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交換小説しませんか?

レス91 HIT数 5436 あ+ あ-

チキン( 30代 ♂ BMsZnb )
19/11/14 13:00(更新日時)

交換日記ならぬ、
交換小説しませんか?
先が読めない小説、
お互いの感性が試される小説。

流れに身を任せて繋げていきましょう。
どこまでやれるかわかりませんが、とりあえずノってみようということで。
主としては小説を書いたことありませんが。

まずはファンタジーなど書きたいなという思いです。

18/07/03 07:45 追記
スレ返信なかなかできなくて
すいませんm(_ _)m💦

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No.2665330 18/06/23 01:22(スレ作成日時)

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No.51 18/08/26 00:00
名無し3 

>> 50 車はぐんぐんと走っていく。

ハンドルを握る足原は口をぎゅっと真一文字に結んだまま、じっと前を見据えている。

足原…

僕にはずっといくつかの疑問があった。

足原は河村多江子さんに引き取られたと言った。

河村多江子さんは高橋君の母親だ。

なら何故、一緒に住んでいた多江子さんの息子が高橋君だと知らなかったのか。

僕が高橋君が多江子さんの息子だと言った時に、足原は初めて知った様な顔をしていた。

その頃、高橋君、いや河村君はどうしていたのか。

そして…

僕が、自分のドッペルゲンガーか?と疑い独自に調べた河村君。

足原はあまり詳しくは調べていなかった様だが、僕は撤退的に河村君の動向を調べた。

結果、色々な事がわかったが、
僕が足原と再会する少し前からの河村君の消息がイマイチよく掴めない。

おかしい。

おかしい。

じゃあ、僕が足原と再会した後に、
「〇〇にいたよね?」
と、目撃された河村君は一体なんだったんだ?

いや、チラッと見ただけの人の観察力なんて当てにはならない。

背格好や顔の雰囲気が似ていれば簡単に見間違えられるものだ。

と、すると…

その目撃された男は、もしかすると実は足原?!

しかし足原はそこにいた事をまるで覚えていない風だった。

覚えていない…と言えば、
僕との会話の中で足原は、

「よく覚えてなくてよぉ。」

というセリフが多かった。

まさか…

父さんの「研究の話」が嫌でも頭に浮かぶ。

足原…まさか…
合成…による…記憶障害?!


まさか…な。

考え過ぎだろう。

でも…

次々に亡くなった?消えた?足原の兄達。

治療法が無いと言われていた難病だったはずなのに、見違えるほど元気な姿になっていた河村(高橋)君。
だが今はその消息が掴めていない…

そして…
唯一残った足原…

まさか…

僕はゾッとした。

「お前の好きな食べ物はなんだ?」

突然、足原が声をかけてきた。

険しい顔つきとは逆にのんびりとした声色だ。

「僕の好きなのは…カレーライスだ。」

僕は咄嗟にそう答えた。

No.52 18/08/31 19:28
チキン ( 30代 ♂ BMsZnb )

>> 51 「そっか!

最高だよなカレーライス」


相手と好みが合うと
嬉しくなるなぁ。




車はインターチェンジを降り
繁華街へ。

そして繁華街を抜け
山道に入っていく。

だんだんと気持ちが高ぶっていく。

条件反射。


嫌な場所へ
自分の故郷へ
自分の生まれた場所へ
自分が死んだ場所へ


心臓がひとりでに激しく脈打ち始める。

ドクドクドク…


何かに引き寄せられるような

何かに導かれてるような

誰かに呼ばれてるような



ぐねぐねとした道を
登ってゆく。

辺りには全く街灯はない。

車のライトが唯一の頼み。


闇の中を小さな光が突き進む。


阿藤が固唾を飲んでるのが気配で感じる。

連れてきてよかったのかと今さらながら思う。
巻き込んでよかったのか?


高鳴る気持ちをやわらげるように
俺は口を開いた。


「俺は闇の中って
けっこう平気なんだ。

阿藤お前はどうだ?

お化けとか苦手な方か?


俺はお化けだって平気さ。

今じゃあ研究所も
有名な心霊スポット
とかになってたりして。」


道が大きく開けてきた。


そして

車のスポットライトが照らした先に

大きなゲートが立ち塞がる


「ここが俺が生まれ育った場所。
そしてお前の父ちゃんが
勤めていた場所。


アシメトリックバイオ研究所。


じゃあ今から胆試しと
洒落こむか。」

No.53 18/09/01 19:54
名無し3 

>> 52 僕の好きな食べ物がカレーライスだと聞いた時の足原の表情は嬉しそうだった。

いつもの人懐っこい笑顔、
屈託のない笑顔。

だが、山道に入った辺りから足原は一切言葉を発せず、その表情も固く強張り出していた。

足原…

本当は身体が心が拒絶反応を起こしてるんじゃないのか?

まともに考えたらそうだろう。

なのに何故…

僕の思いはグルグルと交錯する。

そんな得体の知れない不安を抱えている僕の気持ちを察したのか足原が急に話しかけてきた。

「闇は怖くないか?
お化けは苦手か?
俺は平気だ。」と。

「足原。
僕も闇もお化けも怖くないよ。
強いて言えば生きている人間の方が怖いよ。」

僕はありきたりな答え方をしたが、
本当に怖いのはそんなものじゃない。

僕が本当に怖いのは、
僕らが探ろうとしている「真実」
を知ることだ。

急に道が開け出したかと思うと、前方に大きなゲートが見えてきた。

ゲートを見た瞬間、恐ろしい程の重圧感で息が苦しくなる。

身体が激しい悪寒と嫌悪感で震えだした。

足原、ダメだ!
ここはダメだ!
戻ろう!
戻ろう!!

声にならない声で僕は叫ぶ。

だが、足原に僕の声は届かない。

隣で足原が何か話し出した。

だが、僕の耳にも足原が何を言っているのかまるで入って来なかった。

No.54 18/09/10 11:02
チキン ( 30代 ♂ BMsZnb )

>> 53 「阿藤、…阿藤!」


ハッ、とした表情で
こっちを振り向く阿藤。

顔が恐怖で強張ってるように見える。


「どうやら阿藤にも何か嫌な感じが伝わるんだな。


なんか俺、
ひとりで突っ走りすぎたわ。


そうだよな、
怖いよな

正直俺も怖い。

あいかわらず
威圧感がある場所だぜ。

きっとここは
有名な心霊スポットになってるに違いねぇだろうな。
ハハ…


…悪いな阿藤
嫌な思いさせちまって。

引き返そう」


俺は車のギアをRに切り替え
車をバックさせて方向転換をしようと車が下がり出したその時、

ザッ
プツッ


「ようこそ
アシンメトリーバイオ研究所へ」

!?

瞬間的にブレーキを踏む、
いきなりの声、
突然の出来事に体が硬直する。

暗くて気づかなかったが、
声の発信源はどうやら
ゲートの右上に付いている拡声器からしい、

拡声器に釘づけになる。


「いや
おかえりというべきだね


足原くん」


!!


俺の存在がバレてる!
相手は俺が来てるのがわかっている!
ナゼだっ!?
監視カメラは、
右上、左上、正面中央に小さな丸が、これもか、
でも監視カメラだけで
ハッキリとわかるはずがねぇ、
というこは事前に俺が来るというのは知られていたのか!?

「そして阿藤くんも
一緒だね」

!!!っ

阿藤の名前まで出されて
俺は咄嗟に
「お前は誰だっ!」
と叫んだ。


「わたしが誰かは
会えばわかるよ」


俺は恐怖のあまり
瞬時の判断で
急いで車を引き返そうと、


「足原くん

真実を知りたくないかい」


その真実というワードに
耳がビクッ、
同時に足が自然とブレーキペダルを踏み込む、


「きみは真実を知らない

きみの存在理由を


警戒しなくていい
きみの研究はすでに
終わったんだ

無理矢理また研究所に
引き戻そうなんてことはしないし
危害をくわえないと約束する
阿藤くんにもね


そして阿藤くん
この話はきみにも関係してることだよ」

阿藤にも関係している!?
なんで!?

阿藤の方をふり向くと、
阿藤も驚きと恐怖が入り交じった表情で
こちらを見つめ返す、

それでも俺たちは
じっと固まったままで
その場から動けずにいると、

No.55 18/09/10 11:06
チキン ( 30代 ♂ BMsZnb )

>> 54 「まあ確かにこれでもこちらに入ってくる気にはなれないだろうね

じゃあもし

ぼくが高橋 遼だとしたらどうする

きみたちの同級生の
高橋だったら

どうする足原」

この声の主が高橋?
探していた河村?
なぜこの研究所にいるんだ?
なぜだ?

確かめたい、

確かめたい、

知りたい、

真実


「阿藤、

お前はコイツが本当に
高橋だと思うか?

俺は
コイツが高橋というのは本当のような気がする、
なんとなくわかるんだ、

俺はコイツに会って
話をきいてみたいと
思っている、

お前はどう思う?」

と、突然ゲートが動きだした

除々に開いていく扉

ゆっくりと姿を表わにしてゆく研究所

建物まではまだ遠いもののその輪郭が目に入ると
過去の記憶がフラッシュバックしてくる。

建物を見てるようで
頭の中を見てるようで


「ぼくは第七研究棟で待ってるよ

足原」


プツッ

No.56 18/09/10 22:32
名無し3 

>> 55 「高橋…く…ん?」

僕は息を呑んだ。

高橋君が生きていた?!

いや…まだ「存在」していた?

僕の仮説は間違っていたというのか?

僕は隣の足原を見た。

足原?

足原は動かない。

「足原?」

足原の肩を叩こうとした瞬間、

何かを考え込む足原の横顔が高橋君の顔とダブって見え、僕は咄嗟に伸ばしかけた手を引っ込めた。

そんな僕を真っ直ぐに見つめながら足原はようやく口を開いたが、
その内容は僕を心の底から震撼させた。

「足原!何を言っているんだ!ダメだ!行くな!
お前、高橋に存在を消されるかもしれないんだぞ!!」

ゲートが不気味な軋み音と共にゆっくり開いていく。

「足原!!僕の父さんの研究はクローン技術なんかじゃないんだ。
父さんの研究は『合成による品種改良』なんだ!」

品種改良。

農作物などでお馴染みの言葉。

米等、味は良いが寒さに弱いものと、味は劣るが寒さに強い物を掛け合わせ、
美味しくて寒さに強い米を作る。

それを応用したもの…
合成品種改良…

「たと…えば…身体の弱い…オリジナルから細胞を摂取して遺伝子操作をしたクローンを…造り…それを…オリジナルと…合成…する…」

僕は自分の声の震えを止める事が出来なかった。

「クローンは遺伝子操作の…影響に…より、外見や思考等はオリジナルと…異なる場合がある。
でも元は同じ人間…なんだ…合成されたオリジナルは…健康体の…クローンを取り…込み…吸収する…
そうして…オリジナルは…完全…体…になる…」

だが、研究所の技術では「合成」が不完全だったため、3人ものクローン達の儀性を払った後に、僕の父さんが招かれたのではあるまいか?

そうして父さんが亡き後その技術を使い、何らかの形で最後の合成は行われ、失敗によりオリジナルの高橋が足原に取り込まれたと思っていた。

だが…

高橋は存在していた。

「足原!これはあくまでも僕の推察に過ぎない。
でも、何にせよ危険だ!危険過ぎる!
止めろ!足原!!」

僕は足原を夢中で止めた。

僕は必死だった。

でも僕は足原を止める事に夢中で、

高橋が僕に言った言葉、

「阿藤君。この話は君にも関係しているんだよ。」

の言葉を完全に忘れていた。

No.57 18/09/29 07:12
チキン ( 30代 ♂ BMsZnb )

>> 56 「俺は今まで自分が存在する意味を考えていた。

俺は代用品でしかなかった。

誰かの替わりでしかなかった。

唯一本物の為に生きることが役目だった。

俺は偽者でしかなかった。

存在理由がほしかった。


ずっとカゴの中で飼われた鳥は
いつか大空で羽ばたくことを夢みていた。

そして鳥はとうとう大空へ羽ばたける時がやってきた。

自由だ自由だ。

そして鳥は再びカゴの中へもどってくることはなかった。

でも人間は違うと思う。

いくら逃げても心は逃げ切れない。

だから決着つけねぇと。


やばそうだったらそん時に考えればいい。
俺はどっちに転ぶかわからない不安よりも何もしないでじわじわと押し潰される不安の方がよっぽど怖ええよ。
行動しようが行動しなかろうが
結局は不安になるんだったら
俺は変えられるチャンスがある不安の方を選ぶよ。

へへ、俺は一度死を覚悟していた人間だぜ?
それがもう一度死をかけることになっただけのことさ。
それにこう見えても俺はギャンブルは強い方なんだぜ。



俺は今から自分に
決着をつけに行く。」


俺は阿藤の方は見ずに
ただ前だけを向いて言葉を紡いだ。
それは前方に重くかまえる研究所に向けて言っていたのかもしれない。



No.58 18/10/04 20:40
名無し3 

>> 57 ギャンブルね。

生きるか死ぬかの瀬戸際に何を言っちゃってんだか…

でも僕は半ば呆れつつも妙に感心してしまっていた。

本当に肝が座っている男なんだな。
いや、待てよ。
単に馬鹿なだけか?

うん。
馬鹿だな。

馬鹿に決定。

僕は思わず微笑んだ。

僕の心はもう完全に決まった。

「足原、行こう!
僕に何ができるかはわからないけど、一緒に高橋の所に乗り込んでやろうぜ!」

そんな僕の言葉に嬉しそうに頷く足原。

「足原。お前さ、カラオケ好きか?」

唐突におかしな事を言い出した僕に、足原は不思議そうな目を向けた。

「足原、スキマスイッチの全力少年って曲知ってるか?
なあ、あれさ僕の元気ソングなんだよ。
サビの部分だけでもいいからちょっと歌ってくれよ。
景気づけの1曲としてさ!」

足原は優しく微笑むと、ポツポツ呟くように歌いだした。

僕も合わせて一緒に歌う。


「澱んだ景色に答えを見つけ出すのはもう止めだ!
濁った水も新しい希望(ひかり)ですぐに透み渡っていく

積み上げたものぶっ壊して 身に着けたもの取っ払って
幾重に重なり合う描いた夢への放物線
紛れもなく僕らずっと全力で少年なんだ

セカイを開くのは僕だ

視界はもう澄み切ってる」



歌い終わった足原は僕の肩をポンっ!
と叩き、

「この件が解決して無事に戻れたらカラオケ行って歌いまくろうぜ?」

と楽しげな笑顔を見せた。

「僕と?」

「当たり前じゃねえか。
誰に言ってると思ってるんだよ。」

足原が可笑しそうに笑う。

足原…

「ああ、そうだな!
無事に戻ってカラオケ行って一晩中歌おう!」

こんな状況なのに僕の声は不釣り合いな程弾んでいた。

そんな僕を優しい目で見つめる足原。

「だからな…ごめん…
お前はやっぱりここに残れ。」

トンっ。

え?

首の後ろに軽い衝撃を感じると共に僕の意識が遠のいていく。

本当は直ぐに意識を失ったのだろうと思う。

でも何故かその数秒の間に僕の意識は凄まじいスピードでグルグルと全身を駆け巡った。

なにこれ?

なに漫画みたいな技使ってんだよ。

カッコつけてんのかよ。
似合わない。

馬鹿じゃないの?

やめろよ。

嫌だ…

嫌…だ…

行か…ないで…

僕の…

僕の…

親友…

足原…

足原~~っ!!!

僕の意識はそこで途絶えた。

No.59 18/10/17 20:10
チキン ( 30代 ♂ BMsZnb )

>> 58 「ボクは思うんだよ
犠牲は必要だって」

「……」

「築いていく為には犠牲は必要さ
国だってそうだろ?
組織だってそうだろ?
上にたつ為には必要不可欠
何かを捨てなきゃ次には進めない」

「……」

「循環だよ循環
空気が汚れれば新鮮な空気を取り込むだろ?」

「……」

「ボクは思ったんだよ
あの時にね

ボクが犠牲の上に生きられた時にね」

「……」

「足原
きみもその犠牲の上に生きてるんだぜ?」

「!!っ、

…どういうことだ?」

「やはり知らなかったか
そしてやはり母さんは足原には
何も語らなかったみたいだなぁ」

固い唾が喉元から落ちてゆく。

「足原
きみはパーツじゃないんだよ
きみは本体なんだ
きみは生かされてる側なんだよ」

「、生かされてるっ?

、俺は、クローンじゃないってのか?」

「そう
きみはクローンじゃない
きみはオリジナルなんだよ」


クローンじゃない…

オリジナル…





第七研究棟。

敷地内の最後部に位置する七つある棟のなかで一番大きな建物だ。

子供の頃
俺たち兄弟は王のいえと呼んでいた。
ただ単に一番でかい建物だったからの理由で。
その王のいえに俺は今いる。
高橋と向き合う形で。

こいつこんなヤツだったっけ?
中学の時こんな感じだったっけ?
なんだろう、掴めない。
久しぶりが久しく感じれない。
余裕と貫禄が感じられる。
その余裕はどことなく鼻について。
その貫禄もどことなく鼻について。

そしてこいつから放たれる言葉はつくづく
俺の心をかき乱してゆく…

No.60 18/10/22 19:51
名無し3 

>> 59 ほんの一瞬の事の様な、長い夢を見ていた様な、不思議な目覚めだった。

「んっ?」

起き上がるも暫く自分が何処にいるのかを認識するのに時間がかかった。

「あれ?何で車の後部座席で寝てたんだ?」

後部座席のドアが開け放たれ、僕の両足が外にはみ出た状態になっている。

何でこんな変な寝かたを?

薄ぼんやりと考えているうちにボヤーっとしていた意識が段々戻ってきた。

足原!

足原!どこだ?!

慌てて転がる様に飛び出す。

しまった。

足原を追いかけなくては。

ゲートの向こうに広がる広大な研究所は禍々しくどす黒い空気に包まれている。

得体の知れない恐怖で足がすくむ。

中に足を踏み入れてしまったら、もう僕はこちらに戻っては来れない様な気がした。

でも僕は…

僕は不気味に大きく口を開けた研究所のゲートに向かって一気に走り込んだ。

ズザザザアッ。

「痛ってぇ…」

暗闇の中、いきなり何かに足を取られて地面に叩きつけられる。

「何なんだよ一体。」

僕はその「何か」の正体を見極めようと携帯電話のライトを点けた。

「ん?何だこれ?」

それは朽ち果て無残な姿で地面に転がっていたこの研究所全体の案内板の様なものであった。

よく動物園や遊園地等にある感じの案内板である。

一応、表向きはちゃんとした研究施設で通ってたもんな…

妙な安心感と微妙な違和感に苛まれつつもライトを照らして案内板を調べた。

「え~と、確か第7研究棟…」

わざと声に出して確認する。
そうしないと、この静まりかえった沈黙の闇に飲み込まれてしまいそうで怖かった。

1番奥かよ。
遠いな。

……

僕は再びゲートの外に戻ると足原の車に乗り込んだ。

幸いキーは付けっぱなしになっている。

かなり目立つがどうせ向こうさんは僕の行動なぞお見通しだろ。

それなら車がある方が逃げやすい。

まさか車を爆破したりはしないだろうし。

いや…
ちょっと自信ないか…な?

足原…
この車、ローンがまだ残ってるか?

ゴメン…
この車の無事は保証できそうにないよ。

だから無事に再会して、
「俺の愛車に無茶をさせんじゃね~よ!!」

と僕を叱ってくれ。

僕は再びゲートの方に目を向けた。

足原、今行くからどうか…

「行くぞ!頼むな?」

僕は足原の車にそう話しかけると、
車のエンジンをかけた。

No.61 18/11/02 18:57
チキン ( 30代 ♂ BMsZnb )

>> 60 「オリジナルか…

てかなんでお前がそんなこと知ってんだよ高橋、」


「それはね足原

それはぼくがこの研究所の研究員だからだよ」


「研究員だぁ?」
語気が強くなってしまったが
内心の驚きは隠せない。

このクソ研究所で働いているっていうのかよ、
この研究所は閉鎖されていなかった?


「こんな夜遅くまでお勤めご苦労さま、
研究員さんよぉ、」


俺のことばに目を閉じて笑う反応をみせる高橋。


「足原にとっては本当に
ココは嫌な場所だったみたいだね
ムリもない

きみはクローンとして過ごしてきた
クローンとして考えてきた

でもね

ボクにとっては命を救ってくれた場所だよ
ボクはボクの命を救ってくれた場所に恩返しがしたい力になりたい
それは不純なのかな?」


「、それは返す言葉もねぇけど、
でもな、」


「足原
きみの言いたいことはわかる
犠牲を払って生きるということ
犠牲になる立場で生きてきたから犠牲者側の気持ちがわかる
犠牲になる気持ちをわかってるのかと」


「、、、」


「わからないよ
わかるわけないじゃないか
わかってる気になることすらおこがましい
でもボクは感謝している
感謝しかできない
生かされた命を生きてくだけだよ」


「……」


「そしてボクは
自身の身をもって体験したこの研究所の偉業を

人類に役立てたいと思っている。
願っている。」




………


No.62 18/11/03 23:09
名無し3 

>> 61 暗闇の中、僕はそろそろと車を走らせる。

似たような建物の前を幾つか通過すると1番奥に一際大きな建物が見えてきた。

アレが第7研究棟か。

少し手前で車を降りると暗闇の中を入口らしきドアを目指して進んだ。

ここに来ると分かっていたなら懐中電灯の1つも持ってきたんだが…

携帯のライト機能はなかなか優秀で懐中電灯並の明るさはあったが、それだけに電池の消費量が気になった。

電池切れにだけは出来ない。
なるべく温存してここぞという時にのみ使うとしよう。

よほど足原に電話を掛けてみようかとも思ったが、足原が今どんな状況に置かれているかも分からず迂闊な事は出来ない。

だからこそ、もし足原から連絡があった時に電話が使えるようにしておかなくては。

僕は携帯を握りしめたまま第7研究棟の入口ドアを開けてみた。

キィーッ!

妙に耳につく嫌な音を立てながらドアが開く。

良かった。
鍵はかかっていなかった様だ。

建物内の明かりはポツポツとある非常灯くらいでかなり暗かったが、それでも何もないよりは遥かにマシだった。

壁に手をつきながらそろそろと進むうちに半開きになっている鉄製のドアに行き当たった。

これは?
ドアを開けて中に入ると階段のスペースであり、2階へ上がる階段と地下に降りる階段がある。

どっちに行けばいいんだ?

少し悩み地下へ通じる階段を選択して降りた僕の目の前には、予想以上に広く長い廊下の左右に幾つか部屋がある地下スペースがあった。

ここは地下資料庫なのだろうか。

考えながらもまた壁に手をついてそろそろと歩き出した僕の手にドアが触れた。
と、思う間もなくドアが開き、僕は室内に思いっきり倒れ込んだ。

No.63 18/11/20 12:42
チキン ( 30代 ♂ BMsZnb )

>> 62 「ボクはね思うんだ

生きたいという気持ちは犠牲を返りみないことだって

生きたいという強い気持ちは
犠牲をはらってでも成し遂げたいことなんだって

ぼくは犠牲をはらうことをいとわない

犠牲の代償は強さを持つ責任が枷られる

強くならなければならない責任がある
強くなる覚悟をもたなければならない

ぼくは犠牲を無駄にはしない

次に繋がらない犠牲はやるべきではない

強くなることができないのであれば
犠牲をともなう資格はない」


高橋の口から発せられる“犠牲”という言葉。


こいつのいう犠牲に対する思いは
なにか強い信念のようなものが伝わってくる。


こいつの考え方に同調できなくもないのだが…

でも俺としてはどこか反発意識というか府に落ちることができない気持ちがある。


「話を元に戻そう

きみがオリジナルということは


きみにも父親と母親がいるということだよね」


「、ああ、
そうなるよな…
普通に考えたら」


「足原
知りたいか?

自分の父親と母親のことを?」


……

「ああ、

教えてくれ」


「きみの




どうやらタイミングよく
きみの友人もきたようだよ」


っ!?
友人といわれて阿藤が来たのかとすぐに理解できた。


高橋はツカツカと扉の方へ歩いていき客人を招き入れるため扉を開いた。

なだれこむように勢いよく入ってくる阿藤。
なんだかほんのさっきまで一緒にいたのに
久しぶりに顔をみたように感じる。

来ちまったか。


「ようこそ阿藤くん
待ってたよ」

高橋はそう言って阿藤を向かい入れた。

No.64 18/11/28 22:17
名無し3 

>> 63 「ようこそ阿藤君。いやお帰りと言った方がいいのかな?」

何事が起こったのか把握しきれていない僕の目に耳に高橋君の姿や声が流れ込んでくる。

「お帰り?どういうことだ?」

「覚えてないか。当たり前だな。
君はここで生まれてすぐに阿藤先生の元に引き取られたんだから。」

なに言ってるんだ?

高橋君の言葉がまるで理解出来ない。

「僕の父さんがここと関わったのは僕が中学に入る頃だ。
君の言っている事はまるで意味がわからない。」

「だよね。」

僕の言葉に高橋君はふっと鼻で笑った。

「君は大変な思い違いをしているようだね。
君のお父さん、阿藤先生は君が生まれる前からここの関係者だったんだよ。」

はっ?
何のことだ?
そんな話は聞いた事がない。

「君ね、失敗作だったんだよ。
どうせ育たないだろうと言われていたのに、阿藤先生が我が子として育てるからと半ば強引に君を連れ出した。」

全身から力が抜けていく。

「研究所としても最初はもちろん反対していたが、研究所に関わりの深い大学で阿藤先生の研究を更に深め生かすこと、君の生育に関する研究データを定期的に提出する事で、12年の猶予を与えて阿藤先生と君を研究所の外に出した。」

「それってまるで…」

息が詰まりそうな僕の言葉に、

「そう。阿藤先生は失敗作の君を守るために一生自分の身を研究所に捧げる、言わば研究所の飼い犬になったのさ。」

「まさか…まさか…僕は…」

頭の中で過去の思い出が蘇る。

父さんの遺品の研究ノート。

「この子だけは、この子だけは人として静かに幸せに…」

震える字で繰り返し書かれた父さんの言葉。

足人。

「僕も…足原と同じ…クローン…なのか?」

やっとの事で声を絞り出した僕に、

「君はなかなか察しが良いね、でも1つ間違っている。
クローンの研究はなかなか上手く進まなくてね、やっと誕生させても育たないんだ。
みんな15歳の誕生日を待たずに亡くなってしまう。
そんな中、奇跡的に育って最後に残ったクローンは1人。
これ、どういう事かわかるよね?
足人君。」

高橋君が僕の目を真っ直ぐに見てそう言った。

僕が…本物の…足人?…
父さんが亡くなる間際までずっとずっと気にかけていた…足…人…

「やめろ~~!!!」

足原が叫んだのと、僕がその場に崩れ落ちたのがほぼ同時だった。

No.65 19/01/01 16:50
チキン ( 30代 ♂ BMsZnb )

>> 64 反射的に叫んだ

叫ばずにはいられなかった




阿藤の真実…




俺が阿藤をここへ連れてきたから


阿藤を苦しめる結果になってしまった…



知らない方がよかった真実。



知らない方がよかったよな、



阿藤…



知らないで



何も知らないで
変わらないまま過ごせていければ



よかったかな、




阿藤…




ごめん…





すまん…




俺は激しく上下した肩で

床に膝まついている阿藤の姿を見つめ続けることしかできない。



「足原ァ

きみはここへ何をしに来たんだ?」


高橋の少し苛立った声に
俺は目を見開く。


「きみはボクに会いたかったんじゃないのか?

真実を知りにきたんじゃないのか?

それなりの覚悟をもって
ここに来たんじゃないのか?」


…そうだ…そうだよ…

そうだけど…



「自分が何者か知ろよ、

何ノコノコ生きてんだよ、


背負えよ、自分をさァ、


何ごともなかったかのように
ぬくぬく生きてんじゃねーぞっ!!」


俺は高橋の怒りの声に
本人に目を向ける。


「いやー、
きみたちは甘ちゃんだね

甘ったるいよ

甘すぎてついボクも感情的になってしまった」


高橋は落ち着きを
取り戻そうとしている。


「足原、

きみの覚悟は違うよね?

どんなことも受け入れられるよねえ?


では話を元に戻すとしよう


きみの両親のこと」


「ああ、」



「きみは自分の両親はどんな人だと思う?

優しい人かな?

厳しい人かな?

それとも自分のことを
こんな生き方をさせた
自分勝手な人たちと思ってるのかな?」


「わかんねぇよ…」

俺はこいつから出てくる言葉を
ただ待つ、しかできない。


「きみの父はここの研究者だった。かなり優秀なね。

母はきみを産むと同時に亡くなったらしい。


父の名は河村夬人(かいと)

母の名は河村夕貴女(ゆきめ)


二人は血が繋がった兄妹だ」



!!!?っ、


「…きょう…だい…?」



「血が繋がったもの同士のあいだに

きみが生まれたんだ。


ボクときみが。」

No.66 19/01/06 14:47
名無し3 

>> 65 僕がクローン

僕がクローン

僕が…

クロー…ン?

頭を重い鈍器で殴られた様な衝撃が続く。

クラクラと意識が遠のきそうな僕の耳に突然鮮明に高橋君の声が響いてきた。

えっ?

なに?

今、なんて言った?

高橋君のその言葉はどんな気付け薬よりも強い効果を発揮し、遠ざかりかけていた僕の意識は一瞬で覚醒した。

ちょっと待て。

今まで信じ切っていた家族の図が根本から覆されて…いる…?



阿藤博士--母さん →僕

高橋父--河村さん →高橋君

研究所(クローン作成)
→1号
→2号
→足原





高橋父の相手は研究所閉鎖後に足原を引き取り育ててくれた河村多江子
さんだ。

僕の脳内図が静かにグチャグチャに壊れていく。

僕が唯一残ったクローンで、高橋君と足原が双子の兄弟?
しかも…
常軌を逸した存在…

常軌を逸した存在…

それは…僕も同じだ…

高橋君の言うことが本当に真実なら、
僕は…一体誰の「部品」になるために生み出されたのだろう…

「高橋君、今の話は本当なのか?!
君と足原は…」

足原の顔が苦痛に歪んだのを見た僕は慌てて口を閉ざし、

「僕は、僕は、一体誰のクローンなんだ?知っているなら教えてくれ!」

と、もう1つの疑問を高橋君にぶつけた。

我ながら勇気のいる質問だ。

でも正直な話、まだ僕は自分がクローンだということを信じきれてはいなかった。

聞かされた時には衝撃を受けたものの、時間が経つにつれ、いや、高橋君と足原の秘密を知った衝撃で僕自身の話はどことなく他人事の様に薄らぎつつあった。

僕の質問に高橋君は少し考え込む様な素振りで黙り込んでいる。

「僕は、僕は君のクローンなんだろう?
君を完全体にするための部品なんだろう?」

この後に及んでハッキリしない高橋君の態度に業を煮やし叫ぶ僕に、高橋君はゆっくりかぶりを振ると淡々と無機質な声で答えた。



「君の、オリジナルは、足原だ。」

No.67 19/02/16 21:48
チキン ( 30代 ♂ BMsZnb )

>> 66 阿藤が俺のクローン…


もうなにがなんだか頭で整理できない俺に構わず、
目の前の男は話を続ける。


「クローンに名前なんて必要あると思うかい?

阿藤くん
きみは足原に加えられればいいだけの存在だろ?

触るだけの存在でよかった

だからタストだよ…」


…たすと…



―――『ナンバースリー、
きみは今日から足原十人(たすと)と名乗りなさい』


そう研究所の人間から突如いわれたのは中学に入る前。

それまでは研究所で基礎的な
教育は受けていたものの
学校というものに行き始めたのは中学から。


俺たちクローンには名前なんてなかった。

自分の名前は数字だった。

クローンに名前はいらない。

そのうちに役目を終える時が
やってくるから。



ナンバーワン。

ナンバーツー。

ナンバースリー。俺。


数字だった俺に名前がつけられた。

一人だけ残った俺に
名前が足された。

その日から俺はタストだ…


そして阿藤もタスト…


じゃあ俺が王で阿藤は玉ってわけだな、将棋的には。


って、俺はなんで緊張のこのさなかこんなこと考えてんだよ…

No.68 19/03/30 19:35
チキン ( 30代 ♂ BMsZnb )

>> 67 「ボクが知ってるのはこれだけだ。

自分が何者かっていうのはわかったかな」


時が止まる。

自分が何者か思いしらされ
過去にどんなことがあって自分が誕生したのか
塗り替えられた…

知らなかった方がよかったかな…

知ってよかったのかな…

だってカゾクがいたんだぜ…?
血の繋がったカゾクがいたんだぜ…?


「高橋さぁ…
お前、いつから知ってたんだよ…?

俺とお前は血の繋がった兄弟だって…?
それと阿藤のことも…」


「中学校の卒業式の日のこと覚えてるか?」


中学の卒業式…


「、あぁ、お前その日学校休んだよな?よりによって最後の日に。
それを最後にお前と連絡がとれなくなって…」

「足原、
ボクは卒業式の前日に知ったんだよ。

キミたちのこと」



そうなのか、としか返せない…
なぜそのタイミングで…


「ボクにはクローンがいたことは知っている。
こうやって元気な姿でいれるのもクローンのお陰だ。

そして生まれて初めて学校に通い出したのは中学校から
そこでも生まれて初めて友達と呼べる者に出会った。

そいつといるととても楽しかったしボクが何者かさえ忘れることができた。
ボクは普通になれるんだ
ボクは普通に溶け混んでていいんだって。


でも違った…
キミは違った
キミはボクと同じだった。

しかも血の繋がった兄弟でさえあった。


今までのものが全てつくり物のように思えてボクは行くのをやめたんだ」


高橋の心痛をフォローするかのように俺は口を挟む、
「、でもよぉ、嬉しくねぇか?
血の繋がった兄弟がすぐ近くにいたんだぜ?
俺だったら飛び上がるくらい喜んで、」

「その時に目の前にいる父が実の父でないことも知った!母も!
すべてがつくり物だった!自分のカラダのように!
真実を知るということはとても残酷で、知らない方がまだ幸せだった!


って、今のキミたちもそうはおもわないかい?」


高橋のあまりにも説得力のある言葉にその場で固まって自分を見つめ返すが、
真実を知ったのがあまりにも今すぎて、
納得できるまでの時間が欲しい…


「た、助け…」

!?、突然のただ言ならない声の方へ顔を向けると、阿藤が何者かに羽交い締めにされ、その傍らには年老いた男が立っていた。


「話が違うじゃないか!ッ、父さん!ッ」


父さん…?、………

No.69 19/09/22 17:41
チキン ( 30代 ♂ BMsZnb )

>> 68 「立派に育ったもんだこのフェイクも」

高橋の父と思われる初老の男は意識が遠のく阿藤の顔を見つめながらそう口を開いた。
俺はこの男の顔を見るのは初めてだ、


「弟もさぞ喜んだことだろう」

弟?阿藤さんのことを言ってるのか?
しみじみと言葉を吐き出す男。




「遼。この子はワタシが預からせてもらうよ」


「ちょっと待ってよ!、コイツには何もしないって約束したじゃないか、」


「遼。
『人類の為犠牲はつきもの』
この言葉はこの研究所の命訓だよな
それを忘れてしまったのかい」


「それはわかってる、
でもコイツはもう実験対象ではなく一人の人間として生きているんだよ!?」


「でもクローンであることには代わりはない
とても優秀な実験対象だ」


「ふざけんなッ!!

勝手なことばっかり言いやがって、
アンタに何の権限があるってんだよオッサンッ!!」

と俺は無我夢中で阿藤を羽交い締めにしているもう一人の男から奪いとるべく向かって行く、


「ングフッ、」と跳ね返されるように俺の体は地面に叩き付けられる、

はるか上の天井が霞んで…、それでも上体を建て直し、起き上がろうと、
足にうまく力が入らず前のめりに地面に突っ込んでしまう

ハァ…、ハァ…、ハァ…




「──タストくん悪いねぇ──

──この男はプロの用心棒だから手荒なことはしない方が得策だよ──

しかしキミの無鉄砲な行動──


──実に快人にそっくりだ───




キミも────れて────つも──






快人、……親父がなんだって、……





グッ…ソッタレェ……



くそっ……、




「があ゙あ゙ァァァ!!ッ、」

俺はもう一度男の方へ向かっていく、

このッ、


…!!ブフッ、(阿藤…)

…!!ベフッ、(阿藤…)


…!!!あフっ、、、





(あとぉ…)……………………














No.70 19/09/22 19:10
チキン ( 30代 ♂ BMsZnb )

>> 69 ──りたいものってナンだろう──


守りたいもの──って───。




──「ねぇ多江子さん。守るってどういうことだと思う?」

「なに?急にィ」

「いや守りたいってどんな気持ちなのかなーっと思ってさあ」

「タストに守りものってないの?」

「その守りって感覚がイマイチわかんなくてさぁ、」

「じゃあ大事なものはある?」

「う~ん。今は多江子さんかなァ。」

「まぁ!うれしい。

じゃあ今日はタストの大好きなカレーにしよっか。」

「今日はってか昨日もカレーだったじゃん!
遠回しに昨日の残りものを食べろってことかよ、」

「うふふふ。」

「笑って誤魔化してるしィ」───









──ナンバー1が死んだ


その言葉を研究員から聞かされた時
別に怖いとか感じなくて次は俺の番かなってなんとなく思ったんだ



ナンバー2が死んだ時も
不思議と恐怖はなくて
次だなって



次は俺の番だなって思っていたところ
絶対的な兄キが死んでなぜか
涙がボロボロ流れてきて
なんで一番嫌いだった奴の時だけこんなに涙が出てくるんだろうって

自分でもよくわからなかった





何を守りたかったんだろう───




高橋───




阿藤───






また天井だ──



霞んだ天井が─────




──つぎこそは────守らなきゃ──


─────────










「ぐがが…が…、」


──男の顔がかすんでみえる──



男の顔がゆがんでる───




「──めろッ!──しはらァ!──」




──高橋──?──


──ナニさけんでんだ──?───





─今やつけてやるからな───




──たすけてやるから───



今たすけて────




「…めろ…足原……

やめろ…足原……

それ以上、やると…死んじゃうよ……



足原ァァーーーッ!!」


、!








気付けば足元に男が仰向けになって倒れていた


その隣で
阿藤の情けなく今にも泣き出しそうな顔が

こっちを見つめていた……

No.71 19/09/23 20:44
名無し3 

>> 70 ヒュッ

それは一瞬の出来事だった。

何かが瞬時に動いたかと思うと、息もできない程に締め付けられていた身体がフッと楽になる。

ゲホッ
ゴホッ
ゲホッ ゲホッ

解放されると同時にそこに崩れる様に倒れ込み、その場で激しく咳込む僕の頭の上で突然何か叫ぶ様な声がする。

頭を上げ目の前の光景に思わず僕は驚愕した。

アレは…
誰だ?

ガハッ

得体の知れない大男に首を締め付けられたせいかまだ意識が朦朧としている僕の目の前にいるアレは…

常人とは思えないスピードと強さで、さっきまで僕を羽交い締めにしていた男を簡単にねじ伏せている。

そうしてアレが男に向けて振り上げた拳を下ろす度に骨の軋む様な割れる様な鈍く嫌な音が鳴り響く。

ダメだ…
いけない…
やめろ…

僕はやっとの思いで立ち上がるとかすれた声を必死に振り絞ってアレに向かって叫んだ。

「やめろ、やめろ、いけない、お願いだ、」

僕の声にアレは少し反応したものの、変わらず拳を振り上げては下ろし振り上げては下ろしの動作を繰り返す。

ガハッ

喉がヒリつき息苦しい。
あの男に喉を締め付けられたせいか?

でも止めなきゃ、アレを止めなきゃ、

「やめろ、もうやめろ」

声がかすれて意識も薄れかける。

喉が…苦し…

でも目の前のアレはまた更に拳を振り上げる。

「お願いだ…やめろ…それ以上やると…死んじゃうよ…
やめろ……


足原ーーーーーーっ!!!」



僕の悲痛な叫び声が鳴り響くと同時に動きが止まり、

「阿…藤…?」

足原がこちらを見た。

と、同時に

「あ…あ…あ…」

近くで悲痛な声があがる。

思わずそちらに目を向けると、
そこには真っ青になり怯えた目をした高橋君の姿があった。

No.72 19/09/24 12:56
チキン ( 30代 ♂ BMsZnb )

>> 71 僅かに気が緩んだのもつかの間
その場の空気を一変するような乾いた破裂音が鳴り響いた。
同時に大腿部に衝撃が走る。


音の出どころをたどると初老の男がピストルをこちらへ向けて構えていて

視線を下げれば黒色の生地に赤色がじんわり侵食していくのが見てとれる。
その見た目から痛覚が目覚め噛み殺した歯の隙間からグゥ、と息が漏れる、


「いや実に驚いたよタストくん、
あの怪物的な力、クローン融合による暴走といったところかな?
なあ遼」



「…わからない、」


暴 走?、


「そんなバケモノが相手だ
こちらの正当防衛は認められる。
と、動くんじゃないよ。
まだ死にたくないだろう?」


クッ…

初老の男の表情はピストルの冷酷さを重ねたように冷えきっている、
感じとれるのはこの男はこの手のことに関して慣れていると、
この男は一体何者なんだ?、


「アンタ、一体何者なんだよ?、
ただの研究員にしちゃ物騒すぎやしねぇか?、」


「わたしはただの研究員だよ
アシンメトリー研究所直属のねぇ。
またディーラーでもあるがねぇ。」


「ディーラー?、」
売る…
クローンを売る?…


「タストくん。
人間ってものは何て儚いものなんだろうと思ったことはあるだろう?

病気をすれば死ぬこともあるし争いあえばその果てに死ぬこともある。
その争いを放棄して自ら死を選択することだってままある。

どうせ死ぬなら世の為人の為
それで死ねるなら本望。
それに自分の価値を見出だせる。
自分の役目を果たせると喜んで死んでゆく。
これが理想の死に方だ。

言い換えればこれが理想の生き方だといえるだろう。

人は意味ある死に場所を探して生きているのだよ。
わたしは思うね意味ある死に方をしてくれと。
次世代へつながる死に方をしてくれと。
それが人類の歴史というものだろう。


しかし人は生きたいというのが本音だ。
生きているうちにいろんなものを楽しみたい
生きてるうちにいろんなものに出逢いたい
世界にはいろんな楽しいことが溢れている
まだ知らない世界が自分を待っている
とね。


今キミは生きていて楽しいかい?タストくん。
楽しいのなら結構!

きっとキミの為に死んでいった兄弟も喜んでいることだろう。


キミの為に死ぬことができたとねぇ」



…ドク…ドク…ドク…ドク…




No.73 19/09/27 13:06
名無し3 

>> 72 「あ…あ…」

一点を見つめた高橋君の唇が動きかけた瞬間、

ドーーーーン!!!

空間内に耳をつんざくような音が鳴り響いた。

足原の足から血が流れ出し足原の顔も苦痛に歪む。

しかし、足原の顔を歪ませたのは傷の痛みによるものだけではなかった。

アシンメトリー研究所の研究員と名乗るその男の話をすぐに理解することは僕には困難を極めたが、
頭の回転が早く察しの良い足原は既に何かを察しかけたらしく、唇をギュッと噛み締め憎しみを込めた目で相手を睨みつけていた。

真っ青な顔をして酷く怯えた様にその光景を見つめていた高橋君は、
その研究員の男に話しかけられると
小さく何かを答えそのまま俯いてしまったが、チラリと見えた横顔は紙のように真っ白で、その肩は息苦しそうに大きく上下していた。

この男はヤバイ。

流石の僕もその男の得体の知れない威圧感と彼を取り巻くどす黒い空気を感じ始めていた。

足原の足からはまだ出血が続いている。

まさか…
動脈が傷ついてるんじゃないだろうな…

僕は震撼した。

動脈がやられると大出血を起こし命に関わる。

早く止血しなくては。

いや、その前に「研究員」がまた足原に発砲するかもしれない。

足原を助けなくては。

この僕の命に変えても。

「足原!!
逃げろ!!!」

咄嗟に僕は叫び声をあげると同時に「研究員」の男に飛びかかった。

No.74 19/09/30 14:12
チキン ( 30代 ♂ BMsZnb )

>> 73 「やめッ、!」「バカが!ッ」


男は掴みかかってきた阿藤を難なくかわし、後頭部へ一重にピストルの柄の方をガンッと打ち降ろした。
それを合図に電池を切られたように阿藤の体は地面に重なり動かなくなる。
気を失ったのだろうか、


「この子は自分の立場がわかっているのかねぇ
狙われているのは自分だというのに」



「…そんな奴なんだよ、阿藤は

自分のことよりも目の前の誰かを救うことになりふり構わず体が反応すんだよ、
お前らよりよっぽど人間らしくなぁ、」

ホントにまっすぐすぎんだよオマエ、
地に伏せた背中がたくましく見えてくる



「まあ必要なのはこの子の知能じゃなく細胞だからねぇ。
多少頭が悪くても問題はない」


「アンタ、阿藤をまた実験材料に使うつもりだよなぁ?
それが済めば阿藤はまた元の生活に戻れんのかよ?、」


「無傷で返すのは保証しよう。
ただし拘束期間はどのぐらいかかるかわからんがね。
この子の細胞は唯一無二のもの
それはそれは丁重にもてなしてあげるつもりだよ
きっと人類の助けになることだろう」


「調子いいこと言ってくれんじゃねぇかよ、
散々武力で解決しようとしたクセによぉ、」

「それはキミたちの聞き分けが悪いから当然の処置をしたまでだよ」


と、ヤベェなぁ…
頭がぼーっとしてきやがった、
でも今倒れるわけにはいかねぇ…、


「正直さぁ、
今のこの状況でアンタをぶちのめして阿藤を連れて帰るのは難しそうだなぁ、

高橋、

俺はこのまま黙って帰った方がいいと思うか?、」


「、……」


「人類の為ならどうぞお役立て下さいって、阿藤を差し出した方がいいと思うか?、」


「……」


「お前言ってくれたよなぁ、
阿藤に手を出さないって

話してくれたよなぁ、自分の想い、

コイツはモノなんかじゃねぇぞ、

俺らと全く変わんねェ人間だぞ、

どんな生き方をしても人間なんだよ…、


わかってくれるよな… リョウ─」


意識が………


─────────────────



────────────




───────




───










No.75 19/10/04 00:11
名無し3 

>> 74 「足原!!!」

意識を失い倒れ込む足原を抱き起こしたのは高橋だった。

「足原!しっかりしろ!」

足原の足からはまだ出血が続いている。

ビリリッ

高橋は自分の着ていたシャツの袖を引き裂くと止血帯の代わりにそれを足原の足に巻いた。

「美しい兄弟愛だねぇ」

初老の男はニヤニヤしながら高橋に話しかけた。

「もう…もう…止めて下さい…」

唇を震わせながらやっとの思いでそう声を発した高橋に、

「おやおや止めろだと?この私に指図する気かね?」

男は更に嘲るようにそう畳み掛ける。

「足原は…こいつは…僕の兄弟でもあり…とてもとても…大切な親友でもあるん…です…」

高橋のその必死の言葉が何かの引き金になったのか、男の顔がみるみる醜く歪み出し不気味な笑みが顔一面に広がったかと思うと突然激しく笑い出した。

「何を言っているんだ遼、群を抜いて優秀な人材とただの凡人が兄弟というだけでもおかしな事なのに親友呼ばわりなど不釣り合いにも程があるだろう?」

「それは…どういう…ことですか?」

「遼、お前は優秀だ。
だが、それはあくまでも一般人の中での事だ。
それに比べこのタスト君は…」

男は足原を眺めニヤリと笑うと、今度は倒れている阿藤の方に目を移した。

「最高の人材を掛け合わせて出来た最高の人材から作った最高の素材…」

男は愛おしそうな目を阿藤に向ける。

と、すぐに、

「おい!起きろ!!」

と倒れ込んでいた部下の男の脇腹を強かに蹴り上げた。

父さん…

「うっ…ごほっ…ごほ…」

屈強な体を折り曲げ激しくむせ込む部下に対し冷ややかな声で、

「おい、さっさとしろ。」

と何かの命令を下す男を高橋はただ呆然と見つめていた。










No.76 19/10/08 20:30
チキン ( 30代 ♂ BMsZnb )

>> 75 ──ぼやっとなにかが形を表しはじめた…


目の前になにか立ち塞がってる…



仕切りのような…



その仕切りは曲線を描き小窓がついていて
その向こうにぼんやりと白いものが広がっている


視線を一周させると自分は今密閉された空間の中にいることがわかる

棺?…




なんでこんなところに…



うまく頭が機能しないせいかここにいるまでの経緯が全く思い出せない
脱力感に苛まれていて虚空を見つめる続ける…



その視界に人影が写った

『──い─ぞ』




ピーッ


プシュゥゥ



クリアな視界が広がる
こちらを覗きこむ二人


「気付かれましたか?」


認識のない顔が二つ
見た目で自分よりも歳上だろうことがわかる


足原さん気分はいかがですか?と問われ反射的に大丈夫ですと答えた
続けてここはどこですか?と訪ねると
国立の大学病院だという

周りを見渡せば確かにそれらしい機材が傍らに置かれていて
壁から天井にかけて白で統一され
いかにも病院といった感じだ


「足原さん
あなたの名前を言ってみてください」


「あしはらたすと」


「これ何本に見えますか」
白衣姿の男が指を出す


「3本」


白衣の男はコクリとうなずく


「足原さん
あなたは5日前にここへ意識不明の状態で運ばれてきました」


5日前…?


5日前に…




何かがあった…




「何があったのでしょうか」


「それは我々もわかりません。
何かわかれば警察の方が報告していただけると思いますので。
それよりも今はゆっくりと焦らずに体を治していくことに専念していきましょう」
と白衣の男はきっぱりと言った



焦らず…


その言葉に体がぴくっと反応したように感じた


たとえば
大切な約束ごとを忘れてしまっているのではないのかと…




なんとなく外の景色が見たくなり
カーテンを開けてもらう


開け放たれた窓ガラスにびっしりと貼りついた水滴
耳が認識し始めた音



雨──。



勝手に町並みを想像していたがそこには自然広がる山々の風景



薄い暗曇の空に陰を落とした緑の群れ



それを見ていてなんだか山が泣いているように思えてきて


じんわりと瞳の奥からこみあげるものを感じた───






なぜだろう…












  • << 78 「で先生、ここで何してんの?」 「見舞いだ。友達のな」 「そっか じゃあもし今度は先生が入院したら俺その時見舞いに行くよ。 もう歳なんだからさ」 「ばかもん、 人を年寄りあつかいするんじゃない まだまだおまえに負けないぐらい元気だよ!」 「左様でございますか それはなによりだ。ハハ」 「高橋は見舞いにきたのか?」 「高橋?」 「ほらこの前のタイムカプセルを掘り起こしにきた時に一緒だったじゃないか」 「タイムカプセル…」 卒業式の時に埋めたタイムカプセル… 「ああ、そうそう、 うん、高橋見舞いに来たよ、 なんかフルーツの詰め合わせ持ってきてくれてホント律義なやつなんだよアイツ」 「そうか。 まあ友達が弱ってる時に元気づけてやる もつべきものは友達だな」 なんとなく嘘をついて誤魔化してしまった。 その時の記憶がないなんて言って先生に余計な心配はかけたくなかった。 「しかし近いうちにまたお前に逢うとはなぁ」 「そうだね。 あの学校に来た日って何日前だったっけ?」 「あれは確か…10日前のことじゃなかったか?」 俺が病院に運ばれてきた日だ…! もしかして、高橋も事件に巻き込まれたとか…? 「お!そうだ 足原おまえに良いものやるよ」 「え!?なに?」 トンボ先生から差し出されたのは小さな御守りだった。 携帯用ストラップ付きの御守り。 「入院してる友達にやろうと思っていたんだがな、また次の機会にでも渡せるからな。 せっかくおまえに会ったんだ、ヤンチャ坊主がこれ以上怪我をしないように私からのプレゼントだ。 ケイタイにでもつけておきなさい」 「わかった。 ありがとう先生」 それから少し会話が続き話の区切りがついたところで先生と別れた。 俺はその背中を感慨深く見送った。
  • << 79 先生を見送った後、 担当医に自分と一緒に病院に運び込まれた人物はいなかったかと訪ねると 俺だけだったという。 とりあえず一安心といいたいところだが無事だという確証はないのでなんともいえない、 連絡をとろうにも… ん!? 高橋に会ったんだとしたら、連絡交換ぐらいしてるよなぁ!、 自分の病室に戻り携帯電話の電話帳を調べて、あった! 確かに『高橋』 という名前が登録してある。 早速電話してみる… が、留守電だ。 折り返し電話をくれるようメッセージは吹き込んでおいた 無事でいてくれたら何よりなんだが。 電話が返ってくるのは待つとして、 仰向けに寝転がり先生の話をもう一度整理することにする。 ──高橋と中学校へタイムカプセルを掘り出しに行った ──移動手段は? 自分の車で行っただろうと推測する。 助手席に座ってる高橋をイメージしてみる。 そして学校から出たその後に どこかに移動して他の目的があったのだろうか? 最終的に俺は繁華街で倒れていた… 何をしに繁華街に行ったのだろう… 事件前 確かに高橋にあった記憶は残っている。 偶然ばったりと再会して… 飲んで… 中学の思い出話に華を咲かせて… そういえばアイツ、 似た人に間違えられたとか言ってたよな… そいつを探しにも行ったんだよな、 見つからなかったけど… 確か…河村… ドッペルゲンガー…

No.77 19/10/11 19:19
チキン ( 30代 ♂ BMsZnb )

>> 76 「お大事に──」




退院した。


目覚めてから1週間
病院に運び込まれて12日間入院していたことになる。


病院に運び込まれる前の記憶は今だ思い出せない。病院にやってきた刑事の調べも今だ確証を得ていない。

なんでも外国人犯行グループの某かが俺のことをターゲットと間違えて暴行を加えた可能性があるとのこと。
俺が倒れていた繁華街には確かにそういった抗争が以前にもあったらしくそれに巻き込まれたのではないかと。
詳しいことがわかり次第連絡するとのこと。


まるで刑事ドラマの世界だ。

でも俺もある意味近未来ドラマの登場人物なのかもな、

なんて。


まだ大腿部の傷口は多少疼くが歩くことに問題はない。
問題があるのは以前の記憶。

医者の話しでは
検査の結果とくに脳などに損傷はなくそれでなければ断片的な記憶障害だという。
とてもショッキングな出来事が起こると脳が心の平安を保つためにその記憶を忘れさせてしまう働きが稀に起こるらしい。

そういうのなんて言ってたっけ?

ブレーンバスターだっけ?

まるで牛丼好きの屁のつっぱりはいらんヒーローの得意技みたいだ。
額に『足』とでも書いてみるか?



あと入院中にばったり知り合いに会った。








────「足原ぁ」




廊下を松葉杖をついて歩いている時に後ろから俺を呼ぶ声がした。


振り返るとそこにいたのは
中学の担任のトンボ先生だった。



「どうしたんすか?こんなところに」


「いやいやお前こそどうしたんだ?松葉杖なんかついて
また悪さでもしたんか?」


「いやだなぁ、
もうそんな無茶する歳じゃないっすよ。
ちょっと事故に巻き込まれちゃって」


「事故?」


「事故というか
まあ、俺はその被害者というか、」


「そうか、
そらあ災難だったなぁ。
ちゃんと相手から被害金がっぽりもらうんだぞ」


「そんなこと教師が言っていいんすかぁ」


「教師ったってなぁ聖人君子じゃないんだぞ。
欲深き一人の人間だ。
もらえるものはしっかりもらう!」


「久しぶりに聞いたなァ、
先生の口グセ聖人君子っていうやつ」



トンボ先生は教師のくせに偉ぶらない。俺はそういうところを慕ってた



No.78 19/10/11 19:57
チキン ( 30代 ♂ BMsZnb )

>> 76 ──ぼやっとなにかが形を表しはじめた… 目の前になにか立ち塞がってる… 仕切りのような… その仕切りは… 「で先生、ここで何してんの?」


「見舞いだ。友達のな」


「そっか
じゃあもし今度は先生が入院したら俺その時見舞いに行くよ。
もう歳なんだからさ」


「ばかもん、
人を年寄りあつかいするんじゃない
まだまだおまえに負けないぐらい元気だよ!」


「左様でございますか
それはなによりだ。ハハ」



「高橋は見舞いにきたのか?」


「高橋?」


「ほらこの前のタイムカプセルを掘り起こしにきた時に一緒だったじゃないか」


「タイムカプセル…」
卒業式の時に埋めたタイムカプセル…



「ああ、そうそう、
うん、高橋見舞いに来たよ、
なんかフルーツの詰め合わせ持ってきてくれてホント律義なやつなんだよアイツ」


「そうか。
まあ友達が弱ってる時に元気づけてやる
もつべきものは友達だな」


なんとなく嘘をついて誤魔化してしまった。
その時の記憶がないなんて言って先生に余計な心配はかけたくなかった。


「しかし近いうちにまたお前に逢うとはなぁ」


「そうだね。

あの学校に来た日って何日前だったっけ?」


「あれは確か…10日前のことじゃなかったか?」

俺が病院に運ばれてきた日だ…!
もしかして、高橋も事件に巻き込まれたとか…?


「お!そうだ
足原おまえに良いものやるよ」


「え!?なに?」


トンボ先生から差し出されたのは小さな御守りだった。
携帯用ストラップ付きの御守り。


「入院してる友達にやろうと思っていたんだがな、また次の機会にでも渡せるからな。
せっかくおまえに会ったんだ、ヤンチャ坊主がこれ以上怪我をしないように私からのプレゼントだ。
ケイタイにでもつけておきなさい」


「わかった。
ありがとう先生」


それから少し会話が続き話の区切りがついたところで先生と別れた。
俺はその背中を感慨深く見送った。



No.79 19/10/11 19:58
チキン ( 30代 ♂ BMsZnb )

>> 76 ──ぼやっとなにかが形を表しはじめた… 目の前になにか立ち塞がってる… 仕切りのような… その仕切りは… 先生を見送った後、
担当医に自分と一緒に病院に運び込まれた人物はいなかったかと訪ねると
俺だけだったという。
とりあえず一安心といいたいところだが無事だという確証はないのでなんともいえない、
連絡をとろうにも… ん!?


高橋に会ったんだとしたら、連絡交換ぐらいしてるよなぁ!、




自分の病室に戻り携帯電話の電話帳を調べて、あった!

確かに『高橋』
という名前が登録してある。

早速電話してみる…


が、留守電だ。

折り返し電話をくれるようメッセージは吹き込んでおいた

無事でいてくれたら何よりなんだが。



電話が返ってくるのは待つとして、
仰向けに寝転がり先生の話をもう一度整理することにする。



──高橋と中学校へタイムカプセルを掘り出しに行った


──移動手段は?


自分の車で行っただろうと推測する。
助手席に座ってる高橋をイメージしてみる。


そして学校から出たその後に
どこかに移動して他の目的があったのだろうか?


最終的に俺は繁華街で倒れていた…


何をしに繁華街に行ったのだろう…




事件前
確かに高橋にあった記憶は残っている。

偶然ばったりと再会して…
飲んで… 中学の思い出話に華を咲かせて…

そういえばアイツ、
似た人に間違えられたとか言ってたよな…


そいつを探しにも行ったんだよな、
見つからなかったけど…



確か…河村…


ドッペルゲンガー…

No.80 19/10/13 21:35
名無し3 

>> 79 「……では……体育祭の代表選手は…」

ボーッとした僕の頭に声が聞こえてくる。

「………と高橋と足原…以上だな。」

あ~…

足原君と高橋君が選ばれたのか。

あの2人は運動神経が良いからな。

運動神経が良くて華のあるあの2人はいつも目立っていて皆の人気者で、特に…足原君はすごく気さくな性格から僕の様なひっそりと目立たない奴にも気軽に声をかけてくれる。

僕はあの2人、特に足原君に強い憧れを抱いていた。

僕とは全く「出来が違う」足原君。

でも彼と友達になれたらどんなに良いだろう。

高橋君が羨ましい。

僕も「おい!阿藤!」「何だよ?足原!」と呼び合う仲になってみたい。

無理だろうけど…

足原か…

足原…

足…原…

足原??!!

途端に意識が覚醒した。

「足原!!」

夢?

あ~中学の頃の夢を見ていたのか…

ん?ここはどこだ?

一度に色々な思考が僕の頭を駆け巡る。

僕はそろそろと起き上がると辺りを見回した。

病院の個室の様な、清潔感はあるが全体的に無機質な部屋の隅に僕の寝ていたシンプルなベッドがポツンと置かれている。

窓はなく、ドアが2つ。

1つは開けるとユニットバスがあり、すぐに使える様になってはいるようだったがあまり使われている形跡は無かった。

もうひとつのドア、部屋の外に出るドアであろうがこれはビクともしない。

閉じ…こめられて…いる?

ここでだんだん記憶が戻ってきた。

そうだ。

僕はきっとあのアシンメトリー研究所の研究員と名乗る男に捕まったのだ。

と、すると足原もここにいるのだろうか?

僕はそっと視線を上げた。

監視カメラらしきものが天井から下がっている。

ちっ、やっぱり監視されてるか。

僕が目覚めた事は当然もう知られているだろう。

そのうち誰かがここにやって来るのは間違いない。

とりあえず待ちの姿勢で様子を見るか。

ジタバタしても仕方がないと僕は腹をくくりベッドの上に座ると天井の監視カメラを睨みつけた。

No.81 19/10/20 17:22
チキン ( 30代 ♂ BMsZnb )

>> 80 高橋からの折り返しの電話は今だ無い、無いのなら行動で確めるしかない。
ということで高橋の職場のファミレスへやってきた


「いらっしゃいませ~」

「あのぉ高橋店長って出勤されてますか?」



─女性店員によれば
もう2週間もの間出勤していないという。おまけに本人との連絡もとれていない。
真面目なあの店長が何も連絡もせずに休むなんて考えられない。
最後は冗談気味に変な事件にでも巻き込まれてしまったのではないか、なんて言っていた。

俺はその変な事件というワードに現実味を感じずにはいられない。
俺が病院に運び込まれたのと時を同じくして高橋にも何かあったのは確かだ…


これはもう事件なのかもしれない、
警察の力を借りて解決、
刑事事件…


そして俺は警察署へやってきた。


警察に事件を解決してもらう…


というにはまだ早いのかもしれないと思いたった。

そもそも警察署に来たのは自分の車を取りに来たからであって。
繁華街の駐車場で見つかって警察署で保管されていたからだ。


記憶を思い出す為にはその当時と同じシュチエーションを再現すること。
これが今の最善方法。
悠長に待ってはいられない。
あの『河村』という名前にたどり着いた時から何かが始まった気がしてならないから…



とりあえず車に乗りこみ繁華街の辺りを一周してみる。
なにか目に入るものはないだろうかと探ってみるが全くといっていいほどピンとこない。
本当にここに来たのかと疑わしく思うほどだ。


ここは離れて別のところへ行くとしよう。
どこへ?中学校だろう。



中学校までの距離はけっこうあるのでその移動中にでも何か浮かんでくれば…


ラジオの音と共に街並みが過ぎ去っていく

その時は何か聴いていたんだろうか…


そういえば病院から家に帰った時に中学校同窓生名義で封筒届いてたよな、
タイムカプセル開封のお知らせって。

ということは高橋と行った時はまだ掘り起こしていなかったってことだよな?
何か違う目的があったのだろうか?
いや、俺のことだからなんとなくなノリで行ったような気がしないでもない…



どこかの学校を通りかかったとこで運動場に先生らしき声がマイクごしに聞こえていた。
その声の調子から察するに運動会の練習をしているのだとわかった。



アイツもけっこう足早かったよな…


No.82 19/10/22 20:13
名無し3 

>> 81 「足原…と阿藤をどうする…気…です…か?」

意識を失ったままの足原と阿藤が運び出されるのを見送りながら、
俺は自分の声が否が応にも震えているのを止められず、途切れ途切れにそう聞いた。

「どうする気だと?まさかお前の口からそんな言葉が出てくるとは思いもしなかったよ、遼。」

俺がずっと「父」と呼んできた高橋博士が穏やかな微笑みを浮かべながら俺に近づいてきた。

「遼、お前も自分のクローンを自分に取り込むことによって色々な恩恵を得られたのではなかったのかな?」

俺の肩をポンポンと叩きながら軽い雑談でもするような「父」の口調に思わずゾッとする。

「まさか…足原のクローンである阿藤を足原に…」

「さあ?どうかな。融合はまだまだ成功率が低い。実際お前の融合の時も何体ものクローンを無駄にしたわけだし。阿藤君…といったかな?あんなに優秀な素材を今までの様に迂闊に無駄にはできまい?」

「素材…無駄…」

まるで物の扱いの様な無造作な冷たい言い方は昔から変わらない。

それを当たり前の様に何とも思わず過ごしてきたが、自分と足原のルーツを知った時から俺の中で少しずつ何かが変わりつつあった。

「さて、いつまでもここで無駄話をしている訳にもいかない。」

「ま、待って下さい!足原と阿藤をどこに連れて行くんですか?!」

俺は出入口に向かって歩いて行く「父」に向かって叫び駆け寄ろうとしたが、

「自宅マンションまでお送りします。」

と屈強な男に有無を言わさず取り押さえられそのまま強引に車に押し込められた。

No.83 19/10/23 12:49
名無し3 

>> 82 「え?それは本当ですか?!」

「父」に強制的に自宅マンションに追い返された数日後にかかってきた1本の電話…

俺は柄にもなく電話の相手に向かって大声をあげた。

「ああ。珍しい名前だし、年齢も一致するからおそらく間違いないだろう。」

やや興奮気味の俺の言葉に相手は確信に満ちた声でキッパリと言い切った。
電話の相手とは、とある病院の医師。

製薬会社の営業をしている俺が担当している病院の勤務医であり、普段から懇意にさせてもらっている。

情報と人脈は財産だ。

俺は多方面に渡り人脈を広げ、常に情報が入るように努めてきた。

普段から知りたい情報のワードをばらまいておく。
すると、思わぬ所から思わぬ時にその情報が入ってきたりするものだが、まさか今になってそれがこんな形で役に立つとは…

運び出され連れ去られたはずの足原が発見されて俺の担当している病院に入院している。
一体どういうことだろう。

しかも記憶障害を起こしているらしく、ここ最近の記憶がすっぽり抜け落ちている様だ。
そんなに都合良く一部の記憶だけ綺麗に抜け落ちるものなのだろうか?

わからない。

しかし、このまま手をこまねいているだけでは何も発展しない。

よし。
とりあえず探りを入れてみるか。

足原の入院先に人を使って探りを入れた。
間違いない。
足原本人だ。

よほど病院に出向こうかとも思ったが、記憶を失くしているあいつの前にいきなり何の脈絡もなく顔を出したら驚くだろうし怪しまれもするだろう。

と言って、接触をしなければ何も始まらない。

俺はしばらく考えた末、
最もベタな方法をとることにした。

タイミングを見計らい偶然を装ってあいつの前に姿を表してみるか…

足原の退院予定日は知らされている。
当日、俺は病院の前に車を停めて待ち、病院の駐車場から出てきた足原の尾行を開始した。

No.84 19/10/27 19:25
チキン ( 30代 ♂ BMsZnb )

>> 83 『──オリオン座流星群の活動がピークを向かえます。
今夜未明から明け方にかけてが見ごろでしょう。しかしこの時間帯には下弦の月が夜空を照らしているので、条件は良いとはいえないでしょう──』



何気ないラジオからの情報が耳に入る。


流星群か
見たことがない。

いくつもの流れ星が駆け巡って
それはとても神秘的なんだろうな


人の手には届かない世界
それは魔法のようでいて
魔法という言い方が違うのなら神秘という言い方になるだろう
神秘的なものは特別な光を放っている


俺の走ってる車も流星の一つで
誰かの願いを叶えたりできるのかねぇ…
アマゾンの宅配便とかなら、

「ふっ」

何を考えているんだと自分のことが可笑しくなり気の緩んだ息が漏れる。
入院してる間考える時間がありすぎて
そんな考え方も身についてしまったのだろうか。



ちょっとあそこのセブンでコーヒーでも買って小休憩にしようか。




車内に漂うコーヒーの香りを堪能しながら啜っていると、
ふと頭にある映像が浮かんできた。


目先のフロントガラスに雨粒が貼りつきワイパーが目の前をかすめてゆく。
粒が溜まってきては掃き溜まってきては掃きを決まったテンポで繰り返す。


その心地よいテンポに見とれているところへ左側のドアが開いて誰かが乗り込んできた。

誰かと問うまでもなくそれは高橋だろう。
そう直感する。

だろうと思っていても顔から下しか捉えてなくて表情までは読み取ることができない。

高橋の顔のはず、
はずの顔が浮かんでこない。


なぜだろう。


映像はそこまで。



この場所に来ていたのかもしれない。

その日は雨が降っていたんだろうおそらく。


もう一口コーヒーを啜って車を発進し始めようと思っていた矢先
左側のドアの窓をコンコンとノックする音が聞こえた。

咄嗟に高橋?と音の方を向く。

つい先ほどまで頭の中に浮かんでいた映像と現実に境界を引く間がなかったので気持ちが延長していた。


窓の向こうに見えるのはスーツの衣装。
なんとなく高橋ぽさに欠けるような

ガチャっとドアが開きその人物が顔を覗かせるのと口を開くのは同時で開口一番


「こんにちは足原さん
わたくしドッペルゲンガーです」と

全く見覚えのない男が
全くとはいえない身に覚えのあるワードを口にしていた──

No.85 19/10/28 00:31
名無し3 

>> 84 警察署を出た足原の車はしばらく走ったかと思うと急にウインカーを出し広い駐車場のあるコンビニに入っていった。

よし。

続いてコンビニの駐車場に車を停め
店内に入って行く足原の様子を眺める。

さて…
どうするかな。

足原の退院の日時を調べ、それに合わせて会社も早退してきたんだ。
何の収穫もなくこのままボーッと見ているだけという訳にもいかない。

ええい、ままよ。

足原が車に戻って来たのを合図に俺は車を降り足原の車に近づいた。

俺の顔を見たらどんな反応をするだろう。

コンコン。

車の窓を軽くノックする。

俺を覚えているか?足原。
覚えていれば話は早い。

だが、覚えていなければ…

ノックの音に反応してこちらを見た足原は訝しげな表情になった。
まるで知らない誰かにいきなり話しかけられた様な…

ちっ。
くそったれ。

やり場の無い怒りを抑えながら俺は努めてにこやかに明るい声を出した。

「こんにちは足原さん
わたくしドッペルゲンガーです」

足原の訝しげな表情は更に強くなる。
まあ無理もないが。

「足原さん、失礼ですがもしかしてわたくしの事を色々と調べていらっしゃいましたか?」

「あんた、一体誰なんだ?」

続けた俺の言葉に足原がようやく口をきいた。

「わたくし…ですか?
ああ、申し遅れました。わたくしこういう者です。」

俺はわざとオーバーなリアクションでうやうやしく足原に名刺を渡した。

「Ashime製薬…河村遼……アシメ?…」

足原はアシメという名に少し反応を示したが直ぐに真顔に戻り、

「で?その河村とかいうドッペルゲンガーさんが俺に何の用だ?」

訝しげな表情を崩さずつっけんどんにそう吐き捨てた。

「これはこれは異なことを仰る。
そもそもお知り合いの高橋さんにわたくしが酷似しているとか何とかで、散々わたくしの事を嗅ぎ回っていたのは足原さんではありませんか?
それを知ったわたくしが逆にあなた方の事を調べてこうしてコンタクトを取りにきても文句を言われる筋合いは無いと思いますけどね?」

「高橋??!!」

高橋の名前は俺の想像以上に足原の心を揺さぶったようだ。

足原は俺の顔をじっと凝視したがその顔は恐ろしく青ざめていた。

No.86 19/10/28 12:19
チキン ( 30代 ♂ BMsZnb )

>> 85 こういうことを青天の霹靂というのだと身をもって知ることになる。

突然の出来事

雷に打たれたみたいに。


探し人登場!見つかりましたよ!ステキやん
なんて感動はなく、いきなり目の前に現れたらビビってしまう、
追ってるつもりが追われていたなんて。

血の気が退いて
青顔の霹靂になってないだろうか?



相手さんは何もかもお見通しのようなのでそれならそれで手間が省けていいだろう、
しかしひっかかったのはアシメ製薬…


なにかが繋がりそうな予感。


その感覚に混じってるのは嫌悪感



「あんたが河村さんか、
探してたよ。まさかいきなりご本人登場だなんてニクい演出してくれちゃってとんだサプライズだなぁ、」

内心動揺しまくりだが努めて気丈に振る舞う。
でもこういう時こそ口数を重ねるべきだという持論。


高橋を探してるところへ河村がでてくるなんて
棚からぼた餅ってやつ?


「目的はあんたの言う通り高橋とあんたがどれほど顔が似ているのか確かめたかったんだ、それだけ。

初めのうちはそれだけだった、
でも今は違う。
あんたの顔だけじゃなくあんた自身のことが知りたくなった」


「それは恋とでもいうのかな?」
と余裕たっぷりに冗談をかます河村


「恋に近い感情なのかもしれないな。
いや、正確にいうなら恋以上の感情なのかもしれない」
微かに河村の口角が上がる。


「じゃああんたに告白をするとしようか。
『あなたは河村多江子という女性を知っていますね?』」


河村の目が少し見開く。続けて

「『あなたの旧姓は高橋ですね?』」


「『あなたはわたしのことをずっと以前から知っていましたね?』」


「『あなたはアシンメトリー研究所の関係者ですね?』」


訪ねるというより断定的な問い方をしてみたのは名探偵コナンの影響だろうか?


「『あなたの名前は高橋遼。
そしてわたしとあなたは中学の同級生ですね?』」


河村の表情が懐かしいものを見るかのように変わり
「はい。その通りです」と答えた。


「高橋、」

「足原。」




高橋と再会を果たした。
しかし記憶が戻ったわけではない。
再会をすんなりと飲み込めたわけではない。
微かな違和感を感じて。
ドッペルゲンガーには表と裏があるのかなと疑問が浮かんで。


この高橋はどっちだ…


  • << 89 『遼』という名にすぐにピンときた。こいつは中学を共に過ごしてきた高橋遼じゃないかと。 そしてアシメ製薬、河村とくると、多江子さんとなんらかの関係はあるだろうと。 なかば当てずっぽうなところもあったがなんとなくな確信もあった。 点と点が繋がったような感覚。 しかし、中学時代の友達の顔を忘れてるとはいかがなものだろう… それはちゃんと詫びたがしかし、高橋はそれを当然事のように受けとめ 今までの事の真相を語り始める。 俺たちは血が繋がった双子の兄弟だということ 俺はオリジナルで阿藤は俺の細胞から作りあげた失敗作のクローンだということ 俺たちの両親 そして多江子さんのこと など 俺はその話しを黙って聞いた。 自分の肌感覚で確認するかのように、 記憶が甦ってくるというよりはその記憶に実感が持てるかどうかといった感じ。 点字に沿って上から線でたどっていくみたいな。 俺が黙って何か得体の知れないものを飲み込むのに専念してる間、 高橋は場の空気を揉みほぐすように昔の思い出をはさんできた。 「中学の時さポケモン流行ってただろ?」 「ああ。よく教室の中でやってるやついたなぁ 俺は全然やってなかったけど」 「そのポケモンブームの時にクラスメイトをポケモンのキャラに当てはめるって遊びがあったんだよ」 「なんかあったような…」 「足原 お前はブースターって言われてたんだ。 阿藤はゲンガー。 覚えてるか?」 「そのブースターって何なの?」 「炎タイプのポケモン。 最強クラスの強さを誇るといわれてる。 お前けっこう熱血タイプの性格だろ? クラスメイトも満場一致で納得してたよ」 「ハハ、そうなのか?」 「そのブースターってのはイーブイにほのおの石を与えると進化してブースターになるんだよ。 で面白いことに そのブースターの原形のイーブイはみずの石を与えるとシャワーズに進化してかみなりの石を与えるとサンダースに進化する。 イーブイだけなんだよ 3通りに進化できるポケモンって。 それにゲーム中で1匹しか入手できない貴重なポケモンでもあるんだ」 「3通りに進化できるね… 確かに俺にそっくりかもな。」 自分の生い立ちと重ね合うかのようなそのブースターに 親近感を覚えざるをえなかった。
  • << 90 「お前はなんのポケモンだったんだ?」 「僕はミュウツーだ」 「ミュウツー?」 「ゲームクリア後にしかゲットできない最強ポケモン」 「なんかめちゃくちゃイイやつじゃねぇかよ!」 「まあな」 「まあなじゃねぇよ!どんだけ自信に満ち溢れてんだよ。 まぁ、学年一の成績を誇っていたお前にはピッタリなのかもしんねぇな」 「それに僕はポケモンを10回クリアしてる。 ミュウツーと呼ばれても伊達じゃないさ」 「10回って、どれだけ飽きを知らないんだよ! 確かにお前の飽くなき探求心は伊達じゃないよ、」 伊達じゃない… その探求心は研究者として必要な能力なのかもな。 それにしてもポケモンの話しをしてる時の高橋の表情 あの頃の面影が垣間見えた。 近い存在に感じた。 付け足すように高橋は言う。 『ゲンガーをゲットする方法はゴーストを通信交換すること。』 その目がどこか虚ろげだったのは 俺の気のせいだろうか──

No.87 19/11/03 10:07
小説大好き87 ( ♀ )

この小説皆同じ人が書いているんのですよね?
続きが全く食い違いない。
もしかしてだけど、伊達さん?
ならマジウケます(笑)
違っていたらごめんなさい。
失礼致しました。

No.88 19/11/03 11:25
チキン ( 30代 ♂ BMsZnb )

>> 87 違います。
すいませんがこのレス削除してもらえますか?

No.89 19/11/06 18:07
チキン ( 30代 ♂ BMsZnb )

>> 86 こういうことを青天の霹靂というのだと身をもって知ることになる。 突然の出来事 雷に打たれたみたいに。 探し人登場!見つ… 『遼』という名にすぐにピンときた。こいつは中学を共に過ごしてきた高橋遼じゃないかと。

そしてアシメ製薬、河村とくると、多江子さんとなんらかの関係はあるだろうと。

なかば当てずっぽうなところもあったがなんとなくな確信もあった。
点と点が繋がったような感覚。


しかし、中学時代の友達の顔を忘れてるとはいかがなものだろう…
それはちゃんと詫びたがしかし、高橋はそれを当然事のように受けとめ
今までの事の真相を語り始める。

俺たちは血が繋がった双子の兄弟だということ
俺はオリジナルで阿藤は俺の細胞から作りあげた失敗作のクローンだということ
俺たちの両親
そして多江子さんのこと
など


俺はその話しを黙って聞いた。
自分の肌感覚で確認するかのように、
記憶が甦ってくるというよりはその記憶に実感が持てるかどうかといった感じ。
点字に沿って上から線でたどっていくみたいな。


俺が黙って何か得体の知れないものを飲み込むのに専念してる間、
高橋は場の空気を揉みほぐすように昔の思い出をはさんできた。



「中学の時さポケモン流行ってただろ?」


「ああ。よく教室の中でやってるやついたなぁ
俺は全然やってなかったけど」


「そのポケモンブームの時にクラスメイトをポケモンのキャラに当てはめるって遊びがあったんだよ」


「なんかあったような…」


「足原
お前はブースターって言われてたんだ。
阿藤はゲンガー。
覚えてるか?」


「そのブースターって何なの?」


「炎タイプのポケモン。
最強クラスの強さを誇るといわれてる。
お前けっこう熱血タイプの性格だろ?
クラスメイトも満場一致で納得してたよ」


「ハハ、そうなのか?」


「そのブースターってのはイーブイにほのおの石を与えると進化してブースターになるんだよ。
で面白いことに
そのブースターの原形のイーブイはみずの石を与えるとシャワーズに進化してかみなりの石を与えるとサンダースに進化する。
イーブイだけなんだよ
3通りに進化できるポケモンって。
それにゲーム中で1匹しか入手できない貴重なポケモンでもあるんだ」


「3通りに進化できるね…
確かに俺にそっくりかもな。」

自分の生い立ちと重ね合うかのようなそのブースターに
親近感を覚えざるをえなかった。

No.90 19/11/06 18:32
チキン ( 30代 ♂ BMsZnb )

>> 86 こういうことを青天の霹靂というのだと身をもって知ることになる。 突然の出来事 雷に打たれたみたいに。 探し人登場!見つ… 「お前はなんのポケモンだったんだ?」


「僕はミュウツーだ」


「ミュウツー?」


「ゲームクリア後にしかゲットできない最強ポケモン」


「なんかめちゃくちゃイイやつじゃねぇかよ!」


「まあな」


「まあなじゃねぇよ!どんだけ自信に満ち溢れてんだよ。
まぁ、学年一の成績を誇っていたお前にはピッタリなのかもしんねぇな」


「それに僕はポケモンを10回クリアしてる。
ミュウツーと呼ばれても伊達じゃないさ」


「10回って、どれだけ飽きを知らないんだよ!
確かにお前の飽くなき探求心は伊達じゃないよ、」


伊達じゃない…


その探求心は研究者として必要な能力なのかもな。

それにしてもポケモンの話しをしてる時の高橋の表情
あの頃の面影が垣間見えた。
近い存在に感じた。



付け足すように高橋は言う。
『ゲンガーをゲットする方法はゴーストを通信交換すること。』


その目がどこか虚ろげだったのは
俺の気のせいだろうか──

No.91 19/11/14 13:00
名無し3 

>> 90 「これからどうする?
お前が俺の前に顔を出したということは何か考えがあるんだろう?」

俺の説明話が終わり、懐かしいポケモン話も一区切りついた頃、それまでの笑顔を急に引っ込めて少し探る様な顔で足原がそう切り出してきた。

足原の真剣なその表情と言葉に俺は少し躊躇った後、
「ああ」
と短く答えた。

足原には一応ざっくりと今までの事のあらましは伝えたが、頷いてはいるもののどこか少しピンときていない様子が俺は気になっていた。

記憶を失っていた人間が、他者から欠けた記憶の部分の話を聞いたからといって急に記憶を取り戻せるものだろうか?

俺はその疑問を口に出さなかったが、足原も何となくもどかしいような今いちスッキリできていない様な複雑な表情をしている。

少し沈黙が続いた後、

「なあ!中学校に行ってみないか?!」

俺達はほぼ同時に同じ言葉を口にした。

やはり足原も俺と同じく、阿藤と辿った道をもう一度辿って朧気な記憶をハッキリさせる努力をしたいのか?

「なあ、今からならまだトンボ先生は学校にいるよな?」

だが、そんな俺の考えをキッパリ否定する様に足原が何かを考え込む様にしながらそう言い出した。

「トンボ…先生?」

何故、急にトンボ先生の話題が出てくるんだ?

戸惑う俺の表情に足原は少し笑うと、

「あのさ、俺が入院してた病院でトンボ先生に会ったのよ。
最初は凄い偶然だな思って素直に喜んでたんだけどさ…」

ここで足原を言葉を切って少し辺りを見回すと、

「これ、俺の勘だけどトンボ先生は何か俺達の事を探ってる。
もしかしたら色々も俺達の知りたい事も掴んでいるのかも。
だからとりあえずはトンボ先生に会いに行ってみようぜ!!」

と俺の耳元でヒソヒソとささやく様に言った。

「は?なに?お前?何かトンボ先生について掴んでるの?
その考えの根拠ってなに?」

足原の突飛な考えに戸惑う俺の言葉に、

「根拠?ないよ。
俺の勘だって言っただろ?」

と、足原は昔と変わらない屈託のない笑顔でそう答えた。

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