カヤの依存
自分の居場所と愛が欲しかっただけ…
一男二女。
カヤは戸田家の長女として生まれた。
宗教に熱狂的にハマる母。
堪え性と甲斐性のない父
兄ほど期待されず、妹ほど可愛がられていない事を幼い頃から痛いほど感じてきた
心にポッカリ空いた穴は成長を増す事に大きくなっていった…
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17歳になったカヤは(もぅ死ぬかもしれない…)とぼんやり考えていた。
12月に入ろうとしている長野の深い夜はカヤの体温を確実に奪っていた
もぅ三時間もコンビニの前に置かれたベンチに座っている。
手と足の先は寒いや痛いなどすっかり通り越して感覚がなくなってきている。
二時間前にコンビニで買ったホットの缶コーヒーは中身を全て残したままそのスチールの容器は外気よりも更に冷たくなっていた
>> 1
この3時間の間に色々思い出していた
子供の頃、イタズラをして母に怒られた…テレビのリモコンやコタツの角に頭を打ち付けられた記憶。
中学の時、空手をやっていた兄に暴力をふられた。ボコボコにされ痣だらけになり泣き叫ぶ私。
それを見て注意もせず仲裁にも入らず黙認している母
手当てはいつも保健室
だけど妹とケンカして、思わず突き飛ばしてしてしまったカヤには「チエちゃんが死んじゃう‼」と血相を変え、飛んでくる母
友達と万引きをし、警察に補導されたが迎えにこなかったのはカヤの親だけだった。
おまわりさんにまで同情され、最後に迎えにきた美也子の親に一緒に引き取って貰った
警察官から連絡を受けたのは母親だったそうだが、帰ると両親はいなかった。
父は仕事からまだ帰ってきていない。
母は警察から連絡がきた後、いつもの宗教がらみの集まりに行ったと妹から聞いた事…
なんとなく思い出していた
>> 2
カヤはこの年の夏に高校をやめた。
名古屋の専門学校に進学した兄から両親に送られてきた手紙を読んでしまったからだ。
母に相談もなく勝手に転職を繰り返す父で、経済状況は兄の進学まででギリギリだろうからカヤが進学するなら俺は辞めなきゃいけないだろう…。
もし俺が学校をやめたら一生後悔するだろう…
そんな内容だった。
カヤには夢があったが、進学できないなら高校は必要ないと思った。
兄が学校をやめたら、兄の中で自分のせいになるのも嫌だった。
カヤのせいで辞めなきゃいけないかもしれないという風に読めたから、兄が自分の事しか考えていない様で更に憎らしく思えた。
また自分が働きながら学校に通い進学費用を貯める自信もなく、そんなにお荷物なら、残りの高校の学費もない方が楽だろうとヤケになりやめた。
親は何も言わなかった
家出だった。
高校を辞めてから、カヤの住む町から車で一時間半掛る山の民宿に住み込みで働き出した。
両親との会話も無く居心地が悪かったので極力家にいたくない事から選んだ仕事だったが、シーズンも過ぎると観光客が減る。
民宿も宿泊客が減り暇になり、それまで週に二日の連休を貰い実家に帰っていたが、休みがどんどん増えていきとうとう週末だけ出るという具合になってきた。
今までは週五日働いた給料を、休みに帰った時に半分を親に渡していたが、週末しか働かけなくなってから、一時少しだけ盛り返してきた親との仲も再び悪くなっていった。
週末だけ山に籠る生活が面倒になり民宿を辞めたが、親がカヤの稼ぎをあてにしている気がして、新しい働き口を見つける気力は失せていた
>> 5
2、3日はカヤよりとっくに高校を中退している美也子の家に泊めて貰ったが、親とのゴタゴタを話すつもりは最初から無かった。
昔から他人に自分の話をするのが得意ではなかったカヤは聞き役の方が楽だった。
「カヤは❓」と話しをふられればなんとなくな感じで短く応えるだけだ。
そしてすぐ違う話しに切り替えて、逆に質問し返してまた聞き役に戻る。
心を開いていないワケではないが、自分の事を話すのを酷く億劫に感じていた。
美也子の家は両親が離婚していて父親と弟と妹の四人暮らしで、特に妹のサヤカとは歳もひとつしか変わらないせいか仲も良く、特に気を使う事も無かったが、このまま居させて貰うワケにはいかないと思い、「そろそろ家に帰るけど、また遊びにくるね」と普通に帰るフリをして美也子の家を後にした
>> 6
独りになったカヤはどうしようか…考えながらあてもなく歩いた。
しばらく公園にいたが人気が少なく真っ暗で、唯一ひとつある街灯が濃い闇を更に不気味に照らしている。
急に怖くなって公園を翔け出た。
大通りに出て一安心すると財布の中を見た。
千円札一枚と小銭が少しだけ。
コンビニに入り、店員を見るとユルそうな大学生らしき男が独り、✉をうちながら有線から流れる音楽にノッている。
客は水商売風の派手な女が独り雑誌を立ち読みしているだけだった。
カヤは静かに近付き、冷静を装い
「マルボロのライト下さい」
と言った。
若い男の店員はチラッとカヤを見ただけでごく自然にカヤから指定されたタバコの銘柄を差し出した。
カヤは最近タバコを覚えた。
>> 9
どの位時間が経ったろう。
女がコンビニを出てから客は誰も来ていない。
果てしなく長い時間が経った気がする。
体はすっかり冷たくなり、カヤはトイレに行きたくなった。
トイレを借りようと再びコンビニに入る
「ピンポーン」
来客を知らせる安っぽい電子音がなったがなかなか男は出てこない
「すみませーん」
面倒臭そうに男が出てきた
トイレを借りたいと言うと
「どぞ」
とだけ言い、またすぐレジの裏へと消えて言った
トイレに向かう時に時計を見るとタバコを買ってからまだ一時間しか経っていないんだと気が遠くなる思いになった。
トイレから出て少し立ち読みをしたが相変わらずあの店員は出てこない。
貼る用のカイロひとつとホットの缶コーヒーを持って再びレジ奥に声を掛け精算して貰い、コンビニを出た
>> 18
男はバンドマンだと言った。
中学からバンドを組んでいて、高校を卒業してから東京でギターの専門学校へ進学したが、数週間サボったある日授業に出たら全然ついて行けなくなり、自信があっただけにかなりのショックを受けた事、結局そのまま辞めてしまった事、一緒にサボった挙げ句、学校を辞めた友達とバンドを組んでライブもしたが、自分を含めてそんな中途半端な人間が集まっても良いものなんか出来るワケもなく、メンバー内でケンカも増え、モチベーションも下がり、現在は活動もしなくなり実質解散した様なもので、バンドマンと言っても今の自分はただのプーだと言った。
今も東京で住んでいて、たまたま二日前に帰省してきている事。
東京での生活はそこそこお金のある親からの仕送りをパチンコで増やして生活している事
そんな事を飾らず正直に話してくれた事に、カヤは驚いたが、同時に嬉しくなっていた。
普通の人が引いてしまう様なダメな所が自分と重なり、親近感を覚え、なんだか変な安心感が出てゆったりリラックスする事が出来た
>> 19
いつの間にかふたつ隣り町まで来ていた
カヤも男もトイレにいきたくなったので、大きな公園の駐車場に車を止めた。
ここには小さい頃何度か家族できていた。
旅行や海水浴などには金銭的にも、労力的に面倒臭いのとで連れていかない父が、その代わりに仕方なくしぶしぶ連れてきた場所だったが、カヤにとっては近所の公園にはない螺旋状の滑り台があり、嬉しかったのを覚えている。
エンジンを止め、二人は車から降りた。
男女隣り合せで離れているのでそれぞれの方向へ進んだ。
この公園のトイレは市営なだけあって広さや設備も整っていて綺麗だったが、蛍光灯が薄暗く、個室に入ると更に光が行き届かず、カヤは怖くなった
>> 24
そんな男の気遣いがカヤは嬉しかった。
車に戻ってからまたお互いの話をした。
トイレの一件で先程より更に心を開き始めたカヤは、学校を辞めた話や親や兄を嫌っている理由、妹が生まれてから親や兄、はたまた親戚までも扱いは変わり、愛情は全て妹の所へ行ってしまったが、妹の事は恨む気持ちはなく、逆に自分が親に迷惑を掛けている為、それを見てきた妹は中学生になってた今でも反抗期にもなれず、いつもイイ子でいようと努めているのが何となく伝わってきて、申し訳なく思っている事など話した。
自分の事を話すのが面倒で嫌いだったのに、男の前ではスラスラ言葉が出てきて、カヤは夢中になって話していた。
自分でも驚きが隠せず、本当はずっと誰かに聞いて欲しかったのかもしれないと自覚した
>> 25
カヤが興奮しながら一通り話し終えてそれまでカヤの話しを黙って聞いていた男は
「寂しかったんだな…」
と言ってカヤの頭を優しく撫でた
そして男も両親を好きでは無い事、父は養子で母方の父の会社を継いだが、祖父が死んでからはあまり力を入れなくなり会社は傾いた。しかし祖父の残した財産と母の仕事の給料も悪くなかった為、ぐうたらしている事、また自分の意見なども言えない男だと、
そし母は昔喫茶店を開いていたがそこに来ていた客と不倫をし、今はその男の会社でそれなりの立場も給与も与えられ働いていて、家事や育児は昔から一切祖母に任せきりであまり家にも帰ってこない
自分は同居していた祖父母に育てられた様な物で両親を親という意識で見た事がない事
仕送りはおそらく母の愛人が出しているので、それで東京で生活する事には特に罪悪感もなく、むしろ利用してやってる気持ちだという事まで話した
>> 29
生まれて初めてラブホテルへ行ったのも、この彼とだった。
しかし最後までは受け入れ切れず、最初はカヤのペースでイイと言ってくれてた彼もだんだん苛立ちを見せてきた。
ラブホテルへ行きたがる彼、最後までは出来なくてもカヤの体を会う度求めてくる。
何故最後が受け入れられないのかカヤも考えた。
カヤを好きならひとつになりたいのは当たり前な事だとわかっている。
体のあちこちを触られる事に何の喜びを感じないカヤは、自分が彼を愛していないんだという答えを見付けた。
家族ともうまくいかず、学校もつまらない、そこからくるやり場のないストレスを忘れたくて、寂しさを紛らせたくて、彼を利用してしまったのかもしれないと気付いた。
正直に彼に告げた
>> 32
カヤは美也子に相談した。
カヤにそんなに想っている人がいたなんてと驚いていたが、カヤが話してくれた事に美也子は嬉しそうにしていた
「それは告るしかないでしょ!」
美也子の答えにカヤは戸惑った。
自分から告白をするなんて、今までした事も無ければ考えてみた事も無かった。
想像しただけで緊張し、自分にそんな勇気はとてもないと思った。
しかし今まで自分の内だけに秘めていた想いを、美也子に打ち明け、初めて口にした事で更に気持ちは膨れ上がっていった。
「そんなに好きだったら伝えなきゃ勿体ないよ!!
フラれてもイイぢゃん、伝える事に意味があるんだから!」
確かにこのモヤモヤした苦しい気持ちをいい加減どうにかしたいと思った。
告白する事でスッキリ出来るなら、前に進めるなら、例え傷付いてもそれでイイやと思えてきた
>> 38
男は一瞬意外そうな感じで少し驚いた風にカヤをマジマジ見たが
「おぉ!吸うんだ!これは失礼、どぞ」
と灰皿を開けた。
「最近覚えたんです、ダメですよね…」
「いや、俺も吸ってたから同じ」
カヤがタバコを咥えると男はカヤのタバコに火を付けたライターを差し出した。
「ありがとうございます」と頭を下げ、一口吸ってからゆっくり煙を吐き出してから、意を決して男に聞こうとしたその時
「好きな男が出来たって…フラれた…」
男が先に話し出した
「高2の時、違うクラスだったんだけど、文化祭でギター弾く姿見て惚れたって告られて…」
見た目も可愛かったし、その時彼女もいなかったからまぁいいかと思い付き合ったが、男は日に日にみるみる彼女を好きになっていった。
高校時代は順調に付き合っていたが卒業して、男は東京のギターの専門学校へ、彼女は地元に残り美容師の専門学校にそれぞれ進み、遠距離恋愛となった
お互いそれぞれ忙しく、なかなか会う事が出来なかったが、それでも距離に負けまいと、彼女に寂しい思いをさせまいと、男は電話やメールで頑張っていた
>> 42
男の実家は、カヤの住む町から車で40分も掛かるA町だと言った。
久々、高校時代の友達の家に遊びに行き、その帰り道、タバコを買おうとあのコンビニに寄った事、カヤに声を掛けられた時、一瞬コレが新手の逆ナンパってヤツかと思ったが、カヤの尋常ぢゃない真剣な表情に、コレはマジなんだ!と悟ったと笑いながら話した。
カヤも、アレは自分でもよくわからない。
きっとその位極限状態に陥っていたんだと話した
「オニイサン、私の命の恩人だね!」
「ひとりの少女の命を救えたなら良かったよ~」
「でもイイ人で良かった」
「確かに!アレはマジあぶねーぞ!!」
確かに改めて想像すると、我ながらなんて恐ろしい事をしたんだと思った。
>> 43
赤信号に車は静かに停車した
「オニイサン!私の好きだった人、あそこで宅配のバイトしてるらしいよ!」
とカヤは目を輝かせて丁度助手席側から見えるデリバリーピザの店を指差し出した
「え……」
男は一瞬目を大きくし、それから急に表情が曇った
「そいつの名前って…もしかして…黒沢…?」
「えッ?!!そーだけどッ?!何で?!何で知ってるの!?」
カヤは急に男に、見事あの人の名前を言い当てたられた事に驚きを見せた
「マジだ…俺のさっき話した元カノの今の男だわ…」
そんな事って…そんな偶然があるのかとカヤは、冷静になりきれない頭で必死で考えた
確かに…あの人はカヤの一歳上…男とその元彼女の二歳下になるあの人の彼女はあの人の二歳上だと言っていた男の口からも元彼女の2コ下だと聞いた
まず年齢は一致した
男の通っていた高校は、男の実家の近くだが、カヤの町からもギリギリ学区内
元彼女がカヤと同じ市から通っていた可能性は充分ある…
それにしても世間は狭すぎる…
こんな偶然って…
カヤの好きだったあの人の彼女は、かつて男の大切な人だったのかと思うと、カヤはなんとも苦々しい気持ちになった
>> 47
「ううん、大丈夫ありがとう
オニイサン行ってくれば?」
「ぢゃあ、行ってくる
待ってて」
男が車を出ていくと
「ふぅ…」
カヤは深いため息をついた。
男の気持ちを想像する事を辞めた。
きっとそんな事を男は望んでないだろう…と思ったからだ。
男が暖いコーヒーを持ってを帰ってきた
「さっきのもぅ無いでしょ!
飲んで…
あッ!コーヒーで良かった?!」
「コーヒー好きです」
今度はカヤが元気よく応えた。
それから車を止めたまま、またお互いの話をした。
学生時代どんな風に過ごしたか、こんな友達がいた…など他愛もない話しが凄く楽しくて、カヤは自分が話すのも男の話を聞くのもワクワクした。
また男もカヤと同じ様に見え、それが嬉しくてまた楽しくなった
しばらくするとカヤはまたトイレに行きたくなった。
コーヒーがきいてしまった様だ
>> 49
カヤが用を足して男の元へ行く
「おかえり。
ちょっと歩く?
アッ!でもさみーよね!」
「ううん、全然平気!
歩こうよ!」
少し歩く遊具のある広場があった
「ブランコやりたい!!」
カヤは子供の頃に戻った様にはしゃいだ
- << 51 夢中で遊具から遊具へと走っては移動しながら、一通り遊び終えても上がったテンションが下がる事はなく、本当に童心に返ってしまった様にさえ見えた… カヤのテンションは車に戻っても、直も下がらず、しりとりゲームやあっちむいてホイををせがんでは男に付き合わせた 男は嫌な顔ひとつせず、笑いながら全てカヤに付き合ってくれた。 「ぢゃあ、次何やろっか!」 「指相撲やろうぜ! ハンデとしてカヤは指二本使っていーよ!」 初めて男がゲームの提案をしてくれたので更にカヤを楽しい気持ちにさせ、テンションは下がるどころか益々上がってゆく… ここまで上がるとまるで酒にでも酔っているかの様にさえ見えた 「よーしッ! 絶対負けないからッ!!」
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