当たり前なのに悔しいのはなぜだろう(短編

返事はわかっているのに、旦那に電話してみる。
「ごめん、仕事があって、午後ならなんとか」

母は、介護でもう出かけてる時間。

いつものことだ。私が残らなきゃ誰が苦しんでる娘をみるの？
当たり前なのに苦しいのはなぜなんだろう。

恐る恐る携帯のコールをおす。
もちろん電話番号は会社。

「もしもし、〇〇会社〇〇です」
いつもの太った不健康な上司の声が、ねっとりと体にまとわりつくように聞こえる。私は声に負けないように、唾をごくりと飲んで答える。
「あのぅ、田崎です。
今朝から娘が発熱して」

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「あ、そうなの、はい」
無機質な言葉が返ってくる。

まぁ「娘さんは大丈夫？」なんて言葉ははなから期待してないけど、

「それで、その、会議は午後から出席と言うことで」

一瞬の間を置いて、ため息まじりに上司が答える。

「…じゃあ社長に連絡しとくから」

「はい、よろしくお願いします。」

とにかく要件は済ませた！さっと通話を終了させようとした私を会心の一撃が襲う。

「で、勤務処理はどうするの？」

昔ドラゴンクエストをやっていた時、死にそうになって逃げると背後からくるあれですよ

娘を背負って会社に行って、勤務処理して病院いって…頭は計画を練り始める。でもさ、まって、私の勤務先はここから１時間かかる。いってかえってきたら、午後なんじゃない？

「娘の容態がわるいので、午後でいいですか？」

「ふぅん、まぁ、いいよ」

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そんなこんなで、私はランクC
勤務成績は、ABCのランクC

そんなこと考えてる場合じゃない。
早く娘を病院へ

部屋中グチャグヂャのまま、とりあえず娘を着込ませ、飲み物の準備をして出かける。病院は患者だらけ、インフルエンザが流行っているらしい。
インフルエンザじゃなければいいなぁ

「田崎さーん」

昨日は娘がぐずって、よく眠れなかった。ウトウトしていて、慌てて先生のところに行く。

「インフルエンザ検査しますか？」

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しなきゃいけないのはわかっている。
でも、しってる？
インフルエンザになったら、5日の出席停止。また休みが重なる。
旦那も婆ちゃんも当てにならない。
よく、病気の時預かってくれるって病院があるらしいけど、近辺にはそれすらない。
私は唾をのみこむ。もちろんこたえはわかっている
我が子が苦しまないのが、一番の幸せだ！わかっているのに苦しいのはなぜなんだろう。

「検査おねがいします」

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結果は見事に陽性で、娘はタミフルで少し楽になった様子。
ほっとして、時計を見るともう昼前
。慌ててお昼の準備をする。
娘はフレンチトーストが大好き。
朝のうちに、パンを甘いフレンチトーストの液に浸しておいたから大丈夫。
じゅーじゅー
「おいしそうな匂いがする
娘が布団から声をかける。
「もうすこしだからまっててね
私が答える。家族の幸せな時間。
おいしいね。って喜ぶ姿が一番嬉しい。

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そんな時間を断ち切るように、電話の音が鳴り響く。
着信先は上司だ

「午後、本当にこれるの？」

時計を見ると、11時半。
午後からの出勤時間は13時

「主人が午後には帰ってくる予定です。だから多分。」

「多分じゃ困るな。確認して」

「はい。」

慌てて電話すると、旦那からは曖昧な返事。多分12時には帰ってきたいなぁ。

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結局帰ってきたのは12時すぎ、
娘はお腹いっぱいでご機嫌。
旦那もとりあえず、仕事が一段落してほっと一息。

「もう間に合わない。

「大丈夫、まだ間に合うよ

なにそれ、なにが大丈夫なの？

旦那はいわゆるAランク社員。仕事は真面目にこなします。表彰されたり、昇給したり。

私は慌てて部屋をとびだす。
事故だけには気をつけなきゃ。

ラジオからは広瀬香美のプロミスが聞こえる。

ずっと、愛してる
永遠に愛してる
きっと、あなたと♫

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家族は愛してる。
大切にしなきゃと思ってる。
一番だと思ってる。

私は幼い頃、仕事ばかりな両親にあそんでもらったことがない。
いつも、イライラして、怒ってばかりの両親だった。仕事にはまじめで、家では喧嘩ばかりしてた。

だから私は、家族を大事にしたい。
ここは絶対間違ってない。

でも。

「遅れてすみません。」

コソコソと会議室に潜り込む。
たくさんの企画がならぶボード。
ワクワクするような美しい未来が描かれている。
知りたい。作りたい。もっと学びたい。
キラキラするボードを私はしばらくぼんやり眺めた。

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「未来を作りましょう」
偉い人が、プランを説明する。
私たちか、立案する。
作られたものが形になって誰かの役に立つ。
たのしい。この仕事が好き。もっと学びたい。

でも現実は厳しい。

「明日、お休みを頂いてもよいでしょうか…

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休みたいわけじゃない。私だってみんなと一緒に働きたい。
でも、

「そう、で、どのくらい?」

「インフルエンザで出席停止で、
あと4日ぐらいです。」

「4日ねぇ」

上司だけじゃない。痛い視線を辺りから感じる。職場で私は浮いている。
当たり前だよね。
仕事ができない分、他の人に迷惑がかかる。
独身時代よく思ってた。
子持ちの人は仕事しないから困るな
なんて…

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今なら分かる。
仕事がしないんじゃなくて、仕事ができないんだって

下唇をきゅっと噛んで、デスクに戻る。
日本は少子化で、子育てシステムはたくさんある。
でも昔から変わらないもの
それは、人の意識。
昔、つわりが酷くて水も飲めなくて、
結局病院で病休を言い渡された時
やつれた私に友達が言った言葉
「妊婦様はいいよね、そのぐらいで休めて」
母が言った言葉
「甘えてるんじゃない、そのぐらいで」

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そして今、会社のみんなの声がきこえる。
(またなの、もう、やめてほしい)

私も昔、思った言葉。
だからしかたない。

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残された半日で、目一杯仕事をする
私の仕事、やりがいがあって、楽しくて。
私はこの机が好き。

でも、みんなの中で私は
ひとりぼっちだ

結局育児をしている人間は、今の社会では孤立する。
子どもを育てるって難しい。

「お疲れ様でした。」
積まれた仕事の山を残して家路に向かう。最近はデータ管理が難しくて、家に仕事を持ち帰れない。
空には一番星。早く帰ってご飯をつくらなきゃ

「熱があがってなきゃいいけど」

私は重い足取りで家に帰る。

娘は一人っ子、
兄弟は欲しいけど

今の社会ではきっと、難しい。

終わり

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読んでくださった皆様。
ありがとうございました。

育児制度は整うものの、周りの意識はなかなかかわりませんね。
きっと昔の方が、ご近所さんや社会学支え合える環境で、子どもを外に出しても安全で、雷親父みたいな人が気軽にしつけもできて(笑
子どもを産みやすかったんだろうな
と思います。
現在私も子どもがひとり、
この小説の人ほど酷い職場じゃない
かもしれないけど、
もうひとり産める環境ではないかな。
社会は厳しいですね。

それではまた。

シノァ

追伸

友達や母に言われた言葉は本当です。
今、友達は妊婦さん。
つわりがきついと泣いてます。

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以下、自由に書き込んでください
愚痴もいいですよ(*^_^*)

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>> 15
シノアさん、お疲れ様。
男にはわからない妊婦さんの苦しみ頭が下がります。

また、何か短編書いてくださいね。

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返信ありがとうございます。
そして、お心遣い本当に嬉しいです。
支援や制度より、理解してくださる人が増えたらきっともっと子どもが育てやすいんじゃないかなと思います。
ご理解とても嬉しいです(*^_^*)
シノァ

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旦那の協力、ほぼ望めない‥‥実家は飛行機の距離ですが、働きながら２人の子供を育てました。
なんとかなります。
1番大切なのは、何がなんでも続けよう！
その気持ちですよ。
それさえあれば、本当に何とかなるしブランクも取り戻せます。
辛くて苦しい気持ち、本当によくわかります。私も経験しました。無我夢中の約１０年間でした。

今でも一番心に残っているのは、専業主婦の奥さんを持つ男性から言われた言葉です。
◯◯さんは、楽したいから働いてるんでしょ？うちの奥さんが言ってたよ。家にいて家事や子供の世話をするより勤めに出た方がよっぽど楽だって

‥‥いっぱいいっぱいで家事育児仕事に追われていた私にとっては、頭を殴られた様な気持ちになったのを覚えています。

でも、その後は子供達も成長し、どんどん楽になりますよ！
娘ですが、結婚しても一生勤めるのが当たり前と思っているのを見ると、私の働く姿はそれ程悪くは受け取ってないのかな？と今は嬉しく思います。
主さんも、頑張って下さいね！
そして是非、2人目も考えて欲しいなぁと思います。なんとかなります！

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お返事ありがとうございますm(_ _)m
上司からの心無い言葉、本当に辛いですよね。乗り越えてお二人育てられたなんてすごいです！なんとかなるかな。不安な日々ですが、子どもは可愛いですよね。仕事のブランクは本当に悔しいです！でも、素敵なお言葉に勇気を頂きました！ちょっと夢みてみます。二人目(*^_^*)
お返事本当にありがとうございました(*^_^*)

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