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俺達の Love Parade In The Novel

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I'key( 10代 ♂ GDnM )
10/07/24 17:16(更新日時)

I'keyと申します。
ミクルでの小説も第三作目になりました。
今回は初挑戦の『恋愛』がテーマです。自分でもいったいどうなるのかわかりませんが、頑張って少しでも楽しい作品にしたいと思っています。
応援や感想、アドバイスなどはもちろん大歓迎です。気になったことはどんどん教えて下さい。

それでは、開幕

No.1158245 08/07/08 22:31(スレ作成日時)

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No.1 08/07/08 23:14
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

Prologue――



俺が彼女に『出会った』その日――それは一面の蒼のキャンパスに痛いほど高く太陽が描かれた、どこにでも転がっている初夏の一日だった。
図書室の窓から見える木々の緑は無機質なほどに冴えかえって、まるで水彩画を見ているみたいに不思議に清々しい心地がしていた。
俺が図書室に来たのも、彼女が図書室にいたのも……偶然。
でも、たまたまっていうのはちょっとつまらない。
やっぱり、必然にしておこう。……訂正だ。
その瞬間の図書室を、例えば天才的な画家がパッと写し取ったなら、彼女はその中心で女神になったんだろうな……と思うのは多分俺のひいき目だ。
彼女は吹き込む風に髪をたなびかせながら本を読んでいる。
長い黒髪はそよ風に分かたれ、つながり、まるで影絵のように見える。
その空間は彼女を中心にして、確かに彼女を中心にして存在していた。
何もない俺は、ただその姿を見つめていた。
その時俺はただの高校生で、彼女は小説に夢を見ていた。
そして、夏から秋へ短い季節が何気無い速度で通過したとき。
俺は小説に何かを託していて、彼女は俺の大切な……少なくともすごく大切な人だった。

No.2 08/07/12 03:39
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

Chapter1――



突然だが、人間の睡眠への欲求――特に学生のそれは果ての無い地平線の如き、スペクタクルじみたところがある。
ガバッ、と俺は誇張ではない音を上げて目を覚ます。
時計を見た瞬間から戦いは始まるのだ。
8:10……
学校までチャリで20分、飛ばして15分……よってタイムリミットは10分だ。
ドドドドッ、とこれまた誇張でない盛大な音を立てて俺は階段を駆け下りる。
「レン、ご飯は?」
「いらない」
「知ってる~」
「じゃあ訊くなよ」
味噌汁をすする母とのこの会話もパターン通りで意味が有るのか無いのか……どっちにしろ俺の分は用意していないのだ。
洗面室に突入。電動歯ブラシを口に突っ込み同時にワックスを髪に馴染ませる。歯ブラシを手を使わずに舌で操る術は長年の苦心の作、友人一同も満場一致で認める神業だ。
髪は正真正銘の『無造作』ヘアーでまとめる。
残り5分……俺は不敵な笑みを浮かべた。
十分だ。
俺は疾風となって二階へ駆け上がる。
練達の学生は夏服を1分で着ることが可能だ。
俺は淡いグリーンのワイシャツと薄手のスラックスを着込む。
最後に鏡で確認。
今日が始まる。

No.3 08/07/12 04:15
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

🏫1🏫



「じゃあ俺行くわ」
「行ってらっしゃ~い」
母の弛んだ声を背に俺は家を飛び出した。
雲一つ無い快晴が目にしみる。――今日は暑くなりそうだ。
俺は颯爽と愛車のチャリに飛び乗る。整備は万全。一秒を争うこの世界では整備不良は死を招く。
門を飛び出し左に切れる。下りで一気に加速。見通しのいい坂、下って登った先に俺の通う学校――東桜学院高校の時計塔が見えた。
底辺まで最高速度で到達、ここからが正念場というものだ。
下りで稼いだスピードは住宅街の登坂道にみるみる食われていく。
中盤で完全に失速した。いよいよ腕……もとい、脚の見せどころだ。

脚に力を込め、立ち漕ぎでグングン再加速。道中で苦戦する同志たちを抜き去る。
――仲間の屍を越えて走り抜け、俺!
これもまた一年の時分から遅刻寸前の死線をくぐり抜けてきたたまもの。二年になってダレた連中とは踏んだ場数が違うというものだ。
「おはよー、レン。ちょっとは余裕ある日って無いの?」
背後からの声に俺はスピードを緩めずに振り向いた。
綺麗に日焼けした小麦色の肌に、ショートヘアの女子生徒。そこには神埼朱音の姿があった。

No.4 08/07/12 19:46
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

🏫2🏫



「お前だってギリギリだろうが。人の事言えるか」
俺は無視して加速する。もう少しだ。
「アタシは貧弱なレンと違って余裕なの。こんくらいの坂でヒーヒー言ってるあんたとは精神的余裕が違うの」
朱音は息も乱さず「じゃあね~」と笑って俺を追い越していく。いったいこの女にとって『坂』とはどの程度のレベルを指すのか。
女でありながらこの俺をやすやすと抜き去る脚力……まさしく化物だ。
と俺はひとしきり毎朝の朱音の怪物性について考察した。
「待てよっ!」
俺は渾身の力で朱音に追いすがる。
「無理すると体に悪いよ」と朱音はニヤニヤしている。
「この坂に生きる東桜生として、女に負けたままおめおめ引き下がれるか。散っていった仲間たちの魂を見せてやる」と俺は芝居がかった口調で無謀な決闘を挑む。
「ふーん、毎朝懲りないね」
「俺だって三回に一回は勝ってるぞ」
「違うでしょ、三回に二回アタシに負けてるの」朱音はケラケラ笑っている。
「今日から俺の華麗なる連勝街道が始まるんだよ」
「負けたらジュースおごりね」
「今日は朝から調子いいんだよ、この戦は俺が貰う」
「じゃあ競争っ!」

No.5 08/07/12 20:25
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

🏫3🏫



残りは5分、いよいよ坂が殺気立ってきた。出遅れれば駐輪場が埋まってしまい……ジ・エンドなのだ。
よって全員が渾身の力を振り絞り頂上を目指す。その様子は言うなれば和製ツール・ド・フランス。この瞬間、俺たちはガリビエ峠を攻める歴戦のローディーと化す。
加速する朱音に追い付き、後ろに付いてチャンスを窺う。校門を通る瞬間に一気に追い越す作戦だ。
だが、それは朱音にしても百も承知。スピードに任せて俺をチギりにかかる。
「そう簡単には勝たせないぜ」
俺は更に加速して朱音を捕まえる。
「むっ……今日はけっこうやるじゃん」
校門が見えた。俺たちは並んでゴールを目指す。加速、加速、加速……ゴール!
ほぼ同時だった。
俺たちは一旦止まり、息を整えた。
「今日は……引き分けだな」
「そうだね……まあ、こんな日もあるよね」
今日は遅刻寸前車軍団の中ではトップなので、ここから駐輪場までの短い道程を急ぐ必要はない。
「今日は勝てると思ったんだけどなぁ……」
「残念だったね」
ゴゴゴゴ……
突然背後から戦車のような走行音が聞こえてきた。
「坂のヌシが……『赤い彗星』が来たか」

No.6 08/07/14 01:55
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

🏫4🏫



「オース!レンー、アーカネー!」
ニコニコ顔の男子生徒が恐ろしいスピードで走ってくる。この坂のヌシ、風間春彦だ。
春彦は俺たちの目の前で車体を横に滑らせて映画のようにブレーキする。映画と違うのはそれがバイクではなく、赤いチャリンコだということだ。

毎朝登校時間と激坂の二重苦にもがく者の中で、風間春彦の名を知らない者はいない。
奴の脚力といったら半端ではない。俺や朱音など赤子同然だ。
毎朝赤いチャリで上り坂を下り坂の如く、まるで自然の摂理を無視した爆走を繰り広げるので、生徒たちからは『赤い彗星』、『通常の三倍』などと言われて恐れられている。天下無双、紛うことなき坂の王者だ。
「お前のその致命的なスピードはなんとかなんないのかよ」と俺は軽く嘆息しながら呟く。
「俺はみんなの夢なの。坂を登る生徒たちのドリームなのだ。俺が遅かったらみんな学校こなくなっちゃうよ?」
「なにそれ~ハルヒコ今日もバカみたいじゃん」
朱音はバカみたいにケラケラ笑っている。
「俺はバカじゃない!少し勉強ができないだけだ!」と春彦は真面目な顔で反論した。
「ん?なんか忘れて……」

No.7 08/07/15 01:45
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

🏫5🏫



何かすごく大事な事を忘れているような……
「おい、ヤバい、遅刻するぞ!?」
俺は時計を見る、あと二分しかない。
「ハルヒコがバカなせいで……」
「だから俺は断じてバカじゃ……」
「いいから走れ!」


駐輪場は既に大方埋まっている。
「レン、チャリどうする?」
「そこらへんに止めとけ。朝のホームルーム終わったら動かすぞ」
とりあえず邪魔にならない所に三台ちょこんと並べて校舎に駆ける。もはや秒単位の勝負だ。
「もう無理じゃない?」
朱音が弱音を吐く。
「いや、まだ40秒あるぞ。俺のは電波時計だから証拠になる」
「そうそう!たしかレンは一年の時にその時計で残り10秒でセーフという偉業を……」
「春彦、黙って走れ」
俺たちは風となって廊下を疾走した。
階段を一段跳びで登ると、すぐに2年1組の教室が見えてくる。近くてよかった。
扉に手をかけて勢い良く開ける。
時計を確認。
8:34:54
最後まで諦めない者だけが勝利を手にするのだ。
「よっしゃ!唐澤先生、残り6秒でセーフです!」と俺は高らかに宣言した。
しかし、そこにいたのは担任の唐澤先生ではなかった。

No.8 08/07/16 16:53
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

🏫6🏫



「ん?なんで遠藤先生が?」
そこにはヒョロヒョロの我らが唐澤担任とは似ても似つかぬ、屈強な肉体に黒人並に日焼けした肌が印象的な遠藤先生がいた。
「唐澤先生は今日は休みだぞ。高熱で動けないから休みます……だと」
ヒョロいのが災いしたらしい。だが、むしろ災厄はこっちだ。
「それはさておき、お前ら……こんなギリギリに来やがって、今年から朝の10分は読書の時間だと指導があったろうが」
代わりに遠藤に当たるとは……とばっちりだ。
「そんなの誰もやってませんって。そもそも10分で読書って無理でしょ?」
春彦が明らかに無駄な口を挟む。悪意の無い春彦の顔に、朱音ですら落胆している。
「お前ら放課後ちょっと来い。その駄目根性が直るように奉仕活動をさせてやる……遠慮するなよ?」
遠藤はむしろ楽しそうだ。忌むべきサディストめ。
今度は春彦の口がむずむずしている。まだ何か言うつもりか?
危険な兆候だ。
俺は春彦の首を引っ張り、黙って自席に引き揚げた。

遠藤は出席と連絡だけ確認して早々にホームルームを切り上げた。が、「ちゃんと来いよ」と俺たちに念を押すのは忘れなかった。

No.9 08/07/16 17:48
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

🏫7🏫



「奉仕活動だってさ。よかったな」
10分でちゃんと本を読んでいた周防統矢が早速軽い嫌味で攻撃してきた。
「うらやましいだろ」と俺は返す。
「まったくだね」と統矢は得意の微笑状態で言った。
「じゃあ譲ってやろうか?」
「あいにく遠藤の下で働く趣味はないんだ」
と、俺と統矢の会話はいつもこんな感じだ。
統矢は俺の友人としてはもったいないくらいの優等生だ。「勉強?なんだそれは?」とか言いつつテストではちゃっかりトップ3。郷党の鬼才、同期の星だ。
「ハルヒコがバカなせいで無駄な罰が~」と朱音は春彦に文句をたれている。
「だから俺はバカじゃないって……てか俺のせい!?」
「あれを自分の責任と認識できないなら、お前は真のおバカさんだぜ?」
「トウヤの毒舌ってなんとかなんないかな~……てかやっぱ俺のせい!?」
「てかお前のせい!?だろ、確実に」
俺は春彦の口調を真似て言った。
「レン、地味にヘタだよ」
「言うな朱音。真実は時に残酷。聞くに堪えないモノマネも黙って笑うのが真の友情だ」
「そういうお前の嫌味が一番効くぞ」
「それはよかった」
いつもの四人が揃った。

No.10 08/07/19 15:03
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

🏫8🏫



『いつもの』というのがいつから『いつもの』かと言うと(なんだかややこしい言い回しだが……)全員揃ったのは中学の時だった。
もともと俺と朱音は幼稚園も一緒の幼馴染み、朱音がボケで俺がツッコミ。園でも屈指の名コンビ……だったと当時の先生が言っていたが、素直に喜ぶべきなのかは一考に値する。
小学校に入ってから、すぐに春彦と友達になった。あいつはまあ、ああいう性格だから誰からも好かれていたが、俺たちが一番の仲良しだった。その理由を本人は『なんていうかな~フィーリング?みたいな?』と馬鹿丸出しに解説している。ボケが二人に倍加したのでツッコミの俺は多忙を極めた。

中学に入学して統矢と出会った。奴はクールで無口、いつも我関せずのスタイルだったので、入学当初は難しい思春期の女心に非常に好評だった。しかし誰彼構わず毒を吐き散らす口癖の悪さは当時から健在で、アタックするものは尽く玉砕。触るもの皆傷付ける統矢の姿勢はクラスから瞬時に浮いた、いや飛んだ。それでも前述の通り『我関せず』なので、彼は孤立無援も臨むところの唯我独尊。クラスと統矢の溝はますます深まっていった。

No.11 08/07/19 18:26
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

🏫9🏫



まあ、統矢は最初はそんな感じで、近寄り難い存在だったことは俺にも同じだ。

話は変わるが、一年の時の俺たちの担任は新任の女性教師だった。酷く心配症なところがある人で、統矢の確執に随分頭を悩ませていたらしい。

そこで……何故か俺に白羽の矢が立ってしまったのだ。不本意な事に彼女には俺がクラスのまとめ役のように映っていたようだ。

「彼、ちょっと浮いちゃってるでしょう?……確かに一人が好きってコもいるけどね、でもやっぱりそういうのって良くないでしょ、学校って社会性を養うところでもあるからね、そうでしょ、夏目君?」
「はあ……まあ、そうかもしれないですね」と俺は職員室の、先生の机の横で曖昧に同意していた。
「自分ではこう……弱いところを見せられないっていうか、ほら、そんなコいるでしょ?やっぱり彼も本当はみんなと仲良くしたいんだと私は思うのね」
「はあ、なるほど」
何やら雲行きが怪しくなってきた。
「それでね、夏目君だから頼むんだけど……周防君と仲良くしてあげてくれないかな?ほら!キミと仲良くなればみんなとも打ち解けられそうだし!」
無理難題が登場した。

No.12 08/07/19 20:32
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

🏫10🏫



俺に対する先生の評価は明らかに過大だった。
正直に言うと俺は人付き合いは苦手な方だ。友達だって多くはない。
クラスの中心は春彦に他ならなかった。それに俺がツッコむ、一同笑……その過程を俺が人気者だと勘違いしたらしい。
その俺に統矢の相手をしろ、と先生は言うのだ。

不毛、果てしなく不毛だ。

しかし、俺は「無理ッス」とは言いたくなかった。先生を悲しませたくなかったし、良いところも見せたかった。理由は……若かったからだ。それ以外に言いよう無し。

ということで、俺は何とかして統矢との友情を育み、しかるのちにクラス全体の融和を図ることになった。
とはいっても統矢の毒舌魔城は難攻不落、俺のような健全な感性を持った一般人が粉骨砕身の意気で臨んだところで、骨が粉と化し、身が砕けるのは明らかだ。
なにせこの頃が一番口が悪かった。今なんて大人になったというか……だいぶ丸くなった方だ。中一の頃は相手の気持ちなど無視の極みであったから、気に入らなければ本当に、容赦なく精神を攻撃してしまう。
そこで、俺は奇策を弄した。あえて正反対の春彦をぶつけてみることにしたのだ。

No.13 08/07/20 13:46
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

🏫11🏫



それで適当に統矢と春彦を引き合わせてみたところ……存外にうまくいってしまった。
春彦と統矢の相性は奇跡的だった。というのも春彦は本物のバカなので統矢は毒を吐き放題、しかも春彦はバカの上に異常にポジティブという救いようの無い性質を有していたので、統矢の毒舌嫌味を一切気にしなかった。というかむしろ一種の愛情表現として受け取っていた感があるくらいだ。
統矢曰く「こういうタイプは初めて」だったらしい。今まで適当に喋ると全員逃げてしまったが、春彦は別だった。というわけだ。
そうしてめでたく春彦は、統矢からオモシロイ奴として認定された。
しかも都合の良いことに、統矢の春彦への嫌味は絶妙のツッコミっぽく見えた。実は当事者でなければ、統矢の嫌味は語彙が豊かでユーモアに溢れた、『聞いててけっこうオモシロイもの』だったのだ。
そこからなんだかんだの紆余曲折があり、結局統矢はクラスに完全に溶け込めた。先生の予測はあながち間違いでもなかった、ということか。
春彦つながりで俺たち三人ともだんだん仲が良くなり、中三の頭ごろには四人でつるむようになったとさ。

という感じだ。

No.14 08/07/21 14:43
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

Intermission   



こんにちは、作者のI'keyです。今回は章立てして話を進めます。そこで、章間にこういう形であらすじの紹介とか無駄話とかをやってみようと思っています。

第一回は過去作紹介と本作のテーマです。

本作は「誰も見ない月」、「百丁のコルト」に続く三作目となっております。
誰も見ない月はいじめがテーマで、死んでしまった親友をめぐる短編小説です。恐らく雑談の過去ログに眠っています。
百丁のコルトは殺人ゲームに参加させられる大学生の視点を通して、生と死を主軸に巨大な陰謀と謎解きを描いた中編小説になっています。まだ携帯小説スレにあると思います。


基本話が暗い……のです。これは陰気で良くない。


それで、明るい人の死なない話を書こう。と思ったのが本作になっています。テーマは「恋愛」ですね。
それに合わせて文体もライトノベル風にシフトしている……つもりなんですがうまくいってますか?
こういう軽い文章は嫌いだよ!という読者の方もなんとか読んで頂けたらな、と思っています。
感想等もお待ちしております。苦言歓迎です。

I'keyでした。

No.15 08/07/21 16:36
0311 ( ♂ 9L2Ch )

書き慣れてる感じですね…。表現が巧くて面白いです。ただ初めの方は、少し、凝りすぎてる気がしました…あっ、いや、気にしないでください……。更新楽しみにしてます。

No.16 08/07/21 18:57
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

>> 15 0311さんはじめまして。
御指摘ありがとうございます。
凝りすぎている、ですか……さっき読み返してみましたが、確かにうざったい感じがありますね。
スタートだからとちょっと力が入り過ぎたみたいです。

また何かお気付きでしたら、遠慮無く教えてください。凄く参考になります。
面白い小説が書けるよう精進しますので、今後ともよろしくお願いします。

I'keyでした。

No.17 08/08/01 00:24
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

更新遅れて申し訳ありません。
テストとレポートに追われていました。まだ軽く追い回されているんですが……
でもなんとか最大の山は越え、試験も一段落しましたので更新を再開したいと思います。

No.18 08/08/01 00:51
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

Chapter2――



ふっと、水面から顔を上げるような心地がして、私は目を覚ました。
そういうのは悪い気分じゃない。ただ未練が無いだけだ。
カーテンを開けて、その日の空を少し眺める。私の日課のようなものだ。
空には夏特有の、立体的な高さがあった。雲は一つも見当たらず、澄んだ青色だけが寝起きの瞳に眩しく映る。
ん?……青より蒼かな?……それとも水色?
私はこんな風に、その日の空を表す色を考える。……どうやら普通の色ではしっくりこない。
「うーん……浅葱?」
少し考えてみて、古典の色に候補を見つけた。
浅葱色……透き通っていて、淡く、水色に近いような、それでいて純粋でない濁りのある色だ。
うん、悪くない。
色合いも、「アサギ」という語感もなかなか今日の天気と相性がいい。
今日の空は浅葱色。決定。
よし、と一人で頷いてから、私はやっと時計を見た。
6:00
私は軽く溜め息をついた。目覚ましもかけず、毎朝きっちり六時というのも少し奇妙ではある。堕落した母の遺伝子を受け継いでいるのなら尚更だ。
私は無意識にパンクチャルだ。
とにかくいつも通り、ちゃんと朝は始まっているらしい。

No.19 08/08/01 01:15
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

☀1☀



私は部屋を出て、一階に降りた。
母はまだ起きていない。というかさっき寝たところだろう。
母は作家を生業としている。文学に生きる者として、それなりに健全な人格であって欲しいと私は常々思っているのだが、どうも母は堕落の星の下に生まれたらしい。
いたずらに締め切りに追われ、いざとなれば二晩三晩は平気で寝ずの強行執筆、原稿が上がれば丸一日寝っぱなしという不健康極まりない生活スタイルを常としている。
その上、現状を打開するために計画的に書こうとはしない。今を面倒臭がって、未来を余計に面倒臭くしてしまう、非建設的思考が母には染み付いているのだ。
しかし、そんな風にして書いた作品でも、母の小説は何故か面白い。独特の空気とか、あるいは見えない思想みたいなものがある。そういう抽象的な性質を付与するのはなかなか難しいことだと私は思っている。
だから母の作品のファンは多いし、恥ずかしながら私もその一人だ。
自堕落で良い作品が書けるならそれでいいし、下手に生活を矯正して、書けなくなったら私は悲しい。
だから私は母には何も言わない。今日は丸一日、ぐっすり寝ればいいのだ。

No.20 08/08/02 18:03
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

☀2☀



朝食は必ず取るようにしている。
トースト、スクランブルエッグ、それとサラダ。母の分を作っておこうかと思ったがやめた。どうせ夕方まで起きないだろう。

登校準備も早々に、私は『書庫』と呼んでいる部屋に入った。今日読む文庫を選ぶのだ。友達は皆、化粧やら髪型やらに随分時間をかけるらしいけれど、私にとってはこっちが大事だ。
書庫には、母と共用の巨大なラックが五台ある。そこに本がぎっちり詰まっている。入らない分は下積みになっていて、この分では近日六台目が入りそうだ。
いい作品を書くのに、いい本を読むことは欠かせない。一日最低一冊は読むように心掛けている。
私は背表紙を吟味する。リアルタイムで母が補強しているから、先月出版の本もある。
内容も大切だ。出来るだけ片寄りなく、いろんな本を読む。純文学、中間小説、エンタメ、恋愛、SF、ファンタジー、ジュブナイル、外国文学、古典……あまり得意ではないが、ライトノベルやケータイ小説にもそれなりに目は通している。
新しいのは勿論、一度読んだ本を選ぶこともある。
10分ほど悩んで、私は村上春木の『ノルウェイの森』を取った。

No.21 08/08/03 00:12
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

☀3☀



私は鞄を手に家を出た。陽光が白い手を伸ばして、私の髪を撫でた。
住宅街の緑は光を受けて、鏡面の輝きを湛えている。夏は暑くて苦手だけど、生命が一番輝く季節だ。
私は少し早足にバス停を目指した。別に急いでいるわけじゃない。なんか柄にもなく気持ちが弾んでいる。

今年の夏は、どうもいい作品が書けそうな気がする。

バス停で5分待って、定刻に来たバスに乗る。バスは姉妹都市を宣伝するカラーリングになっている。
乗り込むと、冷房に晒された空気が肌を打った。バスは、立ち客がいない程には空いている。
席に座って、おもむろに外を眺めると「発車します」という控え目なアナウンスと共に、ゆっくりと風景が動き出した。
私はただ、何をするでもなく流線の景色を見ていた。途中で少しずつ乗客が増え、少しずつ乗客が減った。
バスは退屈だ。
私はバスで本を読むことはしない。そういう行為は本が可哀想だし、自分のためにも良くない。本には読まれるべき時と場所があるし、読むべき時と場所がある。
少なくともここはそうじゃないはずだ。
だから私は、ただ静かに学校に到着するのを待つことにしている。

No.22 08/08/05 20:22
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

☀4☀



バスの窓から校舎が見えた。
東桜学院高校。
数多の名門大学に卒業生を輩出する、誰もが憧れるエリート私立高……
だったのは今はもう昔の話。少子化の波に揉まれ、生徒数は減少、学力は低下。現在では一介の中堅進学校に甘んじている。
でも、私は今の東桜の方が好きだ。
私は目前に広がった坂の頂点に鎮座する、その校舎を見た。
高い時計塔を頂く校舎。確か、70年くらい前に建て替えられたものだ。それを今でも使っている。
この町は、もともと大きくなだらかな山だった。その山頂に当たる場所に学校が立っている。時計塔はその中心で、天を貫く。その姿はまるで過去の栄光を誇るようで、それでいて一切衰えず、プライドを捨てず、まるで落日の王国を治める、最期の賢王のような……

……失言だ。口に出してはいないが。これではこの学校が廃校になってしまうようだ。落日の王国とは言い過ぎた。
とにかく、私はこの学校が好きだ。特に、坂を登るバスから見る時計塔が好きだ。この景色だけはバスに乗る利点だ。
雄々しく、誇り高い立ち姿。私は小説を書く時、登場する学校はここをモデルにすることにしている。

No.23 08/08/06 16:58
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

☀5☀



無人の教室が、私を出迎えた。
7:40
あと20分から30分くらいは私の貸し切りだ。
外からは運動部の活気ある声が響く。朝練だ。眺めると、グラウンドでは野球部とサッカー部が、テニスコートには男女テニス部が熱心に練習している。
こういう様子は、いい。文章にしたくなる。
……駄目だ。今はそういう時間じゃない。
私は視線を移した。
私の机は窓際だ。座ると、陽光が机上にくっきりとラインを引いた。
光と影、斜めに区切られた国境に、私は本を広げる。
『ノルウェイの森』
村上春樹の長編小説。読むのは二回目だ。

第一章
「僕は三十七歳で、そのときボーイング747のシートに座っていた。……」

私は、村上春樹は一応凄い作家だと思っている。
別に、面白いからじゃない。作品の完成度から言うなら、私好みじゃない。不完全過ぎる。勿論、それは予定調和的な不完全なんだけど……
私が凄いと思うのは、真似出来ないからだ。習作を書けない。彼の作品を模倣しようとすると、酷いことになる。
絵画に例えるなら、どうしても同じ色を出せない赤……みたいな。
私は暫く、彼の空間に取り込まれる。

No.24 08/08/06 19:05
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

☀6☀



ん……今何時?
少しのめり込み過ぎたらしい。
ふと、私は振り向いてみる。案の定だ。
右斜め後ろに、一人の男子生徒が本を読んでいる。
周防統矢だ。私の次は、だいたいは彼だ。
私の視線に気付くと、彼は顔を上げた。
「おはよう、一ノ瀬さん。今日も早いね」
彼はちょうどいい微笑を浮かべてそう言った。
「……いつからいたの?」
「10分前くらいかな。一ノ瀬さんって、本読んでると全然回り見えないでしょ?いくら熱中するからって、人が入ってくるのに気付かないのはどうかな?もし俺が変態だったら、後ろから襲われてるかも」
「周防君は変態なの?」と私は訊いてみた。
「残念ながら俺は紳士だ」と彼は残念そうに言った。
「じゃあ、残念ながら問題ないんじゃない?」
「俺ならね。例えば公園で本を読んでたら、近くに誰がいるかわからない」
「私は読むべき場所でしか、本は読まないもの」
「公園やら何やら、そういう所は読むべき場所じゃないんだ?」
「そう。だから大丈夫……周防君が変態じゃなければね」
「さすがに、未来の作家先生には敵わないな」
「嫌味のつもり?」
「それは勿論、嫌味だ」

No.25 08/08/07 14:03
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

☀7☀



「周防君の言うところの作家にはならない。私は小説をお金にすることに興味が無いの」
「君のお母さんとは違って?」
「私の母とは違って」
周防はくすりと笑ってみせた。
「知ってるよ。だから嫌味なんだ」
「だから嫌味なの?」
「そう」
周防は立ち上がり、綺麗な姿勢で私の隣まで歩み寄った。
「何、読んでるの?」
「これ?『ノルウェイの森』……」
「うん、それは良かった」
「良かった?どうして?」
「俺も読んだことがある。共通の話題ができた」
「それがなんでいいの?」
「朝二人で、しかも無言じゃ気まずくないか?」
「……別に」
「俺は気まずいんだよ。だから良かった」
「……そう」
周防は、なんか高校生らしくない。だからって大人っぽいわけでも、多分ない。
私に……似ている?
少しばかり、興味深い。次の作品に出そうか?
「ところで、面白い?それ」
周防が私の手にした文庫を指さして言った。
「面白い……わけじゃない。けど勉強になる」と私は正直な感想を述べた。
「そう。俺は面白かったけどな」
「どうして?」
「不完全だから。完全なら、それは小説の域を出ないだろ?」

No.26 08/08/07 15:58
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

☀8☀



完全じゃ、小説の域を出ない。周防の言うことは正しいと思う。現実じゃ、全ての謎が鮮明に解かれ丸く収まる、なんてことはない。
完全……それは予定調和だ。作家の予定であると、作品はただの幻想だと示してしまう。
だけど、私はそれでいい。
小説は幻想。夢を見るだけ。現実になんかなれっこない。
ピノキオとは、違うんだから。
夢を見る、なんて言っておいて、私には欠片も夢が無い。

「周防君は何を読んでいるの?」
私がそう訊くと、彼は文庫の表紙を見せた。
『伊豆の踊子』
川端康成の作品だ。筋は単調だけれど、人物の心理、特に情景に反映されたそれが美しい作品だ。情緒ある日本文学の代表。
「今度の文化祭の二年生公演、これをオリジナルに脚本してやろうと思ってるんだ」
うちの演劇部はレベルが高い。部員も多いから、文化祭では一学年ずつ独自に上演する。
「一ノ瀬さんみたいな人に脚本してもらえると助かるんだけどね」
「私は小説しか書かない。シナリオはお門違いね」
「冷たいな」
「できないことはやらない主義なの」
「まあいいよ、別の人に頼んであるから」
「……誰?」
「君の上司」

No.27 08/08/07 19:16
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

☀9☀



私の上司……?
「まさか……橘部長?」
「正解。そのまさか」
あの橘部長に物を頼みに行くとは、しかも承諾させた?
いったいどんな手を使ったのか。
「よく、あの偏屈自称天才女にうんと言わせたわね」
「ああ。確かに東桜の魔女の噂に違わぬ怪人物だった。何か変な呪文唱えてたし」
「というか、まずどうやって会ったの?」
部長には一般人では会うことすら容易ではない。学校には来たり来なかったりだし、運良く学校にいても教室にはいたりいなかったりだし、部室も同様だし、面倒になるとすぐ逃げるし、いつのまにか消えるし、かと思ったらいるし……仙人みたいな人なのだ。
「楠木さんに手伝ってもらった」
それで納得がいった。楠木なぎさは私の同級生。同じ文藝部に所属する、自称橘柑奈研究家だ。彼女ならある程度は橘部長の動きを把握しているだろう。
「それで、どうやって脚本の話を通したの?」
「紆余曲折の末に」
「……そう」
別に追求する必要は無い。いる時に本人に訊けばいい。
「それにしても、文藝部は凄いな。変人だらけの魔の異次元みたいだった」
「それも嫌味?」
「いや、率直な感想だ」

No.28 08/08/10 03:01
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

☀10☀



生徒の登校する様子は、津波に似ている。
始めは穏やか。ぽつぽつ生徒はやって来る。静かなものだ。
しかしそれは5分前になると、突如として廊下に溢れだす。いきなり来る。それも大量に来る。
一般生徒の朝は、遅刻5分前に集約される。皆、競うように出来るだけ遅く来る。チキンレースだ。だから制限時間が迫るにつれ、ますます生徒の波は荒れ狂う。
そして、担任の登場とともに途端に凪に戻るのだ。
今日の朝もだいたいはそんな感じだった。いつも通り、日常。
間違い探しをするなら、熱を出した唐澤先生の代わりに遠藤先生が来た。その一点だけだ。
タイムリミット……直前。
遅刻寸前で三人組が滑り込んで来た。
これも、いつもではなくても発生頻度は高い事象だ。
風間廉矢は自分の時計を指さして、セーフであることを高らかに宣言している。
だが、相手は体育会系まっしぐらの遠藤だ。そんな言い分は通用しない。
その遠藤にいちゃもんをつけてるのは坂のヌシこと風間春彦だ。無駄、というより逆効果の努力だ。
神崎朱音はその隣で溜め息をついている。心中お察しする。
まあ、彼等三人組もいつも通り。日常。

No.29 08/08/10 23:25
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

>> 28 ☀10☀の訂正



すいません。キャラクターの名前を間違えました。
風間廉矢➡夏目廉矢
です。
読者の皆様。失礼致しました。訂正し、お詫びします。

No.30 08/08/10 23:56
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

☀11☀



生きた人間でなければ、生きたキャラクターにはならない。
職業作家の母の言い分。だが、もっともだ。
だから私は学校でも人間観察を欠かさない。それを小説に写す。そうすれば彼等が勝手に小説を成立させてくれる。書き手はそれを適切に文章に変換するだけでいい。
人間観察は小説を書き始めた中学生の頃からの癖だ。もう染み付いてしまって、体から抜けない。

私は周防を加えて四人になったグループを見やった。彼等は面白い。夏の新作、主要キャラ候補だ。
夏目廉矢。通称レン。自然と人が集まるタイプだ。私の見立てでは主人公向き。でも無気力でフラフラした側面があるから、主役は案外上手くいかないかもしれない。まだ『候補』だ。
風間春彦。東桜の坂のヌシとか呼ばれて、一部の男子から絶大な人気を誇る。彼は夏目とは逆に、自分で周囲を引っ張るタイプだ。ストーリー進行に彼のような人間は欠かせない。
神崎朱音。スポーツ万能で、男子からの人気も高い健康的美少女、と言ったところか。彼女を出すメリットは別の所にあると私は思っている。だけどまだそれは未確認だ。
最後が周防統矢だ。彼が一番ややこしい。

No.31 08/08/11 02:00
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

☀12☀



周防統矢。頭脳明晰で、クールで嫌味ったらしい。でも、嫌われてるわけじゃない。むしろ好かれている。しかし彼本人は周囲に透明な悪意を持っているように思える。
しかしその矛盾を本人は内包しているようで、扱いきれていないようで……多面的でアンバランス。
でも、傍目にはきっちり整っている。
言葉にしようとすると、こんがらがる。周防は上手く生かせば、一番魅力的なキャラクターになるかもしれない。
私は彼等四人を見て、そんな事を考えていた。
「舞衣。何見てんの?……周防君?」
葛城優菜が私の視線を盗み見ていたらしい。
「舞衣は周防君がタイプなの?私ちょっとわかるかも」
「何で?」
「何で……?うーん、何でだろうねぇ?なんとなく、人と違う感じがするからかな。あんまり話したことないからわかんないけど」
「そう」
「じゃあ、なんで舞衣は周防君がタイプなの?」
「不思議な人格だから」
優菜は溜め息をついた。
「もしかして小説の話?」
私は黙っている。
「そうやって小道具みたいに人を見るのは、舞衣の悪癖だよねぇ……高校生らしく恋でもしたら?少しは人の見方も変わるかもよ?」

No.32 08/08/12 21:04
澪 ( 20代 ♀ ZnPK )

☆ I' Keyさんへ☆

“集い”から、早速やって来ました😊


学園love💕story😻
それぞれの感情や恋愛感だけじゃなく、対人面での気持ちとかも伝わります。
(b^-゜)

続きを、楽しみにしてますね☆

No.33 08/08/12 22:51
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

>> 32 澪さんありがとうございます。
今回はわかりやすさ、面白さを重視して書いていこうと思ってます。
『百丁のコルト』のような複雑なストーリー展開は封印して、キャラクターで楽しませるような作品にできたらいいなと考えています。

でも、難しいですね……ストーリーにばっか凝っていたので、キャラの立て方がわからない💦
でも、なんとか頑張って、少しでもいい作品にしたいですね。

No.34 08/08/13 00:17
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

☀13☀



私はその日、優菜の言葉と新作の構想を天秤にかけていた。おかげで、あっという間に授業は終わり、内容はほとんど覚えていなかった。
昼食に何を食べたか、そもそも食べたかどうかすら怪しいほど記憶が不明瞭だ。
これも悪い癖だ。一つの事しか思考出来ない。私の脳はそれほど器用じゃない。

優菜の言うことはわかる。確かに私は、人をまず小説の材料として見てしまう。それは良くないことかもしれない。
でも第一、彼女の言う恋愛だって私には小説を飾る手段の一つに過ぎないのだ。自分がその当事者になるなんて、考えたこともないし考えるつもりもない。

私は……おかしいんだろうか?

ふと、暗い不安がよぎった。
私は恋をしないんじゃない。出来ないのかもしれない。それを知りたくないから、逃げているだけなのかもしれない。
本当は小説だって、無意識の内に逃げ込んだシェルターなのかもしれない。不確定な現実が怖いから、確定的な世界を自分独りで作って、その中だけを見て喜んでいるのかもしれない。

『かもしれない』ばかり……杞憂だ。
部室に行く気分じゃなかった。私はそういう時、図書室に向かう。

No.35 08/08/13 22:41
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

☀14☀



私は教室の掃除当番だった。いつもと同じ、怠惰な作業だ。
私はゴミ捨てに行く人を決めるジャンケンに一人負けした。

ゴミ捨てを終えて、私は図書室に向かう。図書室は第一と第二があって、私は旧校舎の第一図書室に行く。
第一図書室に来る人は少ない。新書は新校舎の第二図書室に入るし、設備も良い。本も、第二に入らなくなった古いものしか無い。昔の図書室だから造りが古い。何やら幽霊が出るとかいう物騒な噂まである。
おかげでその日も誰も居なかった。……一人を除いて。
「ん……?舞衣ちゃんかな?」とカウンターから彼は顔を上げた。
「日下部先生……あっちに居なくていいんですか?あと舞衣ちゃんって呼ぶの、いい加減にやめてください」
「つれないなぁ。第二図書室は委員のコに任せてきたからヘーキだよ。彼女ら、俺より優秀だもん」
司書教諭の日下部卓弥は平気でそんな事を言う。
「先生は何してるんですか?」
「俺?幽霊に会いに来たの」
先生はデロデローと言いながら幽霊の真似をしている。
「またサボりですか?」
「まあね。邪魔しないから、気にせずどうぞ」
私は椅子に座り、本を開いた。

No.36 08/08/13 23:26
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

Intermission



はい。Chapter2はここでおしまいです。インターミッション第二回は物語の進めかたの話です。

お気付きかと思いますがChapter1では『俺』、Chapter2では『私』と視点がシフトしています。本作は二人の視点が章単位で交代して進んでいきます。
それで……過度に説明するのは良くないんですが、もし勘違いなさっていると読んでいて「ん?」となるので説明しておきます。
Chapter1とChapter2は同じ日を二人の視点で描いています。
Chapter1で俺(夏目廉矢)が遅刻ギリギリで来ます。あのシーンをChapter2で私(一ノ瀬舞衣)が見ている。ということです。
勘の良い方は次の展開が読めたかもしれませんね。

ついでに、ここまでの主な登場人物の名前の読み方も紹介しておきます。

夏目廉矢 (ナツメレンヤ)
神崎朱音 (カンザキアカネ)
風間春彦 (カザマハルヒコ)
周防統矢 (スオウトウヤ)
一ノ瀬舞衣(イチノセマイ)
橘柑奈  (タチバナカンナ)
楠木なぎさ(クスノキナギサ)
葛城優菜 (カツラギユウナ)
日下部卓弥(クサカベタクヤ)

No.37 08/08/17 01:01
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

Chapter3――



「あーあ。何で唐澤の代打が遠藤なんだよ……ついてねえなあ」
自転車を押しながら春彦が愚痴った。
俺、春彦、朱音の三人は朝留め損なった自転車の置き場を求めて、駐輪場を徘徊しているのだった。
「ついてないのはアタシたちでしょ!?……ハルヒコが変なこと言わなきゃ遠藤得意の奉仕活動は無かったかもしんないのにさ~」
朱音が春彦に冷たい視線を向けている。春彦はしゅんとして、うつ向いてしまった。
「朱音もあんまり春彦ばっか責めんなよ。起きたことは仕方ない」
朱音は思ったより怒っていたらしく、食い下がってくる。
「だってレン、ハルヒコがバカな事言わなきゃ……」
「罰は無かったか?」
「う、それは~……」
「春彦が言わなかったら罰が無かったとは限らない。それに遅刻ギリで来たのは事実だし、それは俺たち三人の責任だ」
「……」
「だからこの話は終わり。いいだろ、朱音?」
朱音はまだ少しむくれている。でも、ちゃんと言えばわかってくれる奴だ。
「レンは優しいな~、トウヤにも見習って欲しいよ。あと遠藤にもね」と春彦の声。
俺は素早く春彦の頭を小突いた。
「お前も調子乗んな」

No.38 08/08/19 01:21
アル『日 ( 30代 ♂ ycvN )

I'keyさん、こんばんは
(^O^)/

なかなか、チャプターごとに視点が違うのは面白い😚
同じ場面でも登場人物がこの時こんな考えをしていたんだとその人の考えが読者サイドに手に取るように分かる😊
「誰も見ない月」
「百丁のコルト」
とは、また違った物語を紡ぎ出すのは凄いことだと思います😲
強いて言うなら、今回の出だしは慣れない恋愛もののせいか、ちょっと固い感じがしましたが、そこはI'keyさんいつの間にか自分の味付けに戻ってグイグイと物語の世界に引き込まれました😚
これからの展開楽しみです。
大学のレポートに携帯小説と大変でしょうが頑張って下さい。応援しよるばい💪😤ムハッ💨
長文失礼🙇💦
では、集いにて…👋😁
アル🍺

No.39 08/08/19 10:50
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

>> 38 アルさん、感想ありがとうございます。

今回は短篇で、と考えていたんですが……早速長くなりそうな予感がしてます。

出だしは確かに……💧ちょっとやりすぎたかもしれません。気負い過ぎた感じですね。
というのも、今回は冒頭とラストしか決めてません。で、プロローグはラストの伏線になってて……あとはご想像にお任せします😊

『百丁のコルト』も冒頭が横断歩道のシーンで、ラストも横断歩道の似たようなシーンになってて……実は冒頭➡ラストの伏線エンディングになってる(アルさん気付いてました❓)んですけど、これは狙いじゃなくて思いつきだったんですね。どうせなら被せるか❗って感じのタダのノリなんです。
それで、今回は冒頭➡ラストを最初から狙ってみようかと。どうなるかはお楽しみ……です。

長文に長文で返答、これまた失礼しました。

P.S.
集いにも、またお邪魔させていただきます。

No.40 08/08/19 16:03
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

♠1♠



「よし。ここに留めんぞ」
俺たちは辺境地帯にやっとスペースを見つけた。
「レン、早く戻ろ~。授業始まっちゃうよ」
あと5分で一時間目の授業が始まる。校舎の影にあった太陽がいつの間にか顔を出し、白い光を俺たちに投げ掛けた。日に当たる旧校舎の窓がさっと色を変える。
「よし、行くか」
「ちょっと待った!」
突然、背後からすっとんきょうな春彦の声。
「何だよ、春彦」
「なあ、レン、アカネ……ジャンケンしねえ?」
「はあ?」
朱音は怪訝な目で春彦を見た。
「はい!最初はグー……」
「ちょっと待て!」
俺はたまらず口を挟む。
「どしたの、レン?」
「何でジャンケンだよ?」
「そりゃあ、遠藤のイケニエを決めるためだろ……わざわざ三人行かなくても、一人で充分っしょ」
「じゃあハルヒコが行ってよ。ハルヒコのせいで……」
春彦はビシっと待ったをかける。
「違う、俺のせいじゃないぞ!さっき三人の連帯責任ってことになったじゃないか!」
「俺はそういう意味で言ったんじゃ……」
「なんだよ?レンまで俺一人の責任にするのか。するのか!しちゃうのか!」
春彦は一向に退かない。

No.41 08/08/20 23:43
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

♠2♠



駄目だ。もう駄目だ。
春彦は意外な所で頑固だ。あまり自分から主張はしないが、いざ自分で言ったことはそうそう撤回しない。
こういう時、理詰めで春彦に言ったって無駄なのだ。
「しっかたねえなあ……やるか?ジャンケン」
「アタシはやんないもん!」
朱音は春彦の提案を断固として突っぱねる。
「アカネ逃げんの?……いいよいいよ~。俺とレンでやるから」
春彦が挑発する。朱音が『逃げる』という言葉に弱いことは、春彦でも知っている。
「逃げ……!?やるもん、やればいいんでしょ?どうせハルヒコが負けるんだから」
三人は円になって拳を握った。
「時間無いから一回勝負な?」
「オッケー」
「絶対負けないもん」
「じゃ……最初は……」
三人の手がシンクロして動作する。
「グー!」
声が混じりあって響く。
「ジャンケン……ポン!」
……三者三様、あいこだ。
「……あいこだね」
「……ああ、そうか。そうだな」
朱音と春彦がなぜか思い出したように薄気味悪く笑っている。
「何笑ってんだよお前ら……気持ち悪りーな」
「別に~、早くやろーよ、レン」
「じゃあ、あいこで……ショ!」

No.42 08/08/21 13:29
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

♠3♠



今度は全員グーを出した。またあいこだ。
「またあいこだな」
「そうだね」
春彦と朱音はまだクスクスと笑っている。
「なんだよ。なんかおかしいか?」
俺はじっと春彦を睨んだ。春彦はニヤニヤしながら、しかもそれを我慢しているから口元が奇妙にひん曲がっていた。
「なんでもないって!なー、アカネ?」
「そうそう、時間無いんだから早くしよーよ」
さっきまでやりたがらなかった朱音まで、なぜか乗り気になっている。
「なーんか、おっかしーな……まあ、いいか」
「あいこで……ショ!」
今度は勝負が決まった。
「……俺かよ」
「よっしゃー!勝った!俺は勝ったぞ!」
春彦の熱い叫びが聞こえた。
「勝った勝った~、じゃあレン、遠藤の相手ヨロシク~」
朱音もさっきまでの不満げな声は何処へやら、春彦と手を叩いて喜んでいる。
「ついてねえなあ」と俺は青い空を見上げて呟いた。
(なあ、気付いてねぇみたいだな)
(ホントだね。もう、トウヤ天才)
俺が嘆息する間に、二人は小声で何か話してまた笑っていた。
「そこ!何話してやがる」
「内緒」
二人は笑うだけで、何も教えてくれなかった。

No.43 08/08/24 18:44
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

♠4♠



「それは、レン。お前自業自得だ。負けたお前が悪い」
俺が昼飯のパンをかじりながら話した経緯を、統矢はあっさりこう切った。
「でも、何か変な感じだったんだよなあ……いきなりこいつらニヤニヤし出してさ、ジャンケンで笑うっておかしくないか?」
それを聞いたら統矢までクスクスと笑い出してしまった。
「なんでお前まで笑うんだよ」
「いや……お前も意外と単純な奴だなと思ってさ。春彦、朱音。本当だったろ?」
『単純』という言葉が癪に触った。
「単純とは聞き捨てならない」
「いや、お前単純なんだよ。ジャンケンに関しては春彦以上にな」
今度は『春彦』という言葉が癪に触った。
「俺のどこが春彦級だって言うんだ」
「おい!さっきから俺を単純の代名詞みたいに言うな!」と春彦が口からパンの欠片を飛ばしながら突っ込んでくる。
「何を寝惚けたことを。お前は単純の代名詞だ。春彦=単純だ。サル並みだ。あと口から何か飛ばすな」と統矢の強烈な毒舌。
「酷い!むごい!ショックだ!あんまりだ~」と春彦は泣き真似をする。
朱音は小さな弁当箱をつつきながら「それが単純なんだって」とこぼした。

No.44 08/08/26 22:51
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

♠5♠



俺は苦笑した。これじゃあ、まるで出来の悪いコントだ。しかも俺はその演者であり、観客でもある。だから俺は甚だ歪んで苦笑する。
「お前も笑ってんじゃん……気持ち悪」
そんな統矢の言葉に、俺の笑顔は更に湾曲する。
「レンの笑う顔って……笑える~!」
朱音が堪えきれずにゲラゲラと笑い転げた。屋上で食べていたので、周囲の生徒が何事かと視線を寄せた。バレーの練習をしていた女子生徒はレシーブを失敗した。
「人の笑顔で笑うな!」と一応反撃してみるが、朱音の笑いは一向に収まらない。それどころか春彦に伝染し、辺りは酷い有り様だ。
「ほら、そろそろ笑うの止めろよ。お前らの方がいい笑い者だぞ」
辺りは何だかよくわからないスマイルに包まれた。微笑ましい限りだ。
「それで、俺のどこが春彦並に単純なんだよ」
俺は一気に話を引き戻した。
「ああそうだ。お前のアメーバ並に単純な思考パターンの話をしてたんだっけ」
「なんか酷くなってるぞ」
「多細胞生物が単細胞生物になっただけだ。大したことじゃない」
「人がアメーバになるんだから一大事だろ」
「間違ってるぞ、春彦は人じゃなくサルだ」

No.45 08/08/28 15:11
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

♠6♠



「じゃあ、俺とジャンケンしてみるか」
俺は言われるままに統矢と10回ジャンケンをした。
俺が三回勝って、統矢が七回勝った。
「よし。わかったか?」
「いや?さっぱり」
統矢はあからさまに大きく溜め息をついて見せた。
「面倒だからって考えんのをやめるな。本当に春彦になっちゃうぞ」
今度は俺が溜め息をついて見せる。
「勿体ぶるなよ。答えがあるんだからお前が教えてくれればいいじゃないか。早いし楽だし建設的だ」
少しして、統矢は口を開いた。
「……お前が勝ったとき、共通点がある」
そう言われて、俺はさっきのジャンケンを反芻した。
「……そういえば、勝った時は最初の一回で決まってるな」
「つまり、最初の一回であいこにならなきゃ、俺は必ず勝てるってことだ」
「……何で?」
「俺の手、覚えてるか?」
「……あいこになると、グーばっかだな」
「レンは一旦あいこになると、無意識にパーを出さなくなるんだよ。だから、あいこになったらグーを出し続ければ絶対勝てる」
「なるほど」
「そんで、それをこの前春彦と朱音にも教えた。だからレンは負けたというわけだ……わかったか?」

No.46 08/08/29 21:43
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

♠7♠



俺は負けるべくして負けてしまったのだ。しかも春彦と朱音のコンビに謀られて。
屈辱、恥辱だ。
まさかジャンケンなどという単純なゲームで、自分があんな単純なミスをしているとは思いも寄らなかった。
しかし、何を言っても仕方がない。約束は約束だ。「やっぱり一緒に行こうよ」などとはとても言う気になれない。恥ずかしい。笑われる。明日統矢から確実になじられる。カッコ悪い。

俺は結局、一人遠藤の元へ馳せ参ずることになった。
一階の職員室の扉をノックして、「失礼します」と一声かけて中に入った。
左手にあるデスクに遠藤は座っていた。生意気にパソコンをいじっている。あんな野人みたいななりをして、精密機械を操作出来るのだろうか?
「夏目です。朝の件で出頭しました」
遠藤はクルッと椅子を回して俺を睨んだ。
「何が出頭だ。つまんねえこと言ってんなよ……で、あとの二人は?」
「数学の小テストの点が悪かったらしくて……呼び出し喰らってます」
ここは誤魔化してやる。一応正当に決めたスケープゴートだ。震える子羊にもそれくらいの分別はある。
「まあ、一人でもいいか。じゃ図書室行け」

No.47 08/09/01 00:53
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

♠8♠



「図書室ですか?」
「ああ。本の整理で男手が欲しいって日下部が言ってたからな、お前行ってこい」
日下部と聞いてすぐには顔が出てこなかった。少しばかり記憶の棚を引っくり返して、やっと思い出した。
確か司書の先生がそんな名前だった気がする。
「早く行け」
遠藤がしっしと追い払う仕草をした。願ってもない、俺は低頭してさっさと下がった。

思えば、俺は腰を据えて本を読んだことがない。読書感想文を書く時ぐらいしか読まなかったし、その本だって選ぶ基準は『薄さ』だった。上下巻などもっての外だ。
だけど、特に活字を嫌う性向が自分にあったという気も無い。読む時はそれなりに楽しんでいた記憶がある。
じゃあ、何で俺は本を読まなかったんだろう?
そんな事を考えている内に、足はしっかり俺を図書室前まで輸送していた。立派な足だ。
図書室の扉は高級感のある木製だった。何の木だろうか。
扉の右隣には新刊入荷リストが貼ってあり、左手にはカラーの十進分類表と、『絵本の世界』とかいうポスターが貼ってある。
ドアを押した所で、自分が本を読まなかった理由が分かった。

面倒だったからだ。

No.48 08/09/02 19:23
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

♠9♠



図書室は全体に明るさと暖かみのある場所だった。
入ってすぐの所に、新着図書と雑誌を並べた本棚がある。
部屋の中心部に椅子と机があって、それを取り囲むようにナチュラルな木製本棚が配置されていた。いくつか回転式のブックシェルフもあり、そこには主に文庫を納めているようだ。
左手の奥には辞書や古典、歴史書などの分厚い禁帯出の本が並んでいる。その通路は細く薄暗い。蛍光灯はあるが、消えている。人がいる時だけ点けるらしい。
俺は本棚に沿って歩いてみる。入口に近い棚は外国文学のようだ。最初の本棚は、俺にはハリー・ポッターと指輪物語くらいしか分からない。次の棚にはシャーロック・ホームズがあり、少しほっとする。戯曲は主にシェークスピアだ。
少し進むと日本文学になる。最初は漱石や芥川、太宰といった文豪たちの全集が続く。角を曲がった辺りから現代の作家になっている。ノルウェイの森、村上春樹……名前は聞いたことがある気がする。
宮本輝や村上龍なんてのも、やはり名前だけは知っている。
『夜のピクニック』……知ってるような、知らないような。
とまあ、本を見るのもたまには楽しい。

No.49 08/09/03 00:24
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

♠10♠



その奥には詩集や句集がある。更に奥には評論関係の本が並んでいた。
窓の先に揺らぐ葉を、何気無く俺は目で追った。それは不規則に、静かに音を立てた。
俺はカウンターに足を向けた。そこには見知った顔がある。
「あっ、夏目君。珍しいね、図書室来るなんて」と彼女は微笑んだ。同じクラスの葛城優菜だった。
「葛城って図書委員だっけ?」
「うん、で、何か用?」
俺はそれとなくカウンターの奥を覗いてみるが、葛城以外に人がいる気配はない。
「遠藤に言われて来たんだけど、日下部先生いるかな?」
それを聞くと、葛城は思い出したように笑い出した。
「そっか!朝の遅刻騒動の罰かぁ!」
思いきり言われて気付くが、かなり恥ずかしい。
「でも、あとの二人は?」
「一身上の都合で欠席。俺一人だけど」
彼女は少し考えてから、ぼそっとこう言った。
「……大丈夫かな?」
「俺じゃ頼りない?」
「いやいや、そんな事ないんだけど……」
「けど?」
「けど重いよ?」
そう言うと、葛城はカウンターの中に俺を招き入れた。段ボール三つ。中身は本だ。
「これを旧校舎の第一図書室に運んでほしいんだけど」

No.50 08/09/04 00:38
I'key ( 10代 ♂ GDnM )

♠11♠



「第一図書室って、幽霊の?」
第一図書室の鍵が開いている時、中に幽霊がいるというのは最近学内で流行りの噂だった。
「夏目君ってそういうの気にするんだ……なんか意外」
「いや。いるならお目に掛りたいと思って」
俺がそう言うと葛城はくすくすと笑い「そんなのただの噂だから」と言った。
「さて。じゃあ持ってみるか」
段ボール三つ。多分いけるはず。俺だって男だ。自分の腕力を信じてみるだけだ。
三つ重ねて一番下に手を掛ける。腰に力を入れる。
お……重い。かなり重い。
待て。諦めちゃ駄目だ。ギリギリいけるはずだ。そう信じて力を入れると、どうにか持ち上がった。
俺は葛城に向かってニッコリ笑って見せたが、痩せ我慢だというのは火を見るより明らかだ。
「大丈夫?やっぱ私一つ持つよ」
「意外と平気だって。カウンター空けられないだろ?俺一人で大丈夫」
葛城の有り難い申し出を俺は丁重に断る。なぐさみ程度の意地と見栄で。
「そう?……じゃあお願いするね。キツかったら無理せず言ってね。手伝いに行くから」
「大丈夫大丈夫」と言って、俺は見るからに大丈夫でない足取りで図書室を出た。

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