



そう思いながらも
人の少ないところで
立ち止まって人の流れを見ていた




それにしてもすごい人
こんな数の人の中に居ると
自分が消えてしまうんじゃないか
って思っちゃう

久々のホームシックか!?(笑)
寮に帰ろっと



足を一歩出すと

「男とはぐれたのか?」


知らない男たちに声をかけられた

No.6 09/05/13 01:03
唯 ( ♀ M9mPh )

えっ…何…?


「さっきからずっとそこに居たじゃん」



怖いな…何だろ…



『友達とはぐれちゃって…』


無視するのもアレだから
とりあえず答えた



「だったら俺たちと遊ばない?」



…!

“ナンパ”てやつ?
初めてナンパされたから
どうあしらっていいかわからない



『もうこれから帰ろうとしてたから…』



「歩いて帰るのか?
家近いの?」



『会社の寮に入ってるの…歩いて10分くらいです』



「あそこの大きな工場!?工場で働いてんだ!
じゃあ寮まで送ってくよ」

何で知らない人と…



『いいです…じゃあ』



「待って!明日もここ来る?」


この祭りは3日間やってて、この日は2日目だった
明日来る予定はない


『来ません…』



そう言って歩き出した

No.7 09/05/13 01:04
唯 ( ♀ M9mPh )

「俺、寮まで迎えに行くから一緒に祭りを廻ろう!」

だから 何で知らない人と?



聞こえないフリをして
そのままスタスタ歩いていたら


「6時に行くからな~」



後ろから大きな声で言われた




…何なの一体…


なんだか ドッ と疲れた

寮へ帰ると友達も帰ってきていて安心した



お風呂に入り
布団の中で
さっきの男のことを
友達に話した

No.8 09/05/13 01:05
唯 ( ♀ M9mPh )

「うそっ!すごぉい♪
で、どうするの?」


どうしようかな…
あ~あ…
なんで寮のこと言っちゃったんだろ…


『わかんない!明日の気分で決めるよ』



どーせ冗談だろうし
真剣に考える方がバカだよね

そう思いながら寝た




でも正直
ちょっとだけ期待していた

ちょっとだけ(笑)

No.9 09/05/13 01:06
唯 ( ♀ M9mPh )

次の日

私は5時くらいから
そわそわしてた


やっぱり気になる


「今日はどうするの?
昨日の人とお祭り行ってくるの?」


友達に聞かれて即答した


『わかんない!』



とか言いつつ
化粧はバッチリ(笑)

行く気満々じゃん私(笑)


なんとなく
友達には気恥ずかしった

素直に“楽しみっ♪”て顔は見られたくなかった


しぶしぶって感じで

『まぁほんとかどうか
わかんないけど行ってくるよ!』


そう言って

だんだん人が集まってきた祭り会場と寮の中間地点のとこで
昨日の男を待った

No.10 09/05/13 01:07
唯 ( ♀ M9mPh )

しばらく待つと
昨日の男がやってきた


…あ
ほんとに来た



「ここで待ってたのか?
寮まで迎えに行くのに」



来たはいいけど何話そう…


「名前は?」


『エリ』


「俺はゼン!歳は21!
エリは?」



…4つ年上なんだ

よく見ると 二重できりっとしてて
まつげ長~い…
男前だなぁ…
背は170㎝くらいかな


まじまじと見てると
ゼンと目が合った



恥ずかしくて下を向いた

No.11 09/05/13 01:09
唯 ( ♀ M9mPh )

ゼンといろんな話をした


私と同じ末っ子で
お兄さんが1人とお姉さんが2人の4人兄弟


ゼンも地方出身で
兄弟全員こっちに居るから自分もこっちに出てきたらしい


仕事は鳶職
昨日一緒に居た人たちは
仕事仲間で
休日や雨の日で仕事のない日はいつもつるんでる



仕事の話をしたあと


「俺はこんな感じ!
俺の彼女になって!」


いきなり言われた

なんだこの流れ(笑)



今まで彼氏が居た経験がないから
彼氏とか彼女とか
付き合うとか
よくわからない…


とりあえず なんとなく


『うん いいよ』



そう返事した




ゼンと出逢ったことで
私の人生が大きく変わるなんて


この時は思ってもなかった

No.12 09/05/13 01:10
唯 ( ♀ M9mPh )

ゼンとは喧嘩もしたけど
順調に付き合っていた


1年経とうとした頃


私は妊娠した


どうしよう…
とにかくゼンに報告しなきゃ…


赤ちゃん…


17歳の私は
喜びより不安の方が大きかった


子供の私に
母親になることができるのかな


まだ
母親にお金やいろんなものを仕送りしともらってる私に

母親になることができるのかな…

No.13 09/05/13 01:12
唯 ( ♀ M9mPh )

日曜日
ゼンに話した


「結婚しよう!」


えっ…



「これからエリん家に挨拶しに行くぞ!
着替えてから行くから俺ん家行くぞ~」



『不安とかないの…?』



「何の?」



…何のって…



「俺たちの子供だろ!」




ゼンに話すまで
ひとりで悩んだ

押し潰されそうになるまで悩んできた


その不安が
ゼンの言葉で全部なくなった



『うん!』




車で6時間かけて
私の実家へ行った


ゼンのスーツ姿…


あんまり似合ってなかった(笑)

No.14 09/05/13 01:13
唯 ( ♀ M9mPh )

「娘さんをください!」



ゼンは父ちゃんにどつかれた

次男の兄ちゃんにもぼろくそ言われた

母ちゃんは泣いていた



兄ちゃんも姉ちゃんも
親が決めた相手と結婚していた
子供はみんなまだだった


末っ子の私が
17歳できちゃった結婚


両親と兄姉にとっては
あり得ない話だった



出産も結婚も許されることはなかった


それでもゼンは最後まで頭を下げていた



私は勘当された

No.15 09/05/13 01:14
唯 ( ♀ M9mPh )

どうでもいいよ

私は私の人生を歩むから



ゼンの子を産む決意をしたからには
後にはひけない


周りにどんな白い目で見られても関係ない


幸せになる



この時はそう思った




…うちの親は理解してくれなかった…


ゼンの親は
どう言うだろう…



ゼンの親元は
私の家から3時間


遅くなるから日を改めて

と思っていたら


「話があるから帰るぞ!
夜には着く」


公衆電話から電話をかけてた



さすがゼン

善は急げ だ(笑)

No.16 09/05/13 01:15
唯 ( ♀ M9mPh )

ゼンの両親の話は
ゼンから聞いたことがある


父親がかなりの亭主関白で

それをさらりとあしらってる母親


すごく興味深い(笑)



『前にも聞いたけど
ゼンのお父さんってどんな感じなの?』

挨拶へ行く車の中で
詳しく聞いた



暴力暴言は当たり前
ちゃぶ台をひっくり返す
食事中、咳をしただけでご飯を下げられる
気に入らないことがあれば裸で正座
自分はやりたい放題
浮気は日常茶飯事で家にも連れてくる


俺はそれを見て育った


ゼンは笑いながら話してくれた



いや 全然笑えないから

嘘でしょ?
嘘であってほしい…


ゼンが明るく話すから
私は半信半疑で聞いていた


『…結婚…許してくれるかなぁ…』


ポソっとひとりごとを呟いた

No.17 09/05/13 01:17
唯 ( ♀ M9mPh )

ゼンの家に着いた


一日中運転しっぱなしのゼンは
疲れてかなり苛立っていたけど
どうにかなだめた


玄関をあけて

「おーい!帰った…」


そうゼンが言ったと同時に

「何しに帰ってきた!
また金か!?借金でも作ってきたんか!
このゴクタレが!!!」


持っている棒を
ゼンに振りかざしながら
怒鳴り付けられた




…お父さん…

さっきの話はほんとだ…
絶対ほんとだ……


「金じゃねぇよ!
結婚したい女連れてきた!」


こんなに焦ってるゼンは見たことない
焦って当然だけど(笑)




「あ゙ぁっ!?」



今視界に入ったらしい(笑)



『…初めまして。清原エリです…夜分遅くにすみません』





私はこの出来事を一生忘れないだろう(笑)

No.18 09/05/13 01:17
唯 ( ♀ M9mPh )

失礼な話だけど

ゼンのお父さんに何をされるかわからないから

ずっとお腹をかばって
座っていた



ゼンのお母さんは
優しそうな人
きれいな人なのにおしゃれもせず
質素な格好をしていた



「さっきも言ったけど
俺、エリと結婚するわ!」


ゼンが言った

私も

『お願いします』


頭を下げた



ドキドキする…
なんて言われるか…
もしかしたら殴られるかも…



沈黙が流れた


…やっぱりダメかな…



ずっと下げていた頭をあげた



お父さんと目が合った…

No.19 09/05/13 01:18
唯 ( ♀ M9mPh )

「ええぞ!この娘と結婚しろ!」



えっ…

ほんと?



ゼンの方を見ると
私以上に驚いた顔をしていた



「ええんか!?エリと結婚してもええんか!??」


ゼンがお父さんに聞いた



「おぉ~!エリと結婚しろ!エリは今日からわしの娘じゃ!」



信じられない…

でも嬉しい!!



『ありがとうございます!』



「ゼンをよろしくお願いします」

そう言って頭を下げてくれたお母さんも
優しい笑顔をしていた

No.20 09/05/13 14:55
唯 ( ♀ M9mPh )

もう夜も遅いし
次の日は日曜日で仕事休みだし
ゼンの家に一泊させてもらうことになった


お酒を飲みながら
お父さんとゼンが盛り上がっていた


お父さんから
ゼンの話をたくさん聞いた


ゼンが“結婚する”と言って連れてきたのは
私が初めてではないらしい


何人も連れてきては

全員お父さんが反対したらしい



ゼンが結婚を考えた女が今まで何人も居た

というのはショックだったけど



それ以上に

ゼンのお父さんが私との結婚を
一度の挨拶で認めてくれたことが嬉しかった



…てゆうかゼン
プロポーズしすぎだろ(笑)

No.21 09/05/14 08:16
唯 ( ♀ M9mPh )

帰ってすぐに婚姻届を出して

私たちは夫婦になった


私は仕事を辞めて
寮を出て

ゼンが住むアパートへ引っ越した


そこの近くに
ゼンのお姉さんが経営してる喫茶店があった

私はそこで仕事をすることになった



しばらくは穏やかな日々が続いた


順調に愛を育んで
お腹の赤ちゃんも順調に育って

つわりもなにもなく
幸せな毎日だった



妊娠8ヶ月の時


ゼンが仕事中に怪我をした

足を骨折して
入院を余儀なくされた

仕事中だったから労災は下りる
お金の心配はなかった



心配だったのは

ゼンが病院側に対する
常識のない態度


大部屋なのに
仕事仲間や連れを呼んで
騒いだり

担当の先生には
わがまま 暴言


私は毎日頭を下げてまわった



ある日 病院側もゼンが厄介になり

足も治ってないのに
“迷惑なので退院してください”
と言われた時は

ゼンは怒り狂うし大変だった


それでもなんとか頭を下げ

完治するまで診てもらった

No.22 09/05/14 10:13
唯 ( ♀ M9mPh )

鳶職は雨の日は休みだし
月の収入が決まってなかった

私は生活の為に
妊娠9ヶ月まで
喫茶店の仕事を頑張った

ゼンのお姉さんのところだったから融通も利いて働きやすかったけど

体はちょっとしんどかった

ゼンがギャンブルをするから
稼いでも稼いでも
生活は苦しかった



助産師さんに来て貰い
自宅出産することになった


2月20日の朝陣痛が来て

夜に元気な男の子を出産した



名前は


タケル



私によく似た赤ちゃん




可愛い…
愛しい…


私は母親になった

No.23 09/05/15 00:18
唯 ( ♀ M9mPh )

タケルが産まれた時に
ゼンは居なかった


とっくに仕事は終わってる時間なのに…


さっきまでは
陣痛のハンパない痛さで考える余裕はなかったけど

なんで帰ってこないんだろう…



タケルを出産してから数時間後…
ゼンが帰ってきた



私は寝ていて
気づいた時には隣で寝てた


朝 陣痛がきていることを知って
ゼンは仕事に行った


なんで帰ってこれなかったの?


なんでそばに居てくれなかったの?





ゼンからはお酒の臭いがした

No.24 09/05/15 00:20
唯 ( ♀ M9mPh )

次の日の朝


「よく頑張ったな!」


私より先に起きていたゼンが 超笑顔で言ってきた


『昨日何してたの?』



そう聞くと


「連れと麻雀してた」



…麻雀…

私はため息が出た


『朝、陣痛がきたから夜までには産まれるかもって言ったでしょ?』



「すまん すまん!」



『済まないよ!普通帰ってくるでしょ?私が勝手に産んでるの!?』



「まぁそう怒るな!誘われたから断れなかった」



私はそれ以上何も言わなかった



私が 痛さと不安の中に居た時
ゼンは酒飲んで賭け事してたなんて…
しかも悪びれた様子ないし


無事産まれたから良かった
それだけでいい…


そう自分に言い聞かせた

No.25 09/05/15 00:21
唯 ( ♀ M9mPh )

助産師さんが作ってくれた
しじみの味噌汁や
栄養バランスのいい食事で
母乳の出は良かった



ゼンは父親になったにも関わらず
平気で遊び歩いていた

午前様は当たり前だった



ゼンの金遣いでは
ゼンの給料だけでは生活が苦しく

タケルが2ヶ月になった頃

私も仕事復帰した


喫茶店をしている
ゼンのお姉さんが糸巻き工事を作ったから
私はそこで働くことにした


2ヶ月のタケルを連れて


私が糸巻きをしている横で寝かせて

母乳をあげながら
オムツを替えながら
仕事をした


これも生活の為


苦じゃないといえば嘘になるけど

必死で仕事をした

No.26 09/05/15 09:16
唯 ( ♀ M9mPh )

ゼンより早く起きて
朝ごはんとお弁当を作り
仕事に行くゼンを見送り
掃除をして
自分も仕事に行って
仕事終わって家に帰り
おかずを2品以上のご飯を作り
お風呂の準備をしながら
ゼンの布団のシーツと布オムツにアイロンをかけて
ゼンが帰宅次第ご飯を食べ
ゼンが眠りについた後
洗濯や台所の片付けをする
すべて終わり次第
私は横になる
3時間起きに起きる
タケルの世話をしながら
睡眠をとる




ゼンは惣菜や店屋物が嫌いで おかずは全部手作り

家事や育児は一切しない

気に入らなければ
暴言暴力 飛ぶ茶碗



そんな生活が続いた

No.27 09/05/15 20:40
唯 ( ♀ M9mPh )

タケルがもうすぐ1歳になる頃

私は糸巻きの機械に

利き手の右手中指を巻き込まれた


痛い どころではない


他の従業員にタケルを預け

お義姉さんに病院へ連れて行ってもらった

私はただタケルのことが心配だった…



『タケルに…
タケルに乳あげなくちゃ…
タケルに乳あげなくちゃ…』



「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」



痛い
痛い…
わけがわからないくらい
手が痛い


…タケル…


…お腹空いてない‥?






19歳の冬

私の右手中指は無くなった

No.28 09/05/15 20:51
唯 ( ♀ M9mPh )

手術が終わった頃

仕事中のゼンが血相変えて来た



「エリ!大丈夫か!?」



『ゼン!タケルは!?』



「タケルはまだ見てもらってるから…それよりお前は大丈夫なのか?手は!?」



『…中指…無くなっちゃった…』



私はゼンの胸で泣いた



「すまんな…お前に無理させてた俺が悪い…
すまんなぁ…ほんとにすまんなぁ…」


首を横に振りながら
泣き続けた


ゼンは 優しく背中を撫でていてくれた…


私が泣き止むまで

ずっと…

No.29 09/05/15 21:15
唯 ( ♀ M9mPh )

手が使えるようになるまでの間

しばらくお義姉さんのところでお世話になることになった


ゼンとお義姉さんは
すごく仲が良くて

普段からよく
お義姉さんちで夕食を済ませて帰ってきていた



お義姉さんにも
子供が2人居て
タケルとまとめて3人
お風呂に入れてもらったりした



怪我を機に
タケルを断乳させて
牛乳を温めてあげた

最初は泣いて
乳を欲しがったけど


こうするしかなかった



タケルのことも
ゼンのことも
すべてに手を貸してくれたお義姉さんには本当に感謝した



手も良くなり

私たちは自分たちのアパートへ帰った

No.30 09/05/16 12:43
唯 ( ♀ M9mPh )

ゼンは単身赴任をすると言った

帰ってくるのは

1ヶ月に1度か
3ヶ月に1度か
半年に1度か

それはわからないけど
私が仕事をできない状況の今は
俺が頑張る

そうゆうことだと思う



正直
一緒に暮らしていても
満足に何かをしてあげられるわけでもない
タケルの世話で手一杯

そんな状態だったから


単身赴任=ゼンのことをしなくていい


ホッとした


手を怪我してからは
暴力とかなくなったけど
またいつ始まるかわからない
機嫌を損ねない為に
気を使わなければいけない

だからゼンが単身赴任すると言った時は

申し訳なさそうに言うゼンを尻目に

私は嬉しかった

No.31 09/05/16 12:53
唯 ( ♀ M9mPh )

タケルと2人の生活が始まった


タケルの世話をして
家事をして
テレビを見てご飯を食べる

ゼンが居る時は
チャンネル権はゼンにあったし
仕事や家事に追われて
好きなテレビすら見れなかった


こんなにゆっくりするのは久し振り

15歳の時からのことを思い浮かべ

やっぱり妊娠中が
心身共に一番辛かったなぁ…


しばらくゆっくりしよう…

No.32 09/05/16 13:07
唯 ( ♀ M9mPh )

怪我をしてから3ヶ月
ゆっくりもしてられないなぁと思い
仕事をすることにした


まだ小さいタケルを保育園に入れるのはかわいそうと思い
内職をすることにした


ゼンは1ヶ月に1度帰ってきては
生活に充分なお金を置いていった

だけど
ゼンひとりに大変な思いをさせたくないし
ゆっくりすることに慣れていない私は何かをしていたかった


内職は洋服のボタン付け

右手のいいリハビリにもなった

微々たる収入だったが
タケルが寝ている時に
コツコツやった

No.33 09/05/16 13:24
唯 ( ♀ M9mPh )

タケルが1歳半を過ぎた頃

1ヶ月振りに帰ってきたゼンが言った



「仕事が忙しくなるから
半年くらい帰ってこれない。金は前借りしてきたから、俺が帰ってくるまでなんとかもたせてくれ!」


机の上に
いつも持って帰ってくる3倍のお金を
ボンと置いた



「足りなくなったら
姉ちゃんに世話になれ!
姉ちゃんには話しておくから」



…半年…

確かにゼンが居る時は気が休まらない

だけどここ半年間は
月1だから全然楽だった


毎日帰ってくるのもキツイけど

次に会うのは半年後…


寂しいよ…



でも
これも生活の為

寂しいとかぬるいことは言ってられない



『無理しないでね』



ゼンを送り出した

No.34 09/05/16 14:37
唯 ( ♀ M9mPh )

タケルの2歳の誕生日を
私とタケル、2人で祝った

あれから半年経つ…

もうすぐゼンが仕事から帰ってくる

毎日
仕事無理してないかな
ちゃんとご飯食べてるかな
ちゃんと寝てるかな


心配したけど
連絡がないのは無事に生きてる証拠と思い

タケルと2人で慎ましく生活してきた



しばらくして

ゼンが帰ってきた



「お~い!」


タケルを抱っこして
足早にゼンの居る玄関へむかう



『おかえりなさい!』



…!?



ゼン…?





家に帰ってきたゼンは

産まれたばかりの赤ちゃんを抱いていた

No.35 09/05/16 15:20
唯 ( ♀ M9mPh )

『え…赤ちゃん…?
どうしたの…?』


なんか嫌な予感がした


「エリ…こいつ育ててくれ!」



『えぇ!?何?何なの?
誰の子なの?』



返ってきたのは
信じられない言葉



「…俺の子」




ゼンは赴任先で女を作って

子供を作った

そして
子供を産ませた


相手は高校生
休学させて産ませた

帰ってこれないと言った半年間、その女と暮らしていた


女の親に
娘に関わるな
子供を連れていけと言われた



最後に

「お前にしか頼めない」






この人は何を言ってるの?



生後1ヶ月にもならない
赤ちゃん

なんの罪もない赤ちゃん



ゼンそっくりの男の子










私はただ


ただ泣くしかなかった

No.36 09/05/16 16:01
唯 ( ♀ M9mPh )

仕事で帰れないと嘘を付き
妻と息子をほったらかして


半年振りに帰ってきたと思ったら
他の女に産ませた子供を連れて


お前が見ろ?

俺の子だから
妻が見るのが当然?




冗談じゃない




次の日

髪の毛が大量に抜け落ちた


私は円形脱毛症になった




元の鳶職に戻らせてもらうことになったゼンは
朝早く仕事へ出た



我が子のタケルと


他の女がひと月前に産んだ我が夫の子、トモ


そして
自慢のロングの髪が抜け落ちた私



四畳半のアパートに
残された3人…



私の思考は停止した

No.37 09/05/16 23:54
唯 ( ♀ M9mPh )

私はゼンに
離婚話を持ちかけた



トモを育てるのは無理だと
はっきり言った


ゼンから出てきた言葉は
謝罪でもなんでもなく


「俺の子が見れないなら
お前だけ出て行け!」



もうどうでもよくなった

何も考えることができなくなった

考えることをしたくなかった

思考停止状態のままで
すべてから逃げたくなった



次の日の早朝

ゼンが寝てる間に家を出た

荷物を持ち






タケルを置いて…

No.38 09/05/17 00:04
唯 ( ♀ M9mPh )

私は九州へ帰った


長く揺られた電車の中で

ゼンのことを想う気持ちはなかった


我が子のタケルのことさえも…




家を出た私


想っているのは自分のことだけ


夫の裏切りを許すことができない女


一時の感情で
2歳の我が子を捨てる女



妻と母親を放棄し






なんの価値もない人間になった

No.39 09/05/17 00:35
唯 ( ♀ M9mPh )

実家へ帰り
事情を全部話した


母ちゃんは

「離婚しなさい」


そう言った


子供を置いてきた私を
誰も責めなかった


誰も責めない私を
自分自身で責めた



ようやく自分のしたことがわかってきた




母乳こそやってないものの

まだ手のかかる2歳のタケル

タケルにとって父親のゼンは

“たまに家に来るおっちゃん”

くらいにしか思ってないだろう

オムツを替えたことも
抱っこすらしたことのないゼンに

タケルの世話ができるわけない



急にとてつもない不安に襲われた



あの子は…トモは…

ミルク、飲んだかなぁ…


トモのことも心配になってきた

No.40 09/05/17 20:21
唯 ( ♀ M9mPh )

私は戻った


ゼンと

タケルと

トモの元へ…



アパートへ帰ると
ゼンとお義姉さん2人が居た


タケルはすぐ私に
飛び付いてきた


涙が溢れた


私 どうかしてた

自分の子供を捨てるなんて…

そんなこと誰も許してはくれない

なにより私が私を許せない


タケル…


ごめんね…





もう離さない

タケルを離さないよ

No.41 09/05/18 05:15
唯 ( ♀ M9mPh )

「何しに帰ってきた!?」


そう罵倒するゼンに
私は土下座して謝った


蹴られて
髪の毛を捕まれ引きずられて外へ放り出されても
謝り続けた


私はタケルと一緒に居たい

母親で居たい


必死で謝った


やっと会えた母ちゃんが
また目の前から居なくなって
タケルは家の中で泣き叫んでる



タケル…

タケル…




お義姉さんが仲裁に入ってくれて

なんとか許してもらった

No.42 09/05/18 12:33
唯 ( ♀ M9mPh )

「ゼン!外で勝手に女作って子供産ませて、その子供を連れて帰ってきておいて、よくエリちゃんを責められるね!?
そんなにエリちゃんが気に入らないなら
あんたが出て行きな!!」



お義姉さんが私の代わりにブチキレてくれた



それでゼンの怒りはおさまり

逆に

「悪かったな」

と謝ってきた



「お前に頼むことじゃないかもしれないけど
トモは俺の子‥タケルの弟だ。俺とエリの子供としてトモを育てて欲しい。
本当に悪かった!!」



改めて真剣に謝ってくれた

だから私は


ゼンの為

タケルの為

トモの為



そして自分の為にも

ここで頑張ることを決めた

No.43 09/05/18 12:48
唯 ( ♀ M9mPh )

それからすぐ

ゼンの実家で暮らすことになった

ゼンの実家は海の町


「漁船の仕事をするからついてこい!」



また単身赴任して
女を作られるのは困るし
住んでいるアパートを解約して
ゼンについていった



お義父さんとお義母さんは同居をすごく喜んでくれた


「半年世話になるぞ!」


そう言ったゼンに
お義父さんが言った


「半年経ったらお前だけどこかへ行け!
エリは俺の娘だ。お前とは離婚させて、また嫁に出す。なっ!エリ!」



ここまで言ってくれるお義父さんに感謝した

お義姉さんにしろ
お義父さんにしろ


私の味方をしてくれて
本当に嬉しかった



どんなことにでも
耐えていける



そう思うことができた

No.44 09/05/18 13:03
唯 ( ♀ M9mPh )

同居生活は
気も使うけど大事にされていたから苦痛じゃなかった

私の服が少ないから

お義母さんが服を貸してくれたりした


20歳の私が60歳近くのおばあさんの服を着た



当時の写真を見ると


よくこんな格好してたなぁ…

と思う


背に腹は代えられないし
お義母さんの手前
着るしかなかった



ありがたい気持ちも
もちろんあったけど、恥ずかしくて外を歩くのも嫌だったのを思い出す



…なんて

そんなこと言っちゃダメだよね…

No.45 09/05/18 13:13
唯 ( ♀ M9mPh )

「お~い!エリ~!」



昼寝をしていたお義父さんが起きて
庭の草むしりをしている私を呼んでる


傍に行くとおでこから血が出てる



『おじいさんどうしたの!?』


慌てて聞くと



「タケルがミニカーのおもちゃで殴ってきたんじゃ~」



タケルを見ると
凶器のおもちゃで遊んでいた(笑)



『ごめんねおじいさん!』


そう言いながら
正直笑いをこらえるのに必死だった(笑)

No.46 09/05/18 13:19
唯 ( ♀ M9mPh )

トモのことも

私と血は繋がってないけど

タケルの弟として
一生懸命育てた


夫のゼンが
外で勝手に作った子供だけど

憎いとは感じなかった


子供には何の罪もないから…



いつしか

自分の子供として見ることができてきた



タケルも
トモも


私が産んだ子供




2人を分け隔てなく育てた

これは
今でも自信を持って言えること…

No.47 09/05/18 14:04
唯 ( ♀ M9mPh )

半年の予定が1年に延長された

妻として嫁として母として自分なりに頑張った



ある日

お義母さんが脳梗塞で亡くなった



お義父さんは


「俺より先に死にやがって…!お前は…」


そう言った後
泣き崩れた


「最期まで苦労させた…
謝ることも償うこともできなかった…悪かったなぁ…許してくれ……
………ありがとう……」



初めて見る
お義父さんの弱い姿



誰もが声をかけることもできずに


みんなで泣いた



どんなに辛い思いをしても
愚痴ひとつ言わず
みんなに笑顔を振りまき
夫と子供を守り抜いた
お義母さん


それがお義母さんの
幸せだったんだよね…



お義母さんの生き様を
心にやきつけた

No.48 09/05/18 21:58
唯 ( ♀ M9mPh )

お義母さんの四十九日を終え

私たちは戻った


お義姉さんが
私たちの住むアパートを用意してくれていた


風呂がついてないが
安いアパートだった


そこで家族4人の生活が始まった



ゼンはペンキ屋をひらいた

多額の借金ができた



私も働かなくてはならない状況になり

3歳のタケルと
1歳のトモを 保育園に預けることにした


またお義姉さんの喫茶店で働かせてもらった


掛け持ちで
ミシン踏みの内職もした



働けど 働けど
生活は苦しい


生活と
借金返済の為の労働


平均睡眠時間は4時間
寝る暇なんてなかった



ゼンがペンキ屋の若い衆を
毎日のように家へ連れてきては 飲む 打つ 食べる



生活は厳しくなる一方だった

No.49 09/05/18 23:24
唯 ( ♀ M9mPh )

ある日


「すげぇだろ!」


ゼンが得意気に見せてきた左腕には


エリ


タトゥーが入っていた



『なにそれ(笑)』



ちょっと嬉しかった

私への愛を示してくれてるみたいで
幸せを感じた



その後すぐ

ゼンの浮気が発覚した


また女を作って帰ってこなくなった

No.50 09/05/18 23:27
唯 ( ♀ M9mPh )

タトゥーのこともあり
安心していたのに…



言葉も出なかった



毎日毎日
妻としてゼンと職場の若い衆への気配り
母として子育てして
寝る時間がないくらい仕事して…

私のやっていることは
当たり前なのかもしれないけど

家族の為に一生懸命やってる




その間にゼンは何してるの?
そんな暇があるなら
仕事増やして借金減らそうと思わない?
なんでそんなことができるの?




…どうして…?

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