サイボーグ009vs仮面ライダー 〜風のサイボーグ戦士たち〜
石ノ森章太郎を同じ原作とするサイボーグ戦士と改造人間の物語📝。
物語は一時の平和を過ごす9人のサイボーグ戦士とギルモア博士、しかしその平和の陰で暗躍する秘密結社ショッカー(に連なる悪の組織)を戦う仮面ライダー本郷猛たち。
平成仮面ライダーはとりあえず出てくる予定はありませんが、誰かゲストとしてあり得るかもしれません。
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序章 風の戦士と9人のサイボーグ戦士
風がなびいていた。
マフラーをなびかせるくらいでありながらどこか颯爽としていた。
9人のサイボーグ戦士はそれぞれ青年や美しい少女、赤ん坊など多くの姿と国籍を持つ者たちだった。
対して同じようにマフラーをなびかせる仮面の者たちは異形だった。飛蝗、蜻蛉など仮面のなかに改造された傷があるが知る者は少ない。
だが、見ているものは同じだった。
9人のサイボーグたちも仮面の戦士たちも思いはひとつ。
平和のために……。
この物語は人知れず世界の悪と戦いふだんはまじわることがない風の戦士と9人のサイボーグ戦士たちの物語である……。
物語は9人のサイボーグ戦士たちがひとつの戦いを終えた時からすでに始まっていた……。
異形の仮面の戦士の叫びが暗い夜に伝わった。
ライダーキック!……と。
第一話 哀しみのジョー
島村ジョーは再び墓をつくっていた。
それはどこの地ともしれない異国の地。だけど、風は穏やか空気は静寂に包まれサイボーグ戦士として作られた彼らが安息するには充分な土地だろう。
魂よ、安らかにあれ。
ジョーの長い前髪に隠され心から彼はちいさな墓を見つめた。
ジョー。
美しい少女の面影を残したフランソワーズの声に微かにうなずき墓を後にする。
また、来るよ。
墓に眠る敵として戦った戦士に別れを告げる。
海には彼の仲間と博士を乗せたイルカに似た最新万能潜水艦の姿がわずかに姿を見せていた。
乗り込む前、ジョーは再び振り向いた。
また自分と同じサイボーグ戦士を相手にしたことの後悔があったのか。瞳の色に哀しげはあった。
だが、振り向いてばかりはいられない。
平和であることのむずかしさは誰よりも知っていると思いたい。
ジョー、フランソワーズの声に乗り込む。
万能潜水艦ドルフィン号は再び新たな地に向かうのだった……。
一時な平和かあるいははまた新たな戦いか。それはわからない。
が、ブラックゴーストは何処にでもいるのだ。
ドルフィン号は静かに海を航行していた。
この潜水艦はどこの国や組織にも所属はしていない。ただ海を進むだけ。海には魚の群れ、蛸や烏賊が鋼鉄の潜水艦に見向きさえせず流れてゆく。
「さて、ギルモア博士。次はどこに向かう?」
聞いたのはドルフィン号を操る002、ジェット・リンク。ジョーと同じ加速装置を持つ。
「休息しようかの。001も皆もつかれておるじゃろう」
001、イワンを抱いたちょっといかつい顔の老人ギルモア博士が皆にそう言った。
きょとんとした顔で聞いたのは006の張々湖だ。
「いいアルか?わたしたちが休んでいたらいつブラックゴーストが現れるか」
「でも休息は必要だわ。あたしたちもジョー」
にこやかに美しい笑みを向けたのはフランソワーズ、003。彼女はジョーが一言も口をきいてないことに気をかけているのだ。
ギルモア博士は言う。
「なら、日本に向かうかのう」
日本だな、とジェット・リンクは気ままにドルフィン号を東洋の地に向ける。
だが、この動きはブラックゴーストはすでに関知していた。
平和な地の日本、日の丸を掲げたかつての敗戦国。だが、見る者によっては黄金の地ジパングにも等しい。
そして、日本はジョーの故郷でもあるのだ。
9人のゼロゼロナンバー戦士たちとギルモア博士の安息の地は日本のとある岬にある。おもてむきは別荘の様相であり9人とギルモア博士はまるで家族のようにひっそり暮らしている。
ドルフィン号は地下にある秘密に作られた港について各々のメンバーは降りたってゆく。
フランソワーズはジョーが気がかりだったが、戦えば戦うほど自分たちの戦いは果てしなく思えなくもなかった。別荘に入ると彼らは戦闘服から個性豊かな私服に着替え外に出る者、食料を求める者、静かに寝息を立てる者さまざまだ。
だが、ジョーだけは自分の部屋に戻り静寂なだけだった。
ジョー 「……」
窓から見える岬の海原は何も語らないし語ってくれない。
フランソワーズが気にかけているようだったが、ジョーは太陽が沈み夜の闇が支配する頃にひとり別荘に置いてあったバイクにまたがり風を感じた。
どこへ?
どこへいくともなくだ……。
ジョーが夜の闇を走っている頃、とある日本の上場起業のひとつ風上コーポレーションの屋上にならぶふたつの影。
ふたつの触角と赤い複眼だけが輝く。問いかける。
?? 「お前はショッカーの者か!?何を企んでいる」
強く男の声が屋上に響くように伝わる。
怪人はシュシュ〜、と不気味な唸りや鳴き声ともつかない声が闇から伝わるようだ。
?? 「答えないつもりかショッカー!!」
?? 「シュシュ〜、ショッカー……」
?? 「倒すしかないのか。……ライダーキック!!」
触角が揺れ赤い複眼が輝きながら男は自らの必殺技を放った。
ライダーキック、それはサイクロン号とならぶ男の代名詞でもあった。
?? 「……!?シュシュ〜、ショッカーに栄光あれ!!」
仮面ライダー 「ショッカー!?お前はショッカーだったのか」
?? 「……シュシュ〜、ふふふ……。本郷猛だな……お、俺はたんなる尖兵に過ぎない……」
目の前の怪人の身体が煙のように消えながら、怪人は人間らしい理性と言葉を残しながら本郷に謎の言葉を伝えた。
尖兵----、なんの尖兵なのだ。そしてこの男は何者だったのだ。
仮面ライダー第1号、本郷猛は自らの姿が大きな円を描く月に映し出されながら赤いマフラーが風に舞った。
あまりにあっけなさすぎたのが腑に落ちなかった。
滝 「やれやれ、本郷は昨夜の事件の調査かい」
ここは東京都内にある喫茶店アミーゴ。昭和の古きよき雰囲気や名残りを残した隠れた喫茶店であり珈琲の香りが漂う☕。
藤兵衛 「お前は調査しなくていいのか」
滝 「それはFBI調査部の仕事。いまごろは風上コーポレーションに立ち入ってるさ。日本のおまわりさんといっしょにな」
滝和也は珈琲を口にしカウンターの向こうにいる皺が刻まれた通称“おやっさん”と呼ばれる立花藤兵衛に笑う。
事件の一報を聞いた滝和也はFBI調査部に風上コーポレーションを調べさせている。
だけど、わからないことだらけだ。
藤兵衛 「結局、猛が倒した怪人はなんだったのだ」
滝 「さあな。ただ潜入してたか何かを探してたのか。さっぱりさ」
怪人のモチーフもまた不明だった。夜の闇でも仮面ライダーの複眼、Cアイは怪人の姿をとらえていたが、本郷猛の知識にない生物に見えたという。
藤兵衛 「ショッカーか奴等の残党か」
滝 「本郷の奴は怪人の細胞なり肉片を解析中だ。わかる時はわかるさ」
なんとも他人事な口ぶりだが滝和也も藤兵衛も仮面ライダー同様に正義と平和を求める市井の人々のひとりである。
そこへバイクの音がアミーゴに来た。
本郷か、と思ったらなんとも特徴的な髪をした二枚目な男が現れた。島村ジョーだ。
滝 「おやっさん、お客さんお客さん」
藤兵衛 「わかっとる。少しは黙っとれ。いらっしゃい、ご注文は」
カウンターに座るジョーはなにげなく寄った喫茶店でカウンターにマスターがひとり、男性客がひとりだった。よくある光景だ。
ジョー 「なにか食べれるものを。軽いのでいい」
藤兵衛 「モーニングでよろしいかな」
ジョーはああ、と答えた。
彼は別荘から夜から朝にかけてどこへともなく走っていた。もし自分に何かあっても仲間の誰かが尾行したり察知することもないとはいえない。
だけど、できればひとりでいたかった。
運ばれたモーニングのトーストと珈琲に口をつけた。なかなか年期が入った味が口内に広がった。
やれやれ、と滝がぼやくと藤兵衛はぼかん!と叩いた。
藤兵衛 「仕事をしてこんかい!バカ者が!」
本郷猛は城南大学生化学研究室にいまも在籍していた。もちろんオートレーサーなのも健在だが、かつてほどレースには出ていないかもしれない。
彼は顕微鏡を覗き昨夜の未知なる怪人の肉片か細胞かわからないものを覗いた。そこにあるのは地球には現存しない生命の細胞であるように思えた。彼の私室にあるコンピューターには該当しなかった。
本郷 「これは……、地球にはない生命の細胞なのか。だとしたら奴は……」
結論を急ぐことは好まれない。風上コーポレーションには滝やFBIの調査がされているはず。それを信じようと思う。
本郷は細胞をそっと引き出しの奥にしまった。ここなら誰の目にも触れまいと思う。
城南大学にはいまも若い学生が世代は違えど通っている。平和なのかあるいはショッカーがいるのかわからなかった。
そこへノックの音が伝わり振り向く。
本郷 「だれだ?」
?? 「二年の逢川みゆきです」
入りたまえ、とうながすと逢川みゆきと名乗った二年生は入ってきてレポートを提出する。
みゆき 「本郷教授に是非、わたしのレポートを読んでいただきたく持ってまいりました」
本郷 「私にか?」
みゆき 「だって本郷教授は教授なのにいつも大学には不在ですから。なにか実験の最中でしたか」
本郷 「いや、別に」
みゆきは理知的な瞳と日本女性らしい黒髪だが、残念なことにショートカットだ。なんでもサークル活動が体育会系なので動きやすいらしい。
かつて昭和の頃は長い黒髪が多かったように思えたが、時代の流れを大学に感じていた。
彼女のレポートに目を通した。
本郷 「『癌細胞はいつ地球にきたのか』、興味深いレポートだ。今度、読ませてもらうよ」
みゆき 「絶対ですよ」
ちらっと本郷に目をやりながら去ってゆく。
本郷が教授という地位にありながら大学に不在がちなのは戦士として日本だけでなく世界を飛び回っているからだ。
みゆきにかつての緑川ルリ子の面影を感じないわけではなかった。
癌細胞は人類の謎でありテーマだった。興味深いテーマであり本郷は彼女から預かった封筒を鞄に入れ私室を出ていった。たいして研究費は出ないが、本郷には滝和也や立花藤兵衛をはじめ共に語り戦う仲間がいた。
だが、改造人間やひとでない者の宿命は自分ひとりでよいのではないかと思う。
外に出るまで城南大学の教授たちや学生たちに話しかけられ愛車が待つ駐車場まで時間がかかった。
古いタイプのバイクだが、日常も戦いも共に生きた愛車新サイクロン号。いまは日常の姿を本郷と同じようにとってある。
キーを差し込みアクセルを鳴らしエンジンに息吹きが戻る。颯爽と大学の門まで出て駆け抜けていった。
みゆき 「あ!本郷先生……」
サークルの純白のウェアの彼女の声は風に消えていった。
本郷は風のように走っていった。
喫茶店『アミーゴ』の側にサイクロン号を置き扉を開けようとすると、ひとりの青年とすれ違った。
ジョーである。
彼はわずかに本郷と目があった気がしたが、青年らしい態度でわずかに目礼したように見えた。
本郷は怪訝に思いながらもそのままアミーゴの中へ入っていく。ジョーのバイクが音を立てどこかへ走っていった。
藤兵衛 「猛、なにかわかったか」
本郷 「おやっさん。いや、なにも……」
タイミングよく藤兵衛が熱い珈琲を出したのでカウンターに座る。
滝がいないことに気づいた。
本郷 「滝は?」
藤兵衛 「奴ならFBIに呼ばれていったよ」
そうか、と本郷は呟き熱い珈琲に口をつける。砂糖やミルクはなく苦い。
改造人間である自分がこうして味を感じられるのは皮肉にも思えた。
脳裏にショッカーに改造された忌まわしい記憶がよみがえる。
ショッカー首領 「目覚めよ、目覚めよ……本郷猛」
本郷 「……だ、誰だ!お、お前たちは何だ」
ショッカー首領 「我はショッカー、そして首領。ふふふ、そうあわてるな。本郷猛、キミの身体はすでにショッカーにより改造されている。そして人類を支配する尖兵となってもらう」
本郷 「ば、バカな!人類は平等だ。それに僕は僕だ!」
ショッカー首領 「ふふふ、キミの身体は人間ではないといっただろう。電流を浴びせてやれ」
電流が本来なら身体に伝わるはずだが、痛みがあるだけで強力とはいえない電流に身体に違和感があった。
本郷 「うわぁぁぁ!?」
瞬間、室内の電気が切れた。その時、聞き慣れた声が耳を打った。
緑川 「本郷くん、本郷くん無事か」
本郷 「博士!?緑川教授!なぜここに」
緑川 「話はあとだ!ここにキミのバイクがある。脱出するんだ」
本郷は緑川教授を後ろに乗せ自分を改造したショッカー基地を脱出した。
あれから“仮面ライダー”としての戦いが始まったのだった……。
藤兵衛 「猛、猛!どうかしたか」
本郷 「なんでもないおやっさん。しかしいまの若者は意外にまじめと思っていて」
本郷は少しばかりごまかすようにすると、藤兵衛はかかかと笑いながら応じた。
藤兵衛 「大学の方で何かあったか」
猛 「いや、癌細胞がどこから来たのかというテーマを持ってきた学生がいたもので。つい」
藤兵衛 「わしにはなんのことかさっぱりだ。わしが知ってるのは美味しい珈琲とバイク、猛たちお前たちのこれからのことさ」
藤兵衛が言わんとしてるのは“戦士”として戦う自分たちのこれからの人生を暗に示しているようだった。
ショッカーをはじめとした悪の組織は倒しても倒してもなくならない。虚しさがないといえば嘘になるが犠牲者を出すわけにいかない使命感もある。
未確認生命体という存在が現れてからアンノウン、鏡の中に行方不明になる事件、死人がよみがえる不可解な事件やそれを束ねる謎の企業など21世紀を境に新たな仮面の戦士たちもいたようだった。
本郷 「少し上で研究をしながら昨夜の事件について考えてみるよ」
藤兵衛 「無理はしないでくれよ」
本郷は珈琲カップを手にしてアミーゴの階段を上に上っていった。
藤兵衛はひそかに思う。
彼らの戦いはいつまで続くのかと……。
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