新緑の一本道
①入学式
いつものように、窓の日差しで目が覚める。ぐっと腕を伸ばし、伸びをする。ふと目に入ったのは、真新しい制服。
やっと入学式だ!
私は三年間の受験勉強を経て、第一志望の中学校に受かった。
国立東都教育学校中等部
ずっと行きたかった。おもいっきり勉強した。今日からあの学校の生徒なんだ。
「お母さん、おはよう!」
「あら、おはよう。今日は入学式ね。おめでとう。」
お母さんはキャリアウーマン。今日も真っ白のブラウスにタイトなスカート。
「つぼみ、朝ごはんできてるから食べていって。お母さんもう行かなくちゃ」
そう行ってお母さんはスーツを着て、
「しっかり頑張るのよ。」
と言ってくれた。
「ありがとう。入学式終わったら連絡する。気をつけてね!」
「つぼみもね。いってきます!」
お母さんは会社に行った。
それから私は、お母さんが作ってくれた味噌汁とご飯を食べて、キャメル色の制服を着て、名残惜しく家を出た。
講堂は一際立派なレンガ造りの建物だった。
「新入生のみなさんはこちらでーす!」
先輩の誘導の声が聞こえた。
「コース別、クラス別に並んで待機してください」
この学校には普通科、スポーツ科、芸術科があり、一つのコースの中でもいくつかの男女別クラスに分かれている。私は中等部普通科1年Bクラスなので、左から二番目の列に並ぶのだ。私の名字は高崎で18番…だけど誰の間に入ればいいのだろう。
「ねぇ、あなた出席番号なに?」
振り向くと、栗毛色の髪の女の子がいた。少しつり目で肩までの髪。
「あ、私は修園寺麗。出席番号は15で、Bクラスだよ!あなたは?」
「私は高崎つぼみ、えっと、修園寺さんと同じBクラスだよ。出席番号は18番。」
修園寺さんの顔がぱっと明るくなった。
「じゃあ私たち、番号近いね!よろしくね、つぼみちゃん!」
「うん、よろしく、修園寺さん。」
「麗ちゃんって呼んでよー!同じクラスだし!」
「うん、わかった…麗ちゃん!」
「よろしくね、つぼみちゃん!」
こうして私には一人の友達ができた。
「でもさ、19番の人だれかなぁ。これだけ人が多いとわかんないや。」
と麗ちゃんが言った。
「ここで待ってれば来るんじゃない?」
「そうだね、待っていようか!」
私たちは入学式が始まるまで列に並んで待つことにした。
「それにしても立派な学校だよね。こんなに広いのに入学金も授業料もタダ、しかも全寮制。可愛い制服も教材も支給。国立だからって凄すぎだよ。」
麗ちゃんが言った。
「私も思ってた。私駅から歩いてきたんだけど、学校の中に路面電車があったよ。広すぎて歩けないのかな。」
「そういえばつぼみちゃんの家ってどこ?」
「電車で五駅行った住宅街だよ。寮に入る必要あるのかわかんないよね。麗ちゃんは?」
「私はずっと北の方。全寮制だから遠くから来てる人って多いみたい。」
「そうなんだ。」
ふと列の外を見ると、ロングヘアーの女の子が不安そうに周囲を見回している。麗ちゃんもその子に気付いたようだ。
「ねぇ、あの子じゃない?17番の人。入学式もう始まるし、空いてるのここぐらいだよ。」
「私もそう思う。」
麗ちゃんはすぐにその子のところへ行き、私のところに連れてきた。
「話してみたらやっぱり17番だった!ねぇ、名前は?」
「はい、私は日野陽菜です!よろしくお願いいたします!」
金髪の長い髪に大きな緑の目。とっても可愛い。
「私は修園寺麗、麗ちゃんって呼んで。そしてこの子は高崎つぼみちゃんだよ。よろしくね!」
「私はつぼみだよ、よろしくね。」
「麗さん、つぼみさん、はじめましてです!」
そのとき、
『新入生のみなさん、まもなく入学式が始まります。そのまま待機してください。』
アナウンスが入った。
講堂の中にはステージがあり、荘厳な雰囲気が漂っていた。やがて入学式が始まったのだが、校長先生や中等部生徒会長が話すという一般的なものだった。
やがて入学式が終わると、私たちBクラスは女性教師の誘導で例の路面電車に乗り、二駅先で降りた。そこから五分ほど歩いたところにある白い近代的な建物が私たちの校舎らしかった。私たちは校舎の一階の教室に入った。大きな電子黒板とクラスの人数分の机がある無機質な教室だった。
「みなさん、前の席から出席番号順に座ってください。」
先生が言った。私たちは少し大きめの椅子に座った。
「みなさん、入学おめでとう。私はこのBクラスを三年間担任する、枕野夢です。東都教育学校に入学を果たした皆さんは中学、高校という瑞々しい時期をこの学校で過ごすことになります。私の中学時代の思い出といえば初めての彼氏とアイスを食べたり手を繋いだり、映画を…って私の思い出話は関係ない!あなたたちにはしっかりと勉学に励んでもらいます。いまから学校生活のしおりを配りますね。」
夢先生は厚い冊子を各列に配った。
夢先生が話し始めた。
「その冊子には校則や中学生としてごく当たり前のルールが記されています。その部分は各自読んでおいてください。今から普通科の特別ルールを説明するので、冊子の85ページを開けてください。」
ペラペラとページをめくる。
「普通科の特別ルールとは、簡単に言うと学力で生徒に報酬を与えるというものです。中等部には学期に三回定期テストがあり、長期休暇が終わる毎に実力テストがあり、随時模擬試験も行います。最も重視するのは定期テストです。定期テスト10科目の総合点数は1000点ですが、普通科では1点を100円として生徒に生活費を与えます。実力テストや模擬試験でも同じように生活費を与えるので挽回が可能です。これがこの学校での学習習慣の付け方です。」
なんてことだ…!クラスでどよめきが起こった。
それからタブレット操作の説明や明日からの予定の確認を終えると解散だった。今日のうちに寮に行って、届けてもらった荷物を整理しなければいけないらしい。
「もうお腹ペコペコです…」
そう背後で言うのは陽向ちゃん。
「だよね。もう12時だよ。お昼どうしよう…」
「ねーねー二人とも、タブレットのマップ見てみて!このエリアに食堂とかレストランあるよ!」
さすが麗ちゃん、仕事が早い。
「この学校ってこんな作りなんだ。今いる私たちの校舎は南エリアで、普通科の中学生と高校生がいるみたい。東エリアには講堂と学校本部、それから芸術科の中学生と高校生。西エリアにはスポーツ科、北エリアには初等部と寮だって。一番楽しいのは中央エリアだよ!ショッピングモールに娯楽施設!はぁ、早く行きたい…って二人ともお腹空いてるよね。ご飯のこと決めよ!」
「どんなレストランがあるんですか?フレンチ?イタリアン!?」
急にテンションが上がった陽向ちゃん。
「南エリアにあるのは普通の食堂と中華レストラン、あとはスターパックスかな。」
一つのエリアにそんなにあるのか!
「麗ちゃん、陽向ちゃんへとへとだし、とりあえず一番近い食堂にしない?」
「そうだね!今日入学したばっかりだし!よし、レッツゴー!」
麗ちゃんは元気な子だな。私たちは食堂に行くことにした。
「えっと、食堂は高校生の校舎の方だから…こっちかな?」
麗ちゃんはタブレットのマップを見ながら進んでいく。敷地の中には校舎だけではなく、花壇やこじんまりとした広場があるので目印になるようだった。
「ねぇ、つぼみさん…」
陽向ちゃんが肩を叩いた。
「いま私たちにお金ってあるんでしょうか?今日入学したばかりでテストの一つも受けてませんよ。」
私ははっとした。
「ほんとだ…食堂でご飯食べられるのかな?タブレットで所持金見てみよう」
麗ちゃんと陽向ちゃんは私のタブレットを覗きこんでいる。所持金の確認は…ここを押すのかな?
「あれ、お金がある…」
それは入学試験の点数で得たお金だった。
国語76点、算数70点、理科81点、社会85点、面接80点だから…所持金は39100円か。次のテストは2週間後の模試だから何とか過ごせるかな。
そんなことを考えていると、二人もそれぞれのタブレットを見つめていた。
「まあまあってとこかな。何があるかわかんないから無駄遣いはできないよね。」
麗ちゃんが言った。
「そうですね。ある程度お金が貯まるまで質素な生活を送りましょう。」
と陽向ちゃん。
やっぱり昼食は食堂がベストかな。
高校生の校舎が見えてから少し歩くと、大きなファミレスのような食堂が見えてきた。
「このぐらいだったら学校から少しだね。」
と言うと、
「もうだめ~お腹ペコペコです~」
と陽向ちゃん。麗ちゃんは隣で苦笑している。
「早速中に入ってみよう!」
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