👛🌟万引きGメン57🌟
👛今巷で社会問題にまでなって来ている恐ろしい犯罪行為【万引き】…その悪質極まりない悪魔の軽犯罪に立ち向かうべく、一人の敏腕カリスマ万引きGメンが降り立った!《アナコンダ清子57歳主婦》狙った獲物は必ず狩るその蛇のような眼力で今日も彼女は買い物カゴ片手に日本中のスーパーを駆け巡るッ!軽いノリとSPEED感溢れるタッチで贈る痛快万引きサスペンスコメディ巨編!さあ始まり始まり~😁
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『…またヤラれたんか…』
『はい、すみません…見事なまでに…こっちなんか箱ごと…ハハハ…』
全国に展開する大手スーパーチェーン【ダイゴストア】の近畿第1号店を取り仕切る店長の赤星五郎は頭を抱えていた…店の開店から約1ヶ月…今後の店の成功の真価が問われる一番大事なこの時期にまた多額の万引き被害に遭っていたのだった…
『今月でもう4回目…被害損失額ももう冗談言うて笑って済ませれる額ではないんやでッ!ちょっと輪島はん!アンタも万引きGメンなんやろッ?一体全体何してるんやッッ!万引き犯人捕まえて貰う為にこっちは高い金出してアンサン雇うてるんやッッ!万引き犯人にこのスーパーなら簡単にヤレる!そんな印象植え付けた、役立たずのアンタにも責任があるんやさかいなッッ!』
赤星に頭ごなしに叱られて新米Gメンの新婚パート主婦、輪島早苗はひたすら頭を垂れるしかなかった…
『しかし店長、私はまだ研修受けたばかりの新米で右も左も…ハハハ…』
『困るんや困るんや!そっちはただの気楽な小遣い稼ぎのパート気分でなったんか知らんけどなッ、ウチとしてはこの失態は死活問題なんやッ!命賭けなんやさかいなッッ!』
>> 1
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(私だって私なりに必死に頑張ってますよぉ~…)
元々東京田園調布に住むお嬢様で青年実業家の夫と幸せな結婚をし、夫の仕事場がある神戸の地でセレブに暮らせるはずであった早苗であったが突然夫の経営する会社が傾き、結局は倒産の浮き目に相成った…しかし夫の説得でまた頑張って会社を創る日まで一緒に居て欲しいと頼まれ現在に至っていた…夫はまた真面目に働いてはいるものの以前に比べても稼ぎは雲泥の差で生活する上でどうしても早苗のパートの助けが必要になった…元来献身的な早苗は奮起してパート主婦の道を選んだ…とりあえず少しでも時給の良い職種を探している矢先、誰でも気軽に出来る万引きGメンはいかが?という広告に魅せられてかくしてこの世界に入ったという訳である…
『しかし参ったナァ…こう派手にヤラれたらこっちとしても契約破棄して貰わんとナァ…』
『!え…契約破棄ィ?だ、駄目ですッ!困りますッ!私には生活がッ!…日々の暮らしのお金が必要なんですッ!どうかクビにだけはしないで下さい店長ッ!』
赤星の冷たい視線が早苗に突き刺さる…
(お願い、どうしてもクビにだけはなりたくないッ!)
>> 2
★3★
《ダイゴストア》は関東~東海地方に勢力を伸ばしている中堅クラスのスーパーである…郊外の客層をターゲットに《手軽にマイカーで行けるどこか庶民的で安いスーパー》を合言葉に成長を遂げて来たのだ…しかし近年万引きによる被害が後を絶たなくなり、遂には《2006年度万引き被害全国No.1》という不名誉な記録まで付けられてしまっていた…これではいかんと社長自らが打開策に積極的に乗り出し、全国の各店舗にかなりの数の万引き取締りのプロ、万引きGメンを配したのだった…
『お願いです店長!私にもう一度だけチャンスを下さいッッ!必ず店のお役に立ちますからッッ!』
『輪島はん…アンサンな、こっちかて慈善事業で店経営してんのちゃうんやでッ!能書きタレてる暇あるなら結果先に見せてもらわなな、結果をッッ!!』
激しく机を叩くと赤星五郎は深いため息をついた…開店当初から働いていた早苗だったが1カ月経過した今でも捕まえた万引き犯はただの一人もいなかったのだから赤星のため息も同情の余地はある…
『ハァ…しゃあないナァ…これだけはやりたなかったんやけど…』
赤星は胸元から手帳を取り出すと電話をかけた…
>> 3
★4★
『えッ?今は佐賀ぁ?…佐賀のスーパーに居るんか?…あ、うんうん解った…後でまた確認取るさかいに、ハイハイ…』
赤星は電話を置くとじっと黙って立っている輪島早苗を見つめた…
『……輪島はん、アンサンどうしてもクビになるんは嫌か?』
『は、はい、嫌です、頑張りますからッ!お願いします店長ッ!』
早苗は必死に頭を下げた…
『…ん~まぁワシも鬼ではないッ!どや、ワシのこの提案飲むなら引き続き雇ってあげてもええけどどないや?』
『提案……ですか?』
店長の赤星五郎はニヤリと笑い早苗を見た…
『アンサン、《アナコンダ清子》って凄腕の万引きGメン知ってるか?この職種についたんなら研修で一度はこの名を聞いた事があるはずや!』
『…アナコンダ…き、清子…?誰ですか?』
赤星五郎は何や知らんのかッ!と半ば呆れ気味に早苗に言い放った…
『アナコンダ清子…57歳主婦って以外は出身地も家族構成もベールに包まれた普段は何処で何をしてるかも全く解らん謎のスーパーオバチャンや!』
『……はぁ…で、そのオバチャンと私にどのような関係が…』
赤星は未だ状況を飲み込めない早苗にまたため息をついた…
>> 4
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『数年前に彗星の如く現れて全国のスーパーの万引き犯人検挙率を一気に45%も引き上げた万引きに悩むスーパー業界の偉いさんにとってはまさに救世主、メサイヤみたいな存在なんや!《アナコンダ清子》…その名の通り一度目を付けた不審客からは一切目をそらす事なく尾行して現行犯で確実に仕留めるッッ!まさに獲物にくらい付く大蛇の様なスーパーオバチャンなんや!』
『…で?』
早苗は興奮して話す赤星を冷ややかに見つめた…
『ウチのスーパーの救世主にそのアナコンダ清子を雇おうかと思っとる!で、輪島はん!アンサンはこの1ヶ月間、アナコンダ清子の元でしっかり勉強して立派なGメンに成長するのが契約継続の条件や!もし1ヶ月のうちにそれが出来なんだらアンサンにはそこで辞めてもらう!どや?』
赤星の提案に初め戸惑いを見せた早苗であったがもう後がない彼女にとり、これが最後のチャンスならばと早苗は赤星の提案を飲む事にした…
『しかし毎日のように全国のスーパーから依頼を受けて万引き犯人捕まえるのに飛び回ってるホンマ忙しいオバチャンやから…ウチにすぐ来てくれるかが問題やがな…』
赤星は頭を掻いた…
>> 5
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それから何日かが過ぎた…店長の赤星五郎からは例のスーパーオバチャン《アナコンダ清子》と契約を交わしたという具体的な報告は早苗にはなく、ただ早苗は決められた毎日のスーパーの巡回を買い物カゴ片手に黙々とこなしていた…
(ア~ア…このままクビになっちゃうのかな私…結構時給いいから辞めたくないんだけどなぁ~…)
上の空で精肉コーナーを巡回していた早苗の目に突然不審な動きをする60歳位の男性の姿が飛び込んで来た!周りをキョロキョロと見回し、買い物カゴの内側に黒い手提げ袋を二重に忍ばせた明らかに《それ》といった風貌だった!
(!う、嘘ッ!?…これってまさにアレよね、アレ!…やだ、どうしよう…)
このパートに勤務して初めての現行犯確認の瞬間に早苗はかなり動揺していた!男性は悪ぶる事もなく大胆にも陳列棚の牛ロース肉の入ったパックを黒い袋の中に納め、またキョロキョロしながら玄関に向かって歩き出した…
(やった!?…今完全にやったわよねッッ!よしッ!)
緊張のあまり早苗の背中に変な汗が流れ落ちた…捕まえるッ!これは完全な万引き現行犯だわッッ!早苗は男性の後を付け、次第に男性との距離を縮めていった…
>> 6
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早苗は野菜を品定めするフリをしてその不審な男性の行動をつぶさに監察していた…
(捕まえるッ…絶対捕まえて店長にいい所、やれば出来るパート主婦なんだってトコ見せてやるッッ!)
男性が店員のいないレジの脇をゆっくりと通り過ぎたその瞬間、早苗の全神経はもう既に男性の確保に向いていた!今正に男性の腕を捕まえようと手を伸ばしたその時!早苗の背後から早苗の鞄を勢いよくグイッと引っ張る圧力があった!
(!!なッ、な、何ぃ!?)
誰かに勢いよく棚の影まで引っ張られて早苗は何が起きたのか解らずただ呆然としていた…
『アンタこの仕事何年目ッッ!?』
次の瞬間早苗はいきなり引っ張られた人物に小声で声をかけられていた!
『…あ、えッ?ハァ!?な、な…』
『何年目かって聞いてんだよッ!このド素人がッッ!』
早苗の後ろには小太りでパンチパーマの派手な豹柄シャツを着たまるで大阪のオバチャンのような風貌のサングラスをかけた中年女性が早苗を睨み付けていた!
『アンタ今あの男を確保しようとしたねッッ!?バカやってんじゃないよ、ったく!!』
いきなり頭ごなしに叱られた早苗はその中年女性を睨み返した…
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『い、いきなり何なんですかオバサンッッ!』
『いいかい?よくお聞き!…お金を払わずにレジを通り抜けたからといって万引きしたとは限んないんだッッ!アンタだって経験あんだろッッ!?表口の特価の商品買い忘れて店の玄関に戻る時ッッ!その場合レジを通してないから万引きだって言えるかい?…言えないだろ!…要は商品を明らかに買う意思があるかないかって事が態度に現れるか否かって事が重要なんだッッ!…ほぅら見なッ!さっきの男商品あんな場所に置いて出て行っちまった…つまりアンタの不自然な尾行に感づいたって訳だよッッ!だからアタイはアンタをド素人ッ!って言ったんだ!さっきからアンタ見てたけど何から何までなっちゃいないよ!保安員失格だよッッ!』
『……あ、貴方もしかして…』
早苗は機関銃のように喋るその厚化粧のサングラスのオバチャンをマジマジと見つめた…
『ハァ~…こんな保安員配置してるようじゃぁ、ダイゴストアも長くないね~!』
『もしかしてアナコンダ…アナコンダ清子さん!?』
『バカ、おバカ!アタイの名前を大きな声で呼ぶんじゃないよッッ!』
早苗はただ石像のように固まっていた…
>> 9
★9★
スーパーの従業員控え室は無数の段ボールの山と化していた…
『…来るなら来るって先に言うといてぇな、清子はん…』
店長の赤星五郎が慣れ慣れしくお茶をすする清子に話しかけた…早苗はその横で剥製の人形のようにただじっと立って二人の会話を聞いていた…
『…昔のヨシミで他の仕事全部キャンセルして来てみたら…ハァ~…このスーパーは万引き犯人の無法地帯ですなァ…』
サングラスをかけたまま大きなお尻をデンとパイプ椅子に乗せると清子は鞄から煙草を取り出して火を付けた…
『…まぁ、店舗自体の陳列棚の位置や死角の多いレイアウトとか…抱える問題はかなりありますけど…一番酷いんはまだ研修上がりの新米保安員を安ぅで使おうとする五郎ちゃんのセコさ…これに尽きますわ…』
あからさまに出来ないヤツと言われているようで早苗は思わず言い返そうとしたが先に店長の赤星が言葉を発したので早苗は我慢して言葉を飲み込んだ…
『ハハハ…清子はんにそれ言われたら返す言葉ないがなッ!ガハハハ!』
早苗を擁護するでもなく店長の赤星はまるで清子のゴマを擦るかのように清子の肩を持った…
(偉そうにッッ!本当にこのオバチャンがカリスマGメンなの!?)
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『…でどないや?ウチで働いてくれるんでっか?清子はん…』
赤星は身を乗り出すように煙草を優雅にふかす清子に尋ねた…
『……』
清子は上目使いで早苗の方をジロリと見つめると言葉を発した…
『五郎チャンの電話では契約は60日間って希望やったけどアタイも忙しい身やからなッ…ウ~ンンそやなぁ…30日間の契約で100万で手ぇ打とかッ!』
(ひ、ひ、100万ッッ!?ひと月でッッ!?)
早苗は驚きで思わず声がでそうになった…
『ひ、ひと月100万て…清子はん、そらないわ!そら殺生でっせ!』
早苗同様赤星も余りの破格のパート代に目を丸くしていた…
『…まあ店舗にもよりますけど1日だいたい多い所で万引きによる損失被害額は平均50~60万、それが週に何度も被害受けてみなさいな、軽く2、300万はドブに捨てる計算や…その被害が阻止出来るのであるならアタイに支払う100万は決して高いパート代金ではないと思いますが…どない思います?』
清子は憎たらしい位冷静な話し口調で自分の考えを述べた…
『嫌なら宜しいんですよ、他行きますから…この額より多く出してくれはるスーパーは幾らでもあるんですから…』
>> 12
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赤星は暫く考えた後、口をついた…
『…分かりました…清子はんの金額呑みますわ…ただし!一つだけ条件があります…ウチのこの新米保安員の輪島早苗はんの教育係も兼任してくだはる言うなら100万で手ぇ打ちまひょ!』
赤星の条件提示に清子の眉が動いた…
『150やな…それでしたら…』
『?…は、はぁ?ひ、150ぅ!?』
『教育係兼任するんなら150万頂く、こう言ってますのや!宜しいか五郎ちゃん、この仕事は凄く神経使う大変繊細な仕事なんや、昨日今日始めた素人さんと一緒に組むって事はどうしたって単独で自由に動き回れる範囲に限界も出てきます…となると自ずと普段当たり前のようにこなすアタイの万引き犯の捕獲検挙率にも少なからず影響出ますわな?…そんなリスク背負ってまで仕事しますんやで?それくらい貰ってもバチは当たらない思いますが…』
赤星は唇を真一文字に噛み締めてプルプルと震えていた…早苗は清子の容赦ないクールな金銭感情にただただ驚くしかなかった…
『わ、わ、解りました…呑みまひょ、その条件…さ、輪島はん、アンサンも宜しくって頭下げなはれ!』
何で私まで頭下げるのよ!と腹を立てながらも早苗は清子に宜しくお願いしますと頭を下げた…
>> 13
★12★
『ほなら清子はん、早速今日から働いてもらいまっさかいに…輪島はんッ!清子はんの言う事よぉ聞いて勉強させてもぅてはよぅ一人前になってくだはれやッ!ほなワシは店長会議に出まっさかいに…後はよろしゅう!』
赤星はそれだけ告げると背広に着替えて会議に出掛けた…
『……』
『……あ、あのぅ…』
部屋で二人きりにされた早苗は偉そうに肘をかけ、静かに煙草を吹かす清子に自分は何をすれば良いのか尋ねた…
『……お嬢ちゃん独身か?』
『…え、い、いぇ、一応主婦ですけど…』
清子はヨッコラセと立ち上がると側にあったお菓子の煎餅を口に入れた…
『…さぁてとッ!ほな仕事でもしようかしらッと!』
清子は従業員通路を通り一旦店の外に出た…何も解らず早苗もその後にまるで金魚のフンのように付いて行った…
『あ、あのぅ…どして店の中を通って行かないんですか?わざわざ遠回りなんかして…』
清子はダルそうに黙って歩いていた…
(何よさっきから自分の世界にはいっちゃって!全然人の質問に答えてくれないし…)
早苗はため息をついた…
『アンタはほんまにド素人やなッ!研修中居眠りしてたんやないやろねッッ!』
いきなり清子が早苗を睨み付けた…
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『な、何です、いきなりまたッ!』
早苗は何の事で叱られているのかが理解出来ずに清子の後を歩いた…
『クイズや!…こんな私服着たオバチャンがやね、従業員通路からスーパーの中に入ったら、はいどうなる!?』
早苗はいきなりの清子の質問にキョトンとした…
『はい、どうなりますのッッ!?答えて下さいッ!』
『え…さ、さぁ…どうなるって言われても…』
『はいブブ~ッ!時間切れですなッ、アンタはヤッパリ保安員には向いてない!今すぐ帰りなさいッッ!』
清子は早苗に背を向けてまた歩き出した…
『ち、ちょっとオバサン!さっきから聞いてたら随分失礼な感じですねッッ!どれだけ凄い人なんか知りませんけど何か不愉快ですッッ!』
普段気の弱い性格の早苗が余りにも自分勝手な清子の態度にキレてしまった…
『もう少しねッ…人に対す…ッ』
『もしアンタが店にいる万引き犯人やったと仮定してみなさいッ!私みたいないかにも私服のオバチャンが裏口からではなく従業員通路からスーパーの店内に出て来たらアンタはどない思います?見るからに保安員や!と思って警戒しませんか?』
清子の一理ある的を得た的確な答えに早苗は一瞬絶句した…
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(…な、何か解らないけど確かにその通り…今まで私、買い物カゴを抱えた私服のまま従業員通路を通り、スーパーの店内へ堂々と…もしかして万引きしようと過敏になってる人が見たら余りにも無防備な保安員に見えてたのかも…アナコンダ清子さんはそんな事も想定しながら…アァ…す、凄いッ!何か凄いとしか言いようのない完璧な仕事に対してのプロ意識だわッ!)
『こんな基本的な事身についてないようではスーパーの保安員は務まりませんでッ!』
早苗は今の今までただ漠然と職務だけを過ごしてきた自分自身のふがいなさに腹を立てていた…こんな中途半端な考えでは世にのうのうと蔓延る万引き犯人を捕まえられる訳がない!改めて自身のプロ意識の欠如に落胆していた…
『アタイも一応アンタの教育係を引き受けた以上基本的な事だけは教えます…けど頼むからアタイのやる仕事の邪魔だけはしないようにお願いしますよッ!』
清子は口調はさほどきつくはないがその言葉のはしばしに明らかに自らこれまでに培って来た経験と実績、早苗がお荷物と言わんばかりの雰囲気を醸し出しているのは事実だった…
『よ、宜しくお願いします、清子さん…』
二人はスーパーの玄関から中に入った…
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スーパーの店の玄関に入ると清子はその場で立ち止まり一度大きな深呼吸をした…それは大袈裟だがまるで今から始まる食うか食われるかの見えない敵との決戦を固唾を飲んで待つ戦士のように早苗には映った…
(す、凄い気合いだわ…何か私…場違いな所にいるみたい…)
身体から見えないオーラを放つ清子は黙ってゆっくり店内を右から左へ食い入るように見つめ、備え付けの買い物カゴを手にした…
『実はね…さっき店内を客のフリしてグルッと回って見たのよね…したら私が見てるだけで2人の客が万引きを働いていたわッ…まぁ万引き犯人だから《客》って言うのも変な話なんだけどねッ…』
清子は早苗にいきなり衝撃的告白をした…
『え…ま、まさかッ…じゃ、な、何故解ってたらその場で捕まえてくれなかったんですかッ!?』
清子は早苗を睨みつけた…
『…それは五郎ちゃんとここできちんと契約する前の話…いくら万引き犯見つけたと言ってもその時点ではアタイはここの契約保安員やなくただの客ですわ!だから私がその万引き犯を捕まえる義務も権利もあらしません!』
毅然とした態度で話す清子を見て確かに正論ではあるが何故かやりきれなさが残る早苗だった…
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『さぁ、まず《習うより慣れよ》ですわ…私から10m程距離を置いて歩いて下さい…』
清子はそれだけ早苗に告げると一人スタスタと歩き出した…
(何か解らないけどのっぺきならない感じの主婦ね…どれ程の実力があるのかとくと見せてもらおうじゃないの!)
早苗は買い物カゴを手に取ると買い物客のフリをしながら清子の後を追った…2周、3周と店内をゆっくり回ってみたが清子の態度にさほど変化はなかった…
(…そうよね、幾ら凄腕保安員が配置についてるからって万引き犯がそうそう姿を現すって保証はないものね…)
早苗は軽くため息をついた…清子は相変わらず買い物カゴに食品を収める仕草をしながら周囲をキョロキョロと見渡すような態度も見せず、ただ黙々と歩き回っていた…2時間ばかり何もなく歩き回った後、清子は早苗に近づいてきて休憩よ!とまた玄関から店の裏口へと歩いて行った…
『ち、ちょっと待ってくださいよ清子さん、捕まえるどころかまだ一人も万引き犯を確認すら出来てない状況で休憩だなんてッ!』
清子は従業員控え室の椅子にドカンと腰を下ろしお茶をすすった…
『清子さん!聞いてます!?』
『…アンタやっぱり相当なド素人やな…』
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『同じ格好の主婦が長時間スーパーの中を行ったり来たりしてたら万引き犯はどない思います?向こうは通りすがりの人物細かくチェックしてたりでもしたらそれこそ何してるかわかりませんでしょ?アンタならどう?あ、あの主婦怪しい!と普通察知しませんか?…同じ身なりで万引き捜査に出向くのはせいぜい一時間強が限度ですわなッ…これ常識ですよ?』
清子はア~ッお腹すいた~と言ってスーパーの中で予め買っておいたのり弁当を取り出すと備え付けの台所にある電子レンジに弁当を放り込んだ…早苗は清子の正論に対抗出来る術もなくただ悔しさと自分へのふがいなさに腹を立てていた…
(…けど確かに清子さんの言ってる事は何一つ間違いがない…悔しいけどこのまま付いて行くしかなさそうね…)
早苗は家から持って来たお弁当を広げお昼休憩に入った…
『お昼からは別々に見回りましょ…何か起きたら逐一アタイの携帯にすぐ連絡入れる事ッ、分かりました?』
清子はそれだけを早苗に告げるとのり弁当のテカテカに光ったチクワの天ぷらを頬張った…早苗は未だ見ぬ未知なるその何処にでもいそうな主婦の横顔をじっと観察していた…
★と★てもおもしろいストーリーですネ!!登場人物の人柄が良く描かれていて、近年のスーパーの万引き事情を事細かに取り入れる事により読者にいかに現代におけるスーパー経営が困難かという事を教えるとともに、日頃誰もがお世話になっているお店に対し感謝を込めて、これから巻き起こる万引き犯との壮絶な人間ドラマ楽しみにしてますネ☆
>> 21
★18★
『さぁ、第2ラウンドの始まりですわッ!』
先程のズボン姿から柄物のスカートに履き替え、中年独特のカーディガンを着込むと清子はまた気だるそうに入口から店内に入った…早苗は清子に言われた通り、清子とは逆回りの野菜棚~魚、精肉、乾物、乳製品、お菓子と順番に警戒に当たった…
(別行動ってったって、カリスマ万引きGメンのプロの技をどうしてもこの目でしっかりと盗まなきゃ…私にだって生活がかかってるんですからッッ!)
早苗は辺りを見回す格好をしながらも目線はしっかりとカリスマ万引き取締保安員、アナコンダ清子の姿を捉えていた…しかし巡回し始めて20分が経過した時、早苗の視界からいきなり清子が消えた!
(ヤダッッ!清子さんは何処ッ?しっかり監察してたはずなのにッッ!)
入口を突き当たった丁度右の豆腐、豆、油揚げ製品コーナーにいたはずの清子の姿がない…
(ヤダどうしようッ…まさかまた休憩なんて事ないでしょうねッッ!?)
早苗は必死に清子を探し回ったが店内に清子の姿はなかった…突然早苗の携帯に清子から連絡が入った…
【すぐ警備室に来なはれ!一匹目の魚、釣れましたでッッ!】
(!え、エェ!?)
>> 22
★19★
早苗が警備室に駆け付けるとそこに清子がいた…
『清子さん、いったい何処にッ…』
『さぁ奥さん…困った事になりましたねぇ…どうしましょうか…』
早苗の言葉を無視するかのように清子は机に座ってうなだれている女性に声を掛けた…
(え?…ま、まさか釣った魚って…!こ、この人が万引きをッ!?)
机にはダイゴストアで売っている豆腐や焼そばの素、油揚げの3品が綺麗に並べられていた…
『すみません…本当にすみませんッッ!もうしませんから許して下さいッッ!お願いしますッッ!堪忍して下さいッ!』
その女性は机に自分の頭を擦りつけんばかりにひたすら清子に向かって謝罪していた…
『ねぇ奥さん…アタシはここの経営者やないから謝られてもどないもできませんの…分かります?』
『すみませんッ!ホンマに出来心でつい…どうかしてましたんですッッ!お金払いますから許して下さいッッ!』
早苗はいきなり始まったこの保安員と万引き犯の攻防にただ圧倒されるばかりだった…
『お金払おう思ってたんなら何で先に払わなかったんですか?バレないとでも思ってたんですか?』
『すみませんッ…ホンマこの通りですッッ!見逃して下さい!』
その女性はひたすら謝り続けていた…
>> 23
★20★
年の頃は40代中頃くらいだろうか…白いスーツをピシッと着込み、まるで社長夫人といったイデタチのその清潔な感じの女性はハンカチを顔にあて、ただひたすら謝っていた…
『…取り敢えず名前と住所お願いできますか?』
無機質で事務的な清子の態度に少し不快感を感じながらも早苗は二人のやり取りをただ横でじっと眺めていた…
『もう絶対しませんから…誓います、だからどうか許してッッ…!こんな事主人に知られたら…私、もう…殺されますッ!』
『…名前と住所…お願いしますッッ!』
清子は泣き叫びながら許しをこうその女性に微動だにしない様子でただメモと鉛筆を構えてじっと女性の目を見ていた…
『ねぇ、貴方からも言って下さいッッ!』
『…え…?』
女性はいきなり横にいた早苗の袖を掴みただお願いですッ!と連呼した…
『私…こんな事知れたら…今選挙期間中の市会議員の主人の顔に泥を塗る事になってしまいますッ!どうか、どうかッッ!』
『あ…ハ、…しかしですね…気持ちは分かりますが…』
ドンッッ!!突然前に座って居た清子が机を力一杯叩いたッッ!
『気持ちは分かるダァ?…この仕事ナメんじゃねぇよッッッ!!』
鬼のような形相で清子は二人を睨み付けた…
>> 24
★21★
『万引きした方の気持ちが解るっていうんならじゃあ、された店の気持ちはどうなるんだいッッ!こんな沢山の商品あるんだから一つや二つ盗んだって!…つまりこうコジツケたいって訳かいッッ!?いいか、店だって毎日利益率の低い商品を安く仕入れ、それをまた少しでもお客の為にって儲け削ってまで商品売ってんだッッ!アンタそんな事も解らず保安員やってんのかいッッ!?万引き犯人の気持ちが解るダァ?ハハァ!笑わせんじゃないよッッ!いかなる理由があるにせよ万引きは犯罪なんだッ!どんなに情状酌量の余地があったとしてもだね、アタイ達はいかなる時だって毅然とした態度でその万引きの事実だけと向き合わなきゃなんないんだよッッ!いちいち万引き犯の個人的事情に付き合ってられるかってぇのッッ!!さあ、早く名前と住所を言いなさいッッ!でないと後から来る警察官に言う事になっちまうよッッ!』
清子のその迫真の気迫に早苗とその女性はただ唖然としていた…
『う…ウワァァァァァッッッ!』
女性は思わず机に顔を伏せ、泣き崩れてしまった…
(な、何て気迫…私…真似…真似出来ない…)
それを見ながら清子は何もなかったかのように涼しい顔で湯飲みのお茶を飲んでいた…
>> 25
★22★
矢島正美というその女性は警察官に事情徴収され、身元保証人として選挙期間中にもかかわらず駆け付けた市会議員候補の夫、矢島晋作に 思い切りビンタを浴びせられ、怒鳴りつけられた…
『お前ッ、何て事してくれたんだッッ!自分がしでかした事解ってるのかッッ!』
ゴメンなさいと何度も夫の前で土下座する正美の姿を見ていた早苗は何故かとてもやるせない気持ちになっていた…
『…アンタやっぱりこの仕事向いてないわ…』
腕組みをしながら矢島夫妻のやり取りを見ていた清子が早苗にポツリと呟いた…
『もしさっきアンタ一人で彼女の補導に当たっていたら…アンタきっと負けてただろね…』
『負けていた?…』
『そッ!…私らが一番やっちゃいけない《情に流される》ってぇ悪魔にねッ…』
清子は机に置いてあった薄皮饅頭を口に入れた…
『…でも、もしその人が…本当に万引きしなけりゃいけない位何かに追い詰められてたとしたら…私達はそれに気付いてあげる事も必要なんじゃないかって…』
『甘いネェ…アンタはこの薄皮饅頭より甘いよッ…んな事はアタイらの仕事じゃないんだよ…アタイらの仕事は万引き犯人を捕まえて警察に突き出す、ただそれだけだよ…』
清子はお茶をすすった…
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★23★
『確かに万引きという行為は許し難い社会の悪です…でもそこまでに至る、何て言うかその犯行に至った人達の心の影の部分を解いてあげないと…また万引きを繰り返すんじゃないのでしょうか?』
清子は煙草に火を付けた…
『フン、ごもっともな発言だねッ!弁護士にでもなったつもりかい?でなきゃカウンセラーかい?キャハハハッ、笑わせんじゃぁないよッ!犯行を犯す全員が全員そんなドラマみたいなヤツらばっかじゃないんだよッッ!最近の若い奴らを見てみなよッ!ゲーム感覚で人を傷つけ、さげすみ、終いにゃあ殺しても平然とした顔で証言台に立って俺は少年法で守られてんだぁ~!って笑ってるんだよッッ!自分のストレスや欲求満たす為に他人が犠牲になっても構わない、万引きだって同じ事さ…そんなヤカラが大人になってまたろくでもないバカになっちまう…今の日本はどうかしてんのさッ…!』
早苗は黙ってしまった…
『頭が麻痺して腐りきった今の日本人にとっちゃあ万引きなんて犯罪のうちに入んないのさ!』
清子は眉を潜めながら煙を吐いた…
『そんな腐り切ったバカどもに間違いは間違いだってきちんと教える…その為にアタイらは必要なのさ…』
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『さっきの市会議員の妻って女性だって例外じゃないよッ…ウチで何があったのかは知らないけどさ、そのストレスと腹いせの為に万引きされちゃあ店はたまったもんじゃないよッッ!どんな理由があるにせよ、やった事は立派な犯罪なんだッ…金払って済む問題じゃないよッ…いいかいアンタ?これは仕事なんだッ…捕まえた相手の泣き事聞いて感傷に浸る程アタイらは暇じゃないんだからねッ!!』
清子はヨイショと腰を上げるとまた仕事に戻って行った…早苗は部屋で一人考え込んでいた…
(清子さんの言ってる事は確かに完璧な正論で一字一句間違いない…だけど、だけど何故だろ…私は清子さんみたくなれないよ…そこまで割りきれないよッ…)
椅子にガタンと腰掛けると早苗はガックリ肩を落とした…
(厳しく取り締まるのは当たり前…当然そうあるべき…でも犯罪を犯す者、それを取り締まる者…私達は生身の人間だもの…)
やりきれない気持ちと落胆が早苗の体を支配していた…
【辞めたきゃいつだって辞めても構わないんだよッ!】
部屋から去りしなに言われた清子の言葉が早苗の混乱した脳裏にずっと焼き付いていた…
- << 30 ★25★ 『今日はアンタに一つ課題を与えますッ!』 次の日の店内の巡回中に清子は早苗に言った… 『課題?…ですか…』 『アタイが次に捕まえた万引き犯の調書をアンタに取ってもらいます!昨日私がしてたみたいな事ですッ…端で見てたから簡単ですやろ?』 そう言うと清子は何かに取り付かれたように早足になった… 『ち、ちょっと清子さんッ!?』 清子は店の玄関を出るや否やすぐ目の前を歩いていたセーラー服の女子校生の腕を掴み自分の脇に抱えた! 『はいゴメンねお嬢ちゃん、その鞄の中に入れた商品お金払ってないですやんね?ん?ちょっと悪いけどオバサンと一緒に来てくれないかなぁ~!』 清子はキョトンとして慌てる素振りも見せないその女子校生をそのまま裏口の警備室に連れて行った… (な、何が起きたのッ!?私と今話してる間に清子さんは同時に万引き犯人も追ってたって事ぉ?す、凄い…凄すぎるッッ!) 開いた口を何とか締め直して早苗は慌てて警備室に向かった…女子校生は取り乱す所か逆に半分顔に笑いを浮かべながら警備室の椅子に座った… 『鞄の中のお金払ってない商品確認させてくれるかなぁ~』 清子は猫撫で声でその女子校生の横に腰掛けた…
★今★日も楽しく読んでます!!
あいかわらずスゴイ読みやすい文字の並びで感謝します
さっそく犯人との第一ラウンド開始しましたネ☆TVで見たGメンにもあんなやりとりありますネ~
実際の犯人は女優以上の演技したり、しまいには逆ギレしたりと・・・(´Д`;)ハァ
動揺せず冷静な態度でいれるGメンこそまさにプロフェッショナルですなァ(0▽<)
>> 28
★24★
『さっきの市会議員の妻って女性だって例外じゃないよッ…ウチで何があったのかは知らないけどさ、そのストレスと腹いせの為に万引きされ…
★25★
『今日はアンタに一つ課題を与えますッ!』
次の日の店内の巡回中に清子は早苗に言った…
『課題?…ですか…』
『アタイが次に捕まえた万引き犯の調書をアンタに取ってもらいます!昨日私がしてたみたいな事ですッ…端で見てたから簡単ですやろ?』
そう言うと清子は何かに取り付かれたように早足になった…
『ち、ちょっと清子さんッ!?』
清子は店の玄関を出るや否やすぐ目の前を歩いていたセーラー服の女子校生の腕を掴み自分の脇に抱えた!
『はいゴメンねお嬢ちゃん、その鞄の中に入れた商品お金払ってないですやんね?ん?ちょっと悪いけどオバサンと一緒に来てくれないかなぁ~!』
清子はキョトンとして慌てる素振りも見せないその女子校生をそのまま裏口の警備室に連れて行った…
(な、何が起きたのッ!?私と今話してる間に清子さんは同時に万引き犯人も追ってたって事ぉ?す、凄い…凄すぎるッッ!)
開いた口を何とか締め直して早苗は慌てて警備室に向かった…女子校生は取り乱す所か逆に半分顔に笑いを浮かべながら警備室の椅子に座った…
『鞄の中のお金払ってない商品確認させてくれるかなぁ~』
清子は猫撫で声でその女子校生の横に腰掛けた…
>> 30
★26★
(さぁ、やってみなッ!)
清子は側にいた早苗に無言の目配せをすると早苗はその女子校生の目の前に自信無さげに座った…
『……ンッ…あ、うんっ~と!じゃあ机に商品出してくれる?』
『………オバサン誰?警察?』
早苗は一瞬たじろいだがここで動揺してはいけないと凛とした態度で背筋を伸ばして問い直した…
『お店でお金を払ってない商品をここに出ぁ~しぃ~てッ!』
『……』
女子校生は一度舌打ちすると無言でリップクリームを一つ鞄から取り出して無造作に机に置いた…
『チッ…覚えてろよッッ智美ッ!』
腕組みをして女子校生は悔しそうに天井を見た…
『?…智美ちゃんって誰なの?』
『……クソッ、《ダイゴストア》なら絶対安全だから大丈夫だなんて吹きやがってッ!居るじゃねぇか、万引きGメンがよぉッッ!!』
黙って話を聞いていた清子の眉が動いた…その清子の微妙な顔つきを察した早苗が女子校生に言葉をかけた…
『ここなら…ダイゴストアなら万引きが簡単に出来るって友達に言われたのね?そうなのねッッ?』
『………』
女子校生は悪びれる様子もなくただ面倒臭そうに足を組み変えた…
『…名前は?…学校はどこ?』
早苗は女子校生をじっと見つめた…
>> 31
★27★
『…リップクリーム125円…今時の女子校生が125円払えないかなぁ…』
早苗は何も話そうとしないその女子校生に話を続けた…
『どうして万引きなんかしちゃったの?』
『……』
『こんな事して良心が咎めない?』
『……』
静かに沈黙だけが流れた…側にいる清子はただじっと黙って早苗と女子校生の行動を見ていた…
『おねぇ…あ、いや、オバサンには解らないナァ~…どうしてこんな事しちゃったのか教えてくれないかなぁ…』
『…ねぇオバサン…アンタ頭オカシイんじゃないのッ!?』
久しぶりについた女子校生の言葉に早苗は驚きを隠せなかった…
『万引きすんのにクドクド理由なんてないんだよッ!ただダイゴはやりやすいって聞いたから試して見ただけだっつぅの!何か文句あんのッッ!?』
…呆れてモノが言えないとはこの事だ…女子校生は万引きを謝るどころか良心のカシャクすら持ち合わせてもいなかった…百戦練磨の清子ですらただただ驚いた様子だった…
『ちょっとあ、貴方ねッ!』
『金払りゃいいんだろッ!ンモッ、たかが125円位でガタガタ言わないでよッ!金払うからもう帰してくんない?これから友達と約束あるしぃッ!』
早苗はただ呆然としていた…
>> 32
★28★
『貴方ねッ、自分が今何をしたか解ってる?貴方のした事は立派な犯罪行為なのよッ!?』
『だからぁ?…だからって刑務所入んの?キャハハハ、万引き位で刑務所なんか入んないっつぅのッ!』
女子校生は手を叩いて早苗を罵倒した…
『だいたいの察しはついてるの…貴方《中屋代高校》でしょ?制服みれば解るものッ!』
『だったら何よッ!』
『名前と住所言わないなら学校に直接聞いてみますッ!それでもいいのッ!?』
早苗の子供の喧嘩のような尋問に清子の顔は明らかに渋かった…
『どうぞご自由にッ!けどさ、何回も万引きで補導されてっから先生ももう呆れて私を引き取りに来ないかも知んねぇよ!キャハハハッ!』
言葉が早苗より一枚も二枚も上手のその女子校生の応酬に早苗はもうお手上げと頭を抱えてしまった…フゥ~と呆れたため息を一つついて今度は私の番かと言わんばかりに清子が立ち上がった…
『はい、もういいから…後はアタイがやります、ご苦労さん!』
明らかに嫌味に聞こえたそのご苦労さんに早苗は不愉快になっていたがこのツワモノ女子校生にこの伝説のカリスマ万引き保安員がどう挑むのか、見てみたい興味の方が強かった…
>> 33
★29★
『お嬢ちゃんこれで万引き何回目?』
清子が肘をついた手を重ねて女子校生に優しく質問した…
『オッ!?真打ち登場ってワケ?アハハ、こんなシーンTVで観た事あるあるッ!敏腕万引きGメンって感じのオバチャン、キャハハハ!』
清子の質問をはぐらかすかのように女子校生はさっきより饒舌に話を進めた…
『じゃあ今まで結構色んな品物盗んじゃったんだね~…ウンウン、そっかそっか…』
満面の笑顔で清子は女子校生の話を聞いていた…それは女子校生の話をただ受け身に聞いているという感じではなく逆に自分のペースに徐々にはめていく準備のようにも早苗には見えた…
『ほら、ゲーム感覚ってあるじゃん!それそれッッ!こんなのいつだって金払えば買えるんだしさッ!ただなんか普通に買ってもつまんないってゆっか…ホンの遊びだよ、ア、ソ、ビ!キャハハハ!』
よく腹も立てずにこんな女子校生の支離滅裂な話を清子は聞けるもんだなと早苗は感心していた…女子校生はその後も自らの過去の数々の《万引き武勇伝》を清子にこれでもかと言うくらい披露した…
『…フゥ…はい、もう充分喋り尽した?』
清子はそう女子校生に告げると机の下からテープレコーダーのような物を出してきた…
>> 34
★30★
『ち、ちょっと待って…な、何よそれ…』
『え、これ?これはテープレコーダーという録音する器械ですわ!』
『だッ、そ、それ位知ってるって…だからそれで何をしてたんって聞いてるんよッ!』
清子が出して来たテープレコーダーに女子校生の顔から笑顔が消えた…
『いやぁね、お嬢ちゃんがあんまり凄い武勇伝話してくれるもんやからオバチャンこれで全部録音しとこ思いましたんやッ!』
早苗は清子が何を考えているのかが理解出来ないでいた…
『そ、それ、な、何に使うの…?』
『え、これですか?ン~そうやね、お嬢ちゃんが裁判の証言台に立った時に検事さんに証拠として渡そう思いましてなッ!』
『し、証言台ってッ!わ、私そんな…そんな悪い事…たかが万引きくらいで…そんな…』
女子校生の顔からみるみる精気が消えて行くのが早苗にも解った…
『いいお嬢ちゃん…今の貴方の証言は充分裁判で有罪に出来る証拠になるんよね~…刑法第126条《店舗等における窃盗万引きに関する条例第2項》!知らんかった?フフフ…』
(う、嘘でしょ…何なのそれッ!?)
早苗はその清子の策略をただ固唾を飲んで見守っているしかなかった…
>> 35
★31★
『え~ッと、今聞いただけで出てきたのが《日新百貨店》《ジャオンマート》《コイデスーパー》…これだけの状況証言ありましたらこれら被害に遭った店舗も起訴に踏み切りますやろ…当然裁判は有罪…そうですなぁ…悪質な犯行やから執行猶予なんてつきません…きっと軽く見積もっても半年~1年は喰らいますやろな…』
『アァ…ちょっと、ちょっと待って下さいッ…私はッ…私はそんな事…』
『ん?そんな刑務所に放り込まれる程の事してない、そう言いたいんですか?』
清子の真面目な顔が女子校生の心を激しく動揺させていた…
『いい?よう聞きやッ!お嬢ちゃんがした事は窃盗なんよ?たかが125円のリップクリームを万引きした位でと思てるやろけどね、銀行の金庫から一杯お金盗む事とやってる事何等変わりない事なんよ?銀行からお金盗んだらどうなる?さぁ言ってみなさい…』
『…つ、捕まる…刑務所入れら…れる』
『そうやね?じゃあお嬢ちゃんも刑務所入れられても文句言われへんわね?違う?オバチャンの言ってる事間違ってる?』
女子校生は涙を流しながら横に首を振った…
『ご、ゴメン…なさい…ホンマに…ゴメンなさいッ!』
女子校生はうつ向いて泣き出した…
- << 38 ★32★ 『私ッ…そんな、そんな大変な事…してたんですか…ウゥ…』 さっきまでの威勢の良さが嘘のように女子校生は半分ベソをかきながらホントにゴメンなさい!を連呼していた… 『いい?そんなくだらない事で友達と競わないでもっとええ事で力使いなさいッ!アンタらはまだまだ若いんやッ!』 清子は女子校生の肩をポンと叩いた… 『…今回だけは警察呼ばないでおいといてあげる…だけど住所と名前はオバチャンに教えてくれるよね?』 女子校生は涙顔で頷くと書類に記載を始めた… 『あ、あのぅ清子さん、…警察には通報しないん…ッ』 早苗の言葉に清子はいいから黙ってなさいッ!といった意味の目配せを早苗に送った… 『はい、有難うね…いいわね?これが最後のオバチャンの慈悲やからね、もう次捕まったら最後や思いなさいッ…アンタの輝かしい人生自分から放り投げる事はしなさんなッ!わかったね?』 『有難う…オバチャン有難うッ…私アホやった…誰にも迷惑かけてないて思ってたけど私が万引きする事で周りの色んな人が傷つくんやね…ウゥ…ホントにゴメンなさい…もうこんなバカな事しませんッ!』 女子校生は清子に深々と頭を下げた…
>> 36
★31★
『え~ッと、今聞いただけで出てきたのが《日新百貨店》《ジャオンマート》《コイデスーパー》…これだけの状況証言ありましたらこ…
★32★
『私ッ…そんな、そんな大変な事…してたんですか…ウゥ…』
さっきまでの威勢の良さが嘘のように女子校生は半分ベソをかきながらホントにゴメンなさい!を連呼していた…
『いい?そんなくだらない事で友達と競わないでもっとええ事で力使いなさいッ!アンタらはまだまだ若いんやッ!』
清子は女子校生の肩をポンと叩いた…
『…今回だけは警察呼ばないでおいといてあげる…だけど住所と名前はオバチャンに教えてくれるよね?』
女子校生は涙顔で頷くと書類に記載を始めた…
『あ、あのぅ清子さん、…警察には通報しないん…ッ』
早苗の言葉に清子はいいから黙ってなさいッ!といった意味の目配せを早苗に送った…
『はい、有難うね…いいわね?これが最後のオバチャンの慈悲やからね、もう次捕まったら最後や思いなさいッ…アンタの輝かしい人生自分から放り投げる事はしなさんなッ!わかったね?』
『有難う…オバチャン有難うッ…私アホやった…誰にも迷惑かけてないて思ってたけど私が万引きする事で周りの色んな人が傷つくんやね…ウゥ…ホントにゴメンなさい…もうこんなバカな事しませんッ!』
女子校生は清子に深々と頭を下げた…
>> 38
★33★
『オバチャン私、このスーパーでバイトさせて貰おうと思てるの…面接、受かったらの話やけど…フフフ…今迄の罪滅ぼしってゆうか…アハハ…どうやろ?面接受かるかな?』
裏口で長野美幸という名のその女子校生は清子に明るく笑顔で言った…
『大丈夫や、アンタならきっと受かるッ!フフフ…受からんかったらアタイが店長に怒鳴り込んであげるわよッ!』
長野美幸は頭を下げて手を振り帰って行った…捕まった時とはまるで別人のようにキラキラと女子校生らしさを放ち、輝きながら…
『…恐れ入りました…』
『ん?…何がです?』
横で早苗は清子に言葉を掛けた…
『…フフフ…何か清子さんには私なんかには見えない凄い不思議なモノがあるんだなって…』
『私は普通の凡人ですがな…』
清子に少し笑みが溢れた…
『ただ厳しいだけの人だと思っていました…』
清子はフンと鼻を鳴らした…
『厳しいですよ私はッ…万引きは断じて許しません!…だけどホンマに大事な事を教えないといけない時はね、フフフ…私だって人間ですもん…』
『…日本一の敏腕カリスマ万引きGメン主婦《アナコンダ清子》…貴方が日本一って言われる意味、私何か少し解った気がします…』
早苗は笑った…
>> 39
★34★
『あの刑法第なん条とかいうのは?裁判で有罪になるというのは本当なんですか?』
『フフフ…そんな万引くらいで逮捕されてブタ箱に入れられますかいなッ!あれは全部デタラメッ!ああでも言わないと彼女びびってくれませんやろ?』
清子は高らかに笑うと警備室に戻って行った…
『さぁ、行きますよッ!こない油売ってる間にも万引きは続けられてるかも知れませんのやからッッ!』
『あ、はいッ!』
清子に促されて早苗は清子の後を歩いて行った…後から早苗がテープレコーダーを片付けた際、中にテープが入っていない事に気づき、早苗はまた少しほくそ笑んだ…
その日は月に一度のダイゴ安売り特売日で店内は朝から買い物客で賑わっていた…
『万引き犯はこんな特売日を狙って来るから今日は気を引き締めて下さいよッッ!』
朝の清子との朝礼に早苗も気合いを入れて業務に当たっていた…タイムサービスの最中、早苗は乳製品売場でじっと佇む一人の老人に目がいった…
(ん?…)
早苗は気付かれないようその腰の曲がった杖をついた老人の行動を見ていた…老人はブツブツ何かを呟きながら持参の手提げ鞄にハムやチーズ、ヨーグルト等を 詰めこんでいた!
>> 40
★35★
『ちょっとお爺ちゃん、いいかなぁ~?』
店の玄関を出て数m歩いた所を確認した後、早苗はゆっくりと優しい口調でその老人に話しかけた…
『……』
『お爺ちゃん今ね?支払い済んでいない商品この鞄の中にあると思うんだッ…悪いんだけどちょっとこっち一緒に来てくれるかな?』
『……ハァ?何ですカァ~?』
その老人は難聴らしく早苗の言葉が解らない様子だった…
『だァ~かァ~らッッ!ちょっとそこまで一緒に来てくれますかァ~ッ!!』
早苗は老人の耳元で大声で叫んでみた…
『……ハァ…?』
とにかく身柄確保が先決と早苗はその老人の脇を抱え裏口の警備室に急いだ…
『あ、清子さん?今M確保してます…至急警備室に来てくれますか?』
早苗は万引き犯人を確保したと清子の携帯に電話を掛けた…Mとは保安員同士の暗号で万引き犯人を指す…
【悪いんだけど今私もM確保しそうなのよッ!そっちで先に調書とっておいて頂戴ッ!集中出来ないから切りますよッッ!】
ヒソヒソ話で話す清子にすみませんと告げ、早苗は携帯を切った…
『フゥ~…正真正銘一人きりか…』
早苗は目の前にキョトンと座り、歯のないしわくちゃの口元をモゴモゴさせている老人の顔を眺めた…
- << 44 ★36★ 『お爺さん幾つ!?』 『ハァ?……何ね?』 『いィ~くゥ~つッッ!?』 早苗の質問にもその老人はただ満面の笑顔でウンウンと頷くだけだった…早苗は思わず天を仰ぐとため息をついた… 『いいですか?…ヨォ~く聞いて下さいねッッ!お爺さんはァ~、商品のォ~、代金払わずにィ~、お店出ちゃったのね?それはァ~、悪い事なのォ~ね?分かりますゥ?』 老人は笑顔でウンウンとただ頷くだけで早苗の質問を理解しているのかいないのか、はたまたトボケているのかが早苗には判らなかった… 『代金を払ってない商品をォ~、この机にィ~出して頂けますゥ~?』 『アァ…イヒヒ、はいはい…イヒヒ…』 ようやく呑み込めたらしく老人はゆっくりと鞄の中に入っている盗んだ乳製品の類7点を机に並べた… 『お爺さんあのねッ?こういう事されちゃあ困るのねッ?お店の商品なんだからァ~、ちゃんとお金を払ってからァ~…』 『ご飯じゃ…大三郎のご飯じゃよ!イヒヒ…』 老人は皺くちゃの顔をさらにクチャクチャにさせて笑った… 『大三郎ってだぁれ?お爺さんのお孫さん?息子さんッ?』 大声を出すのもたいがい疲れてきた早苗は正面の椅子にへたり込んだ…
>> 41
★35★
『ちょっとお爺ちゃん、いいかなぁ~?』
店の玄関を出て数m歩いた所を確認した後、早苗はゆっくりと優しい口調でその老人に話しかけ…
★36★
『お爺さん幾つ!?』
『ハァ?……何ね?』
『いィ~くゥ~つッッ!?』
早苗の質問にもその老人はただ満面の笑顔でウンウンと頷くだけだった…早苗は思わず天を仰ぐとため息をついた…
『いいですか?…ヨォ~く聞いて下さいねッッ!お爺さんはァ~、商品のォ~、代金払わずにィ~、お店出ちゃったのね?それはァ~、悪い事なのォ~ね?分かりますゥ?』
老人は笑顔でウンウンとただ頷くだけで早苗の質問を理解しているのかいないのか、はたまたトボケているのかが早苗には判らなかった…
『代金を払ってない商品をォ~、この机にィ~出して頂けますゥ~?』
『アァ…イヒヒ、はいはい…イヒヒ…』
ようやく呑み込めたらしく老人はゆっくりと鞄の中に入っている盗んだ乳製品の類7点を机に並べた…
『お爺さんあのねッ?こういう事されちゃあ困るのねッ?お店の商品なんだからァ~、ちゃんとお金を払ってからァ~…』
『ご飯じゃ…大三郎のご飯じゃよ!イヒヒ…』
老人は皺くちゃの顔をさらにクチャクチャにさせて笑った…
『大三郎ってだぁれ?お爺さんのお孫さん?息子さんッ?』
大声を出すのもたいがい疲れてきた早苗は正面の椅子にへたり込んだ…
>> 44
★37★
『何言っとるぅ…大三郎はワン公じゃ、可愛い秋田犬じゃぁ、イヒヒ…』
『わ、ワン公ぉ?秋田犬ッ?じゃあお爺さんはその秋田犬の餌を調達したいが為にこれらを盗んじゃったのね?』
早苗はあくまでも冷静に振る舞おうと努めた…
『盗んだんじゃのぅて拾ったんじゃ、イヒヒ…』
『ひ、ひ、拾っタァ??…』
早苗は思わず心の中でこう叫んだ…《駄目だこりゃ…》老人はそれらの商品をまた自分の鞄にしまおうとしたので早苗は思わず制止した…
『な、何やってるのお爺ちゃんッッ!?これは鞄に入れちゃ駄目ッッ!』
『バカを言うなッ!これは拾ったんじゃ拾ったんじゃッッ!ワシが拾った大三郎の餌に触るなッッ!!』
必死の形相で老人は早苗の手にある商品を奪い返そうとしていた…
(認知症ぉ?ンモゥ、勘弁してヨォ~ッッ!!)
早苗はひとまず落ち着かせようと商品のうちのハムのパックを老人に持たせると老人はそれを抱きかかえるようにして早苗を睨みつけた…
『ハァ~…ヤッパリ私じゃ手に負えないかッ!』
早苗は暫く待って清子の応援を仰ごうと決めた…
(ハァ~…何か大変だよこの仕事ぉ~ッッ!)
老人は早苗の困った顔を見てケタケタと笑った…
>> 45
★38★
『え?…認知症の万引き犯人ッ?』
『はい、私一人ではとてもじゃないけど手に負えなくてッ…清子さん助けて下さいッ!』
自分が確保した万引き犯を警察に突き出した後すぐに清子は早苗のいる部屋に駆け付けた…
『………このお爺ちゃんね…』
部屋の片隅でハムを抱えて笑っているその老人を眺めながら清子は呟いた…
『耳は遠いし言ってる事もイマイチ理解出来てないみたいだし…こんな時はいったいどう対処すれば…』
頭を掻きながら困った表情の早苗のそばで清子はじっとその老人を観察していた…
『ねぇお爺ちゃん、ワンちゃん飼ってるの?写真とかあったら見せてくれないかな?私も大好きなんだ、ワンちゃん!フフフ…』
いきなり清子が老人に切り出した…いいともいいともと老人はポケットの定期入れに入っていた愛犬、大三郎の写真を清子に見せた…
『フゥ~ん…可愛いワンちゃんねぇ!』
『大三郎って言うんじゃ、秋田犬じゃ、オスの7才じゃ!』
老人は嬉しそうに笑っていた…
『はい、有難うね、写真返すわね~』
清子は次の瞬間机のメモ帳に鉛筆で書き込みをし、その紙を早苗に手渡し言った…
『さぁ、すぐにこの住所を調べて家族を呼んでッッ!早くッ!』
『?…えッ?』
>> 46
★39★
『ねぇお爺ちゃん…おウチには誰か一緒に住んでる人いるのかなぁ?あ、勿論大三郎以外でねッ!?ハハハ!』
清子は優しく尋ねた…
『秋田犬はなッ、寒い地域の純粋犬なんじゃッ!よう働くし主人に忠実じゃッ!』
支離滅裂な答えにも清子は呆れた顔一つせず笑顔で答えていた…早苗はこの間警察に連絡を取り老人の住所の電話番号を突き止め、身元保証人としてその家にいた妻にスーパーに来て貰うように告げた…
(す、凄いッ…あのさりげなく住所を探りあてるテクニック…きっと愛犬家だから写真を持ち歩いているだろうと推定して…それも保険証が入った定期入れまで計算に入れて…ヤッパリ凄いッ、アナコンダ清子ッ!タダ者ではないわッ!)
ひたすら感心しながら早苗は改めて清子の保安員としての技術と力量を認めざるを得ない気持ちだった…
『お爺ちゃんね…悪いんだけどちょっと奥さんこれからここに来て貰うからね?いいよね?』
清子が老人に笑顔で話しかけている間も早苗は清子の全てを観察し、この難敵をどう料理するのかをどうしても見届けたい気持ちにかられていた…
>> 47
★40★
『モウ、お爺さんたらッ、また人様に迷惑かけてからにッ!』
40分後に身元引受人が現れた…菊池トメと名乗るその老婆は盗みを犯した菊池伝次郎の妻であった…
『ホントに申し訳ありませんッ!ご覧の通り主人は老人性の痴呆症でして、家から抜け出しては徘徊を繰り返し、こうして人様の迷惑ばかりかけるどうしようもない男でございまして…どうか今後このような不始末はさせぬようよう言い聞かせますよってにお許し願えませんでしょうか?どうかッ…』
菊池トメは清子と早苗に頭を下げた…清子はその様子をただ黙って見ていた…
『清子さん…仕方ないですよッ…お爺さんだって悪気があってやった事ではありませんし…これからは奥さんによく監視してもらうとの事でいいんじゃないですか?』
今回の件に関しては早苗もいた仕方ないと感じていた…病気でした事なら情状酌量の余地は多分にあると感じたからだ…
『それでいいですよね?清子さん…』
早苗は清子に尋ねたが清子は口を真一文字に閉じたまま目を瞑っていた…
『…き、清子さん?』
『奥さん、最後に一つだけ聞きたいんですけど…』
清子の瞼がパッと開いた…
>> 48
★41★
『奥さん…旦那さんが認知症と診断されたのはいつ頃からですか?』
『…は、はい?』
早苗は脈絡のない清子の質問に戸惑った…今更そんな事を聞いて何の役に立つのだろうと首を捻った…
『いつ頃からですか?』
『あ、はい…こんな状態になってからもうかれこれ1年近くは…』
『1年…ですか…』
早苗はさあもう結構です、気をつけて帰って下さいと荷物をまとめて二人を部屋から出そうとした…
『なぁ~るほど、そういう事ですか…フフフ、考えましたな菊池さん…!』
清子がいきなり言葉を発した!
『で、では私共はこれで…』
『!待ちなさいッッ!!』
清子は大きな声で菊池夫妻を怒鳴りつけた!
『ち、ちょっと清子さん何なんですかッ?もういいじゃないですかッ!』
驚いた早苗が清子に反論した…
『…そうやって色んなスーパーで同じ事やって逃れて来たんですね…フフフ、けど…私の、このアナコンダ清子の目は誤魔化せませんよッッ!!』
清子は机を力一杯拳で叩いたッ!
『ち、ちょっと清子さん、どういう事なんですか?説明してくださいよッ!?』
早苗が清子に歩み寄り事情説明を求めた…
『菊池伝次郎さん!アンタ、ホンマは正気なんですやろッッ?白状しなさいッッ!』
>> 49
★42★
『な、何て事をッ!う、ウチの主人は間違いなく痴呆症ですッ!』
菊池トメがかばうように清子を睨みつけた…
『まぁだしらばっくれますのか?…年寄りやと思って何でも大目に見る思ったら大間違いですよッ!…アンタらは万引き犯の中でも最低最悪の部類に入りますッッ!絶対許しませんでッッ!!』
清子が吠えた!その表現がピッタリだと早苗は思った…鬼の形相で今にも噴火しそうな火山の如く、57歳主婦は明らかに爆発寸前だった!
『さっき伝次郎さんの犬の写真見るフリしてザッと定期入れの中見せて貰ったんですッ!そうしたら伝次郎さんの運転免許証が入ってありましたッ!』
『う、運転免許証くらい入れてるんじゃないですか?病気になる寸前まで車を乗っておられたのなら何等不思議はないと…ッ!』
二人を弁護するように早苗が清子に反論した!
『痴呆症の診断受けたの1年前って言いはりましたよねッ?さっき何気なく前回行った運転免許証の更新交付欄見たら今年の7月26日となってました…今日は8月15日です…これがどういう事か分かりますよね?』
清子の言葉に早苗と菊池夫妻は動揺した!
(ま、まさかあの一瞬で…そんな所までチェックしてたのッッ!?)
- << 51 ★43★ 『1年前に老人性痴呆症と診断された人が最近の運転免許証更新をそんな安々と通り抜ける訳ありませんやろッッッ!この私に簡単に定期入れなんか見せたのが運のツキですわッ!菊池伝次郎、アンタは各地のスーパーで万引きを繰り返し、万一捕まった時はボケ老人を装い保安員の同情を買い、挙げ句の果てには妻を呼び出し《この人は痴呆症やから堪忍したって下さい》と慈悲に訴えて警察沙汰になる一歩手前でのうのうと万引きという犯罪の事実から逃れて来た…違いますかッッ!!社会の知恵と手本にならないといけないアンタらお年寄りがこんなみっともない事して恥ずかしいと思いませんのんかッッ!?今まで何人の保安員の目をかい潜って来たかは知りませんけどな、このアタイの眼は誤魔化そうったってそうはいきませんよッッ!!』 怒涛のように押し寄せる清子の怒りの鉄拳は菊池夫妻の脳天を貫いた! 『アワワワッ…す、すんまへん、す、すんまへ~ンッ!!』 その光景はまさに遠山の金さんを間近で見ている気分だった…あんぐり口を開いた早苗は清子のその金さんぶりにただただ頭を垂れるしかなかった… 『さぁ、警察行って散々絞られて来なさいッッ!これにて一件落着ッッ!』
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2レス 17HIT お馬鹿騒ぎ好きさん -
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それだけ?って思ってしまった。 公立でももっと宿泊行事あったから。(匿名さん6)
6レス 163HIT お調子者さん -
続 探求の館
結婚…とは 相手への興味 自分の肯定 承認欲求 相手の尊重…(初心者さん0)
273レス 5635HIT 初心者さん -
大学の友達に高校時代の話をしたら引かれた
>体育祭で彼女持ち男子と抱き合ったり投げキッスする振り付けのダン…(匿名さん8)
8レス 159HIT おしゃべり好きさん -
日本の隣国
日本、中国、韓国、北朝鮮、ロシア、アメリカ、国連、台湾、香港、澳門、A…(匿名さん6)
9レス 532HIT おしゃべり好きさん
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大河原邦男氏がデザインしたメカやロボで好きなのは?1レス 87HIT ミクルファンさん
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アプリで性欲解消最高(≧∇≦)1レス 68HIT 社会人さん
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作りたくない時はこれ10レス 259HIT 匿名さん
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地球が壊れている!!281レス 908HIT 通りすがりさん
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あなたにはいますか?9レス 348HIT 匿名さん
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大河原邦男氏がデザインしたメカやロボで好きなのは?
唯一購入したのは、∀ガンダムの最終巻です。 ガンダムは普段みずに眺め…(匿名さん1)
1レス 87HIT ミクルファンさん -
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アプリで性欲解消最高(≧∇≦)
さらっと犯罪行為告白しないでください。通報されちゃいますよ。(匿名さん1)
1レス 68HIT 社会人さん -
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地球が壊れている!!2
続きます。自分で作れる物は、なるべく自分で作り、なおかつそれで商売する…(通りすがりさん0)
81レス 908HIT 通りすがりさん -
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作りたくない時はこれ
ありがとうございました😊(匿名さん0)
10レス 259HIT 匿名さん -
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あなたにはいますか?
親戚の伯母に言われた言葉ですね。 「あんたにも友達ていたの?」これで…(匿名)
9レス 348HIT 匿名さん
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