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神様の一生

レス4 HIT数 1155 あ+ あ-

旅人
17/01/26 11:21(更新日時)

私は神。
とは言っても大層なものでは無い。

1人の思いから生まれた1つのカタチ。
それが私。

これは私が生まれて、そして死ぬまでの話。
そして私が観た者たちの話。


※※※※※※※
ゆったりマイペース更新です。
今や辻褄は後で分かる事もあるため、焦らず読んでみてください。
批判するんならスルーして下さい。
もちろんフィクションです。
宗教家の方の神とはなんの関係もありません。

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No.2425273 17/01/25 13:29(スレ作成日時)

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No.1 17/01/25 13:50
旅人0 

私が生まれた時、目の前にはヨボヨボの爺がいた。

目を閉じ、直立不動にして、顔の前で手を合わせている。

合わさった手は、黄土色をし、シワと黒点にまみれ、手のひらが厚く、指が太くて短い、土を長年触って来たのがすぐ分かる様な
漢の手だった。


私は、目の前のこの爺の
手と同じくシワ寄った少々平べったい顔をジッと見た。

そして
嗚呼、
すぐ分かったのだ。
この爺から自分は生まれたのだと。
そして、護る、それが自分の役目なのだと。
そして、自分は神様なのだと。




"神様、どうか護ってくだされ"




爺から言葉が響いてくる。
口元は動いても無いのに、爺からは次から次へと、同じ言霊が飛び出し、それが私を形作っていった。

それはなんて気持ちがいいんだろう。
深い眠りから覚めた時の様に、少しずつ日が昇る時の光の様に。
緩々と漂う暖かい風が、私に集まってくる。
そして、言霊達は私の中に安住を見つけるのだ。


"分かった、爺。私が護ろう。"


私はそう言った。
が、爺には聞こえていない様だった。
それとも、言霊達を出すのが精一杯だったのか。
爺はただその行為を続けるだけなのだ。



ある年の春、庭先での事だった。




No.2 17/01/25 14:31
旅人0 


それからは毎日を爺と過ごした。

あれだけ加護を願っていたのだから、さぞや、と意気込んだ私だったが
爺との日々はただただ、平凡なものだった。



日の出とともに起床し、庭に出る。
右手の端に鶏小屋、それ以外は畑らしきものが広がり、さらに向こうには、鬱蒼とした緑が広がっていた。
後は、爺と同じぐらい爺な犬が一匹、軒先で丸まっているだけだった。


爺が庭先に出ると、丸まった犬が少し首を上げ、一言吠える。
爺は犬の頭の上に手を載せると、何かを言う。
すると、犬は喜びと誇らしさの混ざった顔で尻尾を数回振るのだ。


爺が言葉を発すのも、犬が吠えるのも、一日の中でこの時だけだった。
犬に至っては、動くことすらもこの時だったように思う。


それから爺は、鶏小屋から数個の卵、畑から少しの菜を積んで自分の食事を用意してから
寝そべったままの犬に、餌を食べさせる。


食事が終われば、読書。
読書が終われば、畑仕事と鶏の世話。
それが終われば、祈り。
やがて日が暮れ、また食事と読書。
就寝。


そうやって一日が終わり、また同じ一日が始まる。
何度も、何度も。



季節が変わって、また巡って。
2年目の春がやって来た時、爺は死んだ。



日が昇っても、鶏が鳴いても、起きてこなかったのだ。

今まで立ち上がった姿を一度も見たことがない爺犬が
ふらつく足取りで、爺に寄って行くのを見た。

その顔の横で、縁側と同じように丸まると、静かに息のスピードを落としていき
やがて、爺と同じように動かなくなった。



その朝、私は初めて今までとは違う、新しい朝を迎えたのだ。


No.3 17/01/25 14:52
旅人0 


新しい朝を迎えた日、私は自分も死ぬのだと思った。


なぜなら、爺との護るという約束を果たせたと思っていたからだ。



私も、犬と同じように爺の横で丸くなった。
目をつぶり、呼吸を落とす。
徐々に爺の体温がなくなっていくのを感じながら、ただただ自分の死を待った。



だが、いつまで経っても私が死ぬ気配はなかった。
爺の体温はすでになくなっていた。爺犬も同じだった。


その時私は初めて、もぞもぞとする気持ちを覚えた。
一人だけ取り残された私は、寄り添いあう二人を羨ましく思ったのだ。


”早く死なないものかな”


私はぐっと目を閉じ、いつまでも丸まっていた。
その日が来るのをこのまま待ち続けてやろう、と意地になっていたのかもしれない。





その日が来きのは、随分と後だった。

あれからどれぐらいの時が過ぎたのか、正直もう分からない。



「~~~~~~~?」
「~~~~!」
「~~!?」



しかし、突如、人の声で私の静かな戦いが破られのだ。

複数の人が家の中へと入ってきたようだ。
初めて聞いた複数人の声は、今までの爺との暮らしをしてきた私にとって、非常に耳障りで不愉快なものだった。

結局最後まで丸まっていた私だったが、仕方なく体を起こすと
縁側の外に一面の雪が積もっていたのが見えた。


鶏の声も聞こえず、隣の爺も爺犬も、元とは違う姿形になっていた。



No.4 17/01/26 11:21
旅人0 

それからは非常に慌ただしかった。


沢山の人が出ては入り、爺と犬の亡骸は物のように運ばれていった。


私はどうすれば良いのか分からず、右往左往してる間に
ふと、机の上に残された湯呑の中へと入ってみた。

この状況を人間でいうところの”憑いた”となるのを知ったのは後になってからだが
この時初めて、憑くと人間の言葉が聞き取れるようになると知った。


「これはひどいな。」「腐ってる。」「頑固じじい。」「みじめな。」「かわいそうに」「手をかけやがって。」「管轄はどこだ。」「遺族に連絡はとれたのか。」「おい、お前が運べ」「さっさと、かたづけろ。」「南無阿弥陀仏。」「おえ。」


様々な言葉が飛び交う。

どうやら、今まで私が聞こえていたのは、人間の思考らしい。
道理で爺が口を開く時、いつも意味が分からないと思っていた。

爺はあまり喋らない人だったが・・・・毎朝犬に言ってた言葉は聞いてみたかったな。
それにしても、人間は結構うるさい。


やがて、私は湯呑のままダンボールに詰められ、他荷物と同じように運ばれていった。

途中、一度湯呑から抜け出すと、眼下には山と一本道、そこを走る数台の車が見えた。
どうやら、私は山の中で暮らしていたようで、車は人里に向かっていた。
人里は見たことない姿をしていたが、何やら見ている側は心踊らされる感覚になる。


今までの鬱蒼とした感覚などさっぱり忘れ、私はわくわくした。



”新しい住処だ!”



直ぐにそう思ったが、その時の私は少し早とちりしてたらしい。
そして、世界というものは遥かに私の想像を超えるものでもあった。



車が止まると、荷物は降ろされ、大きな白い建物の中へと運ばれていった。
ゆさゆさと揺れるダンボールの中で、私の期待がどんどん膨れ上がる。

やがて、揺れが止まると、私は白い部屋の一室に置かれた。
横には爺が顔に白い布をかけられて寝かされている。
足元には犬も同様に布をかけられていた。


その姿に、なんだか急に私は引き戻される感覚になった。

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