SIDE STORY OF GUNDAM Ζ IF
あらすじ
宇宙世紀八十年
ア・バオア・クーの戦いののち地球連邦軍とジオン軍の間に終戦協定が結ばれた。
皆、突然訪れた平和に歓喜した。
しかし地球に残した戦争の傷痕は大きく地球は病んでいた。
そして得るところの無かった戦争によって国力は衰え一般市民の不満は高まっていた。
地球連邦政府は国民の怒りの方向を戦争を引き起こした旧ジオン共和国に向ける事により国民の統制をはかろうとした。
そして秘密警察によるジオン狩りをはじめた。
その秘密警察を人々は『ティターンズ』と呼んだ。
(オリジナルより抜粋)
ティターンズから監視のもとにあったかつてのニュータイプ・パイロット、アムロ・レイを救出したカミーユたちは宇宙へと脱出を図ろうとしていた。
しかし、クワトロ・バジーナ、ジェリド・メサたちティターンズの追撃はゆるむことはなかった。
そして、月の裏側でΖ(ゼータ)グスタフの性能試験がひそかに続いていた。
※未完に終わった『Ζガンダム』のもうひとつの物語をIF的な解釈や想像を含め進めていきます。
オリジナル作品と異なる点は多々あるかと思いますが、ご了承ください。
16/10/31 18:12 追記
現時点での私の構想はオリジナル作品同様にアムロ、シャアは互いに迷走し苦悩する段階。
カミーユについては『Ζガンダム』とちがい主人公ではない扱いとし月に着いてからΖグスタフ量産型(未定)のパイロット候補のひとり。その前にΖグスタフのパワーを上げるのも考慮。
『0083』よりカリウス、『Ζガンダム』よりエマ、カクリコン、ジャマイカン、ライラのカメオ出演。
展開が遅いのはご了承ください。
17/03/18 15:17 追記
諸事情によりしばらく物語を進めるのは停止いたします。
機会がありましたらいずれ再開をしたいと思います。
楽しみにしてくれた方には心から申し訳ありません(^.^)(-.-)(__)。
いずれまたということでお願い致します。
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カクリコーンッ!!
ジェリドの声は爆発の中にかき消されたように包まれる。
僚機の爆発を目にしながらエマは驚愕の瞳で見ていた。さいわいにもジェリドは警官たちや建物によってマーク2の破片や残骸から守られたが、さらにその瞳は驚いた。
カクリコンの機体は胴体から上がなく爆発四散したらしく黒い脚だけがまるで柱のように立っていた。
…………。
茫然自失となったジェリドは二本の柱になってしまったマーク2が映っているはずだが見えていないようでもあった。
「じ、ジェリド……!ジェリド中尉!」
自分を呼ぶエマの声にも怯えや震えはあったようだが、ジェリドは任務を思い出したように機体に上がりコクピットに入り返事した。
「す、すまない。だが、だ、だいじょうぶだ」
「そ、そう……。エゥーゴがカクリコンを……」
「言うな……!」
感情を振り絞るような声でさっきの目の前の現実を忘れるようにした。
エゥーゴかテロかはわからないが、奴等はコロニーをこちらより把握しているはずだ。地形、場所、政庁や警察などの本部、港などと思い当たる。
考えろ、と自らに言い聞かす。
クワトロ大尉は知らないが、彼に発信機はつけてあるはず。いまごろになって思い出す不甲斐なさに憤る。
「エマ、センサーでもなんでもいい。周波数を………に合わせろ」
「な、なぜ……」
「いいから!」
クワトロ大尉から発信機が外れてさえなければマーク2のセンサーなら突き止めらられレーダーかなにかに反応さえすればいい。
「……これは」
「近いじゃないか!」
ジェリドは警官隊がスラスターの噴射にあてられるのを構わず黒い機体を飛翔させた。あわてエマは追う。
コクピット内に映る光点は10キロと離れていなかった。
警官隊は二機のマーク2が飛び立つの見ながら無惨に破壊された一機は存在しないもののように脚だけが残っていた。
「ティターンズめ」
署長は罵るように呟いた。コロニーには目に見えない思惑があるのをジェリドは知らない。
この爆発は!?モビルスーツ!?
聞き慣れた爆発音にシャアは驚愕の表情を浮かべただろう。
「我々の勢力が貴君らのモビルスーツを破壊したようだな」
「わ、わかっているのか……!どれほどのスペースノイドが犠牲になったか!!」
「あなたにそれを言う資格はない!もとジオン軍人の誇りさえ忘れたか!!」
銃の激鉄で後頭部を殴られ思わず悶絶し声が出ない。だが、シャアの内にティターンズに所属したとはいえスペースノイドあるいはジオン軍人の誇りやプライドは口に出したことで残っていたのは意外でもあった。
「ぐはっ……」
「我々を甘くみないことだ。我々はいつでもどこでもあなたのそばにいるのだから」
「どういう意味だ……」
「愚問だな」
余裕ある悪意を帯びたニヤリとした口角をあげた男の表情には自分に対するプレッシャーをかけるものがあった。
ニュータイプや強化人間ではない。普通の人間、男が持つ凡庸だが深い悪意があった。
瞬間、付近からモビルスーツのスラスター音が二機聞こえた。
「早いな」
「ガンダム……!?」
わずかに建物の格子の隙間から黒い機体が見えた。なぜここに!?と思ったが、発信機と複雑に思った。
ち、とリーダー格の男はたいしたことを聞き出せないことに歯痒く思ったらしい。
時間が短すぎたのだ。
だが、クワトロは脱出できるか!?と思うのか。
案の定、彼らはクワトロの肩を掴み人質にする、と暴力的な手段を用いた。肩や足が痛む。
『クワトロ大尉!聞こえますか』
「しゃべるな」
銃を顔にあてリーダー格の男の顔が見えたと思ったが、彼らは強盗よろしく覆面をしていた。
下品な連中だ。
勘だが、彼らがエゥーゴであるわけないと意識が伝えていた。
建物の前に出ると、黒いマーク2の機体が二機見えた。
『クワトロ大尉を離せ!』
外部音声のジェリド中尉の声はいつになく焦燥感があった。
危険な兆候を感じた。
戦士としての勘か。
『ジェリド、落ち着いて』
「そうだ、落ち着け!赤い彗星が地に倒れる姿を見たくはないだろう!」
彼らの目的は自分を人質にしながら下卑た目的だったことをなんとなく悟っていたかもしれない。
バスクに使われるより情けないな。地に落ちたものだ……。
だが、腕を掴まれているということは足はさっきから自由なことに気づいた。
痛みはあるが動くに支障はない。
が、このままではジェリド中尉は激昂しかねない。エマ中尉がいるからか落ち着きを保とうと理性が働いているからか。
近くに警察車両のサイレンが耳に届く。警察がテロ現場から走っているらしかった。
「いいのか、赤い彗星のあたまが砕け散るのは見たくないだろう!」
リーダー格の男は硬い銃の先端をクワトロのこめかみにつけて他の男たちに囲むようにし男のひとりが通りを走った一般車両からドライバーを脅し奪ったようだ。
「リーダー!」
「よし、とっとと行くぞ!人質がいる限り俺たちは勝つんだ」
車を奪いながら下卑た男たちの匂いに囲まれながら車は彼らの焦燥感のまま走り出した。
焦りがあるカーブでリーダー格の男の肩にあたる。筋肉質でそれなりのはわかるが、モビルスーツ乗りではないらしかった。
どこにいくのだ。
コロニーは人工の空間で構成された大地だ。
スラスターを噴かしながら二機のガンダムは距離を取りながら追跡し後方からサイレンのうるさい音とパトランプが見える。
自分がいるから迂闊にできんか……。
ミズリィーが停泊している港とは反対の港の方に向かうつもりらしい。いきあたりばったりだな。
「港を出て宇宙船があれば隣のコロニーにいける!」
無理だな、とクワトロは思った。
案の定、反対側の港入り口にはティターンズの黒い制服と連邦の真面目な制服が銃を構えていた。構わずシャアは身を伏せた。
死ぬぞ、とリーダー格の男に告げた時だった。連邦軍制式採用されている黒光りの銃から弾丸が無数に放たれた!
「ぐっ……」
痛めつけられた身体に肩に弾丸が掠めたらしい。車はそのままタイヤが弾け破裂し右か左かわからないが弧をを描くように壁にあたりエンジン音が事切れたように止まった。
「大尉、ご無事ですか!?」
……ああ、とわずかに口から声が出た。リーダー格の男や傷が浅い男たちは仲間の死体を目の当たりにしおびえながら這い出たが、目の前には銃の鈍い輝きがあった。
『大尉!』
『無事のようね。だけど彼らは大尉を使ってどうするつもりだったのかしら』
その通りだった。
クワトロは生身だと自分が意外にだらしないことに気づいていた。
時間は再び遡る。
アムロは暗礁宙域にある“楔の園”にある隠された要塞のなかで賓客として扱われていた。
が、自分の身の振り方に彼はいまだ迷っていた。
「よろしいですか、大尉」
姿を現したのはカリウスだった。彼はエギーユ・デラーズ、アナベル・ガトーらが亡くなった後にここに残された部隊や人員を率い密かにエゥーゴとコンタクトしていた若い軍人のようだが、自分同様に大人としての表情にかげりがあった。
「大尉に申し上げます。我々はこの“楔の園”を即座に捨てるつもりです。ですが、大尉には申し上げにくいのですが我々の仲間、少年兵や女性兵などを守っていただきたいと思います」
「なにをいうんだ!?」
「未確認の情報によりますが、サイド4でテロの動きがあるらしいと我が同志がこちらに伝えてきました。またティターンズ所属ミズリィーが我々の作戦により進路変更し入港。ミズリィーには赤い彗星のシャアが乗っているらしいとの情報が……」
「シャアが!?宇宙に」
カリウスの言葉をアムロは思わず遮った。
あの男が宇宙に上がってきた、その思いは複雑だった。
そしてアムロの目の前にはカリウスの部隊が救援に現れた新型モビルスーツの画像やデータがあった。
新型の名はリック・ディアス。
まだ身の振り方を決めていないにも関わらずカリウスやエゥーゴの者たちは丁重に扱いなおかつ軍事機密なのにこうも容易く機密を明かす。
そこにはかつてニュータイプとして活躍した自分への期待だ、とわかってしまうのはつらかった。
カリウスはアムロを見つめて言う。
「ミズリィーはおそらくルナ2に再度、合流がありまた他サイドからの援軍もあるかも知れません。その前に月に向かっていただければ生き残れます」
「……」
ルナ2や他の部隊、そしてシャアが乗っているミズリィーなる艦が来るのは明白だった。
また戦うのか……。
一年戦争であれだけ戦い得るものがなかった戦争。
「我々は大尉や若い者たちにあとを託す思いです。失礼」
カリウスの足音は重いように見えた。
モニターに映るリック・ディアスのデータにはかつて自分がジオン要塞ア・バオア・クーで脱出の際に射出したガンダム上半身のデータから導き出したデータから作られたと記されてある。
一年戦争の傷痕を自分は残したひとりか。
アムロの側にあるパソコンのモニターに映っていた機体はリック・ディアス。
先の一年戦争でア・バオア・クーで彼がガンダムの上半身を放出し機体にあったデータをもとに数年の時を経てジオン、いやエゥーゴが完成させた新型機体である。
手足が太いのはかつて戦ったドムタイプを彷彿させながらどこかガンダムのようなパワーん感じさせたのはアムロがガンダムに思いがあるからかわからない。
ただカリウスをはじめ彼らが扱う機体は黒と紫でドムタイプに近い色、またステルスに近い機能を持つのか闇に溶け込むようだ。
そこへ自動扉が音もなく開きそこにはカミーユの沈痛とした表情があった。
「大尉……」
「カリウスとかいう人に頼まれた。君たちを守ってくれ、と。だが……」
「それは本当ですか!?」
カミーユの声と表情には驚きと混乱がまじっていた。
しかし、アムロにはまだ迷いがある。
「だが……、俺でいいのか。俺は連邦の人間だ」
アムロには先ほどの戦いで自分に呼びかけた女性の声がよみがえる。
ティターンズのなかにも良識ある軍人や兵士はいる。だが、彼らがティターンズ内で力を握ることはないだろう。
いつの世も力や権力を掌握する者はその自覚がないまま世に力をふるい支配を求め強権を使う。
「大尉……。僕は」
「軍人なら僕なんて言わない方がいい。俺はさっきの戦いで自分に甘えがあるのがわかった……」
カミーユはまだ少年らしい純粋さを持ったまま戦いに身を投じている。
その姿にアムロはかつての自分を見る気がした。
アムロは迷いながらも口にした。
「俺は月にいかなくてはならないようだ……」
ハッとカミーユは俯いた表情をあげた。
だが、それはアムロの運命を動かしたのが自分あるいは自分たちというけとに気づかない。
『楔の園』がティターンズおよび連邦軍から襲撃を受けたのは一週間さえなかった。
モニターに映るリック・ディアスと名乗る機体は無機質なモノアイでアムロとカミーユ、ふたりを見つめていた。
再びサイド4にいるクワトロに物語は移る。
犠牲者はカクリコン・カクーラー以下数名が犠牲になった。
「カクリコン……。この仇は必ず」
「ジェリド……」
横たわるカクリコンたちの死体はすでに生きている者たちではない。生きる者と死する者、ほんの少し些細なすれ違いが生死を分けたのだ。
「これだから、宇宙に巣食う者は生かせんのだ。ジェリド中尉エマ中尉」
くっ、といつの間にか背後にいたジャマイカン艦長の言葉に憎しみの色がこもる。無能な艦長のくせに、と反感なのだ。
「ジャマイカン艦長、彼らの調査は」
「やっている。が、頑として口を割らんつもりはないらしい」
「彼らの調査を私に」
「断る。申し訳ないが大尉は信用に値しないのでな」
慇懃無礼なジャマイカンの言葉は明らかにシャアへの不信を露にするものであった。
背中を向ける艦長の背中はちいさいものにジェリドやエマにも見えたような感じがした。その背中がわずかに振り返る。
「ああ、戦死したカクリコン中尉に代わりに地球から新規の隊長が加わるようだ。仲良くな」
なんだと、まるで物を入れ換えるみたいなあけすけな表現にジェリドの感情は高ぶったがクワトロとエマに制された。
信用がないな、とクワトロはひしひしと感じた。
「コロニーや捕虜の調査は艦長に任せる以外はない。耐えろジェリド中尉……」
くっ、とジェリドは押さえる感情を堪えるようにちいさく肩を震わせそのままコンクリートの壁に拳を無念あるように叩きつけていた。
若いな、と思う以外になく死したカクリコンというジェリドの同僚には惜しいことをしたかもしれないと思うくらいはあった。
だが、コロニーにいつまでも滞在していると襲撃を受ける可能性もまた否定できなかった。
コロニーは人工物だ。水や食料、空気などすべてひとの手により作られる。それゆえ地球よりはるかにひと同士の営みは目に見えず密接だ。
ふと見ると、アレックスら整備士たちも犠牲になったひとたちを見るように沈痛な顔を見せていた。
「エマ中尉、ジェリド中尉を落ち着かせてやってくれ」
「ええ、わかりました」
クワトロはその場にいたたまれない気持ちがあり私室に戻った。
数日後、サイド4に向かうひとつの光茫からちいさな光茫がわかれた。
それはコロニーの港に飛び込むように現れ管制官たちはなんだ!?と慌てた。
ミズリィーにいるジャマイカンは敵襲かと慌てた。その報はクワトロたちにも届いた。
開いてたモビルスーツデッキにそれは姿を見せた。
これは!、とクワトロとジェリドは驚いた。見覚えのある巨大な機体だった。コクピットからパイロットスーツが現し声が伝わる。
「出迎え感謝する。クワトロ大尉、ジェリド中尉だったかな」
「クルツ・マイヤー」
それはかつて地球で訓練と称し戦ったクルツ・マイヤーであり彼女の背後にはシュツルム・イェーガーの機体であった。
なぜ彼女がここにとクワトロとジェリドには疑問しかなかった。あとから姿を見せたエマははじめてみる可変モビルアーマーらしい機体と通常の人間とはどこかちがうクルツにわずかに疑わしい瞳の色があった。
そこへ新たに濃い紫色をしたミズリィーと同型の艦、メッサーが入港し外部音声が港内に伝わる。
「クルツ中尉、なに勝手なことをしてくれる。懲罰ものだぞ」
「懲罰にするならするがいいさ。だが、私を懲罰にしたら任務に差し支えができるぞ」
アッハッハ、とクルツと彼女の上官らしい会話にクワトロたちは訝しい表情を誰もがした。
アレックスたち整備士ははじめてみる可変モビルアーマーの姿に感嘆の声を漏らした。
クルツ・マイヤーが亡くなったカクリコンの代わりの補充パイロットと知ったのは直後だった。
「強化人間が補充のパイロットだと……」
艦長室で報告書を受け取ったジャイカンは憎々しげに吐き捨てるようにつぶやいた。
クワトロ大尉もだが、強化人間をつくるニュータイプ研究所や科学者などは彼にすれば信用に値しないのだ。
バスクの考えることはわからん、とだけつぶやき報告書を目の前に置いた。エゥーゴらしいテロリストの調査はコロニーの者たちにまかせ一刻も早くルナ2の部隊と合流し“楔の園”と呼ばれるエゥーゴの一基地へ向かわなければならなかった。
クワトロやジェリドは困惑していた。
「なぜ、彼女が」
「ティターンズ上層部の考えではないのか」
クワトロの問いにジェリドはちいさく首を振ったようだ。バスク直属の部下である彼には予測がつかないようだった。
ジェリドとて歴戦のパイロットではあるが、彼にはまだ世の中を広く見る視野はいまひとつ身についてないようだった。
エマははじめて見た可変モビルアーマーにもうわさに聞いた強化人間らしい彼女にも目を奪われた。
「ここでいいか」
「けっこうです。なにぶん中尉の機体は大きいので」
アレックスら整備員にクルツ・マイヤーは機体をモビルアーマーに変形させてあらためて格納デッキに着陸しコクピットから姿を見せた。
以前よりはひとにやさしくなった印象がクワトロにはあった。
地球での彼女は戦いに気持ちが逸るばかりだったが、いまは人間的な表情を見せていた。
コクピットから降りた彼女はクワトロたちから事情を聞いていた。
「エゥーゴかテロリストか知らんが殺られたとはひどいものだ」
「お前になにがわかる!」
「すまない。が、宇宙は地球とは事情がちがうことは肝に命じておかなければ殺られるのは自分だぞ」
食堂でクルツはジェリドに冷たいように口にしながらもどこか共感するような女性らしい瞳を宿していた。
強化人間なの、とあまりしゃべらないエマは複雑に目を向け思った。
だが、一目で普通の人間とはちがう何かを感じていた。それがいいことなのか悪いことかはわからない。
エゥーゴとの戦争状況は散発的だが、コロニーの一件で局地的に激しい一面を彼女は生で肌で感じていた。
クワトロはエマを見た。
カクリコン中尉の死からまだ整理はついていない。かつて見たアムロに似た一面があるように思えた。
コロニーを出るまでの間、やむなくだがクワトロ大尉を中心にジェリド、エマ、そしてクルツたちを加えた隊でフォーメーションや模擬戦を繰り返した。
とはいえティターンズがコロニー内ではないといえすぐそばの宙域で訓練んしているのだからコロニーの住民はあまりいい表情はしていない。ティターンズの悪行や横暴な行動こそがスペースノイドの不満のはけ口である。
ミズリィーの艦長ジャマイカンは頭では理解できても感情はそこまで追いつかない人間なのだ。ブリッジからモニターを通しクワトロ大尉たちの訓練を見ながら捕虜にしたテロからの尋問状況を聞いたが情報は芳しいものではなかった。
「テロリストめが粘りおるか」
「クワトロ大尉に尋問をさせてみてはという意見が艦内にもありますが」
エゥーゴの拠点のひとつ“楔の園”をルナ2の部隊と合流し襲撃しなければならない。なによりコロニー出発の日が迫っていた。
だが、ジャマイカンは部下の意見を吐き捨てるように言う。
「ふん、奴が信用できるものか」
モニター内ではクワトロ大尉の百式改やジェリドたちのガンダムマーク2、クルツのシュツルムイェーガーの機体の光茫が流星のように流れては動いていた。
「ジェリド中尉、エマ中尉、宇宙を感じるんだ。クルツのプレッシャーに惑わされるな」
「了解」
「わかりました」
ふたりから小気味よい返事が返るなかクルツの腕やシュツルムイェーガーの性能は向上しているようだった。なにより彼女は僚機であるジムカスタムを時に援護し気を使えるパイロットになっていた。
クルツ自身もシャアの百式改を前にしながらも以前ほどの焦りや勝ち気はなくなっていた。
「焦るな、相手も我々と同じ人間だ。ジムカスタム隊はガンダムを押さえろ」
シュツルムイェーガーの性能が上なのは明らかだが、クワトロの腕が上なのはクルツにも理解していた。
通常のモビルスーツといえども侮ってはならないという思いが彼女にはあった。ビーム砲を当てるために射つのではなく牽制する。
が、もと赤い彗星は数刻先をゆく動きをして避けてはこちらにライフルを向ける。そのたびにビームはイェーガーの装甲を掠めるようだ。
模擬戦のビームとはいえやられれば装甲は焼けるのだ。
やられたら宇宙の闇に残骸になる恐怖がパイロットは内にあった。
クワトロはクルツのシュツルムイェーガーの弱点を知っていた。
通常のモビルスーツより巨大なことは威圧感や迫力は持つが、その反面機体に小回りが利かない。推力が通常の機体より大きいぶん推進剤に限りもあり稼働時間も限られる。
また可変した時にモビルアーマー時に武装がない下面は完全に死角なのだ。そして空戦の基本である“背後を取ること”。モビルスーツ、可変モビルアーマー共に背後と下面は死角であり弱点なのだ。
「ジェリド中大尉、エマ中尉はジムカスタムを押さえろ。クルツは私がおさえる!」
彼女がクワトロとの戦いをのぞむかはわからないが、以前の模擬戦の敗北は内から消えてないだろう。
パイロットならそれに応えるのが礼儀だ。オールドタイプ的な思考がシャアにあったのがふしぎとあった。
百式改の機体をシュツルムイェーガーに向かわせた。
「大尉!」
ジェリドの止めるような声がコクピットに伝わるが構ってはいられない。
「シャア!」
クルツがシャアの名を叫んだ。一瞬、ニュータイプ的なプレッシャーが眉間に突き刺さるようでわずかに動揺した。
瞬間だが懐かしい声がした。それはひととは違う肌を持った少女の声。忘れられない存在。
大佐……。大佐……。
「ララァではないのに!!」
クルツのシュツルムイェーガーにわずかにララァと彼女が乗ったモビルアーマーがかぶったように瞳に映った気がした。
「くっ、やらせるか」
「しまった!」
クワトロははじめは機体をうまく回避させることでクルツを翻弄するはずが、真正面からぶつかったことに憤った。
ララァの幻影に惑わされたかはわからない。
「大尉!?ジェリド!」
「こいつらは手練れなのか」
エマの叫びがジェリドに届くが漆黒の色をしたジムカスタムは歴戦の腕を持つらしいのがわかった。
援護にいきたくてもいけない焦燥感がジェリドとエマにあった。
クワトロはシュツルムイェーガーの巨体を睨んでいたが、その瞳はわずかに見つめるようでもあった。
ララァ……。
感傷に浸るなど!
AMBAC機能を使いクルツの機体からとりあえずは離れることはできた。が、彼女の機体は迫る。
バルカンを放つが彼女はバインダーを使い防いだ。
「以前ならあたまごとやれたものを!」
クルツが腕を上げていたのは明らかだ。彼女の強化人間としての能力が上げられたかは定かではないが、パイロットとしての腕は以前より上がっていた。
ララァに惑わされたか、と思うが模擬戦で醜態を晒すなど赤い彗星にはできない。ビームサーベルを腰から引き抜きシュツルムイエーガーのバインダーを裂いた瞬間に機体の電気系統が闇にスパークし弾けた。
瞬間、シャアは機体を離脱させライフルで牽制した。
チッ、とクルツの舌打ちが聞こえた気がした。
「なんの」
腕ごとやれたとはシャアは思わない。
だが、一年戦争時にシャアはモビルアーマーと本格的に交えたことはほとんどない。
わずかにあるのはララァや木星帰りのシャリア・ブルとわずかに交えただけでしかない。一年戦争時のモビルアーマーエース(MMA)はアムロ・レイしかいないのだ。
「ティターンズに飼われ臆したか、シャア!」
シャアは自らを叱咤させながら可変モビルアーマーの死角を見つけようとするが、シュツルムイエーガーのバインダーは破壊されながらもシールドの機能は保っていた。全方位ではないが、大型の機体を守っていた。
どうする!?
サイド4の宙域には皮肉なことにコロニーや戦艦などの残骸はない比較的おだやかな宙域である。手にしたビームサーベルに気づく。
ビームサーベルをそのままシュツルムイエーガーの機体に投げた。
「バカか!?」
「バカはお前だ。クルツっ!!」
瞬間、クワトロはビームサーベルに向けライフルを放ち爆発させた。シュツルムイエーガーの正面を爆発が覆った。
「なんだと!?どこだ」
ここだ、とシャアは下方からビームを放つ。さながら輝きあるビームがシュツルムイエーガーのまわりを華麗に彩るようだが、死へ誘う華麗な輝きでもあった。
機体を防御するバインダーだけでなく脚部にあるスラスターやバーニアを狙いクルツは回避して動くが、脚の一部がやられ破損し機体が揺れた。
「なんだと!?」
「腕を上げたのは認める。が、クルツ中尉、キミは地球で強化されたのか」
「質問をするとはめずらしい。その質問は彼らの模擬戦が終わってからこたえた方がいい」
クルツはコクピットの正面にビームサライフルの輝きが見えながらモニターにはいまだジェリドたちが戦う姿が見えた。
クルツは自ら強化されたと模擬戦後に告白した。うかつなことにクワトロは彼女たちの戦艦のなかにニュータイプ研究所の者が乗っているのを見逃していた。
ナミカー・コーネル、と名乗るいささか陰気な雰囲気を持つ科学者肌の女性だ。模擬戦をモニターしていたとも言う。シュツルムイエーガーをおりた彼女はややフンと鼻を鳴らした。
ナミカー 「クワトロ大尉の察しのとおりクルツは地上であなたとの戦いの後に、強化しました」
ナミカーの言葉にシャアはかつてのララァを見る思いがあった。
戦後、ティターンズとエゥーゴとの戦いはかつての一年戦争の悪しき怨念、ジオンのフラナガン機関の悪い部分が見えていた。
クルツ 「だが強化されたオレ、いや私がクワトロ大尉に勝てないのは何故だ」
ナミカーはその問いに科学者らしい意見をまぜた。
ナミカー 「能力的にはクルツの方が上と思うが、クワトロ大尉は一年戦争の経験があり熟練者と言っていい。なによりニュータイプとしての勘は戦場において発揮される。クルツはそこを人工的に強化したため感情に走り鈍いのかもしれない」
クルツ 「私が鈍いのか」
その意見にクルツは苦い表情を見せていた。
ニュータイプを人工的に作りだそうとするからどこかいびつな存在となる。アムロやララァは自然発生的に生まれたニュータイプだ。
ニュータイプ同士の触れあいは人間が持つ感情や憎しみ、または遠く離れていてもどこかで互いを感じていたらしかった。
クルツの場合は戦場におけるだけの強化をしたたためにそこがいびつなのだ。
ジェリドたちの戦いは彼らの敗北に終わった。指揮官たるシャアがクルツとの戦いにこだわったためにあった結果といえる。漆黒のガンダムにペイント弾の紅色が血のようであった。
クワトロ 「すまないクルツ中尉。彼女に私がこだわったようだ」
ジェリド 「彼らもニュータイプでしょうか」
いや、と言いかけた時にクルツが答えた。
クルツ 「彼らはキミらとおなじふつうの人間だ。気にすることはない」
漆黒のジムカスタムから降りたパイロットは強化人間ではなくふつうの人間という。
ナミカーが答えた。
ナミカー 「強化人間同士は相性が悪い場合がある。だからふつうの人間と組ました方が戦場に有利なのだ」
ニュータイプの能力は本来は他人同士が言葉を使わずとも理解できる能力、と休憩していたエマ中尉はクワトロとジェリドを前にしてそう意見した。
言われなくともと思うが。
仮にもシャアはジオン・ズム・ダイクンの長男なのだから。
エマ中尉が聡明な点は好感なのは認めるが、彼女の意見はニュータイプ研究所に向けられるものであった。
「強化人間は戦闘用につくられた人間だ。ニュータイプではない」
うむ、とジェリドの言葉にクワトロはちいさく顎を動かした。
ティターンズ、地球連邦政府はニュータイプの扱いに厄介をしていた。その例がアムロだ。
飼い殺しにすることでしか連邦政府は対処してなくティターンズにしてみればアムロや自分は忌々しい存在のはわかっていた。だが、隙を突かれアムロをみすみすエゥーゴに奪われたのだ。そしてバスクはアムロを殺せ、と命じた。
自分にできるのか。
「大尉?」
「すまない、休ませてもらう」
シャアの中に葛藤が生まれつつあった。アムロについてわだかまりがないといえば嘘になる。
ララァをめぐった過去はいまも尾を引いていた。私室に入ると、ベッドに腰を下ろした。
どうしたいのだ、私は……。
結局、テロリストについての調べはコロニー側に任せることになりミズリィーはコロニーを出てルナ2に向かうことになった。
この間に“楔の園”に潜伏しているエゥーゴが戦うなり逃走する準備ができていたかもしれないが、知るところではない。
さいわいルナ2に到着するまでは亡くなったカクリコンの間を埋めるようにクルツの部隊との連携プレイは確立しようとしていた。
ルナ2の丸っこい石ころみたいな姿は数日で見えていた。
「連邦は地球から宇宙を監視できるとまだ思っているのか」
展望室から見えるルナ2はかつて一年戦争の折りに自らの部隊が襲撃した時とかわりないように見えたが、周辺の岩が少なく見えちいさく見えた。
入港はなんの難もなくおこなわれた。あたりまえだ。連邦の要塞なのだから。
シャアがルナ2に入港した頃、楔の園ではアムロはリック・ディアスの操縦に比較的慣れるようになっていた。
ジオンのドムタイプにガンダムのデータを一部加えた改良されているが、操縦にはいささか癖があるように思われた。あるいはアムロはジオン系モビルスーツと戦ったことはあるが、一年戦争の折りにランバ・ラル隊と戦った際にザクを捕獲した時くらいしか記憶にない。
「ジオン、いやエゥーゴはここまでの技術があるのだな……」
頭部にある機体のコクピットでシミュレーションとわずかな時間で付近の宙域を飛んだだけだが思った以上の性能を持っているのを理解した。
「大尉」
「すまないな。カミーユ付き合ってもらって」
随伴したカミーユのアッシマーは後から楔の園にあるデッキに入り顔を出した。
自分から連れ出したアムロ・レイがモビルスーツに乗り戦う、という。だが、短い間とはいえアムロという大人がナイーブなのがわかる。
カミーユにも一年戦争の傷痕はある。が、アムロというひとにはそれ以上に内面の複雑さがあるようだった。
その頃、カリウスたち仕官は脱出の算段を話し合っていた。
「コロニーのテロでティターンズの追撃はほんの数日だが、足止めはできた」
「だが、彼らはエゥーゴではないのかもしれんな」
「宇宙には地球に対して不満が噴き出ている」
カリウスはうんざりしていた。ティターンズひいては地球連邦政府が招いた事態とはいえコロニーには連邦への反乱分子が未知数に存在する。
だが、すべてがジオンあるいはエゥーゴ一色というわけではない。
なかにはコンタクトを取ろうとする者たちもいるが、コンタクト後の消息は定かではない。
話し合いの場に映るモニターにはデッキにいるアムロとカミーユの姿が見えていた。
機先を制して言う。
「とにかく“楔の園”は捨てアムロ大尉は月に向かってもらう」
「ここを捨てるのか」
「やむを得まい。ティターンズは少しずつ勢力を拡大して迫っているからな」
カリウスとて長年住んだこの基地を捨てることに躊躇いはあるがエギーユ・デラーズ、アナベル・ガトーといった男たちに報いる時が来たか、と胸中深くに思った。
月では新型機Ζグスタフの試験は進んでいるが、実戦に使えるか否かはわからないらしい。
カリウスは思う。
前撤は踏んではならない。
だが、上層部はどのようにアムロ・レイを扱うのか。彼に連邦という同胞が撃てるのか、など考えても疑問は尽きない。
モビルスーツに乗っている時は考えないことを指揮官の立場になると考え悩んでしまう。もちろん無駄死にという選択はあり得ない。後の時代をよき方向に導くことがカミーユら若き世代に示すだけだ。
カリウスは集まった者たちに言う。
「ここを三日後に捨てる。連邦はルナ2からの部隊が来るのだ。奴等は今度こそここを潰すだろう。可能な限りの人員、物資は運ぶのだ」
皆がジーク・ジオン、と敬礼した。基地にいる何人が生き残れるか、自分は指揮官として最後まで残るつもりだがアムロやカミーユはそれを知らない。知らないでいいのだ……。
皆が去るなかカリウスは亡きデラーズやガトーを思う。
少佐たちもこのような気持ちを抱えていたのか、と肩がまだ気を張っているようだった。
アムロは私室にあてがわれた部屋でパソコンをいじっていた。戦う、と決めたができる限り搭乗する機体については知っておきたかった。
リック・ディアスの三面図、実像画像、バルカンファランクス、ビームピストル、クレイバズーカ、ビームサーベル、トリモチランチャーなど。
アムロの機体は黒ではなくやや青みががった機体はどことなくかつてのガンダムを思わせた。赤い機体はマラサイと呼ばれる機体以外にないようだった。
そこにシャアへの複雑な思いがエゥーゴに参加してるジオン兵の気持ちがあらわれているようでもあった。
そこへ扉かノックされあらわれたのはカリウスだった。
「構いませんか大尉」
拒否をする必要や意味もなく招きいれて愕然とさせられた。
三日後に基地を放棄するというのだ。
「ティターンズはルナ2の部隊を向けて総力戦できます。基地にいる軍属にはすでに離れてもらっています。ですが、兵は月に向かわなければなりません」
「わからない話ではないが、しがない俺が戦力になるのか」
「あなたはリック・ディアスを扱えた。好まない表現を承知で言います。あなたはニュータイプです」
痛いところをつかれアムロは口をつぐんだ。カップから湯気が揺れていた。
ニュータイプ、か。
再びリックディアスで訓練におもむいたアムロの脇をカミーユのアッシマーが飛んでいる。
宇宙は広いが、そこにひとの争いを招いたのはひとそのもの。
かつてジオン・ズム・ダイクンは唱えたようだ。
『人類すべては宇宙に住み!母なる地球の回復を待とうではないか!』
だが、逆にそれらを含めた事態が地球圏に争いをもたらしたのも事実。
ジオン・ダイクン本人がそれを知ることなくジオン公国が旗揚げし敗北しいまに至るが。
「カミーユ、聞こえるか」
はい、とだけカミーユの若い声がノーマルスーツのヘルメットにつけられたヘッドホン越しに聞こえた。
アムロはちいさく吐息を混じり言う。
「カミーユ、キミと戦ってみたい」
「え?大尉、なにを」
「俺が本当に再び実戦に出ていいかを、俺自身が問いたいのだ」
アムロらしからぬ言葉にカミーユや僚機、楔の園のオペレーターたちはいささか驚いた。
カリウスはそれを楔の園の指令室で知るがそばに控えたジョウ同様に語ることはない。
アムロもまた知る由もない。アムロにしたら宇宙にララァの魂や心が在るなら自分やシャアをみているはずという思いがあった。
カリウスは通信機を通して伝えた。
「カミーユ、相手をしてやれ。他の僚機もだ」
アッシマーやマラサイ、ハイザック、ザクの編隊は驚くような挙動があるなかアムロのリックディアスは宇宙高くにスラスターを噴かせた。
瞬間、主武装のひとつクレイバズーカが火を吹いた。
散れ、と僚機からの通信によりカミーユのアッシマーたちは散開した。
カミーユは瞬間的にアッシマーをMA形態に変形させ後を追うが、ミノフスキー粒子が薄いにも関わらずアムロの機体は消えていた。
どこに、と僚機たちはモノアイを動かす。
アムロは楔の園周辺にある残骸に機体を隠していた。
僚機の一機が動体反応に気づいた。モビルスーツの動力炉の熱探知をしていたからだ。
「大尉!」
「ジオンの方がモビルスーツには一日の長がある」
リックディアスとドムの機体が互いに追い追いかける。
カミーユら他の僚機も近づくが、うかつな射撃は互いを巻き添えにするおそれがあり撃てない。
アムロは背後に残骸があるのに気づき足場として着地の間があった。ドムのバズーカが火を吹いた!
AMBAC機能と脚部のバーニアを噴かしてアムロは岩場をジャンプに利用した。ドムのパイロットはアムロの挙動が理解不能なことに驚きを示した。
その間に不覚にも彼のいるコクピットに模擬戦の撃墜信号が表示された。
「早い!?みんな気をつけていけ」
彼が出来るのは僚機への叫びである。
が、宇宙へ適応したニュータイプと思われるアムロのリックディアスの動きには目を見張るものがあったのも事実だ。
モニターのなかでアムロのリックディアス、カミーユのアッシマーや他の僚機が宇宙の闇のなかで光点が舞うようだった。
「なぜ当たらない!」
アムロはリックディアスの機体を巧みに使うが、それとてまだニ、三度でもあるにも関わらずカミーユたちの射撃をかわしていた。
アムロは思う。
戦いたくなくても生物の本能からかあるいはララァに会いたい一心からかわからないが死にたくない思いもあった。
一年戦争のあの頃とは違う自分がいることにビームやマシンガン、バズーカの火線をコクピット越しに見ながら大人になったのかとも複雑だった。
頭部のバルカンファランクスが火を噴いた。
「牽制だ!回避」
背部にあるビームピストルを抜き回避したはずの相手の機体に狙いをつけビーム(やや威力は弱いが)を放つ。
「先読みされてたのか」
先読みしたのかわからないが、ニュータイプの力はこうも戦闘的であることにアムロのまだ残るナイーブさは自分が脆いかましれない意識を感じてもいた。
一機また一機と相手の機体を模擬戦とはいえ倒すことに気持ちや感情とはちがう形にエゥーゴの新型を扱えてしまう自分がいるのもまた複雑だった。
瞬間、カミーユが操る大型の機体アッシマーはここにきて可変し円盤型になった。
「直線的なことに気づいたか。カミーユ!?」
「ふつうの動きやマニュアルにとらわれるからいけないんだ」
僚機がやられたのをみてカミーユが出した結論はそれである。
MS戦にマニュアルは存在する。それが新兵を育てもするが、実戦はマニュアルのようにはいかない。
「そこだ!」
アムロのリックディアスは残骸に身を隠したアッシマーの側の残骸を爆散させた。
しかしカミーユはアムロから見て急降下した。
「なに!?」
アムロはバズーカを放つ。
モビルスーツの弱点は足元や背中である。
アッシマーはなにより可変MAであるため通常のMAよりパワーや推進力は上回る。ただいかんせんアッシマーの主武装は大型ビームライフルに機体に備えつけられたビームサーベル、あとは各部のハードポイントに装備されるミサイルポッドなど。ただミサイルポッドは使い捨てに過ぎない。
撹乱のためにカミーユは脚部につけられたミサイルポッドを放つ。
「迂闊に放ちすぎだ」
アムロはミサイルをできる限り機体の前で爆発するために爆破させ撃つ。ミノフスキー粒子は薄いが機体の前は爆煙となり機体を上に向けた。
しかし驚いた。
アッシマーの巨大な機体がモノアイを輝かせライフルを自らに向けていた。
「ニュータイプか?カミーユは!」
いや、とアムロのどこかは否定していた。カミーユと何度か顔を交わし話をしたが彼にニュータイプらしい素養はなにも感じなかった。
シャアやララァとは違うのだ!
バルカンファランクスを放つがアッシマーの巨大な機体はビームを放ち左手にサーベルを構えた。
まるで悪魔のようにもアムロには不思議と思えた。
「しまった!?」
サーベルを抜こうとした左手をアッシマーのライフルが掠めサーベルが手首から先を破壊し爆散させた。左手は戦闘に使えない。
「うおおおっ!!」
「カミーユなのか」
そこではじめてアッシマーから彼の声が聞こえた。カミーユの気持ちがすべてわかるわけではないが、彼が自分に気持ちをぶつけて無我夢中さが彼の才能を発揮させたのかもしれないと思う。
素人ではないが、カミーユは何度か実戦を経験しているのはわかる。
アムロのリックディアスはスラスターを噴かし後退するが、カミーユは迫る。
憎しみをぶつけるなら、ぶつけてこい!受け止めてやる!
ビームピストルを投げ捨てクレイバズーカを再度放った。しかし煙のなかから巨体がモノアイを輝かせていた。
むかしソロモンで見たMAみたいだ……。
かつてのソロモン戦での戦いがよぎった。
戦後になり知ったがビグ・ザムというMAに最後まで残ったのはドズル・ザビだったらしい。
アムロにザビ家のひとりを倒した感慨はあの時も戦後も不思議となかった。ただ戦いが終わっただけであった。
だが、カミーユをドズル・ザビのようにするわけにはいかない。
憎しみは受け止めてやるが彼を憎しみにとらわせることはできない。
アムロはリックディアスの機体をそのままぶつけることでカミーユを正気に戻させるしかないと思った。
最悪機体は使い物にならない可能性はありエゥーゴの戦力損失はまぬがれないかもしれないが、躊躇いは一瞬だった。
スラスターを噴かせて二体の金属で出来た兵士の身体がぶつかりあった。
「く」
「あ……!?はあ……」
機体が触れ合った瞬間にカミーユの意識が飽和してたのが伝わった。
アムロは頭を軽く振りながらレバーを握りアッシマーの機体に触れた。
「カミーユ、無事か。くっ」
「模擬戦をやめろ。停止だ」
“楔の園”からカリウスの若い声が伝わりアムロへの攻撃が止んだ。
基地から見るとアムロのリックディアスはかつての一年戦争の英雄が扱った機体とは思えないくらいビームや弾丸の破損や傷が見え左手にいたっては飛んでいた。
カリウスはニュータイプらしくないとも思ったが、カミーユに何かしらの才が芽生えたのではないかとも思えたが口に出すことはしない。
アムロのリックディアス、カミーユのアッシマーは僚機に導かれ“楔の園 ”に帰還していった。
しかし敵はすぐそこまで来ているだろう。むしろ遅すぎるかもしれないとも焦燥の念がある。
「脱出はいまより始める!不要なモノは“楔の園”ごと爆破する」
カリウスにとっては慣れ親しんだ基地だが苦渋の決断だ。
軍属はすでにエゥーゴ寄りのコロニーに移動している。あとは軍人だけであった。
必要な者たちだけが月に向かい来るべき時にティターンズに反逆の刃を向ければいいのだ。
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