注目の話題
私が悪いのですが、新入社員に腹が立ちます。
いじめなのか本当に息子が悪いのか
私の人生観、おかしいですか?(長いです)

地獄に咲く花

レス409 HIT数 62901 あ+ あ-

ARIS( 10代 ♀ yhoUh )
13/11/10 23:01(更新日時)

地球温暖化が進んで人類滅亡も近い世界での、ある子供達の物語。

13/03/21 00:30 追記
※このスレッドは前編となっています。中、後編は以下のURLよりお入り下さい。

中編
http://mikle.jp/thread/1242703/

後編
http://mikle.jp/thread/1800698/

尚、このスレッドはレス263よりサイドストーリーとなっております。もし中、後編を御覧になる場合はこちらも読むことをお勧め致します。

タグ

No.1159506 09/04/12 20:55(スレ作成日時)

投稿順
新着順
主のみ
付箋

No.1 09/04/12 21:01
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

ただ思い付いたまま書く適当な小説です。
誹謗中傷はお断りです。
適当なのでいろいろ矛盾や間違いがあると思います。更新も定期的ではないと予想されますが、広い心でちらりと見て欲しいです…。
それでは、始めます。

No.2 09/04/12 21:35
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

長い時が地球に流れた。人類は地球を汚染し続け、今となってはほとんど地球は死にかけていた。陸の七割は砂漠化。海も有機物で汚染されていた。異常気象によって、作物も育たない。食べることも、水を飲むこともままならない。そのため、生きているのは約63億人の中のほんの一握りだけだった。

その一握りの人々はその最悪の環境の中で必死に生きていた。今地上にある『国』の数は、ほとんどの土地が砂漠化したため、数えることが出来るほどしかない。
だが時がたつ分『国』一つ一つの技術は発達していた。
一つの『国』の領域…直径100㎞の土地は透明なドームに覆われていた。
紫外線遮断フィールドだ。
オゾン層が破壊され、人体に有害な大量の紫外線が降り注ぐ中、その『国』はフィールドによって守られているのだ。

ドームの中の小さな国でただ生きることだけを考えて、人々は生きていた。

No.3 09/04/13 00:32
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

円形の『国』の内部は円の中心に近い上層部と、端のほうの下層部に分かれている。
上層部にはビルが集中的に立っており、人が存在するような雰囲気を出していた。
一方、下層部は砂の地面の上に今にも崩れそうな古い建築物や家、もしくはテントが並んで立っている。そこには乾いた熱い風が通りすぎるだけで、ほとんどの区域は静寂に支配されていた。そこに住む人々が大概日々悪化する環境に怯え、上層部からの配給の時間以外を建物の中でじっとして過ごすためだろう。

…朝6時

時計台の鐘が鳴り響く。暗闇の中にあった『国』が、少しずつ太陽の光を浴びて、明るくなってきた。

それは、下層部での出来事だった。
朝の静けさの中、いりくんだ裏道を走る人影があった。
「…はぁっ…はぁ!」息を切らしながら必死に走る、スーツの男性がいた。
そして、それを突風のような猛スピードで追う人影がある。
男性は必死に逃げるうちに、小さな廃ビルへ追い詰められた。

「はぁ……はぁ…なんて…スピードで…追ってくるんだかなぁ……はぁ…はぁ。」

暗い部屋に射し込む入口からの光を背に、男を追っていた人影が立ち塞がる。全く疲れている様子はない。

No.4 09/04/13 00:50
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

人影は十代半ばの少年だ。比較的小柄な体格で、白いパーカーにジーンズを着るだけという簡素な服装をしていた。髪は黒く、整った顔立ちは限りなく無表情。男を真っ直ぐ見つめるその目の色は闇そのものだった。そしてその両手には2本の、柄が長い鎖で繋がっている長身の剣が握られている。口を開く。

「ダニエル・ブライト。国からの依頼により…消去する。」
かなり淡々とした口調で。男に最低限聞こえる音量で言った。
「………ふぅ……」
ダニエルという男は手を膝につくのをやめた。
「……こうなることは…覚悟していたさ。……だがな…まだ死ぬわけにはいかないんだよ。」
ダニエルは汗を滴らせた顔に笑みを浮かべると、胸ポケットから拳銃を取り出す。
同時に少年は2本の剣をすっと構えた。
「……来いよ…殺し屋。出来るだけ………足掻いてやるさ。」


その言葉が終わった後7、8秒廃ビルに銃声が響いたが、その後は何も聞こえなくなった。

No.5 09/04/13 21:20
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

血が飛び散っていた。部屋の隅で赤い泉を作っているのはダニエル・ブライトだった。

返り血を浴びた少年はポケットから携帯を取り出した。そして番号を打ち、耳に携帯を当てる。

「……ロイ。今、終わった。………。ああ。予定どうり、すぐ戻る。」
そう言ったあとすぐに電話を切る。

同時刻。
あるところにある薄暗い部屋でのことだった。そこはテーブルと向かい合った一組の椅子があるだけの殺風景な場所だった。
椅子に座ってテーブルごしに向かい合う人間が2人いる。1人は目隠しをされたスーツの男だった。ずっとうつむいたままだった。
もう一方はボロボロな大きいローブをまとっている。フードは深く被っているので顔は見えないが、体は小さくまだ大人ではないことが分かる。
ローブの人物は頬杖をつきながら沈黙を守っている。
すると、ピリリリ…という電話の着信音が鳴った。スーツの男はその音に体をビクッと強張らせる。
ローブの人物はポケットからけたたましい音を立てる携帯を取り出すと、電話に出た。

「ジュエル。終わったか?………じゃあ後は予定どうりに。…。」携帯をパタンと閉じる。そしてうつむくスーツの男に言う。

「今。終わったそうです。」

No.6 09/04/13 21:59
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

その言葉を聞いた男は、さらにがっくりとうなだれる。そしてわなわなと震え始めた。
「……くそ…なんだって……ここまでしなくちゃいけないんだよ……?!ダニエル………うぅうっ!」

フードの人物は全く聞こえてないかのように、話を切り出す。
「では、報酬を払って下さい。」
高い少年の声だった。「…報酬を払ったら、依頼の一切を終了させて頂きます…。」
スーツの男はしばらく下を向いたまま動かなかったが、震える手で自分の椅子の脇にあった重たい袋を手探りで取り出した。そして、それをテーブルの上に置く。

(どうして…こんなことに……)

その問いを男は分かっているのに、ひたすらその考えだけが、彼の頭の中をぐるぐる回っていた。

男の記憶が巻き戻される。それは、この日の3日前のことだった。

No.7 09/04/13 23:25
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

スーツの男…マリオ・ローレンツは回想を始める。その日は、いつものように日射しで焼き殺されるかと思うほどの暑い日だった。
そこは『国』の上層部である。天に向かって伸びるビルがいくつも林立していた。まだ国が豊かだったときは人の波であふれかえり、車が行き交っていたであろう交差点も沢山ある。しかし今やそこを通るのは、それぞれの仕事場に向かう少数の男女だけであった。そして、道路の至るところには戦車が何台も止まっている。他にもミサイル射出口、大砲などの兵器が街並みの中で陳列していた。それらは勿論何かを攻撃するためのものであり、静かにその時を待っている。

マリオは兵器だらけの横断歩道を渡って一際高いビルに吸い込まれていった。その後、高速エレベーターに乗って、34階へ。そして事務室を思わせる部屋の一角にある机……自分の仕事場に到着した。その事務室は物々しい空気に包まれていた。仕事仲間に挨拶するのも躊躇うその雰囲気の中、マリオは突然後ろから小さい音量だが声がかけられた。

「よぉ。久しぶり。」そう言ってマリオの後ろに立っているのはダニエル・ブライトだ。

No.8 09/04/14 22:12
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

マリオは、後ろに立つ存在を確認すると、鞄を机に置いて黙って歩き出した。ダニエルはその後を黙ってついていく。再びエレベーターに乗る。そしてビルの屋上に、2人は出た。マリオはそこでやっと口を開いた。
「本当に久しぶりだな。1年ぶりか?……『人造生物』について…ずっと本部は調べているのか。」
「……。まあな…。」



人造生物。
それは、今の人類にとって最大の脅威である。街の兵器はそのための迎撃システムだった。
20年ほど前、ルチアという女性の生物科学者によってそれは生み出された。彼女は地球温暖化に対応できる人体の開発に携わっていた。しかし、大半の国民はその研究に反対していたため、自分の意志だけで人目につかないひっそりとした場所で研究していた。
そして7年間試行錯誤したのち、ついに自殺願望の人を使う極秘の人体実験に乗り出した。
そして、それは成功した。どんなに強力な紫外線を浴びても大丈夫な体。-10~70℃の温度に耐えられる体。他、長期にわたり栄養摂取を行わなくても水だけで必要な成分を体内で合成できる体など、これからの環境を考慮した様々な肉体が開発された………。

No.9 09/04/14 22:42
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

そしてその研究成果が大々的に世界中に発表されたとき、それまで研究に反対していた人々は色めきたった。
この開発された体があれば、当分人類は生きることが出来る。当時は他の惑星に移り住むことも研究されていたが、もう間に合わなかった。急速に悪化し続ける環境状態に対応する術は、人体改造しかなかったのだ。

世界各地からルチアのもとに人体改造の依頼の電話、手紙、電子メールが来る。
ルチアは国の援助を受けて研究施設を拡大し、スタッフを大量に増やした。そして、何人もの依頼人を収容できる大きな建造物を建てた。

数ヶ月後、肌や髪の色、背丈もバラバラな老若男女がその研究施設に1000人集まった。今の施設ではその人数が精一杯だった。
そしてルチアと研究スタッフ達は一人一人の遺伝子を操作し、実験と同じく、人体改造は全員成功した





はずだった。

No.10 09/04/14 23:21
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

その運命の日。
研究施設内はまさに阿鼻叫喚だった。被験者全員がその姿を変容させた。
ヒトの形はなんとか保っているものの、鼻と耳と口は顔面から消え失せていて、そこにはただ剥き出しの大きな眼球だけがあった。
肌の色は真っ白になり、手足は異常に長くなっていた。そして背中からは…鳥の羽根…とは言い難い、歪な形の翼が生えていた。

原因は分からなかった。それは突然のことだったのだ。最初の実験の被験者も施設内で同時に『変容』した。

羽根を生やした、もはやヒトとは呼べない生物達はしばらくすると……逃げ遅れた研究スタッフ達を鋭い爪で殺して、喰い始めた。

顔面になかったはずの口は裂けるほどに開き、その犬歯と臼歯で殺した人間の内臓などを……ぐちゃぐちゃという音をたてながら、喰っていたのだ。
食事が終わると、口は、閉まった後に再び顔面から消えた。

施設の人間を喰い尽くすと、生物達はついに、施設の外に翼を広げて飛び立った。被害が拡大する。
沢山の人々があの生物に喰われ死んでいった。


人間が生み出した、人喰いの悪魔。
…それが『人造生物』だった。

No.11 09/04/15 22:15
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

「人造生物となった被験者を…元に戻す方法は、見つかったのか?」
「……見つかっていない。」
マリオの問いかけは数秒の間をおいた後、帰ってきた。
「……。そうか……」「だが手掛かりは見つかったぜ。」
マリオは視線をダニエルに向けた。
「ルチア博士は人造生物を解放した後、国からそれらの処分を命じられていた。その時から彼女は第5研究所で対人造生物用の兵器を開発していた。我々は人造生物のデータを収集するためルチア博士とのコンタクトを試みるため、第5研究所に向かった。だが…………彼女は、殺されていたんだ。」
「…なんだって!?殺されて…いた…?」
「あぁ。複数人に。」
乾いた、熱い風が通りすぎた。

「そして、第5研究所の内部を調べたら資料室の資料がごっそりとなくなっていた。」 「……犯人が……持ち去った……?」
「…はっきりした意図は分からないが…彼女を殺害した者は絞れた。」
「…それは…もしかして」
「そう。お前は国の幹部だから、知ってるはずだ。国と裏で繋がっている……3人の殺し屋。」

「KK……か。」

No.12 09/04/15 23:31
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

「KK。俺もそんなに深い所までは知らない。分かっているのは、全員子供だということ。3人がそれぞれ使う凶器は2本の長剣と貫通性、斬性に富むワイヤー。そして銃器だということ。」
「やっぱりな…彼女の死体には無数の切り傷と銃弾の跡があったからな…。可能性は、高い。」
日が高くなってきた。ますます暑くなってきたので二人ともスーツのブレザーを脱ぐ。
それから少し、沈黙する。
「もしかして…お前がこの『国』に来た理由は…」
「KKに接触する。」
「危険すぎる!殺されるかもしれない。それに今のこの『国』の方針……分かっているのか?KKに接触することは『国』自体に接触することと、ほとんど同じなんだぞ。」
「…人造生物の短期殲滅を最優先。それに逆らう者は死…だろ?」「時間は限られている。手っ取り早くヒトではないものを処理するには殺すしかない。…それが国の考えだ。」
溜め息をつくように、マリオは続けて話した。
「少数の意見は聞かない。聞く余地がない。」
「だからと言ってその少数派も殺すとは……ハッ。この世界はもう狂っているな。人造生物になってしまった人の家族もいるのに。」
「もう…『国』は殺すことしか、頭にないらしい。」

No.13 09/04/16 00:04
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

マリオは屋上の柵のところから黙って遠い地面を見ていた。

「マリオ。俺達も、明日にはもう死んでいるかもしれない。………だが、動かなければ、前に進めないんだ。」「…………。」
「被験者…いや、被害者をこの手で救い、地球を守る方法を最後まで考える。実行する。そして……ただ…皆で生きよう。」

マリオは黙って、ダニエルを見る。そして、ゆっくりとダニエルのそばに歩み寄るとこう呟いた。

「……死ぬなよ。生きて、帰ってこい。俺達はずっと…親友だから。」

ダニエルは微笑を浮かべてその場を後にする。背中を向けながら右腕をすっと上げ、そしてその手の平を握り、親指だけそっと上に立てると、ビルの中へと彼は消えていった。

No.14 09/04/16 13:16
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

マリオは表向きは人造生物の排除のための作戦会議、そしてウェポンの開発と技術指導をしている。しかし、本当は極秘の部隊である『SALVARE(救いの手)』の隊員だった。
人造生物となった人々を救うために立ち上げられた団体だ。彼はいつもどうりにビルでの仕事をこなす。そして、国の動きを監視する。得た情報は定期的にダニエルと交換し合っていた。ダニエルはこの会社を時々訪れる他の『国』の技工士という設定だ。
この日も同じように少人数の幹部会議があった。マリオは内容を頭に叩き込むことに専念する。
しばらく会議が進むとコップに汲まれた水が全員に配られた。
数人が貴重である清潔な水を有り難がりながら、少しずつ飲んでいた。そして、その中にマリオもいた。屋上での暑さが嘘のように水は冷たかった。



ぐにゃり、と視界が歪んだ 。
「う…」
マリオは一瞬何が起こったのか理解できなかった。
それから数秒だけ分かったのは体が急激に重くなり、意識が薄れていくこと。
その後は何も感じなくなり、何も見えなくなった。

No.15 09/04/16 13:28
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

…気付いた時には彼はソファーに寝かされていた。マリオは重い目蓋をゆっくり開いた。しばらくそのまま、目だけを宙に泳がせた。窓から射し込む光は赤く染まっている。

(……ここは……。)その考えが答えに辿り着かないうちに、声は聞こえた。
「大丈夫かね?」
低い男の声が響き、マリオは声の主が誰なのか確かめるために体を起こした。一人の五十代の男性が立っていた。「………社長…。」「少し疲れたのだろう。ゆっくり休んだほうがいい。」
マリオはソファーに座りながら辺りを見回す。
社長室だった。どうやら自分が会議中に昏倒したあとここまで誰かに運ばれたらしい…と彼はやっと理解する。しかし…何かがおかしい。

どうして社長室なのか。ここは国と直結する大きな会社だ。医務室くらい、ある。わざわざ倒れた人間を最上階の社長室まで運ぶ必要は…ない。
思考がうまく回らなかった。すると社長は話をきりだす。
「ところで…君に一つお願いがある。だからついでに社長室まで運んで貰ったんだ。」
「…なんですって?」まだ頭がガンガンする。言葉に答えるのが今の精一杯だ。
「君は知っているかね?……KKの名を。」

No.16 09/04/17 00:00
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

「………。えぇ……。」
マリオはなんとか答えた。
社長は向かい側のソファーに座ると、言葉を続けた。
「では……彼らと我が国が繋がっていることは知っているかな?彼らには主に周辺の人造生物の殲滅を任せている。…だが彼らは殺し屋だ。ヒトを殺すことも、できる。」
「………?」
(社長が…今、どうして……KKの話を……俺に……?…殺し屋……ヒトを…殺す……?)そこで彼の思考は…一瞬にして止まった。
(…ま…さ…か…!)「君への頼みとは…KKへ、この人物の殺害依頼書を出すことだ。」社長はそう言って、テーブルに数枚の書類を置く。
その中に、ある人物の調書が含まれていた。マリオはその調書に書いてある名前…そして顔写真を見る。
「!!」
体が凍りつく錯覚に見舞われた。顔も名前も、間違いなくダニエルのものだった。
「これは君にしか出来ない役割だ。…係の者が案内するから、今日出してきてくれ。」
社長の顔は嫌らしく歪んでいた。それで全てを察する。
(ばれて……いた!!)体から汗がぶわっとふきでる。
「わざわざ睡眠薬まで使って君を呼び出したんだ。引き受けてくれよ。……それとも、今死にたいかね?」
その手には拳銃が握られていた。

No.17 09/04/18 09:08
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

彼の記憶はここまでだった。


「食糧一年分…確かに受け取りました。」
ローブを羽織った少年は、フードの奥でニッと笑った。
「では出口までご案内致します。こちらへどうぞ。目隠しはまだ取らないで下さいね。」
少年は、マリオを立たせて出口へと歩かせる。
おぼつかない足取りで、やっと出口の前に来る。その時、
「……あ。」
という高い少年の声が響いた。何かを思い出した時に発する声だ。「……。実はですね、マリオさん。もう一つ、依頼を受けているんですよ。」



どがん。
と銃声が部屋中に轟いた。
ゆっくりとスーツの男は前に倒れる。そして静かに血だまりを作って動かなくなった。
少年は銃を片手に持っていた。ライフルとは違うが、拳銃よりは銃身が長い。
「さてと……死体はあっちに始末してもらうとして……。」
「ロイ」
入り口にもう一人の黒髪の、長剣を2本持った少年が立っている。
「おかえり、ジュエル。ちょっと死体を運ぶの手伝ってくれよ。」そう言いながらロイはフードをはずす。
ボサボサの短い茶髪から青い瞳を覗かせている。
「……ああ。」
やはりジュエルは無表情で頷き、死体を包む袋を探した。

No.18 09/04/18 13:32
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

袋に包んだ死体をどさっと置く。
「ふぅ……ここに置いとけば大丈夫だ。後は国の連中がやってくれるだろ。」
ロイは頬につたう汗を拭った。ジュエルは黙って死体を見つめていた。
「……ったく…この炎天下の下で死体運びか……。俺はこういう力仕事は苦手なんだよなぁ。」
「そう言えば……グロウは、どうした。」「あぁ。あいつは今朝出没したっていう人造生物を始末しに行った。あいつがいれば死体運びやらせたのにな。………さて。戻るか。」
二人はその場を後にした。




グロウという少年は、砂漠の中で一人立っていた。白い肌に肩にかかる銀髪が、彼の全身黒い服の上で目立っている。

ここは、紫外線遮断フィールドの外だった。大量の紫外線を浴びているはずなのに、彼は平気そうにただ立っている。何かを待っているようだった。

そして…顔を上げる。何かが四方八方から猛スピードで向かってくるのが見えた。
それはこの世のものとは思えないような形をした…人造生物だった。6体が、彼を囲んだ。その後それらの爪は伸びていき、顔面に大きな口を出現させた。次の一瞬で襲ってきそうなのに、グロウは微動だにしなかった。

そして……次の瞬間

No.19 09/04/18 20:04
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

結果的には人造生物は皆死んだ。手足や頭、胴体がバラバラになり赤い血が飛び散っている。破片は砂のようになって風に流れていった。その時の出来事は本当に瞬間の出来事だった。

人造生物がゴムのような手を伸ばし、その爪で目標を刺し貫く……はずだった。
しかし手を伸ばした先には彼はいなかった。消えたように見えるその姿は真上にあった。そこで彼がしたことは手を動かすことだけだった。そうしたら皆切れていたのだ。

再び地についた彼は、その光景を見ていた。十本の指からは、血に濡れた細い糸のようなものが垂れている。
「いやぁ……暑い…。速く戻りませんとね。」
そう一人で困ったように笑いながら呟き、グロウは国の方へ歩いていった。
砂漠には何も残らなかった。

No.20 09/04/19 20:21
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

「…あ、おかえり。グロウ。」
「ただいまです。」
グロウはにこやかに入口のドア代わりの布をくぐった。ロイはローブを外して部屋にある2人用ソファーでくつろぎながら応じる。
ジュエルはと言えば部屋の隅で下を向き、腕を組みながら立っていた。
「……ロイ。ところで…お前が殺した男が言ってたという、人造生物の資料の在処は知っているのか…?」
「お前も見ただろ。アイツを殺した時には既に資料はなかった。いまだ謎のまま…だ。」ジュエルは宙を見たままだった。
「俺達が目を覚ます前にアイツがどこかに移したんだろ。アレがあれば人造生物の詳しいことも分かるのに…どういう訳なんだか。」

グロウも話に参加する。
「私達…ルチアに作られた強化人間でさえ知らない場所…でしょうかね。」
「その可能性が一番高いが…な。はあぁ」
ロイは寝返りをうち、溜め息をついた。ジュエルはしばらく黙ったあと、呟く。
「いや…まだ、気になることがある。俺は、これから『時計台』を調べることにする。」「無駄だとは思うがなぁ…まぁ行ってくるといいさ。俺もこれから、用事あるんだ。」

ジュエルは無言で頷いた。

No.21 09/04/20 00:07
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

KKとは…ルチアによって作られた、三人の強化人間だった。放たれた人造生物を処理するために。彼らは大きな水槽の中で、目覚めたのだ。


…その時計台は、国より数キロ離れた場所にあった。ジュエルは砂漠を歩く。強力な紫外線を浴びても耐えられる理由は、彼らが強化人間だからだ。
午前のだんだん暑さが増す日射しがこの世界を包んでいる。
ジュエルは時計台に着いた。辺りで聞こえるのは砂漠に吹き荒れる風の音だけだった。
重い扉を開く。
石造りの建物の窓からは、静かに日が射していた。
入ったあとは長い廊下が伸びていて所々にはいろいろな人の石像が立っている。それをずっと歩いていった。そして奥にあったのは…円柱型の部屋だった。中心に小さな祭壇がある。天井はとても…とても高く、なぜかそこには小さな窓があり、空を映していた。壁には、沢山くぼみが空いていた。中にはまた石像が立っているが、廊下の石像と違うのは、全て鏡を持っていることだった。
祭壇の周りにベンチが並んであったので、ジュエルはそこに座った。
(少し…来るのが早かったか…)
ジュエルは腕時計を見る。10時55分だった。それから座っているだけになった。彼は何かを待っている。

No.22 09/04/20 19:33
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

ジュエルはそこで…一時間ほど待った。腕時計を見る。11時57分。「………。」


チッ
長針が動く。
11時58分。ジュエルはベンチを立った。そして祭壇へと向かう。

チッ
長針が動く。11時59分。射し込む光は少しずつ強くなっていった。ジュエルはポケットから何かを取り出した。それはくすんだ色の石がついたペンダントだった。
もう少しで、12時。
ジュエルは上を見上げて、数を数える。
「10…9…8…7…6…5…4…3…2…1」
0。

その瞬間辺りは白い光に包まれた。時計台の音が、荘厳に鳴り響く中で。
天井の光が、完全に真下に射し込む先には、吊るされている多面体の機械があった。
そして…機械からは太陽の光が四方八方に飛び散った。
飛び散った光は、それぞれ壁の、鏡を持った石像に降り注ぐ。鏡でまた反射した光は祭壇に集中し、輝いた。

……それはこれ以上ないくらい、神秘的な光景だった。


ジュエルは祭壇にある小さなくぼみを見る。そこに、ペンダントについている石をはめこんだ。
それまでくすんでいた石は集中した光を吸収し、輝いた。
すると…祭壇は一変した。

No.23 09/04/20 21:48
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

祭壇に、穴が空いた。穴の先には、地下へと続く暗い階段が伸びていた。
ジュエルは祭壇から降りると、穴へと向かった。階段を一段降りるたびに、静かに足音が響いた。そして、外からの光は遠くなっていった。

螺旋状の階段をどんどん下に降りていく。
その後行き着いたのは、鋼鉄製の扉だった。 そこには金庫によくついている、数字を入力するボタンがあった。ジュエルはパスワードとなるナンバーを素早く打ち込んだ。
すると扉は、その口を開いた。

そこは薄暗く、狭い空間だった。無機質な金属で天井も壁も床もうめつくされている。蛍光灯が薄ぼんやり光を放っているだけで、他に明かりはなかった。
そして至るところには今は使われていない色々な機械が置いてある。それらを横目に、ジュエルは一本道を歩き、奥へ進んでいく。奥へいくほど機械が増えていき、ますます暗くなっていった。扉に突き当たり、開閉ボタンをおしてさらに中へ。
その中は通ってきた部屋よりよっぽど広かった。そして目立つのは、三本のちょうど人一人収まりそうな、ガラスでできた円筒だった。その近くにはパイプ椅子と長テーブルがある。

ここは、3人が強化人間として生まれた場所だった。

No.24 09/04/21 20:49
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

三つの円筒。テーブルに散らばる何枚もの書類。一つだけのパイプ椅子。機械から床、天井に蛇のように伸びるコード。

……そして…辺りにいくつもある、古い血の跡。
ジュエルそれらを見て、ぼんやりと『あの日々』の記憶を辿った。

ルチアは人造生物を放ったあの日、研究所からなんとか避難することに成功する。その後、彼女のもとに国から人造生物排除の要請が来た。国民からの非難を避けて、それからたった一人で孤独に『時計台』で再び研究を開始した。表向きの場所は第5研究所ということにして。彼女はまた始めたのだ……狂戦士を生み出す研究を。

いつから円筒の中で眠っていたのかは、ジュエルは覚えていなかった。だが眠っている間に覚えていることは、あった。頭に…電流が流れる。その瞬間脳内が痙攣する。そして、一つの言葉がひたすら巡った。
『殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ……』電流が流れるたび、その感情に飲み込まれそうになるのを必死に拒み、もがいた。
それは永遠とも思える時間……繰り返し、繰り返し…。
そのうち意識が麻痺していく。自分が無くなっていく。
そして…最後の一欠片までになったときその時は訪れたのだ。

No.25 09/04/21 22:29
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

目覚めた時、円筒の中と外を仕切るガラスはなくなり、培養液は床に溢れていた。
ジュエルの体を支えていた液体がなくなり、重心が前に移動して倒れ込んだ。その拍子に体の至るところに繋がっていたチューブや電極が外れる。
しかし、あの囁きは止まっていなかった。
『殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ』
頭がとてつもなく痛かった。
「あ、あ………あぁああ……」
重い体を、何とか起こす。
すると、揺れて歪む視界の中に一人立っている女性が映った。

囁く声がより一層強くなり、視界は赤く染まった。
(殺す…殺す…殺す…殺す…)
後は体が勝手に動いた。側にあった二本の剣をとり…目標だけをその目に焼き付けて…。


その時、その目標…ルチアは、泣いていたように見えた。でも笑ってもいる、複雑な表情をしていた。そして、うわごとのように呟いていた。

「お願い……私を……殺して」


その言葉を聞いたあとは、頭の声に従った。自分以外にも何人かその殺しに加わっていた気がしたが、その時は夢中だったので、記憶がはっきりしない。

でも、このときルチアが死んだのははっきり覚えていた。

No.26 09/04/22 21:02
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

「……はぁっ!!……はぁはぁ!」
少年達は既に原型をとどめていない女性を殺し続けた。
切り、銃を打ち、裂いていた。ただ作り替えられた脳に支配されて。
しかし…解体をしていくうちに、少年達は表情を苦痛に歪ませていた。
「はあ……はぁ…ぁああ…!」
頭を抱える。声をあげて、その激しい頭痛に身をよじらせた。
「うあああああああぁぁぁぁぁ!!!!」

激しく、悲鳴が部屋に響いた。
その後は皆意識を失った。真っ暗な闇しか見えなかった。


「……ぐ、ぅう。」何時間たったのか分からないが、ジュエルは意識を取り戻す。
血の池の中に倒れたはずなのに、部屋の隅に寝ていた。しばらく何も考えることができず、ただ天井を見つめていた。
すると、押し殺したような声が聞こえた。
「……気付いたか。頭、痛くないか?」ジュエルは天井から目を外し、自分のもとにしゃがんでいる人影を見る。茶髪の少年だった。
「……あぁ…もう、…声は聞こえない。」「俺達も、脳を改造された。でも殺しの衝動は無くなった…。なぜ…だろうな…。」
「………名前は?」
「…覚えてない。お前もそうだろう。」
「…!」
ジュエルは片手を頭に添える。記憶が、無くなっていた。

No.27 09/04/22 22:04
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

茶髪の少年の後ろに、もう一人銀髪の少年がいた。彼も口を開く。「私達に分かるのは…ここで眠ってから脳内改造で詰め込まれた人造生物についての知識と、さっきの血祭りの記憶くらいです。」
「人造…生物。」
ジュエルは記憶を取り出す。なぜか見たこともないのに、人造生物は倒さなくてはならない存在だと認識していた。
茶髪の少年が立ち上がる。
「ここには、まだ何かの手掛かりがあると思う。…探そう。」そう言って、机の書類を漁り始めた。もう一人も、置いてあるコンピューターをいじる。
「…。そうだな。」
ジュエルはゆっくり起きた。そして、捜査の仲間に加わる。

…それからジュエル、ロイ、グロウが自分の名前を書類から見つけ出すのは、そんなに時間はかからなかった。
だが、自分達の生い立ちが書いてある紙は見つからなかった。
しばらくして、ロイは書類を見ながら言った。
「この『国』という所は…まだこの女が死んだことを知らない。まずこの肉の山を見せるべきだろうな…。」
「この研究…本当は第5研究所というところでやっていることになっているらしいですよ。そこに持っていけば気付いて貰えますよきっと。」
グロウは笑った顔で言った。

No.28 09/04/23 21:14
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

「とりあえず…ここから、出よう。」
全体的に、ロイが場を仕切っていた。二人はそれに従う。
「出口…何処でしょうね…」
「こっちに扉がある。」
ジュエルがボタンを押すと、扉は開いた。
「ありがとう。ジュエル。」
ロイはそう呟くと、大きな赤いシミがついている袋を背負って、扉の向こうに向かった。その後、螺旋階段を上り、出口につく。
ゴーン…ゴーン… という音が聞こえた。
「ここは…時計台か?」ロイは眉を潜めた。
「そうらしいですね。こんな所にあんな部屋があるなんて…全く、驚きです。」
ひそやかな足音をたてて、さらに進む。
そして…外へと繋がる扉を開いた。

熱い風が吹き付けた。闇に慣れていた目に光が突き刺さった。
「……これが…外の世界…。」
見渡す限りの砂漠を見つめて、ジュエルはそう言った。
しばらく、皆その虚しいような光景を眺める。だがロイが沈黙を破った。
「行こう。第5研究所はこの時計台とは反対にあるらしい。」
「………。ああ……。」
砂を踏みしめる音をたて、3人は歩き出した。

…ひたすら歩いている間は3人は口を開かなかった。そして、辿り着く。何も特徴がない、古い建物だった。
3人は中に吸い込まれていった。

No.29 09/04/23 22:25
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

その中は、時計台地下よりは、整然とした部屋だった。だが、人が使っている気配は全くなかった。ロイは辺りを見る。
「本当にここでやってることになっているのか…?よくばれなかったもんだ。」
「いつ見回りにくるのかは分からないが…ここに置いた方がいいんじゃないか?」
「……。そう、だな。」
ロイは袋をおろし、その中身を…床に一気に叩き付けた。
べちゃっという音に続き、べしゃべしゃという嫌な音が響き渡る。白かった部屋は赤に染まった。
3人はただ黙って、散らばった肉塊を見つめていた。
ロイは目を細める。そして…溜め息をつくと近くにある椅子にゆっくり座って、うつむいた。その表情は、重かった。
「…。これから…俺達は、何をする?」
ぽつりと、ジュエルが呟く。
「とりあえず…生きればいいんじゃないでしょうか?」
グロウは苦笑して答えた。するとロイが顔を上げる。
「生きるしか…ないだろ。」
「意味も、ないのに?」
ジュエルはまた呟く。
「いや。生きる意味は、この女がくれた。所詮俺達は人造生物殲滅ロボットだ。」
「地球が滅ぶ運命に…少しは抗って見てもいいと思いますよ。」
「…。」
どうせ、それしかない。二人はそう告げていた。

No.30 09/04/25 20:12
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

生きる意味。それは人造生物を排除すること。地球を蘇らせる。それはもう間に合わないことだとしても。

「…国に接触しよう。きっと人造生物殺しに躍起になってるだろう。」
「……。」
ロイは椅子から立ち上がった。
ジュエルは黙り込んだままだったが、しばらくすると一人で部屋の奥に歩み出す。
「ジュエル?」
「…人造生物に関する情報。今の状態で足りるのか。時計台には一枚もなかった資料が、ここにはあるかも知れない。俺はここを少し探す。先に、国へ向かってくれ。」
ジュエルはそれだけ言う。
「…分かった。先に行ってる。…頼んだぞ。」
ロイは答えた。
そして、皆それぞれ部屋を後にした。




……静かな部屋に、静かな足音だけ響く。ジュエルは資料室と書かれたプレートの部屋を歩いていた。その広い部屋には本棚が並んでいる。だが、そこには一冊も本らしいものはない。だから部屋空っぽと言っても過言ではなかった。
(やはり…何もない。何故だ。)
さらに奥へ進む。もう行き止まりだった。だが、そこで何かを見つけた。
「?」
それはここで見つけた唯一のものだった。クリップではさんだ二枚の書類を拾う。
それを見て、ジュエルは少し眉を潜めた。

No.31 09/04/25 21:26
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

『私にはもう災いを生むことしかできません。』

ジュエルはその言葉を思い出す。長い回想の最後…レポート用紙二枚に書いてあった言葉を。時計台の地下で、さらに地下へ向かいながら。

『だから私が作ったものは消去しました。後は私が殺されて、あの子達に哀れな被験者達を葬ってもらえば、全て終わる。』

厳重に閉ざされた扉があった。封印されているようにさえ見えた。素手では開かない。ジュエルは持っていた剣を振り上げた。

『でも、それでも私の何かが必要になるかも知れません。…だから時計台に鍵を隠しました。それは鍵だと同時に、私が犯した最後の罪です。』

キィンッという音と共にその扉が放たれる。中からは低い機械音が聞こえた。真っ暗な部屋の明かりは部屋一面にある機械の明かりと、中心のぼんやりとした青い光だけだ。
その青光が映し出すのは横倒しの大きな円筒だった。

『知りたい答があるなら、お願いです。どうか助けてください。』

ジュエルは円筒に近づいて、一番大きい二つのボタンを見た。ボタンの下にある言葉は、『冷凍』『解凍』。
解凍のボタンを押した。機械音が一層唸る。そして円筒が二つに割れた。

『愛しい私の息子を』

No.32 09/04/26 09:58
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

「……!」
プシュー と白い冷気を吐き出して開いた円筒の中には金髪の少年が横たわっていた。
透き通るような白い肌に病院着を着ている。静かに目を閉じて眠っていた。
ジュエルは二枚目の用紙を思い出す。そこには名前だけが書いてあった。

『ジルフィール』

ドクンッ
「…!?」
心臓が鳴る。それは脳までに響き、一瞬目眩がした。床に手をついた。
(なんだ…今のは…)ゆっくり立ち上がる。そしてジルフィールという少年を見つめた。手を取ってみる。
(……。生きてる…。)
ジュエルはジルフィールの体を起こした。
(とりあえず…何とかしないと。)
その体を背負って、地上へと向かった。
ジルフィールの体は強化してあるかは分からない。だからジュエルは紫外線遮断性のある布を探し、見つける。それを彼に被せながら背負った。
それから時計台の外へ出て、国へ足を運んだ。


ジュエルは少し迷っていた。ジルフィールをどこにおこう。KK本部にはそんな場所はない。…どこか人気のない場所が望ましいかもしれない。
考えて、ジュエルは歩き出す。向かった先は、国のはずれにあるボロボロの教会だった。小高い丘を登って扉の前に辿り着いた…。

No.33 09/04/26 21:30
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

>> 32 その教会は中も、古かった。
壁には小さな穴が沢山空いてそこから小さな光の線が射している。そして所々蜘蛛の巣が張っていた。その静かな空気は、時計台とどこか似ていた。
ジュエルは並列しているベンチの間を真っ直ぐ歩いた。ステンドグラスの柔らかな光が二人を包みこんでいる。道を通って…ベンチの最前列まで進む。
そして、ジルフィールをベンチの上にそっと座らせた。
まだ、彼は目を閉じている。その顔をしばらく見つめた。
(…鍵……この少年が?…どういうことなんだ…。)
そんな考えに浸った。
カチャ

微かに物音がした。ジュエルはその音に敏感に反応する。
音は左から聞こえた。部屋の側面にもう一つ扉があった。そこから人影が覗いている。
「あ……。」
それは20代前後の女性だった。栗色の髪は背中くらいの長さがあり、修道着に身を包んでいた。
女性は戸惑ったような顔をしていた。
「あ、あの…この教会に…何かご用でしょうか?」

人がいたとは…と思った。
「まだ管理されてたんですね。ここ。」
「えぇ…一応、私が一人で。」
場所を移そうかとも思ったが、少し考えた。そして言った。
「突然ですみませんが…この人を置いてもらえませんか。」

No.34 09/04/26 22:38
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

「え…ど、どういうことですか?」
女性はベンチに座っているジルフィールを見た。
「この人が道で行き倒れているのを見つけました。俺の家に連れていこうかとも思いましたが…寝かせられる場所もなくて。」
ジュエルは口からの出任せを言った。今この女性に話しても分からないだろうと容易に推測出来るらだ。
「……。」
「食事は俺が何とかします。お願いできないでしょうか…。」
女性は少しの間悩んでいたが、やがてふっと表情を緩めた。
「ええ、構いません。教会の中には幾つか部屋がありますので。」「…。有り難うございます。ところで、貴女のお名前は?」
「マリア、と呼んでください。」
そっとマリアは微笑んだ。
「では、この人をベッドに寝かせなければ…手伝って下さいますか?」
「分かりました。」
ジュエルは再びジルフィールを背負った。
「こちらになります。」
そして、マリアの後についていこうとした。その時…ジュエルはあるものに気付いた。


それは大きな扉だった。大きくて、しかも正面にあるのに…何故かすぐには気付かなかった。燭台が二台立っている壇の後ろにそれはあった。
それを少し見上げてから、ジュエルはマリアの後を追った。

No.35 09/04/27 22:57
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

同時刻。

ロイは渇ききった地面を歩きながら、国の上層部に向かっていた。接客の時と同じく、ローブを着込んでいた。目深なフードからは口元しか見えない。
人気がない静まりきった街をしばらく行くと、左右にずっと伸びている柵が見えた。それは下層部と上層部の境だった。

ロイは閉まっている門の前についた。しかし門の監視カメラがロイの姿を捉えるとすぐに扉は開いた。そして上層部へと踏み入った。地面は砂からコンクリートに変わった。
また、少し進む。
すると、一人のスーツの男が遠くから近づいてきた。
それを見て、ロイはやっと立ち止まる。男は目の前に来て、一言呟いた。
「…幹部証を。」
その言葉を聞いて、ポケットからカードらしいものを取り出して、男に見せた。
「確認しました。大統領がお待ちです。こちらへ。」
そう言って、男はスイッチを取り出し操作すると、地面は低い音を立てて地下へと続く階段を出現させた。
…階段を降りてからは、動く床の上に乗った。それが終りまでつくと、今度は高速エレベーターに乗る。

ロイはそうしてある部屋に案内された。男は任務を済ませると、部屋から消えた。

「来ましたよ。大統領。」
ロイは言った。

No.36 09/04/28 00:15
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

>> 35 ロイはまずフードを取って、ローブを全部脱ぎながら
「ここまで来るのも大変なんですよ?結構歩くし…。」
…とぼやいた。
「すまないね。どうしても君達に協力してほしいことがあってね。」そこにいた30代くらいの中肉中背の男…大統領は苦笑した。
ロイは高級そうなソファーに座って身を乗り出した。
「伺いましょうか。」「うむ…実は人造生物が周辺に異常に分布する地がある。ルノワールという場所だ。そこで我々はその国に軍を送り込み、積極的な殲滅活動をすると決定した。そこでKKにも同行願いたいのだ。」
「…殲滅するならおたくの軍で十分だと思うのですが。人造生物は頭を破壊すれば、簡単に死にますよ。」
「それについてはまだ未知の段階だと言える。実際あの地域の人造生物は…少しおかしいのだ。」
「おかしい、とは?」ロイは眉をひそめた。「人造生物となった被験者は千人だったと聞くが…調査員の話では、既にルノワールでは一千以上の人造生物を殲滅したというのだ。」
「…それは。」
「原因は分かっていない。しかも、新種の造生物を見たという情報が入っている。」
「人造生物の新種…。…事態は随分悪くなってるようですね。」
ロイは溜め息をついた。

No.37 09/04/28 21:43
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

「まぁ私共は人造生物を殲滅することを第一の目標としていますしね。了承します。」
「君達には人造生物の増加原因と新種についての調査もお願いしたい。」
「…報酬増えますよ。」
ロイは大統領を上目遣いに見る。すると大統領は微笑んで言った。「いくらでも。…ああ、そうだ。激しい殲滅活動から戦争状態になるかも知れない。そういう時はルノワールの住民は地下通路に避難させる。」
大統領はソファーから立ち机に向かい、引き出しから紙を取り出した。
「だが、これを見てくれ。このとおり…地下通路はまだ私達にも分からない部分が多い。」
それは地図だった。所々白紙の部分が面積を占めていた。
「そこで地下通路に詳しいと言われている人物がいる。その人物に会ってきて欲しい。」「なんで…そこまで私達が?」
そこで大統領は少し黙る。そして、重く口を開いた。
「…会えば、分かる。もしかしたら君達なら聞き出せるかと思うんでね。彼の名前は…ハヤト・キサラギという。」
「まだ了承してませんよ?」
「頼む。報酬は出す。」
「…やれやれ。」その時。少しだけロイに異変が起きた。
(ハヤト…キサラギ…?)
だが異変は一瞬で終わり、気にすることはなかった。

No.38 09/04/28 23:07
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

話を全て聞くと、ロイは帰路についた。行きとは逆の道を辿った。そして、帰る場所につく。

「…。ただいま。」
ロイが部屋に入ると、二人の姿が目に入った。
「お帰りなさい。」
グロウがいつもの笑い顔で迎えた。
ジュエルは椅子に座っていた。
「グロウ、ジュエル…。出張が入った。**月**日、場所はルノワールだ。」
「人造生物ですか?」「ああ、なんだか繁殖してるらしいぜ。」
「…繁殖ですか。まぁあっても不思議じゃないと思いますが…。」「他にもいろいろ用事ができたし…結構めんどくさくなりそうだ。」
二人だけの会話が続くなか、ジュエルは沈黙し、下を向いていた。それを見たロイは呆れたような顔をした。 「おい、ジュエル。聞いてるのか?」
「…。二人に、話すことがある。」
やっとジュエルはロイの前を見て、言った。そして、話した。あの『鍵』のことを…。
十分ほど費やした。

「ジュエル。おまえそんな重要なことを今まで黙ってたのかよ…。」
「…すまない。」
「とりあえず、用事が一つ増えましたね。」ロイは少し顔をしかめていたが、暫くして、思い立ったように言った。
「そいつの正体も暴くさ。教会に明日行く。」
ジュエルは頷いた。

No.39 09/04/29 21:41
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

>> 38 それでその一日は終わった。日が沈み、闇が空間を支配する。昼間の暑さと打って変わって、身を切るような寒さになった。
三人は、それぞれ毛布にくるまって、ソファーや床で寝ていた。

ジュエルは剣を脇に置いて、床に座りながら寝ている。そして彼は浅い眠りの中、夢を見た。

一面の野原。そこにあるのは一本の巨大な木だけ。その下に自分は座っていた。風が吹く度木はざわめき、木漏れ日が動いた。とても穏やかだった。
しかし自分は立ち上がることが出来ない。体に大きな傷があったからだ。でも 痛みは感じない。ただ…どこまでも青い空を見つめていた。
ふと、目の前に黒い影が立っているのが見えた。それはしばらく自分を見て…ゆっくりと、手を差しのべる…。
ジュエルが見たのはそこまでだった。目を開くと朝になっていた。無人である時計台の鐘の音が聞こえる…。(夢、か…)
妙にその夢に懐かしさを覚えた。そしてその懐かしさに疑問を抱いていた。

「…ジュエル。おはよう。」
その一言で、完全に目が覚める。…ロイだった。
「…おはよう。ロイ。」
「珍しいな。鐘がなるまで寝るなんて。」
「…ん」
「今日は案内宜しく頼むぜ。」
朝日が射していた。

No.40 09/04/29 22:47
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

朝食のパンと缶詰めを食べたあと、三人は荒れた教会へと向かった。
「…ここだ。」
「随分古いようですね…。」
グロウは少し感心しながら言った。
「こんな所に教会があったとはな。」
ロイも驚いていた。
ジュエルはそれぞれの感想を聞きながら扉を開いた。教会内部が見える。その中に一つの人影があった。

「…ジル。」

ジュエルは無意識にその名を呼んだ。
彼は、ベンチが並んでいる床と壇がある床をつなぐ3段の階段の上にに座っていた。

「あれが『鍵』か?」
「ああ。」
三人は彼に近寄ってみた。だが…彼は死んだ目をして下を見ているだけで、何も反応がない。
「ジル…?」
ジュエルは不審に思ってもう一度声をかける。
その時、左の扉からマリアが出てきた。
「あ…ジュエルさん。おはようございます。…そちらの方々は?」「俺の友人です。その人の様子をみにきたのですが…」
ジルフィールのほうを見る。
「ああ…その人に話しかけても駄目です。反応しません。」
「…どういうことでしょう。」
「目を覚ましてからずっとこの状態です。原因は分かりません。」その時ジュエルはルチアの言葉を思い出した。

『どうか助けて下さい。愛しい私の息子を』

No.41 09/04/30 22:09
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

「アイツに息子がいたとはな。で、この抜け殻みたいな奴がアイツの資料の在処を知ってるってのか?」
ロイが半分呆れぎみで言った。
「いや、レポートに全部消したと書いてあったはず。」
ジュエルはしゃがんで半開きのジルフィールの目を見つめた。
「じゃあ…全て頭にぶちこまれて、壊れたか。」
「息子を助けてほしいとも書いてあった。」「ハッ、自分でやっておきながら随分勝手な話だな。」
「……」
その時、ゆっくりと…ジルフィールは微かにうつむいている顔を上げた。
「…!」
ジュエルはその動作だけで少し驚く。
しかし、ジルフィールはすぐにまたゆっくりと顔を下げた。
そしてさっきと同じ様子になった。
(まだ…意識があるのか。…そういえば)「マリアさん。どうしてここにジルが座っているんですか。」
「…一人でここに来たんですよ…ベッドに戻るよう言ったんですけど…ただここに座ったんです。」
「…そう、ですか。」ジュエルは立ち上がった。 ロイは再び口を開く。
「マリアさん、でしたか?もう少しここに置いてて下さい。俺達はやる事があるので。食糧は置いておきます。」
マリアは了承した。
…その時グロウは笑みを浮かべてジュエルを見ていた。

No.42 09/04/30 23:21
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

その後もグロウは、話にも加わらず、マリアとのやりとりを見ているだけだった。暫くしてジュエルから視線を移した。その先には、壇の後ろにある大きな扉があった。また、ただじっと見つめた。

「…これが食糧です。」
ジュエルがマリアに差し出した袋の中にはパンと缶詰が入っていた。そしてロイが丁寧な口調で挨拶する。
「今日はこれでおいとまします。またそちらに伺います。では。」
「はい…体調管理は私に任せてください。」
それから三人は教会を後にした。
「ロイ、どうするんだ?」
ジュエルは帰路の途中に言う。
「…ジルフィールとか言ったか…奴のことは後で処理する。俺達はルノワールでの仕事があるだろ。」
「それに…あれだけの精神崩壊への対策を今すぐ考えるのは難しい…でしょう?」
グロウがやっと口を開いた。
「…ああ。だがあの女の尻拭いはしなければならない。俺達も情報が必要になるだろうしな。」
ロイは続けた。
「お前ら、今日は武器を磨いておけ。人造生物殲滅実行日は3日後だ。……あぁ、あと言い忘れてたが、もう一つ指令があってな。ルノワールに隠れている『SALVARE』の奴らは見つけ次第殺せ…だそうだ。」
二人は黙っていた。

No.43 09/05/01 21:52
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

三日後。
ルノワールに向けて出発する日になった。

バラバラというプロペラ音が耳に障る。あわただしく迷彩服を着た者が動いていた。三人はそれぞれの武器を身に付けて、国軍基地に来ていた。…ロイは上を見上げて、目の前にある巨大な飛行艇を見ていた。
「これに乗って行くわけか。でっかいなー。」
とだけ感心して言った。
「世界は壊滅しかけていても技術だけは発達してるようですね。」グロウが応えた。
少しして、大柄な迷彩服の男がやってきた。
「皆さんお揃いですね?皆さんにはこれからこの、飛行艇『ヴィマナ』に搭乗して頂きます。搭乗時間は7時間です。その間人造生物の足止めをくらうかもしれません。その時皆さんはヴィマナ内にある戦闘機での殲滅に協力して頂きます。」
迷彩服の男は説明をした。
「おいおい。まだ訓練はおろか、やり方も教わってないぜ。」
「説明書を差し上げます。搭乗の間にご覧下さい。」
男はロイの質問をにこりともせずに返した。「…まぁ、やってる間に覚えるだろうさ。」ロイは大して気にもせず呟いた。
「出発時間10分前です。こちらへどうぞ。」男を先頭にして四人はヴィマナの搭乗口へと向かった。

No.44 09/05/02 10:11
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

大音量のプロペラ音は、『ヴィマナ』の中ではいくらか小さく聞こえた。
三人はそれぞれの個室へと案内された。そして、戦闘機の説明書を数枚配られる。
「間もなく発進します。飛行中はなるべく此所に控えていて下さい。出撃は」と男は言い残して立ち去った。
そして、巨大な飛行艇『ヴィマナ』は広いエアポートからゆっくりと飛び立った。
全体が浮遊する感覚に見舞われる。
窓の景色も少しずつ変わっていった。ある程度上昇すると、速度が増えた。風を切り裂きぐんぐん前へと突き進む。
「ひゅーぅ」
ロイは個室で一人、感嘆の声をあげた。
ジュエルとグロウはその頃は説明書に目を通していた。


雲を抜けてあまり景色が変わらないようになって暫くすると、三人は全員寝ていた。
そのまま淡々と時間だけが過ぎた。
しかし、三時間後。

ビーッ!ビーッ!
サイレンが響いた。
「人造生物接近中。総員、戦闘配置につけ。KKはハッチへ。」というアナウンスが繰り返された。
(…来たか…)
三人は同時に考えた。そして部屋を出る。
赤い光が周りを包み込んでいた。ジュエルは左右を見る。
「…ハッチは?」
「こっちだ。地図を覚えておいた。」
ロイは右に走った。

No.45 09/05/03 21:29
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

ハッチには三機の戦闘機が並んでいた。
三人はそれぞれの機体に乗り込む。
目の前にはさまざまなレバーやスイッチがある。
一人用の座席に座り、ハンドルを握る。

「やれやれ、無事に出来るといいのですが。」
グロウは苦笑い。
「……。」
ジュエルは沈黙。
「さぁ。…やってやろうじゃねーか。」
ロイは不敵に笑っていた。
「全機エレクトロニクスエンジン起動。ハッチオープン。」アナウンスが流れるとスムーズに大きな扉が開いた。
そして三人はレバーを引いた。キイィン…と起動音がなり始める。
「全機発進準備。発進10秒前。10、9、8、7、6、5、4、3、2、1」全員ハンドルを握る。「0」
その瞬間、轟音を立てて三機は風を切り、ハッチを抜けた。
青空が、広がった。

太陽の光を背にして、宙に三つの影が踊る。時に旋回し、時に宙返りしながら、華麗に空を飛んでいた。

「ヒャッホーイ!」
ロイはまるでゲームを楽しむかのように機体を鮮やかに乗りこなした。ジュエル、グロウは落ち着いて、真っ直ぐ飛ぶ。
「…12時の方向より人造生物。推定数百体。殲滅せよ。」
指令部からの無線だ。向こうには何かの大群が見えた。

No.46 09/05/03 23:11
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

それはヒト型で、翼を生やした生物だった。たちまち、『ヴィマナ』の周りを取り囲んだ。「お出ましだな。……ん?」
ロイは少し眉を潜めた。
「あれは…なんだ?」人造生物の胸に注目すると、何か赤い球状のものが埋まっているのが見えた。
今まで彼らが倒してきた人造生物には、そんなものはついていなかった。ロイは、他の二機へ無線を使った。

「ジュエル。お前は右側から、グロウは左側から『ヴィマナ』の援護。俺は正面だ。…胸の赤いモノに注意しろ。何が起こるか分からない。」
「…了解。」
「まずは攻撃してみて、様子見ですね。」
それで交信は途絶えた。目の前に猛スピードで白い生物が迫った。ロイはそれをひらりと避ける。そして垂直に上昇した。
その時、あるボタンを押した。
ガガガガガガガガ!!という銃撃音。
そのまま後ろに一回転。そしてもとの水平に戻る。結果的には銃弾を打ちながら宙返ったことになる。
見れば、何体かの人造生物がそれで頭をくだかれて落ちていった。(…頭が弱点だということは、まだ変わってないようだな。)
その時…ガッという音がした。
「!」
ロイはそれ見た。弾を体に受けた生物がこちらに手を広げていた。(なんだ…?)

No.47 09/05/04 21:44
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

音の正体は打ったはずの弾が機体に当たったものだった。
一度人造生物の中に入った弾が体内を通って手の平から出現し、ものすごい速さで弾き飛ばされていたのだ。

…ガンッガガ
続いて音が鳴る。
「……チッ。」
ロイは舌打ちをした。(正確に弾を撃ち込まないと危険…ってことか。)
機体を急旋回させて人造生物の反射攻撃をそれから全てかわす。そしてタイミングを計り、再びボタンを押した。
ガガガガガガガガ!!
すると、下に落ちて行く人造生物はさっきより数が増えた。
ロイは二人に無線を繋いだ。
「ジュエル、グロウ。出来るだけ一発で落としたほうがいい。」
「…分かってる。随分進化してるようだな。」
「困りましたねぇ。」冷静な声と能天気な声が帰ってくる。
ジュエルとグロウもアクロバッティングな飛行で着実に人造生物を落としている。
そして…『ヴィマナ』も攻撃を開始していた。強力なレーザーで敵を焼き払ったり、爆発物であるミサイルを使ったりしていた。
人造生物は先程の反射攻撃や金属を貫くことが出来る鋭い爪、他にも溶解液などで攻撃を仕掛けてくる。
動きも素早く、なかなか落とせなかった。
その激しい戦闘はしばらく続いた。

No.48 09/05/04 22:29
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

もうどのくらいかかっているのか、自分が何体倒したのかは全員分かっていなかった。
しかしそろそろ異変に気付き始める。

「…。きりがない…。」
ジュエルは呟いた。
そう。数が減らないのだ。それどころか、増えているような気さえした。続けて銃撃ボタンを押す。
ロイも気付いていた。「…どういうことだ…。」
弾を撃っては弾を避け、という動作を何回も繰り返しているうちにそう思うようになった。その時…『それ』を見た。
「な…?!」
ロイは、一瞬見たものが理解出来なかった。一体の人造生物の体から。もう一本首が出ていた。
徐々にもう一組の腕、足が生えてくる。そして、胸の赤い球が二つに割れた。
「…!」
ロイはその光景に目を見開いた。
翼も生えてくる。最後には、一体の人造生物は剥がれるように二体になった。
「……『分裂』だと…?!」すぐさまロイは『ヴィマナ』の指令部に無線を繋ぐ。
「こちら、第一戦闘機。人造生物の新たな生態を発見した。奴等は分裂する。胸の赤いモノは核の役割を果たしていると思われる。」『ヴィマナ』内は騒然とした。
「分裂だと…!」
「いくら少しずつ倒しても、奴等はきりなく増え続けると予想される…。」

No.49 09/05/05 22:44
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

>> 48 人造生物の数はますます増加する。三人は残り少ない弾を狙いを定めて打つ。
「…くそ…どうする。」
ロイは顔をしかめた。ザザッと無線の音がした。指令部からだ。
「…ザザッ!全機、帰艦せよ。繰り返す。全機、帰艦せよ。」
「…なんだって?」
ダンダンダン!
「…く。」
機体に人造生物が数体へばりついている。そして、溶解液で金属を溶かしていた。ロイは一瞬の判断で窓を全開にした。
そして自分の腰にある二丁の銃を取り出す。
ズドン!ズドン!ドン!!
そして撃った。すぐに窓を閉めると、激しい運転でそれらを振り落とした。無線の続きが聞こえる。
「…ザッ…ニトロ爆弾で…ザザッ…を吹き飛ばす…全機帰艦せよ…」
(…随分無茶するな。環境レベルに間違いなく影響がでるが…。)
「…了解。帰艦する。……二人とも聞こえたな。」
『了解。』
二人の声が重なった。三機は『ヴィマナ』に向かった。見れば、既に攻撃を受けて、所々煙を吹いている。
ハッチがゆっくりと開いた。そこへ誘導員に従って順番に三機は入った。
そして再びそれは閉じる。戦闘機からは全員降りた。
「…ニトロで対処できるだろうか…」
ジュエルは降りながら呟いた。

No.50 09/05/05 23:31
ARIS ( 10代 ♀ yhoUh )

>> 49 ガクンッ
と足場が不安定になる。『ヴィマナ』が急上昇したのだ。
まずあの大群から離れなくてはならない。大量のエネルギーを使い、出来るだけ速く移動した。
群れが遠ざかる。しかしまだ足りないようで、移動を続けた。


ある地点で『ヴィマナ』はやっと止まる。アナウンスが流れた。
「間もなくニトロ爆弾を投下する。衝撃に備えよ。繰り返す。ニトロ爆弾を投下する…」「…はあぁ。どうなることやら…。」
グロウは面白半分で言った。すると、
ヒューン……
何かが『ヴィマナ』から落とされる音が聞こえた。それから約2秒後のことだった。

まず、白い光が辺りを包み込んだ。次に来たのが爆音だった。

何もかもが一瞬にして爆風に飛ばされる。もちろん『ヴィマナ』もだ。
激しく機内が揺れた。とても立ってはいられない。
「………!!」
三人はその凄まじい威力に素直に驚いていた。空いた口も塞がらない状態だ。
だがやがて、光が消えて、辺りは静かになった。
「……凄い。」
一言ジュエルは言った。
「まさかこれ程とはな…」
ロイも感嘆する。
記憶がなく、知識しかない少年達には地球の兵器など未経験だったのだ。

投稿順
新着順
主のみ
付箋
このスレに返信する

小説・エッセイ掲示板のスレ一覧

ウェブ小説家デビューをしてみませんか? 私小説やエッセイから、本格派の小説など、自分の作品をミクルで公開してみよう。※時に未完で終わってしまうことはありますが、読者のためにも、できる限り完結させるようにしましょう。

  • レス新
  • 人気
  • スレ新
  • レス少
新しくスレを作成する

サブ掲示板

注目の話題

カテゴリ一覧