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婚活ゲーム

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金曜の午後、俺は非常に機嫌が良かった。
金曜の夜、土曜日、日曜日と三日間連続で面接だ。
面接といっても婚活サイトで知り合った女性と初めて顔を合わせる最近の俺はこの面接の為に生きてるといっても過言ではない。
俺は意気揚々と午後の仕事をこなし待ち合わせの時間が20時だった事もあり後輩の残業を手伝いながら時間を潰した。
待ち合わせの1時間前に退社してまずは理容室に入り顔剃りを行う、その後花屋でブリーフケースに入るサイズの花を買う。
いつもの様に20分前に待ち合わせ場所へ行き相手を待つ。
相手が現れるまでのこの時間が一番楽しい、俺は相手の顔を知らない相手には俺の写真を送ってあるので逃げられる事もなく安心だ。子供の時ハマったガチャガチャみたいな感覚だ、どんな人だろう?やりとり通りの人だろうか?色々考えながら道行く女性に目を向けているとあっという間だ。
一人の女性がキョロキョロと辺りを見回している
あ!ユウコさんかな?聞いていた年より上に見えるが真面目そうで教師っぽい。
人間違いだと恥ずかしいのでLINEを送ってみるとキョロキョロしている女性のスマホが鳴った。
スマホを見ているユウコさんに近づき挨拶をする。
ユウコさんはかなり礼儀正しくやりとりしていた通りの人だった。
食事をする事は事前に決めてある、俺はさぁ!ここからが本番だ!と気合いを入れる。
ここからが俺の面接だ、ユウコさんには悪いけど試させてもらいますと心の中で呟いて店へと歩き出した。

18/04/07 17:05(スレ作成日時) [RSS]

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  • No: 10賀州夏(♂MpbYnb)スレ主更新時刻18/04/22 02:30

    「ソロレート婚っか…」
    その日はそれだけ言うとコトミの部屋を後にした。
    水を飲もうと一階に降りると父の書斎から出てきた兄のナオヒトとすれ違う、以前に比べ随分とやつれたように見える。
    ナオヒトは「コトミの事は頼んだぞ」といつものセリフを言いながら俺の肩を叩く。
    今まで家を空けがちだった2人が申し合わせたように帰ってきてはこの1週間、明け方まで2人で書斎で何か相談しているようだった。
    その年の3月31日俺は仕事を早退し、コトミが通う大学の寮まで荷物を運び入れた、寮を使えるのは4月からなので大学から近い俺のマンションにコトミは泊まっていた。
    その日のコトミは夕食時に飲めないビールを飲んだり、いつもと違う感じだった、俺は明日から一人で暮らすのが心細いんだろうと心配していた。
    夜になり、いつもはコトミが寝るまで起きているのだが、その日は中々風呂から上がってこないコトミを待っているうちに先に寝てしまっていた。
    俺は夢を見ていた、心地良い柔らかな感触に包まれている、今迄ミキでしか味わったことの無い感触、随分と久しぶりの感触、ミキとのキスを思い出すと同時に脳まで痺れるような快感が突き抜けて目が開く、俺の目に入ってきたのは目を閉じて俺と唇を合わせているコトミだった。
    コトミはそっと俺から離れると
    「ケンちゃん、お姉ちゃんの所に行こうなんて思ったらダメだよ」
    そう小さく呟いて布団へ入った。
    その言葉を聞いた瞬間、俺は全てを察した。
    コトミはこの2年間自分を心配させる事によって俺が変な気を起こさないようにしていた、コトミが本当に明日から心配なのは俺を一人にさせる事なのだと。

  • No: 11賀州夏(♂MpbYnb)スレ主更新時刻18/04/26 04:22

    「今度はコトミと来るよ、ミキ、おじさん、おばさん」
    スマホにLINEが入る、俺は若月家の墓の前ではスマホを出すのが心苦しくて駐車場の車の中で確認する。
    「明日会えませんか?」
    やっぱりユウコさんからだ、俺は凄くうしろめたくて駐車場では返事を出せなかった、ユウコさんは既読無視に気を悪くするだろうか?
    俺は途中に立ち寄ったショッピングモールの駐車場でやっと返事を出した。
    「僕も会いたいです、外なので帰ったら電話します」
    すぐに既読がつく
    「良かった、お電話待ってます」
    ユウコさんとの用件だけのLINEが終わった。
    なんだろう?この前まではシンプルで心地良かったやりとりが物足りない。
    そんな時、俺はとても嫌な気分に襲われる、ミキを裏切ってる自分がとても嫌な恥ずかしい人間に思えてしょうがないのだ。
    俺は心療内科の先生に習った通りに手の甲をつねる。痛みを同時に与える事によって脳がそう思う事をやめてくれるようになると言われたがまだ効果はない。
    この症状が酷くなると鬱を発症するとも言われた、四六時中自分を責めて自殺してしまうことも珍しくないと。

  • No: 12賀州夏(♂MpbYnb)スレ主更新時刻18/04/29 03:07

    ショッピングモールでコーヒーを買い喫煙所を探し歩く、土曜日だけに家族連れで混み合っている。
    喫煙所へ入り、外の家族連れを見ながらタバコに火をつけるとミキとの約束を思い出す。
    子供が出来たらタバコはやめる。
    もし、あのまま結婚出来て子供に恵まれていればあの子くらいなのかな?
    子供が出来るとはどんな感じなんだろう?
    ミキよりも子供を愛するのだろうか?
    それともやはりミキが一番好きなんだろうか?
    答えが永遠にわからなくなった問いかけをしながらタバコを吸い終えた。
    喫煙所から出た俺は家族連れを置き去りにしながら逃げる様に幸せな空間から足早に去っていった。
    マンションへ帰るとすぐにユウコさんへ電話をかけるが繋がらなかった。
    そんな時、ガチャっと玄関のドアが開く音がする、俺は言葉を失った。
    俺の視線の先にはミキがいた。
    「ケンちゃん、どう?似合ってる?」
    ミキに見えたのはコトミだった、俺がミキの誕生日にプレゼントしたワンピースを着て、ミキと同じ髪型をしていた。
    「似合ってるというか、ミキみたい」
    俺は正直に答えた。
    「最近変なんだよ、お姉ちゃんが夢に出てきて変な事言うんだよ」
    コトミの表情から嘘や冗談ではない事がよく分かった。
    俺はギョッとした、そんな事あるのか?
    「先週なんて毎晩出てきてワンピース着て髪切って週末にケンちゃんの家に行けって」
    そう言ってコトミは俺の目を見る。
    「玄関で抱きついてキスしろって言われた」
    これは嘘だ、コトミは嘘をつくとわかりやすい。
    抱きつこうとしてくるコトミを突き放す。
    「今日はどうした?」
    コトミは舌を出して笑うかと思ったが俺の言葉に目つきが鋭くなった。
    「マジで言ってるの?覚えてないわけ?」
    俺は全速力で色んな記念日、誕生日を思い返すが今日ではない。
    「約束してた?」
    コトミはフっと鼻で笑う、ミキと良く似て心底呆れた時の表情だ。
    「答えを聞きにきたの……」
    そうコトミが言った瞬間スマホが鳴る、ユウコさんだ。
    俺はコトミに待ってとジェスチャーしながら電話を取ってユウコさんと明日の段取りをしまた掛け直すと言って電話を切るとコトミはフーっと深呼吸して話す
    「ケンちゃんが私との事を真剣に考えるって言った日だよ、私の気持ちが5年変わらなかったら考えるって」
    コトミはそう言うと靴を脱いで俺を跳ね除けて部屋へ上がってきた

  • No: 13賀州夏(♂MpbYnb)スレ主更新時刻18/05/01 23:56

    5年前の約束?全く思い出せない……
    コトミの脱ぎ散らかした靴を揃えながら考えるが出てこない。
    「ケンちゃん、DVD借りてきたから車から取ってきて。ついでに買い物袋も」
    コトミは戻ってきたかと思うと軽自動車の鍵を投げつける。
    「車はちゃんと停めた?前みたいに……」
    「停めてるよ!白線も踏んでないから大丈夫!」
    姉妹揃って人使いの荒さまでとても似てる、俺は懐かしいような腹立つような気持ちで駐車場へ取りに行く、コトミには本当は車には乗って欲しくなかったが田舎の交通事情を考えたらそうは言ってられないし暗い夜道を歩きで帰るよりは車の方が安心だ。
    何が白線は踏んでないだ!またいでるじゃないか!嫌がらせの様に俺の車の運転席側にベタ付けしてある軽自動車から買い物袋とDVDを取ってエレベーターを待つ、DVDのタイトルを見てみると愛と青春の旅立ち、プリティーウーマンと書いてある。
    そのタイトルを見て俺は記憶が蘇る。
    「コトミが5年経ってもその気持ちが変わらない時は考えるよ」
    俺はそうコトミを諭した事がある、軽い気持ちではなかったがコトミの俺に対する気持ちは一過性のもので大学へ行けばいろんな出会いがあって俺の事はお兄ちゃんに対する愛情だと気付くと。
    女性を迎えに行く演技はリチャード・ギアが一番だから一度は見ておけなんて言ってコトミに見せたらテンションが上がってしまってそういう話になったんだった。
    俺が部屋に戻るとコトミが大きな声を上げる。
    「ケンちゃん!座って!」
    俺が食品を冷蔵庫に仕舞おうとすると更に大きな声で叫ぶ。
    「いいから!座ってよ!」
    俺は明らかに取り乱しているコトミに驚きすぐに隣へ行く。
    「ケンちゃん、私に隠し事してない?」
    「してないよ」
    一瞬ユウコさんの顔がチラついたがパジャマは洗って乾かして戻しておいたからバレる訳がない、しかもあんな話を聞いた後では言いたくても言えない。
    「ふ〜ん、質問変えるよ、誰か女泊めた?」
    俺は明らかに動揺した、バレてる、何故だ?何の形跡も残って無いはずなのに。
    俺はフリーズしてしまう、こうなるとコトミは一気に攻めてくる。
    「ケンちゃんは気付いてなかったかもしれないけど、パジャマのズボンには毎回下着が挟んであるの……」
    思い出した!ミキも泊まる度にそうやっていた!
    俺はユウコさんの事を最悪のタイミングでコトミに知られる事になってしまった。

  • No: 14賀州夏(♂MpbYnb)スレ主更新時刻18/05/02 15:24

    「そういう事なんだよ」
    俺はコトミにユウコさんとの一部始終を話した。
    「そうなんだ、着替えた後様子おかしくなかった?」
    火傷の事や初めてだと言われたがコトミにそんな事まで話す必要ない。
    「普通だったよ」
    急にコトミの顔がニヤつく。
    「何もなかったのは本当みたいね、流石にあれ見たらドン引きしただろうな」
    「なんだよ、あれって」
    「聞いたらケンちゃんその人に会えなくなるかもよ。いや、もう会って貰えないかな」
    コトミは今にも腹を抱えて笑いそうだ、俺は嫌な予感しかしない。
    「ちょっと特殊な下着なの、スケスケのポケット付き。使い方が書いてある袋に入ってたから…」
    最後の方は笑っていて何を話してるのか分からなかったがどういう物かはよく伝わった。
    なんて事だ、俺にユウコさんが火傷の跡や初めてだと言ったのは変態サイコパス野郎を遠ざける為だったのか…。
    俺は洗面所へ駆け込んだ。
    「無かったよ、どこにも」
    ちくしょう!コトミには何でもお見通しか!
    俺は子供みたいに地団駄を踏んだ。
    「危ない、危ない、そんな積極的な人がいるなんて本当は出会い系じゃないの?」
    コトミは勝ち誇りながらも疑いの目を向ける。
    「もう退会してるけど婚活サイトだよ、6人会った」
    本当は12人だったが面倒なので半分減らした。
    コトミは言葉を失う、相当なショックを与えたみたいだ。
    「大丈夫だよ、みんな御飯食べて話してそれっきりだから」
    「どうせ試したりしたんでしょ?お姉ちゃんだったらこうしたからコイツはダメとか…」
    「それで向こうが嫌になるような事してそれっきりなんでしょ?」
    ビンゴだ、何故そこまでわかるんだ?
    俺はコトミにも知らず知らずにそんな態度をとってるのか?
    「お姉ちゃんの代わりでも私はいいよ、この世で一番お姉ちゃんに近いのは私なんだし」
    コトミは目に薄っすらと涙を浮かべている。
    そんな時、スマホが鳴る、画面にはユウコさんとデカデカと出ている。
    「出なさいよ、どうせやんわりお断りされるから」
    何も知らないコトミは毒づく。
    そういえばあんな下着を渡されたのになぜユウコさんは自分から会いたいと言ってくれたのだろうか?
    そうか、変態野郎をいきなり断ると逆恨みされるから時間をかけて消えるつもりなんだ、大人だ大人の対応だ。
    俺はちゃんと謝ろうとスマホをタップした。

  • No: 15賀州夏(♂MpbYnb)スレ主更新時刻18/05/04 22:09

    「それでは明日」
    俺が謝る暇もなくユウコさんが楽しそうに話して通話が終わった、とても嫌々かけてきたとは思えなかったし、ユウコさんとは距離が近くなった気がする。
    隣で聞き耳を立てていたコトミのテンションが下がっている。
    「ねぇ、なんで婚活サイトなんて登録したの?寂しかった?」
    「セミナーの人に勧められてね」
    「まだセミナー行ってるの?もうやめなよ、私は好きじゃない」
    俺が1年前から通っている、大切な人を失った人達が集まる会にコトミはいつも否定的だ。
    「あ!明日はどこ行くの?」
    いきなり話を変えるのもミキそっくりだ。
    「お茶の先生の茶会で手伝いしてるから15時位にお茶飲みに来て欲しいって」
    「なーんだ、数合わせに呼ばれただけじゃん」
    急だったし、言われてみればそうだな。
    コトミが夕食の支度を始めた、後ろ姿のコトミはミキによく似ている、今年でコトミもミキが亡くなった年齢になる。
    コトミには何が何でも幸せになって欲しい。
    俺はコトミが一人で味わっている苦しみを知っている、コトミの俺への思いはミキへの償いからくるものだという事もわかっている。
    コトミが幸せになる為に俺ができる事といったら早く他の誰かと結婚してコトミの重荷を取り去ってあげる事だ。
    俺はその為なら何でも出来るだろう、いや何でもやらなくてはならない。

  • No: 16賀州夏(♂MpbYnb)スレ主更新時刻18/05/05 22:02

    「なんでコトミが化粧してるんだよ!」
    「いいじゃない、近くでブラブラしてるから。どうせ振られるんだし、帰りに慰めてあげるから」
    「そんな事言って偶然を装って現れる気だろ?」
    コトミは何も言わずにこっちを向き口紅を塗ったばかりの口をパッとさせてまた鏡に向き直す、非常に腹がたつ態度だ。
    「言っておくけどユウコさんは美人だぞ」
    「ふふふ、美人ねぇ、楽しみ」
    そう言うとコトミはいつもより厚化粧の顔で不敵な笑みを浮かべていた。
    待ち合わせの場所は俺が住んでいるS市と隣接するN市にある大きな公園の中の茶室だった。
    昔はこの一帯を治めていた戦国武将の別邸だったらしい。
    茶室用の駐車場には成金が乗るような高級車ではなく本物のお金持ちが乗っていそうな黒塗りの車が並んでいる。
    まだ13時だ、昼飯もまだだった俺達は車を走らせN市の中心街を流してみる事にした。
    「ケンちゃんのセンスに任せる」
    「この前は外したからな、今回は任せろ!」
    俺は唯一の趣味である見知らぬ土地の飲食店巡りを開始する。
    「よし、ここだ!」
    俺が車を停めて向かった先は薄汚れたコンクリートブロックで囲まれたガレージのようなラーメン屋だ。
    「私なら絶対に入らないな」
    コトミのお決まりのセリフと共に裏口に使われている様なアルミのドアを開けて入店する。
    「すいません!塩ラーメンとネギラーメン!、いいよな?コトミ」
    「はい」
    何故かコトミは俺がコトミの物まで注文を勝手に決めるのが好きだ、その時は子供の様に素直に返事する。
    意外に美味かったラーメン屋を出て商店街を歩いてみる、S市と違って商店街も賑わっている。
    「奥さん、これどうですか?」
    コトミは八百屋に呼び止められ奥さんと言われたのが余程嬉しかったのか勧められたイチゴを買う。
    「奥さんだって、エヘヘ」
    コトミは頬を赤らめて照れ隠しに笑う、俺は素直に可愛いと思った。
    喫茶店に入り、通りをガラス越しに眺めるとある事に気付く。
    どの店も大河野のマークが入っている、そうかここは大河野のお膝元か。
    大河野はN市にあった大河興業とS市にあった河野家が両家の結婚を機に合併して出来たこの地方では知らぬ者はいない、大企業である。
    むしろ大河野に関わりのない人の方が少ないくらいだ、教育、医療、産業、観光N市とS市は大河野で動いていると言っても過言では無い

  • No: 17賀州夏(♂MpbYnb)スレ主更新時刻18/05/06 03:15

    大河野か………。
    「ケンちゃん、どうしたの?そんな顔して」
    「いや、何でもないよ」
    大河野の名前を見ると俺は嫌でもミキの事故を思い出す。
    反対車線に飛び出したミキ達の車に正面衝突したのが大河野グループが経営する運送会社のトラックだった。
    「そろそろ行こうか」
    「うん」
    アーケードをコトミと歩いて駐車場まで戻っていく、沢山の家族連れとすれ違うが今日はいつものような寂しさは襲ってこない、隣にコトミがいるからだろうか。
    コトミを見るとコトミは家族連れを目で追っていた。
    その寂しそうな目を見た瞬間、俺は黙ってコトミの手を握る、コトミは何も言わずにただギュッと力強く俺の手を握りしめていた。

    「何言ってんだよ!」
    「だから、女には手を握るだけでもSEXなの!」
    「さっきのはそういうものとは違うだろ!」
    「違わないわよ、責任とって貰うから」
    人の気も知らないですぐにそっちに話を持っていくコトミと言い合いをしているうちに公園へ着いた。
    「着いたぞ、終わったら連絡するから。池の鯉に餌でもやってろ」
    「はいはい、せいぜい恥かかないようにね、恥かかせるのが目的だったりして」
    そう言うとコトミは池のある方に消えていった。
    茶室の駐車場は空いていた、黒塗りの車達はもう帰った後だった。
    門へ行くと桜色の着物を着たユウコさんが立っていた。
    「遠かったですよね、急にごめんないね」
    「そんな事ないですよ、ユウコさんの着物姿を見れましたし」
    ユウコさんの耳が赤くなる、なんだかこっちまで恥ずかしくなる。
    茶室へ通される、小さな草履に履き替えて、これまた小さな入り口から入る、誰も居ない茶室はとても心の落ち着く空間だった。
    正座して待っているとユウコさんが入ってきて耳打ちする。
    「先生が特別に私達二人にお茶をたててくれますから私の真似してれば大丈夫です」
    特別ってそんなに凄い先生なのか?俺の疑問はすぐに答えが出た。
    現れた先生はテレビでよく見た顔だった、千裕玄、我が郷土の誇りとまで言われる茶道家だった。
    ユウコさんはこんな人からお茶を習っているのか、もしかして相当なお嬢様なのか?
    いや、金を積んだからって教えてもらえる様な人じゃない。
    俺とユウコさんは住む世界が違うのだけは認識出来ていた。

  • No: 18賀州夏(♂MpbYnb)スレ主更新時刻18/05/06 13:40

    千裕玄がお茶をたてる、その所作はどれも無駄がなく美しささえ感じる。
    そのお茶は今まで飲んだどんなお茶よりも研ぎ澄まされている様な味だった。
    結構なお点前でとでも言えば良かったのがこんな機会は二度とないと思い、思った事をそのまま伝えた。
    何度も何度も繰り返された事によっていろいろなものを削ぎ落とし、いろいろなものを得て生まれた味ではないかと思いますと。
    「伊達君、君もやってみなさい」
    思いもよらぬ返事が来た。
    「作法はいいから思う様にやってみなさい」
    こんな機会は二度と無いと思い、痺れた足を動かしながら茶釜の前に座る。
    無だ、と思ったが俺の心は無になる事は無い、素直にミキに対する想いを込めて体を動かした。
    千裕玄は俺がたてた茶を飲むと目をつぶってこう呟いた。
    「伊達君、悲しみを知っているからこそ分かる幸せもあるのではないかな、ゆっくりしていきなさい」
    それだけ言うと千裕玄は茶室を出て行った。
    俺は暫く放心状態だった、緊張から解放された事もあるが自分の心を見透かされた事に驚いていた。
    「先生はお茶を入れる人の所作で何でもわかってしまうんです」
    「所作ですか?」
    「はい、私も全て見抜かれてしまいます」
    その後はユウコさんと暫く話し、最後のお客さんが来るという事なので出迎えるユウコさんと帰る俺は門まで歩く、別れるまでに伝える事がある。
    「ユウコさん、無理しなくても大丈夫ですよ」
    「え?どういう事ですか?」
    ユウコさんが戸惑う。
    「パジャマに変な下着が入っていたでしょ?」
    俺は正直にコトミが仕掛けた下着の事を話す。
    「そういう事だったんですね、妹さんの趣味かと思ってお兄さんに見つかるのは可哀想だったので持って帰りました」
    ユウコさんは耳を赤くする、本当に優しい人なんだ。
    「あ!ハナミズキ」
    「綺麗!」
    ユウコさんは満開のハナミズキを見上げる、とても絵になる。
    「そこにいて下さいね」
    俺はスマホを取り出して写真を撮る。
    「写真なんて撮ったの久しぶり、花お好きなんですね」
    ユウコさんは照れ笑いをする。
    「その時、その時を大切にしたいんです、同じ瞬間なんて二度と来ないのわかったから」
    「一期一会、私もそう生きたいです」
    門をまたいで別れようとした瞬間、ユウコさんが俺の手を握る。
    初めて触れたユウコさんの手は温かいというよりとても熱かった。

  • No: 19賀州夏(♂MpbYnb)スレ主更新時刻18/05/07 14:58

    ユウコさんは何かに気付いて俺の手を離した、俺がその方向を見ると門の外にコトミが立っていた。
    コトミはユウコさんを見ている、ユウコさんもコトミを見ている。
    駐車場に一台の黒塗りの車が入ってくる、全員が車の方を向いた、車は門の前に付けられた。
    ユウコさんの表情が一気に曇った、ドアが開き一人の女性が降りてくる。
    その女性を見た俺とコトミは顔を見合わせる、俺とコトミには見覚えのある顔だった。
    降りてきたのは河野アンナ、大河野グループの現会長である。
    俺とコトミが初めて河野アンナと顔を合わせたのは若月家の葬式だった、若月のおじさんと俺の父親と大学の法学部の同窓生であると知ったのもその時だ。
    河野アンナは久しぶりの再会がこんな形になるとは不可抗力とはいえ、事故の相手が自分のグループ会社だとはなんと運命というのは残酷なものだと嘆いていたが、俺は葬儀中に退出して記者に囲まれて涙を浮かべながら語る河野アンナを見て、旧友の葬いというより河野アンナの、大河野グループのイメージアップに利用された様な気がしてならなかったのを覚えている。
    門の前で河野アンナはすれ違いざまに俺を見ると口角を少しだけ上げた。
    河野アンナはそのままユウコさんと挨拶も交わす事なく茶席へ歩いて行く、ユウコさんはこっそりと後ろ手に手を振っていた。
    帰りの車中、コトミは問いかけに答えるだけで何も話さなかった。
    部屋へ戻り夕食を食べるとコトミは明日の仕事の準備で何時になるかわからないから先に寝ておいてと机が置いてある部屋に閉じこもってしまった。
    俺はユウコさんに聞きたい事があってLINEしたがいつもと違い既読になってもすぐに返事が来ない、俺は自分の予想が外れている事を願いながら風呂に入る。
    風呂から上がるとコトミがソファーで苺を食べていた。
    ミキと同じでヘタを取った方から食べている。
    俺の分のイチゴをコトミは差し出すと風呂に入ってくると言ってコトミは部屋から出ていく。
    スマホを見るとユウコさんからの返事が返ってきていた。
    返信を見た俺はスマホをソファーへ投げ捨てて、ベッドに身を投げ捨てる、何も考えずにただ寝てしまいたかった。

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